(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】射出成形機の成形最適化方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240118BHJP
B29C 45/78 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/78
(21)【出願番号】P 2022063309
(22)【出願日】2022-04-06
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000227054
【氏名又は名称】日精樹脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小塚 誠
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001183(JP,A)
【文献】特開2017-222144(JP,A)
【文献】国際公開第19/188998(WO,A1)
【文献】特開2015-217623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形品を生産する際における成形条件の最適化を行う射出成形機の成形最適化方法であって、予め、所定の成形品を生産する初期に使用する初期樹脂材料に対する基本成形条件,及び当該基本成形条件に基づく前記初期樹脂材料の溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する基本固相率特性を含む基本溶融特性を求め、前記成形品を生産する前記初期樹脂材料から切換える追加樹脂材料を使用する際に、当該追加樹脂材料に対する第二成形条件,及び当該第二成形条件に基づく前記追加樹脂材料の溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する第二固相率特性を含む第二溶融特性を求めるとともに、当該第二溶融特性が前記基本溶融特性に近似するように、前記第二成形条件を、所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行うことを特徴とする射出成形機の成形最適化方法。
【請求項2】
前記基本固相率特性は、前記初期樹脂材料に係わる物性値データ及び固相率演算式データに基づく演算処理により求めた、前記スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いるとともに、前記第二固相率特性は、前記追加樹脂材料に係わる物性値データ及び固相率演算式データに基づく演算処理により求めた、前記スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いることを特徴とする請求項1記載の射出成形機の成形最適化方法。
【請求項3】
前記基本溶融特性は、前記基本固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含むとともに、前記第二溶融特性は、前記第二固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含むことを特徴とする請求項2記載の射出成形機の成形最適化方法。
【請求項4】
前記初期樹脂材料から追加樹脂材料への切換の条件は、樹脂材料の製造ロットの変更,及び/又は樹脂材料のグレードの変更を含むこと特徴とする請求項1記載の射出成形機の成形最適化方法。
【請求項5】
可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形品を生産する際における成形条件の最適化を行う射出成形機の成形最適化装置であって、所定の成形品を生産する初期に使用する初期樹脂材料に対する基本成形条件を設定する基本成形条件設定機能部と、前記基本成形条件に基づく前記初期樹脂材料の溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する基本固相率特性を含む基本溶融特性を求める基本溶融特性演算機能部と、前記成形品を生産する前記初期樹脂材料から切換える追加樹脂材料に対する第二成形条件を設定する第二成形条件設定機能部と、前記第二成形条件に基づく前記追加樹脂材料の溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する第二固相率特性を含む第二溶融特性を求める第二溶融特性演算機能部と、前記第二溶融特性が前記基本溶融特性に対して近似するように、前記第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行う成形条件変換処理機能部とを有する最適化処理部を設けた成形機コントローラを備えることを特徴とする射出成形機の成形最適化装置。
【請求項6】
前記成形機コントローラは、前記初期樹脂材料に係わる物性値データ及び固相率演算式データの演算処理により、前記スクリュ位置に対応する溶融樹脂の前記基本固相率特性となる推定固相率を求めるとともに、前記追加樹脂材料に係わる物性値データ及び固相率演算式データの演算処理により、前記スクリュ位置に対応する溶融樹脂の前記第二固相率特性となる推定固相率を求める、固相率演算処理部を備えることを特徴とする請求項5記載の射出成形機の成形最適化装置。
【請求項7】
前記成形機コントローラは、前記基本溶融特性及び前記第二溶融特性をグラフィック表示するグラフィック表示部を有するディスプレイを備えることを特徴とする請求項5記載の射出成形機の成形最適化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形品の生産を行う際に用いて好適な射出成形機の成形最適化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形品の生産を行うことから、使用する樹脂材料に対する成形条件を最適化するとともに、最適化した成形条件を適正に維持できるか否かは、望ましい成形品質を確保する上で重要な要素となる。このため、成形条件を最適化する各種手段(方法)も提案されている。
【0003】
従来、この種の手段(方法)としては、特許文献1に記載される射出成形機の成形支援装置及び特許文献2に記載される射出成形機の成形条件最適化方法が知られている。同文献1により開示される成形支援装置は、樹脂の種類にマッチングした最適(的確)な温調温度を設定可能にして、加熱筒の効率化及び安定化を高めるとともに、成形条件全体の調整幅を広げて、可塑化品質の向上と高い成形品質を確保することを目的としたものであり、具体的には、加熱筒の内部へ樹脂材料を供給する材料供給部の温調を行う温調部と、樹脂の種類を入力可能な基本データ入力部,温調部による最適な温調温度を樹脂の種類毎に設定した温調温度データテーブル及び成形条件の設定時に基本データ入力部から樹脂の種類が入力されたなら温調温度データテーブルから入力された樹脂の種類に対応する温調温度を読み出すことにより温調部の温調温度として設定する温度設定処理部を有するデータ処理部,並びに当該温調温度をディスプレイに表示処理する出力処理機能部を有する成形機コントローラとを備えて構成したものである。
