(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60K 17/10 20060101AFI20240119BHJP
B62D 49/00 20060101ALI20240119BHJP
B62D 55/06 20060101ALI20240119BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
B60K17/10 F
B62D49/00 E
B62D55/06
E02F9/00 B
(21)【出願番号】P 2020070574
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐治
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167800(JP,A)
【文献】特開2017-71352(JP,A)
【文献】特開2016-215952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/10
B62D 49/00
B62D 55/06
E02F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を着脱可能な機体と、
前記機体の後部に設けられたミッションと、
前記機体の前部に設けられた油圧式無段変速機と、
前記ミッションと前記油圧式無段変速機との間に設けられ、前記ミッションと前記油圧式無段変速機との間で作動油を循環させる油圧配管装置と、
を備える作業車両であって、
前記油圧配管装置は、
前記機体に沿ってその左右一方に配置され、作動油が前記ミッションから前記油圧式無段変速機へ流れるように形成された第1配管と、
前記機体に沿ってその左右他方に配置され、作動油が前記油圧式無段変速機から前記ミッションへ流れるように形成された第2配管と、
を有し、
前記第2配管の流路面積は、前記第1配管の流路面積よりも大きいことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両であって、
前記第1配管の流路面積は、当該第1配管の経路全体にわたって略一定であり、
前記第2配管の経路の一部に、その流路面積が他の部分よりも増大しているタンク部が配置されていることを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業車両であって、
作動油を用いて、前記機体に装着された作業機の油圧装置を駆動させるための別の油圧配管装置を備え、
前記別の油圧配管装置は、前記機体に沿って、前記機体の左右のうち前記第1配管と同じ側に配置されていることを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の作業車両であって、
前記機体は、
当該機体の前後方向に延びるように設けられた機体フレームと、
前記機体フレームよりも当該機体の左右外側に位置するクローラ式走行装置と、
を備え、
前記第2配管の経路の一部に、その流路面積が他の部分よりも増大しているタンク部が配置され、
前記タンク部は、前記機体の左右他方において、前記機体フレームと前記クローラ式走行装置のトラックフレームとの間に配置され、前記機体フレームに支持されていることを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項4に記載の作業車両であって、
作動油を用いて、前記機体に装着された作業機の油圧装置を駆動させるための別の油圧配管装置を備え、
前記別の油圧配管装置は、前記機体の左右のうち前記第1配管と同じ側において、前記機体フレームと前記クローラ式走行装置のトラックフレームとの間に配置され、
前記別の油圧配管装置は、前記機体フレームに沿って設けられ、かつ、前記機体フレームに支持されていることを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ミッションと旋回用HST(Hydro Static Transmission、静油圧式無段変速機)との間で作動油が循環するように構成された作業車両が知られている。特許文献1は、この種の作業車両であるクローラトラクタを開示する。
【0003】
特許文献1のクローラトラクタは、油圧配管装置を備える。油圧配管装置は、ミッションケースと旋回用ミッションケース(旋回用HST)の間で、作動油を循環させることができる。油圧配管装置は、ミッションケースから機体左右一側に配置される送り側のサクション配管と、他側に配置される戻り側のリダクション配管と、を含む。
【0004】
サクション配管及びリダクション配管は、それぞれ、機体前後方向に延びるように設けられ、ミッションケースと旋回用ミッションケース(及び旋回用HST)とを繋ぐ。サクション配管及びリダクション配管は、機体左右方向において、機体の機体フレームとクローラ式走行装置のトラックフレームの間に配置されている。
【0005】
サクション配管は、その機体前後方向中間に、当該配管の他の部位よりも大径のパイプによって構成されたタンク部を有する。また、リダクション配管も、その機体前後方向中間に、当該配管の他の部位よりも大径のパイプによって構成されたタンク部を有する。サクション配管及びリダクション配管のそれぞれのタンク部は、作動油タンクとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の構成においては、サクション配管及びリダクション配管の双方にタンク部が備えられている。従って、機体に着脱可能な作業機(例えばフロントドーザ)が有する油圧装置に作動油を供給するための油圧配管装置を、タンク部と干渉しないように、機体から大きく離れて設置する必要がある。そのため、機体を全体的にコンパクトに構成することが困難となる。
【0008】
なお、上記特許文献1の構成によれば、旋回用HSTの安定的な作動に必要な量の作動油を貯留することができる。しかし、タンク部の上部には大量のエアが溜まり易いので、機体が傾いた場合等に、タンク部のエアが旋回用HST側へ吸い込まれ、旋回用HSTの動作に不具合が発生するおそれがある。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、油圧式無段変速機に対する作動油量を十分に確保することができ、かつ、油圧式無段変速機及び他の油圧装置に対応する油圧配管装置を備える機体を全体的にコンパクトに構成することができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の観点によれば、以下の構成の作業車両が提供される。即ち、この作業車両は、機体と、ミッションと、油圧式無段変速機と、油圧配管装置と、を備える。前記機体には、作業機を着脱可能である。前記ミッションは、前記機体の後部に設けられる。前記油圧式無段変速機は、前記機体の前部に設けられる。前記油圧配管装置は、前記ミッションと前記油圧式無段変速機との間に設けられ、前記ミッションと前記油圧式無段変速機との間で作動油を循環させる。前記油圧配管装置は、第1配管と、第2配管と、を有する。前記第1配管は、前記機体に沿ってその左右一方に配置され、作動油が前記ミッションから前記油圧式無段変速機へ流れるように形成される。前記第2配管は、前記機体に沿ってその左右他方に配置され、作動油が前記油圧式無段変速機から前記ミッションへ流れるように形成される。前記第2配管の流路面積は、前記第1配管の流路面積よりも大きい。
