(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】コンパクト容器
(51)【国際特許分類】
A45D 33/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
A45D33/00 610Z
(21)【出願番号】P 2020094456
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】前田 信也
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-335353(JP,A)
【文献】特開平09-104477(JP,A)
【文献】特開2003-339428(JP,A)
【文献】特開2008-136629(JP,A)
【文献】米国特許第05199451(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0130895(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の容器本体及び蓋体を備え、該蓋体が該容器本体に揺動可能に支持されるコンパクト容器であって、
前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方に連結する弾性壁部と、
前記容器本体及び前記蓋体の何れか他方に設けられ、閉蓋時には前記弾性壁部に対して非接触であって、該容器本体に対して該蓋体を開蓋方向に揺動させると該弾性壁部に接触して該弾性壁部を撓ませる接触部と、を備え、
前記接触部は、前記弾性壁部の一端部から他端部に向かう向きを長さ方向とする場合において、該接触部の長さ方向中間部が該接触部の長さ方向両端部よりも突出した円弧状であるコンパクト容器。
【請求項2】
前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方を切り欠いて
該容器本体に対して該蓋体を開蓋させた際に前記接触部に接触する部位を弾性変形可能とする切り欠き部を備え、該隣接する部位を前記弾性壁部として機能させた請求項1に記載のコンパクト容器。
【請求項3】
前記弾性壁部は、一端部と他端部の両方が前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方に連結する請求項1又は2に記載のコンパクト容器。
【請求項4】
前記弾性壁部及び前記接触部の少なくとも一方は、滑り止め面を備える請求項1~
3の何れか一項に記載のコンパクト容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパクト容器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば粉体の化粧料を固形化したプレストパウダーの如き固形内容物を携帯する際に使用される容器として、固形内容物を収めた中皿が収容される容器本体と、軸部によって容器本体に対して揺動可能に支持される蓋体とを備えるコンパクト容器が既知である。
【0003】
このようなコンパクト容器においては、従来、軸部として主に金属製のものが使用されていたが、特許文献1に示されているように合成樹脂製のものを採用することも検討されている。このような樹脂製の軸部を採用する場合は、廃棄時に分別の手間を省くことができるうえ、樹脂製品としてリサイクルもしやすいため、環境面でも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでコンパクト容器の中には、蓋体の揺動を途中で止めたときにその時の角度で蓋体が保持されるフリーストップ機能を備えるものがある。従来、フリーストップ機能を発揮させる構成としては、軸部として金属製のスプリングピンを使用し、スプリングピンの弾性力でもって軸部を挿通させる穴との間で摩擦力を生じさせるものが知られている。しかし、このようなスプリングピンに替えて樹脂製の軸部を使用したとしても、スプリングピンと同等の弾性力を得ることは難しく、フリーストップ機能を十分に発揮させることは困難であった。また、弾性力を高めるために樹脂製の軸部の周囲にエラストマー等を巻き付けることも考えられるが、常時圧力が作用するためにエラストマー等が潰れて弾性力が弱くなり、フリーストップ機能が次第に低下することが想定される。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決することを課題とするものであって、金属製のスプリングピンを使用せずとも十分なフリーストップ機能を発揮させることが可能なコンパクト容器を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、合成樹脂製の容器本体及び蓋体を備え、該蓋体が該容器本体に揺動可能に支持されるコンパクト容器であって、
