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特許7422530アルキレンオキシド重合体の曇点測定用溶媒
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  • 特許-アルキレンオキシド重合体の曇点測定用溶媒 図1
  • 特許-アルキレンオキシド重合体の曇点測定用溶媒 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】アルキレンオキシド重合体の曇点測定用溶媒
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/04 20060101AFI20240119BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20240119BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20240119BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
G01N25/04 D
C08L71/00 Z
C08K3/00
C08K5/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019227541
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021095501
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】古家 吉朗
(72)【発明者】
【氏名】岡部 仁
(72)【発明者】
【氏名】福井 拓也
【審査官】山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-002090(JP,A)
【文献】特開平01-259119(JP,A)
【文献】特開2004-143267(JP,A)
【文献】特開2013-035832(JP,A)
【文献】特開2017-147060(JP,A)
【文献】特開平05-303208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08;C08L1/00-101/14
G01N25/00-25/72
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全重合体末端を100モル%として、その70モル%以上がOH基であるアルキレンオキシド重合体(II)を含む組成物の曇点を測定するための溶媒であって、電解質塩(a)と、ハンセン溶解度パラメーター(HSP)値が20~35(J/cm0.5の範囲の有機化合物(b)と、水(c)とを含み、前記アルキレンオキシド重合体(II)の分子量が3000未満である、曇点測定用溶媒。
【請求項2】
前記電解質塩(a)と前記有機化合物(b)との合計の濃度が0.6~35質量%である請求項1に記載の曇点測定用溶媒。
【請求項3】
前記電解質塩(a)の濃度が0.1~30質量%の範囲である請求項1又は2に記載の曇点測定用溶媒。
【請求項4】
前記有機化合物(b)の濃度が0.5~10質量%である請求項1~3の何れか1項に記載の曇点測定用溶媒。
【請求項5】
前記の電解質塩(a)が、酸素を含む塩である請求項1~4の何れか1項に記載の曇点測定用溶媒。
【請求項6】
前記有機化合物(b)のHSP値が20~26(J/cm0.5の範囲の化合物である請求項1~5の何れか1項に記載の曇点測定用溶媒。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の曇点測定用溶媒と、前記アルキレンオキシド重合体(II)と、を含む曇点測定用組成物。
【請求項8】
前記アルキレンオキシド重合体(II)の濃度が0.3~25質量%である請求項7に記載の曇点測定用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレングリコールなどのアルキレンオキシド重合体(ポリエーテルポリオールやポリアルキレングリコールと呼ばれることもある。)の曇点測定用溶媒に関する。又、本発明は、該曇点測定用溶媒とアルキレンオキシド重合体を含む曇点測定用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキシド重合体は、例えば活性水素を持つ開始剤を用いてエチレンオキシド、プロピレンオキシドのようなアルキレンオキシド化合物を重合して製造されている。また、アルキレンオキシド重合体は、例えば、ポリウレタンエラストマーのソフトセグメント成分や、接着剤、塗料、シーラント等の所謂CASE材が代表的な用途とされている。
