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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】静電容量式スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H01H 13/00 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
H01H13/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020032638
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021136181
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000219233
【氏名又は名称】東プレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】浅野 護
(72)【発明者】
【氏名】三ツ森 大葵
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-290614(JP,A)
【文献】特開2006-222022(JP,A)
【文献】特開平8-7162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極、及び前記第1の電極とは絶縁して配置された第2の電極からなる平板形状の電極部と、
導電体または誘電体で形成された平板形状の移動部材と、
突起部を有し、該突起部の変位により前記移動部材と前記電極部との間の距離を変化させる押圧部材と、
底面が前記押圧部材に接する筒状部と、前記筒状部から該筒状部の下方周辺に延びる脚部と、を含み、前記押圧部材よりも剛性が高い材質で形成されたプランジャと、を有し、
前記移動部材は、固定部と、前記突起部の変位により前記電極部の面に対して法線方向に変位する平面移動部と、前記平面移動部と前記固定部を連結するスプリング部と、から成り、
前記平面移動部は、前記突起部が変位していないときには、前記電極部に対して所定距離だけ隔てた通常位置とされ、前記突起部の変位により前記スプリング部が付勢して前記電極部に接触或いは接近した変位位置とされ、
前記押圧部材は、
可撓性を有しており、周囲部に形成されたベース部と、中央部に形成された押圧部と、前記押圧部と前記ベース部を連結する中空錐体形状をなす支持脚部とを備え、更に、前記押圧部の下方に形成された突起部支持面に前記突起部が取り付けられており、
前記押圧部が押圧された際に、前記支持脚部が弾性変形し、且つ、前記突起部が前記平面移動部の表面に直接的または間接的に接した後には、前記突起部支持面が弾性変形して前記突起部が変位することにより前記平面移動部を前記変位位置とし、
前記押圧部の押圧が解放された際に、前記支持脚部及び前記突起部支持面の弾性変形が解放されて前記突起部の変位を戻し、前記平面移動部を前記通常位置とし
前記プランジャは、前記筒状部が押圧された際に、これに連動して前記押圧部材を押圧し、前記筒状部が予め設定した閾値距離だけ押圧された際に、前記脚部が前記ベース部に接してこれ以上の押圧を阻止すること
を特徴とする静電容量式スイッチ。
【請求項2】
第1の電極、及び前記第1の電極とは絶縁して配置された第2の電極からなる平板形状の電極部と、
導電体または誘電体で形成された平板形状の移動部材と、
突起部を有し、該突起部の変位により前記移動部材と前記電極部との間の距離を変化させる押圧部材と、を有し、
前記移動部材は、固定部と、前記突起部の変位により前記電極部の面に対して法線方向に変位する平面移動部と、前記平面移動部と前記固定部を連結するスプリング部と、から成り、
前記平面移動部は、前記突起部が変位していないときには、前記電極部に対して所定距離だけ隔てた通常位置とされ、前記突起部の変位により前記スプリング部が付勢して前記電極部に接触或いは接近した変位位置とされ、
前記押圧部材は、
可撓性を有しており、周囲部に形成されたベース部と、中央部に形成された押圧部と、前記押圧部と前記ベース部を連結する中空錐体形状をなす支持脚部とを備え、更に、前記押圧部の下方に形成された突起部支持面に前記突起部が取り付けられ
前記突起部支持面の厚さは前記支持脚部の厚さより薄くされ、
