(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】咬合圧解析プログラム
(51)【国際特許分類】
A61C 19/05 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
A61C19/05 110
(21)【出願番号】P 2020000370
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502397369
【氏名又は名称】学校法人 日本歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】志賀 博
(72)【発明者】
【氏名】白石 智久
(72)【発明者】
【氏名】野口 幸恵
【審査官】五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-136620(JP,A)
【文献】国際公開第2019/053949(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0060034(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00-19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感圧手段から咬合圧分布を得る咬合圧解析プログラムであって、
前記感圧手段で圧力値を認識できる最小単位ごとに圧力値を得るステップと、
前記圧力
値が存在した前記最小単位を検知部として、複数の連続した前記検知部の集合を検知群としたとき、該検知群の面積
及び圧力特徴値を得るステップと、
前記検知群の面積に関連付けられた前記圧力特徴値の閾値により、咬合によるとみなせる前記検知群であるか、咬合によるかが不明な前記検知群であるかを選別するステップと、
を備え
、
前記検知群の前記面積が大きいほど、前記閾値における圧力特徴値の上限が小さくなる、
咬合圧解析プログラム。
【請求項2】
さらに、前記検知群が有する、形状、他の前記検知群との距離、及び、色の少なくとも1つにより咬合によるとみなせる検知群であるか、咬合によるかが不明である検知群であるかを選別するステップを有する請求項
1に記載の咬合圧解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上下歯列の咬合接触状態における咬合圧を解析するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
咬合圧を測定するための手段として感圧紙(感圧シート)やセンサシートが知られている(例えば特許文献1乃至特許文献4)。対象者がこの感圧紙を咬むことで、上下歯列の咬合接触部位において感圧紙が強く押圧され、視覚的又は電気的な変化が表れる。感圧紙の種類によっては咬合圧(接触圧)の大きさの違いにより濃淡や色の違いが表れるものもある。このようにして感圧紙で上下歯列の咬合圧を知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平06-213738号公報
【文献】特開平06-189980号公報
【文献】特開平06-180260号公報
【文献】特開2005-279094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
感圧紙では、咬合接触が生じた部位に咬合圧に応じた変化が表れるため、咬合接触位置で上記視覚的な変化が表れ、咬合位置と圧力を得ることができる。しかしながら、歯牙の表面は複雑な凹凸を有する3次元形状であるため、対象者が感圧紙を咬み始め、最終的な咬合位置に達するまでの間に、上下歯牙に接触しながら滑りが生じることから、感圧紙にはこの滑りの過程も視覚的な変化として表れてしまう。また、シートの複雑な折れ曲がりによる影響や、咬合圧の解析時における付着物の影響が表れることもある。
【0005】
このような感圧紙の変化や影響が、正確な咬合接触状態の把握を阻害することがあった。すなわち、感圧紙によって咬合圧を取得する際に、咬合過程や解析過程で最終的な咬合状態と異なる咬合圧が検知されてしまい、正確な咬合接触状態の把握を阻害することがあった。このことは感圧紙に限らず、電気的に咬合位置及び咬合圧を得る手段についても同様である。
【0006】
そこで本発明は感圧手段よる咬合圧取得において、咬合接触状態を把握する精度を高めることができる咬合圧解析プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、感圧手段から咬合圧分布を得る咬合圧解析プログラムであって、感圧手段で圧力値を認識できる最小単位ごと圧力値を得るステップと、圧力値が存在した最小単位を検知部として、圧力値に基づいて、咬合によるとみなせる検知部であるか、咬合によるかが不明な検知部であるかを選別するステップと、を備える咬合圧解析プログラムである。
