(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】超音波撮像装置、信号処理装置、および、信号処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2021007305
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 貞一郎
(72)【発明者】
【氏名】網野 和宏
(72)【発明者】
【氏名】久津 将則
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125509(WO,A1)
【文献】特開2018-082835(JP,A)
【文献】特開2008-161208(JP,A)
【文献】特開2015-226762(JP,A)
【文献】特開2016-185212(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166869(WO,A1)
【文献】特開2020-010874(JP,A)
【文献】特開2011-087710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0151042(US,A1)
【文献】特開2010-162185(JP,A)
【文献】特開平02-075283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続されている超音波素子アレイの複数の超音波素子からそれぞれ、所定の送信焦点に集束するように位相を遅延させた超音波を被検体に対して送信させる送信ビームフォーマと、
前記超音波の送信を受けた前記被検体から前記超音波素子アレイに戻った超音波を、前記超音波素子アレイの複数の超音波素子がそれぞれ受信した受信信号を受け取って、前記被検体の深度に応じた遅延時間によりそれぞれ遅延させて加算し、整相信号を生成する受信ビームフォーマと、
前記遅延時間が前記超音波素子ごとに格納された遅延時間格納部と、
前記遅延時間を演算により生成して前記遅延時間格納部に格納する遅延時間演算部と、
合成部と
、
前記被検体の撮像対象の部位または臓器の選択を操作者から受け付けるコンソールとを含み、
前記
遅延時間演算部は、被検体の複数の部位ごと、または、複数の臓器ごとに予め求めておいた、遅延時間の数を増加させることが解像度の向上に効果的となる深度範囲に基づいて、前記コンソールを介して操作者から受け付けた撮像対象の部位または臓器の、遅延時間の数を増加させる深度範囲を求め、当該深度範囲については、他の深度範囲より生成する遅延時間の数を増加させ、
前記受信ビームフォーマは、前記遅延時間格納部
に前記遅延時間が2以上格納されている深度範囲では、同一の前記受信信号を2以上の
前記遅延時間によってそれぞれ遅延させることにより、2以上の整相信号を生成し、
前記合成部は、前記整相信号が2以上生成された深度範囲について、前記2以上の整相信号を合成することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の超音波撮像装置であって、操作者から送受信パラメータを受け付ける受付部をさらに有し、
前記遅延時間演算部は、前記遅延時間を前記送受信パラメータに基づいて演算により求めることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の超音波撮像装置であって、前記遅延時間演算部は、送受信パラメータと、深度範囲ごとの遅延時間の数および値との関係を予め定めておいたテーブルを参照して、前記受付部が受け付けた前記送受信パラメータに対応する前記遅延時間の数および値を求めることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の超音波撮像装置であって、
前記遅延時間演算部および前記遅延時間格納部は、前記受信ビームフォーマ内に配置され、
前記遅延時間演算部は、前記受信ビームフォーマによる前記受信信号の遅延加算処理に対応させて、前記深度範囲によって個数の異なる遅延時間をリアルタイムに算出し、前記遅延時間格納部内に格納されている遅延時間を順次上書きしていくことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の超音波撮像装置であって、前記遅延時間演算部は、予め定めておいた基準となる遅延時間に対して、予め定めた調整係数α1,α2、α3・・αnをそれぞれ掛けることにより、深度範囲ごとにn個の遅延時間の値を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項
1に記載の超音波撮像装置であって、前記遅延時間演算部は、前記超音波素子ごとに発せられ、前記超音波素子ごとに受信される超音波の伝搬経路を、予め定めた音波伝搬シミュレーションに基づいて求め、求めた前記伝搬経路を用いて、前記深度範囲によって個数の異なる遅延時間を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項7】
請求項
1に記載の超音波撮像装置であって、前記遅延時間演算部は、機械学習モデルを備え、前記機械学習モデルに、本撮像の前に撮像した超音波画像またはその受信信号に基づき、適切な遅延時間の数および/または深さに応じた遅延時間の値を深度ごとに算出させることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記受信ビームフォーマは、前記遅延時間格納部に格納されている前記遅延時間の最大個数と同数の遅延加算回路を備え、それぞれの遅延加算回路に同一の受信信号が入力され、異なる遅延時間によって遅延加算処理されることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項9】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記受信ビームフォーマは、前記遅延時間格納部に格納されている前記遅延時間の個数よりも少ない数の遅延加算回路と、受信信号記憶部と、整相信号記憶部を備え、
