(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電磁波吸収体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240118BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20240118BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20240118BHJP
D21H 13/50 20060101ALI20240118BHJP
D21H 27/30 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B5/26
B32B5/02 B
D21H13/50
D21H27/30 B
(21)【出願番号】P 2020055414
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】込山 英秋
(72)【発明者】
【氏名】根本 純司
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
(72)【発明者】
【氏名】楚山 智彦
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-078598(JP,A)
【文献】特開昭59-044709(JP,A)
【文献】特開昭57-069606(JP,A)
【文献】特開昭62-138239(JP,A)
【文献】特開2001-156486(JP,A)
【文献】特開昭50-070436(JP,A)
【文献】特開2019-102665(JP,A)
【文献】特開2005-167179(JP,A)
【文献】特開2004-247720(JP,A)
【文献】特開2004-327727(JP,A)
【文献】特開2001-267787(JP,A)
【文献】特開昭63-184398(JP,A)
【文献】特開2001-248260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 5/26
B32B 5/02
D21H 13/50
D21H 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプおよび炭素繊維を含
み、繊維状、粉末状、または薄片状の金属材料を含まない複数の第1層と、パルプを含み炭素繊維を含まない第2層と、を有する積層体を含み、
2つの前記第1層の間に、前記第2層が設けられ
、
前記第1層における前記炭素繊維の含有量は、1.0質量%以上3.0質量%以下である、電磁波吸収体。
【請求項2】
前記第2層は、複数設けられ、
前記積層体において、複数の前記第1層と複数の前記第2層とは、交互に積層されている、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記電磁波吸収体の最表層および最裏層は、前記第2層である、請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記電磁波吸収体は、バルカナイズドファイバーである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
塩化亜鉛と、酸化亜鉛と、を含み、
前記塩化亜鉛の含有量と前記酸化亜鉛の含有量との合計は、10ppm以上300ppm以下である、請求項4に記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記電磁波吸収体の厚さは、0.5mm以上3.5mm以下である、請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
パルプおよび炭素繊維を含
み、繊維状、粉末状、または薄片状の金属材料を含まない複数の第1層と、パルプを含み炭素繊維を含まない第2層と、を積層させて積層体を形成する工程を含み、
前記積層体を形成する工程では、2つの前記第1層の間に前記第2層を配置させ
、
前記第1層における前記炭素繊維の含有量は、1.0質量%以上3.0質量%以下であ
る、電磁波吸収体の製造方法。
【請求項8】
前記第1層および前記第2層を塩化亜鉛水溶液に浸漬させる工程を含む、請求項
7に記載の電磁波吸収体の製造方法。
【請求項9】
前記第1層の数と前記第2層の数との合計は、17以上25以下であり、
