(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】電動トラック
(51)【国際特許分類】
B60K 1/02 20060101AFI20240119BHJP
B60G 11/58 20060101ALI20240119BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20240119BHJP
B62D 21/00 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
B60K1/02
B60G11/58
B60K7/00
B62D21/00 Z
(21)【出願番号】P 2020010656
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】プレムクマール カーティケヤン
(72)【発明者】
【氏名】チャクマズ アイドガン
(72)【発明者】
【氏名】ティンマイヤン プラディープ クマール
(72)【発明者】
【氏名】サクシーナ マニッシュ
(72)【発明者】
【氏名】シュリヤナラヤナン カーティケヤン
(72)【発明者】
【氏名】ムルガン ゴピナス
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-026050(JP,A)
【文献】特開2007-022276(JP,A)
【文献】特開2014-101043(JP,A)
【文献】特開2007-022163(JP,A)
【文献】特開2001-001774(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010017991(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/02
B60G 11/58
B60K 7/00
B62D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動トラックの左右の駆動輪にそれぞれ設けられ、モータの駆動力を前記駆動輪に伝達する駆動ユニットと、
前記電動トラックの車幅方向に延在するとともに車両前後方向に離隔して配置される一対のマウント用フレーム体と、前記一対のマウント用フレーム体同士を連結する一対のクロスメンバーと、からなる車体フレーム枠体と、
前記車体フレーム枠体の枠内に配置される前記駆動ユニットの車両前側及び車両後側のそれぞれを各々の前記マウント用フレーム体に連結する車体連結部と、を含み、
前記車体フレーム枠体の枠内において、一対の前記駆動ユニットが車幅方向に隣り合うように配置され
、
前記駆動ユニットは、前記モータと、前記モータの回転を減速する減速機と、前記減速機に連結され前記モータの前記駆動力を前記駆動輪に伝達するファイナルギアと、前記モータと前記減速機と前記ファイナルギアとを一体的に収容する駆動ユニットハウジングと、を含み、
前記駆動ユニットハウジング内の前記ファイナルギアの上方に設けられたエアーサスペンション部をさらに含む、電動トラック。
【請求項2】
前記駆動輪に設けられ、前記駆動輪を操舵可能に構成されたステアリングギア部をさらに含み、
前記駆動輪の操舵中心を持つ操舵軸が、前記一対のマウント用フレーム
体のそれぞれから等距離に配置されている、請求項
1記載の電動トラック。
【請求項3】
前記ステアリングギア部の車両前側及び車両後側のそれぞれに設けられる一対のヒンジ部をさらに含み
一対の前記車体連結部は、前記一対のヒンジ部を介して前記ステアリングギア部と前記マウント用フレーム体とをそれぞれ連結する、請求項
2記載の電動トラック。
【請求項4】
電動トラックの左右の駆動輪にそれぞれ設けられ、モータの駆動力を前記駆動輪に伝達する駆動ユニットと、
前記電動トラックの車幅方向に延在するとともに車両前後方向に離隔して配置される一対のマウント用フレーム体と、前記一対のマウント用フレーム体同士を連結する一対のクロスメンバーと、からなる車体フレーム枠体と、
前記車体フレーム枠体の枠内に配置される前記駆動ユニットの車両前側及び車両後側のそれぞれを各々の前記マウント用フレーム体に連結する車体連結部と、
前記駆動輪に設けられ、前記駆動輪を操舵可能に構成されたステアリングギア部と、
前記ステアリングギア部の車両前側及び車両後側のそれぞれに設けられる一対のヒンジ部と、をさらに含み、
前記車体フレーム枠体の枠内において、一対の前記駆動ユニットが車幅方向に隣り合うように配置され
