(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】透明部材、撮像装置、透明部材の製造方法および部材
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20240119BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240119BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240119BHJP
C09D 183/02 20060101ALI20240119BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240119BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20240119BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240119BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240119BHJP
【FI】
B32B5/18
B05D5/00 H
C09D201/00
C09D183/02
C09D7/61
C09D1/00
G02B1/14
G02B1/18
(21)【出願番号】P 2019026816
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018052416
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 陽
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/011605(WO,A1)
【文献】特許第5683906(JP,B2)
【文献】特開2013-228745(JP,A)
【文献】特開2016-109999(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065591(WO,A1)
【文献】特表2015-525131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B05D1/00-7/26
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00
301/00
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
G02B1/10-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、多孔質層と、親水性ポリマー層と、をこの順に備える透明部材であって、
前記多孔質層は、シリカ粒子とバインダーとを含み、
前記親水性ポリマー層は、両性イオン親水基を有するポリマーを含み、厚さが1nm以上20nm以下であることを特徴とする透明部材。
【請求項2】
前記両性イオン親水基がスルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホルコリン基からなる群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載の透明部材。
【請求項3】
前記親水性ポリマー層の表面における水に対する接触角が30°未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明部材。
【請求項4】
前記多孔質層の層厚が200nm以上2000nm以下、かつ、空隙率が40%以上55%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項5】
前記シリカ粒子の平均粒子径が10nm以上60nm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項6】
前記バインダーが、シリカバインダーであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項7】
前記基材の材質が、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂からなる群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項8】
筐体と透明部材とで囲まれた空間内に、光学系と、前記光学系を介して映像を取得するイメージセンサと、を備える撮像装置であって、
前記透明部材は、基材と、前記基材の前記空間に面していない側の主面に設けられた多孔質層と、前記多孔質層の前記基材とは反対側の面に設けられた親水性ポリマー層と、を有しており、
前記多孔質層は、シリカ粒子とバインダーとを含み、
前記親水性ポリマー層は、両性イオン親水基を有するポリマーを含み、厚さが1nm以上20nm以下であることを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
前記両性イオン親水基がスルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホルコリン基からなる群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項8に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記多孔質層の層厚が200nm以上2000nm以下、かつ、空隙率が40%以上55%以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記シリカ粒子の平均粒子径が10nm以上60nm以下であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項12】
