IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソフトバンクモバイル株式会社の特許一覧

特許7422196干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム
<>
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図1
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図2
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図3
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図4
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図5
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図6
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図7
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図8
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図9
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図10
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図11
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図12
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図13
  • 特許-干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】干渉抑圧装置、システム、基地局間制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/022 20170101AFI20240118BHJP
   H04W 28/18 20090101ALI20240118BHJP
   H04W 24/04 20090101ALI20240118BHJP
   H04W 16/32 20090101ALI20240118BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20240118BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H04B7/022
H04W28/18 110
H04W24/04
H04W16/32
H04B7/08 420
H04B1/10 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022132617
(22)【出願日】2022-08-23
【審査請求日】2022-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和4年1月13日に、電子情報通信学会技術研究報告,Vol.121,No.329,RCS2021-246,pp.282-287(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (2)令和4年1月21日に、電子情報通信学会 無線通信システム研究会(オンライン開催)にて発表 (3)令和4年3月1日に、EiC 電子情報通信学会 2022年総合大会講演論文集(DVD及びWEB公開),B-5-19(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (4)令和4年3月15日に、EiC電子情報通信学会 2022年総合大会,オンライン開催にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「移動通信三次元空間セル構成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】金田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝也
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-510297(JP,A)
【文献】特表2007-513584(JP,A)
【文献】金田 拓也, 藤井 輝也,HetNet構成におけるネットワーク連携上り回線干渉キャンセラー,電子情報通信学会論文誌B,2021年08月01日,第J104-B巻, 第8号,pp.723~726
【文献】金田 拓也, 藤井 輝也,HetNet構成におけるマクロセル基地局上り回線干渉キャンセラーの処理量削減,電子情報通信学会2021年総合大会講演論文集 通信1,2021年02月23日,p.359
【文献】金田 拓也, 藤井 輝也,HetNet構成における他スモールセル干渉を除去する上り回線干渉キャンセラーの検討,電子情報通信学会技術研究報告,2019年11月13日,第119巻, 第296号,pp.85~90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02 - 7/12
H04B 1/10
H04W 16/32
H04W 24/04
H04W 28/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基地局が形成する第1セルと複数の第2基地局が前記第1セル内に形成する複数の第2セルとを含む同一の周波数帯が用いられるセルラネットワーク構成において、前記第1セル及び前記複数の第2セルのうちいずれか一のセルの基地局に対する複数の他セルに在圏する端末からの干渉を抑圧する干渉抑圧装置であって、
前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局のアンテナへの複数の第1伝搬路応答を推定し、前記複数の第1伝搬路応答を要素として含む第1伝搬路応答行列を作成し、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記複数の他セルの基地局のアンテナへの複数の第2伝搬路応答を推定し、前記複数の第2伝搬路応答を要素として含む第2伝搬路応答行列を作成する行列作成部と、
前記第2伝搬路応答行列の逆行列を計算し、前記第2伝搬路応答行列の逆行列と前記第1伝搬路応答行列とに基づいて、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した受信信号に適用する複数の受信ウェイトを計算するウェイト計算部と、
前記一のセルの基地局のアンテナで受信した受信信号と、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した複数の受信信号と、前記複数の受信ウェイトとに基づいて、前記複数の他セルに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局の上り回線への干渉を抑圧する受信信号処理部と、を備え、
前記行列作成部で作成される前記第2伝搬路応答行列の複数の第2伝搬路応答のうち、前記干渉への寄与が小さいと予想される第2伝搬路応答を予めゼロに設定しておき、
前記行列作成部は、前記第2伝搬路応答行列の複数の第2伝搬路応答のうち、前記予めゼロに設定した第2伝搬路応答の推定を行わない、
ことを特徴とする干渉抑圧装置。
【請求項2】
請求項1の干渉抑圧装置において、
前記一のセルは前記第1セルであり、
前記一のセルの基地局は前記第1基地局であり、
前記他セルは前記第2セルであり、
前記他セルの基地局は前記第2基地局である、
ことを特徴とする干渉抑圧装置。
【請求項3】
請求項1の干渉抑圧装置において、
前記一のセルは前記第2セルであり、
前記一のセルの基地局は前記第2基地局であり、
前記他セルは前記第1セル及び他の第2セルであり、
前記他セルの基地局は前記第1基地局及び他の第2基地局である、
ことを特徴とする干渉抑圧装置
【請求項4】
求項1乃至3のいずれかの干渉抑圧装置において
記行列作成部は、前記予めゼロに設定していない複数の第2伝搬路応答のうち、前記第2伝搬路応答の電力の計算値が所定の閾値Γth以下又は閾値Γth未満の第2伝搬路応答をゼロに修正する、
ことを特徴とする干渉抑圧装置
【請求項5】
求項1乃至3のいずれかの干渉抑圧装置において、
前記複数の第2基地局の運用開始前に前記複数の第2伝搬路応答の推定を行い、前記複数の第2伝搬路応答のうち、前記第2伝搬路応答の電力の計算値が所定の閾値Γth以下又は閾値Γth未満の第2伝搬路応答をゼロに設定しておく、
ことを特徴とする干渉抑圧装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかの干渉抑圧装置において、
前記複数の第2基地局間の位置関係又は前記複数の第2セル間の位置関係に基づいて、前記予めゼロに設定しておく第2伝搬路応答を決定しておく、
ことを特徴とする干渉抑圧装置。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかの干渉抑圧装置において、
前記第1基地局の無線部及び前記複数の第2基地局の無線部それぞれに通信回線を介して接続された共通のベースバンド処理部に設けられている、ことを特徴とする干渉抑圧装置。
【請求項8】
第1セルを形成する第1基地局と、前記第1セル内に配置された前記第1セルよりもセルサイズが小さい複数の第2セルのそれぞれを形成する複数の第2基地局とを備え、前記第1セルに在圏する端末の無線通信及び前記複数の第2セルのそれぞれに在圏する端末の無線通信に同一の周波数帯が用いられるセルラネットワーク構成のシステムであって、
請求項1乃至3のいずれかの干渉抑圧装置を備える、ことを特徴とするシステム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種セルサイズ混在型のヘテロジニアスセルラネットワーク(HetNet)構成における干渉抑圧技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の移動通信システムにおけるトラフィックの急増に対応すべく、従来のマクロセル基地局よりもセル(無線通信エリア)が狭いスモールセル基地局(「極小セル基地局」、「ピコセル基地局」、「フェムトセル基地局」などとも呼ばれる)の需要が高まっている。例えば、都市部では中・高層ビル屋内(大規模なオフィス内)における局所的に急増するトラヒックに対応するために、地上のマクロセル内に位置する中・高層ビルの各フロアにスモールセルを配置して構成する三次元空間セル構成(3D HetNet構成)が注目されている(非特許文献1、2、3参照)。特に、マクロセルとスモールセルが同一周波数を用いる場合、地上にスモールセルを配置した二次元空間HetNet構成に比べて、マクロセルとスモールセルと間の干渉やスモールセル間の干渉が問題となり、それらを回避又は抑圧する必要がある。
【0003】
非特許文献4には、三次元空間HetNet構成における上り回線干渉対策として、マクロセルと各スモールセルが連携して、スモールセルに在圏する端末からマクロセル基地局への上り回線干渉をマクロセル基地局で抑圧する「ネットワーク連携マクロセル基地局受信干渉キャンセラー」が開示されている。この受信干渉キャンセラーは、同一リソースブロック内において、各スモールセル基地局の受信信号をもとにマクロセル基地局で各スモールセル干渉信号を除去するためのレプリカ信号を生成し、マクロセル基地局の受信信号からそれらを差し引く線形干渉キャンセラーである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A. Nagate, M. Mikami, T. Okamawari, T. Fujii, "Layered Cell Configuration for 3D Dense Cell Structure", International Workshop on Smart Wireless Communications (SmartCom2016), vol. 116, no. 29, SR2016-5, pp. 9-14, Oulu, Finland, May 2016.
【文献】A. Nagate, S. Nabatame, K. Hoshino and T. Fujii, "Experimental Evaluations of Coordinated Interference Control for Co-channel Overlaid Cell Structure", Proceedings of IEEE VTC2015-Spring, Glasgow, May 2015.
【文献】T. Okamawari, S. Shiobara, Y. Nagai and T. Fujii, "Field evaluation of eICIC using highly accurate GPS based synchronization scheme", Proceedings of IEEE VTC2015- fall, Boston, USA, Sep 2015.
