(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の構築方法および鉄筋籠
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
(21)【出願番号】P 2020187457
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 慎一
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214722(JP,A)
【文献】特開2011-032670(JP,A)
【文献】特開2006-328780(JP,A)
【文献】特開平08-027784(JP,A)
【文献】特開2008-214990(JP,A)
【文献】特開2018-172870(JP,A)
【文献】特開2006-132190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22- 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に伸縮可能な鉄筋籠であって、鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本配置された可とう性を有する軸方向鋼材と、上下複数段に配置された鉄筋籠の周方向の帯筋とが回転可能に接合された鉄筋籠を、ライナープレートが壁面に設けられた立坑の底部に収縮状態で配置し、前記軸方向鋼材の下端部を、前記立坑の底部のライナープレートに固定した後、前記鉄筋籠の上端部を上方に伸展させる工程(a)と、
前記立坑にコンクリートを打設する工程(b)と、
を有することを特徴とすることを特徴とするコンクリート構造物の構築方法。
【請求項2】
前記鉄筋籠は、前記帯筋の下方に配置された鉄筋籠の周方向の仮設リングを有し、前記仮設リングと前記軸方向鋼材とが回転可能に接合され、
前記工程(a)において、前記仮設リングを取り外した後、前記軸方向鋼材の下端部を前記ライナープレートに固定することを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項3】
前記軸方向鋼材の下端部が、前記ライナープレートから内側に突出する突出部に固定されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項4】
前記工程(a)において線材を用いて前記鉄筋籠の下端部を上方から吊り、前記鉄筋籠を収縮状態で前記立坑の底部まで吊り降ろした後、前記線材を前記鉄筋籠の上端部に取付け、前記軸方向鋼材の下端部を前記立坑の底部のライナープレートに固定した状態で、前記線材を用いて前記鉄筋籠の上端部を上方に伸展させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項5】
壁面にライナープレートが設けられた立坑にコンクリートを打設してコンクリート構造物を構築する際に用いる、上下に伸縮可能な鉄筋籠であって、
鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本配置された可とう性を有する軸方向鋼材と、上下複数段に配置された鉄筋籠の周方向の帯筋とが回転可能に接合され、
前記軸方向鋼材の下端部に、当該下端部を前記ライナープレートに固定するための固定部を有することを特徴とする鉄筋籠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の構築方法とこれに用いる鉄筋籠に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に形成した立坑内に基礎を構築する際、上下伸縮可能な鉄筋籠を用いることがある(例えば、特許文献1-3等)。
【0003】
この鉄筋籠は、PC鋼線等を用いた可とう性を有するストランドを軸方向鋼材として用い、鉄筋籠の周方向に間隔を空けて配置した複数本のストランドを、上下複数段に配置した帯筋に回転可能に接合したものである。これらストランドと帯筋の交差角を変えることで上下の帯筋の間隔を増減させ、鉄筋籠を上下に伸縮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-214990号公報
【文献】特開2018-172870号公報