前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方に連結する弾性壁部と、
前記容器本体及び前記蓋体の何れか他方に設けられ、閉蓋時には前記弾性壁部に対して非接触であって、該容器本体に対して該蓋体を開蓋方向に揺動させると該弾性壁部に接触して該弾性壁部を撓ませる接触部と、を備え、
前記接触部は、前記弾性壁部の一端部から他端部に向かう向きを長さ方向とする場合において、該接触部の長さ方向中間部が該接触部の長さ方向両端部よりも突出した円弧状であるコンパクト容器である。
【0008】
前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方を切り欠いて該容器本体に対して該蓋体を開蓋させた際に前記接触部に接触する部位を弾性変形可能とする切り欠き部を備え、該隣接する部位を前記弾性壁部として機能させることが好ましい。
【0009】
前記弾性壁部は、一端部と他端部の両方が前記容器本体及び前記蓋体の何れか一方に連結することが好ましい。
【0012】
前記弾性壁部及び前記接触部の少なくとも一方は、滑り止め面を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコンパクト容器によれば、容器に対して蓋体を開蓋方向に揺動させると、接触部が弾性壁部に接触してこれを撓ませる結果、接触部に弾性力が作用するため、フリーストップ機能を発揮させることができる。また閉蓋時は、弾性壁部に対して接触部が非接触であるため、弾性壁部に力が常時作用してこれが変形したままになる不具合が防止され、フリーストップ機能の低下を抑制することができる。また金属製のスプリングピンが不要となるため、リサイクル性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るコンパクト容器の一実施形態に関し、(a)は側面視の断面図であり、(b)は底面図である。
【
図2】(a)は
図1に示したコンパクト容器の正面図であり、(b)はその背面図である。
【
図3】蓋体を揺動させて接触部が弾性壁部に接触した状態を示す図である。
【
図4】蓋体を完全に開いた状態を示す、(a)は側面視での部分拡大断面図であり、(b)は部分拡大底面図である。
【
図5】
図1に示したコンパクト容器の変形例に関し、(a)は側面視の断面図であり、(b)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明に係るコンパクト容器の一実施形態について説明する。なお、本明細書等における「上」、「下」とは、基本的には容器本体(符合1)の底壁部(符合1b)が水平面に載置される状態での向き(
図1(a)に示す向き)である。また「前」は、閉蓋時において蓋体本体(符合3)の爪部(符合3f)が位置する側であり、「後」とは、その逆側である。また「左」、「右」とは、前方から後方に向かって見る際の左右方向である。
【0016】
図1、
図2は、本発明に係るコンパクト容器の一実施形態を示している。本実施形態のコンパクト容器100は、粉体の化粧料を固形化したプレストパウダーの如き固形内容物を携帯する際に使用される。コンパクト容器100は、容器本体1と、蓋体2(蓋体本体3、鏡4で構成される)と、軸体5を備えている。容器本体1には、固形内容物が収められた不図示の中皿の他、固形内容物を塗布する際に使用される塗布具6が収容される。
【0017】
容器本体1は、比較的硬質の合成樹脂(例えばアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂)で形成されている。容器本体1は、
図1(b)に示すように、底面視において略矩形状であって、後部中央部を前方に向けて凹ませた凹部1aを備える底壁部1bを備えている。
図1(a)に示すように底壁部1bの上面には、底壁部1bの周囲を取り囲む本体周壁部1cと、本体周壁部1cの内側を複数に区画する区画壁部1dが設けられていて、区画壁部1dで区切られた空間には、塗布具6や不図示の中皿等が収容される。
