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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】眼科用撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/13 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
A61B3/13 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020218645
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103793
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000143282
【氏名又は名称】株式会社コーナン・メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北澤 法生
(72)【発明者】
【氏名】山本 英和
(72)【発明者】
【氏名】黒川 悠太
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-100111(JP,A)
【文献】特開2014-018226(JP,A)
【文献】特開平05-154107(JP,A)
【文献】特開平11-178795(JP,A)
【文献】特開2013-212217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前眼部を観察及び撮影する前眼部撮影光学系と、
被検眼に対して斜め前方から照明光を照射する照明光学系と、
前記照明光の被検眼の角膜内皮からの反射光を撮影する角膜内皮撮影光学系と、
被検眼を正面位置に固視させる中心固視灯と、
前記中心固視灯の周辺に配置される周辺固視灯と、
被検眼が周辺固視をした時に撮影された角膜内皮の撮影位置を、瞳孔中心からの距離として演算する撮影位置演算手段と、
撮影された角膜内皮像と、前眼部像をモニター画面に表示すると共に、演算された前記距離に基づいて、前眼部像に重ねて前記撮影位置を表示させるための表示制御手段と、
備えた眼科用撮影装置において、
前記表示制御手段は、中心固視灯を固視した状態の前眼部像を用いて前記撮影位置を表示することを特徴とする眼科用撮影装置。
【請求項2】
前記前眼部像は、前眼部撮影光学系により正面固視状態で撮影した前眼部像であることを特徴とする請求項1に記載の眼科用撮影装置。
【請求項3】
被検眼が中心固視灯を固視したときに撮影された前眼部像に基づいて、瞳孔中心と角膜内皮の撮影位置の差を距離補正値として演算する補正値演算手段を備え、
前記撮影位置演算手段は、前記距離を前記距離補正値に基づいて補正する機能を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の角膜内皮を撮影する眼科用撮影装置に関するものであり、特に、角膜の中心ではなく周辺の角膜内皮を撮影したときに、その撮影位置を前眼部像に重ねて表示させる眼科用撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる眼科用撮影装置として、下記特許文献1に開示される角膜撮影位置表示装置がある。この装置は、中心固視灯のほかに周辺固視灯を備えており、被検眼に周辺を固視させることで、角膜内皮の周辺も撮影できるようにしている。さらに、周辺のどの位置を撮影したのかをモニター画面で確認できるようにするため、前眼部像に重ねて撮影位置をマークするようにしている。
【0003】