、
一対の前記車体連結部は、前記一対のヒンジ部を介して前記ステアリングギア部と前記マウント用フレーム体とをそれぞれ連結する、電動トラック。
【請求項5】
前記駆動ユニットは、前記モータと、前記モータの回転を減速する減速機と、前記減速機に連結され前記モータの前記駆動力を前記駆動輪に伝達するファイナルギアと、前記モータと前記減速機と前記ファイナルギアとを一体的に収容する駆動ユニットハウジングと、を含む、請求項
4記載の電動トラック。
【請求項6】
前記駆動ユニットハウジング内の前記ファイナルギアの上方に設けられたエアーサスペンション部をさらに含む、請求項
5記載の電動トラック。
【請求項7】
前記駆動輪の操舵中心を持つ操舵軸が、前記一対のマウント用フレーム
体のそれぞれから等距離に配置されている、請求項
4~
6のいずれか1項に記載の電動トラック。
【請求項8】
前記ステアリングギア部は、前記電動トラックがまっすぐ前進する状態での前記駆動輪の操舵角を0°としたときに、前記駆動輪を左右それぞれの方向に90°まで操舵可能に構成されている、請求項
2~7のいずれか1項に記載の電動トラック。
【請求項9】
二つの前記駆動輪からなるダブルタイヤを備えた前記電動トラックであり、
前記駆動ユニットは、前記ダブルタイヤに前記駆動力を伝達する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の電動トラック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、電動モータの駆動力のみで走行する電動トラックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、トラック等の商用車の分野においても内燃機関を備えず、電動モータのみによって駆動する電動トラックの開発が行われている(特許文献1参照)。このような電動トラックに用いられる駆動装置としては、例えば特許文献1に示されるように、駆動用モータと減速機とがディファレンシャルギアに一体的に設けられた駆動装置が検討される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トラック等の商用車には様々な仕様があり、その車載総重量や貨物種類も様々である。ゆえに、前輪と後輪間の最適なホイールベースは車両によって異なる。したがって、上述のような駆動装置を備える電動トラックを製造する場合、車両全体のレイアウトバリアンツが増加したり、設計時における車両全体のパッケージング工程が煩雑化したりするため、その製造コストが増加する虞がある。
【0005】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、製造コストの低減を図ることができる電動トラックを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
(1)本適用例に係る電動トラックは、電動トラックの左右の駆動輪にそれぞれ設けられ、モータの駆動力を前記駆動輪に伝達する駆動ユニットと、前記電動トラックの車幅方向に延在するとともに車両前後方向に離隔して配置される一対のマウント用フレーム体と、前記一対のマウント用フレーム体同士を連結する一対のクロスメンバーと、からなる車体フレーム枠体と、前記車体フレーム枠体の枠内に配置される前記駆動ユニットの車両前側及び車両後側のそれぞれを各々の前記マウント用フレーム体に連結する車体連結部と、を含み、前記車体フレーム枠体の枠内において、一対の前記駆動ユニットが車幅方向に隣り合うように配置される。
これにより、一対の駆動ユニットが車体連結部により連結された車体フレーム枠体が車両の前軸アクスル及び/又は後軸アクスルを構成することから、車両総重量,貨物の種類,ホイールベースなどが異なる電動トラックであっても、共通の駆動装置を適用可能となる。言い換えると、仕様の異なる電動トラックごとに駆動装置を製造する必要がなく、製造コストの低減を図れる。また、顧客側でホイールベースの調整が可能となり、商品価値が高まる。
【0007】
(2)本適用例に係る電動トラックにおいて、前記駆動ユニットは、前記モータと、前記モータの回転を減速する減速機と、前記減速機に連結され前記モータの前記駆動力を前記駆動輪に伝達するファイナルギアと、前記モータと前記減速機と前記ファイナルギアとを一体的に収容する駆動ユニットハウジングと、を含んでもよい。
