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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】蓄熱材組成物及び蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240118BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C09K5/06 D
C09K5/06 J
F28D20/02 D
F28D20/02 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021505043
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009807
(87)【国際公開番号】W WO2020184467
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019047121
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 隆一
(72)【発明者】
【氏名】仲村 達也
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-088352(JP,A)
【文献】特開2015-158306(JP,A)
【文献】特開2015-183973(JP,A)
【文献】特開2016-020470(JP,A)
【文献】特開2015-124267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F28D17/00-21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ナトリウム、水及びアルコールを含み、
前記アルコールは、1,2-ブタンジオール、炭素数5の2価アルコールまたは炭素数6の2価アルコールを含み、
前記2価アルコールに含まれる2つのヒドロキシル基は、それぞれ、前記2価アルコールの1位の炭素原子及び2位の炭素原子に結合している、蓄熱材組成物。
【請求項2】
前記2価アルコールが直鎖アルコールである、請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項3】
前記アルコールは、20℃の水1Lに対して1kg以上溶解する、請求項1又は2に記載の蓄熱材組成物。
【請求項4】
前記アルコールは、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオールまたは1,2-ヘキサンジオールからなる、請求項1からのいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
【請求項5】
前記酢酸ナトリウム、前記水及び前記アルコールの合計質量に対する前記酢酸ナトリウムの質量の比率が20wt%以上である、請求項1からのいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
【請求項6】
前記アルコールが1,2-ブタンジオールであり、
前記酢酸ナトリウム、前記水及び前記アルコールの三成分の質量比率をそれぞれx、y、z(但しx+y+z=100とする)としたとき、前記三成分の質量比率(x:y:z)を示す三角図において、前記三成分の質量比率は、点A(20:79.9:0.1)と点B(50:49.5:0.5)とを結ぶ直線、前記点Bと点C(52:46:2)とを結ぶ直線、前記点Cと点D(80:18:2)とを結ぶ直線、前記点Dと点E(80:10:10)とを結ぶ直線、前記点Eと点F(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、前記点Fと前記点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にある、請求項1からのいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
【請求項7】
前記アルコールが1,2-ペンタンジオールであり、
前記酢酸ナトリウム、前記水及び前記アルコールの三成分の質量比率をそれぞれx、y、z(但しx+y+z=100とする)としたとき、前記三成分の質量比率(x:y:z)を示す三角図において、前記三成分の質量比率は、点A(20:79.9:0.1)と点B(60:39.5:0.5)とを結ぶ直線、前記点Bと点C(80:18:2)とを結ぶ直線、前記点Cと点D(80:5:15)とを結ぶ直線、前記点Dと点E(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、前記点Eと前記点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にある、請求項1からのいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
