(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】作業工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20240119BHJP
B24B 23/04 20060101ALI20240119BHJP
B24B 45/00 20060101ALI20240119BHJP
B25F 3/00 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
B25F5/00 Z
B24B23/04
B24B45/00 Z
B25F3/00 Z
(21)【出願番号】P 2019236373
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 陽之介
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-158879(JP,A)
【文献】特開2013-086213(JP,A)
【文献】特開2017-039178(JP,A)
【文献】特開2006-255866(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259348(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B24B 23/04
B24B 45/00
B25F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端工具を駆動して被加工材に対して加工作業を行う作業工具であって、
ハウジングと、
前記作業工具の上下方向を規定する駆動軸周りに回転可能
、且つ、前記上下方向に移動不能に前記ハウジングに支持され、前記先端工具
が押し付けられる工具装着部を下端部に有するスピンドルと、
前記スピンドルと同軸状に前記上下方向に延在するシャフト部と、前記工具装着部の下側で前記シャフト部に結合されたクランプ部とを有し、前記スピンドルに対して前記上下方向に移動可能に配置されたクランプシャフトと、
前記クランプ部が前記先端工具を前記工具装着部に押し付けて前記工具装着部と共に前記先端工具をクランプするために、前記クランプシャフトを
前記スピンドルに対して上方に付勢するように構成された
クランプバネと、
前記クランプバネの上側に、前記スピンドルに対して前記上下方向に移動可能に配置された
バネ受け部であって、
前記クランプバネの付勢力に抗して下方に移動することで、前記クランプシャフトに対する前記
クランプバネの
上方への付勢力を解除
し、所定の係止位置において、前記付勢力を解除した状態で前記スピンドルに対して係止
するように構成された
バネ受け部と、
前記スピンドルに対して前記上下方向に移動可能に配置され、且つ、
使用者が前記クランプ部または前記先端工具を上方へ押圧するのに応じて上方に移動し、前記
バネ受け部の前記スピンドルに対する係止を解除
し、前記クランプシャフトに対する前記クランプバネの前記付勢力を復帰させるように構成された作動部材とを備え
、
前記シャフト部は、筒状部材であって、
前記作動部材の少なくとも一部は、前記シャフト部内に配置されていることを特徴とする作業工具。
【請求項2】
請求項
1に記載の作業工具であって、
前記クランプ部は、前記シャフト部から取り外し可能に構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項3】
請求項
2に記載の作業工具であって、
前記クランプ部は、前記シャフト部から取り外し不能に前記シャフト部に係合するロック位置と、前記シャフト部から取り外し可能なアンロック位置との間で、前記シャフト部に対して前記駆動軸周りに回転可能に構成された回転部を含むことを特徴とする作業工具。
【請求項4】
請求項
3に記載の作業工具であって、
前記回転部は、前記クランプシャフトの前記上下方向の移動に連動して、前記シャフト部に対して回転するように構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1つに記載の作業工具であって、
前記作動部材は、前記クランプシャフトに対して前記上下方向に移動可能であって、
前記使用者が前記クランプ部または前記先端工具
を上方
へ押圧
するのに応じて、前記クランプシャフトに対して上方に所定位置まで移動し、更に、前記クランプシャフトと一体的に前記所定位置から上方へ移動し、前記クランプシャフトを介して前記スピンドルに対する前記
バネ受け部の係止を解除するように構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1つに記載の作業工具であって、
使用者による外部操作が可能に構成された操作部材を更に備え、
前記バネ受け部は、前記操作部材に対する所定の解除操作に連動して下方へ移動するように構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項7】
請求項
6に記載の作業工具であって、
前記操作部材は、第1カムおよび第2カムを有
し、
前記操作部材は、前記使用者による
前記解除操作に応じて、前記第1カムが前記
バネ受け部を前記係止位置に移動させた後、前記第2カムが前記クランプシャフトおよび前記作動部材を下方へ移動させるように構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項8】
請求項7に記載の作業工具であって、
前記作動部材は、前記クランプシャフトに対して前記上下方向に移動可能に構成されており、
前記第2カムは、更に、前記クランプシャフトおよび前記作動部材が所定位置に到達した後、前記クランプシャフトに対して前記作動部材を下方へ移動させるように構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項9】
請求項1~7の何れか1つに記載の作業工具であって、
前記作動部材は、前記クランプシャフトに対して前記上下方向に移動可能に構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1つに記載の作業工具であって、
前記
クランプバネの前記付勢力を増大させ、前記クランプシャフトに伝達するように構成された伝達機構を更に備えたことを特徴とする作業工具。
【請求項11】
請求項10に記載の作業工具であって、
前記伝達機構は、トグルジョイント式の伝達機構であることを特徴とする作業工具。
【請求項12】
請求項10または11に記載の作業工具であって、
使用者による外部操作が可能に構成された操作部材を更に備え、
前記操作部材は、前記使用者による所定の解除操作に応じて、前記
バネ受け部を移動させるように構成されており、
解除時の前記操作部材からの力が前記
バネ受け部を介して前記
クランプバネに直接的に作用するように構成されていることを特徴とする作業工具。
【請求項13】
請求項1~12の何れか1つに記載の作業工具であって、
前記バネ受け部が所定の係止位置に配置されている場合、前記バネ受け部と前記スピンドルとに係合する係合部材を更に備え、
前記バネ受け部は、前記係合部材を介して前記スピンドルに係止されるように構成されていることを特徴とする作業工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端工具を駆動して被加工材に対して加工作業を行う作業工具に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの出力をスピンドルに伝達し、スピンドルの下端に固定された先端工具を駆動することで、被加工材に加工作業を行う作業工具が知られている。このような作業工具には、スパナ等の補助工具を使用する必要なく、先端工具をスピンドルに固定することが可能なものがある。例えば、特許文献1に開示されている振動工具は、スピンドルに挿入されたクランプシャフトを、先端工具を保持する保持位置でロック可能なロック機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された振動工具では、先端工具のロックおよびロックの解除の何れの場合にも、ハンドルの回動操作が必要である。よって、この振動工具には、更なる操作の容易化の余地がある。
【0005】
本発明は、先端工具を駆動する作業工具における操作の容易化に資する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、先端工具を駆動して被加工材に対して加工作業を行う作業工具が提供される。この振動工具は、ハウジングと、スピンドルと、クランプシャフトと、付勢部材と、解除部材と、作動部材とを備える。
【0007】
スピンドルは、駆動軸周りに回転可能にハウジングに支持されている。駆動軸は、作業工具の上下方向を規定する。また、スピンドルは、先端工具を着脱可能な工具装着部を下端部に有する。クランプシャフトは、シャフト部と、クランプ部とを有し、スピンドルに対して上下方向に移動可能に配置されている。シャフト部は、スピンドルと同軸状に上下方向に延在する。クランプ部は、工具装着部の下側でシャフト部に結合されている。付勢部材は、クランプシャフトを上方に付勢するように構成されている。解除部材は、スピンドルに対して上下方向に移動可能に配置されている。解除部材は、クランプシャフトに対する付勢部材の付勢力を解除するように構成されている。また、解除部材は、所定の係止位置において、付勢力を解除した状態でスピンドルに対して係止可能に構成されている。作動部材は、スピンドルに対して上下方向に移動可能に配置されている。また、作動部材は、クランプ部または先端工具による上方への押圧に応じて上方に移動し、解除部材のスピンドルに対する係止を解除するように構成されている。
【0008】
本態様の振動工具は、工具装着部と、上方に付勢されたクランプ部とによって、先端工具をクランプする方式の振動工具である。この振動工具では、作動部材によって、スピンドルに対する解除部材の係止が解除されると、解除部材による付勢力の解除が無効化されることになる。つまり、クランプシャフトに対する付勢部材の付勢力が復帰する。よって、使用者は、クランプ部または先端工具で作動部材を上方へ押圧するだけで(つまり、ワンタッチ操作で)、工具装着部とクランプ部とに先端工具をクランプさせることができる。また、本態様の振動工具では、解除部材の係止の解除には、クランプシャフトとは別個の作動部材に対する押圧が必要となる。言い換えると、作動部材が、クランプ部または先端工具による上方への押圧を検知した場合に限り、クランプシャフトに対する付勢部材の付勢力を復帰させることができる。よって、クランプシャフトに対する押圧で係止が解除される場合に比べ、意図しないときにクランプシャフトが押圧され、クランプシャフトが付勢されてしまう誤動作の可能性を低減することができる。
【0009】
なお、本態様に係る作業工具は、駆動軸周りに回転可能なスピンドルに固定された先端工具を駆動する作業工具一般を指すものである。このような作業工具の例として、振動工具や、回転工具等が挙げられる。振動工具とは、所定の角度範囲内で駆動軸周りに往復回動されるスピンドルによって先端工具を揺動駆動するように構成された作業工具である。回転工具とは、駆動軸周りに回転されるスピンドルによって先端工具を回転駆動するように構成された作業工具(例えば、グラインダ、サンダ、ポリッシャ)である。
【0010】
本発明の一態様において、シャフト部は、筒状部材であってもよい。作動部材の少なくとも一部は、シャフト部内に配置されていてもよい。本態様によれば、クランプシャフトおよび作動部材を、径方向において比較的小さなスペースに効率的に配置することができる。
【0011】
本発明の一態様において、クランプ部は、シャフト部から取り外し可能に構成されていてもよい。本態様によれば、クランプ部をシャフト部から取り外して先端工具を交換することができるため、従来の作業工具のように、クランプシャフト全体をスピンドルから引き抜く必要がない。よって、スピンドルの内部から、作業工具の本体内部に異物が進入するのを防止することができる。
【0012】
