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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240118BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240118BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240118BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240118BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240118BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/36 D
H01M10/0566
H01M10/052
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021212374
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096538
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】横尾 英紀
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】泉本 貴昭
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-120937(JP,A)
【文献】特開2020-194708(JP,A)
【文献】国際公開第2015/198521(WO,A1)
【文献】特開2020-035671(JP,A)
【文献】特開2016-131123(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0025047(KR,A)
【文献】特開2015-170508(JP,A)
【文献】特開2012-109166(JP,A)
【文献】国際公開第2011/067982(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子及び導電材を含む正極合材を含む正極と、
負極合材を含む負極と、
電解液と、を備え、
前記正極合材は、一次粒子、複数の前記一次粒子が凝集した中空状の凝集体であって中空部の直径が1μm未満である第1凝集粒子、複数の前記一次粒子が凝集した中空状の凝集体であって中空部の直径が1μm以上である第2凝集粒子を前記正極活物質粒子として含み、
前記一次粒子及び前記第1凝集粒子を第1粒子とするとき、前記正極活物質粒子の総体積に対して、前記第1粒子の総体積が占有する体積の比率が、5%以上70%以下であり、
前記正極合材の空隙率が、20%以上60%以下であり、
前記導電材のアスペクト比が、1:10以上である
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記第1粒子の体積の比率が、20%以上50%以下である
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記空隙率が、30%以上50%以下である
請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記導電材のアスペクト比が、1:30以上である
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記導電材の含有率が、前記正極合材の重量に対して0.1重量%以上5重量%以下である
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記導電材の平均径が1nm以上100nm以下である
請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、又は、モータ及びエンジンを車両の駆動源として有するハイブリッド車両では、電源としてリチウムイオン二次電池が用いられている。
このようなリチウムイオン二次電池においては、リチウムイオン(Liイオン)を可逆的に吸蔵および放出し得る活物質を正極及び負極に備えている。正極活物質として正極に含まれる正極活物質粒子は、最小単位の粒子である一次粒子と、一次粒子が凝集して形成される凝集粒子とを含む。正極中の一次粒子の割合が多い場合には、電池反応に関与する比表面積が大きくなるため、電池特性の向上が期待される。
【0003】
例えば特許文献1には、活物質の比表面積が大きい場合には、放電容量等の電池特性が高められる一方で、電解液の分解や正極活物質の副生成物の分解が進行し、ガスが発生しやすくなることが記載されている。そして、ガスの発生を抑制するために、一次粒子と、凝集粒子である二次粒子とが混在する正極合材において、一次粒子の平均粒径を制御するとともに一次粒子が単独で存在する割合を大きくしている。具体的には、一次粒子の平均粒子径を1.5μm~15μmとし、且つ一次粒子の数A及び二次粒子の数Bの和に対する一次粒子の数Aの割合「A/(A+B)」を0.8以上としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-133246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一次粒子の数の割合が0.8以上となると、電解液の分解は抑制できる可能性はあるものの、正極活物質を含む正極合材の密度が高くなることで電解液が流動する通路が狭くなる。電解液が流動する通路が狭くなると、電池の内部抵抗が増大してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池は、正極活物質粒子及び導電材を含む正極合材を含む正極と、負極合材を含む負極と、電解液と、を備え、前記正極合材は、一次粒子、複数の前記一次粒子が凝集した中空状の凝集体であって中空部の直径が1μm未満である第1凝集粒子、複数の前記一次粒子が凝集した中空状の凝集体であって中空部の直径が1μm以上である第2凝集粒子を前記正極活物質粒子として含み、前記一次粒子及び前記第1凝集粒子を第1粒子とするとき、前記正極活物質粒子の総体積に対して前記第1粒子の総体積が占有する体積の比率が、5%以上70%以下であり、前記正極合材の空隙率が、20%以上60%以下であり、前記導電材のアスペクト比が、1:10以上である。
【0007】
