(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】像振れ補正制御装置、撮像装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
G03B 5/00 20210101AFI20240119BHJP
G02B 7/34 20210101ALI20240119BHJP
G03B 17/14 20210101ALI20240119BHJP
H04N 23/67 20230101ALI20240119BHJP
H04N 23/68 20230101ALI20240119BHJP
H04N 23/54 20230101ALI20240119BHJP
H04N 23/66 20230101ALI20240119BHJP
【FI】
G03B5/00 J
G02B7/34
G03B17/14
G03B5/00 L
H04N23/67
H04N23/68
H04N23/54
H04N23/66
(21)【出願番号】P 2020057790
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 潤一
(72)【発明者】
【氏名】木村 正史
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008739(JP,A)
【文献】特開2020-008735(JP,A)
【文献】特開2019-028359(JP,A)
【文献】特開2019-128362(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179823(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0048793(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
H04N 23/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光学系の異なる瞳領域を通過した光束を撮像する撮像素子によって得られる一対の像信号の位相差に基づいて、焦点検出を行う焦点検出手段と、
前記撮像素子を前記撮影光学系に対して移動させる第1の像振れ補正手段を、像振れ補正量に基づいて制御する像振れ補正制御手段と、
前記撮影光学系の焦点距離が所定の焦点距離よりも長く、且つ、前記撮影光学系の絞り値が所定の絞り値よりも大きい第1の状態であるか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記像振れ補正制御手段は、
前記判定手段が、前記第1の状態であると判定しなかった場合、
前記撮影光学系の光軸に垂直な第1の方向における前記撮像素子が移動可能な距離を第1の距離とし、
前記判定手段が、前記第1の状態であると判定した場合、
前記第1の方向における前記撮像素子が移動可能な距離を前記第1の距離よりも短い第2の距離とすることを特徴とする像振れ補正制御装置。
【請求項2】
前記撮影光学系を備えるレンズユニットは、前記撮像素子を備える撮像装置に着脱可能であり、
前記判定手段は、
前記レンズユニットから取得されたレンズ情報に基づいて前記第1の状態であるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項3】
前記レンズ情報は、前記レンズユニットの識別情報であることを特徴とする請求項2に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項4】
前記第2の距離は予め定められた距離であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項5】
前記第2の距離は0であり、
前記判定手段により前記第1の状態であると判定されると、
前記像振れ補正制御手段は、前記第1の像振れ補正手段による像振れ補正機能を停止させることを特徴とする請求項4に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項6】
ユーザの入力に基づいて、前記第1の像振れ補正手段による像振れ補正機能を有効にするか否かを設定する設定手段をさらに備え、
前記像振れ補正制御手段は、
前記判定手段により前記第1の状態であると判定されると、前記設定手段による設定に関わらず、前記第1の像振れ補正手段による像振れ補正機能を停止させることを特徴とする請求項5に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項7】
前記像振れ補正制御手段は、
前記レンズユニットから取得されたレンズ情報に基づいて前記第2の距離を決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項8】
前記焦点検出手段は、前記撮像素子の一部の領域から取得される前記一対の像信号の位相差に基づいて前記焦点検出を行い、
前記判定手段が、前記第1の状態であると判定した場合、
前記像振れ補正制御手段は、前記一対の像信号を取得する前記領域の位置に基づいて前記前記撮像素子が移動可能な距離を第1の距離とするか前記第2の距離とするかを決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項9】
前記焦点検出手段は、前記撮像素子の一部の領域から取得される前記一対の像信号の位相差に基づいて前記焦点検出を行い、
前記領域の位置に基づいて前記第2の距離を決定することを特徴とする請求項1乃至3、及び7のいずれか1項に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項10】
前記像振れ補正制御手段は、前記撮像素子を前記撮影光学系の光軸の位置の変化量に基づいて移動させるように前記第1の像振れ補正手段を制御し、
前記判定手段により前記第1の状態であると判定された場合であっても、
前記光軸の位置の変化量に基づく前記撮像素子の前記第1の方向における移動可能な距離は、前記第2の距離に制限しないことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の像振れ補正制御装置。
【請求項11】
前記撮像素子と、前記第1の像振れ補正手段と、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の像振れ補正制御装置と、前記撮影光学系を備えるレンズユニットの装着が可能な装着部とを有する撮像装置。
【請求項12】
撮影光学系の異なる瞳領域を通過した光束を撮像する撮像素子によって得られる一対の像信号の位相差に基づいて、焦点検出を行う焦点検出手段と、前記撮像素子と、前記撮像素子を前記撮影光学系に対して移動させる第1の像振れ補正手段とを備える撮像装置の制御方法であって、