【請求項8】
前記アルコールが1,2-ヘキサンジオールであり、
前記酢酸ナトリウム、前記水及び前記アルコールの三成分の質量比率をそれぞれx、y、z(但しx+y+z=100とする)としたとき、前記三成分の質量比率(x:y:z)を示す三角図において、前記三成分の質量比率は、点A(20:79.9:0.1)と点B(60:39.5:0.5)とを結ぶ直線、前記点Bと点C(80:18:2)とを結ぶ直線、前記点Cと点D(90:8:2)とを結ぶ直線、前記点Dと点E(90:5:5)とを結ぶ直線、前記点Eと点F(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、前記点Fと前記点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にある、請求項1からのいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の蓄熱材組成物と、
前記蓄熱材組成物を収容する容器と、
前記蓄熱材組成物の過冷却状態を解除する過冷却解除機構と、
を備えた、蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄熱材組成物及び蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質の融解及び凝固の相変化を利用した潜熱蓄熱材が知られている。潜熱蓄熱材は、例えば、酢酸ナトリウム三水和物を主成分として含む。潜熱蓄熱材を用いて、次の方法で蓄熱を行うことができる。まず、蓄熱時において、潜熱蓄熱材を加熱することによって液体状態の潜熱蓄熱材を得る。次に、潜熱蓄熱材を冷却する。このとき、潜熱蓄熱材は、過冷却され、液体状態を維持する。潜熱蓄熱材に蓄えられた熱は、必要なときに、潜熱蓄熱材を結晶化させることによって取り出すことができる。
【0003】
特許文献1及び特許文献2は、アルコールを含む蓄熱材組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-183973号公報
【文献】特開2016-20470号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示されたアルコールのうち、1価アルコールは、十分に高い沸点を有しておらず、蓄熱材組成物の蓄熱時に気化することがある。特許文献1及び2に開示されたアルコールのうち、2価以上の多価アルコールは、蓄熱材組成物の過冷却状態を十分に安定化できない。
【0006】
本開示は、気化しにくく、過冷却状態が十分に安定化された蓄熱材組成物を提供する。
【0007】
本開示の一態様にかかる蓄熱材組成物は、酢酸ナトリウム、水及びアルコールを含む。アルコールは、1,2-ブタンジオール及び炭素数5又は6の2価アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。
【0008】
本開示によれば、気化しにくく、過冷却状態が十分に安定化された蓄熱材組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の実施形態にかかる蓄熱材組成物における酢酸ナトリウム、水及び1,2-ブタンジオールの三成分の質量比率を示す三角図である。
図2図2は、本開示の変形例にかかる蓄熱材組成物における酢酸ナトリウム、水及び1,2-ペンタンジオールの三成分の質量比率を示す三角図である。
図3図3は、本開示の別の変形例にかかる蓄熱材組成物における酢酸ナトリウム、水及び1,2-ヘキサンジオールの三成分の質量比率を示す三角図である。
図4図4は、本開示の蓄熱材組成物を用いた蓄熱装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
特許文献1及び2に開示されたアルコールのうち、1価アルコールは、十分に高い沸点を有していない。そのため、特許文献1及び2の蓄熱材組成物が、例えば97℃以上150℃以下の高い温度に加熱されたときに、蓄熱材組成物に含まれる1価アルコールが気化することがある。これにより、蓄熱材組成物を収容する蓄熱装置の内圧が上昇し、蓄熱装置が破損することがある。このとき、蓄熱装置から液体の蓄熱材組成物が漏れることがある。1価アルコールが気化することによって、蓄熱材組成物の組成が変化することもある。