【0018】
図1(a)に示すように容器本体1の前部には、本体周壁部1cの上端部から前方に向けて突出して蓋体2を閉蓋した状態で保持するための本体爪部1eが設けられている。
【0019】
容器本体1の後部には、容器本体1を切り欠く第一切り欠き部1fと第二切り欠き部1gが設けられている。第一切り欠き部1fと第二切り欠き部1gは、凹部1aの前方における底壁部1bと本体周壁部1cとの連結部を切り欠いて、隣接する部位を弾性変形可能とするものである。第一切り欠き部1fは、左右方向及び上下方向に延在し、第二切り欠き部1gは、左右方向及び前後方向に延在して第一切り欠き部1fにつながっていて、これらに隣接する凹部1aの前方に、前後方向の厚みが薄い薄板状であって一端部1hと他端部1jが容器本体1に連結する弾性壁部1kを形成している。
【0020】
また容器本体1の後部において、凹部1aの左右方向両側には、
図1(a)、(b)に示すように中心軸Oを中心とする円形の容器側軸穴1mが設けられている。
【0021】
蓋体本体3は、閉蓋時において容器本体1の上面を覆うように形作られている。蓋体本体3も、比較的硬質の合成樹脂によって形成されている。蓋体本体3は、板状の天壁部3aと、天壁部3aの周囲を取り囲む蓋体周壁部3bと、天壁部3aを凹ませた段差部3cとを備えている。蓋体周壁部3bの後部(容器本体1の上面を蓋体本体3で覆うように閉蓋した際の後部)は、凹部1aに収まるように下方に向けて延在している。以下、蓋体周壁部3bの後部を延出部3b1と称する。
【0022】
延出部3b1における左右の側面には、
図1(a)、(b)に示すように容器側軸穴1mの中心軸Oと同心になる円形の蓋体側軸孔3dが設けられている。また延出部3b1には、中心軸Oの直下から後方にかけて延在し、横断面形状が中心軸Oと同心の円弧状になる膨出部3eが設けられている。膨出部3eは、左右方向の長さが弾性壁部1kと同程度である。また膨出部3eにおける長手方向の形状は、
図1(b)に示すように、左右方向の中間部(本実施形態では膨出部3eの左右方向中央部)が左右方向の両端部よりも突出した円弧状である。膨出部3eは、蓋体本体3が閉蓋している状態では弾性壁部1kに対して非接触である一方、後述するように蓋体本体3を開蓋方向に揺動させると弾性壁部1kに接触する部位である。なお膨出部3eは、本明細書等で「接触部」と称する部位に相当する。
【0023】
また蓋体本体3は、閉蓋時における前部において、
図1(a)に示す如き蓋体爪部3fを備えている。図示したように蓋体爪部3fは、閉蓋時において本体爪部1eに係合するものである。
【0024】
鏡4は、板状をなすとともに平面視で矩形状になるように形作られていて、段差部3cに取り付けられる。鏡4は、合成樹脂(例えばアクリル(PMMA)樹脂やポリカーボネート(PC)樹脂)で形成された板状の基材にアルミニウム等の金属を蒸着することや、この基材に鏡面性を有するシールを貼着することにより形成される。
【0025】
軸体5は、円柱状に形作られていて、容器側軸穴1mと蓋体側軸孔3dに挿通される。なお、容器側軸穴1mと蓋体側軸孔3dの何れか一方は、軸体5を嵌合保持するものであり、何れか他方は、軸体5に対して摺動するものであって、これにより蓋体2は、容器本体1に対して揺動可能に支持されている。軸体5は、種々の合成樹脂で形成することが可能であるが、例えばポリアセタール(POM)樹脂やポリアミド(PA)樹脂のように低摩耗性となるものが好ましい。
【0026】
このような部材で構成されるコンパクト容器100は、スプリングピンを使用していた従来のコンパクト容器と同様にして組み立てることができ、また部材数も変わらないため、従来と同様に良好に組み立てることができる。また容器本体1に設けた弾性壁部1kは、閉蓋時において、延出部3b1によって外側から直接視認されることがなく(
図2(b)参照)、また第一切り欠き部1fと第二切り欠き部1gは、その上方に位置する本体周壁部1cによって開蓋時でも直接視認されることがないため、見栄えの点で優れている。また、従来使用していた金属製のスプリングピンを使用せず、更に鏡4は合成樹脂製であるため、コンパクト容器100を廃棄する際は、合成樹脂製の部材とその他の素材で形成された部材に分別する必要がなく、リサイクル性に優れる。
【0027】
また本実施形態のコンパクト容器100は、閉蓋時においては、
