(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】アウターロータ型ブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/38 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
H02K3/38 A
(21)【出願番号】P 2023567040
(86)(22)【出願日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2023020147
【審査請求日】2023-11-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓也
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-229111(JP,A)
【文献】特開2022-156256(JP,A)
【文献】特開2019-068593(JP,A)
【文献】特開2003-309942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K3/30-3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと一体回転するロータと、
前記シャフトの径方向外側かつ前記ロータの径方向内側に配置されたステータと、
前記ステータの一端側に固定されるとともに前記シャフトが挿通される筒状のブッシュと、を具備し、
前記ステータは、
前記シャフトが挿通される筒部及び前記筒部から径方向外側に突設された複数のティース部を有するステータコアと、
前記複数のティース部のそれぞれに巻線が巻回されてなる複数のコイルと、
前記巻線が巻回される前記ティース部に絶縁コーティングが施された絶縁層と、を備え、
前記ブッシュは、
前記筒部の内周面に固定される固定部と、
前記固定部から前記ステータコアの端面よりも軸方向に延出され、前記複数のコイル間を接続する渡り線が当接するガイド部と、を備える
ことを特徴とする、アウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項2】
前記ブッシュは、前記ガイド部の径方向外側を向く外面が前記内周面よりも径方向外側に位置する段付き形状である
ことを特徴とする、請求項1に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項3】
前記内周面には、軸方向に延在する位置決め溝が設けられており、
前記ガイド部には、前記端面と同方向を向くブッシュ端面に凹状の凹部が設けられている
ことを特徴とする、請求項2に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項4】
前記固定部は、前記内周面に内嵌可能な外径の外周面を持つ円筒状の基部と、前記外周面から凸設された凸部とを有し、前記内周面に圧入固定される
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項5】
前記固定部は、三つ以上の前記凸部を有し、
前記三つ以上の凸部は、周方向に互いに離隔して設けられる
ことを特徴とする、請求項4に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項6】
前記ステータコアは、六つの前記ティース部を有する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項7】
前記ステータコアは、六つの前記ティース部を有する
ことを特徴とする、請求項4に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【請求項8】
前記ステータコアは、六つの前記ティース部を有する
ことを特徴とする、請求項5に記載のアウターロータ型ブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、シャフトと一体回転するロータ及びロータの径方向内側に配置されたステータを具備するアウターロータ型ブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
