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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】レーザ発振器
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0625 20060101AFI20240119BHJP
   H01S 5/042 20060101ALI20240119BHJP
   H01S 5/40 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
H01S5/0625
H01S5/042 630
H01S5/40
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020010975
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021118270
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 明彦
(72)【発明者】
【氏名】葛西 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆幸
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0195700(US,A1)
【文献】特開2009-123833(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017214(WO,A1)
【文献】特開2017-103413(JP,A)
【文献】国際公開第2012/173008(WO,A1)
【文献】特表平01-502471(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109462140(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01S 3/30 - 3/30
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる波長帯域の複数のレーザを用いたレーザ加工に適用されるレーザ発振器であって、
複数のレーザバンクと、
1つ以上の電源と、を備え、
前記複数のレーザバンクは、
第1の電流値以上で発振する第1レーザダイオードを含む第1レーザバンクと、
前記第1の電流値よりも大きな第2の電流値以上で発振し前記第1レーザダイオードとは波長帯域が異なる第2レーザダイオードを含む第2レーザバンクと、を含み、
前記1つ以上の電源は、
前記第1の電流値未満の第1シマー電流を前記第1レーザバンクへ供給して、前記第1レーザダイオードを昇温する第1制御と、
前記第2の電流値未満の第2シマー電流を前記第2レーザバンクへ供給して、前記第2レーザダイオードを昇温する第2制御と、
前記第1の電流値以上の第1動作電流を前記第1レーザバンクへ供給して、前記第1レーザダイオードを発振させる第3制御と、
前記第2の電流値以上の第2動作電流を前記第2レーザバンクへ供給して、前記第2レーザダイオードを発振させる第4制御と、を行い、
前記1つ以上の電源は、
前記第1レーザダイオードを発振させる際、前記第1制御を行った状態から前記第3制御へと制御態様を切り替え、
前記第2レーザダイオードを発振させる際、前記第2制御を行った状態から前記第4制御へと制御態様を切り替え、
前記1つ以上の電源は、
前記第2シマー電流の電流値の方が前記第1シマー電流の電流値よりも大きくなるように、前記第1制御と前記第2制御とを各別に実施し、且つ、前記第2動作電流の電流値の方が前記第1動作電流の電流値よりも大きくなるように、前記第3制御と前記第4制御とを各別に実施する
レーザ発振器。
【請求項2】
前記第1の電流値と前記第2の電流値とは異なる、
請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
前記第1制御の後に前記第3制御が行われる、
請求項1又は2に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
前記第2制御の後に前記第4制御が行われる、
請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
前記第3制御及び前記第4制御が同時に行われる、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項6】
