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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】制振壁構造、及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240118BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F7/00 C
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020044260
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021143558
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】中田 信治
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100140(JP,A)
【文献】特開2009-155857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 2/88
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体に設置された隣接する2枚の壁パネルと、前記2枚の壁パネルに跨るように取り付けられる制振手段と、を備え、
前記制振手段は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部と、前記変形部を保持する又は前記変形部と一体に形成された保持部と、を有し、
前記2枚の壁パネルはそれぞれ、前記制振手段の保持部を収容して拘束する拘束部を有し、
前記2枚の壁パネルの少なくとも一方は、前記拘束部に連通する凹部を有し、
前記変形部は、自由に変形可能な状態で前記凹部内に収容され
前記保持部は板状部分を有し、前記拘束部はスリットで構成されており、
前記板状部分が前記スリットに嵌め込まれることによって前記板状部分の面外方向の変形が抑制されていることを特徴とする、制振壁構造。
【請求項2】
前記躯体から前記壁パネルを取り外すことなく、前記変形部または前記制振手段の全体を前記壁パネルから取り外すことができるように構成されている、請求項1に記載の制振壁構造。
【請求項3】
前記凹部は、前記壁パネルの表面及び裏面の少なくとも一方に開口している、請求項1又は2に記載の制振壁構造。
【請求項4】
前記2枚の壁パネルに跨るように、それぞれの壁パネルに前記凹部が設けられている、請求項1~の何れか一項に記載の制振壁構造。
【請求項5】
前記拘束部は、前記壁パネルの端面に開口するスリットで構成されており、且つ、前記壁パネルの厚さ方向の中心に位置している、請求項1~の何れか一項に記載の制振壁構造。
【請求項6】
前記変形部は、前記保持部に対して着脱可能に構成されている、請求項に記載の制振壁構造。
【請求項7】
前記拘束部は、前記壁パネルの表面又は裏面に開口するスリットで構成されており、
前記制振手段は、前記変形部と前記保持部とが連続した1枚の板状部材で構成されている、請求項1~の何れか一項に記載の制振壁構造。
【請求項8】
建物に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体に設置された隣接する2枚の壁パネルと、前記2枚の壁パネルに跨るように取り付けられる制振手段と、を備え、
前記制振手段は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部と、前記変形部を保持する又は前記変形部と一体に形成された保持部と、を有し、
前記2枚の壁パネルはそれぞれ、前記制振手段の保持部を収容して拘束する拘束部を有し、
前記2枚の壁パネルの少なくとも一方は、前記拘束部に連通する凹部を有し、
前記変形部は、自由に変形可能な状態で前記凹部内に収容され、
前記躯体から前記壁パネルを取り外すことなく、前記変形部または前記制振手段の全体を前記壁パネルから取り外すことができるように構成されている、制振壁構造。
【請求項9】
前記凹部は、前記壁パネルの表面及び裏面の少なくとも一方に開口している、請求項8に記載の制振壁構造。
【請求項10】
前記2枚の壁パネルに跨るように、それぞれの壁パネルに前記凹部が設けられている、請求項8又は9に記載の制振壁構造。
【請求項11】
前記拘束部は、前記壁パネルの端面に開口するスリットで構成されており、且つ、前記壁パネルの厚さ方向の中心に位置している、請求項8~10の何れか一項に記載の制振壁構造。
【請求項12】
前記変形部は、前記保持部に対して着脱可能に構成されている、請求項11に記載の制振壁構造。
【請求項13】
前記拘束部は、前記壁パネルの表面又は裏面に開口するスリットで構成されており、
前記制振手段は、前記変形部と前記保持部とが連続した1枚の板状部材で構成されている、請求項8~10の何れか一項に記載の制振壁構造。
【請求項14】
建物に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体に設置された隣接する2枚の壁パネルと、前記2枚の壁パネルに跨るように取り付けられる制振手段と、を備え、
前記制振手段は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部と、前記変形部を保持する又は前記変形部と一体に形成された保持部と、を有し、
前記2枚の壁パネルはそれぞれ、前記制振手段の保持部を収容して拘束する拘束部を有し、
前記2枚の壁パネルの少なくとも一方は、前記拘束部に連通する凹部を有し、
前記変形部は、自由に変形可能な状態で前記凹部内に収容され、
前記凹部は、前記壁パネルの表面及び裏面の少なくとも一方に開口している、制振壁構造。
【請求項15】
前記2枚の壁パネルに跨るように、それぞれの壁パネルに前記凹部が設けられている、請求項11に記載の制振壁構造。
【請求項16】
前記拘束部は、前記壁パネルの端面に開口するスリットで構成されており、且つ、前記壁パネルの厚さ方向の中心に位置している、請求項14又は15に記載の制振壁構造。
【請求項17】
