IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バーシティ ファーマシューティカルズ リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-がん 図1
  • 特許-がん 図2
  • 特許-がん 図3
  • 特許-がん 図4
  • 特許-がん 図5
  • 特許-がん 図6
  • 特許-がん 図7
  • 特許-がん 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】がん
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20240118BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61K33/242
A61K31/555
A61P35/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021533169
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 GB2020052322
(87)【国際公開番号】W WO2021058967
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】1913957.5
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521095123
【氏名又は名称】バーシティ ファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ハリソン,ジェイムス
(72)【発明者】
【氏名】デュエル,メリンダ
(72)【発明者】
【氏名】バシュタノワ,ウリアナ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/141979(WO,A1)
【文献】ESMO Open,2018年,Vol.3(Suppl.2),pp.A55,PO-087
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/242
A61K 31/555
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知のがん治療に抵抗性のがんの治療に用いるための金複合体を含む医薬組成物であって、ここで、前記がんは第1PARP阻害剤による治療に対して抵抗性であり、前記第1PARP阻害剤は、アウロチオリンゴ酸、オーロチオグルコース(ATG)、ルカパリブ、オラパリブ、ニルパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ、パミパリブ、2X-121またはオーラノフィンであり、かつ、前記金複合体は、以下の式I:
【化1】
(式中、
~Rは、各々、OR、SR、NR又はSRであり、R~Rのうちの少なくとも1つはSRであり;
及びRは、各々独立して、H、COR、C-Cアルキル、C-Cアルケニル又はC-Cアルキニルであり;
はAu又はAuPR101112であり、かつ、
~R12は、各々独立して、H、C-Cアルキル、C-Cアルケニル又はC-Cアルキニルである)
で表される化合物、又は製薬上許容されるその塩、溶媒和物、互変異性形態若しくはその多形形態である、医薬組成物。
【請求項2】
前記金複合体は、式Iで表される化合物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
式Iで表される化合物は、以下の式(Ia):
【化2】
で表される化合物である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
~Rは各々、ORである、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
は、各々独立して、H又はCORであり、かつRは各々、C-Cアルキルである、請求項2~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
は各々、COCHである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
は各々、Hである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
は、AuPR101112であり、R10~R12は各々、C-Cアルキルである、請求項2~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
はAuである、請求項2~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記金複合体は、オーラノフィン若しくはアウロチオグルコース、又はその製薬上許容される塩、溶媒和物、互変異性形態若しくは多形形態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記がんは、固形腫瘍又は固形がんである、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記がんは、血液がん、大腸がん、脳がん、乳がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、胃がん、肝がん、肺がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん又は皮膚がんである、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記がんに罹患している患者は、第1PARP阻害剤で既に治療されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記金複合体は、第2PARP阻害剤と併用され、かつ、前記第2PARP阻害剤は前記金複合体とは異なるが、前記第1PARP阻害剤と同一か又は異なり、かつ、アウロチオリンゴ酸、アウロチオグルコース(ATG)、ルカパリブ、オラパリブ、ニルパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ、パミパリブ、2X-121又はアウラノフィンである、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記第2PARP阻害剤は、ルカパリブ、オラパリブ、ニラパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ又はパミパリブである、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんに関し、特に、がんを治療、予防又は改善する新規な組成物、治療法及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞は、本質的に活性酸素/窒素種(「ROS」)、電離放射線、化学療法剤、及び偶発的な遺伝子変異によって生じるDNA損傷に由来するゲノム不安定性により特徴づけられる。