前記第3制御によって前記第1レーザダイオードがパルス発振する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項7】
前記第4制御によって前記第2レーザダイオードがパルス発振する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項8】
前記第1レーザバンクは、複数の前記第1レーザダイオードを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項9】
前記第2レーザバンクは、複数の前記第2レーザダイオードを含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項10】
前記1つ以上の電源は、前記第1制御及び前記第3制御を行う第1電源と、前記第2制御及び前記第4制御を行う第2電源と、を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項11】
前記第1レーザバンクの波長帯域は、700nm以上1100nm以下である、
請求項1~10のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項12】
前記第2レーザバンクの波長帯域は、380nm以上500nm以下である、
請求項1~11のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項13】
前記1つ以上の電源は、前記複数のレーザバンクのうちの少なくとも一つのレーザバンクを、連続発振するよう制御する、
請求項1~12のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ発振器に関し、詳細には、レーザバンクを有するレーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの産業分野の加工においてレーザ発振器を用いた溶接や切断などのレーザ加工が注目されている。レーザ光を用いることにより微細でスパッタが出にくい高精細な加工が可能となる。
【0003】
レーザ加工機は、一般的に、ガスレーザ、ファイバーレーザ、ダイオードレーザ(半導体レーザ)などを光源として、これらをそれぞれ複数用いてレーザ光を重ね合わせて高出力なビームを形成する発振器と、ビームを導波する光学系及び光ファイバーと、ビームを加工対象に出射するヘッドと、ヘッドからのビームを加工対象の所望の位置に移動させるロボットアームを有する。レーザ発振器において、複数のレーザ光源からのレーザ光を重ね合わせるビーム結合の方法として、レンズやミラーなどで集光する空間合成や波長の異なるビームを回折格子で1本に集光する波長合成などの方法があり、ビーム結合のエネルギー効率を高める工夫がなされている。また、ダイオードレーザを用いた発振器では、利得媒体である半導体チップとハーフミラーとを組み合わせて外部共振器を形成し、単一の発振波長にロックしてレーザビームを出射させ、複数のレーザビームを結合させる手法が用いられることがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、レーザシステムのエネルギー効率を高める方法として、広い出力範囲においてパワー調整をすることが記載されている。特許文献1に記載のレーザシステムでは、高パワー出力と低パワー出力とをそれぞれ制御して、それぞれの出力において動作を最適化させることで、エネルギー効率を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-503966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザを発振させて加工を行う場合、電源から電流を流しても、周辺温度等の要因により、すぐにレーザが発振しない場合がある。また、複数のレーザを用いて加工を行う場合、電流が供給されてからレーザが発振するまでの立ち上がりに必要な電流値はレーザの特性によって異なる。この場合、レーザ発振の立ち上がりに時間がかかってしまい、電流量も多く必要になることから、レーザの発振効率が低下しやすい。特許文献1に記載のレーザシステムでも、このようなレーザ発振の立ち上がり遅れによる発振効率の低下は防止できていない。したがって、レーザ発振の立ち上がり時間を短縮して発振効率を高めることは容易ではない。
【0007】