【0012】
これにより、油圧式無段変速機に対する作動油量をタンク部により十分に確保しつつ、油圧配管装置を機体において効率良く配置することができる。そのため、コンパクトな構成を実現することができる。しかも、油圧配管装置において、油圧式無段変速機側へのエア吸込みが起こる懸念がない。
【0013】
前記の作業車両においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記第1配管の流路面積は、当該第1配管の経路全体にわたって略一定である。前記第2配管の経路の一部に、その流路面積が他の部分よりも増大しているタンク部が配置される。
【0014】
これにより、油圧式無段変速機の安定的な作動に必要な量の作動油をタンク部に貯留することができる。また、タンク部が第1配管に設けられずに第2配管にのみ設けられるので、機体が略水平面に対して傾いた場合等に油圧式無段変速機側へのエア吸込みが起こることを防止することができる。
【0015】
前記の作業車両においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記作業車両は、作動油を用いて、前記機体に装着された作業機の油圧装置を駆動させるための別の油圧配管装置を備える。前記別の油圧配管装置は、前記機体に沿って、前記機体の左右のうち前記第1配管と同じ側に配置される。
【0016】
これにより、タンク部が存在しない側に別の油圧配管装置が配置されるので、効率の良いレイアウトを実現できる。従って、機体を全体的にコンパクトに構成することができる。
【0017】
前記の作業車両においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記機体は、機体フレームと、クローラ式走行装置と、を備える。前記機体フレームは、当該機体の前後方向に延びるように設けられる。前記クローラ式走行装置は、前記機体フレームよりも当該機体の左右外側に位置する。前記第2配管の経路の一部に、その流路面積が他の部分よりも増大しているタンク部が配置される。前記タンク部は、前記機体の左右他方において、前記機体フレームと前記クローラ式走行装置のトラックフレームとの間に配置され、前記機体フレームに支持されている。
【0018】
これにより、タンク部を機体に強固に保持することができる。
【0019】
前記の作業車両においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記別の油圧配管装置は、前記機体の左右のうち前記第1配管と同じ側において、前記機体フレームと前記クローラ式走行装置のトラックフレームとの間に配置される。前記別の油圧配管装置は、前記機体フレームに沿って設けられ、かつ、前記機体フレームに支持されている。
【0020】
これにより、別の油圧配管装置を、機体フレームにより保護することができるとともに、走行機体に強固に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの全体的な構成を示す側面図。
【
図2】トラクタのフレーム構造を示す左後方斜視図。
【
図3】トラクタのフレーム構造を示す右後方斜視図。
【
図4】トラクタの動力伝達経路を示すスケルトン図。
【
図5】第1油圧配管装置及び第1油圧配管装置の構成を示す平面図。
【
図6】第1油圧配管装置と第1ミッションとの接続部分の構成を示す平面断面図。
【
図7】第1油圧配管装置と第1ミッションとの接続部分の構成を示す側面断面図。
【
図9】第1ミッション内における変速軸の前端部の支持部分の構成を示す側面断面図。
【
図10】第1ミッション内における回転センサの取付部分の構成を示す平面断面図。
【
図11】左のロアリンクのリアケース側部分の構成を示す斜視図。
【
図12】左のロアリンクのリアケース側部分の構成を示す平面図。
【
図14】ロアフレームとロアリンクとの関係を示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る作業車両であるトラクタ1の側面図である。なお、以下の説明では、トラクタ1が前進する方向に対して左側を「左」と呼び、右側を「右」と呼ぶ。
【0023】
図1に示すように、トラクタ1は、圃場領域等を走行することができる走行機体(機体)3を備える。本実施形態では、トラクタ1は、走行機体3に左右のクローラ式走行装置5が備えられたクローラトラクタである。なお、作業車両の種類は、トラクタに限定されない。
【0024】
トラクタ1においては、走行機体3の後部に、耕耘機等の後作業機を着脱可能に取り付けることができる。また、走行機体3の前部に、フロントドーザ等の前作業機9を着脱可能に取り付けることができる。前作業機9は、例えば油圧シリンダ(油圧装置)を備える。走行機体3に取り付ける後作業機及び前作業機9のそれぞれについて、どのような作業機を用いるかは任意に選択可能である。
【0025】
走行機体3は、左右のクローラ式走行装置5のほか、機体フレーム11と、エンジン13と、第1ミッション15(ミッション)と、第2ミッション17と、ボンネット19と、キャビン21と、を備える。トラクタ1にキャビン21を備えない構成とすることもできる。
【0026】
機体フレーム11は、左右のクローラ式走行装置5に支持されている。
図2及び
図3に示すように、機体フレーム11は、前後方向に延びるように設けられている。
【0027】
機体フレーム11は、左右の延長体23と、連結体25と、を有する。左右の延長体23は、それぞれ前後方向に延びるように設けられ、左右方向に所定間隔をあけて互いに対向するように配置されている。本実施形態では、各延長体23は、前側に位置する前側部分23aと、後側に位置しかつ当該前側部分23aに連結された後側部分23bと、を有する。連結体25は、左右の延長体23の前端部の間に設けられ、左右の延長体23を連結している。
【0028】