周辺を固視する場合に、前眼部像の撮影光軸と被検眼の視軸が互いに傾斜していることから、撮影光軸の方向から見た瞳孔中心と内皮の撮影位置の距離は、正確な距離ではない。これを視軸の方向から見た正確な距離に換算し、その距離に対応した撮影位置を前眼部像に重ねてマークするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2831546号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年は、臨床試験の現場などで、これまでの角膜内皮の撮影位置よりも更に強膜に近い周辺位置の角膜内皮を撮影したいという要望が増えつつある。そうすると、特許文献1においては、周辺を固視した状態で撮影した前眼部像に重ねて撮影位置をマークしているため、そのマーク位置が角膜上ではなく強膜上にマークされてしまうことがある。そうすると、モニター画面の見た目にも違和感のある撮影位置にマークされてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、強膜に近い位置の角膜内皮の撮影位置を前眼部像に重ねて表示させるに際して、違和感のない表示形態が可能な眼科用撮影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係る眼科用撮影装置は、
被検眼の前眼部を観察及び撮影する前眼部撮影光学系と、
被検眼に対して斜め前方から照明光を照射する照明光学系と、
前記照明光の被検眼の角膜内皮からの反射光を撮影する角膜内皮撮影光学系と、
被検眼を正面位置に固視させる中心固視灯と、
前記中心固視灯の周辺に配置される周辺固視灯と、
被検眼が周辺固視をした時に撮影された角膜内皮の撮影位置を、瞳孔中心からの距離として演算する撮影位置演算手段と、
撮影された角膜内皮像と、前眼部像をモニター画面に表示すると共に、演算された前記距離に基づいて、前眼部像に重ねて前記撮影位置を表示させるための表示制御手段と、
備えた眼科用撮影装置において、
前記表示制御手段は、中心固視灯を固視した状態の前眼部像を用いて前記撮影位置を表示することを特徴とするものである。
【0008】
かかる構成による眼科用撮影装置の作用・効果を説明する。この装置は、被検眼が周辺固視をしたときの角膜内皮の撮影を行い、撮影された角膜内皮画像はモニター画面に表示される。撮影される内皮の領域は、角膜の周辺の一部であり、どの箇所を撮影したのかを表す撮影位置が前眼部像に重ねて表示される。この前眼部像は、周辺固視をしている状態の前眼部像ではなく、中心固視灯を固視した状態の前眼部像、すなわち、正面から見た状態の前眼部像が使用される。従って、強膜近傍を撮影した場合であっても撮影位置表示が強膜上にされてしまうことがなく、違和感のない撮影位置表示を行うことができる。
【0009】
本発明に係る前眼部像は、前眼部撮影光学系により正面固視状態で撮影した前眼部像であることが好ましい。
【0010】
前眼部像としては、例えば、模式的な前眼部像を用いることもできるが、実際に撮影された前眼部像を用いることができる。これにより、実際の被検眼の上に表示させて撮影位置を確認することができる。
【0011】
本発明において、被検眼が中心固視灯を固視したときに撮影された前眼部像に基づいて、瞳孔中心と角膜内皮の撮影位置の差を距離補正値として演算する補正値演算手段を備え、
前記撮影位置演算手段は、前記距離を前記距離補正値に基づいて補正する機能を有することが好ましい。
【0012】
被検眼が中心固視灯を固視したときの状態を前眼部像で確認すると、瞳孔中心と角膜内皮の撮影位置は一致しない。すなわち、中心固視をしている場合でも撮影位置は瞳孔中心ではなく、瞳孔中心からずれた位置にある。これは被検眼が固視している方向(視軸)と瞳孔が向いている方向(眼の光軸)が一致せずずれているからである。そこで、瞳孔中心と角膜内皮の撮影位置の差(距離)を距離補正値として演算する。この距離補正値に基づいて演算された瞳孔中心からの距離を補正することで、正確な距離を前眼部像に対して表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】眼科用撮影装置の一例である角膜撮影装置の使用状態を示す図
図2】角膜撮影装置の主要な光学部品配置を示す平面図
図3】角膜撮影装置の主要な光学部品配置を示す裏面図