本開示は、優れた発振効率を有するレーザ発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のレーザ発振器は、複数のレーザバンクと、1つ以上の電源と、を備える。前記複数のレーザバンクは、第1の電流値(A1)以上で発振する第1レーザを含む第1レーザバンクと、第2の電流値(A2)以上で発振する第2レーザを含む第2レーザバンクと、を含む。前記1つ以上の電源は、前記第1の電流値未満の電流を前記第1レーザバンクへ供給する第1制御と、前記第2の電流値未満の電流を前記第2レーザバンクへ供給する第2制御と、前記第1の電流値以上の電流を前記第1レーザバンクへ供給する第3制御と、前記第2の電流値以上の電流を前記第2レーザバンクへ供給する第4制御と、を行う。
【発明の効果】
【0009】
本開示のレーザ発振器によれば、発振効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係るレーザ発振器の制御システムを示すダイアグラムである。
図2】本開示の一実施形態に係る電流制御シーケンスを示すグラフ、光出力制御シーケンスを示すグラフ、及び、レーザ光出力と電流との関係を示すグラフである。
図3】本開示の一実施形態のレーザダイオードの利得スペクトルを示すグラフである。
図4】従来の電流制御シーケンスを示すグラフ、光出力制御シーケンスを示すグラフ、及び、レーザ光出力と電流との関係を示すグラフである。
図5】本開示の一実施形態に係るレーザ発振器の制御システムを示すダイアグラムである。
図6】本開示の一実施形態に係る電流及び光出力の制御シーケンスを示すグラフである。
図7】従来の電流及び光出力の制御シーケンスを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1に本開示の一実施形態に係るレーザ発振器の制御システムを示す。図1に示すように、レーザ発振器100は、第1レーザバンク及び第2レーザバンクを含む複数のレーザバンクと、第1制御、第2制御、第3制御、及び第4制御を行う1つ以上の電源と、を備える。
【0013】
図2には3つのグラフが示されている。そのうち、(a)は、本開示の一実施形態に係る電流制御シーケンスを示し、(b)は、本開示の一実施形態に係る光出力制御シーケンスを示し、(c)は、本開示の一実施形態に係るレーザ光出力と電流との関係を示す。
【0014】
図2に示すように、第1レーザバンクは、電流値(閾電流)A1以上で発振する第1レーザ(以下、レーザダイオード等のレーザ光を発するデバイスを、単にレーザと記載することがある。)を含み(101の電流対光出力特性)、第2レーザバンクは、電流値A2(閾電流)以上で発振する第2レーザを含む(102の電流対光出力特性)。第1制御では、電流値A1未満の電流A11を第1レーザバンクへ供給し、第2制御では、電流値A2未満の電流A12を第2レーザバンクへ供給する。第3制御では、電流値A1以上の電流(動作電流)A101を第1レーザバンクへ供給し、第4制御では、電流値A2以上の電流(動作電流)A102を第2レーザバンクへ供給する。なお、図2中のP101は、光出力である。
【0015】
このようなレーザ発振器100では、第1レーザ及び第2レーザが発振しない程度の電流、すなわち電流値A1未満及びA2未満の電流を、それぞれ第1レーザバンク及び第2レーザバンクへ供給する。このとき、第1レーザ及び第2レーザはレーザ光を発振せず、電流は熱エネルギーとして第1レーザ及び第2レーザの温度を上昇させる。すなわち、第1制御及び第2制御によって第1レーザ及び第2レーザを温めることができる。以下ではレーザを温める為の前記電流A11、A12をシマー電流と呼ぶ。
【0016】
レーザバンクを温めておく利点は以下の通りである。図3に、シマー電流を与えない場合の利得スペクトル501、シマー電流を与える場合の利得スペクトル502、外部共振器でレーザ発振時の利得スペクトル503をそれぞれ示す。図3に示すように、利得スペクトル501のピークと比較して、利得スペクトル502のピークは長波長側に位置している。すなわち、シマー電流によってレーザチップが温まることによりバンドギャップが縮小し、レーザ発振するための利得を有する発光帯が長波長側にシフトする。外部共振器でレーザ発振させるために、発振器は予め長波長側にシフトした利得スペクトル503で設計させる。このため、シマー電流を与えない場合、利得スペクトルが長波長側にシフトするまでに時間がかかり、シマー電流を与えた場合に比べてレーザ発振が遅れる。
【0017】
シマー電流を与えない従来のダイオードレーザの発振特性を図4に示す。