前記バインダーが、シリカバインダーであることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記基材が、平板状またはドーム形状であることを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項14】
基材と、多孔質層と、親水性ポリマー層と、をこの順に備える透明部材の製造方法であって、
基材の上にシリカ粒子とバインダー成分とを含む分散液を塗布して硬化し、多孔質層を形成する工程と、
前記多孔質層の上に両性イオン親水基を有する親水性ポリマーを含む溶液を塗布して硬化し、1nm以上20nm以下の層厚の親水性ポリマー層を形成する工程と、
を有することを特徴とする透明部材の製造方法。
【請求項15】
前記両性イオン親水基がスルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホルコリン基からなる群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項14に記載の透明部材の製造方法。
【請求項16】
前記多孔質層の層厚が200nm以上2000nm以下、かつ、空隙率が40%以上55%以下となるように多孔質層を形成することを特徴とする請求項14または15に記載の透明部材の製造方法。
【請求項17】
前記シリカ粒子が、平均粒子径が10nm以上60nm以下の鎖状シリカであることを特徴とする請求項14から16いずれか1項に記載の透明部材の製造方法。
【請求項18】
前記バインダー成分が、シリケート加水分解縮合物であることを特徴とする請求項14から17のいずれか1項に記載の透明部材の製造方法。
【請求項19】
前記分散液に含まれるバインダー量は、シリカ粒子100質量部に対して、5質量部以上35質量部以下であることを特徴とする請求項14から18のいずれか1項に記載の透明部材の製造方法。
【請求項20】
前記多孔質層を形成する工程の前に、前記基材の上に、アミノ系シランを含むプライマー塗工液を塗布して乾燥させる工程を有することを特徴とする請求項14から19のいずれか1項に記載の透明部材の製造方法。
【請求項21】
多孔質層の上に親水性ポリマー層を備える部材であって、
前記多孔質層は、シリカ粒子とバインダーとを含み、
前記親水性ポリマー層は、両性イオン親水基を有するポリマーを含み、厚さが1nm以上20nm以下であることを特徴とする部材。
【請求項22】
前記両性イオン親水基がスルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホルコリン基からなる群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項21に記載の部材。
【請求項23】
前記親水性ポリマー層の表面における水に対する接触角が30°未満であることを特徴とする請求項21または22に記載の部材。
【請求項24】
前記多孔質層の層厚が200nm以上2000nm以下、かつ、空隙率が40%以上55%以下であることを特徴とする請求項21から23のいずれか1項に記載の部材。
【請求項25】
前記シリカ粒子の平均粒子径が10nm以上60nm以下であることを特徴とする請求項21から24のいずれか1項に記載の部材。
【請求項26】
前記バインダーが、シリカバインダーであることを特徴とする請求項21から25のいずれか1項に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性の透明部材及びそれを保護カバーに用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、防犯を目的として、店舗、ホテル、銀行、駅などの様々な場所に監視カメラが設置されている。監視カメラは、天井、外壁、支柱などに設置部品を介して取付ける、埋め込む、などの方法で設置される。
【0003】
監視カメラ本体には、周囲の環境から保護する目的で、撮像を妨げない透明な保護カバーが取り付けられている。保護カバーには、透明性や耐衝撃性に優れるポリカーボネートやアクリルといった樹脂材料が用いられる。屋外に設置される監視カメラの場合、雨や結露などの水滴が保護カバーに付着すると映像を歪めたり不鮮明にしたりしてしまうため、保護カバーに親水性の膜を設けて水滴の付着を防止する技術が広く用いられている。
【0004】
特許文献1には、基材の上に、金属酸化物粒子を含む多孔質膜と、多孔質膜の上に形成された親水性ポリマー膜と、を含む親水膜を設ける技術が開示されている。また、特許文献2には、重合性モノマーと開始剤とシリカと両性イオンポリマーからなるコーティング剤を塗布し、硬化させることで、シリカと両性イオンポリマーを膜表面に偏在させた親水膜が提案されている。ポリマー膜の表層にシリカと両性イオンポリマーを偏析させることで、親水性能と機械強度を高い膜を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2006/011605号
【文献】特開2017-61598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、監視カメラのカメラ本体と保護カバーとは、同一梱包内で保管され、出荷される。同一梱包内に保管されている間、カメラ本体を構成している部品、とりわけゴム部品からの脱ガスに含まれるシロキサン系の汚染物が、保護カバーの親水膜の表面に付着して親水性を劣化させてしまうという課題がある。
図4に、膜表面のシロキサン量と接触角との関係を示す。膜表面に付着するシロキサン量が増えるほど、接触角が大きくなり親水性が維持できなくなることがわかる。
【0007】
