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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】冷間圧延被覆鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240118BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240118BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/58
C21D9/46 G
C21D9/46 H
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021515544
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 IB2019057795
(87)【国際公開番号】W WO2020058829
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/057253
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アリベイギ,サマネイ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-185370(JP,A)
【文献】特開2011-149066(JP,A)
【文献】特開2009-030081(JP,A)
【文献】特開平11-236621(JP,A)
【文献】特表2014-523478(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108026601(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延鋼板であって、重量パーセントで表される、以下の元素、すなわち
0.13%≦炭素≦0.18%
1.1%≦マンガン≦1.8%
0.5%≦ケイ素≦0.9%
0.6%≦アルミニウム≦1%
0.002%≦リン≦0.02%
0%≦硫黄≦0.003%
0%≦窒素≦0.007%
を含み、以下の任意の元素のうちの1つ以上、すなわち
0.05%≦クロム≦1%
0.001%≦モリブデン≦0.5%
0.001%≦ニオブ≦0.1%
0.001%≦チタン≦0.1%
0.01%≦銅≦2%
0.01%≦ニッケル≦3%
0.0001%≦カルシウム≦0.005%
0%≦バナジウム≦0.1%
0%≦ホウ素≦0.003%
0%≦セリウム≦0.1%
0%≦マグネシウム≦0.010%
0%≦ジルコニウム≦0.010%
を含むことができ、組成の残余は、鉄及び加工に起因する不可避の不純物から構成される組成を有し、前記鋼板の微細組織は、面積分率で、60~70%のフェライト、20~30%のベイナイト、10~15%の残留オーステナイト、及び0~5%のマルテンサイトを含み、残留オーステナイト及びフェライトの累積量は70%~80%の間である、鋼板。
【請求項2】
前記組成が、0.6%~0.8%のケイ素を含む、請求項1に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項3】
前記組成が、0.14%~0.18%の炭素を含む、請求項1又は2に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項4】
前記組成が、0.6%~0.8%のアルミニウムを含む、請求項3に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項5】
前記組成が、1.2%~1.8%のマンガンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項6】
前記組成が、1.3%~1.7%のマンガンを含む、請求項5に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項7】
フェライト及び残留オーステナイトの累積量が73%~80%の間であり、残留オーステナイトの割合が13%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項8】
マルテンサイトの量が0%~3%の間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項9】
残留オーステナイトの炭素含有量が、0.9~1.1%の間である、請求項1~8のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項10】
鋼板が、600MPa以上の極限引張強度及び31%以上の全伸びを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項11】
鋼板が、320MPa以上の降伏強度及び33%以上の全伸びを有する、請求項10に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項12】