【0018】
図4には3つのグラフが示されている。そのうち、(a)は、従来の電流制御シーケンスを示し、(b)は、従来の光出力制御シーケンスを示し、(c)は、従来のレーザ光出力と電流との関係を示す。
【0019】
発振閾値の異なるレーザバンク1、2の電流対光出力特性をそれぞれ203、204とする。理想的には、(a)に示すように、レーザバンク1、2からの発振が立ち上がる。しかし、実際には、シマー電流を与えていないため、レーザバンク1、2に同じ電流を与えると、(b)に示すように、レーザバンク1、2の発振が、それぞれ遅れ時間t21、t12遅れてしまう。すなわち、レーザバンク1,2は、遅れ時間t21、t12後に所定の強度に達する。このため、高精細なパルス加工をすることが難しい。なお、図4におけるA21は、シマー電流であり、A201は、動作電流であり、P201,P202は、ぞれぞれ、光出力である。また、図4における201、202は、光出力と時間の関係を示している。
【0020】
一方、本実施形態では、電流値A1未満及びA2未満の電流、すなわちシマー電流A11、A12を、それぞれ第1レーザバンク及び第2レーザへ供給するため、図2の(a)及び(b)に示すように、第1レーザ及び第2レーザは立ち上がりやすくなる。これは、シマー電流A11、A12より、第1レーザ及び第2レーザがそれぞれ温められているからであると考えられる。これにより、第1レーザ及び第2レーザの立ち上がり時間が短縮されるため、レーザ発振器100の発振効率を高めることができる。
【0021】
レーザ発振器100は、レーザ光を発生させる装置である。本開示のレーザ発振器100は、複数のレーザバンクと、1つ以上の電源と、を備える。
【0022】
レーザバンクは、第1レーザを含む第1レーザバンク及び第2レーザを含む第2レーザバンクを含む。レーザバンクは、例えば、レーザ発振させる為の利得領域である半導体チップ(ダイオードレーザ)、半導体チップを冷却するためのモジュール、及び半導体チップから出射されたレーザビームの拡がり角を制御するレンズ系を含む。利得領域は半導体チップにストライプ状に電流を供給し光を導波させる領域である。また、レーザバンク内に外部共振ミラー(カプラ)を設置してレーザ光を外部共振させてもよく、レーザ光を結合した後に、結合されたレーザ光を外部共振させても良い。レーザ光の結合方法の例は、波長の違いを用いた合成手段、偏光特性を用いた合成手段、及び空間合成手段を含む。波長の違いを用いた合成手段では、例えば、ダイクロックミラー、プリズム、及び透過型又は反射型回折格子を用いて波長の異なるレーザ光を結合することができる。レーザ光の偏光特性を用いた合成手段では、例えば、一つのレーザ光の偏光方向と他のレーザ光の偏光方向とのなす角が90度となるようにし、偏光ビームスプリッターを用いてレーザ光を結合することができる。空間合成手段では、例えば、集光レンズやミラーを用いて空間的にレーザ光を結合することができる。
【0023】
第1レーザは、電流値A1以上でレーザ光を発振する。すなわち、第1レーザは、A1以上の電流を供給された場合に、レーザ光を発振する。電流値A1は、第1レーザの種類によって決定される値である。第1レーザの種類は特に限定されないが、ダイオードレーザであることが好ましい。ダイオードレーザの例は、単一の照射面を備えたCANタイプLD(レーザダイオード)、CANタイプLDを複数並べたもの、複数の照射面を備えたマルチダイパッケージタイプLD、マルチダイパッケージLDを複数並べたもの、複数の照射面をアレイ状に並べたバータイプLD、及びバータイプLDを複数並べたものを含む。
【0024】
第2レーザは、電流値A2以上でレーザ光を発振する。すなわち、第2レーザは、電流値A2以上の電流を供給された場合に、レーザ光を発振する。電流値A2は、第2レーザの種類によって決定される値である。第2レーザの種類は特に限定されないが、ダイオードレーザであることが好ましい。ダイオードレーザの例は、上述の第1レーザに用いられるダイオードレーザの例と同じである。
【0025】
本実施形態のレーザ発振器100では、第1レーザバンクには38個のレーザを含んでいるが、これに限定されず、第1レーザバンクは、第1レーザのみを含んでいてもよい。また、第2レーザバンクは、第1レーザを含む複数のレーザを含んでいてもよい。高速で高精細なプロセスを実現するためには高出力のビームが必要である観点から、第1レーザバンクは、複数のレーザを含むことが好ましい。第1レーザバンクが複数のレーザを含む場合、レーザの種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。この場合、第1レーザバンクに含まれる複数のレーザは、レーザ光を発振可能な電流値がそれぞれ異なっていてもよく、同じであってもよい。ただし、パルス動作時の立ち上り時間をできるだけ揃える観点から、第1レーザバンクは、レーザ光を発振可能な電流値が同じであるレーザを複数含むことが好ましい。すなわち、本実施形態のレーザ発振器100のように、第1レーザバンクが複数の第1レーザを含むことが好ましい。