【文献】特開2006-132190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この鉄筋籠は、収縮状態で施工現場まで運搬して立坑上に配置し、そこから鉄筋籠の下端部を下方に展開させることで、鉄筋籠を立坑内で伸長させる。鉄筋籠の伸長時は、通常、鉄筋籠の上端部と下端部を別々の吊り装置からワイヤ等で吊り、この状態で、鉄筋籠の下端部を吊った前記ワイヤとは別のワイヤを下方に繰り出す。これにより、鉄筋籠の下端部が下方に展開され鉄筋籠が伸長する。
【0006】
基礎の引揚抵抗の観点からは、鉄筋籠の下端部が立坑の底部すなわち基礎の底部まで達し、鉄筋籠の下端部が基礎の底部で確実に定着されていることが重要である。
【0007】
しかしながら、上記の手法で鉄筋籠の下端部を下方に展開する場合、当該下端部が立坑の底部に達していることの確認は容易でない。また通常の鉄筋籠は鉄筋とコンクリートの付着による定着を期待する構成となっているところ、それのみでは鉄筋籠の下端部の定着力の面で懸念もある。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、鉄筋籠の下端部をコンクリート構造物の底部に確実に配置し、また鉄筋籠の下端部の定着を強固に行うことのできるコンクリート構造物の構築方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための第1の発明は、上下に伸縮可能な鉄筋籠であって、鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本配置された可とう性を有する軸方向鋼材と、上下複数段に配置された鉄筋籠の周方向の帯筋とが回転可能に接合された鉄筋籠を、ライナープレートが壁面に設けられた立坑の底部に収縮状態で配置し、前記軸方向鋼材の下端部を、前記立坑の底部のライナープレートに固定した後、前記鉄筋籠の上端部を上方に伸展させる工程(a)と、前記立坑にコンクリートを打設する工程(b)と、を有することを特徴とすることを特徴とするコンクリート構造物の構築方法である。
【0010】
本発明で用いる鉄筋籠は、可とう性を有する軸方向鋼材を帯筋と回転可能に接合したものであり、軸方向鋼材と帯筋の交差角が変化することにより上下の帯筋の間隔が増減し、軸方向鋼材が帯筋と直交する伸長状態と、軸方向鋼材が帯筋に対し傾斜しらせん状に捩じれて配置される収縮状態とを実現するものである。この鉄筋籠を収縮状態で立坑の底部に配置して軸方向鋼材の下端部を立坑の底部のライナープレートに固定し、その後鉄筋籠の上端部を上方に伸展させることで、鉄筋籠の下端部を立坑の底部に確実に配置することができ、また鉄筋籠の下端部をコンクリート構造物の底部に強固に定着できる。
【0011】
前記鉄筋籠は、前記帯筋の下方に配置された鉄筋籠の周方向の仮設リングを有し、前記仮設リングと前記軸方向鋼材とが回転可能に接合され、前記工程(a)において、前記仮設リングを取り外した後、前記軸方向鋼材の下端部を前記ライナープレートに固定することが望ましい。
鉄筋籠の下端部に、帯筋と同様軸方向鋼材と回転可能に接合され、且つ取り外し可能な仮設リングを設けておくことで、軸方向鋼材の下端部を仮設リングで保持した状態で鉄筋籠を立坑に建て込むことができ、その後仮設リングを取り外して軸方向鋼材の下端部のライナープレートへの取付作業を行うことで、施工性が向上する。
【0012】
前記軸方向鋼材の下端部が、前記ライナープレートから内側に突出する突出部に固定されることが望ましい。
これにより、軸方向鋼材の下端部をライナープレートに容易に固定することができる。
【0013】
前記工程(a)において線材を用いて前記鉄筋籠の下端部を上方から吊り、前記鉄筋籠を収縮状態で前記立坑の底部まで吊り降ろした後、前記線材を前記鉄筋籠の上端部に取付け、前記軸方向鋼材の下端部を前記立坑の底部のライナープレートに固定した状態で、前記線材を用いて前記鉄筋籠の上端部を上方に伸展させることが望ましい。
これにより、1台の吊り装置を用いて立坑内で鉄筋籠の配置を行うことができ、山岳部など機材をなるべく少数としたい場合に好ましい。
【0014】