前記撮影光学系の焦点距離が所定の焦点距離よりも長く、且つ、前記撮影光学系の絞り値が所定の絞り値よりも大きい第1の状態であるか否かを判定する判定工程と、
前記第1の像振れ補正手段を、像振れ補正量に基づいて制御する像振れ補正制御工程と、を有し、
前記判定工程において、前記第1の状態であると判定しなかった場合、
前記像振れ補正制御工程において、
前記撮影光学系の光軸に垂直な第1の方向における前記撮像素子が移動可能な距離を第1の距離とし、
前記判定工程において、前記第1の状態であると判定した場合、
前記像振れ補正制御工程において、
前記第1の方向における前記撮像素子が移動可能な距離を前記第1の距離よりも短い第2の距離とすることを特徴とする撮像装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は像振れ補正制御装置、撮像装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラにおいて、特許文献1に示すような、焦点検出を行うための焦点検出用画素が撮像面に配置された撮像素子を有し、撮影光学系の射出瞳の異なる領域から得られる2つの撮像信号の位相差に基づいて焦点検出を行う撮像装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、撮像素子や撮影光学系の一部を割り付け制御によって駆動して像振れ補正を行うカメラを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-57474号公報
【文献】特許第4567313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2が開示するカメラが有する像振れ補正機能を適用し、撮影者が焦点を合わせたい被写体を撮影画面内の焦点検出枠内にとどめることで、撮影者のフレーミングを的確にアシストすることが考えられる。しかし、このカメラのように、像振れ補正手段としての撮像素子や撮影光学系の一部を駆動することは、実質的に撮影光学系の光軸と撮像素子中心の位置関係を変更することに相当する。したがって、像振れ補正手段を駆動すると、焦点検出枠の像高が変更されたことと同様に、撮影光学系を通過する光束に生じるケラレの状態が変化する。その結果、位相差を算出するために用いる2つの撮像信号の光量バランスが変化して、焦点検出の精度が低下し、撮影者のフレーミングを的確にアシストできたとしても、焦点の合っていない画像を撮影してしまう。本発明は、焦点検出の際のケラレの影響を抑えることができる像振れ補正制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての像振れ補正制御装置は、撮影光学系の異なる瞳領域を通過した光束を撮像する撮像素子によって得られる一対の像信号の位相差に基づいて、焦点検出を行う焦点検出手段と、前記撮像素子を前記撮影光学系に対して移動させる第1の像振れ補正手段を、像振れ補正量に基づいて制御する像振れ補正制御手段と、前記撮影光学系の焦点距離が所定の焦点距離よりも長く、且つ、前記撮影光学系の絞り値が所定の絞り値よりも大きい第1の状態であるか否かを判定する判定手段と、を備え、前記像振れ補正制御手段は、前記判定手段が、前記第1の状態であると判定しなかった場合、前記撮影光学系の光軸に垂直な第1の方向における前記撮像素子が移動可能な距離を第1の距離とし、前記判定手段が、前記第1の状態であると判定した場合、前記第1の方向における前記撮像素子が移動可能な距離を前記第1の距離よりも短い第2の距離とする。
【0007】
本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、焦点検出の際のケラレの影響を抑えることができる像振れ補正制御装置を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1、2の撮像装置の構成例を示す図である。
【
図3】撮像素子の画素の構成例を説明する図である。
【
図4】撮像素子の画素構造と瞳分割との対応関係を説明する図である。
【
図5】撮像素子と瞳分割との対応関係を説明する図である。
【
図6】デフォーカス量と像ずれ量の関係を説明する図である。
【
図7】焦点検出処理の例を説明するフローチャートである。
【
図8】撮像素子の周辺像高における瞳部分領域と撮影光学系の射出瞳の関係を説明する図である。
【
図9】フィルタ処理の通過帯域例を説明する図である。
【
図10】射出瞳面上での瞳分離の状態の例を示す図である。
【
図11】実施例1の撮像装置における撮像動作を説明するフロー図である。
【
図12】実施例2の撮像装置における撮像動作を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本実施例の撮像装置の構成例を示す図である。撮像システム1000は、撮像装置(カメラ本体)12と、撮像装置の装着部(マウント)に着脱可能な交換レンズ12とを備える、レンズ交換式のデジタルカメラである。撮像システム1000は、取り付けられた交換レンズ11内に、撮影光学系101が配設され、撮影光束のための光路が形成される。この光路を透過した光束が、撮像装置12に配設された撮像素子102へと到達し、撮像素子102に光軸垂直平面内に配列された画素内のフォトダイオードによって光電変換される。光電変換により得られる信号に対して、画像処理手段がガンマ処理、ノイズ処理等を行って、画像データを生成したうえで、不揮発メモリに書き込むことで、1枚の撮影処理が終了となる。
【0012】
撮像システム1000は、撮影者の指示によって焦点検出を行い、所望の被写体が合焦状態の画像を撮影できるようにする。撮像素子102に配設される画素が焦点検出用画素を兼ねており、焦点検出用画素の出力を元に、焦点検出手段103が被写体の焦点状態を検出する。具体的には、焦点検出手段103は、撮影光学系の異なる瞳領域を通過する光束の光電変換によって得られる一対の像信号(焦点検出信号)の位相差に基づいて、焦点検出を行う。焦点検出手段103は、焦点状態の検出結果に基づいて、焦点調節光学系108が光軸方向に移動すべき移動量を算出する。そして、レンズユニットが備える焦点調節制御手段(不図示)によって、焦点調節光学系108が光軸方向に移動量分だけ移動動される。焦点検出の詳細については後述する。
【0013】
また、撮像システム1000は、撮影者が手持ち撮影をする際に発生してしまう、手振れなどの不要な振動を抑制する像振れ補正手段を複数有する。第1の像振れ補正手段は、撮像素子102を光軸と垂直な面内で移動可能に保持し、撮像素子102を移動することで像振れ補正を行うセンサシフト式像振れ補正手段105である。
【0014】
第2の像振れ補正手段は、交換レンズ11内に配設された撮影光学系101の一部である像振れ補正光学系109を有するレンズシフト式像振れ補正手段104である。像振れ補正光学系109は、絞り111よりも像面側に配設された凹レンズである。
