(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20240119BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240119BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
B60C11/12 D
B60C11/03 100A
B60C11/12 A
B60C11/13 C
(21)【出願番号】P 2020055618
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 剛史
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088174(JP,A)
【文献】特開2020-015437(JP,A)
【文献】特開2009-101846(JP,A)
【文献】特開2018-108777(JP,A)
【文献】特開2015-016853(JP,A)
【文献】国際公開第2007/028438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びる陸を備え、
前記陸は、タイヤ幅方向の第1側の陸端に開口し且つタイヤ幅方向の第2側の陸端から離間する第1スリットと、前記第1側の陸端から離間し且つ前記第2側の陸端に開口する第2スリットと、前記第1スリット及び前記第2スリットそれぞれによって形成され、前記陸の最大幅よりも幅が狭い陸幅狭部と、を有し、
前記第1スリットおよび前記第2スリットは、タイヤ周方向に交互に配置されており、
前記陸幅狭部は、タイヤ周方向中央部に1本の第1サイプを有し、前記第1サイプは、タイヤ幅方向に延びて前記陸幅狭部を分断して
おり、
互いにタイヤ周方向にて隣接する前記第1スリット及び前記第2スリットは、タイヤ周方向に沿って見て、部分的に互いに重なり合う重なり領域を有し、
前記陸は、前記陸端に開口し且つ前記スリットと共に前記陸幅狭部を挟むノッチを備え、
前記重なり領域のタイヤ幅方向の長さは、前記ノッチのタイヤ幅方向の長さよりも長い
、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に延びる陸を備え、
前記陸は、タイヤ幅方向の第1側の陸端に開口し且つタイヤ幅方向の第2側の陸端から離間する第1スリットと、前記第1側の陸端から離間し且つ前記第2側の陸端に開口する第2スリットと、前記第1スリット及び前記第2スリットそれぞれによって形成され、前記陸の最大幅よりも幅が狭い陸幅狭部と、を有し、
前記第1スリットおよび前記第2スリットは、タイヤ周方向に交互に配置されており、
前記陸幅狭部は、タイヤ周方向中央部に1本の第1サイプを有し、前記第1サイプは、タイヤ幅方向に延びて前記陸幅狭部を分断しており、
互いにタイヤ周方向にて隣接する前記第1スリット及び前記第2スリットは、タイヤ周方向に沿って見て、部分的に互いに重なり合う重なり領域を有し、
前記陸は、タイヤ幅方向における最も外側の主溝よりも外側に配置されるショルダー陸と、タイヤ赤道に最も近い陸であるセンター陸としてそれぞれ配置されており、
前記センター陸の最大幅に対する前記センター陸の前記重なり領域のタイヤ幅方向の割合は、前記ショルダー陸の最大幅に対する前記ショルダー陸の前記重なり領域のタイヤ幅方向の割合よりも大きい、空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ周方向に延びる陸を備え、
前記陸は、タイヤ幅方向の第1側の陸端に開口し且つタイヤ幅方向の第2側の陸端から離間する第1スリットと、前記第1側の陸端から離間し且つ前記第2側の陸端に開口する第2スリットと、前記第1スリット及び前記第2スリットそれぞれによって形成され、前記陸の最大幅よりも幅が狭い陸幅狭部と、を有し、
前記第1スリットおよび前記第2スリットは、タイヤ周方向に交互に配置されており、
前記陸幅狭部は、タイヤ周方向中央部に1本の第1サイプを有し、前記第1サイプは、タイヤ幅方向に延びて前記陸幅狭部を分断しており、
前記陸は、タイヤ赤道に最も近い第1主溝の前記第1側に隣接する第1陸と、前記第1主溝の前記第2側に隣接する第2陸と、タイヤ幅方向の最も外側にある第2主溝の前記第1側に隣接する第3陸と、前記第2主溝の前記第2側に隣接する第4陸として、それぞれ配置されており、
前記第1陸の前記第2スリットの開口と、前記第2陸の前記第1スリットの開口とは、タイヤ幅方向に見て、互いに重なっておらず、
前記第3陸の前記第2スリットの開口と、前記第4陸の前記第1スリットの開口とは、
タイヤ幅方向に見て、少なくとも部分的に互いに重なり合う、空気入りタイヤ。
【請求項4】
タイヤ周方向に延びる陸を備え、
前記陸は、タイヤ幅方向の第1側の陸端に開口し且つタイヤ幅方向の第2側の陸端から離間する第1スリットと、前記第1側の陸端から離間し且つ前記第2側の陸端に開口する第2スリットと、前記第1スリット及び前記第2スリットそれぞれによって形成され、前記陸の最大幅よりも幅が狭い陸幅狭部と、を有し、
前記第1スリットおよび前記第2スリットは、タイヤ周方向に交互に配置されており、
前記陸幅狭部は、タイヤ周方向中央部に1本の第1サイプを有し、前記第1サイプは、タイヤ幅方向に延びて前記陸幅狭部を分断しており、
前記陸は、タイヤ幅方向における最も外側の主溝よりも外側に配置されるショルダー陸と、タイヤ赤道に最も近い陸であるセンター陸としてそれぞれ配置されており、
前記センター陸の前記スリットは、前記ショルダー陸の前記スリットよりも深い、空気入りタイヤ。
【請求項5】
タイヤ周方向に延びる陸を備え、
前記陸は、タイヤ幅方向の第1側の陸端に開口し且つタイヤ幅方向の第2側の陸端から離間する第1スリットと、前記第1側の陸端から離間し且つ前記第2側の陸端に開口する第2スリットと、前記第1スリット及び前記第2スリットそれぞれによって形成され、前記陸の最大幅よりも幅が狭い陸幅狭部と、を有し、
