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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】粒子測定装置及び粒子測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/0227 20240101AFI20240118BHJP
   G01N 21/05 20060101ALI20240118BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G01N15/02 B
G01N21/05
G01N21/49 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020046243
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148483
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】坂東 和奈
(72)【発明者】
【氏名】近藤 郁
(72)【発明者】
【氏名】田渕 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡太
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179971(JP,A)
【文献】特表2018-535428(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171198(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0250023(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/02
G01N 21/05
G01N 21/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を内部に有するフローセルと、
照射光を出射する光源と、
前記流路を流れる試料に前記照射光を照射する照射光学系と、
前記照射光の照射により前記流路の所定区間内に形成される検出領域を通過する前記試料に含まれる粒子からの散乱光を、前記所定区間を前記試料の流れ方向に仮想的に延長させた位置で集光する集光光学系と、
集光された前記散乱光を所定のフレームレートで撮像する撮像部と、
撮像された複数のフレーム画像に基づいてブラウン運動による前記粒子の二次元方向の移動量を算出する移動量算出部と、
算出された前記移動量を、前記集光光学系において生じる倍率の誤差を補正するためにデフォーカス位置に応じて予め求められた補正値を用いて補正する移動量補正部と、
補正された前記移動量に基づいて前記粒子の粒径を特定する粒径特定部と
を備えた粒子測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子測定装置において、
前記移動量補正部は、
前記補正値として、前記デフォーカス位置及び前記フレーム画像上の位置に基づいて予め算出された値を用いることを特徴とする粒子測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粒子測定装置において、
前記移動量補正部は、
前記補正値として、前記デフォーカス位置による倍率の変化が前記試料の流れ方向における距離の一次関数であるとして予め求められた値を用いることを特徴とする粒子測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の粒子測定装置において、
前記移動量補正部は、
前記補正値として、速度の単位で表された値を用いることを特徴とする粒子測定装置。
【請求項5】
流路を流れる試料に照射光を照射する照射工程と、
前記照射光の照射により前記流路の所定区間内に形成される検出領域を通過する前記試料に含まれる粒子からの散乱光を、前記所定区間を前記試料の流れ方向に仮想的に延長させた位置で集光して所定のフレームレートで撮像する撮像工程と、
撮像された複数のフレーム画像に基づいてブラウン運動による前記粒子の二次元方向の移動量を算出する移動量算出工程と、
算出された前記移動量を、前記散乱光の集光時に生じる倍率の誤差を補正するためにデフォーカス位置に応じて予め求められた補正値を用いて補正する移動量補正工程と、
補正された前記移動量に基づいて前記粒子の粒径を特定する粒径特定工程と
を含む粒子測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の粒子測定方法において、
前記移動量補正工程では、
