IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小▲柳▼津 清の特許一覧

特許7422429アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法
<>
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図1
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図2
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図3
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図4
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図5
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図6
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図7
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図8
  • 特許-アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】アニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 35/04 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
B41F35/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022161012
(22)【出願日】2022-10-05
【審査請求日】2023-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592172448
【氏名又は名称】小▲柳▼津 清
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100104396
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信昭
(72)【発明者】
【氏名】笹川 守
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534098(JP,A)
【文献】特開2002-103571(JP,A)
【文献】特開2015-193105(JP,A)
【文献】特開2018-001144(JP,A)
【文献】特開2015-155177(JP,A)
【文献】特開2012-201087(JP,A)
【文献】特開2011-183369(JP,A)
【文献】特開2017-071172(JP,A)
【文献】特開2009-256805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 35/00-35/06
B41F 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にセルが形成されている印刷用のアニロックスロールのセル洗浄を行うためのアニロックスロール洗浄装置であって、
印刷後のアニロックスロールに対し所定距離を隔てて水又は水希釈液からなる洗浄液を噴射して衝突洗浄する噴射部と、
当該噴射部に洗浄液を圧送する圧送ポンプと、
当該圧送ポンプに洗浄液を供給する洗浄液タンクと、
当該供給する洗浄液に微細気泡を含ませるための微細気泡発生部を有し、
当該噴射部は、それぞれの噴射先端部がアニロックスロールに向けて並列設置された微細ノズル群と、を含む、
ことを特徴とするアニロックスロール洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄液タンクに設けられた、タンク内減圧のための吸気用モータと、前記アニロックスロールを洗浄後の使用済み洗浄液を外気とともに負圧回収して前記洗浄液タンクに戻すための洗浄液回収機構と、を含む、
ことを特徴とする請求項1記載のアニロックスロール洗浄装置。
【請求項3】
前記洗浄液回収機構は、
前記噴射部を囲み開放先端部が前記アニロックスロールの近傍に配された筒部と、
