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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】注射用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4045 20060101AFI20240119BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240119BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240119BHJP
   A61P 25/30 20060101ALI20240119BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240119BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240119BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240119BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
A61K31/4045
A61P25/00
A61P25/24
A61P25/30
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/12
A61P25/22
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022577123
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021073189
(87)【国際公開番号】W WO2022043227
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】2013571.1
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】17/006,115
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521527989
【氏名又は名称】サイビン ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイゼル,マリー クレア
(72)【発明者】
【氏名】レニー,ジェームズ マクスウェル
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/169850(WO,A1)
【文献】特表2020-506246(JP,A)
【文献】国際公開第2018/195455(WO,A1)
【文献】ARCH GEN PSYCHIATRY,1994年,51,pp.98-108
【文献】Frontiers in Neuroscience,2018年08月06日,12,Artcile 536 (17 pages)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意で重水素で置換されているジメチルトリプタミンのフマル酸塩;
前記塩とは別の緩衝剤;及び
水;
を含み、約3.75~約6.5のpH及び約250mOsm/Kg~約350mOsm/Kgの浸透圧を有する、注射医薬製剤。
【請求項2】
pHが約3.75~約5.75である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
pHが約3.75~約4.25である、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
約275~約325mOsm/Kgの浸透圧を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記の任意で重水素で置換されたジメチルトリプタミンのフマル酸塩が、式Iの化合物含む、請求項1に記載の製剤:
【化1】
式中、
4及びR5は両方ともHであり、各XH及び各YHは、H及びDから独立して選択される。
【請求項6】
メチルトリプタミンのフマル酸塩を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記の任意で重水素で置換されたジメチルトリプタミンのフマル酸塩が、HPLCで測定した場合に99%以上の純度を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記の任意で重水素で置換されたジメチルトリプタミンのフマル酸塩の濃度が、約2.5mg/mLである、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
前記緩衝剤が、酢酸ナトリウム及び酢酸、又は酢酸カリウム及び酢酸を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
等張化剤をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
前記等張化剤が、約120mM~約140mMの濃度の塩化ナトリウムである、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
前記製剤が、本質的に、前記塩、前記緩衝剤、水、及び任意で等張化剤からなる、請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
2ppm未満の酸素含有量を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
pHが約4.0~約6.5である、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
pHが約4.0~約6.5である、請求項5に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、医薬製剤、その製造方法、及びその使用に関する。医薬製剤は、任意に置換されているジメチルトリプタミン化合物の塩、前記塩とは別である緩衝剤、及び水を含む。製剤は、約3.5~約6.5のpH値及び約250~約350 mOsm/Kgの浸透圧を有する。任意で、このような製剤は、注射に適しており、安定であり、且つ臨床的に許容されるものであり、精神障害又は神経障害の治療において潜在的な用途を有する。
【発明の背景】
【0002】
古典的な幻覚剤は、精神疾患の治療において前臨床的及び臨床的有望性を示している(Carhart-Harris and Goodwin, Neuropsychopharmacology 42, 2105-2113 (2017))。特に、シロシビン(psilocybin)は、無作為化二重盲検試験において、様々なうつ病及び不安評価尺度の有意な改善を実証している(Griffiths et al. Journal of Psychopharmacology, 30(12), 1181-1197 (2016))。
【0003】
N,N-ジメチルトリプタミン(DMT)も短時間作用型幻覚剤として治療的価値を持つと理解されている。脳及び末梢組織におけるDMTの生合成及び代謝に関する研究、体液及び脳におけるDMT検出のための方法及び結果、DMTの新しい作用部位、ならびにDMTの可能な生理学的及び治療的役割に関する新しいデータのレビューは、S. A. Barker in Front. Neurosci., 12, 536, 1-17 (2018)によって提供される。このレビューでは、DMTがうつ病、強迫性障害、及び物質乱用障害の治療において治療的役割を果たす可能性があると記載されている。
【0004】
DMTフマル酸塩の生理食塩水の、ヒト志願者への注射が、C. Timmermann et al., Sci. Rep., 9, 16324 (2019)に記載されている。ヒトの脳活動のパワースペクトル及びシグナル多様性に対するDMTフマル酸塩の効果を、多変量EEGにより記録し、プラセボ(生理食塩水)の注射で得られた結果と比較した。プラセボで得られた結果と比較して、DMTフマル酸塩はアルファパワーを抑制し、デルタ及びシータパワーを正常化/増加させることが見い出された。アルファパワーは、高レベルの心理的機能、トップダウン予測処理及び関連するフィードバック接続性と結びついているが、シータ及びデルタパワーは、古典的には、REM夢見睡眠及び関連する「ビジョナリー(visionary)」状態と関連している。これらの結果が、全く別の世界に深く浸る感覚の経験と、DMTフマル酸塩の注射を関連付けるということが記載されている。
【0005】
ヒトメタボロームデータベース(HMDB)によれば、ジメチルトリプタミンは、溶液中で比較的速く分解する(特に、http://www.hmdb.ca/metabolites/HMDB0005973 を参照)。その結果、当技術分野では、より長い期間にわたって安定であり、臨床的に許容されるDMTの注射用溶液が必要とされている。本発明は、この要求に対処するものである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、任意で置換されていてもよいジメチルトリプタミン化合物の塩、前記塩とは別の緩衝剤、及び水を含む医薬製剤(場合により、注射に適した)に関し、この製剤は、約3.5~約6.5のpH値及び約250~約350 mOsm/Kgの典型的な浸透圧を有する。ヒト血清は、約7.4のpH(典型的には、7.35~7.45の範囲である。G. K. Shwalfenberg, J. Environ. Public Health, 2012; 2012:727630 を参照)を有し、任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物の塩の明らかな定番製剤は、7.4のpHで等張である。ここで、従来技術に記載された、又はそれを応用した製剤が、周囲状況で貯蔵された場合に、最適とは言えない貯蔵寿命を有することが見い出された。本発明は、ストレス条件下で貯蔵した場合、既知の製剤と比較して実質的に分解生成物が少ない医薬製剤(任意で、注射に適した医薬製剤)を提供するというこの課題に対処する。これは、従来技術に記載されているこのような医薬製剤よりも改善された貯蔵寿命を示すものである。
【0007】
したがって、第一の局面から見ると、本発明は、
・任意で重水素で置換され、及び任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は4位がリン酸一水素で置換されたジメチルトリプタミン化合物の塩;
・前記塩とは別の緩衝剤;及び
・水
を含み、
ここで、当該製剤が約3.5~約6.5のpH及び約250~約350 mOsm/Kgの浸透圧を有する、
医薬製剤(任意で注射に適したもの)を提供する。
【0008】
第二の局面から見て、本発明は、前記第一の局面の製剤を調製するのに適したキットを提供し、前記キットは、
・任意で重水素で置換され、及び、任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は4位がリン酸一水素で置換されたジメチルトリプタミン化合物の塩;及び
・前記塩とは別の緩衝剤
を含む。
【0009】
第三の局面から見て、本発明は、前記塩、緩衝剤、水、及び任意で等張化剤を接触させることを含む、第一の局面の医薬製剤を調製する方法を提供する。いくつかの実施形態において、第一及び第二の局面の製剤又は組成物は、等張化剤を含む。
【0010】
溶液中のジメチルトリプタミンの不安定性のために、ジメチルトリプタミンを含む溶液は、一般に、使用の直前又は使用時付近で調製される(すなわち、ジメチルトリプタミンの溶液を保存することは、避けられている)。あるいは、ジメチルトリプタミンの溶液は、凍結される。本発明者らは、前記塩とは別の緩衝剤が使用される場合、得られた製剤は、前記塩とは別の緩衝剤なしで調製された製剤よりも安定であることを見い出した。また、紫外線を透過しないようにした容器を用いると、得られた製剤は、紫外線を透過させる容器に保存したものより安定である。
【0011】
したがって、第四の局面から見て、本発明は、任意で重水素で置換され、及び任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は4位がリン酸一水素で置換されたジメチルトリプタミン化合物の塩の注射可能な医薬製剤の、分解を改善するための緩衝剤の使用を提供する。
【0012】
第五の局面からみて、本発明は、治療に使用するための第一の局面の製剤を提供する。
【0013】
第六の局面からみて、本発明は、患者の精神障害又は神経障害を治療する方法において使用するための第一の局面の製剤を提供する。
【0014】
第七の局面からみて、本発明は、第一の局面の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、精神障害又は神経障害を治療する方法を提供する。
【0015】
本発明のさらなる局面及び実施形態は、以下に続く説明から明らかである。
【発明の詳細な説明】
【0016】
本明細書全体を通して、本発明の1つ以上の局面は、本発明の別個の実施形態を規定するために、本明細書に記載される1つ以上の特徴と組み合わせることができる。
【0017】
以下の議論では、文脈が反対のことを明示的に示唆しない限り、以下に示される意味を有すると理解されるべき多くの用語について言及する。化合物、特に本明細書に記載される化合物を定義するために本明細書中で使用される命名法は、化合物についての国際純正応用化学連合(IUPAC)の規則、具体的には「IUPAC Compendium of Chemical Terminology (Gold Book)」(A. D. Jenkins et al., Pure & Appl. Chem., 1996, 68, 2287-2311 参照)に従うことが意図される。疑義を回避するために、IUPAC組織の規則が本明細書に提供される定義に反する場合、本明細書の定義が優先される。
【0018】
名詞の単数形への本明細書での言及は、文脈が他のことを暗示していない限り、名詞の複数形を包含し、その逆もまた同様である。
【0019】