【0003】
アルキレンオキシド化合物等の高分子量の重合体及び共重合体を生成するための重合方法は長い間にわたって開発されており、数多くの文献が存在している。代表的なアルキレンオキシドの重合方法としては、鉄のような遷移金属類並びにマグネシウム、アルミニウム、亜鉛及びカルシウムのような金属類の酸化物及び/又は水酸化物を包含する金属原子をベースとする広範囲にわたる触媒を使用して重合する方法が有る。例えば米国特許2,971,988(特許文献1)には、カルシウムベースの触媒を用いた方法が開示されている。亜鉛ベースの触媒を用いる方法としては特公昭45-7751号公報(特許文献2)、特公昭53-27319号公報(特許文献3)、欧州特許239,973号公報(特許文献4)、米国特許4,667,013号公報(特許文献5)などに開示されている方法がある。また、国際公開99/51610号公報(特許文献6)にミセル状態を利用した重合方法が開示されている。
【0004】
さらに現在も、重合速度の高いアルキレンオキシド重合体の製造方法が継続的に開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許2,971,988号公報
【文献】特公昭45-7751号公報
【文献】特公昭53-27319号公報
【文献】欧州特許239,973号公報
【文献】米国特許4,667,013号公報
【文献】国際公開99/51610号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】富田寿代、舟橋弘幸、鈴鹿短期大学紀要、第12巻、 73-78頁, 1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、アルキレンオキシド重合体は、連続重合法やバッチ重合法で製造される。これらの重合法での条件決定の過程で、その中途段階での分子量を迅速に把握することが、分子量制御の観点で重要である。特に重合速度が速くなると、その重要性が増す傾向にある。
分子量測定の正確性の観点では、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法が優れている。しかしながら、GPC法には多くの装置の組合せが必要で、測定試料の準備も含め、測定時間が比較的長い方法である。また、別の方法として、溶液粘度を分子量の指標とする方法は古くから用いられており、比較的短時間で測定可能な方法である。ただし、この方法は、分子量の低い領域の重合体の場合、粘度の差が現れにくく、精度が十分とは言えなくなる場合が有る。
【0008】
アルキレンオキシド重合体の場合、食塩水の様な電解質を含む水溶液において、アルキレンオキシド重合体が水和状態から遊離に転換する温度、所謂、曇点を示すことが知られている(非特許文献1)。また非特許文献1には、その曇点がポリエチレングリコール(PEG)の分子量、電解質(NaCl)のモル濃度、さらには電解質カチオン、アニオンの種類によって変化することも開示されている。なお非特許文献1は、PEGの水溶液に電解質(染料)を添加して、染色助剤として使用される非イオン界面活性剤の代替物になり得るかの検証が主たる目的である。ポリプロピレングリコールにも同様に曇点が発現することが示されている。
曇点の測定方法は、簡便な方法であり比較的短時間に測定結果を得ることができる。この為、曇点測定で分子量を把握できれば、アルキレンオキシド重合体の製造プロセスに大変有益であると考えられる。
末端を炭化水素基で封止した構造のアルキレンオキシド重合体の水溶液に関しては、比較的低温で曇点を示し、曇点と分子量とに比較的リニアな関係があることは公知である。
【0009】
一方、前記の非特許文献1や本発明者らの検討によれば、末端がOH基である比率の高いアルキレンオキシド重合体(II)(以下、単にアルキレンオキシド重合体と言うことがある)の電解質塩を含む水溶液にて観測される曇点は、以下の特徴があることが分かってきた。
・比較的高温である。
・分子量と曇点の関係は、末端封止型アルキレンオキシドとは以下の点で傾向が異なる。
分子量が高い方が曇点が低い場合がある。(末端封止型アルキレンオキシド重合体はこの関係が逆であり、よって分子量と曇点とがリニアな関係にあるかは不明と考えられる。)
更にアルキレンオキシド重合体の分子量が3000未満の様な低分子量領域では、特に比較的低温で曇点を示し難い場合があることも分かってきた。
上記のような低分子量領域のアルキレンオキシド重合体は、適用される用途が多く、その効率的な分子量情報の取得は社会への貢献が大きい。
【0010】
