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特許7422407埋め込まれた血管補助システムの領域における総流体体積流量を決定する方法および埋め込み可能な血管補助システム
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  • 特許-埋め込まれた血管補助システムの領域における総流体体積流量を決定する方法および埋め込み可能な血管補助システム 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】埋め込まれた血管補助システムの領域における総流体体積流量を決定する方法および埋め込み可能な血管補助システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/523 20210101AFI20240119BHJP
   A61M 60/174 20210101ALI20240119BHJP
   A61M 60/178 20210101ALI20240119BHJP
   A61M 60/237 20210101ALI20240119BHJP
   A61M 60/816 20210101ALI20240119BHJP
【FI】
A61M60/523
A61M60/174
A61M60/178
A61M60/237
A61M60/816
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020567986
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2019064802
(87)【国際公開番号】W WO2019234162
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102018208879.9
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520469457
【氏名又は名称】カルディオン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】KARDION GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】バウムバッハ, ハーディ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー, カリン
(72)【発明者】
【氏名】シェレンベルク, インガ
(72)【発明者】
【氏名】ブッディ, マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】シュルブッシュ, トーマス アレクサンダー
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0041204(US,A1)
【文献】特表2000-512191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0156006(US,A1)
【文献】特表2009-504290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/00-60/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モーター及び処理ユニットを含む心臓補助システムの作動方法であって、前記処理ユニットが、
心臓補助システムの領域における血液の基準温度を決定することと、
前記心臓補助システムの前記電気モーターのモーター温度を決定することと、
前記電気モーターの熱散逸損失を決定することと、
前記基準温度、前記モーター温度、および前記電気モーターの前記熱散逸損失に基づいて、前記心臓補助システムの領域における血液の総流体体積流量を決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記前記電気モーターはモーター温度センサを含み、
前記モーター温度を決定することは、
前記モーター温度センサが、前記電気モーターの前記モーター温度を前記血液が流れる表面で測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前記電気モーターはモーター温度センサを含み、
前記モーター温度を決定することは、
前記モーター温度センサが、前記電気モーターの前記モーター温度を前記モーターの内部で測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記血液の流速を、較正データ、前記基準温度、前記モーター温度、および前記電気モーターの前記熱散逸損失に基づいて決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記総流体体積流量を決定することは、