前記第1スリットおよび前記第2スリットは、タイヤ周方向に交互に配置されており、
前記陸幅狭部は、タイヤ周方向中央部に1本の第1サイプを有し、前記第1サイプは、タイヤ幅方向に延びて前記陸幅狭部を分断しており、
前記陸は、第2サイプと、第3サイプと、第4サイプと、を備え、
前記第2サイプは、前記陸のタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向に延び、前記第1スリット及び前記第2スリットの双方に開口し、
前記第3サイプは、タイヤ幅方向に延び且つ前記陸内にて閉塞し、
前記第4サイプは、タイヤ周方向に互いに隣接する前記陸幅狭部によって区切られた領域のタイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向に延び、前記陸内にて閉塞する第1端および前記陸端に開口する第2端を有する、空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第2サイプの幅は、前記第4サイプの幅よりも厚く、前記第4サイプの幅は、前記第3サイプの幅よりも厚い、請求項
5に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦係数が低い氷路での走行性能(アイス性能)を確保したスタッドレスタイヤが知られている。例えば、特許文献1では、主溝及びスリットで区画されるトレッド陸としての複数のブロックと、各ブロックに設けられるサイプとを有する。サイプのエッジ効果及び除水効果によってアイス性能が高められ、更にスリットのトラクション効果によってアイス性能が高められる。
【0003】
しかしながら、上記トレッド陸としてのブロックは、動きやすいために偏摩耗が招来しやすい。偏摩耗が進行すると、タイヤの接地面の路面に対する接地性が悪化して、アイス性能が低減してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、偏摩耗の抑制とアイス性能の向上とを両立させた空気入りタイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延びる陸を備え、前記陸は、タイヤ幅方向の第1側の陸端に開口し且つタイヤ幅方向の第2側の陸端から離間する第1スリットと、前記第1側の陸端から離間し且つ前記第2側の陸端に開口する第2スリットと、前記第1スリット及び前記第2スリットそれぞれによって形成され、前記陸の最大幅よりも幅が狭い陸幅狭部と、を有し、前記第1スリットおよび前記第2スリットは、タイヤ周方向に交互に配置されており、前記陸幅狭部は、タイヤ周方向中央部に1本の第1サイプを有し、前記第1サイプは、タイヤ幅方向に延びて前記陸幅狭部を分断している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す展開図。
【
図2】ショルダー陸、クオーター陸及びセンター陸を示す拡大展開図。
【
図3】ショルダー陸、クオーター陸及びセンター陸を示す拡大展開図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤPT(以下、単に「タイヤPT」ともいう)が備えるトレッド面Trの展開図である。
図1の上下方向がタイヤ周方向CDに相当し、
図1の左右方向がタイヤ幅方向WDに相当する。
図1に示すように、トレッド面Trに形成されているトレッドパターンは、各陸がタイヤ周方向に連続して延びるリブ形状のパターンである。本実施形態のタイヤPTは、トラック又はバスに装着される重荷重用タイヤである。
【0010】
タイヤPTのトレッド面Trには、タイヤ周方向CDに連続して延在する4本の主溝61,61,62,62が設けられている。本実施形態では、主溝が4本であるが、これに限定されない。主溝は3本以上にすることが可能である。本実施形態では、タイヤ幅方向WDの最も外側にあるショルダー主溝62と、ショルダー主溝62のタイヤ幅方向WDの内側に配置されるセンター主溝61と、を有する。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、接地端CE,CE間の距離(タイヤ幅方向WDの寸法)の3%以上の溝幅を有している、という構成でもよい。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、7.0mm以上の溝幅を有している、という構成でもよい。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、タイヤ周方向CDに連続し、トレッド面Tr内で溝深さが一番深く、溝内には、摩耗による使用限界を示すTWI(トレッドウェアインジケータ)が設けられている、という構成でもよい。
【0011】
本明細書において、スリットは、主溝よりも幅が狭く、サイプよりも幅が広い溝を意味する。サイプは、幅が1.5mm未満の溝を意味する。
【0012】
接地端CEは、タイヤPTを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤPTを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面のタイヤ幅方向の最外位置である。
【0013】
正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば「Measuring Rim」となる。正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。なお、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとし、さらに、Extra LoadまたはReinforcedと記載されたタイヤである場合には220kPaとする。正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」であるが、タイヤが乗用車用である場合には内圧の対応荷重の88%とする。