よって本発明は、特定の構造を有するアルキレンオキシド重合体(II)が例えば分子量が3000未満の様な低分子量領域のものであっても曇点を比較的低温で測定できる曇点測定用溶媒(I)を提供することを目的とする。又、本発明は、この曇点測定用溶媒(I)とアルキレンオキシド重合体(II)とを含む曇点測定用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、以下の態様を含む。
[1] 全重合体末端を100モル%として、その70モル%以上がOH基であるアルキレンオキシド重合体(II)の曇点を測定するための溶媒であって、電解質塩(a)と、ハンセン溶解度パラメーター(HSP)値が20~35(J/cm0.5の範囲の有機化合物(b)と、水(c)とを含む曇点測定用溶媒。
[2] 前記電解質塩(a)と前記有機化合物(b)との合計の濃度が0.6~35質量%である[1]に記載の曇点測定用溶媒。
[3] 前記電解質塩(a)の濃度が0.1~30質量%の範囲である[1]又は[2]に記載の曇点測定用溶媒。
[4] 前記有機化合物(b)の濃度が0.5~10質量%である[1]~[3]のいずれかに記載の曇点測定用溶媒。
[5] 前記の電解質塩(a)が、酸素を含む塩である[1]~[4]のいずれかに記載の曇点測定用溶媒。
[6] 前記有機化合物(b)のHSP値が20~26(J/cm0.5の範囲の化合物である[1]~[5]のいずれかに記載の曇点測定用溶媒。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の曇点測定用溶媒と、前記アルキレンオキシド重合体(II)と、を含む曇点測定用組成物。
[8] 前記アルキレンオキシド重合体(II)の濃度が0.3~25質量%である[7]に記載の曇点測定用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば分子量が3000未満、特に1500以下の様な比較的分子量の低いアルキレンオキシド重合体であっても、比較的低温で曇点を測定することができる曇点測定用溶媒が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1及び参考例1における分子量-曇点の関係を示すグラフである。
図2】実施例2及び参考例2における分子量-曇点の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
非特許文献1に開示されるように、電解質塩を含むPEG等の末端がOH基である比率の高いアルキレンオキシド重合体(II)の水溶液が、非イオン界面活性剤と同様に曇点を有する点、分子量により曇点が変わるということは公知である。この性質を利用して本発明者らは、アルキレンオキシド重合体(II)の分子量の情報を曇点から得ることが出来ることを見出している。
一方、末端封止型のアルキレンオキシド重合体の水溶液の曇点と分子量との関係とは異なり、前記の様なOH基の多いアルキレンオキシド重合体(II)では分子量が低くなるほど曇点が上昇する傾向がある。特に分子量3000未満の様な比較的分子量の低いアルキレンオキシド重合体(II)の場合、その水溶液が大気圧下、100℃未満の温度では曇点が現れない場合や、曇点が高温になる場合があることを見出している。
本発明者らは、電解質塩と共に特定の有機化合物を含む水溶液は、比較的分子量の低いアルキレンオキシド重合体(II)についても、実用的な範囲で曇点が観測される曇点測定用溶媒になることを見出した。
【0015】
本発明に係るアルキレンオキシド重合体(II)の曇点測定用溶媒は、電解質塩(a)と、ハンセン溶解度パラメーター(HSP)値が20~35(J/cm0.5の範囲の有機化合物(b)と、水(c)とを含む。以下、本発明に係る曇点測定用溶媒の各成分について説明する。
【0016】
(電解質塩(a))
上記の電解質塩(a)としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム(食塩を含む)、塩化カリウムなどの塩化物塩、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムなどのフッ化物塩、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウムなどの臭化物塩、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどのヨウ化物塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムなどの硫酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムなどの炭酸塩等を挙げることができる。これらの中でも炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの酸素を含む塩は、より少ない重合体濃度でも曇点測定が可能である点で好ましい。また、金属イオンの視点からはナトリウム塩、カリウム塩の態様が好ましい。
