(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】健康状態評価システム、健康状態評価方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/0639 20230101AFI20240118BHJP
G16H 10/20 20180101ALI20240118BHJP
【FI】
G06Q10/0639
G16H10/20
(21)【出願番号】P 2022073355
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021079658
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】PHCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】投石 真義
(72)【発明者】
【氏名】川井 智謙
【審査官】藤澤 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-185416(JP,A)
【文献】特開2016-207165(JP,A)
【文献】特開2020-038599(JP,A)
【文献】特開2005-285021(JP,A)
【文献】特開2020-042548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G16H 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関し、少なくとも前記人員のプレゼンティズムおよびアブセンティズムを含む複数のパラメータを有する健康状態データを取得する取得部と、
当該人員の前記労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額を、前記健康状態データの少なくとも一部を用いて、当該人員の前記プレゼンティズムに関する前記損失額としてのプレゼンティズムロス、および当該人員の前記アブセンティズムに関する前記損失額としてのアブセンティズムロスの少なくとも一方を算出することで見積もる見積部と、
前記人員の健康状態を評価する評価値を、前記複数のパラメータの少なくとも一部、または前記損失額の少なくともいずれかに基づいて算出する算出部と、
前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの入力に対し、前記損失額
を出力するように事前に学習された学習済みモデル
を用いて、前記人員毎の過去の健康状態データと新たに取得した健康状態データとで変化しているパラメータ
のうち、前記損失額に与える影響が大きいパラメータを、当該人員の健康のために改善されるべき要因として抽出する要因推定部と、
を備える、健康状態評価システム。
【請求項2】
前記算出部は、前記組織に所属して前記労働を行うことにより前記人員がどの程度幸せであるかを客観的に示した度合いである客観的幸福度D
happinessを、前記評価値として式(1)によって算出する、
請求項1に記載の健康状態評価システム。
Dhappiness=α
1×Vsex+α
2×Vage+α
3×D
attendance+α
4×R
stress+α
5×R
reply (1)
ただし、V
sexは性別を表すダミー変数、V
ageは年齢層を表すダミー変数、D
attendanceは勤怠データ、R
stressはストレスチェック結果、R
replyは回答結果、α
1-α
5は係数である。
【請求項3】
前記算出部は、前記人員の前記客観的幸福度、および前記健康状態データの少なくとも一部の入力に対し、所定時間経過後に当該人員が退職するリスクの度合いを示す退職リスク度を出力するように、過去の退職者の健康状態データに基づいて事前に学習されている退職リスク度予測モデルに、前記客観的幸福度、および前記健康状態データの少なくとも一部を入力し、当該退職リスク度予測モデルから出力された出力値を前記評価値としての前記退職リスク度とする、
請求項2に記載の健康状態評価システム。
【請求項4】
前記算出部は、前記人員が前記組織において労働する際に、前記人員の能力がどの程度活かされているかの度合いを示す相性度D
compatibleを、前記評価値として式(2)によって算出する、
請求項1に記載の健康状態評価システム。
D
compatible=β
1×V
sex+β
2×V
age+β
3×D
attendance+β
4×R
stress+β
5×R
reply+β
6×R
operation+β
7×D
skill (2)
ただし、V
sexは性別を表すダミー変数、V
ageは年齢層を表すダミー変数、D
attendanceは勤怠データ、R
stressはストレスチェック結果、R
replyは回答結果、R
operationは業務評価結果、D
skillはスキル適合度、β
1-β
7は係数である。
【請求項5】
前記取得部は、前記人員の健康状態に関する複数の質問項目に対して前記人員が回答した回答結果を含む前記健康状態データを取得する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の健康状態評価システム。
【請求項6】
前記取得部は、前記労働を行っている間、前記健康状態に起因して、前記労働に関する能力がどの程度低下しているかの度合いを示す第1度合いについての前記質問項目に対する前記回答結果を取得する、
請求項5に記載の健康状態評価システム。
【請求項7】
前記取得部は、前記健康状態に起因する遅刻、早退、または欠勤により、前記人員の前記生産性がどの程度低下しているかの度合いを示す第2度合いについての前記質問項目に対する前記回答結果を取得する、
請求項5に記載の健康状態評価システム。
【請求項8】
前記取得部は、勤務時間として計上されていない残業時間の長さを示すサービス残業時間についての前記質問項目に対する前記回答結果を取得する、
請求項5に記載の健康状態評価システム。
【請求項9】
前記取得部は、在宅勤務の長さを示す在宅勤務時間についての前記質問項目に対する前記回答結果を取得する、
請求項5に記載の健康状態評価システム。
【請求項10】
前記取得部は、前記人員に対して実施された健康診断の結果を含む前記健康状態データを取得する、
請求項1に記載の健康状態評価システム。
【請求項11】