【0014】
<ショルダー陸1におけるスリット>
図1及び
図2に示すように、タイヤPTは、トレッド面Trのタイヤ幅方向両端部においてタイヤ周方向CDに延びるショルダー陸1を有する。ショルダー陸1は、タイヤ幅方向WDにおける最も外側の主溝62よりも外側に配置されている。ショルダー陸1は、タイヤ幅方向WDにおいて最も外側の主溝62と、接地端CEとに区画される。ショルダー陸1は、タイヤ周方向CDに連続して延びる。ショルダー陸1は、複数の第1スリット11及び複数の第2スリット12を有する。第1スリット11は、タイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端1a(接地端CE)に開口し、タイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端1b(主溝62)から離間し、ショルダー陸1内で閉塞している。第2スリット12は、タイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端1b(主溝62)に開口し、タイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端1a(接地端CE)から離間し、ショルダー陸1内で閉塞している。第1スリット11及び第2スリット12は、互いにタイヤ周方向CDの位置が異なり、タイヤ周方向CDに交互に配置されている。第1スリット11及び第2スリット12のタイヤ幅方向WDの長さは、ショルダー陸1のタイヤ幅方向WDの最大幅W11の40%以上である、更に好ましくは50%以上である。
【0015】
<センター陸2におけるスリット>
タイヤPTは、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向CDに延びるセンター陸2を有する。センター陸2は、タイヤ赤道TEに最も近い陸である。センター陸2は、一対の主溝61,61に区画される。センター陸2は、タイヤ周方向CDに連続して延びる。本実施形態では、センター陸2は、タイヤ赤道TE上に設けられているが、これに限定されない。センター陸2は、複数の第1スリット21及び複数の第2スリット22を有する。第1スリット21は、タイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端2a(主溝61)に開口し、タイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端2b(主溝61)から離間し、センター陸2内で閉塞している。第2スリット22は、タイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端2b(主溝61)に開口し、タイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端2a(主溝61)から離間して、センター陸2内で閉塞している。第1スリット21及び第2スリット22は、互いにタイヤ周方向CDの位置が異なり、タイヤ周方向CDに交互に配置されている。第1スリット21及び第2スリット22のタイヤ幅方向WDの長さは、センター陸2のタイヤ幅方向WDの最大幅W21の40%以上である、更に好ましくは50%以上である。
【0016】
<クオーター陸3におけるスリット>
タイヤPTは、ショルダー陸1とセンター陸2との間にタイヤ周方向CDに延びるクオーター陸3を有する。クオーター陸3は、一対の主溝61,62に区画される。クオーター陸3は、タイヤ周方向CDに連続して延びる。クオーター陸3は、複数の第1スリット31及び複数の第2スリット32を有する。第1スリット31は、タイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端3a(主溝62)に開口し、タイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端3b(主溝61)から離間し、クオーター陸3内で閉塞している。第2スリット32は、タイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端3b(主溝61)に開口し、タイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端3a(主溝62)から離間して、クオーター陸3内で閉塞している。第1スリット31及び第2スリット32は、互いにタイヤ周方向CDの位置が異なり、タイヤ周方向CDに交互に配置されている。第1スリット31及び第2スリット32のタイヤ幅方向WDの長さは、クオーター陸3のタイヤ幅方向WDの最大幅W31の40%以上である、更に好ましくは50%以上である。
【0017】
なお、
図1において、左側のショルダー陸1及びクオーター陸3に符号を付して説明しているが、同図の右側のショルダー陸1及びクオーター陸3はパターンを回転により反転させたものである。
【0018】
<陸幅狭部>
図1に示すように、各々の陸1,2,3において、第1スリット11,21,31及び第2スリット12,22,32はそれぞれ、陸幅狭部13,23,33を形成している。陸幅狭部13,23,33のタイヤ幅方向WDの幅は、各々の陸(ショルダー陸1,センター陸2,クオーター陸3)のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,31よりも狭い。第1スリット11,21,31により形成される陸幅狭部13,23,33と、第2スリット12,22,32により形成される陸幅狭部13,23,33とは、タイヤ周方向CDに交互に配置されており、互いにタイヤ幅方向WD及びタイヤ周方向CDの位置が異なる。
【0019】
