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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ハマグリ活性ペプチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/12 20060101AFI20240118BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20240118BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240118BHJP
   C07K 2/00 20060101ALI20240118BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C07K1/12
C07K1/02
C07K1/14
C07K2/00
C12P21/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022543690
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 CN2020076042
(87)【国際公開番号】W WO2021142880
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】202010047257.8
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522285624
【氏名又は名称】チンタオ チェンランド バイオロジカル テクノロジー シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO CHENLAND BIOLOGICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】522285635
【氏名又は名称】チェンランド ニュートリショナルズ,インク.
【氏名又は名称原語表記】CHENLAND NUTRITIONALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カオ,チンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ファン
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,シェンカン
(72)【発明者】
【氏名】フェン,グオジュナン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジンリ
(72)【発明者】
【氏名】ル,シィウ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ゼンリャン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105192722(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106636271(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106084013(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新鮮なハマグリ肉を水で洗浄し、水を加えてコロイドミルにより均質化してハマグリ肉スラリーを製造する工程と、
水と複合プロテアーゼを加えてハマグリ肉スラリーを酵素分解させ、酵素分解後に酵素を失活するために加熱する工程と、
遠心分離して酵素加水分解液体を回収し、精密ろ過膜-限外ろ過膜-ナノろ過膜でろ過して分子量2KDa以下の酵素加水分解液体を採取し、乾燥させてハマグリ活性ペプチドを得る工程とを含み、
前記複合プロテアーゼが中性プロテアーゼと、アルカリ性プロテアーゼと、風味プロテアーゼとからなり、
各酵素の添加割合が中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼとして2:1:1であり、
前記複合プロテアーゼの添加量がハマグリ肉スラリーの質量に対する0.1~0.3%であり、
複合プロテアーゼを十分に利用し、酵素分解を完全にするように、前記酵素分解中に連続的に攪拌する、ハマグリ活性ペプチドの製造方法。
【請求項2】
前記酵素分解に用いられるハマグリ肉と水との重量比が1:1~1:3である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ハマグリ肉が紅島ハマグリ肉であり、
