(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】改変型ウイルス
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240119BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240119BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240119BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240119BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20240119BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240119BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240119BHJP
A61K 39/155 20060101ALI20240119BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240119BHJP
C12N 15/45 20060101ALI20240119BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20240119BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
A61K35/76
A61K35/761
A61K39/155
A61P31/12
C12N15/45
C12N15/86 Z
(21)【出願番号】P 2019563620
(86)(22)【出願日】2018-04-04
(86)【国際出願番号】 US2018026079
(87)【国際公開番号】W WO2018212842
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-03-29
(32)【優先日】2017-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムノス アリア,ミゲル エー.
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル,スティーブン ジェームス
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0024100(US,A1)
【文献】Plos one,2013年,Vol.8, Issue 1, e52306,pp.1-15
【文献】Molecular Therapy,2011年,Vol.19, No.10,pp.1813-1820
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸であって、該麻疹ウイルスHポリペプチドが、配列番号9に以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vの
19個を有する配列を含む、核酸、及び
麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸
を含む組換えウイルス。
【請求項2】
前記ウイルスが麻疹ウイルスである、請求項
1に記載のウイルス。
【請求項3】
前記ウイルスがアデノウイルスである、請求項1~
2のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項4】
前記コードされる麻疹ウイルスHポリペプチド及び前記モルビリウイルスFポリペプチドが前記組換えウイルスのエンベロープに組み込まれている、請求項1~
3のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項5】
前記モルビリウイルスFポリペプチドがイヌジステンパーウイルスFポリペプチドである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項6】
前記ウイルスがCD46依存性細胞侵入を示す、請求項1~
5のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項7】
前記ウイルスが、野生型ウイルスと比較してNectin-4依存性細胞侵入の低下を示す、請求項
6に記載のウイルス。
【請求項8】
前記ウイルスが、
麻疹ウイルスFポリペプチドを欠損する、前記麻疹ウイルスFポリペプチドをコードする核酸を欠損する、又は前記麻疹ウイルスFポリペプチド及び前記麻疹ウイルスFポリペプチドをコードする核酸の両方を欠損する、請求項1~
7のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項9】
前記ウイルスが、
野生型麻疹ウイルスHポリペプチドを欠損する、前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸を欠損する、又は前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチド及び前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸の両方を欠損する、請求項1~
8のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のウイルスを含む、哺乳動物において生存腫瘍細胞の数を低減するための組成物。
【請求項11】
前記哺乳動物がヒトである、請求項
10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の
ウイルスを含む、哺乳動物において麻疹ウイルスに対する免疫反応を刺激するための組成物。
【請求項13】
麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸であって、該麻疹ウイルスHポリペプチドが、配列番号9に以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vの
19個を有する配列を含む、核酸、及び
麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸
を含む核酸構築物。
【請求項14】
前記核酸構築物がウイルスベクターである、請求項
13に記載の核酸構築物。
【請求項15】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、及びラブドウイルスからなる群より選択されるウイルスに由来する、請求項
14に記載の核酸構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年5月16日に出願された米国出願第62/506,892号の優先権を主張する。先の出願の開示は、本出願の開示の一部とみなされ、その全体が本出願に組み込まれる。
【0002】
1.技術分野
本明細書は、抗体中和(例えば、麻疹ウイルスワクチンからの血清による抗体中和)に対する感受性が低下したウイルス(例えば麻疹ウイルス又はアデノウイルス)を作製及び使用するための方法及び材料に関する。
【背景技術】
【0003】
2.背景情報
麻疹ウイルス(MV)は、5歳未満の子供を中心に毎年多くの死亡を引き起こす。ワクチン接種を受けていない子供は、麻疹及び麻疹に関連する死亡のリスクが最も高い。特に、移行性の抗麻疹抗体価が非防御レベルまで低下しているが、まだ幼すぎて9~12ヶ月の小児に推奨される現在の麻疹ワクチンを接種できない小児は、麻疹及び麻疹に関連する死亡のリスクが高くなる可能性がある。
【0004】
さらに、麻疹血清陰性のがん患者に投与された場合、Edmonston系統MVは潜在的に強力な抗がん剤であることが証明されている。しかし、ほとんどの国では、がん患者の90%以上が血液中に抗麻疹抗体の防御力価を有している(例えば、自然麻疹感染又は麻疹ワクチン接種により)。麻疹免疫ヒト血清は、標的(腫瘍細胞)に到達する前にウイルスを中和することにより、腫瘍担持マウスに全身投与された腫瘍溶解性MVの治療効果を無効にする。したがって、大部分のがん患者は、全身投与された腫瘍溶解性MV療法の恩恵を受けることができない。
【発明の概要】
【0005】
本明細書は、抗体中和(例えば、モノクローナル抗MV抗体及び/又はMVワクチンからの血清による抗体中和)に対する感受性が低下したウイルス(例えばMV)を作製及び使用するための方法及び材料を提供する。例えば、本明細書は、野生型MV H及びFポリペプチド又は既存のMVワクチンのH及びFポリペプチドと比較して、野生型MV又は既存のMVワクチンに対して生成された抗MV抗体によって認識される能力が低下した組換えモルビリウイルス(例えば、組換えMV)を提供する。
【0006】
本明細書で実証されるように、置換型H遺伝子(例えば、複数の免疫優性エピトープが除外された複数変異型麻疹Hタンパク質をコードする)及び置換型F遺伝子(例えば、イヌジステンパーウイルスFタンパク質をコードするイヌジステンパーウイルスF遺伝子)を有する組換えMVは、ヒト麻疹免疫ヒト血清による中和に対して抵抗性である。本明細書に記載の組換えMVを使用して、市販の麻疹ワクチン、MVに基づくプラットフォームワクチン、及び腫瘍溶解性MVの主な制限、すなわち麻疹免疫ヒト血清による中和に対するそれらの感受性に対処し得る。
【0007】
一態様において、本明細書は、少なくとも6個のアミノ酸置換を含む麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸、及び麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸を有するウイルスを特徴とする。このウイルスは麻疹ウイルスであり得る。このウイルスは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、又はラブドウイルス由来のベクター)であり得る。麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19個)を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドは、E471K置換を有する配列番号9を含み得る。例えば、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、E471K、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうちの6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、又は36個)を有する配列番号1を含み得る:H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、V280I、N282K、G302R、E303G、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、T420A、V421A、L423P、F476L、N481Y、G491D、H495R、D505T、R533G、V562T、D574A、K576R、I594L、G603E、T609N、G613E、及びT614A。例えば、麻疹ウイルスHポリペプチドは配列番号3を含み得る。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドはE471K置換を有する配列番号1を含み得る。例えば、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうちの6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、又は36個)を有する配列番号1を含み得る:H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、V280I、N282K、G302R、E303G、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、T420A、V421A、L423P、E471K、F476L、N481Y、G491D、H495R、D505T、R533G、V562T、D574A、K576R、I594L、G603E、T609N、G613E、及びT614A。麻疹ウイルスFポリペプチドはイヌジステンパーウイルスFポリペプチドであり得る。ウイルスはCD46依存性細胞侵入を示し得る。ウイルスは、野生型ウイルスと比較してNectin-4依存性細胞侵入の低下を示し得る(又は示さない)。ウイルスは、麻疹ウイルスFポリペプチドを欠損し得る、麻疹ウイルスFポリペプチドをコードする核酸を欠損し得る、又は麻疹ウイルスFポリペプチド及び麻疹ウイルスFポリペプチドをコードする核酸の両方を欠損し得る。ウイルスは、野生型麻疹ウイルスHポリペプチドを欠損し得る、野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸を欠損し得る、又は野生型麻疹ウイルスHポリペプチド及び野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸の両方を欠損し得る。
【0008】
別の態様において、本明細書は、哺乳動物において生存腫瘍細胞の数を低減する方法を特徴とする。この方法は、少なくとも17個のアミノ酸置換を含む麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸、及び麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸を有するウイルスを哺乳動物に投与することを含む、又はそれから本質的になる。このウイルスは麻疹ウイルスであり得る。このウイルスは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、又はラブドウイルス由来のベクター)であり得る。麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19個)を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドは、E471K置換を有する配列番号9を含み得る。例えば、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、E471K、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうちの6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、又は36個)を有する配列番号1を含み得る:H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、V280I、N282K、G302R、E303G、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、T420A、V421A、L423P、F476L、N481Y、G491D、H495R、D505T、R533G、V562T、D574A、K576R、I594L、G603E、T609N、G613E、及びT614A。例えば、前記麻疹ウイルスHポリペプチドは配列番号3を含み得る。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドはE471K置換を有する配列番号1を含み得る。例えば、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうちの6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、又は36個)を有する配列番号1を含み得る:H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、V280I、N282K、G302R、E303G、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、T420A、V421A、L423P、E471K、F476L、N481Y、G491D、H495R、D505T、R533G、V562T、D574A、K576R、I594L、G603E、T609N、G613E、及びT614A。麻疹ウイルスFポリペプチドはイヌジステンパーウイルスFポリペプチドであり得る。ウイルスはCD46依存性細胞侵入を示し得る。ウイルスは、野生型ウイルスと比較してNectin-4依存性細胞侵入の低下を示し得る(又は示さない)。哺乳動物はヒトであり得る。