図4】角膜撮影装置の縦断面図
図5】角膜撮影装置の正面図
図6】角膜撮影装置の制御ブロック図
図7A】撮影位置を示すマークが強膜上に表示された例
図7B】撮影位置を示すマークが強膜上に表示された例
図8】本発明によるモニター画面の表示例
図9】本発明によるモニター画面の表示例
図10】角膜中心を撮影するときの瞳孔中心と撮影位置の関係を示す図
図11】角膜周辺を撮影するときの瞳孔中心と撮影位置の関係を示す図
図12】中心固視をしたときの右眼の前眼部像を示す図
図13】中心固視をしたときの光軸と視軸のずれを表す模式図
図14】固視角度を考慮した補正値を示す図
図15】周辺固視をしたときの光軸と視軸のずれを表す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る眼科用撮影装置の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る眼科用撮影装置の一例である角膜撮影装置の使用状態を示し、被検者との位置関係を示す模式図である。図2は、図1に示す角膜撮影装置の主要な光学部品配置を示す平面図である。図3は、図2に示す角膜撮影装置の裏面図である。図4は、角膜撮影装置の正面図である。
【0015】
<装置の基本構成>
本装置は、光学系等の主要な部品が搭載される装置本体1を備えている。
装置本体1は、XYZ架台(アライメント駆動部)2に搭載され、さらにこのXYZ架台2はベース3の上に搭載されている。XYZ架台2により、装置本体1は、X方向(被検者から見て左右方向)、Y方向(被検者から見て上下方向)、Z方向(被検者から見て前後方向)に不図示の機構により移動させることができる。
【0016】
図1に示すように、装置本体1は、被検者が額当て部70に額を当て、さらに顎乗せ台71に顎をのせることで、被検者の顔10を固定した状態で利用される。
【0017】
次に、図2図4を利用して本装置1の内部の光学系を説明する。これらの図に示す構成は、あくまでも一実施形態を示すものであり、この構成に限定されるものではない。
【0018】
図2に示すように、本実施形態の本装置1には、内部に角膜内皮撮像光学系20、照明光学系30、前眼部撮影光学系40を備えている。前眼部撮影光学系40は、さらにアライメント指標光学系50と、固視灯投影光学系60を有している。角膜内皮撮像光学系20の光軸(以下、撮影光軸L1)と、照明光学系30の光軸(以下、照明光軸L2)とが交差しており、この交点が撮像光学系20の合焦点Fに対応する。合焦点Fは、XYZのアライメントにより角膜内皮上に位置するように、XYZ架台2を駆動する。
【0019】
前眼部観察光学系40の光軸(以下、観察光軸L3)が、撮影光軸L1と照明光軸L2を二分する位置となるように、各光学系が配置されている。すなわち、観察光軸L3が中心部に位置している。これらの光学系は、台板4の上に搭載されている。台板4の形状は、例えば、平面視で正方形あるいは長方形であり、金属や樹脂等の適宜の素材により形成される。
【0020】
角膜内皮撮像光学系20は、照明光学系30により放射された光が、被検眼の角膜面で反射された光を受光する光学系である。被検眼に近い側から、撮影光軸L1に沿って、対物レンズ21、マスク22、折り曲げミラー23、折り曲げミラー24、調整ガラス25、上皮分離フィルター26、折り曲げミラー27、リレーレンズ28、リレーレンズマスク29、赤外カットフィルター200、内皮撮影カメラ201の順に配置されている。対物レンズ21は、台板4から被検眼側に飛び出したレンズ鏡筒210の内部に保持されている。
【0021】
撮影光軸L1と照明光軸L2の交点、すなわち、合焦点Fを被検眼の角膜上に一致させたとき、角膜表面で反射した光が角膜内皮撮像光学系20の光路を介して内皮撮影カメラ201により撮影される。
【0022】
