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特許7421989量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/227 20060101AFI20240118BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240118BHJP
   H01S 5/34 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01S5/227
H01S5/343
H01S5/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020066862
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021163927
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】古田 慎一
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-254908(JP,A)
【文献】特開2009-283822(JP,A)
【文献】特開2009-252839(JP,A)
【文献】特開平08-148752(JP,A)
【文献】特開2013-026230(JP,A)
【文献】特開2017-108010(JP,A)
【文献】国際公開第2006/098839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
量子カスケード構造を有する活性層を含んで構成されて光導波方向に沿って延在するリッジ部を有するように、前記半導体基板上に形成された半導体積層体と、
前記リッジ部の側面上に形成された第1部分、及び、前記第1部分における前記半導体基板側の縁部から前記半導体基板の幅方向に沿って延在する第2部分を有する埋め込み層と、
少なくとも前記リッジ部の頂面、及び前記第1部分上に形成された金属層と、を備え、
前記第1部分における前記リッジ部とは反対側の表面は、前記光導波方向から見た場合に、
前記半導体基板から離れるにつれて前記リッジ部の側面から離れるように、前記リッジ部の側面に対して傾斜した第1傾斜面と、
前記第1傾斜面に対して前記半導体基板とは反対側に位置し、前記半導体基板から離れるにつれて、前記リッジ部の中心を通り且つ前記半導体基板の厚さ方向に平行な中心線に近づくように、前記中心線に対して傾斜した第2傾斜面と、を有し、
前記金属層は、前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面に沿って延在する表面を有するように前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面上にわたって延在している、量子カスケードレーザ素子。
【請求項2】
前記第2傾斜面は、前記半導体基板から離れるにつれて前記リッジ部の側面に近づくように、前記リッジ部の側面に対して傾斜している、請求項1に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項3】
前記リッジ部の側面は、前記光導波方向から見た場合に、前記半導体基板から離れるにつれて前記中心線に近づくように、前記中心線に対して傾斜している、請求項1又は2に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項4】
前記半導体基板の幅方向から見た場合に、前記第1傾斜面上の金属層の一部は、前記活性層と重なっている、請求項1~3のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項5】
前記半導体基板の厚さ方向において、前記第2部分における前記半導体基板とは反対側の表面は、前記活性層における前記半導体基板とは反対側の表面と前記半導体基板側の表面との間に位置している、請求項1~4のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項6】
前記第1部分の厚さは、前記第2部分の厚さよりも薄い、請求項1~5のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項7】
前記半導体基板の厚さ方向において、前記第1部分は、前記リッジ部の頂面から前記半導体基板とは反対側に突出している、請求項1~6のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子と、