アウターロータ型のモータには、ステータの渡り線と当該ステータの径方向内側の部品(例えば、シャフト)との接触を防止する構造を持つものが知られている。渡り線とは、ステータのステータコアに巻線を巻回することで構成された複数のコイル間を接続する巻線の一部である。例えば、特許文献1のモータには、円環状のベースから放射状に配置された複数の突極部と、ベースの内周側の部分から軸方向に立設された内周壁と、を有するステータが開示されている。このモータでは、各突極部に設けられたコイル同士を接続する渡り線が、内周壁の外周面に沿って配索される。これにより、渡り線がベースよりも径方向内側に入り込むことが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のステータでは、突極部のロータと対向する面及びベースの内周面を除く部分が、樹脂製のインシュレータで覆われている。特許文献1のステータでは、このようなインシュレータを設けることで、ベースや突極部とコイルとの絶縁が図られるが、インシュレータの厚みの分だけ、隣り合う突極部間の隙間(スロットともよばれる)が狭められる。これにより、スロットの容積(軸方向の断面積)が狭まり、コイルを形成するための空間の十分な確保が困難となり得る。つまり、従来のアウターロータ型ブラシレスモータでは、渡り線とシャフトとの接触を防止する構造を実現しつつ、コイルを形成するための十分な空間をステータに確保する点で改善の余地がある。
【0005】
本件のアウターロータ型ブラシレスモータは、このような課題に鑑み案出されたもので、コイルを形成するための十分な空間をステータコアに確保しつつ、渡り線とシャフトとの干渉を防止することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示のアウターロータ型ブラシレスモータは、以下に開示する態様(適用例)として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。態様2以降の各態様は、何れもが付加的に適宜選択されうる態様であって、何れもが省略可能な態様である。態様2以降の各態様は、何れもが本件にとって必要不可欠な態様や構成を開示するものではない。
【0007】
態様1.開示のアウターロータ型ブラシレスモータは、シャフトと一体回転するロータと、前記シャフトの径方向外側かつ前記ロータの径方向内側に配置されたステータと、前記ステータの一端側に固定されるとともに前記シャフトが挿通される筒状のブッシュと、を具備する。前記ステータは、前記シャフトが挿通される筒部及び前記筒部から径方向外側に突設された複数のティース部を有するステータコアと、前記複数のティース部のそれぞれに巻線が巻回されてなる複数のコイルと、前記巻線が巻回される前記ティース部に絶縁コーティングが施された絶縁層と、を備える。前記ブッシュは、前記筒部の内周面に固定される固定部と、前記固定部から前記ステータコアの端面よりも軸方向に延出され、前記複数のコイル間を接続する渡り線が当接するガイド部と、を備える。
【0008】
態様2.上記の態様1において、前記ブッシュは、前記ガイド部の径方向外側を向く外面が前記内周面よりも径方向外側に位置する段付き形状であることが好ましい。
態様3.上記の態様2において、前記内周面には、軸方向に延在する位置決め溝が設けられていることが好ましい。この場合、前記ガイド部には、前記端面と同方向を向くブッシュ端面に凹状の凹部が設けられていることが好ましい。
【0009】
態様4.上記の態様1~3のいずれかにおいて、前記固定部は、前記内周面に内嵌可能な外径の外周面を持つ円筒状の基部と、前記外周面から凸設された凸部とを有し、前記内周面に圧入固定されることが好ましい。
態様5.上記の態様4において、前記固定部は、三つ以上の前記凸部を有することが好ましい。この場合、前記三つ以上の凸部は、周方向に互いに離隔して設けられることが好ましい。
態様6.上記の態様1~5のいずれかにおいて、前記ステータコアは、六つの前記ティース部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
開示のアウターロータ型ブラシレスモータによれば、コイルを形成するための空間をステータコアに確保しつつ、渡り線とシャフトとの干渉を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るアウターロータ型ブラシレスモータの軸方向断面図である。
【
図2】
図1のアウターロータ型ブラシレスモータが備えるステータのステータコアを一端側から見た平面図である。
【
図3】
図1のX部を一端側から見た拡大斜視図である。
【
図5】
図1のアウターロータ型ブラシレスモータが備えるブッシュを他端側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、実施形態としてのアウターロータ型ブラシレスモータについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