前記電磁波吸収体の厚さは、1.7mm以上2.5mm以下である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のシートを積層させてなる積層構造の電磁波吸収体が知られている。このような電磁波吸収体は、例えば、オフィス、実験室、病院などにおいて、無線LAN(Local Area Network)等の電子部品から発せられた電磁波を吸収するために用いられる。
【0003】
例えば特許文献1には、炭素繊維を含む繊維シートを複数枚積層し、相互に熱融着することによって構成された電磁波吸収体が記載されている。このような電磁波吸収体では、電磁波の吸収性を高めることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、電磁波の吸収性が高い電磁波吸収体を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、電磁波の吸収性が高い電磁波吸収体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電磁波吸収体の一態様は、
パルプおよび炭素繊維を含む複数の第1層と、パルプを含み炭素繊維を含まない第2層と、を有する積層体を含み、
2つの前記第1層の間に、前記第2層が設けられている。
【0007】
前記電磁波吸収体の一態様において、
前記第2層は、複数設けられ、
前記積層体において、複数の前記第1層と複数の前記第2層とは、交互に積層されていてもよい。
【0008】
前記電磁波吸収体の一態様において、
前記電磁波吸収体の最表層および最裏層は、前記第2層であってもよい。
【0009】
前記電磁波吸収体のいずれかの態様において、
前記電磁波吸収体は、バルカナイズドファイバーであってもよい。
【0010】
前記電磁波吸収体の一態様において、
塩化亜鉛と、酸化亜鉛と、を含み、
前記塩化亜鉛の含有量と前記酸化亜鉛の含有量との合計は、10ppm以上300ppm以下であってもよい。
【0011】
前記電磁波吸収体のいずれかの態様において、
前記第1層における前記炭素繊維の含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下であってもよい。
【0012】
前記電磁波吸収体のいずれかの態様において、
前記電磁波吸収体の厚さは、0.5mm以上3.5mm以下であってもよい。
【0013】
本発明に係る電磁波吸収体の製造方法の一態様は、
パルプおよび炭素繊維を含む複数の第1層と、パルプを含み炭素繊維を含まない第2層と、を積層させて積層体を形成する工程を含み、
前記積層体を形成する工程では、2つの前記第1層の間に前記第2層を配置させる。
【0014】
前記電磁波吸収体の製造方法の一態様において、
前記第1層および前記第2層を塩化亜鉛水溶液に浸漬させる工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電磁波吸収体は、電磁波の吸収性が高い。また、本発明に係る電磁波吸収体の製造方法によれば、電磁波の吸収性が高い電磁波吸収体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る電磁波吸収体を模式的に示す断面図。
【
図2】本実施形態に係る電磁波吸収体の製造方法を説明するためのフローチャート。
【
図3】比較例1のバルカナイズドファイバーを模式的に示す断面図。
【
図4】実施例1および比較例1~3の電磁波吸収性を示すグラフ。
【
図5】実施例1のバルカナイズドファイバーに入射する電磁波について、説明するための図。
【
図6】実施例2および実施例3の電磁波吸収性を示すグラフ。
【
図7】バルカナイズドファイバーの厚さに対する電磁波吸収性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0018】
1. 電磁波吸収体
1.1. 構成
まず、本実施形態に係る電磁波吸収体について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る電磁波吸収体100を模式的に示す断面図である。
【0019】
電磁波吸収体100は、
図1に示すように、積層体10を含む。図示の例では、積層体10は、2つ設けられ(積層体10a,10b)、一方の積層体10a上に他方の積層体10bが設けられている。なお、積層体10の数は、特に限定されず、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0020】
