(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240118BHJP
G11B 5/851 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C23C14/34 A
G11B5/851
(21)【出願番号】P 2020572172
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003615
(87)【国際公開番号】W WO2020166380
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019023610
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 俊亮
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/140113(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/080009(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/070860(WO,A1)
【文献】特開2004-346423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34-14/46
B22F 3/14-3/15
C22C 1/04-1/059
C22C 19/07
C22C 33/02
C22C 38/00-38/60
G11B 5/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト、鉄及びホウ素を含み、且つホウ素の濃度が20原子%以上60原子%以下である合金からなり、
酸素を更に含み、酸素の濃度が5000ppm以上30000ppm以下である、スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
コバルト、鉄及びホウ素の各密度と各元素の濃度とから算出される理論密度に対する相対密度が95%以上である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項3】
炭素を更に含み、炭素の濃度が500ppm以上2000ppm以下である、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項4】
窒素を更に含み、窒素の濃度が100ppm以上500ppm以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項5】
コバルト粉、鉄粉及びホウ素粉を含む混合粉を大気中で加熱して、酸素濃度が増加した酸化混合粉を得、その酸化混合粉を加圧しながら加熱して焼結させる工程を有するスパッタリングターゲット材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングターゲット材に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の磁性層を構成する材料として、例えばFe-Co-B系合金が知られている。Fe-Co-B系合金からなる磁性層は、Fe-Co-B系合金のターゲットを用い、スパッタリングによって形成される。例えば特許文献1ないし3には、ホウ素の含有量が特定の範囲であり、残余がコバルト、鉄及びニッケルから選択される元素からなるスパッタリングターゲットが記載されている。
【0003】
スパッタリングターゲットに要求される特性の一つとして、スパッタリング時にパーティクルの発生量が少ないことが挙げられる。上述した各文献においては、スパッタリングターゲットに含まれる酸素の量を低減することで、スパッタリング時のパーティクル発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】US2012/241316A1
【文献】US2016/237552A1
【文献】US2018/019389A1
【発明の概要】
【0005】
しかし本発明者の検討の結果、Fe-Co-B系合金からなるスパッタリングターゲットにおいて、単純に酸素の量を低減させただけでは、スパッタリング時のパーティクル発生を十分に抑制できないことが判明した。
【0006】
したがって本発明の課題は、Fe-Co-B系合金からなるスパッタリングターゲット材の改良にあり、更に詳しくは、スパッタリング時におけるパーティクルの発生量を従来よりも低減させることが可能なスパッタリングターゲット材を提供することにある。
【0007】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、Fe-Co-B系合金におけるホウ素の含有量が特定の範囲の場合には、酸素の含有割合を低減させるよりも、むしろ比較的多量の酸素を含有させる方が、パーティクル発生の抑制の観点から有効であることを知見した。本発明はこの知見に基づきなされたものであり、コバルト、鉄及びホウ素を含み、且つホウ素の濃度が20原子%以上60原子%以下である合金からなり、