前記受信信号記憶部に格納された同一の受信信号を、前記遅延時間格納部内の遅延時間で遅延加算処理し、整相信号記憶部に格納する処理を、前記遅延時間格納部内の複数の遅延時間について順番に行うことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項10】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記合成部は、前記2以上の整相信号を、深さに応じて設定された重みにより、重みづけしてから加算することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項11】
請求項
2に記載の超音波撮像装置であって、前記送受信パラメータは、開口径、周波数、および、送信焦点位置の少なくとも1つを含むことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項12】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記超音波素子アレイが搭載された超音波探触子をさらに含み、
前記受信ビームフォーマは、前記超音波探触子に搭載されていることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項13】
超音波の送信を受けた被検体から
超音波素子アレイに到達した超音波を複数の超音波素子がそれぞれ受信した受信信号を受け取って処理する信号処理装置であって、
前記被検体の深度に応じた遅延時間により前記受信信号をそれぞれ遅延させて加算し、整相信号を生成する受信ビームフォーマと、
前記遅延時間が前記超音波素子ごとに格納された遅延時間格納部と、
前記遅延時間を演算により生成して前記遅延時間格納部に格納する遅延時間演算部と、
合成部と
、
前記被検体の撮像対象の部位または臓器の選択を操作者から受け付けるコンソールとを含み、
遅延時間演算部は、被検体の撮像対象の複数の部位ごと、または、複数の臓器ごとに予め求めておいた、遅延時間の数を増加させることが解像度の向上に効果的となる深度範囲に基づいて、前記コンソールを介して操作者から受け付けた撮像対象の部位または臓器の、遅延時間の数を増加させる深度範囲を求め、当該深度範囲については、他の深度範囲より生成する遅延時間の数を増加させ、
前記受信ビームフォーマは、前記遅延時間格納部に
前記遅延時間が2以上格納されている深度範囲では、同一の前記受信信号を2以上の
前記遅延時間によってそれぞれ遅延させることにより、2以上の整相信号を生成し、
前記合成部は、前記整相信号が2以上生成された深度範囲について、前記2以上の整相信号を合成することを特徴とする信号処理装置。
【請求項14】
超音波の送信を受けた被検体から
超音波素子アレイに到達した超音波を複数の超音波素子がそれぞれ受信した受信信号を受け取って処理する信号処理方法であって、
前記被検体の撮像対象の部位または臓器の選択を操作者から受け付け、
被検体の撮像対象の複数の部位ごと、または、複数の臓器ごとに予め求めておいた、遅延時間の数を増加させることが解像度の向上に効果的となる深度範囲に基づいて、操作者から受け付けた撮像対象の部位または臓器の、遅延時間の数を増加させる深度範囲を求め、
当該遅延時間の数を増加させる前記深度範囲および他の深度範囲について遅延時間を生成し、その際、前記遅延時間の数を増加させる前記深度範囲については、前記他の深度範囲よりも、多くの数の遅延時間を生成し、
生成された前記遅延時間によって、前記受信信号をそれぞれ遅延させて加算することにより、前記深度範囲によって1つ、または、2以上の整相信号を生成し、
前記整相信号が2以上生成された深度範囲について、前記2以上の整相信号を合成することを特徴とする信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検体内の画像を撮像する超音波撮像技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波撮像技術とは、超音波(聞くことを意図しない音波、一般的には20kHz以上の高周波数の音波)を用いて人体をはじめとする被検体の内部を非侵襲的に画像化する技術である。
【0003】
超音波撮像装置による超音波の送受信は、有限の開口径を持つ超音波素子アレイによって行われるため、開口部のエッジによる超音波の回折の影響を受け、方位角方向の分解能を向上させることが難しい。そのため、適応ビームフォーマや、開口合成などの新しい整相方式が提案されている。
【0004】
特許文献1には、集束型送信を行う超音波撮像技術において、仮想音源法を改良した方法を用いて、開口合成を行う技術が開示されている。具体的には、超音波ビームのエネルギが焦点に収束する領域(特許文献1の
図2の領域A)では、焦点を仮想音源とみなして開口合成を行い、その周辺の超音波エネルギが拡散する領域(領域B,C)では探触子の端部から球面波が放射されたとみなして開口合成を行う。
【0005】
一方、特許文献2には、2種類以上の遅延時間によって受信信号をそれぞれ遅延加算する2以上の遅延加算部を備えた超音波撮像装置が開示されている。第1の遅延加算部は、超音波素子から送信された送信ビーム(干渉波)から生じた受信信号を整相する第1の遅延時間によって遅延加算する。第2の遅延加算部は、送信ビームとは位相の異なる回折波(球面波)から生じた受信信号を整相する第2の遅延時間によって受信信号を遅延加算する。第1および第2遅延加算部がそれぞれ遅延加算した後の信号は合成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-277042号公報
