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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】電力変換システム、電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20240119BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20240119BHJP
   H02J 3/46 20060101ALI20240119BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240119BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240119BHJP
   H02M 7/493 20070101ALI20240119BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/32
H02J3/46
H02J13/00 B
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
H02M7/48 R
H02M7/493
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020035729
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021141659
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-02-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】花村 賢治
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-018108(JP,A)
【文献】特開2016-034185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
H02J 13/00
H02M 7/42 - 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分散電源にそれぞれ接続され、電力系統の受電点に対して並列に接続され、前記受電点に接続された負荷に交流電力を供給可能な複数の電力変換装置と、
前記受電点から前記電力系統への潮流電流又は潮流電力を計測し、計測した電流値又は電力値を前記複数の電力変換装置にブロードキャスト送信する潮流計測装置と、を備え、
前記複数の電力変換装置はそれぞれ、前記受電点から前記電力系統への潮流電流又は潮流電力をもとに出力を自律的にドループ制御する、
電力変換システム。
【請求項2】
前記複数の電力変換装置は、
xを潮流電流又は潮流電力の計測値、yを前記電力変換装置の電流指令値又は電力指令値、aを定数、bを定数とする、y=ax+bの一次関数をもとに、出力をドループ制御する、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記定数a及び前記定数bの値の少なくとも一方は、外部から設定変更可能である、
請求項2に記載の電力変換システム。
【請求項4】
前記複数の電力変換装置には、同一の一次関数が設定され、
前記複数の電力変換装置は、前記受電点に均等に電流又は電力を出力する、
請求項2又は3に記載の電力変換システム。
【請求項5】
前記複数の電力変換装置の少なくとも一つには、他の電力変換装置と異なる一次関数が設定され、
前記異なる一次関数が設定された電力変換装置は、前記他の電力変換装置と異なる電流又は電力を前記受電点に出力する、
請求項2又は3に記載の電力変換システム。
【請求項6】
前記複数の電力変換装置のそれぞれに出力する、前記受電点から前記電力系統に流れる潮流電流をそれぞれ計測する複数の電流センサをさらに備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載の電力変換システム。
【請求項7】
前記潮流計測装置と前記複数の電力変換装置との間は、無線通信により接続される、
請求項に記載の電力変換システム。
【請求項8】
前記潮流計測装置と前記複数の電力変換装置との間は、PLC(Power Line Communication)通信により接続される、
請求項に記載の電力変換システム。
【請求項9】
複数の分散電源にそれぞれ接続され、電力系統の受電点に対して並列に接続され、前記受電点に接続された負荷に交流電力を供給可能な複数の電力変換装置を備え、
前記複数の電力変換装置はそれぞれ、前記受電点から前記電力系統への潮流電流又は潮流電力をもとに出力を自律的にドループ制御し、
前記電力変換装置は、前記受電点の潮流電流又は潮流電力が、逆潮流とみなされる規定値以上の値を規定時間以上継続したとき、前記電力系統から自律的に解列する、
電力変換システム。
【請求項10】
前記電力系統から解列した電力変換装置は、前記受電点の潮流電流又は潮流電力が、前記規定値未満であり、かつ前記解列から規定の待機時間以上経過している場合、前記電力系統に自律的に再並列する、
請求項に記載の電力変換システム。
【請求項11】
前記複数の電力変換装置と前記受電点に対して並列に接続される、前記ドループ制御を実行しない別の電力変換装置をさらに備える、
請求項1から10のいずれか1項に記載の電力変換システム。
【請求項12】
複数の分散電源にそれぞれ接続され、電力系統の受電点に対して並列に接続され、前記受電点に接続された負荷に交流電力を供給可能な複数の電力変換装置の内の一つの電力変換装置であって、
前記電力変換装置は、前記受電点から前記電力系統への潮流電流又は潮流電力を計測し、計測した電流値又は電力値を前記複数の電力変換装置にブロードキャスト送信する潮流計測装置から受信した前記受電点から前記電力系統への潮流電流又は潮流電力をもとに出力を自律的にドループ制御する、
電力変換装置。
【請求項13】
複数の分散電源にそれぞれ接続され、電力系統の受電点に対して並列に接続され、前記受電点に接続された負荷に交流電力を供給可能な複数の電力変換装置の内の一つの電力変換装置であって、
前記電力変換装置は、前記受電点から前記電力系統への潮流電流又は潮流電力をもとに出力を自律的にドループ制御し、