【文献】金田拓也,藤井輝也,"HetNet構成 における ネットワーク連携上り回線干渉キャンセラー",電子情報通信学会論文誌 B, Vol.J104-B,No.8,pp.723-726.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の受信干渉キャンセラーでは、同一リソースブロック内において、マクロセル及びスモールセルに在圏する全ての端末を対象とした干渉抑圧技術であり、非常に大きい干渉抑圧効果が得られる。しかしながら、スモールセルの数が増大すると信号処理量が増加する、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る干渉抑圧装置は、第1基地局が形成する第1セルと複数の第2基地局が前記第1セル内に形成する複数の第2セルとを含む同一の周波数帯が用いられるセルラネットワーク構成において、前記第1セル及び前記複数の第2セルのうちいずれか一のセルの基地局に対する複数の他セルに在圏する端末からの干渉を抑圧する干渉抑圧装置である。この干渉抑圧装置は、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局のアンテナへの複数の第1伝搬路応答を推定し、前記複数の第1伝搬路応答を要素として含む第1伝搬路応答行列を作成し、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記複数の他セルの基地局のアンテナへの複数の第2伝搬路応答を推定し、前記複数の第2伝搬路応答を要素として含む第2伝搬路応答行列を作成する行列作成部と、前記第2伝搬路応答行列の逆行列を計算し、前記第2伝搬路応答行列の逆行列と前記第1伝搬路応答行列とに基づいて、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した受信信号に適用する複数の受信ウェイトを計算するウェイト計算部と、前記一のセルの基地局のアンテナで受信した受信信号と、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した複数の受信信号と、前記複数の受信ウェイトとに基づいて、前記複数の他セルに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局の上り回線への干渉を抑圧する受信信号処理部を備え、前記逆行列を計算する前の前記第2伝搬路応答行列に含まれる前記複数の第2伝搬路応答のうち、所定の閾値以下又は前記閾値未満の大きさの電力を有する第2伝搬路応答をゼロにする。
【0007】
本発明の他の態様に係る方法は、第1基地局が形成する第1セルと複数の第2基地局が前記第1セル内に形成する複数の第2セルとを含む同一の周波数帯が用いられるセルラネットワーク構成において、前記第1セル及び前記複数の第2セルのうちいずれか一のセルの基地局に対する複数の他セルに在圏する端末からの干渉を抑圧する方法である。この方法は、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局のアンテナへの複数の第1伝搬路応答を推定し、前記複数の第1伝搬路応答を要素として含む第1伝搬路応答行列を作成し、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記複数の他セルの基地局のアンテナへの複数の第2伝搬路応答を推定し、前記複数の第2伝搬路応答を要素として含む第2伝搬路応答行列を作成することと、前記第2伝搬路応答行列の逆行列を計算し、前記第2伝搬路応答行列の逆行列と前記第1伝搬路応答行列とに基づいて、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した受信信号に適用する複数の受信ウェイトを計算することと、前記一のセルの基地局のアンテナで受信した受信信号と、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した複数の受信信号と、前記複数の受信ウェイトとに基づいて、前記複数の他セルに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局の上り回線への干渉を抑圧することと、前記逆行列を計算する前の前記第2伝搬路応答行列に含まれる前記複数の第2伝搬路応答のうち、所定の閾値以下又は前記閾値未満の大きさの電力を有する第2伝搬路応答をゼロにすることを含む。
【0008】
本発明の更に他の態様に係るプログラムは、第1基地局が形成する第1セルと複数の第2基地局が前記第1セル内に形成する複数の第2セルを含む同一の周波数帯が用いられるセルラネットワーク構成において、前記第1セル及び前記複数の第2セルのうちいずれか一のセルの基地局に対する複数の他セルに在圏する端末からの干渉を抑圧する干渉抑圧装置に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムである。このプログラムは、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局のアンテナへの複数の第1伝搬路応答を推定し、前記複数の第1伝搬路応答を要素として含む第1伝搬路応答行列を作成し、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記複数の他セルの基地局のアンテナへの複数の第2伝搬路応答を推定し、前記複数の第2伝搬路応答を要素として含む第2伝搬路応答行列を作成するためのプログラムコードと、前記第2伝搬路応答行列の逆行列を計算し、前記第2伝搬路応答行列の逆行列と前記第1伝搬路応答行列とに基づいて、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した受信信号に適用する複数の受信ウェイトを計算するためのプログラムコードと、前記一のセルの基地局のアンテナで受信した受信信号と、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した複数の受信信号と、前記複数の受信ウェイトとに基づいて、前記複数の他セルに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局の上り回線への干渉を抑圧するためのプログラムコードと、前記逆行列を計算する前の前記第2伝搬路応答行列に含まれる前記複数の第2伝搬路応答のうち、所定の閾値以下又は前記閾値未満の大きさの電力を有する第2伝搬路応答をゼロにするためのプログラムコードを含む。
【0009】
本発明の更に他の態様に係るシステムは、第1セルを形成する第1基地局と、前記第1セル内に配置された前記第1セルよりもセルサイズが小さい複数の第2セルのそれぞれを形成する複数の第2基地局とを備え、前記第1セルに在圏する端末の無線通信及び前記複数の第2セルのそれぞれに在圏する端末の無線通信に同一の周波数帯が用いられるセルラネットワーク構成のシステムである。このシステムは、前記いずれかの干渉抑圧装置を備える。
【0010】
前記干渉抑圧装置、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記一のセルは前記第1セルであり、前記一のセルの基地局は前記第1基地局であり、前記他セルは前記第2セルであり、前記他セルの基地局は前記第2基地局であってもよい。
【0011】
前記干渉抑圧装置、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記一のセルは前記第2セルであり、前記一のセルの基地局は前記第2基地局であり、前記他セルは前記第1セル及び他の第2セルであり、前記他セルの基地局は前記第1基地局及び他の第2基地局であってもよい。
【0012】
前記干渉抑圧装置、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記逆行列を計算する前の第2伝搬路応答行列に含まれる前記複数の第2伝搬路応答それぞれの電力を計算し、前記電力の計算値が所定の閾値γth以下又は閾値γth未満の第2伝搬路応答をゼロに修正してもよい。ここで、前記第2伝搬路応答行列の複数の第2伝搬路応答のうち、前記干渉への寄与が小さいと予想される第2伝搬路応答を予めゼロに設定しておき、前記第2伝搬路応答行列の複数の第2伝搬路応答のうち、前記予めゼロに設定した第2伝搬路応答の推定を行わず、前記予めゼロに設定していない複数の第2伝搬路応答のうち、前記第2伝搬路応答の電力の計算値が所定の閾値Γth以下又は閾値Γth未満の第2伝搬路応答をゼロに修正してもよい。
【0013】
前記干渉抑圧装置、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記第2伝搬路応答行列の複数の第2伝搬路応答のうち、前記干渉への寄与が小さいと予想される第2伝搬路応答を予めゼロに設定しておき、前記第2伝搬路応答行列の複数の第2伝搬路応答のうち、前記予めゼロに設定した第2伝搬路応答の推定を行わないようにしてもよい。
【0014】
前記干渉抑圧装置、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記複数の第2基地局の運用開始前に前記複数の第2伝搬路応答の推定を行い、前記複数の第2伝搬路応答のうち、前記第2伝搬路応答の電力の計算値が所定の閾値Γth以下又は閾値Γth未満の第2伝搬路応答をゼロに設定しておいてもよい。
【0015】
前記干渉抑圧装置、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記複数の第2基地局間の位置関係又は前記複数の第2セル間の位置関係に基づいて、前記予めゼロに設定しておく第2伝搬路応答を決定しておいてもよい。
【0016】
前記干渉抑圧装置、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記干渉抑圧装置は、前記第1基地局の無線部及び前記複数の第2基地局の無線部それぞれに通信回線を介して接続された共通のベースバンド処理部に設けてもよい。