照明光学系30は、被検眼に対して斜め前方から照明光を照射する。被検眼に近い側から、照明光軸L2に沿って、対物レンズ31、折り曲げミラー32、照明スリット33、集光レンズ34、照明光束マスク35、内皮撮影用LED36(照明光源)の順に配置されている。対物レンズ31は、台板4から被検眼側に飛び出したレンズ鏡筒310の内部に保持されている。この構成により、内皮撮影用LED36からのスリット光が角膜表面に照射され、その反射光が内皮撮影カメラ201により撮影される。
【0023】
アライメント指標光学系50は、アライメント指標光の光源としての赤外LED47が設けられている。アライメント指標光学系50の光軸L4は、観察光軸L3でもあり、被検眼に近い側から、観察光軸L3,光軸L4に沿って、前面防塵ガラス41、ハーフミラー42、固視灯レンズ43、コールドミラー44、絞り45、集光レンズ46、赤外LED47の順に配置されている。
【0024】
アライメント指標光は、被検眼の前眼部にその正面から照射される。アライメント指標光の角膜表面における反射像であるプルキンエ像は、後述の前眼部撮影カメラ52(図3図4参照)により撮影される。
【0025】
図4は、前眼部撮影カメラ52までの光学系の部品配置を示す。観察光軸L3は、ハーフミラー42の位置で分岐し、台板4の下方に設定された光軸L6に沿って光学系が配置される。被検眼に近い側から、観察光軸L3と光軸L6に沿って、前面防塵ガラス41、ハーフミラー42、折り曲げミラー48、光学フィルター49、結合レンズ53、防塵ガラス51、前眼部撮影カメラ52の順に配置される。光軸L6に沿って配置される部品は、台板4の裏面に搭載される。また、台板4には開口部4aが形成され、ハーフミラー42で分岐した光路を前眼部撮影カメラ52まで導くようにしている。
【0026】
前眼部撮影カメラ52は、撮像光学系20及び照明光学系30の前部(被検者側)に固定配置された前眼部照明用のLED(不図示)からの照明によって照明された被検眼の前部画像も撮影する。前眼部撮影カメラ52で撮影された画像は、モニター80(図6参照)に送られ、前眼部観察光学系40で撮影された前眼部像が、前述のプルキンエ像と共に表示される。プルキンエ像が前眼部撮影カメラ52の表示画面上の所定位置に達するように、XYZ架台2をXY方向に移動させることで観察光軸L3を角膜頂点に一致させる(アライメント動作)。
【0027】
図2に戻り、固視灯投影光学系60は、被検者に対して被検眼を固視させるための指標光を発する中心固視灯61を有する。固視灯投影光学系60は、コールドミラー44により、光軸L4から分岐した光路に沿って、絞り62、中心固視灯61が配置される。コールドミラー44は、赤外LED47からの赤外光を透過させ、中心固視灯61からの可視光を反射させる。
【0028】
コールドミラー42で反射された指標光は、固視灯レンズ43、ハーフミラー42を通り、被検眼に投影される。中心固視灯61は、被験者の視線を正面方向に維持させるために利用される。
【0029】
<中心固視灯及び周辺固視灯>
本装置は、中心固視灯61のほかに周辺固視灯を備えているので、それを説明する。図5は、角膜撮影装置の正面図を示す。対物レンズ21,31を挟むように第1周辺固視灯600が6カ所設けられている。時計の12時、2時、4時、6時、8時、10時の位置に、第1周辺固視灯600a,b,c,d,e,fが配置される。これらの第1周辺固視灯600は、観察光軸L3の周囲に配置され、観察光軸L3から等距離の位置にある。特定の位置を示さない場合は、単に符号600で示す。これらの第1周辺固視灯600はLEDであり、基板610の上に配置される。これらの第1周辺固視灯600は、中心固視灯61の周囲に配置されるものである。
【0030】
第1周辺固視灯600の更に外側の周囲には第2周辺固視灯601が6カ所設けられている。時計の2時、3時、4時、8時、9時、10時の位置に、第2周辺固視灯601b,g,c,e,h,fが配置される。特定の位置を示さない場合は、単に符号601で示す。これらの第2周辺固視灯601はLEDである。
【0031】
