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特許7422398表面被覆ベーマイト、樹脂フィルム複合材料、炭素材複合材料
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  • 特許-表面被覆ベーマイト、樹脂フィルム複合材料、炭素材複合材料 図1
  • 特許-表面被覆ベーマイト、樹脂フィルム複合材料、炭素材複合材料 図2
  • 特許-表面被覆ベーマイト、樹脂フィルム複合材料、炭素材複合材料 図3
  • 特許-表面被覆ベーマイト、樹脂フィルム複合材料、炭素材複合材料 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】表面被覆ベーマイト、樹脂フィルム複合材料、炭素材複合材料
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/021 20220101AFI20240119BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240119BHJP
   H01M 4/36 20060101ALN20240119BHJP
   H01M 4/587 20100101ALN20240119BHJP
   H01M 50/451 20210101ALN20240119BHJP
【FI】
C01F7/021
B32B27/18 Z
H01M4/36 C
H01M4/587
H01M50/451
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020077974
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2021172561
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591051335
【氏名又は名称】河合石灰工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 颯汰
(72)【発明者】
【氏名】太田 康博
(72)【発明者】
【氏名】木戸 健二
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531993(JP,A)
【文献】特開2010-064945(JP,A)
【文献】特開2016-219275(JP,A)
【文献】特開2003-257419(JP,A)
【文献】特開2013-211260(JP,A)
【文献】特開2014-165007(JP,A)
【文献】特開2018-181816(JP,A)
【文献】特開2010-238392(JP,A)
【文献】堂地要 他,ヘテロ凝集によるベーマイト-シリカ複合粒子の調製,粉体工学会誌,日本,粉体工学会,2018年09月10日,55巻9号,478-482頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/021
B32B 27/18
H01M 4/36
H01M 4/587
H01M 50/451
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質で被覆された表面被覆ベーマイトであって、
最外層がアニオン性高分子電解質であり、
水溶液中におけるゼータ電位が、pHを2~12の範囲で変化させても負のままである、
表面被覆ベーマイト。
【請求項2】
前記ゼータ電位は、-15mVから-50mVである、
請求項1に記載の表面被覆ベーマイト。
【請求項3】
前記アニオン性高分子電解質は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)ナトリウム、ポリアクリル酸、及びポリビニル硫酸の少なくとも一種である、
請求項1又は2に記載の表面被覆ベーマイト。
【請求項4】
アニオン性高分子電解質とカチオン性高分子電解質とによって交互に被覆されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の表面被覆ベーマイト。
【請求項5】
前記カチオン性高分子電解質は、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、及びポリエチレンイミンの少なくとも一種である、
請求項4に記載の表面被覆ベーマイト。
【請求項6】
樹脂フィルムに、請求項1から5のいずれか1項に記載の表面被覆ベーマイトが付着した樹脂フィルム複合材料。
【請求項7】
炭素材に、請求項1から5のいずれか1項に記載の表面被覆ベーマイトが付着した炭素材複合材料。
【請求項8】