各々の陸1,2,3において、第1スリット11,21,31に対応する陸端1b,2b,3bに開口するノッチ14,24,34と、第2スリット12,22,32に対応する陸端1a,2a,3aに開口するノッチ14,24,34と、が形成されている。第1スリット11,21,31に対応するノッチ14,24,34は、第1スリット11,21,31と共に陸幅狭部13,23,33を挟む位置に配置されている。第2スリット12,22,32に対応するノッチ14,24,34は、第2スリット12,22,32と共に陸幅狭部13,23,33を挟む位置に配置されている。ノッチはスリットの一種であるが、第1スリット及び第2スリットよりもタイヤ幅方向WDの長さが短い。
【0020】
各々の陸幅狭部13,23,33のタイヤ周方向中央部には、1本の第1サイプ15,25,35が形成されている。第1サイプ15,25,35はそれぞれタイヤ幅方向WDに延びて陸幅狭部13,23,33を分断している。第1サイプ15,25,35はそれぞれ対応するスリット及びノッチに開口している。本実施形態では、第1サイプ15,25,35は、平面視にて新品時の踏面での形状が波状であるが、形状は限定されず、例えば、直線状であってもよい。勿論、第1サイプ15,25,35が直線サイプよりも波状サイプである方が、陸の動きを抑制する効果が高くなるので、偏摩耗の抑制の観点から好ましい。仮に、陸幅狭部が2本以上の第1サイプで分断されていれば、陸幅狭部の剛性が低くなり、陸幅狭部が動き過ぎて偏摩耗の要因となり、好ましくない。
【0021】
図1及び
図2に示すように、1本の第1サイプ15,25,35が各々の陸幅狭部13,23,33を分断する。各々の陸1,2,3は、陸としてタイヤ周方向CDに連続するが、第1サイプ15,25,35によって疑似的な小ブロックG1,G1に分割される(
図4参照)。
【0022】
図2に示すように、陸幅狭部13,23,33のタイヤ幅方向WDの長さL13,L23,L33は、各々の陸1,2,3のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,W31の10%以上且つ60%以下であることが好ましい。
図2に示す符号で説明すれば、W11×10%≦L13≦W11×60%、W21×10%≦L23≦W21×60%、W31×10%≦L33≦W31×60%である。偏摩耗の抑制と、雪柱せん断力による雪路での走行安定性(スノー性能)の確保との両立のためである。
更に、陸幅狭部13,23,33のタイヤ幅方向WDの長さL13,L23,L33は、各々の陸のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,W31の20%以上且つ40%以下であることが好ましい。
陸幅狭部13,23,33のタイヤ幅方向WDの長さが各々の陸のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,W31の10%未満であれば、隣り合う小ブロック同士G1,G1(
図4参照)を支え合う効果が弱くなり十分なブロック剛性を確保できずに偏摩耗を招来する要因となる。
陸幅狭部13,23,33のタイヤ幅方向WDの長さが各々の陸のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,W31の60%を超えれば、第1スリット及び第2スリット、ノッチによる溝容積が小さくなることで、雪柱せん断力による雪路での走行性能(スノー性能)の悪化の要因となる。
【0023】
<重なり領域>
図3に示すように、ショルダー陸1、センター陸2及びクオーター陸3の各々の陸において、互いにタイヤ周方向CDに隣接する第1スリット11,21,31及び第2スリット12,22,32は、タイヤ周方向CDに沿って見て、部分的に重なり合う重なり領域Ar1,Ar2,Ar3を有する。重なり領域Ar1,Ar2,Ar3のタイヤ幅方向WDの長さは、各々の陸のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,W31の5%以上且つ40%以下が好ましい。
図3に示す符号で説明すれば、W11×5%≦Ar1≦W11×40%、W21×5%≦Ar2≦W21×40%、W31×5%≦Ar3≦W31×40%となる。
重なり領域Ar1,Ar2,Ar3のタイヤ幅方向WDの長さが、各々の陸のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,W31の5%未満であれば、重なり領域Ar1,Ar2,Ar3を設けることによるトラクション向上の効果が乏しい。
重なり領域Ar1,Ar2,Ar3のタイヤ幅方向WDの長さが、各々の陸のタイヤ幅方向WDの最大幅W11,W21,W31の40%を超えれば、陸の剛性が落ちて偏摩耗を招来する要因となる。
なお、互いにタイヤ周方向CDに隣接する第1スリット11,21,31及び第2スリット12,22,32は、タイヤ幅方向WDに占める位置が部分的に重なり合う重なり領域Ar1,Ar2,Ar3を有するともいえる。
また、互いにタイヤ周方向CDに隣接する第1スリット11,21,31及び第2スリット12,22,32は、タイヤ子午線断面に対してタイヤ周方向CDに沿って投影した場合に、タイヤ子午線断面上において重なるともいえる。
【0024】
重なり領域Ar1,Ar2,Ar3のタイヤ幅方向WDの長さは、各陸における主溝に開くノッチ14,24,34のタイヤ幅方向WDの長さL14,L24,L34よりも長い。
図3に示す符号で説明すれば、Ar1>L14、Ar2>L24、Ar3>L34である。偏摩耗の発生を抑制しながら、効果的にトラクションを発揮可能となる。例えば、重なり領域Ar1のタイヤ幅方向WDの長さは、各陸における主溝に開くノッチ14のタイヤ幅方向WDの長さL14よりも短い場合には、ノッチが著しく長い場合、又は、ノッチが短く且つ重なり領域がノッチよりも更に短い場合がある。ノッチが著しく長い場合には、ブロック剛性が低下して偏摩耗の招来の要因となる。ノッチが短く且つ重なり領域がノッチよりも更に短い場合には、スリット及びノッチを合わせたトラクション要素が不足するため、トラクションが不足してしまう。