本発明の一態様において、クランプ部は、ロック位置とアンロック位置との間で、シャフト部に対して駆動軸周りに回転可能に構成された回転部を含んでもよい。ロック位置は、回転部がシャフト部から取り外し不能にシャフト部に係合する位置である。アンロック位置は、回転部がシャフト部から取り外し可能な位置である。本態様によれば、シャフト部とクランプ部との結合に、径方向に移動する部材を利用する場合に比べ、径方向の必要スペースを最小限とすることができる。
【0013】
本発明の一態様において、回転部は、クランプシャフトの上下方向の移動に連動して、シャフト部に対して回転するように構成されていてもよい。本態様によれば、クランプ部による先端工具のクランプおよびその解除と、クランプ部のロック位置とアンロック位置との切替を、効率的に連動させることができる。
【0014】
本発明の一態様において、作動部材は、クランプシャフトに対して上下方向に移動可能に構成されていてもよい。また、作動部材は、クランプ部または先端工具による上方への押圧に応じて、クランプシャフトに対して上方に所定位置まで移動し、更に、クランプシャフトと一体的に所定位置から上方へ移動し、クランプシャフトを介してスピンドルに対する解除部材の係止を解除するように構成されていてもよい。本態様によれば、使用者が、クランプ部または先端工具によって作動部材を所定位置まで上方へ押圧すると、クランプシャフトも上方へ移動する。よって、使用者は、クランプ部または先端工具の上方への押圧を継続するだけで、先端工具をクランプする方向へクランプシャフトを移動させ、付勢部材によって付勢される状態へ効率的に移行させることができる。また、作動部材が所定位置へ移動するまでクランプシャフトは移動しないため、より確実に誤動作の可能性を低減することができる。
【0015】
本発明の一態様において、作業工具は、使用者による外部操作が可能に構成され、第1カムおよび第2カムを有する操作部材を更に備えてもよい。操作部材は、使用者による所定の解除操作に応じて、第1カムが解除部材を係止位置に移動させた後、第2カムがクランプシャフトおよび作動部材を下方へ移動させるように構成されていてもよい。本態様によれば、単一の操作部材により、クランプシャフトに対する付勢力を解除した後、クランプシャフトおよび作動部材を効率的に移動させることができる。
【0016】
本発明の一態様において、作動部材は、クランプシャフトに対して上下方向に移動可能に構成されていてもよい。第2カムは、更に、クランプシャフトおよび作動部材が所定位置に到達した後、クランプシャフトに対して作動部材を下方へ移動させるように構成されていてもよい。本態様によれば、作動部材のみをクランプシャフトから独立して下方へ移動させ、クランプ部または先端工具による作動部材の上方への押圧を容易とすることができる。
【0017】
本発明の一態様において、作動部材は、クランプシャフトに対して上下方向に移動可能に構成されていてもよい。本態様によれば、クランプシャフトと作動部材とを、異なるタイミングでスピンドルに対して移動させ、適切な動作を行わせることができる。
【0018】
本発明の一態様において、作業工具は、付勢部材の付勢力を増大させ、クランプシャフトに伝達するように構成された伝達機構を更に備えてもよい。本態様によれば、比較的小型な付勢部材を採用しても、クランプシャフトに対し、十分なクランプ力を付与することが可能となる。
【0019】
本発明の一態様において、伝達機構は、トグルジョイント式の伝達機構であってもよい。本態様によれば、クランプシャフトに伝達する付勢力を効果的に増大させることができる。
【0020】
本発明の一態様において、作業工具は、使用者による外部操作が可能に構成された操作部材を更に備えてもよい。操作部材は、使用者による所定の解除操作に応じて、解除部材を移動させるように構成されていてもよい。そして、作業工具は、解除時の操作部材からの力が解除部材を介して付勢部材に直接的に作用するように構成されていてもよい。本態様によれば、操作部材が解除部材を介して直接的に付勢部材の付勢力を受けることで、伝達機構への付勢力を解除するため、クランプシャフトに対する付勢力の解除が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】レバーが初期位置に配置された状態の振動工具の斜視図である。
【
図7】ハウジングを除いた状態の
図4の部分拡大図である。
【
図8】ハウジングを除いた状態の
図3の部分拡大図である。
【
図9】ロックリングがアンロック位置に配置されているときの
図7のIX-IX線における断面図である。
【
図10】ロックリングがロック位置に配置されているときの
図7のX-X線における断面図である。
【
図11】解除レバーが初期位置に配置されているときの、解除レバー、スピンドルおよびクランプ機構を示す斜視図である。
【
図12】解除レバーが初期位置に配置されているときの倍力機構の側面図である。
【
図13】回動スリーブがオフセット位置に配置されたときの、シャフト部と回動スリーブを示す斜視図である。
【
図14】回動スリーブが整合位置に配置されたときの、シャフト部と回動スリーブを示す斜視図である。
【
図15】
図7に対応する断面図であって、クランプシャフトに対する付勢力が解除された状態の説明図である。
【
図16】
図8に対応する断面図であって、クランプシャフトに対する付勢力が解除された状態の説明図である。
【
図17】
図11に対応する斜視図であって、倍力機構に対する付勢力が解除された状態の説明図である。
【
図18】
図12に対応する側面図であって、倍力機構に対する付勢力が解除された状態の説明図である。
【
図19】
図7に対応する断面図であって、先端工具の押下げ状態の説明図である。
【
図20】
図8に対応する断面図であって、先端工具の押下げ状態の説明図である。
【
図21】
図11に対応する斜視図であって、先端工具の押下げ状態の説明図である。
【
図22】
図12に対応する側面図であって、先端工具の押下げ状態の説明図である。
【
図23】
図7に対応する断面図であって、クランプヘッドの押下げ状態の説明図である。
【
図24】
図8に対応する断面図であって、クランプヘッドの押下げ状態の説明図である。
【
図25】
図7に対応する断面図であって、クランプヘッドの取付け前の状態の説明図である。
【
図26】
図8に対応する断面図であって、クランプヘッドの取付け前の状態の説明図である。
【
図27】
図7に対応する断面図であって、クランプシャフトが移動可能となった状態の説明図である。
【
図28】
図8に対応する断面図であって、クランプシャフトが移動可能となった状態の説明図である。
【
図29】
図11に対応する斜視図であって、作動直前の倍力機構の状態の説明図である。
【
図30】
図12に対応する側面図であって、作動直前の倍力機構の状態の説明図である。
【
図31】
図7に対応する断面図であって、倍力機構の作動直前のクランプ機構の説明図である。
【
図32】
図8に対応する断面図であって、倍力機構の作動直前のクランプ機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、実施形態に係る振動工具1について説明する。なお、振動工具1は、先端工具91を揺動駆動して、被加工材(図示せず)に対して加工作業を行う電動式の作業工具の一例である。
【0023】
まず、振動工具1の概略構成について説明する。
図1および
図2に示すように、振動工具1は、長尺状のハウジング(工具本体ともいう)10を備えている。ハウジング10の長軸方向における一端部には、スピンドル4と、駆動源としてのモータ31とが収容されている。スピンドル4は、その長軸(駆動軸A1)がハウジング10の長軸に交差するように(詳細には、概ね直交するように)配置されている。スピンドル4の軸方向における一端部は、ハウジング10から突出し、外部へ露出している。この一端部は、先端工具91を着脱可能な工具装着部41を構成する。また、ハウジング10の長軸方向における他端部には、モータ31への給電用のバッテリ93を着脱可能である。ハウジング10の長軸方向における中央部は、両端部に比べて小径の筒状に形成されており、使用者によって把持される把持部15を構成する。振動工具1は、モータ31の動力によってスピンドル4を駆動軸A1周りに所定の角度範囲内で往復回動することで、先端工具91を揺動させるように構成されている。
【0024】
なお、以下の説明では、便宜上、振動工具1の方向に関し、駆動軸A1の延在方向を上下方向と定義する。上下方向において、スピンドル4の工具装着部41側を下側、反対側を上側と定義する。また、駆動軸A1に直交し、且つ、ハウジング10の長軸方向に対応する方向を前後方向と定義する。前後方向において、スピンドル4が収容されているハウジング10の一端部側を前側、バッテリ93が装着される他端部側を後側と定義する。また、上下方向および前後方向に直交する方向を、左右方向と定義する。
【0025】
以下、振動工具1の詳細構成について説明する。
【0026】
まず、ハウジング10について説明する。
図2に示すように、本実施形態のハウジング10は、いわゆる防振ハウジングとして構成されており、アウタハウジング101と、アウタハウジング101に弾性的に連結されたインナハウジング103とを含む。アウタハウジング101は、前後方向に延在する長尺状の中空体であって、振動工具1の外郭を形成する。インナハウジング103は、前後方向に延在する長尺状の中空体であって、アウタハウジング101内に収容されている。インナハウジング103は、モータ31、スピンドル4等を収容する。詳細は図示しないが、アウタハウジング101は、複数の弾性部材を介してインナハウジング103に連結されており、インナハウジング103に対して前後、左右、上下方向を含む全方向に相対移動可能である。これにより、インナハウジング103からアウタハウジング101への振動伝達が抑制される。
【0027】
図1および
図2に示すように、ハウジング10(アウタハウジング101)の前端部11の上部には、解除レバー2が支持されている。解除レバー2は、使用者の外部操作が可能に構成され、左右方向に延在する軸周りに回動可能である。本実施形態では、解除レバー2は、ハウジング10の外部に配置され、使用者によって操作される略U字状の操作部21を含む。解除レバー2は、操作部21が前端部11の前面に当接する位置(
図1および
図2の位置)を初期位置として、左からみて時計回り方向(つまり、上方に)に回動可能とされている。なお、初期位置から上方への操作部21の回動に伴って、先端工具91のクランプが解除される。よって、以下では、操作部21を初期位置から上方へ回動させるときの方向を解除方向、使用者によるこの方向の回動操作を、解除操作という。解除レバー2の解除操作に伴うクランプの解除に関しては、後で詳述する。
【0028】
ハウジング10の前端部11の上壁部には、操作部39が設けられている。操作部39は、使用者による前後方向のスライド操作が可能に配置されている。操作部39は、移動に伴って、ハウジング10内に収容されたスイッチ37(
図2参照)のオン、オフを切り替えるように構成されている。
【0029】
以下、ハウジング10の内部構造について説明する。
【0030】
図2に示すように、ハウジング10の後端部13には、バッテリ93を着脱可能に構成されたバッテリ装着部131が設けられている。バッテリ装着部131は、充電式のバッテリ93をスライド係合可能な係合構造と、バッテリ93の係合に伴って、バッテリ93の端子に接続可能な端子とを有する。なお、バッテリ装着部131およびバッテリ93の構成自体は周知であるため、ここでの説明は省略する。また、ハウジング10の後端部13内には、操作部39に接続されたスイッチ37と、モータ31の駆動を制御するコントローラ30とが収容されている。なお、本実施形態では、コントローラ30は、スイッチ37がオンに切り替えられるのに応じて、モータ31を駆動するように構成されている。
【0031】
また、
図3に示すように、ハウジング10の前端部11には、スピンドル4と、モータ31と、伝達機構35と、クランプ機構6とが収容されている。以下、これらの構成について順に説明する。
【0032】
まず、スピンドル4について説明する。
図3~
図5に示すように、スピンドル4は、段付きの円筒状部材として形成されている。本実施形態では、スピンドル4は、上側から順に、小径部45と、小径部45よりも大きな外径を有する大径部43と、最大の外径を有する工具装着部41とを含む。
【0033】