前記洗浄が脱イオン水による洗浄であり、
前記均質化には、ハマグリ肉:水の重量比を1:1として、脱イオン水を加え、
前記コロイドミルによる均質化中には、コロイドミルの粒子の隙間が0~5に制御され、ハマグリ肉の粒子サイズが小さく均一になるようにする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酵素分解が、自然のpH条件下、50~60℃で4~6時間酵素分解することである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酵素を失活するための加熱が、酵素加水分解液体を85℃に加熱して10分間保持することである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記遠心分離が、酵素加水分解液体を40℃以下に冷却し、200~300メッシュのふるいに通液してろ過した後、16000r/minで遠心分離することである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥が、膜ろ過後のろ液を乾燥塔に移送して噴霧乾燥することである、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2020年01月16日に中国特許庁に提出され、出願番号202010047257.8、発明の名称が「ハマグリ活性ペプチドの製造方法」である中国特許出願に基づいた優先権を主張するものであり、その全内容を本願に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生物技術分野に属し、具体的にハマグリ活性ペプチドの製造方法に関し、特にハマグリ活性ペプチドの大規模な工業生産に適する製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ハマグリは中国の4つの主要な養殖貝の1つであり、資源が豊富である。ハマグリは美味しく、高タンパク質、高ビタミン、低脂肪かつ人体に必要な10種類以上のアミノ酸やミネラルを含むという栄養特性を持ち、食品としても医薬品としても用いられる二枚貝の一種であり、栄養が高く、低コストで認識される健康的な食品になっている。中国では、ハマグリは、主に新鮮な食材及び乾燥製品に作られ、業界で加工レベルが低くて製品の種類が少ないという問題がますます出てきた。高品質の海産物に対する消費者の要望が高まるにつれ、従来の加工技術が遅れて人間のニーズを満たすことができなくなっている。そこで、ハマグリの付加価値を高める加工や高値の利用を実現し、様々なより優れる機能性ハマグリ製品を開発することは、ハマグリ業界における大きな機会及び深刻な課題となっている。
【0004】
海洋資源がますます利用されて来るにつれ、生物酵素分解技術により得られる海洋生物由来の小さなペプチドは、その分子量が小さく、生物学的力価が高く、生理学的活性が良く、安定性が良く、安全かつ持ちやすいという利点により広く注目されている。これまで、国内市場ではナマコペプチド、カキペプチド、アワビペプチド、コラーゲンペプチドなどの物質が大量に販売されているが、ハマグリペプチド及び関連するハマグリ抽出物の製品の販売がまだ見られていない。
【0005】
海洋生物から活性物質を抽出する研究も報告されてきた。現代の研究により、海洋生物抽出物は免疫力の改善、抗腫瘍、血圧の低下、抗菌、細胞内の小核形成の阻害、アテローム性動脈硬化症への抵抗などの作用があることが証明されている。従って、近年、海洋生物活性ペプチドの製造及びその活性物質の作用メカニズムに関する研究は注目されてきた。現在、酵素分解方法を利用して陸上生物タンパク質及びカキ、ナマコ、海洋魚などの海洋生物タンパク質から大量の機能性活性ペプチドが得られるが、ハマグリタンパク質を酵素分解してポリペプチドを得ることに関する報告は比較的少ない。ハマグリタンパク質の酵素分解に関する既存の報告で使用される酵素調製物には、ペプシンや、トリプシン、パパイン、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、動物加水分解プロテアーゼなどが含まれるが、複合プロテアーゼによる紅島ハマグリ肉のタンパク質の酵素分解によるポリペプチドの抽出に関する研究はまだ報告されていない。
【0006】