エンジン13は、走行機体3の前部に配置されている。エンジン13は、機体フレーム11の前部に支持されている。エンジン13は、後述のように構成される動力伝達経路により、左右のクローラ式走行装置5に動力を伝達することができる。
【0029】
エンジン13は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成しても良い。また、駆動源として、エンジン13に加えて、又はこれに代えて、電気モータを使用しても良い。
【0030】
第1ミッション15は、走行機体3の後部に配置されている。第1ミッション15は、機体フレーム11の後部に支持されている。第1ミッション15により、例えば走行機体3の走行変速を行うことができる。
【0031】
第1ミッション15には、PTO(Power Take-Off)軸27が設けられている。PTO軸27は、第1ミッション15から後方へ突出している。走行機体3に後作業機が取り付けられた場合、PTO軸27を介して後作業機に動力を伝達することができる。
【0032】
第2ミッション17は、走行機体3の前部に配置されている。第2ミッション17は、エンジン13の前下方において機体フレーム11の前部に支持されている。第2ミッション17により、トラクタ1に旋回を行わせることができる。
【0033】
図1に示すように、ボンネット19は、走行機体3の前部に配置されている。ボンネット19は、左右のクローラ式走行装置5の間において機体フレーム11の前部上に設けられ、エンジン13を覆っている。
【0034】
キャビン21は、走行機体3の後部に配置されている。キャビン21は、ボンネット19の後方において機体フレーム11の上方に設けられている。キャビン21の内部には、オペレータが座ることが可能な座席、オペレータが操向操作するためのステアリングハンドル、及び、操向操作以外の各種の操作を行うための様々な操作装置等が設けられている。
【0035】
左右のクローラ式走行装置5は、機体フレーム11に対して左右外側に配置されている。各クローラ式走行装置5は、機体フレーム11に沿って前後方向に延びるように設けられている。
【0036】
左右の各クローラ式走行装置5は、トラックフレーム41と、駆動スプロケット43と、テンションローラ45と、複数の遊転輪47と、ガイドローラ49と、クローラベルト51と、を備える。
【0037】
トラックフレーム41は、機体フレーム11に対して左右外側に所定間隔をあけて配置されている。トラックフレーム41は、前後方向に延びるように設けられている。左右のトラックフレーム41は、後述のロアフレーム53の一部を構成しており、互いに連結された状態で機体フレーム11を支持している。
【0038】
駆動スプロケット43は、第2ミッション17のミッションケースの左右側方に設けられたアクスルケース59から突出する後述の駆動軸127に固定されている。アクスルケース59は、トラックフレーム41の前端部に固定されている。
【0039】
テンションローラ45は、テンションフレーム61に回転可能に支持されている。テンションフレーム61は、トラックフレーム41の後端部に設けられている。テンションフレーム61は、トラックフレーム41に対して、前後方向に伸縮することができる。
【0040】
複数の遊転輪47は、トラックフレーム41の前後途中部に設けられている。複数の遊転輪47は、駆動スプロケット43とテンションローラ45との間において前後方向に並べられた状態で、トラックフレーム41の下側に配置されている。
【0041】
複数の遊転輪47は、複数のイコライザフレーム63を介してトラックフレーム41に取り付けられている。複数のイコライザフレーム63は、それぞれ、トラックフレーム41に対して前後揺動可能に設けられている。複数の遊転輪47は、それぞれ、適宜のイコライザフレーム63に回転可能に支持されている。
【0042】
ガイドローラ49は、トラックフレーム41の前後途中部に設けられている。ガイドローラ49は、トラックフレーム41の上側に配置されている。ガイドローラ49は、トラックフレーム41に対して回転可能に支持されている。
【0043】
クローラベルト51は、駆動スプロケット43、テンションローラ45、複数の遊転輪47、及び、ガイドローラ49に巻かれている。
【0044】
このような構成において、駆動スプロケット43に駆動軸127を介してエンジン13からの動力が伝達されると、クローラベルト51が回転する。即ち、各クローラ式走行装置5が駆動する。これにより、左右のクローラ式走行装置5を用いて、走行機体3(トラクタ1)を走行させることができる。
【0045】
次に、
図4を参照して、トラクタ1の動力伝達構成について説明する。
【0046】
図4に示すように、エンジン13には、後出力軸81及び前出力軸83が備えられている。後出力軸81は、エンジン13から後方へ突出するように設けられている。後出力軸81は、第1ミッション15に設けられた直進用HST91のポンプ軸85と接続されている。これにより、後出力軸81からポンプ軸85に動力を伝達することができる。
【0047】
第1ミッション15においては、ポンプ軸85が、PTO軸27と接続されている。これにより、ポンプ軸85からPTO軸27に動力を伝達することができる。
【0048】
ポンプ軸85とPTO軸27との間においては、動力伝達方向の上流側にPTOクラッチ87が設けられ、下流側にPTO変速機構89が設けられている。PTO変速機構89は、PTO軸27に伝達される動力を変速することができる。
【0049】
直進用HST91のモータ軸93は、パイプ状に形成され、ポンプ軸85を覆うように当該ポンプ軸85と同軸に配置されている。直進用HST91のモータ軸93は、第1伝達軸95を介して変速軸97と接続されている。これにより、直進用HST91のモータ軸93から第1伝達軸95を介して変速軸97に動力を伝達することができる。
【0050】
直進用HST91のモータ軸93と第1伝達軸95との間には、前後進切替クラッチ99が設けられている。第1伝達軸95と変速軸97との間には、変速機構101が設けられている。この変速機構101は、第1伝達軸95から変速軸97に伝達される動力を変速することができる。
【0051】
変速軸97は、第2伝達軸103及び伝達ギヤ105等を介して、第1ミッション15の出力軸107に接続されている。第1ミッション15の出力軸107は、第1プロペラシャフト111を介して、第2ミッション17の入力軸109に接続されている。こうして、第1ミッション15の出力軸107から第2ミッション17の入力軸109に動力を伝達することができる。
【0052】
また、エンジン13の前出力軸83は、前方へ突出するように設けられている。前出力軸83は、第2プロペラシャフト113等を介して、第2ミッション17に設けられた旋回用HST(油圧式無段変速機)115のポンプ軸117と接続されている。これにより、前出力軸83から旋回用HST115のポンプ軸117に動力を伝達することができる。
