(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】フォトマスクブランクおよびフォトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/46 20120101AFI20240119BHJP
G03F 1/00 20120101ALI20240119BHJP
【FI】
G03F1/46
G03F1/00 Z
(21)【出願番号】P 2020052494
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】安森 順一
(72)【発明者】
【氏名】浅川 敬司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勝
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-049111(JP,A)
【文献】特開2019-020712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置製造用のフォトマスクを作製する際に用いられるフォトマスクブランクであって、
露光光に対して実質的に透明な材料からなる透明基板と、
前記透明基板上に設けられ、前記露光光に対して実質的に不透明な材料からなる遮光膜と、を有し、
前記遮光膜は、前記透明基板側から第1反射抑制層と遮光層と第2反射抑制層と、を備え、
前記第1反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に少ない第1低酸化クロム層と、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に多い第1高酸化クロム層と、を前記透明基板側から順に備え、
前記第2反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に少ない第2低酸化クロム層と、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に多い第2高酸化クロム層と、を前記透明基板側から順に備え、
前記第1低酸化クロム層および前記第1高酸化クロム層の厚さはそれぞれ10nm以上35nm以下であって、前記第1高酸化クロム層と前記第1低酸化クロム層との厚さの比率が1:1~1:7であり、
前記遮光層の厚さは50nm以上200nm以下であり、
第2低酸化クロム層および第2高酸化クロム層の厚さはそれぞれ10nm以上35nm以下であって、前記第2高酸化クロム層と前記第2低酸化クロム層との厚さの比率が1:1~1:7であり、
前記遮光膜の表面及び裏面の前記露光光の露光波長300nm~436nmに対する反射率がそれぞれ15%以下であって、かつ光学濃度が3.0以上となるように、少なくとも前記第1反射抑制層、前記遮光層、及び前記第2反射抑制層の組成、及び、膜厚が設定されていることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記遮光層は、クロムの含有率が97原子%以上100原子%以下であるクロム系材料から形成されることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記第2高酸化クロム層における窒素に対する酸素の割合が、2.5以上10以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のフォトマスクブランク。
【請求項4】
前記第1高酸化クロム層における窒素に対する酸素の割合が、2.5以上10以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項5】
前記第1反射抑制層に炭素が含まれていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項6】
前記第2反射抑制層に炭素が含まれていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項7】
前記第1反射抑制層は、クロムの含有率が25原子%以上75原子%以下、酸素の含有率が15原子%以上45原子%以下、窒素の含有率が2原子%以上30原子%以下であって、
前記第2反射抑制層は、クロムの含有率が25原子%以上75原子%以下、酸素の含有率が15原子%以上60原子%以下、窒素の含有率が2原子%以上30原子%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項8】
前記第1反射抑制層および前記第2反射抑制層は、ぞれぞれ、酸素および窒素のうち少なくともいずれか一方の元素の含有率が膜厚方向に沿って連続的あるいは段階的に組成変化する領域を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項9】
前記透明基板と前記第1反射抑制層との間、前記第1反射抑制層と前記遮光層の間、および前記遮光層と前記第2反射抑制層との間に、前記第1反射抑制層、前記遮光層および前記第2反射抑制層を構成する元素が連続的に組成傾斜する組成傾斜領域を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項10】
前記遮光膜の表面の前記露光光の露光波長に対する反射率の面内均一性が3%以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項11】
前記透明基板と前記遮光膜との間に、前記遮光膜の光学濃度よりも低い光学濃度を有する半透光膜をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項12】
前記透明基板と前記遮光膜との間に位相シフト膜をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクにして前記半透光膜をエッチングして前記透明基板上に半透光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記
遮光膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項16】
請求項13~15のいずれかに記載されたフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された遮光膜パターン、前記半透光膜パターン、前記位相シフト膜パターンの少なくとも一つの遮光膜パターンを表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランクおよびフォトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD(Liquid Crystal Display)を代表とするFPD(Flat Panel Display)等の表示装置では、大画面化、広視野角化とともに、高精細化、高速表示化が急速に進んでいる。この高精細化、高速表示化のために必要な要素の1つが、微細で寸法精度の高い素子や配線等の電子回路パターンの作製である。この表示装置用電子回路のパターニングにはフォトリソグラフィが用いられることが多い。このため、微細で高精度なパターンが形成された表示装置製造用のフォトマスクが必要になっている。
【0003】
表示装置製造用のフォトマスクは、フォトマスクブランクから作製される。フォトマスクブランクは、合成石英ガラスなどからなる透明基板上に露光光に対して不透明な材料からなる遮光膜を設けて構成される。例えば、特許文献1に示すように、フォトマスクブランクやフォトマスクでは、フォトマスクを使用して被転写体のパネルに対して露光する際の被転写体からの反射光が、フォトマスク表面で反射され、再び被転写体に再反射するのを抑制するため、遮光膜の表裏両面側に反射防止膜が設けられており、フォトマスクブランクは、例えば、透明基板側から順に後面反射防止膜、遮光膜、反射減衰膜および反射防止膜を積層させた膜構成となっている。フォトマスクは、フォトマスクブランクを構成する各膜をウェットエッチング等によりパターニングして所定の遮光膜パターンを形成することで作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フォトマスクブランクにおいては、遮光膜をエッチングによりパターニングしてフォトマスクとしたときに、その遮光膜パターンが高精度であることが求められている。遮光膜パターンの精度が低いと、フォトマスクを用いて被転写体に遮光膜パターンを転写したときに、その転写パターンの線幅やホールパターンの寸法が不均一となり、被転写体に形成されるパターンのCD均一性が(CD Uniformity)損なわれるためである。
【0006】
また、フォトマスクブランクは、フォトマスクを用いて被転写体に対して露光処理を行ったときに、高精度な転写パターンを転写できるように遮光膜表面の反射率が低いことも求められている。フォトマスクに形成された遮光膜パターンの表面の反射率が高いと、露光処理を行うときに、被転写体からの反射光がフォトマスクの遮光膜パターン表面との反射を繰り返すことで、いわゆるフレアが生じることがある。また、例えば、露光装置からの露光光が、フォトマスクの遮光膜パターンの裏面で反射される反射光が、再び露光装置(転写装置)の光学系に反射され、フォトマスクに再び入射されることで、いわゆる戻り光が生じることがある。これらフレアや戻り光によると、フォトマスクを用いて形成される転写パターンのパターン精度が損なわれることがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、フォトマスクブランクにおける遮光膜をエッチングによりパターニングしてフォトマスクを作製したときに高精度な遮光膜パターンが得られ、かつ、フォトマスクを用いて被転写体に対して転写パターンを転写するときに被転写体のパターン精度が高くなるような光学特性を有するフォトマスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(構成1)
表示装置製造用のフォトマスクを作製する際に用いられるフォトマスクブランクであって、
露光光に対して実質的に透明な材料からなる透明基板と、
前記透明基板上に設けられ、前記露光光に対して実質的に不透明な材料からなる遮光膜と、を有し、
前記遮光膜は、前記透明基板側から第1反射抑制層と遮光層と第2反射抑制層と、を備え、
前記第1反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に少ない第1低酸化クロム層と、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に多い第1高酸化クロム層と、を前記透明基板側から順に備え、
前記第2反射抑制層は、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に少ない第2低酸化クロム層と、クロムと酸素と窒素とを含有し、窒素に対する酸素の割合が相対的に多い第2高酸化クロム層と、を前記透明基板側から順に備え、
