(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】水油判断布
(51)【国際特許分類】
D03D 15/533 20210101AFI20240119BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20240119BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240119BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20240119BHJP
D03D 15/50 20210101ALI20240119BHJP
【FI】
D03D15/533
D02G3/36
D03D1/00 Z
D03D15/47
D03D15/50
(21)【出願番号】P 2020014740
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390014487
【氏名又は名称】住江織物株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮村 佳成
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-039091(JP,A)
【文献】特開2016-123549(JP,A)
【文献】特開平03-015466(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002274(WO,A1)
【文献】特開2019-073816(JP,A)
【文献】特開2020-045600(JP,A)
【文献】特開2020-105651(JP,A)
【文献】特開2021-088859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D03D 1/00 - 27/18
D06M 13/00 - 15/715
G01N 27/00 - 27/10
G01N 27/14 - 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸からなる織物であって、
前記緯糸の一部に複数の検知糸と、
前記織物の両端に複数の前記検知糸同士を接続するように経方向に伸びる導電性の電極糸と、を備え、
前記検知糸は、鞘部は芯部を被覆し、かつ非導電性及び吸水性を有する吸水糸であり、芯部が導電糸である芯鞘複合構造を有する
糸であり、
前記電極糸は、前記検知糸の前記芯部と接し、
前記織物の少なくとも表面側に界面活性剤が固着していることを特徴とする水油判断布。
【請求項2】
前記界面活性剤が帯電防止機能を有する界面活性剤である請求項1に記載の水油判断布。
【請求項3】
前記界面活性剤の固着量が1g/m
2~50g/m
2である請求項1又は2に記載の水油判断布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と油を判断することができる布に関する。
【0002】
水と油は共に液体であるため、人の目視だけでは水又は油のどちらかを判断することが難しい。人の手で液体に触れることにより粘性で判断できたり、人の鼻で匂いを嗅ぎ、判断することは可能である。
【0003】
例えば、特許文献1では、コラーゲン繊維含有クロスよりなることを特徴とする油水分離材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、水と油とを含む混合液体を水分および油分に分離して水分を通し、かつ油分を通さない油水分離体を有する袋状の外装体と、該外装体の内部に収容された吸水材と、を備え、前記外装体は、少なくとも前記水分が通過可能な材料からなり、前記油水分離体は、撥油性付与基および親水性付与基とを有するフッ素系化合物を含むことを特徴とする吸水撥油具を開示している。特許文献1では、簡易な構成で低コストに、油分に含まれる水分を連続的に効率よく吸水することができる。さらに、近年では液体が水なのか?油なのか?を簡易的に判断することができる布が求められている。
【0006】
本発明は、かかる技術的背景を鑑みてなされたものであって、液体が水なのか?油なのか?を簡易的に判断することができる布を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1 ] 経糸と緯糸からなる織物であって、
前記緯糸の一部に複数の検知糸と、
前記織物の両端に複数の前記検知糸同士を接続するように経方向に伸びる導電性の電極糸と、を備え、
前記検知糸は、鞘部は芯部を被覆し、かつ非導電性及び吸水性を有する吸水糸であり、芯部が導電糸である芯鞘複合構造を有する糸であり、
前記電極糸は、前記検知糸の前記芯部と接し、
前記織物の少なくとも表面側に界面活性剤が固着していることを特徴とする水油判断布。
【0009】
[2] 前記界面活性剤が帯電防止機能を有する界面活性剤である前項1に記載の水油判断布。
【0010】
[3]前記界面活性剤の固着量が1g/m2~50g/m2である前項1又は2に記載の水油判断布。
【発明の効果】
【0011】
[1 ]の発明では、経糸と緯糸からなる織物であって、緯糸の一部に複数の検知糸と、織物の両端に複数の検知糸同士を接続するように経方向に伸びる導電性の電極糸と、を備え、検知糸は、鞘部は芯部を被覆し、かつ非導電性及び吸水性を有する吸水糸であり、芯部が導電糸である芯鞘複合構造を有する糸であり、電極糸は、検知糸の芯部と接し、織物の少なくとも表面側に界面活性剤が固着しているから、液体が水なのか、油なのかを簡易的に判断することができる。
【0012】