【0053】
旋回用HST115は、第2ミッション17の前部に設けられている。旋回用HST115の可動斜板はキャビン21内のステアリングハンドルと連係して動作する。
【0054】
第2ミッション17においては、旋回用HST115のモータ軸119に、ベベルギヤ121が固定されている。ベベルギヤ121は、左右のベベルギヤ123と噛み合っている。左右のベベルギヤ123に対しては、それぞれ、左右のクローラ式走行装置5の駆動スプロケット43の駆動軸127に動力を伝達するための動力伝達経路が設けられている。
【0055】
こうして、旋回用HST115のモータ軸119から、左右のベベルギヤ123の一方に正転の動力を伝達し、他方に逆転の動力を伝達することができる。ここでは、左右のベベルギヤ123のそれぞれに対応する動力伝達経路は実質的に同じであるので、左側の動力伝達経路について説明する。
【0056】
左のベベルギヤ123は、強制デファレンシャルを形成する左の遊星歯車機構129に接続されている。この左の遊星歯車機構129には、第2ミッション17の入力軸109に接続された第3伝達軸131が接続されている。左の遊星歯車機構129は、入力軸109からの動力、又は、これとモータ軸119からの動力とを合成した動力を、駆動軸127に伝達することができる。駆動軸127に動力が伝達されると、駆動スプロケット43が回転し、これにより左のクローラ式走行装置5が駆動する。
【0057】
このような構成において、ステアリングハンドルが直進状態に操作された場合には、旋回用HST115は中立状態となる。この場合、旋回用HST115のモータ軸119は回転せず、入力軸109(第1ミッション15)からの動力のみが左右のクローラ式走行装置5の駆動スプロケット43の駆動軸127に伝達される。これにより、駆動スプロケット43を左右で同じ回転数として、走行機体3を直進走行させることができる。
【0058】
ステアリングハンドルが左右一方に回転するように操作された場合には、その回転方向及び回転角度に応じて旋回用HST115の可動斜板の傾きが変わり、それに応じた回転方向及び回転数がモータ軸119に出力される。そして、モータ軸119から左右一方のベベルギヤ123を介して正転の回転が左右一方の遊星歯車機構に加えられて、左右一方の駆動軸の回転が増速させられる。このとき、モータ軸119から左右他方のベベルギヤ123を介して左右他方の遊星歯車機構に逆転の回転が加えられて、左右他方の駆動軸の回転が減速させられる。こうして、ステアリングハンドルの回転に応じて、左右のクローラ式走行装置5への出力を変えることで、走行機体3を旋回させることができる。
【0059】
次に、
図2、
図3及び
図5を参照して、走行機体3で用いられる作動油に関する構成について説明する。
【0060】
図5に示すように、第1ミッション15と、第2ミッション17に対して設けられた旋回用HST115と、の間に、第1油圧配管装置(油圧配管装置)150が設けられている。第1油圧配管装置150は、第1ミッション15と旋回用HST115との間で、第1ミッション15のミッションケース152内に貯留される潤滑油を作動油として循環させることができる。作動油は、第1ミッション15の旋回用HST115等に用いられる。
【0061】
第1油圧配管装置150は、第1配管154と、第2配管156と、を有する。第1配管154は、走行機体3の左右一方(本実施形態では、右側)に配置される。作動油は、第1配管154を経由して、第1ミッション15から旋回用HST115へ流れる。第2配管156は、走行機体の左右他方(本実施形態では、左側)に配置される。作動油は、第2配管156を経由して、旋回用HST115から第1ミッション15へ流れる。
【0062】
第1配管154及び第2配管156は、左右方向において走行機体3(機体フレーム11)を挟むように配置されている。第1配管154は、第1ミッション15と旋回用HST115との間に形成される循環経路のうち、吸込側の流路を構成する。第2配管156は、前記の循環経路のうち、戻り側の流路を構成する。
【0063】
本実施形態において、第1配管154は、機体フレーム11の右側に配置されている。
図3等に示すように、第1配管154は、機体フレーム11に沿って前後方向に延びるように設けられている。左右方向において、機体フレーム11(左の延長体23)と右のクローラ式走行装置5のトラックフレーム41との間に、適宜の空間である右スペース162が形成されている。第1配管154は、この右スペース162に配置されている。第1配管154は、トラックフレーム41よりも機体フレーム11寄りに位置し、機体フレーム11の近傍に配置されている。
【0064】
第1配管154の後端部(長手方向一端部)は、第1ミッション15に後述の第4配管203等を介して接続されている。第1配管154の前端部(長手方向他端部)は、旋回用HST115に適宜の配管等を介して接続されている。第1配管154は、略一定の流路面積(第1配管154の長手方向と直交する断面における当該第1配管154の開口面積)を有する。
【0065】
第2配管156は、機体フレーム11の左側に配置されている。
図2等に示すように、第2配管156は、機体フレーム11に沿って前後方向に延びるように設けられている。左右方向において、機体フレーム11(右の延長体23)と左のクローラ式走行装置5のトラックフレーム41との間に、適宜の空間である左スペース164が形成されている。第2配管156は、この左スペース164に配置されている。第2配管156は、トラックフレーム41よりも機体フレーム11寄りに位置し、機体フレーム11の近傍に配置されている。
【0066】
第2配管156の前端部(長手方向一端部)は、旋回用HST115に他の配管等を介して接続されている。第2配管156の後端部(長手方向他端部)は、第1ミッション15に接続されている。第2配管156は、その途中で流路面積(第2配管156の長手方向と直交する断面における当該第2配管156の開口面積)を変化させる構成となっている。第2配管156の流路面積は、第1配管154の流路面積よりも大きい。
【0067】
また、走行機体3の左右のうち、第1配管154と同じ側(本実施形態では、右側)に、第1油圧配管装置とは別の第2油圧配管装置(別の油圧配管装置)166が配置されている。第2油圧配管装置166は、前作業機9の油圧装置を駆動するための作動油を供給する。第2油圧配管装置166は、走行機体3の前側に設けられた他の油圧配管装置とともに、第1ミッション15と前作業機9との間で作動油を流すことができる。
【0068】