【0011】
本開示の第1態様にかかる蓄熱材組成物は、酢酸ナトリウム、水及びアルコールを含む。アルコールは、1,2-ブタンジオール、炭素数5の2価アルコールまたは炭素数6の2価アルコールを含む。
【0012】
第1態様によれば、アルコールは、1,2-ブタンジオール、炭素数5の2価アルコール又は炭素数6の2価アルコールを含む。このアルコールは、十分に高い沸点を有しており、気化しにくい。さらに、このアルコールは、蓄熱材組成物の過冷却状態を十分に安定化できる。
【0013】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様にかかる蓄熱材組成物では、2価アルコールが直鎖アルコールであってもよい。第2態様によれば、蓄熱材組成物の過冷却状態がより安定化される。
【0014】
本開示の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかる蓄熱材組成物では、2価アルコールに含まれる2つのヒドロキシル基は、それぞれ、2価アルコールの1位の炭素原子及び2位の炭素原子に結合しているとよい。第3態様によれば、蓄熱材組成物の過冷却状態がより安定化される。
【0015】
本開示の第4態様において、例えば、第1から第3態様のいずれか1つにかかる蓄熱材組成物では、アルコールは、20℃の水1Lに対して1kg以上溶解するとよい。第4態様によれば、蓄熱材組成物について蓄熱及び放熱を繰り返しても、蓄熱材組成物において、水とアルコールとが分離しにくい。そのため、蓄熱材組成物を長期間使用しても、蓄熱材組成物の組成が変化しにくい。
【0016】
本開示の第5態様において、例えば、第1から第4態様のいずれか1つにかかる蓄熱材組成物では、アルコールは、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオールまたは1,2-ヘキサンジオールを含むとよい。第5態様によれば、アルコールのヒドロキシル基が親水基として機能し、ヒドロキシル基と結合していない炭素鎖が疎水基として機能する。このようなアルコールによれば、酢酸ナトリウム、水及びアルコールの相互作用によって、酢酸ナトリウムの結晶化がより抑制される。そのため、蓄熱材組成物の過冷却状態がより安定化される。
【0017】
本開示の第6態様において、例えば、第1から第5態様のいずれか1つにかかる蓄熱材組成物では、酢酸ナトリウム、水及びアルコールの合計質量に対する酢酸ナトリウムの質量の比率が20wt%以上であるとよい。第6態様によれば、蓄熱材組成物は、容易に過冷却される。ここで、wt%は、質量%のことを表す。
【0018】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つにかかる蓄熱材組成物では、アルコールが1,2-ブタンジオールであってもよい。酢酸ナトリウム、水及びアルコールの三成分の質量比率をそれぞれx、y、z(但しx+y+z=100とする)としたとき、前記三成分の質量比率(x:y:z)を示す三角図において、三成分の質量比率は、以下の範囲内にあるとよい。すなわち、点A(20:79.9:0.1)と点B(50:49.5:0.5)とを結ぶ直線、点Bと点C(52:46:2)とを結ぶ直線、点Cと点D(80:18:2)とを結ぶ直線、点Dと点E(80:10:10)とを結ぶ直線、点Eと点F(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、点Fと点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にあってもよい。第7態様によれば、蓄熱材組成物の過冷却状態がより安定化される。
【0019】
本開示の第8態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つにかかる蓄熱材組成物では、アルコールが1,2-ペンタンジオールであってもよい。酢酸ナトリウム、水及びアルコールの三成分の質量比率をそれぞれx、y、z(但しx+y+z=100とする)としたとき、前記三成分の質量比率(x:y:z)を示す三角図において、三成分の質量比率は、以下の範囲内にあってもよい。すなわち、点A(20:79.9:0.1)と点B(60:39.5:0.5)とを結ぶ直線、点Bと点C(80:18:2)とを結ぶ直線、点Cと点D(80:5:15)とを結ぶ直線、点Dと点E(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、点Eと点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にあってもよい。第8態様によれば、蓄熱材組成物の過冷却状態がより安定化される。