【0004】
また、同文献2により開示される成形条件最適化方法は、射出成形機の最適な成形条件を迅速、簡便に設定する方法の提供を目的としたものであり、具体的には、試し打ち成形テストにより成形条件に変更を加えつつ射出プロファイル及び保圧プロファイルからなる良品成形条件を設定し、この条件に基づいて再度試し打ち成形テストを実施するとともに主要成形変数の測定・監視を行なって、成形中における成形状態の環境変化に由来する該主要成形変数の変動幅を求め、該変動幅を考慮して実験計画法を通じて得られた主要成形変数のあらたな組合せに基づく更新成形条件の複数の更新成形テストを実施し、該成形テストの結果得られた成形品の各々についてオペレータの目視による外観品質判定を行ない、不良項目がある場合には修正プログラムを使用して前記更新成形条件を修正して更新成形テストを繰り返し、不良項目が皆無の場合には、最終の更新成形条件を最適成形条件とするようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-1183号公報
【文献】特開平10-272663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した成形条件を最適化するための従来の手段(方法)は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
即ち、従来の手段(方法)は、成形条件に対して、専ら絶対値的な観点からの条件値の最適化、換言すれば、成形条件に関するリアルタイムの成形条件を如何に正確かつ精度の高い設定を行うかを主眼に行っていたため、相対的に最適化する観点からは、必ずしも行われていないのが実情である。この場合、外気温度等の外乱による変動に対しては、補正処理を行うなどの対策は行っていたが、樹脂材料に係わる製造ロットの変更やグレードの変更等に対しては、必ずしも十分に対応しているとはいえない課題が存在した。
【0008】
このため、例えば、所定の成形品に対する生産を行っている際に、使用中の樹脂材料の残量が減少し、新しい樹脂材料を追加(補充)する場合、樹脂材料の製造ロットが異なることにより、成形品の不良品が増加してしまうことも少なくない。この場合、樹脂材料の物性値が微妙に異なることに起因するとともに、どのような物性値がどの程度異なり全体としてどのように影響しているかなどを把握することは容易でない。
【0009】
結局、オペレータによる成形条件の再設定が強いられるなど、生産能率の低下を招く要因になっていた。しかも、成形条件の再設定により同一成形品を確保できればよいが、成形品のバラツキにも少なからず影響するため、成形品の品質及び均質性を十分に確保できないなどの課題が存在した。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の成形最適化方法及び装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る射出成形機Mの成形最適化方法は、上述した課題を解決するため、可塑化した溶融樹脂をスクリュ3により金型2に射出充填して成形品を生産する際における成形条件の最適化を行う射出成形機Mの成形最適化方法であって、予め、所定の成形品を生産する初期に使用する初期樹脂材料Cro,Cgoに対する基本成形条件,及び当該基本成形条件に基づく初期樹脂材料Cro,Cgoの溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する基本固相率特性を含む基本溶融特性Pro.Pgoを求め、成形品を生産する初期樹脂材料Cro,Cgoから切換える追加樹脂材料Crs.Cgsを使用する際に、当該追加樹脂材料Crs.Cgsに対する第二成形条件,及び当該第二成形条件に基づく追加樹脂材料Crs.Cgsの溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する第二固相率特性を含む第二溶融特性Prs,Pgsを求めるとともに、当該第二溶融特性Prs,Pgsが基本溶融特性Pro.Pgoに近似するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行うようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る射出成形機の成形最適化装置1は、上述した課題を解決するため、可塑化した溶融樹脂をスクリュ3により金型2に射出充填して成形品を生産する際における成形条件の最適化を行う射出成形機Mの成形最適化装置であって、所定の成形品を生産する初期に使用する初期樹脂材料Cro,Cgoに対する基本成形条件を設定する基本成形条件設定機能部Ffと、基本成形条件に基づく初期樹脂材料Cro,Cgoの溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する基本固相率特性を含む基本溶融特性Pro.Pgoを求める基本溶融特性演算機能部Fpと、成形品を生産する初期樹脂材料Cro,Cgoから切換える追加樹脂材料Crs.Cgsに対する第二成形条件を設定する第二成形条件設定機能部Fsと、第二成形条件に基づく追加樹脂材料Crs.Cgsの溶融状態に係わる少なくともスクリュ位置に対する第二固相率特性を含む第二溶融特性Prs,Pgsを求める第二溶融特性演算機能部Fqと、第二溶融特性Prs,Pgsが基本溶融特性Pro.Pgoに近似するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行う成形条件変換処理機能部Fcとを有する最適化処理部5を設けた成形機コントローラ4を備えることを特徴とする。
【0013】
一方、本発明は、発明の好適な態様により、基本固相率特性には、初期樹脂材料Cro,Cgoに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により求めた、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いることができるとともに、第二固相率特性には、追加樹脂材料Crs.Cgsに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により求めた、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いることができる。