鋼板が被覆されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項13】
冷間圧延鋼板の製造方法であって、
以下の連続ステップ
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼組成を提供するステップ、
- 半完成品を1150℃~1280℃の間の温度に再加熱するステップ、
- 熱間圧延仕上げ温度がAc1+50℃~Ac1+250℃の間となるように、オーステナイト範囲において前記半製品を圧延して、熱間圧延鋼板を得るステップ、
- 30℃/秒を超える冷却速度で625℃未満の巻取り温度まで板を冷却し、前記熱間圧延板を巻き取るステップ、
- 前記熱間圧延板を室温まで冷却するステップ、
- 任意に、前記熱間圧延鋼板にスケール除去処理を実施するステップ、
- 任意に、熱間圧延鋼板を400℃~750℃の間の温度で焼鈍を実施するステップ、
- 任意に、前記熱間圧延鋼板にスケール除去処理を実施するステップ、
- 35~90%の間の圧下率で前記熱間圧延鋼板を冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得るステップ、
- 次に、前記冷間圧延鋼板を2段階加熱によって加熱することにより、Ac1+30℃~Ac3の間の均熱温度で10~500秒間の間焼鈍を実施するステップ、ここで
・ 加熱ステップ1において、前記冷間圧延鋼板を10℃/秒~40℃/秒の間の加熱速度で550~650℃の間の温度範囲まで加熱するステップ、
・ その後、加熱ステップ2において、前記冷間圧延鋼板を1℃/秒~5℃/秒の間の加熱速度で550~650℃の間の温度範囲から鋼板が維持される焼鈍均熱温度まで加熱するステップ、
- 次いで、前記冷間圧延鋼板を2段階冷却で冷却するステップ、ここで
・ 冷却ステップ1において、前記冷間圧延鋼板を5℃/秒未満の冷却速度で600℃~720℃の間の温度範囲まで冷却するステップ、
・ その後、冷却ステップ2において、前記板を10~100℃/秒の間の冷却速度で600℃~720℃の間の温度範囲から過時効温度まで冷却するステップ、
- 次に、前記冷間圧延鋼板を5~500秒間の間250~470℃の間の温度範囲で過時効処理するステップ、
- 次に室温まで冷却して、冷間圧延鋼板を得るステップ
を含み、得られる冷間圧延鋼板の微細組織は、面積分率で、60~70%のフェライト、20~30%のベイナイト、10~15%の残留オーステナイト、及び0~5%のマルテンサイトを含み、残留オーステナイト及びフェライトの累積量は70%~80%の間である、
方法。
【請求項14】
巻取り温度が600℃未満である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
仕上げ圧延温度がAc1+50℃~Ac1+200℃の間である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
冷却ステップ1において、前記冷間圧延鋼板を3℃/秒未満の冷却速度で625~720℃の温度範囲まで冷却する、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
冷間圧延鋼板がAc1+30℃~Ac3の間で焼鈍され、焼鈍温度が、均熱終了時に少なくとも30%のオーステナイトが存在することを確実にするように選択される、請求項13~16のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板の製造方法。
【請求項18】
400℃~480℃の温度範囲で冷間圧延鋼板を被覆する、請求項13~17のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板の製造方法。
【請求項19】
車両の構造部品又は安全部分の製造のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項13~18のいずれか一項に記載の方法で製造された鋼板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼板としての使用に適した冷間圧延被覆鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品には、2つの矛盾した必要性、すなわち成形の容易さ及び強度を満たすことが要求されるが、近年では、地球環境への配慮の点から自動車には燃費向上という3つ目の要件も与えられている。このように、現在では、自動車部品は、複雑な自動車の組立体への取り付けの容易さという基準に適合すべく、高い成形性を有する材料で製作する必要があり、同時に、自動車の重量を低減し燃費を向上させながら、自動車の耐衝突性及び耐久性のための強度を向上させる必要がある。
【0003】
そのため、材料の強度を上げることで自動車に利用される材料の量を減らすために、精力的な研究開発努力が行われている。逆に、鋼板の強度の増加は成形性を低下させるので、高強度及び高成形性を併せ持つ材料の開発が必要である。
