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特許7422065路面平坦性計測装置、路面平坦性計測システム、方法、および、プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】路面平坦性計測装置、路面平坦性計測システム、方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 7/04 20060101AFI20240118BHJP
   G01B 21/30 20060101ALI20240118BHJP
   E01C 23/01 20060101ALI20240118BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G01C7/04
G01B21/30 101F
E01C23/01
G01B21/00 T
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020217219
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2021056245
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000142067
【氏名又は名称】株式会社共和電業
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176337
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-066040(JP,A)
【文献】特開2017-040486(JP,A)
【文献】特開2015-028456(JP,A)
【文献】特開2016-200397(JP,A)
【文献】特開2000-233739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00- 1/14
G01C 5/00-15/14
G01B 21/00-21/32
E01C 23/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出する路面平坦性計測装置であって、
前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出処理と、
前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリング処理と、
前記リサンプリング処理よりも前または後に、前記上下方向と直交する左右方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する左右方向センサの検出結果に基づいて、前記左右方向のばね下変位を除去する横力成分除去処理と、を実行する
路面平坦性計測装置。
【請求項2】
試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出する路面平坦性計測装置であって、
前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出処理と、
前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリング処理と、
前記リサンプリング処理よりも後に、前記等間隔距離軸上にリサンプリングされた前記ばね下変位に対して、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する空間周波数帯以外の空間周波数成分を除去するバンドパスフィルタ処理と、を実行する
面平坦性計測装置。
【請求項3】
前記変位算出処理よりも前に、前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方にローパスフィルタを施すことによって、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する周波数帯よりも高い周波数成分を除去するローパスフィルタ処理を実行する
請求項1または2に記載の路面平坦性計測装置。
【請求項4】
前記変位算出処理において、算出したばね下加速度、ばね下速度、および、ばね下変位の少なくとも1つに対して、ハイパスフィルタを施すことによって、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する周波数帯よりも低い低周波成分を除去する
請求項1~3のいずれか一項に記載の路面平坦性計測装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の路面平坦性計測装置を含む
路面平坦性計測システム。
【請求項6】
試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出する方法であって、
前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出処理と、
前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリング処理と、
前記リサンプリング処理よりも前または後に、前記上下方向と直交する左右方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する左右方向センサの検出結果に基づいて、前記左右方向のばね下変位を除去する横力成分除去処理と、を含む
方法。
【請求項7】
試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出する方法であって、
前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出処理と、
前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリング処理と、
前記リサンプリング処理よりも後に実行される処理であって、前記等間隔距離軸上にリサンプリングされた前記ばね下変位に対して、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する空間周波数帯以外の空間周波数成分を除去するバンドパスフィルタ処理と、を含む
方法。
【請求項8】
試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出するプログラムであって、