これらの周辺固視灯を搭載するために第1基板610と第2基板611,612が配置されている。第1基板610は、対物レンズ21,31を挟むように配置され、6つの第1周辺固視灯600と、2つの第2周辺固視灯601b,fが配置される。第2基板611は、対物レンズ31の右側に配置され、第2周辺固視灯601g,cが配置される。第2基板612は、対物レンズ21の左側に配置され、第2周辺固視灯601e,hが配置される。
【0032】
被検眼に周辺固視をしてもらうときは、第1周辺固視灯600と第2周辺固視灯601のいずれかを点灯させる。周辺固視灯を点灯することで被検眼にその方向を固視させて周辺の角膜内皮の撮影を可能にする。特に、強膜近傍の角膜内皮を撮影するときは、第2周辺固視灯601を点灯させる。
【0033】
<角膜撮影装置の制御ブロック>
図6は、角膜撮影装置の制御ブロックを示す図である。装置本体1はXYZ架台2により、X方向、Y方向、Z方向に独立して駆動させることができる。制御部8は、コンピュータを中核として構成されるものであり、角膜撮影装置の各部の動作を制御する。図6には、制御部8の主要な機能のみを図示する。
【0034】
駆動制御手段81は、XYZ架台2を駆動してXY方向のアライメント動作やZ方向の移動(合焦動作)を行うものである。これにより、被検眼の位置と装置本体1の光学系を所定の位置に調整して角膜内皮撮影を正しく行えるようにする。
【0035】
撮影位置演算手段82は、角膜内皮の撮影位置を演算するものであり、具体的には瞳孔中心と撮影位置の距離を算出する機能を有する。特に、角膜周辺の撮影を行うときに、その瞳孔中心からの距離をモニター80に表示させることは重要である。
【0036】
表示制御手段83は、表示部としてのモニター80の画面表示内容を制御する機能を有する。モニター画面には、撮影された角膜内皮の拡大画像や前眼部像が表示され、前眼部像に重ねて角膜内皮の撮影位置も表示される。
【0037】
補正値演算手段84は、上記距離を演算するときの補正値を演算するものである。補正値の詳細については後述する。
【0038】
<被検眼と瞳孔中心と角膜内皮の撮影位置との位置関係>
次に、角膜内皮撮影を行うときの被検眼と瞳孔中心と角膜内皮の撮影位置との位置関係を説明する。図10は、角膜の中心を撮影する場合の位置関係を示し、図11は、角膜周辺を撮影するときの位置関係を示す。
【0039】
図10において、被検眼は正面を向いた状態であり、中心固視灯61を固視している。固視方向は符号Sで示されており、観察光軸L3と一致している。後述する眼の光軸と視軸のズレがあるため、観察光軸L3上に眼球旋回中心O、角膜内皮中心Q、瞳孔中心Pが一直線上に並ぶ関係にはないが、ここでは説明の便宜上一直線上にあるものとして図示している。瞳孔中心Pは光彩Iの中心に位置する。角膜11は角膜上皮11aと角膜内皮11bで囲まれたエリアに存在する。なお、図示はしないが、角膜内皮11bの曲率半径は角膜上皮11aの曲率半径よりも小さく、その曲率中心は異なっている。ただし、角膜上皮の中心も図10に示す状態では観察光軸L3の上に位置する。
【0040】
角膜上皮11aと角膜内皮11bは、曲率中心が異なっていると共に、曲率半径は角膜内皮11bの方が小さいために、角膜厚さは周辺に行くほど厚くなるような形状を有している。
【0041】
被検眼が中心固視をした状態では、角膜内皮11bの撮影位置ERは、観察光軸L3上に位置している。そして、角膜内皮11bと観察光軸L3は直交する状態に装置本体1がアライメントされている。この状態で照明光学系30のスリット光による照明光を照射し、その反射光を内皮撮影カメラ201により捕らえることで角膜内皮11bの撮影を行うことができる。得られた画像は静止画または動画であり、角膜内皮細胞の拡大画像になる。
【0042】
図11は、被検眼が周辺固視したときの状態を示している。被検眼は眼球旋回中心Oを中心として旋回する。固視方向Sは観察光軸L3に対して傾斜した状態になる。固視方向Sを示す直線上に眼球旋回中心O,角膜内皮中心Q、瞳孔中心Pが存在する。また固視方向Sと角膜内皮11bとの交点をEで示す。
【0043】
