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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤブラダー
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/22 20060101AFI20240118BHJP
   C08L 11/00 20060101ALI20240118BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240118BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240118BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240118BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20240118BHJP
   B29D 30/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C08L23/22
C08L11/00
C08K3/04
C08K3/22
C08K5/13
B29C33/02
B29D30/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023184006
(22)【出願日】2023-10-26
【審査請求日】2023-10-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 靖
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/041856(WO,A1)
【文献】特開2019-167401(JP,A)
【文献】特表2014-531997(JP,A)
【文献】国際公開第2023/042728(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 33/02
B29D 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを含むゴム組成物であって、
前記クロロプレン系ゴムは、不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを含み、
前記ゴム組成物は、加工助剤、カーボンブラック、可塑剤、金属酸化物、加硫促進剤を含み、
JIS K 6251に基づき、190℃で測定した前記ゴム組成物の加硫成形体の切断時伸びが500%以上である、タイヤブラダー用のゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム組成物は、前記ゴム組成物の加硫成形体を用いて、JIS K 6260に基づき、ストローク58mm、速度300±10rpm、23℃の条件下で、デマッチャ屈曲疲労試験を行ったとき、亀裂が発生した時点における屈曲疲労試験の回数が、200万回以上である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム組成物は、前記ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、前記不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを1~30質量部含む、請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記加硫促進剤は、アルキルフェノール構造を有する化合物を含み、
前記ゴム組成物は、前記ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、前記アルキルフェノール構造を有する化合物を、1~10質量部を含む、請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項5】
JIS K 6253に基づき測定される、前記ゴム組成物の加硫成形体のタイプAデュロメータ硬度が、68未満である、請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物の加硫成形体を含む、タイヤブラダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤブラダーに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物は、その特性を活かして、例えば、一般産業用の伝動ベルトやコンベアベルト、自動車用空気バネ、防振ゴム、ホース、ワイパー、浸漬製品、シール部品、接着剤、ブーツ、ゴム引布、ゴムロール等広範囲な分野に用いられている。また、近年、ゴム部品に要求される特性が著しく高まっている。
【0003】
特許文献1には、ブチルゴムおよび/またはハロゲン化ブチルゴムからなるブチル系ゴムを90質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、アルキルフェノールホルムアルデヒド縮合体を1~20質量部およびシトラコンイミド化合物を0.1~10質量部配合してなることを特徴とするタイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物が開示されている。また、特許文献2には、ブチル系ゴムを含有するゴム成分と平均一次粒子径が15~190nmの酸化亜鉛とを含有するブラダー用ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-098294号公報
【文献】特開2010-285525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のゴム組成物から得られる加硫物及び加硫成形体は、高温時の切断時伸び及び耐屈曲疲労性に改善の余地があり、具体的には、100℃を上回る環境下での切断時伸びをさらに向上させることや、同時に耐屈曲疲労性をさらに高度に高めることについて十分な検討がなされていなかった。また、例えば、タイヤブラダー等の高温下で繰り返しストレスがかかる極めて過酷な環境下での使用には耐えられない場合があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来のゴム組成物では困難であった従来よりも高度に優れた高温時の切断時伸び及び高度に優れた耐屈曲疲労性を有する加硫物及び加硫成形体を得るすることができるタイヤブラダー用のゴム組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを含むゴム組成物であって、前記クロロプレン系ゴムは、不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを含み、前記ゴム組成物は、加工助剤、カーボンブラック、可塑剤、金属酸化物、加硫促進剤を含み、JIS K 6251に基づき、190℃で測定した前記ゴム組成物の加硫成形体の切断時伸びが500%以上である、タイヤブラダー用のゴム組成物が提供される。
【0008】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、ゴムとして、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを含むゴム組成物において、クロロプレン系ゴムの種類を特定し、かつ、該ゴム組成物から得られる加硫成形体の高温時切断時伸びが一定以上の値となるように、ゴムの種類及び量、並びに添加剤の種類及び量を調整することで、従来よりも高度に優れた高温時の切断時伸び及び高度に優れた耐屈曲疲労性を有する加硫物及び加硫成形体を得るすることができるタイヤブラダー用のゴム組成物となることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
[1]クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを含むゴム組成物であって、前記クロロプレン系ゴムは、不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを含み、前記ゴム組成物は、加工助剤、カーボンブラック、可塑剤、金属酸化物、加硫促進剤を含み、JIS K 6251に基づき、190℃で測定した前記ゴム組成物の加硫成形体の切断時伸びが500%以上である、タイヤブラダー用のゴム組成物。