前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に
基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出処理と、
前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリング処理と、
前記リサンプリング処理よりも前または後に実行される処理であって、前記上下方向と直交する左右方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する左右方向センサの検出結果に基づいて、前記左右方向のばね下変位を除去する横力成分除去処理と、をコンピュータに実行させる
プログラム。
【請求項9】
試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出するプログラムであって、
前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に
基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出処理と、
前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリング処理と、
前記リサンプリング処理よりも後に実行される処理であって、前記等間隔距離軸上にリサンプリングされた前記ばね下変位に対して、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する空間周波数帯以外の空間周波数成分を除去するバンドパスフィルタ処理と、をコンピュータに実行させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面平坦性計測装置、路面平坦性計測システム、方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
路面平坦性を評価する指標として、国際ラフネス指数が知られている。特許文献1は、国際ラフネス指数を算出する路面平坦性計測装置の一例を開示している。この路面平坦性計測装置は、例えば、試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度を検出するセンサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出する処理手段を備える。処理手段は、センサによって検出される加速度に基づいて、運動方程式を用いたクォーターカーシミュレーションの逆算によって路面プロファイルを算出し、算出した路面プロファイルを用いて、基準車におけるクォーターカーシミュレーションを実行することによって、国際ラフネス指数を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5226437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記路面平坦性計測装置では、試験車が同じ路面を走行した場合であっても、試験車の車速によって、算出される国際ラフネス指数が異なること、より詳細には、試験車の車速が低いほど、算出される国際ラフネス指数が高くなる傾向が確認された。このため、上記路面平坦性計測装置では、国際ラフネス指数を再現性高く算出する点について、なお、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、国際ラフネス指数を再現性高く算出できる路面平坦性計測装置、路面平坦性計測システム、方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る路面平坦性計測装置は、試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出する路面平坦性計測装置であって、前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出処理と、前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリング処理と、を実行する。
【0007】
本願発明者は、従来の路面平坦性計測装置において、上述した課題が発生する要因の1つとして、次の理由を見出した。試験車が同じ路面を走行した場合であっても、試験車の車速が異なる場合、ばね下変位のサンプル時間の間隔を等しくしても、試験車の車速が高速の場合と低速の場合とでは、ばね下変位のサンプルポイントの距離間隔が一定とはならない。このため、試験車の車速が低い場合、試験車の車速が高い場合よりもばね下変位のサンプルポイントの距離間隔が短くなり、結果として、路面の起伏がより詳細に表現されてしまう。このため、上述したように、試験車の車速が低いほど、算出される国際ラフネス指数が高くなる傾向であると考えられる。
【0008】
上記路面平坦性計測装置によれば、リサンプリング処理を実行するため、ばね下変位のサンプルポイントの距離間隔が一定となる。試験車の車速依存性を排除した路面プロファイルを再現性高く算出できる。このため、算出された路面プロファイルに基づいてクォーターカーシミュレーションを実行することによって、国際ラフネス指数を再現性高く算出できる。
【0009】
本発明の第2観点に係る路面平坦性計測装置は、第1観点に係る路面平坦性計測装置であって、前記変位算出処理よりも前に、前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方にローパスフィルタを施すことによって、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する周波数帯よりも高い周波数成分を除去するローパスフィルタ処理を実行する。
【0010】
上記路面平坦性計測装置によれば、例えば、エンジンのクランクシャフトの回転に起因する試験車の振動、および、電気的なノイズ、ならびに、電子回路における情報処理の電気的なノイズを除去できる。
【0011】
本発明の第3観点に係る路面平坦性計測装置は、第1観点または第2観点に係る路面平坦性計測装置であって、前記変位算出処理において、算出したばね下加速度、ばね下速度、および、ばね下変位の少なくとも1つに対して、ハイパスフィルタを施すことによって、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する周波数帯よりも低い低周波成分を除去する。
【0012】
