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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】原子炉格納容器の過圧防護装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 15/18 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
G21C15/18 B
G21C15/18 L
G21C15/18 R
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020196847
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085255
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】池側 智彦
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-112772(JP,A)
【文献】特開平03-191898(JP,A)
【文献】特表2020-525789(JP,A)
【文献】特開2020-046367(JP,A)
【文献】特開2014-083511(JP,A)
【文献】特開平08-248166(JP,A)
【文献】特開2013-096927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器を内包する原子炉格納容器の外部に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器に内包された炉心で発生する水蒸気を冷却し凝縮させて水に戻す非常用復水器と、
前記非常用復水器を水中に浸す非常用復水器プールと、を備え、
前記非常用復水器は、
複数本の伝熱管と、
前記伝熱管の上部側を束ねる上部ヘッダと、
前記伝熱管の下部側を束ねる下部ヘッダと、
一方の端部が前記非常用復水器プール内の底部付近に配置され、かつ、他方の端部が前記下部ヘッダに接続された下部ヘッダベント管と、
前記下部ヘッダベント管の経路上に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器内で想定を超える水位低下時もしくは前記原子炉格納容器内で想定を超える圧力増加時に解放される下部ヘッダベント弁と、
一方の端部が前記非常用復水器プールの内部又は外部において前記下部ヘッダベント管よりも高い位置に配置され、かつ、他方の端部が前記上部ヘッダに接続された上部ヘッダベント管と、
前記上部ヘッダベント管の経路上に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器内で想定を超える水位低下時もしくは前記原子炉格納容器内で想定を超える圧力増加時に解放される上部ヘッダベント弁と、を有する
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項2】
請求項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
前記非常用復水器は、前記上部ヘッダベント管の一方の端部と前記下部ヘッダベント管の一方の端部とに、前記原子炉圧力容器内で発生したガスを泡状にして前記非常用復水器プールの水中に排出する動荷重抑制装置を有する
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項3】
請求項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
前記上部ヘッダベント管の一方の端部は、前記非常用復水器プールの水面よりも上の位置で開口している
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
さらに、前記原子炉圧力容器内で発生したガスを大気に排出する経路上に、粒子状の放射性物質を捕集するための捕集フィルタを備える
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
さらに、前記非常用復水器プールに冷却水を補給する冷却水補給手段を備える
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項6】
請求項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
前記冷却水補給手段は、
前記非常用復水器プールに補給する冷却水を溜める補給水プールと、
前記非常用復水器プールと前記補給水プールとを接続する補給水管と、
前記補給水管の経路上に配置され、かつ、前記非常用復水器プールに補給する冷却水の逆流を防止する補給水管逆止弁と、を有する
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項7】
請求項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
前記冷却水補給手段は、
前記非常用復水器プールに補給する冷却水を溜める補給水プールと、
前記非常用復水器プールと前記補給水プールとを接続する補給水管と、
前記補給水管の経路上に配置され、かつ、前記補給水プールから冷却水を汲み上げて前記非常用復水器プールに送る補給水ポンプと、を有する
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
さらに、前記原子炉圧力容器内で発生したガスを大気に排出する経路上に、放射性希ガスを遮断するとともに、水蒸気を透過する希ガスフィルタを備える
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
前記原子炉格納容器を内包する原子炉建屋内に配置され、かつ、水素と酸素とを再結合させるための、静的触媒式水素再結合装置を備える
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の原子炉格納容器の過圧防護装置において、
前記非常用復水器プールは、気密性を有する閉空間になっており、かつ、前記非常用復水器プール内の前記原子炉圧力容器内で発生したガスを大気に排出するためのガス排気ラインを備え、気密性を有する閉空間が過圧破損する恐れが発生した場合に開く非常時ベント弁を前記ガス排気ライン上に備える
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【請求項11】
原子炉圧力容器を内包する原子炉格納容器の外部に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器に内包された炉心で発生する水蒸気を冷却し凝縮させて水に戻す非常用復水器と、
前記非常用復水器を水中に浸す非常用復水器プールと、を備え、
前記非常用復水器は、
複数本の伝熱管と、
前記伝熱管の上部側を束ねる上部ヘッダと、
前記伝熱管の下部側を束ねる下部ヘッダと、
一方の端部が前記非常用復水器プール内の底部付近に配置され、かつ、他方の端部が前記下部ヘッダに接続された下部ヘッダベント管と、
前記下部ヘッダベント管の経路上に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器内で想定を超える水位低下時もしくは前記原子炉格納容器内で想定を超える圧力増加時に解放される下部ヘッダベント弁と、を有し、
前記非常用復水器プールは、気密性を有する閉空間になっており、かつ、前記非常用復水器プール内の前記原子炉圧力容器内で発生したガスを大気に排出するためのガス排気ラインを備え、気密性を有する閉空間が過圧破損する恐れが発生した場合に開く非常時ベント弁を前記ガス排気ライン上に備え、
前記非常用復水器プールの気相部と前記原子炉格納容器とを接続し、かつ、前記非常用復水器プールの気相部内のガスを前記原子炉格納容器に戻すためのガス戻しラインと、
前記ガス戻しラインの経路上に配置され、かつ、前記ガス戻しラインを開閉するガス戻し弁と、を備える
ことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却材喪失事故(LOCA;loss-of-coolant accident)発生時において、非常用炉心冷却系が機能喪失したとしても、炉心の損傷や原子炉格納容器の過圧破損の防止を可能とする原子炉格納容器の過圧防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
万一、主蒸気管破断事故等の冷却材喪失事故(LOCA)が発生すると、原子炉圧力容器内の炉心を冷却する際に発生する水蒸気が配管の破断部を介して原子炉格納容器内に流入し、原子炉格納容器内の圧力が上昇する。