【0025】
図3に示すように、センター陸2の重なり領域Ar2のタイヤ幅方向WDの長さは、ショルダー陸1の重なり領域Ar1のタイヤ幅方向WDの長さよりも長い。本実施形態では、クオーター陸3の重なり領域Ar3のタイヤ幅方向WDの長さをAr3と示すと、Ar2>Ar3>Ar1となる。ここでは長さで説明しているが、陸の最大幅に対する割合で特定することが好ましい。すなわち、センター陸2の最大幅W21に対するセンター陸2の重なり領域Ar2のタイヤ幅方向WDの割合(Ar2/W21)は、ショルダー陸1の最大幅W11に対するショルダー陸1の重なり領域Ar1のタイヤ幅方向WDの割合(Ar1/W11)よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、(Ar2/W21)>(Ar3/W31)>(Ar1/W11)となる。
重荷重用タイヤにおいては、タイヤ赤道TE付近は接地圧が高く、スリット21,22によるトラクションが効きやすいので重なり領域Ar2を相対的に大きくする。タイヤ幅方向WDの端領域であるショルダー領域は偏摩耗しやすい領域であるので、重なり領域Ar1を相対的に小さくする。このような大小関係にすることで、トラクションの効果を向上させつつ、偏摩耗を抑制可能となる。
【0026】
<スリットの位置関係>
図1及び
図2に示すように、タイヤPTは、タイヤ赤道TEに最も近い主溝61を挟み且つ互いに隣接する第1側の第1陸(クオーター陸3)及び第2側の第2陸(センター陸2)と、タイヤ幅方向WDの最も外側にある主溝62を挟み且つ互いに隣接する第1側の第3陸(ショルダー陸1)及び第2側の第4陸(クオーター陸3)と、を有する。
【0027】
第1陸(クオーター陸3)の第2スリット32の開口と、第2陸(センター陸2)の第1スリット21の開口とは、タイヤ幅方向WDに見て、互いに重なっていない。スリット32,21はタイヤ周方向CDの位置がずれている。第1陸(クオーター陸3)の第2スリット32の開口と、第2陸(センター陸2)の第1スリット21の開口とは、タイヤ周方向CDで離れている。
第3陸(ショルダー陸1)の第2スリット12の開口と、第4陸(クオーター陸3)の第1スリット31の開口とは、タイヤ幅方向WDに見て、少なくとも部分的に互いに重なり合う。スリット12,31のタイヤ周方向CDの位置が対応している。
図2に示すように、各スリット32,21の開口端を通り且つタイヤ幅方向WDに平行な仮想線V2を引いた場合に、スリット32,21の開口同士が互いに重ならないことが見て取れる。
各スリット12,31の開口端を通り且つタイヤ幅方向WDに平行な仮想線V2を引いた場合に、スリット12,31の開口同士が少なくとも部分的に互いに重なり合うことが見て取れる。
【0028】
図2に示すように、第1陸(クオーター陸3)の第2スリット32の中心線の延長線V1は、第2陸(センター陸2)の第1スリット21に入っていない。スリット32,21はタイヤ周方向CDの位置がずれている。
また、第3陸(ショルダー陸1)の第2スリット12の中心線のV1は、第4陸(クオーター陸3)の第1スリット31に入っている。スリット12,31のタイヤ周方向CDの位置が対応している。
【0029】
<スリットの深さ>
各々のスリット11,12,21,22,31,32の深さは、冬性能(スノー性能)を確保し且つ偏摩耗及び耐摩耗性能の悪化を防止する観点から、主溝61,62の深さの50%以上且つ90%以下であることが好ましい。スリットの深さが主溝の深さの50%より浅いと、摩耗中期以降のトラクション性が低下して冬性能が悪化するためである。スリットの深さが主溝の深さの90%よりも深いと、ブロック剛性が低下し摩耗性の悪化および偏摩耗の招来の要因となる。
【0030】
センター陸2のスリット21,22は、ショルダー陸1のスリット11,12よりも深い。センター陸2のスリット21,22がショルダー陸1のスリット11,12よりも深ければ、エッジ効果に寄与し、アイス性能が向上する。さらに、クオーター陸3のスリット31,32は、センター陸2のスリット21,22よりも浅いことが、耐偏摩耗性能の観点から好ましいが、これに限定されない。クオーター陸3にショルダー陸1と同じ役割を負わせるのであれば、ショルダー陸1のスリット11,12がセンター陸2のスリット21,22と同一深さであってもよい。
【0031】
<サイプ>
図2に示すように、ショルダー陸1、センター陸2及びクオーター陸3の各々の陸は、複数のサイプが形成されている。サイプは、幅1.5mm未満の切りこみにより形成されている。各々の陸1,2,3は、周方向サイプ52と、クローズドサイプ53と、セミオープンサイプ54と、を有する。
【0032】
図2に示すように、周方向サイプ52は、踏面形状が波状のサイプであり、各々の陸1,2,3のタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向CDに延びて第1スリット11,21,31及び第2スリット12,22,32の双方に開口し、陸1,2,3をタイヤ幅方向WDの左右に分断する。それゆえ、本実施形態では、分断した陸の動きを抑制して偏摩耗を低減する観点から、周方向サイプ52は、踏面形状が波状サイプであり、且つ、深さ方向に沿って形状が変化する部分を含む三次元サイプである。しかし、これに限定されず、周方向サイプ52を、深さ方向に沿って形状が変化しない二次元サイプにしてもよい。
クローズドサイプ53は、踏面形状が波状のサイプであり、タイヤ幅方向WDに延びて、各々の陸1,2,3内で閉塞する。
セミオープンサイプ54は、踏面形状が波状のサイプであり、タイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向WDに延びる。セミオープンサイプ54は、各々の陸1,2,3内で閉塞する第1端54aと、各々の陸1,2,3の陸端に開口する第2端54bと、を有する。