前記支持脚部の初期曲げ剛性は、前記突起部支持面の初期曲げ剛性よりも大きくなっており、
前記押圧部が押圧された際に、まず前記支持脚部が弾性変形し、且つ、前記突起部が前記平面移動部の表面に直接的または間接的に接した後には、前記突起部支持面が弾性変形して、前記支持脚部と前記突起部支持面が共に変形し、前記突起部が変位することにより前記平面移動部を前記変位位置とし、
前記押圧部の押圧が解放された際に、前記支持脚部及び前記突起部支持面の弾性変形が解放されて前記突起部の変位を戻し、前記平面移動部を前記通常位置とすること
を特徴とする静電容量式スイッチ。
【請求項3】
前記支持脚部は、前記押圧部が押圧された際に、前記支持脚部は上方向に膨らむように弾性変形し、その後の更なる押圧部の押圧により、中央から窪んで前記押圧部を内部に導入するように弾性変形すること
を特徴とする請求項1または2に記載の静電容量式スイッチ。
【請求項4】
前記スプリング部は、渦巻き状のスプリングからなることを特徴とする請求項1または2に記載の静電容量式スイッチ。
【請求項5】
前記平面移動部は、前記変位位置とされた際に、前記電極部に対して直接的或いは間接的に面接触すること
を特徴とする請求項1または2に記載の静電容量式スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器へ情報を入力する入力装置等に用いられるスイッチに係り、特に、静電容量方式を用いた静電容量式スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、パソコンに用いられるマウスのスイッチとして、特許文献1に開示されたプッシュスイッチが知られている。特許文献1では、固定接点とドーム形状をなす可動接点を対向して配置している。可動接点に接しているプランジャが押下されると、該プランジャに設けられている作用片が可動接点を押圧する。その結果、可動接点が固定接点と接し、スイッチがオンとなる。更に、作用片が変形する。このため、スイッチのストロークを大きく取れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-44739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、プランジャを押圧することによりドーム形状をなす可動接点を変形させる構成であるので、プランジャが押圧される方向により作用片に加わる力が変化する。このため、プランジャの押圧時における荷重特性に変動が生じ、ストローク内でのオン位置にばらつきが発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、プランジャの押圧時における荷重特性を安定化し、ストローク内でのオン位置のばらつきを抑制することが可能な静電容量式スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本願発明は、第1の電極、及び前記第1の電極とは絶縁して配置された第2の電極からなる平板形状の電極部と、導電体または誘電体で形成された平板形状の移動部材と、突起部を有し、該突起部の変位により前記移動部材と前記電極部との間の距離を変化させる押圧部材と、底面が前記押圧部材に接する筒状部と、前記筒状部から該筒状部の下方周辺に延びる脚部と、を含み、前記押圧部材よりも剛性が高い材質で形成されたプランジャと、を有し、前記移動部材は、固定部と、前記突起部の変位により前記電極部の面に対して法線方向に変位する平面移動部と、前記平面移動部と前記固定部を連結するスプリング部と、から成り、前記平面移動部は、前記突起部が変位していないときには、前記電極部に対して所定距離だけ隔てた通常位置とされ、前記突起部の変位により前記スプリング部が付勢して前記電極部に接触或いは接近した変位位置とされ、前記押圧部材は、可撓性を有しており、周囲部に形成されたベース部と、中央部に形成された押圧部と、前記押圧部と前記ベース部を連結する中空錐体形状をなす支持脚部とを備え、更に、前記押圧部の下方に形成された突起部支持面に前記突起部が取り付けられており、前記押圧部が押圧された際に、前記支持脚部が弾性変形し、且つ、前記突起部が前記平面移動部の表面に直接的または間接的に接した後には、前記突起部支持面が弾性変形して前記突起部が変位することにより前記平面移動部を前記変位位置とし、前記押圧部の押圧が解放された際に、前記支持脚部及び前記突起部支持面の弾性変形が解放されて前記突起部の変位を戻し、前記平面移動部を前記通常位置とし、前記プランジャは、前記筒状部が押圧された際に、これに連動して前記押圧部材を押圧し、前記筒状部が予め設定した閾値距離だけ押圧された際に、前記脚部が前記ベース部に接してこれ以上の押圧を阻止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プランジャの押圧時における荷重特性を安定化し、ストローク内でのオン位置のばらつきを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチの構成を示す断面図であり、操作されていない状態を示す。