前記補正値として、前記デフォーカス位置及び前記フレーム画像上の位置に基づいて予め算出された値を用いることを特徴とする粒子測定方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の粒子測定方法において、
前記移動量補正工程では、
前記補正値として、前記デフォーカス位置による倍率の変化が前記試料の流れ方向における距離の一次関数であるとして予め求められた値を用いることを特徴とする粒子測定方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載の粒子測定方法において、
前記移動量補正工程では、
前記補正値として、速度の単位で表された値を用いることを特徴とする粒子測定方法。
【請求項9】
粒子からの散乱光を集光して所定のフレームレートで撮像する手段と、複数のフレーム画像に基づいてブラウン運動による前記粒子の二次元方向の移動量を算出する手段と、粒径を特定する手段と、を少なくとも備えた粒子測定装置の補正方法であって、
前記散乱光の集光時に生じる倍率の誤差を補正するためにデフォーカス位置に応じて予め求められた補正値を用いて前記移動量を補正する工程を含む粒子測定装置の補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子測定装置及び粒子測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中に浮遊する粒子の大きさを求める1つの手法として、FPT(flow particle tracking)法が知られている。FPT法を用いることで、試料に光を照射して粒子からの散乱光を撮像することで粒子の動きを観察し、ブラウン運動による移動量から粒子の幾何寸法に近い大きさを測定することができる。また、光散乱強度を同時に測定することで粒子の屈折率を求めることなども可能であるため、半導体の生産工程における汚染粒子の制御等において特に有用である。
【0003】
ここで、FPT法を用いた装置(以下、「FPT装置」と称する。)として、試料の流れ方向に対向する位置にレンズなどで構成される集光光学系が配置された装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。試料の流れ方向とは、言い換えると、粒子が試料の流れによって輸送される方向である。このFPT装置においては、集光光学系が試料の流れ方向に対向する位置に配置されているため、集光光学系からは、試料の流れによる粒子の移動は観察されず、ブラウン運動による粒子の移動のみが観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6549747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、FPT法においては、ブラウン運動による粒子の移動量、試料の粘度及び温度からストークス・アインシュタインの式により粒子の粒径が算出されるため、粒子の移動量を正確に求めることが粒径を精度よく測定する上で重要である。また、粒子の移動量は、撮像された動画を構成する各フレーム画像に捉えられた粒子の重心の位置から、各フレーム間での粒子の重心の移動量を特定することにより求められるため、集光光学系の倍率の誤差は粒子の移動量の誤差につながる。
【0006】
FPT装置においては、集光光学系を構成するレンズの開口数を大きく且つ画角を広くすることが必要であり、そのことと高精度なテレセントリック光学系とを両立することは困難である。各フレーム画像にはデフォーカスによって倍率の誤差が生じ、粒子は試料の流れ方向における位置に応じて異なる倍率で捉えられる。また、粒子が試料の流れ方向に平行に移動していても、デフォーカス位置による倍率の変化によって、粒子があたかも試料の流れ方向に対し垂直な面において中心から外側に移動しているように捉えられる。したがって、このようにして捉えられたフレーム画像に基づいて求められる粒子の移動量、ひいては粒子の移動量等から算出される粒径には、集光光学系の光学的誤差が必然的に影響するため、粒径を精度よく測定する上で課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、粒径を精度よく測定する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の粒子測定装置及び粒子測定方法を採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
すなわち、本発明の粒子測定装置及び粒子測定方法は、流路に照射光を照射し、照射光の照射により流路の所定区間内に形成される検出領域を通過する試料に含まれる粒子からの散乱光を、所定区間を試料の流れ方向に仮想的に延長させた位置で集光して所定のフレームレートで撮像した上で、複数のフレーム画像に基づいてブラウン運動による粒子の二次元方向の移動量を算出し、さらにその移動量を散乱光の集光時に生じる倍率の誤差を補正するためにデフォーカス位置に応じて予め求められた補正値を用いて補正して、補正後の移動量に基づいて粒子の粒径を特定する。