【0017】
また、前記伝搬路応答の推定、前記伝搬路応答行列の作成、前記受信ウェイトの計算、前記干渉の抑圧の少なくとも一つを行うプログラムは、機械学習によって作成された学習済モデルであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1セル内に小さいサイズの複数の第2セルが配置されたHetNet構成において第1セルの基地局が受信する上り回線の受信信号に対する第2セルからの干渉の抑制できるとともに、その干渉の抑制のための受信ウェイト計算のための信号処理量を低減、また計算に必要なセル全体での第2伝搬路応答(他セルの端末から他セルの基地局のアンテナへの伝搬路応答)の測定数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態に係る干渉抑圧装置を備えるシステムを適用可能なHetNet構成の一例及びHetNet構成におけるセル間の干渉の一例を示す図である。
図2図2は、HetNet構成において、第1セルを形成する第1基地局に第2セルに在圏する端末から干渉が到来する様子の一例を示す図である。
図3図3は、従来のセル間干渉制御技術(eICIC)におけるマクロセル及びスモールセルそれぞれに設定される無線リソースの時間スロットの配置例を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る上り回線干渉キャンセラーの機能を有する協調制御ネットワークを用いたシステムの一例を示す図である。
図5図5は、実施形態に係るシステムにおける基地局の受信干渉キャンセラーの機能を有するシステムの構成例を示す図である。
図6図6は、実施形態に係るシステムにおけるマクロセル基地局での上り回線受信干渉キャンセラー構成の一例を示す図である。
図7図7は、HetNet構成における各スモールセル基地局のアンテナに到来する他スモールセル端末からの信号の一例を示す図である。
図8図8(a)は、第1の信号処理量低減方法におけるスモールセル間が近い場合の端末からスモールセル基地局のアンテナへの信号の送受信の一例を示す図である。図8(b)は、第1の信号処理量低減方法におけるスモールセル間が遠い場合の端末からスモールセル基地局のアンテナへの信号の送受信の一例を示す図である。
図9図9(a)~図9(c)は、受信電力の閾値を用いた第1の信号処理量低減方法の一具体例を示す図である。
図10図10は、実施形態に係るシステムの干渉抑圧装置における干渉キャンセルウェイトの更新処理の一例を示すフローチャートである。
図11図11(a)は、第2の信号処理量低減方法におけるスモールセル間が近い場合の端末からスモールセル基地局のアンテナへの信号の送受信の一例を示す図である。図11(b)は、第2の信号処理量低減方法におけるスモールセル間が遠い場合の端末からスモールセル基地局のアンテナへの信号の送受信の一例を示す図である。
図12図12(a)~図12(d)は、第2の信号処理量低減方法の一具体例を示す図である。
図13図13は、実施形態に係るシステムの干渉抑圧装置における干渉キャンセルウェイトの更新処理の他の一例を示すフローチャートである。
図14図14は、実施形態に係る干渉抑圧装置の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して様々な実施形態について説明する。なお、各図は本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎず、従って、本発明は各図で例示された形状、大きさ及び位置関係のみに限定されるものではない。また、後述において例示する数値は、本発明の好適な例に過ぎず、従って、本発明は例示された数値に限定されるものではない。
【0021】
本書において実施形態の例として開示された干渉抑圧装置(以下「干渉キャンセラー」ともいう。)は、第1セル(マクロセル)内に同一周波数を用いた複数の第2セル(スモールセル)を設置して構成する周波数利用効率の高い異種セルサイズ混在型のヘテロジニアスセルラネットワーク(HetNet)構成(例えば、二次元空間のHetNet構成、又は、三次元空間に拡張したHetNet構成)において、第1セル基地局(マクロセル基地局)又は第2セル基地局(スモールセル基地局)において他セルの端末からの干渉信号を抑圧するネットワーク連携上り回線干渉キャンセラーである。特に、本開示の実施形態に係る干渉抑圧装置(干渉キャンセラー)では、第1セル(マクロセル)内に配置された第2セル(スモールセル)の数が増大した場合でも、干渉キャンセルのための受信ウェイトを生成するウェイト生成の計算処理量及び、その計算に必要なセル間伝搬路応答測定数を削減することができる。
【0022】
図1は、実施形態に係る干渉抑圧装置を備えるシステムを適用可能なHetNetの構成の一例を示す図である。図1において、本実施形態のシステムは、移動通信の複数の基地局(「eNodeB」、「eNB」、「gNodeB」、「gNB」等と呼ばれる。)として、第1セルとしてのマクロセル200を形成する第1セル基地局としてのマクロセル基地局20と、マクロセル200よりもセルサイズが小さい複数の第2セルとしてのスモールセル300(1)~300(3)を形成する複数の第2基地局としての複数のスモールセル基地局30(1)~30(3)とを備えている。マクロセル基地局20は、アンテナ21を介して、マクロセル200に在圏する端末10(0)と無線通信することができる。にマクロセル基地局20のマクロセル200内には複数のスモールセル基地局30(1)~30(3)それぞれの少なくともアンテナ31が配置されている。複数のスモールセル基地局30(1)~30(3)はそれぞれ、アンテナ31を介して、スモールセル300(1)~300(3)に在圏する端末10(1)~10(3)と無線通信することができる。
【0023】
図1の構成は、マクロセル200内のホットスポット等の多くのトラフィックが集中しているエリアにスモールセル300(1)~300(2)を配置した、トラフィック対策として有効な「HetNet構成」である。本システムではマクロセルとスモールセルは同一周波数を利用する。特に、図1に示すようなビル90が立ち並ぶ市街地などでは、高層階の大規模オフィス内でトラフィックが集中的に発生するケースが多々あり、そのような場所にスモールセルを配置する「三次元空間HetNet構成(三次元空間セル構成)」が非常に有効である。図1の三次元空間セル構成では、面方向に屋外スモールセル300(1)が配置され、高さ方向に複数の屋内スモールセル300(2),300(3)が配置されている。
【0024】
HetNet構成では、広範囲の通信を行うマクロセル200の中の特に通信量の多い場所にスモールセル300(1)~300(3)を配置することにより、全体の通信品質を安定させることができる。
【0025】
なお、図1において、マクロセル基地局及びスモールセル基地局それぞれの数は任意であり、例えば、マクロセル基地局は2箇所以上に設けてもよいし、スモールセル基地局はマクロセル内において複数の4箇所以上に設けてもよい。また、マクロセル基地局及びスモールセル基地局は互いに時間同期制御されている。
【0026】
マクロセル基地局20は、移動通信網において屋外に設置されている通常の半径数百m乃至数km程度の広域エリアであるマクロセルをカバーする広域の基地局である。マクロセル基地局20は、回線終端装置及び光回線や専用回線などの通信回線を介して移動通信網のコアネットワークに接続され、コアネットワーク上のサーバ装置などの各種ノードとの間で所定の通信インターフェースにより通信可能である。
【0027】
スモールセル基地局30(1)~30(3)はそれぞれ、広域のマクロセル基地局とは異なり、無線通信可能距離が例えば数十m乃至数百m程度であり、一般家庭、店舗、オフィス等の屋内にも設置することができる小容量の基地局である。スモールセル基地局30(1)~30(3)は、移動通信網における広域のマクロセル基地局がカバーするエリアよりも小さなエリアをカバーするように設けられる。スモールセル基地局30(1)~30(3)は、回線終端装置及び光回線や専用回線などの通信回線を介して移動通信網のコアネットワークに接続され、コアネットワーク上のサーバ装置などの各種ノードとの間で所定の通信インターフェースにより通信可能である。
【0028】
マクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(1)~30(3)のそれぞれと端末との間の無線通信には、同一無線伝送方式及び同一周波数帯が使用されている。同一周波数帯を使用することにより、マクロセルとスモールセルとの間で異なる周波数帯を使用する場合よりも周波数帯域を圧迫しないようにすることができる。
【0029】
無線伝送方式としては、例えば、LTE(Long Term Evolution)やLTE-Advancedの通信方式、第4世代携帯電話の通信方式、第5世代、又は第6世代等の次世代の携帯電話の通信方式などを採用することができる。
【0030】
端末10は、携帯電話機、スマートフォン、移動通信機能を有する携帯パソコン等であり、ユーザ装置(UE)、移動局、移動機、携帯型の通信端末とも呼ばれている。端末10(0)は、マクロセル200内に在圏し、マクロセル200に対応するマクロセル基地局20を介して移動通信網側と通信する。また、端末10(1)~10(3)はそれぞれ、スモールセル300(1)~300(3)に在圏し、スモールセル基地局30(1)~30(3)を介して移動通信網側と通信する。
【0031】
端末10は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることによりマクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(1)~30(3)との間の無線通信等を行うことができる。また、マクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(1)~30(3)はそれぞれ、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、コアネットワークに対する外部通信インターフェース部、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより、端末10との間の無線通信やコアネットワーク側との通信を行ったりすることができる。