アウターロータ型ブラシレスモータ(以下、単に「モータ」をいう)は、シャフトと一体回転するロータと、シャフトの径方向外側かつロータの径方向内側に配置されたステータと、を具備する。実施形態のモータは、従来のモータに設けられたインシュレータに代えて、ステータのステータコアに絶縁コーティングを施し、絶縁層を形成することで、金属製のステータコアとこれに巻回されて構成された複数のコイルとの絶縁を図ることを特徴の一つとする。ステータコアとコイルとの絶縁方法をコーティングとすることで、ステータコアのコア膜厚を最小限に形成できる。よって、インシュレータを設ける場合と比べて、コイルを形成するための空間を大きく確保することができるので、線積を拡大することが可能となり、モータ性能を高められる。
【0014】
また、実施形態のモータは、ステータの一端側に固定されるとともにシャフトが挿通される筒状のブッシュを具備することを特徴の一つとする。ブッシュには、ステータコアの内周面における一端側の部分に固定される固定部と、当該固定部からステータコアの一端側の端面よりも軸方向に延出されたガイド部とが設けられる。実施形態のモータは、このようなガイド部を持つブッシュが設けられることで、複数のコイル間を接続する渡り線をブッシュのガイド部に当接させて配索することを可能としたものである。これにより、ステータコアの径方向内側に位置するシャフトと渡り線との接触(干渉)を防止する。
【0015】
以下の説明では、シャフトを基準に、モータの方向(軸方向,周方向,径方向)を定める。軸方向は、シャフトの中心線に沿う方向(シャフトの長手方向)である。軸方向において、ステータに対してブッシュが設けられる側を「一端側」とし、この逆を「他端側」とする。周方向はシャフトの中心線周りの方向(円周方向)であり、径方向は軸方向及び周方向の双方に直交する方向である。
【0016】
[1.構成]
図1は、本実施形態に係るモータ1の軸方向に沿う断面図である。
図1に示すように、モータ1は、シャフト2と一体回転するロータ3と、シャフト2の径方向外側かつロータ3の径方向内側に配置されたステータ4と、ステータ4の一端側に固定されたブッシュ5とを備える。モータ1には、シャフト2の他端側に基板(電子基板,制御基板)6が設けられてよい。また、モータ1には、当該基板6を保持するホルダ7や、ステータ4の他端側の部分とホルダ7とを連結するメタルホルダ8が設けられてよい。
【0017】
シャフト2は、ロータ3を支持する回転軸であり、モータ1の出力(機械エネルギ)を外部に取り出す出力軸としても機能する。本実施形態のシャフト2は、ロータ3よりも一端側の部分が軸受21により回転自在に支持され、他端部が軸受22で回転自在に支持される。一端側の軸受21はハウジング9に固定され、他端側の軸受22はメタルホルダ8に固定される。なお、ハウジング9は、ロータ3を径方向外側から覆う有底筒状の部品である。
【0018】
ロータ3は、有底円筒状のロータヨーク31と、ロータヨーク31の内周面に固定されたマグネット32とを有する。ロータヨーク31は、底部が一端側に位置し、他端側が開放された形状をなす。ロータヨーク31は、その外周面とハウジング9の内周面との間に隙間をあけて取り付けられる。ロータヨーク31の底部の中央には、シャフト2が挿通された状態で固定される貫通孔が設けられる。これにより、シャフト2とロータヨーク31(ロータ3)とが一体で回転する。マグネット32は、ロータヨーク31の底部から離隔した位置における内周面に固定され、ロータヨーク31とともに一体回転する。
【0019】
ステータ4は、ステータコア41と複数のコイル45と絶縁層46(
図4参照)とを有する。ステータコア41は、同一形状の複数の鋼板が積層された積層コアであり、その中心には、
図1に示すように、鋼板の積層方向に軸方向を一致させた状態でシャフト2が挿通される。
【0020】
ステータコア41は、
図2に示すように、シャフト2が挿通される筒部42と、筒部42から径方向外側に突設された複数のティース部43と、各ティース部43の外側端部において周方向に展開された羽根部44とを有する。本実施形態のステータ4は、周方向に等間隔に配置された六つのティース部43(羽根部44)を有する。なお、
図2は、ステータコア41を一端側から見た平面図であり、このステータコア41にシャフト2が挿通された場合のシャフト2の断面を破線で示している。
【0021】
筒部42は、シャフト2の外径よりも大きい内径の内周面42fを持つ筒状の部位である。筒部42の内周面42fは円筒面であり、筒部42の外周面は円筒面でもよいし角筒面でもよい。ステータ4は、内周面42fがシャフト2と干渉しないように配置される。なお、筒部42には、内周面42fの一部を軸方向に沿って凹ませた位置決め溝42gが設けられてよい。この位置決め溝42gは、モータ1の組み立て時に、ステータ4の周方向における基準位置の確認を容易にするために設けられる。羽根部44は、ロータ3のマグネット32と対向する面部であり、軸方向から見て円弧状をなす。ティース部43は、筒部42と羽根部44とを接続する部位であり、例えば、軸方向から見て矩形状をなす。
