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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240118BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240118BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240118BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020105198
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021195088
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝文
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-099011(JP,A)
【文献】国際公開第2019/052651(WO,A1)
【文献】特開2004-231085(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0200770(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0028306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されるとともに車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトと、
前記転舵輪を転舵させるべく前記転舵シャフトに付与されるトルクである転舵力を発生する転舵モータと、
前記ステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータと、
前記転舵モータおよび前記反力モータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、車両の電源がオンされた後、車両の発進および前記ステアリングホイールの操舵のうち少なくとも一方が初めて行われた場合、前記ステアリングホイールの回転位置が前記転舵輪の転舵位置に対応する回転位置と異なる位置であるとき、前記転舵モータを通じて前記転舵輪の転舵位置を前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ補正するための処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、車両の電源がオンされた場合、前記ステアリングホイールの回転位置が前記転舵輪の転舵位置に対応する正しい回転位置と異なる位置であるとき、前記正しい回転位置に対する前記ステアリングホイールの回転位置のずれ量を減少させるべく前記反力モータを通じて前記ステアリングホイールを回転させる補正処理を実行する機能を有し、
前記制御装置は、車両の電源がオンされた場合、前記ずれ量が定められた許容量以上であるときには前記補正処理を実行する一方、前記ずれ量が前記許容量未満であるときには前記補正処理を実行しないで前記転舵輪の転舵位置を前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ補正するための処理を実行する操舵装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記転舵輪の転舵位置を前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ補正するための処理として、前記転舵輪の転舵位置が前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ向けて徐々に変化するように前記転舵モータを制御する請求項1に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータを有する反力機構と、転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有する転舵機構とを備えている。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置では、ステアリングホイールが転舵機構からの制約を受けない。このため、車両の電源がオフされている状態でステアリングホイールに何らかの外力が加わった際、ステアリングホイールが回転するおそれがある。このとき、転舵輪は動作しないため、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状況が生じる。ちなみに、舵角比とは、ステアリングホイールの操舵角と転舵輪の転舵角との比をいう。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1の操舵装置では、車両の電源がオンされたとき、ステアリングホイールの回転位置の補正処理が実行される。操舵装置の制御装置は、車両の電源がオフされたときのステアリングホイールの回転位置を記憶している。制御装置は、車両の電源がオフされたときのステアリングホイールの回転位置と車両の電源がオンされたときのステアリングホイールの回転位置との比較を通じてステアリングホイールの回転位置のずれ量を演算し、このずれ量が0(零)になるように反力モータを駆動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-321434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の操舵装置によれば、確かにステアリングホイールと転舵輪との位置関係のずれが改善される。しかし、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係を補正するために、車両の電源がオンされるタイミングでステアリングホイールが自動的に回転する。このステアリングホイールの自動回転に対して運転者が違和感を覚えるおそれがある。また、運転者は車両の電源をオンしてからステアリングホイールの回転位置の補正処理が完了するまでの期間、車両を発進させることができない。