酸素を更に含み、酸素の濃度が5000ppm以上30000ppm以下である、スパッタリングターゲット材を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0008】
また本発明は、前記のスパッタリングターゲット材の好適な製造方法として、
金属コバルト粉、金属鉄粉及びホウ素粉を含む混合粉を大気中で加熱して、酸素濃度が増加した酸化混合粉を得、
前記酸化混合粉を加圧しながら加熱して焼結させる、スパッタリングターゲット材の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のスパッタリングターゲット材(以下、単に「ターゲット材」ともいうことがある。)は、Fe-Co-B系合金から構成されている。すなわち本発明のターゲット材は、コバルトと鉄とホウ素とを主たる構成元素として含んでいる。本発明のターゲット材においては、ホウ素の濃度が好ましくは20原子%以上60原子%以下であり、更に好ましくは25原子%以上55原子%以下であり、一層好ましくは30原子%以上50原子%以下である。FeCo合金にこの範囲のホウ素を添加することで、所望のトンネル磁気抵抗効果が発現する。
【0010】
本発明のターゲット材におけるコバルト及び鉄の濃度は、その合計量で表して、好ましくは40原子%以上80原子%以下であり、更に好ましくは45原子%以上75原子%以下であり、一層好ましくは50原子%以上70原子%以下である。ホウ素の濃度を上述の範囲に設定し、且つ鉄及びコバルトの合計の濃度がこの範囲に設定することによって、所望のトンネル磁気抵抗効果が発現する。
【0011】
本発明のターゲット材に含まれるコバルト、鉄及びホウ素の濃度は、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって測定できる。
【0012】
FeCo合金に、上述した範囲のホウ素を添加することで、所望のトンネル磁気抵抗効果が発現する。しかし、ホウ素の添加は、スパッタリング時にパーティクルが発生する一因となる。従来技術においては、パーティクルの発生を、ターゲット材に含まれる酸素の濃度を低減させることで抑制するアプローチを採用していた。このアプローチについて本発明者が詳細に検討したところ、FeCo合金に、上述した範囲のホウ素を添加した組成を有するターゲット材においては、それに含まれる酸素の濃度を低減するよりも、むしろある程度の量の酸素を意図的に含有させることが、パーティクルの発生の抑制に効果的であることを知見した。詳細には、本発明のターゲット材は、鉄、コバルト及びホウ素に加えて酸素を更に含み、酸素の濃度を、好ましくは5000ppm以上30000ppm以下、更に好ましくは10000ppm以上27000ppm以下、一層好ましくは15000ppm以上25000ppm以下に設定している。このように、意外にも、従来よりも多量の酸素をターゲット材中に含有させることで、本発明のターゲット材は、スパッタリング時におけるパーティクルの発生量が従来よりも低減したものとなる。酸素の濃度が5000ppmに満たない場合は、パーティクルの発生を効果的に抑制できない。酸素の濃度が30000ppmを超える場合には、ターゲット材中に酸化物相が生成するおそれがあり、やはりパーティクルの発生を効果的に抑制できない。本発明のターゲット材に含まれる酸素の濃度をこの範囲内に設定するには、例えば後述する方法によってターゲット材を製造すればよい。
【0013】
本発明のターゲット材に含まれる酸素の濃度は、例えば酸素・窒素・水素分析装置(LECOジャパン合同会社製のONH836型)を用いて非分散型赤外線吸収法によって測定できる。また、酸素の濃度の単位である「ppm」はターゲット材全体に含まれる酸素の質量基準である。以下「ppm」という場合には、酸素以外の元素についても同じ意味で用いる。
【0014】
本発明のターゲット材は、上述した各元素に加えて炭素及び窒素を所定の濃度で含んでいることが、スパッタリング時におけるパーティクルの発生を一層抑制する観点から好ましい。詳細には、炭素に関しては、その濃度が500ppm以上2000ppm以下、特に550ppm以上1500ppm以下、とりわけ600ppm以上1300ppm以下であることが好ましい。一方、窒素に関しては、その濃度が100ppm以上500ppm以下、特に130ppm以上400ppm以下、とりわけ150ppm以上300ppm以下であることが好ましい。本発明のターゲット材に含まれる炭素の濃度及び窒素の濃度をこれらの範囲内に設定するには、例えば後述する方法によってターゲット材を製造すればよい。
【0015】
本発明のターゲット材に含まれる炭素の濃度は、例えば炭素・硫黄分析装置(株式会社堀場製作所のEMIA-920V)を用いて酸素気流中燃焼-赤外線吸収法によって測定できる。窒素の濃度は、例えば酸素・窒素・水素分析装置(LECOジャパン合同会社製のONH836型)を用いて熱伝導度法によって測定できる。
【0016】
本発明のターゲット材は、上述した各元素を含むものであり、且つそれ以外の元素を含まないことが好ましい。尤も、本発明の効果を損なわない限りにおいて、意図しない不可避不純物がターゲット材中に含有されることは妨げられない。
【0017】