【0022】
複数のコイル45は、複数のティース部43のそれぞれに巻回された巻線Wにより構成される。言い換えれば、ティース部43に巻線Wが巻回されて構成されたものをコイル45という。本実施形態のステータ4では、上記のティース部43の数に対応して、
図3に示すように、六つのコイル45が設けられる。
【0023】
以下、六つのコイル45のうち、シャフト2を挟んで対向配置された二つのコイル45をU相コイル45Uともいう。また、U相コイル45Uとは別のコイル45であってシャフト2を挟んで対向配置された二つのコイル45をV相コイル45Vともいう。残りの二つのコイル45をW相コイル45Wともいう。また、U相コイル45U,V相コイル45U及びW相コイル45Wのそれぞれのコア材となるティース部43を、それぞれU相ティース部43U,V相ティース部43V及びW相ティース部43W(
図2参照)ともいう。
【0024】
U相コイル45UにはU相の電流が供給され、V相コイル45VにはV相の電流が供給され、W相コイル45WにはW相の電流が供給される。同相のコイル45U,45V,45Wは、
図3に示すように、ステータコア41の一端側の端面41aに配索された渡り線Wcにより、互いに接続される。このように、同相のコイル45U,45V,45Wをそれぞれ、渡り線Wcを介して、連続的に巻くことで、結線作業を効率よく行うことができる。
【0025】
本実施形態のステータ4は、上述の通り、インシュレータに代えて、ステータコア41に絶縁コーティングを施すことで、ステータコア41とコイル45との絶縁を図るものである。絶縁層46は、ステータコア41の表面に絶縁コーティングを施すことで形成された膜である。
【0026】
絶縁層46は、巻線Wが巻回されるティース部43に設けられる。絶縁層46は、例えばティース部43の全域に設けられる。また、絶縁層46は、好ましくは、巻線Wとステータコア41との絶縁をより確実にするため、ティース部43だけでなく、筒部42の外周面や端面41aにも設けられる。本実施形態では、
図4に示すように、絶縁層46が、端面41aのうち筒部42の径方向内側部分を除く部分に設けられている。以下、この径方向内側部分を非被膜部41aiともいう。非被膜部41aiは、絶縁コーティングを施す際にステータコア41を保持する部分として活用される。
【0027】
ブッシュ5は、ステータ4の一端側に固定されるとともにシャフト2が挿通される筒状の部品である。
図1に示すように、ブッシュ5の中心線とシャフト2の中心線とは互いに一致し、ブッシュ5の内面とシャフト2の外周面との間には隙間が形成される。なお、本実施形態のブッシュ5は、その内面とシャフト2の外周面との隙間が軸方向に一様であるが、ブッシュ5は、当該隙間を形成できるものであればこれに限らない。また、ブッシュ5とこの他端側に位置するメタルホルダ8の一端面との間には隙間が形成されてよい。
【0028】
ブッシュ5は、渡り線Wcとシャフト2とが干渉することを防止する機能を有する。上述の通り、本実施形態のステータ4では、同相の二つのコイル45U,45V,45Wがそれぞれ、渡り線Wcにより接続される。また、同相の二つのコイル45U,45V,45Wはそれぞれ、互いにシャフト2を挟んで対向配置される。このため、ブッシュ5が無い状態では、
図2に二点鎖線で示すように、例えばU相コイル45Uの渡り線Wcが、シャフト2の断面を通る軌跡(巻線軌道)で配索され得る。これにより、シャフト2と渡り線Wcとが接触(干渉)して、渡り線Wcが断線する虞がある。
【0029】
ブッシュ5は、渡り線Wcとシャフト2とのこのような干渉を防止するため、
図3に示すように、ステータコア41の端面41aよりも軸方向に延出されて渡り線Wcをガイドするガイド部54を備える。また、ブッシュ5は、
図4に示すように、筒部42の内周面42fに固定される固定部51を備える。ガイド部54は、固定部51から軸方向に延出された部位であり、ブッシュ5は、これらの固定部51及びガイド部54が、例えば、絶縁性の樹脂により一体で形成される。
【0030】
固定部51は、上述の通り、筒部42の内周面42fに固定される部位であり、例えば、
