(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】無線通信システムおよびコンピュータ断層撮影装置
(51)【国際特許分類】
H04B 5/00 20240101AFI20240119BHJP
H01P 3/04 20060101ALI20240119BHJP
H01P 5/18 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
H04B5/00 Z
H01P3/04
H01P5/18 F
(21)【出願番号】P 2019194729
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉木 寛人
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-171298(JP,A)
【文献】特開平08-224233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0127052(US,A1)
【文献】特開2019-140466(JP,A)
【文献】特開2018-113673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 5/00 - 5/06
H01P 3/04
H01P 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の差動信号線と、
前記第1の差動信号線と電磁界結合して差動信号の無線通信を行う第2の差動信号線を有する差動結合器と、
前記差動結合器と有線の伝送路で接続され、前記差動信号を処理する電子回路と、を備え、
前記電子回路の基板またはグランドパターンの面が、前記第1の差動信号線が延びる方向から遠ざかるように、前記第2の差動信号線に対して傾斜または直立し
、前記差動結合器は、前記第1の差動信号線が設けられている差動伝送線路に沿って相対的に移動することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記電子回路の基板は、前記第2の差動信号線が延びる方向に対して30度以上かつ150度以下の角度で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記差動結合器において前記第2の差動信号線と前記電子回路とを接続する前記伝送路の長さは、前記電磁界結合による通信速度の基本波の波長の6分の1以下の長さであることを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1の差動信号線は前記差動結合器の前記第2の差動信号線よりも長く延びていることを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記差動伝送線路が送信カプラとして機能し、
前記差動結合器が受信カプラとして機能し、
前記電子回路は、前記差動結合器の前記第2の差動信号線により受信された前記差動信号を処理する回路であることを特徴とする請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記差動伝送線路が受信カプラとして機能し、
前記差動伝送線路が送信カプラとして機能し、
前記電子回路は、前記第1の差動信号線に前記差動信号を供給する回路であることを特徴とする請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記第1の差動信号線および前記第2の差動信号線は弧状であり、前記電子回路は、前記第2の差動信号線の前記伝送路との接続部の接線方向に対して傾斜して設けられていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記差動結合器と前記伝送路がリジットフレキシブル基板のフレキシブル部により構成され、
前記電子回路が前記リジットフレキシブル基板のリジット部に配置されることを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項9】
放射線発生器と、
前記放射線発生器による発生した放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線発生器と前記放射線検出器を対向させた状態で保持しながら回転させる回転部と、
前記回転部を支持する固定部と、
請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の無線通信システムと、を備え、