【0032】
端末10は、自動車やドローンなどの移動体に組み込まれたモジュール状の移動局であってもよいし、IoT(Internet of Things)向けデバイスの端末装置であってもよい。
【0033】
図2は、HetNet構成マクロセル基地局にスモールセル端末から干渉が到来する様子の一例を示す図である。図2において、図中の実線に示すように、マクロセル端末はマクロセル基地局と、各スモールセル端末は各スモールセル端末とそれぞれ通信を行っている。しかし、図中の1点鎖線及び2点差線で示すように、スモールセル300(1),300(2)に在圏する端末10(1),10(2)から送信された信号がマクロセル基地局20のアンテナ21に到達し、マクロセルの上り回線にスモールセルからの信号が干渉し、マクロセルの通信品質が低下するおそれがある。特に図1に例示する三次元空間のHetNet構成では、図中矢印で示すように、セル間における予干渉及び被干渉の推定が非常に複雑である。また、空間的にセル間の離隔距離を取ることで、相互に干渉を回避する三次元空間セル構成の構築は極めて困難である。三次元空間セル構成を実現するためには、高度な干渉制御が不可欠である。
【0034】
上記マクロセルの上り回線の干渉を回避するために、スモールセル300(1),300(2)に在圏する端末10(1),10(2)の送信電力を低減させる方法が考えられる。しかし、この方法では、スモールセル300(1),300(2)内の通信品質が低下してしまう。
【0035】
また、上記HetNet構成に適用可能なセル間干渉制御技術として、前述のLTE-Advanced標準に準拠したeICIC(enhanced Inter Cell Interference Coordination)と呼ばれるセル間干渉制御技術が知られている。
【0036】
図3は、従来のセル間干渉制御技術(eICIC)におけるマクロセル及びスモールセルそれぞれに設定される無線リソースの時間スロットの配置例を示す図である。図3に示すように、eICICと呼ばれるセル間干渉制御技術では、同一周波数帯の無線リソース201、301を時分割して、マクロセル及びスモールセルそれぞれにおける端末からの送信に互いに異なる時間スロットを割り当てる。例えば図3の例では、マクロセルに時間スロットT1,T2を割り当て、スモールセルに時間スロットT3,T4を割り当てる。これにより、マクロセルとスモールセルとの間の同一周波数帯における干渉を回避することができる。しかしながら、従来のセル間干渉制御技術(eICIC)では、マクロセル及びスモールセルそれぞれにおいて無線リソース(時間スロット)を分割し、相互にその一部を使用しないため、各基地局が全帯域の無線リソース(時間スロット)を使用することができず、マクロセル及びスモールセルの最大伝送レート(ピークスループット)が低下する。
【0037】
そこで、本実施形態では、HetNet構成における上り回線干渉対策として、マクロセルと各スモールセルとが連携して協調制御を行う「協調制御ネットワーク」を用いて上り回線の干渉を抑圧する干渉抑圧装置である「上り回線干渉キャンセラー」の機能を備えている。
【0038】
図4は、実施形態に係る上り回線干渉キャンセラーの機能を有する協調制御ネットワーク400を用いたシステムの一例を示す図である。図4において、マクロセル基地局20のアンテナ21には、マクロセル端末10(0)から送信された上り回線の所望信号(成分s0)が到達するとともに、スモールセル端末10(1),10(2)から送信された上り回線の信号が干渉信号(成分s1,s2)として到来する。干渉信号s1,s2が所望信号s0に干渉すると、マクロセル基地局20における上り回線(マクロセル上り回線)の通信品質が低下する。
【0039】
本実施形態のシステムは、マクロセル上り回線干渉キャンセラーの機能を有する協調制御ネットワーク400を備えることにより、上記他セルからの干渉信号によるマクロセル上り回線の通信品質の低下を防止することができる。マクロセル上り回線干渉キャンセラーでは、各基地局20、30(1)、30(2)に接続された協調制御ネットワーク40において、各スモールセル基地局30(1)、30(2)の受信信号に干渉キャンセルウェイト(受信ウェイト)を重畳し、マクロセル基地局20の受信信号から減算することにより(マクロセル基地局20の受信信号の干渉信号成分に対して逆相で加算することにより)、マクロセル基地局20における上り回線の干渉を抑圧している。すなわち、実施形態のマクロセル上り回線干渉キャンセラーは、各スモールセル基地局30(1),30(2)の受信信号をもとにマクロセル基地局20で各スモールセルからの干渉信号を除去するためのレプリカ信号を生成し、そのレプリカ信号をマクロセル基地局20の受信信号から差し引く線形干渉キャンセラーであり、大きな干渉抑圧効果が得られる。
【0040】
また、図4において、複数のスモールセル基地局30(1)、30(2)それぞれのスモールセル上り回線においても他セルの端末からの信号による干渉が発生するおそれがある。例えば、スモールセル基地局30(1)のアンテナ21には、自セルのスモールセル端末10(1)から送信された上り回線の所望信号(成分s1)が到達するとともに、他セルのマクロセル端末10(0)及びスモールセル端末10(2)から送信された上り回線の信号が干渉信号(成分s0,s2)として到来する。干渉信号s0,s2が所望信号s1に干渉すると、スモールセル基地局30(1)における上り回線(スモールセル上り回線)の通信品質が低下する。
【0041】
特に、HetNet構成においてスモールセル基地局30(1)、30(2)にマクロセル端末10(0)が近づいて強い干渉を受ける場合やスモールセル300(1)、300(2)間が接近して設置され他スモールセル端末干渉を強く受ける場合には、各スモールセル基地局30(1)、30(2)の上り回線の通信品質は大きく低下する。そのため、スモールセル基地局30(1)、30(2)においてもマクロセル端末干渉や他スモールセル端末干渉を抑圧するのが好ましい。
【0042】
本実施形態のシステムでは、協調制御ネットワーク400はスモールセル上り回線干渉キャンセラーの機能を有し、上記他セル(マクロセル、他のスモールセル)からの干渉信号によるスモールセル上り回線の通信品質の低下を防止できるようにしてもよい。スモールセル上り回線干渉キャンセラーでは、各基地局20、30(1)、30(2)に接続された協調制御ネットワーク40において、例えば、マクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(2)の受信信号に干渉キャンセルウェイト(受信ウェイト)を重畳し、マクロセル基地局20(1)の受信信号から減算することにより(スモールセル基地局30(1)の受信信号に対して逆相で加算することにより)、スモールセル基地局30(1)における上り回線の干渉を抑圧してもよい。すなわち、実施形態のスモールセル上り回線干渉キャンセラーは、マクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(2)の受信信号をもとにスモールセル基地局30(1)でマクロセル及び他のスモールセルからの干渉信号を除去するためのレプリカ信号を生成し、それらのレプリカ信号をスモールセル基地局30(1)の受信信号から差し引く線形干渉キャンセラーとして機能することにより、大きな干渉抑圧効果が得られる。
【0043】
本実施形態の協調制御ネットワーク400に設けられる干渉キャンセラーは、マクロセル及びスモールセル内の全ての端末を対象とすることが可能な干渉抑圧技術であり、非常に大きい干渉抑圧効果が得られるが、マクロセル内に設置するスモールセル数が増大すると信号処理量が増加する。特に、スモールセル数が非常に多い場合には信号処理量は膨大となる。
【0044】
そこで、本実施形態では、以下に示すように、スモールセル間の距離が遠く端末からの信号がほとんど届かないようなスモールセルを、干渉抑圧のための干渉キャンセルウェイトの計算及びレプリカ信号の生成の際に考慮するスモールセルから除外することにより、信号処理量を削減している。
【0045】
[上り回線受信キャンセラーの基本構成]
図5は、実施形態に係るシステムにおける基地局の受信干渉キャンセラーの機能を有するシステムの構成例を示す図である。なお、図5の移動通信システムは、C-RAN(集中型無線アクセスネットワーク)構成を基本とした例を示しているが、D-RAN(分散型無線アクセスネットワーク)などの他の構成の移動通信システムであってもよい。
【0046】
図5において、マクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(1)、30(2)はそれぞれ、広帯域の光ファイバ、基地局間インターフェース(例えばLTEではx2インターフェース)等の有線通信回線又は無線通信回線などの通信回線50を介して互いに接続された、RRH(遠隔無線ヘッダ)(「張り出し基地局」、「光張り出し装置」ともいう。)と、ベースバンド信号処理部と受信機と送信機とを含むBBU(ベースバンドユニット)と、を備える。各基地局20,30(1)、30(2)のBBUは、1箇所に設置された共通のベースバンド処理部である集中BBU40に集約されている。各基地局20,30(1)、30(2)のRRHは例えばアンテナ21,31の近くに設けられ、通信回線50を介して集中BBU40に接続され、更に、集中BBU40内の協調制御ネットワーク400を介して各受信機420,430(1),430(2)に接続されている。各基地局のRRHは、集中BBU40からの送信信号を無線信号に変換して所定の送信電力でアンテナ21、31から送信したり、アンテナ21、31で受信した無線信号を受信信号に変換して集中BBU40に送ったりする。集中BBU40内の協調制御ネットワーク400は、後述のマクロセル上り回線受信干渉キャンセラーやスモールセル上り回線受信干渉キャンセラーを実行することができる。