前記量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備える、量子カスケードレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量子カスケードレーザ素子として、半導体基板と、リッジ部を有するように半導体基板上に形成された半導体積層体と、リッジ部及び半導体基板上にわたって形成された電流ブロック層と、電流ブロック層上に形成された絶縁層と、リッジ部の頂面及び絶縁層上にわたって形成された金属層と、を備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-98262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような量子カスケードレーザ素子には、放熱性の向上が求められる。また、幅方向におけるリッジ部の中央部に強度のピークを有する基本モードの光を安定的に出力するために、中央部の両側に強度のピークを有する高次モードの光の発振を抑制することが求められる。
【0005】
本発明は、放熱性の向上及び高次モードの発振の抑制を図ることができる量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の量子カスケードレーザ素子は、半導体基板と、量子カスケード構造を有する活性層を含んで構成されて光導波方向に沿って延在するリッジ部を有するように、半導体基板上に形成された半導体積層体と、リッジ部の側面上に形成された第1部分、及び、第1部分における半導体基板側の縁部から半導体基板の幅方向に沿って延在する第2部分を有する埋め込み層と、少なくともリッジ部の頂面、及び第1部分上に形成された金属層と、を備え、第1部分におけるリッジ部とは反対側の表面は、光導波方向から見た場合に、半導体基板から離れるにつれてリッジ部の側面から離れるように、リッジ部の側面に対して傾斜した第1傾斜面と、第1傾斜面に対して半導体基板とは反対側に位置し、半導体基板から離れるにつれて、リッジ部の中心を通り且つ半導体基板の厚さ方向に平行な中心線に近づくように、中心線に対して傾斜した第2傾斜面と、を有し、金属層は、第1傾斜面及び第2傾斜面上にわたって延在している。
【0007】
この量子カスケードレーザ素子では、リッジ部の側面上に形成された第1部分、及び、第1部分における半導体基板側の縁部から半導体基板の幅方向に沿って延在する第2部分を有する埋め込み層が設けられている。これにより、活性層で生じる熱を効果的に放熱することができる。また、リッジ部の側面に形成された第1部分上に金属層が形成されている。これにより、基本モードの損失を抑制しつつ、高次モードの発振を抑制することができる。また、第1部分におけるリッジ部とは反対側の表面が、半導体基板から離れるにつれてリッジ部の側面から離れるように傾斜した第1傾斜面と、第1傾斜面に対して半導体基板とは反対側に位置し、半導体基板から離れるにつれてリッジ部の中心線に近づくように傾斜した第2傾斜面と、を有し、金属層が、第1傾斜面及び第2傾斜面上にわたって延在している。これにより、基本モードの損失を抑制しつつ高次モードの発振を抑制することができるとの上記効果が顕著に奏される。よって、この量子カスケードレーザ素子によれば、放熱性の向上及び高次モードの発振の抑制を図ることができる。
【0008】
第2傾斜面は、半導体基板から離れるにつれてリッジ部の側面に近づくように、リッジ部の側面に対して傾斜していてもよい。この場合、基本モードの損失を抑制しつつ高次モードの発振を抑制することができるとの上記効果が一層顕著に奏される。
【0009】
リッジ部の側面は、光導波方向から見た場合に、半導体基板から離れるにつれて中心線に近づくように、中心線に対して傾斜していてもよい。この場合、基本モードの損失を抑制しつつ高次モードの発振を抑制することができるとの上記効果がより一層顕著に奏される。
【0010】
半導体基板の幅方向から見た場合に、第1傾斜面上の金属層の一部は、活性層と重なっていてもよい。この場合、高次モードの発振を効果的に抑制することができる。
【0011】
半導体基板の厚さ方向において、第2部分における半導体基板とは反対側の表面は、活性層における半導体基板側の表面と半導体基板とは反対側の表面との間に位置していてもよい。この場合、放熱性を一層向上することができる。
【0012】
第1部分の厚さは、第2部分の厚さよりも薄くてもよい。この場合、放熱性の向上及び高次モードの発振の抑制の双方をバランス良く実現することができる。
【0013】
半導体基板の厚さ方向において、第1部分は、リッジ部の頂面から半導体基板とは反対側に突出していてもよい。この場合、例えば、埋め込み層を成長させて形成する際に、リッジ部頂面からの第1部分の突出量に基づいて、埋め込み層の成長の度合いを把握することができる。