前記変形部は、前記保持部に対して着脱可能に構成されている、請求項16に記載の制振壁構造。
【請求項18】
前記拘束部は、前記壁パネルの表面又は裏面に開口するスリットで構成されており、
前記制振手段は、前記変形部と前記保持部とが連続した1枚の板状部材で構成されている、請求項14又は15に記載の制振壁構造。
【請求項19】
建物に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体に設置された隣接する2枚の壁パネルと、前記2枚の壁パネルに跨るように取り付けられる制振手段と、を備え、
前記制振手段は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部と、前記変形部を保持する又は前記変形部と一体に形成された保持部と、を有し、
前記2枚の壁パネルはそれぞれ、前記制振手段の保持部を収容して拘束する拘束部を有し、
前記2枚の壁パネルの少なくとも一方は、前記拘束部に連通する凹部を有し、
前記変形部は、自由に変形可能な状態で前記凹部内に収容され、
前記拘束部は、前記壁パネルの端面に開口するスリットで構成されており、且つ、前記壁パネルの厚さ方向の中心に位置している、制振壁構造。
【請求項20】
前記2枚の壁パネルに跨るように、それぞれの壁パネルに前記凹部が設けられている、請求項19に記載の制振壁構造。
【請求項21】
前記変形部は、前記保持部に対して着脱可能に構成されている、請求項19又は20に記載の制振壁構造。
【請求項22】
建物に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体に設置された隣接する2枚の壁パネルと、前記2枚の壁パネルに跨るように取り付けられる制振手段と、を備え、
前記制振手段は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部と、前記変形部を保持する又は前記変形部と一体に形成された保持部と、を有し、
前記2枚の壁パネルはそれぞれ、前記制振手段の保持部を収容して拘束する拘束部を有し、
前記2枚の壁パネルの少なくとも一方は、前記拘束部に連通する凹部を有し、
前記変形部は、自由に変形可能な状態で前記凹部内に収容され、
前記拘束部は、前記壁パネルの表面又は裏面に開口するスリットで構成されており、
前記制振手段は、前記変形部と前記保持部とが連続した1枚の板状部材で構成されている、制振壁構造。
【請求項23】
前記2枚の壁パネルに跨るように、それぞれの壁パネルに前記凹部が設けられている、請求項22に記載の制振壁構造。
【請求項24】
請求項1~23の何れか一項に記載の壁構造を備えた、建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振壁構造、及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物の外壁、内壁等を構成する壁構造の一例として、建物の躯体に対して揺動可能に取り付けられた複数の壁パネルを備えるロッキング構法が知られている。このロッキング構法では、各壁パネルが上下端部において、梁または基礎等の躯体にそれぞれ揺動可能に取り付けられている。これにより、地震等により水平方向に層間変形が生じた際には、隣接配置された壁パネルの相互間で目地長さ方向に相対的な変位が生じるよう構成されている。換言すると、隣接配置された壁パネル同士は、相互に目地長さ方向に沿って移動可能に保持されている。
【0003】
このようなロッキング構法の壁を有する建物の制振技術として、隣接配置された壁パネルの端面に制振部材を設けることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の壁構造は、隣接する2枚の壁パネルの間で圧縮時の座屈が抑制されるように挟持された連結部材を備えており、2枚の壁パネルが搖動した際に、座屈が抑制された連結部材の伸縮によりエネルギーを吸収するというものである。
【0004】
このような制振構造によれば、地震によって壁パネルが揺動(ロッキング動作)し、壁パネル相互間に目地長さ方向に沿う変位が生じた際に、振動エネルギーが連結部材の伸縮変形によって吸収されることにより、振動を減衰させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-100140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載された壁構造によれば、一定の制振効果を得ることができるものの、制振効果を高める上ではさらなる改善の余地がある。
【0007】
そこで本発明は、ロッキング構法で取り付けられた壁パネルに対して高い制振効果を発揮し得る新たな制振壁構造、及び建物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制振壁構造は、建物に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体に設置された隣接する2枚の壁パネルと、前記2枚の壁パネルに跨るように取り付けられる制振手段と、を備え、
前記制振手段は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部と、前記変形部を保持する又は前記変形部と一体に形成された保持部と、を有し、
前記2枚の壁パネルはそれぞれ、前記制振手段の保持部を収容して拘束する拘束部を有し、
前記2枚の壁パネルの少なくとも一方は、前記拘束部に連通する凹部を有し、
前記変形部は、自由に変形可能な状態で前記凹部内に収容されることを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明の制振壁構造において、前記保持部は板状部分を有し、前記拘束部はスリットで構成されており、
前記板状部分が前記スリットに嵌め込まれることによって前記板状部分の面外方向の変形が抑制されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の制振壁構造は、前記躯体から前記壁パネルを取り外すことなく、前記変形部または前記制振手段の全体を前記壁パネルから取り外すことができるように構成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の制振壁構造において、前記凹部は、前記壁パネルの表面及び裏面の少なくとも一方に開口していることが好ましい。