【0003】
原子炉格納容器の過圧破損を防止するため、例えば沸騰水型軽水炉(BWR;Boiling Water Reactor)では、サイズが小さい、ウェット式の原子炉格納容器が採用されている。ウェット式の原子炉格納容器は、原子炉格納容器の内部を冷却材のないドライウェル領域と冷却材を蓄える圧力抑制室とに2分割し、冷却水(プール水)が充填された圧力抑制プールを液相部として圧力抑制室内に備えている。そして、ウェット式の原子炉格納容器は、ドライウェル領域の気相部と圧力抑制室の液相部(圧力抑制プール)とを複数本のベント管で接続している。
【0004】
ウェット式の原子炉格納容器では、LOCA発生時にドライウェル領域に放出される水蒸気は、ドライウェル領域と圧力抑制室との圧力差を駆動力としてベント管を介して圧力抑制室内の圧力抑制プールに流入する。ウェット式の原子炉格納容器は、水蒸気を圧力抑制プールに充填されたプール水で凝縮させることで、原子炉格納容器内の圧力の上昇を効率よく抑制できる。
【0005】
また、万一、LOCAが継続した場合に、原子炉圧力容器から水蒸気が流出するため、原子炉圧力容器内の水位が低下するが、非常用炉心冷却系による注水で水位を回復させることができるため、炉心の損傷を防止できる。
また、原子炉格納容器内の圧力抑制プールに水蒸気が流入し続けることで、圧力抑制プールの水温や原子炉格納容器内の圧力が上昇するが、非常用炉心冷却系の一つである残留熱除去系を用いて圧力抑制プール水を除熱することにより、圧力抑制プール水温及び原子炉格納容器内の圧力を減少させることができ、その結果、原子炉格納容器の過圧破損を防止できる。
【0006】
しかしながら、極めて稀な事象ではあるが、LOCA発生時に全ての非常用炉心冷却系が機能を喪失してしまうことが考えられる。このような、設計基準を超える事故(設計基準外事故)が発生したとしても、重大事故(炉心損傷を伴う事故)への事故進展を防止するために、現行のBWRでは、重大事故等対処設備である低圧代替注水系による炉心への注水(炉注水)、格納容器圧力逃し装置(フィルタベント装置)による格納容器の過圧破損防止措置を講じることで、炉心の損傷及び原子炉格納容器の過圧破損を防止できる(例えば特許文献1)。
【0007】
低圧代替注水系はポンプを使用するため、動力源として代替交流電源が必要となるが、特許文献2のように、直流電源(バッテリ)で操作可能な弁の制御だけで、炉注水を実現し、炉心の損傷を防止する手段も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-186427号公報
【文献】特開2010-112772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の特許文献1に記載の技術によれば、放射性物質除去機能を有するフィルタベント装置を介して原子炉格納容器の内部のガスを原子炉格納容器の外部に排出することで、放射性物質の環境への放出量を大幅に抑制しつつ、原子炉格納容器の過圧破損を防止することができる。しかしながら、特許文献1に記載の技術には、原子炉圧力容器への注水機能はなく、炉心の損傷を防止するには、上述の特許文献2に記載の技術の静的注水設備のような、原子炉圧力容器への注水設備を別途追加する必要がある。
【0010】
一方、上述の特許文献2に記載の技術によれば、交流電源不要の静的設備を用いることで、直流電源(バッテリ)で操作可能な弁の制御だけで炉注水を実現して炉心の損傷を防止することができる。しかしながら、特許文献2に記載の技術には、原子炉格納容器の過圧破損防止機能はなく、原子炉格納容器の過圧破損を防止するには、上述の特許文献1に記載の技術のような原子炉格納容器の過圧破損防止設備を別途追加する必要がある。
【0011】
本発明は、前記した背景に鑑みてなされたものであり、簡素な構成でありながら、非常用炉心冷却系が機能喪失したとしても、LOCA発生時に炉心の損傷や原子炉格納容器の過圧破損を防止する原子炉格納容器の過圧防護装置を提供することを主な目的とする。その他の課題解決の目的は、発明を実施するための形態において適宜説明する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、原子炉格納容器の過圧防護装置であって、原子炉圧力容器を内包する原子炉格納容器の外部に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器に内包された炉心で発生する水蒸気を冷却し凝縮させて水に戻す非常用復水器と、前記非常用復水器を水中に浸す非常用復水器プールと、を備え、前記非常用復水器は、複数本の伝熱管と、前記伝熱管の上部側を束ねる上部ヘッダと、前記伝熱管の下部側を束ねる下部ヘッダと、一方の端部が前記非常用復水器プール内の底部付近に配置され、かつ、他方の端部が前記下部ヘッダに接続された下部ヘッダベント管と、前記下部ヘッダベント管の経路上に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器内で想定を超える水位低下時もしくは前記原子炉格納容器内で想定を超える圧力増加時に解放される下部ヘッダベント弁と、一方の端部が前記非常用復水器プールの内部又は外部において前記下部ヘッダベント管よりも高い位置に配置され、かつ、他方の端部が前記上部ヘッダに接続された上部ヘッダベント管と、前記上部ヘッダベント管の経路上に配置され、かつ、前記原子炉圧力容器内で想定を超える水位低下時もしくは前記原子炉格納容器内で想定を超える圧力増加時に解放される上部ヘッダベント弁と、を有する構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡素な構成でありながら、非常用炉心冷却系が機能喪失したとしても、LOCA発生時に炉心の損傷や原子炉格納容器の過圧破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図2】第2実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図3】第3実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図4】第4実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図5】第5実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図6】第6実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図7】第7実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図8】第8実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の構成を示すシステム系統図である。
図9】第1実施形態に係る原子炉格納容器の過圧防護装置の変形例の構成を示すシステム系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0016】
[第1実施形態]
<原子炉格納容器の過圧防護装置の構成>
以下、図1を参照して、第1実施形態に係る原子炉格納容器4(PCV;Primary Containment Vessel)の過圧防護装置100の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係る原子炉格納容器4の過圧防護装置100の構成を示すシステム系統図である。
【0017】
図1に示すように、原子炉格納容器4の内部には、複数の燃料集合体を装荷した炉心2を内包する原子炉圧力容器1(RPV;Reactor Pressure Vessel)が設置されている。原子炉格納容器4は、原子炉建屋10の内部に設置される。原子炉格納容器4は、事故時の放射性物質を閉じ込められるように高い気密性を有する。
【0018】
原子炉格納容器4の外側かつ原子炉建屋10の内側には、非常用復水器5(IC;Isolation Condenser)が設置されている。非常用復水器5は、炉心2で発生する水蒸気を冷却し凝縮させて水に戻すための複数本の伝熱管15を上部及び下部の2つのヘッダ(上部ヘッダ14、下部ヘッダ16)で束ねたものである。
【0019】
非常用復水器5は、上部ヘッダ14、伝熱管15、下部ヘッダ16とを有している。上部ヘッダ14は、水蒸気引き込み管6によって原子炉圧力容器1の気相部(原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)より上)と接続されている。下部ヘッダ16は、凝縮水戻り管7によって原子炉圧力容器1の気相部もしくは液相部と接続されている。また、下部ヘッダ16は、下部ヘッダベント管17aで非常用復水器プール9と接続されている。下部ヘッダベント管17aの一方の端部は、開口部となっている。