図5に示すように、円筒状の基部52と、基部52の外周面52fから径方向外側に凸設された凸部53とを有する。基部52の外周面52fの外径は、内周面42fに内嵌可能な長さ(内周面42fの外径よりもわずかに小さい長さ)に設定される。また、外周面52fに対する凸部53の突出量は、凸部53を含む固定部51の外径が内周面42fよりもわずかに大きくなるように設定される。ブッシュ5は、このような固定部51が内周面42fに挿入されることで、ステータ4に対して圧入固定される。なお、本実施形態では、凸部53が基部52の軸方向の全域に亘って設けられているが、凸部53は、基部52の軸方向の一部に設けられていてもよい。
【0031】
固定部51には、複数の凸部53が設けられてよい。本実施形態では、三つの凸部53が固定部51に設けられる。三つの凸部53は、形状が同一であり、周方向に互いに離隔して(周方向に異なる位相で)設けられる。各凸部53は、ブッシュ5の圧入固定時の安定性を向上させる観点から、隣接する凸部53同士が周方向に等間隔で配置されることが好ましい。
【0032】
ガイド部54は、固定部51から一端側に延設された部位であり、例えば、円筒状をなす。本実施形態のガイド部54は、
図4に示すように、その外径が軸方向に一様かつ内周面42fの内径よりも大きく設定される。つまり、ガイド部54は、その径方向外側を向く外面54fが、ステータコア41の内周面42fよりも径方向外側に位置する。別言すれば、本実施形態のブッシュ5は、内周面42fに固定される固定部51と、内周面42fよりも径方向外側に位置する外面54fを持つガイド部54との二つの部位が、軸方向に並設された段付き形状をなす。これにより、ステータコア41に対するブッシュ5の位置決めが可能となる。
【0033】
ガイド部54の外径は、より好ましくは、端面41aの非被膜部41aiの全体を覆う大きさ、或いは、非被膜部41aiの一部を覆う大きさであっても、外面54fと絶縁層46との間に形成される隙間が巻線W(渡り線Wc)の外径よりも小さくなるように設定される。このようにガイド部54の外径が設定されることで、渡り線Wcを絶縁層46上に配索できる。言い換えれば、端面41aに渡り線Wcが接触することを防止できるので、巻線Wとステータコア41との絶縁がより図られる。
【0034】
ところで、ガイド部54の外面54fが内周面42fよりも径方向外側に位置する場合、
図3に示すように、内周面42fの位置決め溝42gが一端側から視認できなくなる。そこで、本実施形態のガイド部54には、ガイド部54の一端側を向く端面54a(以下、「ブッシュ端面54a」という)に凹状の凹部54rが設けられている。ステータコア41へのブッシュ5の挿入時に、この凹部54rと位置決め溝42gとの位相を一致させた状態でブッシュ5をステータコア41に挿入することで、凹部54rを介して間接的に位置決め溝42gの位置が確認可能となる。なお、本実施形態では、ブッシュ端面54aの外形をC字状とするように凹部54rが設けられているが、凹部54rは少なくとも一端側から視認可能なものであればよく、凹部54rの形状はこれに限らない。
【0035】
ガイド部54の、ステータコア41の端面41aからの突出量は、少なくとも、渡り線Wcの外径よりも大きく設定される。ガイド部54には、
図3及び
図4に示すように、複数の渡り線Wcが軸方向に重なり合って外面54fに当接し得る。このため、ガイド部54の突出量は、好ましくは、重なり合って配索される渡り線Wcの最大の本数(ここでは三本)分の外径の和よりも大きく設定される。
【0036】
以下、モータ1を組み立てる流れについて説明する。まず、はじめに、絶縁コーティングが施された状態であって巻線Wが巻回されていない状態のステータコア41(すなわち、
図2に示す状態のステータコア41)の内周面42fに、ブッシュ5を一端側から挿入する。これにより、固定部51の凸部53が内周面42fに圧接されて、ブッシュ5がステータコア41に対して圧入固定される。
【0037】
なお、この際、凸部53は、内周面42fにより径方向内側に押圧されるが、この力は凸部53が周方向に膨張変形することで吸収される。このように、本実施形態では、複数の凸部53が、互いに周方向に離隔して設けられていることで、各凸部53の周方向への膨張変形が許容されるので、圧入固定によるブッシュ5の内孔の変形を抑制できる。よって、ブッシュ5の径方向内側にシャフト2を挿入可能な空間を維持できる。また、凸部53が周方向に等間隔で設けられているので、ステータコア41に対するブッシュ5の固定をより安定させられる。
【0038】
一端側から挿入されたブッシュ5は、
図4に示すように、ガイド部54の他端側を向く端面が、ステータコア41の端面41aに当接することで、ガイド部54が内周面42fに入り込むことが防止されて、ブッシュ5が位置決めされる。また、これにより、非被膜部41aiがガイド部54により一端側から部分的に覆われるので、続く処理でステータコア41に巻回される巻線Wとステータコア41との絶縁が図られる。
【0039】