このため、運転者がストレスを感じるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係の補正処理に対する運転者の違和感あるいはストレスを軽減することができる操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得る操舵装置は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されるとともに車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトと、前記転舵輪を転舵させるべく前記転舵シャフトに付与されるトルクである転舵力を発生する転舵モータと、前記転舵モータを制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、車両の電源がオンされた後、車両の発進および前記ステアリングホイールの操舵のうち少なくとも一方が初めて行われた場合、前記ステアリングホイールの回転位置が前記転舵輪の転舵位置に対応する回転位置と異なる位置であるとき、前記転舵モータを通じて前記転舵輪の転舵位置を前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ補正するための処理を実行する。
【0009】
この構成によれば、車両の電源がオンされた後、車両の発進時およびステアリングホイールの操舵のうち少なくとも一方が初めて行われるタイミングで転舵輪の転舵位置がステアリングホイールの回転位置に対応する位置に自動調節される。このため、停車状態あるいは無操舵状態で転舵位置の自動調節が行われる場合と比べて、転舵輪の転舵位置の自動調節動作に対する運転者の違和感あるいはストレスが軽減される。
【0010】
上記の操舵装置において、前記ステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータと、を備えていてもよい。この場合、前記制御装置は、車両の電源がオンされた場合、前記ステアリングホイールの回転位置が前記転舵輪の転舵位置に対応する正しい回転位置と異なる位置であるとき、前記正しい回転位置に対する前記ステアリングホイールの回転位置のずれ量を減少させるべく前記反力モータを通じて前記ステアリングホイールを回転させる補正処理を実行する機能を有していてもよい。この機能を有する場合、前記制御装置は、車両の電源がオンされた場合、前記ずれ量が定められた許容量以上であるときには前記補正処理を実行する一方、前記ずれ量が前記許容量未満であるときには前記補正処理を実行しないで前記転舵輪の転舵位置を前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ補正するための処理を実行するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、車両の電源がオンされた場合、転舵輪の転舵位置に対するステアリングホイールの回転位置のずれ量が定められた許容量以上であるとき、ステアリングホイールの回転位置の補正処理が実行される。この補正処理の実行を通じて、ステアリングホイールの回転位置のずれ量が減少される。このため、運転者に与える違和感を抑えつつ、車両を発進させることができる。
【0012】
また、車両の電源がオンされた場合、転舵輪の転舵位置に対するステアリングホイールの回転位置のずれ量が定められた許容量未満であるとき、ステアリングホイールの回転位置の補正処理が実行されない。車両の発進時およびステアリングホイールの操舵のうち少なくとも一方が初めて行われるタイミングで転舵輪の転舵位置がステアリングホイールの回転位置に対応する位置に自動調節される。車両の電源がオンされるタイミングでステアリングホイールが自動的に回転することがないため、運転者が違和感を覚えることがない。また、運転者はステアリングホイールの回転位置の補正処理の完了を待つ必要もない。したがって、運転者がストレスを感じることもない。
【0013】
上記の操舵装置において、前記制御装置は、前記転舵輪の転舵位置を前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ補正するための処理として、前記転舵輪の転舵位置が前記ステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ向けて徐々に変化するように前記転舵モータを制御するようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、転舵輪の転舵位置はステアリングホイールの回転位置に対応する位置へ向けて徐々に変化する。転舵輪の急激な動作が抑制されるため、運転者は違和感を覚えにくい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の操舵装置によれば、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係の補正処理に対する運転者の違和感あるいはストレスを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】操舵装置の一実施の形態を示す構成図。
図2】一実施の形態の反力制御部による同期制御の処理手順を示すフローチャート。
図3】(a),(b)は、一実施の形態における車両の電源がオンされたときのステアリングホイールの回転位置の変化の第1の例を示す正面図。
図4】(a),(b)は、一実施の形態における車両の電源がオンされたときのステアリングホイールの回転位置の変化の第2の例を示す正面図。
図5】一実施の形態における転舵制御部の構成を示すブロック図。
図6】(a)は一実施の形態の反力制御部による同期制御の実行完了を示すフラグのオンオフ状態を示すタイミングチャート、(b)は一実施の形態における目標ピニオン角とピニオン角との角度差の経時的な変化を示すタイミングチャート、(c)は一実施の形態におけるゲインの経時的な変化を示すタイミングチャート、(d)は一実施の形態における目標ピニオン角とピニオン角との角度差に対するリリース量の経時的な変化を示すタイミングチャート、(e)は一実施の形態の反力制御部による同期制御の実行完了時の目標ピニオン角およびピニオン角を示すタイミングチャート、(f)は最終的な目標ピニオン角の経時的な変化を示すタイミングチャート。
図7】一実施の形態の転舵制御部による同期制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、操舵装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、車両のステアリングホイール11に操舵反力を付与する反力ユニット20、および車両の転舵輪12,12を転舵させる転舵ユニット30を有している。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクをいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0018】
