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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】断熱シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20240119BHJP
   C01B 33/16 20060101ALI20240119BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20240119BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240119BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20240119BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20240119BHJP
【FI】
F16L59/02
C01B33/16
H01M10/658
H01M10/625
H01M10/6555
H01M10/651
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021505494
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040563
(87)【国際公開番号】W WO2020183773
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019042107
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019050578
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】曹 坤先
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 里佳子
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110055(WO,A1)
【文献】特開2016-047979(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022241(WO,A1)
【文献】特開2018-021659(JP,A)
【文献】国際公開第2018/029997(WO,A1)
【文献】特開2017-101764(JP,A)
【文献】特開2019-127961(JP,A)
【文献】特開2016-176491(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176216(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
C01B 33/16
H01M 10/658
H01M 10/625
H01M 10/6555
H01M 10/651
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有する繊維シートと、
前記空間に担持されたシリカキセロゲルと、
を備えた断熱シートであって、
前記断熱シートは、互いに反対側の2つの主面を有し、
前記断熱シートの前記2つの主面の一方から他方にまで亘って、前記繊維シートの前記空間に前記シリカキセロゲルが充填されており、
前記断熱シートは、中央部に位置する高圧縮領域と、前記高圧縮領域を囲む低圧縮領域とを有し、
前記高圧縮領域と前記低圧縮領域のそれぞれは、前記繊維シートと前記シリカキセロゲルを有し、
0.25MPaの圧力が印加されたときの前記高圧縮領域の圧縮率は、0.25MPaの圧力が印加されたときの前記低圧縮領域の圧縮率よりも大きく、
記高圧縮領域の前記圧縮率は30%以上かつ50%以下であり、
記低圧縮領域の前記圧縮率は1%以上かつ5%以下である、
断熱シート。
【請求項2】
前記高圧縮領域の前記断熱シートに占める割合は30%以上かつ95%以下である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項3】
前記断熱シートは前記高圧縮領域と前記低圧縮領域との間に位置してかつ前記高圧縮領域と前記低圧縮領域に繋がる境界領域をさらに有し、
.25MPaの圧力が印加されたときの前記境界領域の圧縮率は前記高圧縮領域の前記圧縮率より小さくかつ前記低圧縮領域の前記圧縮率より大きく、
前記断熱シートは、共に長辺と短辺とを有する矩形状を有し