このため、成形機コントローラ4には、初期樹脂材料Cro,Cgoに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmの演算処理により、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の基本固相率特性となる推定固相率を求めるとともに、追加樹脂材料Crs.Cgsに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmの演算処理により、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の第二固相率特性となる推定固相率を求める固相率演算処理部Fxを設けることができる。また、成形機コントローラ4には、基本溶融特性Pro.Pgo及び第二溶融特性Prs,Pgsをグラフィック表示するグラフィック表示部Vsgを有するディスプレイ4dを設けることができる。さらに、基本溶融特性Pro.Pgoには、基本固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含ませることができるとともに、第二溶融特性Prs,Pgsには、第二固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含ませることができる。なお、初期樹脂材料Cro,Cgoから追加樹脂材料Crs.Cgsへの切換の条件は、樹脂材料の製造ロットの変更,及び/又は樹脂材料のグレードの変更を含ませることができる。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明に係る射出成形機Mの成形最適化方法及び装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0015】
(1) 成形最適化方法の実施に際し、予め、所定の成形品を生産する初期に使用する初期樹脂材料Cro,Cgoに対する基本成形条件,及び当該基本成形条件に基づく初期樹脂材料Cro,Cgoの溶融状態に係わる基本溶融特性Pro.Pgoを求め、成形品を生産する初期樹脂材料Cro,Cgoから切換える追加樹脂材料Crs.Cgsを使用する際に、当該追加樹脂材料Crs.Cgsに対する第二成形条件,及び当該第二成形条件に基づく追加樹脂材料Crs.Cgsの溶融状態に係わる第二溶融特性Prs,Pgsを求めるとともに、当該第二溶融特性Prs,Pgsが基本溶融特性Pro.Pgoに近似するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行うようにしたため、例えば、所定の成形品に対する生産時において、製造ロットの異なる新しい樹脂材料を追加した際に、オペレータが、いわば原因がよく判らない状態で成形条件を再設定する作業が無くなるため、生産能率を高めることができるとともに、不良品を低減し、樹脂材料の変更があった場合でも同一成形品を確保することによる均質性及び品質の向上を図ることができるなど、相対的な観点からの最適化、即ち、樹脂材料に係わる製造ロットやグレードの変更等に対する最適化を的確に行うことができる。
【0016】
(2) 成形最適化装置1は、基本成形条件設定機能部Ff,基本溶融特性演算機能部Fp,第二成形条件設定機能部Fs及び第二溶融特性演算機能部Fqを有し、第二溶融特性Prs,Pgsが基本溶融特性Pro.Pgoに対して近似するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行う成形条件変換処理機能部Fcとを有する最適化処理部5を設けた成形機コントローラ4を備えるため、射出成形機Mにおける成形最適化方法を容易かつ的確に実施することができる。
【0017】
(3) 基本溶融特性Pro.Pgoに、少なくともスクリュ位置に対する基本固相率特性、かつ第二溶融特性Prs,Pgsに、少なくともスクリュ位置に対する第二固相率特性を、それぞれ含ませたため、樹脂材料の溶融状態、特に、粘度に直接関係する固相率を利用できる。これにより、溶融状態の情報をより的確に得ることができる。
【0018】
(4) 好適な態様により、最適化処理部5に、基本溶融特性Pro.Pgoとして、少なくともスクリュ位置に対する基本固相率特性を求める基本溶融特性演算機能部Fpと、第二溶融特性Prs,Pgsとして、少なくともスクリュ位置に対する第二固相率特性を求める第二溶融特性演算機能部Fqとをそれぞれ設ければ、樹脂材料の溶融状態に係わる情報(データ)を成形機コントローラ4を利用して容易に得ることができる。
【0019】
(5) 好適な態様により、基本固相率特性に、初期樹脂材料Cro,Cgoに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により求めた、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いるとともに、第二固相率特性に、追加樹脂材料Crs.Cgsに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により求めた、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いれば、既に提案した成形支援装置(特開2020-1183号公報)等を利用することにより確実に実施し、樹脂材料の溶融状態の的確な情報(データ)を数値的に得ることができる。
【0020】
(6) 好適な態様により、成形機コントローラ4に、初期樹脂材料Cro,Cgoに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmの演算処理により、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の基本固相率特性となる推定固相率を求めるとともに、追加樹脂材料Crs.Cgsに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmの演算処理により、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の第二固相率特性となる推定固相率を求める固相率演算処理部Fxを設ければ、既に提案した成形支援装置等を利用できるため、成形機コントローラ4を利用して容易かつ確実に実施することができる。
【0021】
(7) 好適な態様により、成形機コントローラ4に、基本溶融特性Pro.Pgo及び第二溶融特性Prs,Pgsをグラフィック表示するグラフィック表示部Vsgを有するディスプレイ4dを設ければ、オペレータは、樹脂材料が異なる状態をグラフィック表示により的確に確認できるため、最適化を図る観点から、実施の容易性及び的確性を高めることができる。
【0022】
(8) 好適な態様により、基本溶融特性Pro,Pgoに、基本固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含ませるとともに、第二溶融特性Prs,Pgsに、第二固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含ませれば、成形条件を同一化する観点から、精度の高い同一化を図れるなど、より効果を高めることができる。
【0023】
