(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】自動車のハイブリッドパワートレインで用いられる電圧変調装置の操作方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20240118BHJP
B60W 20/11 20160101ALI20240118BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240118BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20240118BHJP
H02P 27/04 20160101ALI20240118BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240118BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240118BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240118BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W20/11 ZHV
B60K6/48
B60W20/15
H02P27/04
B60L9/18 J
B60L50/16
B60L58/12
(21)【出願番号】P 2020531933
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 FR2018053045
(87)【国際公開番号】W WO2019122565
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-02
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311009022
【氏名又は名称】ルノー エス.アー.エス.
(73)【特許権者】
【識別番号】516017684
【氏名又は名称】ユニバーシテ ド オルレアン
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】アジェ-サイド, スワド
(72)【発明者】
【氏名】ケットゥフィ-シェリフ, アメード
(72)【発明者】
【氏名】コラン, ギヨーム
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-229916(JP,A)
【文献】特許第5698868(JP,B2)
【文献】特開2009-143524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
H02P 27/04
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド自動車(1)のトラクションバッテリ(31)から自動車(1)の電気機械(36)に供給される、電流の電源電圧(Ue)の変調装置(33)の操作方法であって、
自動車(1)を推進するために求められるエネルギー値(Pr)およびトラクションバッテリ(31)に関連付けられる等価係数(λ)に応じて、電気機械(36)が発生させるべき最適電気トルク(T
e
opt)を決定する工程と、
前記最適電気トルク(T
e
opt)および電気機械(36)の回転数(ω
e)
の関数を計算式として用いて、最適電源電圧(U
e
opt)
を計算する工程であって、前記最適電源電圧(U
e
opt)は、少なくとも変調装置(33)と電気機械(36)を含む群(32)の電気損失を最小化する工程と、
前記変調装置(33)を、前記最適電源電圧(U
e
opt)を供給するよう制御する工程と、を含む操作方法。
【請求項2】
前記回転数(ω
e)が前記最適電気トルク(T
e
opt)に応じて決定される2つの限界値(ω
e
lim1、ω
e
lim2)の間に含まれる場合、前記最適電源電圧(U
e
opt)は、前記最適電気トルク(T
e
opt)および電気機械(36)の回転数(ω
e)のみに応じて計算される、請求項1に記載の操作方法。
【請求項3】
前記回転数(ω
e)が前記2つの限界値(ω
e
lim1、ω
e
lim2)の間に含まれる場合、前記最適電源電圧(U
e
