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特許7422399パンコーティング装置及びコーティング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】パンコーティング装置及びコーティング方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 2/00 20060101AFI20240119BHJP
   A61K 9/28 20060101ALN20240119BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20240119BHJP
【FI】
B01J2/00 B
A61K9/28
A23L5/00 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020087926
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181066
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000112912
【氏名又は名称】フロイント産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102853
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹野 寧
(72)【発明者】
【氏名】磯部 重実
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓也
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-099119(JP,A)
【文献】特開2003-062500(JP,A)
【文献】特開2003-225599(JP,A)
【文献】特開2006-026592(JP,A)
【文献】韓国登録特許第1561561(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 2/00
A61J 3/06
A23L 5/00
A23P 20/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を中心に回転自在に設けられ、その内部にコーティング処理の対象となる被処理物が収容される回転ドラムと、
前記回転ドラム内に配置され、前記回転ドラムの回転に伴う前記被処理物の転動によって形成される被処理物層に対しコーティング液を噴霧するスプレーガンと、を有するパンコーティング装置であって、
前記スプレーガンは、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、前記被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動可能であることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項2】
請求項1記載のパンコーティング装置において、
前記退避位置は、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割する中心線Mvと前記回転ドラムの断面を水平方向に等分に2分割する中心線Mhとによって区分される4つの象限のうち、第1象限に設定されることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項3】
請求項1又2記載のパンコーティング装置において、
前記スプレーガンは、垂直方向から水平方向に傾いた方向に上下に移動することを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のパンコーティング装置において、
前記スプレーガンは、前記回転ドラム内に出し入れ可能なガンホルダに取り付けられ、
前記ガンホルダは、屈曲部を備えたクランク状に形成されていることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のパンコーティング装置において、
前記コーティング液が糖衣コーティング液であることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項6】
回転軸線を中心に回転自在に設けられ、その内部にコーティング処理の対象となる被処理物が収容される回転ドラムと、前記回転ドラム内に配置され、前記回転ドラムの回転に伴う前記被処理物の転動によって形成される被処理物層に対しコーティング液を噴霧するスプレーガンと、を有するパンコーティング装置により、前記回転ドラム内の被処理物に対しコーティング処理を行うコーティング方法であって、
前記回転ドラムに対する給排気を行うことなく、前記回転ドラムを回転させつつ前記被処理物に対して前記コーティング液を噴霧するスプレー工程と、
前記回転ドラムに対する給排気を行うことなく前記回転ドラムを回転させるポーズ1工程と、
前記回転ドラムの給排気を行いつつ前記回転ドラムを回転させるドライ工程と、を行い、