「ハマグリ活性ペプチドの抽出方法」(中国出願番号20161117416.8)という特許文献には、凝集-遠心分離-デキスタンゲルカラム分離及び酵素分解-デキスタンゲルカラム分離の2つの方法によってポリペプチドが得られるが、ゲルカラム分離のプロセスを大規模生産に適用することが困難である。「ハマグリペプチドの抽出方法」(中国出願番号20161117416.8)という特許文献には、水酸化ナトリウムによるpH調整、酵素分解、抽出、酵素失活、遠心分離、ろ過・吸着、ナノろ過分離・濃縮、乾燥を順次に含む酵素分解法が実施されているが、反応過程が複雑で、大規模生産のコストが高く、水酸化ナトリウムなどの化学品がプロセスに追加されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、先行技術に存在する欠陥に対してハマグリ活性ペプチドの大規模な工業生産に適する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を実現するために、本発明は以下の技術案を採用する:
【0009】
新鮮なハマグリ肉を水で洗浄し、水を加えてコロイドミルにより均質化してハマグリ肉スラリーを製造する工程と、水と複合プロテアーゼを加えてハマグリ肉スラリーを酵素分解させ、酵素分解後に酵素を失活するために加熱する工程と、遠心分離して酵素加水分解液体を回収し、精密ろ過膜-限外ろ過膜-ナノろ過膜でろ過して、分子量2KDa以下の酵素加水分解液体を採取し、乾燥させてハマグリ活性ペプチドを得る工程とを含むハマグリ活性ペプチドの製造方法。
【0010】
本発明では、新鮮なハマグリ肉を原料とし、複合酵素-膜カップリング技術を採用し、酵素分解、膜分離精製、乾燥などの加工技術を通じて色が純粋で、食感に優れ、血圧低下機能活性を有し、人体に吸収されやすいハマグリ活性ペプチドを製造し、ハマグリ肉の高付加価値を図る。
【0011】
本発明においては、前記の製造方法における前記複合プロテアーゼが中性プロテアーゼと、アルカリ性プロテアーゼと、風味プロテアーゼ(flavoursome)とからなり、各酵素の添加割合が中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼとして2:1:1である。
【0012】
本発明においては、前記の製造方法における前記複合プロテアーゼの添加量がハマグリ肉スラリーの質量に対して0.1~0.3%であり、また、前記酵素分解中には、複合プロテアーゼを十分に利用して酵素分解を完全にするように、連続的に攪拌する。
【0013】
本発明においては、前記の製造方法における前記酵素分解に用いられるハマグリ肉と水との重量比は1:1~1:3である。
【0014】
本発明においては、前記の製造方法における前記ハマグリ肉は紅島ハマグリ肉である。
【0015】
本発明においては、前記の製造方法における前記洗浄は脱イオン水による洗浄である。
【0016】
本発明においては、前記の製造方法における前記均質化は、ハマグリ肉:水=1:1の重量比で均質化するものである。
【0017】
本発明においては、前記の製造方法において、脱イオン水を加え、また、前記コロイドミルによる均質化中にコロイドミルの粒子の隙間が0~5に制御され、ハマグリ肉の粒子サイズが小さく均一になるようにする。
【0018】
本発明においては、前記の製造方法における前記酵素分解は、自然のpH条件下、50~60℃で4~6時間酵素分解することである。
【0019】
本発明においては、前記の製造方法における前記酵素を失活するための加熱は、酵素加水分解液体を85℃に加熱して10分間保持することである。
【0020】
本発明においては、前記の製造方法における前記遠心分離は、酵素加水分解液体を40℃以下に冷却し、200~300メッシュのふるいに通液してろ過した後、16000r/minで遠心分離することである。
【0021】
本発明においては、前記の製造方法における前記乾燥は、膜ろ過後のろ液を乾燥塔に移送して噴霧乾燥することである。前記噴霧乾燥の温度が150~180℃であり、それより、粉末を瞬時に乾燥させることができる。
【0022】
上記の工業生産方法は、条件が穏やか、制御が容易であり、得られるハマグリ活性ペプチドは、風味が純粋、分子量が小さく、吸収されやすく、品質がより高い。従って、本発明では、さらに、前記製造方法によって製造されるハマグリ活性ペプチドが提供される。
【発明の効果】
【0023】
先行技術と比較して、本発明は以下の有益な効果の少なくとも1つを有する。
【0024】
(1)先行技術では、ハマグリ活性ペプチドを抽出する際に、一般にプロセスが複雑で、製造コストが高く、サイクルが長く、一般に実験室での製造に適しており、工業生産には適していない。それに対して、本発明に係る製造方法では、プロセスが簡単で、条件が穏やかで、サイクルが短く、無機又は有機溶剤を一切添加せず、エネルギー消費が低く、収率が高く、工業生産により適している。