(9) 好適な態様により、初期樹脂材料Cro,Cgoから追加樹脂材料Crs.Cgsへの切換の条件に、樹脂材料の製造ロットの変更,及び/又は樹脂材料のグレードの変更を含ませれば、実際の生産時に発生する課題の全体をほぼ網羅することができるため、課題を解決する観点から本発明に係る成形最適化方法(成形最適化装置1)を最も有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る成形最適化装置におけるディスプレイの設定画面図、
【
図2】同成形最適化装置を備える射出成形機の機械的構造を示す構成図、
【
図3】同成形最適化装置における処理系(制御系)のブロック系統図、
【
図4】本発明の好適実施形態に係る成形最適化方法の処理手順を示すフローチャート、
【
図5】
図4に示すフローチャートの一部を具体的に示すステップフロー図、
【
図6】同成形最適化方法の実施に用いた製造ロットの異なる樹脂材料の物性値を示す一覧表、
【
図7】同成形最適化方法の実施に用いた製造ロットの異なる樹脂材料に対する設定温度を示す一覧表、
【
図8】同成形最適化方法の実施に用いるスクリュ位置に対する推定固相率の変化特性図(グラフィック表示図)、
【
図9】同成形最適化方法を実施した際の作用効果を説明するためのショット数に対するバーフロー流動長の関係図、
【
図10】同成形最適化方法の実施に用いたグレードの異なる樹脂材料の物性値を示す一覧表、
【
図11】同成形最適化方法の実施に用いたグレードの異なる樹脂材料に対する設定温度(a)及び成形条件(b)を示す一覧表、
【
図12】同成形最適化方法の実施に用いたグレードの異なる樹脂材料の温度に対する比熱の特性図、
【
図13】
図12の樹脂材料を用いて同成形最適化方法を実施した際の作用効果を説明するためのショット数に対するバーフロー流動長の関係図、
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
まず、本実施形態に係る成形最適化装置1の理解を容易にするため、同装置1を利用できる射出成形機Mの概要について、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0027】
図2は、射出成形機M、特に、型締装置を省略した射出装置Miを示す。射出装置Miにおいて、11は加熱筒であり、この加熱筒11の前端部にはヘッド部11hを介してノズル11nを取付ける。ノズル11nは加熱筒11内部の溶融樹脂を仮想線で示す金型2に対して射出する機能を有する。また、加熱筒11の後端上部にはホッパ11sを備えるとともに、このホッパ11sの下端開口と加熱筒11の内部間には、加熱筒11を貫通する材料落下口11dを形成する。これにより、ホッパ11sと加熱筒11の内部は、材料落下口11dを介して連通し、ホッパ11s内に仮想線で示す樹脂材料Cは、材料落下口11dを通して加熱筒11の内部に供給される。
【0028】
一方、ホッパ11sの外周面には、ホッパ11sの内部に収容した樹脂材料Cを加熱するヒータ12sを付設するとともに、材料落下口11dの周囲における加熱筒11には、ウォータージャケット12jを形成する。そして、ヒータ12sは、温調ドライバ12dにおける給電回路12eに接続するとともに、ウォータージャケット12jは、温調ドライバ12dにおける温調水循環回路12wに接続する。温調水循環回路12wは、温調された水媒体(温水又は冷却水)をウォータージャケット12jに循環させることにより、材料落下口11dを通過する樹脂材料Cを温調(加熱又は冷却)することができる。さらに、給電回路12e及び温調水循環回路12wはコントローラ本体22にそれぞれ接続する。これにより、コントローラ本体22から温調ドライバ12dには、給電回路12e及び温調水循環回路12wに対する制御指令が付与される。また、温調温度は温度センサにより検出され、この検出信号は温調ドライバ12dに付与される。
【0029】
また、加熱筒11の内部にはスクリュ3を回動自在及び進退自在に装填する。なお、スクリュ表面には、耐久性等を考慮した所定の表面素材(金属)によるコーティング処理が施されている。スクリュ3は、前側から後側に、メターリングゾーンZm,コンプレッションゾーンZc,フィードゾーンZfを有している。一方、スクリュ3の後端部は、スクリュ駆動部13に結合する。スクリュ駆動部13は、スクリュ3を回転させるスクリュ回転機構13r及びスクリュ3を前進及び後退させるスクリュ進退機構13mを備える。スクリュ回転機構13r及びスクリュ進退機構13mの駆動方式は、例示の場合、電動モータを用いた電気方式を示しているが、油圧回路を用いた油圧方式であってもよく、その駆動方式は問わない。そして、スクリュ回転機構13r及びスクリュ進退機構13mは給電ドライバ13dに接続するとともに、この給電ドライバ13dはコントローラ本体22に接続する。これにより、コントローラ本体22から給電ドライバ13dに、スクリュ回転機構13r及びスクリュ進退機構13mに対する制御指令が付与される。また、スクリュ3の速度及び位置等の物理量は、図示を省略した速度センサ及び位置センサ等により検出され、この検出信号は給電ドライバ13dに付与される。
【0030】
さらに、加熱筒11は、前側から後側に、加熱筒前部11f,加熱筒中部11m,加熱筒後部11rを有し、各部11f,11m,11rの外周面には、前部加熱部14f,中部加熱部14m,後部加熱部14rをそれぞれ付設する。同様に、ヘッド部11hの外周面には、ヘッド加熱部14hを付設するとともに、ノズル11nの外周面には、ノズル加熱部14nを付設する。これらの各加熱部14f,14m,14r,14h,14nはバンドヒータ等により構成できる。したがって、ノズル加熱部14n,ヘッド加熱部14h,前部加熱部14f,中部加熱部14m,後部加熱部14rは、加熱群部14を構成する。そして、この加熱群部14はヒータドライバ14dに接続するとともに、ヒータドライバ14dはコントローラ本体22に接続する。これにより、コントローラ本体22からヒータドライバ14dに、各加熱部14f,14m,14r,14h,14nに対する制御指令が付与され、また、加熱温度は、図示を省略した温度センサ(熱電対等)により検出され、この検出信号はヒータドライバ14dに付与される。
【0031】
一方、
図3には、射出成形機Mの全体制御を司る成形機コントローラ4を示す。成形機コントローラ4は、CPU及び内部メモリ4m等のハードウェアを内蔵したコンピュータ機能を有する上述したコントローラ本体22を備えるとともに、コントローラ本体22には、ディスプレイ4dを接続する。ディスプレイ4dは、必要な情報表示を行うことができるとともに、タッチパネル4dtが付設され、このタッチパネル4dtを用いて、入力,設定,選択等の各種入力操作を行うことができる。また、コントローラ本体22には、各種アクチュエータを駆動(作動)するドライバ群24を接続する。このドライバ群24には、
