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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】プラズマ照射装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/34 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
H05H1/34
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023181113
(22)【出願日】2023-10-20
【審査請求日】2023-10-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520449057
【氏名又は名称】株式会社Dr.Visea
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】沖野 晃俊
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-032488(JP,A)
【文献】国際公開第2022/046461(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマまたは前記プラズマにより生成される活性種の双方またはいずれか一方を含む活性ガスを対象物に照射するためのプラズマ照射装置であって、
供給されたガスのプラズマを発生させるための電極を備えた照射ノズルと、
前記照射ノズルを覆うカバー部材と
を含み、
前記カバー部材は、一端部に前記対象物周辺に存在する液体が前記照射ノズルの噴出口へと侵入するのを遮断する閉鎖部材を備え、
前記閉鎖部材を介して、前記カバー部材の内部で生成されるプラズマに比べて弱いプラズマが生成されるように構成されている、プラズマ照射装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、カバー部材の内部と外部とを接続する通路を有し、
前記カバー部材の外部から前記通路に蓄積される液体を前記カバー部材の内部へ侵入しないように構成されている、請求項1に記載のプラズマ照射装置。
【請求項3】
前記カバー部材は、第1の筒状体と、前記第1の筒状体の内側に配置された第2の筒状体とを含み、
前記第2の筒状体の一端部に前記閉鎖部材が配置され、
前記通路は、前記第1の筒状体と前記第2の筒状体との隙間に形成されている、請求項2に記載のプラズマ照射装置。
【請求項4】
前記第2の筒状体の他端部は前記閉鎖部材または前記照射ノズルの噴射口よりも基端側に配置される、請求項3に記載のプラズマ照射装置。
【請求項5】
前記通路には
前記通路を流れる前記液体または前記閉鎖部材周辺の液体を吸引し、排出する排出手段を有する、請求項2に記載のプラズマ照射装置
【請求項6】
前記閉鎖部材の厚さに応じて、前記電極に印加する電圧を制御可能なように構成されている、請求項1に記載のプラズマ照射装置。
【請求項7】
前記閉鎖部材は、誘電体を含み、その厚さは、0.009mm~2.2mmであり、
前記電極に印加される電圧は、450V~22、000Vである、請求項1に記載のプラズマ照射装置。
【請求項8】
さらに、光照射手段を備え、
前記閉鎖部材は、前記光照射手段の光を透過可能に構成されている、請求項1に記載のプラズマ照射装置。
【請求項9】
前記光照射手段は、前記光を出力する光源と、出力された光をプラズマ照射領域に向けて反射するための反射部材とを有する、請求項8に記載のプラズマ照射装置。
【請求項10】
前記反射部材は、前記カバー部材の一部を構成している、請求項9に記載のプラズマ照射装置。
【請求項11】
前記反射部材は、凹面鏡である、請求項9に記載のプラズマ照射装置。
【請求項12】