opt)は、以下の式により計算される、請求項2に記載の操作方法:
U
e
opt=u
2(T
e
opt).ω
e
2+u
1(T
e
opt).ω
e+u
0(T
e
opt)、式中
U
e
optは最適電源電圧、
T
e
optは最適電気トルク、
ω
eは電気機械(36)の回転数、
u
0、u
1、u
2は所定の関数。
【請求項4】
前記回転数(ω
e)が前記2つの限界値(ω
e
lim1、ω
e
lim2)を下回る場合、前記最適電源電圧(U
e
opt)は、トラクションバッテリ(31)の端子電圧(U
batt)に等しくなるよう選択される、請求項2および3のいずれか一項に記載の操作方法。
【請求項5】
前記回転数(ω
e)が前記2つの限界値(ω
e
lim1、ω
e
lim2)を上回る場合、前記最適電源電圧(U
e
opt)は、最適電気トルク(T
e
opt)の関数を値に持つ最大電圧閾値
【数1】
に等しくなるよう選択される、請求項2および3のいずれか一項に記載の操作方法。
【請求項6】
前記最適電気トルク(T
e
opt)は、
関数を計算式として用いた計算により決定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の操作方法。
【請求項7】
前記最適電気トルク(T
e
opt)は、以下の式により計算される、請求項6に記載の操作方法:
T
e
opt=P
m
opt/ω
eであり、
P
m
opt=(a-λ.b
1)/(2.λ.b
2)、
P
r-P
m
opt≦P
limである場合a=a
1、およびP
r-P
m
opt>P
limである場合a=a
2、
P
m
opt≦0である場合b
1=b
1
-でb
2=b
2
-、およびP
m
opt>0である場合b
1=b
1
+でb
2=b
2
+、
式中
T
e
optは最適電気トルク、
P
m
opt
は最適電気機械力、
ω
eは電気機械(36)の回転数、
λはトラクションバッテリ(31)の等価係数、
ω
eは電気機械(36)の回転数、
P
rは車輪への動力、
P
limは電気機械(36)の回転数の可変関数、
a
1、a
2、b
1
-、b
2
-、b
1
+、b
2
+は所定の定数。
【請求項8】
前記最適電気トルク(T
e
opt)および前記最適電源電圧(U
e
opt)は、自動車(1)の内燃機関(22)の燃料消費および前記群(32)の電流消費の関数であるハミルトン演算子(H
hyb)が最小化される場合、前記群(32)の電気損失を最小化させる、請求項1~7のいずれか一項に記載の操作方法。
【請求項9】
前記エネルギー値(Pr)が自動車(1)の駆動輪(10)に関して要求される動力である、請求項1~8のいずれか一項に記載の操作方法。
【請求項10】
自動車(1)のハイブリッドパワートレインの操作指示を計算し、制御する方法であって、
前記ハイブリッドパワートレインは、一方でトラクションバッテリ(31)により電流を供給される電気機械(36)と、電圧変調機器(33)と、インバータ(35)とを含み、他方でタンク(21)により燃料を供給される内燃機関(22)を含み、前記方法は、
自動車(1)の推進に必要なエネルギー値(Pr)と、トラクションバッテリ(31)に関連する等価係数(λ)と、内燃機関(22)の回転数(ω
th)と、電気機械(36)の回転数(ω
e)を求める工程と、
電気機械(36)の前記最適電気トルク(T
e
opt)と、回転数(ω
e)とに応じて、電気機械(36)が生成するべき第一の動力(P
m)を計算する、請求項1~9のいずれか一項に記載の操作方法に基づき変調機器(33)を操作する工程と、
第一の動力(P
m)と、前記エネルギー値(Pr)に応じて、内燃機関(22)が生成するべき第二の動力(P
th)を計算する工程と、
前記電気機械(36)と内燃機関(22)に、第一と第二の動力(P
m、P
th)をそれぞれ生成するよう制御する工程と、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明が関連する技術分野
本発明は、一般的に、ハイブリッドパワートレイン、すなわち電気機器と内燃機関とを含むパワートレインを備える自動車に関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、このような自動車の電気機器の電源電圧の変調装置の操作方法に関する。