【0025】
(2)先行技術では、パパイン(エンドヌクレアーゼ)、中性プロテアーゼ(エンドヌクレアーゼ)、風味プロテアーゼ(エキソヌクレアーゼ)などの単一酵素が酵素調製物として主に使用されており、それより得られる酵素加水分解液体は、タンパク質回収率が低く、ハマグリ活性ペプチドの平均相対分子質量が比較的大きく、相対分子質量が1000U未満のタンパク質加水分解物の割合が小さく、ポリペプチド含有量が低い。それに対して、本発明では、複合酵素-膜カップリング技術を採用して複合プロテアーゼを用いてハマグリ肉中のタンパク質を加水分解することで得られたハマグリ酵素加水分解液体によれば、タンパク質回収率が90%と高く(即ち、酵素加水分解液体中の有効成分が高い)、収率が高く、相対分子質量が1000U未満のタンパク質加水分解物の割合が90%より大きく、ポリペプチド含有量が80%を超え、製品の品質合格率が高い。また、複合プロテアーゼによるハマグリ肉の酵素分解によって得られる酵素加水分解液体を、さらに遠心分離-膜ろ過(精密ろ過-限外ろ過-ナノろ過)-乾燥技術によって処理することで得られた酵素加水分解液体では、脱色脱臭及びさらなる精製濃縮などの処理が不要になり、プロセス過程が簡単となり、また、活性炭や活性炭繊維などによる脱色脱臭が不要になり、大量の固形廃棄物の発生も防ぎ、生産効率が高く、コストが低く、工業生産により適している。
【0026】
(3)本発明によれば製造されるハマグリ活性ペプチドは、主にテトラペプチド~ヘキサペプチドであり、高いACE阻害活性を有し、ACE阻害率が85%に達し、血圧低下機能活性が高い。
【0027】
(4)本発明によれば製造されるハマグリ活性ペプチドは、光沢や色が純粋で、ほぼ白色を呈し、魚臭がなく、他の異臭もなく、風味に優れ、食感がよく、官能評価が高く、消費者により好まれる。そして、ハマグリ活性ペプチドでは、分子量が小さく、人体に吸収されやすく、また、遊離アミノ酸や、タウリン、セレンなどの栄養成分が豊富に含まれ、ハマグリ肉の高付加価値が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の実施例又は先行技術における技術案をより明確に説明するために、実施例又は先行技術において使用される図面を以下に簡単に紹介する。
【0029】
図1図1は、実施例1における異なるプロテアーゼによりハマグリ肉を酵素分解する場合のタンパク質の回収率を示す。
図2図2は、実施例1における異なるプロテアーゼによる酵素分解条件下での酵素加水分解液体中のポリペプチド含有量及び相対分子質量が1000U未満であるものの割合を示す。
図3図3は、実施例2で得られたハマグリ活性ペプチドサンプルのクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明では、ハマグリ活性ペプチドの製造方法が開示される。当業者なら、本明細書を参照してプロセスパラメータを適切に改善して実現することができる。特に、すべての同様の置換及び修正は、当業者にとって明らかであり、本発明に含まれると見なされることに留意されたい。本発明の方法及び製品は、好ましい実施形態で説明してきたが、関連者なら、本発明の内容、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法を修正又は適切に変更及び組み合わせることにより本発明の技術を実現及び適用できることが明らかである。
【0031】
本発明の目的を実現するために、本発明は以下の技術案を採用する。
【0032】
新鮮なハマグリ肉を水で洗浄し、水を加えてコロイドミルにより均質化してハマグリ肉スラリーを製造する工程と、水と複合プロテアーゼを加えてハマグリ肉スラリーを酵素分解させ、酵素分解後に酵素を失活するために加熱する工程と、遠心分離して酵素加水分解液体を回収し、精密ろ過膜-限外ろ過膜-ナノろ過膜でろ過して、分子量2KDa以下の酵素加水分解液体を採取し、乾燥させてハマグリ活性ペプチドを得る工程とを含むハマグリ活性ペプチドの製造方法。
【0033】
いくつかの実施形態においては、前記の製造方法における前記ハマグリ肉は紅島ハマグリ肉である。新鮮な紅島ハマグリ肉を酵素分解の基質として用いる。このハマグリ肉は、供給源の信頼性が高く、安全で、栄養価が高く、重金属などの有害物質の含有量が極めて低い。
【0034】