前記光源は、赤外線、紫外線、可視光線の少なくとも1つを出力する、請求項9に記載のプラズマ照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ照射装置に関し、特に、照射ノズルを囲むカバー部材の内部で生成されるプラズマに対して弱いプラズマが、対象物へのプラズマ照射を遮断する閉鎖部材を介して生成される構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年プラズマは様々な加工の前処理、殺菌処理などに用いられており、また、美容の分野では皮膚の活性化処理に用いられている。
【0003】
また、特許文献1(段落0002)には、このようなプラズマ処理では、プラズマ生成部から対象物までの距離が増大するのに応じてプラズマ中の活性種が急激に減少して処理効果が低下することから、プラズマによる対象物の処理の際には、プラズマを噴射するノズルを対象物の表面に近づけることが好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-32488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、プラズマの噴射ノズルを対象物に近づけると、対象物の表面に存在する液体、例えば、美容関係の処理の場合、美容液、パック液などの液体がノズル開口からプラズマ照射装置の内部に逆流し、このような逆流がプラズマ生成部での異常放電、装置破損などの原因となるという問題があった。
【0006】
本発明は、プラズマ噴射ノズルを対象物に近づけてもプラズマ噴射ノズルから液体が装置内部へ流入するのを抑制しつつ、対象物にプラズマを照射することができるプラズマ照射装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の項目を提供する。
【0008】
(項目1)
プラズマまたは前記プラズマにより生成される活性種の双方またはいずれか一方を含む活性ガスを対象物に照射するためのプラズマ照射装置であって、
供給されたガスのプラズマを発生させるための電極を備えた照射ノズルと、
前記照射ノズルを覆うカバー部材と
を含み、
前記カバー部材は、一端部に前記対象物周辺に存在する液体が前記照射ノズルの噴出口へと侵入するのを遮断する閉鎖部材を備え、
前記閉鎖部材を介して、前記カバー部材の内部で生成されるプラズマに比べて弱いプラズマが生成されるように構成されている、プラズマ照射装置。
(項目2)
前記カバー部材は、カバー部材の内部と外部とを接続する通路を有し、
前記カバー部材の外部から前記通路に蓄積される液体を前記カバー部材の内部へ侵入しないように構成されている、項目1に記載のプラズマ照射装置。
【0009】
(項目3)
前記カバー部材は、第1の筒状体と、前記第1の筒状体の内側に配置された第2の筒状体とを含み、
前記第2の筒状体の一端部に前記閉鎖部材が配置され、
前記通路は、前記第1の筒状体と前記第2の筒状体との隙間に形成されている、項目2に記載のプラズマ照射装置。
(項目4)
前記第2の筒状体の他端部は前記閉鎖部材または前記照射ノズルの噴射口よりも基端側に配置される、項目3に記載のプラズマ照射装置。
(項目5)
前記通路には
前記通路を流れる前記液体または前記閉鎖部材周辺の液体を吸引し、排出する排出手段を有する、項目2に記載のプラズマ照射装置。
(項目6)
前記閉鎖部材の厚さに応じて、前記電極に印加する電圧を制御可能なように構成されている、項目1に記載のプラズマ照射装置。
(項目7)
前記閉鎖部材は、誘電体を含み、その厚さは、約0.01mm~約2mmであり、
前記電極に印加される電圧は、約500V~約20、000Vである、項目1に記載のプラズマ照射装置。
【0010】
(項目8)
さらに、光照射手段を備え、
前記閉鎖部材は、前記光照射手段の光を透過可能に構成されている、項目1に記載のプラズマ照射装置。
(項目9)
前記光照射手段は、前記光を出力する光源と、出力された光をプラズマ照射領域に向けて反射するための反射部材とを有する、項目8に記載のプラズマ照射装置。
(項目10)
前記反射部材は、前記カバー部材の一部を構成している、項目9に記載のプラズマ照射装置。
【0011】
(項目11)
前記反射部材は、凹面鏡である、項目9に記載のプラズマ照射装置。
(項目12)