【0008】
本発明の他の態様は、感圧手段から咬合圧分布を得る咬合圧解析プログラムであって、感圧手段で圧力値を認識できる最小単位ごとに圧力値を得るステップと、圧力が存在した最小単位を検知部として、複数の連続した検知部の集合を検知群としたとき、該検知群の面積を得るステップと、検知群の圧力特徴値を得るステップと、検知群の面積及び圧力特徴値に基づいて、咬合によるとみなせる検知群であるか、咬合によるかが不明な検知群であるかを選別するステップと、を備える咬合圧解析プログラムである。
【0009】
検知群の面積に関連付けられた圧力特徴値の閾値により、咬合によるとみなせる検知群であるか、咬合によるかが不明な検知群であるかを選別するステップを備えてもよい。
【0010】
検知群の面積が大きいほど、閾値における圧力特徴値の上限が小さくなるように構成してもよい。
【0011】
さらに、検知群が有する、形状、他の検知群との距離、及び、色の少なくとも1つにより咬合によるとみなせる検知群であるか、咬合によるかが不明な検知群であるかを選別するステップを有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、感圧手段よる咬合圧の取得において、咬合接触状態を把握する精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は咬合圧解析プログラムS10の流れを示す図である。
【
図2】
図2は検知部P及び検知群Gを説明する図である。
【
図3】
図3は検知群Gの分布を模式的に表した図である。
【
図4】
図4は電子計算機10の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、1つの形態にかかる咬合圧解析プログラムS10の流れを示す図である。
図1からわかるように、咬合圧解析プログラムS10はステップS11乃至ステップS17を含んで構成されている。以下、各ステップについて説明する。
【0015】
<咬合圧データの取得のステップS11>
咬合圧データの取得のステップS11(「ステップS11」と記載することがある。)は、感圧手段で所定の情報が検知された部分(感圧紙であれば視覚的変化があった部分)について位置情報、及び、検知情報を取得する。すなわち、咬合圧分布情報を含む感圧手段の検知分布の2次元位置情報(例えばX、Y)、及び、検知情報(CXY)のデータを取得する。
ここで、感圧手段は特に限定されることはないが、例えば感圧紙(感圧シート)や電気的な特徴の変化により咬合接触位置を検知する感圧センサ等を挙げることができる。その中でもより汎用性が高く、容易に咬合圧を表示することができる観点から感圧紙が好ましい。
また、感圧手段から、位置情報及び検知情報のデータを取得する方法は特に限定されることはない。例えば感圧手段が感圧紙であれば、感圧紙上に現れた色や濃淡を読み込むためのスキャナやカメラを挙げることができる。また、感圧手段が感圧センサであれば、電気的な特徴(電圧、電流、抵抗値、又はこれらの変化)を測定する装置が挙げられる。
【0016】
より具体的な例としては、最小単位(例えば1画素)ごとに、その座標を位置情報とし、色(RGB値)を検知情報とすることが挙げられる。
【0017】
<圧力値算出のステップS12>
圧力値算出のステップS12(「ステップS12」と記載することがある。)では、ステップS11で得た検知情報を圧力値に変換する。すなわち、最小単位ごとに、得られた検知情報(感圧紙であればRGB値)を予め得ておいた関係式により圧力値に変換する。これにより各最小単位について圧力値が得られる。
【0018】
<検知部、検知群の確定のステップS13>
検知部、検知群の確定ステップS13(「ステップS13」と記載することがある。)では、ステップS12で得られた圧力値から、圧力値が得られた位置と、圧力値が得られていない位置と、を選別する(検知部の特定)とともに、複数の検知部が連続した1つ塊をなしている部分については1つの検知群としてその面積を得て、圧力に基づく特徴値を算出する。
これにより、複数の検知群、及び、検知群に属しない検知部を決め、それぞれについて面積及び圧力に基づく特徴値とする。
【0019】
より具体的には、例えば、次のように行う。
図2に示したように、最小単位(本形態では画素)ごとに、圧力値が得られた(圧力が0でない)最小単位を検知部とする。
図2では薄墨で塗りつぶした各画素が検知部Pである。そして複数の検知部のうち、検知部が隣り合って連続するような場合には、複数の検知部を1つの検知群として取り扱う。
図2に破線で囲んだ範囲が検知群Gである。