第2の発明は、壁面にライナープレートが設けられた立坑にコンクリートを打設してコンクリート構造物を構築する際に用いる、上下に伸縮可能な鉄筋籠であって、鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本配置された可とう性を有する軸方向鋼材と、上下複数段に配置された鉄筋籠の周方向の帯筋とが回転可能に接合され、前記軸方向鋼材の下端部に、当該下端部を前記ライナープレートに固定するための固定部を有することを特徴とする鉄筋籠である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、鉄筋籠の下端部をコンクリート構造物の底部に確実に配置し、また鉄筋籠の下端部の定着を強固に行うことのできるコンクリート構造物の構築方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】ストランド11の下端部のライナープレート31への固定について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(1.基礎100)
図1は、本発明の実施形態に係る構築方法で構築されたコンクリート構造物である基礎100を示す図である。基礎100は例えば鉄塔深礎であるが、これに限ることはない。
【0019】
基礎100は、地盤2に形成した立坑3内にコンクリートを打設することで構築され、コンクリートの内部に鉄筋籠1が埋設される。また立坑3の壁面にはライナープレート31が上下複数段に設けられる。
【0020】
鉄筋籠1はストランド11と帯筋12等を有し、ストランド11の下端部が立坑3の底部のライナープレート31に固定される。
【0021】
(2.鉄筋籠1)
図2は鉄筋籠1を示す図である。鉄筋籠1は上下に伸縮可能であり、
図2(a)は鉄筋籠1が完全に伸びた状態、(c)は鉄筋籠1を完全に縮小させた状態、(b)はその中間の状態を示した図である。
【0022】
前記したように、鉄筋籠1はストランド11と帯筋12を有する。ストランド11は鉄筋籠1の軸方向鋼材であり、鉄筋籠1の周方向に間隔を空けて複数本配置される。帯筋12はストランド11を囲むように鉄筋籠1の周方向に設けられる鉄筋であり、上下複数段に配置される。帯筋12とストランド11は、その交差部で回転可能に接合される。
【0023】
さらに、鉄筋籠1の下端部には、帯筋12と同じくストランド11を囲むように鉄筋籠1の周方向の仮設リング13が設けられる。仮設リング13は帯筋12の下方で上下複数段に配置され、帯筋12と同じくストランド11と回転可能に接合される。仮設リング13はストランド11から取り外すことが可能である。
【0024】
ストランド11は複数本のPC鋼線を撚り合わせたものであり、可とう性を有する。鉄筋籠1は、
図2(a)の矢印Aで示すようにストランド11を鉄筋籠1の周方向に捩じることで、
図2(b)、(c)に示すようにストランド11と帯筋12等(帯筋12および仮設リング13)の交差角を変化させ、ストランド11を帯筋12等に対し傾斜したらせん状とし、上下の帯筋12等の間隔を縮めて鉄筋籠1の全長を縮小する事ができる。一方、ストランド11を直線状に伸ばし捩じれを解消することで、ストランド11と帯筋12等が直交して上下の帯筋12等の間隔が元に戻り、
図2(a)に示すように鉄筋籠1を元の長さに戻すことが可能である。
【0025】
図3に示すように、ストランド11の下端部は仮設リング13に接合されており、その先端にはマンション111が設けられる。マンション111は、ストランド11の下端部を立坑3の底部のライナープレート31に固定するための固定部であり、ネジが設けられる。なお
図3は鉄筋籠1が伸長した状態である。
【0026】
(3.基礎100の構築方法)
次に、
図4等を参照し、鉄筋籠1を用いた基礎100の構築方法について説明する。
【0027】
図4(a)に示すように、本実施形態ではまず地盤2に立坑3を形成する。また立坑3の壁面には前記したようにライナープレート31が設けられる。
【0028】
その後、
図4(b)に示すように、クレーン(不図示)等の吊り装置を用いて鉄筋籠1の下端部をワイヤ等の線材5で上方から吊り、鉄筋籠1を立坑3内に吊り降ろす。鉄筋籠1は紐などの固縛材(不図示)で固縛して収縮状態で立坑3内に吊り込まれ、
図4(c)に示すように立坑3の底部に配置される。鉄筋籠1は立坑3の底部に設けた架台(不図示)の上に配置することができる。
【0029】
この後、鉄筋籠1のストランド11の下端部を
図4(d)に示すように立坑3の底部のライナープレート31に固定し、線材5を鉄筋籠1の上端部に付け替える。
【0030】
図5は、ストランド11の下端部のライナープレート31への固定について説明する図である。なお