第2油圧配管装置166は、複数の第3配管168を有する。それぞれの第3配管168の内部に、作動油を流すことができる。複数の第3配管168は、走行機体3(機体フレーム11)に対して、第1油圧配管装置150の第1配管154と同じ側である右側に配置されている。
【0069】
複数の第3配管168は、それぞれ、機体フレーム11に沿って前後方向に延びる。各第3配管168の後端部(長手方向一端部)は、第1ミッション15に接続されている。各第3配管168の前端部(長手方向他端部)は、前記の他の油圧配管装置に接続されている。複数の第3配管168は、それぞれ、機体フレーム11の近傍で当該機体フレーム11に支持されている。
【0070】
複数の第3配管168は、前述の右スペース162に配置されている。それぞれの第3配管168は、トラックフレーム41よりも機体フレーム11寄りに位置し、機体フレーム11の近傍に配置されている。それぞれの第3配管168は、第1配管154の近傍で、上下方向に所定間隔をあけて並べて配置される。複数の第3配管168は、平面視において第2配管156と重なり合うように配置されている。
【0071】
第2配管156について詳細に説明する。
図5に示すように、第2配管156は、前側配管172と、後側配管174と、タンク部176と、を備える。前側配管172、後側配管174、及びタンク部176は、前後方向に並べられている。前側配管172は、旋回用HST115と前記他の配管等を介して接続されている。後側配管174は、第1ミッション15と接続されている。前側配管172及び後側配管174は、それぞれ、本実施形態では丸パイプ状部材から構成されている。
【0072】
タンク部176は、前側配管172と後側配管174とを繋ぐように両者の間に設けられている。タンク部176は、主として、上述の左スペース164に配置されている。タンク部176は、機体フレーム11を構成する左の延長体23の後側部分23bに支持されている。タンク部176は、延長体23に対して、複数(本実施形態では4つ)の取付部材182を用いて固定される。
【0073】
タンク部176は、本実施形態では角パイプ状部材から構成されている。そのため、タンク部176は、本実施形態では直方体状の内部空間を有する。なお、タンク部176(その内部空間)の形状は特に限定されない。例えば、タンク部176は、丸パイプ状部材から構成され、円柱状の内部空間を有するものであっても良い。また、タンク部176は、その少なくとも一部が機体フレーム11よりも上方又は下方に位置しないような形状であることが好ましい。
【0074】
前側配管172及び後側配管174は、略一定の流路面積を有する。それぞれの流路面積は、経路の全体にわたって略一定となっている第1配管154の流路面積よりも大きい。前側配管172の流路面積と後側配管174の流路面積は、互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。タンク部176の流路面積は、前側配管172及び後側配管174のそれぞれの流路面積よりも大きい。即ち、第2配管156のタンク部176の流路面積は、第1配管154の流路面積よりも大きい。
【0075】
タンク部176は細長く形成されている。タンク部176の内部空間は、前側配管172の内部空間及び後側配管174の内部空間のそれぞれに繋がる作動油の流路を構成しつつ、作動油を貯留することができるように構成されている。タンク部176の内部空間の容積は、前側配管172の内部空間及び後側配管174の内部空間のそれぞれの容積よりも大きい。
【0076】
従って、タンク部176は、作動油を一時的に貯めることができる作動油タンクとして機能する。即ち、前記の循環経路において、戻り側の流路(第2配管156)にのみ作動油タンクを実質的に有する構成が実現される。言い換えれば、吸込側の流路(第1配管154)には、タンク部176に相当するタンク部は備えられていない。
【0077】
このような構成により、タンク部176の大きさを適宜調整して、旋回用HST115を安定的に作動させるために必要な作動油の油量を確保することができる。しかも、作動油を旋回用HST115に供給するための配管の一部を大型化することで作動油タンクとしての機能を実現する構成であるので、旋回用HST115を有する構成において作動油タンクを別途設ける必要がなくなる。
【0078】
タンク部176が配置される左スペース164は、第1ミッション15と旋回用HST115との間に生じる空きスペース(左スペース164)である。この左スペース164は、走行機体3に沿って形成されている。従って、タンク部176を走行機体3において効率良く配置することができる。そのため、各部のコンパクト化の要請が強い小型の仕様のトラクタの場合でも、第1油圧配管装置150を簡単に実現することができる。
【0079】
第1配管154及び第2配管156のうち、タンク部176による作動油タンクとしての機能を有するのは、第2配管156のみである。第2配管156は、作動油が旋回用HST115から第1ミッション15へと流れる戻り側の流路を構成する。仮に、第1配管154にタンクが配置されていると、タンクの油溜まりの上部の空気が、走行機体3が傾いた場合等に、旋回用HST115側へ吸い込まれるおそれがある。しかしながら、本実施形態では、作動油の油量をタンク部176によって確保しながら、旋回用HST115へのエア吸込みを防止することができる。
【0080】
以上に説明したように、本実施形態のトラクタ1は、走行機体3と、第1ミッション15と、旋回用HST115と、第1油圧配管装置150と、を備える。走行機体3には、前作業機9を着脱可能である。第1ミッション15は、走行機体3の後部に設けられる。旋回用HST115は、走行機体3の前部に設けられる。第1油圧配管装置150は、第1ミッション15と旋回用HST115との間に設けられ、第1ミッション15と旋回用HST115との間で作動油を循環させる。第1油圧配管装置150は、第1配管154と、第2配管156と、を有する。第1配管154は、走行機体3に沿って、走行機体3の右側に配置される。第1配管154は、作動油が第1ミッション15から旋回用HST115へ流れるように形成される。第2配管156は、走行機体3に沿って、走行機体3の左側に配置される。第2配管156は、作動油が旋回用HST115から第1ミッション15へ流れるように形成される。第2配管156の流路面積は、第1配管154の流路面積よりも大きい。
【0081】
これにより、旋回用HST115に対する作動油量をタンク部176により十分に確保しつつ、第1油圧配管装置150を走行機体3において効率良く配置することができる。そのため、コンパクトな構成を実現することができる。しかも、第1油圧配管装置150において、旋回用HST115へのエア吸込みが起こる懸念がない。
