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特許7422084RET変化を有する癌の処置において使用するためのRET阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】RET変化を有する癌の処置において使用するためのRET阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20240118BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20240118BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K31/282
A61K31/47
A61K31/517
A61K31/519
A61K33/243
A61K39/395 N
A61P35/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2020553633
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 US2019025655
(87)【国際公開番号】W WO2019195471
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-07-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】62/652,284
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/656,297
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/657,605
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/741,683
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515010246
【氏名又は名称】ブループリント メディシンズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンス ラーブ, エリカ
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ, ベニ ビー.
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】前田 佳与子
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/079140(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAPlus・REGISTRY・MEDLINE・BIOSIS・EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフェクションの間の再編成(RET)の変化を有する癌の処置における使用のための、
【化1】


またはその薬学的に許容され得る塩を含む組成物であって
記処置が、00mgまたは400mgの化合物1またはその薬学的に許容され得る塩を1日1回、前記被験体に経口投与することを含み、前記RETの変化が、RET融合またはRET変異を含み、前記RETの変化を有する癌が、非小細胞肺癌(NSCLC)および甲状腺癌から選択される、組成物。
【請求項2】
前記甲状腺癌が、分化甲状腺癌(DTC)、髄様甲状腺癌(MTC)および未分化甲状腺癌から選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記分化甲状腺癌が、乳頭様甲状腺癌(PTC)および濾胞性甲状腺癌から選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記RETの変化を有する癌が、RET融合非小細胞肺癌(NSCLC)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記RETの変化を有する癌が、RET融合甲状腺癌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記癌が分化甲状腺癌である、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記癌が濾胞性甲状腺癌である、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記癌が乳頭様甲状腺癌である、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記癌が未分化甲状腺癌である、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
前記RET融合が、RETと、CLIP 1、PIBF1、BCR、FGFRIOP、CEP55、CUX1、MYH13、PTClex9、MPRIP、CCDC6、KIF5B、TRIM33、MBD1、RAB61P2、PRKAR1A、TRIM24、KTN1、HOOK3、TRIM27、AKAP13、FKBP15、ERC1、KIAA1468、KIAA1217、NCOA4、GOLGA5、SPECC1L、TBL1XR1またはACBD5との融合である、請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記RET融合が、RETと、CCDC6、KIF5B、TRIM33、TRIM24、またはNCOA4との融合である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記RET融合が、RETと、CLIP 1、PIBF1、CUX1、MPRIP、KIF5B、CCDC6、NCOA4、TRIM33、KIAA1468、またはKIAA1217との融合である、請求項に記載の組成物。
【請求項13】
前記RET融合が、RETと、ERC1、GOLGA5、MYH13、PTClex9、MBD1、RAB61P2、PRKAR1A、TRIM24、KTN1、HOOK3、TRIM27、AKAP13、FKBP15、SPECC1L、TBL1XR1、ACBD5、CCDC6、NCOA4、TRIM33、KIAA1468、KIF5B、またはKIAA1217との融合である、請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記RETの変化を有する癌が、RET変異を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記RETの変化を有する癌が、RET変異体甲状腺癌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記RET変異またはRET変異体が散発性である、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
前記RET変異またはRET変異体が遺伝性である、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項18】
前記RET変異またはRET変異体が、V804L、V804M、V804E、M918T、C609Y、C609S、C609G、C609R、C609F、C609W、C611R、C611S、C611G、C611Y、C611F、C611W、C618S、C618R、C618Y、C618G、C618F、C618W、C620S、C620W、C620R、C620G、C620L、C620Y、C620F、C630A、C630R、C630S、C630Y、C630F、C634W、C634Y、C634S、C634F、C634G、C634L、C634A、C634T、L790F、R844W、R844Q、R844L、A883F、A883S、A883T、K666E、K666M、またはK666Nである、請求項1417のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記癌が髄様甲状腺癌(MTC)である、請求項1418のいずれか1項の記載の組成物。
【請求項20】
前記癌が放射性ヨウ素(RAI)不応性である、請求項13および1519のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記癌が転移性である、請求項1~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記被験体が、白金による事前の処置を受けている、請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記白金が、カルボプラチンおよびシスプラチンから選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記被験体が、カボザンチニブまたはバンデタニブあるいはその両方による事前の処置を受けている、請求項1~23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
前記被験体に、1日1回300mgの化合物1が投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記被験体に、1日1回400mgの化合物1が投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
前記RETの変化を有する癌が、RET変異体甲状腺癌であり、前記被験体に、1日1回00mgまたは400mgの化合物1が経口投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項28】
前記RETの変化を有する癌が、RET融合非小細胞肺癌(NSCLC)であり、前記被験体に、1日1回00mgまたは400mgの化合物1が経口投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項29】
前記RETの変化を有する癌が、RET融合甲状腺癌であり、前記被験体に、1日1回00mgまたは400mgの化合物1が経口投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物が、1つまたはそれを超える固形剤形として投与される、請求項1~29のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
前記1つまたはそれを超える固形剤形が錠剤である、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記1つまたはそれを超える固形剤形がカプセルである、請求項30に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年4月3日出願の米国特許仮出願第62/652,284号、2018年4月11日出願の米国仮出願第62/656,297号、2018年4月13日出願の米国仮出願第62/657,605号および2018年10月5日出願の米国仮出願第62/741,683号の優先権を主張する。これらの内容は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