【0015】
像振れ補正制御手段107は、センサシフト式像振れ補正手段105とレンズシフト式像振れ補正手段104とを、像振れ補正量に基づいて制御して、撮像素子102と像振れ補正光学系109とを光軸に垂直な平面内にシフト移動させる。これにより、センサシフト式像振れ補正とレンズシフト式像振れ補正を行うことができる。像振れ補正量は、撮像システム1000の移動量による像振れを補正するための撮像素子102、像振れ補正光学系109の移動量であり、角速度センサの出力、加速度センサの出力、動きベクトル等に基づく。尚、本実施例の第2の像振れ補正手段は、レンズシフトにより像振れ補正を実行しているが、像振れ補正の方法は、レンズシフトに限定されない。撮影光学系101全体を揺動させて像振れ補正を実行してもよいし、撮影光学系101の一部である可変プリズムのプリズム角度変化によって像振れ補正を実行してもよい。
【0016】
像振れ補正制御手段107は、更に、撮影光学系101の焦点距離が所定の焦点距離よりも長く、且つ、撮影光学系の絞り値が所定の絞り値よりも大きい状態(以下、単に第1の状態と呼ぶことがある)であるか否かを判定する。この判定は、レンズユニットから取得したレンズ情報に基づいて行う。第1の状態であると判定した場合は、センサシフト式像振れ補正の際の撮像素子102の移動可能な距離を、第1の状態であると判定しなかった場合よりも短い距離に制限する。この制御の詳細は後述する。
【0017】
本実施例では、2つの像振れ補正手段を用いることで、像振れ補正可能な領域が拡大され、撮影される画像の安定化が図られる。保持枠110は、撮影光学系101の最終群を保持する鏡筒のメカ構造である。撮像素子の光軸から離れた、高像高領域などでは、保持枠110などのメカ構造によって撮影光束が遮られる、所謂「ケラレ」が生じ、焦点検出に影響を与える。したがって、撮像システム1000は、焦点検出の際には、記憶手段106に記憶されているケラレに関する情報を用いて、像振れ補正手段を制御する。ケラレについては、後述する。
【0018】
尚、焦点検出手段103と、像振れ補正制御手段107は、機能ブロックであり、ASICやプログラマブルロジックアレイ(PLA)などのハードウェアによって実現されてもよい。また、CPUやMPU等のプログラマブルプロセッサがソフトウェアを実行することによって実現されてもよい。また、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって実現されてもよい。従って、以下の説明において、異なる機能ブロックが動作主体として記載されている場合であっても、同じハードウェアが主体として実現されうる。また、記憶手段106はメモリで構成することができ、焦点検出手段103と像振れ補正制御手段107がプロセッサで構成される場合、プロセッサが実行するソフトウェアを記憶することができる。
【0019】
(撮像面位相差焦点検出系)
次に、撮像装置12が実行する焦点検出にについて、
図2から
図9を用いて説明する。
図2は、撮像装置12の撮像素子102の画素配列を4列×4行の範囲で、焦点検出画素配列を8列×4行の範囲で示す図である。
【0020】
図2に示す2列×2行の画素群200は、左上の位置にR(赤)の分光感度を有する画素200Rが左上に配置される。また、G(緑)の分光感度を有する画素200Gが右上と左下に配置される。また、B(青)の分光感度を有する画素200Bが右下に配置される。さらに、各画素は、2列×1行に配列された第1焦点検出画素201と第2焦点検出画素202を有する。
【0021】
図2に示す4列×4行の画素(8列×4行の焦点検出画素)を面上に多数配置することで、撮像画像(焦点検出信号)の取得が可能となる。本実施例では、画素の周期Pが4μm、画素数Nが横5575列×縦3725行=約2075万画素、焦点検出画素の列方向周期PAFが2μm、焦点検出画素数NAFが横11150列×縦3725行=約4150万画素の撮像素子として説明を行う。
【0022】
図3は、撮像素子の画素の構成例を説明する図である。
図2に示した撮像素子102の画素200Gを、撮像素子102の受光面側(+z側)から見た平面図を
図3(a)に示し、
図3(a)のa-a断面を-y側から見た断面図を
図3(b)に示す。尚、
図3(b)に記載の「光軸」は、マイクロレンズ305の光軸を示す。
【0023】
図3に示すように、画素200Gでは、各画素の受光側に入射光を集光するためのマイクロレンズ305が形成され、x方向にN
H分割(2分割)、y方向にN
V分割(1分割)された光電変換部301と光電変換部302が形成される。光電変換部301と光電変換部302が、それぞれ、第1焦点検出画素201と第2焦点検出画素202に対応する。光電変換部301と光電変換部302は、p型層とn型層の間にイントリンシック層を挟んだpin構造フォトダイオードとしても良いし、必要に応じて、イントリンシック層を省略し、pn接合フォトダイオードとしても良い。
【0024】
各画素には、マイクロレンズ305と、光電変換部301および光電変換部302との間に、カラーフィルタ306が形成される。また、必要に応じて、画素毎にカラーフィルタの分光透過率を変えても良いし、カラーフィルタを省略しても良い。画素200Gに入射した光は、マイクロレンズ305により集光され、カラーフィルタ306で分光されたのち、光電変換部301と光電変換部302で受光される。
【0025】
光電変換部301と光電変換部302では、受光量に応じて電子とホールが対生成し、空乏層で分離された後、負電荷の電子はn型層(不図示)に蓄積され、一方、ホールは定電圧源(不図示)に接続されたp型層を通じて撮像素子外部へ排出される。光電変換部301と光電変換部302のn型層(不図示)に蓄積された電子は、転送ゲートを介して、静電容量部(FD)に転送され、電圧信号に変換される。
【0026】
図4は、撮像素子の画素構造と瞳分割との対応関係を説明する図である。
図4には、
図3(A)に示す画素構造のa-a断面を+y側から見た断面と、撮影光学系101の射出瞳面とが示される。射出瞳面の座標軸と対応を取るために、断面図のx軸とy軸を
図3に対して反転させている。第1焦点検出画素201の第1瞳部分領域501は、重心が-x方向に偏心している光電変換部301の受光面と、マイクロレンズ305とによって、概ね、共役関係になっており、第1焦点検出画素201で受光可能な瞳領域を表している。第1焦点検出画素201の第1瞳部分領域501は、瞳面上で+X側に重心が偏心している。
【0027】
第2焦点検出画素202の第2瞳部分領域502は、重心が+x方向に偏心している光電変換部302の受光面と、マイクロレンズ305とによって、概ね、共役関係になっており、第2焦点検出画素202で受光可能な瞳領域を表している。第2焦点検出画素202の第2瞳部分領域502は、瞳面上で-X側に重心が偏心している。
【0028】
