(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】締結工具
(51)【国際特許分類】
B21J 15/10 20060101AFI20240119BHJP
B21J 15/04 20060101ALI20240119BHJP
B21J 15/26 20060101ALI20240119BHJP
B21J 15/36 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
B21J15/10 A
B21J15/04 A
B21J15/26 A
B21J15/36 M
(21)【出願番号】P 2019163284
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105120
【氏名又は名称】岩田 哲幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106725
【氏名又は名称】池田 敏行
(74)【代理人】
【識別番号】100125955
【氏名又は名称】藤田 有三子
(72)【発明者】
【氏名】藪名香 俊人
(72)【発明者】
【氏名】生田 洋規
(72)【発明者】
【氏名】畔柳 貴勇
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101181(WO,A1)
【文献】米国特許第03410128(US,A)
【文献】特開2013-173148(JP,A)
【文献】特開2019-000895(JP,A)
【文献】特開平05-200476(JP,A)
【文献】特開2018-103257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 15/10
B21J 15/04
B21J 15/26
B21J 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンと筒状部とを備えたファスナを介して作業材を締結するように構成された締結工具であって、
前記締結工具の前後方向を規定する第1の軸に沿って延在するハウジングと、
前記ハウジングから、前記第1の軸に交差する方向に突出するハンドルと、
前記ファスナの前記筒状部に当接可能に構成され、前記ハウジングの前端部に、前記第1の軸に沿って延在するように連結されたアンビルと、
前記ピンを把持可能に構成され、且つ、前記アンビルに対し、前記第1の軸に沿って移動可能に保持されたピン把持部と、
前記ハウジングに収容されたモータと、
少なくとも一部が前記ハウジングに収容されるとともに、前記モータの動力によって駆動され、前記ピン把持部を前記アンビルに対して前記前後方向に移動させるように構成された駆動機構とを備え、
前記駆動機構は、
外周に設けられた被動ギヤを有し、前記第1の軸周りに回転可能に前記ハウジングに支持された回転部材と、
前記ピン把持部に連結されるとともに、前記回転部材と係合し、前記回転部材の回転によって前記前後方向に直線状に移動されるように構成された移動部材と、
前記第1の軸に直交し、且つ、前記ハンドルの延在方向に対応する方向を前記締結工具の上下方向と規定し、前記上下方向において、前記ハウジングから前記ハンドルが突出する方向を下方向と規定した場合、前記第1の軸の下側で前記第1の軸に平行に延在する第2の軸上に配置され、前記モータの動力によって、前記第2の軸周りに回転されるように構成された駆動ギヤと、
前記駆動ギヤおよび前記被動ギヤに噛合するアイドルギヤとを備え、
前記ハウジングは、
前記回転部材と、前記駆動ギヤと、前記アイドルギヤとを少なくとも収容する第1ハウジングと、
前記モータと、前記移動部材の一部とを少なくとも収容する第2ハウジングとを含むことを特徴とする締結工具。
【請求項2】
請求項
1に記載の締結工具であって、
前記駆動機構は、動力伝達経路において、前記モータと前記駆動ギヤの間に配置された遊星減速機を更に備え、
前記遊星減速機は、前記遊星減速機を収容するケースと共に、減速機アセンブリを構成し、
前記減速機アセンブリは、前記第1ハウジングに対して取り外し可能に連結されていることを特徴とする締結工具。
【請求項3】
請求項
2に記載の締結工具であって、
前記減速機アセンブリと前記第1ハウジングの間には、シール部材が配置されていることを特徴とする締結工具。
【請求項4】
請求項
2または3に記載の締結工具であって、
前記ハンドルは、前記ハウジングのうち、前記遊星減速機の真下の部分から突出していることを特徴とする締結工具。
【請求項5】
請求項
1~4の何れか1つに記載の締結工具であって、
前記第2ハウジングの内部空間は、前記モータが収容される第1領域と、前記移動部材の少なくとも一部が収容される第2領域とを含み、
前記第1領域と前記第2領域とは、隔壁によって区画されていることを特徴とする締結工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファスナを介して作業材を締結する締結工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ピンと筒状部とを備えたファスナ(例えば、複数部材加締め式のファスナ(multi-piece swage type fastener)、ブラインドリベット)を介して、複数の作業材を締結する締結工具が知られている。例えば、特許文献1に開示されている締結工具は、ボールネジ機構を用いて、ファスナの筒状部に係合可能なアンビルに対し、ファスナのピンを把持するピン把持部を移動させることで、ピンを軸方向に強く引っ張ってファスナを変形させ、作業材を締結するように構成されている。ボールネジ機構は、ハウジングに回転可能に支持されたナットと、ナットの回転に伴って直線状に移動するネジシャフトとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような締結工具には、高出力化が望まれている。一方、締結工具が、周囲のスペースが狭い場所で使用される可能性を考慮すると、ボールネジ機構の駆動軸からハウジングの外面までの距離は、できるだけ小さいことが望ましい。
【0005】
本発明は、かかる状況に鑑み、締結工具において、駆動軸からハウジングの外面までの距離を抑制するための構成を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、ピンと筒状部とを備えたファスナを介して作業材を締結するように構成された締結工具が提供される。締結工具は、ハウジングと、ハンドルと、アンビルと、ピン把持部と、モータと、駆動機構とを備える。
【0007】
ハウジングは、第1の軸に沿って延在する。第1の軸は、締結工具の前後方向を規定する。ハンドルは、ハウジングから、第1の軸に交差する方向に突出する。アンビルは、ファスナの筒状部に当接可能に構成されている。また、アンビルは、ハウジングの前端部に、第1の軸に沿って延在するように連結されている。ピン把持部は、ピンを把持可能に構成されている。また、ピン把持部は、アンビルに対し、第1の軸に沿って移動可能に保持されている。モータは、ハウジングに収容されている。駆動機構は、少なくとも一部がハウジングに収容されている。また、駆動機構は、モータの動力によって駆動され、ピン把持部をアンビルに対して前後方向に移動させるように構成されている。
【0008】
駆動機構は、被動ギヤを有する回転部材と、移動部材と、駆動ギヤと、アイドルギヤとを備える。回転部材は、第1の軸周りに回転可能にハウジングに支持されている。被動ギヤは、回転部材の外周に設けられている。移動部材は、ピン把持部に連結されている。また、移動部材は、回転部材と係合し、回転部材の回転によって前後方向に直線状に移動されるように構成されている。駆動ギヤは、第2の軸上に配置され、モータの動力によって、第2の軸周りに回転されるように構成されている。第1の軸に直交し、且つ、ハンドルの延在方向に対応する方向を締結工具の上下方向と規定し、上下方向において、ハウジングからハンドルが突出する方向を下方向と規定した場合、第2の軸は、第1の軸の下側で、第1の軸に平行に延在する。アイドルギヤは、駆動ギヤおよび被動ギヤに噛合する。
【0009】
本態様の締結工具では、前後方向に延在する第1の軸と、第1の軸の下側で、第1の軸に平行に延在する第2の軸とが設定されている。そして、モータの動力は、下側の第2の軸上の駆動ギヤに伝達され、アイドルギヤを経由して、上側の第1の軸上の回転部材に伝達される。このようにアイドルギヤを配置することで、被動ギヤが第2の軸上の駆動ギヤに直接噛合する場合に比べ、被動ギヤを小径化することができる。これにより、第1の軸からハウジングの上面までの距離を抑制することができる。
【0010】
本発明の一態様において、駆動機構は、動力伝達経路において、モータと駆動ギヤの間に配置された遊星減速機を更に備えてもよい。そして、遊星減速機は、ハウジング内で、第2の軸上、且つ、回転部材の真下の領域に配置されていてもよい。この場合、前後方向において、締結工具のコンパクト化を実現することができる。本態様において、被動ギヤは、回転部材の前後方向における中心位置よりも前側に配置されていると好ましい。この場合、回転部材のうち、被動ギヤの後側の部分の下側のスペースを、遊星減速機等の配置スペースとして有効活用することができる。