前記ポーズ1工程及び前記ドライ工程において、前記スプレーガンを、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、前記被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動させることを特徴とするコーティング方法。
【請求項7】
請求項6記載のコーティング方法において、
前記退避位置は、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割する中心線Mvと前記回転ドラムの断面を水平方向に等分に2分割する中心線Mhとによって区分される4つの象限のうち、第1象限に設定されることを特徴とするコーティング方法。
【請求項8】
請求項6又7記載のコーティング方法において、
前記スプレー工程の前に前記回転ドラムに対する給排気を行うことなく前記回転ドラムを回転させるポーズ0工程を設け、
前記ポーズ0工程、前記スプレー工程、前記ポーズ1工程及び前記ドライ工程を有する工程を複数サイクル実施し、
前記ポーズ0工程において、前記スプレーガンを前記退避位置から前記スプレー工程を行うスプレー位置に移動させることを特徴とするコーティング方法。
【請求項9】
請求項6~8の何れか1項に記載のコーティング方法において、
前記スプレーガンは、垂直方向から水平方向に傾いた方向に上下に移動することを特徴とすることを特徴とするコーティング方法。
【請求項10】
請求項6~9の何れか1項に記載のコーティング方法において、
前記コーティング液が糖衣コーティング液であることを特徴とするコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤や粉粒体に対しコーティング液をスプレーしてコーティング処理を行うパン型のコーティング装置(パンコーティング装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
パンコーティング装置で行われる錠剤等の被処理物(以下、被処理物としては錠剤を例にとって述べる)に対するコーティング処理は、大別すると、錠剤に対し水溶性のコーティング剤による被膜を施すフィルムコーティングと、錠剤の表面を白糖等の糖衣にて覆う糖衣コーティングに分けられる。そのうち、フィルムコーティングは、パンコーティング装置内で錠剤を転動させつつ、コーティング剤のスプレーを行うと共に、それと並行して乾燥処理(ドライ)を行う。一方、糖衣コーティングでは、スプレー後、ポーズ工程を行って糖衣液を錠剤表面で延展させ、その後乾燥を行う、というサイクルを繰り返してコーティング処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6017197号公報
【文献】特許第5202778号公報
【文献】特許第4009464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなコーティング処理において、フィルムコーティングは、スプレーとドライが同時進行するため、錠剤表面の粘着性は低く、錠剤はパン上部まで持ち上げられることなく転動する。ところが、糖衣コーティングにおいては、延展や乾燥処理により、糖衣コーティング液の濃度が上がり、錠剤表面が粘着性を帯びてくる。このため、装置内で転動されている錠剤は、この粘着性により、パンの上部まで持ち上げられて落下し、その一部は、スプレーガンの上方まで持ち上げられる場合がある。すると、パン上部から落下した錠剤がスプレーガン上に引っかかり、そこに滞留してしまうおそれがあり、コーティング不良の一因ともなるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、糖衣コーティング処理において、錠剤がスプレーガン上に引っかかって滞留しにくいパンコーティング装置及びコーティング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のパンコーティング装置は、回転軸線を中心に回転自在に設けられ、その内部にコーティング処理の対象となる被処理物が収容される回転ドラムと、前記回転ドラム内に配置され、前記回転ドラムの回転に伴う前記被処理物の転動によって形成される被処理物層に対しコーティング液を噴霧するスプレーガンと、を有するパンコーティング装置であって、前記スプレーガンは、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、前記被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動可能であることを特徴とする。
【0007】
本発明にあっては、パンコーティング装置に使用されるスプレーガンを、回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動可能としたことにより、コーティング処理時に被処理物表面が粘着性を帯び、回転ドラムの回転に伴って被処理物がドラム上部まで持ち上げられても、被処理物がスプレーガン上に落下しにくくなる。これにより、コーティング処理中に被処理物がスプレーガン上に載りそこに滞留してしまうのを防止できる。
【0008】
