(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ドア開閉装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/41 20150101AFI20240118BHJP
E05F 15/655 20150101ALI20240118BHJP
B60J 5/10 20060101ALI20240118BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
E05F15/41
E05F15/655
B60J5/10 K
B60J5/00 D
(21)【出願番号】P 2020065020
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000138462
【氏名又は名称】株式会社ユーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】堂本 真史
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-036567(JP,A)
【文献】特開2005-023633(JP,A)
【文献】特開2005-232753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0223575(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00-15/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉体を開閉駆動する開閉駆動部と、
前記開閉体の回動速度が予め設定された目標速度となるように、前記開閉駆動部をフィードバック制御する開閉処理、及び前記開閉体の前記目標速度と回動速度との差が、予め設定した閾値を超えたか否かを検出する衝突検出処理を実行する制御部と、
を備え、
前記開閉処理は、前記開閉体が回動する際の加速度が相違する複数の領域で実行し、
前記衝突検出処理は、前記いずれかの領域での閾値を、開始時を第1設定値とすると共に終了時を第2設定値とし、中間領域を前記第1設定値と前記第2設定値とで補間により設定する、ドア開閉装置。
【請求項2】
前記領域は、前記開閉体の開閉速度が増大する加速域を含み、前記加速域では、前記閾値を前記第1設定値から前記第2設定値へと漸増させる、請求項1に記載のドア開閉装置。
【請求項3】
前記領域は、前記開閉体の開閉速度が減少する減速域を含み、前記開閉体で閉鎖する場合、前記減速域では、前記閾値を前記第1設定値から前記第2設定値へと漸減させる、請求項1又は2に記載のドア開閉装置。
【請求項4】
前記領域は、前記開閉体の開閉速度が減少する減速域を含み、
前記制御部は、前記開閉体の開閉動作の途中で前記開閉駆動部を停止させる停止処理を実行する場合、停止時での閾値と、前記減速域の終了時の閾値とで補間を行うことにより、前記停止処理での閾値を設定する、請求項
1に記載のドア開閉装置。
【請求項5】
前記領域は、前記開閉体の開閉速度が減少する減速域を含み、
前記制御部は、前記開閉体の開閉動作の途中で前記開閉駆動部を停止させる停止処理を実行する場合、停止時での閾値と、前記減速域の終了時の閾値とで補間を行うことにより、前記停止処理での閾値を設定する、請求項2に記載のドア開閉装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記停止処理で前記開閉体を停止させた状態から開閉動作を再開する再駆動処理を実行する場合、前記再駆動処理での閾値を、前記加速域での閾値の変化割合以上に設定する、請求項
5に記載のドア開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドア開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の開口部を開閉する車両開閉体を駆動する(動力源として電動モータを備える)開閉駆動部を有するドア開閉装置が公知である(例えば、特許文献1参照)。このドア開閉装置では、開閉作動時にドアに作用する負荷に基づいて異物の挟み込みを検出し、ドアの開閉作動時の速度が大きいほど、挟み込みの検出感度が低くなるように調整している。
【0003】