小径部45および大径部43の上側部分は、後述するクランプシャフト60のシャフト部61の外径と概ね等しい内径を有し、シャフト部61の摺動を案内し、且つ、シャフト部61をスピンドル4と同軸状に保持するように構成されている。一方、大径部43の下側部分は、より大きな内径を有する。大径部43の下側部分の内部空間には、後述する運動変換機構80が配置されている。
【0034】
小径部45の上端部には、駆動軸A1を挟んで前後に対向する位置に、小径部45の壁を径方向に貫通する2つのボール保持孔451が形成されている。ボール保持孔451は、ボール47を転動可能に保持するように構成されている。ボール保持孔451の径は、ボール47の径と概ね等しい。一方、小径部45の壁の厚みは、ボール47の径よりも小さい。よって、ボール保持孔451に保持されたボール47の一部は、小径部45の内周側または外周側に突出する。詳細は後述するが、スピンドル4は、ボール47を介して、クランプシャフト60またはバネ受け部71に係合する。
【0035】
大径部43の上端部の内周部には、環状の係合溝431が形成されている。係合溝431は、後述するクランプシャフト60のボール保持孔614に保持されたボール62に係合可能に構成されている。なお、係合溝431の深さは、係合溝431に係合したボール62が、クランプシャフト60の内周面から径方向内側には突出しない程度に設定されている。詳細は後述するが、スピンドル4は、ボール62を介してクランプシャフト60に係合可能である。
【0036】
大径部43の下端部(工具装着部41の上側の部分)には、駆動軸A1を挟んで前後に対向する位置に、2つのピン保持孔433が形成されている。ピン保持孔433は、大径部43の壁を径方向に貫通する。ピン保持孔433には、ピン81が挿通され、スピンドル4に固定状に支持されている。なお、本実施形態では、ピン81は、互いに連結された複数の部材で形成されているが、1つの円柱状部材として構成されてもよい。ピン81は、運動変換機構80の一部であって、回動スリーブ83を回動させるための部材である。
【0037】
工具装着部41は、上述のように、先端工具91が装着される部分である。
図4に示すように、本実施形態では、工具装着部41は、大径部43から駆動軸A1に対して径方向外側に突出するフランジ状に構成されている。また、工具装着部41は、駆動軸A1に交差する方向に傾斜した傾斜面413を有する。より詳細には、工具装着部41の下端部には、上方に凹む凹部411が形成されている。傾斜面413は、凹部411を規定する面の一部であって、下方に向かうにつれて駆動軸A1から離れる方向(径方向外側)に傾斜する傾斜面として構成されている。
【0038】
一方、本実施形態の振動工具1に装着可能な先端工具91(ブレード、スクレーパ、研削パッド、研磨パッド等)は何れも、凹部411に嵌合可能な凸部911を有する。凸部911の中央部には、シャフト部61を挿通可能な貫通孔が形成されている。そして、凸部911を規定する上面の一部は、傾斜面413に整合する傾斜面913として構成されている。本実施形態では、先端工具91は、傾斜面913が傾斜面413に当接した状態で、クランプヘッド64と工具装着部41とによってクランプされ、スピンドル4に対して固定される。なお、スピンドル4に対する先端工具91の固定については後で詳述する。
【0039】
以上のように構成されたスピンドル4は、ハウジング10(詳細には、インナハウジング103)に保持された2つの軸受401および402によって、駆動軸A1周りに回転可能に支持されている。なお、軸受401および402は、夫々、大径部43の上端部と下端部を支持している。
【0040】
モータ31について説明する。
図3に示すように、本実施形態では、モータ31として、ブラシレス直流モータが採用されている。モータ31は、ステータと、ステータ内に配置されたロータと、ロータと一体的に回転する出力シャフト315とを備える。モータ31は、出力シャフト315の回転軸A2が駆動軸A1と平行に(つまり上下方向に)延在するように配置されている。出力シャフト315は、ロータから下方に突出している。
【0041】
伝達機構35について説明する。伝達機構35は、出力シャフト315の回転運動をスピンドル4に伝達し、スピンドル4を駆動軸A1周りの所定の角度範囲内で往復回動させるように構成されている。
図3に示すように、伝達機構35は、偏心シャフト351と、駆動軸受356と、揺動アーム358とを備える。
【0042】
偏心シャフト351は、モータ31の出力シャフト315に同軸状に連結されたシャフトである。偏心シャフト351は、出力シャフト315の外周に固定されており、下方に延在している。偏心シャフト351は、ハウジング10に保持された2つの軸受によって、回転可能に支持されている。偏心シャフト351は、回転軸A2に対して偏心した偏心部354を有する。偏心部354には、駆動軸受356の内輪が取り付けられている。揺動アーム358は、駆動軸受356とスピンドル4とを接続する部材である。周知の構成であるため、詳細な図示は省略するが、揺動アーム358の一端部は、環状に形成されており、軸受401、402の間でスピンドル4の外周に固定されている。揺動アーム358の他端部は、二股状に形成されており、左右から駆動軸受356の外輪の外周面に当接するように配置されている。
【0043】
モータ31が駆動されると、出力シャフト315と一体的に偏心シャフト351が回転する。偏心シャフト351の回転に伴い、偏心部354の中心が回転軸A2周りを移動するため、駆動軸受356も回転軸A2周りを移動する。これにより、揺動アーム358は、スピンドル4の駆動軸A1を中心として所定の角度範囲内で揺動される。スピンドル4は、揺動アーム358の揺動運動に伴って、駆動軸A1周りに所定の角度範囲内で往復回動する。その結果、スピンドル4(詳細には、工具装着部41)に固定された先端工具91が駆動軸A1周りに揺動駆動され、加工作業が遂行可能となる。
【0044】
以下、クランプ機構6について説明する。クランプ機構6は、先端工具91を、スピンドル4と一体的に回転可能に工具装着部41に固定するように構成された機構である。本実施形態では、クランプ機構6は、クランプシャフト60と、付勢機構7とを備えている。
【0045】
まず、クランプシャフト60について説明する。クランプシャフト60は、工具装着部41に対して先端工具91を押し付けて固定状に保持するように構成され、スピンドル4に対して上下方向に移動可能に配置されている。
図6~
図8に示すように、本実施形態では、クランプシャフト60は、シャフト部61と、クランプヘッド64とを含む。
【0046】
シャフト部61は、全体としては長尺の円筒状部材であって、スピンドル4と同軸状に配置されている。より詳細には、シャフト部61は、スピンドル4に挿通されており、シャフト部61の上端部および下端部は、夫々、スピンドル4の上端および下端から、上方および下方に突出している。シャフト部61は、概ね均一の外径および内径を有し、スピンドル4の小径部45および大径部43の上側部分の内周面に沿って、上下方向に摺動可能である。シャフト部61の下端部は、クランプヘッド64が着脱されるヘッド装着部611として構成されている。ヘッド装着部611は、周方向において等間隔で配置され、径方向外側に突出する複数の突起612を有する。
【0047】
また、シャフト部61の上部(より詳細には、スピンドル4の小径部45内に配置される部分)には、環状の係合溝613が形成されている。スピンドル4のボール保持孔451に保持されたボール47は、上下方向に遊びがある状態で係合溝613に係合可能である。なお、係合溝613の深さは、係合溝613に係合したボール47が、スピンドル4の外周面から径方向外側には突出しない程度に設定されている。
【0048】
シャフト部61の上下方向における中央部には、駆動軸A1を挟んで対向する位置に、2つのボール保持孔614が形成されている。ボール保持孔614は、シャフト部61の壁を径方向に貫通する。ボール保持孔614は、ボール62を転動可能に保持するように構成されている。ボール保持孔614の径は、ボール62の径と概ね等しい。一方、シャフト部61の壁の厚みは、ボール62の径よりも小さい。よって、ボール保持孔614に保持されたボール62の一部は、シャフト部61の内周側または外周側に突出する。詳細は後述するが、クランプシャフト60は、ボール62を介して、作動シャフト50またはスピンドル4に係合する。
【0049】
更に、シャフト部61の下部(突起612の上側の部分)には、駆動軸A1を挟んで前後に対向する位置に、2つのガイド孔615が形成されている。ガイド孔615は、シャフト部61の壁を径方向に貫通し、上下方向に延在する長穴である。ガイド孔615には、スピンドル4に支持されたピン81が挿通されている。ガイド孔615の幅は、ピン81の径に概ね等しい。詳細は後述するが、クランプシャフト60は、ピン81がガイド孔615内を移動可能な範囲において、スピンドル4に対して上下方向に移動可能である。
【0050】
クランプヘッド64は、シャフト部61のヘッド装着部611に接続し、シャフト部61からフランジ状に突出している。クランプヘッド64は、工具装着部41の下側に配置され、先端工具91(詳細には、凸部911)の下面に当接して先端工具91を上方へ押圧するように構成された部分である。また、本実施形態では、クランプヘッド64は、シャフト部61とは別個に形成されており、ヘッド装着部611から取り外し可能に構成されている。クランプヘッド64は、ケース65と、押圧部66と、ロックリング67とを含む。
【0051】
ケース65は、上端が開放された短尺の有底円筒状の部材であって、円形の底壁と、底壁の外縁から上方へ突出する円筒状の周壁とを有する。ケース65は、シャフト部61のヘッド装着部611の最大径よりも大きい内径を有する。ケース65は、押圧部66およびロックリング67を収容するように構成されている。
【0052】
押圧部66は、円形のベース板661と、ベース板661の中央から突出する円柱状の突起663とを含む。ベース板661は、ケース65の内径に概ね等しい径を有する。押圧部66は、突起663が上方に突出するように、ケース65に収容されている。突起663は、ケース65の上端よりも上方に突出する。突起663は、シャフト部61の内径と概ね等しい外径を有し、シャフト部61に挿入可能である。詳細は後述するが、押圧部66は、クランプヘッド64がシャフト部61に装着されるときに、作動シャフト50を上方へ押圧する部分である。
【0053】
ロックリング67は、シャフト部61のヘッド装着部611に係合可能に構成された部分である。ロックリング67は、環状部材であって、その上端部に、周方向に等間隔で配置され、径方向内側に突出する複数の突起673を有する。隣接する突起673間に形成される空間の上面視(底面視)形状は、ヘッド装着部611の突起612の形状と整合している。以下、ロックリング67の上端部において、複数の突起673によって規定される孔を、ロック孔671という。
【0054】
ロックリング67は、ケース65内で押圧部66のベース板661の上側に配置されている。なお、ベース板661の上面と突起673の下面との間の距離は、ベース板661の上面と突起673の下面との間に突起612を配置できる程度に設定されている(
図7参照)。また、ケース65の内周およびロックリング67の外周には、夫々、環状の溝が形成されている。ロックリング67は、溝内に配置された環状の弾性部材675を介して、ケース65に対して軸周りに回転可能に保持されている。
【0055】
以上のような構成により、シャフト部61のヘッド装着部611は、
図9に示すように、周方向において、ヘッド装着部611がロック孔671に整合する位置に配置された場合にのみ、ロック孔671を上下方向に通過することが可能である。
【0056】
一方、突起612がロック孔671を通ってクランプヘッド64の内部に配置された後、ヘッド装着部611とロックリング67とが特定の角度範囲内で相対的に回動すると、
図10に示すように、上面視(底面視)において、突起612と突起673とが部分的に重なる。よって、ヘッド装着部611はロック孔671を通過不能となり、ロックリング67に係合する。具体的には、突起612は、その上面の一部がロックリング67の突起673の下面と面接触した状態で、突起673と係合する。突起612と突起673の係合によって、クランプヘッド64がシャフト部61に連結される。
【0057】