【0033】
なお、クローズドサイプ53及びセミオープンサイプ54は、踏面形状が波状のサイプであるが、これに限定されず、踏面形状が直線にしてもよい。また、クローズドサイプ53及びセミオープンサイプ54は、深さ方向に沿って形状が変化しない二次元サイプであるが、深さ方向に沿って形状が変化する部分を含む三次元サイプであってもよい。
【0034】
図1、
図2及び
図4に示すように、陸幅狭部13,23,33の第1サイプ15,25,35によって各々の陸1,2,3が疑似的な小ブロックG1,G1に分割される。さらに、周方向サイプ52によって小ブロックG1がタイヤ幅方向WDの左右に小ブロックとして分割され、セミオープンサイプ54によって小ブロックが更にタイヤ周方向CDに部分的に分割される。これにより、全体として陸でありながら、1つの小ブロックG1にタイヤ周方向CDに区分された複数(センター陸2,クオーター陸3では4つ)の疑似的な小ブロックG2,G3,G4,G5が形成されることになる。これにより、スリットで分断されたブロックパターンを採用する場合に比べて、陸によって偏摩耗の発生を抑制しつつ、陸よりも小さい疑似的な小ブロックG2,G3,G4,G5によってトラクション要素又は耐横滑り要素を増大でき、アイス性能を向上させることが可能となる。それでいて、クローズドサイプ53が設けられ、セミオープンサイプ54が小ブロックG1のタイヤ周方向中央部に設けられているので、小ブロックG2,G3,G4,G5内の剛性バランスを保ちながらトラクション要素を増やすことができ、偏摩耗の発生を抑制しながらアイス性能を向上させることが可能となる。
特に限定されないが、周方向サイプ52は踏面形状が波形状であることが好ましい。周方向サイプ52の壁面同士が互いに接触しあい、小ブロックの過剰な動きを抑制可能となる。
【0035】
なお、
図2に示すように、周方向サイプ52及び陸幅狭部13によって分割された、最も接地端CEに近い小ブロックG6は、横力の影響を受けやすいために、全てのサイプをクローズドサイプ53のみとしている。
【0036】
アイス性能の向上と偏摩耗の発生を抑止する観点から、第1サイプ15,25,35及び周方向サイプ52の幅Woは、セミオープンサイプ54の幅Wsよりも厚く、セミオープンサイプ54の幅Wsは、クローズドサイプ53の幅Wcよりも厚いことが好ましい。Wo>Ws>Wcである。オープンサイプ(第1サイプ、周方向サイプ52)の幅Woを相対的に厚くすることで、溝で構成されるブロックパターンに比べて陸の剛性を確保しながらアイス性能を向上させることが可能となる。クローズドサイプ53の幅Wcを相対的に薄くすることで、ブロックの動きを抑制して摩耗又は偏摩耗の要因を低減させることが可能となる。セミオープンサイプ54の幅はオープンサイプ(第1サイプ、周方向サイプ52)とクローズドサイプ53の中間の幅にすることでブロック剛性とアイス性能のバランスをとることが可能となる。勿論、これらの観点を問題としない場合には、全てのサイプの幅が同一であってもよいし、幅の大小関係を種々変更可能である。
【0037】
なお、本明細書におけるサイプの深さは、主溝の深さの50%以上且つ80%以下であることが好ましい。サイプの深さが主溝の深さの50%よりも浅ければ、冬用タイヤとしてのアイス性能が不十分となる。サイプの深さが主溝の深さの80%よりも深ければ、陸の剛性が低下して偏摩耗発生の要因となる。
【0038】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤPTは、タイヤ周方向CDに延びる陸1(2;3)を備え、陸1(2;3)は、タイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端1a(2a;3a)に開口し且つタイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端1b(2b;3b)から離間する第1スリット11(21;31)と、タイヤ幅方向WDの第2側WD2の陸端1b(2b;3b)に開口し且つタイヤ幅方向WDの第1側WD1の陸端1a(2a;3a)から離間する第2スリット12(22;32)と、第1スリット11(21;31)および第2スリット12(22;32)それぞれによって形成され、陸1(2;3)の最大幅W11(W21;W31)よりも幅が狭い陸幅狭部13(23;33)と、を有し、第1スリット11(21;31)および第2スリット12(22;32)は、タイヤ周方向CDに交互に配置されており、陸幅狭部13(23;33)は、タイヤ周方向中央部に1本の第1サイプ15(25;35)を有し、第1サイプ15(25;35)は、タイヤ幅方向WDに延びて13(23;33)を分断していることが好ましい。
【0039】
陸1(2;3)は、タイヤ周方向CDに連続して延びているため、ブロックに比べて剛性を確保でき偏摩耗を抑制できる。さらに、タイヤ周方向CDに交互に配置される第1スリット11(21;31)及び第2スリット12(22;32)によって陸1(2;3)の剛性バランスを保ちながら、トラクション要素を確保可能となる。各スリット11,12(21,22;31,32)は、陸幅狭部13(23;33)を形成するので、陸幅狭部13(23;33)が各スリット11,12(21,22;31,32)に隣接してタイヤ周方向CDに交互に配置され、陸の剛性をバランスよく保つことができ、偏摩耗を抑制できる。それでいて、陸幅狭部13(23;33)が第1サイプ15(25;35)で分断されているので、タイヤ周方向CDに連続する陸を疑似的に小ブロック群G1,G1に分割するので、スリットで分割されたブロック群に比べて偏摩耗を抑制しつつ、トラクション要素を増やしてアイス性能を確保可能となる。
2本以上のサイプで陸幅狭部13(23;33)を分断すれば、陸幅狭部13(23;33)が剛性低下により動きやすくなって偏摩耗を招来してしまう。これに対して、陸幅狭部13(23;33)に形成される第1サイプ15(25;35)を1本にすることで、偏摩耗を抑制することを抑制可能となる。