【0004】
高強度及び高成形性鋼板の分野における以前の研究及び開発により、高強度及び高成形性鋼板を製造するためのいくつかの方法がもたらされ、そのいくつかを、本発明を最終的に理解するために本明細書に列挙する。
【0005】
US20140234657号は、マルテンサイト及びベイナイトのうちの1つ又は2つを体積分率で合計20%以上99%以下含む微細組織を有する溶融亜鉛めっき鋼板を請求する特許出願であり、残余の組織はフェライト及び残留オーステナイトの1つ又は2つを体積分率で8%未満、並びにパーライトを体積分率10%以下含む。さらにUS20140234657号は980MPaの引張強さに達するが、25%の伸びに達することができない。
【0006】
US8657969号は、590MPa以上の引張強さ及び優れた加工性を有する、高強度亜鉛めっき鋼板を請求する。成分組成は、質量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.7~2.7%、Mn:0.5~2.8%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下及びN:0.008%以下を含み、残余はFe又は不可避の不純物である。微細組織は面積比で、フェライト相:30%~90%、ベイナイト相:3%~30%、マルテンサイト相:5%~40%を含み、マルテンサイト相のうち、アスペクト比が3以上のマルテンサイト相が30%以上の割合で存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2014/0234657号明細書
【文献】米国特許第8657969号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、以下を同時に有する冷間圧延鋼及び被覆板を利用可能にすることにより、これらの問題を解決することにある。
【0009】
- 600MPa以上の、好ましくは620MPaを超える極限引張強度、
- 31%以上の、好ましくは33%を超える全伸び。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明の鋼板は、320MPa以上の降伏強度を提示することもできる。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明の鋼板は0.6以上の引張強さに対する降伏強度比を示すこともできる。
【0012】
好ましくは、このような鋼は、良好な溶接性及び被覆性をもって、成形、特に圧延に対して良好な適性を有することもできる。
【0013】
本発明の別の目的は、製造パラメータの変化に向けてロバストである一方で、従来の工業用途に適合する、これらの板の製造方法を利用可能にすることでもある。
【0014】
本発明の冷間圧延及び熱処理された鋼板は、任意に亜鉛若しくは亜鉛合金、又はアルミニウム又はアルミニウム合金で被覆して、その耐食性を改善することができる。
【0015】
炭素は0.13%~0.18%の間で鋼中に存在する。炭素は、ベイナイトなどの低温変態相を生成させて鋼板の強度を高めるために必要な元素であり、さらに炭素はオーステナイトの安定化にも極めて重要な役割を果たし、したがって残留オーステナイトを確保するために必要な元素である。よって、炭素は2つのきわめて重要な役割を果たす。1つは強度を増加させることにおいての役割、もう1つはオーステナイトを保持し延性を付与することにおいての役割である。しかし、0.13%未満の炭素含有量では、本発明の鋼に必要とされる適切な量でオーステナイトを安定化させることができない。一方、炭素含有量が0.18%を超えると、鋼は、不十分なスポット溶接性を示し、自動車部品への応用が制限される。
【0016】
本発明の鋼のマンガン含有率は1.1%~1.8%の間である。この元素はガンマジニアス(gammageneus)である。マンガンを添加する目的は、本質的にオーステナイトを含む組織を得、鋼に強度を付与することである。オーステナイトを安定化すると共に鋼板の強度及び焼入れ性を提供するために、少なくとも1.1重量%のマンガンの量が見出されている。しかし、マンガン含有率が1.8%を超えると、ベイナイト変態のための過時効保持中にオーステナイトからベイナイトへの変態を遅延させるなどの有害作用を生じる。加えて、1.8%を超えるマンガン含有率は延性も低下させ、また、本鋼の溶接性を劣化させ、したがって伸びの目標が達成できない可能性がある。本発明の好ましい含有率は、1.2%~1.8%の間、さらにより好ましくは1.3%~1.7%の間に保つことができる。
【0017】
本発明の鋼のケイ素含有率は0.5~0.9%の間である。ケイ素は過時効中の炭化物の析出を遅らせることができる成分であるため、ケイ素の存在により、炭素に富んだオーステナイトは室温で安定化される。さらに、炭化物中のケイ素の溶解性が低いため、ケイ素は炭化物の形成を効果的に阻害又は遅延させ、したがって、また本発明に従って鋼にその必須の特徴を付与するために求められるベイナイト組織の形成を促進する。しかし、ケイ素の不均衡な含有率は、上記の効果を生じず、焼き戻し脆化などの問題につながる。したがって、その濃度は0.9%の上限内に制御される。本発明のための好ましい含有率は、0.6%~0.8%の間に保つことができる。