前記パンコーティング装置において、前記退避位置を、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割する中心線Mvと前記回転ドラムの断面を水平方向に等分に2分割する中心線Mhとによって区分される4つの象限のうち、第1象限に設定しても良い。また、前記スプレーガンを、垂直方向から水平方向に例えば45°傾いた方向に上下に移動するようにしても良い。この場合、前記被処理物層の上面に対し略垂直な方向に前記スプレーガンをさせても良い。さらに、前記スプレーガンを、前記回転ドラム内に出し入れ可能なガンホルダに取り付け、前記ガンホルダを、屈曲部を備えたクランク状に形成しても良い。加えて、前記コーティング液が糖衣コーティング液であっても良い。
【0009】
一方、本発明のコーティング方法は、回転軸線を中心に回転自在に設けられ、その内部にコーティング処理の対象となる被処理物が収容される回転ドラムと、前記回転ドラム内に配置され、前記回転ドラムの回転に伴う前記被処理物の転動によって形成される被処理物層に対しコーティング液を噴霧するスプレーガンと、を有するパンコーティング装置により、前記回転ドラム内の被処理物に対しコーティング処理を行うコーティング方法であって、前記回転ドラムに対する給排気を行うことなく、前記回転ドラムを回転させつつ前記被処理物に対して前記コーティング液を噴霧するスプレー工程と、前記回転ドラムに対する給排気を行うことなく前記回転ドラムを回転させるポーズ1工程と、前記回転ドラムの給排気を行いつつ前記回転ドラムを回転させるドライ工程と、を行い、前記ポーズ1工程及び前記ドライ工程において、前記スプレーガンを、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、前記被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動させることを特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、パンコーティング装置にて行われるコーティング処理のポーズ1工程及びドライ工程において、スプレーガンを、回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動させることにより、コーティング処理時に被処理物表面が粘着性を帯び、回転ドラムの回転に伴って被処理物がドラム上部まで持ち上げられても、被処理物がスプレーガン上に落下しにくくなる。これにより、コーティング処理中に被処理物がスプレーガン上に載りそこに滞留してしまうのを防止できる。
【0011】
前記コーティング方法において、前記退避位置を、前記回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割する中心線Mvと前記回転ドラムの断面を水平方向に等分に2分割する中心線Mhとによって区分される4つの象限のうち、第1象限に設定しても良い。また、前記スプレーガンを、垂直方向から水平方向に例えば45°傾いた方向に上下に移動するようにしても良い。この場合、前記被処理物層の上面に対し略垂直な方向に前記スプレーガンをさせても良い。さらに、前記コーティング液が糖衣コーティング液であっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパンコーティング装置によれば、パンコーティング装置に使用されるスプレーガンを、回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動可能としたので、コーティング処理時に被処理物表面が粘着性を帯び、回転ドラムの回転に伴って被処理物がドラム上部まで持ち上げられても、被処理物がスプレーガン上に落下しにくくなる。これにより、コーティング処理中に被処理物がスプレーガン上に載りそこに滞留してしまうのを防止でき、不良発生を抑え、コーティング品質の向上を図ることが可能となる。
【0013】
また、本発明のコーティング方法によれば、パンコーティング装置にて行われるコーティング処理のポーズ1工程及びドライ工程において、スプレーガンを、回転ドラムの断面を垂直方向に等分に2分割した際にできる領域のうち、被処理物層の主要部が形成される領域とは反対側の領域に設定された退避位置に移動させることにより、コーティング処理時に被処理物表面が粘着性を帯び、回転ドラムの回転に伴って被処理物がドラム上部まで持ち上げられても、被処理物がスプレーガン上に落下しにくくなる。これにより、コーティング処理中に被処理物がスプレーガン上に載りそこに滞留してしまうのを防止でき、不良発生を抑え、コーティング品質の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1であるパンコーティング装置の側面図である。
図2図1のパンコーティング装置の正面図である。
図3】スプレーガン昇降機構の構成を示す説明図である。
図4】スプレーガンの移動位置を示す説明図である。
図5】本発明の実施の形態2であるパンコーティング装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1,2は、本発明の実施の形態1であるパンコーティング装置1(以下、コーティング装置1と略記する)の全体構成を示す説明図であり、図1はその側面図、図2は正面図である。図1,2のコーティング装置1は、いわゆる全面パンチングタイプの回転ドラム(コーティングパン、以下、ドラムと略記する)2を使用したジャケットレスタイプの構成となっている。ドラム2内には、コーティング処理の対象となる錠剤(被処理物)3が収容され、そこにコーティング液を噴霧することにより、錠剤3のコーティング処理が行われる。