本明細書を通して、用語「含む」、又は「含み」あるいは「含んでいる」などのその変形は、記載されたエレメント、整数あるいはステップ(又は、一群のエレメント、整数あるいはステップ)を包含するが、任意の他のエレメント、整数、あるいはステップ(又は、一群のエレメント、整数、あるいはステップ)を排除しないことを意味すると理解される。
【0020】
用語「からなる」又はその変形は、記載されたエレメント、整数あるいはステップ(又は、一群のエレメント、整数あるいはステップ)を包含することを意味し、且つ、任意の他のエレメント、整数あるいはステップ(又は、一群のエレメント、整数あるいはステップ)は排除されることを意味すると理解されるべきである。
【0021】
本明細書における用語「約」は、数又は値を修飾する場合、指定された値の±5%以内にある値を指すために使用される。例えば、pH範囲が約3.5~約6.5であると特定される場合、3.3~6.8のpH値が含まれる。
【0022】
本発明の製剤は治療に有用であり、それを必要とする患者に投与することができる。本明細書中で使用される場合、用語「患者」は、好ましくは、哺乳動物を指す。典型的には、哺乳動物はヒトであるが、家畜哺乳動物を指すこともある。この用語は、実験室で用いられる哺乳動物を包含しない。
【0023】
用語「治療」は、障害の進行速度を減少又は停止させるため、又は障害を改善又は治癒させるための、患者への治療的処置を定義する。治療の結果としての、障害の予防も含まれる。予防への言及は、本明細書では、障害の完全な予防を必要としないことが意図される:代わりに、その進行は、本発明による治療によって妨害され得る。典型的には、治療は予防的ではなく、製剤は、障害と診断された又は障害が疑われる患者に投与される。
【0024】
当技術分野で理解されるように、精神障害又は神経障害は、1つ以上の認知障害と関連し得る障害である。本明細書で使用される場合、「精神障害(psychiatric disorder)」という用語は、個体において発生し、且つ、現在の苦悩(例えば、痛みの症状)あるいは能力障害(すなわち、機能の1つ又は複数の重要な領域における障害)に関連する、又は死亡、痛み、能力障害、あるいは自由度の重大な損失に苦しむリスクの大幅な増大に関連する、臨床的に重要な行動又は心理学的症候群あるいはパターンである。
【0025】
本明細書で参照される精神障害及び神経障害の診断基準は、「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, (DSM-5)」に提供されている。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「強迫性障害(OCD:obsessive-compulsive disorder)」という用語は、強迫観念又は強迫行為のいずれかの(一般的に、両方の)存在によって定義される。この症状は、重大な機能障害及び/又は苦悩を引き起こす可能性がある。強迫観念は、反復的に人の頭に浮かぶ、不必要な侵入思考、イメージ、又は衝動として定義される。強迫行為は、人間が行うべきと駆られるように感じる反復的な行動又は精神的な行為である。典型的には、OCDは、強迫行為をすることに駆られる1つ以上の強迫観念として現れる。例えば、細菌に対する強迫観念により、清潔にしたいという強迫行為に駆られ、食物に対する強迫観念により、食べ過ぎたり、食べる量が少なすぎたり、食べた後嘔吐するという強迫行為に駆られることがある(すなわち、食物に対する強迫観念は、摂食障害として現れることがある)。強迫行為は、ドアがロックされていることをチェックするなどの、明らかで他人から見て観察可能なものか、又は、あるフレーズを頭の中で繰り返すなど、観察することができない潜在的な精神的行為のいずれかであり得る。
【0027】
本発明は、摂食障害を治療する方法において使用するための、本発明の第一及び第二の局面による製剤又はキットを提供する。「摂食障害」という用語には、神経性食欲不振症、過食症(bulimia)及びむちゃ食い障害(BED:binge eating disorder)が含まれる。神経性食欲不振症の症状には、体重をできるだけ低く保つために、食事を少なくしすぎる、及び/又は、運動をしすぎることが含まれる。過食症の症状には、非常に短時間で大量の食べ物を食べること(すなわち、むちゃ食い)、及びその後、意図的に病気になること、緩下剤を使用すること、体重増加を防ぐために食事を少なくしすぎる及び/又は運動しすぎることが含まれる。BEDの症状には、食べ過ぎて気持ち悪くなるまで、多量の食べ物を定期的に食べること、及びその結果として、不快な気分又は罪悪感を感じることが含まれる。
【0028】
本明細書中で使用される場合、「うつ病性障害」という用語は、大うつ病性障害、持続性うつ病性障害、双極性障害、双極性うつ病、及び末期患者におけるうつ病を含む。
【0029】
本明細書中で使用される場合、「大うつ病性障害(MDD:major depressive disorder);大うつ病又は臨床的うつ病とも呼ばれる」という用語は、二週間以上の期間にわたる、ほとんど一日中、ほとんど毎日の、5個以上の次の症状の存在として定義される(本明細書では、「大うつ病エピソード」とも呼ばれる):
・抑うつ気分、例えば、悲しい、空虚又は泣きそうに感じる(子供及びティーンエイジャーでは、抑うつ気分は、持続的な易怒性として現れることがある);
・すべてあるいはほとんどの活動において、興味が著しく減少するか、又は喜びを感じない;
・食事療法をしていないのに、体重が有意に減少する、体重が増加する、又は食欲が減少あるいは増加する(子供では、期待される体重増加が見られない);
・不眠又は睡眠願望の増加;
・他者に観察可能な不穏状態又は動作遅延;
・疲労又は活力の減退;
・無価値観、又は過剰なあるいは不適切な罪悪感;
・決断が困難、又は思考あるいは集中が困難;
・死あるいは自死に関する反復思考、又は自殺企図
症状の少なくとも1つは、抑うつ気分又は興味あるいは喜びの喪失のいずれかでなければならない。
【0030】
気分変調症としても知られている持続性うつ病性障害は、次の2つの特徴を示す患者として定義される。
A.少なくとも2年間、ほとんどの時間、ほとんど毎日、抑うつ気分を有する。
子供及び青年期の若者は、怒りっぽい気分になることがあり、期間は少なくとも1年である。
B.抑うつの間、人は次の症状の少なくとも2つを経験する:
・過食又は食欲不振のいずれか
・過眠又は睡眠障害を有する
・疲労又は活力の減退
・低い自尊心
・集中又は決断が困難
【0031】
本明細書で使用される場合、「治療抵抗性大うつ病性障害」という用語は、標準的ケア療法による適切な治療に対して適切な応答を達成することができないMDDを説明する。
【0032】
本明細書で使用される場合、躁うつ病としても知られる「双極性障害」は、気分、活力、活動レベル、及び日々の業務を実行する能力に異常なシフトを引き起こす障害である。
【0033】
双極性障害の2つの定義されたサブカテゴリがあり、それらの全ては、気分、活力、及び活動レベルの明確な変化を含む。これらの気分は、極度の「アップ」、高揚感、及びエネルギッシュな挙動(躁病エピソードとして知られており、さらに以下に定義されている)の期間から、非常に悲しい「ダウン」又は無希望な期間(うつ病エピソードとして知られる)にわたる。それほどひどくない躁期は、軽躁エピソードとして知られている。
【0034】
双極I型障害は、少なくとも7日間続く躁病エピソードによって、又は人が即時の病院でのケアを必要とするような深刻な躁症状によって定義される。通常は、うつ病エピソードも発生し、典型的には少なくとも2週間持続する。混合された特徴を有するうつ病のエピソード(うつ症状及び躁症状を同時に有する)も起こり得る。
【0035】
双極II型障害は、うつ病エピソード及び軽躁エピソードのパターンによって定義されるが、上述した末期の躁病エピソードではない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「双極性うつ病」は、以前の又は共存する躁症状のエピソードとともに、うつ症状を経験している個人として定義されるが、双極性障害のための臨床的基準には適合しない。
【0037】
本明細書で使用される場合、「不安障害(不安症)」という用語は、全般性不安障害、恐怖症、パニック障害、社交不安障害、及び外傷後ストレス障害を含む。
【0038】
本明細書中で使用される「全般性不安障害(GAD:generalized anxiety disorder)」は、1つの対象又は状況に特化しない長期間の不安を特徴とする慢性障害を意味する。GADに罹患している者は、非特定の持続的な恐怖及び不安を経験し、日常のありきたりな事を過度に気にするようになる。GADは、次の症状の3つ以上を伴う慢性的な過度の不安によって特徴付けられる:不穏状態、疲労、集中力の欠如、易怒性、筋肉の緊張、及び睡眠障害。
【0039】
「恐怖症」は、対象又は状況に対する絶え間ない恐れとして定義され、罹患した人は、それを避けるために(典型的には、生じている実際の危険と不釣り合いに)どんな苦労も惜しまない。恐れている対象や状況が完全に回避できない場合には、罹患した人は、社会的又は職業的活動において著しい苦痛及び重大な支障とともに、それに耐えることになる。
【0040】
「パニック障害」に罹患している患者は、激しい恐怖及び不安による一度以上の短い発作(パニック発作とも呼ばれる)を経験する人として定義されており、しばしば、振戦、身震い、混乱、めまい、悪心、及び/又は呼吸困難を特徴とする。パニック発作は、急激に発生して、10分未満にピークに至るおそれや不快と定義される。
【0041】
「社交不安障害」は、激しい恐怖、及び、ネガティブな世間の詮索、人前での困惑、恥をかく状況、又は社会的交流の回避と定義される。社交不安は、しばしば、発赤、発汗、及び発話困難を含む特定の身体症状を示す。
【0042】
「外傷後ストレス障害(PTSD:post-traumatic stress disorder)」は、トラウマ的経験に起因する不安障害である。外傷後ストレスは、戦闘、自然災害、レイプ、人質事件、児童虐待、いじめ、又は重大事故のような極限状況から生じる可能性がある。一般的な症状には、過覚醒、フラッシュバック、回避行動、不安、怒り、及びうつ病が含まれる。
【0043】
本明細書中で使用される場合、用語「産後うつ病」(PPD:post-partum depression 出生後うつ病としても知られる)は、新生児のいずれかの親が経験するうつ病の形態である。症状は典型的には出産後4週間以内に現れ、しばしば極度の悲しみ、疲労、不安、趣味や活動に対する興味や喜びの喪失、易怒性、睡眠や食事パターンの変化などがみられる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「物質乱用」という用語は、使用者がその物質を、彼ら自身又は他人に有害な量で又は方法で消費する薬物のパターン化された使用を意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合、「意欲消失障害」という用語は、自主的で意図的な活動を開始し実行するモチベーションの低下を症状として含む障害を指す。
【0046】
本発明は、任意で重水素で置換されており、任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は任意で4位がリン酸一水素で置換されているジメチルトリプタミン(DMT:dimethyltryptamine)化合物の塩;前記塩とは別の緩衝剤;及び水を含み、約3.5~約6.5のpH及び約250~約350 mOsm/Kgの浸透圧を有する、任意で注射に適した医薬製剤を提供する。
【0047】
本発明者らは、前記製剤が、驚くべきことに、より高いpHで調製された製剤(具体的には、ヒト血清に一致するpH[すなわち、約7.4のpH]で調製された製剤)よりも安定であることを見い出した。本発明の製剤の、定番製剤と比べたより大きな安定性は、実施例の項においてより詳細に説明される。
【0048】
浸透圧(オスモル濃度)は、以下の式で表されるように、正式には、水の合理的活性の負の自然対数と水のモル質量の商として定義される:
【数1】
ここで、pは、溶液中の水の蒸気分圧であり、p*は、純水の蒸気分圧である。より簡単に言えば、浸透圧は、溶液1kg中の浸透圧的に活性な粒子の数(溶質粒子の数)である。したがって、浸透圧は粒子の数のみの関数であり、粒子の分子量、サイズ、形状、又は電荷には関係しない(血清浸透圧測定のレビューについては、D. K. Faria et al., M. E. Mendes and N. M. Sumita, J. Bras. Patol. Med. Lab., 53, 1, 38-45 (2017)を参照のこと)。例えば、1kgの水に溶解した1モルの非解離性物質(例えば、遊離塩基としてのDMT)は、1 Osm/kg(1000 mOsm/kg)の浸透圧を有するが、1kgの水に溶解した、溶液中で2つの別々の種に解離する1モルの物質(例えば、DMTフマル酸塩)は、2 Osm/kg(2000 mOsm/kg)の浸透圧を有する。
【0049】
第一の溶液が、本明細書において、第二の溶液と等張であると定義される場合、溶液は、同じ浸透圧を有する。例えば、ある製剤がヒト血清と等張であると定義される場合、前記製剤は、ヒト血清と同じ浸透圧を有する。ヒト血清は、典型的には、約275~約300 mOsm/Kgの浸透圧を有する(L. Hooper et al., BMJ Open, 2015; 5(10): e008846)。
【0050】
前記製剤(すなわち、本発明の)は、任意で注射に適しており、これは、無菌性、汚染物質、及び発熱性物質に関する薬局方要件(例えば、米国薬局方協会、一般要件/(1)注射、33頁を参照のこと)に従っていることを意味する。時には、製剤は、微生物の増殖の阻害剤(例えば、抗菌性保存剤)及び/又は抗酸化剤を含有する。
【0051】
注射に適した製剤は、約3~9のpH及び約250~約600 mOsm/Kgの浸透圧を有する。9を超えるpH値は、組織壊死(組織内の細胞の死滅)に関連することが報告されているが(I. Usach et al. in Adv. Ther., 36, 2986-2996 (2019))、3未満の値は、疼痛や静脈炎(静脈の炎症)を引き起こすと報告されている。600 mOsm/Kgを超える浸透圧値が痛みを引き起こすことも報告されている。本発明の製剤のpH及び浸透圧は、注射に適していると報告されている範囲内にある。