第1凝集粒子は、一次粒子が凝集した中空状の凝集体であって中空部の直径が1μm未満であり、第2凝集粒子は一次粒子が凝集した中空状の凝集体であって中空部の直径が1μm以上である。第2凝集粒子は、第1凝集粒子に比べ単位重量あたりの表面積である比表面積は小さい一方で、一次粒子が密に凝集しているため直流抵抗を低下させることができる。上記構成によれば、第1粒子の比率が、正極活物質粒子に対して5%以上70%以下であるため、正極活物質粒子が全て第2凝集粒子である場合に比べ、正極活物質粒子の比表面積を大きくすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の反応抵抗を低下させることができる。また、正極活物質粒子が全て第1粒子である場合に比べ、電解液が流動する通路を確保することができる。また、空隙率が20%以上60%以下であるため、リチウムイオン二次電池の直流抵抗及び拡散抵抗を低下させることができる。さらに、導電材は、アスペクト比が1:10であり、その形状が細長状であるため、正極活物質粒子間の狭い空隙に位置することができる。このため、導電材により、網目状の導電性ネットワークを構築することが可能であるため、直流抵抗を低下させることができる。このように直流抵抗、反応抵抗及び拡散抵抗を低下させることによって、リチウムイオン二次電池の合計抵抗を低下させることができる。
【0008】
上記リチウムイオン二次電池について、前記第1粒子の体積の比率が、20%以上50%以下であることが好ましい。
上記構成によれば、リチウムイオン二次電池の反応抵抗をさらに低下させることができる。
【0009】
上記リチウムイオン二次電池について、前記空隙率が、30%以上50%以下であることが好ましい。
上記構成によれば、リチウムイオン二次電池の直流抵抗及び拡散抵抗をさらに低下させることができる。
【0010】
上記リチウムイオン二次電池について、前記導電材のアスペクト比が、1:30以上であることが好ましい。
上記構成によれば、緻密な導電性ネットワークを構築することが可能であるため、直流抵抗をさらに低下させることができる。
【0011】
上記リチウムイオン二次電池について、前記導電材の含有率が、前記正極合材の重量に対して0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
上記構成によれば、緻密な導電性ネットワークを構築することが可能であるため、直流抵抗をさらに低下させることができる。
【0012】
上記リチウムイオン二次電池について、前記導電材の平均径が1nm以上100nm以下であることが好ましい。
上記構成によれば、緻密な導電性ネットワークを構築することが可能であるため、直流抵抗をさらに低下させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】非水二次電池を具体化した一実施形態について、非水二次電池としてのリチウム二次電池の電極体の概略を示す図。
図2】同実施形態における正極活物質粒子及び導電材の分布を模式的に示す図。
図3】同実施形態の第1粒子の比率及び空隙率と電池抵抗との関係を示す図。
図4】従来の第1粒子の比率及び空隙率と電池抵抗との関係を示す図。
図5】空隙率30%のときの第1粒子の比率及び直流抵抗の関係を示すグラフ。
図6】空隙率30%のときの第1粒子の比率及び反応抵抗の関係を示すグラフ。
図7】空隙率30%のときの第1粒子の比率及び拡散抵抗の関係を示すグラフ。
図8】空隙率30%のときの第1粒子の比率及び合計抵抗の関係を示すグラフ。
図9】空隙率50%のときの第1粒子の比率及び直流抵抗の関係を示すグラフ。
図10】空隙率50%のときの第1粒子の比率及び反応抵抗の関係を示すグラフ。
図11】空隙率50%のときの第1粒子の比率及び拡散抵抗の関係を示すグラフ。
図12】空隙率50%のときの第1粒子の比率及び合計抵抗の関係を示すグラフ。
図13】第1粒子比率が20%のときの空隙率及び直流抵抗の関係を示すグラフ。
図14】第1粒子比率が20%のときの空隙率及び反応抵抗の関係を示すグラフ。
図15】第1粒子比率が20%のときの空隙率及び拡散抵抗の関係を示すグラフ。
図16】第1粒子比率が20%のときの空隙率及び合計抵抗の関係を示すグラフ。
図17】第1粒子比率が50%のときの空隙率及び直流抵抗の関係を示すグラフ。
図18】第1粒子比率が50%のときの空隙率及び反応抵抗の関係を示すグラフ。
図19】第1粒子比率が50%のときの空隙率及び拡散抵抗の関係を示すグラフ。
図20】第1粒子比率が50%のときの空隙率及び合計抵抗の関係を示すグラフ。
図21】アスペクト比が1:10以上である導電材を正極に含むリチウムイオン二次電池の各抵抗及び合計抵抗を評価した表。
図22】粒状の導電材を正極に含むリチウムイオン二次電池の各抵抗及び合計抵抗を評価した表。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
<リチウムイオン二次電池の構成>
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、図示しないケース、電極体11及び非水電解液を備える。電極体11は、複数のシートを捲回した捲回体である。電極体11は、正極板としての正極シート15と負極板としての負極シート16とをセパレータ17を介して積層し、積層体を捲回することにより形成される。正極シート15は、長尺状の形状を有し、正極集電体18と、正極集電体18の両面に設けられた正極合材層19とを備える。正極合材層19は、正極合材ペーストを正極集電体18に塗工し、乾燥することにより形成された層である。負極シート16は、長尺状の形状を有し、シート状の負極集電体20と、負極集電体20の両面に設けられた負極合材層21とを備える。負極合材層21は、負極合材ペーストを塗工及び乾燥する工程により形成された層である。捲回前の積層体は、正極シート15及び負極シート16の長手方向が一致するように、正極シート15、セパレータ17、負極シート16、セパレータ17の順に積層されている。積層体は、正極シート15が最も内側になるように捲回される。正極シート15及び負極シート16の長手方向を「長手方向Y」とし、それに直交する方向を「幅方向X」とする。
【0016】
電極体11は、積層体を長手方向Yに沿って捲回し、捲回された積層体をその周面から押圧することによって扁平形状に成形されている。正極シート15の幅方向Xの一方の端部には、正極合材層19が形成されずに正極集電体18が露出した未塗工部15Aが設けられている。また、負極シート16の幅方向Xの一方の端部には、負極合材層21が形成されずに負極集電体20が露出した未塗工部16Aが設けられている。リチウムイオン二次電池10は、未塗工部15A,16Aに金属材からなる接続部を接合し、この接続部をケースの外周面に位置する外部端子に電気的に接続することにより、電力を取り出し可能に構成されている。
【0017】
次に、正極について説明する。正極集電体18には、アルミニウム箔等の金属箔が用いられる。正極合材層19は、正極活物質、導電材、及び結着材(バインダ)等を含む。正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種類または複数種類を使用することができる。好適例として、層状系、スピネル系等のリチウム複合金属酸化物(例えば、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5,LiCrMnO、LiFePO)が挙げられる。結着材としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が例示される。正極合材全体に占める正極活物質の割合は、60重量%以上(典型的には60重量%以上99重量%以下)であることが好ましい。又は70重量%以上99重量%以下としてもよい。