【0010】
FPT装置において、試料に含まれる粒子からの散乱光が、流路の所定区間を試料の流れ方向に仮想的に延長させた位置(試料の流れに対向する位置)で集光されて撮像される場合には、散乱光の集光時にデフォーカスによる倍率の誤差が生じ、粒子は試料の流れ方向における位置に応じて異なる倍率でフレーム画像に捉えられることとなる。このようにして撮像されたフレーム画像に基づいて算出されるブラウン運動による粒子の移動量には誤差が含まれるため、算出された移動量に基づいて粒子の粒径を特定すると、移動量に含まれる誤差が粒径にも波及してしまい、粒径を精度よく測定することができない。
【0011】
これに対し、この態様においては、算出された移動量に対し、散乱光の集光時に生じる倍率の誤差を補正するためにデフォーカス位置に応じて予め求められた補正値を用いて補正を行った上で、補正後の移動量に基づいて粒子の粒径が特定される。したがって、この態様によれば、デフォーカスによる倍率の誤差が補正されるため、粒子の移動量をより正確に求めることができ、粒径を精度よく測定することが可能となる。
【0012】
好ましくは、上記の粒子測定装置及び粒子測定方法において、補正値として、速度の単位で表された値、より具体的には、デフォーカス位置及びフレーム画像上の位置に基づいて予め算出された単位時間当たりの移動量の誤差を示す値を用いる。
【0013】
この態様においては、算出された移動量の補正に用いられる補正値が、速度の単位、すなわち単位時間当たりの移動量の誤差として表されているため、撮像のフレームレートを変更して粒子の測定を行う場合でも、同一の計算式を用いて移動量の補正を行うことができる。
【0014】
また好ましくは、上記のいずれかの粒子測定装置及び粒子測定方法において、補正値として、デフォーカス位置による倍率の変化が試料の流れ方向における距離の一次関数であるとして予め求められた値を用いる。
【0015】
この態様においては、移動量の補正に用いられる補正値は、デフォーカス位置による倍率の変化が試料の流れ方向における距離の一次関数であるという仮定の下で予め求められたものである。したがって、この態様によれば、デフォーカス位置に関わらず、デフォーカスによる一定の間隔における誤差を一定量として補正することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、粒径を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態における粒子測定装置の構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態における検出ユニットの構成を簡略的に示す図である。
図3】一実施形態における検出ユニットの構成を簡略的に示す垂直断面図(図2中のIII-III切断線に沿う断面図)である。
図4】検出領域における粒子の動きの見え方を説明する図である。
図5】イメージセンサの受光面における粒子の動きの見え方を説明する図である。
図6】デフォーカスに起因して生じる粒径の誤差を説明する図である。
図7】デフォーカス位置に対する倍率の検量線を示す図である。
図8】受光面の画素を示す図である。
図9】X方向の移動量を補正するための補正マップの一例を示す図である。
図10】Z方向の移動量を補正するための補正マップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0019】
〔粒子測定装置の構成〕
図1は、一実施形態における粒子測定装置1の構成を示すブロック図である。
【0020】
粒子測定装置1はFPT装置であり、図1に示されるように、大きくみると検出ユニット2及び制御演算ユニット3からなる。このうち、検出ユニット2は、流体である試料に光を照射し、試料中を浮遊する粒子と照射光との相互作用により生じる散乱光を検出することに関わる機器群である。また、制御演算ユニット3は、検出ユニット2を構成する各機器の制御、及び、検出ユニット2により検出された散乱光に基づき個々の粒子の移動量を算出して粒径の特定等を行うことに関わる機能群である。
【0021】
〔検出ユニットの構成〕
先ず、検出ユニット2の構成について説明する。
【0022】
検出ユニット2は、例えば、光源10、照射光学系20、フローセル30、集光光学系40、撮像器50等で構成されている。光源10は、例えば半導体レーザダイオードであり、レーザ光等の照射光を出射する。照射光学系20は、例えばビームエキスパンダ、回折光学素子及び光学スリット等を組み合わせて構成されており、光源10が出射した照射光を所定の形状に整形してフローセル30の内部に集光する。
【0023】