【0082】
また、本実施形態のトラクタ1において、第1配管154の流路面積は、当該第1配管154の経路全体にわたって略一定である。第2配管156の経路の一部に、その流路面積が他の部分よりも増大しているタンク部176が配置される。
【0083】
これにより、旋回用HST115の安定的な作動に必要な量の作動油をタンク部176に貯留することができる。また、タンク部176が第1配管154に設けられずに第2配管156にのみ設けられるので、走行機体3が略水平面に対して傾いた場合等に油圧式無段変速機側へのエア吸込みが起こることを防止することができる。
【0084】
また、本実施形態のトラクタ1において、トラクタ1は、作動油を用いて、走行機体3に装着された前作業機9の油圧装置を駆動させるための第2油圧配管装置166を備える。第2油圧配管装置166は、走行機体3に沿って、走行機体3の左右のうち第1配管154と同じ側(右側)に配置されている。
【0085】
これにより、タンク部176が存在しない走行機体3の右側に第2油圧配管装置166が配置されるので、効率の良いレイアウトを実現できる。従って、走行機体3を全体的にコンパクトに構成することができる。
【0086】
また、本実施形態のトラクタ1において、走行機体3は、機体フレーム11と、クローラ式走行装置5と、を備える。機体フレーム11は、走行機体3の前後方向に延びるように設けられる。クローラ式走行装置5は、機体フレーム11よりも当該走行機体3の左右外側に位置する。第2配管156の経路の一部に、その流路面積が他の部分よりも増大しているタンク部176が配置される。タンク部176は、走行機体3の左側において、機体フレーム11とクローラ式走行装置5のトラックフレーム41との間(左スペース164)に配置される。タンク部176は、機体フレーム11に支持される。
【0087】
これにより、タンク部176を走行機体3に強固に保持することができる。
【0088】
また、本実施形態のトラクタ1において、第2油圧配管装置166(複数の第3配管168)は、走行機体3の左右のうち第1配管154と同じ右側において、機体フレーム11と、クローラ式走行装置5のトラックフレーム41と、の間に配置される。第2油圧配管装置166(複数の第3配管168)は、機体フレーム11に沿って設けられ、かつ、機体フレーム11に支持される。
【0089】
これにより、第2油圧配管装置166を、機体フレーム11により保護することができるとともに、走行機体3に強固に保持することができる。
【0090】
次に、第1油圧配管装置150と第1ミッション15との接続について説明する。
【0091】
図5等に示すように、第1ミッション15のミッションケース152には、左右のリアケース201が取り付けられている。第1配管154の後端部は、
図3に示すように、右のリアケース201の壁部に外側から連結している。
【0092】
図6に示すように、リアケース201の内部には、第4配管203が配置されている。第4配管203は、右のリアケース201の壁部に内側から連結している。この連結部分で、第4配管203は、第1配管154の後端部である後側配管174と接続している。第4配管203は、右のリアケース201内からミッションケース152内に延びるように配置される。
【0093】
右のリアケース201は、
図3及び
図5に示すように、ミッションケース152の右端部から右側へ突出するように設けられている。左のリアケース201は、
図2及び
図5に示すように、ミッションケース152の左端部から左側へ突出するように設けられている。左右のリアケース201は、それぞれ、ロアフレーム53の後部(後述する前側の横フレーム321)に支持されている。
【0094】
図7に示すように、第4配管203は、右のリアケース201内とミッションケース152内とにわたって設けられている。第4配管203は、L字状に形成されている。第4配管203は、後側配管174と接続する端部から左方向に概ね水平に延びてミッションケース152に入った後、略垂直に折り曲げられて前下方に延びている。第4配管203の端部は、ミッションケース152内の底部付近である貯留部205に位置している。図示していないが、貯留部205には作動油が溜まっている。第4配管203の端部から作動油を吸い込んで、第1配管154に流すことができる。
【0095】
第4配管203は、右のリアケース201に着脱可能に取り付けられている。具体的に説明すると、右のリアケース201は、
図7に示すように、開口部211と、取付部213と、を有する。開口部211は、右のリアケース201がミッションケース152に取り付けられた場合に、当該ミッションケース152内に臨むように形成されている。取付部213は、リアケース201の内壁に設けられたボス部である。取付部213は、リアケース201の取付時に、開口部211を通じてミッションケース152内に露出する。
【0096】
第4配管203は、フランジ215を有する。フランジ215は、第4配管203において、貯留部205に配置される側と反対側の端部に設けられている。フランジ215が、右のリアケース201内に開口部211から差し込まれた状態で、取付部213にボルト217により固定される。この構成により、第4配管203の取付構造の簡素化が図られている。
【0097】
次に、後作業機を駆動するための油圧駆動回路の構成について説明する。
【0098】
本実施形態においては、
図8に示すように、第1ミッション15において、ミッションケース152の前部に油圧ポンプ231が配置されている。油圧ポンプ231は、後作業機が走行機体3に取り付けられた場合に用いられる。油圧ポンプ231は、ミッションケース152内に貯留された潤滑油を、当該後作業機を作動させるために供給する。
【0099】
油圧ポンプ231は、ミッションケース152の前部から前方へ突出するように設けられている。油圧ポンプ231の左右一方の側部(本実施形態では右側部)には、第5配管233が変換部材235及び接続部材237を介して接続されている。第5配管233は、後作業機に対して作動油の吸込側の流路を構成するためのものである。
【0100】
変換部材235は、所定の厚みを有する板状部材から構成されている。変換部材235には、作動油を流通させる貫通孔が形成されている。変換部材235は、その厚み方向が側方を向く状態で、油圧ポンプ231の側面(本実施形態では、右側の面)に固定されている。従って、変換部材235は、油圧ポンプ231の側面から、その厚みに相当する分だけ突出している。
【0101】