[2]前記ゴム組成物は、前記ゴム組成物の加硫成形体を用いて、JIS K 6260に基づき、ストローク58mm、速度300±10rpm、23℃の条件下で、デマッチャ屈曲疲労試験を行ったとき、亀裂が発生した時点における屈曲疲労試験の回数が、200万回以上である、[1]に記載のゴム組成物。
[3]前記ゴム組成物は、前記ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、前記不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを1~30質量部含む、[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
[4]前記加硫促進剤は、アルキルフェノール構造を有する化合物を含み、前記ゴム組成物は、前記ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、前記アルキルフェノール構造を有する化合物を、1~10質量部を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のゴム組成物。
[5]JIS K 6253に基づき測定される、前記ゴム組成物の加硫成形体のタイプAデュロメータ硬度が、68未満である、[1]~[4]のいずれかに記載のゴム組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のゴム組成物の加硫成形体を含む、タイヤブラダー。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るゴム組成物によれば、従来よりも高度に優れた高温時の切断時伸び及び高度に優れた耐屈曲疲労性を有する加硫物及び加硫成形体を得ることができる。さらに、得られた加硫物及び加硫成形体は、その特性を活かし、高温下で繰り返しストレスがかかるような極めて過酷な環境下での使用される部材として用いることができる。具体的には、タイヤブラダーとして利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を例示して本発明について詳細な説明をする。本発明は、これらの記載によりなんら限定されるものではない。以下に示す本発明の実施形態の各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0012】
1.ゴム組成物
本発明に係るゴム組成物は、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを含むゴム組成物である。
本発明に係るクロロプレン系ゴムは、不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを含み、加工助剤、カーボンブラック、可塑剤、金属酸化物、加硫促進剤を含む。
また、JIS K 6251に基づき、190℃で測定した前記ゴム組成物の加硫成形体の切断時伸びが500%以上である。
本発明に係るゴム組成物は、ゴムとして、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを含み、クロロプレン系ゴムの種類を特定し、かつ、該ゴム組成物から得られる加硫成形体の高温時切断時伸びが一定以上の値となるように、ゴムの種類及び量、並びに添加剤の種類及び量、具体的には、加工助剤、カーボンブラック、可塑剤、金属酸化物、加硫促進剤の種類及び量を調整することで、従来よりも高度に優れた高温時の切断時伸び及び高度に優れた耐屈曲疲労性を有する加硫物及び加硫成形体を得るすることができるタイヤブラダー用のゴム組成物となる。
【0013】
1.1 クロロプレン系ゴム
本発明に係るクロロプレン系ゴムは、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)を単量体単位(単量体単位=構造単位)として有するクロロプレン系重合体を含むゴムを示す。クロロプレン系重合体としては、クロロプレンの単独重合体、クロロプレンの共重合体(クロロプレンと、クロロプレンに共重合可能な単量体との共重合体)等が挙げられる。クロロプレン系重合体のポリマー構造は、特に限定されるものではない。
【0014】
なお、市販品の2-クロロ-1,3ブタジエンには不純物として少量の1-クロロ-1,3-ブタジエンが含まれる場合がある。このような少量の1-クロロ-1,3-ブタジエンを含む2-クロロ-1,3ブタジエンを、本実施形態のクロロプレン単量体として用いることもできる。
【0015】
本発明に係るクロロプレン系ゴムは、不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴムを含有する。本発明に係るゴム組成物は、不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴムと、ブチル系ゴムを併用し、さらに、その他の添加剤の種類及び量を、高温時切断時伸びが一定の値以上となるように調整することで、高温時切断時伸び及び耐屈曲疲労性を高度に向上することができる。
【0016】
本発明に係るクロロプレン系ゴムは、1種又は2種以上のクロロプレン系ゴムを含むことができる。
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、1又は複数の不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴムを含有することができる。また、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、1又は複数の不飽和ニトリル単量体単位を含有しないクロロプレン系ゴムをさらに含んでも良い。
【0017】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴム(不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴム及び不飽和ニトリル単量体単位を含有しないクロロプレン系ゴム)は、クロロプレン単量体及び不飽和ニトリル単量体以外の単量体に由来する単量体単位を有することもできる。クロロプレン単量体及び不飽和ニトリル単量体以外の単量体としては、クロロプレン単量体と共重合可能であれば特に制限はないが、(メタ)アクリル酸のエステル類((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、硫黄等が挙げられる。一例として、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン単量体単位を含むことができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴムは、不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴムを100質量%としたとき、不飽和ニトリル単量体単位の含有率を1~25質量%とでき、1~20質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。本発明の一実施形態に係る不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴムにおける不飽和ニトリル単量体単位の含有率は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ゴム組成物中の不飽和ニトリル単量体単位の含有量を上記数値範囲内とすることにより、高温時切断時伸び及び耐屈曲疲労性をより向上しやすい。
【0019】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムが、2種以上のクロロプレン系ゴムを含む場合、ゴム組成物に含まれる2種以上のクロロプレン系ゴムの合計100質量%に対して、2種以上のクロロプレン系ゴムに含まれる不飽和ニトリル単量体単位の合計量に基づく含有率が上記数値範囲内であることが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、ゴム組成物に含まれるクロロプレン系ゴム100質量%に対して、ゴム組成物に含まれるクロロプレン系ゴム中の不飽和ニトリル単量体単位の含有率が1~25質量%であることが好ましく、不飽和ニトリル単量体単位の含有率は上記に例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。また、本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、ゴム組成物に含まれるクロロプレン系ゴム100質量%に対して、ゴム組成物に含まれるクロロプレン系ゴム中のアクリロニトリル単量体単位の含有率が1~25質量%であることが好ましく、アクリロニトリル単量体単位の含有率は上記に例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0020】