【0018】
次に、負極の材料について説明する。負極集電体20は、銅やニッケル等の金属箔から形成されている。負極合材層21は、負極活物質、導電材、及び結着材等を含む。負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種類または複数種類を使用することができる。例えば、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。なかでも、導電性に優れ、高いエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛系材料(特には天然黒鉛)を好ましく用いることができる。結着材としては、正極と同様のものを用いることができる。その他、増粘材、分散剤等を適宜使用することもできる。例えば、増粘材としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)を用いることができる。
【0019】
負極合材層全体に占める負極活物質の割合は、50重量%以上であることが好ましい。負極活物質の割合は、90重量%以上99重量%以下であってもよい。結着材を使用する場合には、負極合材層21全体に占める結着材の割合は、0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上5重量%以下であってもよい。増粘材を使用する場合には、負極合材層21全体に占める増粘材の割合は0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上5重量%以下であってもよい。
【0020】
セパレータ17は、樹脂から形成された多孔質層を有する。多孔質層は、例えば、多孔性ポリエチレン、多孔性ポリオレフィン、および多孔性ポリ塩化ビニル等で構成された単層構造或いは複数の材料からなる積層構造である。また、多孔質層には、強度向上などを目的としてフィラーを含有させることもできる。セパレータ17と負極シート16との間には、接着剤からなる接着層が介在していてもよい。
【0021】
非水電解液は、液状の非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のうち一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0022】
<正極合材>
図2及び図3を参照して、正極合材について詳述する。
【0023】
図2は、正極活物質粒子30の断面を模式的に示す。正極活物質粒子30は、一次粒子31、第1凝集粒子32、及び第2凝集粒子33を含む。一次粒子31は、粒子としての最小の単位であり、それ以上細かく分けることのできない粒子間の境界を有する粒子である。第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33は、複数の一次粒子31が凝集した中空状の凝集体である。第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33は、正極活物質粒子30を製造する過程で一次粒子31が凝集することにより生成される。そして、一次粒子31及び第1凝集粒子32は、正極合材を製造する工程で、第2凝集粒子33が割れたり変形したりすることにより生成されたものである。このように、第2凝集粒子33が割れたり変形したりすることで、凝集している一次粒子31の一部が脱落し、凝集粒子を構成する一次粒子31同士が離れた状態となる。
第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33は、一次粒子31よりも粒径が大きい。第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33は、殻部35を有する。殻部35は、その内側に中空部36を備えている。殻部35は、殻部35を貫通する貫通孔39を有する場合がある。貫通孔39は、1つでもよく、複数であってもよい。
第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33は、中空部36の直径が異なる。言い換えると、第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33は、殻部35の内径が異なる。第1凝集粒子32は、1μm未満の直径φ1を有するものである。中空部36の直径は、第1凝集粒子32を構成し且つ中空部36を区画する一次粒子31同士の相対長さのうち最大のものであり、貫通孔39を含まない。第2凝集粒子33は、1μm以上の直径φ2を有するものである。つまり、第1凝集粒子32は、殻部35が割れて一次粒子31が脱落することで、中空部36の内径φ2が小さくなる。
【0024】
第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33は、中空部36の直径で分けられるが、第2凝集粒子33の平均粒径は、第1凝集粒子32の平均粒径よりも比較的大きい。具体的には、第1凝集粒子32は、平均粒径が0.1μm以上10μm以下である。第2凝集粒子33は、平均粒径が2μm以上10μm以下である。正極活物質粒子30の平均粒径は、MIE散乱理論を用いたレーザ回折式粒度分布測定法で測定した50%積算値とすることができる。
第2凝集粒子33は、第1凝集粒子32に比べて比表面積は小さい一方で、一次粒子31が密に凝集しているため直流抵抗を低下させることができる。発明者らは、正極活物質粒子30のうち、第2凝集粒子33の比率が、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗に影響を与えることを見出した。以下では、一次粒子31及び第1凝集粒子32を、第1粒子37といい、第2凝集粒子33を、第2粒子38と呼んで区別する。
【0025】
正極合材層19を構成する正極合材は、以下の条件1~3を満たす。さらに、正極合材は、条件4,5のうち少なくとも一つを満たすことがさらに好ましい。
(第1粒子の比率)