【0016】
図1に示すように、コーティング装置1は、筐体4の中央部にドラム2を回転自在に設置した構成となっている。ドラム2は、ほぼ水平な回転軸線Oを中心に回転し、その内部には、錠剤3が投入される。ドラム2は、円筒形の胴部5と、胴部5の両端に形成された円錐台状のコニカル部6とを備えている。胴部5はステンレス製の多孔板(パンチングプレート)にて形成されており、胴部5の外周は多数個の通気孔7により通気可能な構成となっている。コニカル部6は孔のないステンレス製板材にて形成されており、一方のコニカル部6の端部(図1において左側:ドラム2の一端側)には前面開口部8が形成されている。他方のコニカル部6の端部(図1において右側:ドラム2の他端側)はエンドプレート9にて閉鎖されており、回転軸11が取り付けられる。
【0017】
ドラム2の図1において右側には、電動のドラム駆動モータを用いた図示しないドラム回転機構が配置されている。ドラム2の右端側(他端側)には、前述のように回転軸11が固定されており、この回転軸11には図示しないスプロケットが取り付けられている。スプロケットは、チェーンを介して筐体4内に設置されたモータ側のスプロケットと接続されている。モータを回転させると、その回転に伴ってドラム2がチェーン駆動され、回転軸線Oを中心に回転する。ドラム2の図1において左端側は、図示しないローラによって支持されている。
【0018】
筐体4の正面(図1において左側)は3分割構造となっている。筐体正面の中央にはチャンバドア12が、その両側にはユニットカバー13a,13bが設けられている。チャンバドア12は直方体状の箱形部材であり、一方のユニットカバー13aに回動自在に支持され、筐体4に対し開閉自在に設けられている。ユニットカバー13a,13bも筐体4に対し開閉自在に設けられている。チャンバドア12は、筐体4の前壁4a側の面が開放された箱形となっており、内部には給気チャンバ14が形成されている。給気チャンバ14は、ドラム2の前面開口部8の前段に配置されている。チャンバドア12の正面には、中央に監視窓が設けられた点検扉15が取り付けられている。チャンバドア12の下部には、処理完了後の製品を取り出すための製品排出口16が取り付けられている。
【0019】
筐体前壁4aの上部側には、給気孔17が設けられている。コーティング装置1は内部給気構造を採用しており、給気孔17は、筐体4内に配された送気ダクト18を介して、筐体上面4bに設けられた給気口19と連通している。給気口19には、図示しない外部給気ダクトが接続される。コーティング装置1では、チャンバドア12を閉じると、ドラム2の前面開口部8が給気チャンバ14に対向・連通する。給気口19に供給されたエアは、送気ダクト18を通って給気チャンバ14内に流入し、そこから前面開口部8を介してドラム2内に供給される。
【0020】
筐体上面4bにはまた、ドラム2に供給されたエアを排出するための排気口21が設けられている。排気口21には、図示しない外部給気ダクトが接続される。図2に示すように、筐体4内には、一端側はドラム2の胴部5と摺接し、他端側は排気口21に向かう内部排気ダクト22が設置されている。チャンバドア12から供給されたエアは、ドラム2を通り、内部排気ダクト22から排気口21を通り装置外へと排出される。
【0021】
ドラム2内にはさらに、コーティング液噴霧用のスプレーガン23が配置されている。スプレーガン23は、ガンホルダ24に取り付けられており、ドラム2の前面開口部8からドラム内に挿入され、装置正面側からドラム内に出し入れ自在に設けられている。スプレーガン23には、ガンホルダ24内に収容された図示しないホースを介して、コーティング液や噴霧エアが供給される。スプレーガン23はドラム2内にて上下方向に移動し、ドラム2内の錠剤3に対し、所定のスプレー位置から所望のタイミングでコーティング液等が適宜スプレーされ、コーティング処理が実施される。
【0022】
スプレーガン23は、垂直方向から水平方向に45°傾いた斜め方向(錠剤流れ面に対して概ね垂直な方向)に上下動可能に配置されており、ドラム内におけるスプレーガン23の位置を適宜変えられるようになっている。スプレーガン23が取り付けられたガンホルダ24は、ホルダアーム25によって支持されており、ユニットカバー13b内に収容されたスプレーガン昇降機構26によって、上下方向に作動するようになっている。図3は、スプレーガン昇降機構26の構成を示す説明図である。
【0023】
図3に示すように、ホルダアーム25の上端は、ブラケット27にてジャッキシリンダ28に接続されている。ジャッキシリンダ28はモータ29によって駆動され、モータ29が作動すると、ジャッキシリンダ28のロッド31が伸縮し、ホルダアーム25を矢示X方向に作動させる。ホルダアーム25の上下方向への動作に伴い、ドラム2内にて、スプレーガン23が上下方向に移動する。この場合、スプレーガン23の昇降速度は、400mm/min以上の速度に設定することが好ましい。
【0024】