不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル等が挙げられる。不飽和ニトリルは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。不飽和ニトリルは、優れた成形性が得られやすい観点、並びに、加硫成形体において優れた破断強度、破断伸び、硬さ、引き裂き強度、耐油性が得られやすい観点から、アクリロニトリルを含むことが好ましい。
【0021】
クロロプレン系ゴムに含まれる不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、クロロプレン系ゴム中の窒素原子の含有量から算出することができる。具体的には、元素分析装置(スミグラフ220F:株式会社住化分析センター製)を用いて100mgのクロロプレン系ゴムにおける窒素原子の含有量を測定し、不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の含有量を算出できる。元素分析の測定は次の条件で行うことができる。例えば、電気炉温度として反応炉900℃、還元炉600℃、カラム温度70℃、検出器温度100℃に設定し、燃焼用ガスとして酸素を0.2mL/min、キャリアーガスとしてヘリウムを80mL/minフローする。検量線は、窒素含有量が既知のアスパラギン酸(10.52%)を標準物質として用いて作成できる。
【0022】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、クロロプレン系ゴムを100質量%としたとき、クロロプレン単量体単位を75~100質量%含むことが好ましく、80~100質量%含むことがより好ましい。クロロプレン系ゴムにおけるクロロプレン単量体単位の含有率は、例えば、75、80、85、90、95、99、100質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。クロロプレン単量体単位の含有率を上記数値範囲内とすることにより、硬度、引張強度、及び耐寒性のバランスに優れる成形体を得ることができるゴム組成物とすることができる。
【0023】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、クロロプレン系ゴムを100質量%としたとき、クロロプレン単量体単位及び不飽和ニトリル単量体単位以外の単量体単位を0~20質量%含むことができる。クロロプレン系ゴムにおけるクロロプレン単量体単位及び不飽和ニトリル単量体単位以外の単量体単位の含有率は、例えば、0、2、4、6、8、10、12、14、16、18、20質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。クロロプレン単量体及び不飽和ニトリル単量体以外の単量体の共重合量を上記範囲に調整することで、得られるゴム組成物の特性を損なわずに、これらの単量体を共重合させたことによる効果を発現することができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物が、2種以上のクロロプレン系ゴムを含む場合、ゴム組成物に含まれる2種以上のクロロプレン系ゴムの合計100質量%に対して、2種以上のクロロプレン系ゴムに含まれる各単量体単位の合計量に基づく含有率が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明に係るクロロプレン系ゴムに含まれるクロロプレン系重合体(クロロプレンの単独重合体、クロロプレンの共重合体等)は、硫黄変性クロロプレン重合体、メルカプタン変性クロロプレン重合体、キサントゲン変性クロロプレン重合体、ジチオカルボナート系クロロプレン重合体、トリチオカルボナート系クロロプレン重合体、カルバメート系クロロプレン重合体などであってよい。
【0026】
1.2 クロロプレン系ゴムの製造方法
本発明に係るクロロプレン系ゴムの製造方法は特に限定されないが、クロロプレン単量体を含む原料単量体を乳化重合する乳化重合工程を含む製造方法によって得ることができる。
本発明の一実施形態に係る乳化重合工程では、クロロプレン単量体を含む原料単量体を、乳化剤や分散剤や触媒や連鎖移動剤等を適宜に用いて乳化重合させ、目的とする最終転化率に達した際に重合停止剤を添加してクロロプレン単量体単位を含むクロロプレン系重合体を含むラテックスを得ることができる。次に、乳化重合工程により得られた重合液から、未反応単量体の除去を行うことができる。その方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スチームストリッピング法が挙げられる。その後、pHを調整し、常法の凍結凝固、水洗、熱風乾燥などの工程を経て、クロロプレン系重合体を含むクロロプレン系ゴムを得ることができる。
【0027】
乳化重合する場合に用いる重合開始剤としては、特に制限はなく、クロロプレンの乳化重合に一般に用いられる公知の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0028】
乳化重合する場合に用いる乳化剤としては、特に制限はなく、クロロプレンの乳化重合に一般に用いられる公知の乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、炭素数が6~22の飽和又は不飽和の脂肪酸のアルカリ金属塩、ロジン酸又は不均化ロジン酸のアルカリ金属塩(例えばロジン酸カリウム)、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩)等が挙げられる。
【0029】
乳化重合する場合に用いる分子量調整剤としては、特に制限はなく、クロロプレンの乳化重合に一般に用いられる公知の分子量調整剤を用いることができ、例えば、メルカプタン系化合物、キサントゲン系化合物、ジチオカルボナート系化合物、トリチオカルボナート系化合物及びカルバメート系化合物がある。本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムの分子量調整剤としては、キサントゲン系化合物、ジチオカルボナート系化合物、トリチオカルボナート系化合物及びカルバメート系化合物を好適に使用できる。
【0030】
重合温度及び単量体の最終転化率は特に制限するものではないが、重合温度は、例えば0~50℃又は10~50℃であってよい。単量体の最終転化率が40~95質量%の範囲に入るように重合を行ってよい。最終転化率を調整するためには、所望する転化率になった時に、重合反応を停止させる重合停止剤を添加して重合を停止させればよい。
【0031】
重合停止剤としては、特に制限はなく、クロロプレンの乳化重合に一般に用いられる公知の重合停止剤を用いることができる。重合停止剤としては、フェノチアジン(チオジフェニルアミン)、4-t-ブチルカテコール、2,2-メチレンビス-4-メチル-6-t-ブチルフェノール等が挙げられる。
【0032】
本発明の一実施形態に係るクロロプレン系ゴムは、例えば、スチームストリッピング法によって未反応の単量体を除去した後、上記ラテックスのpHを調整し、常法の凍結凝固、水洗、熱風乾燥等の工程を経て得ることができる。
【0033】
クロロプレン系ゴムは、分子量調整剤の種類によりメルカプタン変性タイプ、キサントゲン変性タイプ、硫黄変性タイプ、ジチオカルボナート系タイプ、トリチオカルボナート系タイプ及びカルバメート系タイプに分類される。
【0034】
1.3 ブチル系ゴム
本発明に係るゴム組成物は、ブチル系ゴムを含むことができる。本発明において、ブチル系ゴムとは、イソブチレンに由来する単量体単位を含むブチル系重合体を含むゴムを意味する。すなわち、ブチル系ゴムは、イソブチレン単量体単位を含む。また、本発明の一実施形態に係るブチル系ゴムは、イソブチレン単量体単位及びイソプレン単量体単位を含むものとでき、すなわち、イソブチレン及びイソプレンを含む原料単量体を共重合して得られる共重合体を含むことができる。ブチル系ゴムは、イソプレン単量体単位を0.5~10mol%含むことができる。なお、イソプレン単量体単位の含有量は、ブチル系ゴムに含まれるイソブチレン単量体単位のmol数、イソプレン単量体単位のmol数、及び含まれる場合は他の単量体単位のmol数の合計を100mol%としたときの、イソプレン単量体単位の含有割合(mol%)を示す。