前記算出部は、前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの少なくとも一部の入力に対し、当該人員が異動先において前記労働を行うことによりどの程度幸せを感じるかの度合いを示す異動後幸福度を予測して出力するように、前記組織に所属する全人員の前記客観的幸福度に基づいて事前に学習されている客観的幸福度予測モデルに、前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの少なくとも一部を入力し、当該客観的幸福度予測モデルから出力された出力値を前記評価値としての前記異動後幸福度とする、
請求項2に記載の健康状態評価システム。
【請求項12】
前記算出部は、前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの少なくとも一部の入力に対し、当該人員の前記労働に関する能力が異動先においてどの程度活かされるかの度合いを示す異動後相性度を予測して出力するように、前記組織に所属する全人員の前記相性度に基づいて事前に学習されている相性度予測モデルに、前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの少なくとも一部を入力し、当該相性度予測モデルから出力された出力値を前記評価値としての前記異動後相性度とする、
請求項4に記載の健康状態評価システム。
【請求項13】
コンピュータが、
組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関し、少なくとも前記人員のプレゼンティズムおよびアブセンティズムを含む複数のパラメータを有する健康状態データを取得し、
当該人員の前記労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額を、前記健康状態データの少なくとも一部を用いて、当該人員の前記プレゼンティズムに関する前記損失額としてのプレゼンティズムロス、および当該人員の前記アブセンティズムに関する前記損失額としてのアブセンティズムロスの少なくとも一方を算出することで見積もり、
前記人員の健康状態を評価する評価値を、前記複数のパラメータの少なくとも一部、または前記損失額の少なくともいずれかに基づいて算出し、
前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの入力に対し、前記損失額
を出力するように事前に学習された学習済みモデル
を用いて、前記人員毎の過去の健康状態データと新たに取得した健康状態データとで変化しているパラメータ
のうち、前記損失額に与える影響が大きいパラメータを、当該人員の健康のために改善されるべき要因として抽出する、
健康状態評価方法。
【請求項14】
組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関し、少なくとも前記人員のプレゼンティズムおよびアブセンティズムを含む複数のパラメータを有する健康状態データを取得する手順と、
当該人員の前記労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額を、前記健康状態データの少なくとも一部を用いて、当該人員の前記プレゼンティズムに関する前記損失額としてのプレゼンティズムロス、および当該人員の前記アブセンティズムに関する前記損失額としてのアブセンティズムロスの少なくとも一方を算出することで見積もる手順と、
前記人員の健康状態を評価する評価値を、前記複数のパラメータの少なくとも一部、または前記損失額の少なくともいずれかに基づいて算出する手順と、
前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの入力に対し、前記損失額
を出力するように事前に学習された学習済みモデル
を用いて、前記人員毎の過去の健康状態データと新たに取得した健康状態データとで変化しているパラメータ
のうち、前記損失額に与える影響が大きいパラメータを、当該人員の健康のために改善されるべき要因として抽出する手順と、
をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関する評価を行う健康状態評価システム、健康状態評価方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
組織に所属して労働を行う人員に対して、生活習慣やストレス等に関する質問を行い、その結果に基づいて人員の健康状態を評価するシステムが開発されている。例えば特許文献1には、従業員に対して健康状態に関する質問を行い、その回答結果に基づいて、健康状態に起因して生産性が損なわれることによって生じる損失額を算出することで、健康状態に関するリスクを提示するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
損失額だけでなく、各人員の健康状態をどのように改善すればよいかを推測するため、異なる視点から健康状態を評価する方法が求められている。
【0005】
本開示は、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関する評価方法を提供することができる健康状態評価システム、健康状態評価方法、およびプログラム提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の健康状態評価システムは、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関し、少なくとも前記人員のプレゼンティズムおよびアブセンティズムを含む複数のパラメータを有する健康状態データを取得する取得部と、当該人員の前記労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額を、前記健康状態データの少なくとも一部を用いて、当該人員の前記プレゼンティズムに関する前記損失額としてのプレゼンティズムロス、および当該人員の前記アブセンティズムに関する前記損失額としてのアブセンティズムロスの少なくとも一方を算出することで見積もる見積部と、前記人員の健康状態を評価する評価値を、前記複数のパラメータの少なくとも一部、または前記損失額の少なくともいずれかに基づいて算出する算出部と、前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの入力に対し、前記損失額を出力するように事前に学習された学習済みモデルを用いて、前記人員毎の過去の健康状態データと新たに取得した健康状態データとで変化しているパラメータのうち、前記損失額に与える影響が大きいパラメータを、当該人員の健康のために改善されるべき要因として抽出する要因推定部と、を備える。