このように、駆動ユニットに減速機が含まれていることから、大きな駆動力が得られ、さらにモータ等が駆動ユニットハウジングに一体的に収容されているため、コンパクトな構成となる。
【0008】
(3)本適用例に係る電動トラックは、前記駆動ユニットハウジング内の前記ファイナルギアの上方に設けられたエアーサスペンション部をさらに含んでよい。
このように、車体振動を吸収するエアーサスペンション部を各駆動輪に設けることで、コンパクトな構成としつつ車体振動が吸収される。
【0009】
(4)本適用例に係る電動トラックは、前記駆動輪に設けられ、前記駆動輪を操舵可能に構成されたステアリングギア部を含み、前記駆動輪の操舵中心を持つ操舵軸が、前記一対のマウント用フレーム体のそれぞれから等距離に配置されてもよい。
このような構成であれば、車体フレーム枠体の枠内の前後方向中心において駆動輪が操舵されることになるため、配置バランスが向上する。
【0010】
(5)本適用例に係る電動トラックにおいて、前記ステアリングギア部が、前記電動トラックがまっすぐ前進する状態での前記駆動輪の操舵角を0°としたときに、前記駆動輪を左右それぞれの方向に90°まで操舵可能に構成されていてもよい。
このような構成であれば、操舵性能が向上し、例えば左右方向への移動駐車も可能となる。
【0011】
(6)本適用例に係る電動トラックは、前記ステアリングギア部の車両前側及び車両後側のそれぞれに設けられる一対のヒンジ部をさらに含み、一対の前記車体連結部は、前記一対のヒンジ部を介して前記ステアリングギア部と前記マウント用フレーム体とをそれぞれ連結してもよい。
このように、ステアリングギア部が一対のヒンジ部及び一対の車体連結部を介して車体フレーム枠体のマウント用フレーム体に連結されるため、ドライブフィールが向上する。
【0012】
(7)本適用例に係る電動トラックは、二つの前記駆動輪からなるダブルタイヤを備えた前記電動トラックであり、前記駆動ユニットは、前記ダブルタイヤに前記駆動力を伝達してもよい。
このようにダブルタイヤを採用することにより、より大型な電動トラックにも適用可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本件によれば、仕様の異なる電動トラックに対し、共通の駆動装置を適用できることから、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態としての電動トラックの全体斜視図である。
【
図2】
図1の電動トラックの前側に配置された駆動装置周辺の斜視図である。
【
図3】一実施形態としての電動トラックに適用される駆動装置の側面図であり、一方の車輪を省略して示す。
【
図5】一実施形態としての電動トラックに適用される駆動装置の斜視図であり、ダブルタイヤを省略して示す。
【
図6】駆動装置の要部構成を説明するための模式的な断面図である。
【
図7】一実施形態としての電動トラックに適用される駆動装置を、操舵中心を通り車両前後方向に切断した断面図である。
【
図8】仕様の異なる電動トラックに共通の駆動装置を適用した例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、実施形態としての電動トラックについて説明する。以下の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0016】
[1.全体構成]
図1に示すように、本実施形態に係る電動トラック1は、内燃機関を備えずにモータ11(
図3参照)の駆動力のみで走行する車両であり、駆動装置が設けられる。
図1では、車両前後方向に延設された左右一対のサイドフレーム1A(シャシフレームともいう)と、車両前部に配置されたキャブ1Bと、を備えた電動トラック1(以下単に「トラック1」という)を例示しており、ボディの図示は省略している。なお、サイドフレーム1Aに加えて車幅方向に延びるフレームが設けられていてもよいし、サイドフレーム1Aが省略されてもよい。
【0017】
以下の説明では、トラック1の前進方向を前方(Front)とし、この反対方向を後方(Rear)とする。また、トラック1の前方を向いた状態を基準にして左右を定める。なお、左右方向は車両前後方向と直交する。以下、左右方向を「車幅方向」といい、車両前後方向を単に「前後方向」という。