記境界領域の幅は0.5mm以上であり、かつ前記断熱シートの前記矩形状の前記長辺の幅の20%以下である、請求項1または2に記載の断熱シート。
【請求項4】
前記境界領域の前記圧縮率は30%より小さくかつ5%より大きい、請求項に記載の断熱シート。
【請求項5】
前記断熱シートは前記高圧縮領域と前記低圧縮領域との間に位置してかつ前記高圧縮領域と前記低圧縮領域に繋がる境界領域をさらに有し、
.25MPaの圧力が印加されたときの前記境界領域の圧縮率は前記高圧縮領域の前記圧縮率より小さく
記境界領域の幅は0.5mm以上であり、かつ前記断熱シートの最大幅の20%以下である、請求項1または2に記載の断熱シート。
【請求項6】
前記境界領域の前記圧縮率は30%より小さくかつ5%より大きい、請求項に記載の断熱シート。
【請求項7】
内部に空間を有する繊維シートを準備するステップと、
前記繊維シートの中央部に位置する第1の領域に第1のゾル溶液を含浸させるステップと、
前記繊維シートの前記第1の領域を囲む第2の領域に前記第1のゾル溶液と異なる第2のゾル溶液を含浸させるステップと、
前記含浸された第1のゾル溶液をゲル化することにより前記第1の領域に第1のシリカゲルを形成するステップと、
前記含浸された第2のゾル溶液をゲル化することにより前記第2の領域に第2のシリカゲルを形成するステップと、
前記第1のシリカゲルを疎水化するステップと、
前記第2のシリカゲルを疎水化するステップと、
前記疎水化された第1のシリカゲルと前記疎水化された第2のシリカゲルとを乾燥させるステップと、
を備え、
前記疎水化された第1のシリカゲルと前記疎水化された第2のシリカゲルとを乾燥させる前記ステップの後において、0.25MPaの圧力が印加されたときの前記第1の領域の圧縮率は30%以上かつ50%以下で、かつ0.25MPaの圧力が印加されたときの前記第2の領域の圧縮率は1%以上かつ5%以下であり、
前記疎水化された第2のシリカゲルは、前記繊維シートの互いに反対側の2つの主面の一方から他方にまで亘って前記第2の領域に形成されている、断熱シートの製造方法。
【請求項8】
前記第1のゾル溶液を含浸させる前記ステップは、前記繊維シートの前記第1の領域にインクジェット印刷またスクリーン印刷で前記第1のゾル溶液を含浸させるステップを含む、請求項に記載の断熱シートの製造方法。
【請求項9】
前記第2のゾル溶液を含浸させる前記ステップは、前記繊維シートの前記第2の領域にインクジェット印刷またスクリーン印刷で前記第2のゾル溶液を含浸させるステップを含む、請求項またはに記載の断熱シートの製造方法。
【請求項10】
内部に空間を有する繊維シートと、
前記空間に担持されたシリカキセロゲルと、
を備えた断熱シートであって、
前記断熱シートは、互いに反対側の2つの主面を有し、
前記断熱シートの前記2つの主面の一方から他方にまで亘って、前記繊維シートの前記空間に前記シリカキセロゲルが充填されており、
前記断熱シートは、中央部に位置する高圧縮領域と、前記高圧縮領域を囲む低圧縮領域とを有し、
前記高圧縮領域と前記低圧縮領域のそれぞれは、前記繊維シートと前記シリカキセロゲルを有し、
MPaの圧力が印加された前記高圧縮領域の圧縮率は、5MPaの圧力が印加された前記低圧縮領域の圧縮率よりも大きい、断熱シート。
【請求項11】
前記高圧縮領域の前記圧縮率は10%以上であり、
前記低圧縮領域の前記圧縮率は7%以下である、請求項10に記載の断熱シート。
【請求項12】
内部に空間を有する繊維シートを準備する工程と、
水ガラスとエチレンカーボネートとを含むシリカゾル溶液を前記繊維シートの前記空間に含浸させることにより材料シートを形成するステップと、
前記材料シートの中央部の温度が前記材料シートの前記中央部を囲む前記材料シートの周辺部の温度より50℃以上高い状態で、前記含浸されたシリカゾル溶液をゲル化させることによりシリカゲルを形成するステップと、
前記シリカゲルを疎水化するステップと、
を含む、断熱シートの製造方法であって、
前記断熱シートは、前記材料シートの中央部に対応する中央部と、前記中央部を囲む周辺部とを有し、
MPaの圧力を印可したときの前記断熱シートの前記中央部の圧縮率は、5MPaの圧力を印可したときの前記断熱シートの前記周辺部の圧縮率より大きく、
前記材料シートの前記周辺部の前記シリカゲルは、前記材料シートの互いに反対側の2つの主面の一方から他方にまで亘って前記周辺部に形成されている、断熱シートの製造方法。
【請求項13】
前記断熱シートの前記中央部の前記圧縮率は10%以上であり、
前記断熱シートの前記周辺部の前記圧縮率は7%以下である、請求項12に記載の断熱シートの製造方法。