【0017】
本発明の曇点測定用溶媒における電解質塩の濃度は0.1~30質量%であることが好ましい。より好ましい下限値は0.2質量%であり、さらに好ましくは1質量%であり、特に好ましくは2質量%である。一方、より好ましい上限値は25質量%、更に好ましくは20質量%、特に好ましくはくは15質量%である。この様な濃度であれば、低分子量の重合体、好ましくは数平均分子量が3000未満であって、より好ましくは3000未満500以上、さらに好ましくは3000未満800以上、特に好ましくは3000未満1000以上の範囲のアルキレンオキシド重合体であっても曇点を測定することができ、分子量に関する情報を得ることができる。
【0018】
上記の電解質塩(a)は、アルキレンオキシド重合体の特定の温度での水溶液からの遊離を促進する効果が優れる為、上記の様に低分子量のアルキレンオキシド重合体(II)であっても曇点を示すものと思われる。
【0019】
(有機化合物(b))
本発明に係る曇点測定用溶媒は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が20~35((J/cm0.5)の範囲にある有機化合物(b)を含む。HSP値がこの範囲にある有機化合物は、水に溶解する性質を示す化合物である。前記のHSP値は20~26((J/cm0.5)の範囲であることがより好ましい。
【0020】
このような化合物としては、エタノール(26.5)、1-プロパノール(24.6)、2-プロパノール(23.6)、n-ブタノール(23.2)、s-ブタノール(22.2)、i-ブタノール(22.7)、t-ブタノール(21.8)の様な1価のアルコール、エチレングリコール(33.0)、ジエチレングリコール(29.1)、トリエチレングリコール(27.5)等の2価のアルコールを挙げることができる。より好ましくは1価のアルコールである。括弧内の数値はそれぞれのHSP値((J/cm0.5)である。
また本発明の有機化合物(b)の沸点は水の沸点に近いレベルかそれ以上であることが、曇点の測定範囲を広げる意味で好ましい。具体的には、常圧での沸点が60℃以上が好ましく、より好ましくは75℃以上であり、さらに好ましくは90℃以上であり、特に好ましくは95℃以上である。一方、その上限値は原理的に制限は無い。好ましくは300℃であり、より好ましくは250℃である。
【0021】
本発明の曇点測定用溶媒における前記有機化合物(b)の濃度は、0.5~10質量%とすることができる。好ましい下限値は1質量%、より好ましくは2質量%である。一方、より好ましい上限値は8質量%、さらに好ましくは7質量%である。
この様な濃度であれば、低分子量の重合体、好ましくは数平均分子量が3000未満、特に1500以下のアルキレンオキシド重合体(II)であっても曇点を測定することができる。低分子量の重合体としては数平均分子量の下限値として500程度まで対応することができ、より好ましい下限値は800、さらに好ましい下限値は1000である。
【0022】
本発明の有機化合物(b)は、少量であってもアルキレンオキシド重合体(II)を水溶液から遊離させる効果が高く、電解質塩(a)と併用すると、上記の様に低分子量のアルキレンオキシド重合体(II)であっても水溶液での測定に適したより低い温度でも曇点を示すものと思われる。曇点測定用溶媒における前記有機化合物(b)の濃度が0.5質量%以上であることで、この効果が有意に発現する。
【0023】
本発明の曇点測定用溶媒における前記電解質塩(a)と有機化合物(b)の合計濃度は、上記電解質塩(a)および有機化合物(b)それぞれの好ましい範囲内で組み合わせることができるが、0.6~35質量%であることが好ましい。より好ましい下限値は1.2質量%であり、さらに好ましくは2質量%であり、特に好ましくは3質量%である。一方、より好ましい上限値は30質量%、更に好ましくは25質量%、特に好ましくはくは20質量%である。有機化合物(b)を用いずともアルキレンオキシド重合体(II)の曇点を測定することは可能であるが、本発明の有利な効果は、電解質塩(a)が主としてアルキレンオキシド重合体(II)と相互作用を示して遊離し易い状態を形成し、有機化合物(b)を併用することで、水との相互作用を加速度的に弱めることで、水との遊離を効果的に促進できるためにもたらされているのではないかと考えられる。
上記の濃度は、アルキレンオキシド重合体(II)の種類、分子量、末端構造等に応じて、適宜選択することができる。
【0024】