[2]の発明では、界面活性剤が帯電防止機能を有する界面活性剤であるから、誘電性により常時、微弱な電流が流れ、抵抗値を測定することができる。水油判断布が水に濡れた際には抵抗値が低くなり、油に濡れた際には絶縁状態になり、液体が水なのか、油なのかを判断しやすくなる。
【0013】
[3]の発明では、界面活性剤の固着量が1g/m2~50g/m2であるから、常時微弱な電流を流しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る水油判断布の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る水油判断布の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1 に示すように、本願発明の水油判断布1 は経糸2 と緯糸3 からなる織物であって、前記緯糸3 の一部に複数の検知糸4 と、前記織物の両端に複数の前記検知糸4 同士を接続するように経方向L に伸びる導電性の電極糸5 と、を備え、前記検知糸4 は、鞘部は芯部を被覆し、かつ非導電性及び吸水性を有する吸水糸であり、芯部が導電糸である芯鞘複合構造を有する
糸であり、前記電極糸5 は、前記検知糸4 の前記芯部と接し、前記織物の少なくとも表面側に界面活性剤が固着していることを特徴とする。なお、
図1には界面活性剤は図示しない。
【0016】
水油判断布1は、経糸2と緯糸3と織り上げた織物で構成されている。
【0017】
前記経糸2には非導電性の糸6も用いられる。
【0018】
前記緯糸3の少なくとも一部に複数の検知糸4を備えている必要がある。前記緯糸3に用いられる複数の検知糸4以外には、非導電性の糸6が用いられる。
【0019】
前記非導電性の糸6としては、例えば、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。
【0020】
前記織物の両端に複数の前記検知糸4同士を接続するように経方向Lに伸びる導電性の電極糸5を備えている必要がある。なお、前記織物の両端とは、前記織物の幅方向Wにおいて左右両方の端を意味する。前記織物の両端に備えている電極糸5に流れる電流の大きさ又は抵抗値等を測定することにより、液体が水なのか?油なのか?を判断することができる。
【0021】
前記電極糸5は、導電性の糸であることが好ましい。電極糸5は、複数の前記検知糸4同士を接続するように経方向Lに伸びて、前記複数の検知糸4の前記芯部と接続されている。このため、電極糸5と検知糸4とが導通している。織物の両端にある電極糸5同士は交差していない。電極糸5は、検知糸4の芯部の導電糸と同じ糸を用いても構わない。電極糸5は検知糸4との導通を確保するために、検知糸4の鞘部を貫通させて、検知糸4の芯部の芯部と直接接するようにすることが好ましい。また、電極糸5は検知糸4との導通を確保するために、検知糸4の鞘部を貫通させて、検知糸4の芯部の導電糸と直接接するようにすることが好ましい。
【0022】
前記電極糸5は、導電性の糸を前記織物に刺繍することが好ましい。
【0023】
前記電極糸5を刺繍する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、針を用いて手で刺繍する、又はミシンで刺繍する等が挙げられ、中でもミシンで刺繍することが好ましい。
【0024】
前記導電性の糸の種類としては、導電性を有する繊維素材であればよく、例えば、銅、ステンレス、銀等の金属繊維や炭素繊維、導電性のない繊維に、銀、銅、ニッケル等の金属をメッキ等の手段によって繊維表面にコーティングし導電性機能の付与された糸等を挙げることができる。
【0025】
前記導電性の糸の電気抵抗としては、103Ω/cm~10-4Ω/cmであることが好ましい。
【0026】
前記織物の一方の端にある電極糸5(
図1の織物の左側)と、前記織物の他方の端にある電極糸5(
図1の織物の右側)との間に流れる電流の大きさは、検知糸4の鞘部の吸水度合いによって変化する。液体が水の場合、検知糸4の鞘部が吸水して、電気をよく通すため、抵抗値が低くなる。液体が油の場合、導通しない。(絶縁状態になる)
【0027】
前記織物の幅方向Wにおいて一方の端にある電極糸5と、前記織物の幅方向Wにおいて他方の端にある電極糸5との間に流れる電流の大きさは、検知糸4と電極糸5との交点の数にも依存する。このため、織物に含まれる検知糸4の本数を増やし、交点の密度を高くすることにより、検出感度を高くすることができる。逆に、交点の密度をある程度抑え、検出する電流値に閾値を設けることにより、検知糸4の鞘部が局所的に水分を吸収した場合には、電流値の変化を検出せず、織物の広い面積において検知糸4の鞘部が水分を吸収した場合にのみ、電流値の変化を検出するようにもできる。
【0028】
前記織物の幅方向Wにおいて一方の端にある電極糸5と、前記織物の幅方向Wにおいて他方の端にある電極糸5との間に流れる電流値は、前記織物の幅方向Wにおいて一方の端にある電極糸5と、前記織物の幅方向Wにおいて他方の端にある電極糸5との間の抵抗値として捉えることができる。
【0029】
前記検知糸4 は、鞘部は芯部を被覆するために用いられ、かつ非導電性及び吸水性を有する吸水糸であり、芯部が導電糸である芯鞘複合構造を有する糸である。鞘部は水分を保持することにより、導電性を示す。前記検知糸4 と前記電極糸5 とは、複数の交点を形成している。
【0030】
前記検知糸4の太さは、特に限定されるものではないが、強度と風合いの観点から500デシテックス~100000デシテックスとすることが好ましい。
【0031】
前記芯部は導電糸である。導電糸であるから、芯部は電気を流すことができ、抵抗値を測定することができる。中でも、銀メッキ糸やステンレス線であることが好ましい。
【0032】