【0007】
本開示の健康状態評価方法は、コンピュータが、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関し、少なくとも前記人員のプレゼンティズムおよびアブセンティズムを含む複数のパラメータを有する健康状態データを取得し、当該人員の前記労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額を、前記健康状態データの少なくとも一部を用いて、当該人員の前記プレゼンティズムに関する前記損失額としてのプレゼンティズムロス、および当該人員の前記アブセンティズムに関する前記損失額としてのアブセンティズムロスの少なくとも一方を算出することで見積もり、前記人員の健康状態を評価する評価値を、前記複数のパラメータの少なくとも一部、または前記損失額の少なくともいずれかに基づいて算出し、前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの入力に対し、前記損失額を出力するように事前に学習された学習済みモデルを用いて、前記人員毎の過去の健康状態データと新たに取得した健康状態データとで変化しているパラメータのうち、前記損失額に与える影響が大きいパラメータを、当該人員の健康のために改善されるべき要因として抽出する。
【0008】
本開示のプログラムは、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関し、少なくとも前記人員のプレゼンティズムおよびアブセンティズムを含む複数のパラメータを有する健康状態データを取得する手順と、当該人員の前記労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額を、前記健康状態データの少なくとも一部を用いて、当該人員の前記プレゼンティズムに関する前記損失額としてのプレゼンティズムロス、および当該人員の前記アブセンティズムに関する前記損失額としてのアブセンティズムロスの少なくとも一方を算出することで見積もる手順と、前記人員の健康状態を評価する評価値を、前記複数のパラメータの少なくとも一部、または前記損失額の少なくともいずれかに基づいて算出する手順と、前記人員の前記健康状態データの前記複数のパラメータの入力に対し、前記損失額を出力するように事前に学習された学習済みモデルを用いて、前記人員毎の過去の健康状態データと新たに取得した健康状態データとで変化しているパラメータのうち、前記損失額に与える影響が大きいパラメータを、当該人員の健康のために改善されるべき要因として抽出する手順と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関する評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】制御部が有する機能を説明するための機能ブロック図
【
図4】個人を対象とした健康評価処理について説明するためのフローチャート
【
図5】組織を対象とした健康評価処理について説明するためのフローチャート
【
図6】異動を仮定した場合の健康評価処理について説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明、例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明等は省略する場合がある。なお、以下の説明および参照される図面は、当業者が本開示を理解するために提供されるものであって、本開示の請求の範囲を限定するためのものではない。
【0012】
[構成]
<健康評価システム100>
図1を参照して、本開示の実施の形態に係る健康評価システム100の構成について説明する。
図1に示すように、健康評価システム100は、情報処理装置1、および、ユーザ端末2を備える。
【0013】
情報処理装置1は、種々の情報処理を行う装置である。情報処理装置1は、例えばPC(Personal Computer)やワークステーション等のコンピュータである。
図1に示す例では、情報処理装置1は、複数のユーザ端末2と、ネットワークNWを介して通信可能に接続されている。ネットワークNWは、インターネットやイントラネットである。なお、
図1に示す例では、情報処理装置1はネットワークNWを介して複数のユーザ端末2と通信可能に接続されているが、ネットワークNWを介さない直接通信が可能であってもよい。
【0014】
ユーザ端末2は、ユーザに対して各種情報を出力するとともに、ユーザからの入力を受け付ける装置である。ユーザ端末2は、液晶ディスプレイ、または有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示デバイス、および、キーボード、マウス、タッチパネル、トラックボール等の操作デバイスを備える。このようなユーザ端末2の例として、PCの他、スマートフォンまたはタブレット端末等の携帯端末装置が挙げられる。
図1に示す例では、健康評価システム100には複数のユーザ端末2が含まれているが、健康評価システム100に含まれるユーザ端末2は1台であってもよい。
【0015】
なお、本実施の形態において、ユーザとは、組織に所属し、労働を行う人員である。本実施の形態における組織の例として、会社や企業等の営利組織が挙げられる。また、本実施の形態における、労働を行う人員の例として、労働者、従業員、社員等、組織に雇用される被雇用者が挙げられる。なお、本実施の形態において、ユーザには、被雇用者に限らず、被雇用者を雇用または管理する側の人員である、雇用者、経営者、管理者等が含まれてもよい。
【0016】
健康評価システム100は、ユーザの健康状態に関する情報を取得し、ユーザの健康状態を評価するとともに、ユーザが所属する組織についても健康に関する評価を行う。具体的には、ユーザ端末2が、ユーザの健康状態に関する複数の質問項目を表示し、ユーザによる回答の入力を受け付けて、回答結果に関する情報を情報処理装置1に対して送信する。情報処理装置1は、回答結果に関する情報に基づいて、ユーザまたは組織の健康状態に関する評価を行い、評価結果を出力する。
【0017】
<情報処理装置1>
次に、
図2を参照して、情報処理装置1の構成について説明する。情報処理装置1は、通信部11と、入出力部12と、記憶部13と、制御部14と、を備える。