フローセル30は、石英やサファイア等の透明な材料からなり、その内部に試料が流し込まれる流路が形成されている。フローセル30に照射光が入射すると、流路内に検出領域が形成される。集光光学系40(受光レンズ系)は、例えばテレセントリックでない光学レンズ構成であり、検出領域を通過する粒子からの散乱光を撮像器50に集光する。つまり、「検出領域」は、照射光と集光光学系40により撮像器50上へ集光される範囲とが交差する領域である。撮像器50は、例えばCCD(charge-coupled device)やCMOS(complementary metal-oxide semiconductor)等のイメージセンサを備えたカメラであり、集光光学系40によりイメージセンサの受光面に集光された散乱光を撮像する。
【0024】
図2は、一実施形態における検出ユニット2の構成を簡略的に示す図である。
【0025】
図2中(A):フローセル30の斜視図である。フローセル30はL字状の形状をなしており、その内部には、第1開口31からY方向に延びる第1区間32と第2開口33からZ方向に延びる第2区間34とが各端部において連通したL字形の流路が形成されている。試料は、第1開口31から第1区間32に流し込まれ、第2区間34を経て第2開口33から外部へ排出される。なお、フローセル30の形状は、L字状に屈曲した部位を有する形状であればよく、L字形に代えて、例えばコの字形やクランク形を採用してもよい。
【0026】
図2中(B):検出ユニット2の構成、特に各構成間の位置関係を簡略的に示す平面図である。照射光学系20は、第1区間32における試料の流れ方向(Y方向)に対して垂直な方向(X方向)から、整形した照射光Bをフローセル30に入射させる。また、集光光学系40及び撮像器50は、第1区間32における試料の流れに対向する位置、すなわち第1区間32を試料の流れ方向に仮想的に延長させた位置に配置され、検出領域Mを通過した粒子からの散乱光Bを集光して撮像する。これらの構成により、個々の粒子のXZ平面における動き、すなわちブラウン運動が観測される。なお、散乱光Bの撮像については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0027】
図3は、一実施形態における検出ユニット2の構成を簡略的に示す垂直断面図(図2中のIII-III切断線に沿う断面図)である。なお、集光光学系40及び撮像器50については、断面の図示を省略している。
【0028】
上述したように、整形された照射光Bは、X方向からフローセル30に入射して第1区間32に検出領域Mを形成する。検出領域Mの形状は、例えば、長辺をZ方向とし、短辺をY方向として、長辺と略同等の奥行をX方向に有したものとなる。
【0029】
検出領域Mと集光光学系40との間に位置するフローセル30の内壁には、凹状の形状をなし検出領域Mの中心からの距離が概ねその曲率半径となる凹面部35が形成されている。検出領域Mを通過した粒子Pから生じた散乱光Bがフローセル30の内壁に入射する際には、試料の屈折率とフローセル30の屈折率との差異から光の屈折が生じうるが、凹面部35により、フローセル30の内壁に入射する散乱光Bの屈折を抑制することができる。
【0030】
フローセル30に対する集光光学系40及び撮像器50の位置は、集光光学系40の光軸を基準に決定されており、各構成は、集光光学系40の光軸が検出領域Mの中心、凹面部35の中心、撮像器50が備えるイメージセンサの受光面の中心を通過する位置にそれぞれ配置されている。撮像器50は、XZ平面に対向しており、検出領域Mで生じた散乱光の動き、すなわち検出領域Mを通過する個々の粒子Pのブラウン運動を観測し、所定のフレームレートで動画として撮像する。
【0031】
このように、第1区間32における試料の流れに対向する位置に散乱光の検出系(集光光学系40及び撮像器50)を配置することで、散乱光の動き(粒子Pのブラウン運動)を観測することが可能となる。
【0032】
〔制御演算ユニットの構成:図1参照〕
続いて、制御演算ユニット3の構成について説明する。
【0033】
制御演算ユニット3は、例えば、制御部60、画像取得部70、粒子特定部80、移動量算出部90、移動量補正部100、粒径特定部110、散乱光強度特定部120、解析部130、出力部140等で構成されている。制御部60は、検出ユニット2における各機器の動作や、制御演算ユニット3において実行される一連の処理を制御する。制御部60は、例えば、光源10による照射光のON/OFF、フローセル30に流し込む試料の流速(流量)、撮像器50による動画の撮像を制御する。なお、一連の処理の一部あるいは全部を制御するものを制御部60とは別に設け、そこで制御してもよい。例えば、試料の流速については、マスフローコントローラ等の流量制御機器を制御部60とは別に設け、これを用いて制御してもよい。
【0034】