【0035】
本発明に係るブチル系ゴムは、1種又は2種以上のブチル系ゴムを含むことができる。本発明の一実施形態に係るブチル系ゴムは、レギュラーブチルゴム(ハロゲン化されていないブチル系ゴム)及びハロゲン化ブチルゴムから選択される1種以上を含むことができる。ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムを挙げることができる。ハロゲン化ブチルゴムは、ハロゲン化ブチルゴムを100質量%としたとき、ハロゲンを0.1~5.0質量%含むことができ、0.5~3.0質量%であることが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムにおけるハロゲン含有率は、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態に係るブチル系ゴムは、ブチル系ゴムを100質量%としたとき、イソブチレン単量体単位を75~100質量%含むことが好ましく、80~100質量%含むことがより好ましい。ブチル系ゴムにおけるクロロプレン単量体単位の含有率は、例えば、75、80、85、90、95、99、100質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0037】
1.4 その他のゴム
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴム以外のその他のゴムを含むこともできる。その他のゴムとしては、天然ゴム(NR)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(H-NBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、エピクロロヒドリンゴム(CO)、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、多硫化ゴム(T)を挙げることができる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、クロロプレン系ゴム、ブチル系ゴム、天然ゴムを含むことができる。
【0038】
1.5 ゴムの配合量
本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴムを100質量部としたとき、クロロプレン系ゴムを、1~30質量部含むことが好ましい。クロロプレン系ゴムの含有量は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0039】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴムを100質量部としたとき、不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを、1~30質量部含むことが好ましい。不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムの含有量は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0040】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴムを100質量部としたとき、ブチル系ゴムを、70~99質量部含むことが好ましい。ブチル系ゴムの含有量は、例えば70、75、80、85、90、95、96、97、98、99質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0041】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを合計で、70~100質量部含むことが好ましく、90~100質量部含むことがより好ましい。クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムの合計含有量は、例えば、70、75、80、85、90、95、100質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴム以外のゴムを、0~30質量部含むことができ、0~10質量部含むことができる。
【0042】
1.6 加硫剤及び加硫促進剤
本発明に係るゴム組成物は、加硫促進剤を含む。また、本発明に係るゴム組成物は、加硫剤を含むことができる。加硫剤及び加硫促進剤の種類は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されない。加硫剤及び加硫促進剤は、クロロプレン系ゴムの加硫に寄与することが好ましく、ブチル系ゴム及び/又はクロロプレン系ゴムの加硫に寄与することが好ましく、ブチル系ゴム及びクロロプレン系ゴムの加硫に寄与することがより好ましい。
【0043】
加硫剤は、1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。加硫剤としては、硫黄を挙げることができる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ブチル系ゴムとしてレギュラーブチルゴムを含む場合、硫黄を含むことができる。加硫剤の含有量は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、0~10.0質量部とでき、0~5.0質量部とすることが好ましく、例えば、0、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7、8、9、10.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、本発明に係るゴム組成物は、加硫剤を含まないこともできる。
【0044】
本発明に係るゴム組成物は、加硫促進剤を含む。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、加硫促進剤を1.0~10.0質量部含むことができ、3.0~8.0質量部であることが好ましい。加硫促進剤の含有量は、例えば、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0045】
本発明の一実施形態に係る加硫促進剤は、アルキルフェノール構造を有する化合物を含むことが好ましい。アルキルフェノール構造を有する化合物は、アルキルフェノールに由来する構造を有する化合物である。アルキルフェノール構造を有する化合物は、ゴム同士の3次元ネットワークの形成を促進する機能を有するものとできる。アルキルフェノール構造を有する化合物自体が3次元ネットワークに組み込まれることが好ましく、ゴム同士を結合する架橋構造を形成することがより好ましい。上述のように、本発明に係るゴム組成物は、不飽和ニトリル単量体単位を含有するクロロプレン系ゴムを含有し、さらにアルキルフェノール構造を有する化合物を含有する場合、クロロプレン系ゴムに含まれる不飽和ニトリル単量体単位が、アルキルフェノール構造を有するアルキルフェノール構造を有する化合物と反応して結合を形成することにより、高温時の切断時伸び及び耐屈曲疲労性がさらに向上できると推測される。
なお、アルキルフェノール構造を有する化合物は、一般に老化防止剤として用いられるアルキルフェノール構造を有する化合物は含まないものとできる。
【0046】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、アルキルフェノール構造を有する化合物を1~10質量部含むことができ、3~8質量部含むことが好ましい。アルキルフェノール構造を有する化合物の含有量は、例えば、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0047】
アルキルフェノール構造を有する化合物は下記式(1)の化学構造を有することが好ましい。
【化1】
【0048】
式(1)において、R及びRは、それぞれSk、CH及びCHOCHから選択されるいずれか1つである。
kは1~8の整数である。
【0049】