また、ブッシュ5をステータコア41に挿入する際、位置決め溝42gと凹部54rとが同位相となるようにブッシュ5が挿入されれば、
図3に示すように、ブッシュ5が挿入されても、一端側からステータ4の周方向の基準位置を確認できる。よって、後続する処理で、スムーズなモータ1の組み立てが可能となる。
【0040】
次に、ブッシュ5が固定された状態のステータコア41に対して、巻線Wを巻回することで各コイル45を形成する。本実施形態では、一本の巻線Wを、各相のティース部43U,43V,43Wに順に巻き付けて六つのコイル45を形成し、その後、異なる相のコイル45U,45V,45W同士を接続する巻線Wを切断する流れで、各コイル45を形成する。このように、一本の巻線Wを切断することなく(一筆書きの要領で)巻回していくことで、作業効率を高めることができる。
【0041】
具体的には、
図2に示す(a)~(f)の順で、各ティース部43に巻線Wを巻き付ける。つまり、はじめに、二つのU相ティース部43Uの一方に巻線Wを巻き付けて一つ目のU相コイル45Uを形成する〔
図2中の(a)〕。そして、この巻き終わり線を渡り線Wcとして、
図3に示すように、外面54fに沿わせて配索し、他方のU相ティース部43Uに巻線Wを巻き付けることで二つ目のU相コイル45Uを形成する〔
図2中の(b)〕。
【0042】
続けて、二つ目のU相コイル45Uの巻き終わり線を外面54fに沿わせて配索し、一方のU相ティース部43Uに隣接する一方のV相ティース部43Vに巻線Wを巻き付け、一つ目のV相コイル45Vを形成する〔
図2中の(c)〕。その後、この巻き終わり線を渡り線Wcとして外面54fに沿わせて配索し、他方のV相ティース部43Vに巻線Wを巻き付けることで二つ目のV相コイル45Vを形成する〔
図2中の(d)〕。さらに、同じ要領で、一つ目のW相コイル45W及び二つ目のW相コイル45Wを形成する〔同図中の(e)及び(f)〕。そして最後に、二つ目のU相コイル45U及び一つ目のV相コイル45Vと、二つ目のV相コイル45V及び一つ目のW相コイル45Wとのそれぞれを接続する巻線Wを切断する。
【0043】
そして、各相のコイル45U,45V,45Wの一端を束ねてCOM線とし、各他端を図示しない絡げピンに絡げて基板6に接続するとともに、ステータ4をメタルホルダ8に固定する。さらに、ロータ3が固定されたシャフト2を、ブッシュ5の一端側からブッシュ5の内孔に挿入し、ハウジング9を取り付けることで、モータ1の組み立てが完了する。なお、モータ1の組み立て手順は、少なくとも巻線Wの巻回前に、ブッシュ5がステータコア41に固定されればよく、これに限らない。例えば、ステータ4のメタルホルダ8への固定は、ステータコア41へのブッシュ5の挿入前(すなわち、巻線Wの巻回前)に実施されてもよい。
【0044】
[2.作用,効果]
(1)上述したモータ1では、絶縁コーティングにより形成された絶縁層46により、ステータコア41とコイル45とが絶縁される。このように、従来のインシュレータを設ける構成に代えて、ステータコア41とコイル45との絶縁方法を絶縁コーティングとすることで、隣り合うティース部43同士の間の空間を大きく確保することができる。よって、線積を拡大することができるので、モータ1の性能を高められる。さらには、インシュレータが不要なので、部品点数を削減でき、モータ1の構成を簡素にできる。
加えて、ブッシュ5のガイド部54に、シャフト2と干渉し得る渡り線Wcを当接させて配索できるので、シャフト2と渡り線Wcとの接触(干渉)を防止できる。よって、渡り線Wcの断線を防止でき、モータ1の性能を高められる。
【0045】
(2)上述したモータ1において、ブッシュ5は、ガイド部54の外面54fが内周面42fよりも径方向外側に位置する段付き形状とされる。これにより、ガイド部54が内周面42fに入り込むことを防止できる。よって、シャフト2と渡り線Wcとの接触をより防止できるとともに、ブッシュ5の位置決めができる。また、絶縁コーティングされない非被膜部41aiがあったとしても、ガイド部54により非被膜部41aiと渡り線Wcとの接触も抑制できるので、絶縁性能を確保できる。
【0046】
(3)上述したモータ1では、ステータコア41の内周面42fに位置決め溝42gが設けられるとともに、ブッシュ端面54aに凹部54rが設けられる。これにより、モータ1の組み立て時に、位置決め溝42gと凹部54rとの位相を合わせてブッシュ5をステータコア41に組付けることで、凹部54rを介して間接的に位置決め溝42gの位置を確認することができる。よって、モータ1の組付け作業の作業性を向上できる。
【0047】