なお、以下では、シャフト部61(ヘッド装着部611)に対するロックリング67の周方向位置については、ヘッド装着部611がロック孔671を通過可能な位置(
図9に示す位置)を、アンロック位置という。一方、ヘッド装着部611がロック孔671を通過不能であって、ロックリング67に係合可能な位置(
図10に示す位置)を、ロック位置という。本実施形態では、周方向におけるシャフト部61(突起612)とロックリング67(突起673)との相対的な位置関係は、後述の解除レバー2の操作、または、シャフト部61への押圧部66の突起663の挿入に応じて変化する。この点については、後で詳述する。
【0058】
以下、付勢機構7について説明する。付勢機構7は、クランプシャフト60を上方に付勢するように構成された機構である。本実施形態では、付勢機構7は、クランプバネ70と、バネ受け部71と、倍力機構73と、これらを支持する支持部材77とを主体として構成されている。
【0059】
図5、
図7、
図8、
図11および
図12に示すように、支持部材77は、全体としては、上端が開放された有底矩形箱状の部材として構成されている。支持部材77は、円形の貫通孔を有する矩形状の底壁と、底壁の外縁から上方へ突出する周壁とを有する。周壁のうち、前壁および後壁は、側壁(左壁および右壁)よりも上方に突出している。側壁は、夫々、上端が開放された凹部を有する。支持部材77は、底壁の貫通孔にスピンドル4の小径部45が挿通された状態で、大径部43の上面に載置されている。なお、支持部材77は、駆動軸A1周りの回転が規制された状態で、カバー部材105に覆われ、ハウジング10内に配置されている(
図3、
図4参照)。
【0060】
クランプバネ70は、クランプシャフト60を上方に付勢し、先端工具91をクランプするためのクランプ力を付与するためのバネである。本実施形態では、クランプバネ70には、圧縮コイルバネが採用されている。クランプバネ70は、支持部材77に収容され、スピンドル4の小径部45の径方向外側に配置されている。
【0061】
バネ受け部71は、環状部材であって、スピンドル4に対して上下方向に移動可能に配置されている。より詳細には、バネ受け部71は、クランプバネ70の上側で、小径部45の上端部の外周に、小径部45に対して相対回転可能に嵌め込まれている。バネ受け部71の下端には、クランプバネ70の上端部が当接している。バネ受け部71は、本体711と、二対の突出片715と、一対のピン717とを含む。
【0062】
本体711は、環状に形成された部分である。本体711は、スピンドル4の小径部45と概ね等しい内径を有し、小径部45の外周面に沿って上下方向に摺動可能である。詳細は後述するが、本実施形態では、バネ受け部71は、上下方向において特定の位置で、スピンドル4に対して係止可能に構成されている。このために、本体711の内周部には、環状の係合溝712が形成されている。係合溝712は、スピンドル4のボール保持孔451に保持されたボール47が係合可能に構成されている。なお、係合溝712の深さは、係合溝712に係合したボール47が、スピンドル4の内周面から径方向内側には突出しない程度に設定されている。
【0063】
二対の突出片715のうち一対は、本体711から前方に突出し、支持部材77の前壁の左右の端に接するように配置されている。二対の突出片715のうち、もう一対は、本体711から後方に突出し、支持部材77の後壁の左右の端に接するように配置されている。これにより、バネ受け部71は、支持部材77に対する駆動軸A1周りの回転が規制された状態で、支持部材77に対して上下方向に摺動可能である。
【0064】
一対のピン717は、駆動軸A1を挟んで左右に対向する位置に配置され、夫々、本体711から左方および右方に突出している。なお、一対のピン717は、支持部材77の側壁よりも上側に配置されている。詳細は後述するが、一対のピン717は、先端工具91のクランプ時に、倍力機構73を作動させるための部材である。
【0065】
倍力機構73は、クランプバネ70の付勢力(バネ力)を増大させてクランプシャフト60に伝達するように構成された機構である。本実施形態では、倍力機構73は、クランプシャフト60の左右に対称状に配置された一対のリンク機構730(より詳細には、トグルジョイント機構)によって構成されている。各リンク機構730は、固定リンク74と、一対の可動リンク75と、スライダ76とを含む。
【0066】
固定リンク74は、直線状に延在する本体741と、本体741の一端部から突出するフック状の作動部743とを含む。本体741のうち、作動部743の接続側と反対側の端部は、支持部材77の側壁の凹部内に配置され、ピン745を介して、支持部材77に回動可能に支持されている。本体741のうち、作動部743の接続側の端部および作動部743は、側壁よりも上方に突出している。固定リンク74は、支持部材77に対して、左右方向に延在する軸周りに回動可能である。
【0067】
一対の可動リンク75は、固定リンク74の右側と左側に配置され、固定リンク74に回動可能に連結されている。より詳細には、可動リンク75の一端部が、ピン751を介して、本体741のうち、作動部743の接続側の端部に、回動可能に連結されている。可動リンク75は、固定リンク74に対して、左右方向に延在する軸周りに回動可能である。なお、
図11および
図12、および以下で参照する同様の図面では、理解を容易にするため、一対の可動リンク75のうち、より径方向外側に配置されている一方の図示が省略されている。
【0068】
スライダ76は、スピンドル4に対して上下方向に移動可能に配置された部材である。スライダ76は、環状部材であって、バネ受け部71の上側で、クランプシャフト60のシャフト部61の外周に、シャフト部61に対して相対回転可能に嵌め込まれている。スライダ76は、環状の本体761と、本体761から突出する一対のピン763とを含む。本体761はシャフト部61と概ね等しい内径を有し、クランプシャフト60の外周面に沿って上下方向に摺動可能である。一対のピン763は、駆動軸A1を挟んで左右に対向する位置に設けられ、夫々、本体761から左方および右方に突出している。各ピン763は、一対の可動リンク75のうち、固定リンク74との接続側とは反対側の端部に、回動可能に連結されている。
【0069】
また、スピンドル4(詳細には、小径部45)とスライダ76との間には、付勢バネ765が配置されている。付勢バネ765は、スライダ76をスピンドル4に対して常に上方へ付勢し、シャフト部61の上端部に固定された止め輪に当接する位置で保持するために設けられている。付勢バネ765には、クランプバネ70に比べて大幅にバネ定数の小さい(弱い)圧縮コイルバネが採用されている。
【0070】
以上のように構成された倍力機構73では、固定リンク74の本体741と可動リンク75とを連結するピン751(ジョイント)に対し、本体741と可動リンク75の配置が直線に近づく方向の力が加えられると、スライダ76のピン763に対して上方への付勢力が作用する。そして、両者の配置が一直線に近づくほど、ピン763に作用する力が増大する。本実施形態では、倍力機構73は、バネ受け部71の左右一対のピン717によって作動され、クランプバネ70の付勢力を増大させ、スライダ76を介してクランプシャフト60に伝達する。クランプシャフト60は、増大した付勢力によって上方へ付勢され、クランプヘッド64が先端工具91を工具装着部41に押し付け、工具装着部41と共に先端工具91をクランプする。なお、倍力機構73の動作については、後で詳述する。
【0071】
本実施形態では、スライダ76は、バネ受け部71に取り付けられたカバー部材78によって、上下方向にのみ移動可能に保持されている。カバー部材78は、下端が開放された矩形箱状の本体781と、本体781の四隅から下方に突出する4本の脚785とを備える。
【0072】
本体781は、スライダ76を覆うように配置されている。本体781の上壁の中央には、貫通孔782が形成されている。貫通孔782の径は、後述する作動シャフト50の当接部53が通過可能に設定されている。また、本体781の側壁(左壁および右壁)には、下端から上方に直線状に延在する一対のガイド溝783が設けられている。スライダ76の一対のピン763は、ガイド溝783を通って左方および右方へ突出している。カバー部材78とスライダ76とは、一対のピン763がガイド溝783内を摺動しつつ、上下方向に相対移動可能である。脚785の下端部には、係止爪が設けられている。カバー部材78は、本体781の下端面が本体711の上端面に当接し、脚785が本体711の外周面に当接し、係止爪が突出片715の下端に係止する状態で、バネ受け部71に取り付けられている。
【0073】
このような構成により、カバー部材78は、バネ受け部71と一体的に、スピンドル4に対して上下方向に移動可能とされている。カバー部材78に上方からの力が付与されない状態では、カバー部材78は、バネ受け部71を介してクランプバネ70によって上方へ付勢され、バネ受け部71と共に最上方位置に配置される。このとき、スライダ76の一対のピン763は、ガイド溝783の上端よりも下側に配置される。カバー部材78は、使用者による操作部21の解除操作に応じてバネ受け部71と共に下方に移動し、クランプシャフト60に対するクランプバネ70の付勢力を解除するように構成されている。
【0074】
更に、本実施形態では、振動工具1は、使用者による解除レバー2の解除操作に応じてクランプ機構6による先端工具91のクランプを解除した後、先端工具91を押し下げ、更に、クランプヘッド64をシャフト部61から離脱させるように構成されている。また、振動工具1は、使用者によるシャフト部61へのクランプヘッド64の嵌め込みに応じて、クランプ機構6を作動させるとともに、クランプヘッド64をシャフト部61にロックするように構成されている。このために、振動工具1は、クランプ機構6に加え、作動シャフト50と、運動変換機構80と、押下げスリーブ87とを備えている。以下、解除レバー2およびこれらの機構について、順に説明する。
【0075】
まず、解除レバー2について説明する。本実施形態では、
図1および
図4に示すように、解除レバー2は、上述の略U字状の操作部21と、回動シャフト23とを含む。回動シャフト23は、ハウジング10内を左右方向に延在し、回動軸A3周りに回動可能にハウジング10に支持されている。回動軸A3は、駆動軸A1と直交しており、回動シャフト23は、カバー部材78の上側に配置されている。回動シャフト23の両端部は、操作部21の両端部に連結されており、回動シャフト23は、操作部21の回動操作に伴って、操作部21と一体的に回動する。
【0076】
図8および
図11に示すように、回動シャフト23の中央部には、カム部24が設けられている。本実施形態では、カム部24は、一対の第1カム241と、第2カム242とを含む。第2カム242は、駆動軸A1上に設けられており、一対の第1カム241は、第2カム242の左右両側に設けられている。第1カム241は、カバー部材78の上壁に当接可能に配置され、第2カム242は、後述する作動シャフト50に当接可能に配置されている。また、第1カム241および第2カム242は、解除レバー2が解除方向に回動されると、第1カム241が先にカバー部材78に当接し、その後、第2カム242が作動シャフト50に当接するように構成されている。
【0077】
次に、作動シャフト50について説明する。作動シャフト50は、クランプシャフト60に対して下方に移動することで、クランプヘッド64をシャフト部61から離脱させるように構成されている。また、作動シャフト50は、クランプヘッド64のシャフト部61に対する嵌め込みに応じて上方に移動され、クランプ機構6を作動させるように構成されている。
【0078】
より詳細には、
図5、
図7、
図8に示すように、作動シャフト50は、全体としては、丸棒状の長尺部材であって、シャフト部51と、当接部53とを有する。
【0079】
シャフト部51は、クランプシャフト60の内径よりも僅かに小さい径を有し、クランプシャフト60と同軸状に、スピンドル4に対して上下方向に移動可能にクランプシャフト60内に挿通されている。
【0080】