【0009】
別の態様において、本明細書は、哺乳動物において麻疹ウイルスに対する免疫反応を刺激する方法を特徴とする。この方法は、少なくとも17個のアミノ酸置換を含む麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸、及び麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸を有するウイルスを哺乳動物に投与することを含む、又はそれから本質的になる。このウイルスは麻疹ウイルスであり得る。このウイルスは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、又はラブドウイルス由来のベクター)であり得る。麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19個)を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドは、E471K置換を有する配列番号9を含み得る。例えば、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、E471K、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうちの6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、又は36個)を有する配列番号1を含み得る:H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、V280I、N282K、G302R、E303G、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、T420A、V421A、L423P、F476L、N481Y、G491D、H495R、D505T、R533G、V562T、D574A、K576R、I594L、G603E、T609N、G613E、及びT614A。例えば、前記麻疹ウイルスHポリペプチドは配列番号3を含み得る。ある場合には、麻疹ウイルスHポリペプチドはE471K置換を有する配列番号1を含み得る。例えば、麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうちの6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、又は36個)を有する配列番号1を含み得る:H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、V280I、N282K、G302R、E303G、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、T420A、V421A、L423P、E471K、F476L、N481Y、G491D、H495R、D505T、R533G、V562T、D574A、K576R、I594L、G603E、T609N、G613E、及びT614A。麻疹ウイルスFポリペプチドはイヌジステンパーウイルスFポリペプチドであり得る。ウイルスはCD46依存性細胞侵入を示し得る。ウイルスは、野生型ウイルスと比較してNectin-4依存性細胞侵入の低下を示し得る(又は示さない)。哺乳動物は小児(例えばヒト小児)であり得る。ヒト小児は抗麻疹抗体を経胎盤的に獲得していてもよい。
【0010】
別の態様において、本明細書は、野生型麻疹ウイルスHポリペプチドと比較して少なくとも6個のアミノ酸置換を含む麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸、及び麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸を含む(又はそれから本質的になる、又はそれからなる)核酸構築物を特徴とする。麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうち6個以上を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。麻疹ウイルスHポリペプチドは、表1に記載の抗原部位のそれぞれに少なくとも1つのアミノ酸置換を含み得る。野生型麻疹ウイルスHポリペプチドは、MVi/Madrid.SPA/50.10株の野生型麻疹ウイルスHポリペプチドであり得る。野生型麻疹ウイルスHポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含み得る。麻疹ウイルスHポリペプチドは配列番号3を含み得る。モルビリウイルスFポリペプチドはイヌジステンパーウイルスFポリペプチドであり得る。核酸構築物はウイルスベクターであり得る。ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、及びラブドウイルスからなる群より選択されるウイルスに由来するものであり得る。麻疹ウイルスHポリペプチドは、表2に記載の抗原部位のそれぞれに少なくとも1つのアミノ酸置換を含み得る。麻疹ウイルスHポリペプチドは、野生型麻疹ウイルスHポリペプチドと比較して位置E471に置換を含み得る。位置E471における置換はE471K置換であり得る。麻疹ウイルスHポリペプチドは、以下のアミノ酸置換を有する配列番号9を含み得る:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、E471K、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552V。核酸構築物は、麻疹ウイルスFポリペプチドをコードしない構築物であり得る。核酸構築物は、野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードしない構築物であり得る。
【0011】
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似又は同等の方法及び材料を使用して本発明を実施することができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。本明細書に記載されているすべての刊行物、特許出願、特許、及びその他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が支配する。さらに、材料、方法、及び例は例示のみであり、限定することを意図していない。
【0012】
本発明の1又は複数の実施形態の詳細は、添付の図面及び以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、中和を回避するためのMV-Hポリペプチドにコードされる変異を示す。
【
図2】
図2は、MV-Hの変異が中和抗体を回避するが、F特異的抗体がMVを中和することを示す。
【
図3】
図3は、MV、CDV、及びCDV H、CDV F若しくはその両方をコードするMVの概略図と、プールされたヒト血清全体又は特異的に吸収されたMV H/Fによる対応する中和感受性を含む。
【
図4】
図4は、CDV Fポリペプチドと組み合わせた変異型MV Hポリペプチドの向性(tropism)及び融合能力を示す。
【
図5】
図5は、複数の変異型MV Hポリペプチドが、複数のMV株に対する広範な中和抗体を誘導できることを示す。
【
図6-1】
図6は、天然MV Hポリペプチド(配列番号1)、天然MV Hポリペプチドをコードする核酸(配列番号2)、改変型Hポリペプチド(配列番号3)、天然MV Fポリペプチド(配列番号4)、天然MV Fポリペプチドをコードする核酸(配列番号5)、CDV Fポリペプチド(配列番号6及び7)、CDV Hポリペプチド(配列番号8)、及びMVi/Madrid.SPA/50.10[H1]の天然MV Hポリペプチド(配列番号9)を示す。
【
図7】
図7A~E。ステルスウイルスレスキューのための逆遺伝系:アンチゲノム発現プラスミドの最適化。(A)BHKレスキュー細胞のトランスフェクションの3日後にフローサイトメトリにより決定されたGFPを発現する細胞の数。(B)トランスフェクション後3日目のウイルス産生は、凍結融解レスキュー細胞(P
0)及びVero細胞での滴定によって決定した。(C)レスキュー効率とウイルス産生の相関関係を示す散布図(ピアソンr=0.789、p<0.05)。破線は95%の信頼区間を表す。(D)組換えウイルスのレスキュー。Vero細胞へのトランスフェクションの3日後にレスキュー細胞を積層し、3日後に合胞体形成を評価した。*は、顕微鏡写真の代表性の欠如を示す。矢印は、単一のGPF陽性細胞を示す。5回の半盲継代の後、ステルスウイルスは親ウイルスと同様に伝播し始めた。(E)この研究で使用されるプラスミド構築物。構築物間で重要な配列変異を示す。T
minは最小のT7プロモーターであり、GGGAGA(配列番号10)を付加するとより高いレベルの遺伝子発現が促進される(T
opt)。しかし、最適なT7プロモーターには、自己切断ハンマーヘッド型リボザイム(HHrbz)が必要である(Yun et al., J. Virol., 89(2):1242-53 (2015))。構築物1(配列番号11)及び構築物2(配列番号12)を示す。構築物3(配列番号13)は他で記載されている(Beaty et al., mSphere, 2(2):ppi00376-16 (2017))。構築物4(配列番号14)には、さらに5 '伸長因子1αコアプロモーター(hEFL-HTLV)があり、その後にキメライントロン配列が続く。すべての構築物は、MeVアンチゲノムの下流に肝炎デルタリボザイム(HDV)及びT7ターミネーターを有している。
【
図8】
図8A~B。CD46フットプリントのMeV-H遺伝子型H1への移植(Engraftment)。(A)左パネル。細胞受容体(SLAM、CD46及びnectin-4)を発現する又は発現しないCHO細胞に、示されたMeV-HをコードするGFP発現MeVをmoi0.1で感染させた。eGFP自己蛍光は、感染の72時間後に記録した。(A)右パネル。ワクチンMeV-Fと示されたMeV-Hの共発現によって引き起こされる細胞融合。48時間後、細胞をギムザで染色し、顕微鏡写真を撮影した。倍率x40。(B)スプリットルシフェラーゼアッセイにより決定される細胞間融合の動態。
【
図9】
図9A~B。Δ7ウイルスの抗原変異。(A)N結合糖が結合したMeV-HΔ7の二量体構造のモデル。N結合糖は、黒(N168-、N200-、N215結合)又はオレンジ色の球(N416結合)として描かれている。MeV-HワクチンMoraten株に関するアミノ酸の違いを示す。青:MeV-H遺伝子型H1特異的変化;赤:操作されたnAbエスケープ変異。(B)異なるMeV-Hタンパク質をコードするウイルスの抗原マップ。抗原性は、ウイルスプラーク減少微量中和(PRMN)アッセイによって決定し、Log
2 NT50の違いに従って色分けした。個々の中和曲線は
図19に示す。
【
図10】
図10A~D。BH030は、MeV-Hに新しい抗原部位を規定する。(A)種々の遺伝子型特異的MeV-Hをコードする組換えMeVに対するmAb BH030のPRMNアッセイ。データポイントは、Graph Pad Prismを使用した非線形回帰分析によってフィッティングした。阻害濃度50%(IC
50)は点線で示す。注目すべきことに、C2ウイルスは中和を選択的に回避(エスケープ)する。(B)推定BH030エピトープのアミノ酸配列アライメントであって、C2ウイルスの異なるアミノ酸置換を示す。コンセンサスは配列番号15として示される。(C)H1ウイルスは、Aウイルス及びA変異体(416DLS→NLS)と比較してBH030中和に対する抵抗性を示すが、Δ7ウイルスと同様に依然として中和される。E471EをΔ7に追加すると(ここではΔ8)、BH030エスケープが生じる。(D)mnAb BH030によって規定される推定抗原部位。Glu471は、部位IIbを覆うN416結合糖によってマスクされないため、部位IIbから部位IIIに拡大する推定上の新しい抗原部位Vを規定する。
【
図11】
図11A~C。ドリフトしたMeV-Hの免疫原性。(A)実験の概略図。C57BL/6マウスに5秒以内にGFP(陰性対照)又は種々のMeV-Hバリアントの発現プラスミドを静脈内注射した。1か月後、ワクチンウイルス(B)又はΔ8ウイルス(C)に対するPRMNアッセイにより、中和抗体の活性を評価した。各データポイントは単一個体を表す。ポイントの欠落は、動物の死又は材料の不足によるものである。2つの異なる免疫からのデータが含まれる。灰色の網掛けは、この疾患に対して非防御とみなされる中和抗体のレベルを示す。下の点線は、アッセイの検出限界を示す。
【
図12】
図12A~D。Δ8ウイルスは、より広範な抗MeV-Hポリクローナル反応を回避する。(A)左パネル、ワクチン及びMeV-H変異体ウイルス(Δ7及びΔ8)に対するウサギ抗MeV-Hポリクローナル抗体のPRMNアッセイ。NT
50値を計算するために、曲線を非線形回帰でフィッティングした。右パネル、ウイルス間の中和力価差(ND)。同じウサギ抗MeV-Hポリクローナル抗体を、遺伝子型特異的MeV-H遺伝子又はΔ8変異体をコードする組換えウイルスのパネルに対してさらに試験し、NT
50を左パネルのように計算し、NDをlog
2としてプロットした。2 log
2以上の差は、実質的に抗原性が異なると見なされる(点線)。(B)MeV糖タンパク質枯渇条件のモニタリング。未処理のヒト血清(条件0)のレベルと比較した、MeV糖タンパク質MeV-H及びMeV-Fのいずれかを発現しない又は発現している細胞と共にヒト血清をインキュベーションした後のIgG抗体レベル(
図20)。血清サンプルを培地で1:10に希釈し、続いてMel-JuSo細胞の単層上で4日間培養した(Mel-JuSo/wt、条件1;Mel-Ju-So-H、条件2;Mel-JuSo-F、条件3)。上清を回収し、FACS測定免疫蛍光アッセイによりMeV-F及びMeV-H特異的抗体の存在について試験した。点線は、負と見なされる値を囲む。(C)MeV-F特異的枯渇条件の後に残るVCA IgGレベル(U/mL)。(D)ワクチン及びΔ8ウイルスに対するポリクローナルヒト血清の中和能力。健康なワクチン接種を受けた若年成人から血清サンプルを採取し、未処理のままとするか又はMeV-F特異的抗体を枯渇させた。エプスタインバーウイルス(EBV)VCA IgGレベルを使用して、条件間の希釈係数を考慮して条件間の中和力を比較した。データは、個々の血清サンプルの平均として示される(N=6)。サンプル間の中和曲線の傾向線は、非線形回帰フィッティングによって決定した。*** P<0.0005、ウィルコクソンの符号付順位和検定。
【
図13】
図13A~B。ウイルス中和におけるMeV-H及びMeV-Hの役割。(A)プールされたヒト血清のMeV糖タンパク質特異性。
図12のように、条件とIgG特異的レベルを説明及び決定した。データはヒストグラムプロットとして示す。(B)エンベロープ交換ウイルスのPRNM。MeVエンベロープ糖タンパク質(ウイルス1、赤で表示)又はCDV(ウイルス2、青で表示)をコードする同質遺伝子rMeV並びにそれらの間のウイルスキメラ(ウイルス3及び4)は、対照細胞(非吸収)又はMeV-H若しくはMeV-F糖タンパク質を発現する細胞と共に予備インキュベートされたヒト血清に対する中和感受性のために使用した。代表的な合胞体を示す。
【
図14】
図14A-D。組換えMeVの特性決定。(A)組換えウイルスの複製動態。Vero/hSLAMに示されたウイルスをMOI0.03で感染させた。示された時間に、GFP自己蛍光及び明視野画像を記録し、重ねた。倍率x40。その後、細胞を培養培地に回収し、Vero/hSLAMでFFU/mとしてウイルス力価を測定した。A、H1、及びΔ8は、同等のMeV-H遺伝子及びワクチンMeV-Fを発現するMeVを示し、ステルスウイルスはCDV-FとともにMeV-HΔ8をコードするウイルスである。(B)ビリオンへのタンパク質の取り込み。10
4個のウイルス粒子を還元条件下で電気泳動し、関連する抗体でイムノブロットした。抗MeV-F抗体はCDV-Fと交差反応しないことに留意すること。(C)左パネル。MeV A(ワクチン)及びステルスウイルスに対する麻疹免疫ヒト血清のPRMN NT
50値。各線は単一個体を表す(N=14)。点線は、臨床疾患に対する防御の抗体レベルの閾値を示す。フェレット血清抗CDVを対照として使用した。***、ウィルコクソンの符号付順位和検定で決定されたP<0.001。右パネル、ワクチンウイルスとステルスのNT
50の相関。NT
50値は、log