積層体10は、パルプおよび炭素繊維を含む複数の第1層20と、パルプを含み炭素繊維を含まない複数の第2層30と、を有している。2つの第1層20の間に、第2層30が設けられている。積層体10において、第1層20と第2層30とは、交互に積層されている。具体的には、一方の積層体10aにおいて、第1層20と第2層30とは交互に積層され、他方の積層体10bにおいて、第1層20と第2層30とは交互に積層されている。
【0021】
1つの積層体10を構成する第1層20の数と第2層30の数との合計は、例えば、3以上20以下である。図示の例では、1つの積層体10において、第1層20は、3つ設けられ、第2層30は、3つ設けられている。なお、1つの積層体10において、第1層20の数は、複数であれば、特に限定されない。また、1つの積層体10において、第2層30の数は、特に限定されず、例えば1つであってもよい。
【0022】
図示の例では、2つの積層体10は、第1層20同士が接するように積層されている。電磁波吸収体100の最表層102および最裏層104は、例えば、第2層30である。図示の例では、最表層102は、電磁波吸収体100において、最も上方に位置する層である。最裏層104は、電磁波吸収体100において、最も下方に位置する層である。
【0023】
電磁波吸収体100の厚さTは、例えば、0.5mm以上3.5mm以下であり、好ましくは0.6mm以上3.0mm以下であり、より好ましくは0.8mm以上2.5mm以下であり、さらにより好ましくは1.5mm以上2.5mm以下であり、さらによりいっそう好ましくは1.7mm以上2.5mm以下である。厚さTが0.5mm以上3.5mm以下であれば、電磁波吸収体100の電磁波の吸収性を高めることができる。複数の第1層20の厚さは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。複数の第2層30の厚さは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。第1層20および第2層30の厚さは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0024】
1.2. パルプ
第1層20および第2層30は、主成分としてパルプを含む。「第1層20は、主成分としてパルプを含む」とは、パルプの含有量が、第1層20の総重量に対して70質量%以上であることをいう。第2層30についても同様である。第1層20および第2層30は、例えば、バルカナイズドファイバーの原料となる原紙である。
【0025】
第1層20および第2層30に含まれるパルプとしては、例えば、木材パルプ、コットンパルプなどが挙げられる。木材パルプとしては、例えば、針葉樹晒し溶解サルファイトパルプ(NBSP)、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒しクラフトパルプ(NUKP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒しクラフトパルプ(LUKP)などの化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などの機械パルプ、脱墨パルプなどの古紙パルプが挙げられる。コットンパルプとしては、例えば、綿ボロパルプ、コットンリンターパルプなどが挙げられる。なお、第1層20および第2層30に含まれるパルプは、木材パルプ、コットンパルプに限らず、例えば、ケナフや竹パルプなどであってもよい。
【0026】
第1層20および第2層30は、上記のパルプを1種類だけ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。バルカナイズドファイバーにおける良好な膨潤および膠化を考慮すると、第1層20および第2層30は、上記のパルプのうち、コットンリンターパルプ、NBSP、NBKPを含んでいることが好ましい。
【0027】
第1層20のパルプ原料としては、第1層20の全質量に対して、コットンリンターパルプを55質量%以上75質量%以下、NBKPを15質量%以上35質量%以下、および炭素繊維を0.3質量%以上10.0質量%以下含んでいることが好ましい。第2層30は、第2層30の全質量に対して、コットンリンターパルプを40質量%以上95質量%以下、NBKPを5質量%以上60質量%以下含んでいることが好ましい。コットンリンターパルプとNBKPを組み合わせることにより、歪みの少ない電磁波吸収体100を得ることができる。
【0028】
1.3. 炭素繊維