したがって、DNA損傷は多くのがん治療の直接的及び間接的な標的である。
【0003】
真核細胞は、細胞ゲノムの完全性を維持する高度なシグナル伝達-形質導入機構-DNA損傷応答(「DDR」)を発達させた。DDRは、DNA損傷を検出し、修復し、及び/又は一時的及び恒久的に細胞周期を停止させ、及び/又は細胞死を促進しうる。DDRに関与する異常な修復メカニズム及び遺伝子の突然変異は、ヒトのがんの発症、発生及び進行に寄与する。
【0004】
残念ながら、薬物療法に対する内因性又は獲得性の耐性は、依然として避けられない課題である。腫瘍の細胞組成、腫瘍微小環境及び薬剤効率等のいくつかの特徴により、有害な条件下での生存に健常細胞が利用するのと同じメカニズムを介して、腫瘍細胞は薬物療法を圧倒する。
【0005】
ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)は、損傷DNAを修復する。いくつかのがんは、通常の細胞よりもPARPに依存するため、PARPはがん治療の魅力的な標的である。これまで、FDAが承認したDDRがん治療の唯一のクラスはPARP阻害剤(PARPis)である。承認されたPARPisとしては、オラパリブ(LYNPARZA(AZ及びMerck)の販売名)、ニラパリブ(ZEJULA(GSK)の販売名)、ルカパリブ(RUBRACA(Clovis Oncology)の販売名)、タラゾパリブ(TALZENNA(Pfizer)の販売名)があげられる。最初に承認され、最も研究され、最も多用されるPARPiは、オラパリブ(2014年に最初のFDA承認)である。
【0006】
PARPisは、DNA一本鎖切断(SSB)修復プロセス(DDRの重要な構成要素)を阻害する。SSBの阻害は、DNA二本鎖切断(DSB)を惹起しうる。SSB修復が阻害されると、がん細胞は当該DSB修復プロセスにますます依存する。当該DSB修復プロセスが不活性化されると(例、遺伝子突然変異による)、アポトーシス(細胞死)が起こりうる。
【0007】
PARPisは、(患者の遺伝的サブタイプ及び疾患進行状況に応じて)卵巣がん及び乳がん患者の様々なクラスの治療に承認されている。後期臨床研究は前立腺がん、肺がん、膵臓がん等でも進行中である。
【0008】
PARPi療法に対する耐性は、臨床的に重大かつ増大しつつある問題である。特に、再発腫瘍は元の腫瘍よりも侵襲性でありうる。
【0009】
承認された各PARPiの作用機序は、DNA一本鎖切断修復阻害に関して同一である。これは「PARPトラッピング」機構として知られており、PARPi薬物はPARP1の触媒ドメインに結合し、PARP1はDNA損傷に結合する。PARP酵素ファミリーの他のメンバーを阻害する必要はない。
【0010】
既存のPARPisには同じ作用機序があり、同じ耐性機序を共有する可能性が高いため、1つのPARPiに対する耐性を示す臨床症例は、既承認の他のPARPiすべてに対して耐性を示す可能性がある。従って、PARPi耐性は臨床において主要な問題であることが証明されている。
【0011】
本発明は、従来技術に関する課題を解決しようとする発明者らの研究から生じる。
【0012】
第一態様では、公知のがん治療に耐性であるがんの治療に使用するための金複合体が提供される。
【0013】
有利には、本発明者らは、金複合体が、公知の治療に耐性のあるがん細胞を治療するのに驚くほど有効であることを見出した。
【0014】
第二態様では、対象において既知のがん治療に耐性のがんを治療、予防又は改善する方法であって、当該治療が必要な対象に、治療有効量の金複合体を投与することを含む方法が提供される。
【0015】
当該金複合体は、以下の、式I、式II、式III、式IV又は式V:
【0016】
【化1】
(式中、
~Rは、各々、OR、SR、NR又はSRであり、R~Rのうちの少なくとも1つはSRである;
及びRは、各々独立して、H、COR、C-Cアルキル、C-Cアルケニル又はC-Cアルキニルである;
はAu又はAuPR101112であり、
~R12は、各々独立してH、C-Cアルキル、C-Cアルケニル又はC-Cアルキニルである);
で表される化合物、又は製薬上許容される塩、溶媒和物、互変異性形態若しくはその多形形態でありうる。
【0017】
上記化合物中の原子は、それらの同位体で置換することができ、当該化合物はなお上記式の範囲にあることが理解されよう。例えば、上記構造のうちの1つに含まれる水素を重水素で置換できるが、当該化合物は、上記の関連する式の範囲内にある。
【0018】
好ましくは、金複合体は式(I)で表される化合物である。
【0019】
式(I)で表される化合物は、以下の式(Ia):
【0020】
【化2】
の化合物であってよい。
好ましくは、R~Rの1つはSRである。
~Rは、好ましくは、各々ORである。
は、それが生じる場合、独立して、H又はCORであることが好ましい。Rは、それが生じる場合、好ましくはC~Cアルキル、最も好ましくはメチルである。従って、一実施形態では、Rは、それが生じる場合、COCHである。別の実施形態では、Rは、それが生じる場合、Hである。
は、好ましくはSRである。
【0021】
一実施形態では、RはAuPR101112である。R10~R12は、好ましくは各々C~Cアルキルであり、最も好ましくは各々プロピルである。従って、RはAuP(CHCHでありうる。
【0022】