2スケールでプロットする。P<0.001、ピアソン及びスピアマンの相関検定の両方。点線は、回帰分析の95%信頼区間を示す。R=0.51。(D)Aウイルス及びステルスウイルスに対するモルモットポリクローナルMeV抗血清のPRMN。NT
50値を計算するために非線形回帰を実施し、mIU/mLに変換した(Aウイルスの場合は3584、ステルスの場合は563)。
【
図15】
図15A~D。MeV-Hにおける受容体のフットプリントの比較。(A)MeV-H一次配列の概略図。左から右:C、細胞質テール;T、膜貫通ドメイン;ストークドメイン;β1-6、ベータプロペラブレード1-6。異なるドメインを描写するアミノ酸位置を示す。(BからD)MeV-HはパネルAと一致する虹色のリボンとして示されるが、受容体はシアン(SLAM、パネルA)、マゼンタ(nectin-4、パネルB)及び青(CD46、パネルC)で着色された半透明の表面として示される。球体は、それぞれシアン、マゼンタ及び青で着色された受容体実体SLAM(PDB:3ALZ)、nectin-4(PDB:4GJT)及びCD46(PDB:3INB)からの4.5Å以下の残基を示す。各MeV-H受容体複合体構造では、残基が他の受容体のいずれかとの相互作用にも関連する場合、球体は受容体の色とは異なって着色され、それに応じて着色される。3つすべての受容体との相互作用に関連する残基Y524はオレンジ色に着色されている。比較のために、MeV-Hの向きは、パネル全体で一定に保たれている。棒の表示は、受容体から4.5Å以下で規定される構造的に関与するが、機能的ではない(L464、L482、F483、L500、D530、Y543、S548)、及びその逆である(V451、N-Y481、K488、P497)(Mateo et al., J. Virol., 87(16):9208-16 (2013))残基を示す。
【
図16】
図16A~D。ステルスについて受容体の使用。(A)MeV受容体を発現する又は発現しないCHO細胞のパネルのステルスウイルス感染。感染はMOI0.03で行い、3日後に記録した。倍率x40。(B)CHOパネルにおけるMeV受容体の表面発現を決定するフローサイトメトリ。関連する抗体で細胞を染色し、Quantibrite BDで細胞あたりの分子数を決定した。(C)MeV-Fワクチン株とMeV-Hワクチン株又はMeV-HΔ8のいずれかとの共発現後の動態融合アッセイ。平均±標準偏差(n=3)。(D)MeV受容体-Fcのプラスチック結合MeV-Hタンパク質への結合、ODによってモニターした(
図18)。データポイントは、平均±標準偏差(n=3)として表し、一部位モードの総結合(R
2≧0.99)にフィッティングさせた。*P<0.05、***P<0.005、***P<0.0001。ボンフェローニの多重比較による一元ANOVA。
【
図17】
図17。vero細胞の動態融合アッセイ。MeV-Hワクチン株又はΔ8をMeV-Fワクチン株と同時トランスフェクトした。融合は、スプリットルシフェラーゼアッセイにより定量化した。MeV-F単独のトランスフェクションは陰性対照として機能した。3回実施した代表的な実験の平均±標準偏差。
【
図18】
図18。MeV-Hへの受容体結合の決定のためのELISA法。Strep-tactin XTで予めコーティングしたマイクロウェルを、MeV-Hを含む上清とインキュベートした後、抗FLAG抗体(対照)又は単一受容体-Fcとインキュベートした。結合は、HRP結合抗IgGによって明らかにし、光学密度によってモニターした。
【
図19】
図19。抗MeV-H mAbのPRMNアッセイ。結果は、mAbの非存在下でのウイルス対照の%として表す。データは、4回繰り返して実施した2つの独立した実験の平均±標準偏差として表す。
【
図20】
図20。Mel-JuSo細胞株でのMeV糖タンパク質発現を特性決定するフローサイトメトリ。MeV-H又はMeV-Fのいずれかを発現する親Mel-JuSO細胞及びMel-JuSO細胞を、抗MeV-H(C28-10-8)又は抗MeV-F(F3-5)mAbで染色し、結果をヒストグラムとして示す。
【
図21】
図21。IgG MeV-H及びMeV-F特異的抗体のレベルの相関分析。黒点は、単一のワクチン接種を受けた個体を表す。矢印は、プールされたヒト血清(Valley Biomedical)を示す。両側ピアソン相関で統計分析を実施した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本明細書は、核酸、ポリペプチド、並びに核酸及び/又はポリペプチドを含むウイルスを提供する。本明細書はまた、ウイルスを使用してがん患者を処置したり、乳児にワクチン接種を行って乳児をMV感染から防御する方法を提供する。例えば、本明細書は、MV ヘマグルチニン(H)ポリペプチド、MV Hポリペプチドをコードする核酸、CDV Fポリペプチド、CDV Fポリペプチドをコードする核酸配列、並びにかかる核酸及び/又はポリペプチドを含むウイルスを提供する。例えば、本明細書は、改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む組換えウイルス(例えば、MV又はアデノウイルス(Ad))を提供する。かかる組換えウイルスは、抗体中和に対する感受性の低下、膜融合を引き起こす能力の低下、及び/又は複製適合性(replicative fitness)の減少を示し得る。本明細書に記載の組換えウイルスは、野生型ウイルスのように効率的に細胞(例えば、Vero細胞及びHeLa細胞などのヒト細胞)中で増殖し得る。本明細書に記載のウイルスを使用して、がん患者を処置し、又はウイルスが抗体中和に対する感受性の低下を示すように乳児をワクチン接種し得る。ある場合には、本明細書に記載の組換えウイルスを使用して、既存の麻疹免疫を有する患者においてがんを処置し得る。ある場合には、本明細書に記載の組換えウイルスを使用して、中和抗麻疹抗体(例えば、経胎盤的に獲得された中和抗麻疹抗体)を有する子供をワクチン接種し得る。
【0015】
本明細書は、天然H及びFポリペプチドとは異種である、Hポリペプチド、Fポリペプチド、及びそれらをコードする核酸を提供する。
【0016】
本明細書で使用される用語「核酸」は、RNA及びDNAの両方、例えばcDNA、ゲノムDNA、及び合成(例えば、化学合成)DNAなどを包含する。核酸は二本鎖であっても又は一本鎖であってもよい。一本鎖核酸は、センス鎖であっても又はアンチセンス鎖であってもよい。さらに、核酸は環状であっても又は直鎖状であってもよい。
【0017】
「単離された核酸」とは、ウイルスゲノム中に存在する他の核酸、例えばウイルスゲノム中の核酸の一方又は両方の側に通常隣接する核酸、から分離された核酸を指す。核酸に関して本明細書で使用される用語「単離された」には、あらゆる非天然核酸配列が含まれ、なぜならかかる非天然配列は天然に見出されず、天然ゲノム中の直に連続する配列を有しないためである。
【0018】
単離された核酸は、例えばDNA分子であってよく、ただし天然ゲノム中でそのDNA分子と直に隣接する通常見出される核酸配列の1つが除去されている又は不在である。したがって、単離された核酸としては、限定されるものではないが、他の配列とは独立して別個の分子として存在するDNA分子(例えば、化学合成核酸、又はPCR若しくは制限エンドヌクレアーゼ処理によって生成されるcDNA若しくはゲノムDNA断片)、並びに核酸構築物(例えば、ベクター、例として発現ベクター、自己複製プラスミド又はウイルス(例えば、パラミクソウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、Ad、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、Ad随伴ウイルスなどのパルボウイルス、水疱性口炎ウイルスなどのラブドウイルス、若しくはワクシニアウイルス)など)に組み込まれた又は原核生物若しくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれたDNAが挙げられる。単離された核酸がウイルスである場合には、ウイルスは、例えば腫瘍溶解性ウイルス又はウイルスベクター(例えば、ウイルス遺伝子トランスファーベクター)であり得る。例えば、ウイルスベクターは、Ad、Ad随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、又はラブドウイルスに由来するベクターであり得る。さらに、単離された核酸としては、操作された核酸、例えばハイブリッド又は融合核酸の一部であるDNA分子などが挙げられる。数百から数百万の他の核酸の中に存在するDNA、例えばcDNAライブラリー若しくはゲノムライブラリ内の核酸、又はゲノムDNA制限消化物を含むゲル切片内の核酸は、単離された核酸とはみなされない。
【0019】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」とは、翻訳後修飾(例えば、リン酸化又はグリコシル化)に関わらず、アミノ酸残基の鎖を指す。
【0020】
本明細書において提供する改変型Hポリペプチドをコードする核酸は、天然MV Hポリペプチドとは異種である、又はGenBankアクセッション番号AAF85673(Version AAF85673.1, GI No. 9181880; 配列番号1)に示されるアミノ酸配列を有するHポリペプチドとは異種であるMV Hポリペプチドをコードし得る。天然MV Hポリペプチド(及びそれらをコードする核酸配列)の別の例は公のデータベースに見出すことができる。例えば、GenBankアクセッション番号KP191044(Version KP191044.1, GI No. 727347518; 配列番号2)は、野生型Hポリペプチドをコードする核酸配列を提供する。ある場合には、天然MV Hポリペプチドとは異種である及び/又は配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するHポリペプチドとは異種であると指定されるMV Hポリペプチドは、改変型Hポリペプチドとも称され得る。本明細書で使用される用語「Hポリペプチドアミノ酸配列」とは、配列番号1に示される配列に対して少なくとも85%(例えば、少なくとも85、90、95、99、若しくは100%)同一であるアミノ酸配列を指す。ある場合には、改変型Hポリペプチドは、改変された(例えば置換された)MV H糖タンパク質の免疫優性エピトープと関連した少なくとも6個(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25個若しくはそれ以上)のアミノ酸残基を有し得る。Hポリペプチドにおけるアミノ酸置換は、典型的にはHポリペプチドのその受容体への結合に関与する位置に位置する。
【0021】
ある場合には、改変型Hポリペプチドは、例えば表1に記載の6個の抗原部位のそれぞれに、1個以上のアミノ酸置換を有し得る。
【表1】
【0022】
ある場合には、改変型Hポリペプチドは、例えば表2に記載の8個の抗原部位のうち7個又は表2に記載の8個の抗原部位のそれぞれに、1個以上のアミノ酸置換を有し得る。
【表2】
【0023】
ある場合には、改変型Hポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する全長Hポリペプチドの、例えばアミノ酸D149、A158、T174、T176、T177、F180、L181、S189、R195、N200、R211、R212、V220、E235、S240、G243、L246、L249、H252、V259、F276、V280、D283、S285、L296、G302、E303、S305、P308、Q311、S316、S318、M333、Q334、P338、L339、V345、I346、L351、V357、A359、K364、V367、R377、M378、F382、A392、C394、P397、V412、T420、V421、L423、K424、H448、V450、K460、E471、I473、F476、K477、N481、G491、E/G492、H495、D505、L517、R533、I559、V562、I564、D574、Q575、K576、A587、G603、V608、T609、E611、G613、T614、R616、及び/又はR617に対応する位置に、6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25個、又はそれ以上)のアミノ酸置換を有し得る。例えば、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し得るが、但し、MV Hポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25個、又はそれ以上)を有する:H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、L276G、V280I、G302R、E303G、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、T420A、V421A、L423P、E471K、F476L、N481Y、G491D、H495R、D505T、R533G、I594L、V562T、D574A、K576R、G603E、T609N、G613E、及びT614A。
【0024】
ある場合には、改変型Hポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する全長Hポリペプチドの、例えばアミノ酸S189、E235、N238、L249、G302、Y310、Q311、R377、M378、D416、E471、N481、K488、G491、H495、D505、R533、S546、R547、及び/又はF552に対応する位置に、6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19個)のアミノ酸置換を有し得る。例えば、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有し得るが、但し、MV Hポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19個)を有する:S189、E235、N238、L249、G302、Y310、Q311、R377、M378、D416、N481、K488、G491、H495、D505、R533、S546、R547、及びF552。ある場合には、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有し得るが、但し、MV Hポリペプチドは、以下のアミノ酸置換のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20個)を有する:S189、E235、N238、L249、G302、Y310、Q311、R377、M378、D416、E471、N481、K488、G491、H495、D505、R533、S546、R547、及びF552。
【0025】