【0014】
本発明の量子カスケードレーザ装置は、上記量子カスケードレーザ素子と、量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備える。この量子カスケードレーザ装置によれば、放熱性の向上及び高次モードの発振の抑制を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放熱性の向上及び高次モードの発振の抑制を図ることができる量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る量子カスケードレーザ素子の断面図である。
図2図1のII-II線に沿っての断面図である。
図3】(a)及び(b)は、量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
図4】(a)及び(b)は、量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
図5】(a)及び(b)は、量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
図6】(a)及び(b)は、量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
図7】製造された量子カスケードレーザ素子の例を示す図である。
図8】製造された量子カスケードレーザ素子の他の例を示す図である。
図9】量子カスケードレーザ素子における電界強度分布の例を示すグラフである。
図10】(a)は、基本モードの広がりの例を示す図であり、(b)は、1次モードの広がりの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
[量子カスケードレーザ素子の構成]
【0018】
図1及び図2に示されるように、量子カスケードレーザ素子1は、半導体基板2と、半導体積層体3と、埋め込み層4と、誘電体層5と、第1電極6と、第2電極7と、を備えている。半導体基板2は、例えば、長方形板状のSドープInP単結晶基板である。一例として、半導体基板2の長さは3mm程度であり、半導体基板2の幅は500μm程度であり、半導体基板2の厚さは百数十μm程度である。以下の説明では、半導体基板2の幅方向をX軸方向といい、半導体基板2の長さ方向をY軸方向といい、半導体基板2の厚さ方向をZ軸方向という。Z軸方向において半導体基板2に対して半導体積層体3が位置する側を第1の側S1といい、Z軸方向において半導体積層体3に対して半導体基板2が位置する側を第2の側S2という。
【0019】
半導体積層体3は、半導体基板2における第1の側S1の表面2a上に形成されている。半導体積層体3は、量子カスケード構造を有する活性層31を含んでいる。半導体積層体3は、所定の中心波長(例えば、中赤外領域の波長であって、4~11μmのいずれかの値の中心波長)を有するレーザ光を発振するように構成されている。本実施形態では、半導体積層体3は、下部クラッド層32、下部ガイド層(図示省略)、活性層31、上部ガイド層(図示省略)、上部クラッド層33及びコンタクト層(図示省略)が半導体基板2側からこの順に積層されることで構成されている。上部ガイド層は、分布帰還(DFB:distributed feedback)構造として機能する回折格子構造を有している。
【0020】
活性層31は、例えば、InGaAs/InAlAsの多重量子井戸構造を有している。下部クラッド層32及び上部クラッド層33の各々は、例えばSiドープInP層である。下部ガイド層及び上部ガイド層の各々は、例えばSiドープInGaAs層である。コンタクト層は、例えばSiドープInGaAs層である。
【0021】
半導体積層体3は、Y軸方向に沿って延在するリッジ部30を有している。リッジ部30は、下部クラッド層32における第1の側S1の部分、並びに、下部ガイド層、活性層31、上部ガイド層、上部クラッド層33及びコンタクト層によって構成されている。X軸方向におけるリッジ部30の幅は、X軸方向における半導体基板2の幅よりも狭い。Y軸方向におけるリッジ部30の長さは、Y軸方向における半導体基板2の長さに等しい。一例として、リッジ部30の長さは3mm程度であり、リッジ部30の幅は8μm程度であり、リッジ部30の厚さは8μm程度である。リッジ部30は、X軸方向において半導体基板2の中央に位置している。X軸方向におけるリッジ部30の両側には、半導体積層体3を構成する各層が存在していない。
【0022】