別の実施形態では、RはAuである。
従って、金複合体は、オーラノフィン若しくはアウロチオグルコース、又は製薬上許容されるその塩、溶媒和物、互変異性形態若しくは多形形態でありうる。
【0023】
オーラノフィン及びアウロチオグルコースは、以下の構造:
【0024】
【化3】
を有することが認められうる。
【0025】
用語「製剤上許容される塩」は、その生物学的特性を保持し、製剤用途に毒性でなく、又は他の点で望ましくない本明細書に提供される化合物のいかなる塩でないと理解されうる。当該塩は、当技術分野で周知の様々な有機及び無機対イオンから誘導しうる。当該塩としては、(1)有機酸又は無機酸で形成される酸付加塩であって、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸、酢酸、アデピン酸、アスパラギン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンチルプロピオン酸、グリコール酸、グルタル酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、ソルビン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、ピクリン酸、ケイヒ酸、マンデル酸、フタル酸、ラウリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタン-ジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、ショウノウ酸、カンフルオロスルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクト-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert-ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、安息香酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、キニック酸、ムコン酸等;又は(2)親化合物中に存在するプロトンが、(a)金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン又はアルミニウムイオン、又は例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、亜鉛及び水酸化バリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア等で置換されているもの;若しくは(b)脂肪族、脂環式、又は芳香族有機アミン、例えばアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレン-ジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、N-メチルグルカミンピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の芳香族有機アミン;の有機塩基と配位する場合に形成される塩基付加塩;があげられるが、これらに限定されない。
【0026】
製剤上許容される塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム等が挙げられ、化合物が塩基性官能基を含有する場合、非毒性の有機又は無機の酸の塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等の水素ハロゲン化物、炭酸塩又は重炭酸塩、硫酸塩又は重硫酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸水素、リン酸二水素、ピログルタミン酸塩、サッカレート、ステアリン酸塩、スルファミン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリクロロ酢酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、シクロペンチルプロピオン酸塩、グリコール酸塩、グルタル酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、カムシル酸塩、クエン酸塩。シクラミン酸塩、安息香酸塩、イセチオン酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、葉酸塩、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸塩、ピクリン酸塩、ケイ皮酸塩、マンデル酸塩、フタル酸塩、ラウリン酸塩、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、エタンスルホン酸塩、1,2-エタンジスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩(ベシル酸塩)、4-クロロベンゼンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、4-トルエンスルホン酸塩、カンフル酸塩、カンフルオロスルホン酸塩、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクト-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、トリメチル酢酸塩、tert-ブチル酢酸塩、ラウリル硫酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルコロネート、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、ヒドロキシナフトエート、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩、キネート、ムコン酸塩、キシノホエート等があげられる。
酸及び塩基のヘミ塩、例えば、ヘミ硫酸塩もまた形成されてよい。
【0027】
用語「溶媒和物」は、本明細書中に提供される化合物又はその塩をいうと理解され、さらに、非共有結合分子間力によって結合された溶媒の化学量論的又は非化学量論的量を含む。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。