及びYは、それぞれ、水素、ハロゲン及びハロゲンで置換されていても良い炭化水素基から選択されるいずれか1つである。Y及びYは、水素、又はハロゲンとできる。ハロゲンで置換されていても良い炭化水素基は、無置換の炭化水素基及び炭化水素基に含まれる1つ以上の水素がハロゲンで置換されている炭化水素基を意味する。炭化水素基の炭素数は2~20とでき、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。炭化水素基はアルキル基、ビニル基、又はアリール基とでき、アルキル基とでき、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基とできる。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、要素から選択されるいずれかとすることができ、臭素を含むことが好ましい。
【0050】
は、ハロゲンで置換されていても良い炭化水素基である。Z1は、2~20の炭素原子を含み、かつ、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素基を含むことができる。炭化水素基の炭素数は2~20とでき、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。炭化水素基は、アルキル基、ビニル基、又はアリール基とでき、アルキル基とでき、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基とできる。アルキル基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、1,1-ジメチル-3,3-ジメチルプロピル基等を挙げることができる。
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択されるいずれかとすることができ、臭素を含むことが好ましい。
【0051】
アルキルフェノール構造を有する化合物は、少なくとも一方の末端に、ゴムとの結合を形成し得る構造を有することが好ましく、両末端に、ゴムとの結合を形成し得る構造を有することが好ましい。一例として、アルキルフェノール構造を有する化合物は、少なくとも一方の末端に、下記式(2)の化学構造を含有することが好ましい。アルキルフェノール構造を有する化合物は、両末端に下記式(2)で表される構造を含有することが好ましい。なお、下記式(2)で表される構造は、式(1)で表される構造のR及び又はRと結合できる。
【0052】
【化2】
【0053】
式(2)において、Xは、OH及びハロゲンから選択されるいずれか1つである。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、要素から選択されるいずれかとすることができ、臭素を含むことが好ましい。
及びYは、それぞれ、水素、ハロゲン及びハロゲンで置換されていても良い炭化水素基から選択されるいずれか1つであり、具体的には、Y及びYと同様とできる。
は、ハロゲンで置換されていても良い炭化水素基である。Zは、2~20の炭素原子を含み、かつ、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素基を含むことができ、具体的には、Zと同様とできる。
【0054】
アルキルフェノール構造を有する化合物は、1分子内に2以上のアルキルフェノール構造を有することができる。アルキルフェノール構造を有する化合物が1分子中に有するアルキルフェノール構造の数は、2~10とすることができ、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
アルキルフェノール構造は下記式(3)で表すことができる。
【0055】
【化3】
【0056】
式(3)において、Rは、それぞれSk、CH及びCHOCHから選択されるいずれか1つである。
kは1~8の整数である。
及びYは、それぞれ、水素、ハロゲン及びハロゲンで置換されていても良い炭化水素基から選択されるいずれか1つであり、具体的には、Y及びYと同様とできる。
は、ハロゲンで置換されていても良い炭化水素基である。Zは、2~20の炭素原子を含み、かつ、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素基を含むことができ、具体的には、Zと同様とできる。
【0057】
アルキルフェノール構造を有する化合物は、1種のアルキルフェノール構造を有してもよく、2種以上のアルキルフェノール構造を有していても良い。アルキルフェノール構造を有する化合物が1種のアルキルフェノール構造を有する場合、アルキルフェノール構造を有する化合物は下記式(4)で表すことができる。
【0058】
【化4】
【0059】
式(4)において、R及びRは、それぞれSk、CH及びCHOCHから選択されるいずれか1つである。
kは1~8の整数である。
X及びXは、OH及びハロゲンから選択されるいずれか1つである。X及びXは、Xと同様とできる。
、Y、Y、Y10、Y11、及び、Y12は、それぞれ、水素、ハロゲン及びハロゲンで置換されていても良い炭化水素基から選択されるいずれか1つであり、具体的には、Y及びYと同様とできる。
Z、Z、及びZは、ハロゲンで置換されていても良い炭化水素基である。Z、Z、及びZは、2~20の炭素原子を含み、かつ、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素基を含むことができ、具体的には、Zと同様とできる。
nは、0以上とでき、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0060】
アルキルフェノール構造を有する化合物は2種以上のアルキルフェノール構造を有していてもよい。アルキルフェノール構造を有する化合物が複数種類のアルキルフェノール構造を有する場合、アルキルフェノール構造を有する化合物は、複数種のアルキルフェノール構造がランダムに並んだ構造を有することができる。一例として、アルキルフェノール構造を有する化合物が、2種のアルキルフェノール構造を有する場合、すなわち、アルキルフェノール構造Xとアルキルフェノール構造Yを有する場合、アルキルフェノール構造を有する化合物は、アルキルフェノール構造Xとアルキルフェノール構造Yがランダムに並んだ構造を有することができる。なお、アルキルフェノール構造を有する化合物は、式(1)及び式(2)で表される構造以外の構造を有していてもよく、アルキルフェノール構造以外の繰り返し単位を有していてもよい。アルキルフェノール構造を有する化合物は、アルキルフェノール構造を有する化合物を100質量%に対する、式(1)及び式(2)で表される構造以外の構造の含有量が、例えば、0、10、20、30、40、50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。アルキルフェノール構造を有する化合物は、式(1)及び式(2)で表される構造のみから構成されることもできる。
【0061】
アルキルフェノール構造を有する化合物は、アルキルフェノールとホルムアルデヒドの縮合体、アルキルフェノールとスルフィドの縮合体、及びこれらのハロゲン化変性物から選択されるいずれか1つとできる。
アルキルフェノールとしては、炭素数2~20のアルキル基を有するアルキルフェノールを挙げることができる。アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であってもよい。
スルフィドが有する硫黄原子数は1~8個とでき、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
アルキルフェノール構造を有する化合物は、ハロゲンを含んでいてもよく、アルキルフェノール構造を有する化合物がハロゲンを含む場合、アルキルフェノール構造を有する化合物のハロゲン濃度は1~10質量%であることが好ましく、2~7質量%であることがより好ましく、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10質量%とでき、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
アルキルフェノール構造を有する化合物は、軟化点が、120℃以下であることが好ましく、70~100℃であることがより好ましい。
【0062】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、アルキルフェノール構造を有する化合物以外の加硫促進剤を含んでいてもよく、アルキルフェノール構造を有する化合物以外の加硫促進剤を含まないこともできる。