当該開放先端部の反対側となる当該筒部の基端側と前記洗浄液タンク内の減圧空間とを機密連通する吸引管と、を含む、
ことを特徴とする請求項2記載のアニロックスロール洗浄装置。
【請求項4】
前記洗浄液タンクと前記微細気泡発生部との間に、洗浄液を濾すためのフィルタが設けられている、
ことを特徴とする請求項1ないし3何れか記載のアニロックスロール洗浄装置。
【請求項5】
当該微細ノズルそれぞれの内径dは、アニロックスロール表面のセルのうちの最小対角寸法Dの±20%と等しい径に設定されている、
ことを特徴とする請求項1ないし3何れか記載のアニロックスロール洗浄装置。
【請求項6】
前記微細ノズル群のそれぞれは、アニロックスロールの長さ方向に沿って所定数略等間隔に並ぶ一列パイプ群を、アニロックスロール断面の接線方向と略平行略等間隔に並ばせることにより、中空部が見える視座から見て略平行四辺形を構成するように配され、
当該略平行四辺形の対角aは、60度もしくは120度の±10%に設定されている、
ことを特徴とする請求項1ないし3何れか記載のアニロックスロール洗浄装置。
【請求項7】
表面にセルが形成されている印刷用のアニロックスロールのセル洗浄を行うためのアニロックスロール洗浄方法であって、
微細気泡を含む水又は水希釈液からなる洗浄液を、印刷後のアニロックスロールに近接状態で並列設置された微細ノズル群の微細ノズルそれぞれの噴射先端部から、当該アニロックスロールに対し所定距離を隔てて噴射して衝突洗浄する、
ことを特徴とするアニロックスロール洗浄方法。
【請求項8】
前記アニロックスロールを洗浄後の使用済み洗浄液を外気とともに負圧回収する、ことを特徴とする請求項7記載のアニロックスロール洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷に用いるアニロックスロール洗浄のための洗浄装置、およびアニロックスロール洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印版の凹部(セル)内に付着したインキや塗工液を洗浄するための印版洗浄装置として、特許文献1は、凹版胴のインキを拭き取るワイピングロールを洗浄用ノズルから洗浄液を供給し、汚れた洗浄液を貯留部に蓄える方式の印版洗浄装置(特許文献1の装置)を開示する。
【0003】
特許文献2は、凹版印刷機のワイピングローラーを、特許文献1の装置と同様に、洗浄用ノズルから洗浄液を連続して層流状態で吹きかけた後、ブラシ洗浄する印版洗浄装置(特許文献2の装置)を開示する。
【0004】
特許文献3は、印版を浸した洗浄液に超音波振動を与えるとともに、印版の表面をブラシで擦る印版洗浄装置(特許文献3の装置)を開示する。
【0005】
さらに、特許文献4は、微小気泡が噴出する洗浄液に、印版の一部を浸漬させることにより洗浄する印版洗浄装置(特許文献4の装置)を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-022586号公報
【文献】特開2018-158497号公報
【文献】特開平5-177177号公報
【文献】特開2011-177914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1ないし4の装置の何れをもってしても、印版または、アニロックスロール表面に付着したインキ洗浄にムラが生じてしまうという問題点がある。
【0008】
本発明は上述した従来の問題点を解決課題とするものであり、インキその他の素材の洗浄にムラの生じづらいアニロックスロール洗浄装置及びアニロックスロール洗浄方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、次の特徴を備えている。なお、何れかの請求項記載の発明の特徴を説明するにあたり行う用語の定義等は、発明のカテゴリーや記載順などに関わらず、また、その性質に反しない限り、他の請求項記載の発明にも適用されるものとする。