しかしながら、前記従来のドア開閉装置では、一定のパラメータ(速度センサの検出信号に基づくスライドドアの開閉速度の減速量)に基づいて挟み込み判定部において挟み込み判定をしている。このため、異なる速度領域において、挟み込みが検出しやすい領域と、検出しにくい領域とが形成されてしまい、開閉位置によっては挟み込み判定にばらつきが生じてしまっていた。
【0004】
また、既存のドア開閉装置で挟み込み検出を行う場合、前記異なる速度領域で挟み込みの検出状況が異なるため、ドアの回動位置毎に挟み込みを検出するための閾値を設定しなければならない。この閾値は車両によっても相違するため、その設定が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、障害物への衝突や挟み込み等の衝突検出のための閾値の設定を必要最小限としつつ、衝突検出の検出精度を向上させることができるドア開閉装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、開閉体を開閉駆動する開閉駆動部と、前記開閉体の回動速度が予め設定された目標速度となるように、前記開閉駆動部をフィードバック制御する開閉処理、及び前記開閉体の回動速度と前記目標速度の差が、予め設定した閾値を超えたか否かを検出する衝突検出処理を実行する制御部とを備え、前記開閉処理は、前記開閉体が回動する際の加速度が相違する複数の領域で実行し、前記衝突検出処理は、前記いずれかの領域での閾値を、開始時を第1設定値とすると共に終了時を第2設定値とし、中間領域を前記第1設定値と前記第2設定値とで補間により設定するドア開閉装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、開閉体が回動する際の加速度の違いに応じて設定された領域毎に、開始時と終了時の閾値を設定するだけでよい。中間領域では、補間により得られた閾値に従って衝突検出を行うことができる。したがって、閾値の設定が簡略化される。しかも、開閉体の回動速度に適した閾値とすることができるので、検出精度を向上させることが可能となる。
【0009】
前記領域は、前記開閉体の開閉速度が増大する加速域を含み、前記加速域では、前記閾値を前記第1設定値から前記第2設定値へと漸増させるのが好ましい。
【0010】
この構成によれば、開閉体の回動速度が増大するに従って閾値を第1設定値から第2設定値へと漸増させることにより検出感度を抑えるようにしている。このため、実際の回動速度が速くなり、フィードバック制御で回動速度のばらつきが生じやすい状況下では、多少の速度変化は異常であるとして検出しないようにすることができる。これにより、開閉動作を優先することができ、早期に開閉体を開閉することが可能となる。
【0011】
前記領域は、前記開閉体の開閉速度が減少する減速域を含み、前記開閉体で閉鎖する場合、前記減速域では、前記閾値を前記第1設定値から前記第2設定値へと漸減させるのが好ましい。
【0012】
この構成によれば、開閉体で閉鎖する場合、開閉体の回動速度が遅くなるのに従って閾値を第1設定値から第2設定値へと漸増させることにより検出感度を高めるようにしている。このため、開閉体に指を挟む等の緊急時には早期に対応することができる。
【0013】
また、前記領域は、前記開閉体の開閉速度が減少する減速域を含み、前記制御部は、前記開閉体の開閉動作の途中で前記開閉駆動部を停止させる停止処理を実行する場合、停止時での閾値と、前記減速域の終了時の閾値とで補間を行うことにより、前記停止処理での閾値を設定するのが好ましい。
【0014】
この構成によれば、ユーザの操作によって開閉体の回動を停止させる場合であっても、その停止処理に適した閾値を得ることができ、開閉体をスムーズに回動させることが可能となる。
【0015】
前記制御部は、前記停止処理で前記開閉体を停止させた状態から開閉動作を再開する再駆動処理を実行する場合、前記再駆動処理での閾値を、前記加速域での閾値の変化割合以上に設定するのが好ましい。
【0016】
この構成によれば、ユーザの操作によって開閉体の回動を停止させた後、回動を再開する場合であっても、その再駆動処理に適した閾値を得ることができ、開閉体が回動する際の衝突検出を適切に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、開閉体が回動する際の加速度の違いに応じて設定された領域毎に、開始時と終了時の閾値を設定するだけでよいので、その設定を必要最小限のものとすることができる。また、中間領域は開始時と終了時の閾値を補間して設定するので、開閉体の回動速度に応じた適切な閾値を得ることができ、検出精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る車両の後方部を示す斜視図である。