【0018】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のトラック1は、二つの駆動輪2Aからなるダブルタイヤ2を備える。本実施形態のトラック1では、車両前側(前輪側)に左右一対のダブルタイヤ2が設けられ、車両後側(後輪側)に左右一対のダブルタイヤ2が前後に並んで設けられているが、ダブルタイヤ2の前後方向の個数はこれに限られない。各ダブルタイヤ2には、モータ11を含む駆動ユニット10が一つずつ設けられ、ダブルタイヤ2(駆動輪2A)にはモータ11の駆動力が伝達される。駆動ユニット10の構成は後述する。
【0019】
トラック1は、車幅方向に延在する一対のマウント用フレーム体5A及びこれらを連結する一対のクロスメンバー5B及び一対のクロスメンバー5Cとからなる車体フレーム枠体5と、車体フレーム枠体5の枠内に配置される駆動ユニット10を各マウント用フレーム体5Aに連結する車体連結部32,33と、を含む。
【0020】
一対のマウント用フレーム体5Aは、前後方向に離隔して配置される。各クロスメンバー5B,5Cは、前後のマウント用フレーム体5A同士を連結する。この車体フレーム枠体5の枠内には、左右一対の駆動ユニット10が車幅方向に隣り合うように配置される。本実施形態のトラック1では、車両前側(前輪側)に一つの車体フレーム枠体5が設けられ、車両後側(後輪側)に二つの車体フレーム枠体5が設けられるが、車体フレーム枠体5の前後の個数はこれに限らない。このように、本実施形態のトラック1では、左右一対の駆動ユニット10を車体連結部32,33により連結した車体フレーム枠体5が、車両の前軸アクスル及び後軸アクスルを構成する。
【0021】
本実施形態の車体フレーム枠体5は、前後のマウント用フレーム体5Aが車幅方向かつ上下方向に延在する矩形状の平板部材で構成される。また、車体フレーム枠体5の上方に位置するクロスメンバー5Bは、前後方向に延設されたコ字型又はハット型断面の部材で構成され、前後のマウント用フレーム体5Aの上端のフランジ部同士を連結する。一方、車体フレーム枠体5の側方に位置するクロスメンバー5Cは、前後方向かつ上下方向に延在する平板部材で構成され、駆動輪2Aを囲むように凹部が形成される。なお、クロスメンバー5B,5Cのいずれか一方を省略してもよい。
【0022】
図2に示すように、前側の車体連結部32は、枠内の駆動ユニット10の車両前側を前側のマウント用フレーム体5Aに連結し、後側の車体連結部33は、枠内の駆動ユニット10の車両後側を後側のマウント用フレーム体5Aに連結する。
図3及び
図5に示すように、前後の車体連結部32,33は同様(前後対称)に形成される。各車体連結部32,33は、前後方向に延設されるとともにマウント用フレーム体5Aに連結されて、トラック1のフレームの一部を構成する。
【0023】
前側の車体連結部32の前端部には、前後方向に直交する方向に延在する平面状の取付面32aが設けられる。また、前側の車体連結部32の後端部には、後方に突出した一対の連結側突起部32bが設けられる。取付面32aはマウント用フレーム体5Aに取り付けられる部分であり、締結用の孔部(図示略)を有する。また、一対の連結側突起部32bは車幅方向に互いに離隔し、車幅方向に貫通した孔部32cを有する。この連結側突起部32bは、後述するヒンジ部40の一部を構成し、後述するステアリングギア部30に接続される。
【0024】
後側の車体連結部33の後端部には、前後方向に直交する方向に延在する平面状の取付面33aが設けられる。また、後側の車体連結部33の前端部には、前方に突出するとともに孔部33cを有する一対の連結側突起部33bが設けられる。取付面33a及び連結側突起部33bの各構成は、上記の取付面32a及び連結側突起部32bの各構成と同様である。
【0025】
図3及び
図4に示すように、駆動ユニット10は、駆動力を発生するモータ11と、モータ11の回転を減速する減速機12と、減速機12に連結されモータ11の駆動力をダブルタイヤ2のドライブシャフト13に伝達するファイナルギア14と、これらを一体的に収容する駆動ユニットハウジング15と、を有する。すなわち、駆動ユニットハウジング15はモータ11と減速機12とファイナルギア14とを一体的に収容する。
【0026】
モータ11は、車両駆動時には電動機として機能し、車両減速時には発電機として機能する電動発電機(モータ・ジェネレータ)である。減速機12は、モータ11の回転を減速してモータトルク(駆動力)を増幅させる。ドライブシャフト13は、トラック1がまっすぐ前進する状態で車幅方向に延設され、ファイナルギア14を挟んで左右に一対配置される。ファイナルギア14は、車幅方向において二つの駆動輪2Aの略中央に位置し、減速機12で増幅されたモータ11の駆動力を二つの駆動輪2Aに配分する。なお、ファイナルギア14がディファレンシャルギアに含まれてもよい。ただし、ダブルタイヤ2の場合、二つの駆動輪2Aの距離が通常の左右輪と比較して近いため、ディファレンシャルギアを省略可能である。
