(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】滑り防止機能を備える用量送達機構
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20240118BHJP
A61M 5/24 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61M5/315 550P
A61M5/315 500
A61M5/24 500
A61M5/315 550A
(21)【出願番号】P 2021559732
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2020059492
(87)【国際公開番号】W WO2020207907
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-10-17
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510199605
【氏名又は名称】メドミクス スウィッツァランド アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケイテル、ヨアキム
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-502146(JP,A)
【文献】国際公開第2019/011394(WO,A1)
【文献】特表2016-529019(JP,A)
【文献】特表2016-530018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り止め付きの用量送達機構(1)であって、
ハウジング(8)と、
ねじ切りされた外側表面(10a)を有する非回転ピストン棒(10)と、
前記ピストン棒(10)の前記ねじ切りされた外側表面(10a)にねじ係合される内側表面(13a)を備えるナット(13)であって、前記ナット(13)は、用量設定中に前記ピストン棒(10)を基準として回転し、軸方向の遠位方向に平行移動する、ナット(13)と、
前記ハウジング(8)を基準として回転方向において固定され、前記ピストン棒(10)の回転を防止するように構成されるピストン棒ガイドと、
用量送達中に回転しないドライバ(12)と、
前記ハウジング(8)を基準として回転方向において固定されるラチェット(14)と、
前記ナット(13)と前記ドライバ(12)との間に配置されるブレーキ(20)と
を備え
、
前記ブレーキ(20)が、前記ナット(13)の近位端を受け入れるための貫通孔を有するリング又はワッシャー状の構造体である、滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項2】
前記ブレーキ(20)が、ゴムから作製されている、請求項
1に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項3】
用量送達中、前記ナット(13)は、前記ピストン棒(10)とともに軸方向のみに移動する、請求項1に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項4】
前記ピストン棒(10)が、前記ハウジング(8)を基準として回転方向において固定される前記ピストン棒ガイドにより、前記ハウジング(8)を基準とした非回転状態で保持される非円形断面を有する、請求項1に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項5】
用量設定中の前記ナット(13)の回転が、前記用量設定機構の使用者によって回転させられる用量ノブ(6)に動作可能に接続されるクラッチを介するものである、請求項1に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項6】
前記ナット(13)が、用量設定中及び用量キャンセル中に前記ラチェット(14)に解除可能に係合される1つ又は複数の可撓性アーム(15)を有する、請求項
5に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項7】
前記ラチェット(14)に対しての前記1つ又は複数の可撓性アーム(15)の相対運動及び係合が、前記滑り止め付きの用量送達機構(1)の使用者に対しての触覚信号又は可聴信号を生成する、請求項
6に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項8】
前記ドライバ(12)の軸方向の移動が、前記ハウジング(8)を基準として前記ナット(13)を軸方向の近位方向に押す、請求項1に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項9】