【0020】
過圧防護装置100は、原子炉圧力容器1を内包する原子炉格納容器4の外部に配置され、かつ、原子炉圧力容器1に内包された炉心で発生する水蒸気を冷却し凝縮させて水に戻す非常用復水器5と、非常用復水器5を水中に浸す非常用復水器プール9と、を備えている。非常用復水器5は、複数本の伝熱管15と、伝熱管15の上部側を束ねる上部ヘッダ14と、伝熱管15の下部側を束ねる下部ヘッダ16と、一方の端部が非常用復水器プール9内の底部付近に配置され、かつ、他方の端部が下部ヘッダ16に接続された下部ヘッダベント管17aと、下部ヘッダベント管17aの経路上に配置され、かつ、原子炉圧力容器1内で想定を超える水位低下時もしくは原子炉格納容器4内で想定を超える圧力増加時に解放される下部ヘッダベント弁18aと、を有する。
【0021】
凝縮水戻り管7の経路上には、通常運転時は閉止していて、運転中の異常な過渡時もしくは事故時に炉心2を除熱する必要が生じた場合に開く非常用復水器起動弁8(IC起動弁)が設置されている。
【0022】
非常用復水器5は、非常用復水器プール9(ICプール)の冷却水(プール水)中に浸漬されている。
【0023】
非常用復水器プール9は、底部が原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)よりも高い位置になるように設置されている。これにより、非常用復水器プール9は、冷却材喪失事故(LOCA)発生時にプール水を原子炉圧力容器1の内部に送り込むことができる。
【0024】
下部ヘッダベント管17aの経路上には、通常運転時、運転中の異常な過渡時、及び設計基準事故時は閉止状態で、設計基準事故を超える事故(設計基準外事故)時に必要に応じて開く下部ヘッダベント弁18aが設置されている。
【0025】
原子炉建屋10は、ガス排気ライン11、及びスタック13(排気筒)を介して原子炉建屋10の外部と接続される。原子炉建屋10は、原子炉格納容器4とは異なり、事故時の放射性物質を閉じ込める機能を設計上は要求されないが、通常は、ある程度の気密性を確保できるように保守的に設計される。
【0026】
以下、本実施形態に係る過圧防護装置100の、主蒸気管20の破断によるLOCA発生時の動作について説明する。以下の説明では、非常用炉心冷却系が使用不可能な、設計基準事故を超える事故(設計基準外事故)を対象とする。
【0027】
主蒸気管20が破断すると、原子炉圧力容器1の内部の高温の水蒸気が破断口を介して原子炉圧力容器1から原子炉格納容器4の内部に流出し、原子炉格納容器4の圧力が徐々に上昇すると共に、原子炉圧力容器1の内部の水量が減少することで、原子炉圧力容器1の水位3(RPV水位)が徐々に減少する。
【0028】
非常用復水器起動弁8は、原子炉圧力容器1の内部の圧力高信号や原子炉圧力容器1の内部の水位低信号等によって自動起動する他、電源喪失時にも自動的に開くように設計されているため、起動信頼性の極めて高い設備である。
【0029】
そこで、以下、設計基準外事故時においても非常用復水器5は起動に成功すると仮定して説明を行う。LOCAが発生して原子炉圧力容器1の内部の水蒸気が原子炉格納容器4に流出することで、原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)が低下して非常用復水器起動弁8が開き、非常用復水器5が起動する。
【0030】
非常用復水器起動弁8を開くことで、非常用復水器5、凝縮水戻り管7の内部に溜まっていた凝縮水が原子炉圧力容器1に供給されるとともに、水蒸気引き込み管6を介して非常用復水器5に原子炉圧力容器1の内部の水蒸気が引き込まれ、引き込んだ水蒸気を伝熱管15で非常用復水器プール9の冷却水によって凝縮することで、炉心2で発生する崩壊熱を原子炉格納容器4の外部(非常用復水器プール9の冷却水)に排出することができる。
【0031】
しかしながら、非常用復水器5は、原子炉圧力容器1の水蒸気を凝縮することはできても、原子炉格納容器4の外部の水源(水プール等)から原子炉圧力容器1への注水を行うことはできない。
【0032】
LOCAが継続することで、破断口を介して原子炉圧力容器1の内部の冷却水(水蒸気)が原子炉格納容器4に流出し続けるため、非常用復水器5が起動した後も、原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)は徐々に低下し続ける。
【0033】
原子炉圧力容器1と原子炉格納容器4の圧力は、非常用復水器5によって炉心2を除熱、すなわち原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器4の内部を除熱することができることから、非常用復水器5の除熱容量次第ではあるが、原子炉格納容器4の圧力上昇速度をある程度抑制することができる。
【0034】
しかしながら、原子炉圧力容器1の内部の圧力が低下すると水蒸気密度が低下し、非常用復水器5の除熱性能が低下することから、非常用復水器5が起動した後も、原子炉圧力容器1や原子炉格納容器4の圧力が上昇し続ける可能性がある。
【0035】
万一、このような状態が継続すると、炉心2が水面上に露出することで炉心2の損傷が発生し、また、原子炉格納容器4の内部の圧力が上昇し続けることで、原子炉格納容器4が過圧破損する可能性がある。
【0036】
そこで、本実施形態に係る過圧防護装置100は、原子炉圧力容器1の内部の圧力高信号や原子炉圧力容器1の内部の水位低信号等により非常用復水器起動弁8を自動起動もしくは手動で開放する、現行の非常用復水器が持つ機能に加えて、原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)が非常に低くなり炉心2が露出する可能性が発生した時、もしくは原子炉格納容器4の内部の圧力が非常に高くなり原子炉格納容器4が過圧破損する可能性が発生した時に、下部ヘッダベント弁18aを、原子炉格納容器4の内部の圧力高高信号(圧力高信号よりも更に高い圧力で発生する信号)もしくは原子炉圧力容器1の内部の水位低低信号(水位低信号よりも更に低い水位で発生する信号)による自動起動もしくは手動で開放する。
【0037】
つまり、過圧防護装置100は、冷却材喪失事故(LOCA)が発生し、かつ非常用炉心冷却系が使用できない場合に、非常用復水器プール9(ICプール)の冷却水(プール水)を原子炉格納容器4に供給するために、下部ヘッダベント弁18aを開く。
【0038】
下部ヘッダベント弁18a開放直後は、下部ヘッダベント管17aは、原子炉圧力容器1内の、放射性物質を含む水蒸気を、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)に排出するガス排出ラインとして機能する。そして、下部ヘッダベント弁18a開放から時間が暫く経過すると、下部ヘッダベント管17aは、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)を原子炉格納容器4に供給する冷却水供給ラインとして機能する。この点について、以下に詳述する。
【0039】
下部ヘッダベント弁18a開放直後は、原子炉圧力容器1の内圧が原子炉建屋10の内圧よりも高圧になっている。そのため、原子炉圧力容器1内で発生したガスは、水蒸気引き込み管6や凝縮水戻り管7を介して非常用復水器5に入り込み、下部ヘッダベント管17aから非常用復水器プール9に排出される。そのため、LOCA発生の初期時において、下部ヘッダベント管17aは、原子炉圧力容器1内で発生したガスを非常用復水器プール9の冷却水(プール水)に排出するガス排出ラインとして機能する。このとき、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)は非常用復水器プール9から原子炉格納容器4に送り込まれない。つまり、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)は原子炉圧力容器1に供給されない。なお、非常用復水器プール9に排出されたガスの一部は、ガス排気ライン11に沿ってスタック13に導かれ、スタック13を通って大気に排出される。また、原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器4は、ガス抜きされて、内圧が低下する。
【0040】