上記路面平坦性計測装置によれば、バイアス成分および温度ドリフトを除去できるため、路面プロファイルを再現性高く算出できる。
【0013】
本発明の第4観点に係る路面平坦性計測装置は、第1観点~第3観点のいずれか1つに係る路面平坦性計測装置であって、前記リサンプリング処理よりも前または後に、前記上下方向と直交する左右方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する左右方向センサの検出結果に基づいて、前記左右方向のばね下変位を除去する横力成分除去処理を実行する。
【0014】
上下方向センサの感度軸が上下方向に対してロール角方向に傾いている場合、上下方向センサが左右方向の加速度等を検出するおそれがある。上記路面平坦性計測装置によれば、横力成分除去処理を実行するため、上下方向センサの感度軸が上下方向に対してロール角方向に傾いている場合であっても、路面プロファイルを再現性高く算出できる。
【0015】
本発明の第5観点に係る路面平坦性計測装置は、第1観点~第4観点のいずれか1つに係る路面平坦性計測装置であって、前記リサンプリング処理よりも後に、前記等間隔距離軸上にリサンプリングされた前記ばね下変位に対して、路面凹凸に起因する前記試験車の振動成分に関する空間周波数帯以外の空間周波数成分を除去するバンドパスフィルタ処理を実行する。
上記路面平坦性計測装置によれば、路面プロファイルを再現性高く算出できる。
【0016】
本発明の第6観点に係る路面平坦性計測システムは、第1観点~第5観点のいずれか1つに係る路面平坦性計測装置を含む。
【0017】
上記路面平坦性計測システムによれば、第1観点~第5観点のいずれか1つに係る路面平坦性計測装置と同様の効果が得られる。
【0018】
本発明の第7観点に係る方法は、試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出する方法であって、前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出ステップと、前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成する距離データ作成ステップと、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリングステップと、を含む。
上記方法によれば、第1観点に係る路面平坦性計測装置と同様の効果が得られる。
【0019】
本発明の第8観点に係るプログラムは、試験車の車軸またはサスペンションの下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する上下方向センサの検出結果に基づいて、国際ラフネス指数を算出するプログラムであって、前記上下方向センサによって検出された前記加速度および前記速度の少なくとも一方に基づいて、前記試験車の車輪のばね下変位を算出する変位算出ステップと、前記試験車の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成する距離データ作成ステップと、算出した前記ばね下変位を前記等間隔距離データの前記等間隔距離軸と対応付けるリサンプリングステップと、をコンピュータに実行させる。
上記プログラムによれば、第1観点に係る路面平坦性計測装置と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に関する路面平坦性計測装置、路面平坦性計測システム、方法、および、プログラムによれば、国際ラフネス指数を再現性高く算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の路面平坦性計測システムの概略構成図。
図2】変位算出処理の処理手順の一例を示すフローチャート。
図3】リサンプリング処理の処理手順の一例を示すフローチャート。
図4】ばね下変位に関するデータと、試験車が移動した累積距離に関するデータとの関係の一例を示すグラフ。
図5】ばね下変位と等間隔距離軸との対応関係を示すグラフ。
図6】試験車のサスペンション、および、その周辺を示す正面図。
図7】路面プロファイル算出処理の処理手順の一例を示すフローチャート。
図8】第1試験の従来の路面平坦性計測システムの試験結果に関するグラフ。
図9】第1試験の実施形態の路面平坦性計測システムの試験結果を示すグラフ。
図10】第1試験の従来の路面平坦性計測システムの試験結果に関するグラフ。
図11】第1試験の実施形態の路面平坦性計測システムの試験結果を示すグラフ。
図12】第2試験の従来の路面平坦性計測システムの試験結果に関するグラフ。
図13】第2試験の実施形態の路面平坦性計測システムの試験結果を示すグラフ。
図14】第2試験の従来の路面平坦性計測システムの試験結果に関するグラフ。
図15】第2試験の実施形態の路面平坦性計測システムの試験結果を示すグラフ。
図16】第3試験の従来の路面平坦性計測システムの試験結果に関するグラフ。
図17】第3試験の実施形態の路面平坦性計測システムの試験結果を示すグラフ。
図18】第3試験の試験車の走行距離と車速との関係を示すグラフ。
図19】第4試験の従来の路面平坦性計測システムの試験結果に関するグラフ。
図20】第4試験の実施形態の路面平坦性計測システムの試験結果を示すグラフ。
図21】第4試験の試験車の走行距離と車速との関係を示すグラフ。
図22】第5試験の従来の路面平坦性計測システムの試験結果に関するグラフ。
図23】第5試験の実施形態の路面平坦性計測システムの試験結果を示すグラフ。
図24】第5試験の試験車の走行距離と車体ヨー角速度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る路面平坦性計測装置、および、これを備える路面平坦性計測システムについて説明する。
【0023】
<1-1.路面平坦性計測システムの全体構成>
図1は、路面平坦性計測システム10(以下では、「システム10」という)の概略構成図である。システム10は、クォーターカーシミュレーションに基づいて、国際ラフネス指数(以下では、IRI(International Roughness Index)という)を再現性高く算出できるように構成されるシステムである。より詳細には、システム10は、クォーターカーシミュレーションに用いる路面プロファイルを再現性高く算出できるように構成されるシステムである。路面プロファイルは、道路上のある仮想線に沿って路面を切断した場合の2次元の表面形状であり、一定距離毎の路面の高さに関するデータである。システム10を構成する主な要素は、上下方向センサ20、左右方向センサ30、車速パルス発生装置40、取得装置50、および、路面平坦性計測装置60である。システム10の一部または全部は、計測対象の路面を走行する試験車100に搭載される。計測対象の路面は、例えば、舗装された公道における補修を検討している区間の路面、舗装された公道における任意の区間の路面、または、舗装された私有地の路面を含む。