前記電力変換装置は、前記受電点の潮流電流又は潮流電力が、逆潮流とみなされる規定値以上の値を規定時間以上継続したとき、前記電力系統から自律的に解列する、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分散電源に接続される電力変換システム、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に接続されて連系運転する分散電源に接続されたパワーコンディショナは、系統連系規程の逆潮流禁止に関する要件を満たして運転することが求められる。そのため、当該パワーコンディショナは、電力系統の受電点の潮流電力を計測・監視して、解列動作が極力発生しないように出力電力を制御する必要がある。日本では系統連系規程により蓄電池から、定格容量の5%以上の電力を500msを超えて電力系統へ逆潮流することが禁止されている。したがって、蓄電池が接続されたパワーコンディショナは、逆潮流が発生した場合、発生から500ms以内に解列する必要がある。
【0003】
分散電源に接続されたパワーコンディショナが解列すると、再並列するまでに、規定された時間以上待機する必要がある。日本の系統連系規程では家庭用のパワーコンディショナの場合、再並列するまでに5分間の待機が要求される。この待機時間中は、分散電源から負荷への電力供給が停止するため、買電が増加し、電気料金の増加につながる。
【0004】
複数の分散電源にそれぞれ接続された複数のパワーコンディショナを、電力系統の受電点に対して並列に接続したシステムでは、複数のパワーコンディショナ間の潮流電力の計測誤差や応答タイミングの差などにより、電力を受電点に放出するパワーコンディショナと、電力を受電点から吸収するパワーコンディショナが意図せずに発生することがある。その場合、パワーコンディショナ間に電力横流が発生する。この横流は、受電点の潮流電力に関係のない電力移動であり、この電力移動は損失を発生させるだけであり、電気料金の節約につながらないばかりか、分散電源の損失増加によって、買電が増加し、電気料金の増加につながる。
【0005】
そこで、マスタ機となる制御装置が、スレーブ機となる複数のパワーコンディショナを統括的に制御するマスタ・スレーブ方式の制御が一般的に行われている(例えば、特許文献1参照)。なお、複数のパワーコンディショナの一つをマスタ機としてもよい。
【0006】
マスタ・スレーブ方式では、分散電源の並列数が増加してシステム規模が大きくなるほど、マスタ・スレーブ間の通信周期が遅くなり、受電点の潮流電力に応じた各パワーコンディショナの応答速度が遅くなる。また、パワーコンディショナの設置数を自由に変えることが難しく、システムの拡張性に欠ける。
【0007】
マスタ・スレーブ方式の並列システムにおいて、逆潮流が発生しそうなとき、パワーコンディショナの運転数を減らすことで逆潮流が発生しないように制御することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。このようにマスタ・スレーブ方式では、並列接続された全てのパワーコンディショナを常に同条件で運転させ続けることは難しい。状況に応じて、運転を停止させる又は出力電力を低下させるパワーコンディショナが発生する。それは、分散電源が蓄電池である場合、複数の蓄電池間のSOC(State Of Charge)バランスが崩れることを意味する。SOCの値が下限値を下回ると放電動作ができなくなり、SOCの値が上限値を上回ると充電動作ができなくなるため、複数の蓄電池間のSOCバランスが崩れると、全てのパワーコンディショナが同時に運転できる期間が短くなる。それ以外の期間では、運転中のパワーコンディショナの合計の出力電力が小さくなる。電気料金が実量制契約の場合、出力電力が小さいと潮流電力のピークが高くなるため、電気料金が増加しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-80485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、複数の分散電源にそれぞれ接続された複数のパワーコンディショナの並列システムにおいて、複数のパワーコンディショナ間で高速通信が必要なマスタ・スレーブ方式に代わる、新たな制御方式が求められる。新たな制御方式では、逆潮流による不要な解列が少なく、横流が抑制され、全てのパワーコンディショナが同時に運転できる期間が長いことが望まれる。
【0010】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、複数の電力変換装置を並列接続した電力変換システムであって、マスタ・スレーブ方式より、高効率な制御が可能な電力変換システム、電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の電力変換システムは、複数の分散電源にそれぞれ接続された複数の電力変換装置を備える。前記複数の電力変換装置は、電力系統の受電点に対して並列に接続され、前記受電点に接続された負荷に交流電力を供給可能であり、前記複数の電力変換装置はそれぞれ、前記受電点から前記電力系統への潮流をもとに出力を自律的にドループ制御する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、複数の電力変換装置を並列接続した電力変換システムであって、マスタ・スレーブ方式より、高効率な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1に係る電力変換システムを説明するための図である。
図2図1の電力変換装置の詳細な構成例を示す図である。
図3】実施の形態2の構成例1に係る電力変換システムを説明するための図である。
図4】実施の形態2の構成例2に係る電力変換システムを説明するための図である。
図5】実施の形態2の構成例3に係る電力変換システムを説明するための図である。
図6】制御部に含まれるドループ制御部の構成例を示す図である。
図7】ドループ制御に使用される一次関数の一例をグラフに示した図である。
図8】実施の形態2に係る電力変換システムを使用したシミュレーション1の結果をグラフで示した図である。
図9】実施の形態2に係る電力変換システムを使用したシミュレーション2の結果をグラフで示した図である。
図10】実施の形態2に係る電力変換システムを使用したシミュレーション3の結果をグラフで示した図である。
図11】実施の形態3に係る電力変換システムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電力変換システム1を説明するための図である。電力変換システム1は、商用電力系統(以下、単に電力系統4という)の受電点N1に対して並列接続された複数の電力変換装置10a、10b、10cを備える。図1では、3台の電力変換装置10a、10b、10cが並列接続される例を描いているが、並列数は3台に限るものではなく、2台であってもよいし、4台以上であってもよい。本開示で説明する制御は、並列数が多くなるほど、より効果を発揮する制御である。