図11の状態で、角膜内皮11bの撮影位置は符号ERで示される。このERの位置では、観察光軸L3と角膜内皮11bが直交する。この撮影位置ERと瞳孔中心Pとの距離はdで示される。これはERから固視方向Sを表す直線からへおろした垂線の長さである。ただし、観察光軸L3の方向から見た前眼部像では、瞳孔中心Pと撮影位置ERとの距離はAPで示され、実際の距離dよりも短く見える。実際に見える長さは正しい距離ではない。そこで、角膜内皮11bと固視方向Sの交点をEとし、交点Eから撮影光軸L1に対して垂線を下ろし、その交点をBとすると、長さBEと距離dは幾何学的に等しい長さとなる。
【0044】
従って、撮影位置演算手段82の機能としては、この距離d(長さBE)を求めればよい。交点Eがどこにあるかは前眼部像から直接不明であるが、距離APは求めることができる。すなわち、前眼部像から瞳孔中心Pと観察光軸L3との距離を求めればよい。この距離APに一定の比率Kを掛ければ距離dとなる。比率Kは図11の線分PQと線分EQの比率であり、具体的には約1.8となる。
【0045】
そこで、前述の特許文献1においては、BEに対応する長さd’を求めて、瞳孔中心Pから長さd’離れた位置Gを撮影位置として表示するようにしていた。その表示例を図7A図7Bに示す。図7Aは、右眼が9時の方向の第2周辺固視灯601hを固視した状態の前眼部像である。この前眼部像に重ねて撮影位置を表すマークMを示している。また、画面にはx軸とy軸が示されており、その原点が瞳孔中心Pである。図7Bは、同じく右眼が3時の方向を固視した状態の前眼部像に重ねて撮影位置を表すマークMを示している。
【0046】
従来は、使用される前眼部像は被検眼が周辺を固視しているときに撮影されたものを使用していた。そうすると、図5で示す第2周辺固視灯601を固視する場合、すなわち、角膜内皮の強膜近傍の角膜内皮を撮影する場合、撮影位置を示すマークMが角膜ではなく強膜の上に表示されることがあった。図7A図7Bは、実際にマークMが強膜上にされた事例である。x軸y軸の交点が瞳孔中心である。図7Aは右眼が9時の位置を周辺固視した場合、図7Bは右眼が3時の位置を周辺固視した場合のマークMの位置を示す。これらの図からも分かるように、実際には撮影位置ではない強膜にマークMがされており、見た目にも違和感のある撮影位置の表示になってしまうことがあった。
【0047】
図8は、本発明によるモニター画面の表示例である。この画面は、右眼の撮影を行った場合の表示例である。撮影された角膜内皮の拡大画像は800で示される。画面の左側に前眼部像801,802が示される。前眼部像801は周辺固視している状態で撮影された前眼部像である。前眼部像802は中心固視をしている状態で撮影された前眼部像である。撮影位置の表示は、前眼部像802に重ねて行われる。マークMは角膜の周辺位置に正しく行われており、違和感のない表示形態を提供している。
【0048】
撮影位置に対応する周辺固視灯600,601の場所がモニター画面に示されている。中心固視灯61に対応するのが中央表示部807である。第1周辺固視灯600に対応するのが表示部805,806である。第2周辺固視灯601に対応するのが表示部803,804である。図8は、9時の位置の第2周辺固視灯601hを固視させたときの撮影結果が表示されており、該当する表示部803の1つが明るく点灯している。これにより、どの部分の角膜周辺を撮影したか、あるいは、どの周辺固視灯を固視させたかを認識させている。
【0049】
図8において、マークMは四角形のマークとして表示されているが、マークMの形態はこれに限定されるものではなく、種々の形態のマークMを用いることができる。また、瞳孔中心Pからの距離を画面上に表示させるようにしてもよい。
【0050】
また、モニター画面上で撮影された角膜内皮画像800を観察するだけでなく、周知の手法により解析することができる。撮影された画像のうち、特定の範囲を選択あるいは設定して解析することができる。ほかにも種々の機能が設けられている。
【0051】