【0052】
製剤は、任意で重水素で置換され、任意で4又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は任意で4位がリン酸一水素で置換されたDMT化合物の塩を含み、これを、本明細書では「DMT化合物」と称する。本発明による製剤は、1種又は2種以上のDMT化合物を含み得る。疑義を避けるために、製剤は、任意で置換されたDMTのイオンと、任意で置換されたDMTイオンの電荷と反対のイオン(対イオン)とを含むとき、任意で置換されたDMT塩を含む。従って、製剤内の任意で置換されたDMT塩は、例えば、遊離塩基としての任意で置換されたDMTを、任意で置換されたDMTのモル量に対して過剰の緩衝剤を含む水溶液と接触させることによって形成されてもよい。
【0053】
DMT化合物は、重水素で置換されていてもよく、ここで、重水素原子は、追加の中性子を有する水素原子である。DMT化合物はまた、4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は4位がリン酸一水素で置換されていてもよい。用語「アセトキシ」(しばしばOAcと略される)は、OH部分から水素原子を除去することによって酢酸から誘導される一価の基を定義する。用語「メトキシ」(しばしばOMeと略される)は、OH部分から水素原子を除去することによってメタノールから誘導される一価の基を定義する。リン酸一水素という用語は、3つのOH部分のうちの2つからプロトンを除去することによってリン酸から誘導される、式HPO4の二価の基を定義し、ゆえに、式-OP(O)(OH)O-の置換基を表す。
【0054】
いくつかの実施形態において、ジメチルトリプタミン化合物は、任意で、5位がメトキシで、又は4位がアセトキシあるいはリン酸一水素で置換される。
【0055】
DMT化合物の4位がリン酸一水素で置換されている場合、これは、水中のシロシビン([3-(2-ジメチルアミノエチル)-1H-インドール-4-イル]リン酸二水素としても知られる)が一般に4位にリン酸一水素を有することを反映するものであり、これは、2つの末端リン酸酸素原子のpKa値が1.3及び6.5と推定されるために、一般に優勢な形態であると理解される。シロシビンのリン酸一水素-含有形態は、ジメチルアミノ部分の窒素原子がプロトン化されている双性イオン(すなわち、分子内塩)として存在することがさらに理解される。したがって、この形態、及びシロシビンは、4位がリン酸一水素で置換されたDMT化合物の塩とみなされる。
【0056】
いくつかの実施形態において、ジメチルトリプタミン化合物は、α、β及びジメチル炭素原子から選択される1つ以上の位置が重水素で置換されていてもよい。さらなる実施形態において、ジメチルトリプタミン化合物は、α及びβ炭素原子(α炭素など)から選択される1つ以上の位置が、置換されていてもよい。
【0057】
疑義を回避するために、任意で置換されたDMT塩の4位、5位、α位及びβ位は、以下の構造において標識された位置を指す(置換は示されていない)。
【化1】
【0058】
製剤は、前記塩とは別の緩衝剤を含む。すなわち、緩衝剤は、任意で置換されたDMTに対する単なる対イオンではない。例えば、塩がフマル酸ジメチルトリプタミン(すなわち、ジメチルトリプタミンのフマル酸塩)である場合、フマル酸塩によって提供される緩衝剤に加えて、ある量の緩衝剤が必要とされる。用語「緩衝剤」は、当技術分野で周知であり、製剤内に包含させると、製剤に酸又は塩基を添加した際のpH変化に抵抗する化学物質を指す。製剤内では、緩衝剤は、弱酸及びその共役塩基を含む。適切な緩衝剤は、製剤の所望pHの±1以内にあるpKa値を有する酸を含む。例えば、製剤の所望pHが約4.0である場合、適切な緩衝剤は、約3.0~約5.0のpKa値を有する弱酸を含む。緩衝剤の酸が2つ以上のpKa値を有する場合(すなわち、酸の各分子が2つ以上のプロトンを供与することができる場合)、緩衝剤が適切であるためには、pKa値の少なくとも1つが所望のpH範囲内にある。
【0059】
緩衝剤の弱酸及び共役塩基は、互いに平衡状態にある。ルシャトリエの原理(平衡状態にある系に、制約[反応物の濃度の変化など]が適用されると、平衡は、制約の効果を打ち消すようにシフトする)に従って、酸又は塩基を製剤に添加すると、それぞれ平衡の位置は共役塩基又は弱酸に有利にシフトする。その結果、製剤中の遊離プロトンの濃度(すなわちpH)はあまり変わらない。
【0060】
上記のように、本発明の製剤は、約3.5~約6.5のpHを有する。いくつかの実施形態では、緩衝剤は、酢酸塩及び酢酸(pKa=4.75);クエン酸塩及びクエン酸(pKa=3.13、4.76及び6.40);アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸(pKa=4.17及び11.6);安息香酸塩及び安息香酸(pKa=4.20);リン酸塩及びリン酸(pKa=2.14、7.20及び12.37);シュウ酸塩及びシュウ酸(pKa=1.25及び4.14);又はギ酸塩及びギ酸(pKa=3.75)を含む。本明細書中に引用されるpKa値は、水中・25℃で報告されるものである。典型的には、緩衝剤は、上に列挙したペアの1つのみ、すなわち、1つの酸及びその共役塩基を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、緩衝剤は、酢酸塩及び酢酸;クエン酸塩及びクエン酸;アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸;安息香酸塩及び安息香酸;又はリン酸塩及びリン酸を含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、製剤のpHは、約3.75~約6.5、例えば、約3.75~約5.75である。しばしば、製剤のpHは、約3.75~約4.25、典型的には約4.0である。このような実施形態において、緩衝剤は、しばしば、酢酸塩及び酢酸;クエン酸塩及びクエン酸;アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸;安息香酸塩及び安息香酸;シュウ酸塩及びシュウ酸;又はギ酸塩及びギ酸を含む。時には、緩衝剤は、酢酸塩及び酢酸;クエン酸塩及びクエン酸;アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸;又は安息香酸塩及び安息香酸を含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、緩衝剤は、酢酸塩及び酢酸、しばしば酢酸ナトリウム及び酢酸、又は酢酸カリウム及び酢酸を含む。
【0064】
製剤内の緩衝剤の濃度は、典型的には、製剤の2週間の貯蔵時に、製剤の有意なpH変化に抵抗するのに十分に大きく(すなわち、pHは、典型的には、約0.1pH単位未満で変動する)、製剤の浸透圧が所望の範囲内にあるように十分に小さい。当業者は、適切な緩衝剤濃度を評価し、これを達成することができる。しばしば、緩衝剤の濃度は、約15mM~約75mMである(例えば、約20mM~約30mM)。いくつかの実施形態において、緩衝剤の濃度は、約25mMである。
【0065】
上記のように、製剤は、重水素で置換されていてもよく、及び、4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は4位がリン酸一水素で置換されていてもよいDMT化合物の塩を含む。
【0066】
前記塩は、酸及びDMT化合物を含み、又は、前記塩は、4位がリン酸一水素で置換されたDMT化合物を含む。酸及びDMT化合物を含む塩の例は、フマル酸ジメチルトリプタミンであり、これは、ジメチルトリプタミンのフマル酸塩である。「P. H. Stahl and C. G. Wermuth」は、「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, Weinheim/Zurich:Wiley-VCH/VHCA, 2002」において、薬学的塩及びその中に含まれる酸の概要を提供する。このレビューに記載された酸は、製剤の塩に含有させるのに適した酸である。
【0067】
塩は、フマル酸、酒石酸、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2,2-ジクロロ酢酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-オキソグルタル酸、4-アセトアミド安息香酸、4-アミノサリチル酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファー酸(しょうのう酸)、カンファー-10-スルホン酸、デカン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、炭酸、桂皮酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、イソ酪酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、ピログルタミン酸(-L)、サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、チオシアン酸、トルエンスルホン酸及びウンデシレン酸からなる群より選択される酸を含んでもよい。
【0068】
塩が酸及びDMT化合物を含むいくつかの実施形態において、酸は、水中・25℃で約3~約5のpKaを有するブレンステッド酸である。これらの実施形態において、ブレンステッド酸は、DMT化合物への対イオンとして、及び緩衝剤として作用し得る。したがって、塩がそのような酸を含む場合、製剤はより大きな程度に安定化され得る、すなわち、DMT化合物の分解がさらに改善され得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、塩は、25℃で約3~約5のpKaを有するブレンステッド酸、及び式Iの化合物を含む。
【化2】
式中、
R4及びR5は両方ともHであり、各XH及び各YHは、H及びDから独立して選択されるか、又は
R4及びR5の一方はHであり、他方はアセトキシ又はメトキシであり、各YHはHであり、各XHはH及びDから独立して選択されるか、又は
前記塩は式Iの化合物を含み、ここで、R4はリン酸一水素であり、R5はHであり、各YH及び各XHは、Hである。
【0070】
いくつかの実施形態において、R4及びR5は、両方ともHである。これらの実施形態において、DMT化合物は、N,N-ジメチルトリプタミン、α-モノデューテロ(monodeutero)-N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ(dideutero)-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,α,β-トリデューテロ(trideutero)-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α,β,β-テトラデューテロ(tetradeutero)-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組合せである。しばしば、DMT化合物はN,N-ジメチルトリプタミンである。
【0071】
いくつかの実施形態において、R4、R5及び各YHは、Hであり、各XHは、H及びDから独立して選択される。これらの実施形態において、DMT化合物は、N,N-ジメチルトリプタミン、α-モノデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組合せである。
【0072】
部分的に重水素化されたN,N-ジメチルトリプタミン化合物及び重水素化されたN,N-ジメチルトリプタミン化合物は、以下のスキーム1及び2に示される反応スキーム(合成スキーム)に従って合成することができる。これらのスキームに示される化学は、「PE Morris and C Chiao (Journal of Labelled Compounds And Radiopharmaceuticals, Vol. XXXIII, No. 6, 455-465 (1993))」によって報告されたものである。部分的に重水素化されたN,N-ジメチルトリプタミン化合物及び重水素化されたN,N-ジメチルトリプタミン化合物はまた、スキーム3に示される合成スキームに従って合成することができる。
【0073】
本明細書では、用語α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、それぞれ重水素化(又は完全重水素化)N,N-ジメチルトリプタミン及び部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミンと呼ばれる。従って、重水素化(又は完全重水素化)N,N-ジメチルトリプタミンは、厳密には、α位の両方のプロトンが重水素原子で置換されているN,N-ジメチルトリプタミン化合物を指す。部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミンという用語は、厳密には、α位の2つのプロトンのうちの1つが重水素原子で置換されているN,N-ジメチルトリプタミン化合物を指す。本明細書において、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、α位が2つの重水素原子で置換されている任意のN,N-ジメチルトリプタミン化合物であり、部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、α位に1つの水素原子と1つの重水素原子とを有する任意のN,N-ジメチルトリプタミン化合物である。
【0074】