ここで、アルキルフェノール構造を有する化合物以外の加硫促進剤としては、チオウレア系化合物、3-メチル-チアゾルジン-2-チオン、チアジアゾール系化合物、チウラム系化合物、チアゾール系化合物及びスルフェンアミド系化合物を挙げることができる。
本発明の一実施形態に係るゴム組成物において、アルキルフェノール構造を有する化合物以外の加硫促進剤の含有量(例えば、チオウレア系化合物、3-メチル-チアゾルジン-2-チオン、チアジアゾール系化合物、チウラム系化合物、チアゾール系化合物及びスルフェンアミド系化合物の合計含有量)は、5.0質量部以下とでき、1.0質量部未満とできる。アルキルフェノール構造を有する化合物以外の加硫促進剤の含有量は、例えば、0、0.50.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0063】
1.7 金属酸化物
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、金属酸化物を含む。金属酸化物は、加硫剤及び/又は受酸剤として機能することができる。金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、四酸化三鉛、三酸化鉄、二酸化チタン、酸化カルシウム等を挙げることができる。金属酸化物は、酸化亜鉛、及び酸化マグネシウムのうち少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化亜鉛を含むことができる。
【0064】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、金属酸化物を0.1質量部以上含有することができ、0.1~15.0質量部含有することが好ましく、0.5~10.0質量部含有することがより好ましい。金属酸化物の含有量は、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0,12.0,13.0、14.0、15.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0065】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、酸化亜鉛を含むことができる。酸化亜鉛は、加硫剤及び/又は受酸剤として機能することができる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、酸化亜鉛を0.1質量部以上含有することができ、0.1~10.0質量部含有することが好ましく、0.5~5.0質量部含有することがより好ましい。酸化亜鉛の含有量は、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0066】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、酸化亜鉛以外の金属酸化物を含むことができる。酸化亜鉛以外の金属酸化物は受酸剤として機能することができる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、酸化亜鉛以外の金属酸化物を0.1~10.0質量部含有することができ、0.5~5.0質量部含有することがより好ましい。酸化亜鉛以外の金属酸化物の含有量は、例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0067】
1.8 可塑剤
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は可塑剤を含む。可塑剤としては、クロロプレン系ゴム、ブチル系ゴム及び/又は加硫剤、特にはアルキルフェノール構造を有する化合物と相溶性のある可塑剤であることが好ましく、加硫剤、特にはアルキルフェノール構造を有する化合物と相溶性のある可塑剤であることがより好ましい。可塑剤としては、例えば、菜種油、ヒマシ油等の植物油、フタレート系可塑剤、DOS(セバシン酸ジオクチル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、エステル系可塑剤、エーテル・エステル系可塑剤、チオエーテル系可塑剤、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル等を挙げることができる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は植物油及び/又はアロマ系オイルを含むことが好ましく、ヒマシ油を含むことがより好ましい。
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ヒドロキシ基を1以上有し、分子量が500以上であるトリアシルグリセロールを含むことが好ましい。トリアシルグリセロールは、ヒドロキシ基を1以上有することができ、例えば、1、2、3有することができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
トリアシルグリセロールは、分子量が500以上とでき、例えば、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
、ヒドロキシ基を1以上有し、分子量が500以上であるトリアシルグリセロールとしては、ヒマシ油を挙げることができ、ヒマシ油の主成分は、下記式で表される。
【0069】
【化5】
【0070】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、可塑剤を0質量部超、50質量部以下含むことができ、0.1質量部以上含むことが好ましい。可塑剤の含有量は、例えば、0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、ヒドロキシ基を1以上有し、分子量が500以上であるトリアシルグリセロール0.1質量部以上含むことができる。ヒドロキシ基を1以上有し、分子量が500以上であるトリアシルグリセロールの含有量は、例えば、0、0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0071】
1.9 充填剤
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、充填剤を含むことができる。充填剤としては、SAF、ISAF、HAF、EPC、XCF、FEF、GPF、HMF、SRFなどのファーネスカーボンブラック、親水性カーボンブラックなどの改質カーボンブラック、チャンネルブラック、油煙ブラック、FT、MTなどのサーマルカーボン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムを挙げることができる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、充填剤を1種類又は2種類以上含むことができる。
【0072】
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、充填剤を合計で20~90質量部含むことができ、35~80質量部含むことが好ましい。充填剤の含有量は、例えば、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、充填剤の含有率を上記数値範囲内含有することにより、加硫物及び加硫成形体の硬度を調整することができる。
【0073】
1.10 加工助剤
本発明に係るゴム組成物は、さらに加工助剤を含むこともできる。加工助剤は、主に、ゴム組成物がロールや成形金型、押出機のスクリューなどから剥離しやすくなるようにするなど、加工性を向上させるために添加する。加工助剤としては、ステアリン酸等の脂肪酸、ポリエチレン等のパラフィン系加工助剤、脂肪酸アミド、ワセリン、ファクチス等が挙げられる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、加工助剤を1種類又は2種類以上含むことができる。
【0074】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、加工助剤を0~15質量部含むことができ、1~10質量部とすることもできる。加工助剤の含有量は、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0075】
1.11 その他