【0012】
また、本発明の制振壁構造は、前記2枚の壁パネルに跨るように、それぞれの壁パネルに前記凹部が設けられていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の制振壁構造において、前記拘束部は、前記壁パネルの端面に開口するスリットで構成されており、且つ、前記壁パネルの厚さ方向の中心に位置していることが好ましい。
【0014】
また、本発明の制振壁構造において、前記変形部は、前記保持部に対して着脱可能に構成されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の制振壁構造において、前記拘束部は、前記壁パネルの表面又は裏面に開口するスリットで構成されており、
前記制振手段は、前記変形部と前記保持部とが連続した1枚の板状部材で構成されていることが好ましい。
【0016】
また、本発明の建物は、上記の何れかの制振壁構造を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロッキング構法で取り付けられた壁パネルに対して高い制振効果を発揮し得る新たな制振壁構造、及び建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る制振壁構造を示す正面図である。
図2図1における壁パネルのスリットに板材を取り付ける様子を示す斜視図である。
図3図1における壁パネルの両側から鋼材ダンパーを取り付ける様子を示す斜視図である。
図4図1の制振壁構造における制振手段の変形例を示す平面視での断面図である。
図5図1の制振壁構造における制振手段の他の変形例を示す平面視での断面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る制振壁構造を示す斜視図である。
図7図6の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1に示す本実施形態の制振壁構造10は、住宅等の建物1の壁に設けられる。
【0020】
制振壁構造10は、建物1に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体に設置された2枚の壁パネル11、12と、2枚の壁パネル11、12に跨るように取り付けられる制振手段20とを備える。
【0021】
ここで、制振壁構造10を備える建物1の一例の全体構成について説明する。建物1は、例えば、鉄骨造の骨組を有する2階建ての住宅とすることができる。このような建物1は、例えば、地盤に支持された鉄筋コンクリート造の布基礎等である基礎構造体と、柱部材や梁部材(下梁31、上梁32)などの骨組部材で構成された骨組(架構)を有し、基礎構造体に支持された上部構造体と、で構成される。なお、架構を構成する骨組部材は、予め規格化(標準化)されたものであり、予め工場にて製造されたのち建築現場に搬入されて組み立てられる。同様に、壁パネル11、12も予め工場にて製造することができる。また、制振壁構造10を構成する壁パネル11、12の端面(対向する面)11a、12aに板材22を固定した状態のものや、さらに板材22に鋼材ダンパー21を取り付けた状態で一体化したものを予め工場で製造し、建築現場で組み立てることも可能である。なお、本発明は、木造やRC(鉄筋コンクリート)造等の骨組を有する建物、及び、工場等で予め骨組が形成された複数の建物ユニットを連結することによって構成されるユニット建物にも適用可能である。
【0022】
上部構造体は、複数の柱部材及び柱部材間に架設された複数の梁部材から構成される骨組と、この骨組の外周部に配置される外壁と、骨組の内部に配置される間仕切壁と、を備える。なお、本発明の制振壁構造10は、建物1の内部において空間を区画する間仕切壁としても、屋内と屋外とを区画する外壁としても採用することができる。なお、本実施形態の制振壁構造10は、屋内に設けられる間仕切壁に適している。この場合、壁パネル11、12の両面に、制振手段20が露出するように配置することができる。また、例えば壁パネル11、12の両側(表面11c、12c側及び裏面11b、12b側)から鋼材ダンパー21を着脱することができる(図3参照)。
【0023】
ここで、壁パネル11、12は、木質板であることが好ましく、この場合、スリット14及び凹部15等の加工が容易である。壁パネル11、12は、DR構法等の所謂「ロッキング構法」により躯体に取付け可能なものであれば、材質、形状等の具体的な構成は特に限定されない。壁パネル11、12は、木質板である場合、具体的には、複数の木材が木質板の幅方向に積層されて形成された、WOOD.ALC(登録商標)、CLT(Cross Laminated Timber)、もしくはLVL(Laminated Veneer Lumber:単板積層材)等の任意の集成材、または、集成材に限られず、無垢木板等を含む、任意の木質材料とすることができる。また木質板以外では、例えば、軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」と記載する。「ALC」とは「autoclaved light weight concrete」の略である。)のパネル、PCコンクリートパネル、及び押出成型セメント板などを用いてもよい。
【0024】
図1に示す2枚の壁パネル11、12は、ロッキング構法によって、建物1を構成する梁又は基礎梁等の躯体に取り付けられる。すなわち、各壁パネル11、12は、上下に設けられた壁パネル取付部13で躯体に支持されており、地震時の層間変形等により支持点(壁パネル取付部13)が水平方向に変位した場合には、壁パネル11、12が上下の支持点(壁パネル取付部13)を軸として適度に揺動、つまりロッキング動作するようになっている。本例において、壁パネル取付部13は、各壁パネル11、12の長手方向両端部付近で、幅方向の中央にそれぞれ設けられているが、これに限定されない。また、隣接する2枚の壁パネル11、12は、端面11a、12a(対向する面)同士を突き合わせるように配置される。制振手段20は、隣接する2枚の壁パネル11、12の境界部分に配置される。