そして、下部ヘッダベント弁18a開放から時間が暫く経過すると、原子炉圧力容器1がガス抜きされ、原子炉圧力容器1、及び、LOCA破断口を介して空間的に接続されている原子炉格納容器4の内圧が低下する。このとき、原子炉圧力容器1の圧力と非常用復水器プール9水中に開口する下部ヘッダベント管17aとの圧力差により、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)が、下部ヘッダベント管17aに流入し、下部ヘッダ16と凝縮水戻り管7を介して非常用復水器プール9から原子炉圧力容器1に送り込まれる。つまり、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)が原子炉圧力容器1に供給される。そのため、LOCAが発生してから時間が暫く経過すると、下部ヘッダベント管17aは、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)を原子炉圧力容器1に供給する冷却水供給ラインとして機能する。
【0041】
下部ヘッダベント弁18aを開放することで、下部ヘッダベント管17aを介して原子炉圧力容器1の内部の水蒸気が非常用復水器プール9の冷却水中に放出され、原子炉圧力容器1の内部の圧力、及び主蒸気管20の破断口を介して原子炉圧力容器1と空間的に接続されている原子炉格納容器4の内部の圧力を減少させることができる。以下、この機能を「原子炉格納容器ベント機能」と称する。この原子炉格納容器ベント機能により、過圧防護装置100は、原子炉格納容器4の過圧破損を防止できる。
【0042】
原子炉圧力容器1の内部の水蒸気が非常用復水器プール9の冷却水中に流出することで原子炉圧力容器1の内部の圧力が十分に低下すると、下部ヘッダベント管17aから非常用復水器プール9に排出される水蒸気流量が低下し、非常用復水器プール9の冷却水が、排出され続ける水蒸気を凝縮させつつ、気液対向流として原子炉圧力容器1に注水され始める。以下、この機能を「原子炉圧力容器注水機能」と称する。この原子炉圧力容器注水機能により、過圧防護装置100は、原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)が回復し、炉心2の水面上への露出を防止することで、炉心2の損傷の発生を防止できる。
【0043】
原子炉圧力容器1から非常用復水器プール9の冷却水中に排出される水蒸気には、炉内構造物が放射化したもの(Co60等)やトリチウム水等の若干の放射性物質が含まれるが、非常用復水器プール9の冷却水中への放射性物質の取り込み効果(スクラビング効果)により、放射性物質のほぼ全量が非常用復水器プール9の冷却水中に保持される。
【0044】
わずかに原子炉建屋10に排出される放射性物質も、原子炉建屋10内の空気で希釈され、ガス排気ライン11及びスタック13を介して高所から原子炉建屋10の外部に排出することで、排気されるガスの拡散を促進し、局所的な被ばく量の増加を大幅に抑制することができる。
【0045】
なお、従来のこの種の技術では、原子炉格納容器4は事故時に放射性物質を閉じ込めるためのものであり、たとえ設計基準外事故時であっても、原子炉建屋10に放射性物質を含む水蒸気を意図的に排出する手段は検討されていなかった。
【0046】
これに対して、本実施形態に係る過圧防護装置100は、炉心2の損傷の発生前、すなわち原子炉圧力容器1の内部や原子炉格納容器4の内部に放射性希ガスや核分裂生成物が放出される前に、ある程度の気密性を有する原子炉建屋10への原子炉格納容器ベントを実施する。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100は、少量の放射性物質の放出と引き換えに、炉心2の損傷及び原子炉格納容器4の過圧破損を防止し、放射性希ガスや核分裂生成物が原子炉格納容器4の外部に放出される可能性を排除することができる。このような本実施形態に係る過圧防護装置100は、設計基準外事故発生時に原子炉建屋10の外部に放出される放射性物質量を合理的に低減することが可能となる。
【0047】
なお、下部ヘッダベント管17aから排出される、放射性物質を含む水蒸気を、気密性を有する別の閉空間(タンク等)に蓄積することで、放射性物質の原子炉建屋10の外部への放出を防止する設備構成等も考えられる。しかしながら、本実施形態に比べて設備構成が複雑化し、人的過誤等に起因する不具合発生、例えばタンクの非常用ガス排出ラインの誤閉止によるタンクや原子炉格納容器4の過圧破損の発生等が懸念される。
【0048】
これに対して、本実施形態に係る過圧防護装置100は、簡素な構成で、炉心2の損傷や原子炉格納容器4の過圧破損の発生を防止できる。
【0049】
以上より、本実施形態に係る過圧防護装置100によれば、LOCA発生と非常用炉心冷却系の全台故障(設計基準外事故)時においても、原子炉圧力容器1の内部の水蒸気を非常用復水器プール9の冷却水中に排出することで放射性物質の放出量を抑制しつつ、原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器4の内部の圧力を低下させて原子炉格納容器4の過圧破損を防止できると共に、非常用復水器プール9の冷却水を原子炉圧力容器1に注水することで水面上への炉心2の露出を防止して炉心2の損傷を防止できる。
以上2つの効果によって、本実施形態に係る過圧防護装置100は、簡素な構成で、炉心2の損傷や原子炉格納容器4の過圧破損の発生を防止できる。
【0050】
なお、本実施形態では、主蒸気管20の破断によるLOCAを対象として原子炉格納容器4の内部の圧力抑制効果を説明した。しかしながら、原子炉圧力容器1に接続された他の配管(給水管等)の破断時にも、同様の効果が得られる。
【0051】
また、本実施形態では、上部ヘッダ14、伝熱管15、下部ヘッダ16が縦に接続される縦型の非常用復水器5を用いて説明した。しかしながら、U字型の伝熱管を用いる横型の非常用復水器5についても、同様の効果が得られる。
【0052】
[第2実施形態]
以下、図2を参照して、第2実施形態に係る過圧防護装置100Aの構成について説明する。図2は、第2施形態に係る過圧防護装置100Aの構成を示すシステム系統図である。
【0053】
図2に示すように、第2実施形態に係る過圧防護装置100Aは、第1実施形態に係る過圧防護装置100(図1参照)と比較すると、以下の点で相違する。
(1)下部ヘッダ16と同様に、上部ヘッダ14にも、ベント管及びベント弁(上部ヘッダベント管17b及び上部ヘッダベント弁18b)が設置されている点。
(2)下部ヘッダベント管17a及び上部ヘッダベント管17bの、非常用復水器プール9側への開口部に、動荷重抑制装置19a,19bが設置されている点。
【0054】
本実施形態に係る過圧防護装置100Aでは、非常用復水器5は、一方の端部が非常用復水器プール9の内部において下部ヘッダベント管17aよりも高い位置に配置され、かつ、他方の端部が上部ヘッダ14に接続された上部ヘッダベント管17bと、上部ヘッダベント管17bの経路上に配置され、かつ、原子炉圧力容器1内で想定を超える水位低下時もしくは原子炉格納容器4内で想定を超える圧力増加時に解放される上部ヘッダベント弁18bと、を有する。
【0055】
LOCA発生の初期時において、下部ヘッダベント管17aと上部ヘッダベント管17bは、共に、原子炉圧力容器1内で発生したガスを非常用復水器プール9の冷却水(プール水)に排出するガス排出ラインとして機能する。そして、LOCAが発生してから時間が暫く経過すると、下部ヘッダベント管17aは、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)を原子炉格納容器4に供給する冷却水供給ラインとして機能する。この後、LOCAが発生してから時間がさらに経過すると、上部ヘッダベント管17bも、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)を原子炉格納容器4に供給する冷却水供給ラインとして機能する。この点について、以下に詳述する。
【0056】
例えば、LOCA発生の初期時において、原子炉圧力容器1の内圧が原子炉建屋10の内圧よりも高圧になっている。そのため、原子炉圧力容器1内で発生したガスは、水蒸気引き込み管6と凝縮水戻り管7とを介して非常用復水器5に入り込み、非常用復水器5を通って下部ヘッダベント管17aと上部ヘッダベント管17bとから非常用復水器プール9に排出される。そのため、LOCA発生の初期時において、下部ヘッダベント管17aと上部ヘッダベント管17bは、共に、原子炉圧力容器1内で発生したガスを非常用復水器プール9の冷却水(プール水)に排出するガス排出ラインとして機能する。このときは、原子炉圧力容器1から非常用復水器プール9に流出するガス流量が大きいため、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)を原子炉圧力容器1に供給できない。なお、非常用復水器プール9に排出されたガスは、原子炉建屋10内の空気と混合し、混合することで単位体積当たりの放射性物質量が減少した原子炉建屋10のガスが、ガス排気ライン11に沿ってスタック13に導かれ、スタック13を通って大気に排出される。また、原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器4は、ガス抜きされて、内圧が低下する。