したがって、トラクション要素によるアイス性能の向上と、偏摩耗の抑制とを両立できる。更に、偏摩耗の抑制によって接地面の接地性が向上して、引っかき及びサイプの除水作用によるアイス性能を向上させることが可能となる。
【0040】
本実施形態のように、接地面を形成する全ての陸が、上記陸であることが好ましい。これにより、全ての陸が上記陸であることで、接地面全体の路面に対する接地性が向上してアイス性能を向上させることが可能となる。
【0041】
本実施形態のように、互いにタイヤ周方向CDにて隣接する第1スリット11(21;31)及び第2スリット12(22;32)は、タイヤ周方向CDに沿って見て、部分的に互いに重なり合う重なり領域Ar1(Ar2;Ar3)を有することが好ましい。これにより、2つのスリット11,12の長さを合計すれば、陸1の最大幅W11以上になるので、トラクション要素を増大させてアイス性能を向上させることが可能となる。さらに、重なり領域Ar1(Ar2;Ar3)が無い場合に比べてスリットが長くなるので、雪柱せん断力によるスノー性能も向上させることも可能となる。
【0042】
本実施形態のように、陸幅狭部13(23;33)のタイヤ幅方向WDの長さL13(L23;L33)は、陸1(2;3)のタイヤ幅方向WDの最大幅W11(W21;W31)の10%以上且つ60%以下であることが好ましい。これにより、偏摩耗の抑制と、雪柱せん断力による雪路での走行安定性(スノー性能)の確保との両立可能となる。
【0043】
本実施形態のように、陸1(2;3)は、陸端1a,1b(2a,2b;3a,3b)に開き且つスリット11(21,22;31,32)と共に陸幅狭部13(23;33)を挟むノッチ14(24;34)を備え、重なり領域Ar1(Ar2;Ar3)タイヤ幅方向WDの長さは、各陸1(2;3)における主溝に開くノッチ14(24;34)のタイヤ幅方向WDの長さL14(L24;L34)よりも長いことが好ましい。これにより、偏摩耗の発生を抑制しながら、効果的にトラクションを発揮可能となる。
【0044】
本実施形態のように、陸1(2;3)は、タイヤ幅方向WDにおける最も外側の主溝62よりも外側に配置されるショルダー陸1と、タイヤ赤道TEに最も近い陸であるセンター陸2としてそれぞれ配置されており、センター陸2の重なり領域Ar2の最大幅W21に対するタイヤ幅方向WDの割合(Ar2/W21)は、ショルダー陸1の重なり領域Ar1の最大幅W11に対するタイヤ幅方向WDの割合(Ar1/W11)よりも大きいことが好ましい。重荷重用タイヤにおいては、タイヤ赤道TE付近は接地圧が高く、スリット21,22によるトラクションが効きやすいので重なり領域Ar2を相対的に大きくし、タイヤ幅方向WDの端領域であるショルダー領域は偏摩耗しやすい領域であるので、重なり領域Ar1を相対的に小さくする。このような大小関係にすることで、トラクションの効果を向上させつつ、偏摩耗を抑制可能となる。
【0045】
本実施形態のように、陸1(2;3)は、タイヤ赤道TEに最も近い第1主溝61の第1側WD1に隣接する第1陸(3)と、第1主溝61の第2側WD2に隣接する第2陸(2)と、タイヤ幅方向WDの最も外側にある第2主溝62の第1側WD1に隣接する第3陸(1)と、第2主溝62の第2側WD2に隣接する第4陸(3)として、それぞれ配置されており、第1陸(3)の第2スリット32の開口と、第2陸(2)の第1スリット21の開口とは、タイヤ幅方向WDに見て、互いに重なっておらず、第3陸(1)の第2スリット12の開口と、第4陸(3)の第1スリット31の開口とは、タイヤ幅方向に見て、少なくとも部分的に互いに重なり合うことが好ましい。これにより、接地圧力の高いタイヤ赤道TE付近のセンター領域においてスリット21,32とのタイヤ周方向CDの位置をずらすことで、転動時に接地面内に出現するスリットの頻度が高まり、スリットによるトラクション効果を効果的に発揮することが可能となる。接地端CEに近いショルダー領域はセンター領域に比べて接地圧力が低いため、スリット12,31のタイヤ周方向CDの位置を一致させることで相対的に長いトラクション要素を一気に発揮させ、効果的にスノー性能を向上させることが可能となる。
【0046】
本実施形態のように、陸1(2;3)は、タイヤ幅方向WDにおける最も外側の主溝62よりも外側に配置されるショルダー陸1と、タイヤ赤道TEに最も近い陸であるセンター陸2としてそれぞれ配置されており、センター陸2のスリット21,22は、ショルダー陸1のスリット11,12よりも深いことが好ましい。これにより、センター陸2のスリット21,22がショルダー陸1のスリット11,12よりも深ければ、接地圧の高いセンター陸2のエッジ効果が高まり、アイス性能を向上させることが可能となる。また、ショルダー陸1のスリットを相対的に浅くしているので、偏摩耗を抑制可能となる。さらに、摩耗末期においてセンター陸2のスリット21,22が残るので、摩耗末期においても接地圧力の高いセンター陸2のスリットのエッジ効果を確保可能となる。
【0047】
本実施形態のように、陸1(2;3)は、周方向サイプ52(第2サイプ)と、クローズドサイプ53(第3サイプ)と、セミオープンサイプ54(第4サイプ)と、を備え、周方向サイプ52(第2サイプ)は、陸1(2;3)のタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向CDに延び、第1スリット11(21;31)及び第2スリット12(22;32)の双方に開口し、クローズドサイプ53(第3サイプ)は、タイヤ幅方向WDに延び且つ陸1(2;3)内にて閉塞し、セミオープンサイプ54(第4サイプ)は、タイヤ周方向CDに互いに隣接する陸幅狭部13(23;33)によって区切られた領域G1のタイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向WDに延び、陸1(2;3)内にて閉塞する第1端54aおよび陸1(2;3)の陸端に開口する第2端54bを有することが好ましい。