所望であれば、ある量のN,N-ジメチルトリプタミンと重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物とを含む組成物において、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物及び部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物に対するN,N-ジメチルトリプタミンの相対割合は、還元剤中の水素化リチウムアルミニウム及び重水素化リチウムアルミニウムの比を変えることによってコントロールすることができる。このような組成物において、R4、R5及び各YHはHであり、各XHはH及びDから独立して選択されることが理解されるべきである。すなわち、DMT化合物は、N,N-ジメトリプタミン、α-モノデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組合せである。相対割合は、N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのうちの1種以上を、上記組成物に添加することによってさらに変化させることができる。
【0075】
【化3】
【0076】
【化4】
【0077】
【化5】
【0078】
スキーム1及び2における還元工程から得られた組成物の同定は、所望であれば、分光分析及び/又は質量分析と組み合わせて当業者が自由に使える従来の手段により、混合物の成分をクロマトグラフィー分離することによって達成することができる。
【0079】
代替の組成物は、還元剤がもっぱら水素化リチウムアルミニウムである場合にスキーム1又はスキーム2によって得られるN,N-ジメチルトリプタミンを、還元剤がもっぱら重水素化リチウムアルミニウムである場合にスキーム1又はスキーム2から得られる重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物と混合することによって得ることができる。
【0080】
上記の組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を添加することによってさらに改変されてもよい。このような重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物のストックは、例えば、上記のクロマトグラフィー分離から得ることができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、R4はアセトキシであり、且つR5はHであり、又は、R5はアセトキシであり、且つR4はHである。いくつかの実施形態によれば、R4はアセトキシであり、且つR5はHであり、従って、DMT化合物は、4-アセトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン、4-アセトキシ-α-モノデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び4-アセトキシ-α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組合せである。例えば、DMT化合物は4-アセトキシ-N,N-ジメチルトリプタミンである。
【0082】
いくつかの実施形態において、R4はHであり、且つR5はメトキシであるか、又はR5はHであり、且つR4はメトキシである。いくつかの実施形態によれば、R4はHであり、且つR5はメトキシであり、したがって、DMT化合物は、5-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン、5-メトキシ-α-モノデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び5-メトキシ-α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組合せである。例えば、DMT化合物は、5-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミンである。
【0083】
スキーム4は、DMT化合物を合成するための当該分野で既知のスキームを表し、ここで、置換基R1は、式Iに定義されるように、水素、又は置換基R4あるいはR5(水素以外の場合)を示す;各R2はメチルであり、HXは、本明細書に記載される酸を示す(本明細書に記載されるDMT化合物は、この酸とともに塩を形成し得る)。
【0084】
【化6】
【0085】
R4-又はR5-任意置換DMTと、同じくR4-又はR5-任意置換DMT(ただし、α-モノ-及び/又はα,α-ジ-重水素化を伴う)とを制御可能な割合で含む式Iの化合物の混合物は、所望により、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、所望の比の水素化リチウムアルミニウム及び重水素化リチウムアルミニウムで還元することによって調製することができる。
【0086】
DMT化合物の合成の詳細については、本明細書の実施例のセクションが参照される。
【0087】
いくつかの実施形態において、塩は、任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物と、フマル酸、酒石酸、クエン酸、酢酸、乳酸及びグルコン酸からなる群より選択される酸(典型的にはフマル酸)とからなる。
【0088】
したがって、前記塩は、以下のものを含むことができる:
N,N-ジメチルトリプタミン、α-モノデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,α,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及びα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組み合わせ;又は
4-アセトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン、4-アセトキシ-α-モノデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び4-アセトキシ-α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組み合わせ;又は
5-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン、5-メトキシ-α-モノデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び5-メトキシ-α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのいずれか1つ又は任意の組み合わせ;及び
フマル酸、酒石酸、クエン酸、酢酸、乳酸及びグルコン酸からなる群より選択される酸(典型的にはフマル酸)。
【0089】
ある実施形態において、塩は、DMTフマル酸塩であり、すなわち、DMTとフマル酸とを含む。
【0090】
DMT化合物は、約80~100%の純度を有し得る。時には、純度は、約90~100%である(例えば、約95~100%など)。典型的には、DMT化合物は、約99~100%の純度、すなわち99%以上の純度を有する。本明細書において、純度のパーセンテージは、HPLCによって決定される。
【0091】
99%を超える純度を有する任意で置換されたDMT化合物又はその塩を含む製剤原料を用いて、本発明の製剤を調製することが特に有利である。製剤原料とは、当該技術分野において理解されているように、疾患の診断、治癒、緩和、治療、あるいは予防において薬理学的活性あるいは他の直接的効果を提供すること、又は関連する患者の構造あるいは任意の機能に影響を及ぼすことを意図する活性成分を意味するが、そのような成分の合成において使用される中間体は含まない。製剤原料は、1つ以上のそのような活性成分を含み得ることが理解されるであろう。
【0092】
純度の低い製剤原料で製造された製剤は、関連物質の割合が高く、これは有効期間が劣ることを示している。したがって、本発明のいずれかの局面の好ましい実施形態は、HPLCによって測定した場合に99%以上の純度を有する、任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物又はその塩を含有する製剤原料を含む。特に好ましい実施形態は、HPLCによって測定した場合、99.5%以上、より好ましくは99.7%以上、さらに好ましくは99.9%以上の純度を有する、任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物又はその塩を含有する製剤原料を含む。製剤内のDMT化合物の濃度は、製剤の浸透圧が約250~約350 mOsm/Kgであるならば、任意の所望の濃度であってもよい。DMT化合物は、約0.001~約28mg/mL(例えば、約2.5mg/mL~約28mg/mLなど)の濃度であってもよい。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の製剤は、2.5mg/mL~28mg/mL(この範囲内の任意の整数値を含む)の濃度のDMT化合物を含む。28mg/mLのDMTの濃度は、約148 mOsm/kg(対イオンを考慮すると、約296 mOsm/kg)を提供する。これは、製剤の他の成分(緩衝剤など)によるさらなる54 mOsm/kgの提供を可能にする。
【0093】
いくつかの実施形態において、製剤内のDMT化合物の濃度は、約2.5mg/mLであり、これは、約13.2 mOsm/kg(対イオンを考慮すると約26.4 mOsm/kg)を提供する。
【0094】
上記のように、本発明の製剤は、約250~約350 mOsm/Kgの浸透圧を有する。上記のように、注射可能であるために、製剤は、約250~約600 mOsm/Kgの浸透圧を有してもよい。本発明のいくつかの実施形態において、製剤の浸透圧は、約250~約500 mOsm/Kg、又は約250~約400 mOsm/Kgである。いくつかの実施形態において、本発明の製剤の浸透圧は、約275~約325 mOsm/Kgである(例えば、約280~約310 mOsm/Kgなど)。典型的には、製剤の浸透圧は、約295~約305 mOsm/Kgである。いくつかの実施形態において、製剤は、ヒト血清と等張である。
【0095】
時には、製剤中の任意で置換されたDMT塩及び緩衝剤の濃度は、所望の浸透圧を生じさせる。あるいは、所望の浸透圧は、製剤中に1種以上の等張化剤を含めることによって達成されてもよい。したがって、いくつかの実施形態において、製剤は、等張化剤をさらに含む。等張化剤は、本明細書では、製剤内に含まれると、製剤の浸透圧を増加させる化学物質として定義される。上述のように、浸透圧は、溶液1kg中の浸透圧的に活性な粒子の数(溶質粒子の数)である。したがって、製剤に組み込まれたときに溶質として作用する化学物質は、等張化剤の定義内にある。
【0096】
製剤が等張化剤をさらに含む場合、等張化剤の濃度は、製剤内の他の成分(任意置換DMT及び緩衝剤など)の濃度に依存する。例えば、等張化剤を含まない製剤が、約60 mOsm/kgの浸透圧を有する場合、少なくとも約190 mOsm/kgは等張化剤(例えば、95mMの塩化ナトリウム)によって提供される。等張化剤を含有させることは、しばしば、静脈内投与に有用な低濃度製剤において、例えば約2.5mg/mLのDMT化合物を含有する製剤において、好ましい。より高濃度の製剤、例えば、約5mg/mLより高い濃度のDMT化合物を含むものでは、等張化剤は、より少ないほうが好ましいか、又は存在しなくてもよい。
【0097】
M. F. Powell, T. Nguyen、及び、L. Baloianは、「PDA J. Pharm. Sci. Technol., 52, 238-311 (1998)」において、非経口投与(口又は消化管による投与以外)に適した賦形剤のレビューを提供する。静脈内経路によって投与できる本レビューに列挙された全ての可溶性賦形剤は、製剤に添加される場合、浸透圧に寄与し、したがって等張化剤と考えることができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、等張化剤は、以下のものからなる群より選択されるいずれか1つ又は任意の組合せである:塩化ナトリウム;塩化カリウム;デキストロース(ブドウ糖);グルコース;マンニトール;リン酸;ラクトース;ソルビトール;スクロース;リン酸ナトリウム又はリン酸カリウムなどのリン酸塩;酢酸;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム又は酢酸アンモニウムなどの酢酸塩;アラニン;エタノール;クエン酸;クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウムなどのクエン酸塩;アルギニン;アスコルビン酸;アスコルビン酸カリウム又はアスコルビン酸ナトリウムなどのアルコルビン酸塩;ベンジルアルコール;塩化カルシウム;クレアチニン;エデト酸;エデト酸ナトリウム又はエデト酸カルシウムなどのエデト酸塩;グリシン;グリセロール;ヒスチジン;乳酸;塩化マグネシウム;ポリエチレングリコール;プロピレングリコール;重炭酸ナトリウム;水酸化ナトリウム;塩酸;乳酸;乳酸カリウム又は乳酸ナトリウムなどの乳酸塩;酒石酸;酒石酸ナトリウム又は酒石酸カリウムなどの酒石酸塩。
【0099】
上記の等張化剤のいくつかは、製剤を緩衝するために使用されてもよい(例えば、酢酸塩、酢酸、クエン酸塩、クエン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸、リン酸塩、リン酸)。疑義を避けるために、上に列挙した等張化剤の1つが緩衝剤として使用される場合、それは、定義された等張化剤ではない。すなわち、製剤が等張化剤をさらに含む場合、その等張化剤は緩衝剤とは異なる。
【0100】
しばしば、等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、デキストロース、グルコース、マンニトール、ラクトース、ソルビトール及びスクロースからなる群より選択されるいずれか1つ又は任意の組合せである。典型的には、等張化剤は塩化ナトリウムである。
【0101】
いくつかの実施形態において、製剤は、約120mM~約140mM(例えば、約125mM~約135mMなど)の濃度の塩化ナトリウムを含む。時には、製剤内の塩化ナトリウムの濃度は約130mMである。
【0102】