前記第1の差動信号線は前記回転部の回転軸を中心とした円周に沿って設けられ、前記差動結合器は前記固定部に配置され、前記第1の差動信号線と前記第2の差動信号線との間の電磁界結合により前記放射線検出器で検出された信号が前記固定部へ伝送されることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器や産業用ロボットなどの分野において、固定部と、固定部に対して平行移動や回転運動などを行う可動部とを有し、固定部と可動部の間で画像信号などの大容量のデータ伝送を高速に行う装置が増えつつある。例えば、CT装置では、ガントリ内の回転部(可動部)に設けられた撮像部により、様々な回転角度で多数のX線像が撮像される。撮像により得られたX線像は、固定部に設けられたコンピュータへ転送され、所定のアルゴリズムに従って処理して診断用または検査用の像が生成される。従って、CT装置では、可動部から固定部へ多数のX線像が転送される。
【0003】
特許文献1は、このようなCT装置における回転部と固定部との間のデータ通信を行う通信システムを開示している。特許文献1に記載された通信システムは、全体的に環状の回転フレームに実質的に沿って位置決めされて取り付けられた差動伝送線路と、固定フレームに取り付けられた差動結合器とを有する。差動結合器は、差動伝送線路との無線結合により差動伝送線路に印加された信号を受け取ることができるように、差動伝送線路に十分に接近して通路内に位置決めされ、配置されている。
【0004】
特許文献2は、非接触で通信を行うためのアンテナと、当該アンテナを介して受信または送信した信号を処理するための素子を有した半導体部品とを異なる高さ位置に配置した非接触通信モジュールを開示している。この構成によれば、相手方通信装置とアンテナの距離を短くすることが可能となり、通信性能の向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平08-224233号公報
【文献】特開2017-118476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、差動結合器と受信回路が同軸線路で接続された構造が開示されている。このような接続構造では、同軸線路の寄生成分により、差動結合器と受信回路との間で伝送される信号に歪が生じてしまい、例えばCT装置の回転部から固定部へ送信されるデータに誤りが生じる虞がある。
【0007】
同様の課題は、固定部と回転部との間で通信するシステムに限らず、電磁界結合により無線通信を行うシステムにおいて生じうる。
【0008】
また、特許文献2では、アンテナと半導体部品などを有する受信回路とが一体的に構成された非接触モジュールが記載されている。特許文献2の技術によれば、アンテナ(差動結合器)と受信回路を接近させて配置することが可能となり、アンテナと受信回路の間で伝送される信号に生じる寄生成分の影響を小さくすることが可能となる。しかしながら、特許文献2の非接触モジュールを、特許文献1の差動結合器に適用すると、次のような課題が生じる。すなわち、非接触モジュールのアンテナの近くに配置された受信回路(半導体部品、チップ部品、信号配線、グランドパターン(GNDパターン)等)と、伝送線路との間に生じる電磁界結合により、信号波形が崩れてしまい、通信性能が悪化する。
【0009】
本発明の一態様は、電磁界結合による無線通信における通信品質の低下を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による無線通信システムは以下の構成を備える。すなわち、
第1の差動信号線と、
前記第1の差動信号線と電磁界結合して差動信号の無線通信を行う第2の差動信号線を有する差動結合器と、
前記差動結合器と有線の伝送路で接続され、前記差動信号を処理する電子回路と、を備え、
前記電子回路の基板またはグランドパターンの面が、前記第1の差動信号線が延びる方向から遠ざかるように、前記第2の差動信号線に対して傾斜または直立し、前記差動結合器は、前記第1の差動信号線が設けられている差動伝送線路に沿って相対的に移動する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電磁界結合による無線通信における通信品質の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】第1実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図。
【
図1B】第1実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図。
【
図2】アイパターン波形のシミュレーション結果を示す図。
【
図4】第2実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図。