【0018】
通信部11は、ユーザ端末2との通信を行う通信デバイスである。
【0019】
入出力部12は、各種情報の入力を受け付けるキーボード、マウス、タッチパネル、トラックボール等の操作デバイス、および、液晶ディスプレイ、または有機EL等の表示デバイスである。なお、情報処理装置1に対して情報の入力を行い、情報処理装置1から情報の出力を受けるのは、組織に所属する全人員の健康状態を管理し、把握する立場の人物であり、具体的には、組織の人事部に所属する人物、または、組織の管理者もしくは経営者等である。以下の説明において、情報処理装置1に対して情報の入力を行い、情報処理装置1から情報の出力を受ける人物を、単に管理者と記載する。
【0020】
記憶部13は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記録媒体によって構成されており、制御部14の制御に用いられる各種情報を記憶する。記憶部13に記憶される各種情報の詳細については、後述する。
【0021】
制御部14は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)により構成されるプロセッサである。制御部14は、ROMに記憶されているプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムに従って複数のユーザ端末2の制御を行う。RAMは、CPUにより実行される各種プログラム、およびプログラムに係るデータを一時的に記憶するワークエリアを形成する。ROMは、不揮発メモリ等により構成され、制御の際に用いられる各種プログラムや各種データを記憶する。
【0022】
<制御部14>
図3は、制御部14の機能を説明するための機能ブロック図である。
図3に示すように、制御部14は、取得部141と、見積部142と、要因推定部143と、算出部144と、出力部145と、を備える。
【0023】
取得部141は、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関する種々のデータを、それぞれのデータに対応した取得先から取得する。取得部141が取得するデータを、以下では健康状態データと記載する。
【0024】
健康状態データには、例えば、人員の性別、年齢層、業務評価結果、健康診断結果、ストレスチェック結果、勤怠データおよび人員に対して直接行われた質問に対する回答結果等が含まれる。
【0025】
業務評価結果は、例えば人員が所属する組織の人事部等が当該人員に対して行った評価の結果を示すデータである。取得部141は、例えば人員が所属する組織の人事システムから、当該業務評価結果を取得する。
【0026】
健康診断結果は、労働安全衛生法により実施が義務づけられている健康診断を人員が受けた結果を示すデータである。また、ストレスチェック結果は、労働安全衛生法に基づき実施されるストレスチェックを人員が受けた結果を示すデータである。
【0027】
取得部141は、例えば複数の人員の健康診断結果を保持する健康診断結果サーバから、健康診断結果またはストレスチェック結果を取得する。または、取得部141は、ユーザ端末2を介して、人員に対して健康診断の結果を確認するための質問を行い、人員にユーザ端末2を操作させて健康診断結果を取得してもよい。または、取得部141は、ユーザ端末2を介して、人員に対してストレスチェックを行うための質問を行い、人員にユーザ端末2を操作させてストレスチェック結果を取得してもよい。なお、ストレスチェックに含まれる項目は、一般的なものが採用されればよく、本実施の形態では詳細な説明を省略する。
【0028】
勤怠データは、人員が所属する組織の勤怠システムにより管理される、人員の勤怠データである。勤怠データには、正味勤務時間、残業時間、有給取得率等が含まれる。取得部141は、当該勤怠システムから、勤怠データを取得する。
【0029】
質問に対する回答結果とは、ユーザ端末2を介して行われた、複数の質問項目に対する各人員の回答結果を示すデータである。ユーザ端末2を介して人員に回答結果を入力させる際、人員に対する質問は、例えばユーザ端末2の表示デバイスに表示される。そして、人員が表示デバイスに表示された質問内容を見ながらユーザ端末2の操作デバイスを操作することで回答結果がユーザ端末2に入力される。
【0030】
なお、ユーザ端末2を介した人員への質問は、例えば1週間毎、1ヶ月毎、または3ヶ月毎等、所定の期間毎に繰り返し行われることが望ましい。この際、全ての質問項目に対する回答を一度に求めるのではなく、1回の質問項目を少なくして、比較的短い間隔で複数回の回答を求めるようにしてもよい。このようにして高頻度で回答結果情報を取得することにより、より実態を反映した回答結果を取得することが期待される。
【0031】
回答結果は、複数の質問項目に対する回答内容に対応する複数のパラメータを有する。回答結果に含まれる複数のパラメータの例としては、プレゼンティズム、アブセンティズム、サービス残業時間、在宅勤務時間、主観的量的負担度、裁量度、職場の人間関係、主観的体調および主観的幸福度が挙げられる。
【0032】
プレゼンティズムとは、人員が労働を行っている間、健康状態(病気または疲れ等)に起因して、労働に関する能力が低下している状態を意味する。パラメータとしてのプレゼンティズムは、人員が労働を行っている間、健康状態に起因して、労働に関する能力がどの程度低下しているかの度合いを示すパラメータである。なお、以下の説明において、パラメータとしてのプレゼンティズムを、単にプレゼンティズムと記載する。
【0033】
プレゼンティズムは、本開示の第1度合いに対応する。プレゼンティズムに関する具体的な質問内容の例としては、「最近、健康上の問題が全くないときと比較して、どの程度仕事のパフォーマンスを発揮できていると思いますか?パーセンテージで答えて下さい。」等が挙げられる。この例では、プレゼンティズムに関する回答結果は、百分率の形式で得られる。
【0034】
アブセンティズムとは、健康状態に起因する遅刻または欠勤により、人員の労働に関する生産性が低下している状態を意味する。パラメータとしてのアブセンティズムは、健康状態に起因する遅刻、早退または欠勤により、人員の生産性がどの程度低下しているかの度合いを示すパラメータである。なお、以下の説明において、パラメータとしてのアブセンティズムを、単にアブセンティズムと記載する。
【0035】