前記遮光膜の表面及び裏面の前記露光光の露光波長300nm~436nmに対する反射率がそれぞれ15%以下であって、かつ光学濃度が3.0以上となるように、少なくとも前記第1反射抑制層、前記遮光層、及び前記第2反射抑制層の組成、及び膜厚が設定されていることを特徴とするフォトマスクブランク。
【0009】
(構成2)
前記遮光層は、クロムの含有率が97原子%以上100原子%以下であるクロム系材料から形成されることを特徴とする構成1に記載のフォトマスクブランク。
【0010】
(構成3)
前記第2高酸化クロム層における窒素に対する酸素の割合が、2.5以上10以下であることを特徴とする構成1又は2記載のフォトマスクブランク。
【0011】
(構成4)
前記第1高酸化クロム層における窒素に対する酸素の割合が、2.5以上10以下であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0012】
(構成5)
前記第1反射抑制層に炭素が含まれていることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0013】
(構成6)
前記第2反射抑制層に炭素が含まれていることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0014】
(構成7)
前記第1反射抑制層は、クロムの含有率が25原子%以上75原子%以下、酸素の含有率が15原子%以上45原子%以下、窒素の含有率が2原子%以上30原子%以下であって、
前記第2反射抑制層は、クロムの含有率が25原子%以上75原子%以下、酸素の含有率が15原子%以上60原子%以下、窒素の含有率が2原子%以上30原子%以下であることを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0015】
(構成8)
前記第1反射抑制層および前記第2反射抑制層は、ぞれぞれ、酸素および窒素のうち少なくともいずれか一方の元素の含有率が膜厚方向に沿って連続的あるいは段階的に組成変化する領域を有することを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0016】
(構成9)
前記透明基板と前記第1反射抑制層との間、前記第1反射抑制層と前記遮光層の間、および前記遮光層と前記第2反射抑制層との間に、前記第1反射抑制層、前記遮光層および前記第2反射抑制層を構成する元素が連続的に組成傾斜する組成傾斜領域を有することを特徴とする構成1乃至8のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0017】
(構成10)
前記遮光膜の表面の前記露光光の露光波長に対する反射率の面内均一性が3%以下であることを特徴とする構成1乃至9のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0018】
(構成11)
前記透明基板と前記遮光膜との間に、前記遮光膜の光学濃度よりも低い光学濃度を有する半透光膜をさらに備えることを特徴とする構成1乃至10のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0019】
(構成12)
前記透明基板と前記遮光膜との間に位相シフト膜をさらに備えることを特徴とする構成1乃至10のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0020】
(構成13)
構成1~12のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0021】
(構成14)
構成1~12のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記遮光膜パターンをマスクにして前記半透光膜をエッチングして前記透明基板上に半透光膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0022】
(構成15)
構成1~12のいずれかに記載された前記フォトマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジストパターンをマスクにして前記遮光膜をエッチングして前記透明基板上に遮光膜パターンを形成する工程と、
前記光膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0023】
(構成16)
構成13~15のいずれかに記載されたフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された遮光膜パターン、前記半透光膜パターン、前記位相シフト膜パターンの少なくとも一つの遮光膜パターンを表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、フォトマスクブランクにおける遮光膜をエッチングによりパターニングしてフォトマスクを作製したときに高精度な遮光膜パターンが得られ、かつ、フォトマスクを用いて被転写体に対して転写パターンを転写するときに被転写体のパターン精度が高くなるような光学特性を有するフォトマスクを製造できるフォトマスクブランクが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態にかかるフォトマスクブランクの概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1のフォトマスクブランクにおける膜厚方向の組成分析結果を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1のフォトマスクブランクについて表裏面の反射率スペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、参考例1のフォトマスクブランクにおける膜厚方向の組成分析結果を示す図である。
【
図5】
図5は、参考例1のフォトマスクブランクについて表裏面の反射率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<本発明者らの検討>
本発明者らは、遮光膜が透明基板側から順に第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層を積層させて構成されるフォトマスクブランクについて光学特性を改善すべく検討を行った。しかし、フォトマスクブランクにおける遮光膜の表面および裏面の反射率をただ低下させるだけでは、被転写体に転写される転写パターンが高精度とならないことが確認された。
【0027】
この要因について検討したところ、被転写体の転写パターン精度が低下する要因としては、フォトマスクブランクの遮光膜の表面および裏面の反射率が面内で不均一である(反射率の面内ばらつきが大きい)ことが見出された。遮光膜においては、第1および第2の反射抑制層は反射率を低くするために酸化させることになるが、その酸化の度合いが面内でばらつく傾向がある。また遮光層を窒化する場合、その窒化の度合いも面内でばらつく傾向がある。第1および第2の反射抑制層の酸化の度合いや、遮光層の窒化の度合いが面内でばらつくことで、遮光膜の表面および裏面の反射率が面内で不均一となる。
【0028】
また、遮光膜の表面および裏面の反射率をより低くするためには、第1反射抑制層や第2反射抑制層は、より強い酸化が必要となるが、成膜の際に欠陥が生じやすい。
【0029】
フォトマスクにおいて、遮光膜パターンの表面および裏面の反射率が面内で不均一となる(反射率の面内ばらつきが大きくなる)ことで、フォトマスクの遮光膜パターンを被転写体に正確に転写できず、得られる被転写体の転写パターンのCD均一性が損なわれてしまう。
【0030】
一方、フォトマスクブランクの遮光膜をエッチングしたときに得られる遮光膜パターンのパターン精度が低くなる要因としては、遮光膜を構成する各層のエッチングレートまたはエッチング時間が揃わないことである。遮光膜を構成する各層のエッチングレートやエッチング時間が大幅にずれていると、遮光膜をエッチングして遮光膜パターンを形成するときに、特に、第1反射抑制層の透明基板側の箇所でエッチング残りが生じやすくなる。エッチング残りが生じると、遮光膜パターンの断面形状が垂直になりにくくなるので、遮光膜パターンの線幅が表面側と裏面側とで異なることとなり、フォトマスクの遮光膜パターンの精度が低くなってしまう。
【0031】
以上のことから、本発明者らはフォトマスクブランクにおける遮光膜の表面および裏面の反射率を面内で均一にする方法について検討を行った。これまでのフォトマスクブランクにおける第1反射抑制層および第2反射抑制層はそれぞれ、高酸化な層の単層で構成されるのが一般的であった。しかし、第1反射抑制層および第2反射抑制層を高酸化な層の単層で構成する場合、フォトマスクブランク面内で第1反射抑制層および第2反射抑制層の酸化の度合いのばらつきがより顕著となり、遮光膜の表面および裏面の反射率の面内ばらつきに大きな影響を及ぼすと考えられた。また、第1反射抑制層や第2反射抑制層を高酸化とすることで、欠陥が生じやすくなると考えられた。
【0032】
そこで、本発明者らは、第1および第2の反射抑制層を、低酸化な層と高酸化な層という酸化度合いの異なる2層の積層構造で構成することに着目し、検討を行った。その結果、第1および第2の反射抑制層を高酸化な層のみの単層で構成する場合に比べて、遮光膜の表面および裏面の反射率をフォトマスクブランク面内でより均一にできたり、遮光膜の欠陥を低減できたりすることを見出した。しかも、第1の反射抑制層を透明基板側から順に低酸化な層と高酸化な層で構成することにより、第1反射抑制層の透明基板側の箇所でのエッチング残りが抑制され、その結果、遮光膜パターンの断面形状を良好にでき、高精度な遮光膜パターンを得ることを見出した。
【0033】
また、遮光膜の表面および裏面の反射率をフォトマスクブランク面内でより均一にする観点からは、遮光膜のうちの遮光層を、できる限り酸化や窒化しない金属膜に近い状態にすることが好ましいことを見出した。これまで、遮光層は、遮光膜のエッチングレート(エッチング時間)を制御する観点から、窒素を含む金属膜(金属窒化膜)で構成されていた。しかし、遮光層に窒素を含有させるとフォトマスクブランク面内で窒素含有率のばらつき(不均一性)が生じる。また、遮光層の上下に位置する第1および第2の反射抑制層には酸素が含有されているため、第1および第2の反射抑制層もフォトマスクブランク面内で酸素含有率のばらつき(不均一性)が生じる。この遮光層における窒素含有率のフォトマスクブランク面内のばらつき(不均一性)と、第1および第2の反射抑制層における酸素含有率のフォトマスクブランク面内のばらつきが相まって、遮光膜の表面および裏面の反射率の面内ばらつき(不均一性)が大きくなる。遮光膜の表面および裏面の反射率の面内ばらつきを小さくするためには、遮光層に含まれるフォトマスクブランク面内の窒素のばらつきを小さくすることがより効果的であり、そのため、遮光層に含まれる窒素の含有率を小さくすること(窒素をいれないこと)で、遮光膜の表面および裏面の反射率の面内ばらつきを小さくできる。
【0034】
本発明は上記知見に基づいて成されたものである。