【
図5】第3実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図。
【
図6】第4実施形態に係るCT装置の構成例を示す図。
【
図7】差動結合器と受信回路の間の傾斜の角度を説明する図。
【
図8】従来の無線通信システムの課題を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
<第1実施形態>
まず、電磁界結合による無線通信を行う無線通信システムにおける課題について説明する。
図8(a)のように、差動結合器800と受信回路801が同軸線路802で接続された構造では、同軸線路802の寄生成分により、伝送される無線信号に歪が生じてしまう。その結果、差動結合器800と受信回路801の間の通信品質が低下し、高速な通信(例えば、10Gbps程度の転送速度の通信)を実現するのが困難になるという課題がある。
【0015】
また、
図8(b)に示されるように、アンテナ811と半導体部品などの受信回路812が一体的に構成された非接触モジュール810を用いることで、差動結合器としてのアンテナ811と受信回路812を近くに配置することが考えられる。非接触モジュール810によれば、アンテナ811と受信回路812の間の通信で生じる寄生成分の影響を小さくすることが可能となり、
図8(a)の構成に比べて無線通信の高速化が可能になる。しかしながら、
図8(b)の構成では、非接触モジュール810のアンテナ811の近くに配置された受信回路812(半導体部品、チップ部品、信号配線、グランドパターン(GNDパターン)等)と、伝送線路813との間に結合814が生じる。この結合814により、Txの信号波形はTx'の信号波形のように崩れてしまい、アンテナ811がこれを受信するため、依然として通信性能に課題が残る。以下で説明する各実施形態の無線通信システムは、このような課題を解決して、通信品質を向上し、高速な通信を実現する。
【0016】
図1Aは、第1実施形態に係る、送信機と受信機を備えた無線通信システム100の構成例を示す。送信機101は、1対の差動信号線(第1の差動信号線)を有し、送信カプラとして機能する差動伝送線路2と、差動伝送線路2の一端に接続された送信回路1とを有する。差動伝送線路2の他端は、終端回路3で終端されている。受信機102は、1対の差動信号線(第2の差動信号線)を有し、受信カプラとして機能する差動結合器4と、差動結合器4に有線の伝送路5を介して接続された受信回路10とを有する。このように、第1実施形態の送信カプラと受信カプラは、差動伝送線路2と差動結合器4で構成されており、それぞれが有する1対の差動信号線が対向するように配置される。
【0017】
送信回路1は、差動伝送線路2に接続され、差動信号処理するための電子回路の一例であり、差動伝送線路2の1対の差動信号線に差動信号を出力する。送信回路1は、必要に応じて、増幅器や減衰器、種々のフィルタ回路を有していても良い。また、送信回路1が差動信号を分配するための分配器等を有していれば、複数の送信カプラに同時に差動信号を送信することもできる。送信回路1から出力された差動信号は、電磁結合状態の差動伝送線路2と差動結合器4を通して受信回路10により受信される。差動結合器4と受信回路10は、受信機102を構成する。
【0018】
受信回路10は、差動結合器4に接続されて差動信号を処理する電子回路の一例であり、受信した無線信号を所望のデジタル信号波形に整形して出力する機能を有する。例えば、受信回路10は、差動結合器4の1対の差動信号線から、差動結合器4が受信した差動電圧を、伝送路5を介して受け取る。受信回路10は、受け取った差動電圧を増幅し、コンパレータ回路等の半導体部品6によってアナログ信号からデジタル信号へ変換する。なお、ダンピング抵抗、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、コモンモードフィルタなどのフィルタ回路を含むチップ部品7が、ノイズ対策等のために、受信回路10に設けられても良い。また、受信回路10は、複数の受信信号を合成するための合波器を有していても良い。受信回路10から出力されたデジタル信号は種々の信号処理に用いられる。
【0019】
差動伝送線路2は、フラットケーブルやフレキシブル基板やプリント回路基板等で形成される。例えば、差動伝送線路2は、FR-4などの絶縁部材上に、マイクロストリップ構造やコプレーナ構造の1対の差動信号線が形成された構造を有する。差動伝送線路2における1対の差動信号線には、送信回路1から差動信号が印加される。1対の差動信号線は、多層基板の内層に形成されてもよいし、表層に形成されてもよい。1対の差動信号線が表層に形成される場合は、保護部材としてレジスト材などで差動信号線を覆う等の処理が施されているのが好ましい。差動伝送線路2の1対の差動信号線が配置された面の反対側の面には、グランド(GND)層が形成されている。