前記ラチェット(14)が、前記ピストン棒ガイドに固定され、前記ハウジング(8)の内部表面に固定される、請求項1に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項10】
前記ラチェット(14)が、前記ハウジング(8)の内部表面の一部である、請求項1に記載の滑り止め付きの用量送達機構(1)。
【請求項11】
請求項1の滑り止め付きの用量送達機構(1)と、前記滑り止め付きの用量送達機構(1)に取り付けられるホルダ(2)とを備える注射デバイス(100)であって、前記ホルダ(2)が、薬剤の容器(3)を受け入れるように構成される、注射デバイス(100)。
【請求項12】
請求項1の滑り止め付きの用量送達機構(1)と、前記滑り止め付きの用量送達機構(1)に取り付け可能なホルダ(2)と、薬剤の容器(3)とを備える注射デバイス(100)であって、前記ホルダ(2)が、前記薬剤の容器(3)を受け入れるように構成される、注射デバイス(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、注射デバイスのための用量設定及び用量送達機構に関し、この注射デバイスでは、用量送達機構が、滑り不具合モード(spinning through failure mode)を防止するように設計及び構成され、滑り不具合モードでは、用量送達中にピストン棒にねじ留めされるナットが回転してしまう。ナットの回転を防止することにより、用量精度が保証される。
【背景技術】
【0002】
1回分の用量の薬剤を、自動で、半自動で、又は手動で送達することができる多数の市販の薬剤送達デバイスが存在する。既知の種類の送達デバイスとして、「ペンタイプ」の注射器が普及しており、再利用可能なデザイン及び使い捨てのデザインの両方で入手可能である。このようなデバイスは、非回転ピストン棒を採用する用量設定及び用量送達機構を備えるように設計及び構築され得、ここでは、所望の又は所定の1回分の用量が使用者によって設定され、その結果、ピストン棒にねじ係合されたナットが、設定された1回分の用量に比例する分だけナットに沿って遠位側に平行移動する。デザイン上の特徴が用量送達時にピストン棒を中心としたナットの回転を防止することを図るが、一部の例では、大きい送達力により滑り不具合モードが発生する可能があり、滑り不具合モードでは、ナットが近位側に押されるにつれてナットが回転してしまう。
【0003】
使用者が1回分の用量の薬剤を設定した後、通常、ドライバが作動され、その結果、ナットが近位側に押され、ここでは望ましくは用量送達機構のハウジングを基準として回転しない。ナットがピストン棒にねじ係合されることから、ナットの軸方向に移動により、理論的には、単に、ピストン棒が等しい分だけ近位方向に軸方向に移動することになる。ピストン棒のこの軸方向に移動により、設定された1回分の用量の薬剤が注射デバイス内の薬剤容器から計量分配される。用量送達中にナットがピストン棒を基準として回転しないことが不可欠である。その理由は、このような回転は用量精度に大きく影響するからである。言い換えると、使用者が1回分の用量を設定するとき、ナットがピストン棒の外側部分に沿って一定の直線距離だけ変位させられる。この距離が、使用者が送達することを意図する設定された1回分の用量の薬剤を定義し、この1回分の用量の薬剤に正比例する。ナットが用量送達中にピストン棒の外側部分に沿って逆方向に回転することが可能である場合、ナット及びピストン棒が近位側に移動することを理由として、最初に設定される直線距離が短くなる。したがって、ナットが最終的に硬い停止部に当たると、薬剤容器内でのピストン棒の移動距離が、1回分の用量の設定時に最初に存在していた直線距離未満となる。このように短縮される移動距離により、計量分配されることになる薬剤が減り、つまり最初に設定された1回分の用量未満となり、それにより用量精度が大きく低下する。重要なこととして、デバイスの使用者がこの移動距離の短縮に気付かない可能性があり、したがって、実際には、設定された1回分の用量の薬剤より少ない量が注射部位に送達されるということに気付かない。明らかなこととして、これにより、この過少量投与を原因とした深刻な健康問題につながる可能性がある。
【0004】
この望ましくないナットの回転の1つの原因は、用量送達中にドライバがナットを基準として回転させられるとき、ドライバがナットを近位側の前方に押すことでナットの遠位端に対して回転力が誘発されて作用することである。いくつかのデザインでは、この回転力が十分に大きい場合、用量送達中にナットを非回転位置で保持するように名目上設計されるラチェットを基準としてナットが滑る可能性があることである。使用者によって作用される力が十分に大きい場合、ナット及びピストン棒が近位側に移動することで、ドライバがピストンを基準としてナットを回転させることができる。したがって、用量送達中にピストン棒の回転を防止するように用量送達機構を構成するような注射デバイスのデザインが必要とされる。