【0035】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。また、図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。また、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0036】
(1)フォトマスクブランク
まず、本発明の一実施形態に係るフォトマスクブランクについて説明する。本実施形態のフォトマスクブランクは、例えば300nm~436nmの波長帯域から選択される単波長の光、又は複数の波長の光(例えば、j線(波長313nm)、波長334nm、i線(波長365nm)、h線(405nm)、g線(波長436nm))を含む複合光を露光する表示装置製造用のフォトマスクを作製する際に用いられるものである。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態にかかるフォトマスクブランクの概略構成を示す断面図である。フォトマスクブランク1は、透明基板11と、遮光膜12を備えて構成される。以下、本発明の一実施形態にかかるフォトマスクブランクとして、フォトマスクの遮光膜パターン(転写パターン)が遮光膜パターンであるバイナリータイプのフォトマスクブランクについて説明する。
【0038】
(透明基板)
透明基板11は、露光光に対して実質的に透明な材料から形成され、透光性を有する基板であれば特に限定されない。露光波長に対する透過率としては85%以上、好ましくは90%以上の基板材料が使用される。透明基板11を形成する材料としては、例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、低熱膨張ガラスが挙げられる。
【0039】
透明基板11の大きさは、特に限定されず、フォトマスクに求められる大きさに応じて適宜変更するとよい。例えば、表示装置製造用のフォトマスクの場合であれば、透明基板11としては、矩形状の基板であって、その短辺の長さが330mm以上1620mm以下の大きさの透明基板11を使用することができる。透明基板11としては、例えば、大きさが330mm×450mm、390mm×610mm、500mm×750mm、520mm×610mm、520mm×800mm、800×920mm、850mm×1200mm、850mm×1400mm、1220mm×1400mm、1620mm×1780mmなどの基板を用いることができる。特に、基板の短辺の長さが850mm以上1620mm以下であることが好ましい。このような透明基板11を用いることで、G7~G10の表示装置製造用のフォトマスクが得られる。
【0040】
(遮光膜)
遮光膜12は、露光光に対して実質的に不透明な材料から形成され、透明基板11側から順に第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15が積層されて構成されている。なお、本明細書では、フォトマスクブランク1の両面のうち、遮光膜12側の面を表面、透明基板11側の面を裏面とする。
そして、遮光膜12の表面及び裏面の上記露光光の露光波長300nm~436nmに対する反射率がそれぞれ15%以下であって、かつ光学濃度が3.0以上となるように、少なくとも第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15の組成、及び、膜厚が設定される。また、遮光膜12の裏面側からの露光光の代表波長365nm~436nmに対して、10%以下となるように、少なくとも第1反射抑制層13における第1低酸化クロム層13a、および第1高酸化クロム層13bの組成比、膜厚を調整してもよい。
【0041】
(第1反射抑制層)
第1反射抑制層13は、遮光膜12において、遮光層14の透明基板11に近い側の面に設けられ、フォトマスクブランク1を用いて作製されたフォトマスクを使用してパターン転写を行う場合に、露光装置(露光光源)に近い側に配置される。フォトマスクを用いて露光処理を行う場合、フォトマスクの透明基板11側(裏面側)から露光光を照射し、被転写体である表示装置用基板上に形成されたレジスト膜にパターン転写像を転写することになる。このとき、露光光が、遮光膜パターンの裏面側で反射された反射光は、露光装置の光学系に入射され、再びフォトマスクの透明基板11側から入射されることにより、遮光膜パターンの迷光となり、ゴースト像の形成やフレア量の増加といった転写パターンの劣化要因となる。第1反射抑制層13によれば、フォトマスクを使用してパターン転写を行うときに、遮光膜12の裏面側での露光光の反射を抑制できるので、転写パターンの劣化を抑制して転写特性の向上させることができる。
【0042】
上述したように、本実施形態では、第1反射抑制層13は、欠陥を少なくでき、また、遮光膜12の裏面の反射率を低くし、かつ、フォトマスクブランク面内での反射率の均一性を高めるため(反射率の面内ばらつきを抑えるため)、比較的酸化の少ない第1低酸化クロム層13aと、比較的酸化の多い第1高酸化クロム層13bとが透明基板11側から順に積層させて構成される。
【0043】
第1低酸化クロム層13aは、酸化度が小さくなるように形成されている。
【0044】
また、第1低酸化クロム層13aは、後述するように、第1高酸化クロム層13bに比べて、窒素(N)に対する酸素(O)の割合が小さい、つまりNの含有率が多くなるため、第1高酸化クロム層13bよりもエッチング時間を短くすることができる。そのため、フォトマスクブランク1をエッチングしたときに、第1低酸化クロム層13aのエッチング残りを防止し、また、遮光膜パターンの断面形状をより垂直に近づけることができる。
【0045】
また、第1低酸化クロム層13aは、酸化度が小さく、Nの含有量が多くなるため、遮光膜12をエッチングして微細な遮光膜パターンを形成した場合でも透明基板11との密着性を確保し、遮光膜パターンの膜剥がれを防止することができる。
【0046】
第1高酸化クロム層13bは、遮光膜12の裏面反射率(第1反射抑制層13の裏面反射率)が所定の特性となるように、酸化度を高くしている。
【0047】
(遮光層)
遮光層14は、遮光膜12において第1反射抑制層13と第2反射抑制層15との間に設けられる。遮光層14は、遮光膜12が露光光に対して実質的に不透明となるための光学濃度を有するように調整する機能を有している。ここで露光光に対して実質的に不透明とは、光学濃度で3.0以上の遮光性をいい、転写特性の観点から、好ましくは、光学濃度は4.0以上、さらに好ましくは4.5以上が好ましい。
【0048】
(第2反射抑制層)
第2反射抑制層15は、遮光膜12において、遮光層14の透明基板11から遠い側の面に設けられる。第2反射抑制層15は、その上にレジスト膜を形成してこのレジスト膜に描画装置(例えばレーザー描画装置)の描画光(レーザー光)により所定のレジストパターンを形成するときに、遮光膜12の表面側での前記描画光の反射を抑制する機能を有する。これにより、レジストパターン、そして、それに基づいて形成される遮光膜パターンのCD均一性を高めることができる。一方、第2反射抑制層15は、フォトマスクを使用する際には、被転写体側に配置され、被転写体で反射された光がフォトマスクの遮光膜12の表面側で再び反射されて被転写体に戻ることを抑制する。これにより、転写パターンの劣化を抑制して転写特性の向上に寄与する。
【0049】
第2反射抑制層15は、第1反射抑制層13と同様に、酸化度の異なる2つの酸化クロム層から構成される。具体的には、第2反射抑制層15は、欠陥を少なくでき、また、遮光膜12の表面反射率を低くし、かつ、フォトマスクブランク面内での表面反射率の均一性を高めるため(表面反射率の面内ばらつきを抑えるため)、比較的酸化の少ない第2低酸化クロム層15aと、比較的酸化の多い第2高酸化クロム層15bとが遮光層14側から順に積層させて構成される。
【0050】
第2低酸化クロム層15aは、第1低酸化クロム層13aと同様、酸化度が小さくなるように形成されている。
【0051】
第2高酸化クロム層15bは、遮光膜12の表面反射率(第2反射抑制層15の表面の反射率)が所定の特性となるように、酸化度を高くしている。また、第2高酸化クロム層15bは酸化度が高いことで、フォトマスクブランクやフォトマスクを洗浄する際に使用する酸やアルカリなどの洗浄液に対する耐薬性向上や、第2高酸化クロム層15b上にレジスト膜を形成したときの、レジスト膜との高い密着性にも寄与する。
【0052】
(遮光膜の材料)
続いて、遮光膜12における第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層の各層の形成材料について説明する。
【0053】
第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層の各層の材料は、フォトマスクブランク1において上述した光学特性を得られるようなものであれば特に限定されないが、上述した光学特性を得る観点からは、各層に以下の材料を用いることが好ましい。
【0054】
第1反射抑制層13は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料で構成されることが好ましい。酸素(O)は、主に第1反射抑制層13の反射率を低減させる機能を有する。窒素(N)は、主に第1反射抑制層13の反射率を低減させるとともに、第1反射抑制層13のエッチングレートを高めてエッチング時間を短縮する機能を有する。なお、エッチング特性を制御する視点から、第1反射抑制層13に炭素(C)やフッ素(F)をさらに含有させてもよく、特に炭素(C)を含有させることが好ましい。第1反射抑制層13にCを含有させることにより、第1反射抑制層13と遮光層14とのエッチングレートを合わせやすくなり、遮光膜パターンの断面形状をより良好にすることができる。
【0055】
第1反射抑制層13は、酸化度の異なる第1低酸化クロム層13aおよび第1高酸化クロム層13bから構成される。酸化度とは窒素に対する酸素の割合(以下、O/N比ともいう)を示し、第1低酸化クロム層13aは、Nに対するOの割合が相対的に小さなクロム系材料から形成され、第1高酸化クロム層13bは、Nに対するOの割合が相対的に大きなクロム系材料から形成される。
【0056】
遮光層14は、クロム系材料で構成される。遮光層14には、クロム(Cr)以外に、O、N、C、Fなどが含まれていてもよい。遮光膜12の表面反射率および裏面反射率をフォトマスクブランク面内でより均一にする観点からは、遮光層14には、実質的にO、N、Fを含まないクロム膜にすることが好ましい。遮光層14を実質的にO、N、Fを含まないクロム膜とは、意図的に添加しないことを示し、不可避的に含まれる場合は除く。より具体的には、実質的にO、N、Fを含まないクロム膜とは、これらの元素の合計含有率が3原子%以下、さらにはこれらの元素の合計含有率が2原子%以下であるクロム膜をいう。上述したように、遮光層14では窒素含有率を面内で均一にできず、第1反射抑制層13や第2反射抑制層15との間での屈折率差を過大にしたり過少にしたりすることで、フォトマスクブランク1における裏面反射率や表面反射率の面内でのばらつきを助長させることがある。この点、遮光層14が実質的にO、N、Fを含まないクロム膜とすることで、遮光膜12の表面反射率および裏面反射率をフォトマスクブランク面内でより均一にすることができる。