【請求項14】
前記シリカゲルを形成するステップは、前記材料シートの前記中央部の前記温度が前記材料シートの前記周辺部の前記温度より50℃以上高く、さらに、前記材料シートの前記中央部の前記温度が85℃以上かつ135℃以下である状態で、前記含浸されたシリカゾル溶液をゲル化させることにより前記シリカゲルを形成するステップを含む、請求項12または13に記載の断熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱対策として用いられる断熱シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載リチウムイオンバッテリーのモジュールは、複数の電池セルを筐体内に配置し、耐振性を確保するために、所定の圧力を加えて固定している。このとき電池セル間の絶縁を確保するために、電池セル間に外枠を配置する場合がある。モジュールの寸法精度を向上させるために、この外枠は圧縮しにくい材料により構成されている。しかしながら一つの電池セルが熱暴走を起こした場合、隣の電池セルにも影響を及ぼすため、電池セル間に断熱シートを配置して、隣の電池セルへ熱流を遮断することが行われている。このための断熱シートとしては、例えばシリカキセロゲルからなる断熱シートが用いられている。
【0003】
前述の断熱シートに類似する従来の断熱シートは、例えば、特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-3159号公報
【文献】特開2011-136859号公報
【発明の概要】
【0005】
断熱シートは、内部に空間を有する繊維シートと、上記空間に担持されたシリカキセロゲルとを備える。断熱シートは高圧縮領域と低圧縮領域とを有する。高圧縮領域に印加された0.25MPaの圧力に対する高圧縮領域の圧縮率は30%以上かつ50%以下である。低圧縮領域に印加された0.25MPaの圧力に対する低圧縮領域の圧縮率は1%以上かつ5%以下である。
【0006】
別の断熱シートは、内部に空間を有する繊維シートと、上記空間に担持されたシリカキセロゲルとを備える。断熱シートは、中央部に位置する高圧縮領域と、高圧縮領域を囲む低圧縮領域とを有する。高圧縮領域に印加された5MPaの圧力に対する高圧縮領域の圧縮率は、低圧縮領域に印加された5MPaの圧力に対する低圧縮領域の圧縮率よりも大きい。
【0007】
これらの断熱シートは、全体として断熱効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は実施の形態1における断熱シートの断面図である。
図2図2は実施の形態1における断熱シートの平面図である。
図3図3は実施の形態1における断熱シートを備えた電池モジュールの断面図である。
図4図4は実施の形態1における断熱シートの拡大平面図である。
図5図5は実施の形態1における断熱シートの製造方法を示す断面図である。
図6図6は実施の形態2における断熱シートの断面図である。
図7図7は実施の形態2における断熱シートの平面図である。
図8図8は実施の形態2における断熱シートを備えた電池モジュールの断面図である。
図9図9は実施の形態2における断熱シートの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態1)
図1図2はそれぞれ実施の形態1における断熱シート11の断面図と平面図である。図1図2に示す断熱シート11の線I-Iにおける断面を示す。
【0010】
断熱シート11は、内部に空間12qを有する繊維シート12と、繊維シート12の空間12qに担持されたシリカキセロゲル13とから構成され、互いに反対側の2つの面11A、11Bを有し、面11A、11Bの間隔である約1mmの厚さを有する。面11A、11Bは厚さ方向D1に配列されている。面11A、11Bは厚さ方向D1に直角の面方向D2に広がる。面11A、11Bは約150mmの長辺11Cと約100mmの長さの短辺11Dと有する矩形状を有する。繊維シート12は、間に空間12qを形成するように互いに絡んだ平均繊維太さ約10μmのガラス繊維よりなる繊維12pからなる。繊維シート12の全体の体積中で空間12qの合計の体積の占める割合は約90%となっている。繊維シート12の内部の空間12qにシリカキセロゲル13が充填されている。シリカキセロゲル13は内部にナノサイズの空間を有しているため、シリカキセロゲル13が充填されている部分の熱伝導率は、0.020~0.060W/m・Kとなっている。なおシリカキセロゲル13は、乾燥した状態の広義のキセロゲルであり、通常の乾燥だけでなく、超臨界乾燥、凍結乾燥等の方法によって得られるものでもかまわない。