【0015】
当該受電点N1には負荷3が接続される。複数の電力変換装置10a、10b、10cは、複数の分散電源2a、2b、2cにそれぞれ接続されたパワーコンディショナである。複数の電力変換装置10a、10b、10cは、負荷3に交流電力を供給することが可能である。
【0016】
図1に示す分散電源2a、2b、2cは、系統連系規程により逆潮流が禁止された分散電源である。例えば、蓄電池、燃料電池が該当する。蓄電池は定置型蓄電池であってもよいし、車載蓄電池であってもよい。日本では、太陽電池は原則として逆潮流の禁止対象にならないが、大型の太陽電池の場合は、電力会社との協議に基づき逆潮流が禁止される場合もある。
【0017】
複数の電力変換装置10a、10b、10cごとに、複数の電流センサCTa、CTb、CTcが設置される。複数の電流センサCTa、CTb、CTcは、受電点N1と電力系統4の間の電流経路上に設置される。例えば、分電盤内に設置される。複数の電流センサCTa、CTb、CTcと、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cがそれぞれ検出線で接続される。複数の電流センサCTa、CTb、CTcは、受電点N1から電力系統4に流れる潮流電流をそれぞれ計測し、計測した電流値を複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cにそれぞれ出力する。各検出線は、複数の電流センサCTa、CTb、CTcでそれぞれ計測されたアナログ電流値をそのまま伝達する。
【0018】
各電力変換装置10は、電力変換部11及び制御部12を含む。電力変換部11は、分散電源2から供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を受電点N1に出力する。制御部12は電力変換部11を制御する。
【0019】
図2は、図1の電力変換装置10の詳細な構成例を示す図である。電力変換装置10は、DC/DCコンバータ111、インバータ112、制御部12、電流センサ13、電圧センサ14、リレーRY1を含む。
【0020】
まず、分散電源2が、蓄電池(例えば、リチウムイオン蓄電池、ニッケル水素蓄電池、鉛蓄電池)又はキャパシタ(例えば、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)の場合を考える。分散電源2が蓄電池又はキャパシタの場合、DC/DCコンバータ111は双方向DC/DCコンバータで構成され、インバータ112は双方向インバータで構成される。
【0021】
蓄電池又はキャパシタの放電時、DC/DCコンバータ111は、蓄電池又はキャパシタから供給される直流電力を、所定の電圧又は所定の電流の直流電力に変換してインバータ112に出力する。インバータ112は、DC/DCコンバータ111から供給される直流電力を交流電力に変換して出力する。
【0022】
蓄電池又はキャパシタの充電時、インバータ112は、電力系統4から供給される交流電力を直流電力に変換してDC/DCコンバータ111に出力する。DC/DCコンバータ111は、インバータ112から供給される直流電力を、所定の電圧又は所定の電流の直流電力に変換して蓄電池又はキャパシタに出力する。
【0023】
DC/DCコンバータ111及びインバータ112はそれぞれ、1つ以上のスイッチング素子を含む回路で構成される。スイッチング素子には例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)又はMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などを使用することができる。また、SiCデバイスやGaNデバイスなどで構成されたワイドギャップ半導体スイッチング素子を使用してもよい。
【0024】
制御部12は、当該スイッチング素子のデューティ比を制御することにより、DC/DCコンバータ111及びインバータ112のそれぞれの入出力を調整することができる。例えば、制御部12は、定電流(CC)充電、定電流(CC)放電、定電圧(CV)充電、及び定電圧(CV)放電を行うことができる。
【0025】
インバータ112の後段には出力フィルタ(不図示)が設けられ、当該出力フィルタは、インバータ112から出力される交流電力の高調波成分を減衰させて、インバータ112の出力電圧及び出力電流を正弦波に近づける。電流センサ13は、当該出力フィルタに流れる電流を検出して制御部12に出力する。
【0026】
インバータ112と、電力変換装置10の交流側の出力端子との間の電流経路上に、リレーRY1が挿入される。なお、リレーRY1の代わりに半導体スイッチを用いてもよい。電圧センサ14は、電力変換装置10の出力電圧を検出して制御部12に出力する。
【0027】
制御部12は、内部の電流センサ13から供給される電力変換装置10の出力電流、電圧センサ14から供給される電力変換装置10の出力電圧、及び外部の電流センサCTから供給される潮流電流をもとに、DC/DCコンバータ111、インバータ112、及びリレーRY1を制御する。
【0028】
制御部12の構成は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、またはハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源としてアナログ素子、マイクロコンピュータ、DSP、ROM、RAM、ASIC、FPGA、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてファームウェア等のプログラムを利用できる。以下に説明する制御部12の動作は、系統連系モード時の動作である。即ち、電力系統4が正常である時の動作である。本明細書では、電力系統4の停電時の動作には注目しない。
【0029】
制御部12は、電流センサCTから供給される潮流電流又は潮流電流から求められる潮流電力の計測値をもとに、電力変換装置10の出力電流又は出力電力をドループ制御する。具体的には、制御部12は下記(式1)に示す一次関数をもとに、電力変換装置10の出力電流又は出力電力をドループ制御する。
【0030】
y=ax+b ・・・(式1)
xは、一次関数の入力変数であり、受電点N1から電力系統4に流れる潮流電流又は受電点N1から電力系統4に供給される潮流電力の計測値を示す。
yは、一次関数の出力変数であり、電力変換装置10の電流指令値又は電力指令値を示す。
aは、一次関数の傾きを規定する定数であり、潮流電流又は潮流電力が1単位変化したときの電流指令値又は電力指令値の変化率を示す。