請求項6に記載の樹脂フィルム複合材料、又は、請求項7に記載の炭素材複合材料を使用した二次電池材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最外層がアニオン性高分子電解質であり、水溶液中におけるゼータ電位が、pHを変化させても負のままである表面被覆ベーマイトに関する。また、本発明は、樹脂フィルムに当該表面被覆ベーマイトが付着した樹脂フィルム複合材料、及び炭素材に当該表面被覆ベーマイトが付着した炭素材複合材料にも関する。
【背景技術】
【0002】
ベーマイトは、AlOOH又はAl・HOで表される組成式を有し、樹脂添加剤や研磨材として利用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-214337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らが、水溶液中におけるベーマイトのゼータ電位を、塩基性側から酸性側へ連続的にpHを調整して測定したところ(ゼータ電位の詳細な測定方法は、後述の実施例に記載)、ベーマイトの種類にもよるが、ベーマイトのゼータ電位は、pH5~7付近でゼロ(等電点)になり、pH5~7よりも低いpHにおいては正であり、pH5~7よりも高いpHにおいては負になることが分かった。したがって、例えば、5~7よりも大きいpH範囲(すなわち、ベーマイトの表面電荷が負であるpH範囲)において、正電荷を有する物質にベーマイトを付着させたとしても、pHが5~7未満になるとベーマイトの表面電荷は正になるため、ベーマイトは当該物質から分離するおそれがある。
【0005】
また、発明者らは、ベーマイトは、pH4程度の水溶液中での分散性は高いものの、水溶液のpHが6~8程度になると、凝集が起こり、分散性が悪化するという問題を有することも見出した。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、広いpH範囲にわたって負のゼータ電位を維持でき、且つ、広いpH範囲にわたって高い分散性を有する表面被覆ベーマイトを提供することを目的とする。また、本発明は、樹脂フィルムに当該表面被覆ベーマイトが付着した樹脂フィルム複合材料、及び炭素材に当該表面被覆ベーマイトが付着した炭素材複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
(項目1)
高分子電解質で被覆された表面被覆ベーマイトであって、
最外層がアニオン性高分子電解質であり、
水溶液中におけるゼータ電位が、pHを変化させても負のままである、
表面被覆ベーマイト。
【0008】
(項目2)
前記ゼータ電位は、-15mVから-50mVである、
項目1に記載の表面被覆ベーマイト。
【0009】
(項目3)
前記アニオン性高分子電解質は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)ナトリウム、ポリアクリル酸、及びポリビニル硫酸の少なくとも一種である、
項目1又は2に記載の表面被覆ベーマイト。
【0010】
(項目4)
アニオン性高分子電解質とカチオン性高分子電解質とによって交互に被覆されている、
項目1から3のいずれか1項に記載の表面被覆ベーマイト。
【0011】
(項目5)
前記カチオン性高分子電解質は、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、及びポリエチレンイミンの少なくとも一種である、
項目4に記載の表面被覆ベーマイト。
【0012】
(項目6)
樹脂フィルムに、項目1から5のいずれか1項に記載の表面被覆ベーマイトが付着した樹脂フィルム複合材料。
【0013】
(項目7)
炭素材に、項目1から5のいずれか1項に記載の表面被覆ベーマイトが付着した炭素材複合材料。
【0014】
(項目8)
項目6に記載の樹脂フィルム複合材料、又は、項目7に記載の炭素材複合材料を使用した二次電池材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面被覆ベーマイトは、広いpH範囲にわたって負のゼータ電位を維持でき、且つ、広いpH範囲にわたって高い分散性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)板状ベーマイトの長径及び短径を説明する図、(b)鱗片状ベーマイトの長径及び短径を説明する図、(c)針状ベーマイトの長径及び短径を説明する図である。
図2】実施例1、実施例2、実施例5、実施例6、比較例1及び比較例3のゼータ電位のグラフである。
図3】ベーマイト試料の分散性を示す写真であり、(a)実施例2の写真、(b)比較例1の写真である。
図4】(a)実施例1のベーマイト試料の、PVDFフィルムに対する付着状態を示すSEM画像、(b)比較例1のベーマイト試料の、PVDFフィルムに対する付着状態を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の表面被覆ベーマイト、樹脂フィルム複合材料、及び炭素材複合材料について説明する。