【0020】
また、差動伝送線路2においては、所望の特性インピーダンスになるようにそれぞれの差動信号線の幅(差動信号線幅)や差動信号線間の距離(信号線間距離)が決定されている。上述のように、1対の差動信号線の一端は終端回路3で終端され、他端には送信回路1が接続される。1対の差動信号線の差動信号線幅と信号線間距離は、例えば、差動インピーダンスが100Ωとなるように決定される。但し、差動信号線幅と信号線間距離は、送信回路1および終端回路3と整合していれば良く、特に限定されない。また、差動伝送線路2を長く形成したい場合は、
図1Aに示されるような基板を複数接続することで実現できる。このとき、接続される各基板については、差動信号線が略等しい差動特性インピーダンスを有し、電気的に接続されていれば良く、電気的材料定数や基板の層構成について何等制限はない。
【0021】
差動結合器4は、
図1Aの(a)、(b)に示されるように、差動信号線の一端が終端回路(不図示)にて終端され、他端に受信回路10が接続された、いわゆる方向性結合器であるが、これに限定されるものではない。例えば、差動結合器4における差動信号線の両端を電気的に開放状態とし、差動信号線の所定の位置に受信回路10が接続された構成であってもよい。また、いずれの差動結合器4においても、差動信号線の長さは、差動伝送線路2の長さより短く、差動信号の伝送速度により調整される。差動結合器4は、差動伝送線路2の差動信号線間に印加された差動信号を電磁界結合により受信する。差動結合器4は、受信した差動信号を受信回路10に供給するため、有線の伝送路5で受信回路10に接続されている。
【0022】
差動結合器4と受信回路10を接続するための有線の伝送路5は、差動伝送線路2と同様にプリント回路基板やMID(Molded Interconnect Device)で形成され得る。また、伝送路5の長さは、差動伝送線路2と差動結合器4との間の電磁界結合による通信速度の基本波の波長の、6分の1以下の長さとすることが好ましい。伝送路をこのような長さに制限することで、伝送路5に生じる寄生成分の影響を抑えることができる。
【0023】
また、
図1Aの(a)、(b)に示されるように、受信回路10と差動伝送線路2とは、受信回路10が差動伝送線路2と結合しないように角度を持って配置、保持される。すなわち、受信回路10の基板が、差動伝送線路2に設けられている1対の差動信号線が延びる方向から遠ざかるように、受信回路10の差動信号線に対して傾斜(
図1Aの(a))または直立(
図1Aの(b))して設けられる。なお、直立の状態とは、受信回路10の差動信号線に対する傾斜角が90度の場合である。差動伝送線路2と受信回路10とをこのような状態に保持する保持機構(不図示)は、両者を一定の角度を維持しながら保持する機構であればよく、種々の構成が考えられる。例えば、ライトアングルタイプのコネクタ等で差動結合器4と受信回路10が接続されてもよいし、リジットフレキシブル基板等で差動結合器4と受信回路10が接続されてもよい。
【0024】
図1Bは、受信機102を、リジットフレキシブル基板を用いて構成した場合の、無線通信システム100の例を示す。リジットフレキシブル基板は、リジット部とフレキシブル部から構成される。リジット部には、半導体部品6およびチップ部品7を含む受信回路10が実装され、フレキシブル部には差動結合器4が形成される。リジット部はフレキシブル層とリジット層が積層され一体形成され、リジット部の内層で差動結合器4と受信回路10がビアや伝送線路等で接続される。フレキシブル層とリジット層を積層一体にするため接着層等が使用される。積層一体形成時にリジット部とフレキシブル部の接続面から接着層がはみ出る恐れがある。そのため、フレキシブル部の差動結合器4は、リジット部からある一定距離、例えば1mm程度離れた位置から湾曲され差動伝送線路2と略平行となるように配置される。この時、フレキシブル部の形状の維持方法は、特に限定されない。また、
図1Bは、1辺から2層のフレキシブル層が引き出された構成であるが、1層のみの構成であっても良く、フレキシブル層に電子部品等が実装されていても良い。また、
図1Bでは、受信回路10の基板が、受信回路10の差動信号線に対して直立している構成を示したが、
図1Aの(a)と同様に、受信回路10の基板を受信回路10の差動信号線に対して傾斜させた構成としてもよい。
【0025】