第1層20は、炭素繊維を含む。炭素繊維は、チョップドファイバーであることが好ましい。チョップドファイバーとは、炭素繊維をサイジング剤で収束させ、一定の長さに切断したものである。第1層20に含まれる炭素繊維の繊維長は、例えば、1mm以上6mm以下であり、好ましくは2mm以上4mm以下である。繊維長が1mm以上であれば、チョップドファイバーにおける切断を容易に行うことができる。繊維長が6mm以下であれば、均一性の高いスラリーを調整することができる。電磁波吸収体100は、パルプおよび炭素繊維を水に分散させてスラリーを調整し、該スラリーを抄くことで製造される。
【0029】
第1層20における炭素繊維の含有量は、第1層20の全質量に対して、例えば、0.3質量%以上10.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上5.0質量以下であり、より好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下である。炭素繊維の含有量が0.3質量%以上10.0質量%以下であれば、電磁波吸収体100の電磁波の吸収性を高めることができる。炭素繊維の含有量が10.0質量%より大きいと、第1層の電磁波に対する反射率が高くなり、電磁波の吸収性が低くなってしまう。さらに、炭素繊維の含有量が10.0質量%より多いと、バルカナイズドファイバーを製造する際に、第1層の塩化亜鉛に対する吸液量が多くなり、断紙が発生し易くなる。第1層20における炭素繊維の含有量は、「JIS K 7075」に基づく硫酸分解法によって測定することができる。
【0030】
1.4. バルカナイズドファイバー
電磁波吸収体100は、例えば、バルカナイズドファイバーである。バルカナイズドファイバーは、パルプなどのセルロースを主成分とする原紙を塩化亜鉛などの濃厚水溶液に浸漬し、その表面を膨潤・膠化させた状態で積層圧着させた後、塩化亜鉛を除去して乾燥させたものである。バルカナイズドファイバーは、セルロースの膨潤作用により繊維同士が強固に自己接着し、緻密で強靭な組織が形成されている。そのため、バルカナイズドファイバーは、従来用いられている紙管原紙に比べて、衝撃強度、圧縮強度、引張強度、耐摩耗性、被発塵性などに優れている。
【0031】
電磁波吸収体100がバルカナイズドファイバーである場合、電磁波吸収体100は、塩化亜鉛と、酸化亜鉛と、を含む。塩化亜鉛の含有量と酸化亜鉛の含有量との合計は、10ppm以上300ppm以下である。塩化亜鉛の含有量と酸化亜鉛の含有量との合計がこの範囲であれば、電磁波吸収体100はバルカナイズドファイバーであるといえる。
【0032】
電磁波吸収体に含まれる塩化亜鉛の含有量と酸化亜鉛の含有量との合計は、例えば、以下の方法により測定される。まず、電磁波吸収体を、100℃の熱水に1時間浸漬させ、抽出物を得る。次に、抽出物に対して、原子吸光光度法を行い、亜鉛と塩素とを定量する。そして、両元素の定量値から、電磁波吸収体に含まれる塩化亜鉛の含有量と酸化亜鉛の含有量との合計を測定することができる。
【0033】
1.5. 電磁波に対する吸収性
電磁波吸収体100は、電磁波を吸収する。電磁波吸収体100が吸収する電磁波の周波数は、例えば、50MHz以上20GHz以下であり、好ましくは6GHz以上16GHz以下であり、より好ましくは7GHz以上13GHz以下である。電磁波吸収体100の電磁波に対する吸収性は、例えば、同軸管法による反射減衰量を測定することによって評価される。
【0034】
1.6. 作用効果
電磁波吸収体100は、パルプおよび炭素繊維を含む複数の第1層20と、パルプを含み炭素繊維を含まない第2層30と、を有する積層体10を含み、2つの第1層20の間
に、第2層30が設けられている。そのため、電磁波吸収体100では、炭素繊維を含まない第2層のみで形成されたものや、炭素繊維を含む2つの第1層の間に第2層が設けられていないものに比べて、後述する「3. 実施例および比較例」に示すように、電磁波の吸収性(電磁波吸収性)が高い。
【0035】
電磁波吸収体100の最表層102および最裏層104は、第2層30であってもよい。最表層102および最裏層104が第2層30であれば、最表層102および最裏層104から炭素繊維が飛び出しておらず、電磁波吸収体100の手触りが良い。炭素繊維は剛直であるため、最表層および最裏層が炭素繊維を含んでいると、手触りが良くない。さらに、最表層および最裏層が炭素繊維を含んでいると、バルカナイズドファイバーを形成する際に、塩化亜鉛水溶液が炭素繊維によって汚染されてしまう場合がある。
【0036】