図2に示した前述の給電回路12e及び温調水循環回路12wを含む温調ドライバ12d,給電ドライバ13d及びヒータドライバ14dが含まれる。
【0032】
したがって、成形機コントローラ4は、HMI制御系及びPLC制御系を包含し、内部メモリ4mには、PLCプログラム及びHMIプログラムを格納する。PLCプログラムにより、射出成形機Mにおける各種工程のシーケンス動作や射出成形機Mの監視等が実行されるとともに、HMIプログラムにより、射出成形機Mの動作パラメータの設定及び表示,射出成形機Mの動作監視データの表示等が実行される。
【0033】
次に、このような射出成形機Mに利用できる本実施形態に係る成形最適化装置1の構成について、
図1-
図3及び
図6-
図9を参照して説明する。
【0034】
本実施形態に係る成形最適化装置1は、
図3に示す成形機コントローラ4及びディスプレイ4dを含む周辺アクチュエータにより構成される。このため、成形機コントローラ4の内部メモリ4mには、成形最適化装置1を機能させるアプリケーションプログラムによる最適化処理プログラムPsを格納する。
【0035】
成形最適化装置1は、基本的に、成形機コントローラ4のコンピュータ機能、即ち、最適化処理プログラムPsの実行により機能する最適化処理部5を備え、射出成形機Mにより所定の成形品を生産する際における成形条件を最適化することができる。
【0036】
即ち、所定の成形品の生産時には、使用中の樹脂材料Cの残量が減少し、ホッパ11sに対して新しい樹脂材料Cを追加する場合、樹脂材料Cの製造ロット(製造時期)が異なることにより粘度等が変化し、不良品が増加する場合も少なくない。この場合、樹脂材料Cの物性値が微妙に異なることも多いが、どのような物性値がどの程度異なり全体としてどのように影響しているかを把握することは容易でない。そこで、成形最適化装置1により、このような製造ロットの異なる樹脂材料Cを追加する際に、初心者等であっても成形条件の再設定及びその最適化を容易に行えるようにしたものである。
【0037】
このため、成形最適化装置1の要部を構成する最適化処理部5には、
図3に示すように、基本的な構成として、所定の成形品を生産する初期に使用する初期樹脂材料Croに対する基本成形条件を設定する基本成形条件設定機能部Ffと、基本成形条件に基づく初期樹脂材料Croの溶融状態に係わる基本溶融特性Proを求める基本溶融特性演算機能部Fpと、成形品を生産する初期樹脂材料Croから切換える追加樹脂材料Crsに対する第二成形条件を設定する第二成形条件設定機能部Fsと、第二成形条件に基づく追加樹脂材料Crsの溶融状態に係わる第二溶融特性Prsを求める第二溶融特性演算機能部Fqと、第二溶融特性Prsが基本溶融特性Proに近似(同一となる場合を含む)するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行う成形条件変換処理機能部Fcとを備えるとともに、成形機コントローラ4には、固相率演算処理部Fxを備える。
【0038】
この場合、初期樹脂材料Croの溶融状態に係わる基本溶融特性Proには、少なくともスクリュ位置に対する基本の固相率特性(以下、基本固相率特性)を含めることができるとともに、追加樹脂材料Crsの溶融状態に係わる第二溶融特性Prsには、少なくともスクリュ位置に対する第二の固相率特性(以下、第二固相率特性)を含めることができる。このように、基本溶融特性Proに基本固相率特性、かつ第二溶融特性Prsに第二固相率特性を、それぞれ含ませれば、樹脂材料の溶融状態、特に、粘度に直接関係する固相率を利用できるため、溶融状態の情報をより的確に得ることができる。
【0039】
したがって、上述した最適化処理部5における基本溶融特性演算機能部Fpには、基本溶融特性Proとして、少なくともスクリュ位置に対する基本固相率特性を求める機能が含まれるとともに、第二溶融特性演算機能部Fqには、第二溶融特性Prsとして、少なくともスクリュ位置に対する第二固相率特性を求める機能が含まれる。このような基本固相率特性及び第二固相率特性を利用すれば、樹脂材料の溶融状態に係わる情報(データ)を成形機コントローラ4の利用により容易に得ることができる。
【0040】
特に、本実施形態に係る成形最適化装置1では、固相率演算処理部Fxを設けたため、既に本出願人が提案した成形支援装置(特開2020-1183号公報参照)を利用、即ち、推定手段により求めることができる推定固相率を利用し、成形機コントローラ4により、容易かつ確実に実施できるとともに、樹脂材料の溶融状態の的確な情報(データ)を数値的に得ることができる。
【0041】
このため、固相率演算処理部Fxにより、初期樹脂材料Croに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により求めた、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いた基本固相率特性Proを得ることができるとともに、追加樹脂材料Crsに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により求めた、スクリュ位置に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いた第二固相率特性Prsを得ることができる。このように、既に提案した成形支援装置等を利用することにより樹脂材料の溶融状態の的確な情報(データ)を数値的に得ることができるとともに、確実に実施とすることができる。
【0042】
一方、
図1は、成形機コントローラ4におけるコントローラ本体22に接続したディスプレイ4dに表示される成形最適化装置1に使用する設定画面Vsを示す。
【0043】
設定画面Vsは、
図1中、左側上部に、成形機及び樹脂設定欄31,中央上部に樹脂物性値設定欄32、右側上部に粘度設定欄33、下部左側に条件設定欄34、下部中央から下部右側に温度設定欄35、をそれぞれ配置するとともに、温度設定欄35の下方には、「流動解析開始」キー36及び「成形品の同一化」キー37を配置した画面構成を備える。この場合、成形機及び樹脂設定欄31には、成形機種の設定部31a、スクリュ種の設定部31b、樹脂種の設定部31c、強化繊維種の設定部31dを、それぞれ備えるとともに、樹脂物性値設定欄32には、比熱,熱伝導率,密度,融点,分解温度,溶融温度,吸水率,等の各種詳細物性値の入力部を備える。さらに、条件設定欄34には、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間等に係わる制約条件を含む条件設定部を備え、切換矢印キー34cにより表示を切換えることができる。
【0044】
次に、成形最適化装置1の機能を含む本実施形態に係る成形最適化方法について、各図を参照しつつ
図5に示すステップフロー図を含む
図4に示すフローチャートに従って説明する。
【0045】
まず、本実施形態に係る成形最適化方法の有効性を確認するための検証を行ったため、最初に、この検証結果について、
図6-
図9を参照して説明する。