図2図2は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチに用いられるラバー部材の断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチに用いられるラバー部材を下方から見た斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチに用いられる固定電極の構成を示す平面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチに用いられる可動電極の構成を示す平面図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチに用いられる固定電極の上に可動電極が配置された状態を示す説明図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチが押下され、ラバー突起部が可動電極に接触したときの状態を示す断面図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチが押下され、可動電極が固定電極を搭載した基板に接触したときの状態を示す断面図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチが押下され、プランジャの脚部の下面がラバーベースの上面に接触した状態を示す断面図である。
図10図10は、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチの押下時における各部の荷重特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る静電容量式スイッチについて図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る静電容量式スイッチ(以下、単に「スイッチ」と略す)の構成を示す断面図である。
【0010】
図1に示すように、スイッチ1は、ラバー部材11(押圧部材)と、プランジャ12と、上ハウジング13と、下ハウジング14と、可動電極16(移動部材)と、固定電極17と、基板18と、を備えている。下ハウジング14には、スペーサ15が設けられている。なお、符号19は、下ハウジング14を基板18に固定するためのボスである。
【0011】
図2は、ラバー部材11の断面図、図3は、ラバー部材11を下方(図2に示す矢印Gの方向)から見た斜視図である。ラバー部材11は、可撓性を有し且つ絶縁性を有する材質で構成されている。例えばシリコンゴム、ウレタンゴム、などで構成されている。
【0012】
図2に示すように、ラバー部材11は、中空円筒形状をなす押圧部111と、押圧部111の下部に形成された突起部支持面116と、該突起部支持面116の中央部に形成され円柱形状をなす中央突起部113と、支持脚部112と、ラバーベース115(ベース部)を備えている。ラバー部材11は、押圧部111と、突起部支持面116と、中央突起部113と、支持脚部112と、ラバーベースが一体成形されている。
【0013】
ラバーベース115は、ラバー部材11の平面視において円環形状をなしており、断面が矩形状とされている。ラバーベース115は、図1に示すように可動電極16の周囲部の表面に位置してラバー部材11全体を支持する。
【0014】
支持脚部112は、押圧部111とラバーベース115との間に設けられ、上部が裁断された中空錐体形状を成している。支持脚部112は、可撓性を有しており、ユーザの操作により押圧部111が上端側から下方に向けて押圧された際に弾性変形する(後述する図7参照)。このため、押圧部111は下方に移動し、ひいては中央突起部113が下方に移動する。また、ユーザによる押圧が解除されると、弾性力により元の状態に戻る。