反力ユニット20は、ステアリングホイール11が連結されたステアリングシャフト21、反力モータ22、減速機構23、回転角センサ24、トルクセンサ25、および反力制御部27を有している。
【0019】
反力モータ22は、操舵反力の発生源である。反力モータ22としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ22は、減速機構23を介して、ステアリングシャフト21に連結されている。反力モータ22が発生するトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト21に付与される。
【0020】
回転角センサ24は反力モータ22に設けられている。回転角センサ24は反力モータ22の回転角θを検出する。
トルクセンサ25は、ステアリングシャフト21における減速機構23とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。トルクセンサ25は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト21に加わる操舵トルクTを検出する。
【0021】
反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θに基づきステアリングシャフト21の回転角である操舵角θを演算する。反力制御部27は、ステアリングホイール11の操舵中立位置に対応する反力モータ22の回転角θであるモータ中点を基準として反力モータ22の回転数をカウントしている。反力制御部27は、モータ中点を原点として回転角θを積算した角度である積算角を演算し、この演算される積算角に減速機構23の減速比に基づく換算係数を乗算することにより、ステアリングホイール11の操舵角θを演算する。ちなみに、モータ中点は舵角中点情報として反力制御部27に記憶されている。
【0022】
反力制御部27は、反力モータ22の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。反力制御部27は、トルクセンサ25を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力および操舵トルクTに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。反力制御部27は、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θと目標操舵角との差を求め、当該差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。反力制御部27は、回転角センサ24を通じて検出される反力モータ22の回転角θを使用して反力モータ22をベクトル制御する。
【0023】
転舵ユニット30は、転舵シャフト31、転舵モータ32、減速機構33、ピニオンシャフト34、回転角センサ35、および転舵制御部36を有している。
転舵シャフト31は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びている。転舵シャフト31の両端には、それぞれタイロッド13,13を介して左右の転舵輪12,12が連結されている。
【0024】
転舵モータ32は転舵力の発生源である。転舵モータ32としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ32は、減速機構33を介してピニオンシャフト34に連結されている。ピニオンシャフト34のピニオン歯34aは、転舵シャフト31のラック歯31aに噛み合わされている。転舵モータ32が発生するトルクは、転舵力としてピニオンシャフト34を介して転舵シャフト31に付与される。転舵モータ32の回転に応じて、転舵シャフト31は車幅方向(図1中の左右方向)に沿って移動する。転舵シャフト31が移動することにより転舵輪12,12の転舵角θが変更される。
【0025】
回転角センサ35は転舵モータ32に設けられている。回転角センサ35は転舵モータ32の回転角θを検出する。
転舵制御部36は、転舵モータ32の駆動制御を通じて転舵輪12,12を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θに基づきピニオンシャフト34の回転角であるピニオン角θを演算する。また、転舵制御部36は、反力制御部27により演算される目標操舵角あるいは操舵角θを使用してピニオン角θの目標値である目標ピニオン角を演算する。ただし、目標ピニオン角は、所定の舵角比を実現する観点に基づき演算される。転舵制御部36は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの差を求め、当該差を無くすように転舵モータ32に対する給電を制御する。転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θを使用して転舵モータ32をベクトル制御する。
【0026】
ここで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置10においては、ステアリングホイール11が転舵ユニット30からの制約を受けないため、つぎのような事象が発生するおそれがある。
【0027】
すなわち、車両の電源がオンされているとき、ステアリングホイール11と転舵輪12,12とは同期する。このため、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係は、所定の舵角比に応じた位置関係に維持される。ところが、車両の電源がオフされている状態でステアリングホイール11に何らかの外力が加わった際、ステアリングホイール11が回転するおそれがある。このとき、転舵シャフト31は動作しないため、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状況が生じることが懸念される。
【0028】
このため、操舵装置10は、車両の電源が再びオンされたとき、初期動作としてステアリングホイール11の回転位置を転舵輪12,12の転舵位置に同期させる同期制御を実行する。操舵装置10は、同期制御の一例としてつぎのような処理を実行することが考えられる。
【0029】