ある場合には、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、他に記載されているような1個以上の他のアミノ酸改変を含んでもよい(例えば、WO 2014/015242;Hu et al. (Virology, 192(1):351-4 (1993));Hummel and Bellini (J. Virol., 69(3):1913-16 (1995));Rima et al. (J. Gen. Virol., 78:97-106 (1997));Li and Qi (Arch. Virol., 147(4):775-86 (2002));Santibanez et al. (J. Gen. Virol., 86:365-74 (2005));及びTahara et al. (J. Virol., 82(9):4630-7 (2008))参照)。例えば、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドはまた、以下のアミノ酸置換のうち1個以上を含み得る:N238D、N282K、Y310C、N405S、D416N、K488E、S546G、R547G、及びF552V。ある場合には、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドはまた、以下のアミノ酸置換のうち1個以上を含み得る:N238D、N282K、Y310C、N405S、D416N、E471K、K488E、S546G、R547G、及びF552V。別の例として、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、以下の位置:S189、E235、N238、L249、G302、Y310、Q311、R377、M378、D416、N481、K488、G491、H495、D505、R533、S546、R547、及びF552のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19個)にアミノ酸置換を有する配列番号9を含み得る。例えば、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vのうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19個)を有する配列番号9を含み得る。別の例として、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、以下の位置:S189、E235、N238、L249、G302、Y310、Q311、R377、M378、D416、E471、N481、K488、G491、H495、D505、R533、S546、R547、及びF552のうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20個)にアミノ酸置換を有する配列番号9を含み得る。例えば、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、E471K、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vのうち6個以上(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20個)を有する配列番号9を含み得る。
【0026】
アミノ酸置換は保存的であっても又は非保存的であってもよい。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸を同じクラスのアミノ酸に置き換えるが、非保存的アミノ酸置換は、アミノ酸を異なるクラスのアミノ酸に置き換える。保存的置換の例としては、次のグループ内のアミノ酸置換が挙げられる:(1)グリシン及びアラニン;(2)バリン、イソロイシン、及びロイシン;(3)アスパラギン酸及びグルタミン酸;(4)アスパラギン、グルタミン、セリン、及びトレオニン;(5)リジン、ヒスチジン、及びアルギニン;(6)フェニルアラニン及びチロシン。ある場合には、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し得る。ある場合には、改変型MV Hポリペプチドは、モルビリウイルス属の別のメンバー(例えば、CDV、CeMV、FeMV、PPRV、PDV、及びRPV)に由来するHポリペプチドであり得る。例えば、改変型MV Hポリペプチドは、CDV Hポリペプチド(例えば、GenBankアクセッション番号AAC26995(Version AAC26995.1; 配列番号8)に記載の配列を有するポリペプチド)であり得る。
【0027】
本明細書で提供される改変型Fポリペプチドをコードする核酸は、天然MV Fポリペプチドに対して又はGenBankアクセッション番号AAF85672(Version AAF85672.1、GI No. 9181879; 配列番号4)に示されるアミノ酸配列を有するFポリペプチドに対して異種であるFポリペプチドをコードし得る。天然MV Fポリペプチド(及びそれらをコードする核酸配列)の例は公のデータベースに見出すことができる。例えば、GenBankアクセッション番号KP205324(Version KP205324.1、GI No. 727347524; 配列番号5)は、野生型Fポリペプチドをコードする核酸の例を提供する。ある場合には、天然MV Fポリペプチドとは異種である及び/又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するFポリペプチドとは異種であると指定されるMV Fポリペプチドは、改変型Fポリペプチドとも称され得る。本明細書で使用される用語「Fポリペプチドアミノ酸配列」とは、配列番号4に示される配列に対して少なくとも85%(例えば、少なくとも85、90、95、99、若しくは100%)同一であるアミノ酸配列を指す。ある場合には、改変型MV Fポリペプチドは、モルビリウイルス属の別のメンバー(例えば、CDV、CeMV、FeMV、PPRV、PDV、及びRPV)に由来するFポリペプチドであり得る。例えば、改変型MV Fポリペプチドは、CDV Fポリペプチド(例えば、GenBankアクセッション番号ABR08390(Version ABR08390.1、GI No. 148724186; 配列番号6)又はGenBankアクセッション番号ABR08390(Version ABO31365.1、GI No. 129770954; 配列番号7)に記載の配列を有するポリペプチド)であり得る。
【0028】
本明細書はまた、本明細書に記載の改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び本明細書に記載の改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む組換えウイルス(例えば、MV又はAd)を提供する。本明細書で提供される組換えウイルスはキメラウイルスであってもよい。ある場合には、組換えウイルスは、本明細書に記載の改変型MV Hポリペプチドをコードする核酸及び本明細書に記載の改変型MV Fポリペプチドをコードする核酸を含み得る。ある場合には、組換えウイルスは、本明細書に記載の改変型MV Hポリペプチド及び本明細書に記載の改変型MV Fポリペプチドを含み得る。
【0029】
ある場合には、本明細書で提供される組換えウイルスはモルビリウイルスであり得る。任意の適当なモルビリウイルスは、本明細書に記載の核酸(例えば、改変型MV Hポリペプチドをコードする核酸及び/又は改変型MV Fポリペプチドをコードする核酸)を含み得る。モルビリウイルス属の種としては、限定されるものではないが、MV(MV)、イヌジステンパーウイルス(CDV)、クジラ(cetacean)モルビリウイルス(CeMV)、ネコ(feline)モルビリウイルス(FeMV)、小反芻獣疫ウイルス(PPRV)、アザラシジステンパーウイルス(PDV)、及び牛疫ウイルス(RPV)が挙げられる。ある場合には、本明細書で提供されるモルビリウイルスはMVから取得される。MV株の例としては、限定されるものではないが、MVi/Madrid.SPA/50.10[H1]、Edmonston、及びMoratenワクチンが挙げられる。
【0030】
ある場合には、本明細書で提供される組換えウイルスはAdであり得る。任意の適当なAdは、本明細書に記載の核酸(例えば、改変型MV Hポリペプチドをコードする核酸及び/又は改変型MV Fポリペプチドをコードする核酸)を含み得る。ヒトにおいて、アデノウイルス科の種としては、限定されるものではないが、A種(AdA)、B種(AdB)、C種(AdC)、D種(AdD)、E種(AdE)、F種(AdF)、又はG種(AdG)が挙げられる。
【0031】
本明細書で提供される核酸は、任意の方法、例えば限定されるものではないが、一般的な分子クローニング及び化学核酸合成技法を用いて得ることができる。例えば、PCRを使用して、本明細書で提供される改変型Hポリペプチド又は改変型Fポリペプチドをコードする核酸を構築し得る。PCRとは、米国特許第4,683,195号に記載のものと同様に標的核酸を増幅する手順又は技法、及びそれに記載される手順のその後の変法を指す。
【0032】
本明細書で提供される核酸は、標準的な技法によりウイルスに組み込むことができる。例えば、組換え技法を使用して、本明細書で提供される改変型Hポリペプチド又は改変型Fポリペプチドをコードする核酸を感染性のウイルスcDNAに挿入し得る。ある場合には、核酸は、ウイルス粒子(例えば、細胞内に含まれる発現ベクター)に対して外因性であってよく、その核酸によりコードされるポリペプチドが細胞により発現され、その後新しいウイルス粒子(例えば、組換えウイルスなどの新しいウイルス粒子のエンベロープ)に組み込まれるようにすることができる。
【0033】
天然Hポリペプチドは通常、受容体結合活性及び血球凝集活性を有し、ウイルスFポリペプチドと機能的に協力して標的細胞間の融合を誘導する。このような融合は、Hポリペプチドと標的細胞の受容体(例えば、CD46、SLAM、nectin-4、デスモグレイン-2、又はシアル酸)との相互作用によって媒介され得る。
【0034】
(例えば、改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む)本明細書で提供される組換えウイルス(例えば、MV又はAd)は、天然Hポリペプチド及び/又は天然Fポリペプチドを有するウイルスを比較して、Nectin-4依存性細胞侵入の低下を有し得る(又は細胞侵入を有しない)。例えば、改変型Hポリペプチド及び改変型Fポリペプチドがウイルスに組み込まれる場合、ウイルスが示すNectin-4依存性細胞侵入のレベルは、対応する天然Hポリペプチドを含む野生型ウイルスが示すNectin-4依存性細胞侵入のレベルと比較して、低下している(又は排除されている)。本明細書に記載の改変型Hポリペプチド及び改変型Fポリペプチドを含むモルビリウイルス(例えば、MV)は、非改変型MV-Hの細胞(例えば上皮細胞)へのNectin-4依存性侵入の量と比較して、細胞(例えば上皮細胞)へのNectin-4依存性侵入の低下を示す(又は侵入がない)。Nectin-4を介した細胞侵入は、本明細書(実施例1参照)に記載のような標準的な技法により評価し得る。本明細書で提供される組換えモルビリウイルスは、CD46及び/又はSLAMへの結合能を保持し得る。したがって、改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含むウイルスは、CD46又はSLAM依存性細胞侵入を示し、かかるウイルスを含む細胞は、CD46又はSLAM依存的に融合し得る。CD46及び/又はSLAM受容体を介した細胞侵入は、WO 03/093431に記載のような標準的な技法により評価し得る。ある場合には、本明細書で提供される組換えモルビリウイルスは、CD46への結合能を保持し、SLAMへの結合能を保持しない。改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含むウイルスは、CD46依存性細胞侵入を示し、かかるウイルスを含む細胞はCD46依存的に融合し得る。
【0035】
本明細書で提供されるウイルスは弱毒化され得る。本明細書で使用される用語「弱毒化」とは、野生型ウイルスと免疫学的に関連しているが、それ自体は病原性ではないウイルスを指す。弱毒化MVは、例えば、古典的な麻疹疾患を生じない。弱毒化ウイルスは通常、複製能力があり、例えばヘルパーウイルス又はそのような追加機能をコードするプラスミド発現構築物によって提供される追加のウイルス機能なしに、宿主細胞に感染し複製することができる。
【0036】
適切な方法を使用して、本明細書で提供される核酸を含むウイルスを同定し得る。そのような方法には、限定されるものではないが、PCR、並びにノーザン及びサザン分析などの核酸ハイブリダイゼーション技術が挙げられる。ある場合には、免疫組織化学及び生化学的技法を使用して、特定の核酸によってコードされるポリペプチドの発現を検出することにより、ウイルスが特定の核酸を含むかどうかを判定し得る。
【0037】
本明細書で提供される改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む組換えウイルス(例えば、MV又はAd)を使用してがん患者を処置し得る。特定のウイルスは、そのウイルスの利用可能なコピー数を、通常少なくとも2倍(例えば、5~10倍、50~100倍、500~1000倍、又はさらには5000~10000倍まで)増やすために、宿主細胞中で増幅させ得る。ウイルスは、標準的な細胞培養培地(例えば、5%CO2で37℃で5~10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM又はRPMI-1640)で所望の濃度が得られるまで拡大し得る。ウイルス力価は、通常、培養中の細胞(例えば、Vero細胞)に接種することによりアッセイし得る。ウイルスは、皿から細胞を掻きとり、凍結/解凍(例えば、約2ラウンド)し、遠心分離することにより、感染細胞から回収し得る。透明な上清は「プラーク精製された」ウイルスを表す。
【0038】
ウイルスストックは、細胞単層の感染(例えば、37℃で約1.5時間の吸着)とそれに続く感染細胞の適切な培地(例えば、Opti-MEM;Gibco/Invitrogen, Carlsbad, CA)への掻きとり及び凍結/融解溶解によって作製し得る。ウイルスストックは分注して凍結することができ、治療有効用量よりも高い濃度で-70℃~-80℃で保存し得る。ウイルスストックは安定化溶液中で保存し得る。安定化溶液は、当技術分野で公知であり、限定されるものではないが、糖(例えば、トレハロース、デキストロース、グルコース)、アミノ酸、グリセロール、ゼラチン、グルタミン酸ナトリウム、Ca2+、及びMg2+が含まれ得る。
【0039】
ある場合には、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む組換えウイルス(例えば、MV又はAd)を使用してがんを処置し得る(例えば、腫瘍サイズを低減し、腫瘍成長を阻害し、又は生存腫瘍細胞の数を低減し得る)。本明細書で使用される「生存腫瘍細胞の数を低減する」とは、(1)腫瘍細胞の集団の成長速度を遅らせ、一定期間後、処置を受けた個体の腫瘍が処置なしの場合よりも小さくなるようにすること;(2)腫瘍細胞の集団の成長を完全に阻害し、処置後に腫瘍の成長を完全に停止させること;及び/又は(3)処置後に腫瘍が小さくなる又は消失さえするように腫瘍細胞の集団を減少させること、を包含することを意味する。
【0040】
本明細書で提供される改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む組換えウイルス(例えば、MV又はAd)は、例えばがん細胞(例えば、腫瘍)の群への直接注射又はがん細胞への静脈内送達により、がん患者に投与することができる。ウイルスによる処置に対して感受性のがん細胞の種類としては、神経細胞、グリア細胞、骨髄単球細胞などが挙げられる。本明細書で提供される方法は、複数の種類のがん、例えば限定されるものではないが、骨髄腫、黒色腫、神経膠腫、リンパ腫、肺、脳、胃、結腸、直腸、腎臓、前立腺、卵巣及び乳房のがんを処置するために使用し得る。本明細書で提供される改変型Hポリペプチド及び改変型Fポリペプチドを含む弱毒化MVを使用して、例えばリンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)を処置し得る。
【0041】
本明細書で提供されるウイルスは、がん細胞群への直接投与(例えば、腫瘍内)又は全身投与(例えば、静脈内)のいずれかにより、生体適合性の溶液又は薬学的に許容される送達媒体で患者に投与することができる。適切な医薬製剤は、使用及び侵入経路、例えば経皮的又は注射に部分的に依存する。そのような形態は、組成物又は製剤が標的細胞(すなわち、ウイルスが送達されることが望まれる細胞)に到達すること、又はその効果を発揮することを妨げるものであってはならない。例えば、血流に注入される医薬組成物は可溶性である必要がある。
【0042】
投与量は患者によって異なる(例えば、腫瘍のサイズによって異なる)が、ワクチンとして安全であることが証明されているウイルスの濃度(例えば、103pfu)を下限として設定し、有害な副作用の存在とともにがん細胞の成長の減少をモニターしながら1012pfuまでの高用量へ増加させることにより、有効量を決定し得る。治療上有効な用量は通常、がん細胞の数又は腫瘍のサイズの少なくとも10%の低減を提供する。増加用量研究を使用して、所定のウイルス処置に望ましい効果を得ることができる(例えば、Nies and Spielberg, “Principles of Therapeutics,” Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, eds. Hardman, et al, McGraw-Hill, NY, 1996, pp 43-62)。
【0043】