【0015】
中央突起部113は、押圧部111の突起部支持面116の略中央に設けられている。中央突起部113は、ラバー部材11が押圧されていない通常状態では可動電極16(移動部材)と所定距離だけ隔てた通常位置とされている。具体的に、図1図2に示すように、中央突起部113の下面と可動電極16との間は距離z2(例えば、0.1[mm])だけ離間している。なお、中央突起部113は、円柱形状に限定されるものではなく、その他の形状とすることも可能である。
【0016】
突起部支持面116は可撓性を有しており、押圧部111が下方に押下されて中央突起部113が可動電極16に接すると、該可動電極16との接触による反力により、弾性変形する(後述する図8参照)。突起部支持面116の厚さは、例えば0.2[mm]である。
【0017】
図1に戻って、プランジャ12は、ラバー部材11の上方に設けられている。プランジャ12は、筒状部121と、平板部122と、脚部123から構成されている。プランジャ12は、ラバー部材11よりも剛性が高く、且つ、絶縁性を有する材質、例えばプラスチックで構成されている。なお、プランジャ12の上部には、例えばマウスボタンなど(図示省略)の操作スイッチが設けられる。
【0018】
筒状部121は、円柱形状を成しており、上面はユーザにより符号「F」の方向から押圧される面とされている。平板部122は、基板18に対してほぼ平行に形成されており、該平板部122の下面はラバー部材11の押圧部111の上面に接している。
【0019】
脚部123は、平板部122の周囲から斜め下方に向けて形成されている。即ち、脚部123は、筒状部121から該筒状部121の下方周辺に延びる構成とされている。
【0020】
プランジャ12の周囲には、該プランジャ12を保持するための上ハウジング13及び下ハウジング14が設けられている。
【0021】
下ハウジング14は、基板18に固定されている。下ハウジング14は、筒形状を成しており、筒の中心軸が基板18に対して垂直方向を向くように設けられている。
【0022】
上ハウジング13は、プランジャ12を囲むように配置されている。上ハウジング13の上面には例えば平面視で矩形状をなす開口部133が形成されており、この開口部133にプランジャ12の筒状部121がはめ込まれている。筒状部121が押圧されると、該筒状部121は、この開口部133に沿って上下方向に摺動する。
【0023】
上ハウジング13の周囲部には突起131が形成され、下ハウジング14の内面側には切欠141が形成され、突起131が切欠141に係合して、下ハウジング14に対して上ハウジング13が固定される。
【0024】
また、プランジャ12が押圧されていない状態(符号「F」の方向から力が加えられてない状態)である通常状態において、上ハウジング13の上部裏面132は、プランジャ12の平板部122と面接触している。
【0025】
下ハウジング14に形成されるスペーサ15は、断面L字形状をなし、ラバー部材11のラバーベース115の外周面と基板18との間に設けられている。スペーサ15と上ハウジング13により、ラバーベース115が押さえられ、ラバー部材11が固定されている。
【0026】
可動電極16(移動部材;後述する図5参照)は、平板形状をなし、基板18とほぼ平行になるようにスペーサ15の上面に配置されている。また、可動電極16の周囲部の上面にはラバー部材11のラバーベース115が接している。下ハウジング14にスペーサ15が形成されていることにより、スペース20が形成されている。即ち、可動電極16は、スペース20を介して基板18に対向し、ひいては基板18内に設けられた固定電極17と対向している。図1に示すように、可動電極16の裏面と、基板18の表面との間の距離はz1とされている。
【0027】
可動電極16の外周部は、スペーサ15の表面と、ラバーベース115の下面により挟持されている。
【0028】
基板18は、例えばリジッド基板である。基板18には、平板形状の固定電極17が形成され、更にその表面にレジストが形成されている。
【0029】
[可動電極16、固定電極17の構成]
次に、図4図6を参照して可動電極16及び固定電極17の詳細な構成について説明する。図4は固定電極17の平面図、図5は可動電極16の平面図、図6は可動電極16に固定電極17(二点鎖線で表記)を重畳して示した平面図である。
【0030】