【0027】
トラック1の駆動装置は、トラック1の左右それぞれに配置される駆動ユニット10に加え、駆動ユニットハウジング15内のファイナルギア14の上方に設けられたサスペンション部20と、サスペンション部20の上方に設けられたステアリングギア部30と、を含む。さらに本実施形態の駆動装置は、ステアリングギア部30の車両前側及び車両後側のそれぞれに設けられる一対のヒンジ部40と、上述した車体連結部32,33と、を含む。
【0028】
サスペンション部20は、ダブルタイヤ2の上下振動を吸収するサスペンションとして機能する部分である。ステアリングギア部30は、ダブルタイヤ2を操舵可能に構成されており、ダブルタイヤ2を操舵軸30aまわりに操舵する(操舵角を変更する)機能を持つ。なお、ダブルタイヤ2の操舵は手動であっても自動であってもよい。また、各ダブルタイヤ2は個別に駆動されるとともに個別に操舵される。ヒンジ部40は、ダブルタイヤ2の上下振動が車体に伝わることを抑制する機能を持つ。車体連結部32,33は、一対のヒンジ部40を介してステアリングギア部30とトラック1の車体とをそれぞれ連結するものであり、操舵軸30aを挟んで前後に一対設けられる。
【0029】
本実施形態では、
図2に示すように、サスペンション部20及びステアリングギア部30がいずれも、ダブルタイヤ2を構成する二つの駆動輪2A間の上方に位置する。また、
図3に示す駆動装置では、モータ11がファイナルギア14よりも車両前方であって減速機12の上方に配置されているが、モータ11の位置は、モータ11の仕様やサイズや、モータ11を配置できるスペース等に応じて設定すればよい。例えば、モータ11をファイナルギア14の後方に配置してもよいし、ファイナルギア14に対し斜め上方に配置してもよい。あるいは、モータ11の出力軸(図示略)が下方に延びる姿勢で配置されてもよい。
【0030】
[2.要部構成]
まず、サスペンション部20について詳述する。
図5及び
図6に示すように、本実施形態のサスペンション部20は、ダブルタイヤ2の操舵軸30aを中心とした外筒部21と、外筒部21と同心配置された内筒部22と、を含むエアーサスペンションである。内筒部22は、外筒部21の内周面に沿って軸方向に摺動可能であり、且つ、外筒部21に対し相対回転不能に設けられる。操舵軸30aは、ダブルタイヤ2が操舵するときの操舵中心Csを持つ軸部であり、上下方向に延設される。なお、操舵中心Csは、外筒部21及び内筒部22の中心と一致する。
【0031】
なお、
図7に示すように、サスペンション部20が、外筒部21及び内筒部22を囲むコイルスプリング28を兼ね備えていてもよい。コイルスプリング28を兼ね備えたサスペンション部20は、比較的軽量のトラック1に適用される。一方、
図5及び
図6に示す、コイルスプリング28を備えないサスペンション部20は、エアーの容量がコイルスプリング28を兼ね備えたものに比べて大きく、比較的重量の大きなトラック1に適用される。
図7に示すサスペンション部20は、コイルスプリング28が設けられている点を除いて
図5及び
図6に示すサスペンション部20と基本的には相違しない。そのため、以下、
図7も実施例の一つとして参照して説明する。
【0032】
図5~
図7に示すように、外筒部21及び内筒部22はいずれも、上下方向に長い円筒形状をなし、外筒部21の内径が内筒部22の外径よりも僅かに大きい。外筒部21の上側の開口部は、操舵軸30aが固定された蓋部30bにより封止され、外筒部21の下側の開口部は、内筒部22の上部が入り込むことで内筒部22と連通している。また、内筒部22の上側の開口部は、外筒部21の下部に入り込んで外筒部21と連通しており、内筒部22の下側の開口部は平板状のドライブヘッド25により封止される。外筒部21及び内筒部22の内側にはエアーが封入される。
【0033】
ドライブヘッド25は、
図6に示すように、内筒部22の下端部の内周面にも固定されるよう段付き形状であってもよい。この場合、内筒部22とドライブヘッド25との固定が強固となり、横方向への荷重に対抗することが可能となる。なお、外筒部21の下端部には、内筒部22の抜けを防止するとともにシールするストッパー24が固定される。また、サスペンション部20にコイルスプリング28が設けられる場合には、