bは、一次関数の切片を規定する定数であり、潮流電流が0Aのときの電流指令値又は潮流電力が0kWのときの電力指令値を示す。bがゼロ以外のときは、潮流電流が0Aのときの電流指令値又は潮流電力が0kWのときの電力指令値がオフセット値を有していることを意味する。
【0031】
定数a及び定数bの値は、電力変換装置10の出荷時に設計者により設定される。定数a及び定数bの値の少なくとも一方は、出荷後、電力変換装置10の外部から設定変更可能な仕様であってもよい。例えば、電力変換装置10のユーザインタフェース(例えば、タッチパネル)から、ユーザが定数a及び定数bの値の少なくとも一方を設定変更可能な仕様であってもよい。また、ユーザ、作業員又は保守メンテナンス会社の情報機器と、電力変換装置10を通信で接続し、当該情報機器から、定数a及び定数bの値の少なくとも一方を設定変更可能な仕様であってもよい。例えば、保守メンテナンス会社のサーバと電力変換装置10をインターネットで接続し、定数a及び定数bの値の少なくとも一方を設定変更してもよい。
【0032】
制御部12は、上記一次関数と、外部の電流センサCTから供給される潮流電流又は潮流電流から求められる潮流電力の計測値をもとに電流指令値又は電力指令値を導出する。制御部12は、導出した電流指令値又は電力指令値をもとに、DC/DCコンバータ111内のスイッチング素子を制御して、分散電源2の出力電流又は出力電力を制御する。なお、制御部12は、上記1次関数の出力変数yをインバータ112の電流指令値又は電力指令値として導出し、インバータ112内のスイッチング素子を制御して、分散電源2の出力電流又は出力電力を制御してもよい。
【0033】
ドループ制御は自律的な制御であり、マスタ・スレーブ方式のように、マスタ機からの指令を受けて制御部12が動作する方式ではない。したがって、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12c間で通信する必要がなく、制御部12a、12b、12c間を通信線で接続する必要もない。
【0034】
制御部12は、電流センサCTから供給される潮流電流の計測値から求められる潮流電力値が、逆潮流とみなされる規定値以上の値を規定時間以上継続したとき、リレーRY1をオフして電力系統4から電力変換装置10を自律的に解列させる。上述したように日本では系統連系規程により蓄電池から、定格容量の5%以上の電力を500msを超えて電力系統4へ逆潮流することが禁止されている。即ち、逆潮流が発生した場合、発生から500ms以内に、制御部12は電力変換装置10を解列する必要がある。例えば、上記規定時間は300~400msの範囲に設定されてもよい。上記逆潮流とみなされる規定値は、蓄電池の容量に応じて設定される。
【0035】
解列した電力変換装置10の制御部12は、電流センサCTから供給される潮流電流の計測値から求められる潮流電力値が上記規定値未満であり、かつ解列から規定の待機時間以上経過している場合、リレーRY1をオンして、電力系統4に電力変換装置10を自律的に再並列(再接続)させる。日本の系統連系規程では、上記規定の待機時間は原則として5分である。
【0036】
次に、分散電源2が燃料電池の場合を考える。燃料電池は、水素などの燃料と空気中の酸素等を化学反応させることにより直流電力を発電する。例えば、都市ガスやLPGから改質器を用いて水素を取り出し、燃料としている。分散電源2が燃料電池の場合、DC/DCコンバータ111は単方向DC/DCコンバータで構成され、インバータ112は単方向インバータで構成される。
【0037】
燃料電池の発電時、DC/DCコンバータ111は、燃料電池から供給される直流電力を、所定の電圧又は電流の直流電力に変換してインバータ112に出力する。インバータ112は、DC/DCコンバータ111から供給される直流電力を交流電力に変換して出力する。
【0038】
制御部12は、DC/DCコンバータ111及びインバータ112に含まれるスイッチング素子のデューティ比を制御することにより、DC/DCコンバータ111及びインバータ112のそれぞれの出力を調整することができる。例えば、定電流(CC)放電、及び定電圧(CV)放電を行うことができる。その他の説明は、分散電源2が蓄電池又はキャパシタの場合と同様である。
【0039】
次に、分散電源2が太陽電池の場合を考える。太陽電池は、光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換する発電装置である。太陽電池として、シリコン太陽電池、化合物半導体などを素材にした太陽電池、色素増感型(有機太陽電池)等が使用される。分散電源2が太陽電池の場合、例えば、DC/DCコンバータ111は昇圧チョッパで構成され、インバータ112は単方向インバータで構成される。
【0040】
太陽電池の発電時、DC/DCコンバータ111は、太陽電池の出力電力が最大になるようにMPPT(Maximum Power Point Tracking) 動作する。インバータ112は、DC/DCコンバータ111から供給される直流電力を交流電力に変換して出力する。その他の説明は、分散電源2が蓄電池又はキャパシタの場合と同様である。
【0041】
並列接続された複数の電力変換装置10a、10b、10cに同一の一次関数が設定されている場合、複数の電力変換装置10a、10b、10cの出力電流は、定常状態では同一になる。即ち、複数の電力変換装置10a、10b、10cは、受電点N1に対して均等に電流を出力する。なお実際には、センサの計測誤差により、複数の電力変換装置10a、10b、10cの出力電流間に誤差が発生することもある。
【0042】
太陽電池に接続された電力変換装置10は、日射条件により、電流指令値に対応する電流を出力できない場合がある。その場合、太陽電池に接続された電力変換装置10から出力される電流が、他の複数の電力変換装置10から出力される電流より小さくなる。この場合も、他の複数の電力変換装置10から出力される電流は均等になる。
【0043】
また、並列接続された複数の電力変換装置10a、10b、10cの少なくとも一つに、他の複数の電力変換装置10と異なる一次関数が設定されてもよい。この場合、異なる一次関数が設定された少なくとも一つの電力変換装置10は、他の複数の電力変換装置10と異なる電流を受電点N1に対して出力する。これにより、複数の分散電源2a、2b、2c間に優先順位をつけることができる。例えば、分散電源2a、2bが定置型蓄電池で、分散電源2cが車載蓄電池の場合において、車載蓄電池の容量を多く確保したい場合、車載蓄電池からの出力電流が、定置型蓄電池からの出力電流より小さくなるように、車載蓄電池と定置型蓄電池とで異なる一次関数を設定すればよい。
【0044】
(実施の形態2の構成例1)