【0028】
がんは固形腫瘍又は固形がんであってよい。がんは、血液がん、大腸がん、脳がん、乳がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、胃がん、肝臓がん、肺がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん又は皮膚がんでありうる。血液がんは、骨髄腫でありうる。大腸がんは、結腸がんと直腸がんでありうる。脳がんは、神経膠腫及び膠芽腫でありうる。乳がんは、BRCA陽性乳がんでありうる。乳がんは、HER2陽性乳がん又はHER2陰性乳がんでありうる。乳がんは、トリプルネガティブ乳がんでありうる。肝がんは、肝細胞がんでありうる。肺がんは、非小細胞肺がん及び小細胞肺がんでありうる。皮膚がんは、黒色腫でありうる。
【0029】
当該がんは、第1PARP阻害剤による治療に抵抗性であるがんでありうる。患者は以前に第1PARP阻害剤で治療されていてよい。当該第1PARP阻害剤は、第1PARP1阻害剤でありうる。第1PARP1阻害剤は、アウロチオリンゴ酸、アウロチオグルコース(ATG)、ルカパリブ、オラパリブ、ニルパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ、パミパリブ、2X-121又はオーラノフィンである。好ましくは、第1PARP1阻害剤は、ルカパリブ、オラパリブ、ニルパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ又はパミパリブである。ある実施態様では、第1PARP1阻害剤はオラパリブである。
【0030】
がんに罹患した患者がPARP阻害剤で治療されると、がんがPARP阻害剤に対する耐性を発現し、その後の治療効果を低下させることが知られている。本発明者らは、PARP阻害剤(例えば、オラパリブ)での治療に抵抗性であるがん細胞が金複合体で治療されうることを見出した。
【0031】
金複合体は、第2PARP阻害剤と併用しうる。第2PARP阻害剤は、第1PARP阻害剤と同じであってよく、又は異なってよい。第2PARP阻害剤は、第2PARP1阻害剤でありうる。第2PARP1阻害剤は、アウロチオリンゴ酸、アウロチオグルコース(ATG)、ルカパリブ、オラパリブ、ニルパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ、パミパリブ、2X-121又はオーラノフィンである。好ましくは、第2PARP1阻害剤は、ルカパリブ、オラパリブ、ニルパリブ、タラゾパリブ、ベリパリブ又はパミパリブである。ある実施態様では、第2PARP1阻害剤はオラパリブである。
【0032】
従って、本方法は、金複合体及び第2PARP阻害剤を、それが必要な対象に投与することを含みうる。
【0033】
実施例に記載されているように、本発明者らは驚くべきことに、金複合体と第2PARP阻害剤の併用が相乗効果を奏することを見出した。
【0034】
金複合体は、第2PARP阻害剤の前、後、又は同時に用いうる。
【0035】
従って、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、化学療法薬(又は本明細書に記載の複数の化学療法薬との併用)と併用しうる。化学療法薬は、ブレオマイシン、カペシタビン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エリブリン、エトポシド、5-フルオロウラシル、フォリン酸、ゲムシタビン、メトトレキセート、ムスチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、プレドニゾロン、プロカルバジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン及び/又はビノレルビンを含みうる。金複合体、及び場合によっては第2PARP阻害剤は、化学療法薬の前、後、又は同時に用いられうる。好ましい態様において、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、化学療法薬の後に用いられる。
【0036】
あるいは、又はさらに、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を、DNAを損傷するか、又はDNA損傷応答プロセス(DDR)を阻害する薬物と併用してよい。従って、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、ATM阻害剤、ATR阻害剤、チェックポイント阻害剤、血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤又はwee1阻害剤と併用しうる。チェックポイント阻害剤は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)阻害剤、プログラム死リガンド1(PD-L1)阻害剤、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)阻害剤でありうる。
【0037】
あるいは、又はさらに、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を、DNAを損傷する電離放射線と併用しうる。
【0038】
金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、組成物が用いられる方法に特に依存して、多数の異なる形態である組成物中で併用しうる。従って、例えば、組成物は、粉末、錠剤、カプセル、液体、軟膏、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、エアロゾル、スプレー、ミセル溶液、経皮パッチ、リポソーム懸濁液、又は治療が必要なヒト又は動物に投与されうるいかなる適当な形態でありうる。本発明による薬剤のビヒクルは、投与された対象によって十分に耐容されなければならないことが理解されるであろう。
【0039】