【文献】国際公開第2016/125509号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術は、送信間で開口合成を行う技術であり、1回の送信のみでは、高精度な画像を得ることはできない。
【0008】
特許文献2の技術は、送信ビーム(干渉波)と、それ以外の回折波(球面波)で異なる遅延時間を用いることを開示しているが、遅延加算部の数は、2個または3個で固定的であり、遅延加算部ごとに遅延時間が設定されるため、遅延時間の種類も2つまたは3つである。
【0009】
発明者らの研究によると、被検体内には、超音波素子アレイの複数の超音波素子からそれぞれ送信された超音波(球面波)が伝搬しており、これらは相互に干渉して送信ビーム(干渉波)を形成する他に、球面波のまま各方向に伝搬したり、一部のみが干渉しあったり、交差したりしながら深さ方向に複雑に伝搬していく。そのため、特許文献2のように、2個または3個の遅延加算部では、それらの波によってそれぞれ生じる受信信号の一部しか整相加算することができない。一方、遅延加算部の数を超音波を送信した素子数と同程度もしくはそれ以上に増やせば、複雑な波によって生じた受信信号をそれぞれ整相加算することが可能になるが、回路規模が増大してしまう。
【0010】
発明の目的は、複数の超音波素子からそれぞれ送信され、被検体の深さ方向に複雑に伝搬していく超音波によって生じた受信信号を、効率よく整相加算して、より高解像度な画像を生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の超音波撮像装置は、接続されている超音波素子アレイの複数の超音波素子からそれぞれ、所定の送信焦点に集束するように位相を遅延させた超音波を被検体に対して送信させる送信ビームフォーマと、超音波の送信を受けた被検体から超音波素子アレイに戻った超音波を、超音波素子アレイの複数の超音波素子がそれぞれ受信した受信信号を受け取って、被検体の深度に応じた遅延時間によりそれぞれ遅延させて加算し、整相信号を生成する受信ビームフォーマと、遅延時間が超音波素子ごとに格納された遅延時間格納部と、合成部とを含む。遅延時間格納部に格納されている遅延時間の個数は、被検体の深度範囲によって異なる。受信ビームフォーマは、遅延時間格納部に格納されている遅延時間が2以上格納されている深度範囲では、同一の受信信号を2以上の遅延時間によってそれぞれ遅延させることにより、2以上の整相信号を生成する。合成部は、整相信号が2以上生成された深度範囲について、2以上の整相信号を合成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、送信ビームだけでなく、複数の超音波素子からそれぞれ送信され、被検体の深さ方向に複雑に伝搬していく球面波によって生じた受信信号を、効率よく整相加算して、より高解像度な画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の超音波撮像装置の構成を示すブロック図。
【
図2】送信ビーム31の形状および波面と、球面波とを示す説明図。
【
図3】第1実施形態の深度範囲ごとの遅延曲線の一例を示すグラフ。
【
図4】第1実施形態の深度範囲ごとの遅延曲線の一例を示すグラフ。
【
図5】第1実施形態の深度範囲ごとの遅延曲線の一例を示すグラフ。
【
図6】第2実施形態の超音波撮像装置の構成を示すブロック図。
【
図7】第3実施形態の超音波撮像装置の構成を示すブロック図。
【
図8】第3実施形態の超音波撮像装置の撮影時の各部の動作を示すフロー図。
【
図9】(a)は、比較例の超音波撮像装置で撮像した超音波画像、(b)は、本実施形態の超音波撮像装置で撮像した超音波画像、(c)は、図(a)および(b)の超音波画像の深度方向の輝度のプロファイルを示すグラフ、(d)および(e)は、図(a)および(b)の超音波画像の方位方向の輝度のプロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態の超音波撮像装置について説明する。
【0015】
<<第1実施形態>>
まず、第1実施形態の超音波撮像装置100について
図1~
図5を用いて説明する。
図1は、超音波診断装置の構成を示す図であり、
図2は、超音波素子アレイから送信された超音波の波面の例を示す図であり、
図3~
図5は、遅延時間格納部に格納されている深度ごとの遅延時間を示すグラフである。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の超音波撮像装置100は、超音波撮像装置本体102および超音波撮像装置102に接続された超音波素子アレイ101を備えた超音波探触子116で構成されている。超音波素子アレイ101は、複数の超音波素子をアレイ状に配列した構成である。超音波素子アレイ101において、送信に用いる複数の超音波素子(チャンネル)を送信チャンネルと呼び、受信に用いる複数の超音波チャンネルを受信チャンネルと呼ぶ。
【0017】
超音波撮像装置本体102は、送信ビームフォーマ104と、受信ビームフォーマ13と、遅延時間格納部17と、合成部15と、遅延時間演算部18と、合成重み演算部19と、画像処理部109と、送受分離回路107と、アナログ/デジタルコンバータ(ADC)11と、全体を制御する制御部111とを備えて構成される。
【0018】
送信ビームフォーマ104は、超音波素子アレイ101の複数の送信チャンネル105に送信信号を出力し、複数の送信チャンネル105からそれぞれ、所定の送信焦点30に集束するように位相を遅延させた超音波を被検体90に対して送信させる(
図2参照)。
【0019】
これにより、