【
図2】
図1のスピンドルドライブ機構を示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係る開閉制御装置を示すブロック図である。
【
図4】
図2の開閉制御装置で実行する自動開放処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5の認証処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図5の解錠処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図5の開閉処理を示すフローチャートである。
【
図8A】
図1に示すバックドアの開閉位置と回動速度の関係を示すグラフである。
【
図8B】
図1に示すバックドアの開閉位置と閾値の関係を示すグラフである。
【
図9】本実施形態に係る補正処理を示すフローチャートである。
【
図10】
図1に示すバックドアの開閉位置と回動速度の関係を示すグラフに、バックドアを停止する場合の閾値の変化を追加したグラフである。
【
図11】
図1に示すバックドアの開閉位置と回動速度の関係を示すグラフに、バックドアを再駆動する場合の閾値の変化を追加したグラフである。
【
図12】他の実施形態に係るドア開閉装置において、バックドアの開閉位置と回動速度の関係を示すグラフに、バックドアを停止する場合の閾値の変化を追加したグラフである。
【
図13】他の実施形態に係るドア開閉装置において、バックドアの開閉位置と回動速度の関係を示すグラフに、バックドアを再駆動する場合の閾値の変化を追加したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
図1に示すように、車体1の後方部には開口部2が形成されている。開口部2には開閉体の一例であるバックドア3が設けられている。バックドア3は、上方部に設けた支軸(図示せず)を中心として車体1に回動可能に取り付けられている。バックドア3は、開閉駆動部の一例であるスピンドルドライブ機構4により回動する。すなわち、スピンドルドライブ機構4は、バックドア3の両側にそれぞれ配置され、駆動によりバックドア3を、支軸を中心として開口部2を開放する全開位置と、開口部2を閉鎖する全閉位置との間で回動させる。
【0021】
図2に示すように、各スピンドルドライブ機構4は、電動モータ9等が収容される第1ハウジング5と、スピンドル12等が収容される第2ハウジング6とを備える。
【0022】
第1ハウジング5の一端部にはドア側連結部材7が固定されている。ドア側連結部材7は、バックドア3に設けたジョイントボール8と回動可能に連結されている。第1ハウジング5内には電動モータ9が収容されている。電動モータ9の回転数は回転センサ10によって検出されるようになっている。回転センサ10には、ホール素子を使用する磁気センサ、LED(発光ダイオード)及びPD(フォトダイオード)を使用する光学センサ等を使用できる。電動モータ9の回転軸9aは、減速ギア機構11を介して第2ハウジング6内のスピンドル12に接続されている。第1ハウジング5の他端部は第2ハウジング6に連結されている。
【0023】
第2ハウジング6には、スピンドル12とスピンドルナット13が収容されている。スピンドル12にはスピンドルナット13が螺合している。スピンドルナット13は、スピンドル12の正逆回転により第2ハウジング6内を軸方向に往復移動する。スピンドルナット13の前端部には筒状のプッシュロッド14の後端部が固定されている。プッシュロッド14の前端部には外筒15の前端部が固定されている。プッシュロッド14と外筒15は同軸上に配置されている。プッシュロッド14と外筒15の間には、外径側にコイルスプリング16が、内径側に内筒17がそれぞれ配置されている。また、プッシュロッド14の前端部には車体側連結部材18が固定されている。車体側連結部材18は車体1に設けたジョイントボール19と回動可能に連結されている。
【0024】