本明細書中に記載された金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を含む薬物は、多くの方法で用いられうる。金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を含む組成物は、吸入(例えば、鼻腔内)で投与しうる。組成物はまた、局所用に処方しうる。例えば、クリーム又は軟膏を皮膚に塗布しうる。
【0040】
本発明による金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤も、徐放性又は遅延性放出装置内に組み込まれてよい。当該装置は、例えば、皮膚の上又は下に挿入されてよく、当該薬物は、数週間又は数ヶ月にわたり放出されうる。当該装置は、少なくとも治療部位に隣接して配置されてよい。当該装置は、本発明により用いられる金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を用いた長期治療が必要な、通常は頻繁な投与(例えば、少なくとも毎日の注射)が必要な場合に特に有利でありうる。
【0041】
金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤、及び本発明による組成物は、対象に、血流中への注射により、又は治療が必要な部位への直接注射によって、例えば、がん性腫瘍中へ、又はそれに隣接する血流中へ投与しうる。注射には、静脈内(ボーラス投与又は注入)又は皮下(ボーラス投与又は注入)、皮内(ボーラス投与又は注入)又は筋肉内(ボーラス投与又は注入)がありうる。
【0042】
好ましい実施態様では、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を経口投与する。従って、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、例えば錠剤、カプセル又は液体の形態で経口摂取されうる組成物内に含まれうる。
【0043】
必要な金複合体、場合によっては、第2PARP阻害剤の量は、その生物学的活性及びバイオアベイラビリティにより決定されるが、投与方法、金複合体、場合によっては、第2PARP阻害剤の物理化学的特性、及びそれが単独療法で用いられるのか、又は併用療法で用いられるのかに依存することが理解されるであろう。投与頻度はまた、金複合体の半減期、及び場合によっては、第2PARP阻害剤によって、治療される対象内で影響される。投与される最適用量は、当業者によって決定され、そして特定の金複合体、そして場合によっては、特定の第2PARP阻害剤、医薬組成物の強度、投与の様式、及びがんの進行により異なる。治療される特定の対象に依存する追加の因子は、対象の年齢、体重、性別、食事、及び投与時間により、投与量を調節させる必要がある。
【0044】
金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、治療すべきがんの発症前、発症中、又は発症後に投与しうる。1日1回投与しうる。しかしながら、好ましくは、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を、1日中に2回以上、最も好ましくは1日2回投与する。
【0045】
一般に、0.01μg/kg体重~500mg/kg体重の金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤の1日用量が、がんの治療、改善、又は予防に用いられうる。より好ましくは、1日用量は、0.01mg/kg~400mg/kg体重との間、より好ましくは0.1mg/kg~200mg/kg体重との間、最も好ましくは約1mg/kg~100mg/kg体重との間である。
【0046】
治療を受けている患者は、起床時に1回目の投与を行い、その後、夕方に2回目の投与(2回投与法の場合)を行うか、又はその後3時間又は4時間間隔で投与しうる。あるいは、徐放性装置を用いて、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤の最適な投与量を、反復投与の必要なく患者に提供しうる。
【0047】
本発明及び正確な治療レジメン(金複合体、場合によっては、第2PARP阻害剤の毎日の投与量及び投与の頻度等)に従って、製薬業界で慣用されている既知の手順(例えば、インビボ実験、臨床試験等)を用いて、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を含む特定の処方物を形成しうる。本発明者らは、金複合体及び第2PARP阻害剤に基づいた、がんを治療する医薬組成物を最初に報告したと考える。
【0048】
従って、本発明の第三態様では、(i)金複合体、(ii)第2PARP阻害剤、及び(iii)製剤上許容されるビヒクルを含む、がんを治療する医薬組成物が提供される。
医薬組成物は、対象におけるがんの治療的改善、予防又は治療に用いうる。
金複合体及び第2PARP阻害剤は、第一態様及び第二態様に関連して定義されうる。
【0049】
また、本発明は、第四態様において、(i)金複合体、(ii)第2PARP阻害剤、及び(iii)製剤上許容されるビヒクルの治療有効量を接触させることを含む、第三態様による組成物を製造する方法を提供する。
【0050】
「対象」は、脊椎動物又は哺乳動物でありうる。最も好ましくは、対象はヒトである。
【0051】
金複合体及び場合によっては、第2PARP阻害剤の「治療有効量」は、対象に投与された場合、がんの治療に必要な薬物量であるいかなる量である。
【0052】
例えば、毎日用いられる金複合体及び場合によっては、第2PARP阻害剤の治療有効量は、約0.01mg~約2,000mg、好ましくは約0.1mg~約1,000mgである。
【0053】
正確な投与量は、提供される金複合体に依存しうることが理解されうる。さらに、金複合体がPARP阻害剤と共に用いられる態様において、PARP阻害剤の用量は、選択されるPARP阻害剤に依存しうる。
【0054】
例えば、オーラノフィンは、0.01~100mgの間、より好ましくは0.1~50mgの間、又は0.5~25mgの間、最も好ましくは1~15mgの間、又は4~10mgの間の日用量として提供されうる。例えば、オーラノフィンは、6mg/日の1日用量として、6mgの1日用量として、又は3mgの用量で1日2回、いずれかとして投与されうる。さらに、6ヵ月後に1日用量を9mg/日に増量し、3mgを3回に分けて投与してよい。