射出瞳400は、撮影光学系101の絞り開口によって形成され、射出瞳400の領域の内側の光束が、撮像素子102上に到達することとなる。また、瞳領域500は、光電変換部301と光電変換部302(第1焦点検出画素201と第2焦点検出画素202)を全て合わせた画素200G全体で受光可能な瞳領域である。
図5は、撮像素子と瞳分割との対応関係を説明する図である。第1瞳部分領域501と第2瞳部分領域502という異なる瞳部分領域を通過した光束は、撮像素子102の各画素に、それぞれ異なる角度で入射し、2×1分割された第1焦点検出画素201と第2焦点検出画素202で受光される。本実施例では、瞳領域は水平方向に2つに瞳分割されている。なお、必要に応じて、垂直方向に瞳分割を行っても良い。撮像素子102は、撮影光学系101の第1瞳部分領域を通過する光束を受光する第1焦点検出画素201と、第1瞳部分領域と異なる撮影光学系101の第2瞳部分領域を通過する光束を受光する第2焦点検出画素202とが複数配列されている。また、撮像素子102は、撮影光学系101の第1瞳部分領域と第2瞳部分領域を合わせた瞳領域を通過する光束を受光する撮像画素が複数配列されている。本実施例では、それぞれの撮像画素が第1焦点検出画素と第2焦点検出画素から構成されている。
【0029】
撮像装置12は、撮像素子102の各画素の第1焦点検出画素201の受光信号を集めて像信号である第1焦点信号を生成する。また、撮像装置12は、各画素の第2焦点検出画素202の受光信号を集めて像信号である第2焦点信号を生成する。そして、撮像装置12は、第1焦点信号と第2焦点信号とに基づいて焦点検出を行う。また、撮像装置12は、撮像素子102の画素毎に、第1焦点検出画素201と第2焦点検出画素202の信号を加算することで、有効画素数Nの解像度の撮像信号を生成する。
【0030】
以下、撮像装置12の撮像素子102から取得される第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のデフォーカス量と像ずれ量の関係について説明する。
【0031】
図6は、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のデフォーカス量と第1焦点検出信号と第2焦点検出信号間の像ずれ量の関係を説明する図である。
【0032】
撮像面800に撮像装置12の撮像素子102(不図示)が配置され、
図4、
図5と同様に、撮影光学系101の射出瞳が、第1瞳部分領域501と第2瞳部分領域502に2分割される。
【0033】
デフォーカス量dは、被写体の結像位置から撮像面までの距離を大きさ|d|とし、被写体の結像位置が撮像面より被写体側にある前ピン状態を負符号(d<0)として定義される。また、デフォーカス量dは、被写体の結像位置が撮像面より被写体の反対側にある後ピン状態を正符号(d>0)として定義される。
【0034】
被写体の結像位置が撮像面(合焦位置)にある合焦状態では、d=0である。
図6において、被写体801は、合焦状態(d=0)である。被写体802は、前ピン状態(d<0)である。前ピン状態(d<0)と後ピン状態(d>0)とが、デフォーカス状態(|d|>0)である。前ピン状態(d<0)では、被写体802からの光束のうち、第1瞳部分領域501(第2瞳部分領域502)を通過した光束は、一度、集光した後、光束の重心位置G1(G2)を中心として幅Γ1(Γ2)に広がり、撮像面800でボケた像となる。ボケた像は、撮像素子102に配列された各画素を構成する第1焦点検出画素201(第2焦点検出画素202)により受光され、第1焦点検出信号(第2焦点検出信号)が生成される。したがって、第1焦点検出信号(第2焦点検出信号)は、撮像面800上の重心位置G1(G2)に、被写体802が幅Γ1(Γ2)にボケた被写体像として記録される。被写体像のボケ幅Γ1(Γ2)は、デフォーカス量dの大きさ|d|が増加するのに伴い、概ね、比例して増加していく。同様に、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号間の被写体像の像ずれ量p(=光束の重心位置の差G1-G2)の大きさ|p|も、デフォーカス量dの大きさ|d|が増加するのに伴い、概ね、比例して増加していく。後ピン状態(d>0)でも、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号間の被写体像の像ずれ方向が前ピン状態と反対となるが、同様である。したがって、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号、もしくは、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号を加算した撮像信号のデフォーカス量の大きさが増加するのに伴い、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号間の像ずれ量の大きさが増加する。
【0035】
本実施例の撮像装置は、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のデフォーカス量と像ずれ量の関係性を用いて、位相差方式の焦点検出を行う。具体的には、焦点検出手段103は、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号を相対的にシフトさせて信号の一致度を表す相関量を計算し、相関が良くなるシフト量から像ずれ量を検出する。焦点検出手段103は、撮像信号のデフォーカス量の大きさが増加するのに伴い、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号間の像ずれ量の大きさが増加する関係性から、像ずれ量を検出デフォーカス量に変換して焦点検出を行う。
【0036】
図7は、焦点検出処理の例を説明するフローチャートである。
【0037】
撮像素子102が焦点検出のための撮像を行うと、光電変換部301による光電変換の結果に基づいて第1焦点検出信号が取得され、光電変換部302による光電変換の結果に基づいて第2の焦点検出信号が取得される。第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号とが、焦点検出に用いる一対の像信号である。第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号が取得されると、ステップS110が開始する。
【0038】