【0046】
検証試験では、樹脂材料Cとしてポリスチレン樹脂(GPPS)のペレット材を使用し、初期に使用した初期樹脂材料をサンプルCroとし、追加で使用した追加樹脂材料をサンプルCrsとした。したがって、初期樹脂材料Croと追加樹脂材料Crsは、製造ロットが相違する同一樹脂材料である。
【0047】
検証試験に際しては、
図1に示した設定画面Vsを使用することにより、初期樹脂材料Cro及び追加樹脂材料Crsに係わる必要な設定を行う。この場合、本実施形態に係る成形最適化方法に関連して、樹脂物性値設定欄32により、
図6に示した分解温度等の各物性値を入力(設定)する。同図は、初期樹脂材料Croと追加樹脂材料Crsのそれぞれの物性値を示す。物性値は、分解温度TG〔Cel〕,融点Tm〔Cel〕,溶融潜熱λ〔J/kg〕の実測値である。また、
図6には、これに基づく粘度(計算値)を示す。同図から明らかなように、製造ロットが異なることにより、初期樹脂材料Croの粘度は、4.4〔g/10min〕となり、追加樹脂材料Crsの粘度は、5.2〔g/10min〕であり、追加樹脂材料Crsの流動性が高いことを確認できる。
【0048】
また、温度設定欄35により、
図7に示した各部における設定温度を設定する。この場合、初期樹脂材料Croに対して、通常の成形条件の設定ルールに従った温度を設定するとともに、追加樹脂材料Crsに対して、初期樹脂材料Croの設定温度をそのまま適用、即ち、修正無しにより設定する。
【0049】
一方、設定画面Vsに対する以上の入力処理が終了したなら、設定画面Vsにおける「流動解析開始」キー36をONにする。これにより、
図8に示すスクリュ位置(ピッチ番号)に対する推定固相率の変化特性を得ることができる。前述したように、スクリュ位置における「推定固相率」は、特開2020-1183号公報に記載される成形支援装置に開示の推定手段、即ち、本実施形態に係る固相率演算処理部Fxにより演算処理される。
図8によれば、初期樹脂材料Croの推定固相率に対して、追加樹脂材料Crsの推定固相率が稍小さい状態にあることを確認できる。
【0050】
推定固相率は、樹脂材料の溶融状態(溶け方)を定量的に示しているため、設定温度等の成形条件を修正し、第二溶融特性Prsに対応する追加樹脂材料Crsの推定固相率の変化特性を、基本溶融特性Proに対応する初期樹脂材料Croの推定固相率の変化特性に一致(同一化)することができれば、上述した樹脂材料の粘度を同じにすることができる。
【0051】
この変換処理は、成形条件変換処理機能部Fcにより実行される。即ち、第二溶融特性演算機能部Fqにより求められた追加樹脂材料Crsの溶融状態に係わる第二溶融特性Prsが、基本溶融特性演算機能部Fpにより求められた初期樹脂材料Croの溶融状態に係わる基本溶融特性Proに近似(同一となる場合を含む)するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行う。
【0052】
変換処理の方法は、設定温度,スクリュ回転数,背圧,サイクル時間等を数学的手法により演算処理する。数学的手法には、実験計画法、ラグランジュの未定乗数法、ガウス・ジョルダン法、ニュートン法、一次補完法等の各種方法を利用可能であるが、本実施形態では、ラグランジュの未定乗数法を利用して変換処理を行った。
【0053】
以下、具体的な変換手法を説明する。まず、制約条件のもとに算出された初期樹脂材料Croの推定固相率と追加樹脂材料Crsの推定固相率の差をfαとし、[数1]に当てはめることにより多項式を算出させる。
【0054】
【0055】
[数1]の二次多項式の近似式において、
【0056】
【0057】
[数2]より定める。それには、a,b,cの偏微分を0にする必要がある。よって、aの偏微分は[数3]となる。
【0058】
【0059】
同様に、b,cについても、偏微分を行うことにより、[数4]の正規方程式を得ることができる。
【0060】
【0061】
これにより、a,b,cの解を求めた後に、f≒faとして近似式を求める。この近似式を求めた後、各設定条件の制約条件gに対し、[数5]のラグランジュの未定乗数法を用いて最適解を算出する。
【0062】
【0063】
なお、二次関数での最適値が制約条件を越える場合には、一次関数として判断し、最適値を算出することも可能である。
【0064】
以上の変換処理(演算処理)は、設定画面Vsにおける「成形品の同一化」キー37をONにすることにより、実行させることができる。
【0065】
図7に示すCraは、成形条件変換処理機能部Fcにより変換処理された設定温度、即ち、変換処理により修正された追加樹脂材料Crsに対する設定温度を示す。
【0066】
図7及び
図8から明らかなように、追加樹脂材料Crsの推定固相率は、修正しない場合には、初期樹脂材料Croの推定固相率に対して稍小さい状態にある。即ち、初期樹脂材料Croに対して、いわば溶けやすい状態にあったが、修正(変換)された追加樹脂材料Crsの設定温度は、初期樹脂材料Croの設定温度に対して、全体に4〔℃〕だけ低く設定された。
【0067】
図9は、
図7に示した設定温度により成形を行った場合のバーフロー流動長測定器により測定したバーフロー流動長〔mm〕を示す。Lroは、初期樹脂材料Croを使用した場合のバーフロー流動長、Lrsは、成形条件を修正しない追加樹脂材料Crsを使用した場合のバーフロー流動長、Lraは、成形条件を修正(最適化)した追加樹脂材料Cra(
図7)のバーフロー流動長をそれぞれ示す。なお、バーフロー流動長測定器は、細長いキャビティを形成した金型を用いたものであり、溶融樹脂の粘度が小さいほど流動長は長くなる。
【0068】
図9から明らかなように、初期樹脂材料Croの流動長Lroに対して、成形条件を修正しない追加樹脂材料Crsの流動長Lrsは、4-5〔mm〕程度長くなる傾向があるが、成形条件を修正(最適化)した追加樹脂材料Craの流動長Lraは、初期樹脂材料Croの流動長Lroにほぼ一致させることができ、本実施形態に係る成形最適化装置1(成形最適化方法)を利用した場合の高い有効性を確認できた。特に、例示の場合、変更は、設定温度のみ場合であり、設定温度のみの修正(変換)であっても十分な有効性を確認できた。
【0069】
次に、実際の生産時における成形最適化方法について、
図4及び
図5を参照して説明する。
【0070】
まず、成形品の生産に際し、オペレータは、通常の設定手順に従って、射出成形機Mにおける成形条件の設定処理を行う(ステップS1)。即ち、基本成形条件設定機能部Ffにより、成形条件の設定処理を行うことができるとともに、設定された成形条件は登録処理される。そして、設定処理が終了したなら、通常の手順に従って生産処理を行う(ステップS2)。
【0071】
成形品の生産処理が進行することにより、樹脂材料C(初期樹脂材料Cro)の残量が減少し、樹脂材料C(追加樹脂材料Crs)を追加するタイミングに達した場合を想定する(ステップS3)。なお、追加樹脂材料Crsは、初期樹脂材料Croに対して製造ロットが異なるも、樹脂材料の種類は同一樹脂材料である。