さらに、監視カメラが屋外に設置された後は、太陽光や雨に長期間曝されることにより、親水膜が変質・分解したり、屋外に漂う疎水性の有機系汚染物等を吸着したりすることによって親水性が劣化してしまうという課題もある。
【0008】
従って、保護カバーには、製品を開梱して屋外に設置した時点から、使用される長期間にわたって、親水性を発揮することが求められる。
【0009】
梱包保管されている間の親水性劣化の対策として、設置直前まで表面を保護する保護カバーを設けることが考えられる。しかし、コストアップの要因になる上に、半球状の曲面を有している保護カバーの場合は、保護カバーを設けるための手間やコストがさらにかかってしまう。
【0010】
従って、保護カバーに設ける親水被膜は、梱包保管環境と屋外環境のどちらにおいても、親水性を維持できることが好ましい。しかし、特許文献1の構成では、梱包保管の間に表面の親水性ポリマーにシロキサン系の汚染物が付着してしまい、屋外環境に設置した時点の親水性が保証できない。また、特許文献1および2で提案されている親水膜は、屋外環境下での太陽光と雨によって、親水性を発現させる膜表面のポリマーが変質・分解してしまい、長期にわたって親水性を維持することができない。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、梱包保管環境と屋外環境のいずれにおいても長期間にわたって親水性を維持することのできる、親水性被膜を有する透明部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる透明部材は、基材と、多孔質層と、親水性ポリマー層と、をこの順に備える透明部材であって、前記多孔質層は、シリカ粒子とバインダーとを含み、前記親水性ポリマー層は、両性イオン親水基を有するポリマーを含み、厚さが1nm以上20nm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる撮像装置は、筐体と透明部材とで囲まれた空間内に、光学系と、前記光学系を介して映像を取得するイメージセンサと、を備える撮像装置であって、前記透明部材は、基材と、前記基材の前記空間に面していない側の主面に設けられた多孔質層と、前記多孔質層の前記基材とは反対側の面に設けられた親水性ポリマー層と、を有しており、前記多孔質層は、シリカ粒子とバインダーとを含み、前記親水性ポリマー層は、両性イオン親水基を有するポリマーを含み、厚さが1nm以上20nm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる透明部材の製造方法は、基材と、多孔質層と、親水性ポリマー層と、をこの順に備える透明部材の製造方法であって、基材の上にシリカ粒子とバインダー成分とを含む分散液を塗布して硬化して多孔質層を形成する工程と、前記多孔質層の上に両性イオン親水基を有するポリマーを含む溶液を塗布して硬化し、1nm以上20nm以下の層厚の親水性ポリマー層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製品梱包保管時と屋外環境暴露時においても長期間親水性を維持することのできる、信頼性の高い親水膜を形成した透明部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の透明部材の一実施形態の厚さ方向の断面を示す模式図である。
【
図2】本発明の撮像装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図3】本発明の撮像装置の構成例を示す模式図である。
【
図4】膜表面のシロキサン量と接触角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更を加えることもできる。
【0018】
≪透明部材≫
図1は、本発明にかかる透明部材の一実施形態であって、厚さ方向(基材表面に対する法線方向)の断面を示す模式図である。同図において、本発明の透明部材10は、基材16の上に、多孔質層14と親水性ポリマー層15とをこの順に有している。本発明において、「透明」とは、可視光に対する透過率が50%以上の特性を意味する。
【0019】
多孔質層14は、複数のシリカ粒子(酸化ケイ素粒子)12と、複数のシリカ粒子12の間に介在するバインダー11と、を含んでいる。複数のシリカ粒子12はバインダー11によって互いに固定され、シリカ粒子12の間やバインダー11の間に形成される空隙(ボイド)13によって多孔質となっている。空隙(ボイド)13は、多孔質層14の表面から三次元的に連通している。
【0020】
このような構成により、本発明にかかる透明部材は、梱包保管環境下と屋外環境に設置した時点においては親水性ポリマー層15によって親水性を維持し、屋外環境に設置して以降の使用期間は多孔質層14によって親水性を維持することが可能となる。
以下、各層について詳細に説明する。
【0021】
<親水性ポリマー層>
親水性ポリマー層15は、梱包環境下と屋外設置された時点における、透明部材表面の親水性を保証するための膜である。
【0022】
梱包環境において、シロキサン系の汚染物が透明部材の親水面に付着するのを抑制するため、親水性ポリマー層15は両性イオン親水基を有するポリマーを含んでいる。両性イオン親水基の存在により、表面の親水性がより高まるとともに、電気抵抗が低くなるため汚染物が帯電付着しにくくなる。その結果、長期保管時において高い親水性を維持することが可能となる。
【0023】
両性イオン親水基としては、スルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホルコリン基を好適に用いることができる。
【0024】
親水性ポリマー層15は、屋外に設置した時点は親水性を発現するが、屋外環境に曝されている間に、太陽光と雨によって分解され、親水性が劣化する。親水性ポリマー層15の層厚が厚いと、親水性の劣化によって表面に水滴が付着してしまい、透明部材越しに鮮明な画像を得ることができなくなる。