本開示は、有効量の選択的RET阻害剤、すなわち、1つまたはそれを超えるRETキナーゼまたはRET変化型(RET-altered)キナーゼを選択的に標的とするように特異的にデザインされた化合物を投与することによって、活性化するRET変化を有する癌に罹患した被験体を処置するための方法に関する。本明細書中で使用されるとき、用語「癌に罹患した」は、癌を有していることを意味する。別言すれば、癌に罹患した被験体は、癌を有する。より詳細には、本明細書中に記載される方法は、活性化するRET変化を特徴とする癌を有する被験体の処置に関する。いくつかの実施形態において、選択的RET阻害剤は、化合物1またはその薬学的に許容され得る塩である。いくつかの実施形態において、選択的RET阻害剤は、1日1回投与される。いくつかの実施形態において、有効量は、60mg~400mg、100mg~400mg、300mgまたは400mgである。いくつかの実施形態において、有効量は、1日1回投与される、60mg~400mg、100mg~400mg、300mgまたは400mgである。いくつかの実施形態において、癌は、RET変化型固形腫瘍、RET変化型非小細胞肺癌またはRET変化型甲状腺癌である。いくつかの実施形態において、癌は、脳腫瘍であり、その脳腫瘍は、非小細胞肺癌に付随する。本開示は、生理学的有効量の、少なくとも1つの影響マーカー(effect marker)の持続的ダウンレギュレーションをもたらす選択的RET阻害剤を投与することによって、RET変化型癌を処置する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
レセプターチロシンキナーゼ(RTK)であるRETは、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)およびGDNFファミリーレセプター-α(GFRα)とともに、いくつかの神経、神経内分泌および尿生殖器の組織タイプの発生、成熟および維持に必要である。しかしながら、RETの異常な活性化を、幅広い固形腫瘍における腫瘍の成長および増殖の極めて重要な推進物質として意味づける証拠が増え続けている(Mulligan LM.,Nat.Rev.Cancer.14:173-186(2014))。発癌性のRET活性化は、リガンド非依存的腫瘍成長を促進する恒常的に活性なRETシグナル伝達とともにRET融合タンパク質の産生をもたらす、機能獲得変異またはRET遺伝子再編成を介して生じる。発癌性のRET活性化は、初めに遺伝性および散発性の甲状腺癌において報告され、その後、非小細胞肺癌(NSCLC)において報告された。
【0004】
発癌性のRET再編成は、NSCLCの1~2%において識別された(Lipson,D.ら、Nat.Med.18:382-384(2012);Takeuchi,K.ら、Nat.Med.18:378-381(2012);Stransky,N.ら、Nat.Commun.5:4846(2014))。これは、腫瘍形成を促進する恒常的に活性なキナーゼを生成する。未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)再編成およびc-ros癌遺伝子(ROS)1再編成のNSCLCと同様に、RET再編成NSCLCは、通常、腺癌組織像を有し(時折、扁平上皮であるが)、若年の非喫煙患者において生じる。RETについての診断試験は、標準治療ではないので、進行性NSCLCを有するRET再編成患者は、上皮成長因子レセプター(EGFR)およびALKが陰性の腺癌に対するNCCNガイドラインに従って処置される。これには通常、プラチナダブレットを用いた化学療法、またはより最近ではチェックポイント阻害剤を用いた化学療法が含まれるが、特にこれらの薬剤によるRET再編成NSCLCにおける臨床応答および全生存期間は、十分に理解されていない。NCCNガイドラインによると、治療不応性患者に対する化学療法およびチェックポイント阻害剤以外のその後の治療は、最善の支持療法または臨床試験である。
【0005】
既知のRET再編成NSCLCを有する患者におけるマルチキナーゼRET阻害剤(MKI)であるカボザンチニブ、バンデタニブ、ソラフェニブおよびアレクチニブを用いた初期の症例報告およびシングルアーム研究によって、臨床活性が証明されたことから、RETは、NSCLCにおける妥当な標的であり得ると示唆された。これらの初期の研究では、有望な奏効率(約12%~60%)(Horiike Aら、Lung Cancer 93:43-6(Mar.2016);Lin JJら、J Thorac Oncol.11(11):2027-32(Nov.2016);Gautshi Oら、J Clin Oncol.34(suppl;abstr 9014)(2016))が認められたが、応答の持続時間は通常、1年未満である。MKI処置は、有意な毒性と関連があり、投与の中断および/または投与の修正を必要としたことから、RETを効果的に阻害するために必要な曝露量には限界がある可能性がある。
【0006】
発癌性のRET活性化は、甲状腺癌にも関連する。甲状腺癌は、主に、分化甲状腺癌(DTC;症例の約90%)、髄様甲状腺癌(MTC;症例の約5%)および未分化甲状腺癌(症例の<5%)からなる。DTCは、甲状腺濾胞細胞から散発性に生じ、乳頭様甲状腺癌(PTC)(甲状腺癌の全症例の約80%)および濾胞性甲状腺癌からなる。対照的に、MTCは、傍濾胞C細胞から生じ、遺伝型と散発型の両方がある。発癌性のRET活性化は、MTCとPTCの両方の推進物質として意味づけられている。
【0007】
RETおよび二量体化ドメインをコードする遺伝子が関わる反復性の遺伝子再編成は、成人における散発性乳頭状腫瘍のおよそ5%~20%において識別された。キナーゼを活性化するRET変異は、遺伝性MTCのほぼすべての症例(87%~97%)(Machens Aら、N Engl J Med 349:1517-25(2003);Mulligan LMら、Nature 363(6428):458-60(1993 Jun 3);Mulligan LMら、J Int Med.238(4):343-346(1995))および散発性MTCのおよそ43%~65%(Elisei R.ら、J Clin Endocrinol Metab.93:682-687(2008);Moura MMら、British Journal of Cancer 100:1777-1783(2009))において生じる。これらのRET変異は、細胞外ドメインにおいて(主にC634位において)生じ、それにより、RETのリガンド非依存的二量体化および活性化が促進され、また、キナーゼドメイン変異(主にM918T、A883FまたはV804L/M)も生じ、それにより、RETの自己活性化およびその結果としての発癌性シグナル伝達を促進する(Romei Cら、Nat Rev Endocrinol.12(4):192-202(2016 Apr.))。
【0008】
PTCおよびMTCは両方とも、局在型であるとき、手術で処置される(Fagin JA & Wells SA Jr.,N Engl J Med.375(11):1054-67(2016 Sep 15))。再発のPTC患者では、放射性ヨウ素(RAI)を用いた除去療法が有効である;しかしながら、患者は、最終的にRAIに不応性となる。MTCは、濾胞C細胞から生じるので、RAIは有効でない。RAI不応性のPTCおよびMTCは、進行すると、化学療法に対して応答性が乏しくなり、小分子MKIによる全身処置が、その両方に対する標準治療となる。ソラフェニブおよびレンバチニブは、進行性および/または症候性のRAI不応性PTCに対して承認されたMKIである。カボザンチニブおよびバンデタニブは、進行MTCに対して承認されたMKIであり、RETの変異状態を問わず使用される。甲状腺癌を処置するために使用されるMKIは、多くのキナーゼ(例えば、RAF、MET、EGFR、VEGFR1~3、PDGFR、RETなど)に対して広い活性を有し、重大な皮膚科学的副作用、心臓血管の副作用および胃腸の副作用に関連する。ゆえに、National Comprehensive Cancer NetworkのNational Clinical Practice Guidelines in Oncology(https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/f_guidelines.aspにおいて入手可能)は、これらの薬物を用いたときの薬物関連の副作用に対しては、慎重なモニタリングならびに投与中断および/または用量修正を推奨している。MKI治療で疾患が進行している患者またはMKI不耐性の患者の場合、有効な治療は無く、NCCNガイドラインは、臨床試験への参加を推奨している。
【0009】
活性化RETが発癌性の疾患推進因子であるという強力な遺伝的証拠および前臨床的証拠、利用可能な選択的RET阻害剤が無いこと、RET変化型腫瘍を有する多くの患者が予後不良であることを考えると、RET変化型腫瘍を処置するための選択的RET阻害剤に対する適切な安全性、曝露量および耐容性を有する投与量および投与スケジュールを特定する必要性が残されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Mulligan LM.,Nat.Rev.Cancer.14:173-186(2014)
【文献】Lipson,D.ら、Nat.Med.18:382-384(2012)
【文献】Takeuchi,K.ら、Nat.Med.18:378-381(2012)
【文献】Stransky,N.ら、Nat.Commun.5:4846(2014)
【文献】Horiike Aら、Lung Cancer 93:43-6(Mar.2016)
【文献】Lin JJら、J Thorac Oncol.11(11):2027-32(Nov.2016)
【文献】Gautshi Oら、J Clin Oncol.34(suppl;abstr 9014)(2016)
【文献】Machens Aら、N Engl J Med 349:1517-25(2003)
【文献】Mulligan LMら、Nature 363(6428):458-60(1993 Jun 3)
【文献】Mulligan LMら、J Int Med.238(4):343-346(1995)
【文献】Elisei R.ら、J Clin Endocrinol Metab.93:682-687(2008)
【文献】Moura MMら、British Journal of Cancer 100:1777-1783(2009)
【文献】Romei Cら、Nat Rev Endocrinol.12(4):192-202(2016 Apr.)
【文献】Fagin JA & Wells SA Jr.,N Engl J Med.375(11):1054-67(2016 Sep 15)
【文献】National Comprehensive Cancer NetworkのNational Clinical Practice Guidelines in Oncology(https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/f_guidelines.asp
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
RETを選択的に阻害する小分子化合物は、活性化するRET変化を有する癌を処置するための望ましい手段である。小分子の1つが、(1S,4R)-N-((S)-1-(6-(4-フルオロ-1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン-3-イル)エチル)-1-メトキシ-4-(4-メチル-6-((5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)アミノ)ピリミジン-2-イル)シクロヘキサンカルボキサミド(化合物1)である。化合物1は、以下の化学構造:
【化1】
(化合物1)
を有する。
2017年3月に、化合物1(BLU-667としても知られる)は、米国において、甲状腺癌、非小細胞肺癌および他の進行固形腫瘍を有する患者を処置するための第I相臨床試験に入った(NCT03037385)。WO2017/079140(参照により本明細書中に援用される)には、化合物1の合成が記載されており(化合物例130)、RETキナーゼを阻害、制御および/または調節する、この分子の治療活性も開示されている(アッセイ、72~74頁の実施例10)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A、1Bおよび1Cは、LC2/ad(図1A)、MZ-CRC-1(図1B)およびTT(図1C)細胞におけるDUSP6およびSPRY4の発現に対する化合物1の影響を示している一連の棒グラフである。