【0025】
図1に示すように、本例の各壁パネル11、12は、下梁31及び上梁32に取り付けられている。なお、本例の下梁31は、例えば2階以上の階層の床部を支持するH形鋼等の鉄骨梁とすることができるが、これに限られず、例えば1階の床部を支持する基礎梁であってもよい。各壁パネル11、12の下部は、断面T字状の取付金物33を介して下梁31に取り付けられており、壁パネル11、12の上部も同様に、断面T字状の取付金物34を介して上梁32に取り付けられている。取付金物33は、平板状の水平部33aと、水平部33aに対して垂直な平板状の垂直部33bとを有する。取付金物33の水平部33aは、下梁31の上フランジ31aにボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いて締結されており、垂直部33bは、壁パネル11、12に対して、ボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いて締結されている。なお、本例の壁パネル11、12の裏面11b、12bには、取付金物33の垂直部33bを配置するための下側凹部11d、12dが形成されている。
【0026】
取付金物34は、取付金物33と同様に水平部34aと垂直部34bとを有する。取付金物34の水平部34aは、上梁32の下フランジ32aにボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いて締結されており、垂直部34bは、壁パネル11、12に対して、ボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いて締結されている。なお、本例の壁パネル11、12の裏面11b、12bには、取付金物34の垂直部34bを配置するための上側凹部11e、12eが形成されている。下側凹部11d、12d及び上側凹部11e、12eは、壁パネル取付部13の位置に対応している。なお、下側凹部11d、12d及び上側凹部11e、12eは、壁パネル11、12の厚さ方向の一方の面に設けられていればよく、表面11c、12c側に設けてもよい。
【0027】
本例の各壁パネル11、12は、下梁31よりも上方、且つ、上梁32よりも下方に配置されている。つまり、壁パネル11、12は、下梁31及び上梁32に対して上下方向に重ならないように配置されているが、これに限定されず、下梁31及び上梁32の何れか一方または両方に対して、上下方向(鉛直方向)に重なるように配置してもよい。
【0028】
また、本例の各壁パネル11、12は、下梁31及び上梁32に対して、壁パネル11、12の厚さ方向に重なるように配置されているが、これに限られるものではなく、下梁31及び上梁32に対して、壁パネル11、12の厚さ方向にずれた位置に配置してもよい。
【0029】
このように、各壁パネル11、12は、支持点(壁パネル取付部13)を中心として、下梁31及び上梁32に対して揺動可能に取り付けられている。なお、制振壁構造10は、少なくとも1つの制振手段20が設置された2枚の隣接する壁パネル11、12を備えていればよく、制振手段20が間に設置された隣接する壁パネル11、12の組が複数あってもよい。また、制振壁構造10が3枚以上の壁パネルを備える場合、隣接する2枚の壁パネルの間に制振手段20が設置されていない箇所があってもよい。
【0030】
各壁パネル11、12は、制振手段20の保持部(板材22)を収容して拘束する拘束部としてのスリット14(溝状空間)と、当該スリット14に連通する凹部15と、を有する。
【0031】
各スリット14は、壁パネル11、12において互いに対向する端面11a、12aに開口している。またスリット14は、後述する長方形の板材22の板状部分22aが収容され、且つ板材22を厚さ方向に拘束可能な、直方体状(平板状)の空間である。スリット14は鉛直方向(壁パネル11、12の長手方向)に延在しており、壁パネル11、12の表面11c、12c及び裏面11b、12bに対して平行な平板状の空間である。スリット14の幅(本例では壁パネル11、12の厚さ方向の距離)は、板状部分22aの厚さに対応している。長方形の板状部分22aは、スリット14の内部で、厚さ方向の両側からスリット14の内面(壁パネル11、12の厚さ方向に対向する両面)によって挟まれることにより、面外方向の変形(曲げ変形、座屈)を抑制(拘束)され、また壁パネル11、12に対する面内方向及び面外方向の移動を抑制される。
【0032】
本例のスリット14は、壁パネル11、12の厚さ方向の中心に位置している。なお、壁パネル11、12の厚さ方向におけるスリット14の位置は、図示例に限られず、適宜変更可能である。
【0033】
また、本例の壁パネル11、12には、上下方向(壁パネル11、12の長手方向)の中心よりも上側及び下側にそれぞれ1つの制振手段20が設置されているが、これに限られず、壁パネル11、12の上下方向に3つ以上の制振手段20が設置されていてもよいし、1つのみでもよい。また、制振手段20の上下方向の位置も特に限定されないが、複数設ける場合には、上下方向に均等に配置されていることが好ましい。
【0034】
なお、拘束部は、制振手段20の保持部(板材22)を収容して拘束することができるものであれば、形状は特に限定されず、端面11a、12aに開口せずに表面11c、12cまたは裏面11b、12bに開口する空間であってもよい。
【0035】
凹部15は、壁パネル11、12の端面11a、12aに開口する切り欠き状の空間である。凹部15は、壁パネル11、12がロッキングした際、2枚の壁パネル11、12間に相対的な変位が生じる位置に形成されている。本例では、両方の壁パネル11、12にそれぞれ複数の凹部15が形成されているが、凹部15は、2枚の壁パネル11、12の少なくとも一方に設けられていればよい。
【0036】