たとえば車両の電源がオフされている期間にステアリングホイール11が反時計方向(正方向)へ向けて所定の角度だけ回転した場合、車両の電源が再びオンされたとき、反力モータ22の駆動制御を通じてステアリングホイール11を時計方向(負方向)へ向けて所定の角度だけ回転させる。これにより、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係に戻る。
【0030】
反力制御部27は、車両の電源がオンからオフへ切り替えられる際、その直前に演算される操舵角θを基準操舵角として自己の記憶装置27aに格納する。この基準操舵角は、車両の電源がオフされている期間におけるステアリングホイール11の回転の有無を判定する際の基準となる。
【0031】
反力制御部27は、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、記憶装置27aに格納された基準操舵角と、車両の電源がオンされた直後に演算される操舵角θとの比較を通じて、ステアリングホイール11の位置調節の要否を判定する。
【0032】
反力制御部27は、車両の電源がオフされる直前の操舵角θである基準操舵角と車両の電源が再びオンされた直後の操舵角θとが互いに一致しているとき、ステアリングホイール11の位置調節は不要である旨判定する。車両の電源がオフされてから車両の電源が再びオンされるまでの期間、操舵角θが変化していないため、ステアリングホイール11が回転していないことが明らかである。反力制御部27は、操舵トルクTに応じて操舵反力を発生させる通常の反力制御を実行開始する。
【0033】
反力制御部27は、車両の電源がオフされる直前の操舵角θである基準操舵角と車両の電源が再びオンされた直後の操舵角θとが互いに一致していないとき、ステアリングホイール11の位置調節を行う必要がある旨判定して、ステアリングホイール11の位置調節を実行する。反力制御部27は、たとえば基準操舵角と車両の電源がオンされた直後の操舵角θとの差を求め、当該差を無くすように反力モータ22に対する給電を制御する。具体的には、反力制御部27は、基準操舵角を操舵角θの目標値である目標操舵角として設定し、この設定される目標操舵角に操舵角θを追従させるべく操舵角θのフィードバック制御を実行する。目標操舵角と現在の操舵角θとが互いに一致すれば、ステアリングホイール11の位置調節が完了となる。
【0034】
ちなみに、反力制御部27は、基準操舵角として、つぎの値を使用してもよい。すなわち、反力制御部27は、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた直後のピニオンシャフト34の回転角であるピニオン角θを転舵制御部36から取得し、この取得されるピニオン角θに対応する操舵角θを舵角比に基づき演算する。反力制御部27は、この演算されるピニオン角θに対応する操舵角θを基準操舵角として使用する。このようにしても、ステアリングホイール11の回転位置を転舵輪12,12の転舵位置に応じた位置に補正することができる。
【0035】
しかし、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との位置関係を補正するために、車両の電源がオンされるタイミングでステアリングホイール11が自動的に回転する。このステアリングホイールの自動回転に対して運転者が違和感を覚えるおそれがある。また、運転者は車両の電源をオンしてからステアリングホイールの回転位置の補正処理が完了するまでの期間、車両を発進させることができない。このため、運転者がストレスを感じるおそれがある。
【0036】
そこで、本実施の形態では、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係の補正処理に対する運転者の違和感あるいはストレスを軽減する観点に基づき、車両の電源がオフからオンへ切り替えられたときの初期動作として、つぎのような処理を実行する。
【0037】
図2のフローチャートに示すように、反力制御部27は、まず転舵輪12,12の転舵位置に対するステアリングホイール11の回転位置のずれ量Δθを演算する(ステップS101)。ずれ量Δθは、ステアリングホイール11の回転位置を転舵輪12,12の転舵位置に応じた回転位置へ補正するために必要とされるステアリングホイール11の回転量でもある。反力制御部27は、たとえば次式(A)を使用してずれ量Δθを演算する。
【0038】
Δθ=|θs0-θ| …(A)
ただし、「θs0」は、前回、車両の電源がオフされる直前に記憶装置27aに格納された基準操舵角である。「θ」は、車両の電源がオンされた直後の操舵角である。操舵角θの符号は、たとえばステアリングホイール11の操舵中立位置(θ=0°)を基準とする右操舵方向が負、左操舵方向が正である。
【0039】
つぎに、反力制御部27は、ずれ量Δθが角度しきい値θthよりも小さい値であるかどうかを判定する(ステップS102)。角度しきい値θthは、たとえば車両の発進時に転舵輪12,12の転舵位置をステアリングホイール11の回転位置に合わせるかたちで補正する場合、運転者に違和感を与えない程度の角度を基準として設定される。また、角度しきい値θthは、ずれ量Δθに対する許容量に相当する。
【0040】
反力制御部27は、ずれ量Δθが角度しきい値θthよりも小さい値であるとき(ステップS102でYES)、フラグFの値を「1」にセットし(ステップS103)、処理を終了する。この場合、ステアリングホイール11が自動回転することはない。
【0041】
ちなみに、フラグFは、反力制御部27による初期動作が完了したかどうかを示す情報である。フラグFの初期値は「0」である。
反力制御部27は、ずれ量Δθが角度しきい値θthよりも小さい値ではないとき(ステップS102でNO)、同期制御を実行する(ステップS104)。
【0042】
同期制御は、ステアリングホイール11の回転位置を転舵輪12,12の転舵位置に対応する位置に補正するための制御である。反力制御部27は、先のステップS101で演算されたずれ量Δθを「0」にすべく反力モータ22に対する給電を制御する。より具体的には、反力制御部27は、基準操舵角θs0を目標操舵角として設定し、この設定される目標操舵角に操舵角θを追従させるべく操舵角θのフィードバック制御を実行する。操舵角θが目標操舵角に一致すれば、同期制御の実行完了となる。同期制御は、ずれ量Δθが零になるようにステアリングホイール11を回転させる補正処理に相当する。
【0043】
反力制御部27は、同期制御の実行が完了したとき、フラグFの値を「1」にセットし(ステップS103)、処理を終了する。