本発明は、また、このような自動車のハイブリッドパワートレインの操作方法に関する。
【背景技術】
【0003】
技術的な背景
ハイブリッド自動車は、従来の熱トラクションチェーン(内燃機関、燃料タンク、ギアボックスを有する)および、電気トラクションチェーン(トラクションバッテリ、インバータ、電気機器を有する)を含む。
パラレルハイブリダイゼーションの場合、このような自動車は、電気トラクションチェーンのみにより、または熱トラクションチェーンのみにより、または電気および熱の2つのトラクションチェーンにより牽引され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、2つのトラクションチェーンからの電流と燃料の消費を常に最小限に抑え、汚染成分の大気中への放出を最大限に低減し、車両の可能な限り長い走行距離を保証することである。
この目標を達成するための解決法は、インバータの最適電源電圧、すなわち電気トラクションチェーンの電気損失を最小限に抑える電圧を見つけることである。
【0006】
米国特許第8324856号明細書に、電気機械のトルクと回転数のそれぞれに電圧値を関連付けるマッピングを用いてこの最適電源電圧を決定する方法が開示される。
しかし、出願人は、この方法では、とりわけ電源電圧の提案された離散化が十分に細かくなかったため、必ずしも所望よりも有効な結果を得られなかったことを確認した。出願人は、この離散化は実際には2段階の電源電圧しか含まないことを観察した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の目的
従来技術の上記課題を解決するために、本発明は、最適電源電圧の分析的な計算を提案する。
より詳細には、本発明により、序文に定義されるような操作方法が提案され、
自動車を推進するために求められるエネルギー値およびトラクションバッテリに関連付けられる等価係数に応じて、電気機械が発生させるべき最適電気トルクを決定する工程と、
上記最適電気トルクおよび電気機械の回転数に応じて、最適電源電圧を分析的に計算する工程であって、上記最適電源電圧は、少なくとも変調装置と電気機械を含む群の電気損失を最小化する工程と、
上記変調装置を、上記最適電源電圧を供給するよう制御する工程と、が備えられる。
【0008】
本発明により、最適電源電圧の正確な値を合成するべく分析的モデルを用いる。
このような分析的モデルの利用は、2つの主要な理由、すなわち、得られる結果の信頼性とハイブリッド自動車の異なるカテゴリにおける実施の容易性により有用であることが明らかである。
【0009】
提供された解決法の他の利点は以下のとおりである。この方法が必要とするのは非常に低い計算能力である。これは(電気トラクションチェーンの損害と、車両の乗客の突然の不快感とを避けるべく)圧力変調装置の制御の連続性を保証する。運転のあらゆる場面において、自動車の全体的な性能を享受することができる。
【0010】
本発明の操作方法のその他の有利かつ限定的でない特徴は以下のとおりである:
回転数が上記最適電気トルクに応じて決定される2つの限界値の間に含まれる場合、上記最適電源電圧は上記最適電気トルクおよび電気機械の回転数のみに応じて計算される;
【0011】
回転数が上記2つの限界値の間に含まれる場合、上記最適電源電圧は以下の式により求められる、
Ue
opt=u2(Te
opt).ωe
2+u1(Te
opt).ωe+u0(Te
opt)、式中
Ue
optは最適電源電圧、
Te
optは最適電気トルク、
ωeは電気機械の回転数、
u0、u1、u2は所定の関数である;
【0012】
回転数が上記2つの限界値を下回る場合、
上記最適電源電圧はトラクションバッテリの端子電圧に等しくなるよう選択される;
回転数が上記2つの限界値を上回る場合、
上記最適電源電圧は、最適電気トルクの関数を値に持つ最大電圧閾値に等しくなるよう選択される;
【0013】
上記最適電気トルクは分析的計算により決定される;
上記最適電気トルクは以下の式により計算される、
Te
opt=Pm
opt/ωeであり、
Pm
opt=(a-λ.b1)/(2.λ.b2)、
Pr-Pm
opt≦Plimである場合a=a1、およびPr-Pm
opt>Plimである場合a=a2、
Pm
opt≦0である場合b1=b1
-でb2=b2
-、およびPm
opt>0である場合b1=b1
+でb2=b2
+であり、
式中