【0055】
あるいは、アウロチオグルコースは、5~1000mgの月間用量、より好ましくは10~500mgの月間用量、より好ましくは20~200mgの月間用量として提供されうる。例えば、アウロチオグルコースは、最初に10mgの試験用量が筋注(筋肉内)に投与され、患者は、有害及び/又はアレルギー反応について15~30分間観察されうる。その後、1週間後に25mg筋注、さらに1週間後に25mg筋注を行う。その後、累積投与量が0.8~1Gに達するまで、週1回50mg筋注を維持しうる。臨床反応が確認される場合、維持量50mgを3~4週間ごとに筋肉内投与する。この維持量は、この患者のアウロチオグルコースに対する反応及び耐性に基づいて無期限に継続しうる。
【0056】
PARP阻害剤の望ましい投与量は、選択されたPARP阻害剤に依存して、高度に変化しうる。適当な日用量は当業者に知られている。
【0057】
例えば、オラパリブは、10~1,600mg、より好ましくは100~1,200mg、又は300~1,000mg、最も好ましくは400~800mgの1日用量で投与されうる。オラパリブは1日2回、例えば、1回200mg、1回300mg又は1回400mgを1日2回投与してよい。
【0058】
ニラパリブは、1~1000mg、より好ましくは50~500mg、又は100~400mg、最も好ましくは230~350mgの1日用量で投与しうる。ニラパリブは1日1回、例えば300mgの用量で投与してよい。
【0059】
最後に、タラゾパリブは、0.01~10mgの間、より好ましくは0.05~5mgの間、又は0.1~2mgの間、最も好ましくは0.25~1mgの間の日用量で投与されうる。
【0060】
本明細書に記載される「製剤上許容されるビヒクル」とは、医薬組成物の処方において有用性が当業者に知られているいかなる公知化合物又は公知の化合物の組合せである。
【0061】
一実施形態では、製剤上許容されるビヒクルは固体であってよく、組成物は粉末又は錠剤の形態であってよい。固体の製剤上許容されるビヒクルとしては、香味剤、潤滑剤、可溶化剤、懸濁剤、染料、充填剤、滑剤、圧縮助剤、不活性結合剤、甘味料、保存剤、染料、コーティング剤、又は錠剤崩壊剤としても作用しうる1又はそれ以上の物質があげられる。当該ビヒクルはまた、カプセル化材料であってよい。粉末中では、ビヒクルは、本発明による微細に分割された活性剤(すなわち、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤)と混合された微細に分割された固体である。錠剤では、金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤を、必要な圧縮特性を有するビヒクルと適当な比率で混合し、所望の形状及びサイズで圧縮しうる。粉末及び錠剤は、好ましくは金複合体を最大99%含有し、場合によっては、第2PARP阻害剤を含有する。適当な固体ビヒクルとしては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス及びイオン交換樹脂があげられる。他の実施形態では、医薬ビヒクルは、ゲルであってよく、組成物は、クリーム等の形態であってよい。
【0062】
しかしながら、医薬ビヒクルは液体であってよく、医薬組成物は溶液の形態であってよい。液体ビヒクルは、溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシール及び加圧組成物の製造に用いられる。本発明による金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、水、有機溶媒、その両方又は製剤上許容される油又は脂肪の混合物等の製剤上許容される液体ビヒクルに溶解又は懸濁させうる。液体ビヒクルは、可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、甘味剤、香味剤、懸濁剤、増粘剤、着色剤、粘度調節剤、安定剤又は浸透圧調節剤等の他の適当な医薬添加物を含有しうる。経口投与用及び非経口投与用の液体ビヒクルの好適な例には、水(上記等の部分的に含有する添加剤、例えばセルロース誘導体、好ましくはナトリウムカルボキシメチルセルロース溶液)、アルコール(一価アルコール及び多価アルコール、例えばグリコールを含む)及びそれらの誘導体、並びに油(例えば分画ココナッツ油及び落花生油)が含まれる。非経口投与用ビヒクルは、オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピル等の油性エステルであってよい。滅菌液体ビヒクルは、非経口投与用の滅菌液体形態組成物で有用である。加圧組成物用の液体ビヒクルは、ハロゲン化炭化水素又は他の製剤上許容される噴射剤でありうる。
【0063】
液体医薬組成物は、滅菌溶液又は懸濁液であり、例えば、筋肉内、髄腔内、硬膜外、腹腔内、静脈内、及び特に皮下注射によって使用しうる。金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、滅菌水、生理食塩水、又は他の適当な注射可能媒体を用いて投与時に溶解又は懸濁されうる滅菌固体組成物として調製されうる。
【0064】
金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤、及び本発明の組成物は、他の溶質又は懸濁剤(例えば、溶液を等張にするのに十分な生理食塩水又はグルコース)、胆汁酸塩、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビタンモノオレイン酸塩、ポリソルベート80(エチレンオキシドと共重合したソルビトール及びその無水物のオレイン酸エステル)等を含有する滅菌溶液又は懸濁液の形態で投与しうる。本発明により用いられる金複合体、及び場合によっては、第2PARP阻害剤は、液体又は固体組成物形態のいずれかで経口投与しうる。経口投与に適した組成物としては、ピル、カプセル、顆粒、錠剤、及び粉末等の固体形態、溶液、シロップ、エリキシール、及び懸濁液等の液体形態が含まれる。非経口投与に有効な形態には、無菌溶液、エマルジョン、及び懸濁液があげられる。