スピンドルドライブ機構4では、電動モータ9を駆動して回転軸9aを正回転させると、スピンドル12が正回転し、スピンドルナット13が第2ハウジング6の他端側へと移動する。これにより、第2ハウジング6に対する外筒15及びプッシュロッド14の突出量が増加し、バックドア3が開方向に回動する。また、電動モータ9を駆動して回転軸9aを逆回転させると、スピンドルナット13も逆回転し、スピンドルナット13が第2ハウジング6の一端側へと移動する。これにより、第2ハウジング6に対する外筒15及びプッシュロッド14の突出量が減少し、バックドア3が閉方向に回動する。
【0025】
図3に示すように、バックドア3には、ドアラッチ装置20、バックドア開閉装置21、ドア開スイッチ22、ドア閉スイッチ23、等が設けられている。ここでは、ドア開スイッチ22とドア閉スイッチ23で機能を分けているが、両方の機能を備えたドア開閉スイッチとしてもよい。また、ドア開スイッチ22とドア閉スイッチ23は、バックドア3の外側に設けられるハンドルスイッチ、内部に設けられるゲートスイッチ、運転席にあるドライバ用スイッチ等(これらスイッチを設ける位置は特に限定されるものではない。)で代用してもよいし、電子キー31にある操作スイッチで代用してもよい。
【0026】
ドアラッチ装置20は、ラッチ(図示せず)を正逆回転させるラッチモータ25を備える。ラッチの回転位置は、フルラッチスイッチ26、ハーフラッチスイッチ27及びリリーススイッチ28などによってそれぞれ検出される。フルラッチスイッチ26は、ラッチが車体1の開口部2に露出するストライカ24(
図1参照)に完全に係合するフルラッチ位置を検出する。リリーススイッチ28は、ラッチがストライカ24から完全に離脱可能な状態に移行したリリース位置を検出する。ハーフラッチスイッチ27は、フルラッチ位置とリリース位置の間のハーフラッチ位置を検出する。
【0027】
ドア開スイッチ22及びドア閉スイッチ23はバックドア3の外面に設けられている。ドア開スイッチ22又はドア閉スイッチ23を操作すると、ドア開操作信号又はドア閉操作信号が制御装置29に出力される。制御装置29では、ドア開操作信号又はドア閉操作信号に基づいてスピンドルドライブ機構4にPWM(Pulse Width Modulation)信号を出力する。スピンドルドライブ機構4は、モータ用駆動回路30にてPWM信号を受信し、このPWM信号に基づいて電動モータ9を駆動制御してバックドア3を全閉位置から全開位置又はその逆へと回動させる。
【0028】
バックドア開閉装置21は、マイクロコンピュータ、入出力回路等からなる制御装置29を備える。制御装置29には、スピンドルドライブ機構4、ドアラッチ装置20、ドア閉スイッチ23、ドア開スイッチ22、BCM32(Body Control Module)等が接続されている。
【0029】
(自動開放処理)
図4に示すように、バックドア3の自動開放処理は、認証処理(ステップS100)、解錠処理(ステップS200)及び開閉処理(ステップS300)により行う。
【0030】
図5に示すように、認証処理では、制御装置29で、ドア開スイッチ22からドア開操作信号を受信したか否かを判断する(ステップS110)。ドア開操作信号を受信すれば、BCM32に電子キー31の認証を要求する(ステップS111)。
【0031】
BCM32では、制御装置29からの認証要求を受けると(ステップS120)、電子キー31に対して認証コードの送信要求を行う(ステップS121)。BCM32で、電子キー31から送信された認証コードを受信すれば(ステップS122)、受信した認証コードと、予め登録されている正規コードとを比較し(ステップS123)、比較結果を制御装置29に送信する(ステップS124)。
【0032】
制御装置29では、比較結果に基づいて、認証コードと正規コードが合致していれば(ステップS112:YES)、解錠処理を実行し(ステップS200)、合致していなければ(ステップS112:NO)、自動開放処理を終了する。
【0033】
図6に示すように、解錠処理(ステップS200)では、ドアラッチ装置20にリリース信号を出力する(ステップS201)。ドアラッチ装置20では、入力されたリリース信号に基づいてラッチモータ25を駆動する。ここで、リリーススイッチ28によってラッチがリリース位置に回動しているか否かを判断する(ステップS202)。ラッチがリリース位置に回動し、リリーススイッチ28からオン信号が入力されれば、開閉処理(ステップS300)を実行する。所定時間内にリリーススイッチ28からオン信号が入力されなければ、ドアラッチ装置20で不具合が発生したとしてエラーを報知し(ステップS203)、自動開放処理を終了する。