図2に示すように、被検体90内には、送信チャンネル105からそれぞれ送信された超音波(球面波)301~306等が伝搬し、これらは相互に干渉して送信ビーム(干渉波)310を形成する他に、一部は球面波301~306等のまま各方向に伝搬し、さらにそれらの一部のみが干渉しあったりしながら深さ方向に複雑に伝搬していく。
【0020】
超音波301~306、310等の送信を受けた被検体90から超音波素子アレイ101に戻った超音波は、超音波素子アレイ101の複数の受信チャンネル106によってそれぞれ受信され、受信信号に変換される。
【0021】
受信ビームフォーマ13は、送受分離回路107およびアナログ/デジタルコンバータを介して、複数の受信チャンネル106から受信信号を受け取って、被検体90の深度に応じた遅延時間によりそれぞれ遅延させて加算し、受信走査線36上の複数の撮像対象点からの受信音波に対して位相(受信焦点)の合った整相信号を生成する。
【0022】
遅延時間格納部17には、受信ビームフォーマ13が受信信号を遅延させる際に用いる遅延時間が、超音波素子(受信チャンネル106)ごとに格納されている。遅延時間は、受信走査線36上の複数の撮像対象点に位相(受信焦点)を合わせるため、例えば
図3の破線の曲線350に示すように深度によって変化している。ここでは、深度ごとの遅延時間の変化を遅延曲線とも呼ぶ。
【0023】
本実施形態では、送信ビーム310により生じた受信信号のみならず、球面波301~306等のまま伝搬する波や、それらの一部が干渉した干渉波等から生じた受信信号からも整相信号を生成するために、
図3~
図5に例示したように複数の遅延時間(遅延曲線)が遅延時間格納部17に格納されている。
【0024】
これにより、受信ビームフォーマ13は、同一の受信信号を、それぞれの遅延時間で遅延させて加算することにより、同一の受信走査線36について複数の整相信号を生成することができる。
【0025】
合成部15は、生成された複数の整相信号を同一深度ごとに加算することにより、送信ビーム310により生じた受信信号から生成した整相信号のみならず、球面波301~306等の他の波の一部または全部により生じた受信信号から生成した整相信号を合成した整相信号を同一の受信走査線について得ることができる。よって、送信ビーム310のみについて得た整相信号よりも、高解像度の整相信号を得ることができる。
【0026】
このとき、すべての球面波301~306等や、それらの一部の干渉波等から整相信号を得るためには、遅延時間の個数(遅延曲線の本数)をそれらの球面波301~306等や一部の干渉波等の数の分だけ用意する必要があり、送信チャンネルと同数程度の遅延時間の個数が必要になる。その場合、受信ビームフォーマ13の演算量も増加する。
【0027】
そこで、本実施形態では、被検体90の深度範囲によって遅延時間の個数(遅延曲線の本数)を異ならせることにより、遅延時間の個数を増加させる深度範囲を制限し、演算量を抑制する。
【0028】
例えば、遅延時間格納部17に格納する遅延時間の数と値を深度範囲ごとに演算により算出する遅延時間演算部18をさらに備える構成とすることができる。
【0029】
遅延時間演算部18は、例えば、コンソール(受付部)110を介して操作者が設定した撮像条件パラメータおよび/または撮像パラメータに基づいて設定される送受信パラメータおよび/または接続されている超音波探触子116の種類に基づいて、深度範囲ごとの遅延時間の数と値を、演算により求める。撮像条件パラメータとはコンソール110上で操作者に対して明示的に表示される入力条件であり、例えば撮像モード(カラーフロー撮像、ドプラ撮像、非線形撮像、開口合成、周波数・空間コンパウンド、コントラスト・エッジ強調撮像など各種撮像モード)などいくつかの選択肢の中から操作者が選ぶものや、音波強度、高・中・低などの周波数帯域、深さ毎の撮像ゲイン、画像拡大率などツマミやボタンなどで段階もしくは連続的に変化した値として操作者が入力可能な条件などがある。送受信パラメータは前記の撮像条件パラメータに基づいてあらかじめ装置内に用意されたテーブルや数式演算を介して変換された超音波送受信に関するパラメータである。送受信パラメータとしては、例えば、送信開口径、受信開口径、周波数(中心周波数、周波数帯域)、送信フォーカス位置、送信パルス波の形状(波数・振幅)などを用いる。
【0030】
具体的には、撮像条件パラメータおよび/または送受信パラメータおよび/または超音波探触子116の種類と、深度範囲ごとの遅延時間の数および値との関係を定めたテーブルを予め定めて遅延時間演算部18内のメモリに格納しておき、遅延時間演算部18はこのテーブルを参照することにより、遅延時間の数と値を求める構成とすることができる。また、テーブルに限られるものではなく、予め定めておいた数式に送信パラメータの値を代入して、深度範囲ごとの遅延時間の数と値を算出してもよい。
【0031】
遅延時間演算部18は、
図3に示すように予め定めておいた基準となる遅延時間に対して、調整係数α1,α2、α3・・αnをそれぞれ掛ける等することにより、深度範囲ごとにn個の遅延時間の値(遅延曲線)を生成する構成としてもよい。α1,α2、α3・・αnは、深度(d)の関数である。
【0032】
遅延時間演算部18は、遅延線の内部計算で遅延時間の値を深度ごとに算出する構成としてよい。遅延線の内部計算とは、深度ごとの遅延時間を信号処理中にリアルタイムに演算する方式である。この場合、遅延時間演算部18および遅延時間格納部17は受信ビームフォーマ13の中に位置する構成となる。遅延線の内部計算を行う場合、遅延時間演算部18はADC11から逐次入力される受信信号に対してサンプルごともしくは受信走査線ごと、もしくは音波送信ごとなどごく短時間の時間間隔で、遅延時間を計算し、同じく受信ビームフォーマ13の中に位置する遅延時間格納部17に即座に格納する。また遅延時間格納部17中の遅延時間の値は、受信ビームフォーマ13での遅延加算処理が遂行された直後に、次のサンプルもしくは受信走査線もしくは音波送信について使用される遅延時間の値にリフレッシュ(上書き)される。この方式によれば一度に遅延時間格納部17に格納する遅延時間の値のデータ量を大幅に低減することができる。よって、遅延時間格納部17として大容量のメモリを必要とせず、例えばFPGAやASIC内部のトランジエントメモリによって遅延時間格納部17を代替することが可能となる。