アブセンティズムは、本開示の第2度合いに対応する。アブセンティズムに関する具体的な質問内容の例としては、「最近○ヶ月の間、どの程度遅刻、早退、または欠勤をしましたか?合計時間を答えて下さい。」等が挙げられる。当該質問の対象となっている期間は人員に対して行われる質問の間隔等に基づいて適宜設定されればよく、例えば1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年等が考えられる。なお、パラメータとしてのアブセンティズムは、上述した勤怠データに含まれていてもよい。以下では、パラメータとしてのアブセンティズムが、1ヶ月あたりの遅刻、早退、または欠勤による不在の合計時間であるとして説明を行う。
【0036】
サービス残業時間は、勤務時間として計上されていない残業時間の長さを示す値である。パラメータとしてのサービス残業時間は、人員の自己申告により取得されてもよいし、例えば上述した勤怠データに含まれていてもよい。
【0037】
在宅勤務時間は、組織のオフィスではなく、各人員の自宅や、カフェ、図書館、レンタルオフィス等にて勤務した時間を示す値である。パラメータとしての在宅勤務時間は、人員の自己申告により取得されてもよいし、例えば上述した勤怠データに含まれていてもよい。
【0038】
主観的量的負担度は、人員が仕事の量をどの程度負担に感じているかの度合いを示す値である。主観的量的負担度は、上述したストレスチェック結果に含まれていてもよい。
【0039】
裁量度は、人員がどの程度自己の裁量で仕事を行うことができると感じているかの度合いを示す値である。
【0040】
職場の人間関係は、人員の職場における人間関係がどの程度快適であるかの度合いを示す値である。パラメータとしての職場の人間関係は、上述したストレスチェック結果に含まれていてもよい。
【0041】
主観的体調は、人員が最近の自らの体調がどの程度よいと感じているかの度合いを示す値である。
【0042】
主観的幸福度は、人員が、組織に所属して労働を行うことにより、どの程度幸せと感じているかの度合いを示す値である。
【0043】
なお、上述した、回答結果情報に含まれるパラメータは一例であって、回答結果情報にはより多くのパラメータが含まれていてもよい。
【0044】
見積部142は、上述した健康状態データの少なくとも一部に基づき、人員の健康状態に起因して当該人員の労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額を見積もる。本実施の形態では、見積部142は、上述したプレゼンティズム、アブセンティズム、およびサービス残業時間を対象として、所定の解析手段を用いて、損失額の見積もりを行う。所定の解析手段には、例えば人工知能(Artificial Intelligence:AI)が用いられる。
【0045】
見積部142は、組織に所属する人員毎の損失額を見積もるとともに、組織全体での損失額である全体損失額を見積もる。見積部142は、例えば組織に所属する全人員の損失額を合計することで、全体損失額を見積もるようにすればよい。
【0046】
見積部142は、プレゼンティズムに関する損失額としてのプレゼンティズムロスLpを、以下の式(1)によって算出する。プレゼンティズムロスLpは、プレゼンティズムによって生じる1年間の損失額の見積額であり、本開示の第1度合いの一例である。なお、式(1)において、回答結果としてのプレゼンティズムの値がp(%)、人員の平均年収がyi(円、ドル、ユーロ等)で表されている。
Lp=(100-p)×yi (1)
【0047】
また、見積部142は、アブセンティズムに関する損失額としてのアブセンティズムロスLaを、以下の式(2)によって算出する。アブセンティズムロスLaは、アブセンティズムによって生じる1年間の損失額の見積額であり、本開示の第2度合いの一例である。なお、式(2)において、回答結果としてのアブセンティズムの値がa(1ヶ月あたりの合計時間)、人員の1時間あたりの収入額(平均年収を1時間あたりに換算したもの)がhw(円、ドル、ユーロ等)で表されている。
La=a×hw×12 (2)
式(2)において、a×hwが1ヶ月分のロスに相当するので、「12」を掛けることにより12ヶ月分=1年分の値を算出している。
【0048】
そして、見積部142は、プレゼンティズムロスLpとアブセンティズムロスLaに基づいて、トータルの損失額Ltを見積もる。見積部142は、損失額Ltは、単にプレゼンティズムロスLpとアブセンティズムロスLaとを加算して算出してもよいし、プレゼンティズムロスLpとアブセンティズムロスLaとを用いて既知の統計学的手法によって算出してもよい。
【0049】
要因推定部143は、上述した健康状態データの少なくとも一部、および、見積部142が見積もった損失額に基づいて、損失額に与える影響が大きい要因を推定する。以下の説明において、要因推定部143が推定した要因を、健康課題要因と記載する。
【0050】
要因推定部143は、例えば、人員毎の過去の健康状態データと、取得部141が新たに取得した健康状態データとを比較し、変化しているパラメータのうち、損失額に与える影響が大きいと考えられるパラメータを抽出する。要因推定部143は、例えばあらかじめ作成された、損失額に与える影響が大きい要因を推定するための学習済みモデルを用いて、要因となるパラメータを抽出すればよい。あらかじめ作成された学習済みモデルは、例えば記憶部13に記憶されている。
【0051】
損失額に与える影響が大きいと考えられるパラメータの抽出方法について具体例を挙げて説明する。
【0052】
上記説明したように、損失額は、プレゼンティズムに関するプレゼンティズムロスと、アブセンティズムに関するアブセンティズムロスとに基づいて算出される。そして、パラメータとしてのプレゼンティズムは、人員に対して行われた質問への回答結果に基づいて取得される。プレゼンティズムは、「最近、健康上の問題が全くないときと比較して、どの程度仕事のパフォーマンスを発揮できていると思いますか?」と言う質問への回答結果であるため、人員の労働中の健康状態(病気または疲れなど)によって変動する値である。言い換えると、プレゼンティズムに関する質問に回答する時点での人員の種々の健康状態パラメータが、パラメータとしてのプレゼンティズムに大きな影響を与えており、ひいては、プレゼンティズムロスに対しても大きな影響を与えている。
【0053】
以上を踏まえて、以下のような手段を用いることにより、プレゼンティズムロスに与える影響が大きく、ひいては損失額に与える影響が大きいパラメータを抽出することができる。
【0054】
(手段1)