【0057】
LOCAが発生してから時間が暫く経過すると、原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器4がガス抜きされて、原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器4の内圧が低下する。下部ヘッダベント管17aは、非常用復水器プール9内の上部ヘッダベント管17bよりも低い(水深が深い)位置に配置されている。したがって、下部ヘッダベント管17aの一方の端部(開口部)には、上部ヘッダベント管17bの一方の端部(開口部)よりも高い水圧がかかる。そのため、原子炉圧力容器1の内圧が下部ヘッダベント管17aの一方の端部(開口部)にかかっている圧力よりも低くなると、非常用復水器プール9と原子炉圧力容器1との圧力差により、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)が、下部ヘッダベント管17aに流入し、下部ヘッダ16と凝縮水戻り管7を介して非常用復水器プール9から原子炉圧力容器1に送り込まれる。つまり、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)が原子炉圧力容器1に供給される。そのため、LOCAが発生してから時間が暫く経過すると、下部ヘッダベント管17aは、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)を原子炉圧力容器1に供給する冷却水供給ラインとして機能する。このとき、上部ヘッダベント管17bは、ガス排出ラインとして機能したままになっている。
【0058】
この状態において、過圧防護装置100Aは、上部ヘッダベント管17bでガス(放射性物質を含む水蒸気)を原子炉圧力容器1から抜きながら、下部ヘッダベント管17aで非常用復水器プール9から原子炉圧力容器1に冷却水を供給(注水)するため、原子炉圧力容器1に早く注水することができる。
【0059】
この後、LOCAが発生してから時間がさらに経過すると、原子炉圧力容器1がさらにガス抜きされて、原子炉圧力容器1の内圧がさらに低下する。そして、原子炉圧力容器1の内圧が上部ヘッダベント管17bの一方の端部(開口部)にかかっている圧力よりも低くなると、下部ヘッダベント管17aだけでなく、非常用復水器プール9内の下部ヘッダベント管17aよりも高い位置に配置されている上部ヘッダベント管17bも、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)を原子炉圧力容器1に供給する冷却水供給ラインとして機能する。
【0060】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Aでは、非常用復水器5は、上部ヘッダベント管17bの一方の端部と下部ヘッダベント管17aの一方の端部とに、ガスを泡状にして非常用復水器プール9の水中に排出する動荷重抑制装置19a,19bを有する。なお、動荷重抑制装置19a,19bとしては、例えば、水蒸気泡を微細化するクエンチャ等を用いることができる。
【0061】
下部ヘッダベント管17aと上部ヘッダベント管17bから非常用復水器プール9にガスが排出される際に、ガスから非常用復水器プール9の構造物(壁や床)に動荷重が加わる。非常用復水器プール9は、その動荷重により、構造物(壁や床)にダメージを受ける可能性がある。
そこで、本実施形態では、下部ヘッダベント管17aと上部ヘッダベント管17bの一方の端部(開口部)に動荷重抑制装置19a,19bが設けられている。動荷重抑制装置19a,19bは、非常用復水器プール9に排出されるガスを泡状に微細化する。これにより、過圧防護装置100Aは、非常用復水器プール9の構造物(壁や床)に加わる動荷重を抑制して、非常用復水器プール9の構造物(壁や床)に与えるダメージを軽減することができる。
【0062】
このような本実施形態に係る過圧防護装置100Aは、第1実施形態に係る過圧防護装置100(図1参照)と比較すると、以下の点を改善することができる。
【0063】
第1実施形態では原子炉圧力容器1からの水蒸気放出及び原子炉圧力容器1への冷却水注水を、1つのライン(下部ヘッダベント管17a)を介して行っていたため、系統構成は簡素ではあるものの、下部ヘッダベント管17aの水蒸気排出量が十分に低減し、気液対向流状態が実現して原子炉圧力容器1への注水が開始するまでにある程度の時間を要する。
【0064】
それに対して、本実施形態に係る過圧防護装置100Aは、非常用復水器プール9の水深が浅い場所に上部ヘッダベント管17b及び上部ヘッダベント弁18bを新たに設けることで、上部ヘッダベント管17bを介した原子炉圧力容器1の内部の水蒸気の放出と、非常用復水器プール9の水深が深い場所に設置される下部ヘッダベント管17aを介した原子炉圧力容器1への非常用復水器プール9の冷却水の注水を並行して実施することが可能となり、原子炉圧力容器1への注水開始タイミングを早めることができる。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100Aは、炉心2の損傷の防止機能の信頼性を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Aは、下部ヘッダベント管17a及び上部ヘッダベント管17bの非常用復水器プール9側の開口部に動荷重抑制装置19a,19bを設置しているので、下部ヘッダベント弁18a及び上部ヘッダベント弁18bを開いた直後に、原子炉圧力容器1から放出される高流量の水蒸気が、下部ヘッダベント管17a及び上部ヘッダベント管17bを介して非常用復水器プール9の冷却水中に排出される際に非常用復水器プール9の構造物(壁や床)に加わる動荷重を抑制することができる。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100Aは、非常用復水器プール9の物理的な破損の可能性を低減することができる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る過圧防護装置100Aは、第1実施形態と比較すると、原子炉圧力容器1への注水開始タイミングを早めることで炉心2の損傷の防止機能の信頼性を、原子炉圧力容器1の水蒸気が非常用復水器プール9の冷却水中に放出される際の動荷重を抑制することで非常用復水器プール9の破損防止の信頼性を向上させることができる。
【0067】
[第3実施形態]
以下、図3を参照して、第3実施形態に係る過圧防護装置100Bの構成について説明する。図3は、第3実施形態に係る過圧防護装置100Bの構成を示すシステム系統図である。
【0068】
図3に示すように、第3実施形態に係る過圧防護装置100Bは、第2実施形態に係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点で相違する。
(1)上部ヘッダベント管17bの非常用復水器プール9側の開口部が、非常用復水器プール9の水面よりも上に開口している点。
(2)上部ヘッダ14及び下部ヘッダ16の動荷重抑制装置19a,19bが削除されている点。
(3)ガス排気ライン11上に、粒子状の放射性物質を捕集(除去)するための捕集フィルタ12が設置されている点。
【0069】
本実施形態に係る過圧防護装置100Bでは、上部ヘッダベント管17bの一方の端部は、非常用復水器プール9の水面よりも上の位置で開口している。上部ヘッダベント管17bは、一方の端部(開口部)が非常用復水器プール9の水面よりも上の位置に配置されているため、上部ヘッダベント管17bから原子炉建屋10にガスが排出される際の動荷重の影響を低減することができる。そのため、過圧防護装置100Bは、非常用復水器プール9の構造物(壁や床)に与えるダメージを軽減することができる。
【0070】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Bでは、過圧防護装置100Bは、原子炉圧力容器1内で発生したガスを大気に排出する経路上に、粒子状の放射性物質を捕集するための捕集フィルタ12を備える。捕集フィルタ12としては、例えばチャコールフィルタを用いることができる。
【0071】
このような本実施形態に係る過圧防護装置100Bは、第2実施形態係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点を改善することができる。
【0072】