【0011】
本発明の一態様において、遊星減速機と、アイドルギヤとは、前からまたは後ろからみた場合、部分的に重なるように配置されていてもよい。この場合、上下方向における締結工具のコンパクト化を実現することができる。
【0012】
本発明の一態様において、ハウジングは、第1ハウジングと第2ハウジングとを含んでもよい。第1ハウジングは、回転部材と、駆動ギヤと、アイドルギヤとを少なくとも収容してもよい。第2ハウジングは、モータと、移動部材の一部とを少なくとも収容してもよい。この場合、潤滑を必要とする各種ギヤを収容する第1ハウジング内で、潤滑剤を保持することができる。
【0013】
本発明の一態様において、駆動機構は、動力伝達経路において、モータと駆動ギヤの間に配置された遊星減速機を更に備えてもよい。そして、遊星減速機は、遊星減速機を収容するケースと共に、減速機アセンブリを構成してもよい。そして、減速機アセンブリは、第1ハウジングに対して取り外し可能に連結されていてもよい。この場合、締結工具の組立性を向上することができる。本態様において、減速機アセンブリと第1ハウジングの間には、シール部材が配置されていると好ましい。この場合、減速機アセンブリおよび第1ハウジングの連結部から潤滑剤が漏出するのを抑えることができる。
【0014】
本発明の一態様において、第2ハウジングの内部空間は、モータが収容される第1領域と、移動部材の少なくとも一部が収容される第2領域とを含んでもよい。そして、第1領域と第2領域とは、隔壁によって区画されていてもよい。この場合、異物(例えば、粉塵)が第1領域に進入した場合でも、隔壁が、異物が第2領域へ進入し、移動部材に影響を与えるのを防止することができる。
【0015】
本発明の一態様において、駆動機構は、動力伝達経路において、モータと駆動ギヤの間に配置された遊星減速機を更に備えてもよい。そして、ハンドルは、ハウジングのうち、遊星減速機の真下の部分から突出していてもよい。この場合、使用者は、駆動機構の重心に近い位置で、ハンドルを把持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】ネジシャフトが初期位置に配置されているときの締結工具の断面図である。
【
図7】ネジシャフトが初期位置から後方向に移動されたときの締結工具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図7を参照して、第1実施形態に係る締結工具101について説明する。本実施形態の締結工具101は、ファスナを使用して作業材を締結するように構成されている。更に、締結工具101は、複数種類のファスナを選択的に使用可能である。まず、
図1を参照して、締結工具101で使用可能なファスナの一例であるファスナ8について説明する。
【0018】
図1に示すファスナ8は、複数部材加締め式のファスナ(multi-piece swage type fastener)と称される公知のファスナの一例である。ファスナ8は、ピン81と、カラー85とで構成されている。ピン81は、軸部811と、軸部811の一端部に一体的に形成されたヘッド815とを含む。カラー85は、軸部811を挿通可能な円筒状の部材である。ピン81とカラー85とは、元々は互いに別体として形成されている。締結工具101(
図2参照)によってピン81の軸部811がカラー85に対して軸方向に引っ張られることでカラー85が変形し、ピン81のヘッド815と、ピン81の軸部811に加締められたカラー85とで作業材Wが締結される。
【0019】
なお、複数部材加締め式のファスナには、ピンの軸部の一部(ピンテールまたはマンドレルともいう)が引きちぎられるタイプ(以下、単に、引きちぎりタイプ、破断タイプともいう)、および、ピンの軸部が引きちぎられずにそのまま維持されるタイプ(以下、単に軸維持タイプともいう)がある。ファスナ8は、軸部811が引きちぎられるタイプである。何れのタイプでも、ピンおよびカラーの軸方向の長さ、径、材質、ならびに軸部に形成される溝の位置、数、形状等が異なる複数種類のファスナが存在する。なお、締結工具101は、後述するノーズアセンブリ61(
図2参照)を交換することで、複数種類のファスナを選択的に使用可能である。
【0020】
以下、締結工具101の概略構成について説明する。
【0021】
図2および
図3に示すように、締結工具101の外郭は、主に、本体ハウジング10と、ノーズ16と、ハンドル17と、バッテリハウジング18とによって形成されている。本体ハウジング10は、全体としては矩形箱状に形成され、所定の駆動軸A1に沿って延在する。本体ハウジング10は、モータ2および駆動機構3を収容する。ノーズ16は、本体ハウジング10の長軸方向(駆動軸A1の延在方向)における一端部から、駆動軸A1に沿って突出している。ハンドル17は、本体ハウジング10の長軸方向における中央部から、駆動軸A1に交差する方向(詳細には、概ね直交する方向)に突出している。ハンドル17には、使用者によって引き操作(押圧操作)されるトリガ171が設けられている。バッテリハウジング18は、全体としては逆U字状に形成され、ハンドル17の突出端に接続している。バッテリハウジング18には、充電式のバッテリ182を着脱可能である。使用者が、例えばファスナ8(
図1参照)をノーズ16の先端部に係合させ、トリガ171を引き操作すると、モータ2が駆動され、ピン81がカラー85に対して軸方向に引っ張られ、ファスナ8によって作業材が締結される。
【0022】
以下では、締結工具101の方向に関して、説明の便宜上、駆動軸A1(または本体ハウジング10の長軸)の延在方向を締結工具101の前後方向と規定する。前後方向において、ノーズ16が配置されている側を前側、反対側を後側と定義する。また、駆動軸A1に直交し、ハンドル17の長軸の延在方向に対応する方向を上下方向と規定する。上下方向において、ハンドル17の突出端側(バッテリハウジング18側)を下側、ハンドル17の基端部側(本体ハウジング10側)を上側と定義する。また、前後方向および上下方向に直交する方向を左右方向と定義する。
【0023】
以下、締結工具101の詳細構成について説明する。
【0024】
まず、本体ハウジング10の内部構造について説明する。
図4に示すように、本体ハウジング10には、主に、モータ2と、モータ2によって駆動される駆動機構3が収容されている。
【0025】
モータ2は、本体ハウジング10の後端部の下部に収容されている。本実施形態では、モータ2として、ブラシレス直流(DC)モータが採用されている。モータ2は、ステータおよびロータを含むモータ本体部21と、ロータと一体的に回転するモータシャフト23とを含む。モータ2は、モータシャフト23の回転軸A2が、駆動軸A1の下側で駆動軸A1と平行に(つまり、前後方向に)延在するように配置されている。モータシャフト23の後端部には、ファン27が固定されている。
【0026】
駆動機構3は、モータ2の動力によって、後述するジョーアセンブリ63(
図3参照)を、駆動軸A1に沿ってアンビル62(
図3参照)に対して前後方向に移動させるように構成された機構である。本実施形態では、駆動機構3は、遊星減速機300と、第1中間シャフト31に設けられたナット駆動ギヤ311と、第2中間シャフト33に設けられたアイドルギヤ331と、ボールネジ機構5とを含む。以下、これらの構成について、順に説明する。
【0027】
遊星減速機300は、本体ハウジング10内で、モータ2の前側に、モータ2と同軸状に配置されている。遊星減速機300は、遊星歯車機構を用いた減速機であって、モータシャフト23から入力されるトルクを増大させ、第1中間シャフト31に出力するように構成されている。本実施形態では、遊星減速機300は、3組の遊星歯車機構を含む3段式の遊星減速機として構成されている。なお、遊星歯車機構の構成自体は周知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。遊星減速機300の入力シャフトであるモータシャフト23には、1段目(動力伝達経路の最上流側)の遊星歯車機構の太陽ギヤ302が連結されている。遊星減速機300の出力シャフトは、3段目(動力伝達経路の最下流側)の遊星歯車機構のキャリヤ303である。なお、遊星減速機300は、減速機ケース13に収容され、本体ハウジング10によって保持されている。
【0028】
第1中間シャフト31は、本体ハウジング10内で、モータシャフト23および遊星減速機300と同軸状に、回転軸A2に沿って遊星減速機300から前方に延びる。第1中間シャフト31は、遊星減速機300の3段目の遊星歯車機構のキャリヤ303に連結されている。第1中間シャフト31は、ベアリングによって回転軸A2周りに回転可能に支持され、キャリヤ303と一体的に回転する。ナット駆動ギヤ311は、第1中間シャフト31の外周部に一体的に設けられている。
【0029】