転舵制御部36は、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、反力制御部27によりセットされるフラグFの値が初期値である「0」から「1」へ切り替わったことを契機として、つぎの処理を実行する。
【0044】
すなわち、転舵制御部36は、反力制御部27により演算される操舵角θがピニオンシャフト34の回転角であるピニオン角θに対応した角度であるとき、目標操舵角θ または操舵角θに応じて転舵力を発生させる通常の転舵制御を実行開始する。これに対して、転舵制御部36は、反力制御部27により演算される操舵角θがピニオンシャフト34の回転角であるピニオン角θに対応した角度ではないとき、ピニオン角θを操舵角θに対応する角度に補正すべく転舵モータ32への給電を制御する。これにより、転舵輪12,12の転舵位置は、ステアリングホイール11の回転位置に対応した位置に同期される。
【0045】
つぎに、車両の電源がオンされてからステアリングホイール11の回転位置と転舵輪12,12の転舵位置とが同期するまでの期間におけるステアリングホイール11および転舵輪12,12の挙動を2つの状況に分けて説明する。
【0046】
ただし、前提として、車両の電源がオンされた直後、転舵輪12,12は車両の直進状態に対応する転舵中立位置(転舵角θ=0°)に位置している。ステアリングホイール11は、本来、車両の直進状態に対応する操舵中立位置(操舵角θ=0°)に位置すべきである。また、操舵角θと転舵角θとの比である舵角比は「1:1」、すなわち舵角比の値は「1」である。
【0047】
まず、第1の状況を説明する。
図3(a)に示すように、車両の電源がオンされた直後、ステアリングホイール11は転舵輪12,12の転舵位置に対して時計方向(負方向)へ向けて角度しきい値θthよりも小さい値を有する角度αだけ回転した位置に保持されている。すなわち、転舵輪12,12の転舵位置に対するステアリングホイール11の回転位置のずれ量Δθは角度αである。この場合、ステアリングホイール11の同期制御は実行されず、操舵装置10の状態は通常の反力制御および転舵制御が実行可能な状態へ遷移する。その後、図3(b)に示すように、転舵輪12,12の転舵位置がステアリングホイール11の回転位置に同期される。ここでは、舵角比の値が「1」であるため、転舵輪12,12が角度αだけ時計方向へ向けて転舵される。
【0048】
つぎに、第2の状況を説明する。
図4(a)に示すように、車両の電源がオンされた直後、ステアリングホイール11は転舵輪12,12の転舵位置に対して時計方向(負方向)へ向けて角度しきい値θthよりも大きい値を有する角度βだけ回転した位置に保持されている。すなわち、転舵輪12,12の転舵位置に対するステアリングホイール11の回転位置のずれ量Δθは角度βである。この場合、ステアリングホイール11の同期制御が実行される。図4(b)に示すように、同期制御の実行を通じて、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪12,12の転舵位置に同期される。ここでは、舵角比の値が「1」であるため、ステアリングホイール11がずれ量Δθである角度βだけ反時計方向へ向けて回転される。同期制御の実行が完了した後、操舵装置10の状態は通常の反力制御および転舵制御が実行可能な状態へ遷移する。
【0049】
ただし、前述した第1の状況のように、ずれ量Δθの値が角度しきい値θthよりも小さい値である場合、転舵位置の調節処理の実行に伴い、わずかながらにも転舵輪12,12が自動的に転舵する。このため、たとえば転舵位置の調節処理の実行タイミングによっては、転舵輪12,12の動作に対して運転者が違和感を覚えることが懸念される。
【0050】
そこで本実施の形態では、運転者の違和感をより軽減する観点に基づき、転舵制御部36としてつぎの構成が採用されている。
図5に示すように、転舵制御部36は、目標ピニオン角演算部41、ピニオン角演算部42、角度差演算部43、減算器44、ピニオン角フィードバック制御部45および通電制御部46を有している。
【0051】
目標ピニオン角演算部41は、反力制御部27により演算される目標操舵角θ または操舵角θに基づき目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部41は、たとえば操舵角θを所定の舵角比の値で除算することにより目標ピニオン角θ を演算する。舵角比とは、操舵角θに対する転舵角θの比である。
【0052】
ピニオン角演算部42は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θに基づき、ピニオンシャフト34の回転角であるピニオン角θを演算する。ピニオン角演算部42は、たとえば転舵モータ32の回転角θを減速機構33の減速比の値で徐算することによりピニオン角θを演算する。
【0053】
角度差演算部43は、目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ と、ピニオン角演算部42により演算されるピニオン角θとの差である角度差Δθを演算する。ただし、角度差演算部43は、車速Vおよび操舵角速度ωに応じて角度差Δθの値を補正することにより最終的な角度差Δθpfを演算する。なお、角度差演算部43については、後に詳述する。
【0054】
減算器44は、目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ と、角度差演算部43により演算される最終的な角度差Δθpfとの差を最終的な目標ピニオン角θ として演算する。
【0055】
ピニオン角フィードバック制御部45は、減算器44により演算される最終的な目標ピニオン角θ 、およびピニオン角演算部42により演算される実際のピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部45は、実際のピニオン角θを最終的な目標ピニオン角θ に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御を実行することによりピニオン角指令値T を演算する。
【0056】
通電制御部46は、ピニオン角フィードバック制御部45により演算されるピニオン角指令値T に応じた電流を転舵モータ32へ供給する。具体的には、通電制御部46は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ32に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部46は、転舵モータ32への給電経路に設けられる電流センサを通じて転舵モータ32へ供給される電流の値を検出する。通電制御部46は、電流指令値と転舵モータ32へ供給される電流の値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ32に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ32はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