複数の人員の健康状態データの各パラメータを説明変数、損失額を目的変数とした重回帰モデルを構築し、得られた偏回帰係数に基づいて対象の人員の損失額への影響が大きいパラメータを抽出する。
【0055】
(手段2)
複数の人員の健康状態データの各パラメータを説明変数、損失額を目的変数とした決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング法などの決定木系アルゴリズムを用いたモデルを構築し、得られた変数重要度あるいは部分依存グラフに基づいて対象の人員の損失額への影響が大きいパラメータを抽出する。
【0056】
(手段3)
ベイジアンネットワークを利用し健康状態データのパラメータ間のネットワーク構造のグラフを推計することにより、どのパラメータがどのような経路を通して損失額に対して影響を与えているかを確率計算し、影響が大きいパラメータを抽出する。
【0057】
図3の説明に戻る。算出部144は、健康状態データの少なくとも一部に基づいて、健康状態を評価する種々の評価値を算出する。評価値の例として、客観的幸福度、相性度、退職リスク度、異動後相性度および異動後幸福度、等が挙げられる。なお、算出部144は、組織に所属する人員毎の評価値に基づいて、組織全体の評価値である全体評価値をさらに算出する。全体評価値については、後述の組織全体を対象とした健康評価処理(
図6を参照)において説明する。
【0058】
客観的幸福度は、組織に所属して労働を行うことにより、人員がどの程度幸せであるかを客観的に見積もった度合いを示す値である。算出部144は、例えば、性別、年齢層、勤怠データ、ストレスチェック結果、および回答結果の少なくともいずれかに基づいて、客観的幸福度を算出する。より詳細な例として、算出部144は、客観的幸福度を算出するために、以下のパラメータを用いる。すなわち、算出部144は、勤怠データから、正味勤務時間、および残業時間を用いる。また、算出部144は、ストレスチェック結果から、上司の支援をどの程度受けることができているかを示す値、同僚の支援をどの程度受けることができているかを示す値、および、家族や友人から仕事に関して支援をどの程度受けることができているかを示す値を用いる。また、算出部144は、回答結果から、プレゼンティズム、アブセンティズム、職場の人間関係を用いる。なお、算出部144は、仕事に関する客観的幸福度と、プライベートに関する客観的幸福度とを、別々に算出してもよい。
【0059】
より具体的には、算出部144は、客観的幸福度Dhappinessを、例えば以下の式(3)によって算出する。
【0060】
Dhappiness=α1×Vsex+α2×Vage+α3×Dattendance+α4×Rstress+α5×Rreply (3)
【0061】
このように、算出部144は、各パラメータを線形結合することにより客観的幸福度を算出する。なお、α1、α2、α3、α4、およびα5は、適宜設定される係数である。算出部144は、管理者が設定した係数を用いてもよいし、過去に算出した客観的幸福度の妥当度を管理者に入力させ、妥当度が高い客観的幸福度を算出した係数に近づけるように係数を決定してもよい。
【0062】
式(3)において、Vsexは性別を表すダミー変数、Vageは年齢層を表すダミー変数、Dattendanceは勤怠データ、Rstressはストレスチェック結果、Rreplyは回答結果である。
【0063】
勤怠データDattendanceは、例えば、1年間の正味勤務時間を1年間の所定労働時間で除して算出されればよい。また、ストレスチェック結果Rstressは、例えば、対象の人員のストレスチェック結果のうち、ストレスチェックに含まれる3つの領域の合計点として算出されればよい。また、回答結果は、例えば、質問項目に対する回答毎に予め割り当てられたスコアの全項目における合計点として算出されればよい。
【0064】
なお、算出部144は、上記式(3)に示す各パラメータに加えて、同僚や上司などからの客観的な幸福度評価、組織で業務上用いられるチャットなどのコミュニケーションツールにおける、対象の人員の書き込み内容に基づく幸福度評価、および、カメラなどで撮影した対象の人員の顔画像に基づく感情評価などをさらに考慮して客観的幸福度を算出してもよい。
【0065】
算出部144は、客観的幸福度を、例えば100点満点中の何点であるかによって示してもよいし、所定の基準値以上か未満かによって複数の段階(例えば、高、中、低の3段階)で示してもよい。
【0066】
相性度は、人員と組織との相性を示す値である。より詳細には、相性度は、人員が組織において労働する際、その能力がどの程度活かされているか、または、能力をどの程度発揮できているか、の度合いを示す値である。算出部144は、例えば性別、年齢層、勤怠データ、業務評価結果、ストレスチェック結果、回答結果、および客観的幸福度の少なくともいずれかに基づいて、相性度を算出する。より詳細な例として、算出部144は、相性度を算出するために、以下のパラメータを用いる。すなわち、算出部144は、勤怠データのうち、有給取得率を用いる。また、算出部144は、ストレスチェック結果のうち、仕事量がどの程度負担になっているかを示す値、仕事を自分でどの程度コントロールできているかを示す値、上司の支援をどの程度受けることができているかを示す値、同僚の支援をどの程度受けることができているかを示す値を用いる。また、算出部144は、回答結果のうち、主観的幸福度、および主観的体調を用いる。
【0067】
なお、相性度は、各人員の主観的幸福度を用いて算出した主観的相性度と、客観的幸福度を用いて算出した客観的相性度と、を含む。
【0068】
より具体的には、算出部144は、相性度Dcompatibleを、例えば以下の式(4)によって算出する。
【0069】
Dcompatible=β1×Vsex+β2×Vage+β3×Dattendance+β4×Rstress+β5×Rreply+β6×Roperation+β7×Dskill (4)
【0070】
このように、算出部144は、各パラメータを線形結合することにより客観的幸福度を算出する。なお、β1、β2、β3、β4、β5、β6、およびβ7は、適宜設定される係数である。算出部144は、管理者が設定した係数を用いてもよいし、過去に算出した相性度の妥当度を管理者に入力させ、妥当度が高い客観的幸福度を算出した係数に近づけるように係数を決定してもよい。
【0071】