第2中間シャフト33は、第1中間シャフト31の上側で、第1中間シャフト31と平行に延在する。アイドルギヤ331は、ベアリングを介して第2中間シャフト33に支持されており、第2中間シャフト33に対して回転軸A3(第2中間シャフト33の軸)周りに回転可能である。アイドルギヤ331は、ナット駆動ギヤ311および後述するナット51の被動ギヤ511に噛合しているが、両者の回転数の比(ギヤ比)には影響を与えない。
【0030】
ボールネジ機構5は、ナット51と、ネジシャフト56とを主体として構成されている。本実施形態では、ボールネジ機構5は、ナット51の回転運動をネジシャフト56の直線運動に変換して、後述のジョーアセンブリ63を直線状に移動するように構成されている。
【0031】
ナット51は、前後方向の移動が規制され、且つ、駆動軸A1周りに回転可能な状態で、本体ハウジング10に支持されている。ナット51は、外周部に一体的に設けられた被動ギヤ511を有する。ナット51は、被動ギヤ511の前側および後側で、ベアリング(ラジアルベアリング)521および522によって支持されている。なお、ナット駆動ギヤ311と被動ギヤ511は、減速ギヤ機構として構成されている。
【0032】
本実施形態では、ナット51は、長尺の円筒状に形成されており、ナット51の前後方向の長さは、遊星減速機300と第1中間シャフト31とを合わせた長さよりも大きい。ナット51の前端は、ナット駆動ギヤ311およびアイドルギヤ331の前端よりも前側に位置し、ナット51の後端は、遊星減速機300の後端と概ね同じ位置にある。
【0033】
被動ギヤ511は、ナット51の軸方向(前後方向)の中心位置よりも前側に配置されている。このため、ナット51のうち、被動ギヤ511よりも後側の部分が比較的長い。そこで、遊星減速機300は、この部分の真下のスペースに配置されている。つまり、駆動機構3を上または下からみた場合、ナット51のうち被動ギヤ511の後側の部分と、遊星減速機300とは、少なくとも部分的に重なる位置にある。本実施形態では、このような配置により、前後方向における締結工具101のコンパクト化が実現されている。
【0034】
更に、
図5に示すように、被動ギヤ511の回転軸である駆動軸A1、モータシャフト23、遊星減速機300の出力シャフト(3段目のキャリヤ303)およびナット駆動ギヤ311の回転軸A2、ならびに、アイドルギヤ331の回転軸A3は全て、左右方向に延在する軸に直交する同一面P上にある。また、前(または後)からみた場合、遊星減速機300とアイドルギヤ331とは、上下方向において部分的に重なっている。このような配置により、上下方向における締結工具101のコンパクト化が実現されている。
【0035】
また、詳細は後述するが、締結工程において、ナット51には駆動軸A1の延在方向(前後方向)に、強い軸方向の力(軸力)が作用する。このため、
図4に示すように、前後方向において、ナット51の前側および後側には、夫々、前方向および後方向の軸力(スラスト荷重ともいう)がナット51に作用した場合、その軸力を受けるための前側受け部53および後側受け部55が設けられている。前側受け部53および後側受け部55の詳細については、後述する。
【0036】
ネジシャフト56は、駆動軸A1周りの回転が規制され、且つ、駆動軸A1に沿って前後方向に移動可能な状態でナット51に係合している。より詳細には、ネジシャフト56は、長尺体として構成され、駆動軸A1に沿って延在するように、ナット51に挿通されている。詳細な図示は省略するが、ナット51の内周面に形成された螺旋溝とネジシャフト56の外周面に形成された螺旋溝によって規定される軌道内には、多数のボールが転動可能に配置されている。ネジシャフト56は、これらのボールを介してナット51に係合している。
【0037】
また、詳細な図示は省略するが、ネジシャフト56の後端部には、ネジシャフト56から左方および右方に延びる一対のアームが設けられている。各アームは、ローラを回転可能に支持している。ローラは、本体ハウジング10に固定されたローラガイドのガイド溝に係合している。ローラは、上下方向の移動が規制された状態で、ガイド溝に沿って前後方向に転動可能とされている。このような構成により、ナット51が駆動軸A1周りに回転されると、ネジシャフト56は、駆動軸A1周りの回転が規制された状態で、ナット51および本体ハウジング10に対して前後方向に直線状に移動する。
【0038】
詳細は後述するが、
図6に示すように、ネジシャフト56の前端部には、ジョー連結部材66を介してジョーアセンブリ63が連結される。このため、ネジシャフト56の前端部には、雄ネジが形成されている。
【0039】
図4に示すように、ネジシャフト56の後端部には、延設シャフト561が同軸状に連結固定され、ネジシャフト56に一体化されている。以下、一体化されたネジシャフト56と延設シャフト561を総称して、駆動シャフト560ともいう。駆動シャフト560は、駆動軸A1に沿って駆動シャフト560を貫通する貫通孔を有する。本体ハウジング10の後端部における駆動軸A1上には、断面円形の開口部147が形成されている。開口部147は、回収容器148を着脱可能に構成されている。回収容器148は、締結工程において分離されたピンテールを収容するための容器である。ファスナから分離されたピンテールは、駆動シャフト560の貫通孔を通って回収容器148に到達し、回収容器148に収容される。
【0040】
以上のように構成された駆動機構3では、モータ2のトルクは、回転軸A2上の遊星減速機300によって増大され、回転軸A2周りに回転されるナット駆動ギヤ311に伝達され、アイドルギヤ331を経由して、駆動軸A1上のナット51の被動ギヤ511に伝達される。このように、ナット駆動ギヤ311と被動ギヤ511の間にアイドルギヤ331を配置することで、ナット駆動ギヤ311と被動ギヤ511とが直接噛合する場合に比べ、被動ギヤ511を小径化することができる。これにより、駆動軸A1から本体ハウジング10の上面までの距離(いわゆるセンターハイト)の増大を抑制することができる。また、アイドルギヤ331の配置によって駆動軸A1と回転軸A2の上下方向の距離を広げることで、回転軸A2上に、比較的大きな遊星減速機300を配置し、高出力化を実現することができる。
【0041】
以下、本体ハウジング10の詳細構成について説明する。
図4に示すように、本体ハウジング10は、互いに連結された第1ハウジング12と第2ハウジング14とを含む。
【0042】
本実施形態では、第1ハウジング12は、駆動機構3のうち、第1中間シャフト31、ナット駆動ギヤ311、第2中間シャフト33、アイドルギヤ331、およびナット51を収容する。
【0043】
第1ハウジング12は、金属製の中空体である。本実施形態では、第1ハウジング12は、軽量化のため、アルミニウムを主成分とする合金で形成されている。上述のナット51と第1中間シャフト31の前後方向の長さ関係に起因して、ナット51を収容する第1ハウジング12の上半分の方が、ナット駆動ギヤ311およびアイドルギヤ331を収容する下半分よりも前後方向に長い。上半分の前部125および後部127は、夫々、下半分よりも前方および後方に突出しており、円筒状に形成されている。
【0044】
第1ハウジング12は、第1中間シャフト31、第2中間シャフト33、およびナット51を支持している。より詳細には、第1中間シャフト31は、第1ハウジング12の下半分の前壁121および後壁122に保持されたベアリングを介して支持されている。第1中間シャフト31の後端部は、後壁122に形成された貫通孔から後方へ突出している。第2中間シャフト33は、前壁121および後壁122に形成された支持孔に嵌合され、支持されている。ナット51は、第1ハウジング12の円筒状の前部125および後部127内に保持されたベアリング521および522を介して支持されている。なお、駆動シャフト560の前端部および後端部は、第1ハウジング12から前方および後方に突出している。
【0045】
更に、本実施形態では、遊星減速機300は、遊星減速機300を収容する減速機ケース13と共に、第1ハウジング12に着脱可能な減速機アセンブリ30を構成している。減速機ケース13は、全体としては円筒状の中空体であって、円形の前壁131および後壁と、円筒状の周壁とを有する。なお、減速機ケース13は、樹脂製である。前壁131の中央部からは、遊星減速機300の3段目のキャリヤ303が突出している。キャリヤ303には、第1中間シャフト31の後端部を嵌合可能である。
【0046】
減速機アセンブリ30を着脱可能とするために、第1ハウジング12の後壁122は、後面から前方へ凹む環状の凹部123を有する。一方、減速機ケース13の前壁131は、前方に突出する環状の突起133を有する。突起133の外周部には、環状のシール部材(Oリング)137が装着されている。シール部材137は、減速機ケース13の第1ハウジング12への連結を確実にし、第1ハウジング12および減速機ケース13の内部に配された潤滑剤の漏出を防止することができる。なお、シール部材137は、減速機ケース13ではなく、第1ハウジング12(凹部123の内周部)に設けられていてもよい。
【0047】
このように、遊星減速機300と減速機ケース13とを、第1ハウジング12に着脱可能な単一の減速機アセンブリ30として構成することで、組立性を向上させることができる。
【0048】