本発明による製造方法においては、新鮮なハマグリ肉をまず水で洗浄して前処理して、ハマグリ肉の表面の不純物を除去する。新鮮なハマグリ肉自体には、遊離アミノ酸、ビタミン、亜鉛、セレンなどの栄養成分が豊富に含まれるので、前処理での洗浄が適切でないと、多量の栄養成分が失われる恐れがある。本発明に係る洗浄には、脱イオン水で洗浄した後、少し水切りをする。脱イオン水のみでハマグリ肉の表面を簡単に洗浄すれば、不純物を洗い流すことができ、次に洗浄後のハマグリ肉を少し水切りをすればよい。本発明では、洗浄及び水切り乾燥をしすぎないことによって、ハマグリ肉中の水分及び栄養成分が失われないように確保することができる。本発明に係る製造方法における前処理の過程では、プロセスが簡単で、便利で、操作が容易である。
【0035】
本発明においては、前記の製造方法における前記コロイドミルによる均質化に用いられるハマグリ肉と水との重量比は1:1である。ここで、いくつかの実施形態においては、前記水は脱イオン水である。
【0036】
さらに、本発明においては、前記コロイドミルによる均質化中には、コロイドミルの粒子の隙間が0~5に制御される。それにより、ハマグリ肉の粒子サイズが小さくて均一になり、また、得られるハマグリ肉スラリーが繊細で複合プロテアーゼによる加水分解に利用されやすくすることが図れる。
【0037】
エンドヌクレアーゼは、タンパク質分子の中間からホスホジエステル結合を加水分解して二本鎖のタンパク質を切断する核酸加水分解酵素であるが、エキソヌクレアーゼはタンパク質分子の末端から切断しなければならないものである。本発明に係る製造方法では、複合プロテアーゼを用いて酵素分解を行う。前記複合プロテアーゼは、中性プロテアーゼと、アルカリ性プロテアーゼと、風味プロテアーゼとからなり、様々なエンドヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼとの複合酵素であり、酵素切断部位が多いので、ハマグリ肉中のタンパク質に対して完全に酵素分解し、ハマグリ肉中のタンパク質の回収率を高め、酵素加水分解液体の平均相対分子質量を下げ、次の膜ろ過プロセスを便利にすることができる。本発明に係る複合プロテアーゼを用いた酵素分解によれば、ハマグリ活性ペプチド製品の品質を確保するし、製品の収率を大幅に向上させるし、経済的利益を増加させることができる。
【0038】
本発明においては、前記複合プロテアーゼにおける各酵素の添加割合は、中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼとして2:1:1である。
【0039】
本発明においては、前記の製造方法における酵素分解中での前記複合プロテアーゼの添加量は、ハマグリ肉スラリーの質量に対する0.1~0.3%である。いくつかの実施形態においては、前記複合プロテアーゼの添加量は、ハマグリ肉スラリーの質量に対する0.13%である。いくつかの実施形態においては、前記複合プロテアーゼの添加量は、ハマグリ肉スラリーの質量に対する0.2%である。いくつかの実施形態においては、前記複合プロテアーゼの添加量は、ハマグリ肉スラリーの質量に対する0.3%である。
【0040】
本発明においては、前記の製造方法における前記酵素分解に用いられるハマグリ肉と水との重量比は1:1~1:3である。いくつかの実施形態においては、前記酵素分解に添加される水は脱イオン水である。
【0041】
本発明においては、前記の製造方法における前記酵素分解は、自然のpH条件下、50~60℃で4~6時間酵素分解するものである。いくつかの実施形態においては、前記酵素分解は、具体的には、均質化して得られるハマグリ肉スラリーを基質とし、基質を酵素分解タンクに移送し、脱イオン水を加え、酵素分解タンクの温度を50~60℃に上げ、複合プロテアーゼを加え、自然のpH条件下で4~6時間酵素分解するものである。本発明に係る酵素分解中では、自然のpHを採用し、塩酸や水酸化ナトリウムなどの化学試薬を添加してハマグリ肉スラリーのpHを調整する必要がなく、プロセスが簡単で、操作条件が穏やかで、制御が容易で、化学試薬を一切添加せず、エネルギー消費が低く、コストが低い。
【0042】
さらに、本発明に係る酵素分解中には、連続的に攪拌を行うことによって、複合プロテアーゼが十分に利用され、酵素分解が完全に行われることが確保される。
【0043】
本発明に係る製造方法では、酵素分解後に酵素を失活するための加熱を行う。本発明においては、前記酵素を失活するための加熱は、酵素加水分解液体を85℃に加熱し、10分間保持するものである。失活温度及び時間としては、前記の値を超えないと、酵素加水分解液体が十分に失活されることを確保するし、高温での酵素加水分解液体の自体がメイラード反応を発生して、酵素加水分解液体中の栄養物質を低下させ、酵素加水分解液体の色を深くし、最終的にハマグリ活性ペプチドの品質に悪影響を及ぼすことも回避できる。