正極活物質粒子の総体積に対して、第1粒子37が占有する体積の比率は、5%以上70%以下である(条件1)。また第1粒子37が占有する体積の比率は、20%以上50%以下であることが好ましい。第1粒子37の比率は、リチウムイオン二次電池10の出荷可能な状態の正極シート15から算出される値である。正極シート15を作成する際、正極合材層19をプレスすることにより、一部の第2凝集粒子33が解砕して第1粒子37となる。又は一部の第2凝集粒子が変形又は解砕して第1凝集粒子32となる。正極合材ペーストを作製する際に、導電材や分散媒等と混合される正極活物質粒子30の殆どは第2凝集粒子33の状態である。正極活物質の材料の選定の他、プレス時の圧力を制御することにより、第1粒子37の比率を調整可能である。第1粒子37の比率は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いた方法で測定することができる。この方法では、空隙率の測定と同様に、正極合材層19にイオンビームを照射して断面を露出させる。また、走査型電子顕微鏡で正極合材層19の断面全体を撮影し、断面画像を得る。さらに断面画像において第1粒子37と第2粒子38とを判別し、第1粒子37の占有面積と第2粒子38の占有面積を求める。なお、断面における第1粒子37の占有面積及び第2粒子38の占有面積の割合は、正極合材の単位体積あたりの第1粒子37の占有体積及び第2粒子38の占有体積の割合とほぼ同じである。そして、それらの占有面積の和に対する第1粒子37の占有面積の割合を求める。さらに、正極合材層19にイオンビームを照射して新たな断面を露出させて、断面画像を用いた第1粒子37の占有面積の割合の算出を10回繰り返し、第1粒子37の占有面積の割合の平均を第1粒子37の比率(%)とした。
【0026】
また、正極活物質、導電材、及び結合材と、分散媒とを混練して正極合材ペーストを作製する工程では、正極活物質粒子30は第2粒子38の状態を維持していることが好ましい。これは、正極合材ペーストを作製する段階から正極活物質粒子30のうち第1粒子37の含有率を5%以上とすると、正極合材ペースト内で第1粒子37の間に凝集力がはたらき、ペーストの粘度が過大になるためである。このように第1粒子37の凝集力によってペーストの粘度が増加した場合、溶媒量を増やす必要が生じ、製造コストが増大する。また、第1粒子37では重量当たりの嵩が増えるため搬送関係のコストが増大する。
【0027】
(空隙率)
正極合材層19における空隙率は、20%以上60%以下である(条件2)。さらに空隙率は、30%以上50%以下であることが好ましい。空隙率は、正極合材層19のうち、正極活物質粒子、導電材、結合材が充填されていない空隙の体積の割合を示す。空隙の体積は、第1凝集粒子32及び第2凝集粒子33の中空部36及び貫通孔39の体積を含む。空隙率は、正極シート15を作成する際のプレス工程で正極合材層19に加える圧力により調整可能である。空隙率の測定方法は特に限定されない。空隙率は、例えば、「単位空間体積」から「正極合材体積」を引くことで算出できる。正極合材体積は、正極合材の目付、厚み、組成比、各材料の真密度から計算できる。各材料の真密度は、例えば、JIS K 0061:2001「化学製品の密度及び比重測定方法」に準拠する方法より測定できる。
【0028】
第2粒子38は、殻部35が薄いほど割れやすく、第1粒子37となりやすい。殻部35の厚さは吸油量で推定することができる。第2粒子38の吸油量は、20ml/100g以上であることが好ましい。正極シートを作成する際のプレス後に、第1粒子37の比率を5%以上70%以下とし、且つ空隙率を上記範囲にするためには、20ml/100g以上60ml/100g以下とすることが好ましい。ここでいう吸油量は、一定の条件で第2粒子38によって吸収される精製あまに油の量であり、JIS K 5101-13-1「顔料試験方法 第13部:吸油量 第1節:精製あまに油法」に準ずる方法で測定することができる。つまり、第2粒子38は、中空部36内に油を吸収するが、吸油量が多いほど中空部36が大きく、且つ殻部35が薄いといえる。
【0029】
(導電材)
導電材40は、細長い形状を有する。導電材40は、炭素系材料からなる。導電材40は、例えば、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭、黒鉛、炭素繊維(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維)、カーボンナノチューブ等の炭素材料から選択される、一種または二種以上であり得る。
【0030】
導電材40のアスペクト比は、1:10以上である(条件3)。さらに、導電材40のアスペクト比は、1:30以上であることが好ましい。アスペクト比は、導電材40の短辺と長辺との比である。カーボンナノチューブのような筒状の導電材40の場合、アスペクト比は、筒の直径と筒の長手方向である高さとの比である。導電材40のアスペクト比が、例えば1:50や1:100等、1:10以上であることにより、正極活物質粒子30の間の僅かな隙間に介在しつつ、複数の正極活物質粒子30に接触して、正極活物質粒子30間に導電性ネットワークを構築することができる。導電材40のアスペクト比が、例えば1:5など、1:10未満である場合には、複数の正極活物質粒子30間に導電性ネットワークを構築することが難しい。
【0031】
導電材40の直径の平均(平均径)は、アスペクト比の条件3を満たした上で、100nm以下であることが好ましい(条件4)。導電材40は、正極活物質粒子30及び導電材40の間の隙間に位置し、複数の正極活物質粒子30を橋渡しする導電性ネットワークを構築することが望まれるためである。平均直径が100nmを超えると、導電ネットワークを構築しにくくなる。
【0032】
加えて、導電材40の平均直径(平均径)は、1nm以上であることが好ましい。導電材40の平均直径が1nm未満であると、導電材40の凝集力が強く働き、導電材40同士で凝集してしまい分散が困難になる。さらに、導電材40の平均直径は、5nm以上50nm以下であることが好ましい。導電材40の平均直径を測定する方法は特に限定されないが、例えば透過型電子顕微鏡を用い得られた画像から20本等の所定数の導電材40を選択してその外径を測定し平均することで算出できる。
【0033】
加えて導電材40の平均長さは、アスペクト比の条件3を満たした上で、100nm~10000nm(10μm)であることが好ましい。導電材40の平均長が100nm未満であると、正極活物質粒子間の導電性ネットワークが形成されにくく、10000nmを超えると分散しにくく製造上問題がある。
【0034】
導電材40の割合は、正極合材の重量に対して、0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましい(条件5)。導電材40の割合が0.1重量%未満の場合には、正極合材の導電性が低下し、内部抵抗が大きくなる。導電材40の割合が5重量%を超えると、正極活物質の割合が小さくなり、電池容量が低下する。又は空隙率が小さくなることで電解液の経路が減少して狭く長くなるため、電解液内の拡散抵抗が増大する。又は結合材の割合が小さくなり、正極合材層19と正極集電体18との接着性が低下する。
【0035】