第2ハウジング14は、第1ハウジング12の一部(詳細には、ナット駆動ギヤ311およびアイドルギヤ331を収容する第1ハウジング12の下半分)、減速機アセンブリ30、モータ2、および駆動シャフト560の後端部(第1ハウジング12から突出する部分)を収容するハウジングである。第2ハウジング14は、樹脂製である。
【0049】
図2および
図5に示すように、本実施形態では、第2ハウジング14は、左右の半割体がネジで連結されることで形成される。また、第2ハウジング14の左右の半割体は、夫々、後述するハンドル17、ハンドガード175、およびバッテリハウジング18の左右の半割体と一体的に形成されている。第1ハウジング12は、部分的に左右の半割体に挟み込まれることで、第2ハウジング14に固定状に保持されている。
【0050】
図4に示すように、第1ハウジング12、および第1ハウジング12に連結された減速機アセンブリ30は、第2ハウジング14の内部空間のうち、前側の領域に配置されている。第2ハウジング14の内部空間のうち、後側の領域には、モータ2および駆動シャフト560の後端部が配置されている。より詳細には、モータ2は、後側領域の下半分の領域に配置され、駆動シャフト560の後端部は、後側領域の上半分の領域に配置されている。以下では、後側領域のうち、下半分の領域を、モータ領域141といい、上半分の領域を、シャフト領域142というものとする。
【0051】
図2に示すように、第2ハウジング14のうち、モータ領域141を覆う部分には、複数の吸気口145および複数の排気口146が設けられている。より詳細には、吸気口145は、モータ本体部21の径方向外側に設けられており、排気口146は、ファン27の径方向外側に設けられている。モータ2の駆動に伴い、モータシャフト23と一体的にファン27が回転すると、吸気口145から第2ハウジング14に流入し、モータ本体部21およびファン27を通過して、排気口146から流出する空気流が生成される。この空気流によってモータ2が冷却される。
【0052】
図4に示すように、第2ハウジング14は、モータ領域141とシャフト領域142とを区画する隔壁143を有する。隔壁143は、第2ハウジング14の左壁と右壁とに接続する。隔壁143は、第2ハウジング14の概ね後端から、遊星減速機300の前端部の上側で、第1ハウジング12の後壁122に概ね接する位置まで、前方に延びている。隔壁143は、粉塵が吸気口145からモータ2の冷却風とともにモータ領域141に進入した場合でも、粉塵がシャフト領域142へ進入するのを防止することができる。
【0053】
以下、ノーズ16について説明する。
図6に示すように、ノーズ16は、ノーズアセンブリ61と、ノーズアセンブリ61を保持するノーズアダプタ65とを含む。なお、本実施形態でいう「アセンブリ」は、複数の部品が組み立てられることで形成された単一の組立体のみならず、特定の用途に使用されるために組(セット)として定義されている複数の別個の部品をも指すものである。なお、上述の減速機アセンブリ30は前者に該当し、ノーズアセンブリ61は後者に該当する。以下、ノーズアセンブリ61およびノーズアダプタ65について順に説明する。
【0054】
ノーズアセンブリ61は、ファスナ8(
図1参照)のカラー85に当接(係合)可能に構成され、本体ハウジング10に保持されたアンビル62と、ファスナ8のピン81を把持可能に構成され、アンビル62に対して駆動軸A1に沿って前後方向に相対移動可能に保持されたジョーアセンブリ63とを主体として構成されている。なお、ノーズアセンブリ61の構成は公知であるため、以下に簡単に説明する。
【0055】
アンビル62は、全体としては円筒体であって、駆動軸A1に沿って延在するボア621を有する。本実施形態では、アンビル62は、強度を十分に確保するため、鉄(または鉄を主成分とする合金)で形成されている。ボア621の先端部は、他の部分よりも小径に構成されており、カラー85に当接(係合)可能である。また、アンビル62の外周部の中央部よりもやや後端側には、径方向外側に突出する係止フランジ625が設けられている。
【0056】
ジョーアセンブリ63は、アンビル62と同軸状にボア621内に保持されており、ボア621内を摺動可能である。詳細な図示は省略するが、ジョーアセンブリ63は、ピン81の軸部811(
図1参照)を把持可能な複数の爪(ジョーとも称される)を有する。ジョーアセンブリ63は、アンビル62に対して初期位置から後方へ移動するのに伴って、爪による把持力が増大するように構成されている。ジョーアセンブリ63の後端部は、円筒状に形成されており、内周面にはネジが切られている。
【0057】
本実施形態では、ノーズアセンブリ61は、ノーズアダプタ65を介して本体ハウジング10(詳細には、第1ハウジング12)の前部125に着脱可能である。上述のように、本実施形態の締結工具101は、複数種類のファスナを選択的に使用可能である。使用者は、実際に使用されるファスナに応じて、適切な種類のノーズアセンブリ61を本体ハウジング10に装着する。本実施形態では、引きちぎりタイプのファスナ8用のノーズアセンブリ61が例示されているが、軸維持タイプのファスナに対応するノーズアセンブリ61も、ファスナのカラーに当接可能なアンビルと、ピンを把持可能な複数の爪を有し、アンビルに対して駆動軸A1に沿って相対移動可能に保持されたピン把持部とを備えるという点で、基本的には、ファスナ8用のノーズアセンブリ61と同じ構成を有するということができる。
【0058】
ノーズアダプタ65は、アンビル62を本体ハウジング10に連結し、且つ、ジョーアセンブリ63をネジシャフト56に連結するように構成されている。より詳細には、ノーズアダプタ65は、ジョー連結部材66と、アンビル連結スリーブ67と、固定リング68とを含む。
【0059】
ジョー連結部材66は、ネジシャフト56とジョーアセンブリ63とを連結する円筒状の部材である。ジョー連結部材66の外径は、前端部、中央部、後端部の順に大きくなる。ジョー連結部材66の前端部は、ジョーアセンブリ63の後端部の雌ネジに螺合する雄ネジとして構成されている。ジョー連結部材66の後端部の外径は、アンビル連結スリーブ67の後半部分の内径に概ね等しい。以下、ジョー連結部材66の大径の後端部を大径部661という。大径部661は、ネジシャフト56の前端部に形成された雄ネジに螺合する雌ネジとして構成されている。このように、ジョー連結部材66は、ネジシャフト56の前端部およびジョーアセンブリ63の後端部の夫々に螺合され、ネジシャフト56とジョーアセンブリ63とを連結する。なお、ジョー連結部材66には、駆動軸A1に沿ってジョー連結部材66を貫通し、駆動シャフト560の貫通孔に連通する貫通孔が形成されている。
【0060】
アンビル連結スリーブ67および固定リング68は、アンビル62を、本体ハウジング10(詳細には、第1ハウジング12)に連結するための部材である。
【0061】
アンビル連結スリーブ67は、前半部分よりも後半部分の方が大径の段付き円筒体として形成されており、駆動軸A1に沿って延在するボア671を有する。本実施形態では、アンビル連結スリーブ67は、強度を十分に確保するため、鉄(または鉄を主成分とする合金)で形成されている。ボア671の前半部分は、アンビル62の外径に概ね等しい径を有する。ボア671の前半部分には、アンビル62が配置される。ボア671の後半部分は、前半部分よりも大きい径を有する。ボア671の後半部分には、ジョー連結部材66の大径部661が、駆動軸A1に沿って摺動可能に配置される。なお、大径部661の外周部には、環状のシール部材(Oリング)663が装着されている。シール部材663は、大径部661の外周面とアンビル連結スリーブ67の内周面との間を塞ぐことで、アンビル62の前端部の開口から、ボア621を通ってボア671内に粉塵が進入した場合に、粉塵が本体ハウジング10内へ進入するのを防止することができる。
【0062】
アンビル連結スリーブ67の後端部は、螺合によって本体ハウジング10(詳細には、第1ハウジング12)に連結されている。より詳細には、第1ハウジング12の前部125の前端部(第1ハウジング12の前端の開口に隣接する部分)は、内周面にネジが切られた雌ネジ部126として構成されている。一方、アンビル連結スリーブ67の後端部は、外周面に、雌ネジ部126に螺合するネジが切られた雄ネジ部672として構成されている。なお、雌ネジ部126および雄ネジ部672は、ネジシャフト56が後方へ移動されるときのナット51の回転方向と逆の方向が、ネジの締まり方向となるように構成されている。
【0063】
アンビル連結スリーブ67の外周には、径方向外側へ突出するフランジ675が設けられている。アンビル連結スリーブ67は、前後方向において、フランジ675が前部125の前端面に当接する位置で位置決めされている。
【0064】
固定リング68は、前半部分よりも後半部分の方が大径の段付き円筒体として形成されている。固定リング68の後半部分は雌ネジとして構成されており、アンビル連結スリーブ67の前端部に形成された雄ネジに螺合可能である。
【0065】