第2実施形態に係る過圧防護装置100Aでは、下部ヘッダベント弁18a及び上部ヘッダベント弁18bを開いた直後、原子炉圧力容器1の水蒸気が下部ヘッダベント管17a及び上部ヘッダベント管17bを介して非常用復水器プール9の冷却水中に放出される。そのため、第2実施形態に係る過圧防護装置100Aは、各々の管の先端に動荷重抑制装置19a,19bを設置することで、非常用復水器プール9の破損防止の信頼性を向上させている。
【0073】
これに対して、本実施形態に係る過圧防護装置100Bでは、非常用復水器プール9の冷却水の重さ(水頭圧)がかからない上部ヘッダベント管17bからの水蒸気放出量が支配的となり、非常用復水器プール9の冷却水中に水蒸気が放出される際に発生する動荷重の大きさが大幅に抑制される。そのため、本実施形態に係る過圧防護装置100Bは、各々の管の先端の動荷重抑制装置19a,19bが不要となり、設備構成を簡素化できる。
【0074】
但し、本本実施形態に係る過圧防護装置100Bでは、原子炉圧力容器1の水蒸気が原子炉建屋10の内部空間に直接排出されることから、非常用復水器プール9の冷却水によるスクラビング効果(放射性物質の除去効果)が期待できなくなる。そのため、本本実施形態に係る過圧防護装置100Bでは、ガス排気ライン11上に、粒子状の放射性物質を除去するための捕集フィルタ12を設置することで、原子炉建屋10の内部空間に放出される放射性物質を、原子炉建屋10の外部(大気)に可能な限り放出させない構成としている。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る過圧防護装置100Bは、第2実施形態に係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、捕集フィルタ12を追加する必要が生じるものの、原子炉圧力容器1の水蒸気を原子炉建屋10の内部空間に直接排出することで各々の管の先端の動荷重抑制装置19a,19bが不要となり、設備構成を合理化することができる。
【0076】
[第4実施形態]
以下、図4を参照して、第4実施形態に係る過圧防護装置100Cの構成について説明する。図4は、第4実施形態に係る過圧防護装置100Cの構成を示すシステム系統図である。
【0077】
図4に示すように、第4実施形態に係る過圧防護装置100Cは、第2実施形態に係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点で相違する。
(1)ガス排気ライン11上に粒子状の放射性物質を除去するための捕集フィルタ12を設置している点。
(2)非常用復水器プール9への冷却水補給用の設備として、冷却水補給手段40を備えている点。
【0078】
本実施形態に係る過圧防護装置100Cでは、過圧防護装置100Cは、非常用復水器プール9に冷却水を補給する冷却水補給手段40を備える。
【0079】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Cでは、冷却水補給手段40は、非常用復水器プール9に補給する冷却水を溜める補給水プール21と、非常用復水器プール9と補給水プール21とを接続する補給水管23と、補給水管23の経路上に配置され、かつ、補給水プール21から非常用復水器プール9に補給する冷却水の補給水プール21への逆流を防止する補給水管逆止弁24と、を有する。
【0080】
補給水プール21の底面は、非常用復水器プール9の底面と同じ高さの位置又は非常用復水器プール9の底面よりも高い位置に配置されている。
【0081】
係る構成において、過圧防護装置100Cは、LOCA発生時に、非常用復水器プール9の冷却水が減少すると、非常用復水器プール9の冷却水と補給水プール21の補給水との水頭圧の差によって補給水プール21から非常用復水器プール9に水が流れる。
【0082】
このような過圧防護装置100Cは、補給水プール21に水(補給水)を溜めておくことで、補給水プール21から非常用復水器プール9に水を供給することができる。
【0083】
また、過圧防護装置100Cは、補給水プール21に水を供給することで、原子炉建屋10の外部から非常用復水器プール9、ひいては原子炉圧力容器1の内部に冷却水を注水することができる。
【0084】
このような本実施形態に係る過圧防護装置100Cは、第2実施形態係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点を改善することができる。
【0085】
第2実施形態に係る過圧防護装置100Aでは、非常用復水器プール9に貯えておく水量次第ではあるが、非常用復水器プール9の冷却水(プール水)が下部ヘッダベント管17aを介して原子炉圧力容器1に注水されることで、非常用復水器プール9の水量が低下し、非常用復水器5や上部ヘッダベント管17bが水面上に露出する可能性がある。上部ヘッダベント管17bが水面上に露出すると、非常用復水器プール9の冷却水によるスクラビング効果が期待できなくなり、少量ではあるものの、原子炉圧力容器1の内部の放射性物質が原子炉建屋10の内部空間に直接放出される可能性が生じる。消防車等を用いて非常用復水器プール9に冷却水を補給することでこのような事態を回避することは可能だが、設計基準外事故発生時には、原子炉建屋10へのアクセス性が悪化して消防車による冷却水補給が困難になる可能性がある。
【0086】
これに対して、本実施形態に係る過圧防護装置100Cでは、非常用復水器プール9の水位が低下すると、非常用復水器プール9と補給水プール21の水深差(水頭圧差)を駆動力として、補給水管23を介して補給水プール21の冷却水が非常用復水器プール9に自動的に供給される。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100Cは、上部ヘッダベント管17bの水面上への露出を防止し、非常用復水器プール9の冷却水による放射性物質のスクラビング効果を維持することができる。
【0087】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Cは、補給水プール21を、アクセス性の良い原子炉建屋10の外部に配置することで、消防車等による補給水プール21への冷却水補給が容易となるため、長期間、安定して放射性物質のスクラビング効果を得ることができる。
【0088】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Cは、補給水管23の経路上に補給水管逆止弁24を備えることで、少量の放射性物質を含む非常用復水器プール9の冷却水が補給水プール21側に流出することを防止することができる。
【0089】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Cは、スクラビング効果が持続するため、原子炉圧力容器1から放出される少量の放射性物質のほぼ全量を非常用復水器プール9の冷却水中に保持することができるが、原子炉建屋10に放出される、スクラビング効果によって除去しきれなかった放射性物質は、ガス排気ライン11を介してスタック13から排出される前に、捕集フィルタ12で捕集(除去)する。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100Cは、第2実施形態に係る過圧防護装置100Aよりも、原子炉建屋10の外部への放射性物質の放出量を更に低減することができる。
【0090】
以上のように、本実施形態に係る過圧防護装置100Cは、第2実施形態と比較すると、冷却水補給が容易な補給水プール21を原子炉建屋10の外部に備えることで、非常用復水器プール9の水位を上部ヘッダベント管17bより高く維持することができるため、非常用復水器プール9の冷却水による放射性物質のスクラビング効果が継続的に得られること、スクラビング効果で除去しきれなかった粒子状の放射性物質を捕集フィルタ12で捕集(除去)することができることから、原子炉建屋10の外部に放出される放射性物質量を長期間に亘って更に低減することができる。
【0091】
なお、補給水プール21は原子炉建屋10の内部に設置することも可能である。この場合、補給水管逆止弁24は不要となる。
【0092】
[第5実施形態]
以下、図5を参照して、第5実施形態に係る過圧防護装置100Dの構成について説明する。図5は、第5実施形態に係る過圧防護装置100Dの構成を示すシステム系統図である。
【0093】
図5に示すように、第5実施形態に係る過圧防護装置100Dは、第4実施形態に係る過圧防護装置100C(図4参照)と比較すると、非常用復水器プール9への冷却水補給用の設備として、冷却水補給手段40の代わりに、冷却水補給手段40Dを備えている点で相違する。
【0094】
冷却水補給手段40Dは、非常用復水器プール9に補給する冷却水を溜める補給水プール21と、非常用復水器プール9と補給水プール21とを接続する補給水管23と、補給水管23の経路上に配置され、かつ、重力差に打ち勝って、補給水プール21から冷却水を汲み上げて非常用復水器プール9に送る補給水ポンプ22と、を有する。