前記光源は、赤外線、紫外線、可視光線の少なくとも1つを出力する、項目9に記載のプラズマ照射装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラズマ噴射ノズル内部に液体の侵入を防止しつつ、対象物にプラズマを照射することが可能なプラズマ照射装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1によるプラズマ照射装置100を示す図。
図2図1に示す実施形態1のプラズマ照射装置100と対比される比較例としてのプラズマ照射装置を示す図。
図3】本発明の実施形態2によるプラズマ照射装置200を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0016】
本発明は、プラズマ噴射ノズルを対象物に近づけてもプラズマ噴射ノズル内部に液体の侵入を防止しつつ、対象物にプラズマを照射することができるプラズマ照射装置を得ることを課題とし、
プラズマまたはプラズマにより生成される活性種の双方またはいずれか一方を含む活性ガスを対象物に照射するためのプラズマ照射装置であって、
供給されたガスのプラズマを発生させるための電極を備えた照射ノズルと、
照射ノズルを覆うカバー部材と
を含み、
前記対象物周辺に存在する液体が前記照射ノズルへと侵入するのを遮断する閉鎖部材を備え、
閉鎖部材を介して、カバー部材の内部で生成されるプラズマに対して弱いプラズマが生成されるように構成されている、プラズマ照射装置を提供することにより、上記の課題を解決したものである。ここで、弱いプラズマは皮膚や毛髪に対する損傷を抑制可能な身体に安全なプラズマと言える。
【0017】
従って、本発明のプラズマ照射装置は、対象物周辺に存在する液体が照射ノズルに侵入するのを防ぐとともに、閉鎖部材を介してノズル内部で生成されたプラズマに比べて弱いプラズマを生成するものであれば、特に限定されるものではない。
【0018】
供給されるガスはプラズマ処理する目的に応じてガスを選択可能である。例えば、アルゴンガス、水素ガス、ヘリウムガスなどが用いられる。そして、プラズマ化ガスの種類(ガス種)に応じて生成される活性種も変わる。
【0019】
照射ノズルの形状、素材などは任意であり得る。例えば、照射ノズルは円筒形状であるがそれに限定されない。円錐形状や断面楕円状などであってもよい。また、照射ノズルの材料は任意であり得る。例えば、タングステン、チタン、ステンレスなど、鉄、アルミなどに比べての腐食しにくい材料が用いられることが好ましい。
【0020】
電極の形状や素材は、任意であり得る。例えば、形状としては、板状体、円柱体などの筒状体、櫛型形状などがあり得る。しかし、本発明はこれに限定されない。また、電極の材料は任意であり得る。例えば、タングステン、チタン、ステンレスなど、鉄、アルミなどに比べての腐食しにくい材料が用いられることが好ましい。 カバー部材は、照射ノズルを覆うものであれば、形状や素材などは任意であり得る。例えば、カバー部材は、筒状体である。筒状体は、略円筒体であってもよいし、略円錐体や多角錐体であってもよいし、断面楕円状であってもよい。また、カバー部材は、1つの筒状体であってもよいし、2つ以上の筒状体から構成されてもよい。1つの実施形態において、カバー部材は、第1の筒状体と、第1の筒状体の内側に配置された第2の筒状体とから構成される。このような構成とすることで、第1の筒状体と第2の筒状体との間の隙間を、カバー部材外部(または閉鎖部材周辺)に存在する液体を蓄積させる通路として形成することが可能となる。
また、カバー部材の外部と内部とを接続する通路を有していてもよい。なお、好ましくは、カバー部材の外部から通路に流れる液体または閉鎖部材周辺に存在する液体をカバー部材内部には侵入しないように構成されている。