固定リング68は、アンビル62がアンビル連結スリーブ67のボア671に嵌め込まれた状態で、アンビル連結スリーブ67に連結される。これにより、アンビル62は、アンビル連結スリーブ67および固定リング68によって、本体ハウジング10に対して連結される。なお、アンビル62の係止フランジ625は、アンビル連結スリーブ67の前端と、固定リング68内部の段差部(前半部分と後半部分との境界)との間の隙間に配置される。
【0066】
以下、ナット51の前側および後側に夫々設けられた前側受け部53および後側受け部55の詳細について、順に説明する。
【0067】
図6に示すように、前側受け部53は、駆動軸A1の延在方向(前後方向)において、アンビル連結スリーブ67の後端面673と、ナット51の前端面513との間に配置されている。前側受け部53は、締結工程において、ネジシャフト56の後方への移動に伴って発生するナット51からの前方向への軸力を受け、アンビル連結スリーブ67に伝えるように構成されている。前側受け部53は、フランジスリーブ530と、スラストベアリング535とを含む。
【0068】
フランジスリーブ530は、全体としては、ネジシャフト56の外径よりも僅かに大きい概ね均一の内径を有する筒状体である。フランジスリーブ530は、円筒状の筒部531と、筒部531の軸方向の一端から径方向外側に突出するフランジ533とを含む。筒部531のうち、フランジ533に隣接した部分は、他の部分よりも僅かに大きい外径を有する。つまり、筒部531の外周には、フランジ533に隣接して、段差部532が設けられている。フランジ533の外径は、第1ハウジング12の前部125(詳細には、雌ネジ部126の後側の部分)の内径と概ね等しい。
【0069】
フランジスリーブ530は、フランジ533が前端となる向きで配置され、前部125内にフランジ533が嵌め込まれることで、位置決めされている。これにより、フランジスリーブ530は、その内周面が、ネジシャフト56の外周面から径方向外側に離間した状態で保持されている。なお、フランジスリーブ530は、フランジ533の外周面(つまり、径方向外側の端面)においてのみ第1ハウジング12に接触しており、軸方向(前後方向)においては第1ハウジング12には接触していない。フランジスリーブ530のフランジ533の前端面534には、アンビル連結スリーブ67の後端面673が当接している。
【0070】
スラストベアリング535は、フランジスリーブ530のフランジ533の後側で、筒部531の径方向外側に配置されている。スラストベアリング535は、前側軌道輪536と、後側軌道輪537と、前側軌道輪536と後側軌道輪537の間に配置された複数の転動体539とを含む。
【0071】
前側軌道輪536は、ナット51と共に回転しない固定側の軌道輪である。前側軌道輪536の外径は、前部125の内径と概ね等しい。一方、前側軌道輪536の内径は、筒部531の段差部532の外径よりも僅かに大きい。前側軌道輪536は、フランジスリーブ530のフランジ533の後端面に当接した状態で、前部125内に嵌め込まれることで、位置決めされている。これにより、前側軌道輪536は、その内周面が、筒部531(段差部532)の外周面から径方向外側に離間した状態で、保持されている。なお、フランジスリーブ530と同様、前側軌道輪536も、外周面(つまり、径方向外側の端面)においてのみ第1ハウジング12に接触しており、軸方向(前後方向)においては第1ハウジング12には接触していない。
【0072】
後側軌道輪537は、ナット51と共に回転する回転側の軌道輪である。後側軌道輪537の外径は、前部125の内径よりも小さい。一方、後側軌道輪537の内径は、フランジスリーブ530の筒部531の外径と概ね等しい。後側軌道輪537は、前側軌道輪536との間に転動体539を挟んだ状態で、筒部531の外周に回転可能に嵌め込まれている。これにより、後側軌道輪537は、その外周面が、前部125の内周面から径方向内側に離間した状態で、保持されている。なお、後側軌道輪537は、外周面(つまり、径方向外側の端面)のみならず、軸方向(前後方向)においても第1ハウジング12には接触していない。ナット51の前端面513は、後側軌道輪537に当接している。
【0073】
転動体539は、保持器538によって転動可能に保持され、前後方向において、前側軌道輪536と後側軌道輪537の間に配置されている。なお、本実施形態では、転動体としてコロ(詳細には、円筒コロ)が採用されている。保持器538は、筒部531の外周に滑り状態で嵌め込まれている。また、保持器538の外周面は、前部125の内周面から径方向内側に離間している。
【0074】
以上に説明したように、本実施形態の前側受け部53では、前後方向において、アンビル連結スリーブ67とスラストベアリング535の間に配置されるフランジ533と、径方向において、ネジシャフト56とスラストベアリング535の間に配置される筒部531とを有するフランジスリーブ530が採用されている。このようなフランジスリーブ530を利用することで、ネジシャフト56、ナット51、アンビル連結スリーブ67、および第1ハウジング12に対するスラストベアリング535の適切な配置を規定することができ、組み付けも容易化することができる。
【0075】
なお、本実施形態において、フランジスリーブ530の筒部531に段差部532を設け、前側軌道輪536と後側軌道輪537の内径を異ならせているのは、スラストベアリング535組み付け時のミスを防止するためである。具体的には、組み付け作業者は、第1ハウジング12の前部125にフランジスリーブ530を嵌め込んだ後、前側軌道輪536、保持器538に保持された転動体539、および後側軌道輪537を、この順番で筒部531に外装する必要がある。作業者が、後側軌道輪537を誤って先にフランジスリーブ530に外装した場合、後側軌道輪537は、段差部532に阻まれ、前側軌道輪536の本来の配置位置まで前方には移動できない。このため、本実施形態の構成によれば、作業者は、容易にミスに気付くことができる。しかしながら、フランジスリーブ530の筒部531の外径は均一とされ、前側軌道輪536および後側軌道輪537の内径は同一とされてもよい。
【0076】
図4に示すように、後側受け部55は、駆動軸A1の延在方向(前後方向)において、ナット51の後端面514と、本体ハウジング10(詳細には、第1ハウジング12の後壁)との間に配置されている。後側受け部55は、ネジシャフト56の前方への移動に伴って発生するナット51からの後方向への軸力を受けるように構成されている。後側受け部55は、スラストベアリング551を含む。なお、本実施形態では、スラストベアリング551には、転動体として、針状コロを用いるスラストニードルベアリングが採用されている。これは、締結工程において、ネジシャフト56が後方に移動しつつピンを強く引っ張るときに比べ、ネジシャフト56が前方へ戻るときにナット51に作用する前方向の軸力が小さいためである。
【0077】
以下、ハンドル17について説明する。
図3に示すように、ハンドル17は、本体ハウジング10の前後方向の中央部の下端から連続して下方に延びる長尺の筒状部分である。より詳細には、ハンドル17は、本体ハウジング10(詳細には、第2ハウジング14)のうち、遊星減速機300の真下の部分から下方に突出している。これにより、使用者は、駆動機構3の重心に近い位置で、ハンドル17を把持することが可能となる。
【0078】
ハンドル17は、使用者によって把持される部分であって、その上端部には、使用者による引き操作が可能なトリガ171が設けられている。ハンドル17の内部には、スイッチ172が収容されている。スイッチ172は、常時にはオフ状態で維持され、トリガ171の引き操作に応じてオン状態とされる。スイッチ172は、図示しない配線によって、コントローラ19の制御回路191に電気的に接続されており、オン状態とされると、オン信号を制御回路191に出力する。
【0079】
なお、ハンドル17の前方には、長尺筒状のハンドガード175が設けられている。ハンドガード175は、ハンドル17から離間して概ね上下方向に延在し、本体ハウジング10(第2ハウジング14)の下前端部と、バッテリハウジング18の上端部とを接続している。ハンドガード175は、第2ハウジング14等と一体形成される半割体の剛性を確保するために設けられているが、これに加え、ハンドル17を把持する使用者の手を保護することができる。また、本実施形態では、第2ハウジング14の前壁に形成された開口部には、LEDランプ149が保持されている。詳細な図示は省略するが、ハンドガード175の内部空間は、LEDランプ149とコントローラ19とを接続する配線の経路として利用されている。
【0080】
以下、バッテリハウジング18について説明する。
図3に示すように、バッテリハウジング18は、前後方向に長い逆U字状の中空体として構成されている。バッテリハウジング18は、ハンドル17の下端部に比べ、前後方向および左右方向の寸法が大きい。バッテリハウジング18には、コントローラ19が収容されている。コントローラ19は、締結工具101の制御を司る制御回路191を含む。本実施形態では、制御回路191は、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータで構成されている。詳細な図示は省略するが、制御回路191は、モータ2の駆動回路等とともに、ケースに収容された基板に搭載されている。