λはトラクションバッテリの等価係数、
ωeは電気機械の回転数、
Prは車輪への動力、
Plimは電気機械の回転数の可変関数、
a1、a2、b1
-、b2
-、b1
+、b2
+は所定の定数である;
【0014】
上記最適電気トルクおよび上記最適電源電圧は、自動車の内燃機関の燃料消費および上記群の電流消費の関数であるハミルトン演算子が最小化される場合、上記群の電気損失を最小化させる;
上記エネルギー値が自動車の駆動輪に関して要求される動力である。
【0015】
本発明はまた、
自動車のハイブリッドパワートレインの操作指示の計算方法であって、
上記ハイブリッドパワートレインは、一方でトラクションバッテリにより電流を供給される電気機械と、電圧変調機器と、インバータとを備え、他方でタンクにより燃料を供給される内燃機関を備え、上記方法は、
自動車の推進に必要なエネルギー値と、トラクションバッテリに関連する等価係数と、内燃機関の回転数と、電気機械の回転数を求める工程と、
電気機械の上記最適電気トルクと、回転数とに応じて、電気機械が生成するべき第一の動力を計算する、上記のような方法に基づき変調機器を操作する工程と、
第一の動力と、上記エネルギー値に応じて、内燃機関が生成するべき第二の動力を計算する工程と、
上記電気機械と内燃機関に、第一と第二の動力をそれぞれ生成するよう制御する工程と、を含む計算方法に関する。
【0016】
添付の図面に関する以下の記述は、非限定的な例であり、発明の内容と、どのように実施できるかを明確にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ハイブリッド自動車のトラクションチェーンの概略図である。
【
図2】
図1に示される自動車の電気機械の最適電源電圧の値の、この電気機械により生成された電気トルクとこの電気機械の回転数とに応じた変動を示す図である。
【
図3】電気機械の異なる回転数に対する、電気機械により生成される電気トルクに応じて電気バッテリにより生成される最適電力の変動を示す図である。
【
図4A】3つの異なる電気トルクに対する、電気機械の回転数に応じた最適電源電圧の変動を示す図である。
【
図4B】3つの異なる電気トルクに対する、電気機械の回転数に応じた最適電源電圧の変動を示す図である。
【
図4C】3つの異なる電気トルクに対する、電気機械の回転数に応じた最適電源電圧の変動を示す図である。
【
図5】電気機械の回転数に応じた最適電源電圧の変動モデルを示す図であり、モデルはすべての電気トルクに適応できる。
【
図6】電気機械により生成された電気トルクに応じた電気機械の回転数の2つの限界値の変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来、自動車は、特にパワートレイン、ボディパーツ、内装パーツを支持するシャシーを含む。
図1に示されるように、ハイブリッド自動車1において、ハイブリッドパワートレインは、熱トラクションチェーン20と、電気トラクションチェーン30とを含む。
【0019】
熱トラクションチェーン20は特に、燃料タンク21と、燃料タンクから燃料を供給され、出力軸が自動車の駆動輪10に接続される内燃機関22とを含む。
一方、電気トラクションチェーン30は、トラクションバッテリ31と、電圧変調装置33と、インバータ35と、1(または複数の)電気機械36とを含む。
【0020】
電圧変調装置33はここでは、入力側がトラクションバッテリ31に接続され、出力側がインバータ35に接続される昇圧装置である。
インバータ35は、電圧変調装置33から受け取る直流から交流を発生させるよう構成されている。
【0021】
電気機械36はここでは、出力軸が自動車の駆動輪10に接続された電気モータである。
インバータ35と電気機械36はここでは、装置34として一体化されている。
【0022】
電圧変調装置33と、インバータ35と、電気機械36はここでは、「電流消費群32」として定義される。
2つのトラクションチェーン20および30が合流し、伝達装置40を介して、自動車の駆動輪10を回転駆動できる。
【0023】
自動車1はまた、ここでは計算機50と呼ばれる電子制御装置(または「Electronic Control Unit」ECU)を含み、これは上記2つのトラクションチェーン(特に電気機械36と内燃機関22とによって生成された動力)を制御できる。