【0025】
そこで、本発明では、屋外環境において短い時間で分解されるよう、親水性ポリマー層15の層厚を薄く形成している。シリカ粒子からなる多孔質層14は、親水性が高くセルフクリーニング性能に優れるため、分解された親水性ポリマーは多孔質層14の表面から除去される。従って、屋外に設定された透明部材は、最終的にはシリカ粒子からなる多孔質層が表面に露出し、親水性が維持される。
【0026】
親水性ポリマー層15の層厚は、1nm以上20nm以下であることが好ましい。層厚が1nmより小さいと、層が島状に形成されてしまうため、シロキサン系の汚染物が表面に吸着するのを十分に抑制することができない。親水性ポリマー層15の層厚が20nmより大きいと、屋外環境下でシリカ粒子からなる多孔質層が露出するまでに時間がかかってしまい、その間に両性イオン親水基が分解して親水性ポリマー層15の表面が疎水化して親水性を維持することができない。なお、ここでいう親水性ポリマー層15の層厚とは、多孔質層を構成する最表面の粒子よりも空気側に形成された部分の厚みである。具体的な測定方法は、後で説明する。
【0027】
親水性ポリマー層15を形成するポリマーは、特に限定されるものではないが、屋外環境下で分解され易い材料が好ましく、耐光性の低いアクリルポリマーが特に好ましい。
【0028】
<多孔質層>
多孔質層14は、バインダーによってシリカ粒子12が固定され、シリカ粒子12間に空隙を含む構造を有している。多孔質層14の空隙率は、40%以上55%以下であることが好ましい。多孔質層14の空隙率が40%以上であれば、屋外暴露環境時に屋外に漂う疎水性の有機系汚染物を多孔質内部に十分に取り込んで、表面の親水性を維持することができる。また多孔質層14の空隙率が55%以下であれば、親水膜のヘイズが小さく、高い透明性が得られる。さらに、長期にわたって親水性を維持するには、有機系汚染物を取り込む空隙の容量を確保するため、層厚dは200nm以上2000nm以下であることが好ましい。
【0029】
ここで、空隙率vは、多孔質層14に対する、多孔質層14に含まれる空隙の体積の割合を表す値である。空隙率の評価方法は、後述する。
【0030】
[シリカ粒子]
シリカ粒子12の平均粒子径は、10nm以上60nm以下であることが好ましい。シリカ粒子12の平均粒子径が10nmより小さい場合は、粒子間にできる空隙が小さすぎて所望の空隙率を実現することが難しくなり、屋外に漂う疎水性の有機系汚染物を多孔質内部に十分に取り込むことができなくなる傾向がある。有機系汚染物の大部分が表面に付着すると疎水化してしまい、屋外環境下での親水性を維持することが困難となる。また、シリカ粒子12の平均粒子径が60nmを超えると、粒子間にできる空隙13のサイズが大きくなり、空隙13やシリカ粒子12による散乱が発生する傾向がある。
【0031】
ここで、シリカ粒子12の平均粒子径とは、平均フェレ径である。平均フェレ径は、透過型電子顕微鏡像から取得した観察画像に画像処理を施すことによって測定することができる。画像処理方法としては、image Pro PLUS(メディアサイバネティクス社製)など市販の画像処理を用いることができる。所定の画像領域において、必要に応じて適宜コントラスト調整を行った後、市販の粒子測定ソフトを用いて各粒子の平均フェレ径を計測し、平均値を求めることができる。
【0032】
シリカ粒子12は、中実シリカ粒子や中空シリカ粒子を用いることができるが、大きな空隙を発生させることなく空隙率を上げることができる点で、鎖状シリカ粒子が特に好ましい。鎖状シリカ粒子と、中実シリカ粒子や中空シリカ粒子とを混ぜて使用してもよい。
【0033】
シリカ粒子12は、SiO2を主成分として含んでいるが、他に、Al2O3、TiO2、ZnO2、ZrO2などの金属酸化物を粒子中に含んでいても良い。ただし、シリカ粒子12の表面のシラノール(Si-OH)基の30%以上が有機基やなどによって修飾されたり他の金属で複合化されたりすると、親水性は失われてしまう。そのようなシリカ粒子からなる多孔質層14は親水性が低く、セルフクリーニング性も低下してしまう。
【0034】
従って、多孔質層14に良好な親水性を発現させるためには、粒子表面の70%以上にシラノール(Si-OH)基が残存したシリカ粒子を用いることが好ましく、粒子表面の90%以上のシラノール基が残存したシリカ粒子を用いることがより好ましい。
【0035】
[バインダー]
バインダー13は、膜の耐摩耗性、密着力、環境信頼性によって適宜選択することが可能であるが、シリカ粒子12との親和性が高く多孔質層の耐摩耗性を向上させることができる、シリカ(SiO2)バインダーが好ましい。シリカバインダーの中でも、シリケート加水分解縮合物が特に好ましい。
【0036】
バインダー11の含有量は、多孔質層14に対して2質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上20質量%以下がより好ましい。バインダー11の含有量が2質量%以上30質量%以下であれば、シリカ粒子12が剥がれ落ちない様に固定することができる上に、有機系汚染物を多孔質内部に十分に取り込むのに必要な空隙率を実現することができる。
【0037】
<基材>
基材16の材質としては、透明なアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂、ガラス等を用いることができる。基材16の形状は限定されることはなく、板状であってもフィルム状であってもよく、また、平板状であっても、曲面、凹面または凸面を有する形状、例えば半球状のドーム形状等であってもよい。
【0038】
<製造方法>
次に、本発明に係る透明部材の製造方法についてその一例を説明する。
【0039】
本発明の透明部材の製造方法は、基材の上に(i)多孔質層を形成する工程、および、(ii)親水性ポリマー層を形成する工程、をこの順に有する。以下、それぞれの工程について説明する。