リッジ部30は、頂面30aと、一対の側面30bと、を有している。頂面30aは、リッジ部30における第1の側S1の表面である。一対の側面30bは、X軸方向におけるリッジ部30の両側の表面である。この例では、頂面30a及び側面30bの各々は、平坦面である。各側面30bは、Y軸方向から見た場合に、半導体基板2から離れるにつれて(第1の側S1に向かうにつれて)リッジ部30の中心線CLに近づくように、中心線CLに対して傾斜している。中心線CLは、Y軸方向から見た場合におけるリッジ部30の中心(幾何中心)を通り且つZ軸方向に平行な直線である。量子カスケードレーザ素子1は、Y軸方向から見た場合に中心線CLに関して線対称に構成されている。
【0023】
半導体積層体3は、光導波方向Aにおけるリッジ部30の両端面である第1端面3a及び第2端面3bを有している。光導波方向Aは、リッジ部30の延在方向であるY軸方向に平行な方向である。第1端面3a及び第2端面3bは、光出射端面として機能する。第1端面3a及び第2端面3bは、Y軸方向における半導体基板2の両端面とそれぞれ同一平面上に位置している。
【0024】
埋め込み層4は、例えば、FeドープInP層からなる半導体層である。埋め込み層4は、一対の第1部分41と、一対の第2部分42と、を有している。一対の第1部分41は、リッジ部30の一対の側面30b上にそれぞれ形成されている。一対の第2部分42は、それぞれ、一対の第1部分41における第2の側S2の縁部41aからX軸方向に沿って延在している。各第2部分42は、下部クラッド層32の表面32a上に形成されている。表面32aは、下部クラッド層32のうちリッジ部30を構成していない部分における第1の側S1の表面である。
【0025】
Z軸方向において、各第2部分42における第1の側S1の表面42aは、活性層31における第1の側S1の表面31aと第2の側S2の表面31bとの間に位置している。換言すれば、X軸方向から見た場合に、第2部分42における第1の側S1の一部は、活性層31における第2の側S2の一部と重なっている。
【0026】
各第1部分41は、リッジ部30の側面30bの全面にわたって形成されており、Z軸方向において、リッジ部30の頂面30aから第1の側S1に突出している。各第1部分41におけるリッジ部30とは反対側の表面41bは、第1傾斜面43と、第2傾斜面44と、を有している。この例では、第1傾斜面43及び第2傾斜面44の各々は、平坦面である。
【0027】
第1傾斜面43は、光導波方向Aから見た場合に、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の側面30bから離れるように、リッジ部30の側面30bに対して傾斜している。この例では、第1傾斜面43は、光導波方向Aから見た場合に、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の中心線CLから離れるように、中心線CLに対しても傾斜している。第1傾斜面43は、第2部分42における第1の側S1の表面42aに連続している。第1傾斜面43における半導体基板2側の縁部は、X軸方向から見た場合に、活性層31と重なっている。
【0028】
第2傾斜面44は、第1傾斜面43に対して第1の側S1に位置し、第1傾斜面43に連続している。第2傾斜面44は、光導波方向Aから見た場合に、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の中心線CLに近づくように、中心線CLに対して傾斜している。この例では、第2傾斜面44は、光導波方向Aから見た場合に、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の側面30bに近づくように、側面30bに対しても傾斜している。第2傾斜面44は、Z軸方向において、リッジ部30の頂面30aから第1の側S1に突出している。
【0029】
第1部分41の厚さT1は、第2部分42の厚さT2よりも薄い。第1部分41の厚さT1は、第2部分42の厚さT2の半分以下であってもよい。第1部分41の厚さT1とは、X軸方向における第1部分41の最大厚さである。この例では、第1部分41の厚さは、第2の側S2から第1傾斜面43と第2傾斜面44との間の境界に近づくにつれて増加し、第1の側S1に向けて当該境界から離れるにつれて減少する。つまり、第1部分41の厚さは、当該境界の位置において最大となっている。したがって、第1部分41の厚さT1は、リッジ部30の側面30bと当該境界との間の距離である。第2部分42の厚さT2とは、Z軸方向における第2部分42の最大厚さである。この例では、第2部分42の厚さは、第2部分42の全体にわたって一様である。一例として、第1部分41の厚さT1は1~2μm程度であり、第2部分42の厚さT2は3.0μm程度である。
【0030】