図5では説明のためストランド11を1本のみ図示している。
【0031】
本実施形態では、
図5(a)に示すように収縮状態の鉄筋籠1を立坑3の底部に配置した後、鉄筋籠1の固縛を解除して
図5(b)に示すように仮設リング13をストランド11から取り外し、これによりフリーとなったストランド11の下端部のマンション111を立坑3の底部のライナープレート31に定着固定する。
【0032】
ライナープレート31は平面円弧状の部材であり、複数のライナープレート31を立坑3の周方向に沿ってリング状に並べることで、立坑3の壁面にライナープレート31が配置される。立坑3の底部のライナープレート31には、内側に突出するフランジ状の突出部32が設けられており、この突出部32にストランド11の下端部を固定するためのネジ孔33が設けられる。
【0033】
本実施形態では、ストランド11の下端部のマンション111を突出部32の上方からネジ孔33に挿入し、突出部32から下方に突出するマンション111の先端にナット112を締め込むことで、ストランド11の下端部がライナープレート31に定着固定される。
【0034】
こうしてストランド11の下端部をライナープレート31に固定した上で、
図4(e)に示すように鉄筋籠1の上端部を線材5を用いて前記の吊り装置によって吊り上げ、鉄筋籠1の上端部を上方に伸展させる。
【0035】
図5(c)はこの時の鉄筋籠1の下端部を示したものである。前記したように、ストランド11の下端部はライナープレート31に固定されているため、線材5で鉄筋籠1の上端部を吊り上げることによりストランド11には張力が加わり、ストランド11の捩じれが解消されて鉛直方向の直線状となり、鉄筋籠1を完全に伸長させることができる。
【0036】
鉄筋籠1を完全に伸長させた後、立坑3内にコンクリートを打設することで、
図1に示した基礎100が構築される。
【0037】
以上説明したように、本実施形態では、鉄筋籠1を収縮状態で立坑3の底部に配置してストランド11の下端部を立坑3の底部のライナープレート31に固定し、その後鉄筋籠1の上端部を上方に伸展させることで、鉄筋籠1の下端部を立坑3の底部に確実に配置することができる。また鉄筋籠1の下端部を基礎100の底部に強固に定着でき、引揚抵抗の面からも望ましい。
【0038】
また鉄筋籠1の下端部に、帯筋12と同様ストランド11と回転可能に接合され、且つ取り外し可能な仮設リング13を設けておくことで、ストランド11の下端部を仮設リング13で保持した状態で鉄筋籠1を立坑に建て込むことができ、その後仮設リング13を取り外してストランド11の下端部のライナープレート31への取付作業を行うことで、施工性が向上する。
【0039】
またライナープレート31には、ストランド11の下端部を固定するための突出部32が設けられており、これによりストランド11の下端部をライナープレート31に容易に固定することができる。
【0040】
また本実施形態では鉄筋籠1の下端部をワイヤ等の線材5を用いて上方から吊り、鉄筋籠1を収縮状態で立坑3の底部まで吊り降ろした後、ストランド11の下端部の固定作業を行い線材5を鉄筋籠1の上端部に取付け、当該線材5を用いて鉄筋籠1の上端部を上方に伸展させることで、1台の吊り装置を用いて立坑内で鉄筋籠1の配置を行うことができ、山岳部など機材をなるべく少数としたい場合に好ましい。
【0041】
しかしながら、本発明は上記に限らない。例えば本実施形態ではコンクリート構造物として基礎100を構築する例を説明したが、本発明はその他の構造物、例えば筒状構造物を立坑3内に構築する際にも適用可能である。
【0042】
また立坑3の底部に拡幅部を設けてもよい。これにより基礎100の下端部に拡幅部を形成し、引揚抵抗を増すことができる。ストランド11の下端部は、立坑3の拡幅部の壁面に設けたライナープレート31に固定することができる。
【0043】
またライナープレート31にストランド11の下端部を固定するための構成も前記に限らない。例えばライナープレート31から突出する突出部32の形状や配置等は、ストランド11の下端部を固定できれば特に限定されない。
【0044】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0045】
1:鉄筋籠
2:地盤
3:立坑
5:線材
11:ストランド
12:帯筋
13:仮設リング
31:ライナープレート
100:基礎
111:マンション
112:ナット
32:突出部