【0057】
つぎに、角度差演算部43について詳細に説明する。
図5に示すように、角度差演算部43は、減算器51、前回値保持部52、スイッチ53、リリース量演算部54、および減算器55を有している。
【0058】
減算器51は、目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ と、ピニオン角演算部42により演算されるピニオン角θとの差である角度差Δθを演算する。
【0059】
前回値保持部52は、角度差演算部43において演算される最終的な角度差Δθpfを取り込み、この取り込まれる最終的な角度差Δθpfを保持する。角度差演算部43は最終的な角度差Δθpfを所定の演算周期で演算するところ、前回値保持部52に保持される最終的な角度差Δθpfは角度差演算部43において最終的な角度差Δθpfが演算される度に更新される。すなわち、前回値保持部52に保持されている最終的な角度差Δθpfは、角度差演算部43において演算される今回値としての最終的な角度差Δθpfに対する前回値(一演算周期前の最終的な角度差Δθpf)である。ちなみに、前回値保持部52に保持される値の初期値は「0」である。
【0060】
スイッチ53は、データ入力として、減算器51により演算される角度差Δθ、および前回値保持部52に保持されている最終的な角度差Δθpfを取り込む。また、スイッチ53は、制御入力として、反力制御部27によりセットされるフラグFの値を取り込む。スイッチ53は、フラグFの値に基づき、減算器51により演算される角度差Δθ、および前回値保持部52に保持されている最終的な角度差Δθpfのうちいずれか一方を選択する。スイッチ53は、フラグFの値が「0」であるとき、減算器51により演算される角度差Δθを選択する。スイッチ53は、フラグFの値が「1」であるとき(より正確には、フラグFの値が「0」ではないとき)、前回値保持部52に保持されている最終的な角度差Δθpfを選択する。
【0061】
リリース量演算部54は、リリース量θprを演算する。リリース量θprは、最終的な目標ピニオン角θ の値をピニオン角演算部42により演算されるピニオン角θの値を起点として目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ の真値へ向けて徐々に変化させるために使用される。リリース量θprは、角度差演算部43において演算される最終的な角度差Δθpfの値を「0」へ向けて徐々に変化させる際における一演算周期ごとの角度差Δθの変化量である。
【0062】
リリース量演算部54は、第1のゲイン演算部61、第2のゲイン演算部62、最大値選択部63、および乗算器64を有している。
第1のゲイン演算部61は、車速Vに基づき第1のゲインG1を演算する。第1のゲイン演算部61は、車速Vが「0」を起点として速くなるほど、より大きい値の第1のゲインG1を演算する。第1のゲイン演算部61は、車速Vが所定の車速しきい値に達した以降、車速Vにかかわらず第1のゲインG1の値を所定値(たとえば「1」)に設定する。車速しきい値は、停止している車両が発進したかどうかを判定する観点に基づき設定される。
【0063】
第2のゲイン演算部62は、操舵角速度ωに基づき第2のゲインG2を演算する。第2のゲイン演算部62は、操舵角速度ωが「0」を起点として速くなるほど、より大きい値の第2のゲインG2を演算する。第2のゲイン演算部62は、操舵角速度ωが所定の角速度しきい値に達した以降、操舵角速度ωにかかわらず第2のゲインG2の値を所定値(たとえば「1」)に設定する。ちなみに、角速度しきい値は、運転者によってステアリングホイール11が操作されたかどうかを判定する観点に基づき設定される。
【0064】
最大値選択部63は、第1のゲイン演算部61により演算される第1のゲインG1および第2のゲイン演算部62により演算される第2のゲインG2を取り込み、これら取り込まれる第1のゲインG1および第2のゲインG2のうち値の大きい方を選択する。
【0065】
乗算器64は、スイッチ53により選択される角度差Δθと、最大値選択部63により選択される第1のゲインG1または第2のゲインG2とを乗算することにより、リリース量θprを演算する。
【0066】
減算器55は、スイッチ53により選択される角度差Δθからリリース量演算部54により演算されるリリース量θprを減算することにより最終的な角度差Δθpfを演算する。
【0067】
したがって、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、転舵制御部36はつぎのように動作する。
車両の電源がオンされた場合、反力制御部27による初期動作の実行開始から実行完了までの期間、フラグFの値は「0」である。このため、スイッチ53は、減算器51により演算される角度差Δθを選択する。また、車速Vおよび操舵角速度ωの値が「0」である場合、第1のゲインG1および第2のゲインG2の値は、いずれも「0」となる。リリース量θprの値も「0」となるため、スイッチ53により選択される角度差Δθ、ここでは減算器51により演算される角度差Δθが最終的な角度差Δθpfとして使用される。すなわち、車両の電源がオンされた直後に減算器51が演算する角度差Δθが保持される。
【0068】
そして、減算器44は、目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ から、減算器55により演算される最終的な角度差Δθpf、ここでは車両の電源がオンされた直後に減算器51が演算する角度差Δθを減算することにより、最終的な目標ピニオン角θ を演算する。このとき、減算器55により演算される最終的な角度差Δθpfは、減算器51により演算される角度差Δθと同じ値である。このため、次式(B3)で表されるように、最終的な目標ピニオン角θ の値は、ピニオン角演算部42により演算されるピニオン角θと同じ値となる。したがって、転舵輪12,12は転舵動作を行うことなく停止した状態に維持される。なお、次式(B3)は、次式(B1),(B2)に基づく。
【0069】
Δθ=θ -θ …(B1)
θ =Δθ+θ …(B2)
θ (最終)=θ -Δθpf=(Δθ+θ)-Δθpf=θ …(B3)