これにより、周方向サイプ52(第2サイプ)によって陸1(2;3)がタイヤ幅方向WDに小ブロックとして分割され、セミオープンサイプ54(第4サイプ)によって陸1(2;3)がタイヤ周方向CDに疑似的に分割され、タイヤ周方向CDに区分された複数(センター陸2,クオーター陸3では4つ)の小ブロックG2,G3,G4,G5が疑似的に形成される。よって、スリットで分断されたブロックパターンを採用する場合に比べて、タイヤ周方向に連続するリブ状の陸によって偏摩耗の発生を抑制しつつ、陸よりも小さい疑似的な小ブロックG2,G3,G4,G5によってトラクション要素を増大でき、アイス性能を向上させることが可能となる。それでいて、クローズドサイプ53(第3サイプ)によって陸の剛性の低下を抑制しつつトラクション要素を増大させ、陸の剛性を低下させるセミオープンサイプ54(第4サイプ)が小ブロックG1のタイヤ周方向中央部に設けられているので、小ブロックG2,G3,G4,G5内の剛性バランスを保ちながらトラクション要素を増やすことができ、偏摩耗の発生を抑制しながらアイス性能を向上させることが可能となる。
特に限定されないが、周方向サイプ52(第2サイプ)が踏面形状が波形状であることが好ましい。周方向サイプ52(第2サイプ)の壁面同士が互いに接触しあい、小ブロックの過剰な動きを抑制し、小ブロック化に起因する偏摩耗を抑制可能となる。
【0048】
上記では、1つの陸に、周方向サイプ52、クローズドサイプ53およびセミオープンサイプ54が組み合わされて適用されているが、これに限定されない。例えば、各々のサイプを単独で、又は他の任意のサイプと組み合わせて陸に適用可能である。例えば、周方向サイプ52を採用した場合には、陸をタイヤ幅方向の左右に分割して疑似的な小ブロック化が可能となる。セミオープンサイプ54を採用した場合には、タイヤ周方向CDに隣接する2つの小ブロックG2,G3(G4,G5)に分割しながら、これらの小ブロックG2,G3(G4,G5)内の剛性バランスを保ちながらトラクション要素を増やすことができ、偏摩耗の発生を抑制しながらアイス性能を向上させることが可能となる。
【0049】
本実施形態のように、第1サイプ15,25,35及び周方向サイプ52(第2サイプ)の幅Woは、セミオープンサイプ54(第4サイプ)の幅Wsよりも厚く、セミオープンサイプ54(第4サイプ)の幅Wsは、クローズドサイプ53(第3サイプ)の幅Wcよりも厚いことが好ましい。これにより、アイス性能の向上と偏摩耗の発生を抑止可能となる。
【0050】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0051】
<変形例>
(1)
図1に示す実施形態では、センター陸2は、タイヤ赤道TE上に設けられているが、これに限定されない。例えば、主溝が3本であり、真ん中の主溝がタイヤ赤道TE上に配置されている場合には、互いに隣接する一対のセンター陸が真ん中の主溝を挟む位置に配置される。
【0052】
(2)本実施形態では、ノッチ14(24;34)が設けられているが、ノッチを設けなくてもよい。ノッチが無い場合には、第1サイプ15,25,35は、対応する主溝又は接地端に開口する。
【0053】
(3)本実施形態では、第1スリットと第2スリットによる重なり領域が形成されているが、重なり領域がなくてもよい。
【0054】
(4)本実施形態において、重なり領域Ar1,Ar2,Ar3のタイヤ幅方向WDの長さと、ノッチ14,24,34のタイヤ幅方向WDの長さL14,L24,L34との関係について、Ar1>L14、Ar2>L24、Ar3>L34であるが、これに限定されない。例えば、これらの観点が問題にならない範囲において、Ar1≦L14、Ar2≦L24、Ar3≦L34を採用可能である。
【0055】
(5)センター陸2の重なり領域Ar2、ショルダー陸1の重なり領域Ar1、クオーター陸3の重なり領域Ar3のタイヤ幅方向WDの長さについて、Ar2>Ar3>Ar1であるが、これに限定されない。例えば、これらの観点が問題にならない範囲において、Ar2≦Ar3≦Ar1を採用可能である。
【0056】
(6)センター陸2のスリット、ショルダー陸1のスリット、クオーター陸3のスリットの深さについて、本実施形態に限定されず、全てが同じであってもよい。
【0057】
(7)上記スリットの組について、本実施形態では、主溝が4本であるために、第1対陸がセンター陸2とクオーター陸3の組であり、第2対陸がショルダー陸1とクオーター陸3の組であるが、これに限定されない。例えば、主溝が3本であれば、対のセンター陸が真ん中の主溝を挟んで互いに隣接し、各々のセンター陸のタイヤ幅方向外側に対のショルダー陸がそれぞれ配置される。この場合、第1対陸はセンター陸の組であり、第2対陸はセンター陸とショルダー陸の組となる。
【0058】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0059】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…ショルダー陸(陸)、2…センター陸(陸)、3…クオーター陸(陸)、Ar1,Ar2,Ar3…重なり領域、CD…タイヤ周方向、WD…タイヤ幅方向、WD1…タイヤ幅方向の第1側、WD2…タイヤ幅方向の第2側、W11,W21,W31…陸最大幅、1a,1b,2a,2b,3a,3b…陸端、11,21,31…第1スリット、12,22,32…第2スリット、13,23,33…陸幅狭部、15,25,35…第1サイプ、52…周方向サイプ(第2サイプ)、53…クローズドサイプ(第3サイプ)、54…セミオープンサイプ(第4サイプ)、14,24,34…ノッチ、61…第1主溝、62…第2主溝、2,3…第1対陸、1,3…第2対陸