【0024】
<1-2.上下方向センサ>
上下方向センサ20は、試験車100の車軸またはサスペンション120(図6参照)の下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する。本実施形態では、上下方向センサ20は、試験車100の左側前輪110(図6参照)のサスペンション120の下部に取り付けられ、車軸方向に対して直交する上下方向の加速度を検出する加速度センサである。上下方向センサ20は、試験車100の右側前輪のサスペンション、左側後輪のサスペンション、または、右側後輪のサスペンションに取り付けられてもよい。上下方向センサ20は、試験車100の左側前輪の車軸、右側前輪の車軸、左側後輪の車軸、または、右側後輪の車軸に取り付けられてもよい。また、上下方向センサ20は、車軸方向に対して直交する上下方向の速度を検出する速度センサであってもよい。上下方向センサ20は、検出した加速度に関する信号を取得装置50に出力する。
【0025】
<1-3.左右方向センサ>
左右方向センサ30は、試験車100の車軸またはサスペンション120(図6参照)の下部に取り付けられ、上下方向と直交する左右方向の加速度および速度の少なくとも一方を検出する。本実施形態では、左右方向センサ30は、試験車100の左側前輪110のサスペンション120の下部に取り付けられ、上下方向に対して直交する左右方向の加速度を検出する加速度センサである。左右方向センサ30は、上下方向センサ20と隣接して配置される。左右方向センサ30は、上下方向に対して直交する左右方向の速度を検出する速度センサであってもよい。左右方向センサ30は、検出した加速度に関する信号を取得装置50に出力する。
【0026】
<1-4.車速パルス発生装置>
車速パルス発生装置40は、例えば、試験車100の速度メーター(図示略)の背面に配置され、試験車100の車軸の回転数に比例したパルス信号を発生させる。車速パルス発生装置40は、パルス信号を取得装置50、および、試験車100のエンジンを制御する制御装置(図示略)に出力する。
【0027】
<1-5.取得装置>
取得装置50は、上下方向センサ20から出力された上下方向の加速度に関する信号、左右方向センサ30から出力された左右方向の加速度に関する信号、および、車速パルス発生装置40が出力したパルス信号を取得し、これらの信号を路面平坦性計測装置60に出力する。
【0028】
<1-6.路面平坦性計測装置のハード構成>
路面平坦性計測装置60は、取得装置50と有線通信または無線通信できるように接続される。路面平坦性計測装置60は、本体61、入力装置62、および、出力装置63を有する。
【0029】
本体61は、記憶部61Aおよび制御部61Bを有する。記憶部61Aおよび制御部61Bは、バス64を介して通信できるように接続される。記憶部61Aは、例えば、ハードディスクまたはソリッドステートドライブである。記憶部61Aは、路面プロファイルの算出に関する1または複数のアプリケーションソフトウェア(以下では、「路面プロファイル算出ソフト」という)を記憶する。
【0030】
制御部61Bは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、後述する機能を実行する。制御部61Bは、入力装置62からの要求に応じて記憶部61Aに記憶されている路面プロファイル算出ソフトを実行する。制御部61Bが路面プロファイル算出ソフトを実行することによって、路面平坦性計測装置60には、1または複数の機能ブロックが構築される。
【0031】
入力装置62は、例えばキーボードであり、本体61と接続される。出力装置63は、例えば、液晶ディスプレイであり、本体61から出力された信号を受信できるように、本体61と接続される。なお、本体61、入力装置62、および、出力装置63は、ノート型パーソナルコンピュータのように、一体的に構成されてもよい。
【0032】
<1-7.路面平坦性計測装置のソフト構成>
制御部61Bが記憶部61Aに記憶されている路面プロファイル算出ソフトを実行することによって構成される機能ブロックは、例えば、路面プロファイル算出部70を含む。路面プロファイル算出部70は、上下方向センサ20および左右方向センサ30によって検出される加速度に基づいて、路面プロファイル算出処理を実行する。路面プロファイル算出処理は、ローパスフィルタ処理、変位算出処理、リサンプリング処理、横力成分除去処理、および、バンドパスフィルタ処理を含む。以下では、各処理の詳細について説明する。
【0033】
<1-8.ローパスフィルタ処理>
ローパスフィルタ処理は、変位算出処理、リサンプリング処理、横力成分除去処理、および、バンドパスフィルタ処理よりも前に実行される処理である。路面プロファイル算出部70は、ローパスフィルタ処理において、上下方向センサ20によって検出された加速度、および、左右方向センサ30によって検出された加速度に双方向のローパスフィルタを施すことによって、路面凹凸に起因する試験車100の振動成分に関する周波数帯よりも高い周波数成分を除去する。路面凹凸に起因する試験車100の振動成分に関する周波数帯よりも高い周波数成分は、例えば、300Hz以上の周波数成分である。
【0034】
<1-9.変位算出処理>
変位算出処理は、ローパスフィルタ処理よりも後、かつ、リサンプリング処理よりも前に実行される処理である。路面プロファイル算出部70は、変位算出処理において、上下方向センサ20によって検出される加速度(以下では、「ばね下加速度」という)を積分することによって、サスペンション120の上下方向の速度(以下では、「ばね下速度」という)を算出し、ばね下速度を積分することによって、サスペンション120の上下方向の変位(以下では、「ばね下変位」という)を算出する。
【0035】
ばね下加速度、ばね下速度、および、ばね下変位は、以下の式(1)~(3)で表される。
ばね下加速度 f(t)=X’’(t)・・・(1)
ばね下速度 ∫f(t)dt=X’(t)+C1・・・(2)
ばね下変位 ∫∫f(t)dtdt=X(t)+C1・t+C2・・・(3)
【0036】