【0010】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載のアニロックスロール洗浄装置(以下、適宜「請求項1の装置」という)は、表面にセルが形成されている印刷用のアニロックスロールのセル洗浄を行うためのアニロックスロール洗浄装置である。請求項1の装置は、印刷後のアニロックスロールに対し所定距離(たとえば、1mm以下)を隔てて水又は水希釈液からなる洗浄液を噴射して衝突洗浄する噴射部と、当該噴射部に洗浄液を圧送する圧送ポンプと、当該圧送ポンプに洗浄液を供給する洗浄液タンクと、当該供給する洗浄液に微細気泡を含ませるための微細気泡発生部と、を有している。ここで当該噴射部は、それぞれの噴射先端部がアニロックスロールに向けて並列設置された微細ノズル群と、を含みと、を含む。さらに当該噴射部は、当該微細ノズルそれぞれの噴射先端部をアニロックスロールに近接配置させる。以上が請求項1の装置の特徴である。微細ノズル群は、たとえば、細長パイプ群や、所定形状の部材に穿孔した細長孔群、さらに、これらを組み合わせたもの、などによって構成可能である。
【0011】
請求項1の装置によれば、アニロックスロールは微細ノズル群それぞれから加圧噴射された水又は水希釈液からなる洗浄液と微細気泡による断続的な衝突洗浄により、キャビテーション(cavitation、液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象)の効果によりセル内の汚れ(たとえば、インク残渣)が高効率で洗浄される。洗浄液噴射は、圧送ポンプによる圧力による。
【0012】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載のアニロックスロール洗浄装置(以下、適宜「請求項2の装置」という)は、請求項1の装置の好ましい態様として、前記洗浄液タンクに設けられた、タンク内減圧のための吸気用モータと、前記アニロックスロールを洗浄後の使用済み洗浄液を外気とともに負圧回収して前記洗浄液タンクに戻すための洗浄液回収機構と、を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項2の装置によれば、使用済み洗浄液が洗浄液タンクに戻される。したがって、使用済み、すなわち汚れた洗浄液は、何らかの方法、たとえば10μm以下の透過能力を有するフィルタより再利用可能なレベルまで浄化すれば、再利用が可能になり環境的負荷やコストの削減に寄与する。外気とともの負圧回収により、使用済み洗浄液の外部漏出を抑制する。負圧は、吸気用モータの駆動による洗浄液タンク内の減圧により発生する。
【0014】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載のアニロックスロール洗浄装置(以下、適宜「請求項3の装置」という)は、請求項2の装置の好ましい態様として、前記洗浄液回収機構は、前記噴射部を囲み開放先端部が前記アニロックスロールの近傍に配された筒部と、当該開放先端部の反対側となる当該筒部の基端側と前記洗浄液タンク内の減圧空間とを機密連通する吸引管と、を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項3の装置によれば、筒部が噴射部を囲むことにより、さらに吸引管を通して筒部が減圧空間と機密連通することで、使用前・使用済みの洗浄液の飛散が抑制される。飛散防止は、使用前・使用後の洗浄液の滅失を抑制し、効率よい洗浄液回収に貢献する。筒部の開放先端部とアニロックスロールの間には隙間が存在するが、ここから外気が吸引されるため洗浄液回収に悪影響を及ぼさない。
【0016】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載のアニロックスロール洗浄装置(以下、適宜「請求項4の装置」という)は、請求項1ないし4何れかの装置の好ましい態様として、前記洗浄液タンクと前記微細気泡発生部との間に、洗浄液を濾すためのフィルタが設けられていることを特徴とする。フィルタの濾過能力は、濾過しようとする汚れの種類にもよるが、たとえば10μm以下の透過を有するフィルタが好ましい。
【0017】
請求項4の装置によれば、フィルタの濾過効果により、できるだけ綺麗な洗浄液を供給できる。特に、使用済み洗浄液を洗浄液タンクの中に戻す場合は、その効果が顕著である。微細気泡発生部の前段にフィルタを設けるのは、後段であると微細気泡を含む洗浄液を濾過することになるため、その効率が悪くなってしまうからである。
【0018】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載のアニロックスロール洗浄装置(以下、適宜「請求項5の装置」という)は、請求項1ないし3何れかの装置の好ましい態様として、アニロックスロール表面のセルのうちの最小対角寸法の±20%と等しい径に設定されている、ことを特徴とする。