図3は、実施の形態2の構成例1に係る電力変換システム1を説明するための図である。以下、図1に示した実施の形態1との相違点を説明する。実施の形態2では、潮流電力計測装置20が設けられる。また実施の形態2では、並列接続される複数の電力変換装置10a、10b、10cの数に関係なく、受電点N1と電力系統4の間の電流経路上に電流センサCTが、単相の場合は1つ、三相の場合は3つ設置される。電流センサCTは、潮流電力計測装置20に接続され、計測した潮流電流を潮流電力計測装置20に出力する。電流センサCTは、複数の電力変換装置10a、10b、10cと直接的には接続されない。
【0045】
潮流電力計測装置20は、電流センサCTから潮流電流の計測値を取得する。また潮流電力計測装置20は、受電点N1と電力系統4の間の電流経路の電圧(即ち、系統電圧)を計測することができる。潮流電力計測装置20は、潮流電流の計測値と系統電圧の計測値を乗算して潮流電力を算出することができる。
【0046】
構成例1では、潮流電力計測装置20と、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12c間が通信線30で接続される。潮流電力計測装置20は、潮流電流又は潮流電力の計測値を、通信線30を介して複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cに送信する。例えば潮流電力計測装置20は、所定の通信規格(例えば、RS-485規格、TCP-IP規格、CAN規格)に準拠した通信により、潮流電流又は潮流電力の計測値を送信する。その際、潮流電力計測装置20は、潮流電流又は潮流電力の計測値を、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cにブロードキャスト送信(同報送信)することが好ましい。
【0047】
(実施の形態2の構成例2)
図4は、実施の形態2の構成例2に係る電力変換システム1を説明するための図である。以下、図3に示した実施の形態2の構成例1との相違点を説明する。構成例2では、潮流電力計測装置20と、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12c間が通信線30で接続されず、無線通信で接続される。例えば、無線通信として、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信などを使用することができる。構成例2では、潮流電力計測装置20は無線通信により、潮流電流又は潮流電力の計測値を、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cに送信する。
【0048】
(実施の形態2の構成例3)
図5は、実施の形態2の構成例3に係る電力変換システム1を説明するための図である。以下、図3に示した実施の形態2の構成例1との相違点を説明する。構成例3では、潮流電力計測装置20と、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12c間が通信線30で接続されず、PLC(Power Line Communication)通信により接続される。構成例3では、潮流電力計測装置20及び複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cはそれぞれ、PLC通信用の通信モジュールを備える。構成例3では、潮流電力計測装置20はPLC通信(電力線通信)により、潮流電流又は潮流電力の計測値を、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cに送信する。
【0049】
以下、制御部12によるドループ制御について、より詳細に説明する。図6は、制御部12に含まれるドループ制御部121の構成例を示す図である。ドループ制御部121は、乗算器122、加算器123、リミッタ124、LPF125を含む。ドループ制御部121の構成は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、またはハードウェア資源のみにより実現できる。
【0050】
図7は、ドループ制御に使用される一次関数の一例をグラフに示した図である。図7に示すグラフは、y=-xの一次関数(a=-1、b=0)を示している。以下、図6図7の説明では、蓄電池に接続された電力変換装置10のドループ制御を想定する。x軸の潮流電力は+側を逆潮流、-側を順潮流とする。y軸の電力指令値は、+側を放電(受電点N1への電力放出)、-側を充電(受電点N1からの電力吸収)とする。なお、燃料電池又は太陽電池に接続された電力変換装置10では、負の電力指令値が算出された場合、電力指令値はゼロに設定される。
【0051】
電力変換装置10は製品ごとに出力可能な範囲が設定されている。出力可能な範囲は、例えば最大定格の範囲に設定される。電力変換装置10の出力電力を、出力可能な範囲内に収めるために、電力指令値に上限リミットと下限リミットが設定される。図7に示すグラフでは、上限リミットとして6kWが設定され、下限リミットとして-6kWが設定されている。したがって、6kWを超える潮流電力(逆潮流電力)が発生しても、電力変換装置10の電力指令値は-6kW(6kWの充電)に制限される。反対に、-6kWよりを超える潮流電力(順潮流電力)が発生しても、電力変換装置10の電力指令値は6kW(6kWの放電)に制限される。
【0052】
図6において、ドループ制御部121の乗算器122は、潮流電力計測装置20から受信した潮流電力の計測値に定数aの値を乗算し、乗算した値を加算器123に出力する。加算器123は、乗算器122から入力される値と、定数bの値を加算し、加算した値をリミッタ124に出力する。リミッタ124は、加算器123から入力された値が上限リミットより大きい場合、入力された値を上限リミットの値に置き換えて出力する。リミッタ124は、加算器123から入力された値が下限リミットより小さい場合、入力された値を下限リミットの値に置き換えて出力する。リミッタ124は、加算器123から入力された値が上限リミットと下限リミットの間の範囲に収まる場合、入力された値をそのまま出力する。
【0053】
LPF125は、リミッタ124から入力される値にローパスフィルタをかける。例えば、ソフトウェアで処理する場合、リミッタ124から入力される値の移動平均値を算出して出力する。LPF125から出力された値は、電力指令値として使用される。なお、LPF125の位置は、リミッタ124の後段に限るものではなく、乗算器122の前段、乗算器122と加算器123との間、又は加算器123とリミッタ124との間に配置されてもよい。LPF125は、ドループ制御の応答を遅くすることで、各電力変換装置10a、10b、10cの電力指令値がハンチングしないようにしている。
【0054】