【0026】
本実施形態のレーザ発振器100では、第2レーザバンクには76個のレーザを含んでいるが、これに限定されず、第2レーザバンクは、第2レーザのみを含んでいてもよい。また、第2レーザバンクは、第2レーザを含む複数のレーザを含んでいてもよい。高速で高精細なプロセスを実現するためには高出力のビームが必要である観点から、第2レーザバンクは、複数のレーザを含むことが好ましい。第2レーザバンクが複数のレーザを含む場合、レーザの種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。この場合、第2レーザバンクに含まれる複数のレーザは、レーザ光を発振可能な電流値がそれぞれ異なっていてもよく、同じであってもよい。ただし、パルス動作時の立ち上り時間をできるだけ揃える観点から、第2レーザバンクは、レーザ光を発振可能な電流値が同じであるレーザを複数含むことが好ましい。すなわち、本実施形態のレーザ発振器100のように、第2レーザバンクが複数の第2レーザを含むことが好ましい。
【0027】
本実施形態では、第1レーザバンクは、赤色のレーザ光を出射する。すなわち、第1レーザバンクの波長帯域は、700nm以上1100nm以下である。この波長帯域では、ダイオードレーザにAlGaAs系などの材料が用いられる。このようなAlGaAs系の材料は、その物性から青色等の短波長帯域で用いられる窒化物半導体等の材料に比べて、発振波長の温度シフトが3倍程度大きい。このため、シマー電流を供給せずに、発振可能な電流を供給すると、第1レーザバンクの立ち上がり時間がより遅れやすい。しかし、シマー電流を供給してあらかじめ第1レーザバンクを温めておくことで、立ち上がり時間の遅れを特に抑制することができる。
【0028】
本実施形態では、第2レーザバンクは青色のレーザ光を出射する。すなわち、第2レーザバンクの波長帯域は、380nm以上500nm以下である。この波長帯域では、第1レーザバンクの波長帯域と比較して、温度による影響は少なく、立ち上がり時間の遅れは第1レーザバンクよりも少ない。しかし、例えば、銅等の材料の加工では、第1レーザバンクとして赤色の長波長帯域のレーザを用い、第2レーザバンクとして青色の短波長帯域のレーザを使用する場合がある。これは、銅等の材料は、青色のレーザ光に対して、赤色のレーザ光と比較して約6倍の吸収率を有するため、加工の初期段階において青色レーザビームを用いて高精細なパルス照射を行い、材料が溶融した後に赤色レーザビームに対する吸収率が増大したところで、赤色レーザビームで高出力のパルス照射又は連続照射を行うことで、高速で制度の高い加工が実現できるからであ。このように、青色のレーザ光と赤色のレーザ光とを組み合わせて用いる場合には特に、両方のレーザバンクをシマー電流によって温めておくことで、立ち上がり時間の遅れを抑制して最適な加工を行うことができる。
【0029】
なお、第1レーザバンク及び第2レーザバンクの波長帯域は上述の範囲に限定されず、所望の波長帯域のレーザバンクを用いてもよい。その場合であっても、レーザの立ち上がり時間を短縮することができるため、発振効率を向上させることが可能である。
【0030】
本実施形態のレーザ発振器100は、図1に示すように、第1レーザバンク及び第2レーザバンクの2つのレーザバンクを有しているが、レーザバンクの数はこれに限定されない。レーザ発振器100は、3つ以上のレーザバンクを有していてもよい。例えば、図1及び後述する図5に示すように、N個のレーザバンクを有するレーザ発振器100を用いて制御を行うことができる。
【0031】
本開示のレーザ発振器100は、1つ以上の電源を有する。図1に示すように、レーザ発振器100は複数の電源を有していてもよい。例えば、図1に示すように、レーザ発振器100は、N個のレーザバンクのそれぞれに対応したN個の電源を有していてもよい。
【0032】