本発明は、前記曇点測定用溶媒(I)と前記のアルキレンオキシド重合体(II)とを含む曇点測定用組成物に関する。該組成物中のアルキレンオキシド重合体(II)の濃度は、0.3~25質量%であることが好ましい。より好ましい下限値は0.5質量%、さらに好ましくは1質量%、特に好ましくは2質量%、殊に好ましくは3質量%である。一方、より好ましい上限値は20質量%、さらに好ましくは17質量%、特に好ましくは15質量%である。この様な濃度の範囲であれば、低温で効率よく曇点を測定することができる。
【0025】
本発明の溶媒(I)、アルキレンオキシド重合体(II)の水溶液(曇点測定用組成物)は、前記のように曇点測定用溶媒(I)を調製してから、アルキレンオキシド重合体(II)を溶解させる方法が好ましいが、その方法に制限されない。本発明の目的に合致する組成物が得られれば、電解質塩(a)、有機化合物(b)、水(c)、アルキレンオキシド重合体(II)を任意の順番で接触させて調製することができる。曇点測定用溶媒(I)は、主に固体の電解質塩(a)を水に溶解してから、有機化合物(b)をも含む態様にすることが好ましい。
【0026】
上記の曇点測定用組成物を調製する際に、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記以外の成分(他成分)を併用することもできる。他成分の使用量は、溶媒(I)とアルキレンオキシド重合体(II)の合計100質量%に対して、5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。ここで、他成分とは、典型的な例としてアルキレンオキシド重合体(II)の重合過程からの試料に含まれる溶媒、触媒、開始剤などが挙げられる。
【0027】
本発明の曇点測定用溶媒を用いたアルキレンオキシド重合体(II)の曇点の測定方法は特に制限されないが、好ましくは以下の様な方法が好ましい。尚、この方法は、後述する実施例で用いた方法である。
水(c)と溶質(電解質塩(a)と有機化合物(b))とを所定の割合で混合し、曇点測定用溶媒(I)を調製する。次いで、温度センサー、撹拌装置を取り付けたガラス製容器に、この溶媒(I)とアルキレンオキシド重合体(II)とを所定の割合で装入して水溶液とする。次いで、この水溶液を加温し、液の濁りが均一になったところで、液温を確認しながら(空気中で)徐冷する。液が濁った状態から透明に変化した時点の温度を曇点とする。
【0028】
本発明の曇点測定用溶媒及び曇点測定用組成物を用いることによって、アルキレンオキシド重合体(II)の分子量ごとに異なる曇点データを得ることができる。この曇点データの利用方法の一つとして、分子量未知のアルキレンオキシド重合体(II)の曇点を分子量既知のアルキレンオキシド重合体を含む曇点測定用組成物の曇点、特に複数の曇点と比較することで、分子量未知の該重合体の分子量に関する情報を得ることができる。その一つの例として、所定分子量以上であるかどうかを確認するため、一つの分子量既知の重合体の曇点と比較する方法が挙げられる。また分子量既知のアルキレンオキシド重合体(II)を含む曇点測定用組成物の曇点と比較して、分子量未知のアルキレンオキシド重合体(II)の分子量情報をより詳細に得るためには、予め分子量既知のアルキレンオキシド重合体(II)を用いた検量線を作成することが好ましい。当該検量線は、上記の曇点測定法を用いて、分子量の異なる2種以上のアルキレンオキシド重合体(II)の曇点をそれぞれ測定し、曇点と、分子量とを縦軸、横軸に設定して、それらの関係をプロットしたグラフとし、近似線を設けることで得られる。縦軸、横軸をどちらの項目に設定するかは任意である。近似線はより多くのプロット点を通過するように最適化された近似曲線であり、市販の表計算ソフト(例えばマイクロソフト社の商品名「Excel」)の機能として標準搭載される近似曲線のうち最適な曲線を選択して使用することができる。
【0029】
使用する分子量の異なる重合体は2種以上であれば検量線を得ることはできる。例えば、アルキレンオキシド重合体(II)の重合過程における分子量をモニタリングするために、この検量線を用いて分子量情報の取得が可能である。そこで、目的のアルキレンオキシド重合体(II)の目標分子量が含まれるような範囲で検量線作成用の重合体の分子量を選択することが好ましいが、勿論、目的の効果が得られる範囲内であれば、目標分子量が検量線作成用の重合体の分子量範囲から外れていても、検量線を外挿することで分子量を推定することができる。また、その種類が多い方が正確度の高い検量線を作成できる。検量線の作成に用いる重合体の種類の好ましい下限値は3種であり、より好ましくは4種であり、さらに好ましくは5種である。一方で、余りに種類を増やし過ぎると、工数に比して正確度の向上は少なくなる場合がある。測定する分子量の範囲設定にもよるが、検量線作成に用いる重合体の種類の好ましい上限は、15種類、より好ましくは10種類である。勿論、各重合体の分子量は、適切な差を有するものであることが好ましいことは言うまでもないであろう。