【0047】
各基地局20,30(1)、30(2)と集中BBU40と間の伝搬距離差や信号処理時間差等は、集中BBU40でのデジタル信号処理により補償することができる。
【0048】
図5において、例えば、マクロセル基地局20は、スモールセル300(1),300(2)に在圏する端末10(1)、10(2)からの干渉信号S1、S2により受信品質(SINR特性)が劣化する。それらの干渉信号を抑圧(キャンセル)するために、集中BBU40内の協調制御ネットワーク400にマクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(1),30(2)の受信信号を転送し、それらを元に干渉信号レプリカを生成して受信信号から差し引く受信干渉キャンセラー処理を実行する。これにより、マクロセル基地局20の上り回線における干渉を抑圧することができる。
【0049】
また、スモールセル基地局30(1)は、マクロセル200に在圏する端末10(0)及びスモールセル300(2)に在圏する端末10(2)からの干渉信号S0、S2により受信品質(SINR特性)が劣化する。それらの干渉信号を抑圧(キャンセル)するために、集中BBU40内の協調制御ネットワーク400にマクロセル基地局20及びスモールセル基地局30(1),30(2)の受信信号を転送し、それらを元に干渉信号レプリカを生成して受信信号から差し引く処理を実行する。これにより、スモールセル基地局30(1)の上り回線における干渉を抑圧することができる。
【0050】
次に、本実施形態のHetNet構成における基地局20、30(1),30(2)の受信信号のモデリング並びに協調制御ネットワーク400における受信干渉キャンセラーの処理の例及びその評価結果について説明する。なお、以下の説明において、マクロセル基地局への上り回線におけるスモールセルに在圏する端末(以下「スモールセル端末」ともいう。)からの干渉をマクロセル基地局で抑圧する干渉抑圧装置を「マクロセル上り回線干渉キャンセラー」ともいう。また、スモールセル基地局の上り回線における他のスモールセルに在圏するスモールセル端末及びマクロセルに在圏する端末(以下「マクロセル端末」ともいう。)からの干渉をスモールセル基地局で抑圧する干渉抑圧装置を「スモールセル上り回線干渉キャンセラー」ともいう。
【0051】
図5に例示するHetNet構成において、無線伝送方式に関しては、上り回線の制御信号に、例えば異なる拡散コードでコード多重されるような"セル個別の参照信号"が含まれていると仮定する。これにより、各基地局は自セル信号及び他セル信号の伝搬路応答(以下「チャネル応答」ともいう。)を精度よく推定できる。個別の参照信号の挿入により伝送効率は多少低下するが、スモールセル300(1),300(2)は屋内を想定しているのでスモールセル端末10(1),10(2)の移動速度は遅く、参照信号の時間軸上の挿入間隔は高速移動を想定した挿入間隔と比べて大幅に少なくできる。また、各セル200、300(1)、300(2)で同一周波数(例えば、LTEでは同一リソースブロック)を同時に利用できるユーザ数は基本1であり、同一周波数をマクロセル200、各スモールセル300(1)、300(2)の端末が同時に使っている最も厳しい条件で評価する。
【0052】
[HetNet構成における基地局の受信信号]
本実施形態のHetNet構成において、上り回線の受信方式として、送信アンテナ数1、受信アンテナ数2、最大比合成(MRC)によるダイバーシチ受信(SIMO)を適用する。ここで、k番目のセル内の端末Mkと基地局Bkが通信を行っているとし、k=0をマクロセル、k=1、2、・・・、Nをスモールセルとおく。端末Miから基地局Bkのアンテナ#1、#2への受信チャネル応答をそれぞれ、
【数1】
とおくと、基地局Bkでの端末Mkのチャネル応答行列Hkkは次式(1)で表せる。
【数2】
【0053】
ここで、式(1)中のTは転置行列を表している。また、最大比合成時の受信ウェイトW MRCは次式(2)で表せる。
【数3】
【0054】
ただし、式(2)中の「*」は共役複素数を表している。このとき、端末Mkの送信信号をsk、基地局Bkの受信信号をXk、雑音信号をNkとおくと、他セルからの干渉信号を考慮して、基地局 Bk(k=0,・・・,N)の受信信号Xkは次式(3),(4)で表せる。
【数4】
【数5】
【0055】
ここで、式(3)の右辺の第2項目が他セルからの干渉信号である。
【0056】
[干渉キャンセラーウェイトの計算]
図6は、実施形態に係るシステムにおける上り回線にダイバーシチ受信(SIMO)を適用したマクロセル基地局(B0)20での受信干渉キャンセラー構成の一例を示す図である。図6において、集中BBU40に設けられた協調制御ネットワーク400は、マクロセル上り回線受信干渉キャンセラーの機能を有する干渉抑圧装置410を備える。
【0057】
干渉抑圧装置410は、マクロセル基地局20の受信信号のうち干渉信号成分s1,s2が各スモールセル基地局30(1),30(2)の受信信号に含まれていることを利用している。干渉抑圧装置410は、協調制御ネットワーク400において通信回線50を介して各スモールセル基地局30(1)、30(2)の受信信号X1、X2を参照し、これに受信ウェイトである干渉キャンセルウェイトw 、w を重畳し、これらを用いてマクロセル基地局20の干渉信号レプリカとなる信号である干渉キャンセル信号を生成する。干渉抑圧装置410は、マクロセル基地局20の受信信号X0から干渉キャンセル信号(干渉信号レプリカ)を引くことにより、マクロセル基地局20のBBUにて干渉信号を抑圧する。この受信干渉キャンセラーの処理により、マクロセル基地局20において上り回線の受信信号に含まれる干渉信号はゼロとなり、通信品質を理想近く(干渉が到来しない場合)まで改善することができる。
【0058】
例えば、図6のHetNet構成において、前述の式(3)にk=0を代入した結果より、マクロセル基地局(B0)20は他のスモールセル300(1)、300(2)内の端末10(1)、10(2)からの干渉信号
【数6】
を受信するため、通信品質は大きく劣化する。そこで、マクロセル基地局(B0)20の通信品質の改善を図るために、干渉抑圧装置410において受信干渉キャンセラーの処理を実行する。受信干渉キャンセラーでは、スモールセル基地局の受信信号X1、X2に受信ウェイト(複素ウェイト)を重畳して、マクロセル基地局(B0)20の上り回線の受信信号X0から差し引くことにより、当該受信信号に含まれる干渉信号を除去する。
【0059】
今、k番目のスモールセル基地局30(k=1,---,N)の受信信号Xkに重畳する受信ウェイト(複素ウェイト)をw 、マクロセル基地局(B0)20の干渉キャンセラー適用時の受信信号をX とおくと、X は次式(5)のように表わすことができる。
【数7】
【0060】
ここで、式(5)を次式(6)のように変形する。
【数8】
【0061】
式(6)の右辺の第1項はスモールセル端末Mkの受信信号を、第2項は他セル内の端末からの干渉信号を表している。式(6)の他セルからの干渉信号を抑圧するため、次式(7)に示すように、他セルからの干渉信号を0とするように受信ウェイト(複素ウェイト)W を決定する。
【数9】
【0062】
式(7)を行列で表すと、次式(8)となる。
【数10】
【0063】
但し、
【数11】

【数12】

【数13】
【0064】
上記式(8)より、受信ウェイト(複素ウェイト)Wは、次式(9)で求めることができる。
【数14】
【0065】
ここで、式(9)の受信ウェイトを式(6)に代入すると、受信信号X は次式(10)となる。
【数15】
【0066】
上記式(10)において、右辺の第1項がマクロセル端末の信号であり、第2項が雑音信号となり、各スモールセル300(1)、300(2)からの干渉信号は完全にキャンセルされる。また、上記式(10)から、各スモールセル300(1)、300(2)の参照信号に含まれるマクロセル信号により、マクロセル端末10(0)の受信信号は増大する。
【0067】
この場合のマクロセル端末の信号電力対(干渉電力及び雑音電力 )比SINR は、次式(11)で表せる。
【数16】
【0068】
但し、各基地局の雑音電力のアンサンブル平均は等しく、<|N|>=1とし、各基地局の信号電力のアンサンブル平均は<|Sk|>=1(k=0,1,2,---,N)としている。
【0069】
図6(スモールセル数が2)の例では、マクロセル基地局20の受信信号のうち干渉信号成分S,Sが、各スモールセル基地局30(1).30(2)それぞれの受信信号に含まれていることを利用している。図6の集中BBU40において、協調制御ネットワーク400に設けられた干渉抑圧装置410は、各スモールセル基地局30(1)、30(2)の受信信号X(=S+S)、X(=S+S)を参照し、この参照信号X、Xに干渉キャンセルウェイト(受信ウェイト)W 、W を重畳することにより、マクロセル基地局20の上り回線の受信信号におけるスモールセル端末10(1)、10(2)からの干渉信号のレプリカとなる干渉キャンセル信号を生成する。干渉抑圧装置410は、マクロセル基地局20の受信信号X0から干渉キャンセル信号(干渉信号レプリカ)を引くことにより、マクロセル基地局20の上り回線におけるスモールセル端末10(1)、10(2)からの干渉信号を抑圧する。この干渉抑圧技術を適用することにより、マクロセル基地局20において干渉信号はゼロ又はほぼゼロとなり、通信品質を理想近く(干渉が到来しない場合)まで改善可能になる。
【0070】
干渉抑圧装置410から出力された干渉抑圧処理後のマクロセル端末10(0)からの所望信号Sは、マクロセル基地局20に対応するBBUの受信機420に入力される。一方、各スモールセル基地局30(1)、30(2)の受信信号X、Xは、各スモールセル基地局30(1)、30(2)に対応するBBUの受信機430(1)、430(2)に入力される。
【0071】