誘電体層5は、例えば、SiN膜又はSiO膜からなる誘電体層(絶縁層)である。誘電体層5は、リッジ部30の頂面30a、第1部分41の表面41b、及び第2部分42の内側部分46の表面46aが誘電体層5から露出するように、第2部分42の外側部分47の表面47a上に形成されている。内側部分46は、第2部分42のうち第1部分41に連続する部分であり、外側部分47は、第2部分42のうち内側部分46よりもX軸方向における外側に位置する部分である。表面46aは、内側部分46における第1の側S1の表面であり、表面47aは、外側部分47における第1の側S1の表面である。
【0031】
誘電体層5は、外側部分47の表面47a上に形成されており、内側部分46の表面46a上には形成されておらず、表面46aを露出させている。換言すれば、誘電体層5には、内側部分46を誘電体層5から露出させる開口5aが形成されている。開口5aは、リッジ部30の頂面30a、第1部分41の表面41b、及び第2部分42の内側部分46の表面46aを誘電体層5から露出させている。X軸方向及びY軸方向のいずれにおいても、誘電体層5の外縁は、埋め込み層4の外縁に至っている。誘電体層5は、埋め込み層4と後述する金属層61との間の密着性を高める密着層としても機能する。
【0032】
X軸方向における開口5aの幅W1は、X軸方向における活性層31の幅W2の2倍以上である。幅W1は、幅W2の5倍以上であってもよい。一例として、幅W1は50μm程度であり、幅W2は9μm程度である。本実施形態のように活性層31の幅が第1の側S1に向かうにつれて狭くなる場合、活性層31の幅W2とは、第1の側S1の端部における幅である。
【0033】
X軸方向における開口5aの幅W1は、Z軸方向における埋め込み層4の厚さT3の10倍以上であってもよい。埋め込み層4の厚さT3は、第1部分41の厚さT1及び第2部分42の厚さT2の厚い方であり、この例では厚さT2である。つまり、開口5aの幅W1は、第2部分42の厚さT2の10倍以上であってもよい。上述したとおり、第2部分42の厚さT2は、例えば3μm程度である。
【0034】
第1電極6は、金属層61と、メッキ層62と、を有している。金属層61は、例えば、Ti/Au層であり、メッキ層62を形成するための下地層として機能する。メッキ層62は、金属層61上に形成されている。メッキ層62は、例えばAuメッキ層である。Z軸方向における第1電極6の厚さは、例えば6μm以上である。
【0035】
金属層61は、リッジ部30の頂面30a上、並びに、埋め込み層4の第1部分41及び第2部分42上にわたって延在するように、一体的に形成されている。金属層61は、リッジ部30の頂面30aに接触している。これにより、第1電極6は、コンタクト層を介して上部クラッド層33に電気的に接続されている。X軸方向及びY軸方向のいずれにおいても、金属層61の外縁は、埋め込み層4及び誘電体層5の外縁の内側に位置している。X軸方向における金属層61の外縁と誘電体層5の外縁(半導体基板2、半導体積層体3及び埋め込み層4の外縁)との間の距離は、例えば50μm程度である。
【0036】
金属層61は、第1部分41上に直接に形成されている。すなわち、金属層61と第1部分41との間には別の層(例えば、誘電体層又は絶縁層)が形成されていない。金属層61は、第1部分41の表面41bの全面にわたって形成されており、第1傾斜面43及び第2傾斜面44上にわたって延在している。X軸方向から見た場合に、第1傾斜面43上の金属層61の一部は、活性層31と重なっている。より具体的には、第1傾斜面43上の金属層61における第2の側S2の縁部が、活性層31と重なっている。金属層61は、第1部分41のうちリッジ部30の頂面30aから突出した部分を覆うように設けられている。
【0037】
金属層61は、第2部分42の内側部分46においては、誘電体層5に形成された開口5aを介して内側部分46の表面46aに接触している。金属層61は、第2部分42の外側部分47においては、誘電体層5を介して第2部分42上に形成されている。すなわち、誘電体層5は、第2部分42の外側部分47と第1電極6との間に配置されている。Z軸方向から見た場合に、第1電極6の外縁は、半導体基板2、半導体積層体3、埋め込み層4及び誘電体層5の外縁よりも内側に位置している。
【0038】
メッキ層62における第1の側S1の表面62aには、複数のワイヤ8が電気的に接続されている。各ワイヤ8は、例えばワイヤボンディングにより形成され、メッキ層62を介して金属層61に電気的に接続されている。金属層61(メッキ層62)と各ワイヤ8との接続位置は、Z軸方向から見た場合に、誘電体層5と重なっている。なお、ワイヤ8の本数は限定されず、1本のワイヤ8のみが設けられていてもよい。
【0039】