以上のように、第1実施形態の無線通信システム100は、第1の差動信号線を有する差動伝送線路2と、第1の差動信号線と電磁界結合して差動信号の無線通信を行う第2の差動信号線を有する差動結合器4とを備えている。差動伝送線路2と差動結合器4にはそれぞれ差動信号を処理するための電子回路(送信回路1、受信回路10)が接続される。差動結合器4と有線の伝送路5で接続されて差動信号を処理する電子回路(受信回路10)の基板(またはグランドパターン)の面は、第1の差動信号線が延びる方向から遠ざかるように、第2の差動信号線に対して傾斜または直立して設けられる。なお、第1実施形態は、送信カプラに差動伝送線路2を用いた例を示したが、送信カプラとして差動結合器を用いることもできる。さらに、送信カプラとして差動結合器4を、受信カプラとして差動伝送線路2を用いる構成とすることも可能である。この場合、差動結合器4と接続される電子回路は差動信号を供給する送信回路となり、差動伝送線路2に接続される電子回路は差動信号を受信する受信回路となる。
【0026】
また、差動伝送線路2と差動結合器4は、相対的に移動可能に配置される。例えば、差動伝送線路2は、移動/回転側に配置され、差動結合器4は固定側に配置される。もしくは、差動伝送線路2が固定側に配置され、差動結合器4が移動/回転側に配置される。好適な例としては、CT装置の回転部(ガントリ)に差動伝送線路2が、固定部に差動結合器4が配置され、回転部から固定部へX線情報を送信する構成があげられる。そのようなCT装置については、第4実施形態において
図6を参照して説明する。
【0027】
また、本実施形態および以下に説明する各実施形態における電磁界結合には、電界結合と磁界結合の両方が含まれる。すなわち、カプラ間における無線通信は、電界結合によって行われてもよいし、磁界結合によって行われてもよいし、電界結合と磁界結合の両方によって行われてもよい。磁界結合には電磁誘導及び磁界共鳴が含まれる。以下では、主に電界結合による無線通信が行われる場合を中心に説明する。また、以下の各実施形態では、
図1Aに示した構成を用いてその作用および効果を説明するが、
図1Bの構成にもこれらが適用され得る。すなわち、
図1Bに示した無線通信システム100は、
図1Aの差動結合器4と伝送路5がフレキシブル部で構成されることを除いて、
図1Aに示した無線通信システム100と同等の構成とすることができる。
【0028】
第1実施形態に係る無線通信システムの通信性能の改善効果について、シミュレーションによる計算結果を用いて説明する。電磁界シミュレータで差動伝送線路と差動結合器の間のSパラメータを算出し、回路シミュレータで伝送電圧波形の解析を実施した。
図2は、シミュレーション結果として得られたアイパターンを示した図である。
【0029】
上記のシミュレーションに用いたシミュレーションモデルについて説明する。差動伝送線路2は、基材として高速伝送時によく使用されるふっ素樹脂基板を想定して、比誘電率を2.17、誘電正接を0.0005とした。基材の厚さは1.6mm、導体パターンを形成する銅箔厚は35μである。また、差動伝送線路2の差動信号線幅は4.8mm、信号線間距離は5.0mmで、差動伝送線路2の裏面にはグランドパターン(以下、GNDパターン)が設けられている。また、差動伝送線路2の長さは300mmとしている。差動結合器4も差動伝送線路2と同一の基材、銅箔厚、差動信号配線幅、信号配線間距離を有し、差動伝送線路2の差動信号配線と差動結合器4の導体パターンが正対するように5mmの間隙を空けて配置した。受信回路10については、30×30mmの形状のGNDパターンのみをモデル化した。受信回路10のGNDパターンと差動結合器4との間にポート(接続部)を設定し、差動伝送線路2とGNDパターンの面が成す角度θをパラメータとして、回路シミュレータによりSパラメータを角度ごとに計算した。以上のようにして回路シミュレータで算出したSパラメータを用いて、10Gbpsの伝送速度時の波形シミュレーションを実施した。
【0030】
シミュレーションに用いた傾斜角(角度θ)について
図7(a)を用いて説明する。差動伝送線路2と差動結合器4の差動信号線は、互いに平行である。角度θは、受信回路10の差動信号線の方向702と受信回路10の基板またはGNDパターンの面との間の角度である。また、受信回路10の傾斜の方向は、差動伝送線路2の差動信号線が延びる方向701から遠ざかる方向である。
【0031】
図2(a)は、差動伝送線路2とGNDパターンの成す角度θが0度、(b)は5度、(c)は10度、(d)は15度、(e)は30度、(f)は90度の場合のアイパターンである。これらのシミュレーション結果をまとめたグラフを
図3に示す。
図3において、横軸は、差動伝送線路2とGNDパターンとが成す角度である。また、左縦軸は、アイの開口電圧であり、点線のグラフが対応する。右縦軸はピークからピークのジッタの値であり、実線のグラフが対応する。