いくつかの実施形態において、製剤は、本質的に、任意置換DMT塩、緩衝剤、水、及び任意で等張剤からなる。これは、例えば、製剤内に追加成分が存在してもよいことを意味する(そのような追加成分の量が、製剤の本質的な特徴に有害な方法で実質的に影響を及ぼさない限り)。任意置換DMT塩、緩衝剤、水、及び任意の等張化剤を製剤中に含める意図が、場合により注射に適しており、かつ貯蔵された場合に少なくとも数週間安定である、任意置換DMTの医薬製剤を製造することであることを考慮すると、製剤の安定性又は注射のためのその適性(例えば、その浸透圧又はpH)に、実質的に有害な影響を及ぼす成分の含有は、製剤から排除されることが理解されるであろう。他方、製剤の安定性又は注射のためのその適性に、実質的に有害な影響を及ぼさない任意の成分の存在は、包含されることが理解されるであろう。このような成分には、抗酸化剤及び抗菌防腐剤が含まれる。抗酸化特性及び抗菌特性を有するものを含む、薬学的賦形剤及びそれらの特性の概要については、「P. J. Sheskey, W G Cook and C G Cable, Handbook of Pharmaceutical Excipients, Eighth Edition, Pharmaceutical Press, London 2017」が参照される。
【0103】
水性注射用製剤に一般的に使用される抗酸化剤としては、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、メタ重亜硫酸ナトリウム及びチオール誘導体が挙げられる。
【0104】
注射用製剤に一般的に使用される抗菌性保存剤としては、メチルパラベン(パラオキシ安息香酸メチル)、エチルパラベン(パラオキシ安息香酸エチル)及びプロピルパラベン(パラオキシ安息香酸n-プロピル)安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール及び安息香酸ナトリウムが挙げられる。
【0105】
特定の実施形態では、製剤は、前記塩、前記緩衝剤、水、及び任意で等張化剤のみからなり、すなわち、任意の他の成分の存在は除外される。
【0106】
しばしば、製剤は、2ppm未満(例えば、0.1ppmと2ppmとの間)の酸素含有量を有する。当業者は、溶存酸素計(例えば、Keison Productsから入手可能な Jenway 970 Enterprise Dissolved Oxygen Meter:http://www.keison.co.uk/products/jenway/970.pdf)を使用するなど、当技術分野において好適であると知られている任意の技術を使用して、製剤の酸素含有量を決定することができる。
【0107】
製剤は、任意の適切な容器に保存することができる。いくつかの実施形態において、製剤の分解をさらに改善するために、製剤は、紫外線の透過を防止するように構成された容器(琥珀色のガラスバイアルなど)に保存される。他の場合には、製剤が貯蔵される容器は、そのように構成されておらず(例えば、透明なガラスから作製され得る)、紫外線に対する保護は、必要に応じて、二次包装(例えば、製剤を収容する容器をその中に配置できる包装)によって提供される。しばしば、容器は気密であり、製剤は、不活性雰囲気(窒素又はアルゴンなど、典型的には窒素)下で貯蔵される。製剤は、室温、例えば、約20~約30℃で、又はより低温で、例えば、約2~約8℃で保存されてもよい。あるいは、製剤の分解をさらに改善するために、冷凍庫で保存してもよい。
【0108】
第二の局面から見て、本発明は、第一の局面の製剤を調製するのに適したキットを提供し、前記キットは、任意で重水素により置換され、及び任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は4位がリン酸一水素で置換されたDMT化合物の塩;及び前記塩とは別の緩衝剤を含む。
【0109】
また、第一の局面の製剤を生成するためのキットも提供され、このキットは以下のものを含む:
-第一の組成物であって、任意で重水素により置換され、及び任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は任意で4位がリン酸一水素で置換されたDMT化合物の塩を含む組成物;及び
-第二の組成物であって、前記塩とは別の緩衝剤を含む組成物;
ここで、前記第一の組成物及び第二の組成物は、水と、及び任意で等張化剤と混合され、得られた混合物が第一の局面の製剤を生成する。
【0110】
疑義を回避するために、本明細書に規定される、本発明の第一の局面の任意置換DMT塩及び緩衝剤に関連する実施形態は、変更すべきところは変更した上で、第二の局面に適用される。例えば、キットの任意置換DMT塩は、25℃で約3~約5のpKaを有するブレンステッド酸を含んでもよく、式Iの化合物及び/又は緩衝剤は、酢酸塩及び酢酸を含んでもよい。
【0111】
キット内の、任意置換DMT塩は、固体(例えば、粉末形態又は結晶形態)であってもよい。固体形態の任意置換DMT塩の分解を改善するために、キットに組み込む前に、塩を凍結乾燥(フリーズドライ)してもよい。塩を凍結乾燥することは、溶媒(典型的には水)の存在下でそれを凍結し、昇華によって溶媒を塩から分離することを含む。
【0112】
キットは、等張化剤をさらに含んでもよい。キットが等張化剤をさらに含む場合、本明細書に規定される、本発明の第一の局面の任意の等張化剤に関連する実施形態は、変更すべきところは変更した上で、第二の局面にも適用される。例えば、等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、デキストロース、グルコース、マンニトール、ラクトース、ソルビトール及びスクロースからなる群より選択されるいずれか1つ又は任意の組合せであってもよい。
【0113】
第三の局面からみて、本発明は、第一の局面の医薬製剤(典型的には溶液である)を調製する方法を提供する。この方法は、任意置換DMT塩、緩衝剤、水、及び任意で等張化剤を接触させることを含む。疑義を避けるために、本発明の第一の局面の実施形態は、変更すべきところは変更した上で、第三の局面に適用される。例えば、塩はDMTであってもよく、緩衝剤は酢酸及び酢酸塩を含んでもよく、及び/又は塩化ナトリウムは等張化剤として使用されてもよい。
【0114】
本方法の接触は、種々の方法で達成されてもよいことが理解される。しばしば、任意置換DMT塩を水に溶解して、第一の溶液を形成し、そこに緩衝剤を添加して溶解し、第二の溶液を形成する。等張化剤を使用する場合は、第二の溶液に添加し、溶解することが多い。
【0115】
いくつかの実施形態において、緩衝剤の水溶液は、前記塩と接触させられ、ここで、水溶液は、約3.5~約6.5のpH(例えば、約3.75~約6.5のpHなど)を有する。時には、水溶液は、約3.75~約5.75のpH(例えば、約3.75~約4.25のpHなど)を有する。いくつかの実施形態において、水溶液は、約4.0のpHを有する。
【0116】
製剤内の任意置換DMT塩は、遊離塩基としての任意置換DMTを、ある量の緩衝剤(pHを安定化し、任意置換DMTがプロトン化された場合、それに対する対イオンとして作用するのに適した緩衝剤)を含む水溶液と接触させることによって形成することができる。したがって、本発明の方法は、遊離塩基形態の任意置換ジメチルトリプタミンを、緩衝剤、水、及び任意で等張化剤と接触させることを含み得る。
【0117】
いくつかの実施形態において、本方法は、前記接触により得られる溶液のpHを調整することをさらに含む。前記接触から生じる溶液のpHは通常低いので、pH調整は、しばしば、溶液を適切な塩基と接触させることを含む。当業者は、任意置換DMT塩の分解のリスクを伴わずに、前記接触から生じる溶液のpHを調整するために、どの塩基が適しているかを評価することができる。
【0118】
しばしば、前記接触から得られる溶液のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群より選択されるいずれか1つで調整される。いくつかの実施形態では、pHは、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムで調整される。
【0119】
上述のように、製剤の分解をさらに改善するために、製剤が貯蔵される容器内の全酸素含有量、製剤と容器内のヘッドスペース(もしあれば)との間で平衡化する容器内の酸素を最小限にすることが望ましい場合がある。従って、例えば、ヘッドスペースをパージして、その酸素含有量を、空気中で典型的に見られる約20%から、例えば0.5%未満に減少させることによって、不活性雰囲気下で製剤を保存することが望ましい場合がある。加えて、又は代わりに、いくつかの実施形態では、本方法は、前記接触から得られた溶液を、不活性ガス(窒素又はアルゴンなど、典型的には窒素)でスパージすることをさらに含む。
【0120】
第四の局面からみて、任意で重水素で置換され、任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は任意で4位がリン酸一水素で置換されたジメチルトリプタミン化合物塩の注射用医薬製剤の分解を改善するための、緩衝剤の使用が提供される。
【0121】
疑義を避けるために、本発明の第一の局面の実施形態は、変更すべきところは変更した上で、第四の局面に適用される。具体的には、緩衝剤及び任意置換DMT塩に関する第一の局面の実施形態は、変更すべきところは変更した上で、第四の局面に適用される。例えば、第四の局面の緩衝剤は、酢酸塩及び酢酸;リン酸塩及びリン酸;クエン酸塩及びクエン酸;アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸;又は安息香酸塩及び安息香酸を含んでもよく;及び/又は、第四の局面の任意置換DMT塩は、25℃で約3~約5のpKaを有するブレンステッド酸を含んでもよい。
【0122】
上述のように、DMTは、うつ病、強迫性障害、及び物質乱用障害の治療において治療的役割を果たす(S. A. Barker, 2018, supra)。したがって、第五の局面からみて、本発明は、治療に使用するための第一の局面の製剤を提供する。
【0123】
第六の局面からみて、本発明は、患者の精神障害又は神経障害を治療する方法において使用するための第一の局面の製剤を提供する。しばしば、精神障害又は神経障害は、(i)強迫性障害、(ii)うつ病性障害、(iii)不安障害、(iv)物質乱用、及び(v)意欲消失障害からなる群より選択される。多くの場合、前記障害は、大うつ病性障害、治療抵抗性大うつ病性障害、産後うつ病、強迫性障害及び摂食障害(強迫性摂食障害など)からなる群より選択される。
【0124】
第七の局面からみて、本発明は、第一の局面の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、精神障害又は神経障害を治療する方法を提供する。精神障害又は神経障害は、第六の局面に関連して記載された任意のものであり得る。例えば、障害は、大うつ病性障害、治療抵抗性大うつ病性障害、産後うつ病、強迫性障害及び摂食障害(強迫性摂食障害など)からなる群より選択されてもよい。
【0125】
障害を治療するために、前記製剤は、有効量のDMT化合物、すなわち、障害の進行速度を減少又は停止させるか、又は障害を改善又は治癒し、それゆえ所望の治療又は阻害効果を生じるのに十分な量を含む。
【0126】
前記製剤は、場合により注射に適しており、従って、治療におけるその投与は、典型的には、前記製剤の注射を含む。
【0127】
前記製剤は、ボーラス注射に適していてもよく、ボーラス注射では、体内のDMT濃度が急速に増加するように、任意置換DMT塩の個別の量を1回の注射で投与する。ボーラス注射は、典型的には静脈内(静脈内に直接)、筋肉内(筋内)、皮内(皮膚の下)又は皮下(脂肪又は皮膚内)に投与される。
【0128】
あるいは、製剤は、吸入に適していてもよく、好ましくはエアゾールとして、例えば鼻腔用スプレーとして適していてもよい。
【0129】
本明細書中で言及される各々及び全ての参照は、各々の参照の全内容が、その全体が本明細書中に記載されているかのように、参照により本明細書にその全体が組み込まれる。
【0130】
本発明は、以下の非限定的な条項及びその後に続く実施例を参照してさらに理解され得る:
1.医薬製剤(場合により注射に適した医薬製剤)であって、
任意で重水素で置換され、及び任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は任意で4位がリン酸一水素で置換されているジメチルトリプタミン化合物の塩;
前記塩とは別の緩衝剤;及び

を含み、ここで、前記製剤は、約3.5~約6.5のpH及び約250~約350 mOsm/Kgの浸透圧を有する。
2.pHが約3.75~約6.5である、条項1の製剤。
3.pHが約3.75~約5.75である、条項1の製剤。
4.pHが約3.75~約4.25である、条項1の製剤。
5.pHが約4.0である、条項1の製剤。
6.前記製剤が、約275~約325 mOsm/Kgの浸透圧を有する、条項1~5のいずれか1項に記載の製剤。
7.前記製剤が、約280~約310 mOsm/Kgの浸透圧を有する、条項1~5のいずれか1項に記載の製剤。
8.前記製剤が、約295~約305 mOsm/Kgの浸透圧を有する、条項1~5のいずれか1項に記載の製剤。
9.ジメチルトリプタミン化合物が、任意で、5位がメトキシで、又は4位がアセトキシあるいはリン酸一水素で置換されている、条項1~8のいずれか1項に記載の製剤。
10.ジメチルトリプタミン化合物が、任意で、α、β及びジメチル炭素原子から選択される1つ以上の位置にて重水素で置換されている、条項1~9のいずれか1項に記載の製剤。
11.ジメチルトリプタミン化合物が、任意で、α及びβ炭素原子から選択される1つ以上の位置にて重水素で置換されている、条項1~9のいずれか1項に記載の製剤。
12.ジメチルトリプタミン化合物が、任意で、α炭素原子にて、1つ又は2つの重水素で置換されている、条項1~9のいずれか1項に記載の製剤。
13.前記塩が、約3~約5のpKaを有するブレンステッド酸、及び式Iの化合物を含む、条項1~8のいずれか1項に記載の製剤:
【化7】
式中、
R4及びR5は両方ともHであり、各XH及び各YHはH及びDから独立して選択されるか、又は