具体的に検知群は、ラベリングにより、連続した一群のグループとした複数の検知部を検知群とする。本形態では縦、横、及び斜め方向に連続している検知部を同じラベルにする8連結の処理としている。これにより例えば
図3に模式的に表したように、面積が異なる検知群の分布を得ることができる。
【0020】
そして各検知群について、検知群に属する検知部の数から、当該検知群の面積を計算するとともに、検知群に属する検知部の各圧力値に基づいて圧力特徴値を算出する。この圧力特徴値は、その検知群の圧力状態を特徴づけ、その検知群を1つの圧力状態として取り扱うための圧力値である。具体的には、例えば、その検知群に属する検知部の各圧力の平均値を圧力特徴値としたり、検知群に属する検知部のうち最大値又は最小値を圧力特徴値としたりすることができる。
検知群に属することなく他の検知部とは独立して存在する検知部については、その圧力値を圧力特徴値とする。
【0021】
<閾値による選別のステップS14>
閾値による選別のステップS14(「ステップS14」と記載することがある。)では、圧力特徴値に基づいて、咬合による検知であるとみなせる検知群及び検知部(どの検知群に属していないもの)と、咬合によるか不明であると判断する検知群及び検知部(どの検知群にも属していない)とを選別する。
これは所定の圧力特徴値以上であれば、他の事項を考慮するまでもなく、咬合によるとみなせる検知群及び検知部(どの検知群にも属していないもの)であってノイズによるものではないという判断ができるため、当該所定の圧力特徴値以上である検知群及び検知部(どの検知群にも属していないもの)は咬合によるものであるとみなす。具体的には例えば「圧力特徴値がP1[MPa]以上である検知群及び検知部(どの検知群にも属していないもの)は咬合による検知部である」とする等である(P1は具体的な数値である。)。
【0022】
<面積を考慮した選別のステップS15>
面積を考慮した選別のステップS15(「ステップS15」と記載することがある。)では、ステップS14により、咬合によるか不明であると判断された検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)について、面積に関連付けられた圧力特徴値の閾値に基づいて、さらに選別して咬合による検知であるとみなせる検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)と、咬合によるか不明であると判断する検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)とを選別する。
これは、ステップS14では咬合によるか不明であると判断された検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)であっても、咬合接触部の面積とその咬合圧との関係について予め調べておいたデータベースから、咬合接触に基づく検知であると考えられるものと、不明であるものとを選別する。
これによればさらに咬合接触状態を精度よく表すことができる。
【0023】
例えば、ステップS14で咬合によるか不明であると判断された検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)について、その面積がA1mm2以上A2mm2より小さければ、全て(例えばP1[MPa]を上限とする閾値としてP1[MPa]より小さいもの全て)咬合によるか不明であると判断するが、面積がA2mm2以上の検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)については、圧力特徴値の閾値の上限をP2[MPa]とし、P2[MPa]より高いものについては、咬合によるとみなせる検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)であると判断する。ここでA1、A2、P2には具体的な数値である(P1は上記と同じ)。ただし、A1<A2であり、P1>P2である。ここに入る具体的数値は、感圧手段(感圧シート等)の特性から決めることができ、予め、用いる感圧手段で具体的数値を得ておく。そのための方法は特に限定されることはないが、感圧手段が感圧シートであれば、例えば当該感圧シートに対して想定される折れ曲がりや滑りを与えて意図的に検知部や検知群を発生させ、これにより生じた値を用いることができる。
【0024】
検知群及びどの検知群にも属しない検知部の面積と、圧力特徴値の上限の閾値との関係は特に限定されることはないが、検知群及びどの検知群にも属しない検知部の面積が大きいほど、閾値における圧力特徴値の上限が小さくなるように構成することができる。これによりさらに精度を高めることができる。
【0025】
<その他の選別のステップS16>