【0013】
図2図2は、KIF5B-RET NSCLC PDXモデルにおける、MAPK標的遺伝子であるDUSP6およびSPRY4の発現の持続的な減少を示している棒グラフである。
【0014】
図3図3は、操作されたKIF5B-RET V804L細胞株から作製されたカボザンチニブ耐性腫瘍モデルにおける化合物1のインビボ抗腫瘍活性を示しているグラフである。
【0015】
図4-1】図4Aは、腫瘍サイズならびにカルシトニンおよびCEA(癌胎児抗原)のレベルが化合物1による処置の経過に伴って減少することを示しているグラフである。RET変異MTC患者(RET L629P、D631_R635DELINSG、V637R MTC)を、1日1回の60mgで処置し、次いで、1日1回の300mgまで連続的な用量漸増を行った。図4Bは、ベースライン時(上)、および腫瘍成長の迅速な減少を示している化合物1による処置の8週間後(下)の、図4Aと同じRET変異MTC患者のCTスキャンである。
図4-2】図4Cは、腫瘍サイズならびにカルシトニンおよびCEAのレベルが、1日1回の300mgの化合物1による処置の経過に伴って、RET M918T変異MTCを有する患者において減少することを示しているグラフである。図4Dは、ベースライン時(上)および化合物1による処置の24週間後(下)の、図4Cの腫瘍のRET M918T変異患者のCTスキャンである。
図4-3】図4Eは、処置中のMTC患者由来の血漿中のRET M918TレベルのctDNA解析を示しているグラフである。処置前および処置後の腫瘍生検は、化合物1による処置の28日後に、DUSP6のmRNA発現の93%低下およびSPRY4のmRNA発現の86%低下を明らかにした。
【0016】
図5-1】図5Aは、1日1回の200mgの化合物1による処置の経過に伴う、肺腫瘍ならびにKIF5B-RETおよびTP53のctDNA減少を示しているグラフであり;
図5-2】図5Bは、ベースライン時(上)および化合物1による処置の32週間後(下)の腫瘍を示しているCTスキャンである。
【0017】
図6図6Aは、平均血漿中濃度(ng/mL) 対 時間(時)を示しているグラフであり;図6Bは、DUSP6およびSPRY4の平均遺伝子発現レベルのベースラインからのパーセント変化を示している棒グラフである。
【0018】
図7図7Aは、サイクル2の1日目に計測された、患者におけるCEAの用量依存的減少を示している棒グラフである。図7Bは、サイクル2の1日目に計測された、患者におけるカルシトニンの用量依存的減少を示している棒グラフである。
【0019】
図8図8は、第I相臨床研究における患者の最大腫瘍減少(ベースラインからの直径変化の合計パーセント)を示しているウォーターフォールプロットである。データカットオフ:2018年4月6日。
【0020】
図9図9Aは、化合物1による処置前のベースライン時の脳CTスキャンである。図9Bは、化合物1による処置の8週間後の脳CTスキャンである。
【0021】
図10図10は、RET変化型NSCLCにおける患者奏効率を示しているチャートである。データカットオフ:2018年4月6日。
【0022】
図11-1】図11Aは、化合物1による処置前のベースライン時のCTスキャンである。図11Bは、化合物1による処置の8週間後のCTスキャンである。
図11-2】図11Cは、化合物1による処置前のベースライン時のCTスキャンである。図11Dは、化合物1による処置の8週間後のCTスキャンである。
【0023】
図12図12は、髄様甲状腺癌患者における奏効率が用量および治療の持続時間に伴って上昇することを示しているグラフである。詳細には、このグラフは、8~24+週間にわたって化合物1を60~200mgで1日1回および300/400mgで1日1回、投与した場合の奏効率を示している。
【0024】
図13図13は、ベースライン時(BSL)、および1日1回、400mgの化合物1による処置を行った5ヶ月間後のCTスキャンである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
活性化する、トランスフェクションの間の再編成(RET)の変化を有する癌に罹患した被験体を処置する方法であって、前記方法は、300~400mgという治療有効量の化合物1またはその薬学的に許容され得る塩を1日1回、前記被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目2)
投与される前記量が、300mgである、項目1に記載の方法。
(項目3)
投与される前記量が、400mgである、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記癌が、甲状腺乳頭癌腫(PTC)、髄様甲状腺癌(MTC)、褐色細胞腫(PCC)、膵管腺癌、多発性内分泌腫瘍症(MEN2AおよびMEN2B)、転移性乳癌、精巣癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、直腸結腸癌、卵巣癌、炎症性筋線維芽腫瘍および唾液腺癌から選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記癌が、食道癌、皮膚癌(非黒色腫)、子宮体癌、頭頸部癌、膀胱癌、前立腺癌、血液癌、白血病、軟部組織肉腫、腎細胞癌腫(RCC)、非ホジキンリンパ腫、肝胆道癌、副腎皮質癌腫、骨髄形成異常(MDS)、子宮肉腫、胚細胞性腫瘍、子宮頸癌、中枢神経系癌、骨癌、膨大部癌腫、消化管間質腫瘍、小腸癌、中皮腫、直腸癌、傍神経節腫および肝内胆管癌から選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記癌が、腺癌、スピゾイド新生物、肺腺癌、腺扁平上皮癌腫、結腸癌、転移性結腸癌、転移性乳頭様甲状腺癌、乳頭様甲状腺癌のびまん性硬化型、二次性急性骨髄性白血病を伴う原発性骨髄線維症、びまん性胃癌、甲状腺癌腫および細気管支肺細胞癌腫から選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
前記癌が、肝胆道癌、膨大部癌腫、小腸癌、肝内胆管癌、転移性結腸癌、肺癌に付随する脳腫瘍、肺癌に付随する脳転移および後腹膜傍神経節腫から選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
前記癌が、髄様甲状腺癌(MTC)および非小細胞肺癌(NSCLC)から選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
前記癌が、散発性MTC、転移性RET変化型NSCLC、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)不応性KIF5B-RET NSCLCおよびKIF5B-RET NSCLCから選択される、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記癌が、肺癌に付随する脳腫瘍から選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目11)
前記脳腫瘍が、脳転移である、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記活性化するRET変化が、RET変異またはRET遺伝子再編成(融合)を含む、項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
(項目13)
前記活性化するRET変化が、RET変異である、項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
前記RET変異が、点変異である、項目12または13に記載の方法。
(項目15)
前記RET変異が、耐性変異である、項目12~14のいずれか1項に記載の方法。
(項目16)
前記RET変化が、表1から選択されるRET変異である、項目12~15のいずれか1項に記載の方法。
(項目17)
前記RET変異が、V804M、M918T、C634RまたはC634Wである、項目12~16のいずれか1項に記載の方法。
(項目18)
前記癌が、RET変化型髄様甲状腺癌(MTC)である、項目1~4、8、9および12~16のいずれか1項に記載の方法。
(項目19)
前記癌が、家族性MTCである、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記癌が、散発性MTCである、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記癌が、M918T変異を有するMTCである、項目1~3および12~19のいずれか1項に記載の方法。
(項目22)
前記癌が、C634R変異を有するMTCである、項目1~3および12~19のいずれか1項に記載の方法。
(項目23)
前記癌が、V804M変異を有するMTCである、項目1~3および12~19のいずれか1項に記載の方法。
(項目24)
前記癌が、傍神経節腫である、項目1~3、6および12~16のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
前記癌が、後腹膜傍神経節腫である、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記傍神経節腫が、R77H変異を有する、項目1~3、6、12~16、24および25のいずれか1項に記載の方法。
(項目27)
前記活性化するRET変化が、遺伝子再編成(融合)である、項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
(項目28)
前記活性化するRET変化が、表2から選択されるRET融合パートナーとの融合である、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記融合が、KIF5B-RET、CCDC6-RET、KIAA1468-RETまたはNCOA4-RETである、項目27または28に記載の方法。
(項目30)
前記癌が、RET変化型NSCLCである、項目1~4および27~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目31)
前記癌が、KIF5B-RET融合を有するNSCLCである、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記癌が、CCDC6-RET融合を有するNSCLCである、項目30に記載の方法。
(項目33)
前記癌が、KIAA1468-RET融合を有するNSCLCである、項目30に記載の方法。
(項目34)
前記癌が、FISH陽性と識別されたRET融合を有するNSCLCである、項目30に記載の方法。
(項目35)
前記RET変化が、KIF5B-RET V804L(カボザンチニブ耐性)である、項目29または30に記載の方法。
(項目36)
前記RET変化が、CCDC6-RET V804M(ポナチニブ耐性)である、項目29または30に記載の方法。
(項目37)
前記癌が、RET変化型PTCである、項目1~4および27~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
前記癌が、CCDC6-RET融合を有するPTCである、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記癌が、NCOA4-RET融合を有するPTCである、項目37に記載の方法。
(項目40)