前記心臓補助システムの領域における大動脈の断面形状に部分的に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記補助システムを通って流れる血液の一部の流体体積流量を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
コンピューター可読インストラクションを格納するコンピューター可読記憶媒体であって、該コンピューター可読インストラクションが処理ユニットによって実行されると、前記処理ユニットが、
心臓補助システムの領域に流れる血液の基準温度を決定し、
前記心臓補助システムの電気モーターのモーター温度を決定し、
前記電気モーターの熱散逸損失を決定し、
前記基準温度、前記モーター温度、および前記電気モーターの前記熱散逸損失に基づいて、前記血液の総流体体積流量を決定する、コンピューター可読記憶媒体。
【請求項8】
心臓補助システムであって、
血液の基準温度を決定するように構成された基準温度センサと、
電気モーターと、
前記電気モーターのモーター温度を決定するように構成されたモーター温度センサと、
少なくとも、前記電気モーターを通る電流の流れ、または前記電気モーターの熱散逸損失を決定するように構成された電流センサと、を含む、補助システム。
【請求項9】
前記基準温度、前記モーター温度、および前記電気モーターの前記熱散逸損失を使用して、前記心臓補助システムの領域内の前記血液の総流体体積流量を決定するように構成された処理ユニットをさらに含む、請求項に記載の補助システム。
【請求項10】
前記血液を搬送するように構成された流れ機械、および前記血液を前記流れ機械に誘導するように構成されたカニューレを含み、
前記電気モーターが前記流れ機械を誘導するように構成された、請求項に記載の補助システム。
【請求項11】
前記カニューレが、心臓の心室から大動脈へと前記血液を誘導するように構成された、請求項10に記載の補助システム。
【請求項12】
前記基準温度センサが、前記カニューレ上、または前記流れ機械から距離を置いてその領域の近くに配置される、請求項10に記載の補助システム。
【請求項13】
前記基準温度センサが、前記カニューレ上、または前記電気モーターから離れたその領域の近くに配置される、請求項10に記載の補助システム。
【請求項14】
前記カニューレを有するカニューレセクションを含む管状細長い構造、および
前記カニューレセクションに接続されるよう構成されたモーターハウジングセクションを含むモーターハウジングをさらに含み、
前記電気モーターが前記モーターハウジング内に配置される、請求項10に記載の補助システム。
【請求項15】
前記基準温度センサが、前記モーターハウジングセクションから距離を置いて前記カニューレセクションの領域内に配置される、請求項14に記載の補助システム。
【請求項16】
前記電気モーターが、モーターハウジング内に配置され、
前記モーターハウジングが、前記血液が大動脈内の前記モーターハウジングの周りに流れることができるように構成された、請求項に記載の補助システム。
【請求項17】
前記モーターハウジングが、前記血液が大動脈内の前記モーターハウジングの周りに流れることができるように構成された、請求項14に記載の補助システム。
【請求項18】
前記モーター温度センサが、前記モーターハウジングの表面温度を測定するように構成された、請求項14に記載の補助システム。
【請求項19】
前記モーター温度センサが、前記電気モーターのステータの温度を測定するように構成された、請求項に記載の補助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋め込まれた血管補助システムの領域における総流体体積流量を決定する方法、処理ユニット、および埋め込み可能な血管補助システムに関する。本発明は、特に(完全に)埋め込まれた左心補助システム(LVAD)で使用される。
【背景技術】
【0002】
埋め込まれた左心補助システム(LVAD)は、主に二つの設計変形が存在する。一方は、(経皮的)低侵襲左心補助システムである。第二の変形は、胸部開口部の下に侵襲的に埋め込まれた左心補助システムである。第一の変形による変形は、(経皮的)低侵襲性左心補助システムが大動脈弁の中心に位置するため、左心室から大動脈に直接血液を輸送する。第二の変形は、バイパス管を介して左心室から大動脈に血液を輸送する。
【0003】
心臓補助システムのタスクは、血液を運ぶことである。この点において、いわゆる心臓タイムボリューム(HTV、通常毎分リットルで示される)は、臨床的に非常に重要である。言い換えれば、この場合の心臓タイムボリュームは、(心室から)特に左心室から大動脈への血液の総体積流量に関連する。それに応じて明確なことは、心臓補助システムの動作中に、測定値としてこのパラメータを収集する試みである。