【0005】
本開示は、用量送達中にピストン棒を基準としたナットの回転を有意に阻害し、場合によっては完全に防止する、用量送達機構のデザインを対象とする。患者の使用のために入手可能である多くの薬物送達デバイスが存在するが、ドライバによって誘発される、非回転ピストン棒にねじ係合されるナットの回転を防止する機械的デザインを適用することにより、用量精度を保証することが明らかに必要である。
【0006】
本開示は、既存の薬剤送達デバイスの上で言及した懸案事項及び問題に対しての解決策を提供し、さらに、上で言及した需要及び要求を満たす注射器デザインを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第8,747,367号
【文献】米国特許第9,694,136(B)号
【文献】WO2019/011394
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
いくつかの注射デバイスは、いわゆる固定用量のデザインとして製造及び設計され、ここでは、用量ダイアル・スリーブが1回分又は2回分の用量のみを表す印字を含む。これらのデバイスの背後にあるデザイン上の発想は、通常は注射器ハウジングの窓の中で固定用量設置値のうちの1つの固定用量設定値が確認されるまで使用者が用量設定ノブを回転させることである。他の注射デバイスのデザインが、用量設定機構のハウジング内にある窓を通して可視である印刷スケールを有する回転式用量ダイアル・スリーブ上に示される複数の可能である1回分の用量から選択される1回分の用量を使用者がダイアル調整(設定)するのを可能にする。ペンタイプの注射器デザインの多くの種類は、用量設定及び送達機構が注射デバイスの遠位端のところに位置し、カートリッジなどの薬剤容器が近位端内に位置する。既知の注射器デザインは、通常、多(可変)用量デバイスであり、これは、使用者が0と許容される設定可能な最大用量との間で1回分の用量を選択(ダイアル調整)することができることを意味する。通常、可能である各々の増分用量設定値に一致する可能である用量設定値の範囲が用量ダイアル・スリーブに印刷される。
【0009】
設定された1回分の用量を送達するために、使用者が、通常、1回分の用量の設定時に使用者によって回された用量ノブを押すことによりハウジングを基準とした近位方向の軸方向力を作用させる。通常、用量設定中に用量ノブを回転させることにより、ピストン棒にねじ係合されるナットが同時に回転することになる。このように同時に回転することがクラッチ機構を介して達成され得る。
【0010】
ナットとピストン棒との間のねじがセルフロック機能を有さない場合、使用者又は予め張力を加えられる駆動ばねによって加えられる作用力がナットに圧力を加えことができ、これが潜在的にピストン棒を基準としたナットの求められない又は望ましくない回転を引き起こす可能性があり、それにより用量注射(送達)中にいわゆる滑り不具合モードが発生する。この滑りによりナットが回り始めてピストン棒に沿って螺旋運動し、既に設定された1回分の用量を効果的に減少させてしまう。発生する滑り効果の深刻度に応じて、吐出される医薬品の量が大幅に減少する可能性もあり、一部の事例では、1回分の用量の送達が一切行われない可能性もある。特には使用者が迅速に注射を行う場合、ドライバに伝達される用量送達中の力が大きくなる。同様に、薬剤が非常に高い粘性を有する場合或はニードルカニューレ又は他の導管が詰まるか又は塞がれる場合、注射を完了するためには使用者が可能な限りの親指の力を用いて用量ノブを押すことになり、ドライバに伝達される力が非常に大きくなる可能性がある。したがって、この用量送達機構のデザインは、ねじがセルフロック機能を有さない場合でも及び力が大きい場合でも、用量設定中に回転するナットを注射中に滑らせたり回転させたりしないようにするための十分に高い堅牢性を有さなければならない。
【0011】
その全体が本明細書に組み込まれている先行の米国特許第8,747,367号においては、ナットが、ペンボディのスプラインに干渉する1つ又は複数の可撓性アームを有する。用量設定中、意図される1回分の用量を定義するためには、これらの可撓性アームが、1回分の用量がダイアル調整されていることを使用者に表す聴覚及び触覚フィードバック(つまり、クリック音)を提供しながら、これらのスプラインを越えることになる。用量設定時により小さいトルクを作用するのを望むか又は必要とする使用者に対応するための一部のデザイン構成では、滑り問題がより顕著となる。これらの状況に対処するために、クリック組立体のデザインが、本開示でその概要を詳説される滑り防止の構造部を提供するように修正され得、ここでは、注射中にドライバの力によって誘発されるナットに加えられるトルクが低減されて最小化され、その結果、可撓性アームがスプラインを越えなくなり、ナットがピストン棒を基準として相対的に回転する。言い換えると、用量送達中にピストン棒を基準としたナットの反対方向の回転を防止することで、用量精度が維持される。