シャフト部51の上下方向における略中央部には、環状の係合溝511が形成されている。クランプシャフト60のボール保持孔614に保持されたボール62は、係合溝511に係合可能である。なお、係合溝511の深さは、係合溝511に係合したボール62が、クランプシャフト60の外周面から径方向外側には突出しない程度に設定されている。作動シャフト50は、ボール62を介してクランプシャフト60と係合している場合には、クランプシャフト60と一体的に、スピンドル4に対して上下方向に移動可能である。一方、ボール62が係合溝511の径方向外側に配置されている場合には、クランプシャフト60とは別個に、スピンドル4に対して上下方向に移動可能である。
【0081】
また、シャフト部51の下端部には、ガイド孔513が形成されている。ガイド孔513は、シャフト部51を前後方向に貫通し、上下方向に延在する長穴である。ガイド孔513には、スピンドル4に回転可能に支持されたピン81が挿通されている。ガイド孔513の幅は、ピン81の径に概ね等しい。詳細は後述するが、作動シャフト50は、ピン81がガイド孔513内を移動可能な範囲において、スピンドル4に対して上下方向に移動可能である。なお、ガイド孔513の上下方向の長さは、クランプシャフト60のガイド孔615よりも長い。よって、スピンドル4に対する作動シャフト50の上下方向の移動可能範囲は、スピンドル4に対するクランプシャフト60の上下方向の移動可能範囲よりも長い。
【0082】
なお、シャフト部51の下端部の外周に形成された環状の溝には、環状の弾性部材515が装着されている。弾性部材515は、作動シャフト50がクランプシャフト60に対して上下方向に移動するときに、摺動抵抗を生じさせるために設けられている。
【0083】
当接部53は、シャフト部51の上端に接続し、作動シャフト50の上端部を構成する。当接部53は、クランプシャフト60の上側に配置され、解除レバー(詳細には、第2カム242)による押圧を受ける部分である。なお、当接部53は、クランプシャフト60からの抜け止めのため、シャフト部51よりも径方向外側に突出するように構成されている。
【0084】
以下、運動変換機構80について説明する。
図7および
図8に示すように、運動変換機構80は、上下方向の直線運動を、駆動軸A1周りの回転運動に変換するように構成された機構であって、ピン81と、回動スリーブ83と、付勢バネ84とを備える。
【0085】
上述の通り、ピン81は、スピンドル4の工具装着部41の上側で、ピン保持孔433に挿通され、スピンドル4に固定状に支持されている。
【0086】
図6~
図8および
図13に示すように、回動スリーブ83は、全体としては円筒状の部材として形成されており、クランプシャフト60のシャフト部61の外径と概ね等しい内径を有する。回動スリーブ83には、駆動軸A1を挟んで対向する位置に、2つのガイド孔831が形成されている。ガイド孔831は、回動スリーブ83の壁を径方向に貫通する貫通孔であって、ガイド孔831内をピン81が摺動可能に構成されている。
【0087】
ガイド孔831は、径方向外側の相対する位置からみて、上下方向において異なる位置にある2つの端部と、2つの端部をつなぐ傾斜部とを含む。なお、ガイド孔831の上下方向の長さは、クランプシャフト60のガイド孔615と略同一である。本実施形態では、2つの端部のうち、ガイド孔831を径方向外側の相対する位置からみたときに、左側に位置する端部の方が、右側に位置する端部よりも下方に位置する。つまり、ガイド孔831の傾斜部は、上からみて時計回り方向に向かうにつれて、下方に傾斜している。以下、より下方にある端部を下側端部832、より上方にある端部を上側端部833という。
【0088】
回動スリーブ83は、ガイド孔831にピン81が挿通された状態で、シャフト部61の外周に嵌め込まれ、付勢バネ84を介してシャフト部61に取り付けられている。回動スリーブ83は、ガイド孔831内をピン81が移動可能な範囲内において、スピンドル4に対して上下方向に移動可能、且つ、スピンドル4およびシャフト部61に対して駆動軸A1周りに回動可能である。
【0089】
また、回動スリーブ83の下端部には、周方向において等間隔で配置され、下方に突出する複数の突起835が設けられている。回動スリーブ83の壁の厚みは、ヘッド装着部611の突起612の突出長さと略同一であり、突起835は、突起612に整合する形状を有する。また、突起835間の間隔は、突起612間の間隔と略同一である。つまり、回動スリーブ83の下端部は、ヘッド装着部611と同様、クランプヘッド64のロック孔671に整合するように構成されている。また、突起835の突出高さ(上下方向の長さ)は、クランプヘッド64の突起673の厚み(上下方向の長さ)より僅かに大きい。回動スリーブ83は、上下方向において、シャフト部61に対し、突起835の下端面がヘッド装着部611の突起612の上端面に少なくとも部分的に当接する位置で常に保持されている。
【0090】
付勢バネ84は、回動スリーブ83をクランプシャフト60に対して駆動軸A1周りの周方向に付勢するように設けられている。本実施形態では、付勢バネ84には、捩りコイルバネが採用されている。付勢バネ84の一端部は、シャフト部61に係止され、他端部は、回動スリーブ83の上端部に係止されている。付勢バネ84は、シャフト部61に対して回動スリーブ83を上からみて時計回り方向に付勢するように取り付けられている。
【0091】
このような構成により、回動スリーブ83がクランプシャフト60と共にスピンドル4に対して上下方向に移動し、ピン81がガイド孔831内を移動するのに伴って、回動スリーブ83は、スピンドル4およびシャフト部61に対して駆動軸A1周りに回動する。
【0092】
より詳細には、回動スリーブ83がスピンドル4に対して上方に移動する場合には、ピン81は、ガイド孔831の傾斜部に当接しつつ回動スリーブ83に対して下方に移動し、回動スリーブ83を上からみて反時計回り方向に回動させる。
図13に示すように、ピン81が下側端部832に配置されている場合、周方向において、回動スリーブ83の下端部の複数の突起835は、ヘッド装着部611の複数の突起612からずれた位置に配置される。より詳細には、ヘッド装着部611の隣接する突起612の間に形成された空間の真上に、回動スリーブ83の突起835の一部が配置される。以下、このときのヘッド装着部611(突起612)に対する回動スリーブ83(突起835)の位置を、オフセット位置という。
【0093】
一方、回動スリーブ83がスピンドル4に対して下方に移動する場合には、ピン81は、ガイド孔831の傾斜部に当接しつつ回動スリーブ83に対して上方に移動し、回動スリーブ83を上からみて時計回り方向に回動させる。
図14に示すように、ピン81が上側端部833に配置されると、周方向において、回動スリーブ83の複数の突起835は、ヘッド装着部611の複数の突起612と一致する位置に配置される。つまり、突起835が突起612の真上に配置され、隣接する突起612の間に形成された空間と、隣接する突起835の間に形成された空間とが上下方向に連通する。以下、このときのヘッド装着部611(突起612)に対する回動スリーブ83(突起835)の位置を、整合位置という。
【0094】
ヘッド装着部611に対し、回動スリーブ83が整合位置に配置され、ロックリング67がアンロック位置(
図9参照)に配置されている場合、上下方向に整列する突起612および835は、クランプヘッド64のロック孔671を通過可能である。ロックリング67の各突起673は、ヘッド装着部611の突起612よりも上側で、回動スリーブ83の隣接する突起835の間に配置される。その後、回動スリーブ83がオフセット位置(
図13参照)まで回動すると、回動に伴い、突起835がロックリング67をヘッド装着部611に対して回動させ、ロック位置(
図10参照)に配置させる。上述のように、ロック位置では、ロックリング67の突起673の少なくとも一部が、ヘッド装着部611の突起612の上に配置されるため、クランプヘッド64はシャフト部61から取り外し不能となる。
【0095】
このように、回動スリーブ83は、整合位置とオフセットとの間で回動することで、ヘッド装着部611に対するロックリング67の周方向位置を、アンロック位置とロック位置との間で変化させることができる。
【0096】
以下、押下げスリーブ87について説明する。押下げスリーブ87は、使用者による解除レバー2の解除操作に応じてスピンドル4に対して下方へ移動することで、先端工具91を押し下げるように構成された部材である。本実施形態では、押下げスリーブ87は、クランプシャフト60と一体的に上下方向に移動するように構成されている。
【0097】
図6~
図8に示すように、押下げスリーブ87は、全体としては有底円筒状に形成されており、円形の上壁と、上壁の外縁から下方に突出する円筒状の周壁とを有する。上壁の中央には、クランプシャフト60を挿通可能な貫通孔が形成されている。周壁の下端部は、径方向外側に突出するフランジ部873として構成されている。フランジ部873は、先端工具91の上面に当接して先端工具91を押し下げる部分である。フランジ部873の下端面は、駆動軸A1に略直交する平面とされている。
【0098】
また、押下げスリーブ87の周壁には、駆動軸A1を挟んで前後に対向する位置に、2つのガイド孔875が形成されている。ガイド孔875は、周壁を径方向に貫通し、上下方向に延在する長穴である。ガイド孔875は、クランプシャフト60のガイド孔615と長さおよび幅が略同一である。また、押下げスリーブ87は、回動スリーブ83の外径と略同一の内径を有するが、押下げスリーブ87の上端部のみ、より小さな内径を有する。つまり、押下げスリーブ87の内部には、ショルダ部(段差部)が形成されている。
【0099】
押下げスリーブ87は、内部に回動スリーブ83および付勢バネ84を収容し、ガイド孔831にピン81が挿通された状態で、クランプシャフト60の外周に嵌め込まれている。押下げスリーブ87の内部では、回動スリーブ83の上端がショルダ部に当接し、付勢バネ84は、押下げスリーブ87の上端部内に配置されている。また、押下げスリーブ87は、クランプシャフト60のシャフト部61に固定された止め輪によって、上方への移動が規制されている。このような構成により、押下げスリーブ87は、クランプシャフト60に対して上下方向に位置決めされ、保持されている。
【0100】
押下げスリーブ87は、スピンドル4およびクランプシャフト60に対する回転が規制された状態で、ピン81がガイド孔875内を移動可能な範囲において、スピンドル4に対して上下方向に移動可能である。なお、押下げスリーブ87は、スピンドル4の大径部43の下側部分の内周面に沿って摺動可能に構成されている。フランジ部873の外周には、潤滑剤(例えばグリス)の漏出防止のために、弾性体で形成された環状のシール部材874が装着されている。
【0101】
以下に、先端工具91の取り外し時および装着時の解除レバー2、クランプ機構6、作動シャフト50、運動変換機構80、および押下げスリーブ87の動作について説明する。
【0102】
まず、先端工具91がクランプされているときの状態について説明する。
【0103】
図7、
図8、
図11、
図12に示すように、先端工具91がクランプされているときには、解除レバー2は初期位置に配置されている。このとき、カム部24の第1カム241および第2カム242は、夫々、カバー部材78および作動シャフト50の当接部53から上方に離間している。
【0104】
スピンドル4のボール保持孔451に保持されたボール47は、スピンドル4の径方向内側に突出し、クランプシャフト60の係合溝613に、下側に遊びがある状態で係合している。バネ受け部71の係合溝712は、ボール保持孔451よりも上方に配置されている。よって、バネ受け部71は、ボール47による干渉を受けることなく、クランプバネ70によって上方に付勢されている。また、クランプシャフト60のボール保持孔614に保持されたボール62は、スピンドル4の係合溝431よりも上方に配置されており、クランプシャフト60の径方向内側に突出し、作動シャフト50の係合溝511に係合している。よって、クランプシャフト60と作動シャフト50とは、上下方向において一体的に移動する状態にある。
【0105】
バネ受け部71の一対のピン717は、クランプバネ70の付勢力を受けて、固定リンク74の作動部743に、フックの内側から当接して上方に押圧している。これにより、固定リンク74は、ピン745を中心として、