【0018】
アルミニウムは不可欠な元素であり、0.6%~1%の間で鋼中に存在する。アルミニウムはアルファジニアス(alphagenous)であり、本発明の鋼に全伸びを付与する。最低0.6%のアルミニウムが最小のフェライトを有し、それによって本発明の鋼に伸びを付与するために必要である。アルミニウムはまた、本発明の鋼を清浄化するために、溶融状態の鋼から酸素を除去するために使用され、また、酸素が気相を形成するのを妨げる。しかし、アルミニウムが1%を超える場合、本発明の鋼に有害なAlNを形成するため、アルミニウムの存在のための好ましい範囲は0.6%~0.8%の間である。
【0019】
本発明の鋼のリン組成は0.002%~0.02%の間である。特に結晶粒界に偏析したり、マンガンと共偏析したりする傾向があるため、リンはスポット溶接性及び熱間延性を低下させる。これらの理由により、その含有率は0.02%に制限され、好ましくは0.014%より低い。
【0020】
硫黄は必須元素ではないが、鋼中に不純物として含まれることがある。本発明の観点からは、硫黄含有量はできるだけ低くすることが好ましいが、製造コストの観点からは0.003%以下である。さらに、より高い硫黄が鋼中に存在する場合は、硫黄は結合して、特にマンガンと結合して硫化物を形成し、本発明の鋼に対するその有益な影響を減少させる。
【0021】
材料の老化を防止し、また、鋼の機械的特性に有害な窒化物が凝固中に析出することを最小限に抑えるために、窒素は0.007%に制限される。
【0022】
クロムは、本発明の任意の元素である。クロム含有率は、本発明の鋼中に0.05%~1%の間で存在し得る。クロムは鋼に強度及び焼入れを与える必須元素であるが、1%を超えて使用すると、鋼の表面仕上げを損なう。さらに1%未満のクロム含有率はベイナイト組織中の炭化物の分散パターンを粗大化し、したがってベイナイト中の炭化物の密度を低く保つ。
【0023】
モリブデンは、本発明の鋼の0.001%~0.5%を構成する任意の元素である。モリブデンは、焼入れ性及び硬度の決定に有効な役割を果たし、ベイナイトの出現を遅延させ、ベイナイト中の炭化物の析出を回避する。しかし、モリブデンの添加は合金元素の添加のコストを過度に増加させるため、その含有率は経済的理由から0.5%に制限される。
【0024】
ニオブは本発明の任意の元素である。ニオブ含有率は、本発明の鋼中に0.001~0.1%の間で存在することができ、炭窒化物を形成するために本発明の鋼に添加し、析出硬化により本発明の鋼の強度を付与する。ニオブはまた、炭窒化物としてのその析出を通じて、及び熱処理中の再結晶を遅らせることによって、微細組織の構成要素のサイズに影響を及ぼす。こうして保持温度の終わりに、かつ本発明の鋼の焼入れにつながる焼鈍の完了後の結果として、より微細なミクロ組織が形成される。しかし、0.1%を超えるニオブ含有率は、その影響の飽和効果が観察されることから、経済的に興味を引くことではない。これは、追加の量のニオブは生成物のいかなる強度改善ももたらさないことを意味する。
【0025】
チタンは任意の元素であり、0.001%~0.1%の間で本発明の鋼に添加することができる。ニオブのように、チタンは炭窒化物形成に関与するので、本発明の鋼の焼入れにおいて役割を果たす。加えて、チタンはまた、鋳造製品の凝固中に現れるチタン窒化物を形成する。成形性に有害な粗大な窒化チタンの形成を避けるために、チタンの量は0.1%に制限される。チタン含有率が0.001%未満の場合、本発明の鋼に何ら影響を与えない。
【0026】
銅は、鋼の強度を高め、その耐食性を向上させるために、0.01%~2%の量で任意の元素として添加されてもよい。このような効果を得るには最低0.01%の銅が必要である。しかし、その含有率が2%を超えると、表面形態を劣化させる可能性がある。
【0027】
ニッケルは、0.01~3%の量で任意の元素として加えて、鋼の強度を高め、その靭性を改善することができる。そのような効果を生じるには最低0.01%が必要である。しかし、その含有率が3%を超えると、ニッケルは延性の低下を引き起こす。
【0028】
本発明の鋼中のカルシウム含有率は0.0001%~0.005%の間である。カルシウムは、特に介在物処理中に任意の元素として本発明の鋼に加えられる。カルシウムは、球状となり有害な硫黄成分を捕捉し、硫黄の有害な影響を抑えることで、鋼の精製に貢献する。
【0029】
バナジウムは炭化物又は炭窒化物を形成して鋼の強度を高めるのに有効であり、経済的理由から上限は0.1%である。セリウム、ホウ素、マグネシウム又はジルコニウムのような他の元素は、以下の重量比で、個別に又は組み合わせて添加することができる。すなわち、セリウム≦0.1%、ホウ素≦0.003%、マグネシウム≦0.010%及びジルコニウム≦0.010%である。示された最大含有量レベルまで、これらの元素は凝固中に粒を微細化することを可能にする。鋼の組成の残りは、鋼及び加工に起因する不可避の不純物からなる。