本実施形態では、導電材40としてカーボンナノチューブを用いる。カーボンナノチューブは、繊維状の導電材である。カーボンナノチューブは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)からなり、単層又は多層構造を有する。カーボンナノチューブは、筒状の形状を有し、強度が高く、熱的に安定している。また、導電性、熱伝導性、耐熱性に優れている。本実施形態では、カーボンナノチューブは、単層又は複層、端部開放又は端部閉塞等の形状は問わない。カーボンナノチューブからなる導電材40を添加することによって、バインダ等の通常は電気を伝導しない素材であっても、導電性を付加することができる。また、カーボンナノチューブは、曲げ応力が加わっても破断しにくく、柔軟性に富んでいるため、正極活物質粒子30の隙間の中で、隙間の形状に合わせて変形しながら複数の粒子に絡みつくように、接触することができる。
【0036】
<電池の内部抵抗>
リチウムイオン二次電池10の内部抵抗について説明する。リチウムイオン二次電池10は、交流インピーダンス法により内部抵抗の各成分を測定することができる。交流インピーダンス法は、微小振幅で、段階的に周波数を変えて電圧又は電流をリチウムイオン二次電池10の電極に印加することにより、インピーダンススペクトルを観察する方法である。交流は、正弦波であってもよく、矩形波交流、三角波交流、鋸歯状波交流であってもよい。交流インピーダンス法によるリチウムイオン二次電池10の解析結果は、例えばナイキストプロット(Nyquist plots)として出力する。ナイキストプロットは、段階的に周波数を変えて電圧又は電流を印加したときの抵抗の虚数値Zi及び実数値Zrを2次元的に表したグラフである。ナイキストプロットによれば、リチウムイオン二次電池10の直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗に関する情報を得ることができる。
【0037】
直流抵抗は、電子移動抵抗ともいい、実数値Zrで表される。直流抵抗は、電子が、電解液、極合材、及び集電体等を移動する際の抵抗を表す。正極合材層19内の空隙の割合が大きくなると、直流抵抗は大きくなる。また、導電材40により導電性ネットワークを適切に構築することで、直流抵抗は低下する。
【0038】
反応抵抗は、例えば100Hzから0.1Hzまでの中間の周波数において測定される抵抗である。反応抵抗は、活物質表面での電子の授受反応の際の抵抗である。反応抵抗は、正極活物質粒子30の表面積の増加により低下する。正極活物質粒子30の表面積は、第1粒子37の比率が高くなると増大する。
【0039】
拡散抵抗は、例えば0.1Hz未満の低周波において測定される抵抗である。拡散抵抗は、電解液内のイオンが拡散する際の抵抗である。流動性を有する非水電解液を用いた場合、正極活物質粒子30の密度が小さくなると、正極活物質粒子30の間の非水電解液の移動経路が確保される。このため正極合材層19の密度が低下すると、拡散抵抗は低下する。
【0040】
図3及び図4を参照して、第1粒子37の比率及び正極合材層19と、各抵抗成分との関係について説明する。図3は、各抵抗成分の閾値に基づいて区切られた範囲Z1~Z5と、第1粒子37の比率及び空隙率との関係を示す。つまり、直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗に上限値を設け、第1粒子37の比率及び空隙率の変更に伴い上限値を超えた領域Z1~Z4を特定している。リチウムイオン二次電池10の正極における導電材40には、カーボンナノチューブを用いている。正極合材層19の空隙率が0%以上20%未満である領域Z1では、イオンの移動通路が縮小又は閉塞される。その結果、拡散抵抗が過大となる。正極合材層19の空隙率が60%超100%以下である領域Z2では、拡散抵抗が低下する一方で、導電性ネットワークが空隙によって切断されるため、直流抵抗が過大となる。
【0041】
また、領域Z1,Z2の間の領域であって、正極合材層19の第1粒子37の比率が過小、すなわち第1粒子37の比率が5%未満の領域Z3では、比表面積が小さくなるため、反応抵抗が過大となる。正極合材層19の第1粒子37の比率が70%超の領域Z4では、一次粒子31が密に凝集していて、直流抵抗を低下させることができる第2粒子38が少ないため正極合材層19の直流抵抗が過大となる。
【0042】
このように直流抵抗、反応抵抗及び拡散抵抗は、主としてトレードオフの関係にあるため、一方の抵抗成分を低下させても他方の抵抗成分が上昇することが起こりうる。このため、電池特性を高める上では、電池反応の律速段階の反応速度をできるだけ大きくして、各抵抗成分をバランス良く低下させることが望ましい。各抵抗成分を低下させるためには、空隙率及び第1粒子37の比率を制御することが必要である。各抵抗成分が低く、合計抵抗が低い領域Z5は、空隙率が20%以上60%以下であり、且つ第1粒子37の比率が5%以上70%以下である。
【0043】
図4は、導電材40としてアセチレンブラックを含むリチウムイオン二次電池10について、第1粒子37の比率及び正極合材層19と、各抵抗成分との関係について示すマップである。図4のマップは、導電材40以外は、図3のマップを作成する条件と同じ条件で作製されたリチウムイオン二次電池10の特性に基づいている。アセチレンブラックは、アスペクト比は1:10未満であり、その長手方向の長さは数十nmである。細長状のカーボンナノチューブを用いることで導電材40の割合が、0.1重量%以上5重量%以下と少量でも導電性を確保することができる。導電材がアセチレンブラックでは、導電材の割合が5重量%~20重量%でなければ導電性を確保できない。アセチレンブラックをその割合で添加すると空隙率が小さくなり、電解液の経路が減少するため、電解液の拡散抵抗が増大する。したがって、空隙率が40%未満である領域Z11において拡散抵抗が過大となる。図4の領域Z11は、図3の拡散抵抗が過大となる領域Z1よりもその幅が大きい。また、空隙率が大きい場合、アセチレンブラックは、カーボンナノチューブに比べ正極活物質粒子30との接触点が少ない。このため、空隙率が40%以上である領域Z12において直流抵抗が増大する。図4の領域Z12は、図3の直流抵抗が過大となる領域Z2よりもその幅が大きい。
【0044】
領域Z11,Z12の範囲が大きいことにより、図3に示す領域Z3~Z5のような好適な範囲が確認できなかった。つまり、導電材40のアスペクト比を1:10以上である細長状とすることで、合計抵抗が低い領域Z5を発生させるか、又は合計抵抗が低い領域Z5を広くすることができる。
【0045】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に記載するような効果が得られるようになる。