【0057】
第2反射抑制層15は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料で構成されることが好ましい。第2反射抑制層15において、酸素(O)は、露光光や描画光の反射率を低減させるだけでなく、レジスト膜との密着性を向上させ、レジスト膜と遮光膜12との界面からのエッチャントの浸透によるサイドエッチングを抑制する機能を有する。窒素(N)は、第2反射抑制層15の反射率を低減させるとともに、第2反射抑制層15のエッチングレートを高めてエッチング時間を短縮する。なお、エッチング特性を制御する視点から、炭素(C)やフッ素(F)をさらに含有させてもよく、特に炭素(C)を含有させることが好ましい。第2反射抑制層15にCを含有させることにより、第2反射抑制層15と遮光層14とのエッチングレートを合わせやすくなり、遮光膜パターンの断面形状をより良好にすることができる。
【0058】
(遮光膜の組成)
続いて、遮光膜12における各層の組成について具体的に説明する。なお、後述する各元素の含有率は、X線光電分光法(XPS)により測定された値とする。
【0059】
第1低酸化クロム層13aを形成するクロム系材料は、クロム(Cr)と酸素(O)と窒素(N)を含み、Nに対するOの割合が0.1以上2.5未満であることが好ましい。更に、第1低酸化クロム層13aは、クロム(Cr)を25~95原子%、酸素(O)を5~45原子%、窒素(N)を2~35原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が0.1以上2.5未満であることが好ましい。
第1高酸化クロム層13bを形成するクロム系材料は、クロム(Cr)と酸素(O)と窒素(N)を含み、Nに対するOの割合が2.5以上10以下であることが好ましい。さらに、第1高酸化クロム層13bは、クロム(Cr)を30~95原子%、酸素(O)を7~50原子%、窒素(N)を2~25原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が2.5以上10以下であることが好ましい。
第1低酸化クロム層13aおよび第1高酸化クロム層13bに含まれるCrの含有率は、遮光層14に含まれるCrよりも低いことが好ましい。また、第1低酸化クロム層13aおよび第1高酸化クロム層13bに含まれるOおよびNの合計含有率は7~75原子%であることが好ましい。
【0060】
遮光層14を形成するクロム材料は、主にCrを含み、Crを97原子%以上100原子%以下であることが好ましい。Cr以外にO、N、CおよびFなどを含んでもよく、これらの合計含有率は3原子%以下であることが好ましい。
【0061】
第2低酸化クロム層15aを形成するクロム系材料は、クロム(Cr)と酸素(O)と窒素(N)を含み、Nに対するOの割合が0.1以上2.5未満であることが好ましい。更に、第2低酸化クロム層15aは、クロム(Cr)を25~95原子%、酸素(O)を5~45原子%、窒素(N)を2~35原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が0.1以上2.5未満であることが好ましい。
第2高酸化クロム層15bを形成するクロム系材料は、クロム(Cr)と酸素(O)と窒素(N)を含み、Nに対するOの割合が2.5以上10以下であることが好ましい。更に、第2高酸化クロム層15bは、クロム(Cr)を30~70原子%、酸素(O)を15~60原子%、窒素(N)を2~30原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が2.5~10であることが好ましい。
第2低酸化クロム層15aおよび第2高酸化クロム層15bに含まれるCrの含有率は、遮光層14に含まれるCrよりも低いことが好ましい。また、第2低酸化クロム層15aおよび第2高酸化クロム層15bに含まれるOおよびNの合計含有率は7~75原子%であることが好ましい。
【0062】
第1反射抑制層13および第2反射抑制層15は、それぞれ、OおよびNのうち少なくともいずれか一方の元素の含有率が膜厚方向に沿って連続的あるいは段階的に組成変化する領域を有することが好ましい。
【0063】
また、透明基板11と第1反射抑制層13との間、第1反射抑制層13と遮光層14の間、および遮光層14と第2反射抑制層15との間には、第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15を構成する元素が連続的に組成傾斜する組成傾斜領域が形成されていてもよい。
【0064】
(膜厚について)
遮光膜12において、第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15のそれぞれの厚さは特に限定されず、遮光膜12に要求される光学濃度や反射率に応じて適宜調整するとよい。
【0065】
第1反射抑制層13における欠陥の抑制と、裏面反射率の低減とを両立する観点からは、第1低酸化クロム層13aと、第1高酸化クロム層13bの厚さは、各々、10nm以上35nm以下とすることが好ましく、これらの合計した第1反射抑制層13の厚さは20nm以上70nm以下とすることが好ましい。また、第1低酸化クロム層13aと第1高酸化クロム層13bの厚さの比率は、第1高酸化クロム層:第1低酸化クロム層=1:7~1:1が好ましく、さらに好ましくは、第1高酸化クロム層:第1低酸化クロム層=1:5~1:2が望ましい。
【0066】
遮光層14の厚さは、遮光膜12に求められる光学濃度に応じて適宜変更することができる。例えば光学濃度を3以上とする場合であれば、遮光層14の厚さを50nm~200nmとするとよい。
【0067】
第2反射抑制層15の厚さは、遮光膜12の表面側からの露光光や描画光に対し、所定の光学特性(表面反射率)が得られるように調整される。具体的には、遮光膜12の裏面側からの露光光の代表波長(例えば、365nm~436nm)に対して、10%以下となるように、第2反射抑制層15における第2低酸化クロム層15a、および第2高酸化クロム層15bの膜厚を調整する。第2反射抑制層15における欠陥の抑制と、表面反射率の低減とを両立する観点からは、第2低酸化クロム層15aの厚さと、第2高酸化クロム層15bの厚さは、各々、10nm以上35nm以下とすることが好ましく、これらの合計した第2反射抑制層15の厚さは20nm以上70nmとすることが好ましい。また、第2低酸化クロム層15aと第2高酸化クロム層15bの厚さの比率は、第2高酸化クロム層:第2低酸化クロム層=1:7~1:1が好ましく、さらに好ましくは、第2高酸化クロム層:第2低酸化クロム層=1:5~1:2が望ましい。
【0068】
(フォトマスクブランクの光学特性)
フォトマスクブランク1は以下のような光学特性を有する。
【0069】
フォトマスクブランク1の遮光膜12の表面に露光光や描画光を照射したときに得られる、遮光膜12の表面の反射率スペクトルは、露光波長300nm~436nmの範囲内の代表波長において、表面反射率が好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。さらに好ましくは、遮光膜12の表面の反射スペクトルは、露光波長300nm~436nmの範囲内において、表面反射率が好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。または、遮光膜12の表面の反射率スペクトルは、露光波長365nm~436nmの範囲内の代表波長において、表面反射率が好ましくは10%以下、より好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5%以下である。さらに好ましくは、遮光膜12の表面の反射率スペクトルは、露光波長365nm~436nmの範囲内において、表面反射率が好ましくは10%以下、より好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5%以下である。
また、フォトマスクブランク1の遮光膜12の裏面に露光光を照射したときに得られる、遮光膜12の裏面の反射率スペクトルは、露光波長300nm~436nmの範囲内の代表波長において、裏面反射率が好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。さらに好ましくは、遮光膜12の裏面の反射スペクトルは、露光波長300nm~436nmの範囲内において、裏面反射率が好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。また、遮光膜12の裏面の反射率スペクトルは、露光波長365nm~436nmの範囲内の代表波長において、裏面反射率が好ましくは10%以下、より好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5%以下である。さらに好ましくは、遮光膜12の裏面の反射スペクトルは、露光波長365nm~436nmの範囲内において、裏面反射率が好ましくは10%以下、より好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0070】
また、フォトマスクブランク1の遮光膜12における表裏面の反射率は、露光波長300nm~436nmの範囲内において、または、365nm~436nmの範囲内において、波長依存性が小さい。波長依存性とは、反射率が露光波長に依存して変化することを示し、波長依存性が小さいとは、反射率の最大値と最小値との差が小さいこと、つまり、反射率の変化量(変動幅)が小さいことを示す。具体的には、遮光膜12における表裏面の反射率の波長依存性は、露光波長300nm~436nmの範囲内において、好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下である。または、遮光膜12における表裏面の反射率の波長依存性は、露光波長365nm~436nmの範囲内において、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
【0071】
また、フォトマスクブランク1では、遮光膜12の表面および裏面における反射率(表面反射率、裏面反射率)の面内でのばらつきを抑制でき、表裏面の反射率の面内均一性を高くすることができる。
具体的には、遮光膜12の表面反射率は、3%以下(レンジ)に抑えることができる。遮光膜12の表面反射率の面内均一性は、フォトマスクブランク1の表面において、周縁部50mmを除いた、フォトマスクブランク面内の11×11=121点に関して反射率計を用いて測定した表面反射率の結果に基づいて算出する。
また、遮光膜12の裏面反射率は、5%以下(レンジ)に抑えることができる。遮光膜12の裏面反射率の面内均一性は、フォトマスクブランク1の代わりに、フォトマスクブランク1の面内に複数枚敷き詰めたダミー基板(例えば、6インチ×6インチのサイズ)に対して、遮光膜12を構成する第1反射抑制層13、遮光層14及び第2反射抑制層15を形成し、ダミー基板に形成された遮光膜12の裏面の反射率を、反射率計を用いて測定した裏面反射率の結果に基づいて計算される。