図2と
図3から、差動伝送線路2とGNDパターン(受信回路10)の成す角度θが30度以上になると、アイの開口電圧は250mV以上となり、アイが開いている。また、ジッタに関しても、差動伝送線路2とGNDパターン(受信回路10)の成す角度が30度以上かつ150度以下の時に0.7UI以下となり、通信が可能となることがわかる。また、以上のシミュレーションの結果から、差動伝送線路2と受信回路10のGNDパターンの角度θが90度のときにもっとも通信性能が良くなることが分かる。
【0032】
ここで、受信回路10のGNDパターンの形状に関して考察するために、角度θが0の時に、GNDパターンの、差動伝送線路2の長手方向の長さを30mmから1mm程度まで段階的に短くしてシミュレーションを行った。結果、GNDパターンの長さを短くしてもアイパターンの改善はほとんど見られず、アイ開口電圧はほぼ0のままであった。このことから、通信性能の悪化の要因は、差動信号配線のプラス電位側とマイナス電位側が静電容量を介して受信回路10のGNDパターンと結合し、差動信号が減少してしまうためと考えられる。従って、GNDパターンの小型化による高速化は困難であり、受信回路10(GNDパターン)が差動伝送線路2に対して離れる方向へ角度を有するように構成した方が効果的である。
【0033】
以上のように、第1実施形態の無線通信システム100によれば、受信回路10と差動伝送線路2との間の不要な結合を低減するため、伝送波形の乱れが少なくなり通信品質を向上することができる。結果、高速な無線通信を実現することができる。
【0034】
<第2実施形態>
第1実施形態では、1対の差動信号線を有する差動伝送線路2と1つの差動結合器4を有する無線通信システム100に関して記載したが、複数対の差動信号線と複数の差動結合器4を用いて、多チャネルに対応した無線通信システムを提供することができる。
【0035】
図4は、第2実施形態による無線通信システムの構成を説明する図である。なお、
図4において、紙面の表面から裏面へ向かう方向に差動伝送線路2aが延びている。差動伝送線路2aは、複数対の差動信号線201を有する。複数対の差動信号線201のそれぞれに対向するように、それぞれが1対の差動信号線401を有する複数の差動結合器4が設けられている。受信回路10aは、差動伝送線路2aに対して所定の角度(30度以上かつ150度以下)を有して設けられており、複数の差動結合器4に対応して複数の半導体部品6を有する。以上のように、第2実施形態によれば、通信品質が向上した、任意の数のチャネルに対応した無線通信システム100を提供することができる。
【0036】
なお、第1、第2実施形態では、差動伝送線路2と差動結合器4の差動信号線が直線状に延びる場合を説明したが、差動伝送線路2と差動結合器4の差動信号線が弧状に延びていてもよい。なお、本明細書において、弧状とは、円弧、楕円弧、湾曲形状などを含む。
図7(b)はそのような構成における、差動結合器4に対する受信回路10の角度θの例を説明する図である。
図7(b)では、弧状の差動伝送線路2と弧状の差動結合器4が示されている。受信回路10の傾斜の角度とは、差動結合器4における受信回路のポート位置近傍における差動信号線の接線方向712と受信回路10(例えば、基板またはGNDパターン)との間の角度θである。ポート位置とは、差動結合器4の差動信号線と伝送路5との接続部(信号取り出し位置)である。また、受信回路10の傾斜方向は、差動伝送線路2の差動信号線の、ポート位置に対応する位置の近傍における接線の方向711から遠ざかる方向である。
【0037】
<第3実施形態>
第1実施形態では、送信カプラと受信カプラの一方が差動伝送線路で構成され、他方が差動結合器で構成された無線通信システム100を示した。第3実施形態では、送信カプラと受信カプラの両方が差動結合器で構成された無線通信システム100を説明する。
【0038】
図5は第3実施形態による無線通信システム100aを示す図である。
図5(a)において、差動結合器4、伝送路5および受信回路10を含む受信機102の構成は第1実施形態(
図1A)と同様である。送信機101aは、半導体部品6aとチップ部品7aを有する送信回路1aと、差動結合器4aとを有する。この構成において、差動結合器4aの差動信号線が延びる方向と受信回路10(例えば、受信回路の基板、または、GNDパターン)とが成す角度は、30度以上かつ150度以下の範囲に保持されるのが望ましい。
【0039】
図5(b)では、受信機102の受信回路10が送信回路1aの差動信号線が延びる方向に対して所定角度で傾斜して設けられるとともに、送信機101aの送信回路1aも差動結合器4の差動信号線が延びる方向に対して所定角度で傾斜して設けられている。