本発明に係るゴム組成物は、上記した成分に加え、有機過酸化物、シランカップリング剤、共架橋剤(例えば、マレイミド系化合物)、安定剤、難燃剤、加硫遅延剤等の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲でさらに含むことができる。老化防止剤及び酸化防止剤としては、オゾン老化防止剤、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、アクリレート系老化防止剤、ワックス、リン系老化防止剤などを挙げることができる。アミン系老化防止剤としては、4,4'-ビス(α、α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミンを挙げることができる。本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して、老化防止剤及び酸化防止剤を合計で0.1~10質量部含むことができる。老化防止剤及び酸化防止剤の含有量は、例えば、0、0.1、0.3、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10質量部であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0076】
2.ゴム組成物の製造方法
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム及び必要とされるその他の成分を加硫温度以下の温度で混練することで得られる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物の製造方法はゴム及び必要とされるその他の成分を加硫温度以下の温度で混合する混合工程を含むことができる。混練する装置としては、従来公知のミキサー、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、オープンロールなどの混練装置を挙げることができる。
【0077】
3.ゴム組成物の特性
<加硫成形体の高温時の切断時伸び>
本発明のゴム組成物は、該ゴム組成物の加硫成形体のJIS K 6251に基づき測定した190℃における切断時伸びが、500%以上である。190℃における切断時伸びは、例えば、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0078】
190℃における切断時伸びは、ゴム組成物をJIS K 6299に基づき、180℃、20分でプレス加硫することにより厚み2mmのシート状の加硫成形体を作製し、得られたシート状加硫成形体をダンベル状3号形試験片に成形した試料を用いて測定することができる。190℃における切断時伸びは、JIS K 6251に基づき測定することができる。その他、本発明の一実施形態に係るゴム組成物は下記の特性を有することが好ましい。
【0079】
本発明に係るゴム組成物によれば、該ゴム組成物から得られる加硫成形体の高温時切断時伸びが一定以上の値となるように、ゴムの種類及び量、並びに添加剤の種類及び量を調整することで、従来よりも高度に優れた高温時の切断時伸び及び高度に優れた耐屈曲疲労性を有する加硫物及び加硫成形体を得ることができるゴム組成物となる。
【0080】
<加硫成形体の硬度>
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、該ゴム組成物の加硫成形体のJIS K 6253で規定されるデュロメータ硬度(タイプA)が、68未満であるものとでき、55~67であることが好ましい。ゴム組成物の加硫成形体のデュロメータ硬度(タイプA)は、例えば、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0081】
<加硫成形体の耐屈曲疲労性>
本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、該ゴム組成物の加硫成形体を用いて、JIS K 6260に基づき、ストローク58mm、速度300±10rpm、室温の条件下で、デマッチャ屈曲疲労試験を行ったとき、亀裂が発生した時点における屈曲試験の回数が、200万回以上であることが好ましい。亀裂が発生した時点における屈曲試験の回数は、例えば、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000万回であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0082】
上記ゴム組成物の特性は、ゴム組成物を実施例に記載の条件及び方法で加硫成形体とし、実施例に記載の方法で測定したときに得られる値とできる。また、ゴム組成物の加硫成形体の特性は、ゴム組成物の配合の種類及び量を調整することにより、制御することができる。一例として、加硫成形体の耐屈曲疲労性は、クロロプレン系ゴムの種類を特定し、かつ、該ゴム組成物から得られる加硫成形体の高温時切断時伸びが一定以上の値となるように、ゴムの種類及び量、並びに添加剤の種類及び量を調整することで調整できる。また、加硫成形体の硬度は、クロロプレン系ゴムの種類を特定し、かつ、該ゴム組成物から得られる加硫成形体の高温時切断時伸びが一定以上の値となるように、ゴムの種類及び量、並びに添加剤の種類及び量を調整することで調整でき、例えば、充填剤の種類や量を調整することで制御することができる。
【0083】
4.未加硫成形体、加硫物及び加硫成形体
本発明の一実施形態に係る未加硫成形体は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物を用いており、本発明の一実施形態に係るゴム組成物(未加硫状態)の成形体(成形品)である。本発明の一実施形態に係る未加硫成形体の製造方法は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物(未加硫状態)を成形する工程を備える。本発明の一実施形態に係る未加硫成形体は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物(未加硫状態)からなる。
【0084】
本発明の一実施形態に係る加硫物は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物の加硫物である。本発明の一実施形態に係る加硫物の製造方法は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物を加硫する工程を備える。
【0085】
本発明の一実施形態に係る加硫成形体は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物の加硫成形体である。本発明の一実施形態に係る加硫成形体は、本発明の一実施形態に係る加硫物を用いており、本発明の一実施形態に係る加硫物の成形体(成形品)である。本発明の一実施形態に係る加硫成形体は、本発明の一実施形態に係る加硫物からなる。
【0086】
本発明の一実施形態に係る加硫成形体は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物(未加硫状態)を加硫して得られる加硫物を成形することにより得ることが可能であり、本発明の一実施形態に係るゴム組成物(未加硫状態)を成形して得られる成形体を加硫することにより得ることもできる。本発明の一実施形態に係る加硫成形体は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物を成形後又は成形時に加硫することにより得ることができる。本発明の一実施形態に係る加硫成形体の製造方法は、本発明の一実施形態に係る加硫物を成形する工程、又は、本発明の一実施形態に係る未加硫成形体を加硫する工程を備える。
【0087】
本発明の一実施形態に係る加硫成形体は、上記した硬度、高温時の切断時伸び、及び/又は耐屈曲疲労性を有することが好ましい。
【0088】
本実施形態に係る未加硫成形体、加硫物及び加硫成形体は、高度に優れた高温時の切断時伸び及び高度に優れた耐屈曲疲労性を有するため、特にこれらの特性が必要とされる部材として用いることができ、タイヤブラダー用に用いる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、特には、150~220℃で使用されるタイヤブラダー用とすることができる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物は、タイヤ加硫用ブラダー用のゴム組成物、特には、150~220℃で使用されるタイヤ加硫用ブラダー用のゴム組成物とできる。