計算機50は、プロセッサと、以下に説明する手順において使用されるデータを記録するメモリを含む。
【0024】
このメモリには、特に
図6に示すタイプのマッピングが記録される(本明細書の以下に詳しく説明される)。
このメモリには同様に、プロセッサにより実行されることで以下に記載の手順が計算機50により実施されることを可能とする命令を含むコンピュータプログラムで構成されるコンピュータアプリケーションも記録される。
【0025】
本発明の実施のために、計算機50は、センサに接続されている。
計算機は特に、内燃機関22および電気機械36の回転速度、すなわち回転数を測定するよう構成されたセンサに接続されている。
【0026】
計算機はまた、車両のどの程度の加速または減速が必要であるかを決定するセンサに接続される。センサは、車両のアクセルペダルの位置を測定するセンサ、または車両の速度を測定するセンサ(車両が運転者によって規定される速度指示に従うべき場合)の場合がある。
計算機50はこのように、所望のダイナミクスでこの車両を前進させるために車両の運転者が必要とするエネルギーに関するデータの値を決定することができる。ここでは、計算機50が、駆動輪10が受け取るべき動力の値(以下、「タイヤPrへの動力」と呼ぶ)をより正確に決定すると考えられる。
【0027】
ここで、本発明をよりよく理解するための他の概念を定義することができる。
トラクションバッテリ31から電圧変調装置33に供給される電力の値を、ここでは「バッテリ電力Pbat」と呼ぶ。
【0028】
電圧変調装置33からインバータ35に供給される電力の値を、ここでは「供給電力Pelec」と呼ぶ。
電圧変調装置33によって供給される電流の電圧値を「電源電圧Ue」と呼ぶ。
【0029】
駆動輪10に対し電気機械32のみにより供給される動力の値を、ここでは「電気機械力Pm」と呼ぶ。
駆動輪10に対し内燃機関22のみにより供給される動力の値を、ここでは「熱機械力Pth」と呼ぶ。
内燃機関22の燃料消費量を、「燃料供給量Q」と呼ぶ。
【0030】
熱エネルギーのコストを考慮し、「トラクションバッテリ31の等価係数λ」を、トラクションバッテリ31に蓄積された電気エネルギーの「エネルギーコスト」と呼ぶ。または、等価係数は、熱エネルギーのコストに対する電気エネルギーのコストの相対的な値の関数である。その値は、電気機械36または内燃機関22のうち自動車1の推進により好ましい方に応じて選択される。この等価係数は、g/Whで表される。
【0031】
本発明の目的は、電気機械36および内燃機関22がそれぞれ、電流32の消費群における最小電気損失を保証しつつ、運転者により要求される車輪Prへの動力の要求を満足するためにもたらすべき寄与を決定することである。この目的はより詳細には、この電気損失の低減を保証する最適電源電圧値Ue
optを見つけることである。
あるいは、以下に説明する方法の目的は、要求される車輪Prへの動力の値に応じて、内燃機関22の回転数ωth、電気機械36の回転数ωe、これらの最小電気損失を保証するトリプレット{Ue
opt、Pth
opt、Pm
opt}(上付き「opt」は最適値を意味する)を見つけることである。
【0032】
発明の十分な理解を確実にするために、自動車1に搭載の計算機50がトリプレット{Ue
opt、Pth
opt、Pm
opt}の計算に到達する方法は、本明細書の前半でより詳細に説明される。
本明細書の後半では、本発明に至った推論を詳述する。
【0033】
前半では、自動車1の起動時に計算機50によって実施される方法を説明する。
この方法は、再帰的に実施される、すなわちループ状に定期的に行われる以下に示す5つの主要な工程で構成される。
【0034】
第1の工程では、計算機50は、例えば、自動車のアクセルペダルの位置を考慮して、車輪Prに要求される動力を取得する。
計算機はまた、例えば角速度センサを使用して、電気機械36の回転数ωeと内燃機関22のモータの回転数ωthとを取得する。
計算機はまた、メモリ内のトラクションバッテリ31の等価係数λの値を読み取る。この値は、あらかじめ決められている(これは、常に不変であることを意味する)。
【0035】
第2の工程では、計算機50は、主に車輪Prに要求される動力と等価係数λ(車両を前進させるための各トラクションチェーン20および30の寄与を計算するために決定的であると思われる)を考慮して、運転者の要求に応じて電気機械36が生成するべき最適電気トルクTe