つぎに、図6(a)に示すように、反力制御部27による初期動作の実行が完了したとき(時刻T1)、フラグFの値は「0」から「1」へ切り替わる。このため、スイッチ53は、前回値保持部52により保持されている最終的な角度差Δθpfとしての角度差Δθを選択する。ここで、車速Vおよび操舵角速度ωの値が「0」である場合、図6(c)に示すように、第1のゲインG1および第2のゲインG2の値はいずれも「0」となる。このとき、図6(d)に示すように、リリース量θprの値も「0」となる。このため、スイッチ53により選択される角度差Δθ、ここでは前回値保持部52により保持されている角度差Δθが最終的な角度差Δθpfとして使用される。すなわち、フラグFの値が「0」から「1」へ切り替わった直後の最終的な角度差Δθpf、ここでは車両の電源がオンされた直後に減算器51が演算する角度差Δθが保持される。
【0070】
そして、減算器44において、目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ から、前回値保持部52により保持されている最終的な角度差Δθpfの前回値、ここでは車両の電源がオンされた直後に減算器51が演算する角度差Δθが減算されることにより、最終的な目標ピニオン角θ が演算される。このとき、前回値保持部52に保持されている最終的な角度差Δθpfの前回値は、車両の電源がオンされた直後に減算器51が演算する角度差Δθと同じ値である。このため、図6(e),(f)に示すように、最終的な目標ピニオン角θ の値は、車両の電源がオンされた直後にピニオン角演算部42が演算するピニオン角θと同じ値となる。したがって、転舵輪12,12は転舵動作を行うことなく停止した状態に維持される。
【0071】
この状態において、たとえばステアリングホイール11が所定の回転位置に保持される保舵状態で車両が発進した場合(時刻T2)、乗算器64は、車速Vに応じた第1のゲインG1をスイッチ53により選択される角度差Δθ、ここでは前回値保持部52に保持されている角度差Δθに乗算することによってリリース量θprを演算する。減算器55は、スイッチ53により選択される角度差Δθ、ここでは前回値保持部52に保持されている角度差Δθからリリース量θprを減算することによって、最終的な角度差Δθpfを演算する。すなわち、減算器55において演算される最終的な角度差Δθpfの値は、リリース量θprの分だけ減少する。
【0072】
このため、図6(b),(f)に示すように、減算器44において演算される最終的な目標ピニオン角θ の値は、最終的な角度差Δθpfの値が減少する分だけ増加する。この後、図6(b),(d)に示すように、最終的な角度差Δθpfの値は、リリース量θprの値に応じて転舵制御部36の一演算周期ごとに徐々に減少する。したがって、図6(f)に示すように、最終的な目標ピニオン角θ の値は、転舵制御部36の一演算周期ごとに徐々に増加する。やがて、図6(b),(f)に示すように、最終的な角度差Δθpfの値が「0」となるタイミングで(時刻T3)、最終的な目標ピニオン角θ の値はその真値、すなわち目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ に至る。これにより、転舵輪12,12の転舵位置は、ステアリングホイール11の回転位置に同期する。
【0073】
ちなみに、停車した状態でステアリングホイール11が操舵された場合も、前述したステアリングホイール11が保舵された状態で車両が発進した場合と同様である。すなわち、最終的な目標ピニオン角θ の値は、ステアリングホイール11の操舵の開始(時刻T2)を契機として、目標ピニオン角演算部41により演算される目標ピニオン角θ の真値へ向けて徐々に増加する。
【0074】
つぎに、車両の電源がオンされた後、転舵制御部36により実行される初期動作の処理手順を図7のフローチャートに従って説明する。このフローチャートの処理は、車両の電源がオンされた後、反力制御部27のフラグFの値が「0」から「1」へ切り替わったことを契機として実行される。
【0075】
図7のフローチャートに示すように、転舵制御部36は、反力制御部27を通じて取得される操舵角θに基づき目標ピニオン角θ を演算する(ステップS201)。また、転舵制御部36は、回転角センサ35を通じて検出される転舵モータ32の回転角θに基づきピニオン角θを演算する(ステップS202)。
【0076】
つぎに、転舵制御部36は、目標ピニオン角θ とピニオン角θとの角度差Δθが「0」であるかどうかを判定する(ステップS203)。転舵制御部36は、角度差Δθが「0」であるとき(ステップS203でYES)、処理を終了する。また、転舵制御部36は、角度差Δθが「0」ではないとき(ステップS203でNO)、先のステップS201において演算された目標ピニオン角θ を保持するとともに(ステップS204)、目標ピニオン角θ をピニオン角θと同じ値に設定する(ステップS205)。
【0077】
つぎに、転舵制御部36は、たとえば車速Vと車速しきい値との比較を通じて、車両が発進したかどうかを判定する(ステップS206)。転舵制御部36は、車両が発進した旨判定されるとき(ステップS206でYES)、ステップS207へ処理を移行する。また、転舵制御部36は、車両が発進した旨判定されないとき(ステップS206でNO)、ステップS208へ処理を移行する。
【0078】
ステップS208において、転舵制御部36は、たとえば操舵角速度と角速度しきい値との比較を通じて、ステアリングホイール11が操舵されたかどうかを判定する。転舵制御部36は、ステアリングホイール11が操舵された旨判定されないとき、先のステップS206へ処理を移行する。また、転舵制御部36は、ステアリングホイール11が操舵された旨判定されるとき、ステップS207へ処理を移行する。
【0079】
ステップS207において、転舵制御部36は、目標ピニオン角θ を先のステップS204において保持された目標ピニオン角θ の真値へ向けて徐々に変化させる。転舵制御部36は、目標ピニオン角θ の値がその真値に至ったとき、処理を終了する。
【0080】
転舵制御部36は、ピニオン角θを目標ピニオン角θ の真値に追従させるフィードバック制御の実行を通じてピニオン角θの値を目標ピニオン角θ の真値に一致させる。これにより、転舵輪12,12の転舵位置はステアリングホイール11の回転位置に対応した位置に変更される。
【0081】