また、凹部15は、壁パネル11、12を厚さ方向に貫通している。つまり、凹部15は、壁パネル11、12の厚さ方向の両面(表面11c、12c及び裏面11b、12b)に開口している。本例の凹部15は直方体状の空間であるが、後述する制振手段20の変形部(鋼材ダンパー21)が自由に変形可能な状態で収容可能な空間であれば、形状及び容積等は特に限定されない。本例の凹部15は、壁パネル11、12を厚さ方向の寸法(奥行)がスリット14よりも大きく、上下方向(壁パネル11、12の長手方向)の寸法及び左右方向(壁パネル11、12の短手方向)の寸法がスリット14よりも小さい。各凹部15は、当該凹部15に対応するスリット14の延在方向(本例では壁パネル11、12の長手方向)の中心に位置している。
【0037】
また、本例の各壁パネル11、12には、制振手段20の保持部(板材22)を壁パネル11、12に固定する際にドリフトピン17を打ち込むための複数のピン孔16が形成されている。ピン孔16は、壁パネル11、12の裏面11b、12bに開口し、裏面11b、12bに対して垂直な方向(壁パネル11、12の厚さ方向)に延在している。ピン孔16は、壁パネル11、12を厚さ方向に貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。
【0038】
制振手段20は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部と、変形部を保持する又は変形部と一体に連なる保持部と、を有する。
【0039】
本例の制振手段20は、変形部としての鋼材ダンパー21と、鋼材ダンパー21を保持する保持部としての板材22とを有する。
【0040】
本例の板材22は、図2に示すように、長方形の平板状の鋼材である。板材22は、スリット14に拘束される板状部分22a(図2の二点鎖線の外側の領域)と、凹部15に配置されて鋼材ダンパー21が固定される変形部設置部分22b(図2の二点鎖線の内側の領域)とを有する。また、板材22には、ピン孔16に対応する孔22cが形成されており、変形部設置部分22bには鋼材ダンパー21をボルト等の締結部材で締結固定するため締結孔22dが形成されている。板材22は、板材22全体をスリット14に差し込み、ピン孔16及び孔22cを共に貫通するようにドリフトピン17を打ち込むことにより、各壁パネル11、12に固定される。なお、制振手段20の保持部(板材22)を壁パネル11、12に固定する方法としては、ドリフトピン17を用いる方法に限られず、ボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いてもよいし、また、板材22全体をスリット14に差し込むだけで固定される構成であってもよいし、他の方法であってもよい。隣接する2枚の壁パネル11、12にそれぞれ設置された2枚の板材22の間には、隙間が形成されていてもよいが、本例では2枚の板材22の対向する端面同士が当接している。なお、保持部の材料、形状等は適宜変更可能である。
【0041】
鋼材ダンパー21は、例えば、保持部よりも降伏点が低い低降伏点鋼、極低降伏点鋼、または、低降伏点鋼と極低降伏点鋼の組合せや複合物とすることができるが、これに限られるものではない。また、本例の鋼材ダンパー21は、略蝶形に形成されており、作用するせん断力に応じて中央のくびれた部分が変形してエネルギーを吸収し得るように構成されている。なお、鋼材ダンパー21は、変形によりエネルギーを吸収して変位を低減させるものであれば形状、材料等は特に限定されない。
【0042】
鋼材ダンパー21は、2枚の壁パネル11、12にそれぞれ設置された2枚の板材22に跨るように取り付けられている。本例では、壁パネル11、12の表面11c、12c側及び裏面11b、12b側からそれぞれ、鋼材ダンパー21が板材22に取り付けられている。つまり、本例においては、図3に示すように1つの制振手段20に表裏両側に位置する2つの鋼材ダンパー21が設けられているが、鋼材ダンパー21は何れか1つのみでもよいし、3つ以上であってもよい。なお、制振手段20が複数の鋼材ダンパー21を備える場合、壁パネル11、12の表面11c、12c側及び裏面11b、12b側の一方側のみでも、両側に配置してもよい。鋼材ダンパー21は、壁パネル11、12の厚さ方向に重ねて配置してもよいし、上下方向に並べて配置してもよい。また、本例では全て同一形状の鋼材ダンパー21を用いているが、異なる形状の鋼材ダンパー21を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
また、本例の鋼材ダンパー21は、板材22に対して着脱可能に取り付けられている。具体的に、鋼材ダンパー21は、ボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いて板材22に対して着脱可能に取り付けることが可能である。これによれば、鋼材ダンパー21が変形、または劣化した際などに容易に交換することができる。なお、鋼材ダンパー21は、板材22に対して他の方法で取り付けてもよく、例えば溶接等のように着脱不能な状態で固定してもよい。
【0044】
鋼材ダンパー21は、自由に変形可能な状態で凹部15内に収容される。すなわち、鋼材ダンパー21は、壁パネル11、12がロッキングした際に、壁パネル11、12に対して実質的に接触しないように、壁パネル11、12の凹部15の内面から離間した状態で配置される。これにより、ロッキングによって2枚の壁パネル11、12間に面内の相対的な変位が生じた時には、鋼材ダンパー21が、壁パネル11、12によって阻止されることなく、自由に変形してエネルギーを吸収する。その結果、ロッキング時に鋼材ダンパー21がエネルギーを吸収し易くなるため、制振手段20は建物1の振動を減衰する制振効果を十分に発揮することができる。また、鋼材ダンパー21が、自由に変形可能な状態で凹部15内に収容されることにより、ロッキング時の面内変位に対する追従性も高めることができる。
【0045】
なお、鋼材ダンパー21の固定方法と同様の方法で壁パネル11、12を下梁31及び上梁32に取り付けてもよい。つまり、例えば壁パネル11、12の上下端面に開口するスリットを設け、当該スリットに板材22と同様の板材を差し込み、この板材を介して取付金物33、34に壁パネル11、12を締結してもよい。
【0046】