電磁波吸収体100は、バルカナイズドファイバーであってもよい。バルカナイズドファイバーは、衝撃強度等が優れているため、例えば、電磁波を遮断したい部屋の壁などに好適に用いられる。なお、電磁波吸収体100は、2つの第1層20の間に第2層30が設けられていればバルカナイズドファイバーでなくてもよく、例えば紙管原紙を切断して板紙を形成し、該板紙を積層させたものであってもよい。
【0037】
電磁波吸収体100では、第1層20における炭素繊維の含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下である。第1層20における炭素繊維の含有量がこの範囲であれば、後述する「3. 実施例および比較例」に示すように、電磁波吸収体100の電磁波吸収性を高めることができる。
【0038】
電磁波吸収体100の厚さTは、0.5mm以上3.5mm以下である。厚さTがこの範囲であれば、電磁波吸収体100の電磁波吸収性を高めることができる。
【0039】
2. 電磁波吸収体の製造方法
次に、本実施形態に係る電磁波吸収体の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態に係る電磁波吸収体100の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0040】
まず、
図2に示すように、複数の第1層20および複数の第2層30を形成する(ステップS1)。具体的には、パルプおよび炭素繊維を含むスラリーを抄紙機で抄紙し、第1層20を形成する。さらに、パルプを含み炭素繊維を含まないスラリーを抄紙機で抄紙し、第2層30を形成する。第1層20を形成するためのスラリー、および第2層30を形成するためのスラリーは、カナダ標準ろ水度(CSF)で、例えば、350ml以上650ml以下、好ましくは400ml以上550ml以下である。CSFは、「JIS P
81821-2」に記載の方法で求められる。スラリーを抄紙する抄紙機は、長網抄紙機であることが好ましい。円網抄紙機で抄紙してもよいが、円網抄紙機は、長網抄紙機に比べて、繊維配向性が強く、縦横比が大きくなるため、歪みが生じ易い。
【0041】
次に、複数の第1層20および複数の第2層30を、塩化亜鉛水溶液に浸漬させる(ステップS2)。これにより、第1層20および第2層30は、膨潤および膠化される。塩化亜鉛水溶液の比重は、65ボーメ度以上74ボーメ度以下(63.9質量%以上74.6質量%以下の濃度に相当)であることが好ましい。さらに塩化亜鉛水溶液の温度は、33℃以上55℃以下であることが好ましい。
【0042】
なお、第1層20および第2層30を膨潤および膠化させる反応薬品としては、セルロースを膨潤および膠化するものであれば、特に限定されず、塩化亜鉛水溶液の他に、N-メチルモルフォリン-N-オキシド、N-メチルモルフォリン-N-オキシドと極性液体
との混合溶液、硫酸などを用いることができる。ただし、塩化亜鉛水溶液を用いる方法が最も工業化されており、大量生産に適している。
【0043】
次に、複数の第1層20および複数の第2層30を積層させて、積層体10を形成する(ステップS3)。本工程では、2つの第1層20の間に、第2層30を配置させる。具体的は、複数の第1層20と複数の第2層30とを交互に積層させて、積層体10を形成する。第1層20および第2層30は、膨潤および膠化されているため、接着剤を用いることなく、隣り合う層を接着させることができる。
図1に示す例では、2つの積層体10を形成する。
【0044】
次に、積層体10を洗浄液で洗浄する(ステップS4)。これにより、積層体10に付着している塩化亜鉛を除去することができる。具体的には、15ボーメ度以上33ボーメ度以下(12.6質量%以上30.4質量%以下の濃度に相当)の塩化亜鉛水溶液から、塩化亜鉛を含まない水まで、段階的に塩化亜鉛の濃度を下げた洗浄液を用意し、該洗浄液を複数の洗浄槽に入れて、段階的に、積層体10を洗浄する。
【0045】
さらに、洗浄工程では、洗浄槽の中に、所定の周波数で振動する振動板を投入し、該振動板を振動させながら、行ってもよい。これにより、積層体10に付着している塩化亜鉛の除去を促進させることができる。
【0046】
ただし、上記のような方法で洗浄しても、積層体10に付着している塩化亜鉛を完全に除去することは難しい。そのため、バルカナイズドファイバーである電磁波吸収体100は、塩化亜鉛水溶液に由来する塩化亜鉛および酸化亜鉛を、合計で10ppm以上300ppm以下含む。
【0047】