【0018】
本発明は、最外層がアニオン性高分子電解質であり、水溶液中におけるゼータ電位が、pHを変化させても負のままである、表面被覆ベーマイトに関する。ゼータ電位は、水溶液の温度が25℃で測定された値である。
【0019】
ゼータ電位は、-15mVから-50mVであることが好ましい。ゼータ電位がこのような範囲にあることにより、静電相互作用が強く働くため、表面被覆ベーマイトは正電荷を有する物質に付着しやすい。
【0020】
被覆対象であるベーマイトの形状は特に限定されず、例えば、鱗片状、板状又は針状ベーマイトを使用することができる。
【0021】
アニオン性高分子電解質は、特に限定されないが、例えば、ポリ(4-スチレンスルホン酸)ナトリウム(PSS)、ポリアクリル酸(PAA)、及びポリビニル硫酸(PVS)の少なくとも一種を使用することができる。
【0022】
表面被覆ベーマイトは、最外層がアニオン性高分子電解質となるように、アニオン性高分子電解質とカチオン性高分子電解質とによって、交互に被覆されていることが好ましい。
【0023】
カチオン性高分子電解質は、特に限定されないが、例えば、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)(PDDA)、及びポリエチレンイミン(PEI)の少なくとも一種を使用することができる。
【0024】
アニオン性高分子電解質とカチオン性高分子電解質とによって交互に被覆された表面被覆ベーマイトを調製する際には、まず、ベーマイトの表面をアニオン性高分子電解質で被覆する。次に、アニオン性高分子電荷質を、カチオン性高分子電解質で被覆し、その後、カチオン性高分子電解質をアニオン性高分子電解質でさらに被覆する。被覆回数は、特に限定されない。また、アニオン性高分子電解質又はカチオン性高分子電解質を複数層設ける場合、それぞれ異なる種類のアニオン性高分子電解質又はカチオン性高分子電解質を使用してもよい。例えば、一層目のアニオン性高分子電解質と三層目のアニオン性高分子電解質とは、異なるアニオン性高分子電解質を使用してもよい。
【0025】
本発明は、樹脂フィルムの表面に、上記の表面被覆ベーマイトが付着した樹脂フィルム複合材料にも関する。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製のフィルムや、ポリエチレン(PE)製のフィルムが挙げられる。本発明の表面被覆ベーマイトを付着させることにより、樹脂フィルムの寸法を安定化させることができる。本発明の樹脂フィルム複合材料は、例えば、二次電池用のセパレータとして利用できる。
【0026】
本発明は、炭素材の表面に、上記の表面被覆ベーマイトが付着した炭素材複合材料にも関する。炭素材としては、例えば、グラファイトが挙げられる。本発明の表面被覆ベーマイトを付着させることにより、炭素材の寸法を安定化させることができる。本発明の炭素材複合材料は、例えば、二次電池用の負極材として利用できる。
【実施例
【0027】
以下では、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
[ベーマイト試料の調製]
原料ベーマイトの特性、及び、最外層の高分子電解質の種類を表1に示す。図1は、原料ベーマイトの長径及び短径を説明する図であり、(長径/短径)はアスペクト比と呼ばれる。
【0029】
<実施例1>
(1)イオン交換水にPSS(シグマアルドリッチ製)を加え、PSSの濃度が1wt%であるPSS水溶液を調製した。同様に、イオン交換水にPDDA(シグマアルドリッチ製)を加え、PDDAの濃度が1wt%であるPDDA水溶液を調製した。
(2)PSS水溶液、及び、PDDA水溶液に、0.5Mとなるように塩化ナトリウム(ナイカイ塩業株式会社製)を加えた。
(3)50mLの遠沈管に、一次粒子の中心粒子径が2μmの板状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:5)を1.0g入れ、その遠沈管にPSS水溶液30mLを加えて懸濁液とした。
(4)ホモジナイザー(Sonic&Materials inc.製「VCX-400」)を用いて、懸濁液内のベーマイト凝集物を超音波解砕した。
(5)懸濁液の入った遠沈管をチューブローテータ(TAITEC製「RT-50」)にセットし、30分振とうした。
(6)遠沈管を遠心分離機(KUBOTA製、高速冷却遠心分離機「6200」)にセットし、回転数8000rpmで10分間遠心分離を行い、スラリー中のベーマイトを沈降させた。
(7)遠沈管内の上澄みを捨て、新たにイオン交換水30mLを加えた。
(8)ボルテックスミキサー(TAITEC「Se-08」)を用いて遠沈管内を攪拌し、沈降していたベーマイトを分散させた。