【0004】
心室から大動脈への血液の総体積流量に対し、補助システムのポンプなどの搬送手段によって、搬送される体積流量を表す補助のレベルに応じて、特定の体積流量が、大動脈弁を通る生理学的経路を介して大動脈に到達する。心室から大動脈への心臓タイムボリュームまたは総体積流量(QHTV)は通常、ポンプ体積流量(Q)および大動脈弁体積流量(Q)の総和である。
【0005】
臨床現場での心臓タイムボリューム(QHTV)を決定する確立された方法は、希釈法の使用であるが、しかし、これは全て経皮的に挿入されたカテーテルに依存しており、従って心臓外科手術中に心臓タイムボリューム測定データを提供できるのみである。ポンプ体積流量(Q)を測定する確立された方法は、補助システムの動作パラメータ、主に電力消費量の相関であり、血圧などのさらなる生理学的パラメータによって補完され得る。専用の超音波測定技術を補助システムに組み込むこともすでに提案される。
【0006】
特に補助システム自体による、(完全に)埋め込まれた心臓タイムボリュームすなわち、QHTVの検出はまだ提案も実現もされていない。完全に埋め込まれたとは、特に、検出に必要な手段が患者の体内に完全に位置し、そこに留まっていることを意味する。これにより、心臓外科手術の外でも心臓タイムボリュームを検出することが可能となる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、埋め込まれた血管補助システムの領域における総流体体積流量を決定するための改善された方法を特定し、改善された埋め込み可能な血管補助システムを作り出すことである。
【0008】
特に、本発明の目的は、埋め込まれた血管補助システムの領域における総流体体積流量を決定するための方法を特定することであり、これにより、血流領域内の総流体体積流量を、血管補助システムが埋め込まれるか、または配置される人または動物の体内で決定することができる、埋め込み可能な血管補助システムを作成することである。
【0009】
この目的は、請求項1に記載の方法、および請求項9に記載の埋め込み可能な血管補助システムによって達成される。
【0010】
本発明の有利な実施形態は、特に、従属請求項に規定される。
【0011】
埋め込まれた血管補助システムの領域における総流体体積流量を決定するための請求項1に記載の方法は、
a)流体の基準温度を決定する工程と、
b)補助システムの電気モーターのモーター温度を決定する工程と、
c)電気モーターの熱散逸損失を決定する工程と、
d)基準温度、モーター温度、および電気モーターの熱散逸損失を使用して、総流体体積流量を確認する工程と、を含む。
【0012】
血管補助システムは、好ましくは心臓補助システム、特に好ましくは心室補助システムである。「総体積流量」は、特に、血管または血管の断面を通る総体積流量を指す。血管は、特に左心補助システムの場合には、例えば、大動脈であり、または特に右心補助システムの場合には、二つの肺動脈の中への共通幹(肺幹)であり、好ましくは大動脈である。本方法は、好ましくは、(完全)埋め込まれた(左)心室(心臓)補助システムの領域の、心臓の心室、特に心臓の(左)心室から大動脈への総流体体積流量を決定する役割を果たす。流体は定期的に血液である。補助システムは、好ましくは、心臓の左心室または左心腔の出口に配置される。補助システムは、大動脈弁位置に配置されることが特に好ましい。
【0013】
本方法は、特に、大動脈弁位置の(完全に)埋め込まれた左心室心臓補助システム(LVAD)で、および/または補助システム自体によって、患者の総心臓タイムボリューム(HTV、式記号QHTV)を決定するのに、特に、適切である。本方法は、特に、流量測定のための(熱的に)風速計(測定)原理に基づく。この場合の基本的な原理は、流動媒体が流速の関数として高温の身体を冷却することである。本方法は、有利なことに、心臓タイムボリュームを、希釈カテーテルを使用する場合と同等の品質で、外科手術シナリオの外部でも利用可能にすることを可能にする。これは、心臓タイムボリューム(QHTV)が、主に使用され、かつ補助システム自体を通した流れを定量化だけであるポンプ体積流量(Q)よりも大きな臨床的関連性を有するため、特に有利である。
【0014】
本方法の特定の利点は、通常とは異なる風速計測定法において、測定される熱流を生成するために別個の発熱体を必要としないことである。むしろ、いずれの場合もLVADの電気モーター上で発生する熱散逸損失を、風速計流量測定に使用することができる。好ましくは、(別個の)発熱体(電気モーターを除く)は、総流体体積流量を決定するために使用されない。言い換えれば、本明細書で提案する解決策では、電気モーターが使用される唯一の発熱体である。特に、本明細書で提案する解決策では、補助システムの電気モーター上および/または電気モーター内で発生する熱散逸損失は、(熱的に)風速計流量測定または熱量計流量測定に使用される。さらに、補助システムは、(別個の)発熱体を有しない(電気モーターを除く)ことが好ましい。