【0044】
本発明に係る製造方法では、酵素失活後に遠心分離して酵素加水分解液体を回収する。いくつかの実施形態においては、前記遠心分離は、酵素加水分解液体を40℃以下に冷却し、200~300メッシュのふるいに通液してろ過した後、16000r/minで遠心分離するものである。
【0045】
さらに、遠心分離後の酵素加水分解液体を膜ろ過に通液し、分子量2KDa以下の酵素加水分解液体を採取する。具体的には、前記膜ろ過は、精密ろ過膜-限外ろ過膜-ナノろ過膜ろ過である。
【0046】
本発明においては、前記の製造方法における前記乾燥は、膜ろ過後のろ液を乾燥塔に移送して噴霧乾燥するものである。前記噴霧乾燥の温度は150~180℃であれば、粉末を瞬時乾燥することが図れる。
【0047】
従来の技術では、例えば遠心分離-プレート・フレーム圧力ろ過-限外ろ過-ナノろ過-負圧濃縮-噴霧乾燥、遠心分離-限外ろ過-減圧下での濃縮-噴霧乾燥、遠心分離-樹脂ろ過及び吸着-ナノろ過-濃縮-噴霧乾燥などのプロセスが採用されることに対して、本発明では酵素加水分解液体の遠心分離-膜ろ過-噴霧乾燥のプロセスが採用され、プロセスが簡単で、操作が容易で、コストが低く、工業生産により適している。また、本発明のプロセス方法によって得られるハマグリ活性ペプチド製品は、色が純粋で、風味に優れ、品質が高く、脱色脱臭及びさらなる精製濃縮などの操作プロセスを行う必要がない。
【0048】
本発明に係る製造方法は、条件が穏やか、制御が容易である。得られるハマグリ活性ペプチドは、風味が純粋、分子量が小さく、主にテトラペプチド~ヘキサペプチドであり、血圧低下機能を有し、吸収されやすく、品質がより高い。このように、本発明では、さらに、前記製造方法によって製造されるハマグリ活性ペプチドが提供される。
【0049】
先行技術と比較して、本発明は以下の有益な効果の少なくとも1つを有する:
【0050】
(1)先行技術では、ハマグリ活性ペプチドを抽出する際に、一般にプロセスが複雑で、製造コストが高く、サイクルが長く、一般に実験室での製造に適しており、工業生産には適していない。それに対して、本発明に係る製造方法では、プロセスが簡単で、条件が穏やかで、サイクルが短く、無機又は有機溶剤を一切添加せず、エネルギー消費が低く、収率が高く、工業生産により適している。
【0051】
(2)先行技術では、パパイン(エンドヌクレアーゼ)、中性プロテアーゼ(エンドヌクレアーゼ)、風味プロテアーゼ(エキソヌクレアーゼ)などの単一酵素が酵素調製物として主に使用されており、それより得られる酵素加水分解液体は、タンパク質回収率が低く、ハマグリ活性ペプチドの平均相対分子質量が比較的大きく、相対分子質量が1000U未満のタンパク質加水分解物の割合が小さく、ポリペプチド含有量が低い。それに対して、本発明では、複合酵素-膜カップリング技術を採用して複合プロテアーゼを用いてハマグリ肉中のタンパク質を加水分解することで得られたハマグリ酵素加水分解液体によれば、タンパク質回収率が90%と高く(即ち、酵素加水分解液体中の有効成分が高い)、収率が高く、相対分子質量が1000U未満のタンパク質加水分解物の割合が90%より大きく、ポリペプチド含有量が80%を超え、製品の品質合格率が高い。また、複合プロテアーゼによるハマグリ肉の酵素分解によって得られる酵素加水分解液体を、さらに遠心分離-膜ろ過(精密ろ過-限外ろ過-ナノろ過)-乾燥技術によって処理することで得られた酵素加水分解液体では、脱色脱臭及びさらなる精製濃縮などの処理が不要になり、プロセス過程が簡単となり、また、活性炭や活性炭繊維などによる脱色脱臭が不要になり、大量の固形廃棄物の発生も防ぎ、生産効率が高く、コストが低く、工業生産により適している。
【0052】
(3)本発明によれば製造されるハマグリ活性ペプチドは、主にテトラペプチド~ヘキサペプチドであり、高いACE阻害活性を有し、ACE阻害率が85%に達し、血圧低下機能活性が高い。
【0053】
(4)本発明によれば製造されるハマグリ活性ペプチドは、光沢や色が純粋で、ほぼ白色を呈し、魚臭がなく、他の異臭もなく、風味に優れ、食感がよく、官能評価が高く、消費者により好まれる。そして、ハマグリ活性ペプチドでは、分子量が小さく、人体に吸収されやすく、また、遊離アミノ酸や、タウリン、セレンなどの栄養成分が豊富に含まれ、ハマグリ肉の高付加価値が図れる。
【0054】
本発明をさらに理解するために、以下に、本発明実施例を参照して本発明の実施例における技術案を明確かつ完全に説明する。なお、説明される実施例は本発明の一部の実施形態にすぎず、すべての実施例ではないことは明らかである。本発明における実施例に基づいて、創造的な作業なしに当業者が得た他のすべての実施例は、本発明の保護の範囲に属するものである。