前記癌が、RET変化型肝内胆管癌腫である、項目1~3および27~29のいずれか1項に記載の方法。
(項目41)
前記癌が、NCOA4-RET融合を有する肝内胆管癌腫である、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記被験体が、マルチキナーゼRET阻害剤による事前の処置を受けていない、項目1~41のいずれか1項に記載の方法。
(項目43)
前記被験体が、マルチキナーゼRET阻害剤による1つまたはそれを超える事前の処置を受けた、項目1~41のいずれか1項に記載の方法。
(項目44)
前記マルチキナーゼRET阻害剤が、レンバチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブおよびRXDX-105から選択される、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記被験体が、白金による事前の処置を受けていない、項目1~41のいずれか1項に記載の方法。
(項目46)
前記被験体が、白金による事前の処置を受けた、項目1~41のいずれか1項に記載の方法。
(項目47)
前記被験体が、選択的RET阻害剤による事前の処置を受けた、項目1~41のいずれか1項に記載の方法。
(項目48)
前記被験体が、事前の化学療法を受けていない、項目1~47のいずれか1項に記載の方法。
(項目49)
前記被験体が、事前の化学療法を受けた、項目1~47のいずれか1項に記載の方法。
(項目50)
前記事前の化学療法が、カルボプラチン、ペメトレキセド、アブラキサン、シスプラチン、ベバシズマブおよびそれらの組み合わせから選択される、項目49に記載の方法。
(項目51)
前記被験体が、事前の免疫療法を受けていない、項目1~42のいずれか1項に記載の方法。
(項目52)
前記被験体が、事前の免疫療法を受けた、項目1~42のいずれか1項に記載の方法。
(項目53)
前記事前の免疫療法が、イピリムマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、MPDL3280A、MEDI4736およびそれらの組み合わせから選択される、項目52に記載の方法。
(項目54)
RET変化型肺癌に付随する脳腫瘍に罹患した被験体を処置する方法であって、前記方法は、治療有効量の化合物1またはその薬学的に許容され得る塩を前記被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目55)
前記脳腫瘍が、脳転移である、項目54に記載の方法。
(項目56)
活性化するRET変異を有する癌に罹患した被験体を処置する方法であって、生理的有効量のRET阻害剤を前記被験体に投与する工程を含み、前記RET阻害剤の投与は、前記被験体における少なくとも1つの影響マーカーの持続的ダウンレギュレーションに関連する、方法。
(項目57)
前記RET阻害剤が、経口的に投与される、項目56に記載の方法。
(項目58)
前記RET阻害剤が、化合物1またはその薬学的に許容され得る塩である、項目56または57に記載の方法。
(項目59)
前記影響マーカーが、DUSP6のmRNA発現、SPRY4のmRNA発現、癌胎児抗原レベルおよびカルシトニンレベルから選択される、項目56~58のいずれか1項に記載の方法。
(項目60)
前記影響マーカーが、KIF5BのctDNAレベルまたはTP53のctDNAレベルである、項目56~58のいずれか1項に記載の方法。
(項目61)
前記被験体に投与される前記量が、少なくとも1つの影響マーカーの95%超のダウンレギュレーションをもたらす、項目56~59のいずれか1項に記載の方法。
(項目62)
前記被験体に投与される前記量が、少なくとも1つの影響マーカーの、94%超、93%超、92%超、91%超、90%超、89%超、88%超、87%超、86%超 85%超、80%超、75%超、70%超、65%超、60%超、55%超または50%超のダウンレギュレーションをもたらす、項目56~59のいずれか1項に記載の方法。
(項目63)
前記被験体に投与される前記量が、少なくとも1つの影響マーカーの89%超、88%超、87%超、86%超、85%超、80%超、75%超または70%超のダウンレギュレーションをもたらす、項目61に記載の方法。
(項目64)
少なくとも2つの影響マーカーが、ダウンレギュレートされる、項目56~59のいずれか1項に記載の方法。
省略形および定義
以下の省略形および用語は、全体にわたって、示される意味を有する:
【0026】
「化合物1」は、(1S,4R)-N-((S)-1-(6-(4-フルオロ-1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン-3-イル)エチル)-1-メトキシ-4-(4-メチル-6-((5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)アミノ)ピリミジン-2-イル)シクロヘキサンカルボキサミド:
【化2】
(化合物1)である。
【0027】
本明細書中で使用されるとき、「DOR」は、奏効期間を意味する。
【0028】
本明細書中で使用されるとき、「PD」は、進行病態を意味する。
【0029】
本明細書中で使用されるとき、「SD」は、安定病態を意味する。
【0030】
本明細書中で使用されるとき、「CR」は、完全奏効を意味する。
【0031】
本明細書中で使用されるとき、「ORR」は、全奏効率を意味する。
【0032】
本明細書中で使用されるとき、「CBR」は、臨床的有用率を意味する。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、「PFS」は、無増悪生存期間を意味する。
【0034】
本明細書中で使用されるとき、「融合」は、2つの遺伝子がインフレームのコード配列と連結され、キメラタンパク質をもたらす、染色体転座に起因するタンパク質である。いくつかの実施形態において、融合は、1つのタンパク質のキナーゼドメインが別の遺伝子の二量体化ドメインと融合する染色体転座である。
【0035】
本明細書中で使用されるとき、「RET変化型癌」は、腫瘍形成を推進する、活性化する、トランスフェクション中の再編成(rearranged during transfection)(RET)の変化を有する癌である。活性化するRET変化の非限定的な例としては、変異、融合およびコピー数変化が挙げられる。
【0036】
本明細書中で使用されるとき、「RET融合」は、遺伝子再編成である。RET再編成によって、RETキナーゼドメインと別のタンパク質の二量体化ドメインとが並置する融合タンパク質が生成され、それにより、恒常的に活性化された二量体が形成し、腫瘍形成が推進される。
【0037】
本明細書中で使用されるとき、「RET融合タンパク質」は、遺伝子再編成の結果である。
【0038】
本明細書中で使用されるとき、「RET活性化変異」は、リガンド非依存的で恒常的なRETキナーゼ活性化を促進し、それにより腫瘍形成が推進される、RETキナーゼにおける変異を意味する。例えば、RET変異は、細胞外のシステイン残基に生じることがあり(例えば、C620RまたはC634R/W)、それにより、異常なレセプター二量体化が引き起こされるか、またはRET変異は、細胞内のキナーゼドメインに生じることがある。
【0039】
本明細書中で使用されるとき、「RET阻害剤」は、RETキナーゼの活性を阻害する化合物である。RETキナーゼは、野生型RETキナーゼおよび/または1つもしくはそれを超えるRET変化型キナーゼ(例えば、RET融合、RET変異またはRETコピー数変化)である。
【0040】
RET阻害剤の例としては、化合物1、LOXO-292(セルペルカチニブ(selpercatinib))、カボザンチニブ、バンデタニブ、アレクチニブ、ソラフェニブ、レンバチニブ(levatinib)、ポナチニブ、ドビチニブ、スニチニブ、フォレチニブ(foretinib)、シトラバチニブ(sitravatinib)、DS-5010(BOS172738)およびRXDX-105が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
いくつかの実施形態において、RET阻害剤は、他のキナーゼも阻害し得る。本明細書中で使用されるとき、「マルチキナーゼRET阻害剤」は、野生型RETキナーゼを阻害し、かつ少なくとも1つの他のキナーゼも等しくまたは野生型RETキナーゼよりも強く阻害する化合物である。マルチキナーゼRET阻害剤の例としては、カボザンチニブ;バンデタニブ;アレクチニブ;ソラフェニブ;レンバチニブ、ポナチニブ;ドビチニブ;スニチニブ;フォレチニブ;シトラバチニブ;DS-5010;およびRXDX-105が挙げられる。
【0042】
本明細書中で使用されるとき、用語「選択的RET阻害剤」は、RETキナーゼを選択的に阻害する化合物を意味する。RETキナーゼには、RET野生型キナーゼおよび/または1つもしくはそれを超えるRET変化型キナーゼ(例えば、RET融合、RET変異またはRETコピー数変化)が含まれ得る。RETキナーゼに対する選択的RET阻害剤の阻害活性は、他の多くのキナーゼ(例えば、KDR、VEGFR-2、ABL、EGFR、FGFR2、HER2、IGFIR、JAKI、KIT、MET、AKTI、MEKl)に対する阻害活性と比べると、IC50値に関して、より強い(すなわち、IC50値はナノモル濃度以下である)。効力は、公知の生化学的アッセイを用いて計測され得る。選択的RET阻害剤の例としては、化合物1およびセルペルカチニブが挙げられる。
【0043】
本明細書中で使用されるとき、用語「被験体」または「患者」とは、本開示の方法によって処置される生物のことを指す。そのような生物としては、哺乳動物(例えば、マウス、サル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど)、いくつかの実施形態では、ヒトが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
多くの癌は、異常なRET発現と関連している(Katoら、Clin.Cancer Res.23(8):1988-97(2017))。本明細書中で使用される「癌」の非限定的な例としては、肺癌、頭頸部癌、消化器癌、乳癌、皮膚癌、尿生殖器癌、婦人科癌、血液癌、中枢神経系(CNS)癌、末梢神経系癌、子宮体癌、直腸結腸癌、骨癌、肉腫、スピゾイド(spitzoid)新生物、腺扁平上皮癌腫、褐色細胞腫(PCC)、肝細胞癌腫、多発性内分泌腫瘍症(MEN2AおよびMEN2B)および炎症性筋線維芽腫瘍が挙げられる。他の例については、Nature Reviews Cancer 14:173-86(2014)を参照のこと。
【0045】
癌のさらなる非限定的な例としては、血管周囲細胞腫、分化甲状腺癌腫、未分化甲状腺癌腫、肺癌肉腫、尿管尿路上皮癌腫、子宮癌肉腫、基底細胞癌腫、メルケル細胞癌腫、非定型肺癌腫、ファロピウス管腺癌、卵巣上皮癌腫、唾液腺腺癌、髄膜腫、十二指腸腺癌、子宮頸部腺癌、副腎癌腫、食道胃接合部癌腫、皮膚扁平上皮癌腫、膵管腺癌、前立腺腺癌、食道腺癌、子宮内膜腺癌、卵巣漿液性癌腫、原発部位不明の癌腫、膀胱尿路上皮(移行細胞)癌腫、肺扁平上皮癌腫、結腸直腸腺癌、頭頸部扁平上皮癌腫および胃腺癌が挙げられる。
【0046】
いくつかの実施形態において、癌は、肝胆管癌腫である。いくつかの実施形態において、癌は、十二指腸腺癌である。いくつかの実施形態において、癌は、子宮類内膜腺癌(uterus endometrial adenocarcinoma endometrioid)である。
【0047】
いくつかの実施形態において、MEN2Aは、褐色細胞腫および副甲状腺過形成に関連する。
【0048】
いくつかの実施形態において、MEN2Bは、粘膜神経腫、褐色細胞腫、腸管神経節性神経腫およびマルファン体型(marfanoid habitus)に関連する。
【0049】