図4に示すように、固定電極17(電極部)は、基板18上に形成されている。基板18は、一般的なプリント基板(リジッド基板)である。固定電極17は、例えば銅箔などの導電体で構成され、基板18上面はレジスト(絶縁体)で覆われた構造とされている。
【0031】
固定電極17は、半円形状をなす2つの電極、即ち、第1の電極171と第2の電極172を有している。各電極171、172の間の電極が形成されていない領域を空間部173とする。即ち、第1の電極171と第2の電極172は、空間部173により絶縁されている。空間部173はレジストで構成されている。なお、第1の電極171、及び第2の電極172の形状は半円形状に限定されるものではなく、その他の形状とすることも可能である。
【0032】
第1の電極171及び第2の電極172は、それぞれ電線を経由して検出回路(図示省略)に接続されている。
【0033】
固定電極17は、コンデンサとしての機能を有する。各電極171、172のうちの一方がドライブ側固定電極となり、他方がセンス側固定電極となっている。
【0034】
図5に示すように、可動電極16は、ステンレスなどの金属板で形成されており、渦巻き形状をなす4つの切欠き161a、161b、161c、161dがエッチング等で形成される。各切欠き161a~161dは狭幅の円弧形状を成しており、可動電極16の中央部を中心として、360°よりも若干小さい角度分だけ、それぞれ90°ずつずれた位置に形成されている。可動電極16は金属以外の誘電体で構成することも可能である。
【0035】
各切欠き161a~161dにより、可動電極16にスプリング部が形成される。即ち、各切欠き161a~161dで挟まれる金属板の領域は、渦巻き状をなすスプリングの機能を有するスプリング部q1となる。また、スプリング部q1の外側はスペーサ15に対して固定されている周囲領域P2とされ、スプリング部q1の内側は、可動電極16の法線方向(図中、紙面に直交する方向)に対して変位可能な中央領域P1(平面移動部)とされている。即ち、周囲領域P2と中央領域P1は、スプリング部q1により連結されている。
【0036】
具体的に、可動電極16の中央領域P1において、該可動電極16の法線方向を向く力が加えられると、スプリング部q1が付勢して、周囲領域P2(固定部)に対して中央領域P1が法線方向に変位することになる。各切欠き161a、161b、161c、161dは、同一の形状とされている。このため、スプリング部q1はほぼ均等に変形し、中央領域P1は、周囲領域P2に対して平行に変位することになる。
【0037】
なお、図5では、各切欠き161a~161dは360°よりも若干小さい角度分だけ形成される例について示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、360°よりも大きくてもよい。また、各切欠き161a~161dは、スプリング部を構成する形状であればよく、円弧形状でなくてもよい。
【0038】
切欠部161a~161dは、例えば、アルキメデスの螺旋状に形成され、切欠きの幅は一定とされている。従って、スプリング部q1も一定の幅となる。スプリング部q1は、金属板(可動電極16)に直交する方向(法線方向)の変動に対して、水平方向(金属板に平行な方向)の変動幅が少ないため、耐久性が高い。可動電極16は、導電体または誘電体で形成された移動部材としての機能を備えている。
【0039】
なお、切欠部161a~161dは同一の幅でなくてもよい。例えば、外側の起点を太くし、終点に向けて徐々に細くなっても良いし、またこれとは反対に外側の起点を細くし、終点に向けて徐々に太くなっても良い。スプリング部q1により中央領域P1が上下方向(図5の紙面に直交する方向)に移動可能であればよい。切欠部161a~161dの形状は、種々の形状とすることができ、例えば、一定の幅で波打つ形状に形成されてもよい。また、切欠部は4つであることに限定されず、3つ、或いは5つ以上とすることができる。
【0040】
スプリング部q1が形成されることにより、可動電極16の法線方向(図5の紙面に直交する方向)に中央領域P1を押圧すると、中央領域P1は法線方向に移動し、スプリング部q1は付勢される。つまり、中央領域P1を法線方向に押圧するとスプリング部q1は付勢され、押圧を解除すると中央領域P1は元の位置に戻る。
【0041】