ばね下加速度を2回積分することによって得られるばね下変位には、周知のとおり、積分誤差が含まれる。すなわち、積分定数C1項に時間tがかかるため、時間とともに、登る坂道、または、下る坂道のような路面プロファイルとして算出される。仮に、ばね下加速度の波形に直流バイアスAが存在する場合、ばね下加速度を2回積分したばね下変位における積分誤差は、A/2・t2+C1・t+C2のような2次曲線となる。さらには、直流成分ではなく、温度ドリフト等の時間変化成分が存在する場合、さらに大きな積分誤差が生じるおそれがある。このため、本実施形態では、路面プロファイル算出部70は、変位算出処理において、ばね下加速度、ばね下速度、および、ばね下変位に対して、双方向のハイパスフィルタを施すことによって、路面凹凸に起因する試験車100の振動成分に関する周波数帯よりも低い低周波成分を除去する。
【0037】
図2は、変位算出処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。変位算出処理は、ローパスフィルタ処理よりも後、かつ、リサンプリング処理よりも前の任意のタイミングで開始される。
【0038】
ステップS11では、路面プロファイル算出部70は、ばね下加速度に双方向のハイパスフィルタを施す。このため、ばね下加速度に関して、バイアス成分および温度ドリフトが除去される。ステップS12では、路面プロファイル算出部70は、ばね下加速度を積分することによって、ばね下速度を算出する。ステップS13では、路面プロファイル算出部70は、ばね下速度に双方向のハイパスフィルタを施す。このため、ステップS12における積分定数に関するバイアスが除去される。ステップS14では、路面プロファイル算出部70は、ばね下速度を積分してばね下変位を算出する。ステップS15では、路面プロファイル算出部70は、ばね下変位に双方向のハイパスフィルタを施す。このため、ステップS14における積分定数に関するバイアスが除去される。
【0039】
<1-10.リサンプリング処理>
リサンプリング処理は、変位算出処理よりも後に実行される処理である。試験車100が同じ路面を走行した場合であっても、試験車100の車速が異なる場合、ばね下変位のサンプルポイントの時間間隔を等しくしても、試験車100の車速が高速の場合と低速の場合とでは、ばね下変位のサンプルポイントの距離間隔が一定とはならない。このため、試験車100の車速が低い場合、試験車100の車速が高い場合よりもばね下変位のサンプルポイントの距離間隔が短くなり、結果として、路面の起伏がより詳細に表現されてしまう。このため、従来技術では、試験車100の車速が低いほど、算出される国際ラフネス指数が高くなるものと考えられる。本実施形態では、路面プロファイル算出部70は、リサンプリング処理において、試験車100の累積移動距離に基づいて、等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出したばね下変位を等間隔距離データの等間隔距離軸と対応付ける。
【0040】
図3は、リサンプリング処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。リサンプリング処理は、変位算出処理よりも後の任意のタイミングで開始される。
【0041】
ステップS21では、路面プロファイル算出部70は、車速パルス発生装置40から車速パルスの信号、および、車速パルス係数を取得する。車速パルス係数は、車速パルスの1エッジあたりの距離である。なお、車速パルス係数は、予め記憶部61Aに記憶されていてもよい。
【0042】
ステップS22では、路面プロファイル算出部70は、車速パルスの信号に基づいて、車速パルスエッジを検出する。
【0043】
ステップS23では、路面プロファイル算出部70は、車速パルスエッジおよび車速パルス係数に基づいて、試験車100の累積移動距離を算出する。ステップS23では路面プロファイル算出部70は、車速パルスエッジの累積値と車速パルス係数とを乗算することによって、試験車100の累積移動距離を算出する。なお、車速パルスエッジの累積値と車速パルス係数とを乗算しただけでは、時間軸上で、同じ距離の値が複数サンプリングされる場合があるため、路面プロファイル算出部70は、車速パルスエッジの累積値と車速パルス係数とを乗算したデータを直線補間した単一増加傾向のデータを用いて、試験車100の累積移動距離を算出する。
【0044】
ステップS24では、路面プロファイル算出部70は、算出したばね下変位を等間隔距離データの等間隔距離軸と対応付ける。
【0045】
図4は、ばね下変位に関するデータ(以下では、「ばね下変位データ」という)と、試験車100の累積移動距離に関するデータ(以下では、「距離データ」という)との関係を示すグラフの一例である。ステップS24では、路面プロファイル算出部70は、ステップS23で算出した試験車100の累積移動距離に基づいて、図5に示される等間隔距離軸を有する等間隔距離データを作成し、算出したばね下変位を等間隔距離データの等間隔距離軸と対応付ける。図5に示される例では、路面プロファイル算出部70は、等間隔距離軸における距離値「2」毎にばね下変位が対応付けられる。
【0046】
ステップS24において、等間隔距離軸を有する等間隔距離データの距離データと対応するばね下変位データが存在しない場合がある。その場合、路面プロファイル算出部70は、存在しないばね下変位データの直前および直後の値に基づいて、直線補間することによって、存在しないばね下変位データ(以下では、「補間データ」という)を生成する。図4および図5に示される例では、距離値「2」の場合のばね下変位データが存在しないため、路面プロファイル算出部70は、距離値「1」および距離値「3」のときのばね下変位データを直線補間することによって、距離値「2」の場合の補間データを生成する。同様に、距離値「6」の場合のばね下変位データが存在しないため、路面プロファイル算出部70は、距離値「5」および距離値「7」のときのばね下変位データを直線補間することによって、距離値「6」の場合の補間データを生成する。距離値「8」の場合のばね下変位データが存在しないため、路面プロファイル算出部70は、距離値「7」および距離値「9」のときのばね下変位データを直線補間することによって、距離値「8」の場合の補間データを生成する。距離値「12」の場合のばね下変位データが存在しないため、路面プロファイル算出部70は、距離値「11」および距離値「13」のときのばね下変位データを直線補間することによって、距離値「12」の場合の補間データを生成する。
【0047】
<1-12.横力成分除去処理>