本明細書で提供されるウイルスは、例えば、約103pfu~約1012pfu(通常>108pfu)の範囲の用量で送達することができる。治療上有効な用量は、反復用量で提供し得る。反復投与は、臨床症状若しくは腫瘍サイズの観察又はモニタリングアッセイにより、がん細胞の群若しくは腫瘍が縮小を停止したか、又は腫瘍がまだ存在している間にウイルス活性度が低下していることが示されている場合に適している。反復用量(同じ又は異なる改変型ウイルスを使用)は、最初に使用したのと同じ経路又は別の経路で投与し得る。治療上有効な用量は、いくつかの別々の用量で(例えば、数日又は数週間間隔で)送達し得る。ある場合には、1~約12回の用量を提供し得る。ある場合には、徐放性製剤により治療上有効な用量の弱毒化MVを送達することができる。
【0044】
本明細書で提供されるウイルスは、持続放出を提供するデバイスを使用して投与することができる。ウイルスの持続放出のための製剤には、例えば、ポリマー賦形剤(例えば、膨潤性若しくは非膨潤性のゲル、又はコラーゲン)が含まれ得る。治療有効量のウイルスをポリマー賦形剤内に提供することができ、賦形剤/ウイルス組成物はがん細胞の部位(例えば、腫瘍の近く又は腫瘍内)に移植される。体液の作用により賦形剤が徐々に溶解し、一定期間にわたって有効量のウイルスが継続的に放出される。ある場合には、持続放出デバイスは、一連の交互の活性層とスペーサー層を含み得る。そのようなデバイスの各活性層は、典型的には賦形剤に包埋されたウイルスの用量を含み、各スペーサー層は賦形剤のみ又は低濃度のウイルス(すなわち、有効用量よりも低い)を含む。デバイスの各連続層が溶解するにつれて、パルス量のウイルスが送達される。スペーサー層のサイズ/製剤は、投与間の時間間隔を決定し、使用される治療計画に従って最適化される。
【0045】
本明細書で提供されるウイルスは直接投与することができる。例えば、皮膚を通して触知できる腫瘍(例えば、リンパ腫)にウイルスを直接注射し得る。このような方法では、超音波ガイダンスも使用し得る。ある場合には、ウイルスの直接投与は、カテーテルライン又は他の医療アクセスデバイスを介して実現でき、イメージングシステムと組み合わせて使用して、がん細胞の群の位置を特定し得る。この方法により、通常、医療アクセスデバイスに挿入されたガイドワイヤを使用して、移植可能な投与デバイスをがん細胞の群の近くに配置する。有効量のウイルスは、露出した手術野で見えるがん細胞の群に直接投与してもよい。
【0046】
ある場合には、本明細書で提供されるウイルスは全身的に送達され得る。例えば、全身送達は、注射を介して又は複数回用量の医薬の投与のために設計された静脈内送達デバイスを介して静脈内で達成し得る。そのようなデバイスには、限定されるものではないが、翼付き注入針、末梢静脈カテーテル、中線カテーテル、末梢挿入中心カテーテル、及び外科的に配置されたカテーテル又はポートが含まれる。
【0047】
ウイルス治療の経過は、臨床症状の変化(各特定の種類のがんについて当該分野で既知である)を評価することにより、又はがん細胞の群若しくは腫瘍のサイズを直接モニターすることによりモニターし得る。本発明のウイルスを使用してがんを処置する方法は、ウイルスの投与後に、がん細胞数、腫瘍サイズ、腫瘍特異的抗原レベル、及び/又は他の臨床症状が少なくとも10%減少した場合に有効と考えられる。固形腫瘍の場合、例えば、ウイルス治療の有効性は、治療の前後に腫瘍のサイズ又は重量を測定することにより評価し得る。腫瘍サイズは、直接(例えば、キャリパーを使用して)、あるいはイメージング技術を使用して(例えば、X線、磁気共鳴イメージング、コンピュータ断層撮影)、又は非イメージング光学データ(例えば、スペクトルデータ)の評価から測定することができる。がん細胞(例えば、白血病細胞)の群では、治療前後の患者の循環における白血病細胞の絶対数を測定することにより、ウイルス治療の有効性を判定し得る。ウイルス治療の有効性は、がん特異的抗原のレベルをモニターすることでも評価し得る。がん特異的抗原には、例えば、癌胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)、CA125、アルファフェトプロテイン(AFP)、炭水化物抗原15-3、及び炭水化物抗原19-4が含まれる。
【0048】
ある場合には、本明細書で提供される改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む組換えウイルス(例えば、MV又はAd)は、ヒト(例えば、9カ月齢未満の小児、又は15カ月齢未満の小児)にワクチン接種するために使用し得る。本明細書で提供されるMVをワクチンとして用いて9カ月齢未満又は15カ月齢未満の小児にワクチン接種する場合、ワクチンは、たとえその小児が移行性抗MV抗体を有するとしても、MV感染に対する防御的免疫反応を効率的に誘導し得る。例えば、改変型Hポリペプチドをコードする核酸及び改変型Fポリペプチドをコードする核酸を含む組換えMVを使用して、ヒトにおいてMVに対する免疫反応を刺激し得る。
【0049】
本明細書に記載の材料及び方法を使用して、任意の適切な患者を処置することができる。例えば、本明細書に記載の組換えMVを使用して処置されるがん患者又はワクチン接種される小児は、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ)、鳥類又は爬虫類であり得る。
【0050】
本発明を、以下の実施例でさらに説明するが、これは特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1:組換えMV
麻疹ウイルス(MV#1)を、以下のアミノ酸置換(配列番号1に関して):H17S、D149N、S189P、G211S、E235G、N238D、S240N、L249P、L276G、V280I、N282K、G302R、E303G、Y310C、Q311R、Q334H、A359T、K364N、R377Q、M378K、P397L、N405S、D416N、T420A、V421A、L423P、F476L、N481Y、K488E、G491D、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、F552V、V562T、D574A、K576R、I594L、G603E、T609N、G613E、及びT614Aを有する改変型Hタンパク質(配列番号3)を有するように作製した。この改変型Hタンパク質(配列番号3)は、野生型MVi/Madrid.SPA/50.10 (遺伝子型H1)株の麻疹ウイルスヘマグルチニンタンパク質(配列番号9)に19個の点変異を導入することにより作製した。その19個の点変異は、S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vである。
【0052】
MVワクチン株(MV#2)及び組換えMV#1を、96ウェルプレートに播種したVero/hSLAM細胞の感染前に、
図1に示すmAbとともに37℃で1時間インキュベートした。感染したeGFP陽性巣の数を感染48時間後に4回重複でカウントし、nAbの非存在下での感染したEGFP陽性巣の数の割合として表した。MV#1は、複数の抗原部位を標的とする中和抗体を回避した。MV#1の回避中和(escaping neutralization)に寄与したHタンパク質の改変を
図1に示す。
【0053】
MV#1のヒト抗麻疹抗血清に対する抵抗性を調べるため、MV糖タンパク質特異的抗体(例えば、H反応性及びF反応性)抗体を麻疹免疫ヒト血清から枯渇させた。血清サンプルを培養培地(ウシ胎児血清(FBS)を含まないRPMI 1640(CORNING, Manassas, VA, USA))で1:10に希釈し、続いてMV糖タンパク質を発現する又は発現しないMel-JuSo細胞の単層上で4日間培養した。上清を回収し、安定的にトランスフェクトされたヒトメラノーマ細胞Mel-JuSo/MV-H又はMel-JuSO/MV-Fを標的細胞として使用して、FACS測定免疫蛍光アッセイによりH又はF又はVCA特異的抗体の存在について1:100最終希釈で試験した。エプスタインバーウイルス(EBV)VCA特異的抗体は、市販のELISA(IBL International, Hamburg, Germany)によって定量化した。MV#1は、麻疹免疫ヒト血清中のF反応性抗体によって効率的に中和された。蛍光プラーク減少微量中和アッセイを使用して、ワクチン接種時に誘導される抗MV-H免疫を決定した。MV#1は、ヒト抗麻疹抗体反応のH反応性成分に抵抗性であった。
【0054】
MV Hタンパク質特異的抗体とは別に、MV Fタンパク質特異的抗体もMV中和に重要であることを確認するために、別の野生型Edmonton株麻疹ウイルス(MV#3)は、野生型Edmonston株MVのMV Fタンパク質を野生型Ondersterpoort株CDV Fタンパク質で置き換えることにより作製した。他の2つの麻疹ウイルス(MV#4及びMV#5)を作製した。MV#4は、野生型Edmonston株MVのMV Hタンパク質を野生型CDV Hタンパク質で置き換えることにより作製した。MV#5は、MV#4のMV Fタンパク質を野生型(すなわち、Ondersterpoort株)CDV Fタンパク質で置き換えることにより作製した。MV#3、MV#4及びMV#5ウイルスの概略図を
図2に示す。MV#2、MV#3、MV#4及びMV#5ウイルスを次のように試験した。Vero/cSLAM細胞にさまざまなウイルスを感染させ、感染の48時間後に顕微鏡写真を撮影した。中和アッセイを実施し、MV HとMV Fの両方が中和抗体を誘発することが明らかとなった。
【0055】
CDV Ondersterpoort及びMVH#1の増殖性の異型融合。MV受容体を発現する又はしないCHO細胞を24ウェルプレートに播種し、MVH#1(1μg)及びFタンパク質(1μg;MVワクチン株、MVF;Ondersterpoortワクチン株、CDV F)をコードするプラスミドを同時トランスフェクトした。合胞体形成は24時間後に評価した。合胞体形成活性の結果は、CDV FがMVH#1指向的に共発現された場合、合胞体形成を損なわずに融合を誘発できることを実証している。MVH#1及びCDV Fの両方をコードするウイルスをレスキューし、CD46を発現する細胞の単変性(monotropism)を確認した。
【0056】
MV受容体の表面発現パターンは、フローサイトメトリを使用して調べた。感染の2日後、増殖性感染を顕微鏡で評価した。これらの結果は、MV#1及びCDV FをコードするMVがCD46受容体を発現する細胞上で効率的に増殖することを実証した。
【0057】
C57BL/6マウス(Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME, EEUU)を、MV#1由来のMVHタンパク質をコードするpCGプラスミド(5μg)を用いた流体力学的送達により免疫した。生成された抗体の中和能力は、頸静脈からの採血の4週間後に評価した。マウス血清を熱で不活化し、Opti-MEMで連続希釈した。異なるMVH遺伝子タンパク質をコードする等量の各ウイルスを、30PFU/ウェルで96ウェルプレート(Costar Corp., Cambridge, MA, USA)で2倍連続の様々な希釈でそれぞれのポリクローナル抗体と混合し、37℃で1時間インキュベートし、80~90%コンフルエントなVero/hSLAM細胞に接種した。2日間の培養後、eGFP自家蛍光を蛍光顕微鏡で可視化し、ウイルス感染性を100%ブロッキングする高希釈として中和力価を与えた。これらの結果は、MV#1が、MVの野生型株を交差中和するH糖タンパク質に対する中和抗体反応を誘発したことを実証している。
【0058】
実施例2:さらなる組換えMV
この実施例2では、MVはMeVと称し、MV#1はMeVΔ7、Δ7又はΔ8と称し、MV#2はMeV#1と称し、MV#3はウイルス3と称し、MV#4はMeV#4と称し、MV#5はMeV#2と称する。これらのいくつかの合成は、実施例2で再び説明し、実施例1で提示されたデータの一部は実施例2でも提示する。さらに、MeVΔ7を使用してΔ8ウイルスを生成した。
【0059】
細胞及びウイルス
Vero細胞(CCL-81, ATCC)、安定にトランスフェクトされたVeroヒト(Vero/hSLAM)(Ono et al., J. Virol., 75(9):4399-401 (2001))及びイヌ(Vero/dogSLAM)(von Messling et al., J. Virol., 77(23):12579-91 (2003))SLAMを5%(vol./vol.)の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)及び0.5mg/mLのジェネティシン(G418; Corning)(Vero/hSLAM)又は1mg/mLのゼオシン(ThermoFisher, Walthman MA)(Vero/dSLAM)を添加したダルベッコの修正最小必須培地(DMEM)(HyClone, GE Healthcare Life Science)で増殖させた。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CHO-CD46(Nakamura et al., Nat. Biotechnol., 22(3):331-6 (2004))、CHO-SLAM(Tatsuo et al., Nature, 406:893-6 (2000))、及びCHO-N4(Liu et al., J. Virol., 88(4):2195-204 (2014))を記載のとおりに培養した。ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)を、DMEM-10%FBSで維持した。ウイルスは他で説明されているように増殖させた(Munoz-Alia et al., J. Virol., 91(11):e00209-17 (2017);Munoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))。
【0060】
組換えMeVの構築物及びレスキュー
組換えMeVは、p(+)MeV
vac2(EGFP)Nプラスミドに含まれるMoraten/Schwartzワクチン株の分子cDNAクローンに基づく(del Valle et al., J. Virol., 81(19):10597-605 (2007))。このプラスミドでは、強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP)をN遺伝子の上流に挿入した。細菌内での増幅時のプラスミド不安定性を回避するために、2つのアプローチに従って段階的にプラスミド骨格をpSMART(登録商標)LCkanベクター(Lucigen, Middleton, WI)に置き換えた。最初のアプローチでは、SacII及びNotI制限酵素を含むマルチクローニングサイトをベクターに付加した。次に、最適なT7プロモーターとそれに続くハンマーヘッド型リボザイム(HHrbz)(
図7)を、フォワードプライマーに直接配列を挿入することによりウイルスゲノムの上流に挿入し、P遺伝子の開始に位置する特有の内部制限部位SacIIまでMeVゲノムを増幅した。次に、p(+)MV
vac2(EGFP)NプラスミドのSacII-NotI断片を、同様に消化されたpSMART(登録商標)LCkanベクターに挿入した。2番目のアプローチでは、ヒト伸長因子1αコアプロモーター、キメライントロン、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、HHrbz及びクローニングサイトを含むカセットを合成し、ベクターに連結した。すべてのプラスミドの増殖は、30℃で増幅させた大腸菌Stbl2
TM細胞(Invitrogen, 10268019)で行った。
【0061】
エンベロープ交換MeVを生成するために、元はpCGプラスミドに含まれていたCDV Ondersterpoortワクチン株H(CDV-H)及びF(CDV-F)遺伝子(von Messling et al., J. Virol., 75(14):6418-27 (2001))を使用した。MeV骨格からMeV-Hを置き換えるために、部位特異的変異誘発(QuikChange部位特異的変異誘発キット、Agilent)を最初に使用してCDV-HのSpeI部位を除去し、次にヒト血清中の交差反応性中和抗体による結合を減らすためにY537D置換を導入した(Zhang et al., Virology, 482:218-24 (2015))。PacI及びSpeI制限部位(下線)は、それぞれフォワードプライマー5’- ttaattaaaacttagggtgcaagatcatcgataatgctcccctaccaagacaagg-3’及びリバースプライマー5’-actagtgggtatgcctgatgtctgggtgacatcatgtgattggttcactagcagccttaatggtggtgatggtggtggctcccccttgcggccgcggccggctgggccgctctaccctcgatacggttacatgagaatcttatacggac-3’を使用するポリメラーゼ連鎖反応により遺伝子の開始と終了に導入し、非翻訳領域(UTR)は変更しなかった。PCR産物をPacI及びSpeIで消化し、MeV骨格にクローニングした。MeVアンチゲノムプラスミドからMeV-Fを置き換えるために、pCG-CDV-FをHpaI/SpeIで消化し、同様に消化されたpCG-MeV-Fに挿入した。次に、このプラスミドのNarI/SpeI断片を使用して、MeVのものを置き換えた。