図6は、可動電極16に固定電極17を重畳して示す説明である。図6に示すように、可動電極16の中央領域P1(図5参照)が法線方向に変位すると、この中央領域P1は、固定電極17の空間部173に接近することになり、第1の電極171と第2の電極172との間の静電容量を変化させることができる。また、固定電極17を構成する第1の電極171と第2の電極172は、平面視した際に、スプリング部q1の内側である中央領域P1とほぼ重なっている。従って、中央領域P1が変位した際に、第1の電極171と第2の電極172との間の静電容量を安定的に変化させることが可能である。
【0042】
[本実施形態の作用の説明]
次に、本実施形態に係るスイッチ1の作用について説明する。図7図9は、図1に示した状態(通常状態)において、符号「F」に示す方向からプランジャ12を押圧したときの動作を示す断面図である。即ち、プランジャ12を押圧することにより、図1に示す通常状態から、図7図8図9の順に変化することを示している。
【0043】
プランジャ12が押圧されるとこれに伴って押圧部111(図2参照)が下方に変位する。この際、図7に示すように支持脚部112が弾性変形して、中央突起部113が下方に変位する。その結果、中央突起部113の底面が可動電極16の表面に接する。この状態において、可動電極16は変位していない。この際、上ハウジング13の上部裏面132と、プランジャ12の平板部122との間に距離x1の隙間が生じることになる。距離x1は、図1図2に示した距離z2に等しい。
【0044】
図7に示した状態から、更にプランジャ12が押圧されると、更に中央突起部113が下方に変位する。この際、中央突起部113は、スプリング部q1の付勢力に抗して下方に変位する。このため、図8に示すように可動電極16の中央領域P1が下方に変位すると共に、スプリング部q1(図5参照)の付勢力により突起部支持面116が上方に向けて弾性変形する。
【0045】
即ち、ラバー部材11においては、支持脚部112が下方に向けて弾性変形し、且つ、突起部支持面116が上方に向けて弾性変形し、これらの弾性変形により作用する力とスプリング部q1による付勢力がバランスしながら、中央領域P1が下方に変位することになる。
【0046】
その後、図8に示すように、可動電極16の中央領域P1が基板18の表面に接すると、中央領域P1はこれ以上の変位が抑止される。即ち、中央突起部113の変位によりスプリング部q1が付勢して、中央領域P1(平面移動部)が固定電極17(電極部)に接触或いは接近した変位位置となるまで中央領域P1が変位する。つまり、中央領域P1が変位位置とされた際には、該中央領域P1は固定電極17に対して、直接的或いは間接的に面接触する。
【0047】
その後のプランジャ12の押圧による変位量は、全て支持脚部112及び突起部支持面116の弾性変形による変位量となる。この際、上ハウジング13の上部裏面132と、プランジャ12の平板部122との隙間は距離x2に変化する。
【0048】
また、中央領域P1が基板18の表面に接することにより、第1の電極171と第2の電極172との間の静電容量が変化する。即ち、通常状態における静電容量C1から、プランジャ12の押圧時における静電容量C2に変化する。検出回路(図示省略)は、この静電容量の変化に起因する電圧或いは電流特定の変化を検出して、プランジャ12が押圧されたか否かを判定する。ひいては、スイッチ操作が行われたか否かを判定する。検出回路については、周知の技術を採用することができるので、詳細な説明を省略する。
【0049】
その後、更にプランジャ12が押圧されると、図9に示すように脚部123の下部がラバーベース115に接する。即ち、図8では脚部123の下部とラバーベース115との間に若干の隙間が生じているが、図9では脚部123の下部がラバーベース115に接している。上述したように、プランジャ12(脚部123)は、プラスチック等の剛性を有する材質で形成されているので、これ以上のプランジャ12の押圧が阻止される。この際、上ハウジング13の上部裏面132と、プランジャ12の平板部122との隙間は距離x3となる。即ち、プランジャ12を押圧することにより、図1図7図8図9に示す順にラバー部材11及び可動電極16を作動させて、スイッチ操作を行うことが可能となる。
【0050】
次に、プランジャ12が押圧されたときの、該プランジャ12に作用する荷重、可動電極16に作用する荷重、及び突起部支持面116に作用する荷重の変化について説明する。図10は、プランジャ12のストロークと該プランジャに作用する荷重との関係(曲線Q1)、可動電極16の変位と該可動電極16に作用する荷重との関係(曲線Q2)、ラバー部材11の突起部支持面116の変位と該突起部支持面116に作用する荷重の関係(曲線Q3)を示すグラフである。