なお、反射率の面内均一性とは、当該マスクブランクの任意の複数点における反射率の最大値と最小値の差分をいう。
【0072】
<フォトマスクブランクの製造方法>
続いて、上述したフォトマスクブランク1の製造方法について説明する。
【0073】
(準備工程)
露光光に対して実質的に透明な透明基板11を準備する。なお、透明基板11は、平坦でかつ平滑な主表面となるように、研削工程、研磨工程などの任意の加工工程を必要に応じて行うとよい。研磨後には、洗浄を行って透明基板11の表面の異物や汚染を除去するとよい。洗浄としては、例えば、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、オゾン水、温水等を用いることができる。
【0074】
(第1反射抑制層の形成工程)
続いて、透明基板11上に第1反射抑制層13を形成する。本実施形態では、透明基板11側から第1低酸化クロム層13aおよび第1高酸化クロム層13bを順に積層させて、第1反射抑制層13を形成する。
【0075】
第1反射抑制層13の形成においては、Crを含むスパッタターゲットと、酸素系ガス、窒素系ガスを含有する反応性ガスと、希ガスを含むスパッタリングガスと、を用いた反応性スパッタリングによる成膜を行う。この際、成膜条件として、スパッタリングガスに含まれる反応性ガスの流量がメタルモードとなる流量を選択する。
【0076】
反応性スパッタリングにおいては、酸素系ガスや窒素系ガスなどの反応性ガスを導入しながらスパッタターゲットを放電させたときに、反応性ガスの流量に応じて放電プラズマの状態が変化し、それに伴って成膜速度が変化する。メタルモードでは、反応性ガスの比率を少なくすることで、スパッタターゲット表面への反応性ガスの付着を少なくし、成膜速度を速くすることができる。しかも、メタルモードでは、反応性ガスの供給量が少ないため、例えば、化学量論的な組成を有する膜よりも酸素含有率(O含有率)あるいは窒素含有率(N含有率)の少なくともいずれかの含有率が低くなる膜を形成することができる。
【0077】
第1反射抑制層13での欠陥を抑制する観点からは、成膜条件のうち、スパッタターゲットへの印加電力を低くすることが好ましい。スパッタターゲットへの印加電力を低くすると、酸素系ガスや窒素系ガスを導入しての反応性スパッタリングにおいて、スパッタターゲットでのマイクロアークや異常放電を抑制して、第1反射抑制層13の欠陥の発生を抑制することができる。第1反射抑制層13を成膜するためのメタルモードの条件としては、例えば、酸素系ガスの流量を1~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、炭化水素系ガスの流量を1~15sccm、希ガスの流量を20~100sccmとするとよい。また、ターゲット印加電力は1.0~6.0kWとするとよい。
【0078】
スパッタターゲットとしては、クロムを含むものであればよく、例えば、クロムの他に、酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム等のクロム系材料を用いることができる。酸素系ガスとしては、例えば、酸素(O2)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物ガス(N2O、NO、NO2)などを用いることができる。窒素系ガスとしては、窒素(N2)などを用いることができる。希ガスとしては、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスなどを用いることもできる。なお、上記反応性ガス以外に、炭化水素系ガスを供給してもよく、例えばメタンガスやブタンガス等を用いることができる。
【0079】
本実施形態では、反応性ガスの流量およびスパッタターゲットへの印加電力をメタルモードとなるような条件に設定し、Crを含むスパッタターゲットを用いて、反応性スパッタリングによる成膜処理を行う。これにより、透明基板11上に、まず、Nに対するOの割合が相対的に小さな第1低酸化クロム層13aを成膜し、その上に、Nに対するOの割合が相対的に大きな第1高酸化クロム層13bを成膜することで、第1反射抑制層13を形成する。第1低酸化クロム層13aは、メタルモードかつ低パワーで、第1高酸化クロム層13bに比べてO含有率が低くなるように成膜する。第1高酸化クロム層13bは、メタルモードかつ低パワーで、第1低酸化クロム層13aに比べてO含有率が高くなるように成膜する。なお、メタルモードでの成膜条件は、例えば特開2019-20712などを参照して設定することができる。
【0080】
なお、第1低酸化クロム層13aから第1高酸化クロム層13bの成膜に切り替える際には、O含有率やN含有率を変化させるために、反応性ガスの種類や流量、反応性ガスにおける酸素系ガスや窒素系ガスの比率などを適宜変更するとよい。また、ガス供給口の配置やガス供給方法などを変更させてもよい。また、各層の厚さに応じて、成膜時間を適宜変更するとよい。
【0081】
(遮光層の形成工程)
続いて、第1反射抑制層13上に遮光層14を形成する。この形成は、Crを含むスパッタターゲットと、希ガスを含むスパッタリングガスを用いたスパッタリングによる成膜を行う。この際、成膜条件として、スパッタリングガスに含まれる反応性ガスの流量がメタルモードとなる流量を選択する。
【0082】
スパッタターゲットとしては、クロムを含むものであればよい。遮光膜12の表面および裏面の反射率の面内均一性を良好にする観点からは、クロムからなるスパッタターゲットとすることが好ましい。希ガスとしては、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスなどを用いることもできる。なお、本発明の効果を逸脱しない範囲で、上記希ガス以外に、酸素系ガス、窒素系ガス、炭化水素系ガスを供給してもよい。
【0083】
本実施形態では、反応性ガスの流量およびスパッタターゲット印加電力をメタルモードとなるような条件に設定し、Crを含むスパッタターゲットを用いてスパッタリングを行う。これにより、第1反射抑制層13上に、主にCrを含む遮光層14を形成する。
【0084】
なお、遮光層14の成膜条件としては、例えば、希ガスの流量を60~200sccmとするとよい。また、ターゲット印加電力は3.0~10.0kWとするとよい。
【0085】
(第2反射抑制層の形成工程)
続いて、遮光層14上に第2反射抑制層15を形成する。この形成は、第1反射抑制層13と同様に、反応性ガスの流量およびスパッタターゲットへの印加電力をメタルモードとなるような条件に設定し、Crを含むスパッタターゲットを用いて、反応性スパッタリングによる成膜を行う。これにより、遮光層14上に、Nに対するOの割合が相対的に小さな第2低酸化クロム層15aを成膜し、その上に、Nに対するOの割合が相対的に大きな第2高酸化クロム層15bを成膜することで、第2反射抑制層15を形成する。第2低酸化クロム層15aは、メタルモードかつ低パワーで、第2高酸化クロム層15bに比べてO含有率が低くなるように成膜する。第2高酸化クロム層15bは、メタルモードかつ低パワーで、第2低酸化クロム層15aに比べてO含有率が高くなるように成膜する。
【0086】
第2反射抑制層15を成膜するためのメタルモードの条件としては、例えば、酸素系ガスの流量を1~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、炭化水素系ガスの流量を1~15sccm、希ガスの流量を20~100sccmとするとよい。また、ターゲット印加電力は1.0~6.0kWとするとよい。
【0087】
なお、第2低酸化クロム層15aから第1高酸化クロム層13bの成膜に切り替える際には、第1反射抑制層13と同様に、反応性ガスの種類や流量、反応性ガスにおける酸素系ガスや窒素系ガスの比率などを適宜変更するとよい。また、ガス供給口の配置やガス供給方法などを変更させてもよい。
【0088】
以上により、本実施形態のフォトマスクブランク1を得る。
【0089】
なお、遮光膜12における各層の成膜は、インライン型スパッタリング装置を用いてin-situで行うとよい。インライン型でない場合、各層の成膜後、透明基板11を装置外に取り出す必要があり、透明基板11が大気に曝されて、各層が表面酸化や表面炭化されることがある。その結果、遮光膜12の露光光に対する反射率やエッチングレートを変化させてしまうことがある。この点、インライン型であれば、透明基板11を装置外に取り出して大気に曝すことなく、各層を連続して成膜できるので、遮光膜12への意図しない元素の取り込みを抑制することができる。
【0090】
また、インライン型スパッタリング装置を用いて遮光膜12を成膜する場合、第1反射抑制層13、遮光層14、第2反射抑制層15の各層の間が連続的に組成傾斜する組成傾斜領域(遷移層)を有するので、フォトマスクブランクを用いてエッチング(特にウェットエッチング)により形成される遮光膜パターンの断面がなめらか、かつ垂直に近づけることができるので好ましい。
【0091】
<フォトマスクの製造方法>
続いて、上述したフォトマスクブランク1を用いて、フォトマスクを製造する方法について説明する。
【0092】
(レジスト膜の形成工程)
まず、フォトマスクブランク1の遮光膜12における第2反射抑制層15上にレジストを塗布し、乾燥してレジスト膜を形成する。レジストとしては、使用する描画装置に応じて適切なものを選択する必要があるが、ポジ型またはネガ型のレジストを用いることができる。
【0093】
(レジストパターンの形成工程)
続いて、描画装置を用いてレジスト膜に所定のパターンを描画する。通常、表示装置製造用のフォトマスクを作製する際、レーザー描画装置が使用される。描画後、レジスト膜に現像およびリンスを施すことにより、所定のレジストパターンを形成する。
【0094】
本実施形態では、第2反射抑制層15の反射率を低くなるように構成しているので、レジスト膜にパターンを描画するときに、描画光(レーザー光)の反射を少なくすることができる。これにより、パターン精度の高いレジストパターンを形成することができ、それに伴って寸法精度の高い遮光膜パターンを形成することができる。
【0095】
(遮光膜パターンの形成工程)
続いて、レジストパターンをマスクとして遮光膜12をエッチングすることにより、遮光膜パターンを形成する。エッチングはウェットエッチングでもドライエッチングでも構わない。通常、表示装置製造用のフォトマスクでは、ウェットエッチングが行われ、ウェットエッチングで使用されるエッチング液(エッチャント)としては、例えば、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液を用いることができる。
【0096】
本実施形態では、遮光膜12の厚さ方向において、第1反射抑制層13、遮光層14および第2反射抑制層15のエッチングレートが揃うように各層の組成を調整しているので、ウェットエッチングしたときの断面形状を、つまり、遮光膜パターンの断面形状を透明基板11に対して垂直に近づけることができ、高いCD均一性を得ることができる。
【0097】
(剥離工程)