なお、図6の協調制御ネットワーク400において、各スモールセル基地局30(1)、30(2)の上り回線の受信信号X、Xに対する他セル(他スモールセル、マクロセル)の端末からの干渉信号を抑圧する干渉抑圧装置は更に設けてもよい。この場合、干渉抑圧処理後の各スモールセル端末10(1),10(2)からの所望信号S、Sは、各スモールセル基地局30(1)、30(2)に対応するBBUの受信機430(1)、430(2)に入力される。
【0072】
[伝搬路応答の推定及び受信ウェイトの計算の例]
ここで、スモールセル300の数がNの場合、干渉抑圧装置410は、マクロセル基地局20と複数のスモールセル基地局30の受信信号Xに基づいて、N個のスモールセル端末10(i)とN個のスモールセル基地局30(j)のアンテナ31との間(スモールセル間)の伝搬路応答hji(i=1~N、j=1~N)、並びに、N個のスモールセル端末10(i)とマクロセル基地局20のアンテナとの間のスモールセル・マクロセル間の伝搬路応答h0i(i=1~N)を測定する。
【0073】
干渉抑圧装置410は、上記スモールセル・マクロセル間の伝搬路応答h0iを集めて次式(12)に示す第1伝搬路応答行列hを作成する。
【数17】
【0074】
更に、干渉抑圧装置410は、上記スモールセル間の伝搬路応答hjiを集めて次式(13)に示す第2伝搬路応答行列Hを作成する。
【数18】
【0075】
また、干渉抑圧装置410は、上記第1伝搬路応答行列h及び上記第2伝搬路応答行列Hに基づいて、次式(14)及び次式(15)に示す、受信ウェイトW を要素として有する行列(以下「ウェイト行列」ともいう。)Wを作成する。例えば、スモールセル300の数Nが8の場合、8×8のフル行列の逆行列を解くことにより、干渉キャンセルウェイト(受信ウェイト)のウェイト行列Wを生成することができる。
【数19】

【数20】
【0076】
[干渉抑制のための信号処理量の低減]
【0077】
図7は、HetNet構成における各スモールセル基地局のアンテナに到来する他スモールセル端末からの信号の一例を示す図である。図7は、1つのマクロセル200の中に4つのスモールセル300(1)~300(4)を配置したHetNet構成の例である。図7に例示するように、複数のスモールセル300(1)~300(4)に在圏するスモールセル端末10(1)~10(4)から送信された上りリンクの送信信号はそれぞれ、在圏スモールセル以外の3つの他のスモールセル基地局のアンテナにも到達し、当該他のスモールセル基地局で受信される。
【0078】
(伝搬路応答行列の逆行列の演算時間)
図7に示すようにマクロセル200の中に複数(N個)のスモールセル300(i)を配置したHetNet構成では、干渉キャンセルウェイト(受信ウェイト)のウェイト行列Wを生成するためにN×Nの伝搬路応答行列Hの逆行列H-1を解く必要あり、スモールセルの数Nが大きくなるにつれ、逆行列H-1の演算処理時間が増大する。
【0079】
(伝搬路応答の推定(測定)時間)
また、上記HetNet構成では、上記干渉キャンセルウェイト(受信ウェイト)のウェイト行列Wの生成に、各スモールセル端末から各基地局への伝搬路応答行列Hを求める必要がある。すなわち、各スモールセルについてスモールセル間の伝搬路応答hjiを推定(測定)する必要がある。従って、スモールセルの数Nが大きくなるにつれ、伝搬路応答hjiの推定(測定)にかかる信号処理量が増大する。
【0080】
特に、上記干渉キャンセルウェイト(受信ウェイト)の計算処理を所定の時間間隔Δt(例えば、10msec又は1msec)ごとに行う場合、上記伝搬路応答行列Hの逆行列H-1の演算処理及び上記伝搬路応答hjiの推定処理が増大すると、所定の時間間隔Δtごとの干渉キャンセルウェイトの計算処理ができなくなり、干渉キャンセラー動作ができなくなる。
【0081】
[信号処理量低減方法1]
第1の信号処理量低減方法では、スモールセル300間の距離及び伝搬路条件により、スモールセル300に在圏する端末から送信された信号が他スモールセルの基地局アンテナに十分な電力で届かないことがある点に着目し、端末からの信号が十分な電力で届かない伝搬路については、干渉抑圧装置での干渉キャンセラー処理から省く。
【0082】
例えば、図8(a)に示すようにスモールセル300(i)、300(j)の間の距離が近い場合など、スモールセル間の干渉が大きい状況では、その干渉をキャンセルする必要があるため、干渉キャンセルウェイトの計算に用いる伝搬路応答行列における当該スモールセル間に対応する伝搬路応答hjiは、推定時(測定時)の値をそのまま用いる。
【0083】
一方、図8(b)に示すようにスモールセル300(i)、300(j)の間の距離が遠い場合など、スモールセル間の干渉が小さい状況では、干渉をキャンセルする必要がないため、干渉キャンセルウェイトの計算に用いる伝搬路応答行列における当該スモールセル間に対応する伝搬路応答hjiを0(ゼロ)で近似する。
【0084】
第1の信号処理量低減方法の具体例では、受信電力に対する所定の第1閾値γthを設定しておき、伝搬路応答hjiの電力が第1閾値γthより小さい場合又は第1閾値γth以下の場合、hji=0に近似する。
【0085】
図9(a)~(c)は、第1の信号処理量低減方法において互いに異なる第1閾値γthを設定した場合の伝搬路応答hjiの近似の具体例を示す図である。なお、図9(a)~(c)はスモールセル300の数が4の場合の例であるが、スモールセル300の数は2、3又は5以上であってもよい。
【0086】
図9(a)の例では、第1閾値γth=0[dB]が設定され、1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナには、2、3、4番のスモールセル300(2)、300(3)、300(4)に在圏する端末10(2)、10(3)、10(4)から信号が到来して干渉していると判定される。そのため、伝搬路応答h12、h13、h14の0(ゼロ)への近似は行われない。
【0087】
図9(b)の例では、第1閾値γth=10[dB]が設定され、1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナには、3番のスモールセル300(3)に在圏する端末10(3)から信号が到来していないと判定される。すなわち、|h13<γthと判定されるため、伝搬路応答h13=0(ゼロ)と近似される。一方、1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナには、2、4番のスモールセル300(2)、300(4)に在圏する端末10(2)、10(4)から信号が到来して干渉するため、伝搬路応答h12、h14の0(ゼロ)への近似は行われない。
【0088】
図9(c)の例では、第1閾値γth=20[dB]が設定され、1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナには、3、4番のスモールセル300(3)、300(4)に在圏する端末10(3)、10(40)から信号が到来していないと判定される。すなわち、|h13<γth及び|h14<γthと判定されるため、伝搬路応答h13=0(ゼロ)及びh14=0(ゼロ)と近似される。一方、1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナには、2番のスモールセル300(2)に在圏する端末10(2)から信号が到来して干渉するため、伝搬路応答h12の0(ゼロ)の近似は行われない。
【0089】
本開示の第1の信号処理量低減方法において、マクロセル内に1番~8番のスモールセル300(i)(i=1~8)が配置され、番号が隣合うスモールセル同士が比較的近くに位置しているとした場合、次式(16)に示すように逆行列を計算するスモールセル間の伝搬路応答hjiの伝搬路応答行列Hは、主対角線とその上下に隣接する対角線にだけ非零の成分を持つ疎行列に近くなる。
【数21】
【0090】
第1閾値γthが小さい場合は、次式(17)の伝搬路応答行列Hに示すように、|hji<γthを満たす伝搬路応答が少なく、hji=0の近似ができる伝搬路応答が少ない。
【数22】
【0091】
第1閾値γthを大きくしていくと、次式(18)の伝搬路応答行列Hに示すように、|hji<γthを満たす伝搬路応答が増加していき、hji=0の近似ができる伝搬路応答が増加し、伝搬路応答行列Hは疎行列である三重対角行列になる。
【数23】
【0092】
更に第1閾値γthを大きくしていくと、次式(19)の伝搬路応答行列Hに示すように、|hji<γthを満たす伝搬路応答が多くなり、hji=0の近似ができる伝搬路応答が増加し、伝搬路応答行列Hは更にゼロ要素が多い疎行列である対角行列になる。伝搬路応答行列Hが対角行列である場合、次式(20)に示すように伝搬路応答行列Hの逆行列の演算量を大幅に削減することができる。
【数24】

【数25】
【0093】
図10は、実施形態に係るシステムの干渉抑圧装置410における干渉キャンセルウェイトの更新処理の一例を示すフローチャートである。図10の干渉キャンセルウェイトの更新処理は、所定の時間間隔Δtごとに実行される。時間間隔Δtは、端末の移動速度などの条件に応じて設定変更してもよい。
【0094】
図10において、干渉抑圧装置410は、マクロセル200内に配置された複数のスモールセルについて、スモールセル端末#iからのチャネル推定用パイロット信号(例えばDMRS)を受信したスモールセル基地局#jの受信信号(参照信号)に基づいて、スモールセル端末#iからスモールセル基地局#jへの伝搬路応答hjiを測定(推定)し(S101)、その伝搬路応答hjiの電力Pjiを計算する(S102)。
【0095】
次に、干渉抑圧装置410は、前記複数のスモールセルについて、伝搬路応答hjiの電力Pjiの計算値と第1閾値γthを比較し(S103)、Pji≦γthの場合は該当の伝搬路応答hjiをゼロ(hji=0)に近似し(S104)、Pji>γthの場合は該当の伝搬路応答hjiをそのままにする(S105)。
【0096】