【0011】
断熱シート11は、一般的に使用場所に応じて加工された形状を有し、矩形状の他に、円形状、台形状を有していてもよい。
【0012】
断熱シート11の典型的な形状として矩形状が挙げられる。図2に示すように、断熱シート11は、面11A、11Bの広がる面方向D2において中央部に設けられた高圧縮領域21と、高圧縮領域21を囲む低圧縮領域22とを有する。すなわち、低圧縮領域22は断熱シート11の中央部を囲む周辺部に設けられている。低圧縮領域22は0.25MPaの加圧で約3%圧縮され、高圧縮領域21は0.25MPaの加圧で約40%圧縮される。すなわち、低圧縮領域22に印加された0.25MPaの圧力に対する低圧縮領域22の圧縮率は約3%であり、高圧縮領域21に印加された0.25MPaの圧力に対する高圧縮領域21の圧縮率は約40%である。
【0013】
ある圧力に対する圧縮率Pnは、断熱シート11が自然の状態すなわち圧力が印加されていない状態での厚みt0と、その圧力が印加されているときの厚みt1とにより、Pn=(t0-t1)/t0×100(%)で求められる。
【0014】
低圧縮領域22の熱伝導率は約0.05W/m・Kであり、高圧縮領域21の熱伝導率は約0.02W/m・Kとなっている。高圧縮領域21の面11A(11B)内での大きさは約140mm×90mmである。
【0015】
図3は実施の形態1における断熱シート11を備えた電池モジュール81の断面図である。電池モジュール81は、複数の電池セル82A、82Bと、複数の電池セル82A、82B間に設けられた断熱シート11とを備える。実施の形態1では、断熱シート11の面11A、11Bは電池セル82A、82Bにそれぞれ対向して直接当接する。断熱シート11の面11A、11Bは電池セル82A、82Bに接着層やクッション層等の他の層を介してそれぞれ当接していてもよい。電池セル82A、82Bが膨張した場合、主に電池セル82A、82Bの中央部が膨張するので、断熱シート11では主に中央部に圧力が加わる。断熱シート11の中央部には高圧縮領域21が設けられているので、断熱シート11の高圧縮領域21が圧縮されて電池セル82A、82Bの膨張すなわち厚みの増加を吸収して、電池セル82A、82Bの加圧と熱暴走を防止することができる。一方、断熱シート11の周辺部には低圧縮領域22が設けられているので、電池セル82A、82B間の距離を保ち電池モジュール81の耐振性を向上させることができる。低圧縮領域22の0.25MPaの圧力に対する圧縮率は1%以上かつ5%以下とすることが望ましい。低圧縮領域22の圧縮率が1%未満となると断熱性が悪くなり周辺部から熱が伝導しやすくなる。逆に低圧縮領域22の圧縮率が5%を越えると、耐振性が悪くなる。また、高圧縮領域21の0.25MPaの圧力に対する圧縮率は30%以上かつ50%以下にすることが望ましい。高圧縮領域21の圧縮率が30%未満となると、厚みを吸収する量が小さくなり、電池セル82A、82Bの熱暴走が発生しやすくなる。逆に高圧縮領域21の圧縮率が50%を越えると、断熱性が悪化する。
【0016】
前述の従来の断熱シートと外枠の間に隙間が存在するので、その隙間から熱流がリークして隣の電池セルに熱流が達してその電池セルが熱暴走するリスクが上昇する。また、外枠の材質は断熱効果が劣るので1つの電池セルが熱暴走したとき熱流の通過量が増え、隣の電池セルまで熱暴走するリスクがさらに上昇する。
【0017】
これに対して、実施の形態1における断熱シート11では、上述のように、同一面に異なる圧縮特性を有する高圧縮領域21と低圧縮領域22とが設けられていることで、外枠を用いなくてもモジュール形状を維持し、電池セル82A、82Bの膨張を吸収しながら断熱性も維持することができ、電池セル82A、82Bのうちの一方から他方への熱流のリーグを防ぐことができる。周辺部も中央部と同様にシリカキセロゲルで構成されているので、全体として断熱効果を向上させることができる。
【0018】
断熱シート11の面11A(11B)の面積に対して高圧縮領域21の面積の占める割合は30%以上かつ95%以下であることが好ましい。高圧縮領域21の面積の割合が30%未満の場合、断熱シート11の断熱性能が低下し、電池セル82A、82Bの厚みの増加の吸収性能も低下する。一方、高圧縮領域21の面積の割合が95%より大きくなると、低圧縮領域22の幅は1mm以下となり、低圧縮領域22では電池セル82A、82B間の距離等の寸法を安定させることが難しくなる。
【0019】