スパッタリング時におけるパーティクルの発生を更に一層抑制する観点から、本発明のターゲット材は、その相対密度が高いことも好ましい。相対密度とは、スパッタリングターゲット材の実測密度を理論密度(計算密度ともいう)で除し、100を乗じた値である。理論密度ρ(g/cm3)は、焼結体の製造に用いた原料の割合及び密度から算出する。本発明においては、コバルト、鉄及びホウ素の各密度と各元素の濃度とから理論密度を算出する。具体的には、下記の式に基づき算出する。
ρ={(C1/100)/ρ1+(C2/100)/ρ2+(C3/100)/ρ3}-1
式中のC1~C3及びρ1~ρ3は、それぞれ以下の値を示す。
・C1:ターゲット材の製造に用いたコバルトの質量%
・ρ1:コバルトの密度(8.90g/cm3)
・C2:ターゲット材の製造に用いた鉄の質量%
・ρ2:鉄の密度(7.86g/cm3)
・C3:ターゲット材の製造に用いたホウ素の質量%
・ρ3:ホウ素の密度(2.53g/cm3)
理論密度は、ターゲット材の構成元素が互いに拡散せずに又は反応せずに混在していると仮定したときの密度である。ターゲット材の実測密度はアルキメデス法で測定される。
【0018】
上述の方法で測定される本発明のターゲット材の相対密度は95%以上であることが好ましく、97%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが一層好ましく、102%以上であることが更に一層好ましい。本発明のターゲット材がこのような相対密度を有することによって、該ターゲット材は緻密なものとなりポア部(空孔)が少なくなるので、スパッタリング時に放電が安定し、アーキングに起因するパーティクルの発生が更に一層抑制される。
【0019】
次に、本発明のスパッタリングターゲット材の好適な製造方法について説明する。本発明のスパッタリングターゲット材は、ターゲット材を構成する各元素の原料粉(つまりコバルト粉、鉄粉及びホウ素粉)を含む混合粉を大気中で加熱して(第1工程)、酸素濃度が増加した酸化混合粉を得、その酸化混合粉を加圧しながら加熱して焼結させる工程(第2工程)を経て好適に製造される。以下、第1工程及び第2工程それぞれについて詳述する。
【0020】
第1工程においては、まず原料粉を準備する。原料粉は、金属コバルト粉、金属鉄粉及びホウ素粉からなる。場合によっては、コバルト鉄合金粉及びホウ素粉を用いることもできる。各原料粉はその純度が100%であることが好ましいが、不可避不純物として酸素、炭素及び/又は窒素を微量含んでいてもよい。各原料粉の製造方法に特に制限はなく、例えば鋳造物を粉砕する方法、アトマイズ法、湿式合成法、電解法などの公知の方法によって製造することができる。
【0021】
各原料粉の粒径は、目的とするターゲット材の特性に臨界的ではなく、後述する第2工程において焼結が可能な値であればよい。例えば各原料粉の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して、0.5μm以上125μm以下であることが好ましく、0.7μm以上75μm以下であることが更に好ましく、1μm以上45μm以下であることが一層好ましい。
【0022】
各原料粉は互いに混合されて混合粉となる。混合粉における各原料粉の割合は、目的とするターゲット材に含まれる各元素の割合となるように調整される。混合には公知の混合装置、例えばビーズミル、サンドミル、アトライタ(登録商標)及びボールミルなどの媒体攪拌型ミル、並びに三本ロールミルなどを用いることができる。媒体攪拌型ミルを用いるときのメディアの直径は5mm以上20mm以下であることが好ましい。メディアの材質は、例えばジルコニアやアルミナなどが好ましい。各原料粉の混合は大気中で行うことが、目的とするターゲット材に含まれる酸素の濃度を所望の範囲に設定しやすくなる点から好ましい。大気中での混合時間は、7.5時間以上120時間以下であることが好ましく、15時間以上90時間以下であることが更に好ましく、30時間以上60時間以下であることが一層好ましい。
【0023】
このようにして混合粉が得られたら、この混合粉を大気中で加熱する。詳細には、混合粉をバットなどの浅底容器内に広げ、この浅底容器を加熱炉内に設置する。そして混合粉を静置した状態下に加熱炉内を所定の温度まで加熱する。加熱炉内は大気雰囲気としておく。加熱温度は、好ましくは70℃以上110℃以下、更に好ましくは75℃以上105℃以下、一層好ましくは80℃以上100℃以下に設定する。加熱時間は、加熱温度がこの範囲内であることを条件として、好ましくは30分以上90分以下、更に好ましくは40分以上80分以下、一層好ましくは50分以上70分以下に設定する。この条件で混合粉の加熱を行うことで、粒子の表面に薄い酸化膜が生成し、酸素濃度が増加した酸化混合粉が得られる。酸化の程度は、加熱時間及び加熱温度に応じて変化する。また混合粉に占めるホウ素の割合によっても変化する。詳細には、混合粉に占めるホウ素の割合が高いほど、酸化の程度が高くなる傾向にある。この理由は、ホウ素粉には一般に不純物として比較的多量の酸素が含まれていることによる。
【0024】
また、炭素及び窒素の濃度の調整は、原料粉である金属コバルト粉や金属鉄粉、ホウ素粉中に含まれる炭素及び窒素の割合を調整することで達成可能である。
【0025】