第2電極7は、半導体基板2における第2の側S2の表面2b上に形成されている。第2電極7は、例えば、AuGe/Au膜、AuGe/Ni/Au膜、又はAu膜である。第2電極7は、半導体基板2を介して下部クラッド層32に電気的に接続されている。
【0040】
量子カスケードレーザ素子1では、第1電極6及び第2電極7を介して活性層31にバイアス電圧が印加されると、活性層31から光が発せられ、当該光のうち所定の中心波長を有する光が分布帰還構造において共振させられる。これにより、所定の中心波長を有するレーザ光が第1端面3a及び第2端面3bの各々から出射される。なお、第1端面3a及び第2端面3bの一方の端面に高反射膜が形成されていてもよい。この場合、所定の中心波長を有するレーザ光が第1端面3a及び第2端面3bの他方の端面から出射される。或いは、第1端面3a及び第2端面3bの一方の端面に低反射膜が形成されていてもよい。また、低反射膜が形成された端面とは異なる他方の端面に高反射膜が形成されてもよい。これらのいずれの場合にも、所定の中心波長を有するレーザ光が第1端面3a及び第2端面3bの一方の端面から出射される。前者の場合には、第1端面3a及び第2端面3bの両方からレーザ光が出射される。
【0041】
量子カスケードレーザ素子1は、量子カスケードレーザ素子1を駆動する駆動部と共に、量子カスケードレーザ装置を構成し得る。駆動部は、第1電極6及び第2電極7に電気的に接続される。駆動部は、例えば、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動するパルス駆動部である。
[量子カスケードレーザ素子の製造方法]
【0042】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法について、図3図6を参照しつつ説明する。まず、図3(a)に示されるように、第1主面200a及び第2主面200bを有する半導体ウェハ200を用意し、半導体ウェハ200の第1主面200a上に半導体層300を形成する。半導体ウェハ200は、例えばSドープInP単結晶(100)ウェハである。図示は省略されているが、半導体ウェハ200は、各々が半導体基板2となる複数の部分を含んでおり、後述するように後工程においてラインLに沿って劈開される。同様に、半導体層300は、各々が半導体積層体3となる複数の部分を含んでいる。半導体層300は、例えば、MO-CVDによって各層(すなわち、下部クラッド層32、下部ガイド層、活性層31、上部ガイド層、上部クラッド層33及びコンタクト層の各々となる層)をエピタキシャル成長させることで形成される。
【0043】
続いて、図3(b)に示されるように、半導体層300のうちリッジ部30となる部分上に誘電体膜100を形成し、誘電体膜100をマスクとして、半導体層300を下部クラッド層32に至るまでドライエッチングする。誘電体膜100は、例えば、SiN膜又はSiO膜からなる。誘電体膜100は、例えばフォトリソグラフィ及びエッチングにより、図3(b)に示される形状にパターニングされる。X軸方向における誘電体膜100の幅は、例えば10μm程度である。
【0044】
続いて、図4(a)に示されるように、誘電体膜100をマスクとして半導体層300をウェットエッチングする。これにより、半導体層300にリッジ部30が形成される。
【0045】
続いて、図4(b)に示されるように、半導体層300上に埋め込み層400を形成する。埋め込み層400は、各々が埋め込み層4となる複数の部分を含んでいる。埋め込み層400は、例えば、MO-CVDによる結晶成長により形成される。誘電体膜100がマスクとして機能することで、誘電体膜100上には埋め込み層400が形成されない。埋め込み層400の形成工程においては、埋め込み層4の第1部分41に第1傾斜面43及び第2傾斜面44が形成されるように(第1部分41に第1傾斜面43及び第2傾斜面44が形成される条件で)、埋め込み層400を形成する。なお、埋め込み層400の結晶成長後に、第1傾斜面43及び第2傾斜面44が形成されるように第1部分41を加工してもよい。
【0046】
続いて、図5(a)に示されるように、誘電体膜100をエッチングにより除去し、埋め込み層400上に誘電体層500を形成する。誘電体層500は、各々が誘電体層5となる複数の部分を含んでいる。誘電体層500は、例えばフォトリソグラフィ及びエッチングにより、図5(a)に示される形状にパターニングされる。これにより、誘電体層500には開口5a(コンタクトホール)が形成される。
【0047】