ステップS110において、焦点検出手段103が、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のそれぞれについて、信号データ量を抑制するために列方向に3画素加算処理を行う。また、焦点検出手段103は、RGB信号を輝度Y信号にするためにベイヤ(RGB)加算処理を行う。また、焦点検出手段103は、3行ごとに1行の読み出しを行う、垂直間引き処理を実施する。本実施例では、水平加算および垂直間引き処理は、撮像素子102から読み出した後に実施するが、撮像素子102内で予め水平加算、垂直間引きの処理がなされてもよい。ステップS120において、焦点検出手段103が、撮像素子102の有効画素領域の中から焦点調節を行う対象となる焦点検出領域を設定する。焦点検出手段103は、焦点検出領域の第1焦点検出画素の受光信号から第1焦点検出信号を生成し、焦点検出領域の第2焦点検出画素の受光信号から第2焦点検出信号を生成する。次に、S130において、焦点検出手段103が、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のそれぞれに対してシェーディング補正処理を行う。以下、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号の瞳ずれによるシェーディングについて説明する。
【0039】
図8は、撮像素子の周辺像高における瞳部分領域と撮影光学系の射出瞳の関係を説明する図である。
図8では、撮像素子102の周辺像高における第1焦点検出画素201の第1瞳部分領域501、第2焦点検出画素202の第2瞳部分領域502、および撮影光学系101の射出瞳400の関係を例にとって説明する。
図8(a)は、撮影光学系101の射出瞳距離Dlと撮像素子102の設定瞳距離Dsが同じ状態を示す。この状態の場合は、第1瞳部分領域501と第2瞳部分領域502により、撮影光学系101の射出瞳400が、概ね、均等に瞳分割される。
図8(b)は、撮影光学系101の射出瞳距離Dlが撮像素子102の設定瞳距離Dsより短い状態を示す。この状態の場合、撮像素子102の周辺像高では、射出瞳400と撮像素子102の入射瞳の瞳ずれを生じ、射出瞳400が不均一に瞳分割されてしまう。
図8(c)は、撮影光学系101の射出瞳距離Dlが撮像素子102の設定瞳距離Dsより長い状態を示す。この状態の場合、撮像素子102の周辺像高では、射出瞳400と撮像素子102の入射瞳の瞳ずれを生じ、射出瞳400が不均一に瞳分割されてしまう。周辺像高で瞳分割が不均一になるのに伴い、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号の強度も不均一になり、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のいずれか一方の強度が大きくなり、他方の強度が小さくなるシェーディングが生じる。後述するが、像振れ補正を行うセンサシフト式像振れ補正手段105に対する移動量の制限は、撮影光学系101の焦点距離が長いことで、
図8(c)のような状態になっている場合に行う。
【0040】
図7の説明に戻る。ステップS130において、焦点検出手段103が、第1焦点検出信号の第1シェーディング補正係数と第2焦点検出信号の第2シェーディング補正係数を生成する。焦点検出手段103は、焦点検出領域の像高、撮影光学系101のF値(絞り値)、射出瞳距離、射出瞳光束のケラレ状態に応じて、第1シェーディング補正係数および第2シェーディング補正係数を生成する。焦点検出手段103は、第1シェーディング補正係数を第1焦点検出信号に乗算し、第2シェーディング補正係数を第2焦点検出信号に乗算して、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のシェーディング補正処理を行う。位相差方式の焦点検出では、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号の相関を基に、検出デフォーカス量の検出を行う。瞳ずれによるシェーディングが生じると第1焦点検出信号と第2焦点検出信号の相関が低下する場合がある。したがって、位相差方式の焦点検出では、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号の相関(信号の一致度)を改善し、焦点検出性能を良好とするために、シェーディング補正処理(光学補正処理)を行うことが望ましい。
【0041】
図8中では不図示であるが、射出瞳400を構成する開口以外にも、各光学系を保持するメカ部材や、交換レンズ11の最後群から撮像素子102までの撮像装置内のメカ部材が存在する。絞り値や像高などによっては、これらのメカ部材によって、撮影光学系を通過する光束が遮られることがあり、一般にこれを光束の「ケラレ」と称する。
【0042】
第1焦点検出信号と第2焦点検出信号のシェーディングは、ケラレによっても発生し、ケラレが既知である条件においては、ケラレについても加味したシェーディング補正を行うことで、焦点検出精度の低下を防ぐことができる。撮像装置12は、シェーディング補正係数SHDが、焦点検出領域の像高と、撮影光学系101のF値(絞り値)、射出瞳距離およびケラレ状態に対応したテーブルとして記憶手段106に格納している。シェーディング補正係数SHDは、撮影光学系の射出瞳の互いに異なる領域から得られる複数の像信号の強度比に相当する。射出瞳距離は、交換レンズ毎(ズームレンズであればズームステート毎)に異なる値であるため、それぞれに応じたテーブルが設けられている。また、ケラレ状態は、像振れ補正光学系109の位置によって変化するので、像振れ補正光学系109のストローク量(移動量)毎にシェーディング補正係数SHDを持たせることで表現されている。撮像装置12においては、レンズシフト式像振れ補正手段104のストローク量毎に異なるシェーディング補正係数SHDのテーブルを持つことで、ケラレ情報を保有している。センサシフト式像振れ補正手段105が移動する撮像素子102の位置については、単純な焦点検出領域の像高変化ととらえることができる。したがって、撮像装置12は、撮像素子102の位置毎のシェーディング補正係数テーブルは保持しておらず、撮像素子102の移動に伴うシェーディング補正量は、像高毎のシェーディング補正係数SHDのテーブルに基づいて取得する。撮像装置12は、例えば、レンズシフト式像振れ補正手段104とセンサシフト式像振れ補正手段105の移動で取りうる相対位置関係を、前述の像振れ補正光学系109のストローク量として保持する。
【0043】
図7のステップS140では、焦点検出手段103が、第1焦点検出信号と第2焦点検出信号に、フィルタ処理を行う
図9は、フィルタ処理の通過帯域例を説明する図である。
【0044】
図9の実線が、フィルタ処理の通過帯域で示す。本実施例では、位相差方式の焦点検出により、大デフォーカス状態での焦点検出を行うため、フィルタ処理の通過帯域は低周波帯域を含むように構成される。大デフォーカス状態から小デフォーカス状態まで焦点調節を行う際に、デフォーカス状態に応じて、焦点検出時のフィルタ処理の通過帯域を、
図9の1点鎖線のように、より高周波帯域に調整しても良い。
【0045】
次に、