【0040】
(i)多孔質層を形成する工程
多孔質層14を形成する工程は、乾式法と湿式法のいずれを用いても良いが、簡便に多孔質層14を作成できる湿式法を用いることが好ましい。
【0041】
乾式法としては、蒸着法あるいはスパッタリング法を用い、真空炉内の圧力を高めて成膜したり、基板垂直方向から入射角度を傾けて成膜したりすることで、多孔質層14を形成することができる。
【0042】
湿式法としては、シリカ粒子12の分散液とバインダー溶液とを順に塗布/乾燥する方法や、シリカ粒子12とバインダー成分の両方を含む分散液を塗布/乾燥する方法を用いることができる。多孔質層14内部の組成が均一になる点で、シリカ粒子とバインダー成分の両方を含む分散液を塗布する方法が好ましい。
【0043】
シリカ粒子12の分散液は、溶媒にシリカ粒子12を分散した液であり、シリカ粒子12の含有量が2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。シリカ粒子12の分散液には、シリカ粒子12の分散性を上げるために、シランカップリング剤や界面活性剤を加えても良い。ただし、シリカ粒子12の表面のシラノール基の多くにこれらの化合物が反応すると、シリカ粒子12とバインダー11との結合が弱くなって多孔質層14の耐摩耗性が低下してしたり、多孔質層14の親水性が低下したりしてしまう傾向がある。そのため、シランカップリング剤や界面活性剤等の添加剤は、シリカ粒子100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0044】
バインダー溶液には、シリカ粒子12との結合力が強い、シリカバインダー溶液を用いることが好ましい。シリカバインダー溶液は、溶媒中でケイ酸メチル、ケイ酸エチルなどのケイ酸エステルに、水や酸または塩基を加え、加水分解縮合することによって生成される、シリケート加水分解縮合物を主成分とすることが好ましい。
【0045】
どのような酸や塩基を用いるかは、溶媒への溶解性やケイ酸エステルとの反応性を考慮して、適宜選択するとよい。加水分解反応に用いる酸は、塩酸、硝酸が好ましく、塩基は、アンモニアや各種アミン類が好ましい。シリカバインダー溶液は、水中でケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩を中和して縮合させてから溶媒で希釈することでも調製することができる。中和反応に用いることができる酸は、塩酸、硝酸などである。バインダー溶液を調製する際には80℃以下の温度で加熱することも可能である。
【0046】
バインダー11にシリカバインダーを用いる場合、溶解性や塗布性の改善を目的として、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、などの有機基が置換した3官能シランアルコキシドを添加することができる。3官能シランアルコキシドの添加量は、シランアルコキシド全体の10モル%以下であることが好ましい。添加量が10モル%を超えると、バインダー内部で、有機基がシラノール基どうしの水素結合を阻害し、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0047】
シリカ粒子12とバインダー成分の両方を含む分散液を用いる場合は、前述したシリカ粒子12の分散液とバインダー溶液それぞれを予め調製してから混合してもよい。あるいは、シリカ粒子12の分散液中にバインダー11の成分を加えて反応させる方法によって分散液を調製してもよい。後者の方法を用いてシリカ粒子12とシリカバインダー成分とを含む分散液を得る場合、シリカ粒子12の分散液にケイ酸エチルと水と酸触媒を加えて反応させることで調製することが可能である。バインダー成分の反応を制御したり、反応状態を確認しながら調製したりできる点で、予めバインダー溶液を調製してから混合する方法が好ましい。
【0048】
シリカ粒子12とシリカバインダー成分とを含む分散液中のバインダー量は、シリカ粒子100質量部に対して、5質量部以上35質量部以下が好ましく、10質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0049】
シリカ粒子の分散液やシリカバインダーの溶液に用いることができる溶媒は、原料が均一に溶解又は分散し、かつ反応物が析出しない溶媒であれば良い。例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチルプロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、シクロペンタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、4-メチル-2―ペンタノール、2-メチル-1―ペンタノール、2-エチルブタノール、2,4-ジメチル-3―ペンタノール、3-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノールなどの1価のアルコール類;エチレングリコール、トリエチレングリコールなどの2価以上のアルコール類;メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、イソプロポキシエタノール、ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1―エトキシ-2-プロパノール、1―プロポキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール類、ジメトキシエタン、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルのようなエーテル類;ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類;n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類;クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルフォルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような、非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これら例示した溶媒の中から選択される2種類以上の溶媒を混ぜて使用することもできる。