混合粉の大気中での加熱によって該混合粉を酸化させ、酸素濃度が増加した酸化混合粉が得られたら、この酸化混合粉を焼結させて焼結体を得る。焼結に先立ち、酸化混合粉の分級操作を行い粒子の粒径を揃えることが好ましい。例えば目開き50μm以下の篩を使用して篩い分けを行うことができる。
【0026】
酸化混合粉の焼結は、該酸化混合粉を加圧しながら加熱することで行う。詳細には、酸化混合粉を所定の形状の成形凹部を有する焼結ダイ内に充填する。焼結ダイとしては例えばグラファイト製のものを用いることができるが、この材質に限られない。焼結ダイに混合粉を充填したら、該混合粉を例えばホットプレス焼結法(以下「HP法」と略称する。)に付すことができる。あるいはSPS法に付すことができる。SPS法は、HP法などと同様の固体圧縮焼結法の一つである。SPS法においては、焼結ダイ内に充填した前記の混合粉を加圧しながら加熱する。HP法においても加圧しながら加熱を行うが、SPS法はHP法と加熱の仕方が相違する。HP法ではホットプレス装置の発熱体を用いて長時間にわたり焼結対象物に対して外部から加熱を行うのに対して、SPS法では、オン-オフの直流パルス電圧・電流を導電性のある焼結ダイ及び焼結対象物に直接印加する。そして、電気エネルギーが直接投入された焼結ダイの自己発熱を、加圧とともに焼結駆動力として利用する。つまり、一般的な焼結に用いられる熱的及び機械的エネルギーに加えて、パルス通電による電磁的エネルギーや被加工物の自己発熱及び粒子間に発生する放電プラズマエネルギーなどを複合的に焼結の駆動力としている。
【0027】
目的とするターゲット材を首尾よく得る観点から、HP法及びSPS法のいずれを採用する場合であっても、酸化混合粉を焼結させるときの昇温速度は、10℃/min以上30℃/min以下であることが好ましく、15℃/min以上25℃/min以下であることが更に好ましい。焼結温度は、800℃以上1200℃以下であることが好ましく、900℃以上1100℃以下であることが更に好ましい。焼結温度を800℃以上にすることで、焼結体の密度が低くなることを抑制でき、また1200℃以下にすることで、溶出の発生を抑制できる。焼結温度は、放射温度計(チノー社製、IR-AHS0)を使用して、焼結ダイの表面温度を計測することで得ることができる。焼結時の圧力は、10MPa以上50MPa以下であることが好ましく、15MPa以上45MPa以下であることが更に好ましい。焼結保持時間は、焼結温度及び圧力が上述の範囲であることを条件として、30分以上120分以下であることが好ましく、60分以上90分以下であることが更に好ましい。
【0028】
焼結の雰囲気は、真空又は不活性ガスとすることができる。真空で焼結を行う場合には、絶対圧で50Pa以下、特に20Pa以下の条件を採用することが好ましい。不活性ガス中で焼結を行う場合には、不活性ガスとしてアルゴンや窒素を用いることができる。
【0029】
このようにしてターゲット材が得られたら、その表面を研削加工して平滑にした後に、バッキングプレートに貼り付ける。研削加工は、アーキングの発生を抑制する観点から、表面粗さRa(JIS B0601)が好ましくは2.0μm以下、更に好ましくは1.8μm以下、一層好ましくは1.6μm以下となるように行う。バッキングプレートへの貼り付けにはインジウムなどのボンディング材を用いることができる。バッキングプレートとしては例えば無酸素銅を用いることができる。本発明において、ターゲット材とは、平面研削やボンディング等のターゲット材仕上工程前の状態も包含する。また、ターゲット材の形状は平板に限定されず、円筒形状のものも含まれる。本発明においてスパッタリングターゲットとは、こうした単数又は複数のターゲット材をバッキングプレート等にボンディングしたものであって、スパッタリングに供されるものをいう。
【0030】
このようにして得られたターゲットは、例えばDCスパッタリングのターゲットとして好適に用いられる。本発明のターゲット材を有するターゲットを用いてスパッタリングを行うことで、例えば磁気記録媒体の磁性層を構成する薄膜を首尾よく形成できる。薄膜を形成するときのスパッタリングにおいては、パーティクルの発生が抑制される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0032】
〔実施例1〕
<第1工程>
金属コバルト粉(D50=5μm)、金属鉄粉(D50=30μm)、及びホウ素粉(D50=1μm)をそれぞれ秤量した後に、大気中にてボールミルを用いて60時間にわたり混合し混合粉を得た。各粉の混合は、混合粉におけるコバルトの割合が10原子%、鉄の割合が60原子%、ホウ素の割合が30原子%となるように行った。混合粉をバット内に入れて広げ、該バットを加熱炉内に載置した。加熱炉内を大気雰囲気にした状態で、加熱炉を100℃まで加熱して、この温度を1時間保持した。これによって混合粉を酸化させ、酸化混合粉を得た。
【0033】
<第2工程>
加熱炉を自然冷却させ炉内が室温にまで低下したら、炉内からバットを取り出し、バット内の酸化混合粉を目開き50μmの篩で分級した。分級した酸化混合粉をグラファイト製の焼結ダイ内に充填した。焼結ダイの直径は130mmであった。次いでHP法によって酸化混合粉の焼結を行った。HP法の実施条件は以下のとおりとした。このようにして、円盤状のターゲット材を得た。このターゲット材の表面を研削して表面粗さを1.6μmにした後に、無酸素銅からなるバッキングプレートにインジウムはんだを用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