上記加えて、その他の選別のステップS16(「ステップS16」と記載することがある。)で、検知群が線分である場合、隣接する検知群又は検知部(どの検知群にも属さないもの)に対して明らか離隔している検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)、並びに、検知群及びどの検知群にも属しない検知部の色の少なくとも1つによって、選別してもよい。
検知群及びどの検知群にも属しない検知部の色については、例えばR値、G値、B値に基づいてこれが所定の範囲ある時には咬合によるものではないということを、予め関連付けてデータベース化しておけばよい。ただしこのステップS16は必ずしも備える必要はなく、必要に応じて設ければよい。
【0026】
<報知のステップS17>
報知のステップS17(「ステップS17」と記載することがある。)では、ステップS14乃至ステップS16の各種選別により咬合によるとみなされた検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)と、上記各ステップによってもなお咬合によるものであるかは不明である検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)とを区別して報知する。
報知の方法は特に限定されることはないが、例えば画面上において色、明るさ、又はその両方等により行うことができる。
【0027】
ステップS17で報知され、咬合によるものかが不明である検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)をどのように扱うかについては必要に応じて適宜設定することができる。例えば、1つずつ、又は、ある程度まとめて、指定して削除すること、全ての報知された検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)を全て一括で指定して又は自動に削除すること、及び、手動で咬合による検知である検知群及び検知部(どの検知群にも属さないもの)に変更すること等を挙げることができる。
【0028】
本形態の咬合圧解析プログラムS10よれば、感圧手段よる咬合圧の取得において、咬合による部分と、咬合以外による部分とを精度よく高い効率で選別することができ、咬合接触状態を把握する精度を高めることができる。
【0029】
これら各ステップが属する咬合圧解析プログラムS10は、コンピュータ等の電子計算機により行なわれる。すなわち、ステップS11乃至ステップS17の各ステップを備える咬合圧解析プログラムS10を電子計算機が演算してその結果を出力することにより行われる。
図4に説明のための図を示した。
図4からわかるように、電子計算機10は、演算子11、RAM12、記憶手段13、受信手段14、及び出力手段15を備えている。
【0030】
演算子11は、いわゆるCPU(中央演算子)により構成されており、上記した各構成部材に接続され、これらを制御することができる手段である。また、記憶媒体として機能する記憶手段13等に記憶された各種プログラムを実行し、これに基づいて各種データの生成やデータの選択をする手段として演算を行うのも演算子11である。本形態ではこの記憶手段13に、咬合圧解析プログラムS10が記憶され、これを演算子11で演算して結果を得ている。
【0031】
RAM12は、演算子11の作業領域や一時的なデータの記憶手段として機能する構成部材である。RAM12は、SRAM、DRAM、フラッシュメモリ等で構成することができ、公知のRAMと同様である。
【0032】
記憶手段13は、各種演算の根拠となるプログラムやデータが保存される記憶媒体として機能する部材である。また記憶手段13には、プログラムの実行により得られた中間、最終の各種結果を保存することができてもよい。本形態ではこの記憶手段13に咬合圧解析プログラムS10が記憶されている。
【0033】
受信手段14は、例えばスキャナ20が接続され、スキャナからの感圧手段に基づく画像情報を取り入れるための機能を有する部材である。
【0034】
出力手段15は、演算子11の演算により得られた結果のうち外部に出力すべき情報を出力する機能を有する部材であり、本形態ではモニター21が接続され、該モニター21により操作者が画面で結果が見られるようにされている。
【0035】
電子計算機10によれば、スキャナ等の読み取り媒体から感圧手段に表れるデータが、受信手段14を介して電子計算機10に取り込まれ、記憶手段13に記憶された咬合圧解析プログラムS10に基づき演算子11で演算を行って、その結果を出力手段15を介してモニター21に表示する。
これにより操作者は、最終的に不要な部分のデータが削除されて精度が高められた咬合接触状態を得ることができる。
【符号の説明】
【0036】
10 電子計算機
11 演算子
12 RAM
13 記憶手段
14 受信手段
15 出力手段