R4及びR5の一方はHであり、他方はアセトキシ又はメトキシであり、各YHはHであり、及び各XHはH及びDから独立して選択されるか、又は
前記塩は、式Iの化合物を含み、ここで、R4はリン酸一水素であり、R5はHであり、各YH及び各XHはHである。
14.R4とR5の両方がHである、条項13の製剤。
15.各YHがHであり、各XHがH及びDから独立して選択される、条項14の製剤。
16.R4がアセトキシで、R5がHである、条項13の製剤。
17.R4がHで、R5がメトキシである、条項13の製剤。
18.任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物が、ジメチルトリプタミンである、条項1~14のいずれか1項に記載の製剤。
19.前記塩が、任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物と、フマル酸、酒石酸、クエン酸、酢酸、乳酸及びグルコン酸からなる群より選択される酸とからなる、条項1~18のいずれか1項に記載の製剤。
20.前記酸がフマル酸である、条項19に記載の製剤。
21.任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物が、HPLCにより99%を超える純度を有する、条項1~20のいずれか1項に記載の製剤。
22.任意で置換されたジメチルトリプタミンが、約0.001~約28mg/mLの濃度である、条項1~21のいずれか1項に記載の製剤。
23.任意で置換されたジメチルトリプタミンが、約2.5~約28mg/mLの濃度である、条項1~22のいずれか1項に記載の製剤。
24.任意で置換されたジメチルトリプタミンの濃度が、約2.5mg/mLである、条項1~23のいずれか1項に記載の製剤。
25.前記緩衝剤が、酢酸塩及び酢酸;リン酸塩及びリン酸;クエン酸塩及びクエン酸;アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸;安息香酸塩及び安息香酸;シュウ酸塩及びシュウ酸;又は、ギ酸塩及びギ酸を含む、条項1~24のいずれか1項に記載の製剤。
26.前記緩衝剤が、酢酸塩及び酢酸;リン酸塩及びリン酸;クエン酸塩及びクエン酸;アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸;又は、安息香酸塩及び安息香酸を含む、条項1~24のいずれか1項に記載の製剤。
27.前記緩衝剤が、酢酸塩及び酢酸を含む、条項1~24のいずれか1項に記載の製剤。
28.前記緩衝剤が、酢酸ナトリウム及び酢酸、又は酢酸カリウム及び酢酸を含む、条項27に記載の製剤。
29.前記製剤が、約15mM~約75mMの濃度で前記緩衝剤を含む、条項1~28のいずれか1項に記載の製剤。
30.前記緩衝剤の濃度が、約20mM~約30mMである、条項29の製剤。
31.前記緩衝剤の濃度が、約25mMである、条項29の製剤。
32.前記製剤が、等張化剤をさらに含む、条項1~31のいずれか1項に記載の製剤。
33.前記製剤が、本質的に、前記塩、前記緩衝剤、水、及び任意で等張化剤からなる、条項1~32のいずれか1項に記載の製剤。
34.前記製剤が、前記塩、前記緩衝剤、水、及び任意で等張化剤のみからなる、条項1~32のいずれか1項に記載の製剤。
35.前記等張化剤が塩化ナトリウムである、条項32~34のいずれか1項に記載の製剤。
36.前記製剤が、約120mM~約140mMの濃度の塩化ナトリウムを含む、条項35に記載の製剤。
37.塩化ナトリウムの濃度が、約125mM~約135mMである、条項35に記載の製剤。
38.塩化ナトリウムの濃度が、約130mMである、条項35に記載の製剤。
39.2ppm未満の酸素含有量を有する、条項1~38のいずれか1項に記載の製剤。
40.0.1ppm~2ppmの酸素含有量を有する、条項39に記載の製剤。
41.紫外線の透過を防止するように構成された容器に貯蔵された、条項1~40のいずれか1項に記載の製剤。
42.容器が琥珀色のガラスバイアルである、条項41に記載の製剤。
43.条項1~42のいずれか1項に記載の製剤を調製するのに適したキットであって、
任意で重水素で置換された、及び任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は任意で4位がリン酸一水素で置換されたジメチルトリプタミン化合物の塩;及び
前記塩とは別の緩衝剤
を含む、キット。
44.前記塩、緩衝剤、水及び任意で等張化剤を接触させることを含む、条項1~42のいずれか1項に記載の医薬製剤を調製する方法。
45.前記緩衝剤の水溶液を、前記塩と接触させ、ここで、前記水溶液が、条項1~5のいずれか1項に規定されるpHを有する、条項44に記載の方法。
46.遊離塩基形態である任意で置換されたジメチルトリプタミンを、前記緩衝剤、水及び任意で等張化剤と接触させることを含む、条項44又は45に記載の方法。
47.前記接触から生じる溶液のpHを調整することをさらに含む、条項44~46のいずれか1項に記載の方法。
48.pHが水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムで調整される、条項47に記載の方法。
49.前記接触から生じた溶液を、不活性ガスでスパージすることをさらに含む、条項44~48のいずれか1項に記載の方法。
50.前記不活性ガスが窒素である、条項49に記載の方法。
51.任意で重水素で置換され、任意で4位又は5位がアセトキシあるいはメトキシで、又は任意で4位がリン酸一水素で置換されたジメチルトリプタミンの塩の注射用医薬製剤の分解を改善するための、緩衝剤の使用。
52.前記塩が、条項13~24のいずれか1項に定義される通りである、条項51に記載の使用。
53.治療に使用するための、条項1~42のいずれか1項に記載の製剤又は条項43に記載のキット。
54.患者の精神障害又は神経障害を治療する方法において使用するための、条項1~42のいずれか1項に記載の製剤又は条項43に記載のキット。
55.前記精神障害又は神経障害が、(i)強迫性障害、(ii)うつ病性障害、(iii)不安障害、(iv)物質乱用、及び(v)意欲消失障害からなる群より選択される、条項54に記載の使用のための製剤。
56.前記障害が大うつ病性障害である、条項55に記載の使用のための製剤。
57.前記障害が治療抵抗性大うつ病性障害である、条項55に記載の使用のための製剤。
58.前記障害が産後うつ病である、条項55に記載の使用のための製剤。
59.前記障害が強迫性障害である、条項55に記載の使用のための製剤。
60.前記障害が摂食障害である、条項55に記載の使用のための製剤。
61.摂食障害が強制摂食障害である、条項60に記載の使用のための製剤。
62.精神障害又は神経障害を治療する方法であって、それを必要とする患者に、条項1~42のいずれか1項に記載の製剤を投与することを含む、方法。
63.前記精神障害又は神経障害が、条項55~61のいずれか1項に記載のものである、条項62に記載の方法。
【0131】
[実施例1]
N,N-DMT 220.9g(遊離塩基として)を、上記スキーム3に示された化学を使用して、N,N-DMTフマル酸塩として調製した。さらなる6種の部分重水素化混合物4~6gも、修正コンディションを用いて製造した。
【0132】
スキーム3では、カルボジイミドカップリング剤EDC.HCl、及び追加のカップリング剤(カップリング剤の反応性を高める)HOBtが使用される。より一般的には、2種以上のカップリング剤の組合せは、(i)DCC、EDC、及びDICから選択されるホスホニウムカップリング剤及びカルボジイミドカップリング剤;及び (ii)HOBt、HOOBt、HOSu、HOAt、エチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセテート及びDMAPから選択される追加のカップリング剤、から選択される剤を含む。しばしば、以下に例示するように、EDCが使用される(好ましくはHCl塩として)。しばしば、以下に例示するように、追加のカップリング剤はHOBtである。しばしば、以下に例示するように、EDC(好ましくはHCl塩として)が、追加のカップリング剤HOBtと組み合わせて使用される。
【0133】
ステージ1:インドール-3-酢酸とジメチルアミンのカップリング
N2下の5L容器に、インドール-3-酢酸(257.0g、1.467mol)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、約20%wet)(297.3g、1.760mol)、及びジクロロメタン(2313mL)を投入し、乳白色懸濁液を得た。次いで、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC.HCl、337.5g、1.760mol)を、16~22℃で5分かけて一部ずつ投入した。反応混合物を周囲温度で2時間撹拌した後、THF中の2Mジメチルアミン(1100mL、2.200mol)を20~30℃にて20分かけて滴下した。得られた溶液を周囲温度で1時間撹拌し、ここで、HPLCは、1.1%のインドール-3-酢酸及び98.1%の標的生成物を示した(ステージ1と称する)。次に、反応混合物に10%K2CO3(1285ml)を添加し、5分間撹拌した。層を分離し、上部の水層をジクロロメタン(643mL×2)で抽出した。有機抽出物を合わせ、飽和塩水(643mL)で洗浄した。次いで、有機抽出物をMgSO4で乾燥し、濾過し、45℃にて真空中で濃縮した。これにより、303.1gの粗ステージ1をオフホワイトの粘着性固体として得た。次いで、この粗物質を、tert-ブチルメチルエーテル(TBME、2570mL)中、50℃にて2時間スラリーとし、その後、周囲温度に冷却し、濾過し、TBME(514mL×2)で洗浄した。次いで、濾過ケーキを50℃にて真空乾燥し、オフホワイトの固体として、266.2g(収率=90%)のステージ1を得た(純度はHPLCにて98.5%、及びNMRにて>95%)。
【0134】
ステージ2:DMTの調製
N2下で5L容器に、ステージ1(272.5g、1.347mol)及びテトラヒドロフラン(THF、1363mL)を投入し、オフホワイトの懸濁液を得た。次いで、THF中の2.4M LiAlH4(505.3mL、1.213mol)を、20~56℃にて35分かけて滴下し、琥珀色の溶液を得た。この溶液を60℃に2時間加熱し、ここで、HPLCは、ステージ1(ND)、標的生成物ブラケット(ステージ2と称する 92.5%)、不純物1(2.6%)、不純物2(1.9%)を示した。完全な反応混合物を周囲温度まで冷却し、次いで25%ロッシェル塩(aq)(2725mL)の溶液に30分かけて20~30℃にて滴下した。得られた乳白色懸濁液を20~25℃で1時間撹拌し、その後層を分離し、上層の有機層を飽和塩水(681mL)で洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、濾過し、45℃にて真空中で濃縮した。得られた粗油状物質を、エタノール(545mL×2)から共沸混合物に供した。これにより、HPLCでは95.0%、NMRでは>95%の純度で、234.6gのステージ2(収率=92%)が得られた。
【0135】
ステージ3a(i)~(iii):DMTフマル酸塩の種結晶の調製
(i) ステージ2(100mg)を、8容量の酢酸イソプロピルに入れ、50℃に温めてから、フマル酸(1当量)をエタノール溶液として投入した。次いで、フラスコを50℃で1時間成熟させてから、室温まで冷却し、一晩撹拌し、白色懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、161mgの生成物を得た(>99%収率)。HPLCによる純度は99.5%であり、NMRによる純度は>95%であった。
【0136】
(ii) 方法(i)における酢酸イソプロピルをイソプロピルアルコールに置き換え、一晩撹拌した後に白色懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、168mgの生成物を得た(>99%収率)。HPLCによる純度は99.8%であり、NMRによる純度は>95%であった。
【0137】
方法(i)における酢酸イソプロピルをテトラヒドロフランに置き換え、一晩撹拌した後、白色懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、161mgの生成物を得た(>99%収率)。HPLCによる純度は99.4%であり、NMRによる純度は>95%であった。
【0138】
X線粉末回折による分析は、方法(i)~(iii)の各々の生成物が同じであることを示し、これはパターンAと名付けられた。
【0139】
ステージ3b:DMTフマル酸塩の調製
N2下の5Lフランジフラスコに、フマル酸(152.7g、1.315mol)及びステージ2(248.2g、1.315mol)をエタノール(2928mL)中の溶液として投入した。混合物を75℃に加熱して、暗褐色の溶液を得た。溶液を、予熱した(80℃)5Lのジャケット付き容器中にポリッシング濾過した。次いで、溶液を70℃に冷却し、パターンA(0.1wt%)を播種し、種を30分間成熟させてから、5℃/時間の速度で0℃まで冷却した。0℃でさらに4時間撹拌した後、バッチを濾過し、冷エタノール(496mL×2)で洗浄し、次いで50℃で一晩乾燥した。これにより、HPLCでは純度99.9%、NMRでは純度>95%にて、312.4g(収率=78%)のステージ3を得た。XRPD:パターンA
【0140】
5-メトキシインドール-3-酢酸の使用以外は直前に記載したDMTフマル酸塩に類似した方法で、5-メトキシ-DMTフマル酸塩を調製した。
【0141】
DMT化合物の重水素化混合物の合成
固体LiAlH4/LiAlD4混合物を用いるステージ2の修正合成法を採用し、1.8等量のLiAlH4/LiAlD4 vs 0.9等量を用いて、非重水素化DMTのために上述した方法を使用した。
6つの重水素化反応を行った。
【0142】
DMT化合物の重水素化混合物(1:1のLiAlH 4 :LiAlD 4 を使用)の代表的な合成法