画像取得部70は、撮像器50により所定のフレームレートで撮像された動画からフレーム毎の静止画(フレーム画像)を取得する。なお、動画のフレームレート及び試料の流速は、撮像された動画から個々の粒子につき所定枚数のフレーム画像を取得できるように制御される。例えば、検出領域MのY方向の長さが20μmであり、30fpsで(すなわち1秒間に30回)撮像される動画から10枚のフレーム画像を取得するためには、試料の流速は60μm/秒に設定されることとなる。
【0035】
また、粒子特定部80は、画像取得部70により取得されたフレーム画像から粒子を特定し、連続するフレーム画像に捉えられた個々の粒子を関連付けた上でその軌跡を特定する。
【0036】
移動量算出部90は、粒子特定部80により特定された粒子に対し、フレーム画像毎にブラウン運動による二次元方向(X方向及びZ方向)の移動量を算出する。なお、粒子の軌跡を特定する場合や移動量を算出する場合は、粒子の位置の代表値を用いる。例えば粒子の重心や粒子の中心などにより粒子の位置を特定する。
【0037】
移動量補正部100は、移動量算出部90により算出された粒子の移動量に対し、予め用意された補正マップに定義されている補正値を用いて、デフォーカス位置による倍率変動に起因して生じる移動量の誤差を補正する。
【0038】
粒径特定部110は、移動量補正部100により補正がなされた移動量に基づいて、拡散係数に相当する個々の粒子の粒径を特定する。なお、粒子の移動量の算出及び補正、粒径の特定に関する具体的な方法については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
【0039】
散乱光強度特定部120は、追跡された各粒子の散乱光量を特定する。具体的には、散乱光強度特定部120は、粒子特定部80により粒子が特定された場合に送られる画像情報に基づいて、同一粒子の各輝点の輝度平均値、最大輝度値、二値化の面積等を求めて、粒子の散乱光強度相当値を特定する。
【0040】
解析部130は、粒径特定部110により特定された粒径に基づいて、粒子の個数濃度を所定の粒径範囲毎に算出する。また、解析部130は、粒径特定部110により特定された粒径と散乱光強度特定部120により特定された散乱光強度相当値とに基づいて、粒子の屈折率を粒子毎に解析する。具体的には、粒径が既知であり概ね単一の粒径と見なせる試料粒子、例えばポリスチレンラテックス粒子等を用いて予め求められた既知の粒径及び既知の屈折率に対する相対的な散乱光強度の関係に基づいて、被測定粒子の屈折率を特定したり、屈折率の違いによって固体粒子と気泡との区別を行ったりする。
【0041】
出力部140は、解析部130による解析の結果を出力する。出力部140は、画面への表示、プリンタへの出力、不図示の記憶部への出力、或いはネットワークを介した他のデバイスへの送信等、様々な態様により解析結果を出力することが可能である。
【0042】
〔検出時における粒子の見え方〕
図4及び図5は、検出時における粒子の動きの見え方を説明する図である。より具体的には、図4は、検出領域Mを試料の流れ方向に対し垂直な方向から観察するとした場合の見え方、すなわちYZ平面における粒子の見え方を表している。また、図5は、撮像器50内のイメージセンサの受光面に結像する際の写り方、すなわちXZ平面における粒子の見え方を表している。
【0043】
上述したように、本実施形態においては集光光学系40及び撮像器50が試料の流れに対向する位置に配置されているが、粒子の動きにより集光光学系40のデフォーカスによる焦点移動が生じる。つまり、粒子のY方向における位置に応じて倍率が変化するので、撮像される各フレーム画像における像高に差が生じる。また、図4に示されるように、粒子P,P,PがそれぞれY方向に平行に移動していても、図5に示されるように、XZ平面においては、これらの各粒子がデフォーカス位置による倍率の変化によってあたかも検出領域Mの中心から外側に向かって移動しているかのように見える。そして、このように見える各粒子からの散乱光が、受光面に結像することとなる。
【0044】
〔デフォーカスに起因する誤差〕
図6は、デフォーカスに起因して生じる粒径の誤差を説明する図である。
【0045】
図6中(A):本実施形態の集光光学系40は、そのフォーカス位置での倍率が13.002293倍である。例えば、物体高が0.885mmの物体が検出領域内のフォーカス位置にある場合には、撮像器50内の受光面52に結像する像高は11.507029mmとなる。また、この物体が試料の流れ方向(Y方向)へ2μmデフォーカスした(集光光学系40に近づいた)位置にある場合には、受光面52に結像する像高は11.507432mmとなる。
【0046】