接続部材237は、変換部材235の突出側の先端面に固定されている。接続部材237は、L字状のエルボとして形成されている。接続部材237の内部には、作動油を流通させる流路が形成されている。接続部材237の一端にはフランジ部が形成され、このフランジ部が変換部材235に固定される。接続部材237の他端には、第5配管233が接続されている。
【0102】
変換部材235には、接続部材237を取り付けるためのボルト孔が、周方向に並べて多数形成されている。接続部材237のフランジ部を取り付けるボルト孔を変えることで、第5配管233が油圧ポンプ231から引き出される向きを段階的に変更することができる。トラクタ1の仕様が変わると、第1プロペラシャフト111の太さ等が変化するので、第5配管233を配置可能なスペースも変化する。しかしながら、この構成によれば、複数の仕様で共通の変換部材235を用いて、様々な仕様に応じて第5配管233の経路を変更することができる。
【0103】
次に、第1ミッション15の組立てについて説明する。
【0104】
図9に示すように、第1ミッション15のミッションケース152内において、変速軸97が前後方向に延びるように設けられている。この変速軸97の前端部(軸方向一端部)及び後端部(軸方向他端部)は、それぞれ、ミッションケース152の所定の部位に回転可能に支持されている。
【0105】
変速軸97の前端部は、ミッションケース152に備えられた支持プレート251に、支持部材253を介して回転可能に支持されている。具体的には、支持部材253は、ニードルベアリングのニードルホルダである。本実施形態では、変速軸97の長手方向中途部をベアリング259で支持するだけでなく、ギヤに荷重が発生した場合、ニードルベアリングで変速軸97の前端を支持することができるように構成されている。これにより、回転を伝動する歯車の軸方向両側にベアリングが配置されるので、変速軸97の撓みを防止し、耐久性を高めることができる。
【0106】
ミッションケース152は、ミッションハウジング254と、センターハウジング255と、フロントハウジング257と、を備える。ミッションハウジング254とセンターハウジング255とは、変速軸97の大部分を収容する。フロントハウジング257は、センターハウジング255の前方に配置される。支持プレート251は、センターハウジング255とフロントハウジング257との間に設けられている。
【0107】
この第1ミッション15を組み立てる場合、最初に、センターハウジング255の前端部に支持プレート251が取り付けられる。このとき、センターハウジング255には、既に変速軸97が組み付けられている。また、支持プレート251には、円筒状の支持部材253が予め固定されている。
【0108】
センターハウジング255への支持プレート251の取付けに際しては、図略の複数のノックピンが用いられる。このノックピンは、センターハウジング255に予め固定され、センターハウジング255の前端面から前方に突出している。
【0109】
図示しないが、支持プレート251には、ノックピンを挿入可能なピン孔が形成される。ピン孔の内径は、当該ピン孔に挿入されたノックピンとの間に小さなクリアランスが生じるように定められる。
【0110】
支持プレート251をセンターハウジング255に取り付ける過程で、ノックピンがピン孔に差し込まれる。これとほぼ同時に、変速軸97の前端部に支持部材253が差し込まれる。この差込みにより、センターハウジング255に対して支持プレート251を心出しすることができる。支持プレート251は、ノックピンとピン孔との間のクリアランスの範囲で移動可能であるので、上記の心出しを実現できる。その後、図示しない複数のボルトによって、支持プレート251がセンターハウジング255に固定される。
【0111】
次に、フロントハウジング257が、支持プレート251に対して、複数のボルトにより固定される。
【0112】
以上のように組み立てることで、ベアリング259、及び、支持部材253のニードルベアリングに、取付負荷が掛かるのを防止できる。
【0113】
次に、ミッションケース152において回転を検出するための構成について説明する。
【0114】
図10に示すように、第1ミッション15のミッションケース152には、第2伝達軸103が収容される。第2伝達軸103の端部には、公知のスプライン溝が形成されている。このスプラインを用いて、伝達ギヤ271が第2伝達軸103に固定される。ミッションケース152には、第2伝達軸103の回転を検出する回転センサ273が設けられている。回転センサ273は、伝達ギヤ271の外周の歯に径方向外側から対面するように配置されている。
【0115】
回転センサ273は、伝達ギヤ271の回転数及び回転方向を検出することができる。回転センサ273の検出結果に基づいて、トラクタ1の制御部が当該走行機体3の走行状態を把握する。
【0116】
回転センサ273としては、1つの回転センサが用いられる。この回転センサ273は、伝達ギヤ271の周方向に沿って並べられた2つの検出素子を1つにパッケージ化した構成となっている。検出素子は、例えばホール素子とすることができるが、これに限定されない。伝達ギヤ271の歯の凹凸の繰返しに対して2つの検出素子が位相を異ならせて配置されることで、1つのセンサで回転数だけでなく回転方向を取得することができる。
【0117】
本実施形態では、回転センサ273が1つなので、ミッションケース152へ取付孔281を形成するときの加工方向が1方向で済む。従って、ミッションケース152の加工コストを低減できる。
【0118】
回転センサ273を径方向ではなく軸方向に向けて、伝達ギヤ271の歯を検出する構成も考えられる(アキシャル検出)。しかしながら、本実施形態では、伝達ギヤ271は第2伝達軸103にスプラインで固定されているため、軸方向のガタが生じ易い。このため、アキシャル検出の構成では、回転センサ273と歯との隙間の大きさが安定せず、回転検出精度の低下の原因となる。この点、上記の構成(ラジアル検出)では、伝達ギヤ271の軸方向にガタが生じても、回転センサ273と歯との径方向の隙間は変化しない。従って、伝達ギヤ271の回転を高精度で検出することができる。
【0119】
本実施形態のミッションケース152は、複数のトラクタの仕様で共通で使用できるように構成されている。これにより、コストを削減することができる。トラクタの複数の仕様には、上記のラジアル検出の仕様に加えて、アキシャル検出の仕様が含まれている。アキシャル検出の仕様では、伝達ギヤ271を第2伝達軸103に対して、鍛造等の公知の方法により一体的に形成した上で、上述のアキシャル検出により回転が検出される。図示しないが、アキシャル検出の仕様の場合、伝達ギヤ271の周方向に沿って並べられた2つの回転センサが用いられる。
【0120】
図8及び