【0050】
シリカ粒子12の分散液およびシリカバインダー成分の溶液、あるいはそれらの混合液を塗布する方法としては、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スリットコート法、印刷法やディップコート法などが挙げられる。凹面などの立体的に複雑な形状を有する透明部材を製造する場合、膜厚の均一性の観点からスピンコート法が好ましい。
【0051】
シリカ粒子の分散液およびシリカバインダーの溶液、あるいはそれらの混合液を塗布した後、多孔質層中に残留する溶媒の量を抑制して耐摩耗性を向上させるため、乾燥および硬化工程を設けて、多孔質層14を形成するのが好ましい。乾燥および硬化工程は、溶媒の除去や、シリカバインダー成分の反応、あるいは、シリカバインダー成分とシリカ粒子12との反応を促進するための工程である。乾燥および硬化工程の温度は、20℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上150℃以下がより好ましい。乾燥および硬化工程の温度が20℃以上200℃以下未満であれば、溶媒が残留して耐摩耗性が低下することがなく、バインダー11の硬化が進み過ぎて、バインダー11すなわち多孔質層14に割れが発生しやすくなることもない。
【0052】
多孔質層中に残留する溶媒は、3.0mg/cm3以下であることが好ましい。
【0053】
シリカ粒子12の分散液とシリカバインダー溶液とを順に塗布する場合には、シリカ粒子12の分散液を塗布して一旦焼成工程を行った後、シリカバインダー溶液を塗布して乾燥および硬化工程を行い、多孔質層14を形成することもできる。
【0054】
多孔質層14を所望の膜厚にするために、上述の塗布工程と乾燥および硬化工程とを、交互に複数回ずつ繰り返してもよい。
【0055】
(ii)親水性ポリマー層を形成する工程
多孔質層14の上に親水性ポリマー層15を形成する工程は、親水性ポリマーを含む溶液をスピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スリットコート法、印刷法やディップコート法などの方法で塗布し、硬化する工程である。
【0056】
親水性ポリマーが有する好ましい主鎖構造としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、等を用いることができる。
【0057】
親水性ポリマー溶液の溶媒には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどの中から、用いる親水性ポリマーとの相溶性の高い溶媒を選択して用いることが好ましい。
【0058】
≪撮像装置≫
図2は、本発明の撮像装置の一実施形態を示す模式図であり、
図2(a)は定点観察型の監視カメラ、
図2(b)はパン・チルト・ズーム駆動が可能な旋回型の監視カメラである。
図2に示す撮像装置は、装置本体30に、保護カバーとして機能するは本発明にかかる透明部材10を有し、装置本体30は、映像データを取得する光学系を備える。また、透明部材(保護カバー)10は、少なくとも装置本体30の光学系を覆い、外部からの防塵や衝撃から防御する。
図2(a)の保護カバー2は平面形状の箱型、
図2(b)の保護カバー2は半球形状のドーム型となっているが、保護カバーの形状はこれらに限定されない。
【0059】
図3に、本発明にかかる撮像装置の構成例を示す。撮像装置30は、透明部材10と筐体36で囲まれた空間を有しており、空間内に、光学系31、イメージセンサ32、映像エンジン33、圧縮出力回路34、出力部35を備えている。
【0060】
透明部材10を介して取得される映像は、光学系(レンズ)31によってイメージセンサ32へと導かれ、イメージセンサ32によって映像アナログ信号(電気信号)に変換され、出力される。イメージセンサ32から出力された映像アナログ信号は、映像エンジン33にて映像デジタル信号に変換され、映像エンジン33から出力された映像デジタル信号は圧縮出力回路34にてデジタルファイルに圧縮される。映像エンジン33は、映像アナログ信号を映像デジタル信号に変換する過程で、輝度、コントラスト、色補正、ノイズ除去などの画質を調整する処理を行ってもよい。圧縮出力回路34から出力された信号は、出力部35から配線を介して外部機器へと出力される。
【0061】
透明部材10は、多孔質層14および親水性ポリマー層15が設けられた面が外部側となるように設置されている。このような構成により、外部からの防塵や衝撃から防御するとともに、外部環境の変化によって透明部材10の表面に付着する水滴を液膜化させ、イメージセンサ32で取得される映像の歪みを抑制することができる。
【0062】
さらに、撮像装置30は、画角調整するパンチルト、撮像条件等を制御するコントローラ、取得した映像データを保存しておく記憶装置、出力部35から出力されたデータを外部に転送する転送手段などとともに、撮像システムを構成することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明にかかる透明部材の具体的な製造方法を説明する。
【0064】
(塗工液の調製)
まず、本発明にかかる透明部材の製造に用いる塗工液について説明する。