図4は、スプレーガン23の移動位置を示す説明図であり、図1におけるA-A線に沿った断面を示している。図4に示すように、コーティング装置1では、スプレーガン23は、モータ29の回転角度を適宜制御することにより、ドラム2内に設定された上限位置Uと下限位置Lとの間で移動・停止自在となっている。スプレーガン23は、ドラム回転時に転動する錠剤3によって形成される錠剤層32の上面32aに対し略垂直な方向に沿って上下移動する。スプレーガン23の移動上限位置Uは、錠剤層32に対し、中心(回転軸線)Oよりも外側に配置されている。
【0025】
この場合、図4のように、ドラム2について、その断面を垂直方向の中心線Mvによって等分に2分割した際にできる領域A,Bを想定すると、スプレーガン23は、錠剤層32の半分以上が存在する主要部32bとは反対側の領域Bの上方に設定されている。すなわち、図4で言えば、中心線Mvとドラム2の水平方向の中心線Mhとによって区分される4つの象限のうち、錠剤層32は主として第3象限(3)に形成され、上限位置Uは、錠剤層32とは中心Oに対して点対称の位置の第1象限(1)に配置される。
【0026】
コーティング装置1では、コーティング処理中の「ポーズ」工程(ここでは、後述の「ポーズ1」工程)や「ドライ」工程中は、この上限位置Uを退避位置としてスプレーガン23を移動させる。これにより、糖衣コーティング時に錠剤表面が粘着性を帯び、ドラム2の回転に伴って錠剤3がドラム上部まで持ち上げられても、錠剤3は、図3の錠剤3pのように、スプレーガン23上に降りかかることなく落下する。このため、コーティング処理中に錠剤3がスプレーガン上に引っかかり、そこに滞留してしまうのを防止でき、不良発生を抑え、コーティング品質の向上を図ることが可能となる。
【0027】
次に、上述のようなコーティング装置1を用いたコーティング処理について糖衣錠の製造を例にとって説明する。ここではまず、コーティング処理を施される錠剤3として、乳糖錠などの錠剤(例えば、直径8mm,200mg/T)をドラム2内に投入する。コーティング装置1では、チャンバドア12を開けた状態で前面開口部8から錠剤3を投入する。錠剤投入の際には、スプレーガン23はドラム2の外へ退避させた状態とする。所定量の錠剤3を投入した後、スプレーガン23をドラム2内にセットする。その後、チャンバドア12を閉じ、ドラム駆動モータを作動させドラム2を回転させる。
【0028】
ドラム内の錠剤3に対しては、ドラム2を回転させつつ、スプレーガン23からコーティング液(糖衣液)の噴霧を行う。コーティング液には、被覆物質やバインダ、溶剤
等が含まれ、スプレーガン23から所定の圧力にて噴霧される。糖衣コーティング処理では、通常、「ポーズ0」→「スプレー」→「ポーズ1」→「ドライ」(→「ポーズ0」に戻る)の工程を20~50サイクル程度繰り返し、錠剤3の上に少しずつ糖衣層を形成する。なお、「ポーズ1」工程後に、コーティング液やその他の諸条件に応じて、排気のみを行いつつドラム2を回転させ、ドライ工程前にドラム内の湿度を低下させる「ポーズ2」工程を設けても良い。
【0029】
この場合、「ポーズ0」は、コーティング処理の開始や1サイクル終了後に次の処理サイクルに入るための準備期間であり、エア供給やコーティング液の噴霧を行わずにドラム2を回転させる(1~2分程度)。「スプレー」は、給排気を行うことなくドラム2を回転させつつ(例えば、8rpm程度)コーティング液を噴霧する工程である(1~2分程度)。また、「ポーズ1」は、エア供給やコーティング液の噴霧を行わずにドラム2を回転させ、錠剤上にコーティング液を展延させる練り工程である(2~4分程度)。「ドライ」は、コーティング液の噴霧を行うことなくドラム2に温風を供給し(例えば、70°C,12m3/min)、錠剤上のコーティング液を乾燥固化させる工程である(4~6分程度)。
【0030】
このような糖衣コーティング工程において、コーティング装置1では、「ポーズ1」工程や「ドライ」工程中は、スプレーガン23は上限位置Uに移動し退避する。これにより、「ポーズ1」工程や「ドライ」工程にて、錠剤3がスプレーガン23上に落ちて滞留してしまうのを防止する。なお、前述の「ポーズ2」工程を行う場合も、「ポーズ2」工程中はスプレーガン23を上限位置Uに配置する。また、「スプレー」工程では、糖衣コーティングのサイクル回数の進行に応じて、スプレーガン23の位置を自動で変更する。すなわち、スプレー工程では、錠剤層32の厚みの増加に伴い、最適なスプレー距離となるようにスプレーガン23のスプレー位置が制御され、スプレーガン23は下限位置Lから自動的に移動(上昇)する。このようなガン動作により、スプレーガン23は、コーティング処理中は上限位置Uと下限位置Lとの間を適宜移動し、スプレー工程中のみ適正位置に移動、定置される。
【0031】
一方、「スプレー」に際しては、処理が開始される前にスプレーガン23が適正位置に移動し静置されている必要がある。このため、「ポーズ0」工程では、「ドライ」工程にて上限位置Uに位置していたスプレーガン23を降下させ、所定のスプレー位置に移動させる。この場合、スプレーガン23の昇降速度は、所望の移動が可能なように400mm/min以上の速度に設定されるが、「ポーズ0」工程の時間が非常に短く、「ポーズ0」工程中にスプレーガン23を上限位置Uからスプレー位置に移動させることができない場合も想定される。