【0062】
組換えMeV(rMeV)の回収は、Lipofectamine LTX/PLUSトランスフェクション試薬(Invitrogen)を使用して、MeV分離株遺伝子型B3.1(Munoz-Alia et al., Virus Res., 196:122-7 (2015))由来のプラスミドを支持するrMeVアンチゲノムプラスミド構築物N、P及びLの同時トランスフェクションと、コドン最適化T7 RNAポリメラーゼ(Behur Leeより入手、Addgene plasmid 65974)により行った。トランスフェクト細胞はVero/hSLAM細胞と共培養し、その後ウイルスを増幅した。組換えMeVの身元(identity)は、感染細胞からのRNA抽出後のサンガー配列決定により確認した。
【0063】
融合アッセイ
細胞(6ウェルプレートで5×105/ウェル)にFugene HD(Promega)を使用して、ワクチン株MeV-Fをコードする(1μg)pCGプラスミドと適切なMeV-HをコードするpCGを同時トランスフェクトした。Hema-Quik染色(Fisher Scientific 123-745)の24時間後に融合活性を評価した。
【0064】
細胞融合を定量化するために、他で記載されているようにデュアルスプリットルシフェラーゼアッセイを使用した(Saw et al., Methods, 90:68-75 (2015))。簡単に説明すると、黒色96ウェルプレート中のエフェクターBHK細胞(3×104)に、それぞれ33ngのMeV-H及びMeV-F発現プラスミドと、スプリットルシフェラーゼプラスミドの1つDSP8-11(Z. Matsudaより入手)を同時トランスフェクトした。対照として、MeV-F及びDSP8-11プラスミドのみをトランスフェクトした。標的細胞、CHO細胞、及びそれぞれの麻疹ウイルス受容体を発現するCHO細胞の6ウェルプレートのウェルあたり2×105個の細胞に、1.5μgの他のデュアルスプリットレポータープラスミド(DSP1-7)をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、標的細胞をVersene(Life Technologies)で剥離し、1:1000希釈の細胞透過性ルシフェラーゼ基質EnduREN(Promega)を添加したFusion培地(フェノールレッドを含まないDMEM-F12+40mM HEPES)中でエフェクター細胞と共培養した。細胞融合及び標的細胞とエフェクター細胞間の細胞質含有物の混合から生じる発光を、示された時点でTopcount NXT Luminometer(Packard Instrument Company, Meriden CT)でモニターした。データは、各Hプラスミドの3回の重複の平均及び標準偏差を表す。
【0065】
細胞表面分子のFACS分析及び定量
細胞を洗浄し、Versene(Gibco)を使用して剥離し、すぐにフィコエリトリン結合抗体抗SLAM(FAB1642P; R&D Systems)、抗CD46(FAB2005P; R&D Systems)、及び抗nectin-4(FAB2659P; R&D Systems)、又は対照アイソタイプ抗体(IC0041P; R&D Systems)と共にインキュベートした。4℃で1時間インキュベートした後、細胞を再度洗浄し、FACSCantoフローサイトメトリシステム(BD Bioscience)で蛍光を測定した。細胞あたりの受容体の数は、較正ビーズ(BD QuantiBrite; BD Biosciences)を参照して推定した。
【0066】
組換えタンパク質及び結合アッセイ
CD46エクトドメイン(残基35~328)のコード配列をPCRによりpGEM-CD46ベクター(Sino Biologicals Inc., HG12239-G)から増幅し、In-Fusionクローニングキット(Clontech)を使用してマウスIgκ鎖リーダー配列及びFc領域の5'末端にある3Cプロテアーゼ切断配列とインフレームでpFUSEベクター(pfc1-hg1e3; Invivogen)に挿入した。CD46-Fc、SLAM-Fc、及びnectin-4-Fc(Munoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))組換えタンパク質はExpi293細胞(Gibco)で発現し、他で記載されているように培養上清から精製した(Munoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))。組換え可溶性MeV-Hの発現及び精製は、他で記載されているように行った(Munoz-Alia et al., J. Virol., 91(11):e00209-17 (2017))。受容体-FcのMeV-Hへの結合は、他で記載されている酵素結合免疫吸着アッセイによって決定した(Munoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))。450nmでの吸光度をInfinite M200Proマイクロプレートリーダー(Tecan)で測定した。Prismソフトウェア(GraphPad)を使用してデータを分析し、一部位結合飽和モードに調整して、半飽和濃度(見かけのKd値[解離定数])を決定した。報告された値は優れた適合性を示した(R2>0.99)。
【0067】
ウイルスタンパク質含量
ウイルス調製物をDTTの存在下で加熱し、4~12%のビス-トリスポリアクリルアミドゲルに分画し、PDVF膜にトランスファーした。次に、ブロットを、コンジュゲート二次ウサギ抗体(ThermoFisher, #31642)でプローブした抗GFP、抗MeV-Hcyt、抗MeV-N及び抗MeV-Fで分析した。ブロットは、SuperSignal Wester Pico化学発光基質(ThermoFisher)で明らかにし、ChemiDocイメージングシステム(BIO-RAD)で分析した。
【0068】
血清学的アッセイ
ウイルス中和アッセイは、他で説明されている蛍光ベースのプラーク減少微量中和(PRMN)アッセイに基づいて実施した(Munoz-Alia et al., J. Virol., 91(11):e00209-17 (2017);Munoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018);及びMunoz-Alia et al., Virus Res., 236:30-43 (2017))。各アッセイは、アッセイごとに4回重複して異なる日に少なくとも2回繰り返した。GraphPadソフトウェア(Prism 7)を使用してS字型用量反応(可変勾配)にデータをフィッティングした後、50%阻害濃度(IC50)を計算した。
【0069】
ウサギ抗MeV-H抗血清は、ワクチン株からのMeV-Hを発現するアデノウイルスによる免疫によって生成された(Lech et al., PLoS One, 8(1):e52306 (2013))。
【0070】
以下の試薬は、BEI Resources、NIAID、NIHから入手した:ポリクローナル抗イヌジステンパーウイルス、Lederle無毒(抗血清、フェレット)、NR-4025;及びポリクローナル抗麻疹ウイルス、Edmonston(抗血清、モルモット)、NR-4024。
【0071】
マウスモノクローナル抗ヘマグルチニン抗体は、他で記載されているように作製し特性解析した(Munoz-Alia et al., Virus Research, e00209-17 (2017);Ziegler et al., J. Gen. Virol., 77(Pt 10):2479-89 (1996);Fournier et al., J. Gen. Virol., 78:1295-302 (1997);Ertl OT. Immunodominant regions and novel functional domains on the measles virus hemagglutinin protein. Germany: Eberhard Karls University; 2003;Hu et al., Virology, 192:351-4 (1993);及びMasse et al., J. Virol., 78(17):9051-63 (2004))。ポリクローナル抗体は、20μgのプラスミドDNAによるC57BL/6マウスの遺伝子ベースの流体力学的注入(Liu et al., Gene Ther., 6(7):1258-66 (1999))によって生成した。
【0072】
17~18歳の健常対象のErasmus MC血清バンクからヒト血清を収集した(de Swart et al., J. Virol., 79(17):11547-51 (2005))。彼らはおそらく野生型MeVに決して曝されず、14ヶ月齢で一価麻疹ワクチン接種を受け、9歳で麻疹-おたふく風邪-風疹ワクチン接種を受けた。すべてのポリクローナル血清及びmAbを含む腹水は、試験前に熱不活化(30分、56℃)した。
【0073】
エプスタインバーウイルス(BCA)IgG力価は、市販のアッセイ(IBL International GMbH、カタログ番号57351)によって決定さした。MeV特異的IgGレベルを決定するためのアッセイは、他で説明されているように実施した(de Swart et al., J. Virol., 79(17):11547-51 (2005);及びde Swart et al., J. Virol. Methods., 71:35-44 (1998))。
【0074】
構造モデリング
MeV-Hステルスのモデルは、プログラムPhyre2を使用して90%を超える信頼度で生成された(Kelley et al., Nat. Protoc., 10(6):845-58 (2015))。次に、GlyProサーバ(http://www.glycosciences.de)を使用したin silicoグリコシル化のために構造を提出した。これは、無秩序な領域の部分である、N168及びN187を含む予測されるすべてのN-グリコシル化部位で複雑な五分岐N-グリカンモデルを生成した。PyMOLソフトウェア(http://pymol.org)を使用してMeV-H/CD46結晶学的共構造(PDB 3INB)のCD46受容体を重ね合わせ、操作した。
【0075】
統計学的解析
統計学的有意性は、適切な統計学的検定に従ってGraphPad Prism 7で計算した。
【0076】
結果
MeV-Hへの抗原ドリフトのモデリング
MeV-Hには7つの主要な抗原部位があり、これらの部位のうち4つまでの複数の破壊はポリクローナル抗体の中和を無効にしない(Munoz-Alia et al., J. Virol., 91(11):e00209-17 (2017);Lech et al., PLoS One, 8(1):e52306 (2013);及びMunoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))。B細胞の免疫優位性の欠如により、すべての抗原部位の除去により、中和不可能な変異体が生成される可能性がある。これを調査するために、MeV-Hについて記載されているすべてのエピトープを体系的に破壊した。実験計画は、遺伝子型H1のMeV-H背景に自発的中和mAbエスケープ変異体選択を組み込むことに基づいている。この特定の株は、最も抗原的に高度なMeV-Hの1つであるという以前の観察に基づいて選択され(Munoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))、これは、それ以外の場合は剛性のMeV-Hタンパク質の変更を最小限にし得る(Fulton et al., Cell Rep., 11(9):1331-8 (2015))。nAb結合領域のリストを作成し、それらの領域の破壊を、ここではΔ7という名前(実施例1ではMV#1としても知られる)の単一のMeV-Hと合わせた(表3)。
【0077】
【0078】
MeV-Hへの向性(Tropism)の操作
抗原部位III(受容体結合部位、RBS)の変異は野生型向性(SLAM及びnectin-4)と互換性がないため、いくつかのアミノ酸置換:N481Y(Lecouturier et al., J. Virol., 70(7):4200-4 (1996))、H495R(Okada et al., J. Virol., 83(17):8713-21 (2009))、及びS546G(Shibahara et al., J. Gen. Virol., 75:3511-6 (1994))を介して受容体特異性をCD46にスイッチする計画とした。受容体依存性融合活性におけるアミノ酸置換の影響を評価するために、ワクチン由来のMeV-Fと組み合わせてMeV-H変異体の一過性発現を行った。明らかな合胞体形成がなくても細胞間伝播が起こる可能性があるため、対応する組換えMeVは逆遺伝学によってもレスキューした(Langedijk et al., J. Virol., 85(21):11242-54 (2011))。結果を
図8に示す。MeV-Hワクチン株(A)を使用した場合、SLAM、CD46、又はnectin-4のいずれかを発現するCHO細胞でウイルスの侵入と細胞融合の両方が観察された。同様に、MeV-H H1は、SLAM及びnectin-4発現細胞でのウイルス侵入と合胞体形成を可能にした。後者の背景にN481Y、H495R、又はH495R/S546Gを導入しても、一過性トランスフェクションアッセイで見られるように、CD46依存性の融合活性は有意に増加しなかった。しかし、N481Y及びH495R/S546G変異体の合胞体形成がない場合、ウイルスの侵入が観察された。N481Y変異体にH495Rを含めると、CD46依存性融合のレベルがMeV-H Aで観察されるレベルにまで回復した。この変異体にS546Gを追加すると、CD46依存性融合がほぼ2倍に増強され、同様の増加がN481Y/S546G変異体で観察された。それにもかかわらず、トリプル変異体(N481Y/H495R/S546G)が使用された場合にのみCD46依存性増強感染が観察されたため、この組み合わせをnAbエスケープ変異の背景として選択した。
【0079】
MeV-Hは、30種の既知マウスモノクローナル抗体による中和に対して全身的に抵抗し得る
表3は、MeV-H球状ドメインエスケープウイルスを生成するための基礎として最初に使用した。この情報とトリプルCD46向性置換を一緒に使用して、Δ7ウイルスを直接操作し、これまでに説明された7つの操作上の非重複抗原部位をすべて破壊する(Φ、Ia、Ib、IIa、IIb、III、及びIV)(
図9A)。導入された変異の数が各部位に特異的な他のnAbの中和を無効にするのに十分かどうかを判断するために、MeV-HA、H1及びΔ7を有するウイルスの中和感受性を30種のmAbのパネルに対して決定した。結果を
図9Bに要約し、これは、Aウイルスが試験した30種のnAbすべてで中和されたが、この数はH1ウイルスでは18種に減少したことを示す。反対に、Δ7ウイルスはnAb BH030によってのみ中和された。
【0080】
Δ7及びH1ウイルスの両方がBH030によって同様に中和されたという事実は、Δ7に導入された変異がこのnAbエピトープを排除しなかったことを示した。しかし、両方のウイルスは、Aウイルスと比較した場合、中和に対する感受性の18倍低下を示した(IC50 1312ng/mL 対 71.6ng/mL)。
【0081】
この表現型が他の野生型特異的MeV-Hタンパク質に適用できるかどうか、又は使用したH1遺伝子型バックグラウンドの特性であるかどうかを判断するために、以下を実施した。中和分析は、A、B3.1、C1、D4、D6、D7、D8、D9、F、及びGウイルスと比較して、H1ウイルスがBH030による中和に対して実際にある程度の抵抗性を保持していることを示した。ただし、C2ウイルスは中和感受性の完全な欠如を示した(
図10A)。MeV-Hのアミノ酸配列の配列分析と分子構造に基づいて、E471K変異がnAb抵抗性の候補として同定された(