【0034】
図7に示すように、開閉処理(ステップS300)では、スピンドルドライブ機構4にPWM信号を出力し(ステップS301)、バックドア3の開放動作を開始させる。この間、回動位置算出処理を実行する。回動位置算出処理では、回転センサ10によって電動モータ9の回転数を検出する(ステップS302)。そして、バックドア3の全閉位置からの電動モータ9の回転数に基づいて、バックドア3の回動位置を算出する(ステップS303)。
【0035】
本実施形態では、回転センサ10は、一方のスピンドルドライブ機構4に設けられており、他方のスピンドルドライブ機構4は、この回転センサ10によって検出された回転速度に基づいて、モータ駆動回路30に出力するPWM信号のデューティ比がフィードバック制御される。但し、
図3中、2点鎖線で示すように、回転センサ10を両方のスピンドルドライブ機構4に設け、スピンドルドライブ機構4毎に制御を行ってもよい。また、両方で検出される回転速度の平均値を算出し、算出された平均値に基づいて両方のスピンドルドライブ機構4をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0036】
バックドア3の開放動作は、全閉位置から全開位置までを、加速域、定速域、減速域の3段階で行う。
図8Aのグラフでは、横軸がバックドア3の開閉位置(電動モータ9の回転数)、縦軸がバックドア3の回動速度AS(電動モータ9の回転速度:回転軸9aの単位時間当たりの回転数)をそれぞれ示す。台形状のグラフが目標速度TSの変化であり、原点Oが全閉位置、右端Xが全開位置、左側の直角三角形が加速域、中央の長方形が定速域、右側の直角三角形が減速域をそれぞれ示す。
【0037】
加速域では、目標速度TSは電動モータ9の回転数に対して回転速度が徐々に大きくなる加速用目標速度ATSに設定されている。そして、この加速用目標速度ATSが得られるように、モータ駆動回路30に出力するPWM信号のデューティ比をフィードバック制御する。これにより、バックドア3は停止状態から所定の正の加速度で加速しながら回動する。
【0038】
定速域では、目標速度TSは電動モータ9の回転速度が一定値に維持される定速用目標速度CTSに設定されている。そして、この定速用目標速度CTSが得られるように、モータ駆動回路30に出力するPWM信号のデューティ比をフィードバック制御する。これにより、バックドア3は一定速度で回動する。加速度は0である。
【0039】
減速域では、目標速度TSは電動モータ9の回転速度が徐々に減少する減速用目標速度DTSに設定されている。そして、この減速用目標速度DTSが得られるように、モータ駆動回路30に出力するPWM信号のデューティ比をフィードバック制御する。これにより、バックドア3が所定の負の加速度で加速しながら回動して、すなわち回動速度が徐々に低下して全開位置で停止する。
【0040】
以上のようにしてバックドア3が全開位置に回動したと判断すれば(ステップS304)、スピンドルドライブ機構4へのPWM信号の出力を停止し(ステップS305)、ドアの自動開放処理を終了する。なお、バックドア3が全開位置に回動したか否かは、例えば、ステップS303で算出したバックドア3の回動位置や、電動モータ9の駆動開始からの経過時間等に基づいて判断すればよい。
【0041】
なお、バックドア3の自動閉鎖処理は、前述の自動開放処理とバックドア3の回動方向が相違する以外は同じであり、加速域、定速域及び減速域の3段階で、同様な制御により行われる。よって、ここでの自動閉鎖処理についての説明は省略する。
【0042】
(衝突検出処理)
次に、バックドア3の開閉動作の衝突検出処理について説明する。
【0043】
前述の通り、バックドア3の自動開閉処理は、加速域、定速域及び減速域の3つの領域で行われる。衝突検出処理では、前記領域毎に、開始時と終了時の閾値が設定されている。