制御部12は、ドループ制御部121により導出した電力指令値を、電圧センサ14により計測される電圧値で割って電流指令値を生成する。制御部12は、生成した電流指令値をもとに、DC/DCコンバータ111内のスイッチング素子を制御して、分散電源2の出力電流を制御する。
【0055】
このように、ドループ制御は、一次関数によって各電力変換装置10の電力指令値が平衡する動作点を決定するための制御である。ドループ制御は非フィードバック制御であり、フィードバック制御で一般的な目標値、偏差、及び操作量の概念がない。即ち、ドループ制御は、目標値に対して偏差をゼロにする操作ができない制御である。
【0056】
図8は、実施の形態2に係る電力変換システム1を使用したシミュレーション1の結果をグラフで示した図である。シミュレーション1では、3台の電力変換装置10a、10b、10cを使用した。3台の電力変換装置10a、10b、10cの電力指令値の上下限リミットは±6kWとした。3台の電力変換装置10a、10b、10cとも、ドループ制御に使用する一次関数の定数aを-1、定数bを0に設定した。
【0057】
潮流電力計測装置20は、3台の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cに通信線30を介して潮流電力の計測値をブロードキャスト送信した。3台の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12cの潮流電力の受信タイミングに、意図的に遅延を付与した。即ち、第1電力変換装置10aの制御部12a、第2電力変換装置10bの制御部12b、第3電力変換装置10cの制御部12cの順に潮流電力を受信するように、定常的な遅延を付与した。
【0058】
負荷3の消費電力を25kW→1W→10kWと遷移させた。図8に示すグラフにおいて、時刻T1で25kWから1Wに切り替わり、時刻T2で1Wから10kWに切り替わる。負荷3の消費電力が25kWの状態では、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの出力電力の合計が25kWになることが望まれる。しかしながら、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの各電力指令値の上限リミットは6kWに設定されている。図8に示すグラフでは、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの出力電力の合計が約18kWになっている。受電点N1の潮流電力は、負荷3の消費電力から、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの出力電力の合計を引いた約-7kWになっている。
【0059】
負荷3の消費電力が25kWから1Wに急低下すると、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの出力電力の合計は約0Wに収束していく。負荷3の消費電力が1Wから10kWに急上昇すると、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの出力電力の合計も上昇していく。図8に示すグラフでは、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの出力電力の合計が約7.5Wに収束している。受電点N1の潮流電力は、負荷3の消費電力から、3並列の電力変換装置10a、10b、10cの出力電力の合計を引いた約-2.5kWに収束している。上述したようにドループ制御は、潮流電力が目標値に収束するようにフィードバックする制御ではないため、潮流電力が0Wに収束しないこともある。
【0060】
図8に示すグラフでは、負荷3の急変及び通信遅延があっても、電力変換装置10a、10b、10cの電力指令値が自律的に同じ値に収束している。また、逆潮流の発生時にも、逆潮流を500ms未満に抑えており、逆潮流禁止に関する要件にも抵触していない。
【0061】
図9は、実施の形態2に係る電力変換システム1を使用したシミュレーション2の結果をグラフで示した図である。以下、図8に示したシミュレーション1との相違点を説明する。シミュレーション2では、第1電力変換装置10a及び第2電力変換装置10bのドループ制御に使用する一次関数の定数aを-1、定数bを0に設定した。第3電力変換装置10cのドループ制御に使用する一次関数の定数aを-1、定数bを-1に設定した。
【0062】
第3電力変換装置10cの定数bを-1に変更すると、上下限リミットの範囲内の出力時には、第3電力変換装置10cは、第1電力変換装置10a及び第2電力変換装置10bより、放電量が1kW少なくなるか、充電量が1kW多くなる。これにより、複数の分散電源2a、2b、2c間に優先順位をつけることができる。図9に示す例では、第3電力変換装置10cに接続された分散電源2cの容量を優先的に確保することができる。
【0063】
図10は、実施の形態2に係る電力変換システム1を使用したシミュレーション3の結果をグラフで示した図である。以下、図8に示したシミュレーション1との相違点を説明する。シミュレーション3では、第1電力変換装置10a及び第2電力変換装置10bのドループ制御に使用する一次関数の定数aを-1、定数bを0に設定した。第3電力変換装置10cのドループ制御に使用する一次関数の定数aを-2、定数bを0に設定した。
【0064】
第3電力変換装置10cの定数aを-2に変更すると、上下限リミットの範囲内の出力時には、第3電力変換装置10cは、第1電力変換装置10a及び第2電力変換装置10bより、放電量又は充電量が2倍になる。これにより、複数の分散電源2a、2b、2c間に優先順位をつけることができる。図10に示す例では、第3電力変換装置10cに接続された分散電源2cの使用頻度を高くすることができる。
【0065】
例えば、第3電力変換装置10cに接続された分散電源2cのサイクル劣化特性が、第1電力変換装置10a及び第2電力変換装置10bに接続された分散電源2a、2bのサイクル劣化特性より高い場合、第3電力変換装置10cに接続された分散電源2cのサイクル劣化特性の使用頻度を高くすることにより、分散電源2a、2b、2c間の寿命を近づけることができる。
【0066】
(実施の形態3)
図11は、実施の形態3に係る電力変換システム1を説明するための図である。実施の形態1、2では、ドループ制御を行う電力変換装置10のみを受電点N1に対して並列接続する例を説明した。実施の形態3では、ドループ制御する電力変換装置10と、ドループ制御しない電力変換装置10が併存する例を説明する。
【0067】