図10B)。これらの予測を確認するために、E417K変異をΔ7ウイルスに挿入し(この新しいウイルスを「Δ8ウイルス」と称する)、nAb BH030に対するΔ8ウイルスの中和感受性を評価した。Δ7ウイルスとは異なり、Δ8ウイルスはBH030を介した中和からの完全な回避(エスケープ)を示した(
図10C)。興味深いことに、E471は抗原部位IIbに割り当てられた領域(Tahara et al., J. Virol., 87(1):666-75 (2013)においてII、Tahara et al., Viruses, 8(8): pii:E216 (2016)において「糖に覆われたエピトープ(sugar-shielded epitope)」)内にあり、これはいくつかの遺伝子型に存在するN416結合糖によってマスクされていると規定されている(
図10D)。N416結合糖がBH030中和から保護されないことを確認するために、D416N変異Aウイルス(Munoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))の中和感受性を試験した。Δ7ウイルスもN416糖を有していたため、中和に対する抵抗性は観察されず、このことは、BH030が、操作上重複しない新しい抗原部位(ここではVとして設計され、おそらく抗原部位IIbとIIIの間に広がる可能性がある)を標的とし得ることを示唆している(
図10D)。これらの結果は、主要な抗原部位の重要な残基の変異を組み合わせて、30種の中和抗体の大きなパネルの中和回避をもたらすことができることを示した。
【0082】
MeV-Hへのエピトープ排除は交差中和を廃止する
MeV-HのB細胞エピトープ破壊がその抗原性に影響するかどうかを判断するために、以下を実施した。マウスにMeV-Hをコードするプラスミドの流体力学的注射を与え、1ヶ月後に抗体反応を評価した(
図11A)。中和アッセイにより、MeV-HΔ7で免疫したマウスはMeV-HAよりも中和抗体の力価が低いことが示されたが、おそらく変動のために統計的有意性に達しなかった(
図11B)。それにもかかわらず、MeV-HΔ8は検出可能なレベルを生成することができなかった(
図11C)。MeV-HΔ8がΔ8ウイルス自体の中和活性を調べることにより、新しいエピトープに対する非交差反応性抗体を生成しているかどうかを評価するために、以下を実施した。
図11Cに示す結果は、MeV-H Aとは異なるが共通のエピトープを有することについて、Δ8ウイルスが、抗MeV- H H1及びΔ7によるのと同様に、同型抗体、すなわちMeV-HΔ8による免疫化によって引き起こされる抗体によって中和されたことを示した。MeV-HA免疫によって誘導された中和抗体は、Δ8ウイルスに対する中和活性を発揮しなかった。次に、複数の抗原部位を除去すると交差中和が無効になり、ウイルスは抗MeV-Hポリクローナル反応から回避することができる。
【0083】
Δ7ウイルスは、MeV-F特異的抗体を欠いている場合、ポリクローナル麻疹ワクチン誘発中和抗体を回避し得る
異なる動物モデルは、異なる抗体レパートリーを示す可能性がある(Nachbagauer et al., Nat. Immunol., 18(4):464-73 (2017))。MeV-H A免疫後のウサギで生じた抗体の呼気を中和分析により評価した。ウイルスΔ8は中和の傾向を示したが(
図12A)、ワクチンウイルスと比較してND
50力価の8倍(3 log
2)の減少を示した。4倍の差(2 log
2又は抗原単位(Smith et al., Science, 305(5682):371-6 (2004))以上の場合、ヒト季節性インフルエンザワクチン(Russell et al., Vaccine, 26(Suppl 4):D31-4 (2008);及びGarten et al., Science, 325(5937):197-201 (2009))のアップデートを保証するため、ウイルスΔ8はワクチンウイルスと抗原的に有意に異なると考えられた。一方、親前駆体が(H1)であったため、即時前駆体ウイルス(Δ7)は抗原的に区別できなかった。K471E変異はΔ7をΔ8ウイルスと区別し、抗原変異をもたらしたため、抗原の違いはすべてのmAbエスケープ変異体選択の組み合わせの結果であり、優性変異体の存在ではないことを確認したいという要望があった。したがって、他の遺伝子型特異的MeV-H遺伝子タンパク質を有する組換えMeVの以前のパネルを試験した(Munoz-Alia et al., J. Virol., 91(11):e00209-17 (2017);及びMunoz-Alia et al., PLoS One, 13(2):e0192245 (2018))。特に興味深いのは、MeV C2がK471E変異を有していたためである。しかし、PRMN力価の差は全体にわたって2倍未満であり、したがって重要ではないとみなされた。全体として、これらの結果は、麻疹ウイルスの抗原変異には、増分成分とパルス成分の両方があることを示唆している。すなわち、抗原の閾値を超えた場合、アミノ酸置換は累積的な効果を有する可能性がある。
【0084】
Δ8ウイルスではなくΔ7ウイルスが移行抗体を有する小児のプレワクチンとして使用し得る可能性があるため、Δ7の抗原変異が麻疹ワクチンを受けた患者の血清による認識の低下につながるかどうかを試験するために試験を行った。これには、最初に、血清採取時に17歳から23歳のオランダ人個体の6つの血清サンプルを試験するための選択が含まれた。中和力価とオランダでの麻疹の発生の記録に基づいて、ヒトのサンプルは麻疹ワクチンの2回投与レシピエントに対応している可能性が高い。Δ7ウイルス及びワクチン株ウイルスは、ヒト血清#126、#128、#129、#134、#136及び#137を用いたPRMNによって試験した。Δ8ウイルスの平均ND
50力価は、ワクチン株の相同力価の1.41倍(0.50抗原単位)低く、このことは2つのウイルス間の抗原変異の欠如を示している。MeV-H特異的抗体とMeV-F特異的抗体との間に相関関係が見い出された(ピアソンR=0.54、p<0.05)。MeV-F特異的が潜在的な抗原変異をマスクしているかどうかを試験するために、MeV-F特異的抗体を枯渇させ、アッセイを繰り返した。
図12Bに示すように、模擬トランスフェクト細胞とのヒト血清のインキュベーション(条件1)では、未処理サンプル(条件0)と比較してMeV-F特異的IgG抗体の減少は生じなかった。逆に、MeV-F発現細胞とのインキュベーションではMeV-F特異的抗体の枯渇が生じたが、MeV-H特異的抗体レベルは変化しなかった。異なる枯渇条件で導入された小さな希釈因子を説明するために、ヒト集団で広く存在しているエプスタインバーVCA IgG抗体をさらに試験し、それらを使用する抗体レベルの対照として使用した(
図12C)。次に、非枯渇及びMeV-F枯渇のヒト血清の両方の中和能力を再試験した。MeV-Fが枯渇したヒト血清は、ワクチンウイルス(1抗原単位)に対してわずかに中和力を喪失したが、Δ7ウイルスをワクチンウイルスと比較すると、減少は有意(7倍)となった(
図12D)。
【0085】
これらの結果は、ヒトでのワクチン接種がウサギよりも狭い中和抗体反応を誘発し、Δ7ウイルスが、抗MeV-F抗体を欠いている場合には、幼児のワクチン接種のギャップを潜在的に狭めることができることを示している。
【0086】
MeV-H及びMeV-Fは中和抗体を誘発する
麻疹免疫ヒト血清中のMeV-Fに対する中和抗体は、MeV-Hの蓄積的抗原置換の効果を緩衝し得る。ウイルス中和に対する2つのMeV糖タンパク質の寄与に関する洞察をさらに得るために、2つのアプローチを使用した:1)MeV-H及びMeV-F特異的抗体の枯渇(
図13A)、並びに2)3つの異なる糖タンパク質交換を伴うウイルスキメラの同質遺伝子セットの中和感受性の研究。このエンベロープ交換ウイルスは、HとFを除くMeVに由来するすべての遺伝子を有し、それらを関連するが非交差反応性のイヌジステンパーウイルス(CDV)H及びFと単一及び二重のいずれかで交換した(Miest et al., Mol. Ther., 19(10):1813-20 (2011);及びZhang et al., Virology, 482:218-24 (2015))。したがって、CDV由来の遺伝子とのMeV-H及びMeV-Fタンパク質遺伝子の二重スイッチングによりMeV#2が生成され、MeV-H又はMeV-Fのいずれかでの単一スイッチにより、それぞれMeV#3及びMeV#4が生成された(
図13B)。使用されたCDV-Hタンパク質遺伝子は、ヒト血清によるCDVの潜在的な交差中和を低減することが示されたため(Munoz-Alia et al., J. Virol., 91(11):e00209-17 (2017);Zhang et al., Virology, 482:218-24 (2015))、Ondersterpoortワクチン株を意図的に意図したY537D置換を有していた。親MeV(MeV#1)と3つのキメラ(MeV#2、MeV#3、MeV#4)はすべて、Vero細胞で区別できない合胞体を形成し、このことは異型の補完性を実証している(
図13B)。
【0087】
MeV H又はMeV-F特異的抗体については、約60~80人のアメリカ人ドナーから構成される市販のヒト血清プールを使用した。このプールの抗体価は高いため、主に野生型ウイルスへの曝露によって誘導された可能性が高い(Itoh et al., J. Clin. Microbiol., 40(5):1733-8 (2002))。
図13Aは、枯渇プロセスを示す。MeV-H発現細胞による血清吸収(条件2)は、MeV-Hタンパク質に対するすべてのヒト血清結合活性を完全に除去したが、MeV-F特異的抗体レベルは影響を受けなかった。対照的に、MeV-Fによる吸収(条件3)は、MeV-Fに結合するヒト血清を特異的に除去した一方、MeV-H特異的抗体は影響を受けなかった。親細胞株による血清吸収は、元のヒト血清材料(それぞれ条件1及び0)と比較して、MeV-H及びMeV-Fの両方へのヒト血清結合の減少を生じなかった。
【0088】
次に、MeV-H及びMeV-F反応性抗体の中和効力を麻疹免疫ヒトで測定した。PRMNアッセイは、MeV-F又はMeV-H成分のいずれかの吸収は、MeV(MeV#1)に対するヒト血清の中和活性に実質的に影響を及ぼさないことを示した。一方、MeV-FとMeV-Hの両方による血清吸収は、ヒト血清からの中和活性の完全な喪失をもたらした。したがって、MeV-H特異的抗体及びMeV-F特異的抗体の両方がMeVの中和に等しく重要であった。予想通り、麻疹免疫ヒト血清は、血清処理に関係なく、MeV#2に対して中和活性を示さなかった。一方、MeV#1、MeV#3及びMeV#4は、非吸収血清と区別されることなく効率的に中和された。単純な交換(MeV#3及びMeV#4)を伴うウイルスキメラに関しては、ウイルスに存在するものと一致するMeV特異的抗体成分が枯渇した場合にのみ、中和に対する抵抗性を示した。これらの結果は、MeV-FとMeV-Hの両方が免疫原性であり、それらが協力して抗原変異を緩衝することを示している。
【0089】
抗原新規性は適合性(fitness)を犠牲にしない
次に、両方のMeVエンベロープ糖タンパク質に対する抗体反応の幅が、MeVの抗原的に静的(staticity)であると仮定した。この仮説に対処するために、完全に抗原的に異なるウイルスの代用として、異型CDV-F(このウイルスを以後ステルスと称する)と組み合わせてΔ8ウイルスのレスキューを進めた。MeVレスキューシステムの堅牢性が改善されるまで、MeVステルスは得られなかった。親の組換えMeV Moratenワクチンのレスキューとは異なり、MeVステルスは、複数の独立したレスキューの試みの後に観察された単一のGFP陽性細胞から分離及び拡大された。5回の半盲検継代後、ウイルスは細胞単層を介して伝播した(
図7)。ウイルスをさらに増殖させてウイルスストックを生成し、サンガー配列決定及びウェスタンブロット分析のために試験した。精製ビリオンのイムノブロッティングにより、ステルスが同型MeV-Fタンパク質を欠損し、それ以外の点ではワクチン株と同様のタンパク質含有物を示すことが実証された(
図14B)。さらに、配列決定の結果は、糖タンパク質をコードする配列のいずれにも補償的変異を示さず、このことは、CDV-Fと組み合わせたMeV-HΔ8をコードするステルスウイルスの生存率をさらに確認した。
【0090】
MeVステルスが適合性(fitness)のトレードオフに関連しているかどうかを判断するために、MeVステルスの増殖動態(growth kinetic)を培養細胞で調べた。これらの動態を、MeV-H A、MeV-H H1、及びMeV-HΔ8を有する組換えMeVの動態と比較した。MeV Aは、ステルス及びΔ8ウイルスよりも12及び48hpiで高い力価に複製された(
図14A)。これらの2つのウイルスは、24時間遅れの力価のピークを示した。MeV H1は、経時的に他のどのウイルスよりも低い力価で複製された。MeVΔ8はMeV-H H1に由来するMeV-Hを有していたため、これらの結果は、MeF-Hに導入された変異が、異種Fタンパク質とのより良い補完に協力することを示している。
【0091】
次に、15のヒト血清サンプルを使用して、ステルスウイルスが麻疹ワクチン(ウイルスA)によって引き起こされるヒト抗体による中和に実際に抵抗性があるかどうかを判定した。高力価は、遺伝子型特異的中和抗体のさまざまなレパートリーを誘発した可能性のある麻疹ウイルスへのさまざまな曝露履歴を示すため、以前に使用したプールされたヒト血清は回避した(de Swart et al., J. Gen. Virol., 90:2982-9 (2009);Tamin et al., J. Infec. Dis., 170:795-801 (1994);及びMunoz-Alia et al., Virus Research, 236: 30-43 (2017))。ステルスの抗原ドリフトはワクチンウイルスにより誘導されたモノクローナル抗体によってモデル化されたため、これは将来の解釈を複雑にする可能性がある。CDVワクチン接種フェレットは、それぞれ、ワクチンとステルスウイルスの中和の陰性及び陽性対照として使用した。
図12で使用した血清#126、#128、#129、#134、#136及び#137は、材料不足のため試験できなかった。試験したサンプルのNT
50値は、ステルスウイルスに対する中和効力が3.12倍から10.9倍の範囲で、全体の幾何平均が5.39倍(2.43抗原単位)低いことを示した(
図14C)。血清152は、ステルスウイルスに対するND
50力価が4倍未満(1.64抗原単位)であり、血清131及び157のND
50力価は閾値(4倍)であった。試験したすべての血清のうち、血清152はステルスウイルスに対する防御レベル(430mIU/mL)を示す唯一の血清であり、ワクチン株に対して試験したすべてのヒト血清の中で最高のNT
50力価(1344mIU/mL)を示した。そして、同型ワクチンに対する抗体反応の大きさが、ステルスウイルス感染に対する防御レベルが達成されたかどうかを決定したと推測したくなる。相関分析は仮説の支持を示し(ピアソンr=0.9112;p<0.0001)、このことはステルス感染に対する防御の926mIU/mLの最小NT
50力価レベルと、ワクチンウイルスに対するセロコンバージョンの予測因子を使用した現在の210mIU/mLを示唆している(Haralambieva et al., Vaccine, 29:4485-91 (2011))。
【0092】
抗体反応の幅と大きさがどの程度ステルスウイルスに見られる抗原変異に影響したかを判定するために以下を実施した。モルモットモデルで抗原変異を測定したところ、マウス又はフェレットよりも高い力価のインフルエンザウイルスに対する交差反応性抗体を誘導することが示された(Nachbagauer et al., Nat. Immunol., 18(4):464-73 (2017))。MeVの状況では、モルモットは3584mIU/mLのNT
50値を有する相同ワクチンウイルスに対する高度に中和する抗体反応を有した(mounted)(
図14D)。逆に、異種ステルスウイルスに対するND
50力価は約6倍低く(NT
50=563)、したがって抗原的に有意であった。これらの結果は、免疫優性が種間で大部分が保存されており、ワクチン接種時に誘導された防御レベルを回避するために抗原変異が生じ得ることを示している。
【0093】
ステルスはCD46向性(CD46 tropic)のみである