N2下の250mLの三つ口フラスコに、LiAlH4(1.013g、26.7mmol)、LiAlD4(1.120g、26.7mmol)、THF(100ml)を投入した。得られた懸濁液を30分間撹拌した後、ステージ1(6g、29.666mmol)を20~40℃にて15分間かけて一部ずつ投入した。次いで、反応混合物を2時間加熱還流し(66℃)、ここで、HPLCは、ステージ1が残っていないことを示した。混合物を0℃に冷却し、30℃未満にて30分間かけて25%ロッシェル塩(aq)(120mL)でクエンチした。得られた乳状懸濁液を1時間撹拌し、次いで分離させた。下層の水層を除去し、上層の有機層を飽和塩水(30mL)で洗浄した。次いで、有機物をMgSO4で乾燥し、濾過し、真空中で濃縮した。これにより、4.3gの粗物質を得た。次いで、粗物質をエタノール(52mL)に取り、フマル酸(2.66g、22.917mmol)を投入した後、75℃に加熱した。得られた溶液を一晩周囲温度まで冷却した後、1時間さらに0~5℃に冷却した。固体を濾過により単離し、冷エタノール(6.5mL×2)で洗浄した。濾過ケーキを50℃で一晩乾燥し、HPLCでは純度99.9%、NMRでは純度>95%で5.7g(収率=63%)の生成物を得た。
【0143】
重水素化の程度の評価
これは、LCMS-SIM(SIM=シングルイオンモニタリング)によって達成され、分析は、N,N-ジメチルトリプタミンについての保持時間で、3つの重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物(N,N-ジメチルトリプタミン(D0)、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D1)、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D2))の各質量について別個のイオンカウントを与える。次いで、これらのイオンカウントから各成分のパーセンテージを計算した。例えば、
【数2】
【0144】
【0145】
【0146】
6種の重水素化反応のデータを、以下の表Aに示す:
[表A]
【0147】
5-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン、又は、4-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミンを合成するために、3-インドール酢酸(スキーム3参照)を、それぞれ、5-メトキシインドール-3-酢酸(後述のα,α-ジデューテロ-5-メトキシジメチルトリプタミンの合成を参照)、又は、4-メトキシインドール-3-酢酸で置き換えることができ、これらは両方とも市販されている(5-メトキシインドール-3-酢酸については、例えば、Sigma-Aldrichから(コードM14935-1G)、4-メトキシインドール-3-酢酸については、例えば、Aaron chemicals(コードAR00VTP1)を参照のこと)。
【0148】
5-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン(Sigma-Aldrich コードM-168-1ML参照)、4-メトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン(Cayman Chemical コード9000895参照)、4-アセトキシ-N,N-ジメチルトリプタミン(Cayman Chemical コード14056参照)、及び、3-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-1H-インドール-4-イル ホスフェート(シロシビン, Sigma-Aldrich CAS Number 520-52-5参照)も、市販されている。
【0149】
α,α-ジデューテロ-5-メトキシジメチルトリプタミンの合成
ステージ1:
N2下の100mlの三つ口フラスコに、5-メトキシインドール3-酢酸(3.978g,19.385mmol)、HOBt(約20%wet)(3.927g,23.261mmol)、及びDCM(40ml)を投入した。次いで、EDC.HCl(4.459g、23.261mmol)を<30℃で15分間かけて少量ずつ添加した。反応混合物を周囲温度で1時間撹拌した後、2Mのジメチルアミン(14.54mL、29.078mmol)を<25℃で15分間かけて滴下した。1時間の撹拌後、HPLCは、SMが残っていないことを示した。次いで、反応混合物に10% K2CO3(20mL)を添加し、5分間撹拌し、その後分離させた。下側の水層を除去し、DCM(10mL×2)で逆抽出した。有機抽出物を合わせ、飽和塩水(10mL)で洗浄し、次いでMgSO4で乾燥し、濾過した。濾液を真空中、45℃で濃縮し、純度95.7%(HPLC)の3.898gの活性生成物(収率=87%)を得た。
【0150】
ステージ2
N2下の100mLの三つ口フラスコに、ステージ1のメトキシ誘導体(3.85g、16.586mmol)、及びTHF(19.25ml)を投入した。次いで、THF(6.22mL、14.927mmol)中の2.4MのLiAlD4を、<40℃で30分かけて滴下した。反応混合物を60℃に1時間加熱したところ、HPLCは、0.1%のSMが残存していることを示した。次いで、反応混合物を周囲温度に冷却し、<30℃で30分間かけて25%ロッシェル塩(38.5mL)中に滴下してクエンチした。得られた懸濁液を1時間撹拌した後、分離させた。次いで、下層の水層を除去し、上層の有機層を飽和塩水(9.6mL)で洗浄した。次いで、有機物をMgSO4で乾燥し、濾過し、真空中で濃縮し、その後、EtOH(10mL×2)からの共沸混合物に供した。これにより、HPLCによる純度91.5%で、3.196gの活性生成物(収率=88%)を得た。
【0151】
ステージ3
N2下の50mlの三つ口フラスコに、フマル酸(1.675g,14.430mmol)、及びステージ2のメトキシ誘導体(3.15g,14.299mmol)のEtOH溶液(37.8mL)を投入した。次いで、混合物を75℃に1時間加熱したが、これは予想したような溶液を生成せず、混合物をさらに加熱還流(78℃)してもなお、溶液を得ることができなかった。したがって、懸濁液を0~5℃に冷却し、濾過し、EtOH(8mL×2)で洗浄した後、50℃で一晩乾燥させた。これにより、HPLCにて99.9%の純度で3.165g(収率=65%)の物質を得た。
【0152】
製剤の開発
ヒト血清と等張であり、DMTフマル酸塩の静脈内(IV)ボーラス投与に適した安定な製剤を開発した。濃度2.5mg/mLのDMTフマル酸塩を含むこのような製剤を調製するための適切なプロセスも開発した。これらの製剤を調製し、安定性を評価するために数週間にわたり加速保存条件下に置いた。
【0153】
以下に述べるすべての濃度は、遊離塩基として(すなわち、フマル酸対イオンの非存在下で)表される。そのために、供給された製剤原料の特定のバッチに、補正係数1.59が適用されている。
【0154】
実験の詳細
初期試験
DMTフマル酸塩の溶解性は、少数の選択した水性ビヒクル(水、生理食塩水、20mMリン酸緩衝液、及び緩衝剤と生理食塩水の組合せ)中で、10mg/mLの濃度で評価した。
【0155】
219.53mgの二塩基形態[HPO4][Na]2を、183.7mgの一塩基形態[H2PO4]Naとともに使用して(両方とも二水和物塩である)、リン酸緩衝液(100ml)を調製した。NaOH(1M)を添加して溶液をpH7.0に調整し、次いで所定の体積にした。10mLの10mg/mL製剤を調製した。
【0156】
生理食塩水と組み合わせたリン酸緩衝液を、溶解性に問題のない生理学的に許容される製剤のための良好な出発点として、最初に試験した(0.45%w/v生理食塩水中の20mMリン酸緩衝液)。これを調製するために、まず塩化ナトリウムを水に溶解して、生理食塩水(100mL、0.45%w/v)を生成した。次いで、上述の量のリン酸塩を生理食塩水に溶解し、NaOH(1M)を使用してpHを調整した。
【0157】
DMTフマル酸塩は、各水性ビヒクルに易溶性であった。外観に関しては、各溶液は透明なベージュ色であり、濾過で除去されて(0.2μmフィルターを使用)、透明な無色の溶液を生成した。これらの溶液のpHは3~4の範囲であった。
【0158】
30及び50mM(リン酸緩衝液として、pH7.4、0.45%w/v塩化ナトリウム中で調製)でのバッファー強度を試験し、2mg/mL又は2.5mg/mL濃度のDMTフマル酸塩を含む製剤のpHコントロールに緩衝剤が及ぼす影響を評価した。このバッファー強度範囲は、製剤のpHを、約pH7.4に固定するために必要なバッファー強度を決定するために選択された。注射用製剤を開発する場合、製剤のpHを患者の血清pHと一致させることが典型的である。ヒト血清は、約7.4のpHを有する。緩衝液は、以下のように調製した。生理食塩水は、塩化ナトリウム9gを2リットルの水に溶解することによって調製した。リン酸塩(例えば、30mM=二塩基性二水和物(4.29g)、一塩基性二水和物(1.43g)、50mM=二塩基性二水和物(7.28g)、一塩基性二水和物(2.25g))を、生理食塩水中に溶解し、NaOH(1M)を使用してpHを7.4に調整した。2リットルの水に9gのNaCl。pHは、1M NaOHでpH7.4に調整した。
【0159】
調製後の各溶液の初期pHは、pH7.4未満であった。20mMでは、5.9の初期pH値は、実験室での一晩の溶液の保存時に低下し続け、20mM濃度での緩衝剤の緩衝能力が不十分であることを示唆した。30mM及び50mMバッファー強度の両方で、初期pH値は>6.5であり、安定したままであった。
【0160】
短期安定性評価を実施し、pH、浸透圧及びアッセイについて得られたデータを、表1及び2に示す。表2のデータは、40~50℃で製剤を保存した場合に得られたものである。
【0161】
【表1】
【0162】
【表2】
【0163】
注目すべきことに、周囲状況で貯蔵した定番緩衝剤(40℃で1週間)は、N2スパージ又はUV光曝露のコントロールが無い場合、1週間の貯蔵後に1.13%の関連物質を含有していた。これは、以下のBritton-Robinson緩衝化製剤について同条件下で形成された関連物質と比較される。
【0164】
製剤の開発
物質
安定性の目的のために採用されたDMTフマル酸塩の詳細を表3に示し、使用される賦形剤を表4に列挙する。
【0165】
【表3】
【0166】
【表4】
【0167】
装置
試験を通して使用される標準的な実験室用ガラス器具を除く装置を、表5に列挙する。装置の較正及び検証は、すべての測定について標準操作手順に従って行った(必要に応じて)。
【0168】
【表5】
【0169】
浸透圧の測定値
浸透圧測定値は、Advanced Instruments Osmo1機器を使用して得た。単一サンプルシリンジを使用して、浸透圧計にサンプルを注入した。この浸透圧計は、浸透圧を正確かつ厳密に測定するために、凝固点降下の工業的に好ましい原理を利用している。
精度の確認のために、分析前に、50、850及び2000 mOsm/kg H2O較正標準を使用して、機器を検証した。
【0170】
pH測定値
pHの測定値は、Mettler Toledo MP225 pHメーターを使用して得た。電極プローブを、周囲温度で短時間撹拌しながら、ガラスバイアル中に含まれる試験溶液中に挿入した。
精度の確認のために、pH1.68~10.01の範囲にわたるpH緩衝溶液を使用して、各使用の前及び後に機器を検証した。
【0171】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
以下のHPLCパラメーターを用いて、製剤開発の一環として調製したDMTフマル酸塩の溶液のアッセイ及び関連物質(DMTフマル酸塩の分解から生じる物質)の量を評価した。
【0172】
製剤開発
DMTフマル酸塩の溶解度は、pH4~pH10の異なるpH値の範囲にわたって最初に評価された。次いで、pH4~pH9のpH範囲にわたって、DMTフマル酸塩の目標濃度2.5mg/mLにて製剤を調製した。
【0173】
異なるpH値でのDMTフマル酸塩の溶解度
Britton-Robinson(B-R)緩衝溶液中で、それぞれ濃度20mg/mLのDMTフマル酸塩を含む7つの溶液を調製した。各試験製剤中にDMTフマル酸塩を溶解し(DMTフマル酸塩は非常に溶けやすく、回旋及び振盪のみを必要とした)、次いで、水酸化ナトリウム溶液を使用して、各試験製剤のpHを、4、5、6、7、8及び9に調整した。
【0174】
濃度20mg/mLのDMTフマル酸塩の溶解性が、pH4、5、6、及び7で確認された(これらの溶液は透明で無色であった)。pH8のサンプルは濁っており、pH9及びpH10のサンプルは沈殿物を含んでいた。周囲状況で一晩保存した後、各溶液のpHを測定したところ、初期pH値からの変化は観察されなかった。次いで、各サンプルを濾過し、含有量について分析した。各溶液(沈殿物が存在する高pH溶液を含む)は、DMTフマル酸塩の含有量がほぼ同じであった。
【0175】
pH安定性
濃度2.5mg/mLのDMTフマル酸塩のpH安定性を、40mMのBritton-Robinson緩衝溶液中で、pH4~9(公称)の緩衝溶液範囲にわたって評価した。各製剤のpHは、調製時、40℃で7日間保存した後、次いで40℃でさらに3日間、及び50℃でさらに7日間保存(したがって、合計でさらに10日間保存)した際に測定した。これらの製剤の分析は、含有量(アッセイ)及び関連物質について、調製時、次いで7日間及び17日間の保存後に実施された。
【0176】
pH7(公称)溶液の2つの追加アリコートを、さらなる試験のために採取し、1つ目は窒素でスパージし、2つ目は強力なUV光下で4時間ストレスをかけた(1 ICH単位[200ワット時間UVA、60万luxhour]と等価)。
【0177】
各製剤の調製時、pHが、0.14単位(pH4製剤)~1.29単位(pH9製剤)の範囲で低下したのは、製剤原料の酸性の性質によるものであった。いったん調製されると、各製剤のpHは、その後の2つの安定性測定時点で安定のままであった(表6)。
【0178】
DMTフマル酸塩の濃度は、調製時及びその後の2つの安定性測定時に、HPLCによって決定した(表7)。全ての結果は、7日目又は17日目のいずれにおいても有意な濃度変化を伴わない正確な調製を確認した。実験の間の唯一の有意な変化は、公称pH7製剤のアリコートに光ストレスをかけた後の濃度低下であった。これは、観察される分解物の有意な増加を伴った。