【0015】
流体の基準温度は、特に工程a)で測定される。基準温度は、好ましくは、特に好ましくは、補助システムの構成要素である、基準温度センサによって決定される。基準温度センサは、例えば、補助システムの(入口)カニューレ内に、および/またはカニューレ上に配置され得る。基準温度は、通常、流体の背景温度、すなわち、特に電気モーターの熱散逸損失の影響を受けない流体温度を表す。
【0016】
工程b)では、補助システムの電気モーターのモーター温度は、特に測定される。電気モーターは、流れ機械の構成要素または補助システムのポンプの構成要素とすることができる。補助システムは、好ましくは、補助システムから、特にその電気モーターからの熱流が流体流に放散され得るように、流体流上またはその中に配置される。「モーター温度」という用語は、特に電気モーターの領域における、補助システムの内部温度、または(外部)表面温度を意味すると理解することができるが、特に、電気モーターの温度について、特に電気モーターのコイルパッケージの温度について、好ましくは直接的な結論を可能にする。
【0017】
補助システムは、好ましくは、少なくとも部分的に、好ましくは完全に、またはその(外側の)表面の少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも85%、または少なくとも95%で、流体流に位置するように埋め込まれる。さらに、補助システムは、好ましくは、流体流れの中で、その長さの少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも85%、または少なくとも95%に沿って配置される。補助システムの一方の端部は、電気モーターが位置する領域内、または領域上に、大動脈内に少なくとも部分的に位置することが好ましい。さらに、補助システムの反対側の端は、補助システムの(入口)カニューレが位置する領域内、または領域上に、好ましくは、少なくとも部分的に心臓の心室(左心室)内に位置する。さらに、補助システムは、好ましくは、動脈、特に大動脈などの血管内に、少なくとも部分的に、好ましくは完全に、またはその(外側)表面の少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも85%、または少なくとも95%で配置される。補助システムは、特に、(下行)大動脈に(完全に)位置付けられるように埋め込まれることが好ましい。
【0018】
工程c)では、電気モーターの熱散逸損失が決定される。電気モーターの熱散逸損失は、好ましくは、電気モーターの電流を測定する電流センサによって決定されることが好ましい。
【0019】
工程d)では、総流体体積流量は、基準温度、モーター温度、および電気モーターの熱散逸損失を使用して決定される。工程d)では、少なくとも一つの熱伝達仕様、少なくとも一つの熱伝達係数、少なくとも一つの較正係数、および/または少なくとも一つの血管断面、特に大動脈断面を使用して、総流体体積流量が、基準温度、モーター温度、および電気モーターの熱散逸損失の関数として決定される。
【0020】
有利な実施形態によれば、基準温度は、特に、電気モーターによって流体を加熱する前に、空間的および/または時間的に測定されることが提案される。基準温度センサは、好ましくは、電気モーターから距離を置いて、特に電気モーターの上流、好ましくは補助システムの(入口)カニューレ上に配置される。基準温度センサは、特に好ましくは、電気モーターの反対側の(入口)カニューレの領域内および/またはその端部上に配置される。
【0021】
有利な実施形態によれば、電気モーターのモーター温度は、流体が流れる表面上で測定されることが提案される。表面は、一般に、流体と接触する補助システムの(外部)表面である。モーター温度は、例えば、(内部)電気モーターの領域内の補助システムの(外部)表面上に配置されるモーター温度センサを用いて測定され得る。あるいは、電気モーターのモーター温度は、モーター内部で測定され得る。この目的のために、モーター温度センサは、電気モーターの内部に配置され得る。
【0022】
有利な実施形態によれば、流体の流速は、特に、工程d)で、較正データ、基準温度、モーター温度、および電気モーターの熱散逸損失の関数として決定されることが提案される。較正データは、好ましくは、特徴的な長さ(例えば、管の直径、おそらく大動脈弁の領域で概算)、流体の動粘度、流体の温度伝導率、流体の熱伝導率、および/または流体で濡れた補助システムの(上部)表面を含む。
【0023】