図6中(B):デフォーカス後の像高から、物体がフォーカス位置にあると仮定した場合の物体高を算出してみると(デフォーカス後の像高÷フォーカス位置での倍率)、0.885031mmとなる。つまり、デフォーカス後の像高に基づく算出結果によれば、フォーカス位置には物体高0.885031mmの物体があることになり、実際の物体高0.885mmとの間に0.031μmの誤差(移動量誤差)が生じる。こうしたデフォーカスによる物体高の誤差を考慮せずに粒子のブラウン運動による移動量を算出すると、粒子の粒径にまで誤差が波及してしまう。
【0047】
そこで、本実施形態においては、粒子が必ず遠くから集光光学系40に近づく(試料の流れによって遠い位置から近い位置に輸送される)ことを利用し、予め求めたデフォーカス位置に対する倍率の検量線から、デフォーカスによる倍率変動に起因する粒子の移動量の算出誤差を補正することとした。
【0048】
図7は、デフォーカス位置に対する倍率の検量線を示す図である。
本実施形態においては、フローセル30に流し込まれる試料の流速は一定であり、検量線はY方向における距離の一次関数であると仮定した。検量線を一次関数と仮定することにより、デフォーカス位置に関わらず、デフォーカスによる一定の間隔における誤差を一定量として補正することが可能となる。
【0049】
続いて、移動量の算出方法及び補正方法について説明する。
図8は、受光面52の画素を示す図である。受光面52は、横(X方向)及び縦(Z方向)それぞれに、例えば2448ピクセル(px)の画素を有しており、検出領域において生じた光をXZ平面に対向して捉える。XZ平面において粒子から生じた散乱光は受光面52に結像し、これにより粒子のブラウン運動が撮像器50により動画として撮像される。
【0050】
〔移動量の算出〕
画像取得部70により撮像された動画からフレーム画像が取得されると、先ず、粒子特定部80が、動画から取得されたフレーム画像から粒子を特定し、各フレーム画像における粒子の重心座標「(x,z)」を求める。ここで、「x」はi番目のフレームのフレーム画像におけるX座標であり、「z」はi番目のフレームのフレーム画像におけるZ座標である。
【0051】
その上で、移動量算出部90が、粒子の軌跡を特定し、各フレーム画像における粒子の重心座標から、連続するフレーム間における粒子のX方向及びZ方向の各移動量を算出する。具体的には、移動量算出部90は、「xi+1-x」により、i番目のフレームとi+1番目のフレームとの間における粒子のX方向の移動量(μm)を算出し、「zi+1-z」により、i番目のフレームとi+1番目のフレームとの間における粒子のZ方向の移動量(μm)を算出する。つまり、粒子のX方向及びZ方向の各移動量とは、XZ平面におけるi番目のフレームでの重心位置からi+1番目のフレームでの重心位置までの軌跡を示すベクトルをX成分及びZ成分に分解したものである。
【0052】
〔移動量の補正〕
移動量算出部90により粒子のX方向及びZ方向の各移動量が算出されると、次に、移動量補正部100が、予め用意された補正マップを参照して粒子の重心座標の位置に応じた補正値を取得し、移動量算出部90により算出されたX方向及びZ方向の各移動量について、それぞれ取得した補正値を用いて以下の計算式により補正を行う。
【0053】
【数1】
【0054】
上記の計算式(1)において、「Δx(i)」は、補正後のX方向の移動量(μm)である。また、上記の計算式(2)において、「Δz(i)」は、補正後のZ方向の移動量(μm)である。そして、計算式(1)及び(2)における「Δt」は、フレームレートの逆数、すなわち動画のフレームレートで規定される時間間隔(s)である。
【0055】
つまり、「vx(xi,zi)Δt」及び「vz(xi,zi)Δt」は、XZ平面における位置に応じた倍率の違いによるフレーム間の移動量誤差(μm)を表している。ここで、「vx(xi,zi)」及び「vz(xi,zi)」は、見かけ上の移動速度のX方向成分とZ方向成分を元にして予め求められた補正値(μm/s)である。補正値を移動速度として定義しておくことで、フレームレートを変更した場合でも同一の計算式を用いて移動量を補正することが可能となる。
【0056】
なお、各補正値は物体高により異なるため、予め求めた物体高毎の補正値を元に、予め補正マップを作成しておく必要がある。本実施形態においては、予め想定した物体高についての誤差量(例えば、上述した物体高0.885mmに対する0.031μm)に対応する補正値を予め光学シミュレーションソフトで計算し、予め当該物体高に対応する補正マップを作成した。なお、補正マップの態様については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0057】
〔粒径の特定〕
移動量補正部100により粒子のX方向及びZ方向の各移動量が補正されると、次に、粒径特定部110が、補正後の各移動量に基づいて個々の粒子の粒径を特定する。具体的には、粒径特定部110は、先ず、粒子の補正後のX方向及びY方向の各移動量に基づいて平均移動量Lを以下の計算式により算出する。