横力成分除去処理は、変位算出処理よりも後、かつ、リサンプリング処理よりも前または後に実行される処理である。従来の路面平坦性計測システムでは、路面に凹凸が存在しなくても、試験車100が右折、左折、または、車線変更を実施した場合に、IRIが高く算出される傾向にあった。本願発明者は、このような課題が発生する要因の1つとして、上下方向センサ20の感度軸が鉛直方向に対してロール角方向に傾いていることを見出した。一般的に用いられる試験車100の構造上、上下方向センサ20は、サスペンション120の下部、より詳細には、ショックアブソーバのロアブラケット付近に配置される。このため、キングピン角が上下方向センサ20の感度軸のずれの原因となり、上下方向センサ20の上下方向の加速度の検出精度が低下し、さらには、上下方向センサ20が、左右方向の加速度も検出する状態となる。このため、本実施形態では、路面プロファイル算出部70は、横力成分除去処理を実施することによって、左右方向センサ30によって検出される左右方向の加速度に基づいて、上下方向センサ20によって検出される加速度を補正している。
【0048】
図6に示されるように、上下方向センサ20の感度軸XAと、左右方向センサ30の感度軸XBとのなす角θAが90°であり、キングピン角θBの場合、路面入力による上下加速度Az、および、旋回等による左右加速度Ayは、上下方向センサ20によって検出される加速度az、および、左右方向センサ30によって検出される加速度ayに基づいて、以下の式(4)、(5)によって、算出される。
【0049】
Az=az・cоsθB-ay・sinθB・・・(4)
Ay=az・sinθB+ay・cоsθB・・・(5)
【0050】
また、平坦な路面における旋回では、上下加速度Azは、実質的に0とみなすことができるため、上下方向センサ20によって検出される加速度az、および、左右方向センサ30によって検出される加速度ayに基づいて、キングピン角θBは、以下のように算出できる。
【0051】
az・cоsθB-ay・sinθB=0・・・(6)
az/ay=tanθB・・・(7)
θB=tan-1(az/ay)・・・(8)
【0052】
また、市街地等の舗装路を試験車100が走行している場合、サスペンション120の動きは、主に、ばねおよびダンパーの直動であるため、キングピン角θBは、ほとんど変化せず、キングピン角θBを一定値としてみなすことができる。このため、上記式(4)、(5)の三角関数も定数とみなすことができ、路面変位Dは、計測値dに基づいて、以下の式(9)、(10)によって算出できる。
【0053】
Dz=dz・cоsθB-dy・sinθB・・・(9)
θB=tan-1(dz/dy)・・・(10)
【0054】
このため、変位算出処理において算出されたばね下変位、および、左右方向センサ30によって検出された加速度を2回積分して算出された変位に基づいて、キングピン角θB、および、横力成分を除去したばね下変位を算出できる。
【0055】
<1-13.バンドパスフィルタ処理>
バンドパスフィルタ処理は、リサンプリング処理よりも後に実行される処理である。路面プロファイル算出部70は、バンドパスフィルタ処理において、算出したばね下変位に双方向のバンドパスフィルタを施すことによって、路面凹凸に起因する試験車100の振動成分に関する空間周波数帯よりも高い空間周波数成分、および、低い空間周波数成分を除去する。路面凹凸に起因する試験車100の振動成分に関する空間周波数帯よりも高い空間周波数成分は、例えば、10cycle/m以上の空間周波数成分である。路面凹凸に起因する試験車100の振動成分に関する空間周波数帯よりも低い空間周波数成分は、例えば、0.01cycle/m以下の空間周波数成分である。
【0056】
<1-14.路面プロファイル算出処理>
図7を参照して、路面プロファイル算出処理の処理手順の一例について説明する。
路面プロファイル算出部70は、例えば、試験車100の走行が開始されたことに基づいて路面プロファイル算出処理を開始する。別の例では、路面プロファイル算出部70は、試験車100の走行が終了し、かつ、入力装置62から入力される要求に基づいて、路面プロファイル算出処理を開始する。
【0057】
ステップS31では、路面プロファイル算出部70は、取得装置50から計測データを取得する。計測データは、上下方向センサ20から出力される加速度、左右方向センサ30から出力される加速度、および、車速パルス発生装置40から出力される車速パルスを含む。記憶部61Aに車速パルス係数が記憶されていない場合、ステップS31において、路面プロファイル算出部70は、試験車100の制御装置から車速パルス係数を取得してもよい。
【0058】
ステップS32では、路面プロファイル算出部70は、ローパスフィルタ処理を実行する。ステップS33では、路面プロファイル算出部70は、変位算出処理を実行する。ステップS34では、路面プロファイル算出部70は、リサンプリング処理を実行する。ステップS35では、路面プロファイル算出部70は、横力成分除去処理を実行する。ステップS36では、路面プロファイル算出部70は、バンドパス処理を実行する。ステップS36が終了することによって、路面プロファイルが算出される。路面プロファイル算出部70は、算出した路面プロファイルに基づいて、公知のクォーターカーシミュレーションを実行することによって、IRIを算出する。
【0059】
<2.本実施形態の効果>
以上のように構成されたシステム10によれば、次の効果を得ることができる。
【0060】
<2-1>
試験車100が路面凹凸を乗り越えたとき、いわゆる「1/fゆらぎ」に類似する動揺現象が発生していると考えられる。このため、例えば、ばね上加速度には、試験車100の計測輪、および、その他の全ての車輪を介した路面からの入力波形と、試験車100の動揺および固有振動に関する波形とが重畳される。このため、路面プロファイルの算出にばね上加速度を用いた場合、再現性の高い路面プロファイルを算出できないおそれがある。本実施形態では、路面プロファイル算出部70は、ばね上加速度を用いず、ばね下加速度に基づいて路面プロファイルを算出するため、再現性の高い路面プロファイルを算出できる。
【0061】
<2-2>
路面プロファイル算出部70は、リサンプリング処理を実行するため、ばね下変位のサンプルポイントの距離間隔が一定となる。試験車100の車速依存性を排除した再現性の高い路面プロファイルを算出できる。このため、算出された路面プロファイルに基づいてクォーターカーシミュレーションを実行することによって、IRIを再現性高く算出できる。
【0062】
<2-3>