いくつかの実施形態において、肺癌は、小細胞肺癌(SCLC)、肺腺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、細気管支肺細胞癌腫および中皮腫から選択される。いくつかの実施形態において、肺癌は、SCLCである。いくつかの実施形態において、肺癌は、NSCLCである。
【0050】
いくつかの実施形態において、頭頸部癌は、甲状腺癌および唾液腺癌から選択される。いくつかの実施形態において、甲状腺癌は、甲状腺乳頭癌腫(PTC)、転移性乳頭様甲状腺癌、髄様甲状腺癌(MTC)、乳頭様甲状腺癌のびまん性硬化型および甲状腺癌腫から選択される。いくつかの実施形態において、癌は、家族性髄様甲状腺癌である。いくつかの実施形態において、甲状腺癌は、PTCである。いくつかの実施形態において、甲状腺癌は、MTCである。
【0051】
いくつかの実施形態において、消化器癌は、食道癌、食道胃癌、消化管間質腫瘍(例えば、イマチニブ耐性消化管間質腫瘍)、小腸癌、びまん性胃癌および膨大部癌腫から選択される。
【0052】
いくつかの実施形態において、乳癌は、転移性乳癌である。いくつかの実施形態において、皮膚癌は、黒色腫または非黒色腫である。
【0053】
いくつかの実施形態において、尿生殖器癌は、結腸癌、転移性結腸癌、膀胱癌、腎細胞癌腫(RCC)、前立腺癌、肝胆道癌、肝内胆管癌、副腎皮質癌腫、膵癌および膵管腺癌から選択される。
【0054】
いくつかの実施形態において、婦人科癌は、子宮肉腫、胚細胞性腫瘍、子宮頸癌、直腸癌、精巣癌および卵巣癌から選択される。いくつかの実施形態において、血液癌は、白血病、二次性急性骨髄性白血病を伴う原発性骨髄線維症、骨髄形成異常(MDS)、非ホジキンリンパ腫、慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病および慢性骨髄単球性白血病(CMML)から選択される。
【0055】
いくつかの実施形態において、末梢神経系癌は、傍神経節腫である。いくつかの実施形態において、子宮体癌は、子宮内膜腺癌である。いくつかの実施形態において、肉腫は、軟部組織肉腫である。
【0056】
いくつかの実施形態において、中枢神経系(CNS)癌は、肺癌に付随する脳腫瘍および神経膠腫から選択される。
【0057】
肺癌は、転移が生じた症例の約40パーセントが脳に広がると知られている。肺癌の場合、これは、この疾患のステージ4であるとみなされ、脳転移した場合の平均生存時間は、通常、1年未満である。脳に転移した肺癌は、比較的予後不良であり、例えば、化学療法薬。脳転移は、多くの理由により、処置が困難である。患者が初めて症候を示す時までに、すでに複数の病変を有することが多い。脳転移は、非常に悪性度が高い傾向がある。脳は、有害物質の侵入を減少させる多くの防御を有する。詳細には、血液脳関門は、多くの薬剤、例えば、化合物が脳に入るのを妨げる。処置の選択肢が、周辺の正常組織を損傷する恐れがあり、生活の質に対して著しい影響を及ぼす恐れがある。特に、安全な用量かつ良い耐容性で投与でき、脳転移を処置するために脳に侵入する化合物を提供する必要性がある。
【0058】
いくつかの実施形態において、癌は、肺癌に付随する脳転移である。
【0059】
いくつかの実施形態において、癌は、「RET変化型癌」であり、これは、本明細書中で使用されるとき、その癌が活性化するRET変化を有することを意味する。いくつかの実施形態において、RET変化型癌は、RET変異またはRET遺伝子再編成を有する。いくつかの実施形態において、RET変化型癌は、RET変化型固形腫瘍である。
【0060】
本明細書中で使用されるとき、用語「有効量」とは、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な、選択的RET阻害剤(例えば、化合物1またはその薬学的に許容され得る塩)の量のことを指す。有益なまたは所望の結果は、治療的な利点もしくは結果、または生理学的な利点もしくは結果であり得る。有効量は、1回もしくはそれを超える投与、1回もしくはそれを超える適用、または1つもしくはそれを超える投与量で投与され得、特定の製剤または投与経路に限定されると意図されていない。
【0061】
本明細書中で使用されるとき、用語「治療有効量」とは、被験体において有益なまたは所望の治療結果をもたらすのに十分な、選択的阻害剤(例えば、化合物1またはその薬学的に許容され得る塩)の量のことを指す。治療有効量は、それを必要とする被験体に、1回もしくはそれを超える投与、1回もしくはそれを超える適用、または1つもしくはそれを超える投与量で投与され得、特定の製剤または投与経路に限定されると意図されていない。いくつかの実施形態において、治療有効量は、所望の安全性、曝露量および耐容性を提供する。治療有効量、すなわち、化合物の投与にとって正しい用量を選択することは、臨床で使用するための薬学的薬物の開発において必須の工程である。投与量に関して十分な情報が無ければ、医師は特定の薬物を患者に処方することは不可能である。ゆえに、正確な薬物投与量を決定することは、臨床研究においてのみ答えることができる重大な問題である。安全かつ予測可能な投与を可能にする用量および投与頻度を特定できなければ、その化合物は、医学的に有用なまたは商業的に実現可能な医薬品にはなり得ない。
【0062】
本明細書中で使用されるとき、用語「生理的有効量」とは、被験体において有益なまたは所望の生理学的結果をもたらすのに十分な、選択的阻害剤(例えば、化合物1またはその薬学的に許容され得る塩)の量のことを指す。生理学的結果は、被験体における少なくとも1つの影響マーカーの持続的ダウンレギュレーションであり得る。
【0063】
本明細書中で使用されるとき、用語「処置する」には、任意の効果、例えば、症状、疾患、障害などの改善をもたらす、緩和、低減、調節、回復もしくは解消、またはそれらの症候の回復が含まれる。
【0064】
本明細書中で使用されるとき、「影響マーカー」は、DUSP6のmRNA発現、SPRY4のmRNA発現、CEA、カルシトニン、KIF5BのctDNAまたはTP53のctDNAを意味する。
【0065】
本開示のいくつかの実施形態の例としては、以下が挙げられる:
1.活性化する、トランスフェクションの間の再編成(RET)の変化を有する癌に罹患した被験体を処置する方法であって、前記方法は、300~400mgという治療有効量の化合物1またはその薬学的に許容され得る塩を1日1回、前記被験体に投与する工程を含む、方法。
2.投与される前記量が、300mgである、実施形態1に記載の方法。
3.投与される前記量が、400mgである、実施形態1または2に記載の方法。
4.前記癌が、甲状腺乳頭癌腫(PTC)、髄様甲状腺癌(MTC)、褐色細胞腫(PCC)、膵管腺癌、多発性内分泌腫瘍症(MEN2AおよびMEN2B)、転移性乳癌、精巣癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、直腸結腸癌、卵巣癌、炎症性筋線維芽腫瘍および唾液腺癌から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記癌が、食道癌、皮膚癌(非黒色腫)、子宮体癌、頭頸部癌、膀胱癌、前立腺癌、血液癌、白血病、軟部組織肉腫、腎細胞癌腫(RCC)、非ホジキンリンパ腫、肝胆道癌、副腎皮質癌腫、骨髄形成異常(MDS)、子宮肉腫、胚細胞性腫瘍、子宮頸癌、中枢神経系癌、骨癌、膨大部癌腫、消化管間質腫瘍、小腸癌、中皮腫、直腸癌、傍神経節腫および肝内胆管癌から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
6.前記癌が、腺癌、スピゾイド新生物、肺腺癌、腺扁平上皮癌腫、結腸癌、転移性結腸癌、転移性乳頭様甲状腺癌、乳頭様甲状腺癌のびまん性硬化型、二次性急性骨髄性白血病を伴う原発性骨髄線維症、びまん性胃癌、甲状腺癌腫および細気管支肺細胞癌腫から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
7.前記癌が、肝胆道癌、膨大部癌腫、小腸癌、肝内胆管癌、転移性結腸癌、肺癌に付随する脳腫瘍、肺癌に付随する脳転移および後腹膜(retropentoneal)傍神経節腫から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
8.前記癌が、髄様甲状腺癌(MTC)および非小細胞肺癌(NSCLC)から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
9.前記癌が、散発性MTC、転移性RET変化型NSCLC、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)不応性KIF5B-RET NSCLCおよびKIF5B-RET NSCLCから選択される、実施形態8に記載の方法。
10.前記癌が、肺癌に付随する脳腫瘍から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
11.前記脳腫瘍が、脳転移である、実施形態10に記載の方法。
12.前記活性化するRET変化が、RET変異またはRET遺伝子再編成(融合)を含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.前記活性化するRET変化が、RET変異である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
14.前記RET変異が、点変異である、実施形態12または13に記載の方法。
15.前記RET変異が、耐性変異である、実施形態12~14のいずれか1つに記載の方法。
16.前記RET変化が、表1から選択されるRET変異である、実施形態12~15のいずれか1つに記載の方法。
17.前記RET変異が、V804M、M918T、C634RまたはC634Wである、実施形態12~16のいずれか1つに記載の方法。
18.前記癌が、RET変化型髄様甲状腺癌(MTC)である、実施形態1~4、8、9および12~16のいずれか1つに記載の方法。
19.前記癌が、家族性MTCである、実施形態18に記載の方法。
20.前記癌が、散発性MTCである、実施形態18に記載の方法。
21.前記癌が、M918T変異を有するMTCである、実施形態1~3および12~19のいずれか1つに記載の方法。
22.前記癌が、C634R変異を有するMTCである、実施形態1~3および12~19のいずれか1つに記載の方法。
23.前記癌が、V804M変異を有するMTCである、実施形態1~3および12~19のいずれか1つに記載の方法。
24.前記癌が、傍神経節腫である、実施形態1~3、6および12~16のいずれか1つに記載の方法。
25.前記癌が、後腹膜傍神経節腫である、実施形態24に記載の方法。
26.前記傍神経節腫が、R77H変異を有する、実施形態1~3、6、12~16、24および25のいずれか1つに記載の方法。
27.前記活性化するRET変化が、遺伝子再編成(融合)である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
28.前記活性化するRET変化が、表2から選択されるRET融合パートナーとの融合である、実施形態27に記載の方法。
29.前記融合が、KIF5B-RET、CCDC6-RET、KIAA1468-RETまたはNCOA4-RETである、実施形態27または28に記載の方法。
30.前記癌が、RET変化型NSCLCである、実施形態1~4および27~29のいずれか1つに記載の方法。
31.前記癌が、KIF5B-RET融合を有するNSCLCである、実施形態30に記載の方法。
32.前記癌が、CCDC6-RET融合を有するNSCLCである、実施形態30に記載の方法。
33.前記癌が、KIAA1468-RET融合を有するNSCLCである、実施形態30に記載の方法。
34.前記癌が、FISH陽性と識別されたRET融合を有するNSCLCである、実施形態30に記載の方法。