【0020】
本開示の第9態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つにかかる蓄熱材組成物では、アルコールが1,2-ヘキサンジオールであってもよい。酢酸ナトリウム、水及びアルコールの三成分の質量比率をそれぞれx、y、z(但しx+y+z=100とする)としたとき、前記三成分の質量比率(x:y:z)を示す三角図において、三成分の質量比率は、以下の範囲内にあってもよい。すなわち、点A(20:79.9:0.1)と点B(60:39.5:0.5)とを結ぶ直線、点Bと点C(80:18:2)とを結ぶ直線、点Cと点D(90:8:2)とを結ぶ直線、点Dと点E(90:5:5)とを結ぶ直線、点Eと点F(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、点Fと点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にあってもよい。第9態様によれば、蓄熱材組成物の過冷却状態がより安定化される。
【0021】
本開示の第10態様にかかる蓄熱装置は、第1から第9態様のいずれか1つにかかる蓄熱材組成物と、蓄熱材組成物を収容する容器と、蓄熱材組成物の過冷却状態を解除する過冷却解除機構と、を備える。
【0022】
第10態様によれば、蓄熱材組成物が気化しにくいため、容器内の圧力が上昇しにくい。そのため、蓄熱装置は、破損しにくく、液体の蓄熱材組成物が漏れる可能性が低い。蓄熱装置では、蓄熱材組成物の過冷却状態が安定化される。
【0023】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0024】
(蓄熱材組成物)
本実施形態の蓄熱材組成物は、酢酸ナトリウム、水及びアルコールを含む。蓄熱材組成物は、酢酸ナトリウム、水及びアルコールからなっていてもよい。酢酸ナトリウムは、例えば、蓄熱材組成物に含まれる水によって水和されている。すなわち、蓄熱材組成物は、酢酸ナトリウム及び水によって形成された酢酸ナトリウム三水和物を含んでいてもよい。蓄熱材組成物は、酢酸ナトリウム無水物を含んでいてもよい。
【0025】
蓄熱材組成物に含まれるアルコールは、1,2-ブタンジオール及び炭素数5又は6の2価アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。本明細書では、「1,2-ブタンジオール及び炭素数5又は6の2価アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むアルコール」を「アルコールA」と呼ぶことがある。「炭素数5又は6の2価アルコール」を「2価アルコールB」と呼ぶことがある。2価アルコールとは、2つのヒドロキシル基によって置換された炭化水素化合物を意味する。2価アルコールBは、例えば、2つのヒドロキシル基によって置換された飽和炭化水素化合物である。
【0026】
2価アルコールBは、例えば、直鎖アルコールである。本明細書において、「直鎖アルコール」とは、2価アルコールBの炭素鎖が直鎖状であることを意味する。ただし、2価アルコールBの炭素鎖は、分岐鎖状であってもよい。
【0027】
2価アルコールBにおいて、2つのヒドロキシル基が結合している炭素原子の位置は、特に限定されない。2価アルコールBに含まれる2つのヒドロキシル基は、それぞれ、2価アルコールBの1位の炭素原子及び2位の炭素原子に結合していてもよい。
【0028】
2価アルコールBは、例えば、1,2-ペンタンジオール又は1,2-ヘキサンジオールである。すなわち、アルコールAは、例えば、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール及び1,2-ヘキサンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール及び1,2-ヘキサンジオールは、以下の式(1)で表される。ただし、式(1)において、nは、1から3の整数である。
【0029】
【化1】
【0030】
アルコールAは、例えば、20℃の水1L(1リットル)に対して1kg以上溶解する。すなわち、アルコールAは、水と混和可能であってもよい。式(1)の化合物は、いずれも水と混和可能である。
【0031】
アルコールAの沸点は、150℃以上であってもよく、190℃以上であってもよく、200℃以上であってもよく、210℃以上であってもよい。アルコールAの沸点の上限値は、特に限定されず、例えば、240℃である。一例として、1,2-ブタンジオールの沸点は、194℃である。1,2-ペンタンジオールの沸点は、210℃である。1,2-ヘキサンジオールの沸点は、224℃である。