【0055】
特に断りのない限り、本発明の実施例に係る試薬はすべて市販品であり、販売チャネルより購入することができる。
【0056】
ここで、ACE阻害率の検出方法では、具体的には100μLの5.0mmol/Lのヒップリル-ヒスチジル-ロイシン(N-Hippuryl-His-Leu hydrate、HHL)溶液と30μLのハマグリペプチド液(ACEI)を混合し、37℃の水浴に10min放置し、次に10μLの0.1U/mLのACE酵素溶液を加え、混合後に37℃で水浴反応を30min続け、次に反応系に250μLの1mol/LのHClを加えて反応を停止させ、さらに1.2mLの冷凍酢酸エチルを加えて生成した馬尿酸を抽出し、ボルテックス振動でよく混合した後、3500r/minで5分間遠心分離し、1.0mLの酢酸エチル層を吸引し、90℃のオーブンで1時間乾燥させ、冷却後に4mLの蒸留水を加えて十分に溶解させ、ボルテックス混合後に228nmの波長で吸光値OD228を測定した。並行対照群では、反応の前に先に250μLの1mol/LのHClを加えて反応を停止した以外、他の操作ステップが実験群と同様であり、測定を3回繰り返し、結果の平均値を求めた。具体的な操作ステップを表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
計算式は次のとおりである:
【0059】
【数1】
【0060】
式中:Aaは、ACEとその阻害剤の両方が反応に存在する場合のHHLとの反応の吸光度値で、Abは、ACE阻害剤が反応に含まれていない場合のACE酵素とHHLの反応の吸光度値で、Acは、ACEとHHLのブランク反応の吸光度値である。
【0061】
タンパク質回収率の測定方法:GB 5009.5「食品安全国家基準 食品中のタンパク質の測定」におけるケルダール法と呼ばれる第一法に従って、原料となるハマグリ肉中のタンパク質含有量a1とハマグリ活性ペプチド粉末中のタンパク質含有量b1をそれぞれ測定した。本発明の方法に従ってハマグリ活性ペプチドを製造し、新鮮なハマグリ肉の供給量A1とハマグリ活性ペプチド粉末の回収量B1を記録した。ハマグリ活性ペプチド粉末のタンパク質の回収率Xを下記の式より計算した。
【0062】
【数2】
【0063】
実施例1:異なるプロテアーゼによる酵素分解の効果の比較
生肉:紅島ハマグリ肉
試験酵素:中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、パパイン、複合プロテアーゼ
酵素分解のプロセスフロー:冷凍の紅島ハマグリ肉を解凍した後、ハマグリ肉:水=1:1の重量比で脱イオン水を加えて均質化した。中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、パパイン、複合プロテアーゼ(処方は中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼ=2:1:1であった)の酵素分解温度を50℃として、酵素添加量をハマグリ肉スラリーの0.13%とし、pHを自然のpH値にした。一定温度で6時間酵素分解し、85℃で酵素を10分間失活し、4000r/minで30分間遠心分離し、上澄みを取った。
【0064】
【表2】
【0065】
表2の結果から、スクリーニングされる4種類のタンパク質加水分解酵素のうちには、パパイン、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼに比べて、複合プロテアーゼによる加水分解したハマグリ酵素加水分解液体からのタンパク質の回収率、ポリペプチドの含有量、相対分子質量が1000U未満であるタンパク質加水分解物の割合が大きく、複合プロテアーゼによって加水分解したハマグリ酵素加水分解液体の平均相対分子質量が最小であったことが分かった。従って、加水分解酵素は複合プロテアーゼが好ましい。
【0066】
実施例2:本発明に係るハマグリ活性ペプチドの工業生産方法
生肉:紅島ハマグリ肉
試験酵素:複合プロテアーゼ
酵素分解プロセスフロー:冷凍の紅島ハマグリ肉を解凍した後、ハマグリ肉:水=1:1の重量比で脱イオン水を加えて均質化し、最終的にハマグリ肉:水=1:2の重量比になるように、ハマグリ肉スラリーに一定量の脱イオン水を加えた。複合プロテアーゼ(処方は中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼ=2:1:1であった)の酵素分解温度を50℃とし、酵素添加量をハマグリ肉スラリーの0.13%とし、pHを自然のpH値にした。一定温度下で4時間酵素分解し、85℃で酵素を10分間失活し、16000r/minで遠心分離し、上澄みを膜ろ過し、噴霧乾燥させてハマグリ活性ペプチドを得た。