【0019】
請求項5の装置によれば、微細ノズルそれぞれから微細気泡とともに噴出される洗浄液の幅寸法が、一番短い対角寸法との誤差が±20%に設定されているので、噴出により洗浄液の幅寸法はわずかに広がるものの、小は大を兼ねる的に高効率の洗浄を行うことができる。すなわち、洗浄漏れを可及的に少なくすることができる。
【0020】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載のアニロックスロール洗浄装置(以下、適宜「請求項6の装置」という)は、請求項1ないし3何れかの装置の好ましい態様として、前記微細ノズル群のそれぞれは、アニロックスロールの長さ方向に沿って所定数略等間隔に並ぶ一列パイプ群を、アニロックスロール断面の接線方向と略平行略等間隔に複数段(たとえば、3段)並ばせることにより、中空部が見える視座から見て略平行四辺形を構成するように配され、当該略平行四辺形の対角は、60度もしくは120度の±10%に設定されている、ことを特徴とする。
【0021】
請求項6の装置によれば、一の微細ノズルから噴出される洗浄液に対し、その直上にある他の微細ノズルから噴出される洗浄液は、右ないし左に60度もしくは120度の±10%ズレた位置に噴出される。このズレは、アニロックスロールに形成される一般的なセル配列にほぼ合致する。これにより、洗浄液は、セルと隣接セルの間に噴出される可能性が減り、その分、セルの底部と隣接セルの底部のそれぞれに命中する可能性が高まる。このことは、洗浄液に含まれる微細気泡の洗浄効果と相まって高効率の洗浄に貢献する。上述したセル配置以外のセル配置の存在を否定しないが、一般的なセル配置にすることにより、請求項6の装置の汎用性が高まることになる。
【0022】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載のアニロックスロール洗浄方法(以下、適宜「請求項7の方法」という)は、表面にセルが形成されている印刷用のアニロックスロールを洗浄するためのアニロックスロール洗浄方法である。請求項7の方法は、微細気泡を含む水又は水希釈液からなる洗浄液を、印刷後のアニロックスロールに近接状態で並列設置された微細ノズル群の微細ノズルそれぞれの噴射先端部から、当該アニロックスロールの表面に対し所定距離(たとえば、1mm以下)を隔てて噴射して衝突洗浄する、ことを特徴とする。
【0023】
請求項7の方法によれば、アニロックスロールは微細ノズル群それぞれから加圧噴射された水又は水希釈液からなる洗浄液と微細気泡による断続的な衝突洗浄により、キャビテーションの効果によりセル内の汚れ(たとえば、インク残渣)が高効率で洗浄される。洗浄液噴射は、圧送ポンプによる圧力による。
【0024】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載のアニロックスロール洗浄方法(以下、適宜「請求項7の方法」という)は、請求項7の方法の好ましい態様として、前記アニロックスロールを洗浄後の使用済み洗浄液を外気とともに負圧回収する、ことを特徴とする。
【0025】
請求項8の方法によれば、使用済み洗浄液の回収が可能になる。ここで使用済み、すなわち汚れた洗浄液は、何らかの方法、たとえば10μm以下の透過能力を有するフィルタにより再利用可能なレベルまで浄化すれば、再利用が可能になり環境的負荷やコストの削減に寄与する。外気とともの負圧回収により、使用済み洗浄液の外部漏出を抑制する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、洗浄液と微細気泡による断続的な洗浄によりがアニロックスロールのセル内汚れを高効率で洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】アニロックスロール洗浄装置の概略構成図である。
図2】アニロックスロールと噴射部を示す拡大断面図である。
図3図2に示す噴射部の平面図である。
図4図2に示す噴射部をアニロックスロール側から見た正面図である。
図5】ハニカム形状のセル群と微細ノズル群との関係を示す背面図(a)と平面図(b)である。
図6図2に示す噴射部の変形例を示す図である。
図7】洗浄前のセルの拡大図である。
図8】気泡なし洗浄後のセルの拡大図である。