式(4)において、Vsexは性別を表すダミー変数、Vageは年齢層を表すダミー変数、Dattendanceは勤怠データ、Rstressはストレスチェック結果、Rreplyは回答結果、Roperationは業務評価結果、Dskillはスキル適合度である。
【0072】
勤怠データDattendanceは、例えば、1年間の正味勤務時間を1年間の所定労働時間で除して算出されればよい。また、ストレスチェック結果Rstressは、対象の人員のストレスチェック結果のうち、ストレスチェックに含まれる3つの領域の合計点として算出されればよい。また、回答結果は、質問項目に対する回答毎に予め割り当てられたスコアの全項目における合計点として算出されればよい。
【0073】
また、業務評価結果Roperationは、対象の人員の業務評価をスコア化(0-100の間で点数換算)すればよい。また、スキル適合度Dskillは、対象の人員が有するスキルと、当該人員が担当する業務に必要なスキルとの適合率をスコア化すればよい。スキル適合度Dskillは、対象の人員の上司や同僚が付ける客観的なスコアである。
【0074】
算出部144は、相性度を、例えば100点満点中の何点であるかによって示してもよいし、所定の基準値以上か未満かによって複数の段階で示してもよい。
【0075】
退職リスク度は、その人員が近いうちに退職してしまう危険性を示す値である。算出部144は、例えば業務評価結果、ストレスチェック結果、回答結果、および客観的幸福度の少なくともいずれかに基づいて、退職リスク度を算出する。より詳細な例として、算出部144は、退職リスク度を算出するために、以下のパラメータを用いる。すなわち、算出部144は、ストレスチェック結果のうち、仕事量がどの程度主観的に負担になっているかを示す値、および、仕事を自分でどの程度コントロールできているかを示す値を用いる。また、算出部144は、回答結果のうち、アブセンティズムを用いる。
【0076】
より具体的には、算出部144は、組織における過去の退職者に関する情報(業務評価結果、ストレスチェック結果、回答結果、および客観的幸福度の少なくともいずれかと、退職日とを含む情報)に基づいて、Nヶ月後の退職リスク度を予測する退職リスク度予測モデルを構築しておき、対象の人員の各パラメータを当該予測モデルに入力した場合の出力値を退職リスク度とすればよい。
【0077】
算出部144は、退職リスク度を、例えば100点満点中の何点であるかによって示してもよいし、所定の基準値以上か未満かによって複数の段階で示してもよい。
【0078】
異動後幸福度は、人員が異動により他の部署、他の勤務地、他の職種等に異動になったと仮定した場合の、客観的幸福度である。算出部144は、性別、年齢層、勤怠データ、ストレスチェック結果、および回答結果の少なくともいずれかに加え、異動先の職場環境に関するデータに基づいて、異動後幸福度を算出する。異動先の職場環境に関する情報は、例えば管理者があらかじめ入力し、記憶部13に記憶されている、または、異動後幸福度を算出する時点で、管理者が入力する。
【0079】
より具体的には、算出部144は、異動後幸福度を以下のように算出すればよい。すなわち、算出部144は、対象の人員が所属する組織における、全人員の客観的幸福度に基づいて、各人員の部署、勤務地、職種などの各パラメータに基づいて客観的幸福度を予測する客観的幸福度予測モデルを構築しておき、対象の人員のパラメータを当該予測モデルに入力した場合の出力値を異動後幸福度として算出すればよい。
【0080】
異動後相性度は、人員が異動により他の部署、他の勤務地、他の職種等に異動になったと仮定した場合の、相性度である。算出部144は、性別、年齢層、勤怠データ、業務評価結果、ストレスチェック結果、回答結果、および客観的幸福度の少なくともいずれかに加え、異動先の職場環境に関する情報に基づいて、異動後相性度を算出する。
【0081】
より具体的には、算出部144は、異動後相性度を以下のように算出すればよい。すなわち、算出部144は、対象の人員が所属する組織における、全人員の相性度に基づいて、各人員の部署、勤務地、職種などの各パラメータに基づいて相性度を予測する相性度予測モデルを構築しておき、対象の人員のパラメータを当該予測モデルに入力した場合の出力値を異動後相性度として算出すればよい。
【0082】
図3の説明に戻る。出力部145は、算出部144が算出した各種評価値を出力する。出力部145が評価値を出力する出力先は、上述した管理者が使用する端末である。
【0083】
[健康評価処理]
次に、
図4から
図6を参照して、情報処理装置1が実行する健康評価処理について説明する。まず、
図4を参照して、個人を対象とした健康評価処理について説明する。
【0084】
ステップS1において、情報処理装置1は、ユーザ端末2や他のサーバ装置等から、1人の処理対象の人員に関する健康状態データを取得する。健康状態データには、上述したように、人員の性別、年齢層、業務評価結果、健康診断結果、ストレスチェック結果、勤怠データ、および、人員に対して直接行われた質問に対する回答結果等が含まれる。
【0085】
ステップS2において、情報処理装置1は、処理対象の人員のプレゼンティズムロスおよびアブセンティズムロスを算出することで、当該人員個人に関する損失額を見積もる。ステップS2において算出される損失額は、上述したように、人員の健康状態に起因して当該人員の労働に関する生産性が低下することによって生じる損失額であり、健康状態データの少なくとも一部を用いてプレゼンティズムロスおよびアブセンティズムロスを算出することで見積もられる。
【0086】
ステップS3において、情報処理装置1は、健康状態データの少なくとも一部、および、ステップS2で見積もった損失額に基づいて、あらかじめ作成された学習済みモデル等を用いて人員毎の健康課題要因を推定する。
【0087】
ステップS4において、情報処理装置1は、健康状態データの少なくとも一部に基づいて、処理対象の人員と当該人員が所属する組織との相性度を算出する。ステップS4において用いられる健康状態データには、処理対象の人員本人が回答した主観的幸福度が含まれ、ステップS4において算出される相性度は、人員本人の主観的幸福度が反映された主観的相性度である。
【0088】
ステップS5において、情報処理装置1は、健康状態データの少なくとも一部に基づいて、処理対象の人員の退職リスク度を算出する。
【0089】
ステップS6において、情報処理装置1は、ステップS2からS5において生成された評価結果を出力する。なお、出力先は、上述したように、管理者が使用する端末である。具体的には、情報処理装置1は、電子メール等に評価結果を示すデータを添付して送信することにより、評価結果の出力を行うようにすればよい。