図12の反時計回り方向に付勢され、固定リンク74と可動リンク75とを連結するピン751(ジョイント)には、接線方向の力Fが作用する。この力Fは、倍力作用で増大され、可動リンク75とスライダ76とを連結するピン763に、上方への付勢力として作用する。このとき、固定リンク74と可動リンク75とは、一直線上に並ぶ配置に比較的近いことから、倍力機構73は、クランプバネ70の付勢力を効果的に増大させることができる。クランプシャフト60は、スライダ76を介して上方に付勢され、クランプヘッド64が先端工具91を工具装着部41の下面(詳細には、凸部911の下面)に押し付け、工具装着部41と共に先端工具91をクランプする位置(以下、クランプ位置という)で保持される。
【0106】
なお、クランプシャフト60がクランプ位置に配置されているときには、スピンドル4に保持されたピン81は、クランプシャフト60および作動シャフト50の夫々のガイド孔615および513内で、概ね最下端位置に配置される。同様に、ピン81は、押下げスリーブ87のガイド孔875内でも、概ね最下端位置に配置される。また、
図13に示すように、ピン81は、回動スリーブ83のガイド孔831の下側端部832に配置され、回動スリーブ83は、クランプシャフト60に対してオフセット位置にある。よって、上述のように、クランプヘッド64は、シャフト部61に取り外し不能に連結され、ロックリング67は、ヘッド装着部611によって先端工具91の下面に押し付けられている。なお、
図7および
図8に示すように、シャフト部61内に挿入された突起663の上端面は、作動シャフト50の下端面に当接している。
【0107】
以下、先端工具91の取り外し時の動作について説明する。
【0108】
先端工具91の取り外し時には、使用者は、操作部21を解除操作し、解除レバー2を解除方向に回動させる。まず、解除レバー2の一対の第1カム241が、カバー部材78の上面に当接して押圧し、カバー部材78およびバネ受け部71を押し下げ始める。これをもって、解除レバー2がクランプバネ70の付勢力を受けるようになり、バネ受け部71の下方への移動に応じて、ピン717および倍力機構73を介してクランプシャフト60に伝達される付勢力は減少する。この間、第2カム242は作動シャフト50の当接部53には当接しない。また、クランプシャフト60は、ボール47を介してスピンドル4に係合する状態を維持するため、下方へは移動しない。スライダ76は、付勢バネ765の付勢力によって、シャフト部61の上端部に固定された止め輪に当接する位置で保持される。このため、バネ受け部71のピン717が下方へ移動しても、ピン751の位置は変化せず、可動リンク75と固定リンク74は概ね同じ姿勢で保持される。
【0109】
図15~
図18に示すように、解除レバー2の更なる回動に伴い、バネ受け部71の係合溝712がボール保持孔451に対向する位置まで、第1カム241によってカバー部材78およびバネ受け部71が押し下げられると、バネ受け部71のピン717が固定リンク74の作動部743から離間する。これにより、固定リンク74に対する付勢力が解除され、倍力機構73によるクランプシャフト60への付勢力の伝達が遮断される。また、ボール47は、クランプシャフト60の係合溝613から離脱し、係合溝712内へ移動することが可能となる。
【0110】
係合溝712がボール保持孔451に対向するのと概ね同じタイミングで、第2カム242が作動シャフト50の当接部53に当接して押圧し、作動シャフト50を押し下げ始める。クランプシャフト60は、作動シャフト50と一体的に下方への移動を開始する。なお、本実施形態では、係合溝613は、断面台形状の溝として構成されている。よって、クランプシャフト60の移動開始とともにボール47は速やかに径方向外側へ移動して係合溝712に係合し、シャフト部61の外周面によって径方向内側への移動を阻まれる。これにより、バネ受け部71は、ボール47を介してスピンドル4に係止される。なお、以下では、上下方向において、バネ受け部71がスピンドル4に係止可能となる位置(係合溝712がボール保持孔451に対向する位置)を、係止位置という。第1カム241は、バネ受け部71が係止位置へ到達すると、カバー部材78およびバネ受け部71をそれ以上押し下げないように構成されている。
【0111】
クランプシャフト60の下方への移動に伴って、回動スリーブ83は、上述のように、オフセット位置(
図13参照)から整合位置(
図14参照)に向けて回動しつつ、下方へ移動する。これに伴い、クランプヘッド64は、ロック位置(
図10参照)からアンロック位置(
図9参照)に向けて回動する。
【0112】
また、押下げスリーブ87もクランプシャフト60および回動スリーブ83と共に下方へ移動する。先端工具91は、傾斜面913と傾斜面413とが当接し、クランプヘッド64によって下方から工具装着部41に押し付けられた状態(
図4参照)で揺動駆動されると、工具装着部41に固着してしまう場合がある。このような場合でも、
図19および
図20に示すように、押下げスリーブ87のフランジ部873が、下降過程で先端工具91に上方から当接し、先端工具91を下方に押し下げることで、先端工具91の固着状態を解消することができる。なお、本実施形態では、フランジ部873の下端面が、クランプシャフト60の周囲で先端工具91に面接触し、先端工具91をバランスよく押し下げるため、先端工具91の固着をより確実に解消することができる。
【0113】
また、この間、スライダ76は、付勢バネ765を圧縮しつつ、クランプシャフト60と共に下方へ移動する。これに伴い、可動リンク75に連結されたピン763も下方に移動する。その結果、
図21および
図22に示すように、可動リンク75および固定リンク74の配置は、ピン751における屈曲がより大きくなるように変化する。
【0114】
図19および
図20に示すように、ボール保持孔614が係合溝431に対向する位置まで、作動シャフト50およびクランプシャフト60が第2カム242によって押し下げられると、ボール62は、作動シャフト50の係合溝511から離脱し、係合溝431内へ移動することが可能となる。つまり、クランプシャフト60と作動シャフト50の係合が解除され、作動シャフト50は、クランプシャフト60から独立して下方へ移動することが可能となる。本実施形態では、係合溝712と同様、係合溝511も、断面台形状の溝として構成されている。よって、作動シャフト50の移動開始に伴い、ボール62は速やかに径方向外側へ移動して係合溝431に係合し、作動シャフト50の外周面によって径方向内側への移動を阻まれる。これにより、クランプシャフト60は、ボール62を介してスピンドル4に係止される。
【0115】
また、係合溝431がボール保持孔614に対向するのと概ね同じタイミングで、回動スリーブ83は、
図14に示すように、クランプシャフト60に対して整合位置に配置される。よって、上述のように、ロックリング67がアンロック位置(
図9参照)に配置され、クランプヘッド64のヘッド装着部611からの取り外しが可能となる。
【0116】
この状態から、
図23および
図24に示すように、解除レバー2が最大限まで回動されると、第2カム242によって、ピン81がガイド孔513の上端部に配置される位置まで、作動シャフト50のみが最下方位置まで押し下げられる。上述のように、クランプヘッド64は既にアンロック位置に配置されているため、作動シャフト50は、その下端面が突起663の上端面に当接した状態で下方に移動することで、クランプヘッド64をシャフト部61から離脱させることができる。また、押下げスリーブ87によって、工具装着部41から引き離され、押し下げられた先端工具91も、自重によって、クランプヘッド64と共にシャフト部61から抜け落ちる。
【0117】
なお、作動シャフト50のみが下方に移動する間、スライダ76はクランプシャフト60と共に同じ上下方向位置で維持される。よって、この間、可動リンク75および固定リンク74の配置は、
図21および
図22に示す配置から変化しない。
【0118】
以上の手順により、先端工具91の取り外しが完了する。
【0119】
以下、先端工具91の装着時の動作について説明する。
【0120】
上述のように、本実施形態では、バネ受け部71が係止位置でスピンドル4に係止している場合、第1カム241による押圧力が解除されても倍力機構73は作動せず、クランプシャフト60に対する付勢力は解除されたままである。よって、使用者は、上述のように先端工具91を取り外した後、
図25および
図26に示すように、解除レバー2を初期位置に戻し、先端工具91の装着を行うことができる。また、クランプシャフト60は、ボール62を介してスピンドル4に係止されている。作動シャフト50は、弾性部材515の摩擦力によって、最下方位置で保持されている。
【0121】
使用者はまず、ヘッド装着部611および整合位置に配置された回動スリーブ83の下端部を、先端工具91の凸部911の貫通孔に挿通する。このとき、使用者が、先端工具91でヘッド装着部611または押下げスリーブ87を上方に押圧してしまう可能性がある。このような場合でも、上述のように、クランプシャフト60はスピンドル4に係止されているため、クランプシャフト60の上方への移動が防止される。
【0122】
使用者は、クランプヘッド64を先端工具91の下側に配置し、突起663をシャフト部61内に挿入する。なお、本実施形態では、ヘッド装着部611の下端面の外縁と、ロックリング67の上面のロック孔671の外縁には、夫々、傾斜面が形成されている。このため、ロックリング67がヘッド装着部611に対して厳密にアンロック位置(
図9参照)に配置されていない場合でも、ロックリング67は、突起612に押圧されると、これらの傾斜面の作用によってケース65に対して回転し、アンロック位置に配置される。よって、使用者は厳密な位置決めを行う必要がない。
【0123】
使用者がクランプヘッド64を押し上げるのに伴い、作動シャフト50は、突起663に押圧されて、最下方位置から、クランプシャフト60に対して上方へ移動する。この間、スライダ76はクランプシャフト60と共に同じ上下方向位置で維持されるため、可動リンク75および固定リンク74の配置は、
図21および
図22に示す配置のままである。
【0124】
図27および
図28に示すように、ヘッド装着部611が押圧部66のベース板661の上面に当接する位置まで、作動シャフト50が押し上げられると、係合溝511がボール保持孔614に対向する。これに伴い、ボール62は、係合溝431から離脱して係合溝511内へ移動することが可能となる。つまり、クランプシャフト60とスピンドル4の係合が解除され、クランプシャフト60と作動シャフト50とが係合可能となる。本実施形態では、係合溝431も、断面台形状の溝として構成されている。よって、作動シャフト50およびクランプシャフト60が、夫々、突起663およびベース板661に当接した状態で押し上げられると、ボール62は速やかに径方向内側へ移動して係合溝511に係合する。作動シャフト50およびクランプシャフト60は、ボール62を介して係合した状態で上方へ移動する。
【0125】
作動シャフト50およびクランプシャフト60が上方へ移動するのに伴って、回動スリーブ83は、整合位置(
図14参照)からオフセット位置(
図13参照)に向けて回動しつつ、上方へ移動する。これに伴い、クランプヘッド64は、アンロック位置(
図9参照)からロック位置(
図10参照)に向けて回動する。押下げスリーブ87は、クランプシャフト60および回動スリーブ83と共に上方へ移動する。
【0126】
また、この間、スライダ76は、付勢バネ765の付勢力により、クランプシャフト60と共に上方へ移動するため、可動リンク75に連結されたピン763も上方に移動する。よって、
図29および
図30に示すように、可動リンク75および固定リンク74の配置は、一直線に近づくように変化する。固定リンク74の回動により、作動部743は、バネ受け部71のピン717に隣接する方向に移動する。
【0127】
使用者がクランプヘッド64を介して作動シャフト50およびクランプシャフト60を更に押し上げると、
図31および
図32に示すように、クランプシャフト60の係合溝613がボール保持孔451に対向する。これに伴い、ボール47は、バネ受け部71の係合溝712から離脱して係合溝613内へ移動することが可能となる。本実施形態では、係合溝712も、断面台形状の溝として構成されている。よって、バネ受け部71に作用するクランプバネ70の付勢力により、ボール62が径方向内側へ押圧されて係合溝613内へ移動し、スピンドル4に対するバネ受け部71の係止が解除される。