【0033】
さらに、遅延時間演算部18は、予め定めた音波伝搬シミュレーションに基づいて、演算する遅延時間を深度ごとに算出する構成としてもよい。一般的に遅延曲線は音波伝搬を簡易的にモデル化した数式で表されるが、送受信パラメータに基づいた音波伝搬シミュレーションを遅延時間演算部18が直接実行することでより、正確な遅延時間を計算することができる。具体的には、送信開口、受信開口、周波数、送信フォーカス位置、送信パルス波の形状などを入力として、送信1チャンネルごとに発する超音波と受信1チャンネルごとに受信する超音波の音波伝搬の様態を1次元または2次元もしくは3次元的に微分方程式、差分式、グリーン関数などを用いた伝搬シミュレーションによって演算することにより、音波の伝搬経路を正確に求め、伝搬経路を用いて遅延曲線の遅延時間を算出する。音波伝搬シミュレーションに基づいて演算された正確な遅延時間を受信ビームフォーミングに用いることで、さらに高画質な超音波撮像が可能となる。音波伝搬シミュレーションは演算規模が大きいため、受信ビームフォーマ13がFPGAやASICなどのロジックデバイスを利用した構造の場合、音波伝搬シミュレーションを実現するためデバイス規模を大きくすることが望ましい。受信ビームフォーマのデバイスとしてCPU、GPUを利用した構造の場合には、ソフトウェア演算の形態により音波伝搬シミュレーションを好適に実現することができる。
【0034】
また、例えば、予め求めた撮像対象の部位(腹部、循環器、胸部、脚部、血管部、消化器、妊婦検診等)や臓器(肝臓、心臓、腎臓、膵臓、胆嚢、卵巣、頸動脈、甲状腺等)ごとに、遅延時間の数を増加させることが解像度の向上に効果的となるような深度範囲を予め求めておき、遅延時間演算部18は、その深度範囲の遅延時間の数を増加させる構成にすることができる。部位や臓器の選択は、制御部111に接続されているコンソール110を介して、操作者から受け付ける。
【0035】
また、遅延時間演算部18は、コンソール110を介して操作者から、高解像度の撮像を望む深度範囲を受け付け、その深度範囲の遅延時間の数を増加させてもよい。もしくは、予め所定の深度範囲において遅延時間の数を増加させておいた遅延時間のパターンを用意しておき、操作者が高解像度の撮像を望む深度範囲に応じて用いることもできる。
【0036】
さらには、遅延時間演算部18は、機械学習モデルを内蔵し、撮像条件パラメータ、送受信パラメータ、探触子の種類など超音波撮像に関係する各種パラメータや、本撮像の前に準備として撮像した超音波画像またはその受信信号を、機械学習モデルに入力して、適切な遅延時間の数、および/または深さに応じた遅延時間の値深度ごとに算出させることも可能である。機械学習モデルは、撮像条件や、撮像した画像または受信信号や、その撮像に用いた遅延時間の数を入力データとし、遅延時間の数を増加させて得た高精度の画像やその時の遅延時間、遅延時間の数を正解データとして、予め学習させたものを用いる。また、撮像の精度や分解能などは臓器の種類によっても異なるため、前期の機械学習モデルは、肝臓、腎臓、血管、乳腺などことなる臓器によって別々に学習されたものであってもよい。
【0037】
遅延曲線の具体例を
図3から
図5を用いて説明する。
図3の遅延曲線は、送信焦点30よりも深い深度範囲372には2本の遅延曲線350,351が用意され、送信焦点30よりも浅い深度範囲371には、1本の遅延曲線350のみが用意されている例である。
【0038】
図4の遅延曲線は、送信焦点30よりも深い深度範囲372には5本の遅延曲線350~354が用意され、送信焦点30よりも浅い深度範囲371には、1本の遅延曲線350のみが用意されている例である。
【0039】
図5の遅延曲線は、送信焦点30よりも深い深度範囲372には4本の遅延曲線350~354が用意され、送信焦点30よりも浅い深度範囲371には、6本の遅延曲線350、361~365が用意されている例である。
【0040】
なお、
図3から
図5は、送信焦点30を境に2つの深度範囲371,372で異なる本数の遅延曲線を設定しているが、本実施形態の深度範囲は、この2つの範囲に限定されない。任意の深度範囲を任意の数だけ設定して、その深度範囲ごとに所望の数の遅延時間(所望の本数の遅延曲線)を設定することが可能である。
【0041】
制御部111は、送信チャンネル105を移動させながら、画像生成に必要な数の受信走査線36の整相信号が得られるまで送受信を繰り返すように各部を制御する。なお、この制御方法はリニア(線形)走査、コンベック走査などのスキャン(走査)方式の場合である。セクタ(フェーズドアレイ)型走査の場合には、送信と受信の口径は同じであるが、受信走査線36を角度方向に傾けることで2次元平面上に複数の送信および受信走査線を設定し、その方向に沿って扇形領域の撮像を行うような形態をとる。例えば中心を探触子口径の中心とした±45°や±60°の扇形形状の中に50-1300本程度の走査線が用意されるような形態がある。この場合でも制御部111は、送信チャンネル105の代わりに送信の角度方向を移動させながら、画像生成に必要な数の受信走査線36の整相信号が得られるまで送受信を繰り返すように各部を制御する。
【0042】
画像処理部109は、画像生成に必要な数の整相信号または整相信号からサンプル/ピクセルごとの信号強度・輝度値に変換された画像信号並べることにより、画像を生成し、接続されている画像表示部103に表示させる。