35.前記RET変化が、KIF5B-RET V804L(カボザンチニブ耐性)である、実施形態29または30に記載の方法。
36.前記RET変化が、CCDC6-RET V804M(ポナチニブ耐性)である、実施形態29または30に記載の方法。
37.前記癌が、RET変化型PTCである、実施形態1~4および27~29のいずれか1つに記載の方法。
38.前記癌が、CCDC6-RET融合を有するPTCである、実施形態37に記載の方法。
39.前記癌が、NCOA4-RET融合を有するPTCである、実施形態37に記載の方法。
40.前記癌が、RET変化型肝内胆管癌腫である、実施形態1~3および27~29のいずれか1つに記載の方法。
41.前記癌が、NCOA4-RET融合を有する肝内胆管癌腫である、実施形態40に記載の方法。
42.前記被験体が、マルチキナーゼRET阻害剤による事前の処置を受けていない、実施形態1~41のいずれか1つに記載の方法。
43.前記被験体が、マルチキナーゼRET阻害剤による1つまたはそれを超える事前の処置を受けた、実施形態1~41のいずれか1つに記載の方法。
44.前記マルチキナーゼRET阻害剤が、レンバチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブおよびRXDX-105から選択される、実施形態43に記載の方法。
45.前記被験体が、白金による事前の処置を受けていない、実施形態1~41のいずれか1つに記載の方法。
46.前記被験体が、白金による事前の処置を受けた、実施形態1~41のいずれか1つに記載の方法。
47.前記被験体が、選択的RET阻害剤による事前の処置を受けた、実施形態1~41のいずれか1つに記載の方法。
48.前記被験体が、事前の化学療法を受けていない、実施形態1~47のいずれか1つに記載の方法。
49.前記被験体が、事前の化学療法を受けた、実施形態1~47のいずれか1つに記載の方法。
50.前記事前の化学療法が、カルボプラチン、ペメトレキセド、アブラキサン、シスプラチン、ベバシズマブおよびそれらの組み合わせから選択される、実施形態49に記載の方法。
51.前記被験体が、事前の免疫療法を受けていない、実施形態1~42のいずれか1つに記載の方法。
52.前記被験体が、事前の免疫療法を受けた、実施形態1~42のいずれか1つに記載の方法。
53.前記事前の免疫療法が、イピリムマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、MPDL3280A、MEDI4736およびそれらの組み合わせから選択される、実施形態52に記載の方法。
54.RET変化型肺癌に付随する脳腫瘍に罹患した被験体を処置する方法であって、前記方法は、治療有効量の化合物1またはその薬学的に許容され得る塩を前記被験体に投与する工程を含む、方法。
55.前記脳腫瘍が、脳転移である、実施形態54に記載の方法。
56.活性化するRET変異を有する癌に罹患した被験体を処置する方法であって、生理的有効量のRET阻害剤を前記被験体に投与する工程を含み、前記RET阻害剤の投与は、前記被験体における少なくとも1つの影響マーカーの持続的ダウンレギュレーションに関連する、方法。
57.前記RET阻害剤が、経口的に投与される、実施形態56に記載の方法。
58.前記RET阻害剤が、化合物1またはその薬学的に許容され得る塩である、実施形態56または57に記載の方法。
59.前記影響マーカーが、DUSP6のmRNA発現、SPRY4のmRNA発現、癌胎児抗原レベルおよびカルシトニンレベルから選択される、実施形態56~58のいずれか1つに記載の方法。
60.前記影響マーカーが、KIF5BのctDNAレベルまたはTP53のctDNAレベルである、実施形態56~58のいずれか1つに記載の方法。
61.前記被験体に投与される前記量が、少なくとも1つの影響マーカーの95%超のダウンレギュレーションをもたらす、実施形態56~59のいずれか1つに記載の方法。
62.前記被験体に投与される前記量が、少なくとも1つの影響マーカーの、94%超、93%超、92%超、91%超、90%超、89%超、88%超、87%超、86%超 85%超、80%超、75%超、70%超、65%超、60%超、55%超または50%超のダウンレギュレーションをもたらす、実施形態56~59のいずれか1つに記載の方法。
63.前記被験体に投与される前記量が、少なくとも1つの影響マーカーの89%超、88%超、87%超、86%超、85%超、80%超、75%超または70%超のダウンレギュレーションをもたらす、実施形態61に記載の方法。
64.少なくとも2つの影響マーカーが、ダウンレギュレートされる、実施形態56~59のいずれか1つに記載の方法。
【0066】
表1.RET点変異
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0067】
表1におけるRET点変異のいくつかは、米国特許出願公開第2014/0272951号;Krampitzら、Cancer 120:1920-31(2014);Latteyerら、J Clin.Endocrinol.Metab.101(3):1016-22(2016);Silvaら、Endocrine 49.2:366-72(2015);Jovanovicら、Prilozi 36(1):93-107(2015);Qiら、Oncotarget 6(32):33993-4003(2015);Kimら、ACTA ENDOCRINOLOGICA-BUCHAREST 11.2,189-194,(2015);Cecchiriniら、Oncogene,14:2609-12(1997);Karraschら、Eur.Thyroid J 5(1):73-77(2016);Scolloら、Endocr.J 63:87-91(2016);およびWellsら、Thyroid 25:567-610(2015)において論じられている。
【0068】
R525WおよびA513Dは、S891Aとともに作用することにより、発癌活性を高め得る。
【0069】
表2.RET融合
【表2-1】
【表2-2】
【0070】
表2におけるRET融合のいくつかは、Grubbsら、J Clin Endocrinol Metab,100:788-93(2015);Halkovaら、Human Pathology 46:1962-69(2015);米国特許第9,297,011号;米国特許第9,216,172号;Le Rolleら、Oncotarget 6(30):28929-37(2015);Antonescuら、Am J Surg Pathol 39(7):957-67(2015);米国特許出願公開第2015/0177246号;米国特許出願公開第2015/0057335号;日本特許出願公開第2015/109806A号;中国特許出願公開第105255927A号;Fangら、Journal of Thoracic Oncology 11.2(2016):S21-S22;欧州特許出願公開第EP3037547A1号;Leeら、Oncotarget DOI:10.18632/oncotarget.9137,e-published ahead of printing,2016;Saitoら、Cancer Science 107:713-20(2016);Pirkerら、Transl Lung Cancer Res,4(6):797-800(2015);およびJoungら、Histopathology 69(1):45-53(2016)において論じられている。
【0071】
当業者は、被験体が、例えば、変異、例えば、融合、欠失、挿入、転座、フレームシフト、重複、点変異および/または再編成を有する、RETが変化した細胞、癌、遺伝子または遺伝子産物を有するか否かを、例えば、ハイブリダイゼーションベースの方法、増幅ベースの方法、マイクロアレイ解析、フローサイトメトリー解析、DNA配列決定、次世代シーケンシング(NGS)、プライマー伸長、PCR、インサイチュハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション、ドットブロットおよびサザンブロットから選択される方法を用いて判断し得る。
【0072】
融合を検出するために、原発腫瘍サンプルが、被験体から収集され得る。そのサンプルは処理され、当該分野で公知の手法を用いて核酸が単離され、その核酸が、当該分野で公知の方法を用いて配列決定される。次いで、配列は、個々のエキソンにマッピングされ、転写発現の尺度(例えば、RPKM、すなわち、マッピングされた100万個のリードあたりの1キロベースあたりのリード数)が定量される。生の配列およびエキソンアレイのデータは、TCGA、ICGCおよびNCBI Gene Expression Omnibus(GEO)などの情報源から入手可能である。所与のサンプルについて、個々のエキソン座標は、遺伝子識別子情報を用いて注釈が付けられ、キナーゼドメインに属するエキソンには、フラグが立てられる。次いで、それらのエキソンレベルは、全腫瘍サンプルにわたってz-スコア正規化される。
【0073】
次に、3’エキソンとは有意に異なるレベルで5’エキソンが発現される遺伝子が特定される。スライディングフレームを用いて、個々のサンプル内の染色体切断点(breakpoint)を特定する。詳細には、各反復において、染色体切断点を徐々にずらすことによって、遺伝子を5’と3’領域とに分割し、t統計量を用いて、それらの2つの領域間の発現の差異(もしあれば)を計測する。t統計量が最大の染色体切断点を、見込みのある融合染色体切断点として選択する。本明細書中で使用されるとき、「染色体切断点」は、2つの異なる遺伝子が融合される境界である。それは時折、「融合点」と称される。5’と3’との間でエキソン発現の差が最大である位置は、推定融合染色体切断点である。数千の腫瘍サンプルが、この様式で迅速にプロファイルされ得、融合候補のリスト(t統計量によってランク付けられた)が生成され得る。次いで、上位の候補が検証され得、そして生のRNA-seqデータセットを調べ、融合を支持するキメラ対および/または分割リード(split reads)を特定することによって、融合パートナーが特定され得る。次いで、候補融合が、下記に記載されるように実験によって確認され得る。
【0074】
あるいは、Wang Lら、Genes Chromosomes Cancer 51(2):127-39(2012).doi:10.1002/gcc.20937,Epub 2011 Oct 27;およびSuehara Yら、Clin Cancer Res.18(24):6599-608(2012).doi:10.1158/1078-0432.CCR-12-0838,Epub 2012 Oct 10に記載されている方法を用いることもできる。
【0075】
分子標的治療の薬力学的評価を臨床試験に含めることによって、薬物の開発プロセスを合理化できると提唱されている(Tan DSら、Cancer J 15(5):406-20(2009);Sarker D & Workman P.Adv Cancer Res 96:213-68(2007))。薬力学的バイオマーカーは、イマチニブおよびゲフィチニブをはじめとしたキナーゼ阻害剤の臨床開発に首尾よく利用されている(Sarker D & Workman P.Adv Cancer Res 96:213-68(2007);Baselga Jら、J Clin Oncol 23(23):5323-33(2005);Druker BJら、N Engl J Med 344(14):1031-7(2001))。本明細書中に記載されるように、化合物1は、RETおよびSHCの活性化を用量依存的に阻害し、この阻害は、RETによって推進される前臨床モデルにわたってDUSP6およびSPRY4の転写の阻害を反映したことから、これらの転写物が、RET阻害活性に対するバイオマーカーとして役立ち得ることが示唆された。これらのマーカーの橋渡し能力が本研究において確立され、本研究において、化合物1での処置によって誘導されたMTC腫瘍の縮小が、腫瘍組織内におけるDUSP6およびSPRY4発現の効率的な阻害に関連した。本出願人の知るかぎりでは、これは、臨床の状況における、マルチターゲットのまたは選択的な小分子阻害剤によるRET標的結合の初めての証明である。これらの影響マーカーは、効果的なRET阻害に必要とされる最適な用量およびスケジュールをより正確に定義するために使用され得る。