図7のステップS150において、焦点検出手段103が、フィルタ処理後の第1焦点検出信号と第2焦点検出信号を相対的に瞳分割方向にシフトさせるシフト処理を行い、信号の一致度を表す相関量を算出する。フィルタ処理後のk番目の第1焦点検出信号をA(k)、第2焦点検出信号をB(k)、焦点検出領域に対応する番号kの範囲をWとする。シフト処理によるシフト量をs1、シフト量s1のシフト範囲をΓ1として、相関量CORは、下記式により算出される
【0046】
【数1】
焦点検出手段103は、シフト量s1の第1シフト処理により、k番目の第1焦点検出信号A(k)とk-s1番目の第2焦点検出信号B(k-s1)を対応させ減算し、シフト減算信号を生成する。焦点検出手段103は、生成されたシフト減算信号の絶対値を計算し、焦点検出領域に対応する範囲W内で番号kの和を取り、相関量(第1評価値)COR(s1)を算出する。必要に応じて、各行毎に算出された相関量(第1評価値)を、シフト量毎に、複数行に渡って加算しても良い。
【0047】
ステップS160において、焦点検出手段103が、相関量から、サブピクセル演算により、相関量が最小値となる実数値のシフト量を算出して像ずれ量p1とする。焦点検出手段103は、像ずれ量p1に、焦点検出領域の像高と、撮影光学系101のF値、射出瞳距離およびケラレ情報に応じた換算係数Kをかけて、検出デフォーカス量(Def)を検出する。すなわち、換算係数Kによって、複数の像信号の位相差がデフォーカス量へと換算される。換算係数Kは、撮像装置12が有する記憶手段106に格納されたテーブルデータとして存在する。換算係数Kのテーブルは、シェーディング補正係数SHDのテーブルと同様に、交換レンズ毎の射出瞳距離に応じたテーブルとして設けられている。また、ケラレ状態についても同様に、換算係数Kが、像振れ補正光学系109のストローク量毎に記述される。撮像装置12においては、像振れ補正光学系109のストローク量毎に異なる換算係数Kのテーブルを持つことで、ケラレ情報を保有している。焦点検出手段103は、検出された検出デフォーカス量に対し、フォーカス敏感度を掛けることで、焦点調節光学系108の移動量を決定する。
【0048】
図7を参照して説明した処理は、静止画撮影モードであれば、不図示のシャッターボタンの半押し動作(SW1)による指示から、合焦確認のための焦点検出が完了するまで、毎フレーム実施される。また、この処理は、動画撮影モードであれば、毎フレーム実施される。焦点検出領域の像高については、過去の複数のフレームでの、追尾(焦点検出枠の自動選択)の履歴や、二つの像振れ補正手段の移動位置の履歴から予測し決定される。詳細は後述するが、本実施例では、焦点検出領域を示す焦点検出枠の位置に応じて、像振れ補正手段が、ケラレ影響が所定以下となる位置を移動中心として移動制御を行う。
【0049】
本実施例では、シェーディング補正係数SHDおよび変換係数Kをテーブルの形で記憶手段106に格納しているが、ケラレ情報を瞳面上の2次元的な枠形状として保有し、このケラレ情報を元に係数計算をカメラ内で行って求めてもよい。上記の2次元的な枠形状は、ケラレの状態に応じた撮影光学系の射出瞳面上の光束形状に相当する。また、本実施例では、記憶手段106の場所について特段の記載をしていないが、記憶手段106を撮像装置12側に持たせてもよいし、交換レンズ11と撮像装置12とに分割して持たせても良い。
【0050】
次に、撮像システム1000の像振れ補正手段である、レンズシフト式像振れ補正手段104およびセンサシフト式像振れ補正手段105の移動と焦点検出の関係について
図10を用いて説明する。
【0051】
図10((a)~(c))において、撮影光学系101は焦点距離が長い、所謂超望遠レンズであり、絞り値が大きい(=絞り開口径が小さい)様子、言い換えると、撮影光学系が第1の状態である様子を示している。
図10は
図8(c)と同様に、撮影光学系101の射出瞳距離Dlが撮像素子102の設定瞳距離Dsより長い状態となっている。一般に、撮影光学系の焦点距離が長い場合には、射出瞳距離Dlは焦点距離が短い場合に比べ長くなる。
【0052】
図10(a)は撮像素子102の中央像高近傍の画素が、
図10(b)は撮像素子102の周辺像高の画素が瞳分割する様子を示している。
図10(a)及び(b)には、センサシフト式像振れ補正手段105は動作しておらず、撮像素子102の中心が撮影光学系101の光軸と一致している状態を示した。特に
図10(b)のように焦点検出を行う領域(像信号を取得する領域。AF領域)の像高が高い場合、瞳分割の不均一性が大きく、前述のシェーディング補正を行っても、S/Nが低下した状態での焦点検出となってしまう。
図10(c)は
図10(b)の状態から、センサシフト式像振れ補正手段105が図の左方に移動した様子を示したものである。センサシフト式像振れ補正手段105の移動に伴って、光電変換部301と光電変換部302も図中の左方向に移動する。これにより、第1瞳部分領域501から取得される信号量が
図10(b)よりもさらに低下し、S/Nの低下が懸念される。
【0053】
一方で、撮影光学系101は焦点距離が長いため、焦点距離が短いときと比べて像振れ補正の効果(被写体像と撮像面との相対移動量)が小さい。よって、焦点距離が長い場合はセンサシフト式像振れ補正手段105が大きく移動しても、像振れ補正の効果は大きくなく、焦点検出中に像振れ補正を行うと、得られる像振れ補正効果に対して焦点検出の精度の低下が大きい場合がある。したがって本実施例では、このような撮影光学系が第1の状態である状況においては、センサシフト式像振れ補正手段105のストローク量に対して制限を設けることで、焦点検出精度の低下を軽減する。
【0054】
ストローク量の制限のかけ方について
図11を用いて説明をする。
図11は、撮像装置12の像振れ補正制御手段107が行う、撮像動作のフロー図である。
図11には、像振れ補正制御手段107が、撮影光学系101の焦点距離情報と絞り値(F値)に基づいて撮影光学系が第1の状態であるか否かを判定する例のフローを示す。
【0055】
図11のフローは、電源投入や撮影準備指示であるレリーズボタンの半押し(SW1)によってスタートする。また、本実施例では、本フローの開始前から、あるいは本フローの開始と同時に、センサシフト式像振れ補正手段105による像振れ補正動作が行われているものとする。つまり、本フローが実行される際には、撮像処理前であってもセンサシフト式像振れ補正手段105が駆動されている状態である。像振れ補正は静止画の露光中に効果を発揮すればよいため、露光前にはセンサシフト式像振れ補正手段105を駆動しなくてもよい。しかしながら、交換レンズ11がレンズシフト式像振れ補正手段104を有していない場合や、連写モード時などにフレーミングのために、センサシフト式像振れ補正手段105を露光前から駆動してもよく、本実施例も露光前から駆動するものとする。
【0056】