【0058】
【数2】
【0059】
上記の計算式(3)において、「L」は1フレーム当たりの(連続フレーム間における)平均移動量(μm)であり、「i」はフレーム番号であり、「M」はフレーム画像から得られる移動量の個数である。例えば、M=10である場合には、フレーム番号は0~10となり11枚のフレーム画像に基づいて粒子の移動量が算出されるため、これらのフレーム画像から算出される移動量の数は10個となる。
【0060】
粒径特定部110は、次に、拡散係数Dを以下の計算式により算出する。
【0061】
【数3】
【0062】
最後に、粒径特定部110は、以下に示すストークス・アインシュタインの式に従って、粒径dを特定する。
【0063】
【数4】
【0064】
上記の計算式(5)において、「kB」はボルツマン定数であり、「T」は絶対温度であり、「η」は試料の粘性係数である。
【0065】
〔補正による効果〕
フレームレートで規定される時間間隔Δtが1/120s(フレームレートが120fps)、絶対温度Tが293.2K、粘度ηが0.001Pa・sである場合における、粒径100nmの粒子のブラウン運動における平均移動量Lは、上記の計算式(4)及び(5)から0.378μmと算出される。
【0066】
ここで、図6で説明したように、0.031μmの移動量誤差が生じているとすると、移動量の補正を行わずに算出される平均移動量は、上記の平均移動量L0.378μmに移動量誤差0.031μmを加算した0.409μmとなる。そして、この場合には、粒径dは、上記の計算式(5)から85nmと特定される。つまり、移動量に誤差が含まれている場合には、粒子の実際の粒径は100nmであるにも関わらず、粒径が15nmも誤って特定されてしまうこととなる。
【0067】
これに対し、本実施形態においては、予め定義された補正値が適用されて粒子の移動量の補正がなされることで、デフォーカスによる倍率の誤差が補正される。したがって、本実施形態によれば、粒子の移動量をより正確に求めることができ、粒径の測定精度を向上させることが可能となる。
【0068】
〔補正マップ〕
続いて、補正マップについて説明する。
補正マップとは、デフォーカスによる倍率の誤差を補正するための補正値を、物体高毎に予め求め、まとめたものである。補正値は観測面上の位置により異なるため、X座標方向、Z座標方向の受光面の画素毎または区分毎に決定される。本実施形態においては、上述したように予め規定した物体高毎に補正値を光学シミュレーションソフトで計算し、物体高毎に対応する補正マップとして予め用意する。
【0069】
図9及び図10は、予め用意された補正マップを説明する図である。このうち、図9はX方向の移動量を補正するための補正マップ(以下、「X方向補正マップ」と称する。)の一例を示しており、図10は、Z方向の移動量を補正するための補正マップ(以下、「Z方向補正マップ」と称する。)の一例を示している。
【0070】
各補正マップには、見かけ上の移動速度のX方向成分とZ方向成分を元にして予め求められた補正値が定義されている。例えば、フレームレートが120fpsであり、検出領域においてデフォーカス位置が-10μm~+10μmの区間を1フレーム(1/120s=8.333ms)当たり2μmの速度で粒子が通過すると仮定する。このとき、図6で説明したように、物体高が0.885mmの場合には、2μmのデフォーカスで0.031μm誤って移動する、すなわち1フレーム当たりの誤差量は0.031μmであるため、誤差の速度は3.72μm/s(=0.031μm/8.333ms)と表すことができる。この速度は、検出領域の中心からの同心円上では同じ値となり、座標の位置に応じてX方向とZ方向とに分解された各成分の値が、それぞれ補正値として各補正マップに定義されている。つまり、各補正マップには、座標の位置に応じて予め求められた誤差量を速度の単位で表した値が定義されている。
【0071】
なお、上記の説明においては、一例として物体高0.885mmの場合を説明しているが、この他にも様々な物体高で計算を行って誤差量を計算し、X方向及びZ方向の二次元の補正マップを作成している。
【0072】
補正値は受光面の画素毎に設定するのが最適であるが、計算処理の簡単化等のために、一定区分毎に設定してもよい。例えば、図9中(A)に示されるように、X方向補正マップにおいては、検出領域がX方向において略等分された10個のエリアに分けられている。また、図9中(B)に示されるように、これらの各エリアに対するX座標の範囲と、その範囲に該当した場合に適用される補正値が定義されている。X方向補正マップの参照時には、Z座標の位置に関わらず、X座標の位置のみに着目して該当するエリアが選択され、そのエリアに対する補正値が適用される。
【0073】