カバー部材の外部から通路に流れる液体または閉鎖部材周辺に存在する液体をカバー部材内部には侵入しないようにする方法としては、通路を流れる液体または閉鎖部材周辺の液体を吸引し、外部に排出する排出手段を備えることで達成することが可能となる。また、カバー部材を第1の筒状体と、第1の筒状体の内側に配置された第2の筒状体とから構成することによって、第1の筒状体と第2の筒状体との間に形成された隙間を通路として形成し、第2の筒状体の他端部を照射ノズルの噴射口よりも基端側に配置することによって達成させることが可能となる。このような構成とすることで、従来の閉鎖部材に貫通孔が設けられている場合に比べて、閉鎖部材周辺やカバー部材の外部(実際の処理状況における対象物の表面)に存在する液体が通路に浸入してもカバー部材の内部まで到達しにくいので、カバー部材の内部への液体の浸入を抑止することが可能となる。また、この通路はプラズマ放電で生成された活性種をカバー部材内部から対象物の表面に届ける機能を有し得る。閉鎖部材の素材は、対象物周辺に存在する液体が照射ノズルの噴出口へと侵入することを遮断することができれば、その材質などは任意であり得る。例えば、金属や木材などであってもよいし、セラミック、ガラスなどの誘電体であってもよい。好ましくは、外部への電界の漏出効果が優れているガラスなどの誘電体である。
【0021】
閉鎖部材の厚さは任意であり得る。しかしながら、閉鎖部材が厚いほど電極に印加する電圧を高くする必要があるため、厚さは薄くすることが好ましい。例えば、閉鎖部材の厚さが、約0.01mm~約2mmであり、この場合、電極に印加される電圧は、約500V~約20、000Vである。印加する電圧波形は,交流またはパルス状であることが望ましい。周波数は、例えば約50Hz~約50、000Hzである。
【0022】
さらに、プラズマ照射装置は、光照射手段を有していてもよく、この場合、閉鎖部材は、光照射手段の光を透過可能に構成されていることが好ましい。なぜなら、光照射手段の光が対象物に届くからである。
【0023】
光照射手段は、その構成が限定されるものではないが、光照射手段は、光源と反射部材とを含むことが好ましい。ここで、光源は光を出力するものであり、反射部材は、光源から出力された光をプラズマ照射領域に向けて反射するものである。
光源から出力される光の波長は、プラズマ照射による対象物の処理の目的によって、適宜設定される。例えば、光源は、赤外線、紫外線、可視光線の少なくとも1つを出力するものである。
反射部材は、カバー部材の一部であってもよいし、つまり、カバー部材を構成する2つの筒状体のうちの内側のものが反射部材としての機能を有していてもよいし、あるいはカバー部材とは別体、例えば、カバー部材を構成する筒状体とは別体であってもよい。
【0024】
反射部材の具体的構成は限定されるものではなく、平板状の鏡でも凸面鏡でも凹面鏡でもよい。好ましくは、凹面鏡である。凹面鏡とすることで反射部材が凹面鏡である場合、光源光を対象物の光照射領域に集光することが可能となる。
【0025】
さらに、
以上のように本発明のプラズマ照射装置は、対象物周辺に存在する液体が照射ノズルに侵入するのを防ぐとともに、カバー部材の内部で生成されたプラズマに対して弱いプラズマを、プラズマ照射を遮断する閉鎖部材を介してカバー部材の外部に生成するものであれば、特に限定されるものではないが、以下の実施形態1では、プラズマ照射装置として、カバー部材が、第1の筒状体とその内部に配置された第2の筒状体とを有し、2つの筒状体の隙間が、カバー部材の内部領域と外部領域とをつなぐ通路となっているものを挙げる。
【0026】
実施形態2では、実施形態1の構成に加えて、対象物のうちのプラズマが照射される領域に光を照射する光照射手段を有するものを挙げる。
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0028】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1によるプラズマ照射装置100を示す図である。
【0029】
このプラズマ照射装置100は、カバー部材120の内部で生成されたプラズマ(強いプラズマSp)に対して弱いプラズマWpを、対象物周辺に存在する液体が照射ノズルの噴出口へと侵入するのを遮断する閉鎖部材123を介してカバー部材120の外部に生成するものであり、以下具体的に説明する。
【0030】
このプラズマ照射装置100は、カバー部材120の外部からカバー部材120の内部に供給されるプラズマ化ガスPgのプラズマ化により、プラズマ化ガスのプラズマまたはそのプラズマにより生成される活性種(空気中の成分がプラズマ化されたもの)の双方またはいずれか一方を含む活性ガスを対象物Taに照射可能なものであるが、ここでは、プラズマ照射装置100は、プラズマ化ガスPgのプラズマおよびこのプラズマにより形成された活性種を対象物Taに照射するものとする。プラズマ化ガスとはプラズマ生成用のガスであり、アルゴンガス、水素ガス、ヘリウムガスなどが用いられ、プラズマ化ガスの種類(ガス種)を変えると活性種も変わる。