図5(c)では、受信機102の受信回路10が送信回路1aの差動信号線が延びる方向に対して90度を超えた角度で設けられた例が示されている。なお、
図5(a)~(c)において、受信回路10、受信回路10と送信回路1aは、差動信号線が延びる方向に対して直角であってもよい。また、なお、
図5(a)(c)において、受信機102と送信機101aが入れ替わってもよい。すなわち、送信機101aの送信回路1aが、差動信号線の延びる方向に対して傾斜または直立して設けられてもよい。
【0040】
以上のように、第3実施形態では、送信カプラと受信カプラが差動結合器により構成された構成において、一方の差動結合器の差動信号線と他方の差動結合器に接続された受信回路10のGNDパターンとの成す角度を30度以上かつ150度以下としている。このような構成の無線通信システム100aによれば、第1実施形態と同様に、通信品質を向上させることができる。
【0041】
<第4実施形態>
第4実施形態では、上述した無線通信システム100が適用されたコンピュータ断層撮影装置(以下、CT装置)の例を説明する。
【0042】
図6は、第4実施形態によるCT装置600の概略構成を示す図である。CT装置600は、回転部611を有するガントリ610と、ガントリ610を支持する固定部620を有する。回転部611は、ガントリ610内を回転する。回転部611には、放射線発生器の一例としてのX線管612と、放射線検出器の一例としてのX線検出器613とが対向して配置されている。X線検出器613は、X線管612が発生したX線を検出する。また、回転部611には、電磁界結合による無線通信を行うための1対の差動信号線602aと、1対の差動信号線602bとを有する差動伝送線路603が、回転部611の回転軸を中心とした円周に沿うように設けられている。差動伝送線路603は、上記第1実施形態の差動伝送線路2または第2実施形態の差動伝送線路2aに相当する。また、回転部611に設けられた回転部伝送ユニット601は、上述した送信回路1の機能を有し、X線検出器613から得られたX線検出信号を差動伝送線路603に供給する。
【0043】
固定部620は、差動伝送線路603のうちの1対の差動信号線602aとの電磁界結合により、差動信号線602aから信号を受信してデジタル化する受信機624を有する。また、固定部620は、受信機624で得られたデジタル信号(X線データ)をコンソールへ伝送する固定部伝送ユニット621を有する。受信機624は、上記第1実施形態または第2実施形態で説明した受信機102に相当する。
【0044】
以上のような構成により、回転部611が回転している間に、X線検出器613により得られた信号が差動伝送線路603から受信機624に電磁界結合を介して伝送される。第1、第2実施形態で上述したように、受信機624が有する受信回路は、例えば差動伝送線路603(の接線方向)に対して30度以上かつ150度以下の角度を有しており、良好な通信品質により高速な無線通信が実現される。
【0045】
以上が、回転部611から固定部620へ信号(例えば、X線データ)を伝送する構成である。さらに、CT装置600は、固定部620から回転部611へ信号(例えば、制御データ)を伝送する構成を有する。
図6において、送信機625は、送信カプラとして機能する差動結合器を含む。回転部611に設けられた差動伝送線路603の1対の差動信号線602bは、送信機625の差動結合器と電磁界結合し、受信カプラとして機能する。例えば、コンソールから送信された制御データは、送信回路1としても機能する固定部伝送ユニット621から制御信号として出力され、送信機625の差動結合器から差動信号線602bへ電磁界結合を介して伝送される。差動信号線602bで受信された制御信号は、受信回路10としても機能する回転部伝送ユニット601へ供給される。上記実施形態で説明したように、送信機625の送信回路は、例えば差動伝送線路603(の接線方向)に対して30度以上かつ150度以下の角度を有しており、良好な通信品質による高速な通信が実現される。
【0046】
以上のように、第4実施形態によれば、電磁界結合による無線通信により、CT装置における回転部と固定部との間の、高速かつ高品位な通信が実現される。なお、第1~第3実施形態に示した無線通信システムの適用例としてCT装置を示したが、もちろんこれに限られるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1:送信回路、2:差動伝送線路、3:終端回路、4:差動結合器、5:伝送路、6:半導体部品、7:チップ部品、10:受信回路、100:無線通信システム、101:送信機、102:受信機