次に、洗浄された積層体10を乾燥させる(ステップS5)。乾燥させる方法は、特に限定されないが、例えば、熱風乾燥が挙げられる。乾燥温度は、例えば、80℃以上180℃以下である。本工程は、例えば、23℃における50%RHの環境下において、積層体10の平衡水分率が、5%以上11%以下となるように行われる。水分率が5%以上であれば、積層体10が脆くなったり割れやすくなったりする可能性を小さくすることができる。水分率が11%以下であれば、積層体10に触ったときに手が汚れるなどの不具合が生じる可能性を小さくすることができる。なお、積層体10を乾燥させた後に、キャレンダー加工を行って平滑性を付与してもよいし、エンボス加工を行ってもよい。
【0048】
以上の工程により、電磁波吸収体100を製造することができる。
【0049】
なお、浸漬工程(ステップS2)と積層工程(ステップS3)との順番は、特に限定されない。例えば、第1層20および第2層30を積層させたものを、塩化亜鉛水溶液に浸漬させてもよい。ただし、塩化亜鉛水溶液の染み込み易さを考慮すると、第1層20および第2層30を塩化亜鉛水溶液に浸漬させた後に積層させることが好ましい。
【0050】
3. 実施例および比較例
以下に実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例および比較例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
3.1. 第1評価
3.1.1. 試料の作製
(1)実施例1
コットンリンターパルプ、NBKP、および炭素繊維を含むスラリーを長網抄紙機で抄紙し、第1層に対応する第1原紙を得た。当該スラリーのCSFを500mlに調整した
。炭素繊維としては、繊維長3mmのチョップドファイバーを用いた。炭素繊維の含有量を、2.3質量%とした。このような第1原紙を、6枚作製した。
【0052】
コットンリンターパルプおよびNBKPを含むスラリーを長網抄紙機で抄紙し、第2層に対応する第2原紙を得た。当該スラリーのCSFを500mlに調整した。第2原紙は、炭素繊維を含んでいない。このような第2原紙を、6枚作製した。
【0053】
次に、6枚の第1原紙と6枚の第2原紙とを塩化亜鉛水溶液に浸漬して膨潤および膠化させ、第1原紙および第2原紙を積層させた。具体的には、
図1に示すように、2つ積層体のうちの一方の積層体の第2原紙と他方の積層体の第2原紙とが接するように、第1原紙および第2原紙を積層させた。1つの積層体において、第1原紙および第2原紙を交互に積層させた。塩化亜鉛水溶液の比重を69ボーメ度(68.5質量%の濃度に相当)とした。塩化亜鉛水溶液の温度を44℃とした。
【0054】
次に、23ボーメ度(20.5質量%の濃度に相当)から、塩化亜鉛を含まない水まで、段階的に濃度を下げた洗浄液を用いて、第1原紙および第2原紙を洗浄し、塩化亜鉛を除去した。
【0055】
次に、熱風およびシリンダードライヤーによって、90℃で乾燥処理を行い、その後、キャレンダー処理を行った。
【0056】
以上により、バルカナイズドファイバーを作製した。バルカナイズドファイバーの厚さは、1.2mmであった。
【0057】
(2)比較例1
比較例1では、第1原紙における炭素繊維の含有量を、2.3%とした。さらに、
図3に示すように、第1原紙P1を10枚作製し、第2原紙P2を2枚作製し、10枚の第1原紙P1を2枚の第2原紙P2で挟むように、第1原紙P1および第2原紙P2を積層させた。以上のこと以外は、実施例1と同様にして、バルカナイズドファイバーを作製した。なお、
図3は、比較例1のバルカナイズドファイバーを模式的に示す断面図である。
【0058】
(3)比較例2
比較例2では、第1原紙における炭素繊維の含有量を、4.1%とした。さらに、第1原紙を14枚作製し、第2原紙を2枚作製し、14枚の第1原紙を2枚の第2原紙で挟むように、第1原紙および第2原紙を積層させた。バルカナイズドファイバーの厚さは、1.6mmであった。以上のこと以外は、実施例1と同様にして、バルカナイズドファイバーを作製した。
【0059】
(4)比較例3
比較例3では、第1原紙を作製せず、第2原紙を12枚作製し、12枚の第2原紙を積層させたこと以外は、実施例1と同様にして、バルカナイズドファイバーを作製した。
【0060】
3.1.2. 評価方法
実施例1および比較例1~3の電磁波吸収性を評価した。電磁波吸収性の評価は、同軸管法による反射減衰量測定によって「S11」を測定することによって行った。「S11」の絶対値は、電磁波の吸収量に相当し、「S11」の絶対値が大きいほど、電磁波吸収性が高い。試験機としては、Agilent Technologies社製のネットワークアナライザー「8720ES」を用いた。測定周波数を50MHz~20GHzとした。
【0061】
3.1.3. 評価結果