【0012】
やはりその全体が本明細書に組み込まれている先行の米国特許第9,694,136号に開示されるデザインが、フリーホイールを使用することによる問題に対しての部分的な解決策を提示しており、ここでは、ナットが1回分の用量を設定するために一方向(例えば、時計回り方向)に回転することができるが、反対方向(例えば、反時計回り方向)に回転することができない。しかし、この部分的な解決策を採用することにより、望ましくない副次的作用が発生し、ここでは、使用者が用量ノブを意図せず過度にダイアル調整してしまった後で用量設定を減少させることができず、つまり、用量設定を修正したり又は1回分の用量を完全にキャンセルしたりすることができない。
【0013】
ドライバが軸方向のみ移動するデザイン(例えば、米国特許第8,747,367号を参照)では、ドライバが回転せず、ナットを軸方向の近位方向に押す軸方向力のみを作用させることを理由として、滑り問題が起こりにくい。言い換えると、ピストン棒を基準としてナットを回転させるような回転駆動力が発生しない。しかし、一部のデザインでは、ドライバが、近位側に平行移動してナットを近位側に押すときに、回転させられる。この回転は、用量送達中にドライバが用量ダイアル・スリーブに係合されていることによって生じる。このデザインの実施例は、先行の米国特許第9,694,136(B)号及びWO2019/011394で見ることができる。
【0014】
本開示は、螺旋運動するドライバのデザインを採用する場合に発生する可能性がある滑り不具合モードを大幅に低減するか又は完全に排除する少なくとも2回分の用量の送達機構のデザインを提供する。本開示の第1の可能な実施例では、ねじ切りされた外側表面を備える非回転ピストン棒を含むハウジングを有する用量送達機構が開示される。ピストン棒が、ピストン棒ガイドによりハウジングを基準とした非回転状態で保持される非円形断面を有することができ、ピストン棒ガイドがさらにハウジングを基準として回転方向において固定される。ねじ切りされた内側表面を有するナットがピストン棒のねじ切りされた外側表面に係合され得、ここでは、ナットが用量設定中に回転してピストン棒を基準として軸方向の近位方向に平行移動することができる。用量設定中のナットの回転が、用量設定機構の使用者によって回転させられる用量ノブに動作可能に接続されるクラッチを介して達成され得る。ナットが、用量設定中及び用量キャンセル中にラチェットに解除可能に係合される1つ又は複数の可撓性アームを有することができる。ラチェットに対しての可撓性アームの相対運動及び係合が、使用者によって感知されることになる触覚信号又は可聴信号を生成することができる。
【0015】
用量送達中に回転するように構成される、外側表面を有するドライバが、さらに、本明細書で開示される用量設定機構の一部であってよい。ラチェットがハウジングを基準として回転方向において固定され得るが、用量設定中及び用量送達中に軸方向に移動するように構成され得る。ラチェットが、上述したように、ラチェット内のスプラインに係合されるニブを有する1つ又は複数の可撓性アームを介してナットの近位端に動作可能に接続され得る。滑り防止の構造部がナットとラチェットとの間に位置する。用量送達中にドライバが回転しない、いくつかの構成では、滑り防止の構造部がドライバとナットとの間に配置され得る。したがって、滑り防止の構造部が、ナットが誤って回転するのを防止することになり、それにより、静止のピストン棒を基準としてナットが回転するのを防止する。
【0016】
ドライバが、用量送達中にドライバを回転させるように構成される外側表面を有することができる。外側表面が、用量ダイアル・スリーブの内側にある協働するスプラインに係合され得るスプラインを含むことができ、その結果、スリーブ及びドライバが互いに回転方向において固定される。用量キャンセル中又は用量送達中に用量ダイアル・スリーブがハウジングまで反対方向に螺旋運動するとき、ドライバも同様にハウジングを基準として回転して近位側に平行移動する。構成に応じて、近位側に平行移動するときのドライバの軸方向の移動が、ラチェットに直接に力を作用させるか又はナットに直接に力を作用させることになる。ブレーキが存在することにより、ナットの線形の軸方向の押し込みがハウジングを基準として近位方向にのみ起こることが保証される。ドライバがラチャットに直接に力を作用させるとき、ラチェットの軸方向のモーションがナット及びねじ接続されたピストン棒に伝達され、その結果、ナット及びピストン棒がさらに用量送達中に軸方向のみに移動することになる。
【0017】