ドループ制御しない電力変換装置10は、電力系統4への逆潮流が禁止されていない分散電源2に接続された電力変換装置10であってもよい。図11に示す例では、第3分散電源2cが逆潮流が禁止されていない分散電源2である。例えば、第3分散電源2cは太陽電池であり、太陽電池は日本では原則として逆潮流の禁止対象になっていない。したがって、第3電力変換装置10cに潮流電流の計測値を出力するための第3電流センサCTcは不要である。なお、実施の形態2の構成の場合、潮流電力計測装置20は、潮流電流又は潮流電力の計測値を、第3電力変換装置10cの制御部12cに送信する必要はない。
【0068】
第3電力変換装置10cは、ドループ制御によらずに、MPPT制御により太陽電池の出力電力を受電点N1に出力する。第3電力変換装置10cから出力された電力は、負荷3に消費されるか、第1電力変換装置10aに接続された第1分散電源2a及び第2電力変換装置10bに接続された第2分散電源2bに充電されるか、電力系統4へ逆潮流される。
【0069】
なお、電力系統4への逆潮流が禁止されている分散電源2に接続された電力変換装置10であっても、ドループ制御しない電力変換装置10が含まれてもよい。ドループ制御しない電力変換装置10は、例えば、潮流電流又は潮流電力の計測値と目標値との偏差がゼロに収束するように、電流指令値又は電力指令値を生成してもよい。このようにドループ制御する電力変換装置10と、ドループ制御しない電力変換装置10が受電点N1に対して並列接続されるシステム構成も可能である。
【0070】
以上説明したように本開示によれば、各電力変換装置10が潮流電力に応じて自律的に出力電力を決定することにより、マスタ・スレーブ方式より、高効率な電力変換システム1を構築することができる。マスタ・スレーブ方式を採用しないため、複数の電力変換装置10a、10b、10cの制御部12a、12b、12c間を通信線で接続する必要がない。
【0071】
同じルール(一次関数)でドループ制御する複数の電力変換装置10は、潮流電力に応じて出力電力を一律に決定するため、複数の電力変換装置10の出力電力が平衡点に収束される。これにより、複数の電力変換装置10間の電力横流を抑制することができる。
【0072】
また、本開示によれば、逆潮流禁止に関する要件による電力変換装置10の解列を極力無くすことができる。電力変換装置10の解列を減らすことは、ピーク電力のカット及び電力使用量の削減につながり、電気料金の削減につながる。なお、逆潮流禁止に関する要件により電力変換装置10を解列及び再並列する場合、マスタ・スレーブ動作は不要である。また、本開示によれば、並列接続された複数の電力変換装置10が動作できる時間を長くすることができ、ピーク電力カットによる電気料金の削減につながる。
【0073】
また、本開示によれば、電力変換装置10の設置台数を自由に増加又は減少させることができ、電力変換システム1の拡張性が高い。システム構成を変更した場合、必要に応じて、ドループ制御に使用する一次関数の定数a及び定数bの値の少なくとも一方を変更することにより、所望のシステム動作を実現できる。また、本開示によれば、並列接続された複数の電力変換装置10の動作時間及び出力電力を同じにすることができる。複数の電力変換装置10に接続された分散電源2が蓄電池の場合、複数の蓄電池間の温度条件及びサイクル回数がほぼ等しくなるため、複数の蓄電池の寿命をほぼ等しくすることができ、メンテナンス性が向上する。即ち、複数の蓄電池の交換時期を揃えることができる。
【0074】
また、実施の形態2に係る電力変換システム1によれば、潮流電力計測装置20を設けたことにより、逆潮流計測用の電流センサCTを、単相の場合で1つ、三相の場合で3つにすることができる。これにより、コストを削減できるとともに、複数の電流センサCTa、CTb、CTb間の計測誤差の影響をなくすことができる。特に電力変換装置10の並列数が多い場合、電流センサCTのコスト削減効果が大きくなる。
【0075】
また、実施の形態2において潮流電力計測装置20が、潮流電流又は潮流電力の計測値を複数の電力変換装置10にブロードキャスト送信することにより、複数の電力変換装置10は、通信周期の影響を受けずに、潮流電流又は潮流電力の計測値を受信することができる。特に電力変換装置10の並列数が多い場合、通信周期の影響による受信タイミングのずれが大きくなるが、実施の形態2では複数の電力変換装置10間の受信タイミングのずれを小さくすることができる。
【0076】
また、実施の形態2の構成例2、3では通信線30を設置する必要がなく、電力変換システム1の施工が容易になる。さらに構成例3では、無線通信と比較して距離的な制約を緩和することができる。また、通信の信頼性も高い。
【0077】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0078】
上述したドループ制御に使用される一次関数において、入力変数xと出力変数yの組み合わせは、上述した例に限らず、様々なものが可能である。例えば、以下の組み合わせが可能である。
(a)y=コンバータ電力指令値、x=潮流電力
(b)y=インバータ電力指令値、x=潮流電力
(c)y=コンバータ電力指令値、x=潮流電流
(d)y=インバータ電力指令値、x=潮流電流
(e)y=コンバータ電流指令値、x=潮流電力
(f)y=インバータ電流指令値、x=潮流電力
(g)y=コンバータ電流指令値、x=潮流電流
(h)y=インバータ電流指令値、x=潮流電流
【0079】
なお、出力変数yは、電力指令値又は電流指令値として、W単位又はA単位で直接導出することもできるし、定格電力/電流指令値の%単位で間接的に導出することもできる。
【0080】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0081】
[項目1]
複数の分散電源(2a、2b、2c)にそれぞれ接続された複数の電力変換装置(10a、10b、10c)を備え、
前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)は、電力系統(4)の受電点(N1)に対して並列に接続され、前記受電点(N1)に接続された負荷(3)に交流電力を供給可能であり、
前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)はそれぞれ、前記受電点(N1)から前記電力系統(4)への潮流をもとに出力を自律的にドループ制御する、
電力変換システム(1)。
これによれば、マスタ・スレーブ方式より、高効率な制御が可能となる。
[項目2]
前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)は、
xを潮流電流又は潮流電力の計測値、yを前記電力変換装置(10)の電流指令値又は電力指令値、aを定数、bを定数とする、y=ax+bの一次関数をもとに、出力をドループ制御する、