【0065】
本明細書に記載された全ての特徴(添付の請求項、要約及び図面を含む)、及び/又はそのように開示されたいかなる方法又はプロセスの全ての工程は、少なくとも当該特徴及び/又は工程のいくつかが相互に排他的である組み合わせを除き、いかなる組み合わせで上記の態様のいずれかと組み合わせうる。
【0066】
本発明のより良い理解のために、また、本発明の実施形態がどのように実施されるかを示すため、添付の図面を例示し、以下を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】(A)オーラノフィン、(B)オラパリブ、(C)ニラパリブ及び(D)タラゾパリブの異なる濃度における野生型A2780細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである。
図2】(A)オーラノフィン、(B)オラパリブ、(C)ニラパリブ及び(D)タラゾパリブの異なる濃度におけるオラパリブ耐性A2780細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである;
図3】異なる濃度におけるオーラノフィン及びオラパリブの併用のオラパリブ耐性A2780細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである;
図4】オーラノフィン及び(A)ニラパリブ又は(B)タラゾパリブの併用の異なる濃度におけるオラパリブ耐性A2780細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである;
図5】(A)オーラノフィン及び(B)オラパリブの異なる濃度におけるオラパリブ耐性HCC1937細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである;
図6】オーラノフィン及びオラパリブの異なる濃度における併用がオラパリブ耐性HCC1937細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである;
図7】アウロチオグルコース(ATG)の異なる濃度におけるオラパリブ耐性A2780細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである。
図8】(A)123.46 nMの濃度のATGと、オラパリブ、(B)ニラパリブ及び(C)タラゾパリブの異なる濃度における組み合わせのオラパリブ耐性A2780細胞に対する細胞増殖阻害能を示すグラフである。
【実施例1】
【0068】
オーラノフィン及び様々なPARP阻害剤(PARPis)のオラパリブ耐性A2780卵巣がん細胞に対する阻害能の測定
方法
オラパリブ耐性細胞の調製
A2780卵巣がん細胞(野生型「WT」)を10%ウシ胎児血清(FBS)含有RPMI 1640培地で培養した。
A2780細胞株は、卵巣子宮内膜腺がん腫瘍から樹立された卵巣がん細胞株である。A2780細胞株を樹立した患者は、組織採取前に腫瘍の治療を受けず、細胞株は抗がん剤や化学物質に曝露されていなかった。これは、卵巣がんに対する様々な化学物質、送達方法及び治療の効果を観察し、その効力を試験するモデルとして一般的に用いられる。
オラパリブに抵抗性を示す細胞を得るため、細胞を20μMオラパリブ添加細胞培養培地(RPMI 1640培地及び10% FBS)で1ヶ月間培養し、オラパリブに抵抗性を示すA2780細胞(R)を作製した。1ヵ月後、細胞を、10μMオラパリブ添加細胞培養培地(10% FBS添加RPMI 1640培地)中で、使用前及び耐性を維持するために最長2ヵ月間、連続培養した。
【0069】
細胞播種
細胞を、フラスコから細胞培養培地(10% FBSを含むRPMI 1640培地)中に回収した後、計数した。細胞を培養培地で希釈し、細胞懸濁液(1000細胞/ウェル)40μLを384ウェル細胞培養プレートの各ウェルに添加した。プレートを蓋で覆い、30分間無振とうで室温に放置した。その後、プレートを37℃及び5% COでインキュベーターに移し、一晩放置した。
【0070】
化合物の調製と処理
試験化合物をDMSO中に30mMの濃度で溶解し、ストック溶液を作製した。原液45 μLを384 ppプレートに移した。TECAN(EVO200)液体ハンドラーを用いて、15μLの化合物溶液を30μLのDMSOに移して、3倍10点希釈を行った。次いで、プレートを室温で1,000 RPMで1分間回転させた。次いで、希釈した化合物40 nLを化合物ソースプレートから細胞プレートに移した。次いで、細胞プレートを蓋で覆い、37℃及び5% COのインキュベーターに入れ、120時間放置した。化合物による処理の72時間後に、以下に述べるように検出を行った。
【0071】
検出
CellTiter Glo(登録商標)試薬を解凍し、室温に平衡化した。次いで、細胞プレートをインキュベーターから取り出し、室温で15分間平衡化した。その後、各ウェルにCellTiter Glo(登録商標)試薬を30μL添加した(培地に対して1:1)。内容物を、軌道振盪機で2分間混合して細胞溶解を誘導した後、プレートを室温で30分間インキュベートした。次いで、ルミネセンスをEnvisionリーダー(Perkin Elmer)で測定した。
【0072】
データ解析
阻害活性は、以下の式:
阻害(%)=100×(Lumベヒクル-Lum試料)/(Lumベヒクル-Lumブランク
(式中、Lumベヒクルは0.1% DMSOで処理した細胞の発光であり、Lumブランクは培地中の細胞である)を用いて算出した。
【0073】
IC50は、Xlfit (v5.3.1.3)、以下の式201:
Y= 底部+(頂部-底部)/(1+10^((LogIC50-X)*ヒル傾斜))
を用いて、曲線に当てはめて算出した。
【0074】
結果
結果を表1~表4、図1図2に示す。
【0075】
表1-オーラノフィン及びオラパリブによる野生型A2780卵巣がん細胞の増殖阻害
【0076】
【表1】
表2-オーラノフィン、オラパリブ、ニラパリブ及びタラゾパリブによるオラパリブ抵抗性A2780卵巣がん細胞の増殖阻害
【0077】
【表2】
表3-野生型及びオラパリブ耐性A2780細胞におけるオーラノフィン、オラパリブ、ニラパリブ及びタラゾパリブのIC50