【0081】
バッテリハウジング18の下端部には、2つのバッテリ装着部181が設けられている。各バッテリ装着部181は、バッテリ182を着脱可能に構成されている。つまり、本実施形態では、締結工具101には、2つのバッテリ182を装着することができる。バッテリ182は、締結工具101の各部およびモータ2へ電力を供給するための、繰り返し充電が可能な電源であって、バッテリパックとも称される。なお、バッテリ装着部181およびバッテリ182の構成は周知であるため、これらの説明は省略する。本実施形態では、2つのバッテリ装着部181は、前後方向に並設されている。
【0082】
また、バッテリハウジング18は、バッテリガード185を含む。バッテリガード185は、バッテリ182がバッテリ装着部181に装着された場合に、バッテリ182の露出部分を外力から保護するように構成されている。本実施形態では、2つのバッテリガード185が、夫々、2つのバッテリ装着部181の前側および後側に設けられている。2つのバッテリガード185は、バッテリハウジング18のうち、2つのバッテリ装着部181を挟んでバッテリ装着部181よりも下方に突出する部分として構成されている。
【0083】
更に、バッテリハウジング18の後端部の上面には、操作部187が設けられている。操作部187は、使用者による外部操作が可能な入力機器である。詳細な図示は省略するが、本実施形態では、操作部187は、押圧操作が可能な複数の押しボタン式のスイッチを備えている。また、操作部187には、情報を表示する表示部も設けられている。使用者は、操作部187のスイッチを押圧することで、各種情報を入力することができる。
【0084】
なお、上述のように、本実施形態では、締結工具101は、引きちぎりタイプのファスナ(例えば、
図1に示すファスナ8)と、軸維持タイプのファスナの両方に対応可能に構成されており、制御回路191は、使用されるファスナのタイプに対応する動作モードに従ってモータ2の駆動を制御する。そこで、使用者は、操作部187を介して、動作モードを指定する情報を入力することができる。操作部187(スイッチ)は、図示しない配線によって、コントローラ19の制御回路191に電気的に接続されており、各スイッチのオン・オフ状態を示す信号を制御回路191に出力する。なお、操作部187は、コントローラ19の近傍に設けられているため、締結工具101の組み立て作業時の配線が容易である。
【0085】
以下、締結工具101を用いた作業材の締結作業について説明する。
【0086】
まず、使用者は、使用されるファスナ(
図1に示すファスナ8あるいは他のファスナ)を、作業材に仮留めする。なお、仮留めとは、
図1に例示するように、ファスナ8のヘッド815が作業材Wの一面に当接するように、作業材Wに形成された貫通孔にピン81の軸部811を挿通し、作業材Wの反対面側から、カラー85を軸部811に遊嵌状に係合させることである。
【0087】
また、使用者は、使用されるファスナに応じたノーズアセンブリ61を締結工具101に取り付ける。更に、操作部187を介して、使用されるファスナのタイプに応じた動作モードを指定する。操作部187は、ハンドル17に対して後側に、上側からの操作が可能な向きで配置されている。よって、使用者は、ハンドル17を把持した状態でも、操作部187を視認しやすく、容易に操作を行うことができる。
【0088】
図3に示すように、トリガ171が引き操作されない初期状態では、ネジシャフト56(つまり、駆動シャフト560)およびジョーアセンブリ63は、初期位置(最前方位置)に配置されている。使用者は、アンビル62の先端部を仮留め状態のファスナ(
図1参照)のカラーに係合させ、ピンの軸部を、ジョーアセンブリ63の先端部(爪)に緩く把持させる。使用者がトリガ171を引き操作し、スイッチ172がオン状態となると、コントローラ19の制御回路191は、モータ2の正転駆動を開始する。遊星減速機300、ナット駆動ギヤ311、被動ギヤ511を経て増大されたトルクがナット51に伝達される。
【0089】
図7に示すように、ナット51の回転に伴い、ネジシャフト56が後方へ移動される。これに伴い、ネジシャフト56に連結されたジョーアセンブリ63が後方へ引き込まれ、ピンの軸部は、ジョーアセンブリ63によって強固に把持されて、駆動軸A1に沿って後方へ引っ張られる。これにより、カラーは、前方および径方向内側へと強く押圧されて変形し、ピンのヘッドとの間で作業材を強固に挟持した状態で、軸部に加締められる。なお、カラーを軸部に加締めるには、強い負荷が必要である。この負荷は、ジョーアセンブリ63、ジョー連結部材66、ネジシャフト56を経由して、前方向への軸力(反力)として、ナット51に作用する。
【0090】
これに対し、本実施形態では、
図6に示す前側受け部53が、ナット51の回転を許容しつつ、ナット51からの前方向への軸力を受け、アンビル連結スリーブ67に伝える。より詳細には、ナット51からの軸力は、スラストベアリング535(後側軌道輪537、転動体539、前側軌道輪536)およびフランジスリーブ530のフランジ533を経て、アンビル連結スリーブ67へ伝えられる。
【0091】
上述の通り、スラストベアリング535の各部材およびフランジスリーブ530は、軸方向(前後方向)では第1ハウジング12には接触していない。よって、ナット51からの軸力は、第1ハウジング12を介さずに、前側受け部53によって、アンビル連結スリーブ67へ伝えられる。なお、ここでいう「第1ハウジング12を介さずに」とは、第1ハウジング12を介して伝えられる軸力が、必ずしもゼロであることを要するわけではなく、前側受け部53を介してアンビル連結スリーブ67に伝えられる軸力に対し、第1ハウジング12を介して伝えられる軸力が無視できる程度に小さければよい。
【0092】
このように、加締め時には、ナット51からの前方向への軸力が、アンビル連結スリーブ67に作用する。一方、アンビル62は、カラーを介して作業材に押し付けられ、後方向の力を受けている。よって、アンビル62の係止フランジ625の後端面が、アンビル連結スリーブ67の前端面に当接し、アンビル連結スリーブ67を後方へ押圧する。これにより、アンビル62およびアンビル連結スリーブ67は、一体として、軸方向(前後方向)の両端から圧縮方向の力を受けることになる。このとき、フランジ533の前端面534に当接(面接触)する後端面673が後方からの力を受けることができるため、好適である。一方、第1ハウジング12には、実質的には、前方向への軸力がかからない。よって、本実施形態の前側受け部53によれば、第1ハウジング12の雌ネジ部126と、アンビル連結スリーブ67の雄ネジ部672とに、逆方向の力が作用してネジの緩みにつながる可能性を低減することができる。
【0093】
更に、上述のように、雌ネジ部126および雄ネジ部672には、締まり方向が、ネジシャフト56が後方へ移動されるときのナット51の回転方向とは逆方向のネジが切られている。よって、ナット51の回転に起因して、ネジの緩みが生じることを防止することができる。
【0094】
カラーがピンの軸部に加締められた後、作業材の締結が終了する。なお、上述のように、締結工具101では、使用者は、操作部187を介して、使用されるファスナのタイプに応じた動作モードを指定する。制御回路191は、操作部187からの信号に基づいて動作モードを特定し、動作モードに応じたタイミングでモータ2の正転駆動を停止し、ネジシャフト56の後方向の移動を停止させる。なお、動作モードに応じたネジシャフト56の後方向の移動の停止制御の方法として、例えば、特開2018-103257号公報に開示されている方法を採用することができる。その後、制御回路191は、モータ2を逆転駆動させ、ネジシャフト56を前方へ移動させることで、ネジシャフト56を初期位置に戻す。
【0095】
なお、軸維持タイプのファスナでは、ピンに対するカラーの加締め時に強い負荷がかけられるため、カラーは、アンビル62のボア621の先端部に強固に圧着される。このため、軸部を把持した状態のジョーアセンブリ63を前方へ移動させ、カラーをアンビル62から離脱させるためには、相応に強い負荷が必要とされる。この負荷は、ジョーアセンブリ63、ジョー連結部材66、ネジシャフト56を経由して、後方向への軸力として、ナット51に作用する。これに対し、本実施形態では、ナット51の回転を許容しつつ、後側受け部55(スラストベアリング551)が、ナット51からの後方向への軸力を受け、第1ハウジング12に伝えることになる。
【0096】
[第2実施形態]
以下、
図8を参照して、第2実施形態に係る締結工具102について説明する。本実施形態の締結工具102は、第1実施形態の締結工具101とは異なる前側受け部54を有するが、その他の構成は締結工具101と実質的に同一である。よって、以下では、第1実施形態と実質的に同一の構成については、同じ符号を付して、図示および説明を省略または簡略化し、主に異なる構成について説明する。この点については、後述する他の実施形態についても同様である。なお、