【0031】
このプラズマ照射装置100は、供給されたガス(プラズマ化ガス)Pgのプラズマを発生させるための電極を備える照射ノズル110と、照射ノズル110を覆うカバー部材120と、照射ノズル110に高電圧の交流電圧を印加する高電圧交流電源110aとを含んでいる。ここで、高電圧交流電源110aの一端は電極(照射ノズル)110に接続され、高電圧交流電源110aの他端は接地されており、また、対象物Taも接地されている。
【0032】
カバー部材120は、一端部に対象物周辺に存在する液体が照射ノズルの噴出口110bへと侵入するのを遮断する、貫通孔が開いていない閉鎖部材123を備えている。この閉鎖部材123は、ガラスなど誘電体で構成されており、この閉鎖部材123を有することで対象物周辺に存在する液体が照射ノズルの噴出口110bへと侵入することを抑制することが可能となる。また、閉鎖部材123は照射ノズル110から噴出する強いプラズマSpが対象物Taへ直接照射されるのを遮断する。しかしながら、閉鎖部材123を介して、カバー部材120の内部で生成されるプラズマ(強いプラズマ)Spに対して弱いプラズマWpがカバー部材120の外部に生成される。すなわち、内部の放電で誘電体に電荷が蓄積され、その電荷が作る電界で外部にも放電が生じることとなる。
【0033】
また、カバー部材120は第1の筒状体121と、第1の筒状体121の内側に配置された第2の筒状体122とを含み、内側の第2の筒状体122の一端部の開口部120aには、上述したガラスなどの誘電体からなる閉鎖部材123が嵌め込まれている。ここで、第1の筒状体121および第2の筒状体122は逆円錐台形状をしており、第1の筒状体121の半径が第2の筒状体122の半径より大きくなっている。
【0034】
また、通路124は、第1の筒状体121と第2の筒状体122との間に上下方向に延びる、逆円錐台形状の隙間として形成されており、通路124の長さは、閉鎖部材123の長さ(厚み)よりも長い。
【0035】
なお、対象物Taの表面に存在する液体がカバー部材120内に浸入するのを遮断する構成としては、上述したように通路124の長さを閉鎖部材123の長さ(厚み)より長くする構造ではなく、対象物Taの表面に存在する液体を除去する構成を用いてもよい。
【0036】
例えば、カバー部材120は、カバー部材120の内部とその外部とを接続する通路124とともに、通路124を介して対象物の表面の液体を吸引して排出する排出手段(図示せず)を有していてもよい。この場合、排出手段は、例えば、吸引ポンプである。
【0037】
また、このプラズマ照射装置100では、カバー部材120の閉鎖部材123の厚さが厚いほど、照射ノズル110である電極に印加される電圧は高くなるように制御可能に構成される。例えば、閉鎖部材123の厚さが、約0.1mmであるとき、電極(照射ノズル110)に印加される電圧は、約5000Vである。ただし、閉鎖部材の厚さは、これには限定されず、約〇mm~約▽mmであればよく、その場合、電極に印加される電圧は、約〇V~約▽Vで調整される。
【0038】
次にプラズマ照射装置100の動作を説明する。
【0039】
プラズマ化ガスPgをカバー部材120の内部に導入している状態で、高電圧交流電源110aから交流高電圧を照射ノズル110である電極に印加して、カバー部材120をその先端の閉鎖部材123が対象物Taに対向するように近接させると、照射ノズル110と閉鎖部材123との間でプラズマ化ガスPgがプラズマ化されてプラズマ放電が生ずる。つまり、強いプラズマSpが照射ノズル110から噴射される。
このような構成の本実施形態1のプラズマ照射装置100では、開口部を有さない閉鎖部材110の存在により、対象物(例えば、皮膚)Taの表面に、例えば、パック液、美容液などの液体が存在していてもそのような液体がカバー部材120の内部に浸入するのを抑制することができる。その結果、照射ノズル110での異常放電、さらにはプラズマ照射装置100の破損を抑制することが可能となる。