(9)上記(6)から(8)を2回繰り返し、余分なPSSを洗い流した。これにより、原料ベーマイトの表面がPSSで被覆されたベーマイトが得られた。
(10)遠沈管内の上澄みを捨て、ベーマイトが残った遠沈管にPDDA水溶液30mLを加えて再び懸濁液とした。
(11)上記懸濁液をボルテックスミキサーで攪拌し、ベーマイトを均一分散させた。
(12)懸濁液の入った遠沈管をチューブローテータにセットし、30分振とうした。
(13)遠沈管を遠心分離機にセットし、回転数8000rpmで10分間遠心分離を行い、スラリー中のベーマイトを沈降させた。
(14)遠沈管内の上澄みを捨て、新たにイオン交換水30mLを加えた。
(15)ボルテックスミキサーを用いて遠沈管内を攪拌し、沈降していたベーマイトを分散させた。
(16)上記(13)から(15)を2回繰り返し、余分なPDDAを洗い流した。これにより、PSS層がPDDAによって被覆されたベーマイトが得られた。
(17)遠沈管内の上澄みを捨て、ベーマイトが残った遠沈管にPSS水溶液30mLを加えて再び懸濁液とした。
(18)上記懸濁液をボルテックスミキサーで攪拌し、ベーマイトを均一分散させた。
(19)懸濁液の入った遠沈管をチューブローテータにセットし、30分振とうした。
(20)遠沈管を遠心分離機にセットし、回転数8000rpmで10分間遠心分離を行い、スラリー中のベーマイトを沈降させた。
(21)遠沈管内の上澄みを捨て、新たにイオン交換水30mLを加えた。
(22)ボルテックスミキサーを用いて遠沈管内を攪拌し、沈降していたベーマイトを分散させた。
(23)上記(20)から(22)を2回繰り返し、余分なPSSを洗い流した。
(24)洗浄工程後の沈降したベーマイトを回収し、60℃の乾燥機で24時間乾燥させた。このようにして、最外層がPSSである表面被覆ベーマイトが得られた。
【0030】
<実施例2>
アニオン性高分子電解質をPSSからPAAに変更した以外は、実施例1と同じ方法により、表面被覆ベーマイトを調製した。
【0031】
<実施例3>
アニオン性高分子電解質をPSSからPVSに変更した以外は、実施例1と同じ方法により、表面被覆ベーマイトを調製した。
【0032】
<実施例4>
原料ベーマイトを、一次粒子の中心粒子径が5μmの鱗片状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:20)に変更した以外は、実施例1と同じ方法により、表面被覆ベーマイトを調製した。
【0033】
<実施例5>
原料ベーマイトを、一次粒子の中心粒子径が2μmの鱗片状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:40)に変更した以外は、実施例1と同じ方法により、表面被覆ベーマイトを調製した。
【0034】
<実施例6>
原料ベーマイトを、一次粒子の中心粒子径が3.5μmの針状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:30)に変更した以外は、実施例1と同じ方法により、表面被覆ベーマイトを調製した。
【0035】
<比較例1>
(1)50mLの遠沈管に、一次粒子の中心粒子径が2μmの板状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:5)を1.0g入れ、その遠沈管にイオン交換水30mLを加えて懸濁液とした。
(2)ホモジナイザーを用いて、懸濁液内のベーマイト凝集物を超音波解砕した。
(3)遠沈管を遠心分離機にセットし、回転数8000rpmで10分間遠心分離を行い、スラリー中のベーマイトを沈降させた。なお、比較例1では、この遠心分離処理は1回だけしか行っていない。
(4)遠沈管内の上澄みを捨て、沈降したベーマイトを回収し、60℃で24時間乾燥した。
(5)上記手順により、表面が高分子電解質で被覆されていないベーマイトを得た。
【0036】
<比較例2>
原料ベーマイトを、一次粒子の中心粒子径が5μmの鱗片状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:20)に変更した以外は、比較例1と同じ方法により、ベーマイト試料を調製した。
【0037】
<比較例3>
原料ベーマイトを、一次粒子の中心粒子径が2μmの鱗片状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:40)に変更した以外は、比較例1と同じ方法により、ベーマイト試料を調製した。
【0038】
<比較例4>
原料ベーマイトを、一次粒子の中心粒子径が3.5μmの針状ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、アスペクト比:30)に変更した以外は、比較例1と同じ方法により、ベーマイト試料を調製した。
【0039】
[ゼータ電位の測定]