図8Bに示すように、加速域では、開始時の閾値が第1閾値tv1(第1設定値)に設定され、終了時が第2閾値tv2(第2設定値)に設定されている。定速域では、開始時が加速域の終了時と一致した第2閾値tv2(第1設定値)に設定され、終了時が第3閾値tv3(第2設定値)に設定されている。減速域では、開始時が定速域の終了時と一致した第3閾値tv3(第1設定値)に設定され、終了時が第4設定値tv4(第2設定値)に設定されている。ここでは、第1閾値tv1は第2閾値tv2よりも小さい値に設定され、第2閾値tv2と第3閾値tv3は同じ値に設定され、第4閾値tv4は第3閾値tv3よりも小さい値に設定されている。加速域の中間領域では、第1閾値tv1と第2閾値tv2とで線形補間することにより閾値が設定されている。減速域の中間領域では、第3閾値tv3と第4閾値tv4とで線形補間することにより閾値が設定されている。
【0044】
自動開閉処理の途中で、バックドア3が障害物に衝突した場合(自動閉鎖処理の実行途中で、バックドア3と車体1との間に異物が挟まった場合を含む)に、
図9のフローチャートに従ってバックドア3の衝突検出処理を実行する。
【0045】
衝突検出処理ではまず、バックドア3の回動位置と、その回動位置での目標速度とを読み込む(ステップS501)。また、このときのバックドア3の実際の回動位置と、その回動位置での実際の回動速度を読み込む(ステップS502)。バックドア3の実際の回動位置は、バックドア3の全閉位置又は全開位置からの電動モータ9の回転数から得られる。バックドア3の実際の回動速度は、電動モータ9の回転速度から得られる。
【0046】
バックドア3の目標速度Vtと実際の回転速度Vxの差(VtーVx)が閾値tv以上となったか否かを判断する(ステップS503)。バックドア3の実際の回転速度と目標速度の差が閾値以上となっていれば、バックドア3の回動動作が何らかの理由により妨げられていると判断し、バックドア3の回動動作を停止させる(ステップS504)。バックドア3の回動動作が途中で停止される要因として、例えば、バックドア3の自動閉鎖処理を実行しているとき、バックドア3と車体1との間に荷物や身体等の異物を挟み込み、それ以上バックドア3を回動できない場合や、バックドア3の自動開放処理を実行しているとき、車庫の天井等の異物がバックドア3に当接し、それ以上バックドア3を回動できない場合がある。以下、各区間での衝突検出処理について詳細に説明する。
【0047】
図8Bに示すように、加速域では、第1閾値tv1と第2閾値tv2とで線形補間により、すなわち第1閾値tv1と第2閾値tv2とを結ぶ直線L1により、開始時と終了時の間の中間領域での閾値が設定されている。第1閾値tv1は第2閾値tv2よりも小さく、開始時から終了時に向かって閾値tvxは徐々に大きくなる。換言すれば、開始時から終了時に向かって徐々に衝突検出の感度が低下する。バックドア3の開放速度は、開始時から終了時に向かって徐々に大きくなる。このため、バックドア3は開始時から終了時に向かって加速し、終了時で最も速度が速くなる。したがって、バックドア3の回動途中で障害物に衝突する場合、開始時に近ければ回動速度の変化量が小さく、終了時に向かうに従って徐々に大きくなる。この場合、前述のように、開始時から終了時に向かって線形補間により徐々に感度を低下させているので、閾値をこの変化量を加味した値とすることができる。この結果、速度変化の小さい開始直後であっても、適切にバックドア3への障害物の衝突を検出することができる。
【0048】
定速域では、第2閾値tv2と第3閾値tv3とが同じ値に設定されており、閾値の変化はない(X軸と平行な直線L2に沿って推移する。)。また、バックドア3の回動速度が最も速い領域であるので、閾値tv2,tv3は最も大きな値に設定されている。定速域であれば、万一、バックドア3に障害物が衝突したとしても、速度変化が十分に大きいため、迅速に検出することができる。
【0049】
減速域では、第3閾値tv3と第4閾値tv4とで線形補間により、すなわち第3閾値tv3と第4閾値tv4とを結ぶ直線L3により、開始時と終了時の間の中間領域での閾値が設定されている。第3閾値tv3は第4閾値tv4よりも大きく、開始時から終了時に向かって閾値は徐々に小さくなる。換言すれば、開始時から終了時に向かって徐々に衝突検出の感度が上昇する。バックドア3の開閉速度は、開始時から終了時に向かって徐々に小さくなる。このため、バックドア3は開始時から終了時に向かって減速し、終了時で停止する。したがって、バックドア3の回動途中で障害物に衝突する場合、終了時に近づけば近づくほど、回動速度の変化量が小さくなる。この場合、前述のように、開始時から終了時に向かって線形補間により徐々に感度を上昇させているので、閾値をこの変化量を加味した値とすることができる。この結果、速度変化が徐々に小さくなる終了時に近づく領域であっても、適切にバックドア3への障害物の衝突を検出することができる。特に、バックドア3を閉鎖する場合には、バックドア3による挟み込みを検出することができるので、安全性が高い。