【0043】
このように、本実施形態では、深度に応じて遅延時間の数(遅延曲線の本数)を異ならせることにより、送信ビーム310により生じた受信信号のみならず、他の波(球面波301~306等)の一部または全部から生じた受信信号からも整相信号を得ることができるため、それらを深さごとに合成することにより、高解像度の整相信号を、演算量を抑制しながら生成することができる。
【0044】
また、本実施形態では少ない超音波送信において効率的に高解像度の整相信号を得ることができるため、送信開口合成方式、空間コンパウンド方式、符号化送受信方式、マルチビーム送信方式といった複数の送信ビームを使用した高解像度方式と比べて、大きく演算量を抑制することが可能である。またこれらの方式と異なり、1回の送信で高解像度の整相信号を得ることができるため、送信間開口合成などの複数送信を利用した方式で得た画像と比較して、時間分解能が高く、また運動体の運動に伴う画像のブレ(動き・体動アーチファクト)を伴わない。よって、本実施形態の超音波撮像装置は、時間分解能が要求される高速の運動体(心臓の拍動、心臓弁)や気泡の高速振動を利用した造影剤撮像等にも適している。
【0045】
ただし、本実施形態の超音波撮像装置は、1回の送信で1本の受信走査線について整相信号を得る構成に限定されるものではなく、1回の送信で複数本の受信走査線についてそれぞれ整相信号を生成することも可能である。これにより、1枚の画像を生成するのに必要な送信回数を低減して、高速撮像を行うことが可能である。また、時間分解能が要求されない撮像部位については、必要に応じて、送信開口合成を行ってもよい。また、また本実施形態は送信ビームフォーマ13という超音波装置の信号処理最上流での処理であるため、送信開口合成のみならず他の超音波撮像方式、例えば非線形(ハーモニック)撮像、ドプラ撮像、カラーフロー撮像、コヒーレンス撮像、適応ビームフォーミングを利用した撮像など他の超音波撮像方式と組み合わせて用いることができる。
【0046】
なお、合成部15は、受信ビームフォーマ13が生成した深度範囲ごとに数の異なる整相信号を合成する際に、重みづけした後加算する構成としてもよい。その場合、合成重み演算部19は、コンソール110から操作者が設定した撮像条件や、遅延時間の深度範囲ごとの数のパターン等に応じて、適切な重みを深さに応じて生成してもよい。
【0047】
また、受信ビームフォーマ13は、複数の受信チャンネル106から受け取った受信信号を、複数の遅延時間でそれぞれ遅延させた後加算するために、複数の遅延加算回路を並列に備えた構成であってもよい。また、受信ビームフォーマ13は、同一の受信信号を、遅延時間の個数よりも少ない数の遅延加算回路により、時系列に並んだ(サンプル点ごとや、深さに応じたブロックごとや、送信ごとなど)順番の遅延時間によって順番に遅延加算処理して整相信号を生成し、生成した整相信号を内蔵するメモリに順次格納していく構成であってもよい。後者の場合、遅延加算回路が最低一つでよいため、回路規模が小さくて済む。このため、超音波探触子の116の内部に受信ビームフォーマ13を搭載することも可能になる。また、後者の場合、時分割処理により、複数の遅延時間で同一の受信信号を並列に遅延加算処理していくことも可能である。
【0048】
以下、第2、第3実施形態では、本実施形態の超音波撮像装置の構成及び動作を具体的に説明する。
【0049】
<<第2実施形態>>
第2実施形態の超音波撮像装置の受信ビームフォーマ13の構成について具体的に説明する。第2実施形態では、受信ビームフォーマ13は、並列に配置された2つの遅延加算回路13-1、13-2により構成されている。
【0050】
図6に示すように、受信ビームフォーマ13が、並列な第1遅延加算回路13-1と第2遅延加算回路13-2を含む。第1および第2遅延加算回路13-1、13-2は、遅延回路と、加算回路とを含み、複数の受信チャンネル106からそれぞれ受け取った同一の受信信号(同一送信の超音波による撮像対象からの反射波を複数の描く受信チャンネル106がそれぞれ受け取った受信信号)を、受信チャンネル106ごとに遅延させた後、まとめて加算する。第1遅延加算回路13-1の遅延回路は、受信信号を例えば
図3の第1遅延時間350により遅延させた後加算することにより、第1整相信号を生成する。第1遅延時間350は、送信ビーム310を被検体90が反射した反射波の受信信号を整相するように設定されている。第2遅延加算回路13-2は、受信信号を
図3の第2遅延時間351により遅延させることにより、第2整相信号を生成する。第2遅延時間は、送信ビーム310以外の波(例えば球面波301)の被検体90が反射した反射波の受信信号を整相するように設定されている。
【0051】
図3から明らかなように、第1遅延時間350は、深さ方向の全範囲について設定されているため、第1遅延加算回路13-1は、受信走査線36のすべての深度範囲について第1整相信号を生成する。一方、第2遅延時間351は、送信焦点30よりも深い深度範囲にのみ値が設定されているため、第2遅延加算回路13-2は、受信走査線36の送信焦点30よりも深い深度範囲にのみ第2整相信号を生成する。
【0052】
合成部15は、第1遅延加算回路13-1が遅延により生成した第1整相信号と、第2遅延加算回路13-2が遅延により生成した第2整相信号とを受け取って同一の深度の信号を合成重み演算部19の算出した深度ごとの重みを掛けて重み付けした後加算する。
【0053】
加算後の整相信号を用いて画像を生成することにより、送信ビーム310のみならず、球面波(例えば球面波301)の情報を用いて画像を生成することができる。しかも、第2遅延時間351は、送信焦点30よりも深い深度範囲にのみ設定されているため、第2遅延加算回路13-2の演算量が低減され、受信ビームフォーマ13全体の演算量を低減することができる。
【0054】
