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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/835 20060101AFI20240119BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240119BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20240119BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20240119BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
B01J23/835 M
B01J35/02 J
C01G49/00 A
A61L9/00 C
A61L9/01 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020016034
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021122758
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 世嗣
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023426(JP,A)
【文献】特開2020-019683(JP,A)
【文献】特開2016-074577(JP,A)
【文献】特表2016-512164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01G 49/00
A61L 9/00
A61L 9/01
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Ge xFe3-x4(0.7≦x≦1)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式Fe 2 3 で表わされるヘマタイト結晶相、により構成されている光触媒であって、
前記光触媒の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記光触媒のうち前記表層部により覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されている
ことを特徴とする光触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンを含有する光触媒粒子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6628271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、二酸化チタンとは異なる複合鉄酸化物の焼結体または粉末を用いた高い光触媒活性を有する光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光触媒は、組成式LxFe3-x4(0.7≦x≦1、L:Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選択される一種以上の元素)で表わされるLが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式LyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、の混合相により構成される複合鉄酸化物焼結体または複合鉄酸化物粉末により少なくとも一部が構成されていることを特徴とする。
【0006】
本発明の光触媒において、組成式GexFe3-x4(0.7≦x≦1)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、の混合相により構成される複合鉄酸化物焼結体または複合鉄酸化物粉末により少なくとも一部が構成されていることが好ましい。
【0007】
本発明の光触媒において、組成式MoxFe3-x4(0.75≦x≦1)で表わされるMoが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式MoyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、の混合相により構成される複合鉄酸化物焼結体または複合鉄酸化物粉末により少なくとも一部が構成されていることが好ましい。
【0008】
本発明の光触媒において、組成式WxFe3-x4(0.77≦x≦1)で表わされるWが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式WyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、の混合相により構成される複合鉄酸化物焼結体または複合鉄酸化物粉末により少なくとも一部が構成されていることが好ましい。
【0009】
本発明の光触媒において、組成式MgxFe3-x4(0.73≦x≦1)で表わされるMgが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式MgyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、の混合相により構成される複合鉄酸化物焼結体または複合鉄酸化物粉末により少なくとも一部が構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る光触媒によれば、その光触媒作用の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の光触媒を構成する複合鉄酸化物粉末の模擬的構成に関する説明図。
図2】固溶体GexFe3-x4焼結体の作製方法に関する説明図。
図3】一実施例としての試料による、光照射時間とアセトアルデヒドガスの分解機能との関係に関する説明図。
図4】xが相違する複数の試料のそれぞれによる、光照射時間とアセトアルデヒドガスの分解機能との関係に関する説明図。
図5】xが相違する複数の試料のそれぞれによるアセトアルデヒドガスの分解機能との関係に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(光触媒の構成)
図1には、本発明の光触媒を構成する光触媒活性物質としての複合鉄酸化物の粉末の構成が、元素マッピング像および電子線回折像に基づいて模擬的に示されている。図1に示されているように、複合鉄酸化物の粉末は、マグネタイト結晶相1(ハッチ箇所参照)と、ヘマタイト結晶相2(ドット箇所参照)と、の混合相により構成されている。図1から、ヘマタイト結晶相2は粉末表面付近に存在するのに対し、マグネタイト結晶相1(GexFe3-x4固溶体)は粉末の内部に存在することがわかる。マグネタイト結晶相1は、組成式LxFe3-x4(0.7≦x≦1、L:Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選択される一種以上の元素)で表わされ、Lが固溶したマグネタイト結晶相である。ヘマタイト結晶相2は、組成式LyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされる。
【0013】
LがGeである場合、x=0.7~1、y=0~0.01であることが好ましい。LがGeである場合、x=x=0.8~1、y=0~0.01であることがより好ましい。LがGeである場合、x=x=0.9~1、y=0~0.01であることがさらに好ましい。