【0040】
また、交流高電圧による強いプラズマSpでの電界の極性変化の影響が閉鎖部材123を介してカバー部材120の外部に表れ、これによりカバー部材120の閉鎖部材123と対象物Taとの間に弱いプラズマWpが生成され、生成された弱いプラズマWpは、対象物Taに向けて皮膚や毛髪に対する損傷を抑制可能なプラズマとして照射することが可能となる。
【0041】
また、カバー部材120内で生じた強いプラズマSpによる強い放電により活性化された大気中のガス成分(活性種)Afは、2つの筒状体121および122の隙間に形成される通路124を通って、カバー部材120の先端に位置する閉鎖部材123に隣接する一端部124aから放出されて、対象物Taのうちの弱いプラズマWpが照射される照射領域の周辺に照射することが可能となる。
【0042】

この点について比較例を用いて詳しく説明する。
【0043】
図2は、図1に示す実施形態1のプラズマ照射装置100と対比される比較例としてのプラズマ照射装置10を示す図である。なお、図2中、図1と同一符号は実施形態1のものと同一のものを示す。
【0044】
比較例のプラズマ照射装置10では、照射ノズル110を覆うカバー部材12は、1つの逆円錐台形状の筒状体で構成されており、その先端の開口部20aには、複数の貫通孔13aが形成された誘電体あるいは金属からなる板状体13が装着されている。この板状体13は実施形態1のプラズマ照射装置100における閉鎖部材123に相当するものであり、貫通孔13aは、カバー部材120の内部で生成された強いプラズマSpおよび活性種Afをカバー部材120の外部に向けて通過させるものである。
このプラズマ照射装置10では、カバー部材12を対象物Taに押し付ける場合等では、対象物Taの表面に存在する美容液、パック液などの液体Wbが、カバー部材120の先端の板状体13に形成されている貫通孔13aを通ってカバー部材12内に逆流することとなり、それによって異常放電、さらには装置が破損するという恐れがあった。
【0045】
これに対して、本実施形態1のプラズマ照射装置100では、カバー部材120の先端の開口部120aは、孔の開いていない閉鎖部材123で塞がれており、このため、カバー部材120を対象物Taに押し付けた場合でも、対象物Taの表面に存在する液体が、カバー部材120の先端の開口部120aからカバー部材120の内部に浸入することはない。
【0046】
また、実施形態1のプラズマ照射装置100では、カバー部材120の周壁に沿って、カバー部材120の内部とその外部とをつなぐ通路124が形成されているが、通路124は、その長さ、つまり、この通路124の一端側(第2の筒状体122の一端部)124aから他端側(第2の筒状体122の他端部)124bまでの距離が、閉鎖部材123の長さ(厚み)より長くなるように構成されている。もしくは、他端側開口(第2の筒状体122の他端部カバー部材120の内部側開口)124bの高さが、閉鎖部材123の高さ(厚み)または照射ノズルの噴出口110bよりも高い位置に配置されている。
この実施形態1の通路124に液体が浸入した場合は、閉鎖部材123に相当する比較例の板状体13に形成されている貫通孔13aに液体が浸入した場合に比べて液体がカバー部材120の内部へ浸入する恐れはない。このためカバー部材120への液体に流入による異常放電、装置損傷の発生を抑制することが可能となる。
【0047】
また、比較例のプラズマ照射装置10では、カバー部材12内で照射ノズル110の噴出口110bから噴出するプラズマSpは、カバー部材12の先端の板状体13の貫通孔13aを介してカバー部材12の外部に出て、板状体13に対向する対象物Taに照射される。同時に、プラズマSpの影響で生じた大気中のガスの活性種Afも、板状体13の貫通孔13aを介して対象物Taに照射される。照射ノズルから噴出するプラズマSpは、皮膚や毛髪などの対象物に照射するには強すぎる場合があり、皮膚や毛髪などに損傷などを引き起こす恐れがあった。
【0048】