以下の手順により、実施例1、実施例2、実施例5、実施例6、比較例1及び比較例2のベーマイト試料のゼータ電位を測定した。ゼータ電位の測定結果を、表2及び図2に示す。
(1)イオン交換水に、ベーマイト試料を所定量加えて、ゼータ電位が測定できる程度の濃度に調整した懸濁液を作製した。
(2)硝酸の希釈溶液を懸濁液に加えて、pH2程度まで、懸濁液のpHを低下させた。そして、水酸化ナトリウムの希釈溶液を懸濁液に加えて順次pHを上昇させ、所定のpHにおいて、ゼータ電位計(大塚電子製「ELS-2000」)を使用してゼータ電位を測定した。懸濁液の温度は、25℃に維持した。
【0040】
[分散安定性の評価]
以下の手順により、実施例1から6及び比較例1から4のベーマイト試料の、イオン交換水中における分散安定性について評価した。分散安定性の結果を表1に示す。表1において、「○」は、ベーマイト試料の分散状態が維持されていることを意味し、「△」は、ベーマイト試料の一部が沈降していることを意味し、「×」は、ベーマイト試料が完全に沈降していることを意味する。実施例1~4及び比較例1~2の結果は、測定開始から10分後の結果であり、実施例5及び比較例3の結果は、測定開始から180分後の結果であり、実施例6及び比較例4の結果は、測定開始から90分後の結果である。分散状態を示す一例として、図3に、pH6~8における、実施例2及び比較例1の分散性試験の写真を示す。
(1)容器にイオン交換水10.0gとベーマイト試料0.1gを加え、懸濁液を調製した。
(2)ホモジナイザーを用いて、懸濁液内におけるベーマイト試料の凝集物を超音波解砕した。
(3)懸濁液を所定のpHに調整した。pHを低下させる場合には、硝酸の希釈溶液を懸濁液に加え、pHを上昇させる場合には、水酸化ナトリウムの希釈溶液を懸濁液に加えた。
(4)pHを調整した懸濁液を10mLメスシリンダーに移し、ベーマイト試料の沈降具合を目視により確認した。
【0041】
[樹脂に対する付着性の評価]
以下の手順により、実施例1から6及び比較例1から4のベーマイト試料の、樹脂サンプル片に対する付着性を評価した。付着性の結果を、表1に示す。表1において、「○」は、樹脂サンプル片に、ベーマイト試料が十分に付着していることを意味し、「×」は、樹脂サンプル片に、ベーマイト試料がほとんど付着していないことを意味する。付着状態を示す一例として、図4に、実施例1及び比較例1のベーマイト試料を使用した付着試験後の樹脂サンプル片のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を示す。
(1)容器にイオン交換水9.0g、工業用アルコール1.0g(今津薬品工業製「クリンエースハイ」)、及びベーマイト試料0.1gを加え、懸濁液を調製した。
(2)ホモジナイザーを用いて、懸濁液内のベーマイト試料の凝集物を超音波解砕した。
(3)篩を用意し、その上に、樹脂サンプル片を置き、樹脂サンプル片に上記の懸濁液をまんべんなく垂らした。なお、樹脂サンプル片としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のフィルム(近江オドエアーサービス株式会社製、PVDFバッグ)の表面をPDDAで処理し、表面に正電荷を付与したものを使用した。
(4)イオン交換水を用いて、篩上の樹脂サンプル片を念入りに洗浄した。
(5)樹脂サンプル片を60℃の乾燥機内で24時間乾燥させた。
(6)乾燥後の樹脂サンプル片の表面を走査型電子顕微鏡(JEOL製「JSM-7500FA」)で観察した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表2及び図2に示すように、実施例1~6の表面被覆ベーマイトは、pH2~12の範囲で、ゼータ電位が負であった。なお、一般に、pH2未満、及び、pH12以上の範囲では、ゼータ電位の測定が困難であることが知られており、本実施例及び比較例でもこれらのpH範囲ではゼータ電位を測定することができなかった。
【0045】
表1及び図3に示すように、実施例1~6の表面被覆ベーマイトは、pH6~8及びpH11であっても、分散性が高かった。これに対し、比較例1~4のベーマイト試料は、pH6~8において、その一部又は全部が沈降していた。
【0046】
一般に、ベーマイトを、液体と混合して使用する場合(例えば、スラリー)、廃液処理など様々な観点から、液体は中性に調製されることが好ましい。本発明の表面被覆ベーマイトは、中性付近(pH6~8)でも高い分散性を有しているため、幅広い用途で利用可能である。
【0047】
表1及び図4に示すように、実施例1及び実施例4の表面被覆ベーマイトは、PVDFフィルムに対する付着性が高かった。これに対し、比較例1及び比較例2のベーマイト試料は、PVDFフィルムにほとんど付着しなかった。したがって、本発明の表面被覆ベーマイトが付着した樹脂フィルム複合材料は、高い寸法安定性を有し、例えば、二次電池用のセパレータとして有用である。
図1
図2
図3
図4