【0090】
なお、情報処理装置1は、処理対象の人員に関する健康状態データがステップS1において取得された場合に、評価結果をすべて出力先に出力してもよいし、例えば評価結果が所定の条件を満たしている場合のみ、評価結果を出力先に出力してもよい。所定の条件の例としては、損失額が閾値より大きい、相性度が所定の閾値より低い、または、退職リスク度が所定の閾値より高い、等が挙げられる。
【0091】
このような個人と対象とした健康評価結果が管理者に対して出力されることにより、管理者は、組織内における、健康状態がよくない人員、仕事に関してトラブルを抱えている可能性が高い人員、または組織を退職するリスクが高い人員を把握することができる。これにより、管理者は、人員の健康状態を改善させる方策を手配したり、人員が抱えていると推測されるトラブルを解決させるべく、人員の上司等に連絡したり、といった手を打つことが可能となる。
【0092】
なお、情報処理装置1は、健康評価処理において、人員の健康評価を行うだけでなく、当該人員の評価結果を向上させるためのアドバイスを出力するようにしてもよい。例えば、相性度が比較的低い人員がいた場合、情報処理装置1は、相性度の算出に用いられるパラメータである勤怠データ、ストレスチェック結果、回答結果、業務評価結果、スキル適合度のいずれが相性度の低さに繋がっているかを判断し、相性度が低くなっている原因のパラメータを改善させるようなメッセージを出力すればよい。なお、情報処理装置1が出力するアドバイスまたはメッセージは、例えば予め入力されている複数のアドバイスまたはメッセージの中から、相性度が低くなっている原因のパラメータを改善させるようなものが適宜選択されればよい。または、情報処理装置1は、過去のデータに基づいて、相性度を改善させるためにはどのようなアドバイスをすればよいか、パラメータを入力としアドバイスを出力とする学習モデルを構築しておき、当該学習モデルを用いてアドバイスを生成してもよい。
【0093】
また、情報処理装置1は、異動後幸福度、および異動後相性度に基づいて、各人員を異動させた方がよいか否か、どこに異動させればよいか、の提案を自動的に出力するようにしてもよい。
【0094】
情報処理装置1は、例えば健康評価結果のいずれかの値が低い場合に、管理者以外の所定の人物と当該人員との面談を自動で設定し、産業保健師と当該人員とにメールなどで知らせてもよい。例えば、客観的幸福度が所定値より低い場合、産業保健師と当該人員との面談などを設定すればよい。また、例えば相性度が所定値より低い場合、人事部の責任者と当該人員との面談などを設定すればよい。
【0095】
次に、
図5を参照して、組織全体を対象とした健康評価処理について説明する。
【0096】
ステップS11において、情報処理装置1は、組織に所属する人員全員の損失額を集計し、全体損失額を見積もる。
【0097】
ステップS12において、情報処理装置1は、組織に所属する人員全員の健康状態データの少なくとも一部、および、ステップS11で集計して得られた全体損失額に基づいて、組織全体の健康課題要因を推定する。組織全体の健康課題要因とは、組織に所属する人員全員に対して健康のために改善されるべき要因である。情報処理装置1は、ステップS3と同様に、あらかじめ作成された学習済みモデル等を用いて組織全体の健康課題要因を推定すればよい。
【0098】
ステップS13において、情報処理装置1は、健康状態データの少なくとも一部に基づいて、組織に所属する人員毎に客観的幸福度を算出する。なお、
図4に示す、個人を対象とした健康評価処理においては、各人員からの回答結果に主観的幸福度が含まれているため、客観的幸福度の算出は行っていない。一方、
図5に示す、組織全体を対象とした健康評価処理においては、後段のステップS14においてより客観性が高い相性度を算出するため、人員毎の客観的幸福度を算出している。
【0099】
ステップS14において、情報処理装置1は、健康状態データの少なくとも一部、および客観的幸福度を用いて、組織に所属する人員毎に相性度を算出する。
【0100】
ステップS15において、情報処理装置1は、ステップS11からS14において生成された評価結果を出力する。
【0101】
このような組織全体と対象とした健康評価結果が管理者に対して出力されることにより、管理者は、組織全体に対して、どのような改善策を提示すればよいか、を考えることができる。
【0102】
情報処理装置1は、例えば組織に所属する人員の業種、職種、または業態が異なる人員間で健康評価結果の集計を行い、管理者に対して出力するようにしてもよい。これにより、管理者は、自組織の業種、職種、または業態毎の健康評価結果を把握することができ、他より評価値が低い業種、職種、または業態に対する改善を検討することができる。
【0103】
さらに、
図6を参照して、組織に所属する人員が組織内で異動したと仮定した場合の健康評価処理について説明する。
【0104】
ステップS21において、情報処理装置1は、処理対象の人員に関する、
図5のステップS13およびS14で生成された客観的幸福度および相性度を取得する。
【0105】
ステップS22において、情報処理装置1は、処理対象の人員が異動すると仮定した場合の、異動先の環境に関する情報を取得する。
【0106】
ステップS23において、情報処理装置1は、健康状態データの少なくとも一部、客観的幸福度、および異動先の環境に関する情報に基づいて、異動後幸福度を算出する。
【0107】
ステップS24において、情報処理装置1は、健康状態データの少なくとも一部、異動後幸福度、および異動先の環境に関する情報に基づいて、異動後相性度を算出する。
【0108】
ステップS25において、情報処理装置1は、ステップS22からS24において生成された評価結果を出力する。
【0109】
このような、異動すると仮定した個人と対象とした健康評価結果が管理者に対して出力されることにより、管理者は、各人員を異動させるべきか否かを客観的に判断することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示は、組織に所属して労働を行う人員の健康状態に関する評価を行う健康状態評価システムにおいて有用である。
【符号の説明】
【0111】
100 健康評価システム
1 情報処理装置
11 通信部
12 入出力部
13 記憶部
14 制御部
141 取得部
142 見積部
143 要因推定部
144 算出部
145 出力部
2 ユーザ端末