【0032】
アルコールAを150℃に加熱したときのアルコールAの飽和蒸気圧は、30kPa以下であってもよく、20kPa以下であってもよく、10kPa以下であってもよい。このときのアルコールAの飽和蒸気圧の下限値は、特に限定されず、例えば、1kPaである。一例として、1,2-ブタンジオールを150℃に加熱したときの1,2-ブタンジオールの飽和蒸気圧は、26.2kPaである。1,2-ペンタンジオールを150℃に加熱したときの1,2-ペンタンジオールの飽和蒸気圧は、14.2kPaである。1,2-ヘキサンジオールを150℃に加熱したときの1,2-ヘキサンジオールの飽和蒸気圧は、8.3kPaである。
【0033】
酢酸ナトリウム、水及びアルコールAの合計質量Wに対する酢酸ナトリウムの質量の比率は、20wt%以上であってもよい。合計質量Wに対する酢酸ナトリウムの質量の比率は、90wt%以下であってもよい。合計質量Wに対する水の質量の比率は、例えば、5wt%以上79.9wt%以下である。合計質量Wに対するアルコールAの質量の比率は、例えば、0.1wt%以上75wt%以下である。
【0034】
本実施形態の蓄熱材組成物において、アルコールAは、例えば、1,2-ブタンジオールである。図1は、この蓄熱材組成物における酢酸ナトリウム、水及びアルコールAの三成分の質量比率を示す三角図である。図1に示すとおり、これらの三成分の質量比率は、点A(20:79.9:0.1)と点B(50:49.5:0.5)とを結ぶ直線、点Bと点C(52:46:2)とを結ぶ直線、点Cと点D(80:18:2)とを結ぶ直線、点Dと点E(80:10:10)とを結ぶ直線、点Eと点F(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、点Fと点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にあるとよい。ただし、三成分の質量比率の座標(x:y:z)において、xは、合計質量Wに対する酢酸ナトリウムの質量の比率を意味している。上記の座標において、yは、合計質量Wに対する水の質量の比率を意味している。上記の座標において、zは、合計質量Wに対するアルコールAの質量の比率を意味している。なお、x+y+z=100としている。
【0035】
変形例にかかる蓄熱材組成物において、アルコールAは、例えば、1,2-ペンタンジオールである。図2は、この蓄熱材組成物における酢酸ナトリウム、水及びアルコールAの三成分の質量比率を示す三角図である。図2に示すとおり、これらの三成分の質量比率は、点A(20:79.9:0.1)と点B(60:39.5:0.5)とを結ぶ直線、点Bと点C(80:18:2)とを結ぶ直線、点Cと点D(80:5:15)とを結ぶ直線、点Dと点E(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、点Eと点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にあるとよい。
【0036】
別の変形例にかかる蓄熱材組成物において、アルコールAは、例えば、1,2-ヘキサンジオールである。図3は、この蓄熱材組成物における酢酸ナトリウム、水及びアルコールAの三成分の質量比率を示す三角図である。図3に示すとおり、これらの三成分の質量比率は、点A(20:79.9:0.1)と点B(60:39.5:0.5)とを結ぶ直線、点Bと点C(80:18:2)とを結ぶ直線、点Cと点D(90:8:2)とを結ぶ直線、点Dと点E(90:5:5)とを結ぶ直線、点Eと点F(20:5:75)とを結ぶ直線、及び、点Fと点Aとを結ぶ直線によって囲まれた範囲内にあるとよい。
【0037】
アルコールAは、十分に高い沸点を有しており、気化しにくい。そのため、蓄熱材組成物について蓄熱を行っても、蓄熱材組成物を収容する蓄熱装置の内圧が上昇しにくい。蓄熱装置の内圧の上昇によって、蓄熱装置が破損し、液体の蓄熱材組成物が漏れる可能性が低い。さらに、アルコールAが気化しにくいため、本実施形態の蓄熱材組成物について蓄熱及び放熱を繰り返しても、蓄熱材組成物の組成が変化しにくい。そのため、本実施形態の蓄熱材組成物は、長期間の使用に適している。
【0038】
アルコールAは、蓄熱材組成物の過冷却状態を十分に安定化することもできる。特に、上記の式(1)の化合物では、ヒドロキシル基が親水基として機能し、ヒドロキシル基と結合していない炭素鎖が疎水基として機能する。酢酸ナトリウム、水及び式(1)の化合物の相互作用によって、酢酸ナトリウムの結晶化がより抑制される。そのため、蓄熱材組成物の過冷却状態がより安定化される。
【0039】
(蓄熱装置)