図4は断熱シート11の拡大平面図である。断熱シート11は高圧縮領域21と低圧縮領域22との間に位置してかつ高圧縮領域21と低圧縮領域22とに繋がる境界領域61をさらに有する。高圧縮領域21と低圧縮領域22とは繊維シート12の2つの領域に互いに異なるゾル溶液をそれぞれ含侵させることにより形成される。繊維シート12の2つの領域にそれぞれ含侵されたゾル溶液が2つの領域の境界では完全には分離できずに混ざり合うことにより境界領域61が形成される。したがって、境界領域61に印加された0.25MPaの圧力に対する境界領域61の圧縮率は高圧縮領域21の圧縮率より小さく、低圧縮領域22の圧縮率より大きい。実施の形態1では、境界領域61の圧縮率は30%より小さくかつ5%より大きい。高圧縮領域21と低圧縮領域22との双方は断熱シート11の2つの面11A、11Bに達している。実施の形態1では境界領域61も面11A、11Bに達しているが、面11A、11Bのうちの少なくとも一方に達していなくてもよい。境界領域61を介して高圧縮領域21と低圧縮領域22とが対向している方向の境界領域61の幅W61は0.5mm以上、かつ面11A、11Bの矩形状の長辺11Cの幅W11C(図2参照)の20%以下とすることが望ましい。境界領域の幅W61が0.5mmよりも小さくなると、厚み方向のせん断力が低下して、電池セル82A(82B)が膨張したときに断熱シート11に亀裂が入る可能性がある。境界領域61の断熱性能は高圧縮領域21より劣るので、境界領域61の幅W61が長辺11Cの幅W11Cの20%以上であると、断熱シート11の断熱性能が全体的に低下する場合がある。このように、境界領域61の幅W61は0.5mm以上であり、かつ断熱シート11の最大幅(例えば、幅W11C)の20%以下であることが好ましい。
【0020】
次に、実施の形態1における断熱シート11の製造方法について説明する。図5は断熱シート11の製造方法を示す断面図であり、材料シート31を示す。
【0021】
まず、厚さ約1mmのガラス繊維の繊維12pからなる繊維シート12を準備する。
【0022】
次に高圧縮領域21に含浸させるゾル溶液51を配合する。ゾル溶液51は、例えば6%の水ガラス溶液に触媒としてエチレンカーボネートを添加してシリカゾル溶液を調整する。低圧縮領域22に含浸するゾル溶液52はゾル溶液51とは異なっており、例えば20%の水ガラス溶液に触媒としてエチレンカーボネートを添加してシリカゾル溶液を調整することで作製される。
【0023】
次に繊維シート12の中央部の領域41にゾル溶液51を含浸させる。その後、ゾル溶液52を繊維シート12の領域41を囲む周辺部の領域42に含浸させることにより図5に示す材料シート31を得る。ゾル溶液51、52を含浸させた繊維シート12よりなる材料シート31を約90℃の温度の乾燥機に約10分間入れて養生させてゾル溶液51、52のシリカエアロゲルの骨格を成長させる。その後、材料シート31を塩酸に浸漬させて、トリシロキサンに浸漬して疎水基を形成する。その後、材料シート31を温度約150℃で2時間乾燥させてゾル溶液51、52の溶剤成分を気化させて、図1に示す断熱シート11を得る。
【0024】
このようにして領域41に形成された高圧縮領域21は0.25MPaの圧力に対して約40%の圧縮率を有し、領域42に形成された低圧縮領域22は0.25MPaの圧力に対して約3%の圧縮率を有する。
【0025】
2種類のゾル溶液51、52を高圧縮領域21と低圧縮領域22にそれぞれ含浸させる方法としては、例えばスクリーン印刷工法が挙げられる。まず、高圧縮領域21となる領域41に対向する開口部が形成されたスクリーン版で繊維シート12を覆い、その開口部を通してゾル溶液51を繊維シートの領域41に含浸させて乾燥させる。さらに、低圧縮領域22となる領域42に対向する開口部を有するスクリーン版で繊維シート12を覆いその開口部を通してゾル溶液52を繊維シート12の領域42に含浸させて乾燥することで材料シート31が得られる。ゾル溶液51、52を含浸させる方法はスクリーン印刷の他に、グラビア印刷またインクジェット印刷などの他の印刷でもよい。
【0026】
(実施の形態2)
図6図7はそれぞれ実施の形態2における断熱シート111の断面図と平面図である。図6図7に示す断熱シート111の線VI-VIにおける断面を示す。
【0027】