【0076】
化合物1は、単独で投与されることも可能であるが、いくつかの実施形態では、化合物1は、化合物1が1つまたはそれを超える薬学的に許容され得る賦形剤またはキャリアと組み合わされる薬学的製剤として投与され得る。化合物1は、ヒトまたは獣医学において使用するための任意の好都合な方法での投与のために製剤化され得る。ある特定の実施形態において、医薬品に含められる化合物は、それ自体が活性であってもよいし、例えば、生理学的状況において、活性な化合物に変換されることが可能な、プロドラッグであってもよい。
【0077】
句「薬学的に許容され得る」は、適切な医学的判断の範囲内であって、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応または他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適しており、合理的なベネフィット/リスク比に見合う、それらの化合物、材料、組成物および/または剤形のことを言及するために本明細書中で使用される。
【0078】
薬学的に許容され得るキャリアの例としては、(1)糖(例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース);(2)デンプン(例えば、コーンスターチおよびジャガイモデンプン);(3)セルロースおよびその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース);(4)トラガント末;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤(例えば、カカオバターおよび坐剤用ワックス);(9)油(例えば、落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油);(10)グリコール(例えば、プロピレングリコール);(11)ポリオール(例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール);(12)エステル(例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル);(13)寒天;(14)緩衝剤(例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム);(15)アルギン酸;(16)発熱物質非含有水;(17)等張食塩水;(18)リンガー溶液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;(21)シクロデキストリン(例えば、Captisol(登録商標));および(22)薬学的製剤において使用される他の適合性の無毒性物質が挙げられる。
【0079】
薬学的に許容され得る酸化防止剤の例としては、(1)水溶性の酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど);(2)油溶性の酸化防止剤(例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなど);および(3)金属キレート剤(例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸など)が挙げられる。
【0080】
固形剤形(例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤など)は、1つまたはそれを超える薬学的に許容され得るキャリア、例えば、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、および/または以下のいずれかを含み得る:(1)充填剤または増量剤(例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトールおよび/またはケイ酸);(2)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアカシア);(3)保湿剤(例えば、グリセロール);(4)崩壊剤(例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のシリケートおよび炭酸ナトリウム);(5)溶解遅延剤(例えば、パラフィン);(6)吸収促進剤(例えば、四級アンモニウム化合物);(7)湿潤剤(例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール);(8)吸収剤(例えば、カオリンおよびベントナイト粘土);(9)潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムおよびそれらの混合物);および(10)着色剤。
【0081】
液体剤形には、薬学的に許容され得るエマルジョン、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤が含まれ得る。活性成分に加えて、液体剤形は、当該分野で通常使用される不活性な希釈剤(例えば、水または他の溶媒)、可溶化剤および乳化剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール)、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物を含み得る。
【0082】
懸濁剤は、活性な化合物に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天およびトラガント、ならびにそれらの混合物を含み得る。
【0083】
軟膏、ペースト、クリームおよびゲルは、活性な化合物に加えて、賦形剤、例えば、動物性脂肪および植物性脂肪、油、ろう、パラフィン、デンプン、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクならびに酸化亜鉛またはそれらの混合物を含み得る。
【0084】
散剤およびスプレー剤は、活性な化合物に加えて、賦形剤、例えば、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物を含み得る。スプレー剤はさらに、クロロフルオロハイドロカーボンなどの通例の噴射剤、ならびにブタンおよびプロパンなどの揮発性非置換炭化水素を含み得る。
【0085】
化合物1の局所投与用または経皮投与用の剤形としては、パウダー、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、液剤、パッチおよび吸入剤が挙げられる。活性な化合物は、薬学的に許容され得るキャリア、および必要とされ得る任意の保存剤、緩衝剤または噴射剤と、滅菌条件下で混合され得る。
【0086】
化合物1が、医薬としてヒトおよび動物に投与されるとき、それは、それ自体で投与され得るか、または例えば、0.1~99.5%(例えば、0.5~90%)の活性成分を薬学的に許容され得るキャリアとともに含む薬学的組成物として投与され得る。
【0087】
上記製剤は、局所的に、経口的に、経皮的に、直腸に、経膣的に、非経口的に(parentally)、鼻腔内に、肺内に、眼内に、静脈内、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、嚢内に、皮内に、腹腔内に、皮下に、表皮下に、または吸入によって、投与され得る。
【0088】
本開示は、さらなる限定と解釈されるべきでない以下の実施例によってさらに例証される。本願全体にわたって引用されるすべての参考文献の内容は、明確に、参照により本明細書中に援用される。
【実施例
【0089】
実施例1:DUSP6およびSPRY4の発現解析
細胞を記載の化合物で7時間処置した後、1%β-メルカプトエタノールを含むBuffer RLT(QIAGEN,Hilden,Germany)で溶解した。全RNAを、Rneasy Plus Miniキット(QIAGEN,Hilden,Germany)を製造者の指示書に従って用いて単離した。ファーストストランドcDNAを、SuperScript VILO Master Mix(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)を製造者の指示書に従って用いて合成した。リアルタイムqPCRをViiA 7 Real Time PCR System(Thermo Fisher Scientific)において行った。qRT-PCRのために、参照遺伝子グルクロニダーゼベータ(GUSB)の発現量を用いて、標的遺伝子DUSP6、SPRY4およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ(GSK3B)の発現量を正規化した。反復したqRT-PCR反応を各サンプルについて解析し、QuantStudio Real-Time PCRソフトウェア(Life Technologies,Carlsbad,CA)が、各サンプルにおける参照遺伝子GUSBの平均発現量に対してDUSP6、SPRY4またはGSK3Bの平均発現量を正規化した。図1A~1Cは、L2C/ad細胞(図1A)、MZ-CRC-1細胞(図1B)またはTT MTC細胞(図1C)を化合物1またはカボザンチニブで処置した7時間後の、RET経路の標的DUSP6およびSPRY4ならびにAKT経路の標的GSK3Bの相対的な転写物発現量を示している。図2は、KIF5B-RET NSCLC PDXからのDUSP6、SPRY4およびGSK3Bの相対的な転写物発現量を示している。最後の投与から記載の時間(時)だけ経過した後に腫瘍を収集した。データは、平均値+SDである。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、両側スチューデントt検定。SD、標準偏差。
実施例2:KIF5B-RET Ba/F3細胞の作製およびENU突然変異誘発アッセイ
【0090】
抗FLAG抗体によって融合を免疫検出するのを容易にするカルボキシル末端のFLAGエピトープを伴う発現を最大にするために、ヒトKIF5B-RETバリアント1のアミノ酸配列をコードするDNAをレンチウイルスベクター内のドキシサイクリン誘導性プロモーター下に配置した。レンチウイルスによって媒介される遺伝子導入を用いて、Ba/F3細胞においてKIF5B-RETを発現させ、IL-3の中止によってKIF5B-RET依存性細胞を選択し、イムノブロット解析によってKIF5B-RET融合タンパク質の発現を確認した。V804置換を有するBa/F3細胞を作製するために、ENUで一晩、WT KIF5B-RET Ba/F3細胞において突然変異誘発し、6つの濃度のMKI(ポナチニブ、レゴラフェニブ、カボザンチニブまたはバンデタニブ)の存在下において2週間にわたって96ウェルプレートにプレーティングした。選択した濃度は、各化合物について2×~64×の増殖IC50にわたった:125nM~4μmol/Lのカボザンチニブ、20~640nMのポナチニブ、および250nM~8μmol/Lのバンデタニブ。耐性クローンからゲノムDNAを単離し、Sanger配列決定を用いて、置換を有するクローンを特定した。図3は、KIF5B-RET V804L Ba/F3同種移植片における化合物1の抗腫瘍活性をカボザンチニブと比べて示している。
実施例3:第I相試験
【0091】