【0014】
LがMoである場合、x=0.75~1、y=0~0.01であることが好ましい。LがMoである場合、x=0.85~1、y=0~0.01であることがより好ましい。LがMoである場合、x=0.95~1、y=0~0.01であることがさらに好ましい。
【0015】
LがWである場合、x=0.77~1、y=0~0.01であることが好ましい。LがWである場合、x=0.87~1、y=0~0.01であることがより好ましい。LがWである場合、0.97~1、y=0~0.01であることがさらに好ましい。
【0016】
LがMgである場合、x=0.73~1、y=0~0.01であることが好ましい。LがMgである場合、x=0.83~1、y=0~0.01であることがより好ましい。LがMgである場合、x=0.93~1、y=0~0.01であることがさらに好ましい。
【0017】
光触媒は、光触媒活性物質である複合鉄酸化物の粉末が混入された塗料により形成された塗膜の形態であってもよい。当該塗膜は、建造物の壁面等、物品の表面に形成される。光触媒は、光触媒活性物質である複合鉄酸化物の焼結体の形態であってもよい。当該焼結体は、建造物の壁面等、物品の表面に貼付されてもよい。光触媒は、照射される光の波長に影響を受ける。二酸化チタンは紫外光でのみ光触媒活性を発現するのに対し、複合鉄酸化物は紫外光および可視光のどちらでも発現する。二酸化チタンを屋内で使用する場合、蛍光灯に僅かに含まれる紫外線で光触媒活性を発現するが、紫外線をほとんど含まないLED照明では光触媒活性を発現しない。LED照明の急速な普及に伴い、二酸化チタンの代替が進むと予想され、可視光で光触媒活性を発現する複合鉄酸化物が好適である。
【0018】
(複合鉄酸化物焼結体の製造方法)
本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物焼結体を作製するため、まず、Fe34、FeOおよびGeO2(またはMoO3、WO3もしくはMgO)の混合粉末を成形することにより成形体が作製される。Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末(1次粒子)が用いられ、スプレードライ法により造粒された顆粒(2次粒子)が成形されることにより成形体が作製されてもよい。非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって成形体が熱処理することにより焼結体(または仮焼体)が作製される。酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって焼結体が熱処理される。これらの結果、本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物焼結体が作製される。
【0019】
(複合鉄酸化物粉末の製造方法)
Fe34、FeOおよびGeO2(またはMoO3、WO3もしくはMgO)の混合粉末または当該混合粉末由来の顆粒が、非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって混合粉末または当該混合粉末由来の顆粒が熱処理され、さらに、酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって熱処理されることにより、本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物粉末が作製される。複合鉄酸化物粉末は、複合鉄酸化物焼結体が研削加工された際に生じる粉末であってもよい。
【0020】
(複合鉄酸化物の耐酸化性)
固溶体の耐酸化性を検証するため、図2に模式的に示されているように複合鉄酸化物焼結体または仮焼体が作製された。Fe34、FeOおよびGeO2粉末が、焼結体の目標組成に鑑みて適切な割合で混合され、さらにメノウ乳鉢で混合された。次に、混合粉末が49MPaの圧力でプレスされることにより成形体が作製された。さらに、成形体が石英管に真空密封された状態で1273Kにおいて48時間にわたり熱処理され、その後で水中で急冷された。そして、試料が773Kで空気中(酸化雰囲気)において熱処理された。これにより、実施例の複合鉄酸化物焼結体または仮焼体が作製された。
【0021】
(複合鉄酸化物の光触媒機能)
図3には、複合鉄酸化物焼結体からなる試料について、当該試料に対する光照射時間と、アセトアルデヒドガスを含有する気体による赤外吸光スペクトルのピーク強度との関係が示されている。ここでは、組成式GexFe3-x4(x=1)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式GeyFe2-y3(y=0)で表わされるヘマタイト結晶相との混合相により構成される試料が用いられた。照射光として分光分布AM(エアマス)1.5、放射照度100W/m2の光が用いられた。少なくとも一部に光透過性がある略円筒状の容器の内部に試料が設置され、かつ、当該容器の内部にアセトアルデヒドガスを含有する気体が充填されたうえで容器の両端が封止される。容器の内部に存在するアセトアルデヒドガスによる赤外吸光スペクトルのピーク強度が初期値よりも低いほど、同じく容器の内部に設置されている試料によって多くのアセトアルデヒドガスが分解されたことを意味している。
【0022】
図3から、光照射開始から時間が経過するにつれ、2700~2800cm-1の波数範囲において観測されるアセトアルデヒドの赤外吸光スペクトルのピーク群の強度が徐々に低下していることがわかる。その一方、図3から、2330~2360cm-1の範囲においてCOの赤外吸光スペクトルのピーク群の強度が徐々に上昇していることがわかる。これは、光が照射されている試料によりアセトアルデヒドが分解されてCOが生成していること、ひいては当該試料が光触媒機能を発現していることを示している。
【0023】
図4には、複合鉄酸化物焼結体からなり、xが相違する複数の試料(x=0.2,0.4、0.6、0.8、1.0)のそれぞれについて、当該試料に対する光照射時間と、アセトアルデヒドガスによる赤外吸光スペクトルのうち波数2730cm-1におけるピーク強度との関係が示されている。当該試料は、組成式GexFe3-x4で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式GeyFe2-y3(y=0)で表わされるヘマタイト結晶相との混合相により構成されている。図3に示されている測定結果が得られた際と同一の測定条件にしたがってアセトアルデヒドガスによる赤外吸光スペクトルが測定された。図4には、参考までに、市販のα-Fe23およびアナターゼ型TiO2のそれぞれに対する光照射時間と、アセトアルデヒドガスによる赤外吸光スペクトルのうち波数2730cm-1におけるピーク強度との関係が示されている。
【0024】
図5には、当該複数の試料を差別化するxの値と、当該試料に対する光照射時間が10hrである場合のアセトアルデヒドガスによる赤外吸光スペクトルのうち波数2730cm-1におけるピーク強度と、の関係が示されている。
【0025】
図4および図5から、x=0.2、0.4、0.6の場合の複合鉄酸化物焼結体によるアセトアルデヒドガスの分解能は、市販のα-Fe23と同様に、アナターゼ型TiO2によるアセトアルデヒドガスの分解能よりも著しく低いことがわかる。その一方、図4および図5から、x=0.8、1.0の場合の複合鉄酸化物焼結体によるアセトアルデヒドガスの分解能は、アナターゼ型TiO2によるアセトアルデヒドガスの分解能よりも高いことがわかる。
【符号の説明】
【0026】
1‥マグネタイト結晶相、2‥ヘマタイト結晶相。
図1
図2
図3
図4
図5