なお、第2実施形態では、
図3の最大2つの遅延時間350,351を用いる構成であるため、受信ビームフォーマ13は、2つの遅延加算回路13-1、13-2を備えていれば足りるが、
図4や
図5のように最大の遅延時間の数が5つまたは6つある場合には、遅延時間の最大数と同数以上の遅延加算回路を受信ビームフォーマ13に配置する必要がある。
【0055】
超音波撮像装置の上述した以外の構成は、第1の実施形態の実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0056】
<<第3実施形態>>
第3実施形態として、受信ビームフォーマ13の別の構成について具体的に説明する。第3実施形態の受信ビームフォーマ13は、遅延時間の最大数よりも少ない数の遅延加算回路を備え、時分割処理によりすべての遅延時間についての整相信号を生成する。
【0057】
具体的には、
図7のように、受信ビームフォーマ13は、1つの遅延加算回路13-4と、受信信号記憶部13-3と、整相信号記憶部13-5とを備えて構成される。受信信号記憶部13-3は、超音波素子アレイ101の複数の受信チャンネル106からそれぞれ受け取った受信信号を記憶する。整相信号記憶部13-5は、遅延加算回路13-4が生成した整相信号を記憶する。整相信号記憶部13-5には、第1メモリ13-51~第nメモリ13-5nまでn個のメモリまたは記憶領域が備えられており、遅延時間格納部17に格納されている遅延曲線ごとに算出された整相信号は、それぞれ別々のメモリまたは記憶領域に格納される。よって、第nメモリ13-5nのnの数は、整相信号の生成に用いる遅延時間(遅延曲線)の最大値以上用意されている。
【0058】
遅延加算回路13-4は、時分割処理によって、受信信号記憶部13-3に格納した受信信号を、最大n本の遅延曲線について、順に整相信号を生成し、第1メモリ13-51~第nメモリ13-5nに格納していく。
【0059】
つぎに、本実施形態の超音波撮像装置の撮像時の各部の動作について、
図8を用いて説明する。
【0060】
(ステップ131)
まず、制御部111は、コンソール110を介して撮像条件パラメータおよび/または撮像パラメータに基づいて設定される送受信パラメータおよび/または接続されている超音波探触子116の種類を受け付ける。送受信パラメータは、例えば、送信開口径、受信開口系、周波数(中心周波数、周波数帯域)、送信フォーカス位置、送信パルス波の形状(波数・振幅)等である。
【0061】
(ステップ132)
制御部111は、ステップ131で受け付けた条件等に基づいて、送信ビーム31の形状を計算により求める。
【0062】
(ステップ133)
遅延時間演算部18は、ステップ132で算出した送信ビーム31の形状等を用いて、受信走査線36の位置を設定し、各受信走査線36上に複数の撮像対象点(受信焦点)を設定する。遅延時間演算部18には、内蔵されているメモリに予め、送受信パラメータおよび超音波探触子116の種類と、深度範囲ごとの各受信チャンネル106の遅延時間(遅延曲線)の数と値との関係を定めたテーブルが格納されている。遅延時間演算部18は、ステップ132で受け付けた送受信パラメータおよび超音波探触子116の種類に対応する、深度範囲ごとの遅延時間(遅延曲線)の数と各深度(整相対象点)ごとの遅延値を求める。
【0063】
例えば、
図4のように、送信焦点30よりも浅い深度範囲371においては、1本の遅延曲線350が設定され、深い深度範囲372においては、5本の遅延曲線350~354を設定する。
【0064】
(ステップ134)
遅延時間演算部18は、求めた深度範囲ごとの各受信チャンネル106の遅延時間(遅延曲線)の数と値を遅延時間格納部17に格納する。
【0065】
(ステップ135)
制御部111は、送信焦点30の位置、送信周波数、送信回数等の送信条件を送信ビームフォーマ104に受け渡す。送信ビームフォーマ104は、送信信号を生成し、超音波素子アレイ101の送信チャンネル105の超音波素子に出力する。送信チャンネル105の超音波素子はそれぞれ、送信信号を超音波に変換して送信する。超音波素子アレイ101の受信チャンネル106は、ステップ135の送信により生じた被検体からの音波を受信し、受信信号を出力する。
【0066】
(ステップ136)
制御部111は、アナログ/デジタルコンバータ11によりデジタル信号に変換された受信信号を受信信号記憶部13-3に格納する。
【0067】
(ステップ137)
遅延加算回路13-4は、遅延時間格納部17から各受信チャンネル106についての1本目の遅延曲線とその深度範囲を読み込むとともに、受信信号記憶部13-3から各受信チャンネル106の受信信号を読み込む。読み込んだ遅延曲線の深度範囲の各受信信号を、各受信チャンネル106の遅延曲線の示す遅延時間で遅延後、一致する深度について遅延後信号を各チャンネル分まとめて加算することにより整相信号を生成する。
【0068】
(ステップ138)
生成した整相信号を、整相信号記憶部13-5の第1メモリ13-51に格納する。このとき、その整相信号の深度範囲を示す情報もあわせて格納する。
【0069】
(ステップ139)
遅延加算回路13-4は、上記ステップ137、138を遅延時間格納部17に格納されているすべての遅延曲線について遅延加算処理が終了するまで繰り返す。
【0070】
(ステップ140)
合成部15は、整相信号記憶部13-5の各メモリ13-51~13-5nの整相信号を受け取って、合成重み演算部19が演算により定めた整相信号ごとかつ深度ごとの重みを読み込んで、整相信号を重み付けした後加算する。このとき、整相信号によって存在する深度範囲が異なるため、合成部15は、整相信号に添付されている深度範囲情報を参照して、一致する深度の整相信号を加算する。
【0071】