また、図10中(A)に示されるように、Z方向補正マップにおいては、検出領域がZ方向において略等分された10個のエリアに分けられている。また、図10中(B)に示されるように、これらの各エリアに対するZ座標の範囲と、その範囲に該当した場合に適用される補正値が定義されている。Z方向補正マップの参照時には、X座標の位置に関わらず、Z座標の位置のみに着目して該当するエリアが選択され、そのエリアに対する補正値が適用される。
【0074】
例えば、図8に示した2448×2448の画素のうち、(x,z)=(2448,1)の位置に観測された粒子の重心があるとする。この位置に関し、図9に示したX方向補正マップを参照すると、上記のX座標は「エリア10」に該当している。したがって、補正前のX方向の移動量に対しては補正値「3.359493」が適用されて、補正後のX方向の移動量Δx(i)が算出される。また、図10に示したZ方向補正マップを参照すると、上記のZ座標は「エリア1」に該当している。したがって、補正前のZ方向の移動量に対しては補正値「-3.359493」が適用されて、補正後のZ方向の移動量Δz(i)が算出される。
【0075】
なお、図9及び図10に示した補正マップにおけるエリアの分割態様はあくまで一例であり、これに限定されない。例えば、エリアをより細分化(例えば、10px毎に分割)してもよいし、計算量に余裕がある場合にはエリアを分割することなく全ての画素に対して個別に補正値を定義してもよい。いずれにしても、各補正値は物体高により異なるため、物体高毎に補正マップを予め作成しておく必要がある。
【0076】
ところで、誤差量については、光学シミュレーションの他に、実測により予め求めておくという手法も考えられる。しかしながら、実測により誤差量を求める場合には、誤差の要因が光学系の倍率の他にも存在するため(例えば、試料の流速等)、他の要因との切り分けが必要となるが、要因の切り分けには困難が伴うことが予想される。これに対し、本実施形態においては、上述したように誤差量を光学シミュレーションにより計算しているため、誤差を生じさせる他の要因を考慮する必要がなく、光学系の誤差のみを対象として誤差量を求めることが可能である。
【0077】
〔本発明の優位性〕
以上のように、上述した実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
【0078】
(1)予め求められた補正値を適用して粒子の移動量を補正するため、デフォーカスによる倍率の誤差を補正して粒子の移動量をより正確に求めることができ、これにより粒径の測定精度を向上させることが可能となる。
【0079】
(2)補正値を移動速度として定義しているため、撮像する動画のフレームレートを変更して測定を行う場合でもフレームレートを変更する前と同一の補正値を用いて移動量を補正することができる。
【0080】
(3)デフォーカス位置に対する倍率の検量線を距離の一次関数であると仮定しているため、デフォーカス位置に関わらず、デフォーカスによる一定間隔における誤差を一定量として移動量の補正を行うことができる。
【0081】
(4)デフォーカスによる倍率の誤差を補正することができるため、集光光学系40をテレセントリック光学レンズで構成する必要がなく、集光光学系40の設計の自由度が増す。
【0082】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0083】
上述した実施形態においては、照射光学系20がビームエキスパンダ、回折光学素子及び光学スリット等を組み合わせて構成されているが、これに限定されず、例えば、複数枚の光学レンズを組み合わせて構成してもよい。
【0084】
上述した実施形態においては、照射光BをX方向から第1区間32に入射させているが、これに代えて、Z方向から第1区間32に入射させてもよい。
【0085】
上述した実施形態においては、フローセル30において試料が第1開口31から第2開口33に向かって流れるように試料を導入しているが、これに限定されず、第2開口33から第1開口31に向かって流れるように試料を導入してもよい。また、フローセル30への試料の導入は、入口となる開口への試料の圧送により行ってもよいし、出口となる開口からの試料の吸引により行ってもよい。
【0086】
その他、粒子測定装置1の各構成部品の例として挙げた材料や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0087】
1 粒子測定装置
2 検出ユニット
3 制御演算ユニット
10 光源
20 照射光学系
30 フローセル
40 集光光学系
50 撮像器
52 受光面
60 制御部
70 画像取得部
80 粒子特定部
90 移動量算出部
100 移動量補正部
110 粒径特定部
120 散乱光強度特定部
130 解析部
140 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10