【0050】
(停止処理)
自動開閉処理の途中で、停止スイッチ(ドア開スイッチ等の他のスイッチの操作で代用してもよい。)が操作されれば、その時点から減速域での減速用目標速度DTSとなるようにバックドア3の回動速度を徐々に低下させる停止処理を実行する。
【0051】
また、停止処理を実行する場合でも、前記同様にして衝突検出処理を実行する。
【0052】
図10に示すように、加速域で停止スイッチが操作された場合、閾値には、その停止要求位置での第1’閾値tv1’を使用し、停止位置では減速域の第4閾値tv4を使用する。そして、第1’閾値tv1’と第4閾値tv4とで線形補間を行い、停止要求位置から停止位置までの電動モータ9の回転数によって得られる閾値を設定する(直線L1a参照)。ここでの閾値の変化は、減速域での変化と同じとしている。
【0053】
また、定速域で停止スイッチが操作された場合、閾値には、その停止要求位置での第2’閾値tv2’(=tv2)を使用し、停止位置では減速域の第4閾値tv4を使用する。そして、第2’閾値tv2’と第4閾値tv4とで線形補間を行い、停止要求位置から停止位置までの電動モータ9の回転数によって得られる閾値を設定する(直線L2a参照)。この場合、加速域よりも少ない回転回数でバックドア3が閉動作するように第2’閾値tv2’を設定している。
【0054】
さらに、減速位置で停止スイッチが操作された場合、閾値には、停止要求位置での第3’閾値tv3’を使用し、停止位置では減速位置の第4閾値tv4を使用する。そして、第3’閾値tv3’と第4閾値tv4とで線形補間を行い、停止要求位置から停止位置までの電動モータ9の回転数によって得られる閾値を設定する(直線L3a参照)。この場合、定速域で停止スイッチが操作された場合に比べて閾値の変化をさらに大きくしている。
【0055】
このように、バックドア3の停止処理を実行する場合でも、衝突検出処理を実行することにより、停止処理に比べてバックドア3の回動速度を急速に低下させて停止させる。これにより、バックドア3を停止スイッチの操作によって停止させている場合であっても、バックドア3が障害物に衝突する等の不具合が発生していれば、より迅速に停止させることにより、不具合の発生を防止することができる。
【0056】
(再駆動処理)
以上のようにしてバックドア3を回動途中で停止させた場合、ユーザの操作に応じて回動を再開させる必要がある。本実施形態では、次のようにしてバックドア3の再駆動処理を行う。なお、前記衝突検出処理は、停止スイッチが操作されたときのみだけではなく、バックドア3が障害物に衝突(又は衝突を検出)したり、挟み込みを検出したりして停止した場合にも実行してもよい。
【0057】
ドア開スイッチ22からの入力信号などの開閉開始要求に基づいて電動モータ9を再駆動する。そして、前記自動開放処理のステップS300と同様に、バックドアを加速域、定速域及び減速域によって回動させる。加速域では、バックドア3を加速用目標速度ATSで回動できるようにフィードバック制御する。加速によりバックドア3の回動速度が定速用目標速度CTSに至れば、定速域に移行する。定速域に移行した後は、バックドア3の回動位置に基づいて減速域へと移行し、最終的にはバックドア3を全開位置又は全閉位置に停止させる。また、加速によりバックドア3の回動速度が減速用目標速度DTSに至れば、そのまま減速域に移行し、バックドア3を全開位置又は全閉位置に停止させる。
【0058】
再駆動処理でも、前記同様にして衝突検出処理を実行する。すなわち、
図11に示すように、加速域又は定速域で停止させた場合、加速域開始時に於ける閾値すなわち第1閾値tv1と、定速域での第2閾値tv2(第3閾値tv3)とで、加速域での閾値の変化割合よりも大きくなるように線形補間により閾値を設定する(
図11中、L1b、L2b参照)。但し、定速域や減速域で停止させてから再駆動すると、バックドア3の回動位置が定速用目標速度に到達する前に減速域となることもある。この場合、第2閾値tv2(第3閾値tv3)に代えて、バックドア3の回動位置に基づいて第3閾値tv3と第4閾値tv4とで線形補間により求めた閾値tv3’を使用する(