【0072】
最初に、
図1に示す設定画面Vsを表示し、初期樹脂材料Croの成形条件を表示する(ステップS4)。この際、既に、設定済の成形条件に係わるデータを読出すとともに、初期樹脂材料Croの推定固相率を求めるための不足のデータがあった場合には必要な入力を行う。そして、必要な入力が終了したなら、設定画面Vsにおける「流動解析開始」キー36をONにする(ステップS5)。
【0073】
これにより、固相率演算処理部Fxにより、初期樹脂材料Croに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により溶融樹脂の推定固相率が演算により求められるとともに、基本溶融特性演算機能部Fpにより、スクリュ位置〔ピッチ番号〕に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いた基本固相率特性Proを得ることができる。この基本固相率特性、即ち、基本溶融特性(Pro)は、データとして登録されるとともに、
図6に示すように、ディスプレイ4dにおけるグラフィック表示部Vsgによりグラフィック表示される(ステップS6)。
【0074】
次いで、設定画面Vsにおいて、追加樹脂材料Crsに係わる各種情報を入力(設定)する(ステップS7)。この具体的な入力処理を
図5に示す。この場合、追加樹脂材料Crsは、製造ロットが異なるため、樹脂物性値設定欄32により、追加樹脂材料Crsに関する分解温度等の各物性値を入力(設定)する(ステップS71)。そして、樹脂物性値設定欄32に対する入力が終了するとともに、特定の成形条件に対する制約条件を設定する場合には、条件設定欄34を利用して制約条件の設定を行う(ステップS72,S73…)。
【0075】
即ち、スクリュ回転数に対する制約条件を設定する場合には、条件設定欄34の「スクリュ回転数」のタブを選択し、最適化に対応する最大値及び最小値に係わる制約条件を設定する(ステップS73,S74)。また、背圧に対する制約条件を設定する場合には、条件設定欄34の「背圧」のタブを選択し、最適化に対応する最大値及び最小値に係わる制約条件を設定する(ステップS75,S76)。さらに、サイクル時間に対する制約条件を設定する場合には、条件設定欄34の「サイクル時間」のタブを選択し、最適化に対応する最大値及び最小値に係わる制約条件を設定する(ステップS77,S78)。そして、制約条件の設定が終了したなら、制約条件が無く、かつ修正なしの設定温度が設定される(ステップS79)。追加樹脂材料Crsに係わる設定は、第二成形条件設定機能部Ffにより行われる。
【0076】
このように、第二溶融特性Prsに、第二固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含ませれば、成形条件を同一化する観点から、精度の高い同一化を図れるなど、より効果を高めることができる。なお、第二溶融特性Prsについて説明したが、前述した基本溶融特性Proを求める際にも、基本固相率特性に加え、制約条件をそれぞれに設定した、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間の一又は二以上を含ませることが望ましい。
【0077】
そして、追加樹脂材料Crsに係わる以上の設定が終了したなら、設定画面Vsにおける「成形品の同一化」キー37をONにする(ステップS8)。これにより、固相率演算処理部Fxにより、追加樹脂材料Crsに係わる物性値データDc及び固相率演算式データDmに基づく演算処理により溶融樹脂の推定固相率が演算により求められ、初期樹脂材料Croに対して、粘度が同一となる設定温度が求められる(ステップS9)。また、第二溶融特性演算機能部Fqにより、スクリュ位置〔ピッチ番号〕に対応する溶融樹脂の推定固相率を用いた第二固相率特性Prsを得るとともに、成形条件変換処理機能部Fcにより、制約条件の範囲であって、基本溶融特性(基本固相率特性)Proに近似する第二溶融特性(第二固相率特性)Prsを変換処理により求められる(ステップS10)。
【0078】
この第二溶融特性Prsは、データとして登録されるとともに、
図6に示すように、ディスプレイ4dにおけるグラフィック表示部Vsgによりグラフィック表示される(ステップS11)。この場合、予め登録した基本溶融特性Proと共に
図6に示すように重畳表示する。このように、ディスプレイ4dのグラフィック表示部Vsgに、基本溶融特性Pro及び第二溶融特性Prsをグラフィック表示するようにすれば、オペレータは、樹脂材料が異なる状態をグラフィック表示により的確に確認できるため、最適化を図る観点から、実施の容易性及び的確性を高めることができる。
【0079】
そして、オペレータは、グラフィック表示を確認し、同一化が十分なされている判断した場合には、不図示の確定キーをONにすることにより、設定温度及び成形条件が変更処理(更新処理)され、最適化処理が終了する(ステップS12,S13)。これに対して、表示を確認し、同一化が十分なされていない判断した場合には、再度、一部の設定を変更し、微調整を行うことができる(ステップS12,S7…)。これにより、最終的に、表示を確認し、同一化が十分なされている判断した場合には、不図示の確定キーをONにすることにより、設定温度及び成形条件が変更処理(更新処理)され、最適化処理が終了する(ステップS12,S13)。
【0080】
以上、初期樹脂材料Croから追加樹脂材料Crsへの切換の条件に、樹脂材料の製造ロットが変更された場合について説明したが、樹脂材料のグレードを変更した場合、即ち、樹脂材料の種類は同一となるが、樹脂材料のグレード、具体的には、外部環境の変動等により、若干溶け易いグレードに変更したり、他社の同一樹脂材料を使用する場合であっても、本実施形態に係る成形最適化方法(成形最適化装置1)を同様に利用することができる。
【0081】
次に、樹脂材料のグレードが変更された場合における本実施形態に係る成形最適化方法の有効性を確認するための検証結果を、
図10-
図13を参照して説明する。
【0082】
検証試験は、樹脂材料Cとして前述したGPPSのペレット材を使用し、初期に使用した初期樹脂材料をサンプルCgoとし、追加で使用した追加樹脂材料をサンプルCgsとした。したがって、初期樹脂材料Cgoと追加樹脂材料Cgsは、グレードが相違する同一樹脂材料である。
【0083】
図10に、初期樹脂材料Cgoと追加樹脂材料Cgsのそれぞれの物性値を示すとともに、これに基づく粘度(計算値)を示す。なお、
図6に示した物性値の場合と異なり、溶融潜熱は0とした。
図10から明らかなように、グレードが異なることにより、初期樹脂材料Cgoの粘度は、9.04〔g/10min〕となり、追加樹脂材料Cgsの粘度は、14.34〔g/10min〕であり、追加樹脂材料Cgsの方は、流動性がかなり高いことを確認できる。
【0084】
また、