【0030】
鋼板の微細組織は、以下を含む。
【0031】
フェライトは、面積分率で、本発明の鋼について微細組織の60%~75%を構成する。フェライトはマトリックスとして鋼の主要相を構成する。本発明において、フェライトは、ポリゴナルフェライトと針状フェライトとを累積的に含み、本発明の鋼に伸びと共に高強度を付与する。31%以上、好ましくは33%以上の伸びを確保するためには、60%のフェライトを有する必要がある。本発明の鋼では焼鈍後の冷却時にフェライトが形成される。しかし、本発明の鋼中に75%を超えるフェライト含有量が存在するときはいつでも、前記強度は達成されない。
【0032】
ベイナイトは、面積分率で、本発明の鋼について微細組織の20%~30%を構成する。本発明において、ベイナイトは累積的にラスベイナイトとグラニュラーベイナイトとからなる。620MPa以上、好ましくは630MPa以上の引張強さを確保するためには、20%のベイナイトを有することが必要である。過時効保持時にベイナイトが形成される。
【0033】
残留オーステナイトは、面積分率で、鋼の10%~15%を構成する。残留オーステナイトは、ベイナイトよりも炭素の溶解性が高いことが知られており、このため効果的な炭素トラップとして作用し、よってベイナイトにおける炭化物の形成を遅らせる。本発明の残留オーステナイト内部の炭素の割合は、好ましくは0.9%より高く、好ましくは1.1%より低い。本発明による鋼の残留オーステナイトは、延性を高める。
【0034】
マルテンサイトは、面積分率で、微細組織の0%~5%の間を構成し、微量で見られる。本発明のマルテンサイトは、フレッシュマルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトの両方を含む。本発明は、焼鈍後の冷却によりマルテンサイトを形成し、過時効保持中に焼戻される。フレッシュマルテンサイトは冷間圧延鋼板の被覆後の冷却中にも生成する。マルテンサイトが5%未満であると、マルテンサイトは本発明の鋼に延性及び強度を付与する。マルテンサイトが5%を超えると、過剰な強度を与えるが、許容限度を超えて伸びを減少させる。マルテンサイトに対する好ましい限度は0%~3%の間である。
【0035】
フェライト及び残留オーステナイトの総量は、31%の全伸びを有するためには常に70%~80%の間でなければならず、600MPaの引張強さを有しながら、31%を超える全伸びを確保するためには最低70%が必要である。フェライト及び残留オーステナイトは、マルテンサイト及びベイナイトに比べて軟質相であるため、伸び及び延性を与えるが、累積存在が80%を超えるときはいつでも、強度は許容限界を超えて低下する。
【0036】
前述した微細組織に加えて、冷間圧延及び熱処理された鋼板の微細組織は、鋼板の機械的特性を損なうことなく、パーライト及びセメンタイトなどの微細組織成分を含まない。
【0037】
本発明の鋼板は、任意の適切な方法によって生産することができる。好ましい方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半完成鋳造品を提供することからなる。鋳造は、インゴットに、又は薄いスラブ又は薄いストリップの形態で連続的に行うことができる。すなわち、スラブのための約220mmから薄いストリップのための数十mmまでの範囲の厚さを有する。
【0038】
例えば、上記の化学組成を有するスラブは、連続鋳造によって製造され、ここで、スラブは、中心部偏析を回避し、公称炭素に対する局所炭素の比率を1.10未満に保つようにするために、連続鋳造工程の間に、任意に直接軽圧下鋳造を受けた。連続鋳造工程によって提供されるスラブは、連続鋳造の後、高温で直接使用することができ、又は最初に室温まで冷却され、次いで、熱間圧延のために再加熱することができる。
【0039】
熱間圧延に供されるスラブの温度は、少なくとも1150℃であり、1280℃未満でなければならない。スラブの温度が1150℃より低い場合、圧延機に過大な荷重が加わる。このため、最終的な圧延温度が常にAc1+50℃を超えて留まりながら、Ac1+50℃~Ac1+250℃、好ましくはAc1+50℃~Ac1+200℃の間の温度範囲で熱間圧延が完了できるように、スラブの温度は十分に高いことが好ましい。1280℃を超える温度での再加熱は、工業的に費用がかかるため避けなければならない。
【0040】
Ac1+50℃~Ac1+250℃の間の最終的な圧延温度範囲は、再結晶化及び圧延に好都合な組織を有するために好ましい。この温度未満では鋼板は圧延性の著しい低下を示すため、最終圧延パスをAc1+50℃よりも高い温度で行う必要がある。次に、この方法で得られた板を、30℃/秒を超える冷却速度で、625℃未満でなければならない巻取り温度まで冷却する。好ましくは、冷却速度は200℃/秒以下とする。
【0041】
次いで、熱間圧延鋼板は、楕円化を避けるために625℃未満、好ましくはスケール形成を避けるために600℃未満の巻取り温度で巻取られる。このような巻取り温度の好ましい範囲は、350℃~600℃の間である。巻き取られた熱間圧延鋼板は、任意の熱間帯焼鈍に供する前に室温まで冷却してもよい。