(1)上記実施形態では、第1粒子37の総体積の比率が、正極活物質粒子30の総体積に対して5%以上70%以下であるため、正極活物質粒子30が全て第2粒子38である場合に比べ、正極活物質粒子30の比表面積を大きくすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池10の反応抵抗を低下させることができる。また、正極活物質粒子30が全て第1粒子37である場合に比べ、電解液が流動する通路を確保することができる。また、空隙率が20%以上60%以下であるため、リチウムイオン二次電池10の直流抵抗及び拡散抵抗を低下させることができる。さらに、導電材40は、アスペクト比が1:10であり、その形状が細長状であるため、正極活物質粒子30間の狭い空隙に位置することができる。このため、導電材40により、網目状の導電性ネットワークを構築することが可能であるため、直流抵抗を低下させることができる。このように直流抵抗、反応抵抗及び拡散抵抗を低下させることによって、リチウムイオン二次電池10の合計抵抗を低下させることができる。
【0046】
(2)第1粒子37の体積の比率が20%以上50%以下であると、反応抵抗をさらに低下させることができる。
(3)空隙率が30%以上50%以下であると、直流抵抗及び拡散抵抗をさらに低下させることができる。
【0047】
(4)導電材40のアスペクト比が1:30以上であると、緻密な導電性ネットワークを構築することが可能であるため、リチウムイオン二次電池10の直流抵抗をさらに低下させることができる。
【0048】
(5)導電材40の含有率が、正極合材の重量に対して0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。これによれば、緻密な導電性ネットワークを構築することが可能であるため、直流抵抗をさらに低下させることができる。
【0049】
(6)リチウムイオン二次電池10について、導電材40の平均径が1nm以上100nm以下であると、緻密な導電性ネットワークを構築することが可能であるため、直流抵抗をさらに低下させることができる。
【0050】
(その他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
・電極体11は、正極シート15及び負極シート16を、セパレータ17を介して巻回した電極構造に限定されず、リチウムイオン二次電池10の形状や使用目的に応じて適宜変更してもよい。例えば、正極シート15及び負極シート16を、セパレータ17を介して積層した捲回しないタイプの電極構造であってもよい。
【0052】
・リチウムイオン二次電池10は、電気自動車の駆動源、ハイブリッド自動車の駆動源以外の用途で用いられてもよい。例えば、リチウムイオン二次電池10は、ガソリン自動車やディーゼル自動車等の車両に搭載されてもよい。またリチウムイオン二次電池10は、鉄道、船舶、及び航空機等の移動体や、ロボットや、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0053】
[実施例]
<第1粒子の比率及び空隙率の試験>
次に、リチウムイオン二次電池10の実施例及び比較例について説明する。なお、これらの実施例及び比較例は本発明を限定するものではない。
【0054】
以下では、空隙率を一定とし第1粒子の比率を変更した実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池10と、第1粒子の比率を一定とし空隙率を変更した実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池10とを準備し、各実施例及び各比較例について、直流抵抗、反応抵抗、拡散抵抗及び合計抵抗を評価した。
【0055】
<空隙率30%>
実施例1~5及び比較例1,2は、正極合材の空隙率を一定にして第1粒子の比率を以下の表1のように変更した。
【0056】
【表1】

(実施例1)
正極活物質として、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O)を用いた。この正極活物質粒子は、ほぼ全てが第2粒子である。この正極活物質98重量%、導電材1重量%、及び結合材1重量%を混合し、分散媒であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を添加して所定の粘度になるように混練して、正極合材ペーストを得た。この正極合材ペーストに含まれる正極活物質粒子の殆どは、第2粒子の状態を維持している。導電材は、カーボンナノチューブを用いた。カーボンナノチューブの平均径は10nm、平均長さは1000nm、アスペクト比は1:100とした。この正極合材ペーストを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗工し、乾燥させた。乾燥させた正極シートをロールプレスによって圧延した。ロールプレスにより印加される圧力の調整、及びロールプレス時のロール間のギャップを制御することにより、第2粒子を粉砕し、第1粒子の比率を70%、空隙率を30%とした。
【0057】
また、負極活物質としての天然黒鉛粉末と、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを水に分散させて混練した。この負極合剤を長尺状の銅箔の両面に塗布して乾燥することにより、負極シートを作製した。負極合材層を乾燥後、負極活物質層をプレスした。
【0058】
正極シート及び負極シートを、セパレータを積層し、非水電解液を用いてラミネート型のリチウムイオン二次電池10とした。
【0059】
(実施例2)
第1粒子の比率を50%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
(実施例3)
第1粒子の比率を20%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0060】
(実施例4)
第1粒子の比率を10%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
(実施例5)
第1粒子の比率を5%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0061】
(比較例1)
第1粒子の比率を100%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
(比較例2)
第1粒子の比率を0%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0062】
<空隙率50%>
実施例6~10及び比較例3,4は、空隙率の比率を50%にして、表2に示すように第1粒子の比率を変更した。
【0063】
【表2】

(実施例6)
空隙率を50%、第1粒子の比率を70%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0064】
(実施例7)
空隙率を50%、第1粒子の比率を50%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0065】
(実施例8)