図12は、
図10に示した初期樹脂材料Cgoの温度〔Cel〕に対する比熱〔J/g・K〕の特性線Qgoと、追加樹脂材料Cgsの温度〔Cel〕に対する比熱〔J/g・K〕の特性線Qgsをそれぞれ示す。各特性線QgoとQgsも大きく異なることを確認できる。なお、各特性線QgoとQgsは、熱分析装置により採取したデータを用いた。
【0085】
一方、
図11(a)は、初期樹脂材料Cgoに対する設定温度,及び追加樹脂材料Cgsに対する修正(変換)後の設定温度、即ち、修正(変換)後の追加樹脂材料Cgaに対する設定温度を示すとともに、
図11(b)は、初期樹脂材料Cgoに対する成形条件,及び追加樹脂材料Cgsに対する修正(変換)後の成形条件、即ち、修正(変換)後の追加樹脂材料Cgaに対する成形条件を示す。
【0086】
図11から明らかなように、初期樹脂材料Cgo設定温度に対して、修正(変換)された追加樹脂材料Cgaの設定温度は、全体に9.8〔℃〕だけ低く設定され、また、スクリュ回転数は、50〔rpm〕だけ遅くなるように設定された。
【0087】
図13は、
図11(a)に示した設定温度及び
図11(b)に示した成形条件により成形を行った場合のバーフロー流動長測定器により測定したバーフロー流動長〔mm〕を示す。Lgoは、初期樹脂材料Cgoを使用した場合のバーフロー流動長、Lgsは、成形条件を修正しない追加樹脂材料Cgsを使用した場合のバーフロー流動長、Lgaは、成形条件を修正(最適化)した追加樹脂材料Cgaのバーフロー流動長をそれぞれ示す。
【0088】
図13から明らかなように、初期樹脂材料Cgoの流動長Lgoに対して、成形条件を修正しない追加樹脂材料Cgsの流動長Lgsは、22-24〔mm〕程度長くなる傾向があるが、成形条件を修正(最適化)した追加樹脂材料Cgaの流動長Lgaは、初期樹脂材料Cgoの流動長Lgoにほぼ一致させることができ、グレードの異なる樹脂材料であっても本実施形態に係る成形最適化装置1(成形最適化方法)を利用した場合の高い有効性を確認できる。
【0089】
したがっ、初期樹脂材料Cro,Cgoから追加樹脂材料Crs.Cgsへの切換の条件に、樹脂材料の製造ロットの変更,及び/又は樹脂材料のグレードの変更を含ませれば、実際の生産時に発生する課題の全体をほぼ網羅することができるため、課題を解決する観点から本発明に係る成形最適化方法(成形最適化装置1)を最も有効に活用することができる。
【0090】
このように、本実施形態に係る射出成形機Mの成形最適化方法によれば、基本的な手法として、予め、所定の成形品を生産する初期に使用する初期樹脂材料Cro,Cgoに対する基本成形条件,及び当該基本成形条件に基づく初期樹脂材料Cro,Cgoの溶融状態に係わる基本溶融特性Pro.Pgoを求め、成形品を生産する初期樹脂材料Cro,Cgoから切換える追加樹脂材料Crs.Cgsを使用する際に、当該追加樹脂材料Crs.Cgsに対する第二成形条件,及び当該第二成形条件に基づく追加樹脂材料Crs.Cgsの溶融状態に係わる第二溶融特性Prs,Pgsを求めるとともに、当該第二溶融特性Prs,Pgsが基本溶融特性Pro.Pgoに近似するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行うようにしたため、例えば、所定の成形品に対する生産時において、製造ロットの異なる新しい樹脂材料を追加した際に、オペレータが、いわば原因がよく判らない状態で成形条件を再設定する作業が無くなるため、生産能率を高めることができるとともに、不良品を低減し、樹脂材料の変更があった場合でも同一成形品を確保することによる均質性及び品質の向上を図ることができるなど、相対的な観点からの最適化、即ち、樹脂材料に係わる製造ロットやグレードの変更等に対する最適化を的確に行うことができる。しかも、本実施形態に係る成形最適化装置1は、基本成形条件設定機能部Ff,基本溶融特性演算機能部Fp,第二成形条件設定機能部Fs及び第二溶融特性演算機能部Fqを有し、第二溶融特性Prs,Pgsが基本溶融特性Pro.Pgoに対して近似するように、第二成形条件を所定の変換手段により少なくとも設定温度を含む変換処理を行う成形条件変換処理機能部Fcとを有する最適化処理部5を設けた成形機コントローラ4を備えるため、射出成形機Mにおける成形最適化方法を容易かつ的確に実施することができる。
【0091】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,材料,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0092】
例えば、初期に使用する初期樹脂材料Croが、最初の初期樹脂材料Croという意味ではなく、追加樹脂材料Crsよりも前に使用する樹脂材料という意味であり、この指定はオペレータが任意に行うことができる。具体的には、N回目に使用した製造ロットの樹脂材料による成形品が最も良好な場合、このN回目に使用した製造ロットを初期樹脂材料Croに選定し、N+1回目以降に使用する製造ロットを追加樹脂材料Crsとすることができる。また、基本溶融特性Pro…及び第二溶融特性Prs…に固相率特性(推定固相率特性)を用いた場合を示したが、いわば樹脂材料の溶融状態(溶け方)を定量的に表すことができる各種の指標を利用することができる。一方、基本溶融特性Pro…及び第二溶融特性Prs…をグラフィック表示することが望ましいが、表示は、必須の構成要素となるものではない。さらに、制約条件を設定する成形条件として、スクリュ回転数,背圧,サイクル時間を示したが、他の成形条件を追加して設定してもよいし、制約条件の設定は、必ずしも必須の構成要素となるものではない。他方、初期樹脂材料Cro,Cgoから追加樹脂材料Crs.Cgsへの切換の条件に、樹脂材料の製造ロットの変更,及び/又は樹脂材料のグレードの変更を含ませた場合を挙げたが、樹脂材料の製造メーカが異なるなど、他の条件により切換える場合であっても同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明に係る成形最適化方法及び装置は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形品の生産を行う各種射出成形機に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1:成形最適化装置,2:金型,3:スクリュ,4:成形機コントローラ,4d:ディスプレイ,5:最適化処理部,M:射出成形機,Cro:初期樹脂材料,Cgo:初期樹脂材料,Crs:追加樹脂材料,Cgs:追加樹脂材料,Dc:物性値データ,Dm:固相率演算式データ,Ff:基本成形条件設定機能部,Fp:基本溶融特性演算機能部,Fs:第二成形条件設定機能部,Fq:第二溶融特性演算機能部,Fc:成形条件変換処理機能部,Fx:固相率演算処理部,Pro:基本溶融特性,Pgo:基本溶融特性,Prs:第二溶融特性,Pgs:第二溶融特性,Vsg:グラフィック表示部