【0065】
(1)シリカ粒子分散液の調製
鎖状シリカ粒子の2-プロパノール(IPA)分散液(日産化学工業株式会社製 IPA-ST-UP、平均粒子径12nm・固形分濃度15質量%、)50.00gに1-エトキシ-2-プロパノール142.50gを加えた。その後、ロータリーエバポレーターでIPAを濃縮除去し、シリカ粒子分散液A(固形分濃度5.0質量%)を調製した。
【0066】
(2)シリカバインダー溶液の調製
ケイ酸エチル12.48gにエタノール13.82gと硝酸水溶液(濃度3%)を加え、室温で10時間攪拌し、シリカバインダー溶液(固形分濃度11.5質量%)を調製した。
【0067】
(3)シリカ粒子塗工液の調製
(1)で調整したシリカ粒子分散液50.00gを1-エトキシ-2-プロパノール65.67gで希釈した後に(2)で調整したシリカバインダー溶液3.26gを加えて室温で10分間攪拌した。その後、50℃で1時間攪拌してシリカ粒子塗工液Bを調製した。動的光散乱法による粒度分布測定(マルバーン社製 ゼータサイザーナノZS)により、シリカ粒子塗工液B中に、単径が15nm、長径が95nmの鎖状シリカ粒子が分散していることを確認した。調整したシリカ粒子塗工液のバインダーの含有量は13質量%である。
【0068】
(4)親水性ポリマー塗工液Aの調整
スルホベタイン基を有したアクリルポリマーの水溶液であるLAMBIC-771W(大阪有機化学工業社製)20gに純水80gを加えて希釈し、室温で10分間撹拌した。
【0069】
(5)親水性ポリマー塗工液Bの調整
12mlの2-プロパノールに、2.0g(19.4mmol)の無水ジメチルアミノ酢酸と4.2g(17.8mmol)のグリシドキシプロピルトリメトキシシランを混合し、60℃で4時間還流し、溶媒を除去して透明粘性液体を得た。
【0070】
(6)親水性ポリマー塗工液Cの調整
スルホ基を有したアクリル系UV硬化塗料であるKPP-05(公進ケミカル株式会社製)1gに1-メトキシ-2-プロパノールを100gを加えて希釈し、室温で10分間撹拌した。
【0071】
(7)プライマー塗工液の調整
アミノ系シランである3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製 A0774)0.1gを1-メトキシ-2-プロパノール(関東化学製 特級)100gを加えて室温で10分間撹拌した。
【0072】
(透明部材の評価方法)
次に、上記塗工液を用いて作製される透明部材の評価方法について説明する。
【0073】
(8)多孔質層の膜厚の測定
分光エリプソメータ(VASE、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製)を用いて波長380nmから800nmの範囲で測定し多孔質層の膜厚を求めた。
【0074】
(9)多孔質層の空隙率の測定
分光エリプソメータ(VASE、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製)を用い、波長380nmから800nmまで測定し、解析から多孔質層の屈折率を求めた。測定で得られた多孔質層の屈折率と、シリカの屈折率1.46と、空気の屈折率1.00から、式1を用いて多孔質層の空隙率を算出した。
(式1) 空隙率=100×(1.46-多孔質の屈折率)/(1.00-1.46)
【0075】
(10)水に対する接触角の測定
全自動接触角計(共和界面科学株式会社製 DM-701)を用い、23℃50%RHで純水2μlの液滴を接触した時の接触角を測定した。作製した直後の透明部材の接触角を測定し、初期値とした。
【0076】
(11)長期保管試験
作製した透明部材を、内側がアルミでラミネートされたアルミラミネート袋内に、シロキサン系の汚染物源としてシリコーンゴム(信越化学工業 KE-931-U)10gと共に密閉した。試料を密閉したアルミラミネート袋を、恒温恒湿試験機(エスペック株式会社 PL-2KP)にて、温度60℃の環境に300時間保持した。試験後の透明部材の水に対する接触角を(9)と同様に測定した。
【0077】
(12)屋外暴露試験
長期保管していない透明部材をキセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製 スーパーキセノンウェザーメーター CX75)に投入した。光照射強度を180W/m2に設定し、光照射と放水を18分、光照射のみを1時間42分を1サイクルとして、合計150サイクルの計300時間試験して一旦評価した。さらにその後、150サイクル追加して合計300サイクルの計600時間試験して再度評価した。試験後の透明部材の接触角を(9)と同様にして測定した。この屋外暴露試験は、100時間が実際の屋外暴露1年に相当すると考えられる。
【0078】
(13)親水性ポリマー層の層厚
X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社製 QuanteraII)を用い、ビーム条件100μm、25W、15kVの時の検出強度から多孔質層表面の親水性ポリマー由来の元素濃度を測定した。親水性ポリマー由来の元素は、例えば親水性ポリマーの親水基がスルホベタイン基やスルホ基の場合は硫黄を、ホスホルコリン基の場合はリンを、カルボベタイン基の場合は窒素を用いて測定する。その後、加速電圧100VのArイオンビームで2mm×2mm角の領域を15秒間エッチングしながら同様の分析を40回繰り返し、親水性ポリマー由来の元素の検出強度を測定した。40回エッチング後の表面からの溝の深さを測定したところ約40nmの深さであることが確認され、1回のエッチング工程で1nmの深さにエッチングされることが分かった。そこで、親水性ポリマー層の表面から複数回エッチングを行い、親水性ポリマー由来の元素の検出強度が消失した時点のエッチング回数に1nmを乗じた値を親水性ポリマー層の層厚とした。