進行RET変化型NSCLC、MTCおよび他の固形腫瘍における化合物1の最大耐用量、安全性プロファイル、薬物動態および予備的な抗腫瘍活性を規定するための第I相ファースト・イン・ヒューマン試験(NCT03037385)を開始した。治験登録の前に、化合物1による処置、ならびに安全性および有効性の潜在的な予測バイオマーカーを特徴付ける探索バイオマーカー解析のための血液および腫瘍サンプルの収集に対して、すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。成人患者(≧18歳)は、0~2というEastern Cooperative Oncology Groupのパフォーマンスステータス、ならびに十分な骨髄、肝臓、腎臓および心臓の機能とともに、切除不能な進行固形腫瘍を有していなければならなかった。化合物1を、Bayesian Optimal Interval Designを用いて4週間サイクルにおいて1日1回、経口的に投与した。≧120mgの投与レベルでは、RET変化が実証されていることを、追加的に治験登録に要求した。有害事象を、Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)に従ってグレード分けした。コンピュータ断層撮影によるX線応答を、RECISTバージョン1.1(European Journal of Cancer 45:228-247(2009))で評価した。血漿中のctDNAレベルを、PlasmaSELECT(商標)-R64 NGSパネル(Personal Genome Diagnostics,Baltimore,MD)を用いて評価した。MTC患者における血清カルシトニンレベルを、ELISA(Medpace,Cincinnati,OH)によって計測した。腫瘍DUSP6/SPRY4レベルを、qRT-PCR(Molecular MD,Portland,OR)によって解析した。
症例研究
【0092】
患者1は、複数のRET変異(L629P、D631_R635DELINSGおよびV637R)を有する散発性MTCを有する27歳の患者であった。この患者は、化合物1による処置の開始前にチロシンキナーゼ阻害剤で処置されたことがなく、緊急の気管開口術および広範囲の手術(甲状腺全摘出術、気管周囲郭清術(central neck dissection)、レベル1~4の両側頸部郭清術、胸腺全摘出術および胸骨正中切開術を含む)を要する非常に侵襲性の疾患を有していた。術後経過は、乳び胸を併発した。集学的な医学的コンセンサスは、頸部への放射線治療に反対し、再ステージ分類スキャンは、気管および食道の浸潤を伴う左傍気管疾患ならびに肺および肝臓への転移性疾患を示した。VEGFR関連毒性(創傷治癒不良を含み得、かつ瘻孔形成および出血のリスクを高め得る)の関連リスクを考えると、この患者に対しては、FDAが承認した、MTCに対する2つのマルチキナーゼ薬(バンデタニブおよびカボザンチニブ)は適切であるとはみなされなかった(CAPRELSA(バンデタニブ)[添付文書].Cambridge,MA:Sanofi Genzyme;2016;COMETRIQ(カボザンチニブ)[添付文書].South San Francisco,CA:Exelixix,Inc.;2018)。ゆえに、この患者を化合物1の臨床試験に登録し、第2の用量レベル(60mg、QD)で処置を開始した。注目すべきことに、化合物1による治療の28日後に、血清腫瘍マーカーであるカルシトニンが>90%減少した(図4A)。8週間後、標的病変は、19%減少した。化合物1を200mgQDまで連続的に用量漸増させた後、この患者は、Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)バージョン1.1によると、>30%の腫瘍減少という部分奏効を達成した(図4B)。続いて、この患者において化合物1を300mgQDまで段階的に増加させたところ、10ヶ月後に部分奏効が確認された(47%という最大減少)。全体的に見て、癌胎児抗原(CEA)レベルは、この期間にわたって57%低下した。化合物1での処置によって健康状態が改善されたことにより、患者の気管切開チューブを取り外すことが可能となり、処置前の数キログラムの体重減少の後、ベースラインの体重に戻った。化合物1は、11ヶ月間の継続処置を通じて耐容性が高く、薬物関連の有害事象は、白血球のグレード1の一時的な減少のみであり、薬物の中断または用量の修正なしに回復した。2018年4月13日現在、この患者は依然、治療中である。
【0093】
患者2は、散発性RET M918T変異MTCを有する56歳であり、バンデタニブに反応を示し、その後、バンデタニブを服用し、化合物1の300mgQDによる治療を開始した。早期の臨床活性シグナルが、化合物1による処置の最初の数週間以内に現れた:28日後に、血清カルシトニンが>90%低下し、CEAが75%減少した(図4C)。RET M918Tの循環腫瘍DNA(ctDNA)は、28日後に47%減少し、56日後に検出不能となった。処置前および処置の28日後に収集された対での腫瘍生検は、DUSP6のmRNA発現の93%減少およびSPRY4のmRNA発現の86%減少を示したことから、腫瘍内でのRET経路の阻害が確認された(図4E)。重要なことに、これらの活性の示唆は、8週間後の、RECIST1.1に従ったX線応答(-35%)によって確認された(図4D)。この患者は、投与中断なく、化合物1による処置に対して十分な耐容性を示した;薬物関連の有害事象は、グレード1の悪心および高リン酸血症であった。この患者は、8ヶ月後も治療を継続しており、2018年4月13日現在、部分奏効(最大47%の減少)が確認された。
【0094】
患者3は、転移性RET変化型NSCLCを有する37歳の患者であり、シスプラチン、ペメトレキセドおよびベバシズマブを服用しており、FISH解析による腫瘍組織検査においてRET融合について陽性であった。この患者に、200mgQDの化合物1による処置を開始し、ベースライン時のctDNA解析は、カノニカルなKIF5B-RET融合およびTP53変異の同時発生を明らかにした。処置の8週間後における最初のX線評価において、腫瘍減少(-25%)が顕著であり、それは、KIF5B-RETおよびTP53のctDNAレベルの同時低下と相関した(図5A)。この患者は、16週間後の2回目のX線評価において部分奏効を示し(図5B)、10ヶ月間にわたる処置を継続しており、2018年4月13日現在、部分奏効が確認されている。上に記載されたMTC患者で観察されたように、化合物1は、耐容性がよく、すべての薬物関連の有害事象がグレード1であり、それには、便秘(解消)、皮膚乾燥、発疹および白血球減少が含まれた。
【0095】
患者4は、NSCLCを有する69歳の患者であり、以前に肺切除腎摘出術および胸膜ドレナージを受けていた。この患者に、400mgQDの化合物1による処置を開始した。KIF5B-RET NSCLC脳転移に対して腫瘍減少が顕著であった(図9)。詳細には、頭蓋内抗腫瘍活性のエビデンスが、この患者において認められた。ベースライン時に、この患者は、脳内におよそ6mmの転移性病変を有したが、それが処置中の8週間後に消散したとみられた。8週間後の評価時に、この患者は、安定病態を有すると判断された。
【0096】
患者5は、局所進行性のKIF5B-RET NSCLCを有する74歳の喫煙経験者であった。この患者のCTスキャンを図11A~11Dに示す。この患者には、シスプラチンおよびペメトレキセドによる化学放射線同時併用療法を施し、次いで、カルボプラチンおよびnab-パクリタキセルで処置したが、結局、進行した。腫瘍組織の次世代シーケンシングならびにFISHが、KIF5B-RET融合を明らかにしたため、この患者は、バンデタニブとエベロリムスとの併用レジメンを試験する臨床試験に登録された(NCT01582191)。この患者は、部分奏効を示したが、11サイクルの後に行われた再ステージ分類スキャンは進行性の病態を示し、いっそうの呼吸困難およびパフォーマンスステータスの悪化という臨床症状を伴った。そして、この患者は、化合物1の第1相治験に登録された。化合物1(300mgQD)による処置の16週間後、この患者は、腫瘍体積の34%減少(図11Cおよび11D)ならびに呼吸困難およびパフォーマンスステータスの改善を伴う部分奏効を示した。化合物1は、処置全体にわたって耐容性がよく、この患者は、2018年4月13日現在、薬物関連の有害事象を示さなかった。
【0097】
患者6は、硬化型PTC(CCDC6-RET融合)を有する23歳女性であり、診断以来、酸素補給を必要とするびまん性の症候性肺転移を6年前に示した。この患者は、ソラフェニブおよびレンバチニブを服用していた。この患者は、1日1回の400mgの化合物1による処置を開始した。図13は、化合物1による処置の5ヶ月後の腫瘍減少を示している。5ヶ月以内に、この患者は、室内の空気で過ごせるようになった。
ctDNAレベルの計測
【0098】
影響マーカーの一例である血漿中のctDNA(例えば、KIF5BまたはTP53のctDNA)のレベルは、PlasmaSELECT(商標)-R64 NGSパネル(Personal Genome Diagnostics,Baltimore,MD)を用いて評価され得る。PlasmaSELECT(商標)64は、循環腫瘍DNAを、癌における遺伝子変化について解析する。詳細には、PlasmaSELECT(商標)64は、64個の十分特徴付けられた癌遺伝子の標的化パネルを評価する。無細胞DNAを血漿から抽出し、低存在量サンプルDNAに対応できる自社の方法を用いて調製する。次いで、サンプルを、自社の捕捉プロセスおよび高カバレッジの次世代シーケンシングを用いて処理する。
定常状態血漿中濃度、RET IC90および脳IC90(予測値)
【0099】
30~600mgの化合物1を1日1回、経口的に投与された患者から所定の時点において血液サンプルを収集した。血漿サンプルを、検証済みの液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)方法を用いて、化合物1について解析した。血漿中の化合物1濃度-時間データを、Phoenix WinNonlin(著作権)(Version 6.4,Certara L.P.)またはGraphpad Prism(Version7.02)を用いてグラフにした。図6Aは、定常状態における化合物1の血漿中濃度-時間プロファイルを示している。RET IC90および脳IC90(予測値)は、動物におけるPKおよびPDデータに基づく予想および外挿に基づく。
【0100】
1日に2回(BID)の投与スケジュールも、第I相臨床試験の一部として調べた。BID投与スケジュールは、300mgの総1日量(朝に200mg、晩に100mg)から開始した。合計9人の患者をBID用量漸増に登録した:4人の患者が300mgの総1日量(朝の200mg、晩の100mg)から開始し、5人の患者が、200mgの総1日量(100mgBID)から開始した。300mgの総1日量で登録された最初の4人の患者のうち、2人の患者が、グレード3の高血圧という用量制限毒性(DLT)を示したことから、その後、用量を100mgBIDまで段階的に減少させた。100mgBIDの5人の患者のうち2人(グレード3の高血圧を有した1人の患者、およびグレード3の腫瘍崩壊症候群を有した1人の患者を含む)が、DLTを示した。全体的な安全性、曝露量および耐容性に基づくと、QDが、優れた投与スケジュールであり、用量拡大のために選択された。
【0101】
本明細書中で言及されたすべての刊行物および特許は、その全体が参照により本明細書に援用される。
図1
図2
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図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6
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図8
図9
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図11-1】
図11-2】
図12
図13