画像処理部109は、超音波の送信ごとに受け取った加算後の整相信号を、走査線の型(リニア型、コンベックス型、セクタ・フェーズドアレイ型)に従った座標変換・スキャンコンバージョンなどの処理をして2次元・3次元座標空間上に並べたり、対数圧縮などの信号ダイナミックレンジ変換によりピクセルごとの輝度データへの変換処理を施したり、リサンプル・補間・バンドパス理など線形フィルタ処理したり、等をして画像を生成し、接続されている画像表示部103に表示させる。
【0072】
なお、遅延加算回路13-5による遅延加算処理は、上記説明では、遅延曲線ごとに順次行うように説明したが、遅延曲線をそれぞれ予め定めた深度範囲で複数の範囲に分割し、分割した深度範囲ごとに遅延加算処理する構成としてもよい。
【0073】
第3実施形態では、1つの遅延加算回路13-4のみでありながら、送信焦点30より浅い深度範囲371では、1本の遅延曲線350について整相信号を得ることができ、かつ、深い深度範囲372においては、複数(例えば5本)の遅延曲線350~354を用いて、送信ビーム310以外の球面波(例えば球面波301~304)についてそれぞれ整相を得ることができる。
【0074】
よって、第3実施形態では、少ない数の遅延加算回路の規模で、多くの種類の整相信号を1回の送信で得て、高解像度の画像を生成することができる。
【0075】
また、多くの遅延曲線350~354を演算に用いながら、その深度範囲が限られているため、演算量および処理後の遅延加算後の整相信号のデータ量も、全深度範囲に遅延曲線が設定されている場合よりも、低減することができる。
【0076】
このように、受信ビームフォーマの回路規模が小さく、かつ、演算量も整相信号のデータ量も低減されているため、受信ビームフォーマを超音波探触子116に搭載することや、さらには探触子から無線通信で合成部15に整相信号を送信することも可能である。
【0077】
なお、上述の第1~第3実施形態において、受信ビームフォーマ13および遅延時間演算部18は、ハードウエアにより構成することができる。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて、各部の機能を実現するように回路設計を行えばよい。なお、受信ビームフォーマ13および遅延時間演算部18は、その一部および全部をソフトウエアでその機能を実現することも可能である。その場合、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサーと、メモリとを備えたコンピュータ等によって受信ビームフォーマ13および遅延時間演算部18を構成し、CPUが、メモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、それらの機能を実現する。
【0078】
図9(a)~(e)を用いて、本実施形態の効果を説明する。
図9(a)の超音波画像151は、1本のみの遅延線を用いて超音波ファントムを撮像した超音波画像(比較例)である。
図9(b)の超音波画像152は、本実施形態の2本以上の遅延線を用いて超音波ファントムを撮像した超音波画像である。比較例の超音波画像151と比べて、本実施形態の超音波画像152は、超音波ファントム内の血管模擬領域や嚢胞模擬領域(ともに黒い領域)においてそれ以外の組織領域とのコントラストが大きくなっており視認性が向上していることがわかる。また、超音波ファントム内の各反射体の撮像分解能も向上している。
【0079】
グラフ153-155はそれぞれ、超音波画像151中の関心領域(ROI: Region of Interest)1511-1513および超音波画像152中の関心領域1521-1523について、画像輝度のプロファイルを抽出して並べたグラフである。グラフ153は、関心領域1511、1521の深度方向の画像輝度のプロファイルを、グラフ154は、関心領域1512、1522の方位方向の画像輝度のプロファイルを、グラフ155は、関心領域1513、1523の方位方向画像輝度のプロファイルを示す。グラフ153-155中の点線のプロファイル1511,1512,1513は、1本のみの遅延線を用いた超音波画像151に対応し、実線はプロファイル1521,1522,1523は、本実施形態の2本以上の遅延線を用いた超音波画像152に対応している。
【0080】
グラフ153およびグラフ154をみると、血管領域および嚢胞領域において本実施形態の実線のプロファイル1521,1522の方が、比較例の点線のプロファイル1511,1512よりも信号輝度強度が顕著に低くなっており、余分な音響雑音を深さ方向および方位方向の両方において低減する効果を生んでいることが確認できる。またグラフ155を見ると、本実施形態の実線のプロファイル1523の方が、比較例の点線のプロファイル1513よりも、血管模擬領域中の点散乱体の方位方向の幅が顕著に狭くなっており、超音波撮像の分解能が本実施形態によって大きく向上していることが確認できる。
【0081】
以上のように
図9(a)~(e)より、本実施形態の超音波撮像装置は、得られる超音波画像のコントラストおよび分解能など画質描出能を向上させる効果を有し、これによってより視認性が高い高画質の超音波撮像を実現できることが確認できる。
【符号の説明】
【0082】
13 受信ビームフォーマ
15 合成部
17 遅延時間格納部
18 遅延時間演算部
19 合成重み演算部
30 送信焦点
36 受信走査線
100 超音波撮像装置
101 超音波素子アレイ
102 超音波撮像装置本体
103 画像表示部
104 送信ビームフォーマ
105 送信チャンネル(超音波素子)
106 受信チャンネル(超音波素子)
107 送受信分離回路(T/R)
109 画像処理部
110 コンソール
111 制御部
116 超音波探触子
301~306 球面波
310 送信ビーム
350~354 遅延時間(遅延曲線)
361~365 遅延時間(遅延曲線)
371、372 深度範囲