路面プロファイル算出部70は、ローパスフィルタ処理を実行するため、例えば、エンジンのクランクシャフトの回転に起因する試験車100の振動、および、電気的なノイズ、ならびに、電子回路における情報処理の電気的なノイズを除去できる。
【0063】
<2-4>
路面プロファイル算出部70は、ハイパスフィルタ処理を実行するため、バイアス成分温度ドリフト、および、積分定数に関するバイアスを除去できる。このため、路面プロファイルを再現性高く算出できる。
【0064】
<2-5>
路面プロファイル算出部70は、横力成分除去処理を実行するため、上下方向センサの感度軸XAが上下方向に対してロール角方向に傾いている場合であっても、路面プロファイルを再現性高く算出できる。また、例えば、試験車100が、右折、左折、または、車線変更等を実施した場合であっても、路面プロファイルを再現性高く算出できるため、試験車100の走行条件が従来よりも緩和される。このため、従来では計測できなかった路面での計測、および、交通状況に応じた自然な走行に基づいて、路面プロファイルを算出できる。
【0065】
<2-6>
路面プロファイル算出部70は、ばね上加速度を用いず、ばね下加速度に基づいて路面プロファイルを算出するため、路面プロファイルの算出に関して、サスペンション特性の影響を受けない。このため、試験車100として選択できる車種が多い。
【0066】
<2-7>
路面プロファイル算出部70は、ローパスフィルタ処理において、双方向のフィルタ処理を施すため、時間軸上におけるばね下加速度の位相ずれを補正できる。
【0067】
<2-8>
路面プロファイル算出部70は、変位算出処理において、双方向のフィルタ処理を施すため、時間軸上におけるばね下加速度、ばね下速度、および、ばね下変位の位相ずれを補正できる。
【0068】
<2-9>
路面プロファイル算出部70は、バンドパスフィルタ処理において、双方向のフィルタ処理を施すため、距離軸上におけるばね下変位の位相ずれを補正できる。
【0069】
<3.本実施形態の路面平坦性計測システムの計測結果>
図8図24を参照して、従来の路面平坦性計測システムによるIRIの算出結果、および、本実施形態の路面平坦性計測システムによるIRIの算出結果について説明する。なお、図8図17図19図20図22図23において、横軸は、試験車100の走行距離、縦軸は、IRIを示している。図18図21において、横軸は、試験車100の走行距離、縦軸は、試験車100の速度を示している。図24において、横軸は、試験車100の走行距離、縦軸は、試験車100の車体ヨー角速度を示している。従来の路面平坦性計測システムは、例えば、特許第5226437号公報に開示されるシステムである。
【0070】
<3-1.第1試験の結果>
図8図11は、第1試験として、試験車100が試験路Aを走行した場合の試験結果である。図8図10は、従来の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図9図11は、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。試験路Aは、400m~500m区間に舗装継ぎ目およびパッチングを有する。第1試験では、試験車100は、30km/h、45km/h、または、60km/hで試験路Aを走行した。図8および図9におけるIRI評価区間長は、5mである。図10および図11は、IRIのばらつきの程度を評価するために、IRIのグラフが収まるバンド幅を示したグラフである。図10および図11では、偶発的な特徴点を排除するため、IRI区間長は、25mであり、95パーセンタイルでバンド幅を評価している。なお、図10および図11に示されるバンド幅の値は、一例である。
【0071】
図8および図9に示されるように、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合、試験車100の車速が異なっていても、算出されるIRIのばらつきが小さいことが確認された。
【0072】
図10および図11に示されるように、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合、従来の路面平坦性計測システムを用いた場合よりも、バンド幅が小さくなることが確認された。
【0073】
<3-2.第2試験の結果>
図12図15は、第2試験として、試験車100が試験路Bを走行した場合の試験結果である。図12図14は、従来の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図13図15は、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。試験路Bは、100m地点および210m地点に隆起を有する。試験路Bは、320m地点に障害物を有する。このため、試験車100は、320m地点において、障害物を避けるように転舵する。第2試験では、試験車100は、20km/h、40km/h、60km/h、または、80km/hで試験路Bを走行した。ただし、従来の路面平坦性計測システムでは、試験車100の速度が20km/hの場合、IRIの算出の再現性が低くなるため、計測していない。図12および図13におけるIRI評価区間長は、5mである。図14および図15は、IRIのばらつきの程度を評価するために、IRIのグラフが収まるバンド幅を示したグラフである。図14および図15では、偶発的な特徴点を排除するため、IRI区間長は、25mであり、95パーセンタイルでバンド幅を評価している。なお、図14および図15に示されるバンド幅の値は、一例である。
【0074】
図12および図13に示されるように、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合、試験車100の車速が異なっていても、算出されるIRIのばらつきが小さいことが確認された。
【0075】
図14および図15に示されるように、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合、従来の路面平坦性計測システムを用いた場合よりも、バンド幅が小さくなることが確認された。
【0076】
<3-3.第3試験の結果>
図16図18は、第3試験として、試験車100が試験路Aを走行した場合の試験結果である。図16は、従来の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図17は、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図18は、試験車100の走行距離と車速との関係を示す図である。第3試験では、試験車100は、30km/h、45km/h、60km/h、または、加減速しながら試験路Aを走行した。図16および図17におけるIRI評価区間長は、5mである。