【0067】
実施例3:本発明に係るハマグリ活性ペプチドの工業生産方法
生肉:紅島ハマグリ肉
試験酵素:複合プロテアーゼ
酵素分解プロセスフロー:冷凍の紅島ハマグリ肉を解凍した後、ハマグリ肉:水=1:1の重量比で脱イオン水を加えて均質化し、最終的にハマグリ肉:水=1:3の重量比になるように、ハマグリ肉スラリーに一定量の脱イオン水を加えた。複合プロテアーゼ(処方は中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼ=2:1:1であった)の酵素分解温度を50℃とし、酵素添加量をハマグリ肉スラリーの0.13%とし、pHを自然のpH値にした。一定温度下で4時間酵素分解し、85℃で酵素を10分間失活し、16000r/minで遠心分離し、上澄みを膜ろ過し、噴霧乾燥させてハマグリ活性ペプチドを得た。
【0068】
実施例4:本発明に係るハマグリ活性ペプチドの工業生産方法
生肉:紅島ハマグリ肉
試験酵素:複合プロテアーゼ
酵素分解プロセスフロー:冷凍の紅島ハマグリ肉を解凍した後、ハマグリ肉:水=1:1の重量比で脱イオン水を加えて均質化し、最終的にハマグリ肉:水=1:2の重量比になるように、ハマグリ肉スラリーに一定量の脱イオン水を加えた。複合プロテアーゼ(処方は中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼ=2:1:1であった)の酵素分解温度を60℃とし、酵素添加量をハマグリ肉スラリーの0.2%とし、pHを自然のpH値にした。一定温度下で4時間酵素分解し、85℃で酵素を10分間失活し、16000r/minで遠心分離し、上澄みを膜ろ過し、噴霧乾燥させてハマグリ活性ペプチドを得た。
【0069】
実施例5:本発明に係るハマグリ活性ペプチドの工業生産方法
生肉:紅島ハマグリ肉
試験酵素:複合プロテアーゼ
酵素分解プロセスフロー:冷凍の紅島ハマグリ肉を解凍した後、ハマグリ肉:水=1:1の重量比で脱イオン水を加えて均質化し、最終的にハマグリ肉:水=1:2の重量比になるように、ハマグリ肉スラリーに一定量の脱イオン水を加えた。複合プロテアーゼ(処方は中性プロテアーゼ:アルカリ性プロテアーゼ:風味プロテアーゼ=2:1:1であった)の酵素分解温度を50℃とし、酵素添加量をハマグリ肉スラリーの0.3%とし、pHを自然のpH値にした;一定温度で別々に6時間酵素分解し、85℃で酵素を10分間失活し、16000r/minで遠心分離し、上澄みを膜ろ過し、噴霧乾燥させてハマグリ活性ペプチドを得た。
【0070】
試験例
各実施例で得られたハマグリ活性ペプチドを検出した結果を表3に示した。
各実施例で得られたハマグリ活性ペプチドを液体クロマトグラフィーで分析し、実施例2で得られたハマグリ活性ペプチドの結果を図3に示した。
【0071】
【表3】
【0072】
表3の結果から、前記ハマグリ活性ペプチド製品においては、相対分子質量≦2000Uのタンパク質加水分解物が97%以上に占め、相対分子質量<1000Uのタンパク質加水分解物が90%以上に占め、小分子ペプチドの含有量が高く、より吸収されやすいこと、前記ハマグリ活性ペプチドの重金属汚染物質の指数及び微生物の指数が国家基準を満たしたこと、及び前記ハマグリ活性ペプチドのACE阻害率が85%より大きく、良好なACE阻害活性を有したことが分かった。したがって、本発明で得られるハマグリ活性ペプチドは血圧低下機能が強かった。また、前記ハマグリ活性ペプチド製品は、色が純粋で、魚臭がなく、他の異臭がなかった。
【0073】
本発明に係る製造方法によって得られたハマグリ活性ペプチド製品は、すべての検出データが標準要件を満たし、信頼できる品質を持っている。また、本発明に係る製造方法によって製造されたハマグリ活性ペプチド製品は、相対分子質量が1300U未満であり、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチドなどの小分子ペプチドを主に含み、分子量が小さく、吸収されやすい。
【0074】
上記は、本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を制限するものではなく、当業者であれば上記に開示された技術的内容を利用して等価な実施例に改善や修正することも可能であるに留意されたい。ただし、本発明の方案内容から逸脱することなく、本発明の技術的要旨に従って上記の実施例に対する任意の単純な修改、同等の変更は、依然として本発明の保護範囲に属する。
図1
図2
図3