optを計算する。
このために、計算機50はまず、最適電気機械力Pm
optを決定する。計算機はここで、内燃機関22の回転数ωth、また車輪Prに必要とされる動力、および等価係数λに応じて、この動力を分析的に決定する。
【0036】
ここで、計算機は次の数式を利用する:
Pm
opt=(a-λ.b1)/(2.λ.b2)[式1]
本数式においてデータは以下のとおりである:
Pr-Pm
opt≦Plimの場合a=a1、かつPr-Pm
opt>Plimの場合a=a2、
Pm
opt≦0の場合b1=b1
-でb2=b2
-、かつPm
opt>0の場合b1=b1
+でb2=b2
+、
式中
λはトラクションバッテリの等価係数、
ωeは電気機械の回転数、
Prは車輪への動力、
Plimは電気機器の回転数の可変関数、また
a1、a2、b1
-、b2
-、b1
+、b2
+は所定の定数である。
【0037】
次いで計算機は、ここでは以下の式により、分析的に最適電気トルクTe
optを推論する:
Te
opt=Pm
opt/ωe[式2]
【0038】
第3の工程では、計算機50は、電流32の消費群における電気損失を最小限に抑えるべく電圧調整装置33が供給すべき最適電源電圧U
e
optを分析的に計算する。
このために、計算機はまず、メモリ内のマッピングにより、電気機械36の動作領域を決定する。
図6は、このマッピングの実現例を模式的に示し、3つの領域I、II、およびIIIが観察される。これらの領域は、電気機械36の回転数ω
eの閾値に対応し、電気トルクT
eに応じて変化する2つの曲線ω
e
lim1およびω
e
lim2によって互いに分離される。
【0039】
領域が決定されると、回転数ωeが2つの限界値ωe
lim1およびωe
lim2の間にある場合(領域II)、最適電源電圧Ue
optは、上記最適電気トルクTe
optと電気機械36の回転数ωeに応じて排他的に計算される。次の数式に従って、より正確に計算される:
Ue
opt=u2Te
opt.ωe
2+u1Te
opt.ωe+u0Te
opt[式3]
この式では、u0、u1、u2は、車種により異なる所定の関数(すなわち計算機50のメモリに格納される)である。
【0040】
一方、回転数ω
eが2つの閾値ω
e
lim1、ω
e
lim2を下回る場合(領域I)、最適電源電圧U
e
optは、トラクションバッテリ31の端子電圧U
battと等しいと考えられる(
U
e
=U
battと記載される)。
最後に、回転数ω
eが2つの閾値ω
e
lim1、ω
e
lim2を上回る場合(領域III)、最適電源電圧U
e
optは、最大電圧閾値
【数1】
と等しいと考えられ、
【数2】
は、あらかじめ決められ、その値は最適電気トルクT
e
optの関数を変動させる。最大電圧閾値
【数3】
のこの変動は、ベンチテストであらかじめ決められ、計算機50のメモリに格納される。
【0041】
第4の工程では、計算機は、次の数式を使用して、最適電気機械力Pm
optと車輪Prに要求される動力に応じて、内燃機関22が生成するべき最適熱機械力Pth
optを分析的に決定する:
Pth
opt=Pr-Pm
opt[式4]
【0042】
最後に、最終工程で、計算機50は、
変調装置33に最適電源電圧Ue
optを提供させ、
インバータ35に、電気機械36が最適電気機械力Pm
optと最適電気トルクTe
optを生成するようにさせ、
内燃機関22に最適熱機械力Pth
optを生成させる。
この方法により、要求される動力を2つのトラクションチェーン20および30のそれぞれに分配し、電気損失の低減を保障させることができる。
【0043】
本明細書の後半では、上述の方法に至った推論を説明し、この推論により上記式に現れる異なる係数の取得方法を理解することができる。
まず、出願人が最適電源電圧Ue
optを計算する式3に至った方法を説明することができる。
【0044】
用いられる方法は、ポントリャーギンの最小原理に基づく。この原理は、特定の演算子、すなわち、ハミルトン演算子に適用される。
ハミルトン演算子はここで、一方で燃料供給量Qの関数、他方で消費された電力P
batと等価係数λの積の関数として定義される。次のように表される:
【数4】
ポントリャーギンの最小原理によると、このハミルトン演算子は探索される最適値を見つけるべく最小化されなければならない。