インフルエンザAウイルスでは、受容体結合アビディティと抗原変異は密接に関連しており(Hensley et al., Science, 326:734-6 (2009);及びLi et al., J. Virol., 87(17):9904-10 (2013))、ウイルスの適合性(fitness)の損失を補うことができる(Kosik et al., PLoS Pathog., 14(1):e1006796 (2018))。nAbエスケープ変異が存在する場合に受容体特異性が影響を受けるかどうかに対処するために、MeV受容体を単独で発現するCHO細胞に感染させた。予想外に、CD46及びnectin-4の密接な構造的及び機能的相互作用を考えると(
図15)、ステルスウイルスは非常に効率的なCD46依存性融合を生成することが証明されたが、nectin-4を発現するCHO細胞では何も示さなかった(
図16A)。細胞表面の分子数がそれら2つに匹敵し、SLAMを発現するCHO細胞の分子数(約20,000)の10倍多かったため、受容体密度の違いは、nectin-4の使用に対するCD46の識別の潜在的な説明として除外した(
図16B)。CHO細胞のパネルにステルスと同じMeV-HΔ8をコードするΔ8ウイルスを感染させた場合も同様の結果が得られ、これは原因としてMeV-HΔ8とCDV-Fの間のアロステリック相互作用に反対するものである。しかし、MeVマトリックスタンパク質(MeV-M)とのさらなる相互作用は、依然として受容体結合相互作用に影響を与える可能性がある。次に、一過性トランスフェクションに基づく融合アッセイを、ウイルスの状況で観察された結果と並行するかどうかを研究した。このアプローチは、MeV-FをMeV-H A又はMeV-HΔ8と組み合わせて使用することであった。MeV-HΔ8は、CD46依存性融合に有意な影響を与えることなく、nectin-4を識別したことが示された(
図16C)。同様のCD46依存性融合活性は、ヒト及びアフリカミドリザル細胞の両方で観察された(
図17)。ELISAにより様々な組換えMeV-Hタンパク質(A、H1及びΔ8)の受容体結合解離定数を調べた(
図18)。対照として使用された抗FLAG抗体とは異なり、組換え細胞受容体はMeV-Hタンパク質に対して異なる結合アビディティを示した(
図16D)。MeV-HΔ8は、MeV-H A及びH1よりもCD46に約4000倍良好に結合し、見かけのK
dは190pMで、MeV-H Aは819μMであった(K
dは不明であった)。nectin-4の結合値は3つの受容体すべてで最悪であり、使用した最高濃度では飽和に達しなかった。組換えMeV-Hタンパク質に対するnectin-4の見かけのK
dに有意差は見られなかったが、MeV-HΔ8のB
max値は、MeV-H A及びH1と比較しておよそ半分低下した(それぞれ1.56、1.14、及び0.74)。予想どおり、MeV-HΔ8はSLAM-Fcへの無視できるほどの結合を示した。MeV-H H1は、MeV-H AよりもSLAM-Fcへの結合が低く、K
dは10.43μM及び2.68μMであったが、B
max値も低かった(それぞれ2.09及び1.19)。まとめると、これらの結果は、MeV-HΔ8が、nectin-4については低下するがCD46とのアビディティ相互作用の増加を介して、nectin-4よりもCD46の使用を区別することを示している。
【0094】
本明細書に記載のように、30個の既知の抗体エピトープが麻疹H糖タンパク質から体系的に排除された。麻疹H糖タンパク質を有するウイルスは、麻疹免疫ヒト、マウス及びウサギ血清に存在する抗H抗体による中和に対する抵抗性を実証した。さらに、麻疹F糖タンパク質の関連モルビリウイルスの相同Fタンパク質による置換を使用して、麻疹免疫ヒト血清による中和に抵抗性の組換えMeVであるMeVステルスを生成した。ウイルスは完全に融合性を維持し、ウイルス適合性(fitness)に費用はかからずにCD46陽性細胞でのみ増殖することが示された。これらの結果は、MeVステルスプラットフォームを麻疹免疫がん患者の腫瘍溶解性ウイルス療法に使用し得ることを示す。
【0095】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて説明したが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示するものであり限定するものではないことを理解されたい。他の態様、利点及び修正は、添付の特許請求の範囲の範囲内にある。
例えば、本発明は以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]野生型麻疹ウイルスHポリペプチドと比較して少なくとも6個のアミノ酸置換を含む麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸、及び
麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸
を含む組換えウイルス。
[実施形態2]前記ウイルスが麻疹ウイルスである、実施形態1に記載のウイルス。
[実施形態3]前記ウイルスがアデノウイルスである、実施形態1~2のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態4]前記コードされる麻疹ウイルスHポリペプチド及び前記モルビリウイルスFポリペプチドが前記組換えウイルスのエンベロープに組み込まれている、実施形態1~3のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態5]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vのうち6個以上を有する配列番号9を含む、実施形態1~4のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態6]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vを有する配列番号9を含む、実施形態1~5のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態7]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、表1に記載の抗原部位のそれぞれに少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、実施形態1~6のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態8]前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドが、MVi/Madrid.SPA/50.10株の野生型麻疹ウイルスHポリペプチドである、実施形態1~7のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態9]前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドが、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む、実施形態1~7のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態10]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが配列番号3を含む、実施形態1~7のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態11]前記モルビリウイルスFポリペプチドがイヌジステンパーウイルスFポリペプチドである、実施形態1~10のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態12]前記ウイルスがCD46依存性細胞侵入を示す、実施形態1~11のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態13]前記ウイルスが、野生型ウイルスと比較してNectin-4依存性細胞侵入の低下を示す、実施形態12に記載のウイルス。
[実施形態14]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、表2に記載の抗原部位のそれぞれに少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、実施形態1~13のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態15]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドと比較して位置E471に置換を含む、実施形態1~14のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態16]位置E471における前記置換がE471K置換である、実施形態15に記載のウイルス。
[実施形態17]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、E471K、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vを有する配列番号9を含む、実施形態1~16のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態18]前記ウイルスが、前記麻疹ウイルスFポリペプチドを欠損する、前記麻疹ウイルスFポリペプチドをコードする核酸を欠損する、又は前記麻疹ウイルスFポリペプチド及び前記麻疹ウイルスFポリペプチドをコードする核酸の両方を欠損する、実施形態1~17のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態19]前記ウイルスが、 前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドを欠損する、前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸を欠損する、又は前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチド及び前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸の両方を欠損する、実施形態1~18のいずれかに記載のウイルス。
[実施形態20]実施形態1~13のいずれかに記載のウイルスを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において生存腫瘍細胞の数を低減する方法。
[実施形態21]前記哺乳動物がヒトである、実施形態20に記載の方法。
[実施形態22]実施形態14~19のいずれかに記載のウイルスを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において生存腫瘍細胞の数を低減する方法。
[実施形態23]前記哺乳動物がヒトである、実施形態22に記載の方法。
[実施形態24]実施形態1~13のいずれかに記載の麻疹ウイルスを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において麻疹ウイルスに対する免疫反応を刺激する方法。
[実施形態25]前記哺乳動物が小児である、実施形態24に記載の方法。
[実施形態26]前記小児がヒト小児である、実施形態25に記載の方法。
[実施形態27]前記ヒト小児が抗麻疹抗体を経胎盤的に獲得している、実施形態26に記載の方法。
[実施形態28]実施形態14~19のいずれかに記載の麻疹ウイルスを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において麻疹ウイルスに対する免疫反応を刺激する方法。
[実施形態29]前記哺乳動物が小児である、実施形態28に記載の方法。
[実施形態30]前記小児がヒト小児である、実施形態29に記載の方法。
[実施形態31]前記ヒト小児が抗麻疹抗体を経胎盤的に獲得している、実施形態30に記載の方法。
[実施形態32]野生型麻疹ウイルスHポリペプチドと比較して少なくとも6個のアミノ酸置換を含む麻疹ウイルスHポリペプチドをコードする核酸、及び
麻疹ウイルスFポリペプチド以外のモルビリウイルスFポリペプチドをコードする核酸
を含む核酸構築物。
[実施形態33]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vのうち6個以上を有する配列番号9を含む、実施形態32に記載の核酸構築物。
[実施形態34]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vを有する配列番号9を含む、実施形態32に記載の核酸構築物。
[実施形態35]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、表1に記載の抗原部位のそれぞれに少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、実施形態32~34のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態36]前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドが、MVi/Madrid.SPA/50.10株の野生型麻疹ウイルスHポリペプチドである、実施形態32~35のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態37]前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドが配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む、実施形態32~34のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態38]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが配列番号3を含む、実施形態32~37のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態39]前記モルビリウイルスFポリペプチドがイヌジステンパーウイルスFポリペプチドである、実施形態32~38のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態40]前記核酸構築物がウイルスベクターである、実施形態32~39のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態41]前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、及びラブドウイルスからなる群より選択されるウイルスに由来する、実施形態32~40のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態42]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、表2に記載の抗原部位のそれぞれに少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、実施形態32~41のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態43]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドと比較して位置E471に置換を含む、実施形態32~42のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態44]位置E471における前記置換がE471K置換である、実施形態43に記載の核酸構築物。
[実施形態45]前記麻疹ウイルスHポリペプチドが、以下のアミノ酸置換:S189P、E235G、N238D、L249P、G302R、Y310C、Q311R、R377Q、M378K、D416N、E471K、N481Y、K488E、G491E、H495R、D505T、R533G、S546G、R547G、及びF552Vを有する配列番号9を含む、実施形態32~44のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態46]前記核酸構築物が前記麻疹ウイルスFポリペプチドをコードしない、実施形態32~45のいずれかに記載の核酸構築物。
[実施形態47]前記核酸構築物が前記野生型麻疹ウイルスHポリペプチドをコードしない、実施形態32~46のいずれかに記載の核酸構築物。
【配列表】