以上の通り、本実施形態の制振壁構造10は、建物1に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体(下梁31、上梁32)に設置された隣接する2枚の壁パネル11、12と、2枚の壁パネル11、12に跨るように取り付けられる制振手段20と、を備え、制振手段20は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部としての鋼材ダンパー21と、鋼材ダンパー21を保持する保持部としての板材22と、を有し、2枚の壁パネル11、12はそれぞれ、制振手段20の保持部(板材22)を収容して拘束する拘束部としてのスリット14を有し、2枚の壁パネル11、12の少なくとも一方は、スリット14に連通する凹部15を有し、鋼材ダンパー21は、自由に変形可能な状態で凹部15内に収容されるように構成されている。このように、壁パネル11、12内で制振手段20の板材22を拘束しつつ、ロッキング時に鋼材ダンパー21が凹部15内で自由に変形可能な構成とすることにより、制振手段20による振動エネルギーの減衰効果を十分に発揮させることができる。
【0047】
すなわち、本実施形態の制振壁構造10によれば、ロッキング構法で取り付けられた壁パネル11、12に対して高い制振効果を発揮することができる。
【0048】
ここで、本実施形態の制振壁構造10にあっては、板材22の板状部分22aがスリット14に嵌め込まれることによって板状部分22aの面外方向の変形が抑制されている。このような構成により、スリット14によって板状部分22aの変形や座屈を防止することができ、板状部分22aをより小さな断面で構成することができる。その結果、壁パネル11、12の断面欠損を少なくすることができ、壁パネル11、12の強度低下を抑制することができる。また、板材22が壁パネル11、12に安定した状態で拘束されるため、制振手段20による制振効果を安定させることができる。また、壁パネル11、12に対する制振手段20の保持部(板材22)の取り付けが容易となる。
【0049】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、躯体(下梁31及び上梁32)から壁パネル11、12を取り外すことなく、変形部(鋼材ダンパー21)を壁パネル11、12から取り外すことができるように構成されている。このような構成により、容易に鋼材ダンパー21を交換したり、取り外して点検したりすることができる。
【0050】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、凹部15が、壁パネル11、12の表面11c、12c及び裏面11b、12bの少なくとも一方に開口していることが好ましい。このような構成により、鋼材ダンパー21の着脱がより容易となり、また、凹部15の開口部分を通して鋼材ダンパー21の変形度合い等を確認することも可能となる。なお、本例では凹部15が壁パネル11、12の表面11c、12c及び裏面11b、12bの両方に開口しているため、壁パネル11、12の両側から鋼材ダンパー21の着脱、点検(確認)等を行うことができる。
【0051】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、2枚の壁パネル11、12に跨るように、それぞれの壁パネル11、12に凹部15が設けられている。このような構成により、何れか一方の壁パネル11、12のみに凹部15が設けられている場合に比べて、2枚の壁パネル11、12間に剛性に差が生じ難くなる。また、何れか一方の壁パネル11、12側に制振手段20の位置が偏り難くなり、2枚の壁パネル11、12の中心(2枚の壁パネル11、12の境界部分)に制振手段20の中心を配置し易くなる。したがって、2枚の壁パネル11、12間において、左右バランスよく安定した制振効果を発揮させることができる。
【0052】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、拘束部が壁パネル11、12の端面11a、12aに開口するスリット14で構成され、且つ、壁パネル11、12の厚さ方向の中心に位置している。このような構成により、拘束部を形成することによる壁パネル11、12の曲げ強度の低下を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、変形部としての鋼材ダンパー21が、保持部としての板材22に対して着脱可能に構成されている。このような構成により、鋼材ダンパー21の交換、点検がさらに容易となる。
【0054】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、スリット14が鉛直方向に延在しているため、スリット14を設けたことによる壁パネル11、12の曲げ剛性の低下を抑制することができる。また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、壁パネル11、12の同一の端面11a、12aに複数のスリット14が形成されているため、加工が容易である。
【0055】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、板材22を、壁パネル11、12の表面11c、12cに対して平行となるように配置している。このように、板材22と壁パネル11、12との面方向を一致させることで、壁パネル11、12の厚さ方向の位置ずれや変形を制振手段20で抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態の制振壁構造10にあっては、制振手段20を構成する1組の板材22(保持部)に対して、複数の鋼材ダンパー21(変形部)を取り付け可能としている。このような構成により、変形部の数を増減させることで、制振手段20による制振効果を容易に調整することができる。
【0057】
また、制振手段20は、壁パネル11、12の表面11c、12c及び裏面11b、12bから突出しないように構成されていることが好ましい。このような構成により、壁パネル11、12の表面11c、12c及び裏面11b、12bの面仕上げが容易となる。
【0058】
なお、変形部は鋼材ダンパー21に限られず、例えば、図4、5に示すような粘弾性ダンパー40、50であってもよいし、摩擦ダンパーであってもよい。また、これらのダンパーを複数種類組み合せたものであってもよい。なお、図4、5においては、壁パネル11、12及び板材22の構成は、上述した図1~3の例と同様である。