【0128】
これに伴って、バネ受け部71およびカバー部材78は、クランプバネ70の付勢力により、スピンドル4およびクランプシャフト60に対して上方に移動する。その結果、バネ受け部71のピン717が作動部743に当接し、倍力機構73を作動させる(
図11および
図12参照)。上述のように、倍力機構73は、増大した付勢力でクランプシャフト60を上方に付勢する。
【0129】
なお、係合溝613がボール保持孔451に対向するのと概ね同じタイミングで、回動スリーブ83は、オフセット位置(
図13参照)に配置され、ロックリング67は、ロック位置(
図10参照)に配置される。よって、バネ受け部71の係止が解除され、クランプシャフト60が上方に付勢されると、先端工具91は、クランプヘッド64(ロックリング67)によって工具装着部41に強く押し付けられ、クランプされる(
図7および
図8参照)。
【0130】
以上に説明したように、本実施形態の振動工具1は、工具装着部41と、クランプバネ70によって上方に付勢されたクランプヘッド64とによって、先端工具91をクランプする方式の振動工具である。振動工具1は、スピンドル4に対して上下方向に移動可能に配置されたバネ受け部71を備える。バネ受け部71は、解除レバー2の解除操作に応じて係止位置へ移動し、クランプバネ70の付勢力を解除した状態で、スピンドル4に対して係止可能である。また、振動工具1は、スピンドル4に対して上下方向に移動可能に配置された作動シャフト50を備える。作動シャフト50は、クランプヘッド64による上方への押圧に応じて上方に移動し、スピンドル4に対するバネ受け部71の係止を解除するように構成されている。
【0131】
振動工具1では、作動シャフト50によってバネ受け部71の係止が解除されると、クランプシャフト60に対する付勢力の解除が無効化されることになる。つまり、クランプシャフト60に対するクランプバネ70の付勢力が復帰する。よって、使用者は、クランプヘッド64で作動シャフト50を上方へ押圧するだけで(つまり、ワンタッチ操作で)、クランプヘッド64と工具装着部41に先端工具91をクランプさせることができる。
【0132】
また、振動工具1では、スピンドル4に対するバネ受け部71の係止の解除には、クランプシャフト60とは別個の作動シャフト50に対する押圧が必要となる。言い換えると、作動シャフト50が、クランプヘッド64による上方への押圧を検知した場合に限り、クランプシャフト60に対する付勢力を復帰させることができる。よって、クランプシャフト60に対する押圧で係止が解除される場合に比べ、意図しないときにクランプシャフト60が押圧され、クランプ機構6が動作してしまう可能性を低減することができる。特に、本実施形態では、作動シャフト50を作動させるためには、筒状のシャフト部61の内部に配置された作動シャフト50の下端部を押圧する必要がある。よって、クランプ機構6の誤動作の可能性をより確実に低減することができる。
【0133】
また、クランプヘッド64は、シャフト部61から取り外し可能に構成されている。よって、クランプヘッド64をシャフト部61から取り外して先端工具91を交換することができるため、従来の作業工具のように、クランプシャフト60全体をスピンドル4から引き抜く必要がない。よって、スピンドル4の内部を通じて、ハウジング10内部に異物が進入するのを防止することができる。
【0134】
また、クランプヘッド64は、ロック位置とアンロック位置との間で、シャフト部61に対して駆動軸A1周りに回転可能に構成されたロックリング67を含む。よって、シャフト部61とクランプヘッド64との結合に、径方向に移動する部材を利用する場合に比べ、径方向の必要スペースを最小限とすることができる。更に、ロックリング67は、クランプシャフト60の上下方向の移動に連動して、シャフト部61に対して回転するように構成されている。より詳細には、運動変換機構80が、クランプシャフト60の上下方向の移動に連動して、ロックリング67を回転させて位置を切り替える。これにより、クランプヘッド64による先端工具91のクランプおよびその解除と、クランプヘッド64の位置の切替とを、効率的に連動させることができる。
【0135】
更に、作動シャフト50は、クランプシャフト60に対して上下方向に移動可能である。そして、作動シャフト50は、クランプヘッド64による上方への押圧に応じて、クランプシャフト60に対して上方に所定位置まで移動し、更に、クランプシャフト60と一体的に上方へ移動して、クランプシャフト60を介してスピンドル4に対するバネ受け部71の係止を解除するように構成されている。よって、使用者は、クランプヘッド64への押圧を継続するだけで、先端工具91をクランプする方向へクランプシャフト60を移動させ、クランプバネ70によって付勢される状態へ効率的に移行させることができる。また、所定位置まで作動シャフト50を押し上げないと、クランプシャフト60は移動しないため、より確実に誤動作の可能性を低減することができる。
【0136】
また、解除レバー2は、使用者による所定の解除操作に応じて、第1カム241がカバー部材78を介してバネ受け部71を係止位置に移動させた後、第2カム242がクランプシャフト60および作動シャフト50を下方へ移動させるように構成されている。よって、単一の解除レバー2により、クランプシャフト60に対する付勢力を解除した後、クランプシャフト60および作動シャフト50を効率的に移動させることができる。更に、第2カム242は、クランプシャフト60および作動シャフト50が所定位置に到達した後、クランプシャフト60に対して作動シャフト50を下方へ移動させるように構成されている。これにより、作動シャフト50のみをクランプシャフト60から独立して下方へ移動させ、クランプヘッド64による作動シャフト50の上方への押圧を容易とすることができる。
【0137】
更に、振動工具1は、クランプバネ70の付勢力を増大させ、クランプシャフト60に伝達するように構成された倍力機構73を備えている。よって、単体では比較的付勢力が弱い小型なクランプバネ70を採用しても、クランプシャフト60に対し、十分なクランプ力を付与することができる。なお、本実施形態では、倍力機構73は、トグルジョイント式のリンク機構であるため、クランプシャフト60に伝達する付勢力を効果的に増大させることができる。また、本実施形態では、解除操作に応じて、解除レバー2がバネ受け部71を移動させるように構成されており、解除レバー2からの力は、バネ受け部71を介してクランプバネ70に直接的に作用する。このように、解除レバー2がバネ受け部71を介して直接的にクランプバネ70の付勢力を受けることで、倍力機構73への付勢力を解除するため、クランプシャフト60に対する付勢力の解除が容易である。
【0138】
上記実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下に示す。但し、実施形態の各構成要素は単なる一例であって、本発明の各構成要素を限定するものではない。振動工具1は、「作業工具」の一例である。ハウジング10は、「ハウジング」の一例である。スピンドル4および工具装着部41は、夫々、「スピンドル」、「工具装着部」の一例である。駆動軸A1は、「駆動軸」の一例である。クランプシャフト60、シャフト部61、クランプヘッド64は、夫々、「クランプシャフト」、「シャフト部」、「クランプ部」の一例である。クランプバネ70は、「付勢部材」の一例である。バネ受け部71は、「解除部材」の一例である。作動シャフト50は、「作動部材」の一例である。ロックリング67は、「回転部」の一例である。解除レバー2、第1カム241、第2カム242は、夫々、「操作部材」、「第1カム」、「第2カム」の一例である。倍力機構73は、「伝達機構」の一例である。
【0139】
上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係る作業工具は、例示された振動工具1の構成に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。なお、これらの変更は、これらのうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、実施形態に示す振動工具1、あるいは各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
【0140】
例えば、本発明に係る作業工具は、先端工具91を回転駆動する回転工具(例えば、グラインダ、サンダ、ポリッシャ)として具現化されてもよい。
【0141】
例えば、クランプ機構6の構成(例えば、クランプシャフト60の形状、配置、支持構造、付勢機構7の構成部材、それらの形状、配置、支持構造等)は、適宜変更されうる。以下に、採用可能な変形例を例示する。
【0142】
例えば、クランプシャフト60は、互いから分離可能なシャフト部61とクランプヘッド64とを有する必要はない。つまり、クランプシャフト60は、シャフト部と、シャフト部の一端部に一体的に設けられたフランジ状のクランプヘッドとを有する単一部材であってもよい。この場合、クランプシャフト60は、スピンドル4から引き抜き可能であって、ハウジング10内に設けられた係合部材によって保持された状態で、上方に付勢されればよい。
【0143】
また、シャフト部61とクランプヘッド64とが分離可能な場合、ヘッド装着部611とクランプヘッド64との係合構造は、適宜変更されうる。例えば、ヘッド装着部611とロック孔671の形状は、周方向に相対回転したときに、ヘッド装着部611がロック孔671を通過可能な位置と、ヘッド装着部611がロック孔671を通過不能にロックリング67と係合する位置との間で切り替え可能な限り、適宜変更可能である。また、ロックリング67をシャフト部61に対して回転させるための構成は、回動スリーブ83を含む運動変換機構80に限られない。スピンドル4に対するシャフト部61の上下方向の直線運動を、何らかの部材の駆動軸A1周りの回転運動に変換可能な任意の運動変換機構が採用されうる。なお、上記実施形態では、クランプヘッド64のロックリング67のみがシャフト部61に対して回転するが、クランプヘッド64全体が回転可能であってもよい。更に、クランプヘッド64は、シャフト部61に係合する位置と、係合不能な位置との間で径方向に移動する係合部材によって、シャフト部61に着脱される構成であってもよい。
【0144】
クランプバネ70は、倍力機構73を介さずに、クランプシャフト60を付勢するように構成されていてもよい。例えば、バネ受け部71が直接クランプシャフト60を付勢してもよい。また、別のタイプの伝達機構が、クランプバネ70の付勢力をクランプシャフト60に伝達してもよい。クランプバネ70には、圧縮コイルバネに代えて、例えば、引張りコイルバネ、捩りバネ、皿バネ、またはラバーバネが採用されてもよい。
【0145】
バネ受け部71をスピンドル4に係止するためのボール47の数は、2以外の数であってもよい。また、ボール47以外の部材が採用されてもよい。また、クランプシャフト60とスピンドル4、または、クランプシャフト60と作動シャフト50とに係合するボール62についても同様である。
【0146】
また、作動シャフト50の構成(例えば、形状、配置、支持構造等)も、適宜変更可能である。例えば、作動シャフト50は、クランプシャフト60から上方に突出することなく、完全にクランプシャフト60内に配置されていてもよい。作動シャフト50の下端部は、クランプシャフト60から下方に突出してもよい。あるいは、作動シャフト50は、クランプシャフト60の外部に配置されてもよい。この場合、例えば、作動シャフト50は筒状に形成されうる。また、上記実施形態では、取り外し可能なクランプヘッド64を備えたクランプシャフト60が採用されている。このため、作動シャフト50は、クランプヘッド64の一部(詳細には、シャフト部61に挿入された突起663)による上方への押圧を検知するように構成されている。しかしながら、作動シャフト50は、クランプヘッド64の別の部分(例えば、ケース65)、あるいは、クランプヘッド64ではなく先端工具91による上方への押圧を検知して作動するように構成されていてもよい。