【0051】
図1に示すプランジャ12の筒状部121を押圧すると、ラバー部材11の押圧部111が押圧され、支持脚部112が弾性変形する(図1から図7への変化)。このため、プランジャ12に作用する荷重は曲線Q1に示すように、変位ゼロの点t1から変位量が増加するにつれて(図中、横軸方向に進むにつれて)徐々に上昇する。
【0052】
この間のラバー部材11の中央突起部113の移動量(変位)は、図1に示すz2(或いは図7に示すx1)である。z2は例えば0.1[mm]である。ラバー部材11が押圧されることにより、支持脚部112が、断面視で膨らむように変形する(図7参照)。
【0053】
プランジャ12の変位が、中央突起部113の下面から可動電極16の表面までの距離z2(例えば、z2=0.1[mm])となる点t2に達すると、中央突起部113の下面が可動電極16の表面に接する(図7の状態)。この状態で更にプランジャ12を押圧すると、中央突起部113が可動電極16を下方に向けて押圧する。
【0054】
前述したように、可動電極16はスプリング部q1により付勢されるので、可動電極16の中央領域P1に加わる荷重は曲線Q2に示すように徐々に増加する。これと同時に、スプリング部q1の付勢力により、プランジャ12を押圧する方向に対して反対となる方向(即ち、上方向)に向けて、ラバー部材11の突起部支持面116が弾性変形し始める。突起部支持面116は、その厚さが例えば、0.2[mm]とされ、前述した支持脚部112の厚さ(例えば、0.3[mm])よりも薄いので、スプリング部q1の付勢力により、突起部支持面116が弾性変形する。即ち、支持脚部112の初期曲げ剛性は、突起部支持面116の初期曲げ剛性よりも大きい。従って、突起部支持面116が先に弾性変形する。
【0055】
一方、プランジャ12が更に押圧され変位量が点t3に達すると、支持脚部112が中央から窪んで、ラバー部材11の押圧部111を中空錐体形状をなす支持脚部112の内部に導入するように、支持脚部112が弾性変形する。このとき、プランジャ12に加わる荷重は増加傾向から減少傾向に転じる。このため、曲線Q1は点t3において極大となっている。
【0056】
スイッチ1を操作するときのクリック感は、このラバー部材11の挙動によるものである。即ち、支持脚部112が弾性変形することにより、該支持脚部112の中央が窪んで、押圧部111が支持脚部112の内部に導入するように変形することにより、クリック感が感じられる。このため、図10の点t3において、操作者はスイッチ1を操作する際のクリック感を感じることができる。なお、中央突起部113は、例えば直径が8[mm]程度に形成されているので、可動電極16の押圧時には、ほとんど変形しない。
【0057】
可動電極16の中央領域P1の変位量が図1に示す距離z1に達すると、中央領域P1は基板18の表面に接する。即ち、図10に示す点t4において中央領域P1は基板18の表面(レジスト部)に接するので、中央領域P1はこれ以上の変位が抑止され、中央領域P1に加わる荷重は一定値となる(図8参照)。
【0058】
前述したように、可動電極16の裏面と基板18の表面との間の距離z1(図1参照)は例えば0.3[mm]であり、中央突起部113の下面から可動電極16の表面までの距離z2は例えば0.1[mm]である。また、突起部支持面116が弾性変形することにより、中央突起部113は例えば0.2[mm]だけ上方に変位する。このため、プランジャの変位量が0.6[mm](0.3+0.1+0.2[mm])となったときに、即ち、図10に示す点t4において可動電極16の中央領域P1が基板18の表面に接する。
【0059】
その後更にプランジャ12が押圧されると、突起部支持面116及び支持脚部112がより一層変形する。プランジャ12は、変位量が点t5、例えば0.86[mm]に達するまで変位し、プランジャ12の脚部123の下面と、ラバーベース115の上面が接する(図9参照)。なお、ラバーベース115は、シリコンゴム等の弾性体から成っているため、プランジャ12の脚部123はラバーベース115の表面から若干沈み込む。その沈み込み変位量は例えば0.15[mm]である。その後、プランジャ12に加わる荷重が急激に増大し、オーバーストロークが発生する。
【0060】