前記鞘部は、材料自体は非導電性であるが、水分を保持することができる多数の空隙を有し、空隙に保持した水分により導電性を示す材料により形成することができる。
【0033】
前記吸水糸は非導電性の材料からなり、かつ、吸水性を有する糸であれば、特に限定されず、異形断面糸及びマイクロファイバー糸等とすることができる。中でも、吸水糸は吸水性を有するだけでなく速乾性を有していることが好ましい。中でも、異形断面を有するポリエステル糸又は不定形断面形状ポリエステル糸であることが好ましい。吸水糸が水分に浸透していない場合は非導電性を有し、吸水糸に水分が与えられた場合は導通することができ、抵抗値を測定することができる。
【0034】
前記検知糸4の芯部として導電糸を芯糸に用いて、導電糸からなる芯糸の外周面に前記鞘部で被覆する方法としては、特に限定するものではないが、組紐、カバーリング等が挙げられ、導電糸からなる芯糸が隙間から見えないように巻き付けることが好ましい。
【0035】
前記組紐としては、丸打紐、角打紐、平打紐等が挙げられ、丸打紐であることがより好ましい。
【0036】
前記組紐の太さとしては、500デシテックス~10000デシテックスであることが好ましい。
【0037】
前記導電糸からなる芯部の外周面に巻き付ける組紐の本数としては、4打~16打であることが好ましく、中でも、8打~12打であることがより好ましい。
【0038】
前記鞘部は芯部を被覆し、かつ非導電性及び吸水性を有する吸水糸であるから、通常、水分が濡れない場合又は油が吸油した場合は非導電性を有する。鞘部に水分がかかると吸水性を有するため、芯部の導電糸まで水分が到達すると電気を流すことができ、抵抗値を測定することができる。
【0039】
前記織物の組織としては、平織、綾織、朱子織等が挙げられる。中でも、平織であることが好ましい。
【0040】
前記織物に含まれる検知糸4と電極糸5との交点の数は、特に限定されず、用途に応じて適宜設定することができる。少なくとも、検知糸4と電極糸5とを2本ずつとし、4点の交点を設ければ、抵抗値を測定することができる。
【0041】
抵抗値を測定する方法としては、前記織物の両端に備えている2本の電極糸5の先にテスターを取りつけ、一方の電極糸5と他方の電極糸5との間に流れる電流の大きさ、又は一方の電極糸5と他方の電極糸5との間の抵抗値等を測定することが可能になる。電流値の変化を連続的にモニターすれば、抵抗値の変化を連続的に捕らえることもできる。
【0042】
前記界面活性剤としては、帯電防止機能を有する界面活性剤であることが好ましい。中でも、アニオン系活性剤(アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩)、カチオン系活性剤(第4級アンモニウム塩型、第4級アンモニウム樹脂型、アルキルアミンサルフェート)、非イオン活性剤(グリセリンモノ脂肪酸エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド)、両性活性剤(アルキルベタイン型、アルキルイミダゾリウムベタイン型)であることがより好ましい。
【0043】
前記界面活性剤の固着量(乾燥後)が1g/m2~50g/m2であることが好ましい。1g/m2以上であると微弱な電流を流すことができ、50g/m2以下であると織物としての風合いを維持することができる。
【0044】
前記織物の少なくとも表面側に界面活性剤が固着していることが必要である。前記織物に前記界面活性剤を塗布した後、乾燥させる方法としては、例えば、温度が120℃で、10分乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0046】
<使用材料>
電極糸5・・・・銀めっき糸(大阪電気工業株式会社製、商品名odex、70d×3)
検知糸4(芯鞘複合構造を有する繊維)・・・銀メッキ糸(大阪電気工業株式会社製、商品名odex、70d×3)の外周面に非導電性及び吸水性を有する吸水糸(ポリエステル異形断面糸、帝人フロンティア株式会社製、カルキュロ167T48)を用いて、丸打紐8打で巻き付けた。
非導電性の糸6・・・ポリエステル(200d)
【0047】
<実施例1>
経糸には非導電性の糸6を用い、緯糸には検知糸4と非導電性の糸6を用いて、検知糸4の挿入間隔は20mm間隔で1本に織り込んで、10cm角の織物を形成した。形成した織物の緯方向において、それぞれ両端から1cmの位置に電極糸5を刺繍した。次に、界面活性剤(アルキルスルホン酸塩(ベルクリン660LA、BWA社製)をパディングにより塗布して、120℃で10分乾燥し、
図1に示す水油判断布を形成した。なお、界面活性剤の固着量は15g/m
2であった。
【0048】
<水評価法>
実施例1で作成した水油判断布の両端に備えている2本の電極糸の先にテスターを取りつけた。次に、スポイトを用いて、水油判断布の表面に水を1mL滴下した。次に、30秒後の抵抗値をテスターで測定した。測定した結果が500Ω以下であった。
【0049】
<油評価法>
実施例1で作成した水油判断布の両端に備えている2本の電極糸の先にテスターを取りつけた。次に、スポイトを用いて、水油判断布の表面に油(機械油)を1mL滴下した。次に、30秒後の抵抗値をテスターで測定した。測定した結果がO.L.(オーバーレンジ:絶縁状態)であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る水油判断布は、例えば、濡れている液体が水なのか?油なのか?を判断することができる布等として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1・・・水油判断布
2・・・経糸
3・・・緯糸
4・・・検知糸
5・・・電極糸
6・・・通常の非導電性の糸
W・・・緯方向
L・・・経方向