【0032】
そこで、係る場合は、「ポーズ0」工程の前の「ドライ」工程中からスプレーガン23を降下させ、「スプレー」工程の準備を行う。さらに、「ドライ」工程も非常に短い場合には、「ポーズ1」工程中から移動を開始し、「ドライ」を行いながらスプレーガン23を降下させ、「ポーズ0」工程終了後、「スプレー」工程開始前にはスプレーガン23が適正位置に静置されているようにしても良い。このように、「ポーズ0」や「ドライ」の時間が極端に短い場合は、前工程からスプレーガン23の移動を行うことにより、「スプレー」工程開始時にはスプレーガン23が確実に適正位置に配置されるようスプレーガン23の動作を制御する。
【0033】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2であるパンコーティング装置について説明する。図5は、実施の形態2のパンコーティング装置41(以下、コーティング装置41と略記する)に用いられるスプレーガンの構成を示す説明図である。なお、本実施の形態では、実施の形態1のコーティング装置1と同様の部分、部材については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0034】
図5に示すように、コーティング装置41では、スプレーガン23が取り付けられたガンホルダ42がクランク状に屈曲している。ここでは、ガンホルダ42は、前面開口部8側から水平に延びる第1水平部43aと、第1水平部43aから第1屈曲部44aにて直角に曲がり上方に延びる上行部45、上行部45から第2屈曲部44bにて直角に曲がり、ドラム2の奥部側に水平に延びる第2水平部43bとから構成されたクランク構造となっている。スプレーガン23は、奥部側の第2水平部43bに取り付けられている。
【0035】
前述のように、コーティング処理の前後には、ドラム2からスプレーガン23を退避させる動作が行われるが、その際、ガンホルダ42やスプレーガン23と前面開口部8の周囲(マウスリング部)が干渉するおそれがある。また、ガンホルダ42は、前面開口部8の口径以上は上下に移動できないことから、スプレーガン23の上限位置Uもそれに制限される。そこで、コーティング装置41では、ガンホルダ42を屈曲形状とすることにより、スプレーガン退避の際にガンホルダ42等とマウスリング部との干渉を防止しつつ、上限位置Uをより高く設定している。例えば、スプレーガン23の上限位置Uをドラム2の半径Rの1/2よりも外径側に設定することも可能となる。これにより、部材同士の干渉回避とスプレーガンの上方退避を両立させることが可能となる。
【0036】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施形態では、上限位置Uをスプレーガン23の退避位置としたが、スプレーガン23を退避させる位置は必ずしも上限位置Uではなくとも良く、錠剤3が降りかからない位置であれば上限位置Uよりも低い位置を退避位置としても良い。また、前述の各種数値はあくまでも一例であり、本発明はそれらには限定されず、各数値は適宜変更可能である。さらに、スプレーガン23の設置個数も図示の3個には限定されない。
【0037】
一方、前述の実施形態では、ドラム2の奥行き方向の中心位置を基準にスプレーガン23を配置しているが、スプレーガン23の設置位置はドラム中心部には限られず、例えば、前面開口部8に近い位置からドラム奥方向へスプレーする形も採用可能である。また、実施の形態2では、クランク状のガンホルダ42を上下方向に移動させてスプレーガン23を退避させているが、ガンホルダ42を回転させて上下反転させることにより、スプレーガン23を上方に退避させる構成としても良い。さらに、糖衣液も、糖を水に溶解したシロップ以外に、それに各種薬効成分や風味、色素等を添加したものなど、種々の仕様の糖衣液が使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、薬や健康食品などの錠剤以外にも、ガムやチョコレートなどの菓子や他の食品のコーティング処理にも適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 パンコーティング装置
2 回転ドラム
3 錠剤(被処理物)
3p 錠剤
4 筐体
4a 前壁
4b 上面
5 胴部
6 コニカル部
7 通気孔
8 前面開口部
9 エンドプレート
11 回転軸
12 チャンバドア
13a ユニットカバー
13b ユニットカバー
14 給気チャンバ
15 点検扉
16 製品排出口
17 給気孔
18 送気ダクト
19 給気口
21 排気口
22 内部排気ダクト
23 スプレーガン
24 ガンホルダ
25 ホルダアーム
26 スプレーガン昇降機構
27 ブラケット
28 ジャッキシリンダ
29 モータ
31 ロッド
32 錠剤層(被処理物層)
32a 上面
32b 主要部
41 パンコーティング装置
42 ガンホルダ
43a 第1水平部
43b 第2水平部
44a 第1屈曲部
44b 第2屈曲部
45 上行部
A 領域
B 領域
U 上限位置(本実施形態における退避位置)
L 下限位置
Mv 垂直方向中心線
Mh 水平方向中心線
O 回転軸線
R 回転ドラム半径
図1
図2
図3
図4
図5