続いて、レジストパターンを剥離し、透明基板11上に遮光膜パターン(遮光膜パターン)が形成されたフォトマスクを得る。
【0098】
以上により、本実施形態にかかるフォトマスクが得られる。
【0099】
<表示装置の製造方法>
続いて、上述したフォトマスクを用いて、表示装置を製造する方法について説明する。
【0100】
(準備工程)
まず、表示装置の基板上にレジスト膜が形成されたレジスト膜付き基板を準備する。続いて、上述した製造方法により得られたフォトマスクを、露光装置の投影光学系を介して、レジスト膜付き基板のレジスト膜に対向するように、露光装置のマスクステージに載置する。
【0101】
(露光工程(パターン転写工程))
次に、露光光をフォトマスクに照射して、表示装置の基板上に形成されたレジスト膜にパターンを転写するレジスト露光工程を行う。
露光光は、例えば、300nm~436nmの波長帯域から選択される単波長の光(j線(波長313nm)、波長334nm、i線(波長365nm)、h線(波長405nm)、g線(波長436nm)等)、又は複数の波長の光(例えば、j線(波長313nm)、波長334nm、i線(波長365nm)、h線(405nm)、g線(波長436nm))を含む複合光を用いる。大型のフォトマスクを用いる場合であれば、露光光としては、光量の観点から複合光を用いるとよい。
本実施形態では、遮光膜パターン(遮光膜パターン)の表裏面の反射率が低減され、かつ、これら反射率の面内均一性が高いフォトマスクを使用して表示装置(表示パネル)を製造するので、精度の高い転写パターンを形成することができる。
【0102】
<本実施形態にかかる効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0103】
(a)本実施形態のフォトマスクブランク1は、遮光膜12において、第1反射抑制層13を、比較的酸化の少ない第1低酸化クロム層13aと、比較的酸化の多い第1高酸化クロム層13bとを積層させて構成している。これにより、第1反射抑制層13における欠陥を低減して、遮光膜12の裏面の反射率を低くすることができる。しかも、フォトマスクブランク1において裏面反射率の面内ばらつきを抑えて、裏面反射率の均一性を高めることができる。
【0104】
(b)また、第2反射抑制層15を、比較的酸化の少ない第2低酸化クロム層15aと、比較的酸化の多い第2高酸化クロム層15bとを積層させて構成している。これにより、第2反射抑制層15における欠陥を低減して、遮光膜12の表面の反射率を低くすることができる。しかも、フォトマスクブランク1において表面反射率の面内ばらつきを抑えて、表面反射率の均一性を高めることができる。
【0105】
(c)第1低酸化クロム層13aは、Crを25~95原子%、Oを5~45原子%、Nを2~35原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が2.5未満であり、第1高酸化クロム層13bは、Crを30~95原子%、Oを7~50原子%、Nを2~25原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が2.5~10であることが好ましい。また、第2低酸化クロム層15aは、Crを25~95原子%、Oを5~45原子%、Nを2~35原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が2.5未満であり、第2高酸化クロム層15bは、Crを30~70原子%、Oを15~60原子%、Nを2~30原子%の含有率でそれぞれ含み、Nに対するOの割合が2.5~10であることが好ましい。このような組成で各層を構成することで、遮光膜12の表面および裏面の反射率を低減でき(露光光の代表波長に対して10%以下)、欠陥を低減することができる。しかも、遮光膜12の各層のエッチングレートを揃えることができるので、遮光膜パターンの断面形状をより垂直に近づけることができる。
【0106】
(d)第1反射抑制層13および第2反射抑制層15は、それぞれ、OおよびNのうち少なくともいずれか一方の元素の含有率が膜厚方向に沿って連続的あるいは段階的に組成変化する領域を有することが好ましい。第1反射抑制層13および第2反射抑制層15の各層を組成変化させることにより、各層内でのエッチングレートの差を低減し、遮光膜パターンの断面形状をより垂直に近づけることができる。
【0107】
(e)遮光層14は、クロムの含有率が97原子%~100原子%であることが好ましい。遮光層14を実質的にO、N、Fを含まないクロムで構成することにより、O、N、Fが含まれることによる面内での組成のばらつきを抑制することができる。これにより、遮光膜12の表面反射率および裏面反射率をフォトマスクブランク面内でより均一にすることができる。
【0108】
(f)第1反射抑制層13において、第1高酸化クロム層13bにおけるNに対するOの割合は2.5~10であることが好ましい。上記O/N比となるように構成することで、第1反射抑制層13の反射率を低くするとともに、他の層(遮光層:特に、クロムの含有率が97~100原子%)とのエッチングレートの差を少なくすることができる。
【0109】
(g)第2反射抑制層15において、第2高酸化クロム層15bにおけるNに対するOの割合が2.5~10であることが好ましい。上記O/N比となるように構成することで、第2反射抑制層15の反射率を低くすることができる。また、第2低酸化クロム層15aの表面に形成するレジスト膜との密着性を向上させることができ、遮光膜パターンの断面形状をより安定して垂直に近づけることができる。
【0110】
(h)第1反射抑制層13および第2反射抑制層15の少なくとも一方は、さらにCを含むことが好ましい。これにより、第1反射抑制層13および第2反射抑制層15と遮光層14とのエッチングレートの差を小さくすることができる。特に、遮光層14のクロム含有率が97原子%~100原子%のときに、差をより小さくすることができる。
【0111】
(i)フォトマスクブランク1は、上述した遮光膜12を備えることで、露光波長300nm~436nmの範囲での表裏面の反射率がともに15%以下であり、上記波長範囲における表面反射率よび裏面反射率それぞれの波長依存性が12%以下であるような光学特性を有している。また、フォトマスクブランク1は、上述した遮光膜12を備えることで、露光波長365nm~436nmの範囲での表裏面の反射率がともに10%以下であり、上記波長範囲における表面反射率および裏面反射率それぞれの波長依存性が5%以下であるような光学特性を有している。このようなフォトマスクブランク1によれば、フォトマスクとして露光光を照射するときに、遮光膜12が露光波長300nm~436nmの全波長帯域、または、露光波長365nm~436nmの全波長帯域にわたって、表面および裏面の光の反射を抑制できるので、表裏面での反射光の合計光量を低減することができる。特に、遮光膜12の裏面反射率の波長依存性を5%以下として、上記波長範囲の全域で裏面反射率を平均的に低くできるので、フォトマスク裏面への戻り光を抑制することができる。この結果、フォトマスクを用いて表示装置を製造する際の、フォトマスクの表裏面での光の反射に起因する転写パターン精度の低下を抑制することができる。
【0112】
(j)フォトマスクブランク1は、露光波長300nm~436nmの範囲の全域で、裏面反射率が表面反射率よりも小さいことが好ましい。または、フォトマスクブランク1は、露光波長365nm~436nmの範囲の全域で、裏面反射率が表面反射率よりも小さいことが好ましい。これにより、幅広い波長帯域にわたって露光光の反射を抑制し、露光光の反射の合計光量をより低減することができる。
【0113】
(k)フォトマスクブランク1は、露光波長300nm~436nmの範囲内において、裏面反射率の波長依存性が表面反射率の波長依存性よりも小さいことが好ましい。または、フォトマスクブランク1は、露光波長365nm~436nmの範囲の全域で、裏面反射率の波長依存性が表面反射率の波長依存性よりも小さいことが好ましい。つまり、上記波長範囲において、裏面反射率の変化量が表面反射率の変化量よりも小さいことが好ましい。これにより、フォトマスクの裏面での戻り光をさらに抑制することができ、転写パターン精度の低下をより低減することができる。
【0114】
(l)フォトマスクブランク1によれば、遮光膜12の表面側の表面反射率が低いので、遮光膜12上にレジスト膜を設け、描画・現像工程によりレジストパターンを形成するときに、描画光の遮光膜12表面での反射を低減することができる。これにより、レジストパターンの寸法精度を高め、それから形成されるフォトマスクの遮光膜パターンの寸法精度を高めることができる。具体的には、遮光膜パターンのCD均一性を向上させることができ、75nm以下の高精度な遮光膜パターンを形成することができる。
【0115】
(m)フォトマスクブランク1から製造されるフォトマスクは、遮光膜パターンが高精度であり、また遮光膜パターンの表裏面の反射率が小さく、かつ反射率の面内均一性が高いので、被転写体へパターンを転写する際に、高い転写特性を得ることができる。
【0116】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0117】
上述の実施形態では、透明基板11の上に遮光膜12を直接設ける場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、遮光膜12よりも光学濃度の低い半透光膜を透明基板11と遮光膜12との間に設けたフォトマスクブランクでもよい。この透明基板11上に半透光膜と遮光膜12が形成されたフォトマスクブランクにおいても、露光波長300nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する半透光膜の裏面反射率が15%以下であり、遮光膜の表面反射率が15%以下であることが好ましい。また、透明基板11上に半透光膜と遮光膜12が形成されたフォトマスクブランクにおいて、露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する半透光膜の裏面反射率が10%以下であり、遮光膜の表面反射率が10%以下であることが好ましい。このフォトマスクブランクは、表示装置製造の際に使用するフォトマスクの枚数を削減する効果のあるグレートーンマスク又は階調マスクのフォトマスクブランクとして使用することができる。このグレートーンマスク又は階調マスクにおける遮光膜パターンは、半透光膜パターン及び/又は遮光膜パターンとなる。
【0118】
また、半透光膜の代わりに、透過光の位相をシフトさせる位相シフト膜を透明基板11と遮光膜12との間に設けたフォトマスクブランクでもよい。この透明基板11上に位相シフト膜と遮光膜12が形成されたフォトマスクブランクにおいても、露光波長300nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する位相シフト膜の裏面反射率が15%以下であり、遮光膜の表面反射率が15%以下であることが好ましい。また、透明基板11上に位相シフト膜と遮光膜12が形成されたフォトマスクブランクにおいて、露光波長365nm~436nmの範囲内において、前記露光光に対する位相シフト膜の裏面反射率が10%以下であり、遮光膜の表面反射率が10%以下であることが好ましい。このフォトマスクブランクは、位相シフト効果による高いパターン解像性の効果を有する位相シフトマスクとして使用することができる。この位相シフトマスクにおける遮光膜パターンは、位相シフト膜パターンや、位相シフト膜パターン及び遮光膜パターンとなる。