【0095】
補給水プール21の底面は、非常用復水器プール9の底面よりも低い位置に配置されている。
【0096】
係る構成において、過圧防護装置100Dは、LOCA発生時に、補給水ポンプ22で補給水プール21から組み上げた水を非常用復水器プール9に補給する。このような過圧防護装置100Dは、補給水プール21を非常用復水器プール9よりも低い場所に設置することができる。非常用復水器プール9よりも低い場所は、比較的大面積を確保し易い。そのため、過圧防護装置100Dは、補給水プール21の大容量化を図ることができる。
【0097】
このような本実施形態に係る過圧防護装置100Dは、第4実施形態に係る過圧防護装置100C(図4参照)と同様に、上部ヘッダベント管17bの水面上への露出を防止し、非常用復水器プール9の冷却水による放射性物質のスクラビング効果を維持することができる。
【0098】
なお、補給水ポンプ22は、常設ポンプとしてもよいし、消防車等の可搬型のポンプを用いてもよい。
【0099】
[第6実施形態]
以下、図6を参照して、第6実施形態に係る過圧防護装置100Eの構成について説明する。図6は、第6実施形態に係る過圧防護装置100Eの構成を示すシステム系統図である。
【0100】
図6に示すように、第6実施形態に係る過圧防護装置100Eは、第2実施形態に係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点で相違する。
(1)ガス排気ライン11の原子炉建屋10側の開口部に、放射性希ガスを遮断し、かつ、水蒸気を透過する膜フィルタ(希ガスフィルタ25)を設置している点。
(2)原子炉建屋10の内部に、水素と酸素を再結合させて水素爆発を防止するための電源不要設備として静的触媒式水素再結合装置26(PAR)を備えている点。
【0101】
本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、原子炉圧力容器1内で発生したガスを大気に排出する経路上に、放射性希ガスを遮断するとともに、水蒸気を透過する希ガスフィルタ25を備える。
【0102】
過圧防護装置100Eは、希ガスフィルタ25を有している。希ガスフィルタ25は、放射性希ガスを遮断するとともに、水蒸気を透過する。これにより、過圧防護装置100Eは、大気に排出される放射性物質の量を低減することができる。希ガスフィルタ25としては、ポリイミドのような高分子膜、炭化ケイ素のようなセラミック膜、酸化グラフェン膜等を用いることができる。これらの膜は、水素や水蒸気のような分子径の小さなガスを透過させ、キセノン(Xe)のような分子径の大きなガスを透過させない性質を有する。なお、過圧防護装置100Eは、図6に示すように、希ガスフィルタ25に加え、ガス排気ライン11上に捕集フィルタ12を有する構成であってよい。
【0103】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、原子炉格納容器4を内包する原子炉建屋10内に配置され、かつ、水素と酸素とを再結合させるための、静的触媒式水素再結合装置26を備える。静的触媒式水素再結合装置26は、電源を必要とせず、触媒の作用によって水素と酸素とを結合させることができる。
【0104】
このような本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、第2実施形態係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点を改善することができる。
【0105】
第2実施形態に係る過圧防護装置100Aでは、下部ヘッダベント管17aを介して非常用復水器プール9の冷却水を原子炉圧力容器1に注水することで、炉心2の損傷を防止可能である。しかしながら、万一、原子炉圧力容器1の減圧や非常用復水器プール9の冷却水の注水が遅れて炉心2の損傷が発生した場合、炉心2に装荷されている燃料棒の内部に閉じ込められていた揮発性の核分裂生成物(Cs等)や放射性希ガス(Xe等)が原子炉圧力容器1の内部に排出されると同時に、燃料棒の被覆管として使用されているジルカロイと高温水蒸気の化学反応により、原子炉圧力容器1の内部で水素ガスが発生する。
【0106】
これらのガスが、上部ヘッダベント管17bを介して非常用復水器プール9の冷却水中に放出されると、スクラビング効果によってCs等の揮発性の核分裂生成物はほぼ全量が非常用復水器プール9の冷却水中に取り込まれるが、非凝縮性ガスである放射性希ガスや水素は取り込まれず、原子炉建屋10に排出される。
【0107】
そこで、本実施形態に係る過圧防護装置100Eでは、排出された水素は、静的触媒式水素再結合装置26によって、原子炉建屋10の内部の空気中に含まれる酸素と再結合させて水に戻す。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、原子炉建屋10の水素爆発発生を防止できる。
【0108】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、放射性希ガスを原子炉建屋10の内部に保持しつつ、原子炉建屋10の過圧破損や原子炉建屋10からのガス漏洩を防止するため、希ガスフィルタ25を設置している。このような本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、原子炉建屋10の内部の加圧要因となる、静的触媒式水素再結合装置26で処理しきれなかった水素及び非常用復水器プール9から蒸発する水蒸気等を原子炉建屋10から選択的に排出すると共に、放射性希ガス(Xe等)を原子炉建屋10の内部に保持することができる。
【0109】
以上のように、本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、第2実施形態に係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、万一、炉心2の損傷が発生して、揮発性の放射性物質、放射性希ガス、水素等が非常用復水器プール9を介して原子炉建屋10に放出される事態が発生しても、非常用復水器プール9の冷却水による揮発性放射性物質のスクラビング効果、静的触媒式水素再結合装置26による水素除去効果、希ガスフィルタ25による放射性希ガスの原子炉建屋10への閉じ込め効果を得ることができる。そのため、本実施形態に係る過圧防護装置100Eは、原子炉建屋10の内部での水素爆発発生の可能性の低減、及び原子炉建屋10の外部に放出される放射性物質量の低減を実現できる。
【0110】
[第7実施形態]
以下、図7を参照して、第7実施形態に係る過圧防護装置100Fの構成について説明する。図7は、第7実施形態に係る過圧防護装置100Fの構成を示すシステム系統図である。
【0111】
図7に示すように、第7実施形態に係る過圧防護装置100Fは、第2実施形態に係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点で相違する。
(1)非常用復水器プール9aが、原子炉建屋10と隔離された、気密性を有する構造となっている点。
(2)非常時に非常用復水器プール9aの気相部30のガスを原子炉建屋10の外部に排出するためのガス排気ライン11、スタック13、非常時ベント弁27を備えている点。
【0112】
本実施形態に係る過圧防護装置100Fでは、非常用復水器プール9aは、気密性を有する閉空間になっており、かつ、非常用復水器プール9a内の原子炉圧力容器1内で発生したガスを大気に排出するためのガス排気ライン11が設けられている。
【0113】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Fでは、非常用復水器プール9aは、気密性を有する閉空間になっており、原子炉圧力容器1から非常用復水器プール9aに排出される、若干の放射性物質を含む水蒸気を閉空間内に閉じ込めることができる。そのため、外部への放射性物質放出を完全に防止することができる。しかし、万一、炉心が損傷する等によって原子炉圧力容器1から水素を含む大量のガスが非常用復水器プール9aに排出され、非常用復水器プール9aが過圧破損する恐れが発生した場合は、過圧防護装置100Fは、非常用復水器プール9a内のガスを、スタック13を介してガス排気ライン11に沿って大気に排出する構成になっている。そのため、ガス排気ライン11上には、非常時に開かれる非常時ベント弁27が配置されている。
【0114】
なお、非常用復水器プール9aは、原子炉建屋10の内側に配置してもよいし、原子炉建屋10の外側に配置してもよい。つまり、原子炉建屋10は、一点鎖線で示すように、内側に非常用復水器プール9aが配置されるように構成してもよいし、二点鎖線で示すように、外側に非常用復水器プール9aが配置されるように構成してもよい。