【0089】
本実施形態に係るゴム組成物(未加硫状態)及び加硫物を成形する方法としては、プレス成形、押出成形、カレンダー成形等が挙げられる。ゴム組成物を加硫する温度は、ゴム組成物の組成に合わせて適宜設定すればよく、140~220℃、又は、160~190℃であってよい。ゴム組成物を加硫する加硫時間は、ゴム組成物の組成、未加硫成形体の形状等によって適宜設定すればよい。
【実施例
【0090】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0091】
<クロロプレン系ゴム(アクリロニトリル(AN)10質量%)の製造方法>
加熱冷却ジャケット及び攪拌機を備えた内容積3Lの重合缶に、クロロプレン(単量体)24質量部、アクリロニトリル(単量体)24質量部、ジエチルキサントゲンジスルフィド0.5質量部、純水200質量部、ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.00質量部、水酸化ナトリウム0.40質量部、及び、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)2.0質量部を添加した。次に、重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加した後、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。上述のクロロプレンは、重合開始20秒後から分添し、重合開始からの10秒間の冷媒の熱量変化を元に分添流量を電磁弁で調整し、以降10秒毎に流量を再調節することで連続的に行った。クロロプレン及びアクリロニトリルの合計量に対する重合率が50%となった時点で、重合停止剤であるフェノチアジン0.02質量部を加えて重合を停止させた。その後、減圧下で反応溶液中の未反応の単量体を除去することでクロロプレン-アクリロニトリル共重合体を含む、クロロプレン系ゴムのラテックスを得た。
【0092】
クロロプレン系ラテックスの上述の重合率[%]は、クロロプレン系ラテックスを風乾したときの乾燥質量から算出した。具体的には、下記式(A)より計算した。式中、「固形分濃度」とは、サンプリングしたクロロプレン系ラテックス2gを130℃で加熱して、溶媒(水)、揮発性薬品、原料等の揮発成分を除いた固形分の濃度[質量%]である。「総仕込み量」とは、重合開始からある時刻までに重合缶に仕込んだ原料、試薬及び溶媒(水)の総量[g]である。「蒸発残分」とは、重合開始からある時刻までに仕込んだ薬品及び原料のうち、130℃の条件下で揮発せずにポリマーと共に固形分として残留する薬品の質量[g]である。「単量体の仕込み量」とは、重合缶に初期に仕込んだ単量体、及び、重合開始からある時刻までに分添した単量体の量の合計[g]である。なお、ここでいう「単量体」とは、クロロプレン及びアクリロニトリルの合計量である。
重合率={[(総仕込み量×固形分濃度/100)-蒸発残分]/単量体の仕込み量}×100・・・(A)
【0093】
クロロプレン系ゴムに含まれるアクリロニトリルの単量体単位の含有量を、クロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴム中の窒素原子の含有量から算出した。具体的には、元素分析装置(スミグラフ220F:株式会社住化分析センター製)を用いて、100mgのクロロプレン系ゴム中における窒素原子の含有量を測定し、アクリロニトリルの単量体単位の含有量を算出した。
【0094】
上述の元素分析は次のとおり行った。電気炉温度として反応炉900℃、還元炉600℃、カラム温度70℃、検出器温度100℃に設定し、燃焼用ガスとして酸素ガスを0.2mL/min、キャリアーガスとしてヘリウムガスを80mL/minフローした。検量線は、窒素含有量が既知のアスパラギン酸(10.52%)を標準物質として用いて作成した。以上の製造方法で得られた、上記クロロプレン系ゴムのアクリロニトリルの単量体単位の含有量は10.0質量%であった。これを、クロロプレン系ゴムAN10%とした。
【0095】
<クロロプレン系ゴム(アクリロニトリル(AN)20質量%)の製造方法>
重合工程におけるアクリロニトリル単量体の添加量を変更し、アクリロニトリル単量体単位の含有量が20.0質量%であるクロロプレン系ゴムAN20%を得た。
【0096】
<ゴム組成物の作製>
表1に記載のように各成分を混合し、8インチオープンロールで混練することにより実施例及び比較例のゴム組成物を得た。
【0097】
ゴム組成物を得るために用いた各成分は以下のとおりである。
(クロロプレン系ゴム)
アクリロニトリル含有クロロプレンゴム:クロロプレン系ゴム AN10%、クロロプレン系ゴム AN20%、
【0098】
(ブチル系ゴム)
非ハロゲン化ブチルゴム
RIIR268:レギュラーブチルゴム、株式会社ENEOSマテリアル製、RIIR268、イソプレン 1.7mol%、
ハロゲン化ブチルゴム
CIIR1066:塩素化ブチルゴム、株式会社ENEOSマテリアル製、CIIR1066、Cl 1.2質量%
【0099】
(加硫促進剤)
非ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂
タッキロール201:アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(ホルムアルデヒド・4-ノニルフェノール・4-tert-ペンチルフェノール重合物)、田岡化学工業株式会社製、タッキロール201、ハロゲン濃度 3.5質量%
ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂
タッキロール250-III:臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(アルキル(C5~10)フェノールホルムアルデヒド重縮合物の臭素化変性物)、田岡化学工業株式会社製、タッキロール250-III
【0100】
(可塑剤)
ヒドロキシ基含有トリアシルグリセロール
ヒマシ油:富国製油株式会社製、工業用一号ヒマシ油、主成分は分子量933.4、下記式で表される
【0101】
【化5】
【0102】
(充填剤)
カーボンブラック
N330:旭カーボン株式会社製、旭#70、HAF
N550:旭カーボン株式会社製、旭#60、FEF
【0103】
(金属酸化物)
酸化亜鉛2種:堺化学工業株式会社製、酸化亜鉛
【0104】
(加工助剤)
ステアリン酸:新日本理化株式会社製、ステアリン酸50S
【0105】
得られたゴム組成物を下記方法で評価した。結果を表1に示す。
【0106】
<硬度(タイプAデュロメータ)>
得られたゴム組成物をJIS K 6299に基づき、180℃、20分の条件でプレス加硫することにより厚み2mmのシート状の加硫成形体を作製した。得られたシート状の加硫成形体を、GS-610(株式会社テクロック製)を用いて、JIS K 6253で規定されるデュロメータ硬度(タイプA)を室温(23℃)で測定した。
【0107】
<高温時の切断時伸び>
得られたゴム組成物をJIS K 6299に基づき、180℃、20分でプレス加硫することにより厚み2mmのシート状の加硫成形体を作製した。得られたシート状加硫成形体をダンベル状3号形試験片に成形し、JIS K 6251に基づき、190℃で切断時伸びを測定した。
【0108】
<耐屈曲疲労性>
得られたゴム組成物を180℃、20分の条件でプレス加硫して、デマッチャ屈曲疲労試験用の加硫成形体を作製した。得られた加硫成形体を用いて、JIS K 6260に基づき、デマッチャ屈曲疲労試験を行った。ストローク58mm、速度300±10rpm、室温(23℃)の条件下で、亀裂が発生した時点における屈曲試験の回数(単位:万回)を測定し、耐屈曲疲労性を評価した。
【0109】
【表1】
【要約】
【課題】従来よりも高度に優れた高温時の切断時伸び及び高度に優れた耐屈曲疲労性を有する加硫物及び加硫成形体を得ることができるゴム組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、クロロプレン系ゴム及びブチル系ゴムを含むゴム組成物であって、前記クロロプレン系ゴムは、不飽和ニトリル単量体単位を含むクロロプレン系ゴムを含み、前記ゴム組成物は、加工助剤、カーボンブラック、可塑剤、金属酸化物、加硫促進剤を含み、JIS K 6251に基づき、190℃で測定した前記ゴム組成物の加硫成形体の切断時伸びが500%以上である、タイヤブラダー用のゴム組成物が提供される。
【選択図】なし