ブレーキが、好適には、ナットの遠位側表面に隣接するように、及びラチェットの近位側終端部に隣接するように、配置される。しかし、いくつかの用量設定機構のデザインでは、ラチェットが別個の構成要素ではなく、代わりに、ハウジングの内側表面の一部である。このようなデザインでは、ブレーキがドライバとナットとの間に配置され得る。ブレーキがナットの近位端を受け入れるための貫通孔を有する構造などのリング又はワッシャであってよく、用量送達中にドライバに加えられる軸方向力の結果として有意な圧縮を受けないようにするのに十分な剛性を有さなければならないゴムから作られ得る。それでも、ブレーキがドライバからナットに対して回転を伝達するのを防止するためのブレーキとして機能するのに十分な可撓性を有さなければならない。ブレーキの頂部及び底部に隣接し且つそれらに対向するラチェット及びナットの表面が細かいテクスチャ構造を有することができ、この細かいテクスチャ構造が圧力下でブレーキ物質に引っ掛かるか又は係合されるが、用量キャンセル中及び用量設定中などの圧力を受けないときにブレーキ上を滑るように動く。注射(用量送達)の完了後、ラチェットとナットとの間の力が注射手技中より有意に低くなる。したがって、使用者が、ブレーキにより、妨害、制限、又は阻害されることなく、第2の又は新たな1回分の用量を設定することが可能となる。
【0018】
ドライバがラチェットに直接に係合される構成では、用量送達手技中、ドライバがラチェットを軸方向の近位方向に押しながらラチェットを基準として回転する。ラチェットとドライバとの間のインターフェースが用量送達中の摩擦の相当な部分を担うことになる。摩擦力を最小にするか又は摩擦力の大部分を排除するのに、ラチェットと回転式ドライバとの間に配置されるグライダを使用することが有益となり得る。このようなグライダは、例えば、テフロン、又は低摩擦材料などの他の材料、で作られるワッシャであってよい。
【0019】
別の可能性のある用量送達機構のデザインでは、フリーホイールの構造部と可変のナット位置との組み合わせが用量送達機構に組み込まれ得、それにより滑り不具合モードが発生するのを防止する。このような実施例もやはり、ハウジングと、ねじ切りされた外側表面を有する非回転ピストン棒と、ピストン棒のねじ切りされた外側表面にねじ係合される内側表面を有するナットと、を有し、ここでは、用量設定中にナットがピストン棒を基準として回転して軸方向の近位方向に平行移動する。ピストン棒ガイドがハウジングを基準として回転方向において固定され得、ピストン棒の回転を防止するように構成され得る。ドライバがハウジング内に配置され、用量送達中にドライバを回転させて近位側に移動させるように構成される外側表面を有する。ラチェットがハウジングを基準として回転方向において固定され得、ナットの近位端に動作可能に係合され得、その結果、ナットが、用量キャンセルを防止する第1の位置から、用量キャンセルを可能にする第2の位置まで、移動することができる。ラチェットが、ナットが第1の位置から第2の位置まで移動するときにナットと相互作用するラジアル・リップを備える内側表面をさらに有することができる。ラチェットが、外部表面から径方向に延在する線形ガイドをさらに有することができ、その結果、線形ガイドが、ハウジングを基準としたラチェットの回転を防止するためにピストン棒ガイドに係合される。
【0020】
グライダが、ナットを基準としたドライバの相対的な回転によって発生する摩擦力を最小にするために、ドライバとナットとの間に配置され得る。ドライバの外側表面が、用量ダイアル・スリーブの内部表面に動作可能に接続されるように構成され得、その結果、用量送達中又は用量キャンセル中にドライバが回転して軸方向の近位方向に移動する。ドライバの平行移動がハウジングを基準としてナットを軸方向の近位方向に押す。ナットの近位端は、ナットが第1の位置にあるときにラチェットに係合される可撓性ラジアルアームを有することができ、ここでは、ラジアルアームが、ラチェットに係合されるときにのみナットの第1の方向の回転を可能にし、且つナットの反対の第2の方向の回転を防止するニブを備える。ナットが第2の位置にあるとき、ラチェットのスプライン及びひいてはニブに係合されない可撓性ラジアルアームが、ピストン棒又はハウジングを基準としたナットの回転を防止しない。ナットが、ナットの第2の位置において、ラチェットの内部にあるラジアル・リップに係合される位置決め突出部をさらに有することができる。これによりナットが第1の位置の遠位側の一定の軸方向距離のところにある第2の位置で維持され、それによりナット上の可撓性アームがラチェットのスプラインに係合されることが防止される。
【0021】