図4は、実施例1および比較例1~3の電磁波吸収性を示すグラフである。
図4に示すように、2つの第1原紙の間に第2原紙が配置されている実施例1は、比較例1~3に比べて、電磁波吸収性が高いことがわかった。以下、電磁波吸収性の評価結果について考察する。
図5は、実施例1のバルカナイズドファイバーに入射する電磁波Eについて、説明するための図である。
【0062】
実施例1では、
図5の実線で示したように、最表層の第2原紙P2aから侵入した電磁波Eは、第1原紙P1aおよび第2原紙P2bを透過して、第1原紙P1bの上面Uで反射される。そして、電磁波Eは、第1原紙P1aの下面Dと、第1原紙P1bの上面Uと、の間で反射を繰り返しながら(多重反射しながら)減衰されると推察される。
【0063】
図5の破線で示したように、第1原紙P1bの上面Uで反射されずに第1原紙P1bを透過する電磁波も存在する。このような電磁波は、さらに、第2原紙P2cを透過し、第1原紙P1bの下面と、第2原紙P2cの下に位置する第1原紙の上面(図示せず)と、の間で反射を繰り返しながら、減衰されると推察される。また、
図5の破線で示したように、第1原紙P1aの下面Dで反射されずに、第1原紙P1aを透過する電磁波も存在する。
【0064】
比較例2は、比較例1よりも電磁波吸収性が低かった。これは、比較例2は、炭素繊維の含有量が多いため、電磁波がバルカナイズドファイバーの表層近傍で反射してしまい、電磁波がバルカナイズドファイバーの内部まで十分に侵入できなかったためであると推察される。
【0065】
比較例3は、実施例1よりも電磁波吸収性が低かった。比較例3は、第2原紙のみによって構成されている。第2原紙は、炭素繊維を含んでいないため、電磁波を反射させる性能が第1原紙に比べて十分に低い。そのため、比較例3は、電磁波をバルカナイズドファイバーの内部で電磁波を多重反射させることができず、電磁波吸収性が低いと推察される。
【0066】
以上のように、実施例1は、電磁波をバルカナイズドファイバーの内部にまで侵入させ、電磁波を多重反射させながら減衰させることができるため、電磁波吸収性が高いと推察される。
【0067】
3.2. 第2評価
3.2.1. 試料の作製
第1原紙と第2原紙とを交互に積層させ、1番上に絶縁用紙を配置して、バルカナイズドファイバーを作製した。第1原紙と第2原紙との合計枚数を4枚とし、厚さを0.6mmとした。以上のこと以外は、実施例1と同様にして、第2実施例のバルカナイズドファイバーを作製した。また、第1原紙と第2原紙との合計枚数を6枚とし、厚さを0.8mmとしたこと以外は、実施例2と同様にして、第3実施例のバルカナイズドファイバーを作製した。
【0068】
3.2.2. 評価結果
実施例1と同様に、実施例2および実施例3の電磁波吸収性を評価した。
図6は、実施例2および実施例3の電磁波吸収性を示すグラフである。
図6に示すように、厚さが0.6mm、0.8mmであっても、電磁波を吸収できることがわかった。
【0069】
3.3. 第3評価
3.3.1. 試料の作製
第1原紙と第2原紙との合計枚数を、15枚、17枚、20枚、25枚、30枚と5水準に振って、バルカナイズドファイバーを作製した。バルカナイズドファイバーの厚さは、それぞれ、1.5mm、1.7mm、2.0mm、2.5mm、3.0mmであった。以上のこと以外は、実施例1と同様にして、バルカナイズドファイバーを作製した。
【0070】
3.3.2. 評価方法
上記のようなバルカナイズドファイバーの誘電率を測定し、測定した誘電率からシミュレーションによって、バルカナイズドファイバーの厚さに対する反射損失(RL)を計算した。RLの絶対値が大きいほど、電磁波吸収性が高い。誘電率は、Agilent Technologies社製のネットワークアナライザー「8720ES」を用いて測定した。シミュレーションは、FDTD法(時間領域差分法)を用いた。
【0071】
3.3.3. 評価結果
図7は、バルカナイズドファイバーの厚さに対する電磁波吸収性を示すグラフである。
図7に示すように、バルカナイズドファイバーの厚さが1.5mm以上3.0mm以下であれば、RLの絶対値を13dB以上にできることがわかった。さらに、バルカナイズドファイバーの厚さが1.7mm以上2.5mm以下であれば、RLの絶対値を15dB以上にできることがわかった。
【0072】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0073】
10,10a,10b…積層体、20…第1層、30…第2層、100…電磁波吸収体、102…最表層、104…最裏層