図8では、ジョー連結部材66およびノーズアセンブリ61の図示が省略されている。
【0097】
図8に示すように、本実施形態でも、第1実施形態と同様、前側受け部54は、駆動軸A1の延在方向(前後方向)において、アンビル連結スリーブ67の後端面673と、ナット51の前端面513との間に配置され、締結工程において、ネジシャフト56が後方へ移動に伴って発生するナット51からの前方向への軸力を受け、アンビル連結スリーブ67に伝えるように構成されている。
【0098】
本実施形態では、前側受け部54は、スラストベアリング541のみを含む。スラストベアリング541は、前側軌道輪542と、後側軌道輪544と、前側軌道輪542と後側軌道輪544の間に配置された複数の転動体547とを含む。
【0099】
前側軌道輪542は、ナット51と共に回転しない固定側の軌道輪である。前側軌道輪542の外径は、前部125の内径と概ね等しい。前側軌道輪542の内径は、ネジシャフト56の外径よりも僅かに大きい。前側軌道輪542は、前部125内に嵌め込まれることで、位置決めされている。これにより、前側軌道輪542は、その内周面が、ネジシャフト56の外周面から径方向外側に離間した状態で保持されている。前側軌道輪542は、外周面(つまり、径方向外側の端面)においてのみ第1ハウジング12に接触しており、軸方向(前後方向)においては第1ハウジング12には接触していない。なお、本実施形態では、アンビル連結スリーブ67の後端面673は、前側軌道輪542の前端面543に当接している。
【0100】
後側軌道輪544は、ナット51と共に回転する回転側の軌道輪である。後側軌道輪544の外径は、前部125の内径よりも小さい。後側軌道輪544の内径は、ネジシャフト56の外径よりも僅かに大きい。後側軌道輪544の後端面には、ナット51の外径と概ね同径の凹部545が設けられている。後側軌道輪544は、凹部545にナット51の前端部が嵌め込まれることで位置決めされている。これにより、後側軌道輪544は、その外周面が、前部125の内周面から径方向内側に離間し、且つ、内周面がネジシャフト56の外周面から径方向外側に離間した状態で保持されている。なお、後側軌道輪544は、外周面(つまり、径方向外側の端面)のみならず、軸方向(前後方向)においても第1ハウジング12には接触していない。
【0101】
転動体547は、保持器546によって転動可能に保持され、前後方向において、前側軌道輪542と後側軌道輪544の間に配置されている。なお、本実施形態でも、転動体としてコロ(詳細には、円筒コロ)が採用されている。保持器546は、前部125に滑り状態で嵌め込まれている。また、保持器546の内周面は、ネジシャフト56の外周面から径方向内側に離間している。
【0102】
第1実施形態と同様、本実施形態の締結工具102においても、前側受け部54、つまり、スラストベアリング541の各部材は、軸方向(前後方向)では第1ハウジング12には接触していない。よって、ナット51からの軸力は、実質的に、第1ハウジング12を介することなく、前側受け部54によって、アンビル連結スリーブ67へ伝えられる。よって、第1ハウジング12の前部125の雌ネジ部126と、アンビル連結スリーブ67の雄ネジ部672とに、逆方向の力が作用してネジの緩みにつながる可能性を低減することができる。
【0103】
また、本実施形態の前側受け部54は、第1実施形態の前側受け部53(
図6参照)に比べ、フランジスリーブ530が省略されている分、部品点数を減らすことができる。更に、径方向において、ネジシャフト56と第1ハウジング12の間に配置されるフランジスリーブ530の筒部531が省略されることで、駆動軸A1から第1ハウジング12の上面までの距離(いわゆるセンターハイト)を低減することができる。
【0104】
[第3実施形態]
以下、
図9を参照して、第3実施形態に係る締結工具103について説明する。本実施形態の締結工具103は、第1実施形態の締結工具101とは構成が異なるハンドガード176を有するが、その他の構成は締結工具101と実質的に同一である。
【0105】
図9に示すように、本実施形態では、第1実施形態で本体ハウジング10(第2ハウジング14)に設けられた吸気口145(
図2参照)に代えて、筒状のハンドガード176に、複数の吸気口177が設けられている。また、ハンドガード176内には、隔壁178が設けられている。隔壁178は、吸気口177よりも上側に設けられ、ハンドガード176の内部空間を、吸気口177が配置された下側領域と、本体ハウジング10(第2ハウジング14)に連通する上側領域に区画している。
【0106】
本実施形態の締結工具103では、モータ2が駆動され、ファン27が回転すると、吸気口177からハンドガード176内に流入し、バッテリハウジング18およびハンドル17の内部を通って、第2ハウジング14の排気口146(
図2参照)から流出する空気流が生成される。よって、この空気流によって、モータ2のみならず、バッテリハウジング18内に収容されたコントローラ19も冷却することができる。このように、本実施形態では、ハンドガード176を有効活用して、モータ2およびコントローラ19の冷却風の流路が形成されている。
【0107】
上記実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下に示す。但し、実施形態の各構成要素は単なる一例であって、本発明の各構成要素を限定するものではない。締結工具101、102および103の各々は、「締結工具」の一例である。ファスナ8、ピン81、カラー85は、夫々、「ファスナ」、「ピン」、「筒状部」の一例である。駆動軸A1は、「第1の軸」の一例である。本体ハウジング10は、「ハウジング」の一例である。ハンドル17は、「ハンドル」の一例である。アンビル62は、「アンビル」の一例である。ジョーアセンブリ63は、「ピン把持部」の一例である。モータ2は、「モータ」の一例である。駆動機構3は、「駆動機構」の一例である。ナット51および被動ギヤ511は、夫々、「回転部材」および「被動ギヤ」の一例である。ネジシャフト56は、「移動部材」の一例である。回転軸A2は、「第2の軸」の一例である。ナット駆動ギヤ311は、「駆動ギヤ」の一例である。アイドルギヤ331は、「アイドルギヤ」の一例である。
【0108】
遊星減速機300は、「遊星減速機」の一例である。第1ハウジング12は、「第1ハウジング」の一例である。第2ハウジング14は、「第2ハウジング」の一例である。減速機アセンブリ30は、「減速機アセンブリ」の一例である。シール部材(Oリング)137は、「シール部材」の一例である。モータ領域141およびシャフト領域142は、夫々、「第1領域」および「第2領域」の一例である。隔壁143は、「隔壁」の一例である。
【0109】
なお、上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係る締結工具は、例示された締結工具101、102、103の構成に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。なお、これらの変更は、これらのうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、実施形態に示す締結工具101、102、103あるいは各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
【0110】
例えば、締結工具101、102、103は、夫々、ノーズアセンブリ61の交換によって、複数種類の複数部材加締め式ファスナを選択的に使用可能である。更に、締結工具101、102、103は、ノーズアセンブリ61の交換によって、ブラインドリベット(またはリベット)と称されるタイプの公知のファスナを使用可能であってもよい。なお、ブラインドリベットは、一体的に形成されたピンと筒状部(スリーブまたはリベット本体とも称される)とで構成される。ブラインドリベットも、引きちぎりタイプの複数部材加締め式ファスナと同様、締結工程において、ピンテールが引きちぎられる。
【0111】
また、締結工具101、102、103は、引きちぎりタイプの複数部材加締め式ファスナ、軸維持タイプの複数部材加締め式ファスナ、およびブラインドリベットのうち、何れか1つのタイプにのみ対応する専用機であってもよい。なお、専用機では、夫々のファスナのタイプに応じて、本体ハウジング10や駆動機構3の構成、制御回路191による制御態様が適宜変更されうる。例えば、軸維持タイプの複数部材加締め式ファスナの専用機では、ピンテールは発生しないため、ネジシャフト56等に形成されるピンテールの通路や回収容器148は省略されてよい。また、引きちぎりタイプの複数部材加締め式ファスナ、またはブラインドリベットの専用機では、ナット51の後側に配置されたスラストベアリング551は省略されてもよい。
【0112】
ノーズアセンブリ61(アンビル62およびジョーアセンブリ63)や、ノーズアダプタ65(アンビル連結スリーブ67、ジョー連結部材66、固定リング68)の構成、材質等は、適宜、変更されてよい。
【0113】