ステップS1001において、像振れ補正制御手段107は、撮影光学系101の焦点距離fが、所定の焦点距離fthよりも長いか否かを判定する。所定の焦点距離fthは、前述の焦点検出のS/Nの低下の度合いによって予め決定されたものであって、例えば500mmなど比較的大きな値が採用され、記憶手段106に記憶されている。前述の通り、焦点距離fが大きくなると、レンズ射出瞳距離が大きくなるため、S/Nが低下する。尚、ここでは焦点距離自体を用いて判定しているが、それには限定されず、焦点距離に対応する値であれば判定に用いることができる。例えば、レンズシフト式像振れ補正手段104とセンサシフト式像振れ補正手段105が、焦点距離に基づいた比率で像振れ補正角を分担して補正する場合、全体の補正量に対する、センサシフト式像振れ補正手段105の補正量の割合から判断してもよい。例えば、レンズシフト式像振れ補正手段104の制御比率が圧倒的に高い場合には、所定の焦点距離を超えた光学系であることが推定されるため、これに基づいて本ステップの判定を行ってもよい。焦点距離が所定の焦点距離fthよりも長いと判定された場合には、ステップS1002へと進む。長くない(fth以下である)と判定された場合には、ステップS1004へと進む。
【0057】
ステップS1002で、像振れ補正制御手段107は、現在の撮影光学系101の絞り値(Fno.)が所定の絞り値Fno.thよりも大きいか否かを判定する。所定の絞り値Fno.thは前述の焦点検出のS/Nの低下の度合いによって予め決定されたものであり、撮像素子102と撮影光学系101との光学的特性に基づいて設定する。例えば8などの比較的大きな値が採用され、記憶手段106に記憶されている。Fno.が所定の絞り値Fno.thよりも大きいと判定された場合は、撮影光学系の焦点距離が長く、且つ、絞り値が大きい第1の状態であると判定され、ステップS1003へと進む。Fno.が所定の絞り値Fno.thよりも大きくない(Fno.th以下である)と判定された場合はステップS1004へと進む。尚、本実施例では絞り値(Fno.)を用いて判定したが、絞り値の代わりに開口径の大きさを用いて本判定を行ってもよい。
【0058】
ステップS1003では、像振れ補正制御手段107が撮影光学系101の焦点距離fが長く、且つ、絞り値(Fno.)が大きいことから、センサシフト式像振れ補正手段105の移動量を制限するセンサシフト量制限動作を発動させる。これにより、センサシフト式像振れ補正手段105の移動量は、焦点距離fが所定値以下または、絞り値が所定値以下の場合(第1の状態でないと判定された場合)のセンサシフト式像振れ補正手段105の移動量よりも小さい範囲に抑えられる。これにより、
図10(c)のような状況に陥ることなく、焦点検出手段103の焦点検出に用いられる焦点検出信号のS/Nを確保することができる。センサシフト量の制限は、ステップS1003を経た場合のほうが、経ない場合よりも短い距離しか撮像素子102が移動できないようにすればよい。具体的には、撮影光学系101の光軸に垂直な第1の方向(X方向)における撮像素子102の移動可能な距離が第1の距離が設定されている場合、本ステップでは第1の方向における撮像素子102の移動可能な距離を第1の距離よりも短い第2の距離とする。尚、第1の方向は、第1焦点検出画素201と第2焦点検出画素202との配列方向(位相差検出方向、本実施例ではX方向)であることが好ましい。第2の距離は、記憶手段106に予め記憶されている距離としてもよいし、第1の距離に1未満の係数をかけたり、第1の距離から所定の値を引いたりすることで取得してもよい。また、第2の距離に関する情報をレンズユニットから取得し、取得した情報に基づいて第2の距離を決定してもよい。また、第2の距離を0としてもよい。この場合、撮像装置がユーザの操作により、センサシフト方式の像振れ補正機能のON/OFF(有効/無効)を設定できる仕様であり、ユーザによりONが設定されていたとしても、センサシフト方式による像振れ補正機能を停止させる。
【0059】
ステップS1003で第2の距離が設定されると、後述するステップS1006までは第2の距離を移動距離がとれる最大値(つまり、移動可能な範囲)とするセンサシフト式の像振れ補正を実行する。
【0060】
ステップS1004において、焦点検出手段103は
図7に示した焦点検出処理を行い、取得した焦点検出結果に基づき焦点調節制御手段が焦点調節駆動を行う。焦点調節駆動が完了するとステップS1005に進む。尚、第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号とを取得するための露光期間中もセンサシフト式の像振れ補正を実行する。このときの撮像素子102の第1の方向における移動可能距離は、ステップS1003を経た場合は第2の距離に制限され、ステップS1003を経ずにステップS1001、またはS1002からステップS1004へ進んだ場合は第1の距離である。
【0061】
ステップS1005では、撮像動作開始指示であるレリーズボタンの全押し(SW2)がなされたか否かを判定する。SW2が検出されない場合には、ステップS1001へと戻り、SW2が検出されるまでステップS1001からステップS1004を繰り返す。尚、本実施例は、いわゆるサーボAFのように、被写体への焦点調節動作をSW2検出まで繰り返すため、ステップS1001へと戻っているが、これには限定されない。例えば、ステップS1004での焦点調節駆動が完了すると、SW2が検出されるまで、ステップS1005で待機してもよい。SW2が検出されるとステップS1006へと進む。
【0062】
ステップS1006では、撮像動作を開始するために、ステップS1003で発動されたセンサシフト量制限動作を停止し、撮像素子102の第1の方向における移動可能距離を第1の距離に設定する。これにより、焦点距離や絞り値に関わらず、センサシフト方式の像振れ補正は、撮像装置12に加わる振れを可能な限り補正する、通常の像振れ補正駆動へと切り替えられる。尚、本実施例では、制限をかけない場合の焦点検出中の移動可能距離と、撮像中の移動可能距離とを共に第1の距離としたが、撮像中の移動可能距離を第3の距離としてもよい。この場合、第3の距離は第1の距離以上であることが好ましい。その後、ステップS1007において、撮像素子102によって撮像処理がなされ、ステップS1008へと進む。
【0063】
ステップS1008において、SW2が継続して指示されているか(レリーズ釦全押し状態が継続されているか)が判定される。SW2が指示されていない状態に遷移したと判定された場合にはステップS1009へ進む。SW2指示が継続していると判定された場合には、ステップS1007へと戻る。ステップS1009では、SW1が指示されているか(レリーズ釦半押し状態であるか)が判定される。SW1が指示されていない場合は、本フローを終了する。SW1が指示されている場合はS1001へ戻る。この戻り先についてはステップS1005で説明したことと同様に、ステップS1005へと戻るものであってもよい。
【0064】