【0079】
(14)評価
接触角が30°未満であれば、透明部材の表面に水滴ができるのを十分に抑制することができる。従って、初期値、長期保管試験、300時間および600時間の屋外暴露試験のいずれにおいても、水に対する接触角が30°未満であればA評価、600時間の屋外暴露試験後の水に対する接触角だけが30°以上であればB評価とした。初期値、長期保管試験、300時間の屋外暴露試験のいずれかの水に対する接触角が30°以上であればC評価とした。
【0080】
(実施例1)
実施例1は、直径(φ)50mm厚さ4mmのポリカーボネート基材(nd=1.58、νd=30.2)に、プライマー塗工液を適量滴下し、1500rpmで30秒スピンコートを行った。その後、熱風循環オーブン中で90℃10分間加熱し、乾燥させた。多孔質層の形成前に基材にプライマー塗工液からなる層を形成しておくことにより、基材と多孔質層との密着力を高めることができる。
【0081】
続いてシリカ粒子塗工液を適量滴下し、2000rpmで20秒スピンコートを行なった後、熱風循環オーブン中で90℃分10間加熱する一連の工程を10回繰り返し行って多孔質層を形成した。さらに、多孔質層上に、親水性ポリマー塗工液Aを適量滴下し、3500rpmで30秒の条件でスピンコートを行なった。その後、熱風循環オーブン中で80℃15分間加熱した(乾燥および硬化工程)。最後に純水に浸漬させて引き上げたのちに、基板上に付着している純水を、乾燥空気を吹き付けて基板上から除去し、親水性被膜付きの透明部材を得た。
【0082】
(実施例2)
親水性ポリマー塗工液Aの調整の際に、純水の量を20gとして調整した親水性ポリマー塗工液を用いた以外は実施例1と同様にして、親水性被膜付きの透明部材を作成した。
【0083】
(実施例3)
親水性ポリマー塗工液Aの調整の際に、純水の量を300gとして調整した親水性ポリマー塗工液を用いた以外は実施例1と同様にして、親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0084】
(実施例4)
シリカ粒子塗工液の調製の際に、シリカ粒子分散液の希釈溶媒として1-ペンタノールを用いた。またシリカ塗工液をスピンコートを行った後に加熱する工程を繰り返す回数を18回とした。その他の工程は実施例1と同様にして、親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0085】
(実施例5)
実施例5は、シリカ粒子塗工液の調製の際に、シリカ粒子分散液の希釈溶媒として乳酸メチルを用いた。鎖状シリカ塗工液を、スピンコートにて塗布した後に加熱する工程の繰り返し回数を5回とした以外は、実施例1と同様にして、親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0086】
(実施例6)
実施例6は、親水性ポリマー塗工液Bを用いた以外は実施例1と同様にして作成し、親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0087】
(実施例7)
シリカ塗工液をスピンコート法によって塗布した後に加熱する工程の繰り返し回数を2回とした点を除き、実施例1と同様にして、親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0088】
(比較例1)
実施例1の親水性ポリマー塗工液をスピンコート法にて塗布する工程以降の工程を行わず、多孔質層のみからなる親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0089】
(比較例2)
シリカ粒子塗工液の調製の際、シリカ粒子分散液の希釈溶媒に2-メトキシエタノールを用いた。また親水性ポリマー塗工液Aの調整の際に純水で希釈せず、LAMBIC-771Wをそのまま親水性ポリマー塗工液として用いた。それ以外は実施例1と同様にして、親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0090】
(比較例3)
実施例1と同様にして多孔質層を形成したのち、多孔質層上に、親水性ポリマー塗工液Cを適量滴下し、3000rpmで30秒の条件でスピンコートを行なった。その後、熱風循環オーブン中で80℃10分間加熱した(乾燥工程)。その後UV照射装置スポットキュア(ウシオ電機株式会社製)を用いて、UV強度100mW/cm2で10s照射して(硬化工程)、親水性被膜付きの透明部材を作製した。
【0091】
実施例1~7、比較例1~3についての評価結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
表1に示されるように、両性イオン親水基を有する親水性ポリマー層の層厚が1nm以上20nm以下であれば、初期、長期保管試験、300時間の屋外暴露試験いずれにおいても水に対する接触角が30°未満であり、親水性が維持されることが確認された。さらに、多孔質層の膜厚が、200nm以上であれば、初期、長期保管試験、300時間および600時間の屋外暴露試験いずれにおいても水に対する接触角が30°未満であり、より長期にわたって親水性が維持されることが確認された。一方多孔質層の表面に親水性ポリマー層を形成していない比較例1では長期保管試験後の水に対する接触角が57°となり、親水性を維持することができなかった。また多孔質層の膜厚や空隙率、親水性ポリマーの膜厚が本発明の範囲外である比較例2においては、屋外暴露試験後の接触角が30°を超え、親水性を維持することができなかった。また親水性ポリマーの親水基が両性イオン親水基でない比較例3では長期保管試験後の水に対する接触角が35°となり、親水性を維持することができなかった。
【符号の説明】
【0094】
10 透明部材
11 シリカ粒子
12 バインダー
13 空隙
14 多孔質層
15 親水性ポリマー層
16 基材