【0059】
図4、5は、平面視での断面図である。図4に示す粘弾性ダンパー40は、断面L字状の一対の支持部材41、42と、支持部材41、42の間に保持された粘弾性体43とを備えている。一対の支持部材41、42はそれぞれ、壁パネル11、12に設置された各板材22、22に対して、ボルト等による締結、または溶接等により固定される。粘弾性体43は、互いに対向する支持部材41、42の対向面44、45の間に挟持され、接着等により固定されている。対向面44、45は、壁パネル11、12の端面11a、12aに対して平行に延在している。
【0060】
図5に示す粘弾性ダンパー50は、壁パネル11、12に設置された各板材22、22に対して固定される支持部材51、52と、支持部材51、52の間に保持された粘弾性体53とを備えている。粘弾性体53は、支持部材51、52における対向面54、55の間に挟持され、接着等により固定されている。対向面54、55は、壁パネル11、12の端面11a、12aに対して平行に延在している。
【0061】
図6、7は、本発明の他の実施形態を示している。なお、上述した実施形態と基本的な機能が同一である部分は、図中、同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
図6に示す制振壁構造110において、隣接する2枚の壁パネル11、12は、ロッキング構法により、基礎梁である下梁31と、2階の床部を支持する上梁32とに取り付けられている。各壁パネル11、12の下部は、壁受金物35及びパネル取付金物36を介して下梁31に取り付けられている。壁受金物35は下梁31に固定されており、パネル取付金物36は、壁パネル11、12の裏面11b、12bに取り付けられて壁受金物35の垂直部35aに係合する。壁パネル11、12の上部は、取付金物37等を介して上梁32に取り付けられている。
【0063】
本例の各壁パネル11、12は、下梁31よりも上方に配置されている。また、壁パネル11、12は、上梁32に対して上下方向に重なる位置に配置されている。また、本例の各壁パネル11、12は、下梁31及び上梁32に対して、壁パネル11、12の厚さ方向に重ならないように配置されている。すなわち、本例では壁パネル11、12の裏面11b、12b側(屋内側)に下梁31及び上梁32が位置している。
【0064】
また、スリット14及び凹部15は、壁パネル11、12の裏面11b、12bに開口し、裏面11b、12bの逆側の表面11c、12cには開口していない。つまり制振壁構造110は、壁パネル11、12の裏面11b、12b側のみに制振手段120が露出し、表面11c、12c側には制振手段120が露出しないように構成されている。このような制振壁構造110を外壁に設け、壁パネル11、12の表面11c、12cを建物1の外周面とすることで、外側から制振手段120等が視認できないように配置することができる。
【0065】
制振壁構造110において、スリット14は、壁パネル11、12の裏面11b、12b及び端面11a、12aに開口している。各壁パネル11、12には、上下に間隔を空けて2本のスリット14が設けられており、各スリット14は、左右の両側の凹部15に連通している。スリット14は水平方向に延在しており、壁パネル11、12の端面11a、12a、及び表面11c、12cに対して垂直な平板状の空間である。スリット14は、壁パネル11、12の厚さ方向の中間部で終端しており、壁パネル11、12を厚さ方向に貫通していない。また、スリット14は、壁パネル11、12を幅方向(左右方向)に貫通し、左右の凹部15に連通しているが、これに限られず、スリット14の長さは変更可能である。
【0066】
凹部15は、壁パネル11、12の裏面11b、12b及び端面11a、12aに開口している。スリット14と同様に、凹部15も壁パネル11、12の厚さ方向の中間部で終端しており、壁パネル11、12を厚さ方向に貫通していない。
【0067】
本例の凹部15は直方体状の空間であるが、後述する制振手段120の変形部(中央部121)が自由に変形可能な状態で収容可能な空間であれば、形状及び容積等は特に限定されない。本例の凹部15は、壁パネル11、12を厚さ方向の寸法(奥行)がスリット14よりも大きく、上下方向(壁パネル11、12の長手方向)の寸法及び左右方向(壁パネル11、12の短手方向)の寸法がスリット14よりも小さい。
【0068】
制振手段120は、1本の長尺の長方形の板状部材で構成されており、その中央部121が変形部を構成し、中央部121と一体に連なる両側の平坦な板状部分122が保持部を構成している。なお、本例の制振手段120は、2枚の壁パネル11、12に跨って配置されるものであるが、これに限られず、例えば3枚以上の壁パネルに跨って配置可能な長さの板状部材であってもよい。
【0069】
図7に示すように、制振手段120は、両側の板状部分122を隣接する2枚の壁パネル11、12のスリット14にそれぞれ差し込むことにより、2枚の壁パネル11、12に跨るように取り付けることができる。これにより、中央部121は凹部15に配置される。なお、板状部分122をスリット14に差し込んだ状態で、締結部材等を用いて板状部分122を壁パネル11、12に締結固定してもよいし、板状部分122を外側から覆うように他の板状部材等を壁パネル11、12の裏面11b、12bに固定してもよい。これによれば、制振手段120の位置を安定させることができるとともに、スリット14から意図せず制振手段120が脱落することを抑制することができる。
【0070】
中央部121は、自由に変形可能な状態で凹部15内に収容される。すなわち、中央部121は、壁パネル11、12がロッキングした際に、壁パネル11、12に対して実質的に接触しないように、壁パネル11、12の凹部15の内面から離間した状態で配置される。これにより、ロッキングによって2枚の壁パネル11、12間に面内の相対的な変位が生じた時には、中央部121が自由に変形(面外曲げ変形)してエネルギーを吸収する。その結果、制振手段120は建物1の振動を減衰する制振効果を十分に発揮することができる。
【0071】