【0030】
特に、分子量3000未満のアルキレンオキシド重合体(II)の製造を目的としている場合、検量線作成用の重合体の少なくとも1種は数平均分子量が3000未満のアルキレンオキシド重合体(II)であることが肝要である。検量線作成用の重合体の全てに数平均分子量が3000未満のアルキレンオキシド重合体を使用することがより好ましい。
また、分子量3000以上のアルキレンオキシド重合体の製造を目的としている場合は、さらに高分子量の検量線作成用重合体、目的の分子量近くの重合体を用いて、検量線を作成すればよい。
検量線作成用重合体の分子量の下限値は特に制限は無いが、好ましくは500、より好ましくは800である。
【0031】
この際、狙い目とする分子量の領域に応じて、各成分の濃度は適宜選択することができるが、前記の分子量の異なる重合体は濃度など、分子量以外の測定条件を同一にしておく必要が有る。勿論、分子量を決定するための試料の曇点測定についても同様の条件で実施する必要がある。
【0032】
検量線作成用の分子量の異なる重合体は、予め公知の分子量測定方法、例えばGPC法や水酸基価(官能基数が既知の重合体に適用可能)等で数平均分子量が特定された重合体を用いる。このような重合体は、独自に重合したものであっても、市販品であってもよい。検量線作成用の重合体は、試料となる重合対象の重合体と同一の組成であることが好ましいが、共重合体を製造する場合、厳密な意味で同じ組成とすることは困難な場合がある。よってホモ重合体の検量線用サンプルを用いて得た検量線で、測定する重合体の分子量に関する「所謂換算情報を得る方法」を採用することも勿論可能である(GPC法で、ポリスチレン換算値として各種重合体の分子量を規定する方法と同様の考え方である。)。
【0033】
検量線を作成した後、後述するアルキレンオキシド重合体の製造工程での曇点測定は以下の様に行われる。
上記製造工程の途中、反応装置から抜き出すなどの作業により得られた重合体試料を用い、検量線測定時と同様の条件で曇点を測定する。その曇点に対応する分子量の情報を検量線から読み取り、分子量として記録する。
これにより、重合工程途中の分子量の情報をレスポンス良く取得することができる。勿論、より確度の高い情報を得るため、その後に、同試料の分子量をGPC等で測定してもよい。
【0034】
前記の通り、本発明においてはアルキレンオキシド重合体(II)の分子量が低い程、曇点が高い傾向がある様であり、末端封止型のアルキレンオキシド重合体での傾向(分子量が高い程曇点が高い)とは異なる。この理由は定かではないが、例えば電解質塩の存在によりアルキレンオキシド(II)が疑似架橋したような状態になり易く、高分子量体の様な挙動を示す可能性が考えられる。
本発明者の検討により、本発明に係るアルキレンオキシド重合体(II)は、前記の電解質(a)と有機化合物(b)とを併用した水溶液において、曇点と分子量とがある程度のリニアな関係を示すことを見出し、これが分子量測定用の検量線と出来ることを見出している。上記の様な従来と異なる曇点と分子量との関係を示しつつも、曇点と分子量との間にある程度のリニアな関係を持つ得る事までは、従来の知見からは一義的に導くのは困難ではないかと本発明者らは考えている。その観点では今回見出した曇点と分子量との関係は予想外と言うことも出来る。
【0035】
(アルキレンオキシド重合体)
本発明の曇点測定用溶媒を用いて曇点測定が可能なアルキレンオキシド重合体としては、特に制限はないが、実施例に示すエチレンオキシド重合体(ポリエチレングリコール)の他、炭素数3以上のアルキレンオキシドの単独重合体や、エチレンオキシドと炭素数3以上のアルキレンオキシドの1種以上との共重合体、炭素数3以上のアルキレンオキシドの2種以上の共重合体、さらには、これらのアルキレンオキシドとともにラクトン等の環状エステルを併用して重合した共重合体などが挙げられる。なかでも、エチレンオキシド重合体、エチレンオキシドと炭素数3以上のアルキレンオキシドの1種以上との共重合体が好ましい。