有利な実施形態によれば、埋め込まれた血管補助システムの領域内の大動脈の確認された断面形状がさらに工程d)で考慮されることが提案される。補助システムの領域内の大動脈の(流れ)断面を考慮することが好ましい。この値は、例えば、超音波またはコンピューター断層撮影法によって医師によって確認することができる。総流体体積流量または心臓タイムボリュームは、特に、流体の流速、大動脈の(流量)断面、および(速度依存性)較正係数の関数として、有利に決定することができる。(速度依存性)較正係数は、例えば、希釈カテーテルを参照標準として使用することによって、例えば、埋め込みの文脈におけるキャリブレーションによって確認することができる。
【0024】
有利な実施形態によれば、補助システムを通って流れる流体体積流量がさらに決定されることが提案される。言い換えれば、これは、特に、補助システム自体を通ってのみ流れる流体体積流量に関する。流体体積流量は、通常、補助システム自体を通る流れを定量化するに過ぎない、いわゆるポンプ体積流量(Q)である。この値が総体積流量または心臓タイムボリューム(QHTV)に加えて既知である場合、いわゆる支持のレベルは、QのQHTVに対する比率(すなわち、Q/QHTV)から計算することができる。ポンプ体積流量を決定するために、先行技術に関連して最初に論じたポンプ体積流量を測定する確立された方法を使用することができる。
【0025】
工程d)で確認される総流体体積流量は、例えば、工程e)で補助システムの制御パラメータとして提供されることが好ましい。補助システムの処理ユニットは、この制御パラメータを出力変数として、特に、好ましくは電気モーターの電力、従って特に補助システムの(血液)送達速度を調節する、補助システムの制御ユニットに提供し得る。
【0026】
さらなる態様によれば、処理ユニットが提案され、本明細書で提案する方法を実施するように構成され、較正データが記憶されるメモリを含む。較正データの代替または追加として、少なくとも一つの(速度依存性)較正係数および/または電気モーターの熱モデルが、メモリに記憶され得る。さらに、処理ユニットは、メモリにアクセスできるマイクロプロセッサを含むことができる。処理ユニットは、好ましくは、基準温度センサ、モーター温度センサ、および/または電流センサからデータを受信する。
【0027】
さらなる態様によれば、埋め込み可能な血管補助システムが提案され、システムは、
流体の基準温度を決定するための基準温度センサと、
電気モーターと、
電気モーターのモーター温度を決定するためのモーター温度センサと、
少なくとも、電気モーターを通る電流の流れ、または電気モーターの熱散逸損失を決定するための電流センサと、を含む。
【0028】
補助システムは、好ましくは、左心室心臓補助システム(LVAD)または経皮的で低侵襲性左心補助システムである。さらに、補助システムは、完全に埋め込み可能であることが好ましい。言い換えれば、これは、特に、検出に必要な手段、特に基準温度センサ、モーター温度センサ、および電流センサが、患者の体内に完全に位置し、そこに留まっていることを意味する。補助システムは、特に、好ましくは、心室に、好ましくは心臓の左心室に、および/または大動脈に、特に、大動脈弁位置に少なくとも部分的に配置されるように構成され、および/または好適である。
【0029】
電流センサは、電気モーターを通る電流の流れおよび/または電気モーターの熱散逸損失を決定するために使用される。電流センサは、好ましくは、電気モーターを通る電流の流れを測定し、そこから電気モーターの散逸損失を計算する。電流センサが出力変数として電流の流れを供給する場合、特に、電流の流れが補助システムの処理ユニットの電気モーターの散逸損失に変換される。
【0030】
補助システムはさらに、カニューレ、特に入口カニューレ、およびポンプなどの流れ機械をさらに含むことが好ましい。電気モーターは、通常、流れ機械の構成要素である。次いで、電気モーターは、流体を搬送するために流れ機械を駆動する。(入口)カニューレは、埋め込まれた状態で、流体を心臓の(左)心室から流れ機械に誘導することができるように、好ましくは構成される。流体は、カニューレを通して流れ機械に誘導され得る。カニューレは、(左)心臓の心室から血液の形態の流体を大動脈内に誘導するように設計されることが好ましい。
【0031】
補助システムは、好ましくは細長いおよび/または管状である。入口カニューレおよび流れ機械は、補助システムの両端の領域に配置されることが好ましい。
【0032】
基準温度センサは、カニューレ上またはカニューレの領域の近くに、流れ機械から離れて配置することができる。特に、基準温度センサは、カニューレ上、または電気モーターから離れたカニューレの領域の近くに配置され得る。基準温度センサは、特に好ましくは、カニューレの遠位端に配置され、すなわち、血液が心室からカニューレ内に流れる。
【0033】