<本実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車両の電源がオンされた後、車両の発進およびステアリングホイール11の操舵のうち少なくとも一方が初めて行われるタイミングで転舵輪12,12の転舵位置がステアリングホイール11の回転位置に対応する位置に自動調節される。このため、停車状態あるいは無操舵状態で転舵位置の自動調節が行われる場合と比べて、転舵輪12,12の転舵位置の自動調節動作に対する運転者の違和感あるいはストレスを軽減することができる。
【0082】
(2)車両の電源がオンされた場合、転舵輪12,12の転舵位置に対するステアリングホイール11の回転位置のずれ量Δθが角度しきい値θth以上の値であるとき、ステアリングホイール11の同期制御が実行される。この同期制御の実行を通じて、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪12,12の転舵位置に対応する位置に完全同期される。このため、たとえば車両を発進させる際、転舵輪12,12の転舵位置がステアリングホイール11の回転位置に対応する位置へ向けて急激に変化することがない。したがって、運転者は違和感を覚えることなく、円滑に車両を発進させることができる。
【0083】
(3)また、車両の電源がオンされた場合、転舵輪12,12の転舵位置に対するステアリングホイール11の回転位置のずれ量Δθが角度しきい値θth未満であるとき、ステアリングホイール11の同期制御が実行されない。車両の電源がオンされた後、車両の発進およびステアリングホイール11の操舵のうち少なくとも一方が初めて行われるタイミングで転舵輪の転舵位置がステアリングホイールの回転位置に対応する位置に自動調節される。このようにすれば、車両の電源がオンされるタイミングでステアリングホイール11が自動的に回転することがないため、運転者が違和感を覚えることがない。また、運転者はステアリングホイール11の同期制御の実行完了を待つ必要もないため、運転者がストレスを感じることもない。
【0084】
(4)転舵輪12,12の転舵位置がステアリングホイール11の回転位置に対応する位置に自動調節される場合、転舵輪12,12の転舵位置はステアリングホイール11の回転位置に対応する位置へ向けて徐々に変化する。転舵輪12,12の急激な動作が抑制されるため、運転者は違和感を覚えにくい。
【0085】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
図1に二点鎖線で示すように、たとえば車室内に報知装置28が設けられる場合、反力制御部27は、報知装置28を通じて、ステアリングホイール11の位置調節の実行開始および実行完了を報知するようにしてもよい。報知装置28による報知動作としては、たとえば文字によるメッセージを表示させたり、音声によるメッセージを発したりすることが挙げられる。このようにすれば、運転者は、ステアリングホイール11が自動回転すること、および自動回転しているステアリングホイール11が自動停止することを認識することができるため、運転者に与える違和感が軽減される。また、転舵制御部36は、報知装置28を通じて、転舵位置の自動調節の実行開始および実行完了を報知するようにしてもよい。このようにすれば、運転者は、転舵位置の自動調節が行われていることを認識することができるため、運転者に与える違和感をより軽減することが可能である。
【0086】
・本実施の形態では、反力モータ22の回転角θに基づき演算される操舵角θを使用したが、操舵装置10として操舵角センサを有する構成が採用される場合、この操舵角センサを通じて検出される操舵角θを使用してもよい。
【0087】
・本実施の形態において、舵角比は製品仕様などに応じて適宜の値に設定される。舵角比は、たとえば「θ:θ=1:1」でもよいし「θ:θ=1:3」でもよい。たとえば舵角比が「θ:θ=1:3」の場合、操舵角θが10°だけずれているとき、転舵角θにして30°だけずれていることになる。このため、操舵角θと転舵角θとを正しく同期することがより望まれる。
【0088】
・本実施の形態では、反力制御部27は、図2のフローチャートに示される処理において、ステップS101で演算されるずれ量Δθが角度しきい値θthよりも小さい値ではないとき(ステップS102でNO)、ずれ量Δθが「0」となるようにステアリングホイール11を回転させるようにしたが、必ずしもずれ量Δθを「0」としなくてもよい。たとえば車両の発進時に転舵輪12,12の転舵位置をステアリングホイール11の回転位置に合わせるかたちで補正する場合において運転者に違和感を与えない程度の角度、たとえば「0」を超え、かつ角度しきい値θth未満の範囲内の角度としてもよい。このようにしても、第1の実施の形態の(3)と同様の効果を得ることができる。
【0089】
・本実施の形態では、反力制御部27は車両の電源がオフからオンへ切り替えられたときの初期動作として図2のフローチャートに示される処理を実行するようにしたが、製品仕様などによっては、反力制御部27として図2のフローチャートに示される処理の実行機能を割愛した構成を採用してもよい。この場合、転舵輪12,12の転舵位置に対するステアリングホイール11の回転位置のずれ量Δθの値にかかわらず、転舵制御部36は、車両の発進時あるいはステアリングホイール11の操舵時に転舵輪12,12の転舵位置をステアリングホイール11の回転位置に同期させる処理を実行する。
【0090】
・本実施の形態において、車両の電源は、たとえばアクセサリ電源(ACC電源)あるいはイグニッション電源(IG電源)を含んでいてもよい。
・反力制御部27および転舵制御部36を単一の制御装置として構成してもよい。
【0091】
・本実施の形態では、車両の操舵装置10として、ステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達が分離されたいわゆるリンクレス構造を採用した例を挙げたが、クラッチによりステアリングシャフト21と転舵輪12との間の動力伝達を分離可能とした構造を採用してもよい。クラッチが切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が切断される。クラッチが接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪12との間の動力伝達が連結される。
【符号の説明】
【0092】
10…操舵装置
11…ステアリングホイール
12…転舵輪
21…ステアリングシャフト
22…反力モータ
27…制御装置を構成する反力制御部
31…転舵シャフト
36…制御装置を構成する転舵制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7