図11中、減速域で停止させて再駆動した場合を、直線L3bで示す。)。なお、再駆動処理での閾値の変化割合は、加速域での閾値の変化割合(L1)と同じにしてもよい。また、変化割合を、加速域での閾値tv1と、停止時点からの経過時間(加速時間)後の閾値(
図11の例では、減速域で再駆動した場合、この閾値はtv3’である。)とから線形補間により求めるようにしてもよい。
【0059】
このように、前記実施形態に係るドア開閉装置によれば、衝突検出処理により次のような効果を得ることができる。
【0060】
(1)ドアの自動開放を加速域、定速域及び減速域に分け、衝突検出のための閾値を開始時及び終了時のみ設定することにより、中間領域を線形補間により行うようにしている。このため、閾値の設定を簡単に行うことができる。
(2)加速域及び減速域での開始時と終了時とで閾値を相違させ、中間領域では線形補間により設定するようにしたので、ドアの開閉速度の変化に応じて適切に異常を検出することができる。特に、加速域の開始直後や減速域の終了間際での回動速度の変化が少ない領域での検出精度を高めることができる。
(3)自動開閉処理中だけでなく、停止処理及び再駆動処理であっても、それらの処理に応じた適切な状態で衝突検出処理を実行することができる。
【0061】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0062】
前記実施形態では、ドアの自動開閉処理を3つの領域に分け、衝突検出処理を実行する場合、加速域と減速域とで開始時と終了時の閾値を相違させるようにしたが、いずれか一方の区間のみであってもよい。
【0063】
前記実施形態では、各領域での閾値の設定を線形補間により行うようにしたが、これに限らず、多項式補間もしくはスプライン補間で置き換えることもできる。
【0064】
前記実施形態では、自動開閉処理を加速域、定速域及び減速域の3段階としたが、これに限らない。例えば、加速域又は減速域を加速度が相違する複数区間に分けてもよいし、定速域をなくしてもよい。また、各区間の開始時と終了時の閾値は自由に設定できる。加速域の開始時と減速域の終了時とで閾値を相違させてもよい。
【0065】
図12及び
図13は、ドア開閉処理を、定速域の初期位置と最終位置の閾値が一定でない場合の、加速域、第1減速域及び第2減速域の3つの領域に分けた例を示している。
この例では、停止処理を実行する場合、加速域、第1減速域及び第2減速域では、
図12の2点鎖線で示すように、停止した位置での各閾値tv1’、tv2’、tv3’を使用し、これら各閾値tv1’、tv2’、tv3’と、第4閾値tv4との間で線形補間することにより、停止処理での閾値を設定する(
図12中、L1a、L2a、L3a参照)。
一方、再駆動処理を実行する場合、加速域の開始時期での閾値tv1を、加速域の閾値の変化割合以上で変化させる(
図13中、L1b、L2b、L3b参照)。この場合、閾値は、前記実施形態と同様に、加速域の開始時の閾値tv1と、その停止時点からの加速時間経過後の閾値とから線形補間により求めるようにしてもよい。
【0066】
前記実施形態では、自動開閉処理及び衝突検出処理を実行するドアを、バックドア3とする場合について説明したが、スライドドア、ヒンジ開閉式ドア等の他のドアであってもよい。また、ドアは自動車に限らず、電車等の車両一般であればよいし、車両に限らず、ビル、家屋等に使用されるドア一般であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 車体
2 開口部
3 バックドア(開閉体)
4 スピンドルドライブ機構(開閉駆動部)
5 第1ハウジング
6 第2ハウジング
7 ドア側連結部材
8 ジョイントボール
9 電動モータ
10 回転センサ
11 減速ギア機構
12 スピンドル
13 スピンドルナット
14 プッシュロッド
15 外筒
16 コイルスプリング
17 内筒
18 車体側連結部材
19 ジョイントボール
20 ドアラッチ装置
21 バックドア開閉装置
22 ドア開スイッチ
23 ドア閉スイッチ
24 ストライカ
25 ラッチモータ
26 フルラッチスイッチ
27 ハーフラッチスイッチ
28 リリーススイッチ
29 制御装置(制御部)
30 モータ用駆動回路
31 電子キー
32 BCM