補助システムは、カニューレが形成されるカニューレセクションを有し、カニューレセクションに接続され、電気モーターがモーターハウジング内に配置されるモーターハウジングセクションを有する管状細長い構造を有することができる。
【0034】
基準温度センサが、モーターハウジングセクションから距離を置いてカニューレセクションの領域内に配置される場合に有利である。電気モーターは、血液が大動脈内を流れることができるモーターハウジング内に配置されることが好ましい。
【0035】
補助システムはさらに、基準温度、モーター温度、および電気モーターの熱散逸損失を使用して、補助システムの領域における総流体体積流量を決定するように構成された処理ユニットを含むことができる。補助システムは、好ましくは、本明細書で提案する方法を実施するように構成される。
【0036】
本方法に関連して論じた詳細、特徴、および有利な実施形態は、それに応じて、本明細書に提示される処理ユニットおよび/または補助システムにおいて、またその逆でも生じ得る。この点に関して、特徴の詳細な説明について、その説明を完全に参照する。
【0037】
本明細書で提示する解決策とその技術環境については、図を参照して以下で詳しく説明する。本発明は、示される例示的な実施形態によって限定されるものではないことを指摘すべきである。特に、別段の明示的な記載がない限り、図で説明される事実の部分的な態様を抽出し、それらを他の構成要素および/または他の図および/または本説明からの洞察と組み合わせることも可能である。以下が概略的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1a図1aは、経皮的で低侵襲性左心補助システムを示す。
図1b図1bは、胸部開口部の下に侵襲的に埋め込まれた左心補助システムを示す。
図2図2は、埋め込まれた血管補助システムを示す。
図3図3は、埋め込まれた血管補助システムの配置を示す。
図4図4は、補助システムの構成要素アーキテクチャーを示す。
図5図5は、熱流の図を示す。
図6図6は、温度曲線の図を示す。
図7図7は、温度曲線のさらなる図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
埋め込まれた左心補助システム(LVAD)は、図1aおよび1bに示すように、主に二つの設計変形に存在する。図1aは、(経皮的)低侵襲左心補助システム16を示し、図1bは、胸部開口部の下に侵襲的に埋め込まれた左心補助システム17を示す。図1aによる変形は、(経皮的)低侵襲性左心補助システム16が大動脈弁19の中心に位置するため、左心室18から大動脈9に直接血液を輸送する。図1bによる変形は、バイパス管20を介して左心室18から大動脈9に血液を輸送する。
【0040】
心室18から大動脈9への血液の総体積流量に対し、補助システムのポンプなどの搬送手段によって、搬送される体積流量を表す補助のレベルに応じて、特定の体積流量が、大動脈弁19を通る生理学的経路を介して大動脈9に到達する。従って、心室18から大動脈9までの心臓タイムボリュームまたは総体積流量(QHTV)は通常、ポンプ体積流量(Q)および大動脈弁体積流量(Q)の総和である。
【0041】
図2は、大動脈弁位置での埋め込み可能な血管補助システム2を概略的に示す。さらなる図示のために、図3による補助システム2の概略配置に対して同時に参照がなされ、参照符号は全ての図で均一に使用される。
【0042】
補助システム2は、例として、左心室心臓補助システム(LVAD)である。
【0043】
補助システムは、入口カニューレ21がカニューレとして形成されるカニューレセクションを有する管状細長い構造を有し、カニューレセクションに接続され、電気モーター5がモーターハウジング23内に位置するモーターハウジングセクションを含む。
【0044】
補助システム2は、大動脈9から大動脈弁19を通って遠位に心室18に突出する。ここで、補助システム2は、例として、心室18内に突出する入口カニューレ21を有する。流体体積流量10は、例えば、補助システム2のポンプの形態で流れ機械を駆動する、補助システム2の電気モーター5を使用して、心室18から大動脈9への入口カニューレ21を通してポンプで搬送される。従って、流体体積流量10は、補助システム2自体を通る流れを定量化するのみである、ポンプ体積流量(Q)とも呼ばれる。
【0045】
さらに、図2および図3では、ある一定の大動脈弁体積流量24が、大動脈弁19を通る生理学的経路を介して大動脈9に到達することがわかる。補助システム2の領域内の大動脈9の断面形状8を心室18から大動脈9まで通過する、心臓タイムボリュームまたは総流体体積流量1(QHTV)は、それゆえ、流体体積流量10(Q)および大動脈弁体積流量24(Q)の総和である。これは、以下の式(1)によって記述される。
HTV=Q+Q (1)
【0046】