続いて、図5(b)に示されるように、リッジ部30の頂面30a上、並びに埋め込み層4の第1部分41及び第2部分42上にわたって金属層610を形成する。続いて、図6(a)に示されるように、メッキにより、金属層610上にメッキ層620を形成する。金属層610は、各々が金属層61となる複数の部分を含んでおり、メッキ層620は、各々がメッキ層62となる複数の部分を含んでいる。金属層610は、例えば、50nm程度の厚さを有するTiと300nm程度の厚さを有するAuをこの順序でスパッタ又は蒸着することで形成される。ラインL上の金属層610は、メッキ層620の形成後に、例えばエッチングにより除去される。ラインLは、量子カスケードレーザ素子1となる複数の部分同士の間を仕切る劈開予定ラインである。
【0048】
続いて、図6(b)に示されるように、半導体ウェハ200の第2主面200bを研磨することにより、半導体ウェハ200を薄化する。続いて、半導体ウェハ200の第2主面200b上に電極層700を形成する。電極層700は、各々が第2電極7となる複数の部分を含んでいる。電極層700には、合金熱処理が施されてもよい。続いて、ラインLに沿って半導体ウェハ200及び半導体層300を劈開させる。これにより、複数の量子カスケードレーザ素子1が得られる。
【0049】
図7及び図8では、上述した製造方法により製造された量子カスケードレーザ素子1の例が、光導波方向Aに垂直な断面の写真により示されている。図7及び図8では、リッジ部30の側面30bが破線により示されている。いずれの例においても、第1部分41におけるリッジ部30とは反対側の表面41bは、第1傾斜面43と、第2傾斜面44と、を有している。第1傾斜面43は、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の側面30bから離れるように、リッジ部30の側面30bに対して傾斜している。第2傾斜面44は、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の中心線CLに近づくように、中心線CLに対して傾斜している。
[作用及び効果]
【0050】
量子カスケードレーザ素子1では、リッジ部30の側面30b上に形成された第1部分41、及び、第1部分41における第2の側S2の縁部からX軸方向(半導体基板2の幅方向)に沿って延在する第2部分42を有する埋め込み層4が設けられている。これにより、活性層31で生じる熱を効果的に放熱することができる。また、リッジ部30の側面30bに形成された第1部分41上に金属層61が形成されている。これにより、基本モードの損失を抑制しつつ、高次モードの発振を抑制することができる。また、第1部分41におけるリッジ部30とは反対側の表面41bが、半導体基板2から離れるにつれて(第1の側S1に向かうにつれて)リッジ部30の側面30bから離れるように傾斜した第1傾斜面43と、第1傾斜面43に対して第1の側S1に位置し、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の中心線CLに近づくように傾斜した第2傾斜面44と、を有し、金属層61が、第1傾斜面43及び第2傾斜面44上にわたって延在している。これにより、基本モードの損失を抑制しつつ高次モードの発振を抑制することができるとの上記効果が顕著に奏される。よって、量子カスケードレーザ素子1によれば、放熱性の向上及び高次モードの発振の抑制を図ることができる。
【0051】
ここで、図9及び図10を参照しつつ、高次横モードの発振抑制効果について更に説明する。図9は、リッジ部30の中心をX軸の原点として、半導体基板2の幅方向における電界強度分布を示している。基本モードM0の強度分布が実線で示され、1次モードM1の強度分布が二点鎖線で示されている。図9に示されるように、基本モードM0の光は、リッジ部30の中心付近に強度のピークを有しており、1次モードM1の光は、リッジ部30の中心の両側に強度のピークを有している。
【0052】
図10(a)は、光導波方向Aから見た場合の基本モードM0の広がりを示す図であり、図10(b)は、光導波方向Aから見た場合の1次モードM1の広がりを示す図である。図10(a)及び図10(b)に示されるように、基本モードM0及び1次モードM1の各々は、長軸がZ軸方向に沿った略楕円状の広がりを有している。上述したとおり、光を吸収し易い金属層61が第1部分41上に形成されていることで、基本モードM0の光の損失を抑制しつつ(基本モードM0の光をリッジ部30内に閉じ込めつつ)、1次モードM1の光の発振を抑制することができる。また、金属層61が第1傾斜面43及び第2傾斜面44上に形成されていることで、基本モードM0の損失を抑制しつつ1次モードM1の発振を抑制することができるとの効果が顕著に奏される。
【0053】
第2傾斜面44が、半導体基板2から離れるにつれてリッジ部30の側面30bに近づくように、リッジ部30の側面30bに対して傾斜している。これにより、基本モードの損失を抑制しつつ高次モードの発振を抑制することができるとの上記効果が一層顕著に奏される。