空隙率を50%、第1粒子の比率を20%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0066】
(実施例9)
空隙率を50%、第1粒子の比率を10%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0067】
(実施例10)
空隙率を50%、第1粒子の比率を5%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0068】
(比較例3)
空隙率を50%、第1粒子の比率を100%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0069】
(比較例4)
空隙率を50%、第1粒子の比率を0%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0070】
(第1粒子の比率20%)
表3に示すように、実施例11~16及び比較例5~7は、第1粒子の比率を20%とし、空隙率を変更した。
【0071】
【表3】

(実施例11)
第1粒子の比率を20%、空隙率を20%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0072】
(実施例12)
第1粒子の比率を20%、空隙率を30%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0073】
(実施例13)
第1粒子の比率を20%、空隙率を39%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0074】
(実施例14)
第1粒子の比率を20%、空隙率を48%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0075】
(実施例15)
第1粒子の比率を20%、空隙率を52%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0076】
(実施例16)
第1粒子の比率を20%、空隙率を56%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0077】
(比較例5)
第1粒子の比率を20%、第1粒子の比率を20%、空隙率を13%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0078】
(比較例6)
第1粒子の比率を20%、空隙率を61%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0079】
(比較例7)
第1粒子の比率を20%、空隙率を67%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0080】
(第1粒子の比率50%)
表4に示すように、実施例17~22及び比較例8~10は、第1粒子の比率を50%とし、空隙率を変更した。
【0081】
【表4】

(実施例17)
第1粒子の比率を50%、空隙率を20%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0082】
(実施例18)
第1粒子の比率を50%、空隙率を30%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0083】
(実施例19)
第1粒子の比率を50%、空隙率を39%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0084】
(実施例20)
第1粒子の比率を50%、空隙率を48%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0085】
(実施例21)
第1粒子の比率を50%、空隙率を52%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0086】
(実施例22)
第1粒子の比率を50%、空隙率を56%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0087】
(比較例8)
第1粒子の比率を50%、空隙率を13%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0088】
(比較例9)
第1粒子の比率を50%、空隙率を61%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0089】
(比較例10)
第1粒子の比率を50%、空隙率を67%としたこと以外は実施例1と同様に正極シートを作成した。
【0090】
<評価1>
上記の各実施例及び比較例について、直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗を、複素インピーダンス測定で評価した。測定部は、交流電圧を発生する交流電圧発生部、電圧印加部、インピーダンス測定部を備える。0.001Hz~100000Hzまで段階的に周波数を変えて交流電圧を印加した。そして、ナイキストプロットとして出力し、直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗を得た。各抵抗成分の値を表1~4に示した。
【0091】
図5図7に、実施例1~5及び比較例1,2の直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗の値をプロットしたグラフを示す。直流抵抗は、第1粒子の比率が70%を超えると急激に上昇した。反応抵抗は、20%未満において第1粒子の比率が低くなるに伴い上昇した。詳細には、第1粒子の比率が5%未満の場合に急激に上昇し、5%以上20%未満で緩やかに上昇した。拡散抵抗は、第1粒子の比率が50%超70%未満で緩やかに上昇し、70%以上で急激に上昇した。
【0092】
図8に、実施例1~5及び比較例1,2の合計抵抗の値をプロットしたグラフを示す。第1粒子の比率が5%未満である場合、及び第1粒子の比率が70%超100%以下である場合、合計抵抗は490mΩを超えた。第1粒子の比率が5%以上20%未満である場合、及び50%超70以下である場合、合計抵抗は466mΩ~473mΩ以下であり、やや低下した。第1粒子の比率が20%以上50%以下である場合、合計抵抗は456mΩ,457mΩであり、最も低くなった。
【0093】
図9図11に、実施例6~10及び比較例3,4の直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗の値をプロットしたグラフを示す。直流抵抗は、第1粒子の比率が70%以上となると、急激に上昇した。反応抵抗は、20%未満において第1粒子の比率が低くなるに伴い上昇した。詳細には、第1粒子の比率が5%未満では上昇し、5%以上20%未満ではやや低下した。拡散抵抗は、第1粒子の比率が50%以上となると緩やかに上昇した。また、第1粒子の比率が70%以上になると、第1粒子の比率の上昇に対する拡散抵抗の比である傾きが大きくなり、拡散抵抗がさらに上昇した。