図4は、本実施形態の蓄熱装置100の概略断面図である。図4に示すように、蓄熱装置100は、上述した蓄熱材組成物10、容器12及び過冷却解除機構20を備えている。容器12は、蓄熱材組成物10を収容している。容器12は、伝熱性を有する材料でできている。過冷却解除機構20は、電源21、一対の電極22及びスイッチ23を有する。電源21は、直流電源であってもよく、交流電源であってもよい。一対の電極22のそれぞれは、配線によって電源21に電気的に接続されている。一対の電極22は、蓄熱材組成物10に接触するように配置されている。スイッチ23は、一対の電極22のうちの1つの電極と電源21との間に配置されている。スイッチ23を閉じることによって、一対の電極22に電圧を印加することができる。
【0040】
図4に示すように、蓄熱装置100は、例えば、中央筐体30、端部材31a、端部材31b、整流部材40a及び整流部材40bをさらに備える。中央筐体30は、断熱性を有する材料でできた筒状の筐体である。中央筐体30の内部空間には、蓄熱材組成物10が収容された複数の容器12が配置されている。中央筐体30の内部空間において、複数の容器12の外周面及び中央筐体30の内周面によって熱媒体流路15が形成されている。熱媒体流路15は、蓄熱材組成物10に熱を付与するための熱媒体又は蓄熱材組成物10から熱を回収するための熱媒体の流路である。中央筐体30の一方の端部に端部材31aが固定され、中央筐体30の他方の端部に端部材31bが固定されている。端部材31a及び端部材31bは、それぞれ、漏斗状の部材であり、中央筐体30に向かって拡大する空間を形成している。端部材31a及び端部材31bによって、熱媒体の流入口又は流出口が形成されている。また、中央筐体30の一方の端部で端部材31aの内側に整流部材40aが固定されており、中央筐体30の他方の端部で端部材31bの内側に整流部材40bが固定されている。整流部材40a及び整流部材40bは、それぞれ、複数の貫通孔を有する板状の部材であり、熱媒体の流れを整える働きをする。
【0041】
次に、蓄熱装置100を用いた蓄熱方法を説明する。
【0042】
まず、熱媒体によって、蓄熱材組成物10を加熱する。蓄熱材組成物10の温度が蓄熱材組成物10の融点を上回ると、蓄熱材組成物10が融解する。次に、蓄熱材組成物10を冷却する。これにより、蓄熱材組成物10の温度が蓄熱材組成物10の融点を下回り、蓄熱材組成物10が過冷却される。
【0043】
次に、一対の電極22に電圧を印加する。これにより、蓄熱材組成物10に電気的な刺激が加わり、蓄熱材組成物10が液体状態から固体状態に変化する。その結果、蓄熱材組成物10に蓄えられた熱が放出される。
【0044】
蓄熱装置100において、過冷却解除機構20は、上述した構成に限定されない。過冷却解除機構20は、溝を有する板部材であってもよい。このとき、過冷却解除機構20は、例えば、容器12に収容されている。板部材は、例えば、金属又は樹脂でできており、弾性を有する。板部材に応力を加えて、溝の開口が大きくなるように板部材を変形させると、蓄熱材組成物10の過冷却状態を解除し、蓄熱材組成物10を液体状態から固体状態に変化させることができる。
【実施例
【0045】
本開示を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
(比較例1)
まず、酢酸ナトリウム29.7g及び水22.6gを混合した。次に、得られた混合物を90℃の恒温槽で加熱することによって、酢酸ナトリウムを水に溶解させた。次に、得られた溶液の温度を室温まで低下させた。本明細書において、室温は、20±15℃である。次に、溶液に酢酸ナトリウム三水和物の結晶を添加した。これにより、溶液が結晶化し、比較例1の蓄熱材組成物が得られた。
【0047】
(比較例2から4及び実施例1から3)
酢酸ナトリウム及び水に、表1に記載された安定剤3.7gをさらに混合したことを除き、比較例1と同じ方法によって、比較例2から4及び実施例1から3の蓄熱材組成物を得た。なお、酢酸ナトリウム三水和物の結晶を添加しても、結晶化しなかった溶液については、-45℃の恒温槽で冷却することによって、結晶化を行った。
【0048】
[過冷却状態の安定性評価]