また、図5に示すように、レーザ発振器100は、1つの電源を有していてもよい。この場合、図5に示すように、1つの電源701に接続された制御系によって、N個のレーザバンクがそれぞれ制御される。なお、電源の個数は図1及び図5に示す態様に限定されない。レーザ発振器100は、複数の電源を有し、複数の電源のそれぞれが、1つ以上のレーザバンクに対応する制御システムであってもよい。例えば、レーザ発振器100は、2つの電源と5つのレーザバンクとを有し、一方の電源が3つのレーザバンクに対応し、他方の電源が2つのレーザバンクに対応する構成を有していてもよい。なお、赤色レーザと青色レーザとを使用する場合には、ダイオードレーザに用いられる材料が異なるため、動作電圧が異なる。このため、材料の異なるレーザを用いる場合には、それぞれに対応する電源を使用することが好ましい。
【0033】
コストを削減する観点から、各レーザバンクに供給する電流は同一であることが好ましい。また、レーザ光を発振させる閾電流の異なるダイオードレーザは、別々のレーザバンクに振り分けることが望ましい。
【0034】
電源は、第1レーザバンク及び第2レーザバンクに電流を供給できるものであれば特に限定されない。
【0035】
次に、電源が行う電流制御について詳細に説明する。電源は、電流を供給するための、第1制御、第2制御、第3制御、及び第4制御を行う。
【0036】
第1制御では、電流値A1未満の電流を第1レーザバンクへ供給する。すなわち、第1レーザバンクの第1レーザが発振しない程度のシマー電流A11を第1レーザへ供給する。このとき、第1レーザはレーザ光を発振せず、供給された電流が熱エネルギーを発生させることで第1レーザの温度が上昇する。シマー電流A11は可能な限り電流値A1に近いことが好ましい。この場合、第1レーザを十分に温めることができ、レーザ発振の立ち上がり遅れをより抑制することができる。
【0037】
第3制御では、電流値A1以上の電流A101を第1レーザバンクへ供給する。すなわち、第1レーザバンクの第1レーザが発振可能な電流A101を第1レーザへ供給する。これにより、第1レーザはレーザ光を発振する。本実施形態では、電源は、第1レーザがパルス発振するように第3制御を行う。パルス発振とは、第1レーザがレーザ光を連続的に発振するのではなく、短時間の発振を断続的に繰り返すことを意味する。パルス発振は、例えば、レーザ発振器100をレーザ加工に使用する際に、スパッタの抑制や溶け込み深さの調整等の目的で使用されることがある。特に、波長帯域の異なる複数のレーザバンクを含むレーザ発振器100を用いたレーザ加工では、それぞれのレーザバンクから発振されるレーザ光を、パルス発振及び連続発振等の形態で適宜制御することで、被加工物に対して優れた加工性能を実現することができる。なお、第3制御はパルス発振に限られず、電源は、第1レーザが連続発振するように第3制御を行ってもよい。
【0038】
本実施形態では、第1制御の後に第3制御が行われる。この場合、第1レーザが第1制御によって供給された電流値A1未満のシマー電流A11によって温められるため、その後の第3制御によって電流値A1以上の電流A101が供給された場合に、第1レーザがレーザ発振するまでの立ち上がり時間を特に短縮することができる。
【0039】
第2制御では、電流値A2未満のシマー電流A12を第2レーザバンクへ供給する。すなわち、第2レーザバンクの第2レーザが発振しない程度のシマー電流A12を第2レーザへ供給する。このとき、第2レーザはレーザ光を発振せず、供給された電流が熱エネルギーを発生させることで第2レーザの温度が上昇する。シマー電流A12は可能な限り電流値A2に近い事が好ましい。この場合、第2レーザを十分に温めることができ、レーザ発振の立ち上がり遅れをより抑制することができる。
【0040】
第4制御では、電流値A2以上の電流A102を第2レーザバンクへ供給する。すなわち、第2レーザバンクの第2レーザが発振可能な電流A102を第2レーザへ供給する。これにより、第2レーザはレーザ光を発振する。
【0041】
本実施形態では、第2制御の後に第4制御が行われる。この場合、第2レーザが第2制御によって供給された電流値A2未満のシマー電流A12によって温められるため、その後の第4制御によって電流値A2以上の電流A102が供給された場合に、第2レーザがレーザ発振するまでの立ち上がり時間を特に短縮することができる。本実施形態では、電源は、第2レーザがパルス発振するように第4制御を行う。パルス発振とは、第2レーザがレーザ光を連続的に発振するのではなく、短時間の発振を断続的に繰り返すことを意味する。パルス発振は、例えば、レーザ発振器100をレーザ加工に使用する際に、スパッタの抑制や溶け込み深さの調整等の目的で使用されることがある。特に、波長帯域の異なる複数のレーザバンクを含むレーザ発振器100を用いたレーザ加工では、それぞれのレーザバンクから発振されるレーザ光を、パルス発振及び連続発振等の形態で適宜制御することで、被加工物に対して優れた加工性能を実現することができる。なお、第4制御はパルス発振に限られず、電源は、第2レーザが連続発振するように第4制御を行ってもよい。