【0042】
熱間圧延鋼板は、任意の熱間帯焼鈍の前に熱間圧延中に形成されたスケールを除去するために、任意のスケール除去ステップに供することができる。次に、熱間圧延板に、少なくとも12時間かつ96時間以下の間、400℃~750℃の間の温度で任意の熱間帯焼鈍を施してもよく、温度は、熱間圧延された微細組織を部分的に変質させ、そのため微細組織の均一性を失わないようにするために、750℃未満に留まる。その後、この熱間圧延鋼板の任意のスケール除去ステップを、例えばこのような板の酸洗によって実施することができる。この熱間圧延鋼板に冷間圧延を施し、圧下率35~90%の間の冷間圧延鋼板を得る。次いで、冷間圧延方法から得られた冷間圧延鋼板を焼鈍し、微細組織及び機械的特性を本発明の鋼に付与する。
【0043】
焼鈍において、Ac1+30℃~Ac3の間の均熱温度に達するように、2ステップの加熱を施した冷間圧延鋼板であって、本鋼のAc1及びAc3は、次式により算出される。
【0044】
Ac1=723-10.7[Mn]-16[Ni]+29.1[Si]+16.9[Cr]+6.38[W]+290[As]
Ac3=910-203[C]^(1/2)-15.2[Ni]+44.7[Si]+104[V]+31.5[Mo]+13.1[W]-30[Mn]-11[Cr]-20[Cu]+700[P]+400[Al]+120[As]+400[Ti]
式中、元素含有率は重量パーセントで表される。
【0045】
ステップ1では、冷間圧延鋼板は、10℃/秒~40℃/秒の間の加熱速度で550~650℃の間の温度範囲に加熱される。その後、続く第2のステップの加熱において、冷間圧延鋼板は、1℃/秒~5℃/秒の間の加熱速度で、焼鈍の均熱温度まで加熱される。
【0046】
次に冷間圧延鋼板を10~500秒間の均熱温度で保持し、強加工焼入れされた初期組織のオーステナイト微細組織への少なくとも30%の変態を確保する。次いで、冷間圧延鋼板を過時効保持温度まで2段階冷却で冷却する。ステップ1の冷却では、冷間圧延鋼板は、5℃/秒未満、好ましくは3℃/秒未満の冷却速度で、600℃~720℃の間、好ましくは625℃~720℃の間の温度範囲まで冷却される。このステップ1の冷却の間に、本発明のフェライトマトリックスが形成される。その後、続く第2の冷却ステップにおいて、冷間圧延鋼板は、10℃/秒~100℃/秒の間の冷却速度で、250℃~470℃の間の過時効温度範囲まで冷却される。次に冷間圧延鋼板を、過時効温度範囲で5~500秒間保持する。次に、冷間圧延鋼板を400℃~480℃の被覆浴温度範囲の温度にして、冷間圧延鋼板の被覆を容易にする。次に、電気亜鉛めっき、JVD、PVD、溶融亜鉛めっき(GI)などの既知の工業的方法のいずれかによって、冷間圧延鋼板を被覆する。
【実施例
【0047】
本明細書に提示された以下の試験、実施例、比喩的例示及び表は、本質的に限定的ではなく、例示の目的のみで考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示す。
【0048】
組成の異なる鋼製の鋼板を表1にまとめ、鋼板をそれぞれ表2に規定した工程パラメータに従って製造する。その後、表3に試験中に得られた鋼板の微細組織をまとめ、表4に得られた特性の評価結果をまとめた。
【0049】
【表1】
【0050】
<表2>
表2は、表1の鋼に実施された焼鈍工程パラメータをまとめた。鋼組成A及びBは、本発明による板の製造に役立つ。この表は、表にC及びDと指定されている参考鋼も明記している。また、表2にAc1及びAc3の一覧を示す。これらのAc1及びAc3は、本発明の鋼及び参考鋼について、以下のように定義される。
【0051】
Ac1=723-10.7[Mn]-16[Ni]+29.1[Si]+16.9[Cr]+6.38[W]+290[As]
Ac3=910-203[C]^(1/2)-15.2[Ni]+44.7[Si]+104[V]+31.5[Mo]+13.1[W]-30[Mn]-11[Cr]-20[Cu]+700[P]+400[Al]+120[As]+400[Ti]
式中、元素含有率は重量パーセントで表される。
【0052】
すべての板を熱間圧延後34℃/秒の冷却速度で冷却し、最終的には被覆前に460℃の温度にした。すべての板が65%の冷間圧下率を有する。
【0053】
表2は以下の通りである。
【0054】
【表2】
【0055】
<表3>
表3は、本発明の鋼及び参考鋼の両方の微細組織を決定するための、走査型電子顕微鏡のような異なる顕微鏡に関する標準に従って行われた試験の結果を例示する。
【0056】
以下のとおり、結果を明記する。
【0057】
【表3】
【0058】
<表4>
表4は、本発明の鋼及び参考鋼の両方の機械的特性を例示する。引張強さ、降伏強度、全伸びを求めるため、JIS Z2241規格に従って引張試験を行う。
【0059】
前記規格に従って実施された種々の機械的試験の結果をまとめる。
【0060】
【表4】