次に、干渉抑圧装置410は、上記S103~S105で決定した伝搬路応答hjiの値を前述の干渉キャンセルウェイト生成式(例えば上記式(14)、式(15)参照)に代入して更新する(S106)。干渉抑圧装置410は、更新された干渉キャンセルウェイト生成式で生成したウェイトWを用いて、マクロセル上り回線受信干渉キャンセル処理を実行する(S107)。例えば、干渉抑圧装置410は、更新後の干渉キャンセルウェイト生成式で生成したウェイトWと、マクロセル基地局20の受信信号と、複数のスモールセル基地局30の受信信号とに基づいて、各スモールセルからの干渉信号を除去するためのレプリカ信号を生成し、そのレプリカ信号をマクロセル基地局20の受信信号から差し引く。
【0097】
本開示の第1の信号処理量低減方法によれば、スモールセル間の伝搬路応答hjiの電力Pjiに応じて、上記ウェイトWを生成する干渉キャンセルウェイト生成式に含まれるスモールセル間の伝搬路応答行列を上記式(18)及び上記式(19)に示すような疎行列(ゼロの要素が多い行列)に近似することができるので、当該伝搬路応答行列の逆行列を求める計算量が近似前のフル行列を用いる場合よりも削減できる。
【0098】
[信号処理量低減方法2]
第2の信号処理量低減方法では、スモールセル300間の距離及び伝搬路条件により、スモールセル300に在圏する端末から送信された信号が他スモールセルの基地局アンテナに十分な電力で届かないことがある点に着目し、端末10からの信号が十分な電力で届かない伝搬路については伝搬路応答の推定(測定)を行わないように、伝搬路応答の推定(測定)を行うスモールセルの組み合わせを予め決定しておく。
【0099】
例えば、図11(a)に示すようにスモールセル300(i)、300(j)の間の距離が近い場合など、スモールセル端末から所定電力で信号が届くスモールセル間では、当該スモールセル間の伝搬路を無視できないので、伝搬路応答hjiを逐一推定(測定)する。
【0100】
一方、図11(b)に示すようにスモールセル300(i)、300(j)の間の距離が遠い場合など、スモールセル端末から所定電力で信号が届きにくいスモールセル間では、当該スモールセル間の伝搬路応答hjiの推定(測定)を行わず、当該伝搬路応答hjiを予め0(ゼロ)に設定しておく。
【0101】
図12(a)~(d)は、第2の信号処理量低減方法において互いに異なる第2閾値Γthを設定した場合の伝搬路応答hjiの事前設定の具体例を示す図である。なお、図12(a)~(d)はスモールセル300の数が4の場合の例であるが、スモールセル300の数は2、3又は5以上であってもよい。
【0102】
図12(a)のセル設計時、各スモールセル基地局の受信信号に基づいて各スモールセル間の伝搬路応答hjiを予め推定(測定)し、その伝搬路応答hjiの推定結果が所定の第2閾値Γth未満の場合又は第2閾値Γth以下の場合、当該伝搬路応答hjiを0(ゼロ)に事前設定し、運用開始後における干渉キャンセル処理では当該伝搬路の伝搬路応答hjiの推定(測定)処理を行わない。
【0103】
図12(b)の例では、第2閾値Γth=0[dB]が設定され、スモールセル300(1)~300(4)について、セル設計時に事前推定(測定)されたh11、h12、h13、h14の値がすべて第2閾値Γth以上であるため、運用開始時には1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナとすべてのスモールセル300(1)~300(4)に在圏する端末10(1)~10(4)との間の伝搬路応答h11、h12、h13、h14の推定(測定)が行われる。
【0104】
図12(c)の例では、第2閾値Γth=10[dB]が設定され、2つのスモールセル300(1)、300(2)についてのみ、セル設計時に事前推定(測定)されたh11、h12の値が第2閾値Γth以上であるため、運用開始時には1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナとスモールセル300(1)、300(2)に在圏する端末10(1),10(2)との間の伝搬路応答h11、h12についてのみ推定(測定)が行われる。
【0105】
図12(d)の例では、第2閾値Γth=20[dB]が設定され、1つのスモールセル300(1)についてのみ、セル設計時に事前推定(測定)されたh11の値が第2閾値Γth以上であるため、運用開始時には1番目のスモールセル基地局30(1)のアンテナと自スモールセルに在圏する端末との間の伝搬路応答h11についてのみ推定(測定)が行われる。
【0106】
本開示の第2の信号処理量低減方法において、マクロセル内に1番~8番のスモールセル300(i)(i=1~8)が配置され、第2閾値Γthが小さい場合は、次式(21)の伝搬路応答行列Hに示すように、要素数64の伝搬路応答のうち25個の伝搬路応答の推定(測定)処理を削減できる。すなわち、約40%の伝搬路応答の推定(測定)処理を削減できる。
【数26】
【0107】
第2閾値Γthを大きくしていくと、次式(22)の伝搬路応答行列Hに示すように、要素数64の伝搬路応答のうち42個の伝搬路応答の推定(測定)処理を削減できる。すなわち、約65%の伝搬路応答の推定(測定)処理を削減できる。
【数27】
【0108】
更に第2閾値Γthを大きくしていくと、次式(23)の伝搬路応答行列Hに示すように、要素数64の伝搬路応答のうち56個の伝搬路応答の推定(測定)処理を削減できる。すなわち、約85%の伝搬路応答の推定(測定)処理を削減できる。
【数28】
【0109】
図13は、実施形態に係るシステムの干渉抑圧装置410における干渉キャンセルウェイトの更新処理の他の一例を示すフローチャートである。図13において、干渉抑圧装置410は、運用開始前に、マクロセル200内に配置された複数のスモールセルについて伝搬路応答の測定(推定)対象の伝搬路を決定する。
【0110】
まず、干渉抑圧装置410は、マクロセル200内に配置された複数のスモールセルについて、スモールセル端末#iからのチャネル推定用パイロット信号(例えばDMRS)を受信したスモールセル基地局#jの受信信号(参照信号)に基づいて、スモールセル端末#iからスモールセル基地局#jへの伝搬路応答hjiを測定(推定)し(S201)、その伝搬路応答hjiの電力Pjiを計算する(S202)。
【0111】
次に、干渉抑圧装置410は、前記複数のスモールセルについて、伝搬路応答hjiの電力Pjiの計算値と第2閾値Γthを比較し(S203)、Pji≦Γthの場合は該当の伝搬路を伝搬路応答hjiの推定(測定)処理の対象にしないで、該当の伝搬路応答hjiを常時ゼロ(hji=0)にする(S204)。一方、Pji>Γthの場合、干渉抑圧装置410は、該当の伝搬路について、伝搬路応答hjiを逐一推定(測定)する伝搬路応答hjiの推定(測定)処理の対象にする(S205)。
【0112】
次に、干渉抑圧装置410は、所定の時間間隔Δtごとに、伝搬路応答hjiの推定(測定)処理の対象にした伝搬路について、スモールセル端末#iからのチャネル推定用パイロット信号(例えばDMRS)を受信したスモールセル基地局#jの受信信号(参照信号)に基づいて、伝搬路応答hjiの推定(測定)し、干渉キャンセルウェイトの更新処理を実行する(S206)。伝搬路応答hjiの推定(測定)処理の対象でない伝搬路については伝搬路応答hjiの推定(測定)を行わず、hji=0にする(S206)。なお、時間間隔Δtは、端末の移動速度などの条件に応じて設定変更してもよい。
【0113】
干渉抑圧装置410は、上記S206で決定した伝搬路応答hjiの値を前述の干渉キャンセルウェイト生成式(例えば上記式(14)、式(15)参照)に代入して更新する(S207)。干渉抑圧装置410は、更新された干渉キャンセルウェイト生成式で生成したウェイトWを用いて、マクロセル上り回線受信干渉キャンセル処理を実行する。例えば、干渉抑圧装置410は、更新後の干渉キャンセルウェイト生成式で生成したウェイトWと、マクロセル基地局20の受信信号と、複数のスモールセル基地局30の受信信号とに基づいて、各スモールセルからの干渉信号を除去するためのレプリカ信号を生成し、そのレプリカ信号をマクロセル基地局20の受信信号から差し引く。
【0114】
本開示の第2の信号処理量低減方法によれば、マクロセル200内に配置された複数のスモールセルについて、運用開始前に事前に測定したスモールセル間の伝搬路応答hjiの電力Pjiに応じて、運用開始後の伝搬路応答の推定(測定)を行わない伝搬路を決定し、その伝搬路の伝搬路応答hjiを常時ゼロ(hji=0)に設定している。この常時ゼロ(hji=0)の事前設定の伝搬路については、上記パイロット信号の受信信号の測定結果に基づく伝搬路応答の推定を逐一行う必要がないので、伝搬路応答の推定(測定)にかかる信号処理量を低減することができる。
特に、常時ゼロ(hji=0)に事前設定した伝搬路応答hjiが多くなるほど、推定(測定)すべき伝搬路応答の総数が減り、HetNet構成の全体での伝搬路推定のための信号処理量を低減できる。
【0115】
[信号処理量低減方法1、2の組み合わせ]
本実施形態システムにおいて、上記第1の信号処理量低減方法及び上記第2の信号処理量低減方法を組み合わせて実行してもよい。この場合は両者の相乗効果を得ることができる。
【0116】
まず、前述の信号処理量低減方法2により、セル設計時に、スモールセル端末10からの信号が十分な電力で届かない伝搬路については伝搬路応答の推定(測定)を行わないように、上記第2閾値Γthに基づいて、伝搬路応答の推定(測定)を行うスモールセルの組み合わせを予め決定しておく。
【0117】
例えば、スモールセルの数が8の場合、次式(24)に示すフル行列からなる伝搬路応答行列Hの64個の要素のうち、セル設計時に測定したスモールセル端末からのパイロット信号の受信電力が第2閾値Γth以下の要素については、次式(25)に示すように該当する要素の伝搬路応答hjiをゼロ(hji=0)にし、運用開始後に伝搬路応答の推定(測定)処理を行わないようにする。
【数29】

【数30】