図10に示すように、ミッションケース152のフロントハウジング257には、ラジアル検出の仕様のために、1つの取付孔281が形成される。
図8に示すように、フロントハウジング257には、アキシャル検出の仕様のために、2つの取付孔283が形成される。
図8にはラジアル検出の仕様が示されており、使用されない2つの取付孔283は、閉塞部材285により塞がれている。アキシャル検出の仕様では、取付孔283が使用される一方、取付孔281が図略の部材で塞がれることになる。
【0121】
次に、トラクタ1に後作業機を連結するための構成について説明する。
【0122】
走行機体3の後部には、後作業機を取り付けるために、
図2及び
図3に示すように、トップリンク301と、左右のロアリンク303と、が設けられている。トップリンク301及びロアリンク303は、第1ミッション15の後側に配置されている。
【0123】
左右のロアリンク303は、それぞれ、第1ミッション15のミッションケース152から後方へ突出するように配置されている。左右のロアリンク303は、対応する左右のリアケース201から後方へ延びている。
図11に示すように、ミッションケース152の側面には、支点ブラケット310がボルトにより固定されている。それぞれのロアリンク303の前端は、支点ブラケット310と、後述の取付ブラケット305と、の間で、回転可能に支持されている。リアケース201は、ミッションケース152に固定された状態で、ロアフレーム53の後部(後述する後側の横フレーム321)に固定されている。
【0124】
図11に示すように、リアケース201の背面には、取付ブラケット305がボルトにより固定されている。取付ブラケット305と、ロアリンク303の長手方向途中部と、の間にスタビライザ307が設けられている。スタビライザ307は、ロアリンク303に後作業機が連結された場合に、当該ロアリンク303の左右方向の揺れを防止することができる。
【0125】
このような構成により、トラクタの種類にかかわらず、ロアリンク303付近の部材を共通化することが容易である。
【0126】
例えば、
図12には、ロアリンク303の左右外側にクローラ式走行装置5の後部が位置するフルクローラタイプのトラクタが示されている。この構成でも、クローラベルト51がロアリンク303と干渉しないことは、
図12から明らかである。ホイルタイプのトラクタでは、第1ミッション15と左右の後輪との間にリアアクスルが配置されるため、フルクローラタイプのトラクタと比較して、ロアリンク303の左右外側に空きスペースが生じる。従って、ロアリンク303付近の部材を、クローラトラクタとホイルトラクタとで共通化することができる。
【0127】
次に、トラクタ1のロアフレーム53について説明する。
【0128】
トラクタ1は、
図13に示すロアフレーム53を備える。ロアフレーム53は、左右のトラックフレーム41からなる延長部と、前後の横フレーム321からなる連結部と、を有する。左右のトラックフレーム41及び前後の横フレーム321は、平面視でロアフレーム53が略矩形となるように連結されている。
【0129】
前側の横フレーム321は、左右のトラックフレーム41の前端部の間で、左右方向に延びるように配置される。前側の横フレーム321は、左右のトラックフレーム41の前端部のそれぞれと連結される。
【0130】
後側の横フレーム321は、左右のトラックフレーム41の後端部の間で、左右方向に延びるように配置される。後側の横フレーム321は、左右のトラックフレーム41の後端部のそれぞれと連結される。
【0131】
仮に、後側の横フレーム321が左右中央で分断されている場合を考える。この場合、左右のロアリンク303を回転可能に支持する部材は、分割状の横フレームの左右それぞれの側にボルト等で固定される。従って、左右で偏った牽引負荷が後作業機からロアリンク303を介して加わった場合に、その負荷を片側だけのボルトで受けなければならない。横フレーム321が分断されているので、ボルトを締結できる領域も狭い。
【0132】
この点、
図13に示す構成では、左右のロアリンク303を回転可能に支持する部材(実質的には、ミッションケース152及び左右のリアケース201)が、何れも、左右が一体となった後側の横フレーム321に固定される。従って、左右で偏った牽引負荷が加わった場合でも、荷重を左右両方のボルトで分担して受けることができる。また、後側の横フレーム321にボルトを締結できる領域も広いので、ボルトを多くしたり、ボルトのピッチを大きくしたりすることができる。従って、耐久性を高めることができる。
【0133】
図13の構成では、後側の横フレーム321が分断されていないので、ロアフレーム53自体が有する機械的強度も高い。従って、仮に複数のボルトのうちいくつかのボルトが牽引負荷により折損した場合でも、ロアフレーム53の変形が生じにくいので、左右のクローラ式走行装置5の平行度を維持できる。この結果、走行機体3が直ちに走行不能となるのを防止することができる。
【0134】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0135】
第1配管154及び第2配管156の配置は、上記の実施形態に限定されない。即ち、機体フレーム11に対して、第1配管154が左側で、第2配管156が右側に配置されても良い。
【0136】
第2配管156のタンク部176の大きさ(タンク部176の内部空間の容積)は特に限定されない。タンク部176の大きさは、旋回用HST115を安定的に作動させるために必要な作動油の油量を確保することができ、かつ、当該タンク部176が第1ミッション15と旋回用HST115との間に生じる空きスペースに収まる大きさであれば任意に設定可能である。
【0137】
タンク部176の形状は特に限定されない。上記の実施形態では、タンク部176の形状は、角パイプ状部材から形成されたものとしているが、例えば、丸パイプ状部材から形成されたものとしても良い。
【0138】
上述の教示を考慮すれば、本発明が多くの変更形態及び変形形態をとり得ることは明らかである。従って、本発明が、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に記載された以外の方法で実施され得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0139】
1 トラクタ(作業車両)
3 走行機体(機体)
5 クローラ式走行装置
9 前作業機(油圧装置)
11 機体フレーム
15 第1ミッション(ミッション)
41 トラックフレーム
115 旋回用HST(油圧式無段変速機)
150 第1油圧配管装置(油圧配管装置)
154 第1配管
156 第2配管
166 第2油圧配管装置(別の油圧配管装置)
176 タンク部