本開示の用量設定機構が、クラッチの遠位端のところで用量ノブに動作可能に接続されるクラッチをさらに含むことができる。一実施例では、クラッチの近位端が回転方向においてナットに固定され、ナットを基準として軸方向に摺動可能である。ナットが、軸方向の近位方向のみに移動するように構成されるピストン棒にねじ係合され得、その結果、用量送達中、ピストン棒が、薬剤の容器内にあるプランジャを近位側に移動させて薬剤に圧力を加える軸方向力を作用させ、その結果、薬剤が薬剤容器内の近位側開口部を通して排出される。ピストン棒の好適な形状には、非円形断面を有し且つ外部表面にねじ山を有する形状が含まれる。これらのねじ山のピッチが各々のダイアル調整される用量設定値又は薬剤の所定の一定の1回分の用量に正比例する。非円形の中央開口部を有するピストン・ガイドが用量設定機構内に含まれ得、ここでは、ピストン・ガイドがピストン棒の非円形断面を受け入れ、その結果、ピストン・ガイドが用量設定中及び用量送達中の両方でピストン棒が回転するのを防止する。
【0022】
用量設定ノブ及びクラッチが動作可能に接続され、その結果、用量設定ノブ及びクラッチが互いに回転方向において固定され、その結果、用量設定中に、用量ノブの回転がクラッチを回転させ、それによりさらにナットを回転させる。ナットの回転が、用量設定中にピストン棒の外側表面上に位置するねじに沿ってナットを軸方向の遠位方向に平行移動させ、用量キャンセル中にナットを近位方向に平行移動させる。用量送達中、ナットがピストン棒と共に軸方向のみにおいて近位方向の一定距離だけ移動することが望ましい。この距離は設定される1回分の用量に正比例する。このようなナットの軸方向のみの移動により、必然的に、ピストン棒がナットにねじ係合されていることにより軸方向に移動することになる。言及したように、用量設定中、ナットの軸方向の遠位方向における平行移動が、ピストン棒を基準としてナットを回転させることなくピストン棒を近位側に移動させる場合に送達されることになる薬剤の量に正比例する。
【0023】
本開示はまた、注射デバイスを完成することを対象とする。このような注射デバイスの1つの可能な実施例が、一連の設定される用量で又は単一の用量で患者に送達すべき薬剤を収容する好適にはカートリッジである容器を受け入れるように構成されるホルダに接続されてこのホルダに取り付けられるように構成される、近位端にあるコネクタ機構を有する説明した用量設定機構を有する。上述の用量設定機構がこの注射デバイス内で使用され得、ここでは、用量セレクタが、デバイスの使用者により1組の有限の所定の固定用量のみを設定するのを可能にするように構成され、ここでは、この1組の有限の所定の固定用量が最小固定用量及び1つ又は複数のより大きい固定用量を含む。いくつかの構成では、1つ又は複数のより大きい固定用量のうちの少なくとも1つが最小固定用量と最小固定用量の部分量(fractional amount)とを足したものに等しくてよい。
【0024】
本開示の以下の詳細な説明及び添付図面から、本開示のこれらの態様及び他の態様並びに利点が明らかとなる。
【0025】
本開示の以下の詳細な説明において添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本開示の構造構成要素を含む完全な注射デバイスの1つの可能な実施例を示す図である。
【
図1B】
図1Aの注射デバイスの遠位端又は用量送達機構のみの断面図である。
【
図2A】本開示の可能な用量送達機構のうちの1つの構造構成要素のうちのいくつかの斜視図である。
【
図2C】
図2Bの構成要素の一部分のB-Bにおける断面図である。
【
図3】本開示の用量送達機構の別の実施例の構造構成要素のうちのいくつかの斜視図である。
【
図4】第1の位置にある、
図3の用量送達構成要素の断面図である。
【
図5】
図4の構成要素の一部分のB-Bにおける断面図である。
【
図6】第2の位置にある、
図3の用量送達構成要素の断面図である。
【
図7】本開示のピストン棒の可能性のあるナットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本出願では、「遠位側部分/遠位端」という用語が、デバイスの使用に従って患者の送達部位/注射部位からより離れたところに位置するデバイスの部分/端部又はデバイスの構成要素又は部材の部分/端部を意味する。それに対応して、「近位側部分/近位端」という用語が、デバイスの使用に従って患者の送達部位/注射部位の最も近くに位置するデバイスの部分/端部又はデバイスの部材の部分/端部を意味する。
【0028】
本開示の用量送達機構が、多数の多様な設計の完全な注射デバイスで使用され得る。このような1つの実施例の完全な注射デバイス100が