本発明の曇点測定用組成物に使用されるアルキレンオキシド重合体(II)は、その全ての末端を100モル%として、70モル%以上がOH基である。好ましくは、80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。また、本発明に用いられるアルキレンオキシド重合体(II)の分子量は、曇点の測定が可能な限りにおいては特に制限は無いが、好ましい下限値は500であり、より好ましくは800である。一方、好ましい上限値は10万、より好ましくは5万、さらに好ましくは1万である。また、前記の通り、本発明に用いられるアルキレンオキシド重合体(II)の分子量は、3000未満であっても構わない。本発明に用いられるアルキレンオキシド重合体(II)の水酸基価は、繰り返し構造単位や末端の構造によって好ましい範囲が異なる場合があるが、例えば直鎖型で水酸基が1分子当たり2個のポリエーテルジオール(全重合体末端の100%がOH基の態様に該当)の場合、その水酸基価の好ましい範囲は、5以上、250以下である。より好ましい下限値は10であり、さらに好ましくは15であり、特に好ましくは20である。一方、そのより好ましい上限値は、200であり、さらに好ましくは170であり、特に好ましくは150である。水酸基価はJISK1557の「プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール試験方法-第1部:水酸基価の求め方」のA法又はB法に準拠して測定することができる。水酸基価の単位は(mgKOH/g)である。
アルキレンオキシド重合体の製造方法(重合方法)は特に限定されず、従来公知の方法を何れも使用することができる。通常は、特許文献1~6に示すように触媒や開始剤を用いて反応を開始する。なかでも、水酸化ナトリウム等の塩基を触媒に、エチレングリコール等のアルコールを開始剤として、アルキレンオキシドを開始剤に開環付加重合する方法が、比較的低分子量のアルキレンオキシド重合体を得るために好ましく使用できる。
【実施例
【0036】
(曇点の測定)
1.使用した材料
・数平均分子量が特定された下記8種のポリエチレングリコール(重合体末端の100モル%がOH基)
分子量:562、587、692、795、889、1004、1372,1496、
・純水
・市販の試薬:硫酸ナトリウム、炭酸カリウム、1-プロパノールを用い、下記濃度の水溶液を準備する。
炭酸カリウム :12.4wt%水溶液
硫酸ナトリウム:12wt%水溶液
1-プロパノール:2wt%水溶液、5wt%水溶液
【0037】
2.曇点測定方法
下記表1~表4の条件に従い、以下のような操作を行った。
外径約30mm、長さ約125~150mmの試験管に、特定濃度の各種水溶液と、上記ポリエチレングリコール(PEG)と、純水とを、所定のポリマー濃度となる重量比で装入する。
前記試験管に、かき混ぜ装置と温度センサーとを付して密閉し、撹拌しながら濁りが一定になるまでオイルバスで昇温させる。(内温は原則100℃以下)
その後、オイルバスから取り出し、撹拌しながら、徐冷(空冷)し、透明になった温度を記録する。(1回の操作はおよそ15~20分で完了する。)
上記の操作を3回行い、その平均値を曇点とする。
【0038】
参考例1(炭酸カリウム水溶液使用)
表1の条件で曇点を測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
参考例2(硫酸ナトリウム水溶液使用)
表2の条件で曇点を測定した。
【0041】
【表2】
【0042】
実施例1(炭酸カリウム/1-プロパノール水溶液使用)
表3の条件で曇点を測定した。なお、1-プロパノールのHSP値は24.6((J/cm0.5)である。
その結果を横軸:曇点、縦軸:分子量のグラフを作成し、図1とした。図1には、1-プロパノールを添加していない参考例1の結果(0%)も併せて示す。
【0043】
【表3】
【0044】
実施例2(硫酸ナトリウム/1-プロパノール水溶液使用)
表4の条件で曇点を測定した。
その結果を横軸:曇点、縦軸:分子量のグラフを作成し、図2とした。図2には、1-プロパノールを添加していない参考例2の結果(0%)も併せて示す。
【0045】
【表4】
【0046】
上記実施例1及び2の結果から、HPSが20~35((J/cm0.5)の範囲である有機化合物に該当する1-プロパノールを含む水溶液を用いると、曇点が1-プロパノールを添加していない参考例に比して全体的に低くなることが分かる。室温雰囲気下で曇点を測定する方法においては、室温に近づく程、測定時の温度低下速度が低下する傾向があるので、測定はし易いと考えることができる。
この為、特定の有機化合物を含む本発明の曇点測定用溶媒は、より低分子量の重合体の分子量情報を得るのに好ましい溶媒であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る曇点測定用溶媒は、アルキレンオキシド重合体の分子量の簡易な測定手段としてのアルキレンオキシド重合体を含む組成物を調製することができる。
本発明に係る曇点測定用溶媒を用いれば、特に低分子量のアルキレンオキシド重合体の製造における分子量を簡単且つ相対的に短時間で測定することができ、特に重合初期における重合条件(重合時間等)を決定することができる。
図1
図2