・焼結雰囲気:アルゴン
・昇温速度:20℃/min
・焼結温度:1100℃
・焼結保持時間:90min
・圧力:20MPa
・降温:自然炉冷
【0034】
〔実施例2〕
第1工程において、各原料粉を以下の表1に示す割合となるように混合して混合粉を得た。これ以外は実施例1と同様にしてターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
【0035】
〔比較例1〕
純度3Nの金属コバルトインゴット、純度4Nの金属鉄インゴット、及び純度2Nのホウ素インゴットを以下の表1に示す割合となるように秤量した後に、大気中で溶融させて溶湯となした。この溶湯を用い、アトマイズ法によってコバルト、鉄及びホウ素を含む合金粉(D50=60μm)を得た。この合金粉を、実施例1で用いた焼結ダイと同じ焼結ダイ内に充填し焼結を行った。これら以外は実施例1と同様にしてターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
【0036】
〔比較例2〕
純度3Nの金属コバルトインゴット、純度4Nの金属鉄インゴット、及び純度2Nのホウ素インゴットを以下の表1に示す割合となるように秤量した後に、Ar中で溶融させて溶湯となした。この溶湯を用い、アトマイズ法によってコバルト、鉄及びホウ素を含む合金粉(D50=60μm)を得た。この合金粉を、実施例1で用いた焼結ダイと同じ焼結ダイ内に充填し焼結を行った。これら以外は実施例1と同様にしてターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
【0037】
〔比較例3〕
純度3Nの金属コバルトインゴット、純度4Nの金属鉄インゴット、及び純度2Nのホウ素インゴットを以下の表1に示す割合となるように秤量した後に、Ar中で溶融させて溶湯となした。この溶湯を用い、アトマイズ法によってコバルト、鉄及びホウ素を含む合金粉(D50=60μm)を得た。この合金粉を、実施例1で用いた焼結ダイと同じ焼結ダイ内に充填し焼結を行った。これら以外は実施例1と同様にしてターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
【0038】
〔実施例3及び4〕
第1工程において、各原料粉を以下の表1に示す割合となるように混合して混合粉を得た。また、第2工程においてHP法に代えてSPS法を用いた。SPS法の実施条件は以下のとおりとした。これら以外は実施例1と同様にしてターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
・焼結雰囲気:真空(絶対圧20Pa)
・昇温時間:20℃/min
・焼結温度:1000℃
・焼結保持時間:60min
・圧力:40MPa
・降温:自然炉冷
【0039】
〔比較例4及び5〕
第1工程において、純度3Nの金属コバルトインゴット、純度4Nの金属鉄インゴット、及び純度2Nのホウ素インゴットを以下の表1に示す割合となるように秤量した後に、Ar中で溶融させて溶湯となした。この溶湯を用い、アトマイズ法によってコバルト、鉄及びホウ素を含む合金粉(D50=60μm)を得た。また、第2工程においてHP法に代えてSPS法を用いた。これら以外は実施例3及び4と同様にしてターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
【0040】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られたターゲット材について、上述の方法で元素分析及び相対密度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
〔評価2〕
ホウ素の含有量が30原子%である実施例1並びに比較例1及び2で得られたターゲットを用いて下記の条件でDCスパッタリングを行い、厚さ100nmの薄膜を成膜した。そのときに発生したパーティクルの数を40mm×40mmの範囲で測定した。その結果を以下の表2に示す。
・成膜装置:真空機器工業株式会社製EX-3013M(DCスパッタリング装置)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・スパッタガス:Arガス
・スパッタガス圧:0.4Pa
・基板:ガラス基板(コーニング社製EAGLE XG(登録商標))
・基板温度:室温
・スパッタリング電力:3W/cm2
【0043】
【0044】
表2に示す結果から明らかなとおり、実施例1で得られたスパッタリングターゲットは、比較例1及び2で得られたスパッタリングターゲットに比べてパーティクルの発生数が抑制されていることが判る。なお、表には示していないが、ホウ素の含有量が40原子%、50原子%、及び60原子%である実施例及び比較例のターゲットを比較したところ、パーティクルの発生数に関して、ホウ素の含有量が30原子%の場合と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、スパッタリング時におけるパーティクルの発生量を従来よりも低減させることができる。