図9】気泡あり洗浄後のセルの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
各図を参照しながら、発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)に係る印刷用のアニロックスロール洗浄装置(以下、「洗浄装置」という)と、洗浄装置により実施されるアニロックスロール洗浄方法について説明する。アニロックスロールとは、クロムやセラミックスでメッキ、コートされた金属のシリンダーの表面に、セルと呼ばれる小さな窪み(穴)が規則正しく並んだもので(図5(a)参照)、その窪みの中にインキその他の素材が入り、そのインキや素材が版の表面に転移させるものである。図1に示す符号1は、洗浄装置を示す。
【0029】
洗浄装置1は、印刷用のアニロックスロール101の表面に形成されたセルの中の汚れ・残渣(主としてインク)を洗浄するための装置である。図5(a)に符号Sで示すセルにはひとつひとつが壁Kに囲まれた閉じた形状をしているクローズドセル(図5(a)参照)と、図示を省略するひとつひとつのセルが閉じていないオープンセルとがある。クローズドセルには、円形、格子形(ダイヤモンド)、六角形(ハニカム)、拡張六角形(エロンゲード)などがある。オープンセルの代表的なものには斜線形(トライヘリカル)や波線形(スラローム)がある。本発明は壁のないオープンセルの洗浄にも有効であることは言うまでもないが、以下の説明は、壁が存在するため実施がより難しいクローズドセルの洗浄についてのものである。
【0030】
(洗浄装置の概略構造)
洗浄装置1は、洗浄液Wを貯留するための洗浄液タンク3と、洗浄液タンク3に貯留された洗浄液Wを吸い上げ、次に述べる噴射部11に圧送するための圧送ポンプ9と、をまず備えている。洗浄液タンク3とポンプ9の上流側との間には、洗浄液タンク3内の洗浄液W内に開放端が差し込まれたパイプ4が備えられ、吸引パイプ4の途中には洗浄液タンク3から見て順に洗浄液Wを濾過するフィルタ5と微細気泡発生部7とが設けられている。ポンプ9の下流側と噴射部11との間は、圧送パイプ10により連通されている。
【0031】
ここで、洗浄液タンク3内に貯留されている状態の洗浄液を洗浄液Wと、微細気泡発生部7を通過直後の洗浄液を洗浄液Wbと、セル洗浄後に回収される使用済み洗浄液を洗浄液Wdと定義する(図1)。運転開始時にフィルタ5を通過するものは洗浄液Wのみであるが、これが洗浄液Wbとなった後、洗浄を行って残渣や汚れを含む洗浄液Wdとなって洗浄液タンク3内に戻され、そこにある洗浄液Wと混合して混合洗浄液W+Wdになる。混合洗浄液W+Wdは、フィルタ5によって濾過され洗浄液Wに浄化復帰する。なお、洗浄液Wとしては、インキなど塗工液の種類に対応して、水、アルコール、ケトン類等の中から適宜のものを選択して用いればよい。
【0032】
一方、洗浄液タンク3は、内部の下方領域3aに洗浄液Wを貯留するためのタンクである。洗浄液タンク3は、下方領域3aの上方に上方領域3bを有し、上方領域3bのさらに上方には天井板3dを介して区画される天井領域3cを備えている。天井領域3cは、タンク天板を貫通する排気口3hを介して外部と連通し、天井板3dの中央部を貫通する中央孔3eを介して上方領域3bと連通している。洗浄液タンク3の天板上には、吸気用のファン33aを回転させるファンモータ(吸気用モータ)33が取り付けられている。ファン33aは天井領域3c内の空気を排気口3hから外部へ強制排気するためのものである。このようにして外部排気すると天井領域3c内に大気圧に対する負圧が生じ、これに伴い上方領域3b内にも負圧が生じるようになっている。なお、上方領域3bは、上記した中央孔3eと吸引ホース31のみで外部と連通可能に機密閉鎖されている。吸引ホース31は、洗浄液タンク3内の上方領域3aと噴射部11(後述)とを連通させている。なお、ファンモータ33(ファン33)は、上述のように天井領域3cを含む洗浄液タンク3内に負圧を発生するものであるから、その代替品として、たとえば真空ポンプ(図示を省略)などを用いることも可能である。
【0033】
(フィルタの構造)