図7に示すように、外筒部21及び内筒部22の周囲にコイルスプリング28が配置される。
【0034】
外筒部21及び内筒部22は、トラック1の上下振動(ダブルタイヤ2の上下移動)に応じて、軸方向(上下方向)に相対変位(摺動)する。
図6に示すように、本実施形態のサスペンション部20は、外筒部21と内筒部22との摺接位置に配置された低摩擦部材23を含む。低摩擦部材23は、外筒部21と内筒部22との摺動摩擦を低減する部材であり、例えば外筒部21の内周面や内筒部22の外周面に取り付けられる。低摩擦部材23により、外筒部21及び内筒部22の直接的な接触が回避され、これらが上下方向に相対的に摺動する際の摩擦が低減される。
【0035】
図5及び
図7に示すように、本実施形態では、外筒部21の上部の外周面に環状の取付部26が固定されており、この取付部26とドライブヘッド25とがスタビライザー27(ステアリングアームとも呼ばれる)によりリンク結合される。これにより、外筒部21及び内筒部22の相対回転が規制される。さらに、外筒部21の上部及び内筒部22の下部を互いにリンク結合することで、外筒部21及び内筒部22の相対的な上下移動が許容されるうえ、これらの動きが円滑化される。
【0036】
また、本実施形態のサスペンション部20では、スタビライザー27の左右両側にショックアブソーバー29がそれぞれ設けられる。ショックアブソーバー29は、その上端部が取付部26に接続され、その下端部が取付部品を介してドライブヘッド25に接続される。
【0037】
次に、ステアリングギア部30について詳述する。本実施形態のステアリングギア部30は、トラック1がまっすぐ前進する状態での(すなわちドライブシャフト13が車幅方向に延在するときの)ダブルタイヤ2の操舵角を0°(基準)としたときに、ダブルタイヤ2を左右それぞれの方向に90°まで操舵可能に構成されている。すなわち、ダブルタイヤ2はステアリングギア部30によって180°操舵することができ、前進方向から左方向又は右方向に90°操舵されると、ドライブシャフト13の延設方向が前後方向となり、トラック1が左右方向に移動可能となる。
【0038】
図5及び
図7に示すように、ステアリングギア部30は、蓋部30bに固定された操舵軸30aと、操舵軸30aに固定された平歯車30cと、平歯車30cと噛み合う内歯車30dと、操舵軸30aと同心配置された筒状部30eと、内歯車30dに連結されて内歯車30dを回転させる駆動部31と、を含む。駆動部31は、例えば油圧シリンダーやステッピングモータといったアクチュエータである。
【0039】
図5に示す例では、上面視で駆動部31が内歯車30dを時計回りに回転させると平歯車30cも時計回りに回転し、操舵軸30aも時計回りに回転するため、ダブルタイヤ2が右方向に操舵する。反対に、駆動部31が内歯車30dを反時計回りに回転させると平歯車30cも反時計回りに回転し、操舵軸30aも反時計回りに回転するため、ダブルタイヤ2が左方向に操舵する。なお、
図3に示すように、操舵軸30aは、一対のマウント用フレーム
体5Aのそれぞれから等距離に配置される。
【0040】
図5~
図7に示すように、筒状部30eには、車体連結部32,33の連結側突起部32b,33bのそれぞれに連結される前後一対の突起部30fが形成される。突起部30fは、筒状部30eの前側の外周面及び後側の外周面のそれぞれから前後方向に突設され、上記の連結側突起部32b,33bとともにヒンジ部40を構成する。すなわち、前側突起部30fは、一対の連結側突起部32bの間に介装され、各連結側突起部32bの孔部32c内にヒンジ部40の回転中心Chとして機能する部位が挿通される。本実施形態の突起部30fは、車幅方向に貫通した貫通孔30gを有する円筒部(図示略)が孔部32c内に挿通される。
【0041】
後側の突起部30fも同様に、一対の連結側突起部33bの間に介装され、各連結側突起部33bの孔部33c内にヒンジ部40の回転中心Chとして機能する円筒部が挿通される。なお、本実施形態のヒンジ部40には、車体に伝達される荷重を吸収するブッシュ(図示略)が介装される。ブッシュが介装されることで、車体に伝わる荷重が吸収され、ドライブフィールがより向上する。
【0042】
図6及び