【0054】
リッジ部30の側面30bが、光導波方向A(Y軸方向)から見た場合に、半導体基板2から離れるにつれて中心線CLに近づくように、中心線CLに対して傾斜している。これにより、基本モードの損失を抑制しつつ高次モードの発振を抑制することができるとの上記効果がより一層顕著に奏される。
【0055】
X軸方向から見た場合に、第1傾斜面43上の金属層61の一部が、活性層31と重なっている。これにより、高次モードの発振を効果的に抑制することができる。
【0056】
Z軸方向において、第2部分42における第1の側S1(半導体基板2とは反対側)の表面42aが、活性層31における第1の側S1の表面31aと第2の側S2(半導体基板2側)の表面31bとの間に位置している。これにより、放熱性を一層向上することができる。
【0057】
第1部分41の厚さT1が、第2部分42の厚さT2よりも薄い。これにより、放熱性の向上及び高次モードの発振の抑制の双方をバランス良く実現することができる。
【0058】
Z軸方向において、第1部分41が、リッジ部30の頂面30aから第1の側S1に突出している。これにより、例えば、埋め込み層4を成長させて形成する際に、リッジ部30の頂面30aからの第1部分41の突出量に基づいて、埋め込み層4の成長の度合いを把握することができる。また、メッキ層62に対するアンカー効果(噛み込みによる電極の浮きの防止)により、第1電極6の安定性を向上することができる。また、例えばメッキ層62が平坦化された構成においては、メッキ層62のうちZ軸方向においてリッジ部30上に位置する部分にワイヤボールを介してワイヤを接続することで、ワイヤボールにより放熱性を向上することができる。このような構成においては、リッジ部30の頂面30a上には誘電体層5が形成されていないが、第1部分41が頂面30aから突出していることで、突出部によるアンカー効果により、メッキ層62の浮き(剥がれ)を抑制することができる。
[変形例]
【0059】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。活性層31には、公知の他の量子カスケード構造を適用することができる。半導体積層体3には、公知の他の積層構造を適用することができる。一例として、半導体積層体3において、上部ガイド層は、分布帰還構造として機能する回折格子構造を有していなくてもよい。
【0060】
Y軸方向における金属層61の外縁は、埋め込み層4及び誘電体層5の外縁に至っていてもよい。この場合、第1端面3a及び第2端面3bでの放熱性を向上することができる。リッジ部30の各側面30bは、中心線CLと平行に延在していてもよい。金属層61(第1電極6)は、リッジ部30の頂面30a及び第1部分41上のみに形成されていてもよく、第2部分42上には形成されていなくてもよい。金属層61は、互いに分離された複数の部分を含んで構成されていてもよい。例えば、第1部分41上の金属層61が、第2部分42上の金属層61から分離して設けられていてもよい。
【0061】
メッキ層62が設けられず、金属層61のみによって第1電極6が構成されていてもよい。この場合、ワイヤ8は、金属層61における第1の側S1の表面に接続されていてもよい。上記実施形態では、第2部分42の内側部分46が誘電体層5から露出し、金属層61が内側部分46に接触していたが、第2部分42の一部が誘電体層5から露出し、金属層61が当該一部において第2部分42に接触していればよい。第1傾斜面43は、リッジ部30の側面30bに対して傾斜していればよく、中心線CLと平行に延在していてもよい。第2傾斜面44は、中心線CLに対して傾斜していればよく、リッジ部30の側面30bと平行に延在していてもよい。上記実施形態では、メッキ層62の表面62aがリッジ部30の頂面30aよりも第2の側S2に位置していたが、表面62aは、頂面30aよりも第1の側S1に位置していてもよい。表面62aが頂面30aよりも第1の側S1に位置するようにメッキ層62がメッキにより形成された後に、表面62aが研磨によって平坦化されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…量子カスケードレーザ素子、2…半導体基板、3…半導体積層体、4…埋め込み層、5…誘電体層、30…リッジ部、30a…頂面、30b…側面、31…活性層、31a,31b…表面、41…第1部分、41a…縁部、41b…表面、42…第2部分、42a…表面、43…第1傾斜面、44…第2傾斜面、61…金属層、A…光導波方向、CL…中心線。
図1
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