フィルタ5は、セルS(図5(a))から洗い落としたインク残渣や汚れ等の固形物を洗浄液Wから取り除くための濾過部材である。フィルタ5の濾過方式に何ら制限はなく、たとえば、金属製メッシュ、金属焼結材、多孔質フッ素樹脂、不織布など、さらには、適当な目詰まり防止手段とともに逆浸透膜などを好適に用いることができる。後述するように洗浄装置1は、使用済みの洗浄液Wを回収して再利用するように構成されており、セル洗浄を再利用可能なレベルまで浄化すれば、再利用が可能になり環境的負荷やコストの削減に寄与するからである。フィルタ5は、使用後の洗浄液Wdを再利用可能なレベルの洗浄液Wまで浄化する必要上、たとえば、10μm以下の固形物を濾過可能なものが好ましい。
【0034】
(微細気泡発生部の構造)
微細気泡発生部7は、たとえば200μm~300μm程度の外径範囲の大気微細気泡を発生させられるものが好ましい。微細気泡を発生させる原理に制限はなく、たとえば、ベンチュリ効果によって減圧状態を作り、その状態の中に空気を巻き込ませてマイクロバブルを生成するアスピレータなどを用いることができる。また、微細気泡を発生させるための微細孔を多数形成した多孔板に圧縮空気を通過させるなどの方法もある。何れにしても気泡外径にある程度のばらつきが発生することは言うまでもない。
【0035】
(圧送ポンプの構造・能力)
洗浄液タンク3から汲み上げ微細気泡を含ませた洗浄液Wを、噴射部11まで十分な圧力のまま必要量を圧送できるものでれば、あらゆる形式のものを圧送ポンプ9として採用可能である。たとえば、遠心ポンプやプロペラポンプのような非容量式ポンプや、プランジャーポンプやギアポンプのような容量式ポンプなど、を挙げることができる。本実施形態では、0.3MPa±10%前後の圧送力を有するダイヤフラムポンプを用いている。これは、外径200μm~300μm程度の微細気泡を外径100μm前後まで圧縮したまま少なくとも毎分0.5L(リットル)から1.0L、洗浄液Wdの回収能力を高めれば1.0Lを超えるほどの量を圧送できる。
【0036】
(噴射部の構成)
図2ないし5を参照する。噴射部11は、噴射部本体13,微細ノズル群19、採取カバー21、位置決めローラ23を主要構成部材とする。
【0037】
(噴射部本体の構成)
噴射部本体13は、たとえば、圧力に十分耐えられるアルミニウムのような金属やセラミック等により構成され、任意の形状(本実施形態では直方体)に形成されている。噴射部本体13の内部には、圧送パイプ10と連通する液搬送路15と、液搬送路15と連通し所定容積を有するパスカル室17とが形成されている。また、噴射部本体13のアニロックスロール101に対向する側には、複数の細長パイプからなる微細ノズル群19がそれぞれ20mmほど突き出している。微細ノズル19のそれぞれの一端はパスカル室17と連通し、他端はアニロックスロール101に向かって開放開口している。パスカル室17は、圧送パイプ10から圧送されてきた洗浄液Wbを液搬送路15経由で受け、そこで一時滞留させる間にパスカルの原理によって洗浄液Wbの圧力を微細ノズル19それぞれに対し略均等に加えるためである。均等に加える目的は、微細ノズル19それぞれから噴出される洗浄液Wbの圧力を均等にすることで洗浄ムラを可及的抑制にある。ただ、パスカルの原理といえども完全理想環境の中で働かせることはできないので、圧力に多少のバラツキがでることは避けられない。「略均等」と記した趣旨は、このバラツキを考慮したためである。
【0038】
(微細ノズルの構成)
微細ノズル19は、たとえば、その内径dが100μm以下のパイプ(図5(a))が好ましい。この内径が好ましい理由は、図5(a)に示すセルSの対角寸法Dが、様々ではあるが汎用的に、たとえば80~120μmであるから、その対角寸法Dと同等もしくはそれよりも内径dを小さくするほうが、大きくすると壁Kに当たる洗浄液Wbが無駄になりやすいので、それを防ぐことにより効率的なセル洗浄ができるからである。もっとも、セルSの形成はレーザー加工により行われるのが一般的であり、たとえレーザー加工であっても表面に対して直角な加工面を形成することは不可能で不可避的に丸み(ダレ)がついてしまう。このダレによる寸法誤差を考慮すると微細ノズル19それぞれの内径dは、アニロックスロール101表面のセルSのうちの最小対角寸法Dの±20%と等しい径とすることが好ましいという結論になる。
【0039】
微細ノズル群19のそれぞれは、アニロックスロール101の長さ方向(図3の左右方向)に沿って所定数(本実施形態では、一列21本×3段の63本)を略等間隔に並ぶ一列パイプ群(図4の最上段の一列)を、アニロックスロール101の断面の接線方向(図2の上下方向)と略平行略等間隔に複数段(本実施形態では、上述のとおり3段)並ばせることにより、中空部が見える視座(図4を見る視座)から見て略平行四辺形を構成するように配され、当該略平行四辺形の対角aは、60度もしくは120度の±10%に設定されている(図5(a)。±10度の誤差を見込むのは、上述したレーザー加工の際のダレの分を考慮したためである。