次に、比較例1から4及び実施例1から3の蓄熱材組成物のそれぞれについて、以下の方法で過冷却状態の安定性を評価した。まず、蓄熱材組成物をガラスでできたサンプル瓶の内部に収容し、サンプル瓶を密閉した。導電性テープによって、熱電対をサンプル瓶に貼り付けた。次に、サンプル瓶を恒温槽内に配置した。恒温槽の温度は、30℃に設定されていた。蓄熱材組成物の温度が約30℃であることを確認した後、恒温槽の温度を2℃/分の昇温速度で65℃まで昇温した。次に、恒温槽の温度を65℃で3.5時間維持した。これにより、蓄熱材組成物が融解した。次に、恒温槽の温度を2℃/分の降温速度で-20℃まで降温した。恒温槽の温度を-20℃で12時間維持した。このとき、蓄熱材組成物の結晶化の有無を観察した。蓄熱材組成物が結晶化した場合は、恒温槽の温度が-20℃に達してから蓄熱材組成物が結晶化するまでの時間を記録した。この時間を蓄熱材組成物の過冷却状態が維持された時間とみなした。次に、上記の操作で結晶化しなかった蓄熱材組成物については、恒温槽の温度を-45℃まで降温させ、3時間維持することによって、蓄熱材組成物を結晶化させた。次に、恒温槽の温度を2℃/分の昇温速度で30℃まで昇温した。以上の恒温槽の温度に関する操作を1サイクルと定義し、この操作を6サイクル繰り返して、蓄熱材組成物の過冷却状態の安定性評価を行った。安定性評価において、-20℃で蓄熱材組成物の過冷却状態が維持された時間の合計値をサイクル数で除することによって、過冷却状態が維持された時間の平均値を算出した。さらに、-20℃で蓄熱材組成物の過冷却状態が12時間維持された回数をサイクル数で除することによって、過冷却状態が12時間維持された確率を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1からわかるとおり、安定剤を含まない比較例1の蓄熱材組成物、及び、アルコールAとは異なるアルコールを含む比較例1から4の蓄熱材組成物は、過冷却状態を十分に維持できず、過冷却状態の安定性に乏しかった。これに対して、アルコールAを含む実施例1から3の蓄熱材組成物は、-20℃で結晶化せず、過冷却状態の安定性に優れていた。
【0051】
(実施例4から11)
酢酸ナトリウム、水及び1,2-ブタンジオールの三成分の質量比率が表2に記載された値となるように、三成分の添加量を調節したことを除き、実施例1と同じ方法によって実施例4から11の蓄熱材組成物を得た。さらに、これらの蓄熱材組成物について、蓄熱時の恒温槽の温度を65℃から75℃に変更したこと、及び、サイクル数を6から4に変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって過冷却状態の安定性評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例4から11における三成分の質量比率は、図1の丸印(〇)に対応している。表2及び図1からわかるとおり、酢酸ナトリウム、水及び1,2-ブタンジオールの三成分の質量比率が図1の枠線内の範囲にあるとき、蓄熱材組成物の過冷却状態が十分に安定化される。
【0054】
(実施例12から17)
酢酸ナトリウム、水及び1,2-ペンタンジオールの三成分の質量比率が表3に記載された値となるように、三成分の添加量を調節したことを除き、実施例2と同じ方法によって実施例12から17の蓄熱材組成物を得た。さらに、これらの蓄熱材組成物について、実施例4と同じ方法によって過冷却状態の安定性評価を行った。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
実施例12から17における三成分の質量比率は、図2の丸印(〇)に対応している。表3及び図2からわかるとおり、酢酸ナトリウム、水及び1,2-ペンタンジオールの三成分の質量比率が図2の枠線内の範囲にあるとき、蓄熱材組成物の過冷却状態が十分に安定化される。
【0057】
(実施例18から25)
酢酸ナトリウム、水及び1,2-ヘキサンジオールの三成分の質量比率が表3に記載された値となるように、三成分の添加量を調節したことを除き、実施例3と同じ方法によって実施例18から25の蓄熱材組成物を得た。さらに、これらの蓄熱材組成物について、実施例4と同じ方法によって過冷却状態の安定性評価を行った。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
実施例18から25における三成分の質量比率は、図3の丸印(〇)に対応している。表4及び図3からわかるとおり、酢酸ナトリウム、水及び1,2-ヘキサンジオールの三成分の質量比率が図3の枠線内の範囲にあるとき、蓄熱材組成物の過冷却状態が十分に安定化される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示の蓄熱材組成物及び蓄熱装置は、内燃機関の廃熱、燃焼式ボイラーの廃熱などを熱源として機器の暖機を行うことに適している。本明細書に開示された技術は、空調機、給湯器、電気自動車(EV)用の電池冷却システム、住宅の床暖房システムにも適用できる。
【符号の説明】
【0061】
10 蓄熱材組成物
12 容器
20 過冷却解除機構
100 蓄熱装置
図1
図2
図3
図4