図1に示すように蓋体爪部3fが本体爪部1eに係合するため、蓋体2を閉蓋した状態で維持することができる。このため、コンパクト容器100を持ち運ぶ際にも、収容した塗布具6や不図示の中皿がコンパクト容器100の外側に飛び出すことがない。そしてこの状態においては、
図1(a)に示すように、延出部3b1と弾性壁部1kとの間には隙間があって、弾性壁部1kは非接触状態となっている。すなわち、弾性壁部1kに力は作用していないため、弾性壁部1kが変形したままになる不具合が防止される。
【0028】
一方、塗布具6を取り出して中皿に収容した固形内容物を塗布するにあたっては、蓋体周壁部3bの前部に指をかけて蓋体2を引き上げる。これにより蓋体爪部3fと本体爪部1eとの係合が解除されるため、蓋体2を開蓋させることができる。
【0029】
蓋体2を開蓋方向に揺動させていくと、
図3に示すように、膨出部3eが弾性壁部1kに接触して弾性壁部1kが撓み始める。これにより弾性壁部1kの弾性力が膨出部3eに作用して両者の間に摩擦力が生じるため、蓋体2をその時の角度で保持することができる。従って、蓋体2の内側に設けられている鏡4を見えやすい角度に維持した状態で化粧等を行うことができる。なお本実施形態のコンパクト容器100では、
図4示すように、閉蓋時から180度回転するまで蓋体2を開くことができる。
【0030】
ところで弾性壁部1kは、その中間部は前方に向けて撓むものの、一端部1hと他端部1jでは殆ど撓むことがない。このため、弾性壁部1kに接触するものが一端部1hと他端部1jに強く押し当たると、弾性壁部1kが破損してしまうおそれがある。これに対して本実施形態における膨出部3eの長手方向の形状は、左右方向中央部が左右方向両端部よりも突出した円弧状であって、弾性壁部1kが自然に撓んだ際の形状に近いため(
図4(b)参照)、弾性壁部1kの破損を防止することができる。
【0031】
なお弾性壁部1kの破損を防止するにあたっては、
図5に示すような膨出部3e’を採用してもよい。膨出部3e’は、横断面形状は膨出部3eと同一であって、左右方向に直線状に延在する(左右方向の何れの位置でも横断面形状は同一である)とともに、弾性壁部1kにおける一端部1hと他端部1jとの中間(本実施形態では弾性壁部1kの中央)に位置している。膨出部3e’も、一端部1hと他端部1jには強く押し当たることがないため、弾性壁部1kの破損を防止することができる。
【0032】
弾性壁部1kと膨出部3eの外面は平滑面であってもよいが、何れか一方、又は両方を滑り止め面とすることが好ましい。ここで滑り止め面とは、弾性壁部1kと膨出部3eとの摩擦力が高まる処理を施した面である。このような滑り止め面を設けるにあたっては、例えば容器本体1や蓋体本体3を形成する金型にシボ加工を行って弾性壁部1kや膨出部3eの外面に細かい凹凸を施してもよいし、金型に彫刻を施してこれらの外面に比較的高さの大きな凹凸を設けてよい。また弾性壁部1kや膨出部3eに対して、摩擦力を高めることができる表面処理(例えば塗装)を施してもよい。
【0033】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0034】
例えば本実施形態では、第一切り欠き部1fと第二切り欠き部1gによって弾性壁部1kを形成したが、第一切り欠き部1fを上方に延ばして容器本体1を上下方向に貫通し、第一切り欠き部1fのみで弾性壁部1kを形成してもよい、また弾性壁部1kは、一端部1hと他端部1jの両方が容器本体1に連結するものに限られず、何れか一方だけが連結していて片持ち支持されるように構成してもよい。更に弾性壁部1kは、容器本体1と一体的に形成されるものに限られず、例えば別異に形成したものを容器本体1に嵌め込むようにしてもよい。そして、容器本体1に設けた弾性壁部1kと蓋体本体3に設けた膨出部3eを入れ替えるように構成し、容器本体1に膨出部(接触部)を設け、蓋体本体3に弾性壁部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1:容器本体
1a:凹部
1b:底壁部
1c:本体周壁部
1d:区画壁部
1e:本体爪部
1f:第一切り欠き部(切り欠き部)
1g:第二切り欠き部(切り欠き部)
1h:一端部
1j:他端部
1k:弾性壁部
1m:容器側軸穴
2:蓋体
3:蓋体本体
3a:天壁部
3b:蓋体周壁部
3b1:延出部
3c:段差部
3d:蓋体側軸孔
3e:膨出部(接触部)
3e’:膨出部(接触部)
3f:蓋体爪部
4:鏡
5:軸体
6:塗布具
100:コンパクト容器
O:中心軸