【0119】
上述の半透光膜および位相シフト膜は、遮光膜12を構成する材料であるクロム系材料に対してエッチング選択性のある材料が適している。このような材料としては、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)とケイ素(Si)を含有した金属シリサイド系材料を使用することができ、さらに酸素、窒素、炭素、又はフッ素の少なくともいずれか一つを含んだ材料が適している。例えば、MoSi、ZrSi、TiSi、TaSi、MoZrSi、MoTiSi、MoTaSi等の金属シリサイド、金属シリサイドの酸化物、金属シリサイドの窒化物、金属シリサイドの酸窒化物、金属シリサイドの炭化窒化物、金属シリサイドの酸化炭化物、金属シリサイドの炭化酸化窒化物が適している。尚、これらの半透光膜や位相シフト膜は、機能膜として挙げた上記の膜で構成された積層膜であっても良い。
【0120】
また、上述の実施形態において、遮光膜12上に遮光膜12とエッチング選択性のある材料から構成されたエッチングマスク膜を形成しても構わない。
【0121】
また、上述の実施形態において、透明基板11と遮光膜12との間に、遮光膜とエッチング選択性のある材料から構成されたエッチングストッパー膜を形成しても構わない。上記エッチングマスク膜、エッチングストッパー膜は、遮光膜12を構成する材料であるクロム系材料に対してエッチング選択性のある材料で構成される。このような材料としては、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)とケイ素(Si)を含有した金属シリサイド系材料や、Si、SiO、SiO2、SiON、Si3N4等のケイ素系材料が挙げられる。
【実施例】
【0122】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0123】
<実施例1>
本実施例では、インライン型スパッタリング装置を用いて、上述した実施形態に示す手順により、
図1に示すような、基板サイズが1220mm×1400mmの透明基板上に第1低酸化クロム層、第1高酸化クロム層、遮光層、第2低酸化クロム層、および第2高酸化クロム層を順に積層させて遮光膜を備えるフォトマスクブランクを製造した。
【0124】
第1低酸化クロム層および第2高酸化クロム層の成膜条件は、Nに対するOの割合が相対的に小さな第1低酸化クロム層、Nに対するOの割合が相対的に大きな第1高酸化クロム層となるように、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素系ガスの流量を1~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、炭化水素系ガスの流量を1~15sccm、希ガスの流量を20~100sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を1.0~6.0kW範囲で設定した。
【0125】
遮光層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、希ガスの流量を60~200sccmの範囲に、ターゲット印加電力を3.0~10.0kWの範囲で設定した。
【0126】
第2低酸化クロム層および第2高酸化クロム層の成膜条件は、Nに対するOの割合が相対的に小さな第2低酸化クロム層、Nに対するOの割合が相対的に大きな第2高酸化クロム層となるように、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素系ガスの流量を1~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、炭化水素系ガスの流量を1~15sccm、希ガスの流量を20~100sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を1.0~6.0kWの範囲で設定した。
【0127】
得られたフォトマスクブランクの遮光膜について、膜厚方向の組成をX線光電子分光法(XPS)により測定したところ、遮光膜における各層は、
図2に示す組成分布を有することが確認された。
図2は、実施例1のフォトマスクブランクにおける膜厚方向の組成分析結果を示す図であり、横軸は膜厚を、縦軸は元素の含有率[原子%]を示す。膜厚は、遮光膜の表面からの深さ[nm]を表す。
【0128】
図2では、遮光膜の表面付近において炭素(C)が約15原子%含有されている領域は表面自然酸化層である。窒素(N)に対する酸素(O)の割合が2.5以上である、表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約1.3nmから約14nmまでの領域は第2高酸化クロム層である。窒素(N)に対する酸素(O)の割合が2.5未満である、表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約15nmから約43nmまでの領域は第2低酸化クロム層である。表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約44nmから約66nmまでの領域は遷移層である。クロム(Cr)の含有量が97原子%以上である、表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約67nmから約156nmまでの領域は遮光層である。表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約157nmから約164nmまでの領域は遷移層である。窒素(N)に対する酸素(O)の割合が2.5以上である、表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約165nmから約188nmまでの領域は第1高酸化クロム層である。窒素(N)に対する酸素(O)の割合が2.5未満である、表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約189nmから深さ195nmまでの領域は第1低酸化クロム層である。ケイ素(Si)に対する酸素(O)の比率が約2となっている領域は透明基板であり、透明基板と前記第1低酸化クロム層との間の領域は遷移層である。
【0129】
図2に示すように、第1低酸化クロム層は、CrCON膜であり、Crは54.2~56.5原子%、Nは12.0~14.2原子%、Oは14.8~15.1原子%、Cは2.7~4.3原子%を含む。Nに対するOの比率(O/N比)は1.9~2.4であった。
【0130】
第1高酸化クロム層は、CrCON膜であり、Crは57.1~90.7原子%、Nは2.0~11.3原子%、Oは7.3~28.3原子%、Cは0~3.3原子%を含む。Nに対するOの比率(O/N比)は2.5~3.6であった。
【0131】
遮光層は、CrO膜であり、Crは97.4~99.1原子%、Oは0.9~2.6原子%を含む。
【0132】
第2低酸化クロム層は、CrCON膜であり、Crが49.3~76.9原子%、Nが6.2~18.9原子%、Oが24.4~32.5原子%、Cが2.9~5.2原子%を含む。Nに対するOの比率(O/N比)は1.3~2.4であった。
【0133】
第2高酸化クロム層は、CrCON膜であり、Crが42.3~49.0原子%、Nが8.7~12.4原子%、Oが35.3~44.8原子%、Cが2.2~4.2原子%を含む。Nに対するOの比率(O/N比)は2.9~5.2であった。
【0134】
(フォトマスクブランクの評価)
実施例1のフォトマスクブランクについて、遮光膜の光学濃度、遮光膜の表裏面の反射率を以下に示す方法により評価した。
【0135】
実施例1のフォトマスクブランクについて、遮光膜の光学濃度を分光光度計(株式会社島津製作所社製「SolidSpec-3700」)により測定したところ、露光光の波長帯域であるg線(波長436nm)において5.0以上であった。また、遮光膜の表裏面の反射率を、分光光度計(株式会社島津製作所製「SolidSpec-3700」)により測定した。具体的には、遮光膜の第2反射抑制層側の反射率(表面反射率)と、遮光膜の透明基板側の反射率(裏面反射率)をそれぞれ分光光度計により測定した。その結果、
図3に示すような反射率スペクトルが得られた。
図3は、実施例1のフォトマスクブランクについての表裏面の反射率スペクトルを示し、横軸は波長[nm]を、縦軸は反射率[%]をそれぞれ示す。
図3に示すように、実施例1のフォトマスクブランクは、幅広い波長の光に対して反射率を大きく低減できることが確認された。具体的には、波長300nm~436nmにおいて、遮光膜の表面反射率は、15.0%以下(12.2%(波長300nm)、10.9nm(波長313nm)、8.2%(波長334nm)、4.3%(波長365nm)、1.8%(波長405nm)、1.7%(波長413nm)、2.0%(波長436nm))、波長365nm~436nmにおいて、遮光膜の表面反射率は、10.0%以下(4.3%(波長365nm)、1.8%(波長405nm)、1.7%(波長413nm)、2.0%(波長436nm))であった。また、遮光膜の裏面反射率は、波長350nm~436nmおよび波長365nm~436nmにおいて、7.5%以下(7.4%(波長300nm)、6.2%(波長313nm)、3.9%(波長334nm)、1.7%(波長365nm)、0.9%(波長405nm)、2.1%(波長436nm))であった。
また、露光波長300nm~436nmの範囲内における遮光膜の表面反射率の依存性は10.6%であり、裏面反射率の依存性は6.6%であった。また、露光波長365nm~436nmの範囲内における遮光膜の表面反射率の依存性は2.7%であり、裏面反射率の依存性は1.3%と良好であった。
波長300nm~500nmに渡る波長帯域において、表面反射率および裏面反射率の最小値(ボトムピーク)に対応する波長(ボトムピーク波長)は、表面反射率が436nmで、裏面反射率が415.5nmであった。
【0136】
(遮光膜パターンの評価)
実施例1のフォトマスクブランクを使用して、透明基板上に遮光膜パターンを形成した。具体的には、透明基板上の遮光膜上にノボラック系のポジ型レジスト膜を形成した後、レーザー描画(波長413nm)・現像処理してレジストパターンを形成した。その後、レジストパターンをマスクにしてクロムエッチング液によってウェットエッチングして、透明基板上に遮光膜パターンを形成した。遮光膜パターンの評価は、2.5μmのラインアンドスペースパターンを形成して遮光膜パターンの断面形状を走査電子顕微鏡(SEM)により観察して行った。その結果、遮光膜パターンの側面と透明基板とのなす角が77°であることが確認された。このことから、遮光膜パターンの断面形状を垂直に近い状態に形成できることが確認された。