それに対して、実施形態1のプラズマ照射装置100では、閉鎖部材110を介して生成される噴射ノズル110から噴出されるプラズマよりも弱いプラズマを対象物に照射することにより、皮膚や毛髪などの損傷を抑制することが可能となった。
【0049】
なお、実施形態1のプラズマ照射装置100は、対象物Taにプラズマを照射する機能に加えて、対象物Taを赤外線、紫外線などの光で処理する機能を有するものでもよく、このような機能を搭載したプラズマ照射装置を以下の実施形態2で説明する。
【0050】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2によるプラズマ照射装置200を示す図である。
【0051】
この実施形態2のプラズマ照射装置200は、実施形態1のプラズマ照射装置100の構成に加えて、対象物Taのうちのプラズマが照射される領域(照射領域)Perに光Lを照射する光照射手段230を有するものである。
【0052】
以下、詳述する。
【0053】
このプラズマ照射装置200では、閉鎖部材123は、光照射手段230の光Lを透過可能な構成となっており、例えば、ガラスで構成されている。
【0054】
光照射手段230は、光を出力する光源231と、出力された光をプラズマ照射領域Perに向けて反射するための反射部材232とを有する。
【0055】
ここで、反射部材232は、カバー部材120の第2の筒状体122の内側に設けられた凹面鏡である。また、光源231は、赤外線、紫外線、可視光線の少なくとも1つを出力するように構成されている。
【0056】
例えば、光源231が赤外線を出力する場合は、皮膚などの対象物Taのプラズマ照射領域Perを温める温熱効果が得られる。
【0057】
光源231が紫外線を出力する場合は、プラズマ照射と相俟って皮膚などの対象物Taのプラズマ照射領域Perを殺菌する殺菌効果が得られる。
【0058】
光源231が可視光線を出力する場合は、皮膚などの対象物Taのプラズマ照射領域Perを照明する照明効果が得られる。
【0059】
また、反射部材232は、凹面鏡に限定されるものではなく、光照射手段230の用途によっては、平板状の鏡であっても、凸面鏡であってもよい。ただし、光源231からの出射光を集光する必要がない場合は、反射部材232は平板状の鏡でも凸面鏡でもよいし、光源231からの出射光を拡散させたい場合は、凸面鏡であることが好ましい。
【0060】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、プラズマ噴射ノズル内部に液体の侵入を防止しつつ、対象物にプラズマを照射することが可能なプラズマ照射装置を得ることができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0062】
10、100、200 プラズマ照射装置
110 照射ノズル
110a 高電圧交流電源
110b 噴出口
12、120 カバー部材
120a 開口部
121 第1の筒状体
122 第2の筒状体
13、123 閉鎖部材
13a 貫通孔
124 通路
124a 通路の一端側
124b 通路の他端側
230 光照射手段
231 光源
232 反射部材
Af 活性種の流れ
Ler 光照射領域
Sp プラズマ
Ta 対象物
Wb 液体の逆流
Wp 弱いプラズマ
【要約】
【課題】本発明の課題は、プラズマ噴射ノズル内部に液体の侵入を防止しつつ、対象物にプラズマを照射することができるプラズマ照射装置を得ることである。
【解決手段】本発明のプラズマ照射装置100は、プラズマまたは前記プラズマにより生成される活性種の双方またはいずれか一方を含む活性ガスを対象物に照射するためのプラズマ照射装置であって、供給されたガスのプラズマを発生させるための電極を備えた照射ノズル110と、照射ノズルを覆うカバー部材120とを含み、カバー部材120は、一端部124aに対象物周辺に存在する液体が照射ノズル110の噴出口110bへと侵入するのを遮断する閉鎖部材123を備え、閉鎖部材123を介して、カバー部材120の内部で生成されるプラズマに対して弱いプラズマが生成されるように構成されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3