【0179】
関連物質については、総ピーク面積の0.05%を超えるピークのみが報告されている。要約された関連物質のデータを表8に示し、個々の値を表9(40℃で7日間保存)及び表10(40℃で10日間保存、さらに50℃で7日間保存)に示す。
【0180】
調製時、関連物質のピークは存在しなかった。7日目には、pH9製剤のみが、相対保持時間1.11にピークを示した。7日間の高温貯蔵後に、最小の追加ピークのみが観察され、製剤は、さらなるストレスを受け(経時的な貯蔵温度の増加)、17日間の貯蔵後の分析において、さらなるピークが製剤のいくつかに存在し、pHの増加に伴ってピークの数及びピーク面積が増加する可視的に明らかな傾向を有した(ピーク無し(pH4)から、0.61%の総ピーク面積を有する3つのピーク(pH9))、。窒素スパージ製剤(pH7)は、その非スパージ同等物よりも有意にロバストであり、酸化が分解経路であることを確認した。光ストレス製剤は、最も分解されたサンプルであり、総関連物質の値は1.68%であった。
【0181】
【表6】
【0182】
【表7】
【0183】
【表8】
【0184】
【表9】
【0185】
【表10】
【0186】
初期製剤とB-R緩衝化製剤の安定性の比較
上述のように、40~50℃の温度で保存した定番緩衝剤を含むDMTフマル酸塩製剤は、N2スパージやUV光曝露のコントロールが無い場合、一週間の保存後に1.13%の関連物質を含有していた。40~50℃で一週間保存した定番製剤及びB-R製剤中で形成された関連物質の量を、表11で比較する。同じ条件下で保存された、B-R緩衝液を含むDMTフマル酸塩製剤は、一週間の保存後に0.02%未満の関連物質を含有しており(定番製剤よりも57倍少ない関連物質)、B-R製剤のより大きな安定性を示唆した。
【0187】
上述のように、注射用製剤を開発する場合、製剤のpHを、患者の血清pHと一致させることが典型的である。ヒト血清は、約7.4のpHを有する。その結果、任意で置換されたジメチルトリプタミン化合物の塩の自明な定番製剤は、pH7.4のものである。pH値7.0以下で調製したこのような塩の製剤のより大きな安定性は予想外であった。
【0188】
【表11】
【0189】
候補製剤開発
pH安定性評価の結果から、製剤pHをpH4.0に固定することとし(一週間の保存後、pH4.0のB-R製剤は、関連物質に相当するピークを含まなかったことから、最も安定な製剤であることが示唆された)、濃度20mM及び40mMにてリン酸及び酢酸緩剤系の使用を評価し(これらの緩衝剤はいずれも安定性のために最適なpHにおいて良好である)、及び、等張化剤として塩化ナトリウム及びデキストロースの両方を評価した。
【0190】
製剤の調製
個々の製剤それぞれ(No.1~8)の詳細を表12及び表13に示す。各製剤について、必要な酸及び等張化剤を80mLの水に溶解した。次いで、この溶液のpHを、1Mの水酸化ナトリウム溶液で、pH4(±0.5)に調整した。次いで、製剤原料を溶解し、pHを1Mの水酸化ナトリウム溶液でpH4(±0.1)に調整した後、水で所定の容量にし、最終pHをチェックし、必要に応じて調整した。各製剤について、使用した水酸化ナトリウムの容量を記録した。各製剤の組成を以下の表12(生理食塩水)及び表13(デキストロース)に示す。
【0191】
各製剤のアリコートを、アッセイ/関連物質及び浸透圧チェックのために採取した。各製剤の残りを、透明なガラス製マルチドーズバイアルへ濾過し(フィルターサイズ0.2μm)、窒素でスパージし、キャップをして14日間保存した(60℃)。40mMのリン酸塩/デキストロース製剤(製剤8)を、2つのアリコートに分割し、1つのアリコートを琥珀色のガラス製マルチドーズバイアル中で保存し、1つのアリコートを透明ガラス製マルチドーズバイアル中に保存した。
【0192】
【表12】
【0193】
【表13】
【0194】
結果
調製時及び60℃で保存後の製剤の濃度、浸透圧及びpHの結果を、表14に示す。保存後の関連物質の結果を表15に示す。
【0195】
調製時の製剤はいずれも無色澄明の溶液であった。調製後のいずれの製剤にも、関連物質は存在しなかった。
【0196】
保存が終了した後、外観上、全ての製剤はもはや無色ではなく、様々な程度でベージュ色がかっていたが、全て透明のままであり、色は、最も関連物質の濃度が高かった製剤5(20mM酢酸塩緩衝剤/デキストロース)において最も顕著であった。
【0197】
浸透圧及びpHは、有意な変化がなく、試験された各製剤について安定であることが確認された。
【0198】
総ピーク面積の0.05%以上のピークの関連物質の合計は、0.07%~0.52%の範囲にわたった。これらのデータは、SPL026について、生理食塩水がデキストロースよりも好ましい等張化剤であることを示唆する。
【0199】
琥珀色のガラス(アンバーガラス)に保存された40mMのリン酸塩/デキストロース製剤についての14日目の結果はすべて、透明ガラスの結果によく似ており、透明ガラス/琥珀色ガラスによる保存が、これらの保存条件では安定性に影響を及ぼさないことが確認されたが、前述の光不安定性を考慮すると、琥珀色のガラスが一次包装として使用されるべきである。
【0200】
【表14】
【0201】
【表15】
【0202】
結論
14日間の安定性評価後、候補製剤は全て、浸透圧及びpHに関して安定であった。製剤1~3では、達成濃度に変化はなく、製剤5~8では、変化(貯蔵時の損失)は小さかった(<0.1mg.mL-1)。各候補製剤について、関連物質は総ピーク面積の0.07~0.52%と非常に低かった。生理食塩水製剤よりもデキストロース製剤において、より多くの関連物質が観察された。
【0203】
データのレビュー後、以下のSPL026製剤が選択された(本明細書では、SPL026製剤10と呼ぶ)。これは、製剤1に基づいているが、酢酸緩衝剤含量をわずかに増加させて、貯蔵寿命にわたって製剤中のロバストな緩衝作用を確実にするが、血液緩衝効果が最小限であることを確実にするのに十分低いレベルである。追加の酢酸を補う一方、等浸透圧溶液を維持するために、塩化ナトリウムの濃度をわずかに低下させた。この製剤を調製し、調製時の含有量、pH及び浸透圧について分析した。調製の詳細及び達成された結果を以下の表16に示す。
【0204】
【表16】
【0205】
製剤のテクニカル臨床バッチは、上記の組成を有する。臨床バッチは、GMP(Good Manufacturing Practices)に従って製造される。テクニカルバッチは、臨床バッチの調製の前に安定性データを確立するために使用される。初期のテクニカルデータは、臨床バッチの有効期間を決定するのに役立ち、GMPにつながる。
【0206】
製剤調製のために推奨されるプロセスの概要(バッチサイズ100mL)
ビヒクルの調製
1M 水酸化ナトリウム溶液(100mL)の調製
1) 水酸化ナトリウムペレット4gを適切なサイズのビーカーに秤量する。
2) 注射用水(WFI)80mLを、前記ビーカーに分注する。
3) 磁気的に撹拌して溶解させ、溶液を実験室温度まで冷ます。
4) 精製水を加えて100mLとする。
5) タイプ1のホウケイ酸ガラス容器に移す。
【0207】
製剤10の調製(2.5mg/mL)
1) 塩化ナトリウム760mgを適切な容器に正確に量る。
2) 適切な容器(ガラス製計量ボート)中で、製剤原料の必要量を、前後の差によって量る。採取した製剤原料の質量に塩及び純度の補正が含まれていることを確認する。
3) 秤量した製剤原料を注意深くビーカーに移す。固形物が残らないようにWFIで秤量容器をすすぐ。製剤原料に、さらにWFIを必要総量の3/4まで加え、磁気的に撹拌して溶解させる。バッチ量の酢酸を添加する(酢酸は揮発性であることに注意、したがって、このステップは秤量の直後に実施しなければならない)。
4) あらかじめ計量した塩化ナトリウムを加える。
5) 溶解が完了したら、新たに調製した1M水酸化ナトリウム溶液を絶えず撹拌しながら滴下して、製剤のpHをpH4(±0.1)に調整する。
6) 適切な容器で体積をあわせ、最後にpHが、pH4(±0.1)であることを確認し、必要に応じて調整する。
7) 医薬品溶液は、ごくわずかにベージュ色がかった透明である。この色は、濾過(ステップ9)で除去され、無色の濾過溶液を残す。
8) 測定される溶存酸素含有量が2ppm未満になるまで、製剤に窒素を通気する。
9) シリンジで、溶液を0.22μm又は0.2μmのいずれかで琥珀色のガラス製マルチドーズバイアルに濾過する。
【0208】
製剤10(テクニカルバッチ)の安定性
外観及びpH
調製時の、及び、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)、及び40℃/75%RHで保存後の、製剤10(テクニカルバッチ)の外観及びpH結果を、表17に示す。T=0(初期分析時)では、pHは3.8~4.2の規格を満たし、浸透圧は270~330 mOsm/kgの規格を満たした(296 mOsm/kg)。T=9か月までは、2~8℃又は25℃/60%RHでの保存時に、外観に有意な変化はない。しかしながら、40℃/75%RHでは、T=6ヶ月時点で製品に明らかな色の変化がある。他の状況と比較した場合、40℃/75%RHでの保存において、2カ月及び3カ月時点で色調変化の徴候があったが、6カ月時点で色調変化は明らかであった。2~8℃又は25℃/60%RHでの保存では、9ヶ月の時点まで、又は40℃/75%RHでの保存では、6ヶ月の時点まで、pHに変化はなかった。
【0209】
【表17】
【0210】
肉眼では見えない粒子
調製時、及び、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)、及び40℃/75%RHで保存後の製剤10(テクニカルバッチ)内の肉眼では見えない粒子の数を、表18に示す。2~8℃、25℃/60%RH及び40℃/75%RHにて6ヶ月間保存した後、肉眼では見えない粒子に有意な変化は認められない(表18参照)。
【0211】
【表18】
【0212】
抽出量
製剤10(テクニカルバッチ)の6バイアルからの抽出可能量を表19に示す。容量の算出に使用した密度は、バッチ製造に使用したプラセボデーター(1.008g/cm3)から採用した。抽出可能量は、NLT 10.0mLの規格を満たす。
【0213】
【表19】
【0214】
回収率
調製時、及び、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)、及び40℃/75%RHで保存後の製剤10(テクニカルバッチ)内のSPL026(遊離塩基、mg/mL)の回収率を、表20に示す。2~8℃又は25℃/60%RHで9ヶ月間保存した後、及び40℃/75%RHで6ヶ月間保存した後、製剤の純度に有意な変化はなかった。理論濃度及びT=0に対する回収率はすべて、90.0~105.0%の規格範囲内である。
【0215】
【表20】
【0216】
純度/関連物質
製剤10(テクニカルバッチ)内で異なる保持時間で観察されたSPL026(遊離塩基、mg/mL)の純度及び不純物の量(調製時、及び、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)及び40℃/75%RHで保存後)を、それぞれ表21、表22及び表23に示す。2~8℃及び25℃/60%RHで9ヶ月間保存した後の製剤中に観察された総不純物は、RRT 1.04での不純物(第一の時間で観察されるもの)に起因してわずかに増加し、両方の条件でLOQ限界を超えた。40℃/75%RHで保存した試料では、2ヵ月目から総不純物の増加が認められた。40℃/75%RHでは、T=2ヶ月目から、RRT 1.60で観察される不純物の増加が、他の保管状況と比較して認められ、これはより高い貯蔵温度(40℃)に起因し得る。
【0217】
【表21】
【0218】
【表22】
【0219】
【表23】
【0220】
製剤10(臨床バッチ)の安定性
T=0(初期の分析)では、pHは3.8~4.2の規格を満たし、浸透圧は270~330 mOsm/kgの規格を満たし(306 mOsm/kg)、抽出可能量は10.0mLのNLTを満たした(10.4mL)。また、T=0において、肉眼では見えない粒子数は、4粒子(サイズ≧10μm)/バイアル、及び、0粒子(サイズ≧25μm)/バイアルであり、これは、十分に、6000粒子以下(サイズ≧10μm)/バイアル、及び、600粒子以下(サイズ≧25μm)/バイアルの規格範囲内である。T=0では、製剤のUV-visスペクトルは、参照スペクトル(221±3nm及び279±3nmでλmax)に適合し、シグナルは参照標準の±2%保持時間で観察された。最後に、T=0では、容器閉鎖完全性試験で色素の浸入は認められず、製剤は無菌であり、<0.01EU/mLの細菌性エンドトキシンを含み、これは十分に、20.5EU/mLの規格範囲内である。
【0221】
外観及びpH
調製時、及び、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)、及び40℃/75%RHで保存後の製剤10(臨床バッチ)についての、外観及びpH結果を表24に示す。T=3か月までは、2~8℃、25℃/60%RH、又は40℃/75%RHで保存しても、外観に有意な変化はない。3ヶ月時点で色調変化の徴候があった。pHに変化はなかった。
【0222】
【表24】
【0223】
回収率
調製時、及び、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)、及び40℃/75%RHで保存後の、製剤10(臨床バッチ)内のSPL026(遊離塩基、mg/mL)の回収率を、表25に示す。2~8℃、25℃/60%RH、40℃/75%RHにて3ヶ月間保存した後、製剤の純度に有意な変化はなかった。理論濃度及びT=0に対する回収率はすべて、95.0~105.0%の規格範囲内である。
【0224】
【表25】
【0225】
純度/関連物質
製剤10(臨床バッチ)内で異なる保持時間において観察されたSPL026(遊離塩基、mg/mL)の純度及び不純物の量(調製時、及び、2~8℃、25℃/60%相対湿度(RH)、及び40℃/75%RHで保存後)を、それぞれ表26、表27及び表28に示す。
【0226】
【表26】
【0227】
【表27】
【0228】
【表28】