【0078】
【表3】
表4-野生型及びオラパリブ耐性A2780細胞におけるオーラノフィン、オラパリブ、ニラパリブ及びタラゾパリブの0.06~30,000 nMの濃度範囲での最大増殖阻害
【0079】
【表4】
驚くべきことに、オーラノフィンは野生型細胞よりもオラパリブ耐性細胞の増殖をより高く阻害するようであるが、両者に対する阻害率は100%に達した。
一方、上記データから、オラパリブ耐性細胞もニラパリブ及びタラゾパリブに耐性であることが明らかである。これは、この場合、3つの阻害剤すべてに同じ耐性メカニズムが生じるためである。したがって、オラパリブ単独療法からニラパリブ又はタラゾパリブ単独療法への切り替えは、当該症例では成功しないと考えられる。
【実施例2】
【0080】
オーラノフィンとPARPiの併用によるオラパリブ耐性A2780卵巣がん細胞の増殖阻害能の測定
方法
方法は実施例1に記載したとおりであった。各試験では、細胞をオーラノフィン又はオーラノフィン及びオラパリブの併用で処理した。オーラノフィンの濃度は一定に保ったが、オラパリブの濃度は変化させた。
すべての試験を3回実施し、阻害の平均値を算出した。
【0081】
データ解析
混合物中の相乗作用又は拮抗作用は、Colby法を用いて評価しうる。この方法を用いると、相乗作用や拮抗作用がなければ、AとBの混合物の期待結果(E)が計算される。Eは、次式:
E = X + Y -XY/100
を用いて計算しうる。
【0082】
ここで、Xは化合物Aについて観察された結果であり、Yは化合物Bについて観察された結果である。観察された値がEより大きい場合は相乗効果を示す。
【0083】
結果
その結果を表5、6、図3、4に示す。
【0084】
表5-オーラノフィンとオラパリブの併用によるオラパリブ耐性A2780卵巣がん細胞の増殖阻害
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
表6-オーラノフィンとニラパリブ又はタラゾパリブの併用によるオラパリブ抵抗性A2780卵巣がん細胞の増殖阻害
【0087】
【表7】
オーラノフィンとPARPiの併用で観察された増殖抑制効果は、一貫して予想値よりも高かった。これにより、オーラノフィンとPARPiの併用は、オラパリブ耐性細胞に対して相乗効果を発揮することが示される。
低濃度のオラパリブについては、オラパリブ単独での阻害率を求める試験を実施していないため、予想値を算出することができなかった。しかし、観察された阻害率は依然として比較的高く、60pMのオラパリブ濃度まで相乗効果が観察されたことを示す。この結論は、低濃度のニラパリブ及びタラゾパリブについて、観察された値が予想値よりも有意に高かったことにより裏付けられた。
上記の結果は、PARPiを単独使用した場合には抵抗性を示す細胞が、第2活性剤との併用では感受性を示すとは考えられないことを鑑みると、特に驚くべきことである。
【実施例3】
【0088】
オーラノフィンとオラパリブの併用によるオラパリブ耐性HCC1937トリプルネガティブ乳がん細胞の増殖阻害能の測定
方法
方法は、HCC1937細胞系を用いた以外は、実施例1及び2に記載の通りであった。
【0089】
HCC1937細胞株は、生殖細胞系BRCA1遺伝子に変異がある24歳の患者の原発性乳がんから樹立された。これは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞株の一例である。乳がん患者では、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)の発現、及びHER-2/Neuの増幅の評価が常套手段として行われる。当該マーカーにより、乳がんをホルモン受容体陽性腫瘍、HER-2/Neu増幅腫瘍、そしてER、PR非発現かつHER-2/Neu無増幅の腫瘍に分類できる。後者群は、これら3つの分子マーカーが欠如していることから、トリプルネガティブ乳がんとよばれる。TNBCは乳がん全体の約10~15%を占め、TNBC患者は他のサブタイプの乳がんに比べて予後が不良である。
【0090】
結果
その結果を表7、8、図5、6に示す。
【0091】
表7-オーラノフィン及びオラパリブによるオラパリブ耐性HCC1937トリプルネガティブ乳がん細胞の増殖阻害
【0092】
【表8】
【0093】
【表9】
表8-370.37nMの濃度のオーラノフィン及び様々な濃度のオラパリブによるオラパリブ耐性HCC1937トリプルネガティブ乳がん細胞の増殖阻害
【0094】
【表10】
実施例2で観察された結果と同様、オラパリブとオーラノフィンの併用でも相乗効果が観察された。なお、オラパリブを10,000nMの濃度で用いた結果では、当該効果は認められなかったことに留意されたい。しかし、オラパリブの濃度が高くても低くても相乗効果が認められることから、この1つの結果は実験誤差によるものである可能性が最も高いと考えられる。
以上の結果から、オーラノフィンとPARPiの併用により、複数のがん細胞株の増殖は相乗的に抑制されうる。
【実施例4】
【0095】
アウロチオグルコースとPARPisの併用によるオラパリブ耐性A2780卵巣がん細胞の増殖阻害能の測定
方法
方法は、オーラノフィンの代わりにアウロチオグルコースを用いた以外は、実施例1及び2に記載の通りであった。
【0096】
結果
オラパリブ、ニラパリブ及びタラゾパリブのオラパリブ抵抗性A2780卵巣がん細胞に対する増殖阻害能を表2(上記)に示す。一方、アウロチオグルコース(ATG)の当該細胞に対する増殖阻害能を表9及び図7に示す。
【0097】
表9-アウロチオグルコースによるオラパリブ耐性A2780卵巣がん細胞の増殖阻害
【0098】
【表11】
PARPiと併用したATGの阻害作用についても検討し、その結果を表10及び図8に示す。
【0099】
表10-様々な濃度のPARPiと併用した、123.46nMの濃度のアウロチオグルコースによるオラパリブ耐性A2780卵巣がん細胞の増殖の阻害
【0100】
【表12】
【0101】
【表13】
この場合も、明らかな相乗効果が観察される。これより、金複合体の当該相乗効果はオー
ラノフィンに限らず、PARPiとの併用にも拡張しうることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8