補助システム2は、流体、この場合は例として血液の基準温度3を決定するための基準温度センサ13を含む。補助システム2はさらに、電気モーター5と、電気モーター5のモーター温度4を決定するためのモーター温度センサ14とを含む。さらに、補助システム2は、電気モーター5の熱散逸損失(ここに図示せず)を決定するための電流センサ(ここに図示せず)を有する。
【0047】
モーター温度センサ14は、例として、電気モーター5の熱散逸損失が、周囲の流体に分散される、モーターハウジング23に組み込まれる。モーター温度センサ14は、モーター温度4を測定することができるように構成され、配置される。この目的のために、モーター温度センサ14は、モーターハウジング23の表面温度または電気モーター5のステータ(ここに図示せず)の温度を測定するように構成および配置され得る。この場合、ステータの温度は、モーターハウジング23とコイルパッケージ(ここに図示せず)との間のモーターハウジング23の内部温度によって近似され得る。あるいは、コイルパッケージ内の温度も直接測定できる。
【0048】
基準温度センサ13は、ここでは、例としてバックグラウンド血液温度である、基準温度3を検出する。この目的のために、基準温度センサ13は、熱源を表す電気モーター5の上流の熱的に影響されない血流内に、ここでは、例として、電気モーター5の上流の領域に位置付けられる。この目的のために、図2に示すように、基準温度センサ13は、入口カニューレ21の遠位端のモーターハウジングセクションから距離を置いてカニューレセクションの領域に配置され、すなわち、血液が心室から入口カニューレ21へと流れる。
【0049】
図4は、補助システム2の構成要素アーキテクチャーを概略的に示す。補助システム2は、流体、この場合は例として血液の基準温度3を決定するための基準温度センサ13を含む。補助システム2はさらに、電気モーター5と、電気モーター5のモーター温度4を決定するためのモーター温度センサ14とを含む。さらに、補助システム2は、電気モーター5の熱散逸損失6を決定するための電流センサ15を有する。この目的のために、電流センサ15は、例として、モーター5を通る電流の流れ(ここに図示せず)を確認し、それを熱散逸損失6に変換する。図4による図によれば、補助システム2は、基準温度3、モーター温度4、および電気モーター5の熱散逸損失6を使用して、補助システム2の領域内の総流体体積流量(ここに図示せず)を決定するように構成された処理ユニット11をさらに含む。さらに、補助システム2は、較正データ25を有する電子可読メモリ12を有する。
【0050】
基準温度センサ13、モーター温度センサ14、および電流センサ15の測定データは、処理ユニット11に送信される。処理ユニット11は、メモリ12からの較正データ25を用いて測定データを処理して、血流速度または(総)血液体積流量を形成する。処理ユニット11はさらに、通信ユニット(ここに図示せず)への出力26、電源(ここに図示せず)への出力27、およびモーター制御(ここに図示せず)への出力28を含む。
【0051】
図5は、流体流れ(垂直矢印)または総流体体積流量1への電気モーター5を通る例示的な熱流(水平矢印)の図を概略的に示す。この場合の電気モーター5は、例として、可動式に取り付けられたロータ(ここに図示せず)および外側のエアギャップによってオフセットされ、ステータ29に接続される、固定コイルパッケージ22を含む。従って、図5は、言い換えれば、ステータ29を介して電気モーター5のコイルパッケージ22から血流への熱伝導遷移を概略的に示す。電気モーター5の損失機構は、主にジュール電流熱損失Pvに関連する(以下の式(2)を参照)。
【数1】
【0052】
ここで、RTWは、動作温度Tにおけるコイルパッケージ22の巻線抵抗を示す。銅の場合の巻線抵抗RTWは、巻線温度Tの線形関数である。これは、以下の式(3)によって説明される。
【数2】
ここで、25℃における巻線抵抗R25、巻線動作温度T、および定数αcu=0.0039K-1
【0053】
さらに、鉄の損失、例えば、以下の式(4)による磁化損失が生じ:
【数3】
および、ステータの背鉄材料における渦電流損失は、以下の式(5)により:
V,Eddy=const・n (5)
ここで、モーターの回転数nおよび磁気摩擦トルクMMagn。さらに、モーターのベアリングからのベアリング損失は、一般に無視できる程度である。
【0054】
熱源と放熱板との間の熱抵抗は、1ワット当たりのケルビン(K/W)で測定される。コイルパッケージと血流との間の熱伝導機構を決定することは、図5に示すように、モーターの層を通して外側への熱伝導である。温度を決定するために、熱流によって横断される個々の構成要素の熱容量ならびにそれぞれの熱伝達抵抗が必要とされる。電気モーターが静止運転中であり、従って熱平衡中であると適切に仮定することができるため、熱容量は無視できる程度である。全ての必要なパラメータは、事前に決定することができ、処理ユニットに記憶することができる。