【0045】
すなわち、
【数5】
または、
【数6】
または、
【数7】
この式の分析的な解は複雑であるため、方法は、ベンチテスト測定を確立することから構成された。したがって、最適電圧に応じて最小電気損失の2次元マッピングが確立された。このマッピングは
図2に示される。
【0046】
図2に、このマッピングを示す:横軸に電気機械36の回転数ω
eを、縦軸にこの電気機械36によって生成された電気トルクT
eを取り、グレースケールで、対応する電気機械36の最適電源電圧U
e
optを示す。
図3に、同様の別のマッピングを示す:横軸に電気機械36によって生成された電気トルクT
eを、縦軸に電気バッテリ31によって生成された最適バッテリ電力P
batt
optを取る。曲線は電気機械36の異なる回転数ω
eに対応する。
【0047】
図2から、電気機械36の回転数ω
eと、この電気機械36によって生成された電気トルクT
eのみに応じて最適電源電圧U
e
optを推測することができることが理解される。
図4A~4Cに、
図2の結果である、3つの異なる電気トルクT
e(-200Nm、0Nm、50Nm)のために示される電気機械36の回転数ω
eのみに応じて最適電源電圧U
e
optの変動を示す3本の曲線を示す。
【0048】
次に出願人は、これらの曲線が相似形であることを観察し、
図5に示すモデル曲線を用いて、電気機械36の回転数ω
eに応じて最適電源電圧U
e
optの変動をモデル化することが可能であることを観察した。
図5に示すように、このモデル曲線は、2つの閾値ω
e
lim1およびω
e
lim2を示し、その両側では最適電源電圧U
e
optが変動せず、その間では変動する。
出願人はまた、
図6に示す曲線によってこれら2つの閾値ω
e
lim1およびω
e
lim2の変動をモデル化することが可能であることを観察した。
【0049】
出願人はそこで、以下のようにモデル曲線の補間式を決定した:
【数8】
この式から最適電源電圧U
e
optの分析的計算が導かれる。
関数u
0、u
1、u
2、
【数9】
、ω
e
lim1およびω
e
lim2はすべてベンチテストで求められるべきことが観察される。
【0050】
図9に示すように、また本明細書の前半に記載されるように、最適電源電圧U
e
optを算出するためには、最適電気トルクT
e
optを知る必要がある。
出願人が本明細書の前半で説明した方法に到達することを可能にした推論を理解するべく、次の情報を提供できる。
図3に、最適バッテリ電力P
batt
optの変動が、最適電気トルクT
e
optに関して凸状であることが示される。
【0051】
電気機械力P
mは、電気トルクT
eと回転数ω
eの積に等しい。
したがって、次の式を使用して、電気機械力P
mに応じて最適バッテリ電力P
batt
optの変動を分析的にモデル化することができる:
【数10】
ここでまた、式中の異なる係数はベンチテストで測定される必要があり、ハイブリッドパワートレインごとに異なる。
【0052】
次いで用いられる方法はまた、上記ハミルトン演算子に適用される最小ポントリャーギンの最小原理に基づく。
ポントリャーギンの最小原理に従って、このハミルトン演算子は求められる最適値を見つけるために最小化されなければならない。
【0053】
すなわち、
【数11】
あるいは、
【数12】
そこで、式13(以下参照)で説明されているように、燃料供給量Qを分析的にモデル化しつつ、最適電気機械力P
m
optの式(式1)を推測できる。
【数13】
【0054】
このモデルでは、係数a1とa2が車種ごとに実験的に得られる(考慮された車両の車種に対して複数の試験を行い、最小二乗によりそれらの値を推定することによって)。
変数Q0、Qlim、Pth,min、PlimおよびPth,maxは、内燃機関22の回転数ωthに応じて変化する変数である。
【0055】
これらの変数は、次のようにモデル化される:
Q0(ωth)=q2.ωth
2+q1.ωth+q0、
Qlim(ωth)=a1.Plim+Q0(ωth)、
Plim(ωth)=p1.ωth+p0、
Pth,max(ωth)=k1.ωth+k0、
Pth,min(ωth)=-Q0(ωth)/a1。
このモデル化において、q0、q1、q2、p0、p1、k0、k1は、各車種について実験的に得られた定数である。