【0042】
電源は、図6に示される制御シーケンスのように、複数のレーザバンクのうちの少なくとも一つのレーザバンクを、連続発振するよう制御することが好ましい。電源は、複数のレーザバンクのすべてを連続発振するよう制御してもよく、複数のレーザバンクのうちの1つのみを連続発振するよう制御してもよい。本実施形態では、レーザ発振器100は第1レーザバンク及び第2レーザバンクの2つを有している。この場合、第1レーザバンク及び第2レーザバンクのうちの一方をパルス発振するよう制御し、他方を連続発振するよう制御することが好ましい。図6に示す制御シーケンスでは、一つのレーザバンクをパルス発振するように制御し、別のレーザバンクを連続発振するように制御している。なお、図6中のPU1は、パルス発振動作のシーケンスを示しており、CW1は、連続発振動作のシーケンスを示している。また、図6中のA31、A32は、それぞれシマー電流を示しており、A301とA302は、それぞれ動作電流を示している。また、図6中のP301とP302は、それぞれ光出力を示している。
【0043】
なお、シマー電流を供給しない場合は、図7に示すように、パルス発振及び連続発振のいずれにおいても、レーザ発振の立ち上りに遅れが発生し、加工効率が下がるおそれがある。なお、図7中のt41は設定出力に達するまでの遅れ時間であり、P401は光出力であり、A401は動作電流、A41はシマー電流である。
【0044】
第3制御及び第4制御は、図2の(a)及び(b)に示すように、同時に行われることが好ましい。この場合、第1レーザ及び第2レーザのレーザ光の発振が同時に行われるため、レーザ光の強度を高めることができ、レーザ発振器100を用いたレーザ加工において、加工を高速に開始でき、加工効率が高まる。
【0045】
本実施形態では、電流値A1と電流値A2とは異なる。すなわち、第1レーザ及び第2レーザの発振に必要な電流の閾値が異なる。この場合、第1レーザ及び第2レーザの発振特性が異なるため、レーザ光の強度を最大化することは難しい。しかし、第1レーザ及び第2レーザの発振特性が異なる場合であっても、すなわち、第1レーザ及び第2レーザの発振に必要な電流の閾値が異なる場合であっても、第1レーザ及び第2レーザにシマー電流を供給しておくことで、第1レーザ及び第2レーザのレーザ発振の立ち上がりの遅れをそれぞれ抑制できるため、第1レーザ及び第2レーザのレーザ光の強度をすばやく最大化することが可能である。
【0046】
上述のように、レーザ発振器100は、複数の電源を有していてもよい。レーザ発振器100は、第1制御及び第3制御を行う第1電源と、第2制御及び第4制御を行う第2電源と、を有することが好ましい。この場合、特に、赤色、赤外、青色などの波長や特性の大きく異なる複数のレーザバンクを用いる場合に、それぞれのレーザバンクを異なる電源で制御できるため、レーザ発振器100の発振効率をより高めることができる。レーザ発振器100は、2つ以上の電源を有していてもよい。例えば、レーザ発振器100は、第1制御を行う第1電源と、第2制御を行う第2電源と、第3制御を行う第3電源と、第4制御を行う第4電源と、の4つの電源を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示にかかるレーザ発振器は、溶接や切断などの種々のレーザ加工に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
100 レーザ発振器
A1、A2 電流値
A11、A12、A21、A31、A32、A41 シマー電流
A101、A102 電流
P101、P201、P202、P301、P302、P401 光出力
101、203 第1レーザバンクの電流対光出力特性
102、204 第2レーザバンクの電流対光出力特性
A201、A301、A302、A401 動作電流
t12、t21、t41 設定出力に達するまでの遅れ時間
201,202 光出力と時間の関係
PU1 パルス発振動作のシーケンス
CW1 連続発振動作のシーケンス
501、502、503 利得スペクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7