断熱シート111は、内部に空間112qを有する繊維シート112と、繊維シート112の空間112qに担持されシリカキセロゲル113とから構成され、互いに反対側の2つの面111A、111Bを有し、面111A、111Bの間隔である約1mmを有する。面111A、111Bは厚さ方向D101に配列されている。面111A、111Bは厚さ方向D101に直角の面方向D102に広がる。繊維シート112は、空間112qを形成するように互いに絡む平均繊維太さ約10μmのガラス繊維の繊維112pからなる。繊維シート112の中で空間112qの合計の体積の占める割合は約90%となっている。繊維シート112の内部の空間112qにシリカキセロゲル113が充填されている。シリカキセロゲル113は内部にナノサイズの空間を有しているため、シリカキセロゲル113が充填されている部分の熱伝導率は、0.020~0.060W/m・Kとなっている。なおシリカキセロゲル113は、乾燥した状態の広義のキセロゲルであり、通常の乾燥だけでなく、超臨界乾燥、凍結乾燥等の方法によって得られるものでもかまわない。
【0028】
図7に示すように、断熱シート111は、面111A、111Bの広がる面方向D102において中央部に設けられた高圧縮領域121と、高圧縮領域121を囲む低圧縮領域122とを有する。すなわち、低圧縮領域122は断熱シート111の中央部を囲む周辺部に設けられている。低圧縮領域122は5MPaの加圧で約5%圧縮され、高圧縮領域121は5MPaの加圧で約16%圧縮される。すなわち、低圧縮領域122に印加された5MPaの圧力に対する低圧縮領域122の圧縮率は約5%であり、高圧縮領域121に印加された5MPaの圧力に対する高圧縮領域121の圧縮率は約16%である。
【0029】
ある圧力に対する圧縮率Pnは、断熱シート111が自然の状態すなわち圧力が印加されていない状態での厚みt0と、その圧力が印加されているときの厚みt1とにより、Pn=(t0-t1)/t0×100(%)で求められる。
【0030】
低圧縮領域122の熱伝導率は約0.05W/m・Kであり、高圧縮領域121の熱伝導率は約0.04W/m・Kとなっている。高圧縮領域121は断熱シート111の中央部に設けられて直径約80mmの円形状もしくは楕円形状を有する。
【0031】
図8は実施の形態2における断熱シート111を備えた電池モジュール181の断面図である。電池モジュール181は、複数の電池セル182A、182Bと、複数の電池セル182A、182B間に設けられた断熱シート111とを備える。実施の形態2では、断熱シート111の面111A、111Bは電池セル182A、182Bにそれぞれ対向して直接当接する。断熱シート111の面111A、111Bは電池セル182A、182Bに接着層やクッション層等の他の層を介してそれぞれ当接していてもよい。電池セル182A、182Bが膨張した場合、電池セル182A、182Bの主に中央部が膨張するので、断熱シート111では主に中央部に圧力が加わる。断熱シート111の中央部には高圧縮領域121が設けられているので、高圧縮領域121が圧縮されて電池セル182A、182Bの膨張すなわち厚みの増加を吸収して、電池セル182A、182Bの加圧による熱暴走を防止することができる。一方、断熱シート111の周辺部には低圧縮領域122が設けられているので、電池セル182A、182B間の距離を保ち電池モジュール181の耐振性を向上させることができる。低圧縮領域122の5MPaの圧力に対する圧縮率は7%以下とすることが望ましい。低圧縮領域122の圧縮率が7%を越えると、耐振性が悪くなる。また高圧縮領域121の5MPaの圧力に対する圧縮率は10%以上にすることが望ましい。高圧縮領域121の圧縮率が10%未満となると、厚みを吸収する量が小さくなり、電池セル182A、182Bの熱暴走が発生しやすくなる。
【0032】
次に実施の形態2における断熱シート111の製造方法について説明する。図9は断熱シート111の製造方法を示す断面図であり、材料シート131を示す。
【0033】
まず、内部に空間112qを有する繊維シート112を準備する。実施の形態2では、繊維シート112は、約1mmの厚さを有し、約150mmの長辺と約100mmの短辺とを有する矩形状を有する。実施の形態2では、繊維シート112は、間に空間112qを形成するように互いに絡んだ平均繊維太さ約φ2μmのガラス繊維の繊維112pからなり、繊維シート112の目付量は約180g/mである。
【0034】
次にシリカキセロゲル113を繊維シート112の内部空間に含浸するための準備を行う。シリカキセロゲル113の材料として約20%の水ガラス原料に触媒として約6%のエチレンカーボネートを添加してシリカゾル溶液であるゾル溶液151を調整する。ゾル溶液151に繊維シート112を浸漬して繊維シート112の内部の空間112qにゾル溶液151を含浸させることで図9に示す材料シート131を得る。
【0035】
次にゾル溶液151を含浸した材料シート131をプレスして厚みを均一にする。厚みの整え方は、ロールプレス等の方法を用いてもよい。厚みを整えたものをフィルムに挟んだ状態で養生してゾル溶液151をゲル化してゲル骨格を強化する。