(4)上述したモータ1では、基部52及び凸部53を有する固定部51が内周面42fに圧入固定されることで、ブッシュ5がステータコア41に固定される。このように、ステータコア41へのブッシュ5の固定を圧入とすることで、当該固定に係る工数を削減することができる。また、基部52自体を圧入するのではなく凸部53を設けることで、圧入固定時の基部52の変形を抑制できる。よって、ステータコア41に固定されたブッシュ5の径方向内側に、シャフト2を挿入可能な空間を維持できる。
【0048】
(5)上述したモータ1では、三つの凸部53が周方向に互いに離隔して設けられる。これにより、ステータコア41へのブッシュ5の挿入時に軸中心を出しやすくすることができる。また、三つの凸部53が周方向に互いに離隔して設けられることで、圧入時における各凸部53の周方向への膨張変形が許容される。よって、ステータコア41に固定されたブッシュ5の径方向内側に、シャフト2を挿入可能な空間を維持できる。
【0049】
(6)上述したモータ1では、ステータ4が六つのティース部43を有する。ティース部43が六つの場合、上述の通り、同相のコイル45U,45V,45Wが互いにシャフト2を挟んで対向配置される。このため、ブッシュ5が無い状態では、渡り線Wcがステータコア41の径方向内側に入り込み易くなる。しかし、上述したモータ1では、渡り線Wcのこのような径方向内側への入り込みがガイド部54によって阻害されるので、渡り線Wcとシャフト2との干渉を防止できる。
【0050】
[3.その他]
上述したモータ1は一例であり、上述した構成に限られない。例えば、ステータ4のティース部43の数は、六つでなくてもよい。ステータ4に設けられる絶縁層46は、端面41aの全域を覆ってもよい。内周面42fには、位置決め溝42gが設けられていなくてもよい。
【0051】
ブッシュ5の形状も上述のものに限らない。ガイド部54は、少なくとも固定部51から端面41aよりも軸方向に延出されて渡り線Wcが当接するものであればよく、円筒状でなくてもよい。例えば、ガイド部54は、軸方向から見て多角形状の外形をなす筒状(角筒状)であってよい。ガイド部54の外面54fは、内周面42fよりも径方向外側に位置していなくてもよい。つまり、ブッシュ5は、段付き形状でなくてもよい。位置決め溝42gが省略される場合、凹部54rは省略されてよい。
【0052】
固定部51は、少なくとも内周面42fに固定される形状であればよく、筒状でなくてもよい。凸部53の数が三つよりも多く設けられていてもよい。ステータコア41へのブッシュ5の固定時に軸中心を出すことが不要な場合には、凸部53の数は、三つ未満であってもよい。
【0053】
凸部53の形状も上述のものに限らない。凸部は、例えば、基部52の周方向に沿って延設されていてもよい。この際、凸部は、複数設けられていてもよい。この場合、複数の凸部を軸方向に互いに離隔して設ければ、圧入固定時に凸部の軸方向への変形が許容されるので、ブッシュの内孔の変形を抑制できる。
【0054】
基部52及び凸部53を有する固定部51に代えて、固定部は、例えば、軸方向から見て多角形状の外形をなす筒状(角筒状)であってもよい。この場合、ステータコア41へのブッシュ5の圧入固定時には、固定部の角が内周面42fに圧接されて変形することで、ブッシュ5の内孔の変形を抑制できる。また、ステータ4に対するブッシュ5の固定方法は圧入固定でなくてもよく、例えば、接着固定であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 モータ(アウターロータ型ブラシレスモータ)
2 シャフト
3 ロータ
4 ステータ
5 ブッシュ
41 ステータコア
41a 端面
42 筒部
42f 内周面
42g 位置決め溝
43 ティース部
45 コイル
46 絶縁層
51 固定部
52 基部
52f 外周面
53 凸部
54 ガイド部
54a ブッシュ端面
54f 外面
54r 凹部
W 巻線
Wc 渡り線
【要約】
モータは、シャフト(2)と一体回転するロータと、シャフト(2)の径方向外側かつロータの径方向内側に配置されたステータ(4)と、ステータ(4)の一端側に固定されるとともにシャフト(2)が挿通される筒状のブッシュ(5)と、を具備する。ステータ(4)は、シャフト(2)が挿通される筒部(42)及び筒部(42)から径方向外側に突設された複数のティース部(43)を有するステータコア(41)と、複数のティース部(41)のそれぞれに巻線が巻回されてなる複数のコイル(45)と、巻線が巻回されるティース部(43)に絶縁コーティングが施された絶縁層(46)と、を備える。ブッシュ(5)は、筒部(42)の内周面(42f)に固定される固定部(51)と、固定部(51)からステータコア(41)の端面(41a)よりも軸方向に延出され、複数のコイル間(45)を接続する渡り線(Wc)が当接するガイド部(54)と、を備える。