図9は、別実施形態に係るモニター画面の表示例を示す。図8においては、中心固視をしたときの前眼部像802として、実際に撮影された画像を用いていたが、これに代えて、模式的な前眼部像810を用いて撮影位置をマークしてもよい。この表示例では、周辺固視をしたときの前眼部像は実際に撮影された前眼部像を用いている。
【0052】
<距離補正>
次に、瞳孔中心Pから撮影位置ERまでの距離の補正について説明する。図12は、中心固視をしたときの右眼の前眼部像を示す。画像の左が耳側であり、画像の右が鼻側である。(x1,y1)座標の中心が瞳孔中心Pになる。ここで中心固視をした場合でも、角膜内皮の撮影位置は瞳孔中心Pにはならず、少しずれることが知られている。図12において、撮影位置はx2とy2の交点になる。この交点にプルキンエ像(白丸で示す)が見えている。位置がずれる理由は、人の眼の構造に起因するものであり、固視している方向(視軸)が瞳孔の向いている方向(眼の光軸)に対して鼻側に5゜程度ずれているからである。
【0053】
図13に上記の内容を模式的に示す。固視方向Sと瞳孔が向いている方向Lはθ=5゜程度ずれている。瞳孔中心Pから固視方向Sに下した垂線の長さをDPとすれば、これがずれ量に相当する。そこでDPの長さを基準補正値とする。ERは角膜内皮の撮影位置である。中心固視の場合の補正値は基準補正値である。
【0054】
そこで上記の角膜内皮11bの撮影位置ERと瞳孔中心Pの距離(ずれ量)を補正することで、正確な撮影位置をマークすることができる。上記のずれは眼の構造に起因するため中心固視や周辺固視に関係なく存在する。上記のずれ量は周辺固視においても使用できる数値である。
【0055】
図15は、周辺固視をしたときのずれ量を表す模式図である。ずれの角度は変わらずθ=5゜である。固視方向Sの角度をx゜で表している。周辺固視をしたときの補正値は基準補正値を使用するのではなく、固視角度x゜を考慮した補正値DP’を使用する(図14参照)。すなわち、補正値DP’=DP×cosxとなる。
【0056】
従って、算出される瞳孔中心Pから撮影位置までの距離は
DP’=(AP±補正値)×K
となる。なお、補正値は、固視する方向によりプラスになる時とマイナスに時がある。
【0057】
ここでAPは図11に示すAPの長さである。補正値は上記の計算式で求められるDP’である。Kは図11に示すPQとEQの比率であり、具体的には約1.8になる。以上の演算は補正値演算手段84の機能に基づくものである。これにより、より正確な撮影位置の表示を行うことができる。
【0058】
<別実施形態>
眼科用撮影装置の具体的な構成は、本実施形態の構成に限定されず、種々の構成を採用することができる。例えば、光学系については特開2020-14761号公報に開示されるものの他、特許第2831546号等に開示される光学系の配置を採用してもよい。本実施形態では前眼部撮影カメラ52と内皮撮影カメラ201は別々のカメラとして設けられているが、共通のカメラを使用できるような光学系を採用してもよい。
【0059】
本実施形態では、第1周辺固視灯600と第2周辺固視灯601の配置個数は、それぞれ6個であるが、これに限定されるものではなく、配置個数は適宜設定することができる。また、時計の何時の位置に配置するかについても適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 装置本体
2 XYZ架台(アライメント駆動部)
11 角膜
11a 角膜上皮
11b 角膜内皮
20 角膜内皮撮像光学系
30 照明光学系
40 前眼部撮像光学系
50 アライメント指標光学系
52 前眼部撮影カメラ
60 固視灯投影光学系
61 中心固視灯
600 第1周辺固視灯
601 第2周辺固視灯
8 制御部
81 駆動制御手段
82 撮影位置演算手段
83 表示制御手段
801,802 前眼部像
810 模式的な前眼部像
L1 撮影光軸
L2 照明光軸
L3 観察光軸
O 眼球旋回中心
Q 角膜内皮中心
S 固視方向
ER 撮影位置
P 瞳孔中心
M マーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15