【0137】
(反射率の面内均一性)
得られたフォトマスクブランクの遮光膜の表面反射率の面内均一性を測定した。基板の周縁部50mmを除く、基板面内の11×11=121点に関して反射率計を用いて測定した表面反射率の評価結果に基づいて、表面反射率の面内均一性を算出した結果、2.0%(レンジ)であった。また、裏面反射率は、上述の通りダミー基板を用いての遮光膜の裏面反射率の面内均一性を算出した結果、3.5%(レンジ)であった。
【0138】
以上の実施例1のように、フォトマスクブランクの遮光膜について、透明基板側から第1反射抑制層、遮光層および第2反射抑制層を積層させ、各層を所定の組成となるように構成することで、ウェットエッチングによりパターニングしたときの遮光膜パターンの断面形状を垂直に形成することができた。また、第1反射抑制層、および第2反射抑制層をそれぞれ透明基板側から低酸化クロム層と高酸化クロム層の積層構造にすることによって欠陥を少なくでき、さらに各層を所定の組成となるように構成するようにしたため、遮光膜の表面および裏面の反射率の面内均一性が高いことが確認された。
【0139】
(フォトマスクの作製)
次に、実施例1のフォトマスクブランクを用いて、フォトマスクを作製した。
まず、フォトマスクブランクの遮光膜上にノボラック系のポジ型レジストを形成した。そして、レーザー描画装置を用いて、このレジスト膜にTFTパネル用の回路パターンのパターンを描画し、さらに現像・リンスすることによって、所定のレジストパターンを形成した(上述の回路パターンの最小線幅は0.75μm)。
その後、レジストパターンをマスクとして、クロムエッチング液を使用して、遮光膜をウェットエッチングでパターニングし、最後にレジスト剥離液によりレジストパターンを剥離して、透明基板上に遮光膜パターン(遮光膜パターン)が形成されたフォトマスクを得た。このフォトマスクは、透明基板上に形成された遮光膜パターン(遮光膜パターン)の開口率、すなわち、遮光膜パターンが形成されたフォトマスク全面の領域に占める遮光膜パターンが形成されていない透明基板の露出割合が45%であった。
このフォトマスクの遮光膜パターンを走査電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、遮光膜パターンの断面形状は77°と良好であった。このフォトマスクの遮光膜パターンのCD均一性を、セイコーインスツルメンツナノテクノロジー株式会社製「SIR8000」により測定した。CD均一性の測定は、基板の周縁領域を除外した1100mm×1300mmの領域について、11×11の地点で測定した。その結果、CD均一性は、60nm未満であり、得られたフォトマスクのCD均一性は良好であった。
【0140】
(LCDパネルの作製)
この実施例1で作製したフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置(TFT)用の基板上にレジスト膜が形成された被転写体に対してパターン露光を行ってTFTアレイを作製した。露光光としては、波長365nmのi線、波長405nmのh線、及び波長436nmのg線を含む複合光を用いた。
作製したTFTアレイと、カラーフィルター、偏光板、バックライトを組み合わせてTFT-LCDパネルを作製した。その結果、表示ムラのないTFT-LCDパネルが得られた。これは、フォトマスクを用いてパターン露光を行う際、表裏面での光の反射を抑制し、反射光の合計光量を低減できたこと、また反射率の面内均一性を高められたためと考えられる。
【0141】
(参考例1)
参考例1では、第1反射抑制層を単層の酸化クロム層とし、第2反射抑制層を透明基板側から高酸化クロム層と低酸化クロム層の積層構造とし、し、遮光層をCrONとした以外は、実施例1と同様にフォトマスクブランクを作製した。
【0142】
第1反射抑制層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素系ガスの流量を5~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、希ガスの流量を60~150sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を2.0~6.0kWの範囲で設定した。
【0143】
遮光層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、窒素系ガスの流量を1~60sccm、希ガスの流量を60~200sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を3.0~7.0kWの範囲で設定した。
【0144】
第2反射抑制層の成膜条件は、スパッタターゲットをCrスパッタターゲットとし、反応性ガスの流量は、メタルモードとなるように、酸素系ガスの流量を8~45sccm、窒素系ガスの流量を30~60sccm、希ガスの流量を60~150sccmの範囲からそれぞれ選択するとともに、ターゲット印加電力を2.0~6.0kWの範囲で設定した。
【0145】
得られたフォトマスクブランクの遮光膜について、実施例1と同様、膜厚方向の組成をXPSにより測定したところ、遮光膜における各層は、
図4に示す組成分布を有することが確認された。
図4は、参考例1のフォトマスクブランクにおける膜厚方向の組成分析結果を示す図であり、横軸は膜厚を、縦軸は元素の含有率[原子%]を示す。膜厚は、遮光膜の表面からの深さ[nm]を表す。
【0146】
図4では、遮光膜の表面付近において炭素(C)が約21原子%含有されている領域は表面自然酸化層である。窒素(N)に対する酸素(O)の割合が2.5未満である、表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約5nmから深さ約15nmまでの領域は低酸化クロム層である。窒素(N)に愛する酸素(O)の割合が2.5以上である、表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約16nmから深さ約34nmまでの領域は高酸化クロム層である。表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約35nmから深さ約89nmまでの領域は遷移層である。表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約90nmから約208nmまでの領域は遮光層である。表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約209nmから深さ約227nmまでの領域は遷移層である。表面自然酸化層を除く遮光膜表面から深さ約228nmから深さ約251nmまでの領域は第1反射抑制層である。ケイ素(Si)に対する酸素(O)の比率が約2となっている領域は透明基板であり、透明基板と前記第1反射抑制層との間の領域は遷移層である。
【0147】
図4に示すように、第1反射抑制層は、CrCON膜であり、Crが51.4~57原子%、Nが13.5~18.2原子%、Oが22.6~31.6原子%、Cが2.8~4.8原子%を含む。遮光層は、CrON膜であり、Crが85.4~91.9原子%、Nが7.4~9.3原子%、Oが0.5~6.0原子%を含む。第2反射抑制層は、高酸化クロム層と低酸化クロム層からなる。高酸化クロム層は、CrCON膜であり、Crが49.0~50.6原子%、Nが9.1~13.0原子%、Oが33.7~39.4原子%、Cが2.2~2.9原子%を含む。低酸化クロム層は、CrCON膜であり、Crが50.0~51.1原子%、Nが13.5~14.1原子%、Oが31.8~33.4原子%、Cが2.5~3.5原子%を含む。
【0148】
(フォトマスクブランクの評価)
参考例1のフォトマスクブランクについて、実施例1と同様に、遮光膜の光学濃度を測定したところ、露光光の波長域であるg線(波長436nm)において5.0以上であった。また、遮光膜の表裏面の反射率を分光光度計により測定したところ、
図5に示すような反射率スペクトルが得られた。
図5は、比較例1のフォトマスクブランクについての表裏面の反射率スペクトルを示し、横軸は波長[nm]を、縦軸は反射率[%]をそれぞれ示す。
図5に示すように、参考例1のフォトマスクブランクは、実施例1と同様に、幅広い波長の光に対して反射率を大きく低減できることが確認された。具体的には、波長300nm~436nmにおいて、遮光膜の表面反射率は、15.0%以下(15.0%(波長300nm)、13.3%(波長313nm)、7.7%(波長365nm)、1.8%(波長405nm)、1.1%(波長413nm)、0.3%(波長436nm))、波長365nm~436nmにおいて、遮光膜の表面反射率は、10.0%以下(7.7%(波長365nm)、1.8%(波長405nm)、1.1%(波長413nm)、0.3%(波長436nm))であった。また、波長300nm~436nmにおいて、遮光膜の裏面反射率は、15.0%以下(12.2%(波長300nm)、10.4%(波長313nm)、6.2%(波長365nm)、4.7%(波長405nm)、4.8%(波長436nm))、波長365nm~436nmにおいて、遮光膜の裏面反射率は、7.5%以下(6.2%(波長365nm)、4.7%(波長405nm)、4.8%(波長436nm))であった。波長350nm~436nmにおいて遮光膜の表裏面の反射率を15%以下、または、波長365nm~436nmにおいて遮光膜の表裏面の反射率を10%以下に低減でき、特に波長436nmの光に対する反射率については、表面反射率を0.3%、裏面反射率を4.8%にできることが確認された。
【0149】
得られたフォトマスクブランクの遮光膜の表面反射率の面内均一性を測定した。基板の周縁部50mmを除く、基板面内の11×11=121点に関して反射率計を用いて測定した表面反射率の評価結果に基づいて、表面反射率の面内均一性を算出した結果、3.9%(レンジ)であった。また、裏面反射率は、上述の通りダミー基板を用いての遮光膜の裏面反射率の面内均一性を算出した結果、5.0%(レンジ)を超えおり、目視で反射率のムラが確認された。
【0150】
(遮光膜パターンの評価)
参考例のフォトマスクブランクに対して実施例1と同様に遮光膜パターンを形成し、評価を行った。遮光膜パターンをSEMで観察したところ、遮光膜パターンの断面形状は垂直から傾斜してテーパー状であることが確認された。遮光膜パターンの側面と透明基板とのなす角を測定したところ、54°であることが確認された。
【0151】
次に、参考例のフォトマスクブランクを用いて、実施例1と同様にフォトマスクを作製した。得られたフォトマスクの遮光膜パターンのCD均一性を測定した結果、100nmとなり悪い結果となった。このように、参考例のマスクブランクでは、表裏面の反射率は低減できたが、高精度なマスクパターンを形成できなかった。
【符号の説明】
【0152】
1 フォトマスクブランク
11 透明基板
12 遮光膜
13 第1反射抑制層
13a 第1低酸化クロム層
13b 第1高酸化クロム層
14 遮光層
15 第2反射抑制層
15a 第2低酸化クロム層
15b 第2高酸化クロム層