【0077】
図16に示されるように、従来の路面平坦性計測システムでは、減速から加速へ切り替わるように、加速度変化が大きいポイントで、IRIが増加する傾向にある。一方、図17に示されるように、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合、試験車100の車速が異なっていても、また、試験車100が加減速しても、算出されるIRIのばらつきが小さいことが確認された。
【0078】
<3-4.第4試験の結果>
図19図21は、第4試験として、試験車100が試験路Bを走行した場合の試験結果である。図19は、従来の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図20は、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図21は、試験車100の走行距離と車速との関係を示す図である。第4試験では、試験車100は、30km/h、45km/h、60km/h、または、加減速しながら試験路Bを走行した。図19および図20におけるIRI評価区間長は、5mである。
【0079】
図19に示されるように、従来の路面平坦性計測システムでは、減速から加速へ切り替わるように、加速度変化が大きいポイントで、IRIが増加する傾向にある。一方、図20に示されるように、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合、試験車100の車速が異なっていても、また、試験車100が加減速しても、算出されるIRIのばらつきが小さいことが確認された。
【0080】
<3-5.第5試験の結果>
図22図24は、第5試験として、試験車100が試験路Bを走行した場合の試験結果である。図22は、従来の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図23は、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合の試験結果である。図24は、試験車100の走行距離と車体ヨー角速度との関係を示す図である。第5試験では、試験車100は、20km/h、40km/h、60km/h、または、40km/hで蛇行しながら試験路Bを走行した。図22および図23におけるIRI評価区間長は、5mである。
【0081】
図22に示されるように、従来の路面平坦性計測システムでは、試験車100が転舵するポイントで、IRIが増加する傾向にある。一方、図23に示されるように、本実施形態の路面平坦性計測システムを用いた場合、試験車100の車速が異なっていても、また、試験車100が転舵しても、算出されるIRIのばらつきが小さいことが確認された。
【0082】
<4.変形例>
上記実施形態は本発明に関する路面平坦性計測装置、路面平坦性計測システム、方法、および、プログラムが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に関する路面平坦性計測装置、路面平坦性計測システム、方法、および、プログラムは、実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その一例は、実施形態の構成の一部を置換、変更、もしくは、省略した形態、または、実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下に実施形態の変形例の幾つかの例を示す。
【0083】
<4-1>
路面プロファイル算出処理の内容は、任意に変更可能である。例えば、図7に示される路面プロファイル算出処理において、ローパスフィルタ処理、横力成分除去処理、および、バンドパスフィルタ処理の少なくとも1つを省略できる。また、横力成分除去処理を変位算出処理よりも後、かつ、リサンプリング処理よりも前に実行してもよい。
【0084】
<4-2>
上記実施形態では、路面プロファイル算出部70は、リサンプリング処理において、車速パルスに基づいて試験車100の移動の累積距離を算出したが、試験車100の車速に基づいて、試験車100の移動の累積距離を算出してもよい。ただし、本実施形態のように車速パルスに基づいて試験車100の移動の累積距離を算出する場合よりも、累積距離の算出精度は、試験車100の車速が変化する場合は、特に低くなる傾向にある。
【0085】
<4-3>
上記実施形態では、車速パルス係数は、記憶部61Aに予め記憶されていたが、例えば、計測対象の路面の長さが予め把握できている場合、路面プロファイル算出部70は、計測対象の路面の長さを試験車100が計測対象の路面を走行している間に得られる車速パルスエッジの累積値で除算することによって、車速パルス係数を算出してもよい。また、路面プロファイル算出部70は、GPS(Global Positioning System)等を用いて計測された試験車100の車速を車速パルス周波数で除算することによって、車速パルス係数を算出してもよい。路面プロファイル算出部70は、車速パルス周波数の算出において、例えば、任意の車速パルスエッジと次の車速パルスエッジとの間隔時間TXを求め、間隔時間TXの逆数1/TXをその間隔の平均周波数として算出する。路面プロファイル算出部70は、好ましい例では、算出された複数の平均周波数にローパスフィルタを施して平滑化することによって、車速パルス周波数を算出する。
【0086】
<4-4>
上記実施形態では、路面平坦性計測装置60は、取得装置50と有線通信または無線通信できるように接続されていたが、路面平坦性計測装置60と取得装置50とは、通信可能に接続されていなくてもよい。この場合、取得装置50によって取得された計測データ等の情報は、例えば、USBフラッシュメモリまたはSDメモリカード等の補助記憶装置に保存される。路面平坦性計測装置60は、補助記憶装置から計測データ等の情報を取得することによって、路面プロファイルを算出する。
【符号の説明】
【0087】
10 :路面平坦性計測システム
20 :上下方向センサ
30 :左右方向センサ
60 :路面平坦性計測装置
100:試験車
110:車輪
120:サスペンション
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24