【0094】
図12に、実施例6~10及び比較例3,4の合計抵抗の値をプロットしたグラフを示す。第1粒子の比率が5%未満である場合、及び第1粒子の比率が70%超100%以下である場合、合計抵抗は490mΩを超えた。第1粒子の比率が5%以上20%未満である場合、及び50%超70以下である場合、合計抵抗は461mΩ~469mΩ以下であり、やや低下した。第1粒子の比率が20%以上50%以下である場合、合計抵抗は444mΩ~451mΩであり、最も低くなった。
【0095】
図13~15に、実施例11~16及び比較例5~7の直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗の値をプロットしたグラフを示す。
直流抵抗は、空隙率が50%を超えると上昇し、70%を超えると急激に上昇した。反応抵抗は、25mΩで一定であった。拡散抵抗は、空隙率が30%未満になると急激に上昇した。
図16に、実施例11~16及び比較例5~7の合計抵抗の値をプロットしたグラフを示す。合計抵抗は、空隙率が30%以上50%以下の範囲において最も低くなった。合計抵抗は空隙率が20%未満、及び空隙率が60%超において合計抵抗は急激に上昇した。空隙率が20%以上30%未満、及び空隙率が50%超60%以下において合計抵抗はやや上昇した。
【0096】
図17~19に、実施例17~22及び比較例8~10の直流抵抗、反応抵抗、及び拡散抵抗の値をプロットしたグラフを示す。
直流抵抗は、空隙率が50%超60%以下で緩やかに上昇し、60%超で急激に上昇した。反応抵抗は、26mΩで一定であった。拡散抵抗は、30%未満において空隙率が低下するに伴い上昇した。空隙率が20%以上30%未満で緩やかに上昇し、20%未満で急激に上昇した。
図20に、実施例17~22及び比較例8~10の合計抵抗の値をプロットしたグラフを示す。合計抵抗は、空隙率が30%以上50%以下の範囲において最も低くなった。合計抵抗は空隙率が20%未満、及び空隙率が60%超において合計抵抗は急激に上昇した。空隙率が20%以上30%未満、及び空隙率が50%超60%以下において合計抵抗は緩やかに上昇した。
【0097】
<導電材に関する実施例>
導電材としてカーボンナノチューブを用いた実施例と、アセチレンブラックを用いた比較例17~29について、空隙率を変化させて各抵抗成分及び合計抵抗を比較した。なお、導電材のアスペクト比を変えた場合の合計抵抗は、正極合材層19の空隙率に大きく影響を受け、第1粒子の比率からの影響は比較的小さいため、ここでは空隙率のみを変化させた。
【0098】
(実施例25~33)
実施例25~33は、空隙率を20%~60%の間で、5%間隔になるように調整したこと、第1粒子の比率を20%としたこと以外は、リチウムイオン二次電池10を作成した。
【0099】
(比較例11~16)
比較例11~14は、空隙率を0%,5%,10%,15%とした。比較例15,16は、空隙率を65%、70%とした。これらの比較例には導電材としてカーボンナノチューブを用いた。それ以外は実施例1と同様にリチウムイオン二次電池10を作成した。
【0100】
(比較例17~29)
比較例17~29は、導電材としてアセチレンブラックを用いた。アセチレンブラックのアスペクト比は、1:10以下である。さらに、空隙率を0%~60%の間で5%刻みになるように調整した。なお、カーボンナノチューブを導電材として含む正極合材ペーストは、正極集電材に塗工及び乾燥した段階で空隙率が70%となったため、70%を超える正極シートは作成ができなかった。一方、アセチレンブラックを導電材として含む正極合材ペーストは、正極集電材に塗工及び乾燥した段階で空隙率が60%となった。このため、空隙率65%の比較例、空隙率70%の比較例は作成できなかった。
【0101】
<評価2>
直流抵抗が175mΩ以上であるものを「×」、155mΩ以上175mΩ未満であるものを「△」、155mΩ未満であるものを「〇」とした。
【0102】
反応抵抗が50mΩ以上であるものを「×」、30mΩ以上50mΩ未満であるものを「△」、30mΩ未満であるものを「〇」とした。
拡散抵抗が310mΩ以上であるものを「×」、290mΩ以上310mΩ未満であるものを「△」、290mΩ未満であるものを「〇」とした。
【0103】
合計抵抗が485mΩ以上であるものを「×」、465mΩ以上485mΩ未満であるものを「○」、465mΩ未満であるものを「◎」とした。
図21を参照して、まずカーボンナノチューブを導電材として含む実施例25~33、比較例11~16について説明する。直流抵抗は、実施例25~31、比較例11~14が「〇」であり、実施例32,33が「△」、比較例15,16が「×」であった。
【0104】
反応抵抗は、いずれの実施例及び比較例も「○」であった。
拡散抵抗は、実施例27~33,比較例15,16が「〇」であり、比較例11~14が「×」であった。
【0105】
合計抵抗は、実施例27~31が「◎」であり、実施例25,26,32,33が「○」であり、比較例11~16が「×」であった。
図22を参照して、アセチレンブラックを導電材として含む比較例17~29について説明する。直流抵抗は、比較例17~25が「〇」であり、空隙率が45%以上の比較例26~29は「×」であった。つまり、導電材がカーボンナノチューブである場合には、空隙率が65%以上の場合に直流抵抗が「×」になった一方で、導電材がアセチレンブラックである場合には空隙率が45%以上の場合に直流抵抗が「×」になり、低い直流抵抗が得られる空隙率の範囲が狭くなった。
【0106】
反応抵抗は、いずれの実施例及び比較例も「○」であった。
拡散抵抗は、空隙率が40%以下の比較例17~25が「×」であり、空隙率が45%以上の比較例26~29が「〇」であった。つまり、導電材としてカーボンナノチューブを用いた場合には、空隙率が30%以上60%以下で「〇」、空隙率が30%未満でも「△」であったが、導電材を粒状にすると、空隙率が30%以上40%以下でも「×」になった。つまり導電材がカーボンナノチューブである場合には、空隙率が15%以下の場合に拡散抵抗が「×」になった一方で、導電材がアセチレンブラックである場合には空隙率が40%以下の場合に拡散抵抗が「×」になり、低い拡散抵抗が得られる空隙率の範囲が狭くなった。
合計抵抗は、アセチレンブラックを用いた比較例17~29のいずれもが「×」であった。
【符号の説明】
【0107】
10…リチウムイオン二次電池
15…正極シート
16…負極シート
19…正極合材層
21…負極合材層
図1
図2
図3
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図5
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図22