図1に示されており、ここでは、用量送達機構1が薬剤容器ホルダ2に接続され、薬剤容器ホルダ2が好適にはカートリッジである薬剤容器3を保持する。容器ホルダが、好適には両頭ニードルカニューレ(すなわち、ペンニードル)である薬剤送達導管を受け入れるように構成されるコネクタ4を備える近位端を有する。ペンニードルが、スナップ嵌合、ねじ、Luer-Lok、又はハブとの他の固定的な取り付けを介して、コネクタ4に取り付けられ、その結果、両頭ニードルカニューレがカートリッジ3内に収容される薬剤との流体連通を確立することができる。カートリッジ3が近位端のところにおいて隔壁によって密閉され、反対側の遠位端のところで摺動ピストンを用いて密閉される。用量設定が、用量送達機構1のハウジング8の窓7の中の印によって示される。
図1が送達デバイスを示しており、ここでは、薬剤容器ホルダ2を覆う保護キャップが取り外されている。使用者が用量ノブ6を回すとき、1回分の用量が設定される(キャンセルされる)。1回分の用量が設定された後で使用者が用量ボタン5を押し、用量ノブ6、用量ダイアル・スリーブ11(
図1Bを参照)、ナット13、ピストン棒10、及びドライバ12のすべてが近位側に移動することにより、1回分の用量が送達される。
【0029】
図1Bが、本開示の用量設定及び用量送達機構2の1つの可能な実施例の断面図を示す。
図1Cが
図1Bに示される用量送達機構の断面図であり、ここでは、ナット13の近位端のところにある可撓性アーム15がラチェット14に係合されて示されている。ピストン棒10がねじ切りされた外側表面10aをさらに有することができ、非円形断面を有することができる。
【0030】
別の可能な実施例では、
図2A~
図2Cに示されるように、ナットをクラッチに係合させて回転方向においてロックする長手方向スプライン13bを含む外側表面を有するナット13が示されており、その結果、用量ノブが回転することでナット13が回転することになる。ナット13が、ピストン棒10の外側表面上のねじ山10aにねじ係合されるねじ切りされた内側表面13aをさらに有する。ドライバ12が、ハウジング8を基準として回転方向において固定されるピストン・ガイドのねじ切りされた内側表面と協働する外ねじ12aを有する。ブレーキ20がナット13とラチェット14との間に配置され、それにより滑り防止の構造部を提供する。ドライバ12が用量ダイアル・スリーブ11に対して回転方向において固定され、用量ダイアル・スリーブ11が、用量設定中、用量キャンセル中、及び用量送達中に、回転する。ピストン棒ガイドが、ピストン棒を摺動可能に受け入れて用量設定中及び用量送達中にピストン棒の回転を防止する非円形の貫通孔を有することができる。グライダ30がドライバとラチェットとの間に配置され得、それにより、用量送達中に回転するドライバによって生じる摩擦を低減するか又は排除する。ラチェット14が、ピストン棒ガイドに係合されるように構成され得る線形ガイド16によりハウジング8を基準として非回転状態で保持される。
【0031】
図2Cが、ラチェット14の内側表面に係合されるナット13の近位端上に位置する可撓性アーム15の一実例を示す。このデザインの可撓性アーム15が、ナット13をいずれかの方向に回転させるときにラチェット14の内部でスプライン14aに解除可能に係合されるように構成されるニブ15aを有する。1つの可撓性アームのみが示されるが、複数の可撓性アームが使用されてもよい。ラチェットのスプラインに対してのニブの解除可能な構成により、使用者が、用量ノブを反対方向に回転させることにより、誤ってダイアル調整された1回分の用量を好都合に修正することが可能となる。用量送達機構の組み立て中、スプライン接続により、ナット13及びクラッチが互いに永久的にスプライン結合される。このスプライン接続により、用量設定中及び用量送達中の両方においてクラッチ及びナットが常に互いに対して回転方向において固定されることが保証される。このスプライン接続はまた、クラッチ及びナットが互いを基準として軸方向に移動するのを可能にする。このスプライン接続は、ピストン棒10上のねじ山10aと、用量スリーブ上の外ねじと、ドライバ12上のねじ山12aとの間のピッチ差を補償するのに必要である。好適には、ドライバとピストン棒ガイドと間のねじ山が、基本的に、ピストンとナットとの間のねじ山と等しいピッチを有する。
【0032】
図1Bに示されるように、ピストン棒10の外側表面上のねじ山10aに加えて、ピストン棒10に非円形断面を与える2つの長手方向平坦部分10bがさらに含まれる。ピストン棒の近位側終端部のところにスナップ嵌合部として示されるコネクタが存在し、このコネクタがディスク又は脚部に接続される。ピストン棒の遠位端のところに、カートリッジ3内の残りの薬剤の量が次の所定の最大用量設定値より少なくなったときにねじ山10aに沿ったナット13の回転を停止するように設計されるピストン棒の拡大セクションとして構成される用量設定機構の最後の用量構造部が存在してよい。言い換えると、使用者が、カートリッジ内の残りの薬剤の量を超える所定の固定用量設定値のうちの1つを設定することを試みる場合、拡大セクションが硬い停止部して機能することになり、それにより、使用者が所望の所定の固定用量設置値を達成しようとするときにナットがねじ山10aに沿ってさらに回転することが防止される。