【0115】
このような本実施形態に係る過圧防護装置100Fは、第2実施形態係る過圧防護装置100A(図2参照)と比較すると、以下の点を改善することができる。
【0116】
第2実施形態に係る過圧防護装置100Aでは、非常用復水器プール9aの冷却水によってスクラビングされた後のごく少量の放射性物質は原子炉建屋10に放出され、ごく少量の放射性物質の一部は原子炉建屋10に接続されるガス排気ライン11を介してスタック13から原子炉建屋10の外部に排出される。
【0117】
これに対して、本実施形態に係る過圧防護装置100Fでは、非常用復水器プール9aを気密構造としたことにより、ごく少量の放射性物質をも非常用復水器プール9aの気相部30に溜めることができる。このような本実施形態に係る過圧防護装置100Fは、原子炉建屋10の外部への放射性物質の排出をほぼ完全に防止することができる。
【0118】
以上のように、本実施形態に係る過圧防護装置100Fは、非常用復水器プール9aの気相部30の空間容積を十分に確保することで非常用復水器プール9aの過圧破損を防止できる。そして、本実施形態に係る過圧防護装置100Fは、万一、非常用復水器プール9aの気相部30の圧力が非常用復水器プール9aの最高使用圧力を超えて上昇する可能性がある場合に、非常時ベント弁27を開くことで、非常用復水器プール9aの気相部30のガスをガス排気ライン11及びスタック13を介して原子炉建屋10の外部に排出することができる。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100Fは、万一の非常用復水器プール9aの過圧破損を防止することができる。
【0119】
なお、下部ヘッダベント管17aや上部ヘッダベント管17bの開口先を、非常用復水器プール9aではなく、別の気密構造タンクとすることでも、原子炉建屋10の外部への放射性物質の排出を完全に防止することができる。しかしながら、本実施形態に係る過圧防護装置100Fの方がこのような構成よりも簡素な構成で同じ効果を実現できる。
【0120】
以上のように、本実施形態に係る過圧防護装置100Fは、第2実施形態と比較すると、ごく少量の放射性物質をも非常用復水器プール9aの気相部30に溜めることで、原子炉建屋10の外部への放射性物質の排出をほぼ完全に防止することができる。
【0121】
また、本実施形態に係る過圧防護装置100Fは、万一、非常用復水器プール9aの気相部30の圧力が非常用復水器プール9aの最高使用圧力を超えて上昇する可能性がある場合は、非常時ベント弁27を開くことで、非常用復水器プール9aの気相部30のガスをガス排気ライン11及びスタック13を介して原子炉建屋10の外部に排出することもできる。
【0122】
[第8実施形態]
以下、図8を参照して、第8実施形態に係る過圧防護装置100Gの構成について説明する。図8は、第8実施形態に係る過圧防護装置100Gの構成を示すシステム系統図である。
【0123】
図8に示すように、第8実施形態に係る過圧防護装置100Gは、第7実施形態に係る過圧防護装置100F(図7参照)と比較すると、ガス戻しライン28を介して、非常用復水器プール9aの気相部30と原子炉格納容器4とを接続している点で相違している。
【0124】
本実施形態に係る過圧防護装置100Gは、非常用復水器プール9aの気相部30と原子炉格納容器4とを接続し、かつ、非常用復水器プール9aの気相部30内のガスを原子炉格納容器4に戻すためのガス戻しライン28と、ガス戻しライン28の経路上に配置され、かつ、ガス戻しラインを開閉するガス戻し弁29と、を備える。
【0125】
本実施形態に係る過圧防護装置100Gは、ガス戻しライン28上にガス戻し弁29を設置している。本実施形態に係る過圧防護装置100Gは、これらの設備を追加することにより、例えば、設計基準外事故発生時から十分な時間が経過して、原子炉格納容器4の動的な除熱設備(ポンプ及び熱交換器を用いた除熱設備)が復旧し、原子炉格納容器4の圧力を減少させた場合に、ガス戻し弁29を開くことで、非常用復水器プール9aの気相部30に蓄積された、少量の放射性物質を含むガスを、ガス戻しライン28を介して原子炉格納容器4に戻すことができる。これにより、本実施形態に係る過圧防護装置100Gは、非常用復水器プール9aの過圧破損の可能性を更に低減することできる。
【0126】
つまり、仮に事故が長期化した場合に、原子炉格納容器4を冷却するための除熱設備が復活する可能性がある。そして、除熱設備が復活した場合に、過圧防護装置100Gは、非常時ベント弁27を開かなくてもよくなる。このような過圧防護装置100Gは、大気に放出されるガスの量、ひいては放射性物質の量を低減することができる。
【0127】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。さらに、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換が可能である。
【0128】
例えば、第1実施形態に係る過圧防護装置100(図1参照)は、図9に示すように変形することができる。図9は、第1実施形態に係る過圧防護装置100の変形例の構成を示すシステム系統図である。
【0129】
前記した第1実施形態では、沸騰水型軽水炉の設計基準外事故として、LOCA発生と非常用炉心冷却系の不作動とを仮定して、過圧防護装置100による原子炉格納容器4の圧力抑制効果を説明した。しかしながら、過圧防護装置100は、安全系構成が異なる他のタイプの沸騰水型軽水炉の設計基準外事故時にも同様の効果を得ることができる。
【0130】
例えば、図9に示すように、過圧防護装置100は、非常用炉心冷却系の代わりに、LOCA破断口よりも原子炉圧力容器1側、かつ原子炉圧力容器1になるべく近接させて設置する原子炉圧力容器1に直付けされたRPV隔離弁31を設けた沸騰水型軽水炉(原子炉圧力容器隔離型プラント)に適用する場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0131】
このような構成の原子炉圧力容器隔離型プラントにおいて、設計基準事故であるLOCAが発生した場合は、まず、RPV隔離弁31を閉止することで、LOCA破断口から原子炉圧力容器1の水蒸気が原子炉格納容器4に流出するのを防止する。RPV隔離弁31を閉止すると原子炉圧力容器1が隔離状態となるため、炉心2で発生する水蒸気によって原子炉圧力容器1の内部の圧力が上昇すると共に原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)が低下する。そこで、過圧防護装置100は、原子炉圧力容器1の内部の圧力高信号もしくは原子炉圧力容器1の内部の水位低信号等をトリガとして非常用復水器5を起動し、原子炉圧力容器1の内部の水蒸気を凝縮させて水に戻す。これにより、過圧防護装置100は、原子炉圧力容器1の内部の圧力上昇を抑制すると共に、凝縮水を原子炉圧力容器1に戻すことで炉心2の損傷を防止する。
【0132】
また、原子炉圧力容器隔離型プラントにおける設計基準外事故が発生した場合、即ち、RPV隔離弁31の閉止に失敗した場合は、非常用炉心冷却系の起動失敗と同じ状況となる。すなわち、この場合は、LOCA破断口から継続的に水蒸気が原子炉圧力容器1から原子炉格納容器4に流出し続け、原子炉格納容器4の内部の圧力が上昇すると共に原子炉圧力容器1の内部の水位3(RPV水位)が低下し続ける状況となる。そのため、原子炉圧力容器隔離型プラントの場合でも、過圧防護装置100は、非常用炉心冷却系を有する沸騰水型軽水炉と同様に、炉心2の損傷や原子炉格納容器4の過圧破損の防止を実現できる。
【符号の説明】
【0133】
1:原子炉圧力容器(RPV)
2:炉心
3:水位(RPV水位)
4:原子炉格納容器(PCV)
5:非常用復水器(IC)
6:水蒸気引き込み管
7:凝縮水戻り管
8:非常用復水器起動弁(IC起動弁)
9:非常用復水器プール(ICプール)
10:原子炉建屋
11:ガス排気ライン
12:捕集フィルタ
13:スタック(排気筒)
14:上部ヘッダ
15:伝熱管
16:下部ヘッダ
17a:下部ヘッダベント管
17b:上部ヘッダベント管
18a:下部ヘッダベント弁
18b:上部ヘッダベント弁
19a,19b:動荷重抑制装置
20:主蒸気管
21:補給水プール
22:補給水ポンプ
23:補給水管
24:補給水管逆止弁
25:希ガスフィルタ
26:静的触媒式水素再結合装置(PAR)
27:非常時ベント弁
28:ガス戻しライン
29:ガス戻し弁
30:非常用復水器プール気相部
31:RPV隔離弁
40,40D:冷却水補給手段
100,100A,100B,100C,100D,100E,100F,100G:過圧防護装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9