【0147】
クランプシャフト60と共にスピンドル4に対して下方へ移動し、先端工具91を押し下げる押下げスリーブ87は、省略されてもよい。また、押下げスリーブ87に代えて、例えば、クランプシャフト60または回動スリーブ83の下端部に、下方への移動過程で先端工具91を押し下げ可能なフランジ部が設けられてもよい。
【0148】
解除レバー2の構成も、適宜変更可能である。例えば、第1カム241、第2カム242の形状や配置、押圧対象は、上記実施形態の例に限られない。また、解除レバー2は、駆動軸A1に直交する回動軸A3周りではなく、駆動軸A1周りに回動可能に構成されていてもよい。この場合、解除レバー2の解除方向への回動に伴って、駆動軸A1周りの回転運動を上下方向の直線運動に変換し、バネ受け部71および作動シャフト50を押し下げるように構成された運動変換機構が設けられればよい。
【0149】
スピンドル4の構成(例えば、形状、支持構造等)は、上記実施形態の例に限られるものではなく、適宜、変更されてよい。例えば、上述の実施形態では、工具装着部41は、凸部911を有する先端工具91に対応する凹部411を有する。そして、先端工具91は、その傾斜面913が工具装着部41の傾斜面413に当接した状態で、工具装着部41に固定される。しかしながら、工具装着部41は、平面状の下面を有し、平面状の上面を有する先端工具を固定可能な構成とされてもよい。なお、この場合、先端工具を工具装着部41に位置決めするために、工具装着部41と先端工具91に、夫々、突起と嵌合孔とが設けられていてもよい。この場合、突起および嵌合孔に、上記実施形態の傾斜面413および傾斜面913と同様、駆動軸A1に対して傾斜し、互いに整合する傾斜面が設けられうる。
【0150】
ハウジング10、モータ31、および伝達機構35の構成(例えば、形状、収容する内部構造、配置等)についても、適宜、変更が可能である。例えば、ハウジング10は、弾性連結されたアウタハウジング101とインナハウジング103とを含む必要はなく、1層構造のハウジングであってもよい。また、例えば、モータ31は、交流モータであってもよいし、ブラシを有するモータであってもよい。モータ31は、出力シャフト315の回転軸A2が駆動軸A1と直交するように、ハウジング10の把持部15内に収容されていてもよい。
【0151】
更に、本発明および上記実施形態とその変形例の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様は、独立して、あるいは、実施形態に示す振動工具1、上記変形例、別の態様、または各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記クランプシャフトは、前記スピンドルから取り外し不能に配置されている。
[態様2]
使用者による外部操作が可能に構成された操作部材を更に備え、
前記解除部材は、前記操作部材に対する所定の解除操作に連動して、前記係止位置に移動するように構成されている。
[態様3]
前記解除部材は、環状部材であって、前記シャフト部の径方向外側に配置されている。
[態様4]
作業工具は、前記解除部材が前記係止位置に配置されている場合、前記解除部材と前記スピンドルとに係合する第1係合部材を更に備え、
前記解除部材は、前記第1係合部材を介して前記スピンドルに係止されるように構成されている。
ボール47は、本態様の「第1係合部材」の一例である。
[態様5]
態様4において、
前記第1係合部材は、前記解除部材に係合可能な第1位置と、前記解除部材に係合不能な第2位置との間で、前記スピンドルの径方向に移動可能に前記スピンドルに保持されている。
[態様6]
態様5において、
前記第1係合部材は、前記クランプシャフトが下方から上方へ移動し、前記クランプ部と前記工具装着部とで前記先端工具をクランプ可能な位置に到達すると、前記第2位置に配置され、前記解除部材との係合を解除するように構成されている。
[態様7]
態様5または6において、
前記第1係合部材は、前記第2位置において、前記クランプシャフトに係合するように構成されている。
[態様8]
前記クランプ部は、前記回転部を前記駆動軸周りに回転可能に収容する収容部材を含む。
ケース65は、本態様の「収容部材」の一例である。
[態様9]
前記クランプ部は、前記作動部材を押圧するように構成された押圧部を含む。
押圧部66は、本態様の「押圧部」の一例である。
[態様10]
態様9において、
前記作動部材が移動可能範囲内で最下方位置に配置されている場合、前記作動部材の下端は、前記シャフト部の内部に配置され、
前記押圧部は、前記シャフト部に挿入可能に構成されている。
[態様11]
作業工具は、前記シャフト部の前記上下方向の直線運動を回転運動に変換し、前記回転部を前記シャフト部に対して回転させるように構成された運動変換機構を更に備える。
運動変換機構80は、本態様の「運動変換機構」の一例である。
[態様12]
態様11において、
前記運動変換機構は、前記回転部に係合可能、且つ、前記シャフト部の前記上下方向の移動に伴って前記駆動軸周りに回転するように構成されたドライバ部材を含む。
回動スリーブ83は、本態様の「ドライバ部材」の一例である。
[態様13]
態様12において、
前記ドライバ部材は、前記シャフト部に対して前記駆動軸周りに回転可能に取り付けられ、前記シャフト部と一体的に前記上下方向に移動可能なスリーブであって、周方向に傾斜する傾斜部を含む孔部を有し、
前記運動変換機構は、前記スピンドルに支持され、前記孔部に挿入された凸部を含む。
ガイド孔831は、本態様の「孔部」の一例である。ピン81は、本態様の「凸部」の一例である。
[態様14]
前記回転部は、前記クランプシャフトが前記所定位置に配置されるのに応じて前記アンロック位置に配置されるように構成されており、
前記作動部材は、前記クランプシャフトに対して下方へ移動するのに伴って、前記クランプ部を前記シャフト部に対して下方へ移動させるように構成されている。
[態様15]
前記第2カムは、前記作動部材に当接して前記作動部材を下方に移動させるように構成されている。
[態様16]
前記クランプシャフトおよび前記作動部材が前記所定位置よりも上方から前記所定位置まで移動するのに応じて、前記クランプシャフトは、前記所定位置において、前記スピンドルに係止されるように構成されている。
[態様17]
作業工具は、前記作動部材に係合可能な第3位置と、前記スピンドルに係合可能な第4位置との間で、前記クランプシャフトの径方向に移動可能に前記クランプシャフトに保持された第2係合部材を更に備え、
前記第2係合部材は、前記クランプシャフトおよび前記作動部材が前記所定位置よりも上方に配置されている場合、前記第3位置に配置されて前記作動部材に係合し、前記クランプシャフトおよび前記作動部材が前記所定位置に配置されると、前記第4位置に配置されて前記スピンドルと係合するように構成されている。
ボール62は、本態様の「第2係合部材」の一例である。
[態様18]
前記伝達機構は、固定リンクと、可動リンクとを含み、
前記固定リンクの一端部は、前記スピンドルに対して前記上下方向に移動不能な第1シャフト周りに回転可能に連結され、
前記可動リンクの一端部は、前記固定リンクの他端部に、ジョイントを介して回転可能に連結される一方、前記可動リンクの他端部は、前記クランプシャフトに連結された第2シャフト周りに回転可能に連結されており、
前記解除部材は、前記付勢部材の付勢力によって前記係止位置から上方へ移動し、前記固定リンクと前記可動リンクとが一直線に近づく方向の力を前記ジョイントに作用させるように構成されている。
固定リンク74、可動リンク75、ピン745、ピン751、ピン763は、夫々、本態様の「固定リンク」、「可動リンク」、「第1シャフト」、「ジョイント」、「第2シャフト」の一例である。
[態様19]
前記付勢部材は、圧縮コイルバネであって、
前記解除部材は、前記圧縮コイルバネの一端部に当接するバネ受け部であって、
前記伝達機構は、前記バネ受け部を介して受ける前記付勢力を増大させるように構成されている。
[態様20]
作業工具は、前記クランプシャフトと一体的に前記スピンドルに対して前記上下方向に移動可能に配置され、前記スピンドルに対して下方に移動する過程で、前記先端工具に上方から当接し、前記先端工具を下方に押し下げるように構成された押下げ部材を更に備える。
押下げスリーブ87は、本態様の「押下げ部材」の一例である。
【0152】
更に、クランプシャフトを上方に付勢する付勢部材を備えたクランプ機構に関する改良を目的として、以下の態様が提供される。なお、以下の態様は、独立して、あるいは、実施形態に示す振動工具1、上記変形例、別の態様、または各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
[態様21]
先端工具を駆動して被加工材に対して加工作業を行う作業工具であって、
ハウジングと、
前記作業工具の上下方向を規定する駆動軸周りに回転可能に前記ハウジングに支持され、前記先端工具を着脱可能な工具装着部を下端部に有するスピンドルと、
前記スピンドルと同軸状に前記上下方向に延在するシャフト部と、前記工具装着部の下側で前記シャフト部に結合されたクランプ部とを有し、前記スピンドルに対して前記上下方向に移動可能に配置されたクランプシャフトと、
前記クランプシャフトを前記スピンドルに対して上方に付勢し、前記クランプ部と前記工具装着部との間で前記先端工具をクランプするクランプ力を付与するように構成された付勢部材と、
付勢部材の付勢力を増大させ、前記クランプシャフトに伝達するように構成された伝達機構とを備えた作業工具。
本態様によれば、比較的小型な付勢部材を採用しても、クランプシャフトに対し、十分なクランプ力を付与することが可能となる。
[態様22]
前記伝達機構は、トグルジョイント式の伝達機構である。
本態様によれば、クランプシャフトに伝達する付勢力を効果的に増大させることができる。
[態様23]
前記伝達機構は、固定リンクと、可動リンクとを含み、
前記固定リンクの一端部は、前記スピンドルに対して前記上下方向に移動不能な第1シャフト周りに回転可能に連結され、
前記可動リンクの一端部は、前記固定リンクの他端部に、ジョイントを介して回転可能に連結される一方、前記可動リンクの他端部は、前記クランプシャフトに連結された第2シャフト周りに回転可能に連結されている。
【符号の説明】
【0153】
1:振動工具、10:ハウジング、101:アウタハウジング、103:インナハウジング、105:カバー部材、11:前端部、13:後端部、131:バッテリ装着部、15:把持部、2:解除レバー、21:操作部、23:回動シャフト、24:カム部、241:第1カム、242:第2カム、30:コントローラ、31:モータ、315:出力シャフト、35:伝達機構、351:偏心シャフト、354:偏心部、356:駆動軸受、358:揺動アーム、37:スイッチ、39:操作部、4:スピンドル、401:軸受、402:軸受、41:工具装着部、411:凹部、413:傾斜面、43:大径部、431:係合溝、433:ピン保持孔、45:小径部、451:ボール保持孔、47:ボール、50:作動シャフト、51:シャフト部、511:係合溝、513:ガイド孔、515:弾性部材、53:当接部、6:クランプ機構、60:クランプシャフト、61:シャフト部、611:ヘッド装着部、612:突起、613:係合溝、614:ボール保持孔、615:ガイド孔、62:ボール、64:クランプヘッド、65:ケース、66:押圧部、661:ベース板、663:突起、67:ロックリング、671:ロック孔、673:突起、675:弾性部材、7:付勢機構、70:クランプバネ、71:バネ受け部、711:本体、712:係合溝、715:突出片、717:ピン、73:倍力機構、730:リンク機構、74:固定リンク、741:本体、743:作動部、745:ピン、75:可動リンク、751:ピン、76:スライダ、761:本体、763:ピン、765:付勢バネ、77:支持部材、78:カバー部材、781:本体、782:貫通孔、783:ガイド溝、785:脚、80:運動変換機構、81:ピン、83:回動スリーブ、831:ガイド孔、832:下側端部、833:上側端部、835:突起、84:付勢バネ、87:押下げスリーブ、873:フランジ部、874:シール部材、875:ガイド孔、91:先端工具、911:凸部、913:傾斜面、93:バッテリ