【0033】
可能な実施例では、例えばねじりばねである回転付勢部材がドライバ12に接続され得、ドライバ12が、ドライバの遠位側の外側表面上のスプラインを介して用量スリーブの内側表面に接続されて回転方向において固定される。ドライバ12の近位端において、ピストン棒ガイドの遠位側内側表面上の適合するねじ山に係合されるねじ山12aが外側表面上に存在する。ドライバとピストン・ガイドとの間のねじ山が、用量スリーブとハウジングとの間のねじ山とは有意に異なるピッチを有する。ナット及びドライバが用量設定中及び用量キャンセル中の両方で一体に回転し、したがってナットよびドライバが本質的に等しく軸方向に移動する。しかし、この移動は互いから独立しており、つまりナットはクラッチによって回され、ピストン棒に対してのねじ山により軸方向に移動し、対してドライバは用量スリーブによって回転させられ、ピストン・ガイドに対してのねじ山により軸方向に移動する。ドライバは注射中も回転し、したがって注射中に能動的に近位方向に移動する。ナットは注射中には回転せず、したがって能動的に軸方向に移動しない。ナットは注射中に軸方向の近位方向のみに移動する。その理由は、ナットが回転するときにドライバによって軸方向に押されるからである。回転するドライバがピストン棒の回転モーション(つまり、滑り)を誘発するのを防止することを目的として、ピストン棒を軸方向のみに移動させてそれにより用量精度を維持するのを保証するための摩擦表面を提供するのに、ブレーキ20が採用される。
【0034】
好適には、ドライバ上のねじ山のピッチがナットの内側部分上のねじ山のピットと等しいか又はそれよりわずかに大きい。さらに、用量スリーブとハウジングとの間のねじ山がナットとピストン棒との間のねじ山より大きいピッチを有する。これが所望される理由は、使用者にとって用量送達プロセスをより容易なものとする機械的な利点が得られるからである。
【0035】
滑り不具合モードを防止するための用量送達機構の別の実施例が
図3~
図8Cに示されており、ここでは、フリーホイールのデザインが2つの位置のタイプのナット及びラチェット組立体との組み合わせで採用される。この実施例では、可撓性アーム15及びニブ15aが、ニブをラチェット14上のスプラインに係合させるときにナットを一方向のみに回転させるのを可能にするように、構成される。用量設定中、ナット13がこのように一方向に回転する。用量送達中、ナットが回転させられ得ず、したがって滑り不具合モードに関する問題が生じない。しかし、このようなデザインは、用量キャンセルが不可能となるという不利な特徴を有する。用量キャンセルを可能にするために、この実施例が、ナットとラチェットとの間での2つの位置の関係性を利用する。
図4及び
図5が第1の位置にあるナット13を示す。
図6が第2の位置にあるナットを示しており、ここでは、可撓性アーム15及びニブ15aがラチェット14の内部のスプライン14aに係合されない。通常の用量設定オペレーション中、ラチェット及びナットが
図4に示される相対的な軸方向位置にある。この位置では、ナットの可撓性アームがラチェットのスプラインと相互作用する。ラチェットとピストン棒ガイドとの間の線形ガイドがラチェットの線形移動を制限する。ナット及びドライバの遠位端位置よりも早くラチェットの遠位端位置に到達する。使用者がラチェットの遠位端位置を越すように用量ノブを回す場合、ラチェット及びナットが引き離され、その結果、ラチェット及びナットが第1の位置(
図4)から第2の位置(
図6)へと切り替えられる。第2の位置では、ナットの可撓性アームがラチェットのスプラインに接触せず、使用者が意図される分より多く1回分の用量を誤ってダイアル調整してしまった場合に又は単に設定した1回分の用量をキャンセルすることを望む場合に使用者が用量ノブを回してゼロに戻すことができる。ゼロ位置では、ナットが押されてラチェット内に戻され、その結果、これらの構成要素が第2の位置から切り替えられて第1の位置へ戻り、それによりナットの可撓性アームをラチェットのスプラインに再び係合させて干渉させる。
【0036】
ナット上に位置する位置決め突出部27及びラチェット上に位置するラジアル・リップ25が、ナットを第1の位置又は第2の位置で維持するために、動作可能に係合される。これが
図4及び
図6を比較することにより明らかとなる。
図7が、可撓性アーム15を基準とした、ナット13上の位置決め突出部27を示す。
図8A~
図8Cが、スプライン14aを基準として位置決めされる、ラチェット14の内部表面上にあるラジアル・リップ25を示す。グライダ30がドライバ12とナット13との間に配置され得る。
【0037】
図面に示される上述の実施例が、単に、安全な組立体の可能性のあるデザインの非限定の例とみなされ、これらのデザインが特許請求の範囲内で多様な形で修正され得る、ことを理解されたい。