本実施例により、焦点検出時のセンサシフト量に制限を設けることで、焦点検出信号のS/Nを確保した撮像装置を提供することが可能となった。
【実施例2】
【0065】
本実施例では、像振れ補正制御手段107が、撮影光学系101の焦点距離情報と絞り値(F値)に関連のある、交換レンズ11のレンズ種別を示す識別情報に基づいて、撮影光学系が第1の状態であるか否かを判定する例について説明をする。実施例1との差異は、撮像動作のフローのみであるため、交換レンズ11及び撮像装置12構成の説明は省略する。
【0066】
図12は、撮像装置12の像振れ補正制御手段107が行う、撮像動作のフロー図である。
図11のフローとの違いは、ステップS2001において、交換レンズ11のレンズ種別(型番)を示すレンズ情報を含む個体識別情報(レンズID)に基づいて、第1の状態であるか否かを判定する点である。
【0067】
例えば単焦点レンズの場合、交換レンズ11の設計の段階から、撮影光学系101の焦点距離、開放絞り値は固定値である。設計の段階でこの焦点距離、開放絞り値が所定以上の値であることが分かっている場合、この撮影光学系は第1の状態しかとることができないため、レンズ種別に応じて、前述のセンサシフト量制限動作を行うか否かを切り替えることが可能になる。また、ズームレンズであり、焦点距離が可動な場合であっても焦点距離の最小値が所定値(fth)以上の場合も同様である。よって、所定の焦点距離以下の焦点距離をとることができず、且つ、所定の絞り値をとることができない(つまり、第1の状態しか取れない)レンズ種別を予め撮像装置の記憶手段に登録しておく。そして、ステップS2001で、取得したレンズIDに基づいて、装着されている交換レンズ11が登録されている種類のレンズであるか否かを判定することで、撮影光学系が第1の状態であるか(第1の状態しかとれないか)否かを判定することができる。尚、レンズIDは、交換レンズ11が撮像装置12に装着されると交換レンズ11から撮像装置12へ送信される。このように、像振れ補正制御手段が焦点距離や絞り値自体を用いずに第1の状態であるか否かを判定することも、焦点距離が所定の焦点距離よりも長く、且つ、絞り値が所定の絞り値よりも大きい第1の状態であるか否かを判定しているものとみなす。
【0068】
ステップS2004~S2009は、
図11のステップS1004~S1009にそれぞれ対応するため、説明は省略する。ただし、本フローにおいてはステップS2005でSW2が指示されていないと判定された場合の戻り位置がステップS2005となっており、SW2が入力されるまでステップS2005で待機するフローとなっている。尚、実施例1と同様に被写体への焦点調節動作をSW2検出まで繰り返してもよく、ステップS2005でNoと判定された場合はステップS2004へ戻ってもよい。また、本フローにおいてはステップS2009でSW1指示が入力されていると判定された場合の戻り位置がステップS2005となっており、SW2が入力されるまでステップS2005で待機するフローとなっている。
【0069】
本実施例により、焦点検出時のセンサシフト量に制限を設けることで、焦点検出信号のS/Nを確保した撮像装置を提供することが可能となった。
【0070】
[変形例]
上述の実施例では、1つの画素が2つの光電変換部301、302を有し、第1焦点検出画素201と第2焦点検出画素202とが隣接して配置されている撮像素子を用いた撮像面位相差方式の焦点検出方法について説明をした。しかしながら、撮像素子の構成はこれに限定されない。例えば、光電変換部301のみを有する画素と、光電変換部302のみを有する画素とが配置されている撮像素子や、2つの光電変換部を有する画素が点在している撮像素子を用いて撮像面位相差方式の焦点検出を行ってもよい。
【0071】
また、ステップS1003やステップS2003で、撮像素子102の移動可能距離を一律に第2の距離に設定したが、焦点距離や絞り値に基づいて第2の距離を設定してもよい。例えば、同じレンズユニットが装着されている場合、焦点距離が500mmの場合にステップS1003で設定する第2の距離よりも、焦点距離が700mmの場合にステップS1003で設定する第2の距離を短くしてもよい。
【0072】
また、装着された交換レンズが有する撮影光学系の光軸の位置に合わせて撮像素子を動かすことで、撮像素子の有効領域の中心と光軸との距離を近づけたり、一致させたりする撮像システムがある。この場合、センサシフト量制限動作を行う場合であっても、光軸の位置に合わせた撮像素子の移動量は制限せず、光軸の位置の変化量に基づく移動であれば、撮像素子を第2の距離以上の移動させる形態としてもよい。
【0073】
また、一般的に、焦点検出信号は、撮像範囲の一部の領域(AF領域)の像信号である。撮像素子が移動することによる焦点検出信号のS/N低下量は、AF領域の光軸からの距離(像高)よって異なる。そのため、焦点距離と絞り値に加えて、AF領域の像高にも基づいて撮像素子の移動可能距離を制限するか否かを判定してもよい。またAF領域の像高に基づいて、制限した場合の移動可能距離(第2の距離)を取得してもよい。この場合、像高が低い方が、移動可能距離が長くなるものとする。
【0074】
また、ステップS1006では、センサシフト量制限動作を終了し、撮像素子の第1の方向における移動可能距離を第1の距離としたが、ステップS1007における移動可能距離は第2の距離よりも長ければ第1の距離に限定されない。例えば、SW2が検出されると、撮像素子の第1の方向における移動可能距離を第1の距離よりも長い第3の距離としてもよい。焦点距離も絞り値も所定値以下の場合であっても、像高によっては撮像素子が移動することでS/Nの低下が大きくなることがある。SW2後の移動可能距離を第3の距離とすることで、焦点検出信号のS/Nの低下を軽減しつつ、撮像処理における露光中のセンサシフト方式の像振れ補正効果の低下も軽減することができる。尚、撮像処理における露光とは、記憶手段106もしくはSDカードなどの取り出し可能な記憶手段に記憶する画像を撮像するための露光である。
【0075】
また、上述の実施例では、像振れ補正制御手段を撮像装置が備える形態について説明をしたが、これに限定されない。例えば、交換レンズ11が、撮影光学系が第1の状態であるか否かを判定し、第1の状態であると判定した場合は撮像素子の移動可能な距離を制限するように撮像装置内のセンサシフト式像振れ補正手段を制御してもよい。また、撮像装置12でも交換レンズ11でもなく、撮像システム1000と無線接続された制御装置が、像振れ補正制御手段を備え、制御装置が撮像装置12内のセンサシフト式像振れ補正手段を制御してもよい。
【0076】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
102 撮像素子
103 焦点検出手段
104 レンズシフト式像振れ補正手段
105 センサシフト式像振れ補正手段
106 記憶手段
107 像振れ補正制御手段
108 焦点調節光学系