【0040】
図4に示すように略平行四辺形を形成するように配置した微細ノズル19それぞれを図3に示すように上から見ると、それぞれが重なり合って隣接する微細ノズル19同士の間に隙間ができないか、できても極小さな隙間である。したがって、横並びする複数のセルSに対する洗浄液Wbの噴射をムラなく行うことができ、これが高効率のセル洗浄を実現する。また、この略平行四辺形の対角aが60度もしくは120度の±10%に設定されているのは、図5(a)に例示するように、およそアニロックスロールに形成される一般的なセル配列にほぼ合致させることになり、これにより、洗浄液Wbは、セルSと隣接セルSの間に噴出される可能性が減り、その分、セルSの底部と隣接セルSの底部のそれぞれに命中する可能性が高まるからである。
【0041】
(位置決め機構の構成)
図2ないし5を参照する。印刷後のアニロックスロール101のセル洗浄は、アニロックスロール101の表面を清掃部材(図示を省略)で拭った後、そこに清掃装置1を設置して行うことになる。清掃装置1によるセル洗浄は、微細ノズル群19の先端をアニロックスロール101の表面の1mm前後まで近接させて行うことが洗浄液Wbの飛散防止等の観点から好ましい(図5(b)のG)。その一方で、1mm前後まで近接させていると、噴射部11の振動などにより微細ノズル群19の先端がアニロックスロール101に接触してしまうおそれがある。そこで、清掃装置1の筒部31の先端部には、それぞれ支持部材22(図3)を介して位置決めローラ23が回転自在に取り付けられている。
【0042】
セル清掃に当たり、噴射部11(筒部31)をアニロックスロール101に設置する際に、位置決めローラ23それぞれをアニロックスロール101の表面に接触させる。ここで、アニロックスロール101が回転すると、位置決めローラ23それぞれがこれに転がり接触した状態で追従する。これによりセル清掃中の微細ノズル群19とアニロックスロール101との相対位置は、一定に保たれるので、微細ノズル群19がアニロックスロール101の表面に接触することが妨げられる。
【0043】
(洗浄液回収機構)
図1に戻り説明を行う。洗浄装置1は、一度使用した洗浄液W(Wb)を回収して再利用できるように構成されている。洗浄液回収を司るのは、洗浄液回収機構30である。洗浄回収機構30は、噴射部11を囲み開放先端部31a(図2)がアニロックスロール101の近傍に(すなわち、僅かな隙間を隔てて)配され、漏斗類似の形状に形成された筒部31と、開放先端部31aの反対側となる筒部30の基端側31b(図2)と洗浄液タンク3内の減圧空間(上方領域3b、天井領域3c)とを機密連通する吸引管32と、を含めて構成されている。
【0044】
筒部31が噴射部11を囲むことにより、さらに吸引管32を通して筒部31が減圧空間と機密連通することで、使用前洗浄液Wb・使用済み洗浄液Wdの飛散が抑制される。飛散防止は、使用前・使用後の洗浄液Wb,Wdの滅失を抑制し、効率よい洗浄液回収に貢献する。筒部31の開放先端部31aとアニロックスロール101の間には隙間が存在するが、ここから外気が吸引されるため洗浄液回収に悪影響を及ぼさない。
【0045】
(微細ノズルの変形例)
図6を参照する。図6は本実施形態に係る図2に対応している。図2で使用した符号に対応する部材は、そのまま図6に「‘(ダッシュ)」を付して使用し、それらの説明は省略する。本実施形態における微細ノズル群19は、細長パイプ群によって構成されているが、たとえば噴射部本体13‘部材に穿孔した細長孔群19‘、さらに、これらを組み合わせたもの、などによって構成可能である。
【0046】
(洗浄装置1の使用方法と作用効果)
図1において、印刷後のアニロックスロール101の表面を清掃部材(図示を省略)で拭った後、そこに洗浄装置1を設置して行う。設置に際して位置決めローラ23をアニロックスロール101の表面に押し当てて、噴射部11(筒部31)と微細ノズル群19のアニロックスロール101に対する位置決めを行う。
【0047】