図7に示すように、筒状部30eの内側には、蓋部30b及び外筒部21の上部が筒状部30eに対して同心配置されるとともに回転可能に支持される。すなわち、外筒部21,内筒部22,蓋部30b及びドライブヘッド25は、筒状部30eに対し、操舵軸30aを中心として一体回転する。筒状部30eの内周面と外筒部21の外周面との間には、上下方向の荷重を受けるスラストプレート34が介装される。なお、スラストプレート34の上端部には、外筒部21の抜けを防止するストッパー36が固定される。
【0043】
本実施形態のスラストプレート34は、筒状部30eと外筒部21との間に位置する円筒部34aと、円筒部34aの下端部から径方向外側に突設されたフランジ部34bと、を含む。フランジ部34bは取付部26の上面と筒状部30eの下面との間に挟まれる。スラストプレート34は、どの部品にも固定されず、スペーサーとして機能する金属部品であり、固定側の筒状部30eと回転側の外筒部21及び取付部26との直接的な接触を回避する。なお、スラストプレート34は摩耗するため交換可能とされる。
【0044】
本実施形態のステアリングギア部30は、外筒部21とスラストプレート34との摺接位置に配置された低摩擦部材35を含む。低摩擦部材35は、外筒部21とスラストプレート34との摩擦を低減する部材であり、例えば外筒部21の外周面又はスラストプレート34の内周面に取り付けられる。この低摩擦部材35により、外筒部21及びスラストプレート34の相対変位の際の摩擦が低減される。
【0045】
[3.作用及び効果]
上記のトラック1によれば、以下の作用及び効果を得ることができる。
(1)一対の駆動ユニット10が車体フレーム枠体5の枠内に隣り合って配置されて車体連結部32,33により連結されることで、駆動装置がパッケージングされている。このため、例えば、
図8に示すように、車両総重量,貨物の種類,ホイールベースなどが異なる電動トラック1′,1″であっても、共通の駆動装置を適用できる。言い換えると、仕様の異なる電動トラックごとに駆動装置を製造する必要がないため、製造コストを低減することができる。また、顧客側でホイールベースの調整が可能となり、商品価値を高めることができる。なお、
図8の電動トラック1′は前輪側が一軸,後輪側も一軸のトラックであり、
図8の電動トラック1″は前輪側が一軸,後輪側が二軸のトラックである。上記の駆動装置を用いることで、前輪側,後輪側に適切な数を配置できる。
【0046】
(2)上述したトラック1では、モータ11と減速機12とファイナルギア14とを一体的に収容した駆動ユニットハウジング15を含む駆動ユニット10がトラック1の左右それぞれに配置された駆動輪2Aごとに設けられる。このように、駆動ユニット10には減速機12が含まれていることから、大きな駆動力が得られ、さらにモータ11等が駆動ユニットハウジング15に一体的に収容されているため、コンパクトな構成にできる。
【0047】
(3)上述したトラック1によれば、駆動ユニットハウジング15内のファイナルギア14の上方にエアーサスペンション部20が設けられているため、コンパクトな構成で車体振動を吸収できる。
【0048】
(4)上述したトラック1では、操舵軸30aが一対のマウント用フレーム体5Aのそれぞれから等距離に配置されている。つまり、車体フレーム枠体5の枠内の前後方向中心においてダブルタイヤ2が操舵されることになるため、配置バランスを向上させることができる。
【0049】
(5)上述したトラック1によれば、ステアリングギア部30が、駆動輪2Aを基準から左右それぞれの方向に90°まで(すなわち180°まで)操舵可能に構成されていることから、操舵性能を向上させることができ、例えば左右方向への移動駐車も可能となる。
【0050】
(6)上述したトラック1では、一対の車体連結部32,33により、一対のヒンジ部40を介してステアリングギア部30とマウント用フレーム体5Aとがそれぞれ連結される。ヒンジ部40は駆動輪2Aの上下振動が車体に伝わることを抑制する機能を持つことから、サスペンション部20に加えてヒンジ部40によっても車体振動を抑制でき、ドライブフィールの向上を図ることができる。
【0051】
(7)また、上述したように、トラック1がダブルタイヤ2を備えており、駆動ユニット10がダブルタイヤ2に駆動力を伝達するものであれば、より大型な電動トラックにも駆動装置を適用可能である。
【0052】
(8)また、本実施形態の駆動装置では、モータ11と減速機12とファイナルギア14とを一体的に収容した駆動ユニットハウジング15を含む駆動ユニット10がトラック1の左右それぞれに配置されたダブルタイヤ2ごとに設けられ、ファイナルギア14の上方にサスペンション部20及びステアリングギア部30が設けられる。このような駆動装置によれば、ダブルタイヤ2が個別に駆動されるとともに個別に操舵されるため、例えば0°~180°の操舵角を実現可能であり、旋回半径を小さくすることができる。したがって、ダブルタイヤ構造を採用しつつ、操舵角0°~180°の操舵性能を持つトラック1用の駆動装置を提供することができる。