以上の通り、本実施形態の制振壁構造110は、建物1に水平荷重が作用した際にロッキングして面内の相対的な変位が生じるように躯体(下梁31、上梁32)に設置された隣接する2枚の壁パネル11、12と、2枚の壁パネル11、12に跨るように取り付けられる制振手段120と、を備え、制振手段120は、変形によりエネルギーを吸収可能な変形部としての中央部121と、中央部121と一体に形成された保持部としての板状部分122と、を有し、2枚の壁パネル11、12はそれぞれ、制振手段20の板状部分122を収容して拘束する拘束部としてのスリット14を有し、2枚の壁パネル11、12の少なくとも一方は、スリット14に連通する凹部15を有し、中央部121は、自由に変形可能な状態で凹部15内に収容されるように構成されている。このように、壁パネル11、12内で制振手段120の板状部分122を拘束しつつ、ロッキング時に中央部121が凹部15内で自由に変形可能に配置されることにより、制振手段120による振動エネルギーの減衰効果を十分に発揮させることができる。また、制振手段120の中央部121が、自由に変形可能な状態で凹部15内に収容されることにより、ロッキング時の面内変位に対する追従性も高めることができる。
【0072】
すなわち、本実施形態の制振壁構造110によれば、ロッキング構法で取り付けられた壁パネル11、12に対して高い制振効果を発揮することができる。
【0073】
ここで、本実施形態の制振壁構造110にあっては、板状部分122がスリット14に嵌め込まれることによって板状部分122の面外方向の変形が抑制されている。このような構成により、スリット14によって板状部分122の変形や座屈を防止することができ、板状部分122をより小さな断面で構成することができる。その結果、壁パネル11、12の断面欠損を少なくすることができ、壁パネル11、12の強度低下を抑制することができる。また、板状部分122が壁パネル11、12に安定した状態で拘束されるため、制振手段120による制振効果を安定させることができる。また、壁パネル11、12に対する制振手段120の板状部分122の取り付けが容易となる。
【0074】
また、本実施形態の制振壁構造110にあっては、躯体(下梁31及び上梁32)から壁パネル11、12を取り外すことなく、制振手段120の全体を壁パネル11、12から取り外すことができるように構成されている。このような構成により、容易に制振手段120を交換したり、取り外して点検したりすることができる。
【0075】
また、本実施形態の制振壁構造110にあっては、凹部15が、壁パネル11、12の裏面11b、12bに開口している。このような構成により、開口部分を通して裏面11b、12b側から制振手段120の中央部121の変形度合い等を確認することができる。
【0076】
また、本実施形態の制振壁構造110にあっては、2枚の壁パネル11、12に跨るように、それぞれの壁パネル11、12に凹部15が設けられている。このような構成により、制振手段120を何れか一方の壁パネル11、12側に偏ることなく、2枚の壁パネル11、12の中心(2枚の壁パネル11、12の境界部分)に配置し易くなるので、左右バランスよく安定した制振効果を発揮させることができる。制振手段120の中央部121を2枚の壁パネル11、12の中心(境界部分)に配置し易くなるので、左右バランスよく安定した制振効果を発揮させることができる。
【0077】
また、本実施形態の制振壁構造110にあっては、拘束部が壁パネル11、12の裏面11b、12bに開口するスリット14で構成されており、制振手段120が、変形部としての中央部121と保持部としての板状部分122とが連続した1枚の板状部材で構成されている。このような構成により、制振手段120を単純な形状、且つ、少ない部品数で形成することができる。
【0078】
また、本実施形態の制振壁構造110にあっては、壁パネル11、12が木質板であるため、スリット14及び凹部15等の加工が容易であり、壁パネル11、12を躯体に取り付けた後に制振手段120を設置することも可能である。
【0079】
本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲で記載された内容を逸脱しない範囲で、様々な構成により実現することが可能である。例えば、先の実施形態では、壁パネル11、12が所謂「縦貼り」(壁パネル11、12の長手方向が鉛直方向に延在する配置)であり、左右方向(水平方向)に隣接する2枚の壁パネル11、12間に制振手段20、120を設けたが、これに限られず、所謂「横貼り(壁パネル11、12の長手方向が水平方向に延在する配置)」の、上下方向(鉛直方向)に隣接する2枚の壁パネル間に制振手段20を設けてもよい。また、制振手段20、120を設置する2枚の壁パネル11、12間には隙間が形成されていてもよいし、隙間なく配置されていてもよい。
【0080】
また、先の実施形態では、2枚の壁パネル11、12間の上下2箇所に制振手段20、120を設けたが、制振手段20、120は1箇所のみでも、3箇所以上に設けてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1:建物
10、110:制振壁構造
11、12:壁パネル
11a、12a:端面
11b、12b:裏面
11c、12c:表面
11d、12d:下側凹部
11e、12e:上側凹部
13:壁パネル取付部
14:スリット(拘束部)
15:凹部
16:ピン孔
17:ドリフトピン
20:制振手段
21:鋼材ダンパー(変形部)
22:板材(保持部)
22a:板状部分
22b:変形部設置部分
22c:孔
22d:締結孔
31:下梁(躯体)
31a:上フランジ
32:上梁(躯体)
32a:下フランジ
33:取付金物
33a:水平部
33b:垂直部
34:取付金物
34a:水平部
34b:垂直部
35:壁受金物
36:パネル取付金物
37:取付金物
40:粘弾性ダンパー(変形部)
41、42:支持部材
43:粘弾性体
44、45:対向面
50:粘弾性ダンパー(変形部)
51、52:支持部材
53:粘弾性体
54、55:対向面
120:制振手段
121:中央部(変形部)
122:板状部分(保持部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7