項目1に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、マスタ・スレーブ方式に依らずに、複数の電力変換装置(10a、10b、10c)間で一律の制御が可能となる。
[項目3]
前記定数a及び前記定数bの値の少なくとも一方は、外部から設定変更可能である、
項目2に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、ドループ制御の柔軟な運用が可能となる。
[項目4]
前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)には、同一の一次関数が設定され、
前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)は、前記受電点(N1)に均等に電流又は電力を出力する、
項目2又は3に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、複数の電力変換装置(10a、10b、10c)間の横流電力又は横流電流を抑制することができる。
[項目5]
前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)の少なくとも一つには、他の電力変換装置と異なる一次関数が設定され、
前記異なる一次関数が設定された電力変換装置は、前記他の電力変換装置と異なる電流又は電力を前記受電点(N1)に出力する、
項目2又は3に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、複数の分散電源(2a、2b、2c)間に優先順位をつけることができる。
[項目6]
前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)のそれぞれに出力する、前記受電点(N1)から前記電力系統(4)に流れる潮流電流をそれぞれ計測する複数の電流センサ(CTa、CTb、CTc)をさらに備える、
項目1から5のいずれか1項に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、追加の機器(例えば、潮流計測装置(20))の設置が不要になる。
[項目7]
前記受電点(N1)から前記電力系統(4)への潮流電流又は潮流電力を計測する潮流計測装置(20)をさらに備え、
前記潮流計測装置(20)は、計測した電流値又は電力値を前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)に送信する、
項目1から5のいずれか1項に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、電流センサ(CT)の重複をなくすことができ、コストを削減することができる。
[項目8]
前記潮流計測装置(20)は、計測した電流値又は電力値を前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)にブロードキャスト送信する、
項目7に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、通信周期の影響が少ない電力変換システム(1)を構築することができる。
[項目9]
前記潮流計測装置(20)と前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)との間は、無線通信により接続される、
項目7又は8に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、施工が容易になる。
[項目10]
前記潮流計測装置(20)と前記複数の電力変換装置(10a、10b、10c)との間は、PLC(Power Line Communication)通信により接続される、
項目7又は8に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、施工が容易で、通信の信頼性も高い。
[項目11]
前記電力変換装置(10)は、前記受電点(N1)の潮流電流又は潮流電力が、逆潮流とみなされる規定値以上の値を規定時間以上継続したとき、前記電力系統(4)から自律的に解列する、
項目1から10のいずれか1項に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、マスタ・スレーブ動作に依らずに、逆潮流禁止の要件を満たすことができる。
[項目12]
前記電力系統(4)から解列した電力変換装置(10)は、前記受電点(N1)の潮流電流又は潮流電力が、前記規定値未満であり、かつ前記解列から規定の待機時間以上経過している場合、前記電力系統(4)に自律的に再並列する、
項目11に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、マスタ・スレーブ動作に依らずに、再並列することができる。
[項目13]
前記複数の電力変換装置(10a、10b)と前記受電点(N1)に対して並列に接続される、前記ドループ制御を実行しない別の電力変換装置(10c)をさらに備える、
項目1から12のいずれか1項に記載の電力変換システム(1)。
これによれば、ドループ制御を実行する電力変換装置(10a、10b)と、ドループ制御を実行しない電力変換装置(10c)を併存させることができ、多種多様な分散電源(2)を連携させることができる。
[項目14]
複数の分散電源(2a、2b、2c)にそれぞれ接続され、電力系統(4)の受電点(N1)に対して並列に接続され、前記受電点(N1)に接続された負荷(3)に交流電力を供給可能な複数の電力変換装置(10a、10b、10c)の内の一つの電力変換装置(10)であって、
前記電力変換装置(10)は、前記受電点(N1)から前記電力系統(4)への潮流をもとに出力を自律的にドループ制御する、
電力変換装置(10)。
これによれば、マスタ・スレーブ方式より、高効率な制御が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 電力変換システム、 2 分散電源、 3 負荷、 4 電力系統、 10 電力変換装置、 11 電力変換部、 111 DC/DCコンバータ、 112 インバータ、 12 制御部、 121 ドループ制御部、 122 乗算器、 123 加算器、 124 リミッタ、 125 LPF、 13 電流センサ、 14 電圧センサ、 RY1 リレー、 20 潮流電力計測装置、 30 通信線、 CT 電流センサ、 N1 受電点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11