【0055】
図6は、ステータ29およびモーターハウジング23を介してコイルパッケージ22から総流体体積流量1までの材料層配列に沿った温度曲線の図を概略的に示す。図6は、図5による熱流に対する熱平衡をもたらす温度分布を示す。最も高い温度は、熱源、それを通して電流が流れるコイルパッケージ22の中に存在する。従って、コイルパッケージ22の巻線温度31(式記号T)は、図6の最高温度である。簡略化のために、コイルパッケージ22の全厚にわたる一定の熱分布をここで仮定した。ステータ材料およびハウジング材料の有限熱伝導率に起因して、ステータ29およびモーターハウジング23を介して直線温度勾配が生じるか、または円筒形モーターハウジング23の非単純化ケースにおける対数温度勾配が生じる。
【0056】
簡略化された原理を考慮すると、コイルパッケージ23(式記号T)に発生する巻線温度31は、以下の通りである。
【数4】
【0057】
ここで、電流の流れ30(式記号I)および表面温度32(式記号T)のみが、唯一の可変パラメータである。Rth1は、コイルパッケージ22とステータ29との間の熱抵抗を記述する。Rth2は、ステータ29と流体流れとの間の熱抵抗を記述する。電流の流れ30(式記号I)は、例えば、電流センサの制御装置において、電流センサ15を用いて測定することによって確認することができ、従って正確に公知である。表面温度32(式記号T)は、流体が流れる電気モーター5の表面7上の温度を示す。言い換えれば、表面7は血流の中にある。
【0058】
図7は、温度曲線のさらなる図を概略的に示す。図7は、二つの異なる流速での表面7の領域における図6による図解の詳細図を示す。言い換えれば、図7は、流体流れまたは血液の流速に対する温度(表面温度、従ってステータ温度、および従ってコイルパッケージ温度)の依存性を、印刷形態で図示する。
【0059】
図7に示すように、厚さ33の液体フィルムが表面7の近くに形成される。液体フィルムの厚さ33と、表面温度32(式記号T)と流体(血液)のバックグラウンド温度を表す基準温度3(式記号T)の温度差T-Tは、図7に示すように、流体の流速の関数である。図7の図によれば、表面7に沿った流体のより低い流速は、比較的高い流速で生じる表面温度32よりも高い表面温度32′をもたらす。
【0060】
液体フィルムを通る熱流は、
【数5】
ここで、ハウジングの上部から血液までの熱伝達係数a、および表面7の湿潤表面Aである。熱伝達係数は、以下のように定義され、
【数6】
ここで、無次元Nusselt数Nu、流体(ここでは血液)の熱伝導率λ、および例えば、管直径であり得る参照長さLである。さらに、体表面にわたって平均されたヌッセル数にも適用されるが、無次元Reynolds数ReおよびPrindtl数Prの関数である。
【数7】
【0061】
これらはそれぞれ、形状および流れの関数(ReおよびPr)として、または流体特性(Pr)の関数として計算され、較正データメモリに格納され得る。レイノルズ数は、次式で定義される。
【数8】
ここで、特徴的な長さL(例えば、管径)、流体の運動粘度v、および求める流速uである。Prindtl数は純粋な物質変数であり、次式で与えられ、
【数9】
【0062】
表面温度32(式記号T)は、ここで、例えば、モーター温度センサ14により、表面7上で直接測定することができ、またはモーター温度センサ14が、モーター内部の温度を測定することができ、表面温度32(式記号T)は、モーターハウジング内の温度分布に対する対数温度関係から確認される(図6および7を参照)。基準温度3(式記号T)は、基準温度センサ13によって決定される。パラメータL、v、a、λ、およびAは、一般に、較正データとしてシステムに格納される。
【数10】
【0063】
補助システムの領域における患者の大動脈9の既知の断面形状8を用いて(例えば、超音波、コンピューター断層撮影、または磁気共鳴断層撮影によって確認可能)、総流体体積流量1(式記号QHTV)は、この方法で決定された流速uから決定できる。対応する関係は、以下の式(16)で規定される。
HTV=k(u)uO (16)
ここで、k(u)はフロープロファイルに依存する較正係数であり、uは計算された流速であり、Oは測定された大動脈断面(断面形状8を参照)である。
【0064】
本明細書で提案する解決策では、特に以下の利点のうち一つが得られる。
・完全に埋め込まれ、Qのみではなく、特に、ポンプ統合の、および/またはQHTVの自動決定。
・追加の発熱体の代わりに、VADモーターの廃熱を使用する風速計測定方法は、生物への追加の熱入力を生じさせない。
・これにより、追加の電流消費も防止され、それによって自律システムのバッテリ動作時間が延長される。

図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7