位置決め後に洗浄装置1を稼働すると、圧送ポンプ9が駆動して洗浄液タンク3内の洗浄液Wを吸い上げる。この吸い上げに伴い、洗浄液Wはフィルタ5によって濾過され、さらに微細気泡発生部7の働きにより微細気泡が混入される。微細気泡が混入された洗浄液Wbは、圧送パイプ10の中を圧送され噴射部本体13の中のパスカル室17を介して各微細ノズル19から略均等の圧力でアニロックスロール101のセル群Sに向かって噴出される。なお、必要に応じ加温手段(図示を省略)を設け、これにより、たとえば、35~45℃ほどに洗浄液Wを加温すると洗浄効果がさらに高まる場合がある。
【0048】
それぞれの微細ノズル19から加圧噴射された洗浄液Wbは、主にセルS(図5)の残渣や汚れ、さらに底部に衝突洗浄を行う。洗浄に際し洗浄液Wbに含まれる微細気泡による断続的な洗浄により、キャビテーション効果によりセル内の汚れが高効率で洗浄される。洗浄に使用された使用済み洗浄液Wdは、洗浄液回収機構30により、より具体的には筒部31で外気とともに収集され、吸引管32を介して洗浄液タンク3内に負圧回収される。これにより、洗浄液タンク3内の洗浄液Wに使用済み洗浄液Wdが混在することになる。
【0049】
その後に汲み出される洗浄液Wと使用済み洗浄液Wdとが混在したものの中の使用済み洗浄液Wdは、フィルタ5によって大部分が取り除かれる。説明の都合上、図1ではフィルタ5を通過するのは洗浄液Wのみであるように記載したが、上記のとおり使用済み洗浄液Wdを完全に濾過することが不可能であるから、洗浄液は徐々に汚れ度合いが増すことになる。一方、洗浄液は自然揮発により徐々に減少するから、洗浄液タンク3内の洗浄液に減少分の新たな洗浄液Wを追加して汚れ度を希釈するか、汚れ度合いが再使用に馴染まない程度に汚れた場合は残存洗浄液と新たな洗浄液Wを取り換えることが望まれる。
【0050】
(実施例)
洗浄装置1を用いた洗浄方法により、アニロックスロールのセルを洗浄した実験結果を図7ないし9に示す。各図において、破線円形は残渣ないし汚れの認識できるセルであり、破線六角形は同認識できないセルを示す。ここで実験に使用したインキは、サカタインクス株式会社(東京都文京区)が販売する段ボール印刷用フレキソインキ(黒)である。洗浄液Wは、常盤化学工業株式会社(東京都品川区)が販売するアニロックスロール用のフレキソインクを30重量%まで水道水で希釈したものを使用した。
【0051】
洗浄前のアニロックスロールの各セルは、図7に示すように残渣が大量に残っていた。ここで、微細気泡発生部7を停止し洗浄液Wのみでセル洗浄をしてみたところ、それなりの洗浄効果は出ているが、矢印で示す2つのセルに残渣が残っていた(図8)。つまり、微細気泡なしの洗浄では、洗浄ムラが生じやすいことが分かった。そこで、微細気泡発生部7を稼働させ微細気泡を含む洗浄液Wbで洗浄したところ、図9に示すように、各セル内に残渣を見つけることができなかった。これにより微細気泡が洗浄ムラを排除するために極めて有効であることが分かった。
【符号の説明】
【0052】
1:アニロックスロール洗浄装置(洗浄装置)、3:洗浄液タンク、3a:下方領域
3b:上方領域
3c:天井領域
3d:天井板
3e:中央孔
5:フィルタ(濾過装置)
7:微細気泡発生部
9:ポンプ
10:圧送パイプ
11:噴射部
13:噴射部本体
15:液搬送路
17:パスカル室
19:微細ノズル(微細ノズル群)
22:支持部材
23:位置決めローラ
30:洗浄液回収機構
31:筒部
32:吸引管
33:ファンモータ(吸気用モータ)
33a:ファン
W:洗浄液
Wb:(微細気泡を含む)洗浄液
Wd:(残渣や汚れを含む)洗浄液
【要約】
【課題】 インキその他の素材の洗浄にムラの生じづらいアニロックスロール洗浄装置を提供する。
【解決手段】 本発明のアニロックスロール洗浄装置(1)は、アニロックスロール(101)に対し所定距離を隔てて洗浄液を噴射する噴射部(11)と、当該噴射部に洗浄液(W)を圧送する圧送ポンプ(9)と、当該圧送ポンプに洗浄液を供給する洗浄液洗浄液タンク(3)と、当該供給する洗浄液に微細気泡を含ませるための微細気泡発生部(7)を有し、当該噴射部は、それぞれの噴射先端部がアニロックスロールに向けて並列設置された微細ノズル群(19)と、当該微細ノズル群の基端部と連通し当該圧送ポンプにより圧送されてきた洗浄液の圧力を当該微細ノズル群の微細ノズルそれぞれに対し略均等とするためのパスカル室(17)と、を含む、ことを特徴とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9