例えば、アンビル62の形状や、本体ハウジング10への連結態様は変更されてもよい。アンビル62の形状に応じて、アンビル連結スリーブ67の形状も適宜変更されうる。また、アンビル62は、アンビル連結スリーブ67を介さずに、直接、雌ネジ部126に螺合されていてもよい。この場合、アンビル62の後端部が、雄ネジ部672と同様に構成されていればよい。
【0114】
同様に、ジョーアセンブリ63の形状や、ネジシャフト56への連結態様は変更されてもよい。ジョーアセンブリ63は、ジョー連結部材66を介さずに、直接、ネジシャフト56に連結されていてもよい。ジョーアセンブリ63は、アンビル62に対する前後方向の相対移動に連動して、複数の爪が径方向に移動することで、ピンに対する把持力が変化するように構成されていればよく、例えば、爪の形状および数等は、適宜、変更されてよい。
【0115】
前側受け部53および54の構成は、適宜、変更されてよい。例えば、スラストベアリング535の前側軌道輪536が省略され、フランジスリーブ530のフランジ533が、軌道輪を兼用してもよい。スラストベアリング535の後側軌道輪537は、ナット51に一体化されてもよい。スラストベアリング541の後側軌道輪544についても同様である。転動体539および547として、コロではなく、ボールが採用されてもよい。また、アンビル連結スリーブ67の後端面673と、ナット51の前端面513の間に、軸方向(前後方向)においてはギヤハウジング12に接触しない別の部材(例えば、ワッシャ)が更に配置されてもよい。なお、後側受け部55のスラストベアリング551の構成についても、同様の変更が可能である。
【0116】
モータ2、駆動機構3、コントローラ19、操作部187等の構成や配置は、適宜、変更されてよい。
【0117】
例えば、モータ2として、ブラシレスモータに代えて、ブラシ付のモータが採用されてもよいし、外部の交流電源から供給される電力で駆動される交流モータが採用されてもよい。上記実施形態では、モータ本体部21は、前後方向において、ナット51の後端よりも後側に配置されているが、モータ本体部21は、遊星減速機300と同様、ナット51(詳細には、駆動ギヤ511の後側の部分)の真下に配置されてもよい。また、モータ2は、必ずしも遊星減速機300および第1中間シャフト31と同軸状に配置されている必要はない。例えば、モータシャフト23の回転軸A2は、遊星減速機300および第1中間シャフト31の軸と平行であってもよい。また、モータ2は、モータシャフト23の回転軸A2が駆動軸A1に交差するように配置されていてもよい。
【0118】
駆動機構3において、ボールネジ機構5に代えて、ナットと、ナットに直接係合されたネジシャフトとを備えた送りネジ機構が採用されてもよい。遊星減速機300の段数(つまり、遊星減速機300に含まれる遊星歯車機構の数)、各段の遊星歯車機構の構成は、適宜変更されてよい。例えば、遊星減速機300は、2つの、あるいは4つ以上の遊星歯車機構を備えてもよい。また、動力伝達経路において、モータ2とナット駆動ギヤ311の間に、遊星減速機300に代えて、遊星歯車機構以外のギヤ列(スパーギヤ、ヘリカルギヤ、ベベルギヤ等のギヤ列)を含むギヤ減速機が配置されてもよい。
【0119】
コントローラ19は、バッテリハウジング18ではなく、本体ハウジング10に収容されてもよい。また、上記実施形態では、制御回路191が、CPU等を含むマイクロコンピュータによって構成される例が挙げられている。しかしながら、制御回路191は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブル・ロジック・デバイスで構成されていてもよい。
【0120】
動作モードを指定する情報を入力するための入力機器は、操作部187の押しボタン式スイッチに限られず、例えば、スライド式のスイッチ、回動式のダイヤル、あるいはタッチパネルであってもよい。操作部187から入力される情報は、動作モードに関する情報に限られない。例えば、ファスナおよび/または作業材の種類に関する情報、所望の引張り力、ネジシャフト56の移動速度(引張り速度)、環境温度等に関する情報であってもよい。また、操作部187は、別の位置(例えば、本体ハウジング10)に設けられてもよいし、省略されてもよい。
【0121】
上述の内部機構の変更に応じて、あるいは変更にかかわらず、本体ハウジング10、ハンドル17、ハンドガード175、176、バッテリハウジング18の構成や配置、材質等も、適宜変更されうる。
【0122】
例えば、第1ハウジング12と第2ハウジング14とは、一体的に形成されていてもよいし、夫々の形状が異なっていてもよい。また、減速機アセンブリ30は、第1ハウジング12から分離可能である必要はない。つまり、減速機ケース13は、第1ハウジング12と一体的に構成されていてもよい。また、第1ハウジング12は、上記実施形態とは異なる複数の部分が連結されることで形成されてもよい。同様に、第2ハウジング14は、ハンドル17、ハンドガード175、176およびバッテリハウジング18と一体的に樹脂で成形される必要はない。これらのうち、少なくとも1つが別個に形成され、ネジ等で残りの部分に連結されてもよい。ハンドガード175、176は省略されてもよい。
【0123】
バッテリ装着部181の数(つまり、装着可能なバッテリ182の数)は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。また、バッテリ装着部181の位置も、バッテリハウジング18の下部に限られるものではない。バッテリガード185は省略されてもよい。
【0124】
更に、本発明および上記実施形態の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様のうち少なくとも1つが、上述の実施形態とその変形例、および各請求項に記載された発明の1つまたは複数と組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記アイドルギヤは、第3の軸周りに回転可能であって、
前記第3の軸は、前記上下方向において、前記第1の軸と前記第2の軸の間で、前記第1の軸および前記第2の軸と平行に延在する。
回転軸A3は、本態様の「第3の軸」の一例である。
[態様2]
前記第1の軸、前記第2の軸および前記第3の軸は、同一面上に位置する。
[態様3]
前記第2ハウジングは、前記第2ハウジングの外部と前記第1領域とを連通する開口を有し、前記開口は、前記モータの冷却風用の吸気口または排気口である。
吸気口145および排気口146の各々は、本態様の「開口」の一例である。
[態様4]
各々がバッテリを着脱可能に構成された複数のバッテリ装着部を備え、
前記複数のバッテリ装着部は、前記ハンドルの下側に、前後方向に並んで設けられている。
バッテリ装着部181は、本態様の「バッテリ装着部」の一例である。
[態様5]
前記第2ハウジングは、前記第1ハウジングの少なくとも一部を収容する。
[態様6]
前記第2ハウジングは、前記減速機ケースを収容する。
【符号の説明】
【0125】
101、102、103:締結工具、10:本体ハウジング、12:第1ハウジング、121:前壁、122:後壁、123:凹部、125:前部、126:雌ネジ部、127:後部、13:減速機ケース、131:前壁、133:突起、137:シール部材、14:第2ハウジング、141:モータ領域、142:シャフト領域、143:隔壁、145:吸気口、146:排気口、147:開口部、148:回収容器、149:LEDランプ、16:ノーズ、17:ハンドル、171:トリガ、172:スイッチ、175、176:ハンドガード、177:吸気口、178:隔壁、18:バッテリハウジング、181:バッテリ装着部、182:バッテリ、185:バッテリガード、187:操作部、19:コントローラ、191:制御回路、2:モータ、3:駆動機構、5:ボールネジ機構、8:ファスナ、21:モータ本体部、23:モータシャフト、27:ファン、30:減速機アセンブリ、300:遊星減速機、302:太陽ギヤ、303:キャリヤ、31:第1中間シャフト、311:ナット駆動ギヤ、33:第2中間シャフト、331:アイドルギヤ、51:ナット、511:被動ギヤ、513:前端面、514:後端面、521、522:ベアリング、53:前側受け部、530:フランジスリーブ、531:筒部、532:段差部、533:フランジ、534:前端面、535:スラストベアリング、536:前側軌道輪、537:後側軌道輪、538:保持器、539:転動体、54:前側受け部、541:スラストベアリング、542:前側軌道輪、543:前端面、544:後側軌道輪、545:凹部、546:保持器、547:転動体、55:後側受け部、551:スラストベアリング、56:ネジシャフト、560:駆動シャフト、561:延設シャフト、61:ノーズアセンブリ、62:アンビル、621:ボア、625:係止フランジ、63:ジョーアセンブリ、65:ノーズアダプタ、66:ジョー連結部材、661:大径部、663:シール部材、67:アンビル連結スリーブ、671:ボア、672:雄ネジ部、673:後端面、675:フランジ、68:固定リング、81:ピン、811:軸部、815:ヘッド、85:カラー、A1:駆動軸、A2:回転軸、A3:回転軸、W:作業材