【0036】
ゾル溶液151をゲル化するとき、繊維シート112の中央部のみ約90℃に加熱し、周辺部を常温に保ちながら材料シート131を約10分間放置する。水ガラス原料に触媒としてエチレンカーボネートを添加した場合、温度が85℃を超えると急激に加水分解反応が進み、シリカの一部が周辺部に溶出しながらゲル化が進む。そのため高温になっている中央部ではシリカキセロゲル113の含有量が減り、印加された圧力に対する圧縮率が大きくなる。周辺部は温度が低いので、脱水縮合が進みそのままゾル溶液151がゲル化され、圧縮率は低くなる。
【0037】
次にシリカキセロゲル113を以下の方法で疎水化する。シリカキセロゲル113が含浸された繊維シート112を6Nの塩酸に約30分浸漬し、ゲルと塩酸を反応させる。その後、シリル化剤とアルコールの混合溶液からなるシリル化液にシリカキセロゲル113が含浸された繊維シート112を浸漬させた後、約55℃の恒温槽にて約2時間保管する。この際に、シリル化剤とアルコールの混合溶液がシリカキセロゲル113を含浸された繊維シート112に浸透する。シリル化反応が進行し、トリメチルシロキサン結合が形成し始めるとシリカキセロゲル113を含有した繊維シート112から塩酸水が外部に排出される。シリル化処理が終了したら、約150℃の恒温槽にてシリカキセロゲル113を含浸された繊維シート112を約2時間乾燥して、断熱シート111を得る。
【0038】
以上のようにして得られた断熱シート111では、高温で養生した中央部には5MPaの圧力に対して約16%の圧縮率を有する高圧縮領域121が設けられ、周辺部には5MPaの圧力に対する約5%の圧縮率を有する低圧縮領域122が設けられる。図8に示す電池モジュール181では、断熱シート111は電池セル182A、182B間に配置される。例えば一つの電池セル182Aが発熱して中央部が膨張して体積が増加しても、増加した分は高圧縮領域121で吸収され、低圧縮領域122で電池セル182A、182B間の間隔を確保するとともに断熱性を保てる。したがって、隣の電池セル182Bに影響を与えて電池セル182A、182Bが熱暴走することを防ぐことができる。低圧縮領域122の圧縮率は7%以下とすることが望ましい。低圧縮領域122の圧縮率が7%を越えると、電池モジュール181の耐振性が悪くなる。また高圧縮領域121の圧縮率は10%以上にすることが望ましい。高圧縮領域121の圧縮率が10%未満となると、厚みを吸収する量が小さくなり、電池セル182A、182Bの熱暴走が発生しやすくなる。
【0039】
前述の従来の断熱シートでは、断熱シートと外枠の間に隙間が存在するため、隙間から熱流がリークして隣りの電池セルが熱暴走するリスクが上昇する。また、外枠の材質は断熱効果が劣るため1つの電池セルが熱暴走したとき熱流の通過量が増え、隣の電池セルまで熱暴走するリスクが上昇する。
【0040】
実施の形態2における断熱シート111では、外枠を用いなくてもモジュール形状を維持し、電池セル182A、182Bの膨張を吸収しながら断熱性も維持することができ、上述のように、電池セル182A、182Bが熱暴走することを防ぐことができる。
【0041】
中央部と周辺部とで温度を異ならせるには、材料シート131の高圧縮領域121となる領域のみ温度を上昇させたホットプレートの上にゾル溶液151を含浸した繊維シート112を載せて、部分的に加熱しても良い。あるいは高圧縮領域121となる領域にのみ赤外線を照射して加熱する、あるいは所定の形状をした加熱板を、シリカゾル溶液を含浸した繊維シート112のその領域に当てることによって部分的に加熱しても良い。
【0042】
以上のようにして、中央部と周辺部とで50℃以上の温度差をつけてゾル溶液151をゲル化してゲル骨格を強化することにより、中央部の高圧縮領域121と周辺部の低圧縮領域122とで圧縮率を大きく異ならせることができる。
【0043】
また、中央部の温度を85℃以上、135℃以下とすることが望ましい。この温度が85℃より低いと加水分解反応が進みにくくなり、135℃を超えると反応速度が上がり過ぎてばらつきが大きくなりやすい。
【符号の説明】
【0044】
11 断熱シート
12 繊維シート
13 シリカキセロゲル
21 高圧縮領域
22 低圧縮領域
31 材料シート
111 断熱シート
112 繊維シート
113 シリカキセロゲル
121 高圧縮領域
122 低圧縮領域
131 材料シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9