【0053】
(9)特に、本実施形態の駆動装置では、サスペンション部20及びステアリングギア部20がいずれも、ダブルタイヤ2を構成する二つの駆動輪2A間の上方に位置することから、重量バランスが良く、ダブルタイヤ2の操舵性能を向上させることができる。
【0054】
(10)本実施形態の駆動装置では、サスペンション部20が、ダブルタイヤ2の操舵軸30aを中心とした外筒部21と、外筒部21の内周面に沿って軸方向に摺動可能であり且つ外筒部21に対し相対回転不能な内筒部22と、を含むエアーサスペンションである。このため、油圧式のサスペンションや電磁式のサスペンションに比べて構成を簡素化できる。
【0055】
(11)
図7に示すように、サスペンション部20がコイルスプリング28を兼ね備えたものとすることで、車両総重量に見合った適切なサスペンション部20を構成することができる。
(12)また、本実施形態のサスペンション部20は、外筒部21と内筒部22との摺接位置に配置された低摩擦部材23を含むため、外筒部21と内筒部22とが相対的に摺動するときの摩擦を低減することができ、エアーサスペンションの性能を向上させることができる。
【0056】
(13)上述した駆動装置によれば、外筒部21の上部及び内筒部22の下部が互いにリンク結合されるため、外筒部21及び内筒部22の相対回転を規制したうえで、相対的な上下移動を許容でき、さらに外筒部21及び内筒部22の軸方向の動きを円滑化することができる。
(14)本実施形態の駆動装置では、筒状部30eと外筒部21との間に介装されたスラストプレート34がスペーサーとして機能し、固定側の筒状部30eと回転側の外筒部21及び取付部26との直接的な接触を回避するができる。さらに、スラストプレート34は上下方向の荷重を受けるため、ドライブフィールをより向上させることができる。
【0057】
(15)特に、本実施形態のステアリングギア部30は、外筒部21とスラストプレート34との摺接位置に配置された低摩擦部材35を含むことから、外筒部21及びスラストプレート34の相対変位の際の摩擦を低減することができる。このため、操舵性能をより向上させることができる。
【0058】
[4.変形例]
上記の駆動装置やトラック1はいずれも一例である。例えば、上記のサスペンション部20は外筒部21及び内筒部22を含むエアーサスペンション、あるいは、エアーサスペンション及びコイルスプリング28のハイブリッドであるが、サスペンション部は負荷や用途に基づいて選択可能であり、油圧式のサスペンションや電磁式のサスペンションを採用してもよい。
【0059】
上記の低摩擦部材23,35やスラストプレート34は必須ではなく省略可能である。また、外筒部21及び内筒部22の相対回転を規制する構造はスタビライザー27によるリンク結合に限られない。また、ステアリングギア部30が、平歯車30c及び内歯車30d以外の歯車を用いて実現されてもよい。ダブルタイヤ2の操舵角の範囲は、要求される旋回半径に応じて設定されてよい。
【0060】
上述したトラック1では、車体フレーム枠体5の枠内に一対の駆動ユニット10が車幅方向に隣り合って配置されることで駆動装置がパッケージングされているが、車体フレーム枠体5内には上述した駆動ユニット10以外の駆動ユニットが配置されてもよい。例えば、駆動ユニットハウジング15内に減速機12が含まれていなくてもよいし、サスペンション部20及びステアリングギア部30の配置が上述したものと異なっていてもよい。なお、ヒンジ部40は必須ではなく省略してもよい。また、上述したトラック1はダブルタイヤ2を備えているが、シングルタイヤであってもよい。この場合、重量バランスを考慮して、各駆動輪に駆動ユニットを配置すればよい。
【符号の説明】
【0061】
1,1′,1″ トラック(電動トラック)
2 ダブルタイヤ
2A 駆動輪
5 車体フレーム枠体
5A マウント用フレーム体
5B,5C クロスメンバー
10 駆動ユニット
11 モータ
12 減速機
14 ファイナルギア
15 駆動ユニットハウジング
20 サスペンション部
21 外筒部
22 内筒部
30 ステアリングギア部
30a 操舵軸
32 前側の車体連結部
33 後側の車体連結部
Cs 操舵中心