【0118】
次に、運用開始後に、前述の信号処理量低減方法2により決められた組み合わせのスモールセルの伝搬路についてスモールセル端末からの受信電力Pを測定し、その受信電力Pが所定の第1閾値γthよりも小さい場合は、該当する伝搬路応答をゼロ(0)で近似する前述の信号処理量低減方法1を実行する。
【0119】
例えば、運用開始後の所定の時間間隔Δtごとに、上記式(25)の伝搬路応答行列においてゼロ(0)以外の33個の要素について伝搬路応答hjiの推定(測定)処理を行い、その伝搬路応答hjiの電力Pjiが第1閾値γth以下の要素について、次式(26)に示すように該当する要素の伝搬路応答hjiをゼロ(hji=0)に近似する。
【数31】
【0120】
このように前述の第1の信号処理量低減方法及び第2の信号処理量低減方法を組み合わせることにより、各方法を単独で行う場合よりも伝搬路応答の推定(測定)のための信号処理量及び干渉キャンセルウェイトの生成の計算量を削減し、全体の計算量を削減することができる。
【0121】
図14は、実施形態に係る干渉抑圧装置410の構成の一例を示すブロック図である。図14において、干渉抑圧装置410は、マクロセル(第1セル)及び複数のスモールセル(第2セル)のうちいずれか一のセルの基地局に対する複数の他セルに在圏する端末からの干渉を抑圧する装置である。干渉抑圧装置410は、例えばコンピュータ又はプロセッサで所定のプログラムが実行されることにより、マクロセル基地局20に対する複数(N)のスモールセル300(i)(i=1~N)に在圏する端末10(i)からの干渉を抑圧する。干渉抑圧装置410は、行列作成部411とウェイト計算部412と受信信号処理部413とを備える。
【0122】
行列作成部411は、前記複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局のアンテナへの複数の第1伝搬路応答を推定し、複数の第1伝搬路応答を要素として含む第1伝搬路応答行列を作成し、複数の他セルのそれぞれに在圏する複数の端末から複数の他セルの基地局のアンテナへの複数の第2伝搬路応答を推定し、複数の第2伝搬路応答を要素として含む第2伝搬路応答行列を作成する。
【0123】
例えば、行列作成部411は、複数のスモールセル(他セル)300(i)のそれぞれに在圏する複数のスモールセル端末10(i)から送信されたパイロット信号を受信したマクロセル基地局20の受信信号(参照信号)に基づいて、複数のスモールセル端末10(i)からマクロセル基地局20のアンテナ21への複数の第1伝搬路応答hを推定し、その複数の第1伝搬路応答hを要素として含む第1伝搬路応答行列hを作成する。更に、行列作成部411は、複数のスモールセル端末10(i)から送信されたパイロット信号を受信した複数のスモールセル基地局30(i)の受信信号(参照信号)に基づいて、複数のスモールセル端末10(i)から複数のスモールセル300(j)(j=1~N)の基地局30(j)のアンテナ31への複数の第2伝搬路応答hjiを推定し、その複数の第2伝搬路応答hjiを要素として含む第2伝搬路応答行列Hを作成する。
【0124】
更に、行列作成部411は、前記逆行列H-1を計算する前の第2伝搬路応答行列Hに含まれる複数の第2伝搬路応答hjiのうち、所定の閾値γth以下又は閾値γth未満の大きさの電力を有する第2伝搬路応答をゼロにする。
【0125】
また、行列作成部411で作成される第2伝搬路応答行列Hの複数の第2伝搬路応答hjiのうち、マクロセル上り回線の受信信号に対する干渉への寄与が小さいと予想される第2伝搬路応答hjiを予めゼロに設定しておいてもよい。例えば、複数のスモールセル基地局30(i)の運用開始前に複数の第2伝搬路応答hjiの推定を行い、その複数の第2伝搬路応答hjiのうち、第2伝搬路応答hjiの電力Pjiの計算値が所定の閾値Γth以下又は閾値Γth未満の第2伝搬路応答hjiをゼロに設定しておく。また例えば、複数のスモールセル基地局30(i)間の位置関係又は複数のスモールセル300(i)間の位置関係に基づいて、予めゼロに設定しておく第2伝搬路応答hjiを決定しておいてもよい。行列作成部411は、第2伝搬路応答行列Hの複数の第2伝搬路応答hjiのうち、前記予めゼロに設定した第2伝搬路応答hjiの推定を行わない。
【0126】
また、前記マクロセル上り回線の受信信号に対する干渉への寄与が小さいと予想される第2伝搬路応答hjiを予めゼロに設定した場合、行列作成部411は、更に、第2伝搬路応答行列Hの複数の第2伝搬路応答hjiのうち、前記予めゼロに設定した第2伝搬路応答hjiの推定を行わず、前記予めゼロに設定していない複数の第2伝搬路応答のうち、前記第2伝搬路応答の電力の計算値が所定の閾値γth以下又は閾値γth未満の第2伝搬路応答をゼロに修正してもよい。
【0127】
ウェイト計算部412は、第2伝搬路応答行列Hの逆行列H-1を計算し、その第2伝搬路応答行列の逆行列H-1と第1伝搬路応答行列hとに基づいて、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した受信信号に適用する複数の受信ウェイトWを計算する。
【0128】
例えば、ウェイト計算部412は、第2伝搬路応答行列Hの逆行列H-1を計算し、その第2伝搬路応答行列の逆行列H-1と第1伝搬路応答行列hとに基づいて、複数のスモールセル基地局30(i)のアンテナ31で受信した受信信号に適用する複数の受信ウェイトWiを計算する。
【0129】
受信信号処理部413は、前記一のセルの基地局のアンテナで受信した受信信号と、前記複数の他セルの基地局のアンテナで受信した複数の受信信号と、前記複数の受信ウェイトとに基づいて、前記複数の他セルに在圏する複数の端末から前記一のセルの基地局の上り回線への干渉を抑圧する。
【0130】
例えば、受信信号処理部413は、マクロセル基地局20のアンテナ21で受信した受信信号X(0)と、複数のスモールセル基地局30(i)のアンテナ31で受信した複数の受信信号X(i)と、複数の受信ウェイトWiとに基づいて、複数のスモールセル端末10(i)からマクロセル基地局20の上り回線への干渉を抑圧する。
【0131】
なお、図14は、マクロセル基地局20に対する複数(N)のスモールセル300(i)(i=1~N)に在圏する端末10(i)からの干渉を抑圧する干渉抑圧装置410について例示しているが、干渉抑圧装置410は、複数のスモールセル300(i)のうちいずれか一のスモールセルの基地局に対する他のスモールセルに在圏する端末10(i)及びマクロセル200に在圏する端末10(0)からの干渉を抑圧する装置であってもよい。
【0132】
以上、本実施形態によれば、マクロセル内に複数のスモールセルを配置したHetNet構成においてマクロセル基地局が受信する上り回線の受信信号に対するスモールセルからの干渉の抑制できるとともに、その干渉の抑制のための受信ウェイト計算のための信号処理量を低減、また計算に必要なセル全体での第2伝搬路応答の測定数を削減する。
【0133】
本発明は、マクロセル内に複数のスモールセルを配置したHetNet構成において基地局の信号処理量の負荷低減を図りつつマクロセル上り回線受信干渉を抑制可能なシステムを提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0134】
なお、本明細書で説明された処理工程並びにシステム、干渉抑圧装置、無線装置、基地局、無線中継局(フィーダ局)及び端末(ユーザ装置、移動局、移動機)の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの処理工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0135】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種の無線通信装置、無線中継装置、NodeB、サーバ、ゲートウェイ、交換機、コンピュータ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0136】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0137】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であれよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0138】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0139】
10 :端末
20 :マクロセル基地局
21 :アンテナ
30 :スモールセル基地局
31 :アンテナ
40 :協調制御ネットワーク
50 :通信回線
200 :マクロセル
300 :スモールセル
400 :協調制御ネットワーク
410 :干渉抑圧装置
411 :行列作成部
412 :ウェイト計算部
413 :受信信号処理部
420 :受信機
430 :受信機
【要約】
【課題】第1セル内に小さいサイズの複数の第2セルが配置されたHetNet構成において、いずれかの一のセルの基地局の上り回線の受信信号に対する他セルからの干渉を抑制するための信号処理量を低減する。
【解決手段】干渉抑圧装置は、複数の第2セルの端末から第1基地局への複数の第1伝搬路応答を含む第1伝搬路応答行列を作成し、複数の第2セルの端末から複数の第2基地局への複数の第2伝搬路応答を含む第2伝搬路応答行列を作成し、第2伝搬路応答行列の逆行列と第1伝搬路応答行列とに基づいて複数の受信ウェイトを計算し、第1基地局の受信信号と複数の第2基地局の受信信号と複数の受信ウェイトとに基づいて第1基地局の上り回線への干渉を抑圧する。干渉抑圧装置は、前記逆行列を計算する前の第2伝搬路応答行列に含まれる複数の第2伝搬路応答のうち、所定の閾値以下又は前記閾値未満の大きさの電力を有する第2伝搬路応答をゼロにする。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14