即ち、プランジャ12の筒状部121が押圧された際に、これに連動してラバー部材11(押圧部材)を押圧し、筒状部121が予め設定した閾値距離(点t5までの距離)だけ押圧された際に、脚部123がラバーベース115(ベース部)に接してこれ以上の押圧を阻止する。
【0061】
前述したように、プランジャ12におけるオーバーストロークが発生するタイミングは、プランジャ12の脚部123の下面がラバーベース115の上面に接触するときであるため、ほとんどずれない。即ち、プランジャ12のストローク距離はほぼ一定であり、ばらつきが生じない。
【0062】
その後、プランジャ12の押圧が解放されると、下方に変位したプランジャ12はラバー部材11の反力により初期位置に戻される。即ち、図1に示した通常状態に戻される。こうして、プランジャ12の押圧時における荷重特性を安定化し、ストローク内でのオン位置のばらつきを抑制することができるのである。
【0063】
[本実施形態の効果の説明]
このようにして、本実施形態に係る静電容量式スイッチ1では、以下に示す効果を達成することができる。
(1)
プランジャ12を押圧すると、ラバー部材11に形成された支持脚部112、及び突起部支持面116の2箇所が弾性変形する。このため、プランジャ12を操作する際のストローク距離を長くとることができ、入力感触を良好にすることが可能となる。また、支持脚部112が弾性変形することにより、クリック感を得ることが可能となる。
(2)
プランジャ12を押圧すると支持脚部112が弾性変形し、更に一定の変位量に達すると(例えば、図10の点t3)、支持脚部112が中央から窪んで、ラバー部材11の押圧部111を中空錐体形状をなす支持脚部112の内部に導入するように、支持脚部112が弾性変形する。このとき、プランジャ12に加わる荷重が増加傾向から減少傾向に転じる。その結果ユーザは、より明確にクリック感を感じることが可能となる。
(3)
プランジャ12はプラスチック等の剛性を有する材質で形成され、該プランジャ12の押圧時には上ハウジング13に形成された開口部133に沿って、脚部123の下面がラバーベース115の上面に接するまでストローク動作するので、オン位置のばらつきを抑制することが可能となる。
(4)
スプリング部q1が渦巻き状のスプリングとしているので、中央領域P1を安定的に付勢させることができる。
(5)
可動電極の移動部が固定電極に対して面接触するので、第1の電極171と第2の電極172との間の静電容量を急峻に変化させることができる。このため、オン位置のばらつきを抑制することが可能となる。このため、スイッチの連打入力が可能となる。
(6)
静電容量式のスイッチのためチャタリング等の接触不具合がなく、耐久性に優れ、長寿命化を図ることが可能となる。
(7)
ラバー部材11に形成される中央突起部113の下面と可動電極16の中央領域P1が面接触するので、摩耗が低減し耐久性を向上させることができる。また、従来のコニカルスプリング方式の静電容量型スイッチではできなかった薄型化が可能となる。
(8)
ラバー部材11の形状と、可動電極16の形状との組み合わせを任意に設定することにより、プランジャ12の押圧によるオン位置をユーザの好みに合わせて選択することが可能となる。
(9)
プランジャ12の筒状部121が、上ハウジング13の開口部133に沿って上下方向に摺動するので、プランジャ12が斜め方向から押圧される場合であっても、荷重特性にばらつきが生じてオン位置が変動することを回避することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0065】
1 静電容量式スイッチ
11 ラバー部材(押圧部材)
12 プランジャ
13 上ハウジング
14 下ハウジング
15 スペーサ
16 可動電極(移動部材)
17 固定電極(電極部)
18 基板
19 ボス
20 スペース
111 押圧部
112 支持脚部
113 中央突起部(突起部)
115 ラバーベース(ベース部)
116 突起部支持面
121 筒状部
122 平板部
123 脚部
131 突起
132 上部裏面
133 開口部
141 切欠
161a、161b、161c、161d 切欠部
171 第1の電極
172 第2の電極
173 空間部
P1 中央領域(平面移動部)
P2 周囲領域(固定部)
q1 スプリング部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10